説明

植物運搬装置及び植物運搬方法

【課題】 生育状態が十分に維持された状態で迅速な出荷が可能な植物運搬装置及び植物運搬方法を提供すること。
【解決手段】 この植物運搬装置1は、密閉室2内に着脱可能に布設されると共に、栽培対象の植物Aが載置されて、植物Aに栽培水を供給するパイプ型栽培ユニット4と、植物Aに栽培光を照射するLED光源11と、密閉室2の温度及び湿度を調整する空調機12と、密閉室2の外側に設けられた太陽電池パネル13と、外部及び太陽電池パネル13からの電力が並列的に入力されて、これらの電力をLED光源11及び空調機12に対して供給する配電装置15とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物運搬装置及び植物運搬方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、野菜などの植物を新鮮な状態で目的地まで送り届けるために様々な運搬方法が試みられている。このような技術の一例としては、下記特許文献1〜3記載のものが知られている。これらの技術では、農業用ハウスを移動可能にしたもの、植物に給水可能な温室を備えた車両や、人工光源及び空調装置が設置された植物用育成室を有する船舶等が開示される。
【特許文献1】特開2003−125656号公報
【特許文献2】実公平3−52584号公報
【特許文献3】特開平7−255280号公報
【特許文献4】特開2002−223648号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述した技術においては、植物の運搬時に栽培環境を維持するための電力が十分に確保されないことがあり、植物の生育状態を維持することが困難な場合があった。また、植物を効率よく生育させるためには植物工場等の陸上での大量生産が一般的であるが、上記農業用ハウス等は小型化されているため効率的な生産ができない。従って、ある程度生育した植物を運搬することとなり、出荷前における植物の植物工場から車両等への収容作業が面倒となり、迅速な出荷ができない。
【0004】
そこで、本発明は、かかる課題に鑑みて為されたものであり、生育状態が十分に維持された状態で迅速な出荷が可能な植物運搬装置及び植物運搬方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明の植物運搬装置は、密閉室内に着脱可能に布設されると共に、栽培対象の植物が載置されて、植物に栽培水を供給するパイプ型栽培ユニットと、植物に栽培光を照射する光照射手段と、密閉室の温度及び湿度を調整する空調機と、密閉室の外側に設けられた発電機と、外部及び発電機からの電力が並列的に入力されて、電力を光照射手段及び空調機に対して供給する給電手段と、を備える。
【0006】
このような植物運搬装置によれば、温度及び湿度が調整された密閉室内で、パイプ型栽培ユニットから栽培水を供給するとともに、光照射手段によって栽培光を照射することで運搬時の植物の生育状態を維持することができる。その際に、必要な電力は、発電機によって賄われるとともに、車両や家屋等における外部電源によって補完的に供給されるので、栽培環境を維持するための電力が十分に確保される。併せて、植物が載置されたパイプ型栽培ユニットは密閉室から容易に着脱可能とされるので、出荷時における植物の収容作業が単純化される。
【0007】
また、パイプ型栽培ユニットは、栽培水が循環するパイプ部材が、トレイ部材の表面に並列に配設されてなるものであることが好ましい。かかるパイプ型栽培ユニットを備えれば、パイプ部材上に植物を載置した状態で安定して密閉室から着脱可能とされる。
【0008】
また、光照射手段及び空調機の動作を制御する制御手段と、外部から制御信号を受信して、制御信号を制御手段に対して出力する通信手段とを更に備えることが好ましい。こうすれば、密閉室内の栽培環境を外部の監視設備等から一括して制御することができる。
【0009】
本発明の植物運搬方法は、植物を密閉室に収納した状態で運搬する植物運搬方法であって、植物を、植物に栽培水を供給するパイプ型栽培ユニットに載置した状態で、密閉室外で生育させるステップと、植物が載置されたパイプ型栽培ユニットを、密閉室に収納させた状態で密閉室を運搬するステップと、外部からの電力及び密閉室の外側に設けられた発電機からの電力を密閉室内に送電させることによって、植物に栽培光を照射すると共に、密閉室の温度及び湿度を制御するステップと、を備える。
【0010】
このような植物運搬方法によれば、植物を、パイプ型栽培ユニットに搭載した状態で植物工場等の外部で必要な生育状態まで生育させてから、パイプ型栽培ユニットに載置させたままの状態で密閉室に収納するので、植物の効率的な生産及び迅速な出荷が実現される。また、植物を密閉室内に収納させて運搬する際に、密閉室内で植物に栽培光を照射するとともに密閉室の温度及び湿度を所定の条件で調整するので、運搬時の植物の生育状態を維持することができる。その際に、密閉室内で必要な電力は、発電機によって賄われるとともに、車両や家屋等における外部電源によって補完的に供給されるので、栽培環境を維持するための電力が十分に確保される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、生育状態が十分に維持された状態で植物の迅速な出荷が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る植物運搬装置の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0013】
図1は、本発明の植物運搬装置1の側面透視図、図2は、植物運搬装置1の平面透視図、図3は、植物運搬装置1の正面透視図である。この植物運搬装置1は、シソ、レタス等の植物を車両、列車、船舶等の輸送手段に搭載させて運搬するための装置である。
【0014】
これらの図に示すように、植物運搬装置1は、直方体形状の密閉室2を備え、密閉室2の正面側の側面には、密閉室2への人の出入りが可能なように両開き(観音開き)の構造を有する扉部3が取り付けられている。密閉室2は、高度な気密性及び遮光性を有する必要はないが、扉部3が完全に閉じられた状態で、外部からの光の入射が防止できる構造及び材質を有するものである。なお、密閉室2としては、車両、船舶、列車等の輸送手段によって運搬可能な様々な容積のものが採用でき、例えば、一般的なコンテナの寸法である奥行き6.0m×幅2.43m×高さ2.59m、或いは奥行き12.19m×幅2.43m×高さ2.59mのものが使用される。なお、室内の換気や、COを導入するための換気口を密閉室2に設けても良い。
【0015】
この密閉室2の内部には、密閉室2の底面に平行に、かつ、その底面の長辺に沿って複数のパイプ型栽培ユニット4が布設されている。パイプ型栽培ユニット4は、密閉室2の底面に平行な平面上に、互いに平行に2列並設されるとともに、密閉室2の底面から上面に亘って、ほぼ等間隔で複数段設置されている。
【0016】
パイプ型栽培ユニット4は、平板状のトレイ部材5の上面に、水分及び養分を含む栽培水を循環させるためのパイプ部材6が配設されたものである。より詳細には、パイプ部材6は、不透明な樹脂材料によって円筒状に形成されており、トレイ部材5の表面上においてトレイ部材5の長手方向に沿って、2列で並列に固定されている。さらに、パイプ部材6の周面の上方には、パイプ部材6の中心軸方向にほぼ等間隔に栽培穴(図示せず)が形成され、栽培穴付近に栽培対象の植物Aが載置される。それぞれのパイプ型栽培ユニット4における1組のパイプ部材6は、扉部3側の端部において、チューブ7により連結され、反対側の端部は、パイプ部材6に供給する栽培水を貯蔵するタンク部8に、チューブ9を介して接続されている。このような構造により、一方のパイプ部材6の端部にタンク部8から栽培水が供給され、他方のパイプ部材6を経由して循環した栽培水が、再びタンク部8に戻される。なお、パイプ部材6とタンク部8とは、チューブ9を取り外すことにより、容易に接続及び取り外しが可能なように構成されている。
【0017】
上記のパイプ型栽培ユニット4のうち、最下段のパイプ型栽培ユニット4d,4hは密閉室の床面上に載置されており、それ以外のパイプ型栽培ユニット4a〜4c,4e〜4gは、密閉室2の床面に平行に固定された平板状の仕切棚10上に載置されている。このような構成により、パイプ型栽培ユニット4は、チューブ9を取り外してトレイ部材5を扉部3側に引き出すことにより、密閉室2から取り出し可能とされるとともに、トレイ部材5を密閉室2の床面又は仕切棚10の上面に沿って押し入れることにより、密閉室2内に収納可能とされる。
【0018】
また、仕切棚10の下面には、パイプ部材6の栽培穴に対向して複数のLED光源(光照射手段)11が取り付けられている。このLED光源11は、対向する植物Aに対して栽培光を照射する光源として機能する。LED光源11は、制御部(詳細は後述する)からの制御信号により照射する光量を変更可能とされている。
【0019】
さらに、密閉室2の上部内壁には、密閉室2内の温度及び湿度を調整するための空調機12が設置されている。この空調機12は、予め設定された温度及び湿度になるように風量、風温等の動作条件を調整すると共に、制御部(詳細は後述する)からの制御信号により指定された温度及び湿度になるように動作条件を調整する。また、空調機12は、密閉室2全体に均一に送風が行き渡るように密閉室2の上部中央に取り付けられている。
【0020】
この空調機12及びLED光源11への電力の供給源として、太陽電池パネル(発電機)13が、密閉室2外部の上面に固定されている。また、太陽電池パネル13における発電量が不足する場合に、空調機12及びLED光源11に供給する電力を外部電源から補充するための外部電源接続口14が設けられ、外部電源接続口14には、車両及び建物等に設けられた外部電源が接続される。これらの太陽電池パネル13及び外部電源接続口14は、配電装置15に電気的に接続され、配電装置15には、外部電源及び太陽電池パネル13から電力が入力される。
【0021】
図4は、配電装置15における接続関係を示す図である。同図に示すように、配電装置15は、太陽電池パネル13において蓄電された直流電圧を、外部電源から入力される電圧規格と同一の規格に変換するインバータ回路16と、外部電源からの電力と太陽電池パネル13からの電力を合成して空調機12及びLED光源11に供給する分電盤17とを備えている。例えば、空調機12及びLED光源11に供給される電圧が50Hzの交流電圧である場合は、インバータ回路16により、太陽電池パネル13から供給された電圧が50Hzの交流電圧に変換され、空調機12及びLED光源11に供給される電圧が直流電圧である場合は、インバータ回路16により、太陽電池パネル13から供給された電圧がそのまま分電盤17に出力される。また、配電装置15から空調機12及びLED光源11に供給される電圧は、空調機12及びLED光源11における電圧の規格に合うように、図示しないインバータ回路によって変換されている。
【0022】
さらに、空調機12及びLED光源11には、制御部18が接続され、制御部18により動作が制御される。具体的には、制御部18から送出される制御信号により、密閉室2の内部の温度及び湿度が、予め記憶されている値に維持されるように制御されるとともに、LED光源11から照射される光量が、予め記憶されている値になるように制御される。さらに、この制御部18には無線通信機19が接続され、無線通信機19によって遠隔から受信された制御信号が制御部18に出力されることにより、遠隔から空調機12及びLED光源11の動作を制御可能にされている。また、この無線通信機19は、制御部18を介してカメラ等の各種センサ(図示せず)と接続され、密閉室2内の映像情報、温度情報、湿度情報等の監視情報を外部に送出する。また、CO供給手段として、例えば、COポンプを設けても良い。
【0023】
以下、図5を参照して、上述した植物運搬装置1を用いた植物運搬方法について説明する。
【0024】
まず、出荷対象の植物Aをパイプ型栽培ユニット4に載置した状態で、密閉室2の外部の植物工場において、所望の生育状態(例えば、消費者への提供時の好ましい生育状態の8割程度)まで生育させる(ステップS01)。この場合の栽培方法としては、人工光源を用いた方法が用いられる。
【0025】
次に、生育させた植物Aをパイプ型栽培ユニット4に載置したままで、植物運搬装置1の密閉室2に収納する(ステップS02)。
【0026】
その後、植物運搬装置1の輸送手段による運搬を開始すると共に、輸送手段における外部電源と植物運搬装置1の外部電源接続口14とを接続する(ステップS03)。
【0027】
植物運搬装置1の運搬中においては、外部から無線通信機19を介して制御部18に制御信号が送出されることにより、空調機12及びLED光源11の動作が制御される(ステップS04)。このとき、空調機12及びLED光源11には、太陽電池パネル13及び外部電源から電力が送電され、制御信号によって密閉室2が指定された温度及び湿度に維持されると共に、制御信号によって指定された光量の栽培光が植物Aに照射される。
【0028】
次に、植物運搬装置1が目的地まで運搬されると、目的地の建物等の外部電源が外部電源接続口14に接続され、引き続き空調機12及びLED光源11への給電が継続される(ステップS05)。
【0029】
その後、植物Aが、好ましい生育状態にまで生育した時点で、植物運搬装置1から搬出される(ステップS06)。
【0030】
以上説明した植物運搬装置1によれば、温度及び湿度が調整された密閉室2内で、パイプ型栽培ユニット4から栽培水を供給するとともに、LED光源11によって栽培光を照射することで運搬時の植物Aの生育状態を維持することができる。その際に、必要な電力は、太陽電池パネル13によって賄われるとともに、車両や家屋等における外部電源によって補完的に供給されるので、栽培環境を維持するための電力が十分に確保される。併せて、植物Aが載置されたパイプ型栽培ユニット4は密閉室2から容易に着脱可能とされるので、出荷時における植物の収容作業が単純化される。
【0031】
また、パイプ型栽培ユニット4は、栽培水が循環するパイプ部材6が、トレイ部材5の表面に並列に配設されてなるものであるので、パイプ部材6上に植物Aを載置した状態で安定して密閉室2から着脱可能とされる。
【0032】
さらに、LED光源11及び空調機12の動作を制御する制御部18に対して、無線通信機19を介して外部から制御信号が受信されるので、密閉室内の栽培環境を外部の監視設備等から一括して制御することができる。
【0033】
また、植物運搬装置1を用いた植物運搬方法によれば、運搬対象の植物Aを、パイプ型栽培ユニット4に搭載した状態で植物工場等の外部で必要な生育状態まで生育させてから、パイプ型栽培ユニット4に載置させたままの状態で密閉室2に収納するので、植物Aの効率的な生産及び迅速な出荷が実現される。また、植物Aを密閉室2内に収納させて運搬する際に、密閉室2内で植物Aに栽培光を照射するとともに密閉室2の温度及び湿度を所定の条件で調整するので、運搬時の植物Aの生育状態を維持することができる。その際に、密閉室2内で必要な電力は、太陽電池パネル13によって賄われるとともに、車両や家屋等における外部電源によって補完的に供給されるので、栽培環境を維持するための電力が十分に確保される。
【0034】
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではない。例えば、植物Aに対して栽培光を照射するための光照射手段としては、レーザダイオード、蛍光灯、紫外蛍光灯、紫外LED等の他の光源を用いてもよい。
【0035】
また、空調機12及びLED光源11への電力の供給源として、風力発電機等の各種の発電機を代用又は併用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の好適な一実施形態にかかる植物運搬装置の側面透視図である。
【図2】本発明の好適な一実施形態にかかる植物運搬装置の平面透視図である。
【図3】本発明の好適な一実施形態にかかる植物運搬装置の正面透視図である。
【図4】図1の配電装置における接続関係を示す図である。
【図5】本発明の好適な一実施形態にかかる植物運搬方法について説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0037】
1…植物運搬装置、2…密閉室、4a,4b,4c,4d,4e,4f,4g,4h(4)…パイプ型栽培ユニット、5…トレイ部材、6…パイプ部材、11…LED光源(光照射手段)、12…空調機、13…太陽電池パネル(発電機)、15…配電装置(給電手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉室内に着脱可能に布設されると共に、栽培対象の植物が載置されて、前記植物に栽培水を供給するパイプ型栽培ユニットと、
前記植物に栽培光を照射する光照射手段と、
前記密閉室の温度及び湿度を調整する空調機と、
前記密閉室の外側に設けられた発電機と、
外部及び前記発電機からの電力が並列的に入力されて、前記電力を前記光照射手段及び空調機に対して供給する給電手段と、
を備えることを特徴とする植物運搬装置。
【請求項2】
前記パイプ型栽培ユニットは、
栽培水が循環するパイプ部材が、トレイ部材の表面に並列に配設されてなるものである、
ことを特徴とする請求項1記載の植物運搬装置。
【請求項3】
前記光照射手段及び前記空調機の動作を制御する制御手段と、
外部から制御信号を受信して、前記制御信号を前記制御手段に対して出力する通信手段と、
を更に備えることを特徴とする請求項1又は2記載の植物運搬装置。
【請求項4】
植物を密閉室に収納した状態で運搬する植物運搬方法であって、
前記植物を、前記植物に栽培水を供給するパイプ型栽培ユニットに載置した状態で、前記密閉室外で生育させるステップと、
前記植物が載置されたパイプ型栽培ユニットを、前記密閉室に収納させた状態で前記密閉室を運搬するステップと、
外部からの電力及び前記密閉室の外側に設けられた発電機からの電力を、前記密閉室内に送電させることによって、前記植物に栽培光を照射すると共に、前記密閉室の温度及び湿度を制御するステップと、
を備えることを特徴とする植物運搬方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−288209(P2006−288209A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−109268(P2005−109268)
【出願日】平成17年4月5日(2005.4.5)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【出願人】(505125945)学校法人光産業創成大学院大学 (49)
【Fターム(参考)】