説明

植物鮮度保持剤

【課題】植物をその形態、及び感触を変えることなく、鮮やかな状態で長期間保持することができる植物鮮度保持剤を提供する。
【解決手段】 下記成分(a)〜(c)を含有することを特徴とする植物鮮度保持剤。
(a)特定構造を有するランダム型アルキレンオキシド誘導体
(b)特定構造を有するブロック型アルキレンオキシド誘導体
(c)保湿剤

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は植物の鮮度保持剤、特にアルキレンオキシド誘導体を有効成分とする植物鮮度保持剤の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
切花の老化メカニズムとしては、微生物や水の汚濁による水揚げの低下、エネルギー源の枯渇による植物体内成分の合成量低下、植物ホルモンであるエチレンの作用等が知られている。従来より、切花の寿命を延ばし、鮮度を維持する方法として、(1)新鮮な水中で水切りする方法、(2)切り口を粉砕または焼き、水揚げを良くする方法、(3)エチレンの生合性を抑制する方法、(4)糖類などの栄養源を水に添加する方法、(5)細菌・カビの繁殖を防止する防腐剤・殺菌剤を添加する方法、(6)植物から漏出する物質、菌の発生による代謝物などをコロイド粒子凝集沈殿剤で沈殿させる方法が報告されている。
【0003】
また、農家など生産地で用いられる方法として、STS銀製剤(硫酸銀とチオ硫酸ナトリウムとを一定割合に混合して生成させた銀錯塩)が知られているが、この剤は重金属を含んでいることから、環境汚染の問題が懸念されている。
その他にもアブシジン酸、硫酸アルミニウム及び糖類を添加する方法(例えば、特許文献1)、海藻からの抽出物を添加する方法(特許文献2)、ジエチルジチオカルバミン酸またはその塩を添加する方法(特許文献3)、コロイド粒子凝集沈殿剤及び糖アルコール誘導体型界面活性剤を添加する方法(特許文献4)などが挙げられるが、いずれの技術においても、長期間に亘って植物を十分に新鮮な状態に保つには至らなかった。
【特許文献1】特開平2−108601号公報
【特許文献2】特開平5−194101号公報
【特許文献3】特開平6−40803号公報
【特許文献4】特開2000−44401号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は前記従来技術に鑑み行われたものであり、植物をその形態、及び感触を変えることなく、鮮やかな状態で長期間保持することができる植物鮮度保持剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するため、本発明者等が鋭意検討を行なった結果、特定構造のランダム型アルキレンオキシド誘導体、特定構造のブロック型アルキレンオキシド誘導体、及び保湿剤を配合することにより、植物の形態、及び感触を変えることなく、鮮やかな状態で長期間保持できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明にかかる植物鮮度保持剤は、下記成分(a)〜(c)を含有することを特徴とする。
(a)下記式(I)で示されるランダム型アルキレンオキシド誘導体
(b)下記式(II)で示されるブロック型アルキレンオキシド誘導体
(c)保湿剤
(化1)
O[(AO)/(EO)]−R (I)
(上記式(I)中、AOは炭素数3〜4のオキシアルキレン基、EOはオキシエチレン基、mおよびnはそれぞれ前記オキシアルキレン基、オキシエチレン基の平均付加モル数で、1≦m≦70、1≦n≦70である。炭素数3〜4のオキシアルキレン基とオキシエチレン基の合計に対するオキシエチレン基の割合は20〜80質量%である。R、Rは、炭素数1〜4の炭化水素基である。)
(化2)
Y−[O(EO)−(AO)−(EO)−R (II)
(上記式(II)中、Yは3〜6個の水酸基を有する多価アルコールの水酸基を除いた残基、kは前記多価アルコールの水酸基数、EOはオキシエチレン基、AOは炭素数3〜6のオキシアルキレン基でそれぞれブロック状に付加されている。a×k、b×k、c×kはそれぞれオキシエチレン基、炭素数3〜6のオキシアルキレン基、オキシエチレン基の平均付加モル数であり、0≦a×k≦100、1≦b×k≦100、0≦c×k≦100、ただし(a+c)×k>1である。式中の全オキシエチレン基と炭素数3〜6のオキシアルキレン基の合計に対する全オキシエチレン基の割合は10〜80質量%である。Rは同一もしくは異なってもよい炭素数1〜4の炭化水素基である。)
【0006】
また、前記植物鮮度保持剤は、前記式(II)で示されるブロック型アルキレンオキシド誘導体において、AOがオキシブチレン基であることが好適である。
また、前記植物鮮度保持剤は、前記式(II)で示されるブロック型アルキレンオキシド誘導体において、aが0であることが好適である。
さらに、前記植物鮮度保持剤は、水溶液として使用することが好適である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、特定構造のランダム型アルキレンオキシド誘導体と、ブロック型アルキレンオキシド誘導体と、保湿剤により、植物をその形態、及び感触を変えることなく、鮮やかな状態で長期間保持する植物鮮度保持剤を得ることができる。また、前記植物鮮度保持剤は、植物への適用が容易であり、人体及び環境に対し無害であることから、使用者を限定せず広い範囲での利用を可能とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明にかかる植物鮮度保持剤は、水に溶解し、該溶解液中に切断した植物を浸漬することにより、鮮度を維持したままで植物を長期間保存することができる。これは、両親媒性物質であるブロック型アルキレンオキシド誘導体の界面活性作用によって、切断により吸水力の低下した植物の水あげが加速されると同時に、水に溶解した保湿剤が水と共に植物の各組織へ浸透して植物の水分保持力を著しく向上させることによる。また、ランダム型アルキレンオキシド誘導体は高い保湿作用を有し、保湿剤のみを添加するよりも高い水分保持力を植物体へ賦与することができる。水分保持力を向上させれば、植物は水分不足により萎れることなく、切断前のようなはりのある状態を長時間保ち続けることができる。
また、本発明にかかる植物鮮度保持剤の成分は、人体や環境に対して安全性が高いため、有害な作用ないし環境汚染の懸念なく使用することができる。
【0009】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
(a)ランダム型アルキレンオキシド誘導体
本発明にかかる植物鮮度保持剤は、下記式(I)で示されるランダム型アルキレンオキシド誘導体を含む。
(化3)
O[(AO)/(EO)]−R (I)
上記式(I)中、AOは炭素数3〜4のオキシアルキレン基であり、具体的にはオキシプロピレン基、オキシブチレン基、オキシイソブチレン基、オキシトリメチレン基、オキシテトラメチレン基などが挙げられ、特にオキシプロピレン基、オキシブチレン基が好ましい。また、EOはオキシエチレン基である。
mは炭素数3〜4のオキシアルキレン基の平均付加モル数で、1≦m≦70、好ましくは2≦m≦50である。nはオキシエチレン器の平均付加モル数であり、1≦n≦70、好ましくは5≦n≦55である。炭素数3〜4のオキシアルキレン基またはオキシエチレン基が0または70を超えると、保湿剤の吸収効果が落ちる傾向にあるため好ましくない。
【0010】
また、炭素数3〜4のオキシアルキレン基とオキシエチレン基の合計に対するオキシエチレン基の割合は20〜80質量%であることが好ましい。オキシエチレン基の割合が20質量%未満、または80質量%を超えると保湿剤の吸収効果が落ちる傾向にあるため好ましくない。
なお、EOはオキシエチレン基、POはオキシプロピレン基、[(EO)/(PO)]はランダム状結合を表し、以下このように略して記載することがある。
【0011】
、Rは、炭素数1〜4の炭化水素基であり、このような炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基などが挙げられ、特にメチル基、エチル基が好ましい。炭素数5以上の炭化水素基では親水性が低下し、水との相溶性が低下することがある。また、R及びRは、それぞれ同種のものを用いても、異種の炭素数1〜4の炭化水素基が混在してもよい。
【0012】
本発明のランダム型アルキレンオキシド誘導体としては、具体的にはPOE(9)POP(2)ジメチルエーテル、POE(14)POP(7)ジメチルエーテル、POE(10)POP(10)ジメチルエーテル、POE(6)POP(14)ジメチルエーテル、POE(15)POP(5)ジメチルエーテル、POE(25)POP(25)ジメチルエーテル、POE(7)POP(12)ジメチルエーテル、POE(22)POP(40)ジメチルエーテル、POE(35)POP(40)ジメチルエーテル、POE(50)POP(40)ジメチルエーテル、POE(55)POP(30)ジメチルエーテル、POE(30)POP(34)ジメチルエーテル、POE(25)POP(30)ジメチルエーテル、POE(27)POP(14)ジメチルエーテル、POE(55)POP(28)ジメチルエーテル、POE(36)POP(41)ジメチルエーテル、POE(7)POP(12)ジメチルエーテル、POE(17)POP(4)ジメチルエーテル、POE(9)POB(2)ジメチルエーテル、POE(14)POB(7)ジメチルエーテル、POE(10)POP(10)ジエチルエーテル、POE(10)POP(10)ジプロピルエーテル、POE(10)POP(10)ジブチルエーテル等が挙げられる。
なお、上記POE、POP、POBは、それぞれポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、ポリオキシブチレンの略であり、以下、このように略して記載することがある。
【0013】
(b)ブロック型アルキレンオキシド誘導体
本発明の植物鮮度保持剤は、下記式(II)で示されるブロック型アルキレンオキシド誘導体を含む。
(化4)
Y−[O(EO)−(AO)−(EO)−R (II)
上記式(II)で示されるアルキレンオキシド誘導体において、Yは3〜6個の水酸基を有する多価アルコールの水酸基を除いた残基であり、kは前記多価アルコールの水酸基数であり3〜6である。3〜6個の水酸基を有する多価アルコールとしては、例えば、k=3であるグリセリン、トリメチロールプロパン、k=4であるエリスリトール、ペンタエリスリトール、k=5であるキシリトール、k=6であるソルビトール、イノシトールが挙げられる。
すなわち、本発明にかかる植物鮮度保持剤に配合されるブロック型アルキレンオキシド誘導体は、前記の3〜6個の水酸基を有する多価アルコールの1種または2種以上の混合物の水酸基を除いた残基を基本骨格とする。
【0014】
本発明において、特に、Yが3〜4個の水酸基を有する多価アルコールの水酸基を除いた残基であることが好ましく、すなわち、3≦k≦4を満たすことが好適である。このような多価アルコールとしてグリセリン、ペンタエリスルトールが挙げられる。kが2以下、またはkが7以上であると、保湿剤の吸湿効果が落ちる傾向にあるため好ましくない。
【0015】
式中のEOは、オキシエチレン基である。AOは炭素数3〜6のオキシアルキレン基であり、具体的には、オキシプロピレン基、オキシブチレン基、オキシイソブチレン基、オキシt−ブチレン基、オキシペンチレン基、オキシヘキシレン基などが挙げられる。好ましくは、オキシプロピレン基、オキシブチレン基であり、さらに好ましくはオキシブチレン基である。また、AOは1種または2種以上を用いることができる。
【0016】
b×kはAOの平均付加モル数であり、1≦b×k≦100、好ましくは3≦b×k≦70であり、より好ましくは5≦b×k≦50である。a×k及びc×kはEOの平均付加モル数であり、0≦a×k≦100、0≦c×k≦100である。a×kとして、好ましくは0≦a×k≦30、より好ましくは0≦a×k≦20である。また、c×kとして、好ましくは5≦c×k≦70、より好ましくは5≦c×k≦50である。
また、前記式(II)中の全オキシエチレン基の平均付加モル数(a+c)×kは1より大きく、好ましい範囲は、1<(a+c)×k≦200であり、さらに好ましくは10≦(a+c)×k≦140である。AOは本発明にかかるブロック型アルキレンオキシド誘導体において疎水性部位となり、b×kが0、および100を越えると保湿剤の吸湿効果が落ちる傾向がある。また、(a+c)×kが0、または200を越えた場合も保湿剤の吸湿効果が落ちる傾向にある。
【0017】
前記式(II)中のAOとEOの合計に対する前記式(II)中の全EOの割合は10〜80質量%であり、さらに好ましくは20〜70質量%である。前記割合が10質量%未満、また80質量%を超えると保湿剤の吸湿効果が落ちる傾向にある。
また、AOとEOの付加形態はブロック状であり、付加順序は式中のYに対して、(AO)−(EO)の順、(EO)−(AO)の順、(EO)−(AO)−(EO)の順のいずれであってもよい。本発明においては、式中のYに対して(AO)−(EO)の順、つまりa=0であることが特に好ましい。
【0018】
前記式(II)において、Rは炭素数1〜4の炭化水素基であり、このような炭化水素基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基などが挙げられる。本発明においては特にメチル基、エチル基であることが好ましい。炭素数が5より大きいと、親水性が低下し、水との相溶性が低下する。また、Rが水素原子であると、十分な鮮度保持効果が得られないことがあるため好ましくない。
また、本発明にかかる植物鮮度保持剤に配合されるブロック型アルキレンオキシド誘導体において、Rは1分子中、同一であっても又は異なっていてもよく、1分子中において同一のRを有するブッロク型アルキレンオキシド誘導体1種、または異なるRを有する2種以上の混合物であってもよい。
【0019】
本発明にかかる植物鮮度保持剤に配合されるブロック型アルキレンオキシド誘導体としては、具体的にはPOB(30)POE(30)グリセリルトリメチルエーテル、POB(30)POE(35)グリセリルトリメチルエーテル、POB(17)POE(28)グリセリルトリメチルエーテル、POB(27)POE(45)グリセリルトリメチルエーテル、POB(14)POE(34)グリセリルトリメチルエーテル、POB(22)POE(55)グリセリルトリメチルエーテル、POB(19)POE(55)グリセリルトリメチルエーテル、POB(40)POE(80)グリセリルトリメチルエーテル、POB(80)POE(40)グリセリルトリメチルエーテル、POB(30)POE(30)グリセリルトリエチルエーテル、POB(30)POE(35)グリセリルトリエチルエーテル、POB(14)POE(34)グリセリルトリエチルエーテル、POB(30)POE(30)グリセリルトリプロピルエーテル、POE(30)POP(30)グリセリルトリメチルエーテル、POE(35)POP(40)グリセリルトリメチルエーテル、POE(41)POP(48)グリセリルトリメチルエーテル等が挙げられる。
なお、上記POE、POP、POBは、それぞれポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、ポリオキシブチレンの略であり、以下、このように略して記載することがある。
【0020】
本発明にかかる植物鮮度保持剤に配合されるアルキレンオキシド誘導体は、公知の方法で製造することができる。例えば、水酸基を有している多価アルコールに対して、エチレンオキシドおよび炭素数3〜6のアルキレンオキシドを付加重合した後、ハロゲン化アルキルをアルカリ触媒の存在下にエーテル化させることによって得られる。
【0021】
植物鮮度保持剤を溶解した水溶液へ植物を浸漬する場合、ランダム型アルキレンオキシド誘導体及びブロック型アルキレンオキシド誘導体の配合量は水溶液に対してそれぞれ0.001〜3質量%となることが好適であり、より好ましくはそれぞれ0.01〜1質量%である。いずれかまたは両方のアルキレンオキシド誘導体の配合量が0.001質量%に満たない、もしくは3質量%を超えると、アルキレンオキシド誘導体の配合による鮮度保持効果の発現が十分ではない場合がある。
【0022】
(c)保湿剤
本発明に用いる保湿剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、1,3−ブチレングリコール、キシリトール、ソルビトール、マルチトール等が挙げられ、特にグリセリンが好ましい。
保湿剤の配合量は、植物鮮度保持剤を水溶液として使用する場合、水溶液に対して3〜50質量%であることが好適であり、より好ましくは8〜20質量%である。保湿剤の配合量が3質量%に満たない、もしくは50質量%を超えると、該保湿剤の効果の発現が十分ではない場合がある。
【0023】
本発明の植物鮮度保持剤は、上記必須成分、すなわち、(a)ランダム型アルキレンオキシド誘導体、(b)ブロック型アルキレンオキシド誘導体、(c)保湿剤に加え、通常用いられる防錆剤、防黴剤、防腐剤、pH調整剤等の任意成分を配合し、常法により製造することができる。
また、本発明の植物鮮度保持剤の剤形に特に制限はないが、粉末もしくは濃縮液として調製し、使用に応じて水溶液とすることが好ましい。前記水溶液は、植物が本発明の植物鮮度保持剤の有効成分を吸収し得る方法で使用すればよく、植物の切断面を該水溶液へ浸漬することが好適である。
本剤を適用する植物としては、例えば花、草花、草木類等を挙げることができるが、これらの大きさや高さには何ら制約はない。また、水溶液とした植物鮮度保持剤の適用量は、植物の種類、大きさ、使用状況によって適宜調節すればよい。
【0024】
以下に本発明の実施例を開示するが、これらは本発明を何等限定するものではない。また、配合量は特に記載のない限り質量%とする。
【実施例】
【0025】
まず、本発明にかかる植物鮮度保持剤に配合し得る各種アルキレンオキシド誘導体の合成例を示す。
<合成例1>
ポリオキシエチレン(10モル)ポリオキシプロピレン(10モル)ジメチルエーテル
CHO[(EO)10/(PO)10]CH(ランダム型アルキレンオキシド誘導体)の合成
プロピレングリコール76gと触媒として水酸化カリウム3.1gをオートクレーブ中に仕込み、オートクレーブ中の空気を乾燥窒素で置換した後、攪拌しながら140℃で触媒を完全に溶解した。次に滴下装置によりエチレンオキシド440gとプロピレンオキシド522gの混合物を滴下させ、2時間攪拌した。次に、水酸化カリウム224gを仕込み、系内を乾燥窒素で置換した後、塩化メチル188gを温度80〜130℃で圧入し5時間反応させた。その後オートクレーブより反応組成物を取り出し、塩酸で中和してpH6〜7とし、含有する水分を除去するため減圧−0.095MPa(ゲージ圧)、100℃で1時間処理した。更に処理後生成した塩を除去するため濾過を行い、ランダム型アルキレンオキシド誘導体を得た。
塩化メチルを反応させる前にサンプリングし、精製したものの水酸基価が107、得られた化合物の水酸基価が0.4、末端メチル基数に対する水素原子数の割合は0.004であり、ほぼ完全に水素原子がメチル基に変換されている。
【0026】
<合成例2>
ポリオキシブチレン(30モル)ポリオキシエチレン(30モル)トリメチルグリセリルエーテル(ブロック型アルキレンオキシド誘導体)の合成
グリセリン92gと触媒として水酸化カリウム18gをオートクレーブ中に仕込み、オートクレーブ中の空気を乾燥窒素で置換した後、攪拌しながら140℃で触媒を完全に溶解した。次に滴下装置によりブチレンオキシド2160gを滴下させ、2時間攪拌した。続いて、滴下装置によりエチレンオキシド1320gを滴下させ、2時間攪拌した。次に、水酸化カリウム400gを仕込み、系内を乾燥窒素で置換した後、塩化メチル300gを温度80〜130℃で圧入し5時間反応させた。その後オートクレーブより反応組成物を取り出し、塩酸で中和してpH6〜7に調整し、含有する水分を除去するため減圧−0.095MPa(ゲージ圧)、100℃で1時間処理した。さらに処理後生成した塩を除去するため濾過を行い、ブロック型アルキレンオキシド誘導体を得た。
塩化メチルを反応させる前にサンプリングし、精製したものの水酸基価が49、得られた化合物の水酸基価が0.4、末端メチル基数に対する水素原子数の割合は0.008であり、ほぼ完全に水素原子がメチル基に変換されている。
【0027】
下記表1に示す各種アルキレンオキシド誘導体を調製し、同表に記載した配合組成により植物鮮度保持剤の水溶液を調製した。各試験例の水溶液中に植物(キク)5本の茎切断面を浸漬し、室温22〜26℃、湿度50%の環境下で10日間放置した。
前記保存試験後、下記の基準にしたがって5名のパネラーによる植物の外観(鮮度保持効果)の評価を行い、その平均値を算出した。結果を下記表1に示す。
(評価基準)
3:萎れは認められない
2:一部萎れ、及び茎折れが認められる
1:ほとんど萎れ、及び茎折れしている
【0028】
なお、以下表中のランダム型アルキレンオキシド誘導体(ランダムポリマー)は、下記式(III)の構造を有するものとする。例えば、下記式(III)中、m=7、n=14の場合は(PO)/(EO)14と表記する。
(化5)
O−[(PO)/(EO)]−R (III)
また、同様に以下表中のブロック型アルキレンオキシド誘導体(ブロックポリマー)は、下記式(IV)の構造を有するものとする。例えば、下記式(IV)中、e+g+i=30、f+h+j=30の場合は、(BO)30(EO)30と表記する。
(化6)

【0029】
(表1)

【0030】
表1によれば、水道水のみの場合(試験例6)、鮮度保持効果はほとんど認められなかった。また式(III)の特定ランダム型アルキレンオキシド誘導体とグリセリンのみを配合(試験例3)、式(IV)の特定ブロック型アルキレンオキシド誘導体とグリセリンのみを配合(試験例4)、及びグリセリンのみを配合(試験例5)したサンプルは、水道水のみのものに比してやや鮮度保持効果が認められたが、なおも萎れ、及び茎折れが認められた。
これに対し、式(III)の特定ランダム型アルキレンオキシド誘導体、式(IV)の特定ブロック型アルキレンオキシド誘導体、グリセリンを全て配合した試験例1及び2においては、保存10日を経ても萎れは認められず、他の試験例に比べ鮮度保持効果が著しく高かった。
以上の結果から、本発明の植物鮮度保持剤は、特定構造のランダム型アルキレンオキシド誘導体及びブロック型アルキレンオキシド誘導体、保湿剤を含有することにより、優れた鮮度保持効果を示すことが認められた。
【0031】
続いて、下記表2に示す各種アルキレンオキシド誘導体を調製し、同表に記載した配合組成により植物鮮度保持剤の水溶液を調製した。各試験例の水溶液中に植物(キク)5本の茎切断面を浸漬し、室温22〜26℃、湿度50%の環境下で10日間放置した。前記試験後の植物の状態に関し、上記試験と同様の方法にて評価を行なった。結果を表2に示す。
【0032】
(表2)

【0033】
表2に示すとおり、試験例7に示すランダム型アルキレンオキシド誘導体、ブロック型アルキレンオキシド誘導体、グリセリンを配合したサンプルは高い鮮度保持効果を有し、保存後の植物のみずみずしさにおいても優れていた。
対して、式(IV)においてe+g+i=0としたエチレンオキシド誘導体を用いた試験例8、式(IV)をランダム型とした試験例9、式(IV)の末端を水素基とした試験例10では、萎れ及び茎折れが認められた。
したがって、本発明において、特定構造を有するブロック型アルキレンオキシド誘導体は、(AO)−(EO)の付加形態を有し、末端が炭素数1〜4の炭化水素基であることが好適である。
【0034】
また、式(IV)においてe+g+i=0としたエチレンオキシド誘導体のみを配合した試験例11、式(IV)においてランダム型のもの及び末端水素基のものを用いた試験例12、式(IV)のランダム型及びブロック型アルキレンオキシド誘導体を用いた試験例13も、鮮度保持効果において試験例7及び8に劣るものであった。
さらに、ノニオン界面活性剤であるポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルを配合した試験例14、アニオン界面活性剤であるドデシル硫酸ナトリウムを配合した試験例15においても同様に萎れや茎折れが見られた。
以上の結果から、本発明において、両親媒性物質として特定のブロック型アルキレンオキシド誘導体を配合し、且つ保湿作用を有する特定のランダム型アルキレンオキシド誘導体を同時に配合することで、植物に鮮度保持効果が発揮されることが明らかになった。また、本発明の植物鮮度保持剤は、一般的な界面活性剤を配合した鮮度保持剤よりも高い効果を示すことが認められた。
【0035】
以下、本発明にかかる植物鮮度保持剤の処方例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
<処方例1>
(処方) (質量%)
ポリオキシエチレン(10モル)ポリオキシプロピレン(10モル)ジメチルエーテル
CHO[(EO)10/(PO)10]CH 2.5
ポリオキシブチレン(30モル)ポリオキシエチレン(30モル)トリメチルグリセリルエーテル 0.7
(化7)

(式(IV)中、e+g+i=30、f+h+j=30であり、R〜Rはメチル基である。また、BOはオキシブチレン基、EOはオキシエチレン基を示す。)
キシリトール 9.0
ジプロピレングリコール 11.0
安息香酸ナトリウム 適 量
水道水 残 余
(製法及び評価)
上記成分を混合攪拌し、植物鮮度保持剤を調製した。得られた植物鮮度保持剤は、植物(キク)の形態、及び感触を変えることなく、鮮やかな状態で長期間保持する効果に優れていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(a)〜(c)を含有することを特徴とする植物鮮度保持剤。
(a)下記式(I)で示されるランダム型アルキレンオキシド誘導体
(b)下記式(II)で示されるブロック型アルキレンオキシド誘導体
(c)保湿剤
(化1)
O[(AO)/(EO)]−R (I)
(上記式(I)中、AOは炭素数3〜4のオキシアルキレン基、EOはオキシエチレン基、mおよびnはそれぞれ前記オキシアルキレン基、オキシエチレン基の平均付加モル数で、1≦m≦70、1≦n≦70である。炭素数3〜4のオキシアルキレン基とオキシエチレン基の合計に対するオキシエチレン基の割合は20〜80質量%である。R、Rは、炭素数1〜4の炭化水素基である。)
(化2)
Y−[O(EO)−(AO)−(EO)−R (II)
(上記式(II)中、Yは3〜6個の水酸基を有する多価アルコールの水酸基を除いた残基、kは前記多価アルコールの水酸基数、EOはオキシエチレン基、AOは炭素数3〜6のオキシアルキレン基でそれぞれブロック状に付加されている。a×k、b×k、c×kはそれぞれオキシエチレン基、炭素数3〜6のオキシアルキレン基、オキシエチレン基の平均付加モル数であり、0≦a×k≦100、1≦b×k≦100、0≦c×k≦100、ただし(a+c)×k>1である。式中の全オキシエチレン基と炭素数3〜6のオキシアルキレン基の合計に対する全オキシエチレン基の割合は10〜80質量%である。Rは同一もしくは異なってもよい炭素数1〜4の炭化水素基である。)
【請求項2】
前記式(II)で示されるブロック型アルキレンオキシド誘導体において、AOがオキシブチレン基であることを特徴とする請求項1に記載の植物鮮度保持剤。
【請求項3】
前記式(II)で示されるブロック型アルキレンオキシド誘導体において、aが0であることを特徴とする請求項1または2に記載の植物鮮度保持剤。
【請求項4】
水溶液として使用することを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の植物鮮度保持剤。

【公開番号】特開2009−167149(P2009−167149A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−10192(P2008−10192)
【出願日】平成20年1月21日(2008.1.21)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)
【Fターム(参考)】