説明

椎茸の加工品及びその製造方法

【課題】椎茸のかさの表面に文字等の刻印を施した商品的に付加価値のある椎茸の加工品及びその製造方法を提供する。
【解決手段】椎茸の加工品10において、3次元制御レーザー照射装置からのレーザー光を用いることで、焼印や印刷を用いることなくかさ11の表面12に文字、図形、記号又はこれらの組み合わせ等の刻印13を施す。さらに、かさ11の表面12に刻印13が施された椎茸の加工品10を−60℃〜−80℃の超低温で冷凍及び天日等で乾燥させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、椎茸の加工品およびその製造方法に関し、詳しくは、椎茸のかさの表面にレーザー光により文字及び図形等の刻印が施された椎茸の加工品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、椎茸にはビタミンDやビタミンB1等の栄養素が多く含まれ健康に良い食品として親しまれており、生産者等は、その商品的価値を高めるために様々な手段を用いている。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、かさの上面に絵文字等の表示を施した表示できるしいたけの考案が開示されている。また、下記特許文献2には、生椎茸や、干し椎茸の傘の表面に祝詞の文字や鶴亀等の図柄を焼印して表わした考案が開示されている。さらに、下記特許文献3には、表面に印刷表示を施した椎茸の発明が開示されている。
【0004】
このようにすることにより、下記特許文献1の考案によれば、しいたけのかさの上面に切断または切削等により表示部を形成し、該表示部に絵や文字等の表示を施すことができるとされている。また、下記特許文献2の考案によれば、採取したばかりの生椎茸、或いは干し椎茸のかさの表面に、凸版文字を施した焼印を押捺し、文字、図柄を形成することができるとされている。さらに、下記特許文献3の発明によれば、椎茸の傘表面に、可食性粉末或いは可食性インキ等により文字、模様等を印刷表示することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実公昭61−002083号公報
【特許文献2】実公昭63−078592号公報
【特許文献3】特開平08−000212号公報
【特許文献4】特開昭58−090985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1の考案では、表示部を形成するためにしいたけのかさの上面を切断又は切削等しているため、切断等されたしいたけの部分は無駄になってしまう。また、しいたけのかさの上面を切断等する手間がかかり、量産するのが困難となる。また、上記特許文献2の考案では、生椎茸等のかさの表面に凸版文字を施した焼印を押捺して文字等を表わしているので、表わされる文字等は、焦げた状態となり、見栄えが悪くなると共に、椎茸自体の品質に悪影響を与えるおそれもある。また、焼印自体を作製するに費用及び時間がかかり、消費者の需要に応じた様々な文字や図柄等を提供するのが困難となる。このことは、上記特許文献1にも該当することである。さらに、上記特許文献3の発明では、椎茸の傘表面に文字等を印刷表示するのに、可食性粉末或いは可食性インキ等を用いるため、可食性とはいえ安全性に疑問があり、また、椎茸自体の味や香りに影響がでるおそれもある。
【0007】
なお、上記特許文献4には、レーザー光を用いて食品に文字、図形等のマークを施す方法の発明が開示されている。そして、上記特許文献4には、レーザー光そして、その中の一例としてきのこ類が記載され、また、代表例として「まつたけ」が実施例の一つとして記載されている。上記特許文献4の発明の、レーザー光を用いてマークを施す方法として具体的に以下のA〜Dの4つの分類が挙げられている。
【0008】
すなわち、
A、金属板又はセラミック板又は硝子板に文字、図形等を透かしとして形成し、該板をレーザー光が透かし部分を通過し食品表面に照射されるように設置し、該透かし部分にレーザー光を照射し食品に文字、図形等を焼付ける方法。
B、文字、図形等の余白を透かしとして金属板又はセラミック板又は硝子板に形成し、該板を食品表面に設置し、該板にレーザー光を照射し食品に文字、図形等を焼付ける方法。
C、食品と、それに照射されるべきレーザー光を、食品表面に文字、図形等を書き込む如く相対的に移動させて食品に文字、図形等を焼付ける方法。
D、金属板又はセラミック板又は硝子板に文字、図形等を凸面として印刻したスタンプにレーザー光を照射し、必要温度に加熱し、このスタンプを食品表面に押し当てて食品に文字、図形等を焼付ける方法。
【0009】
ここで、上記方法のDは、いわゆる焼印であり、上記特許文献1及び2と同様の課題を有している。また、上記方法のA及びBは、文字等の型を作成し、その型にレーザー光を照射し、マークする部分のみレーザー光が当たるようにしているものであり、レーザー光のみでマークを施しているものではない。そのため、型の製造にコスト及び時間がかかる。
【0010】
なお、上記方法のCは、レーザー光を移動させて文字等のマークを施すとしている。しかし、上記特許文献4において、このCの方法を用いてきのこ類に文字等のマークを施した具体的な記載はなく、単に実施例において「まつたけ」へのマークが上記方法のAを用いた例として示されているのみである。そのため、上記特許文献4に開示された方法、特に上記方法のCを用いてレーザー光によりきのこ類に文字等のマークを施すことは、具体的な記載がなく実現性に乏しいものとなっている。特に椎茸に関しては、椎茸のかさの表面には、一個一個異なる凹凸があり、また茶褐色の独特の色彩や模様があるため、上記特許文献4に記載の方法を用いたとしても、鮮明にマークを施すことは困難である。
【0011】
そこで、発明者等は、上記課題を解決するため、種々実験を繰り返した結果、刻印手段として焼印や印刷を用いることなく、レーザー光、特に3次元制御レーザー照射装置から照射されるレーザー光を用いることにより、椎茸のかさの表面に文字等を鮮明に刻印することができることを見出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0012】
すなわち、本発明の目的は、椎茸のかさの表面に文字等の刻印がされた、商品的に付加価値のある椎茸の加工品、並びに、刻印された椎茸の市場への流通の効率を上げた椎茸の加工品及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様の椎茸の加工品の製造方法は、生椎茸のかさの表面に刻印手段を用いて刻印を形成することを特徴とする。
【0014】
また、第2の態様の椎茸の加工品の製造方法は、前記第1の態様の椎茸の加工品の製造方法において、前記刻印手段は、レーザー照射装置であることを特徴とする。
【0015】
また、第3の態様の椎茸の加工品の製造方法は、前記第1の態様の椎茸の加工品の製造方法において、前記刻印手段は、3次元制御レーザー照射装置であることを特徴とする。
【0016】
また、第4の態様の椎茸の加工品の製造方法は、前記第2又は3の態様の椎茸の加工品の製造方法において、前記椎茸のかさの表面は、レーザー光によって刻印する直前に、乾燥装置によって乾燥することを特徴とする。
【0017】
また、第5の態様の椎茸の加工品の製造方法は、前記第1の態様の椎茸の加工品の製造方法において、前記刻印手段は、圧縮空気噴射装置であることを特徴とする。
【0018】
また、第6の態様の椎茸の加工品の製造方法は、前記第1〜5のいずれかの態様の椎茸の加工品の製造方法において、前記刻印は、前記椎茸のかさの表面から、0.3mm〜1.5mmの深さに削ることを特徴とする。
【0019】
また、第7の態様の椎茸の加工品の製造方法は、前記第1〜6のいずれかの態様の椎茸の加工品の製造方法において、前記刻印する生椎茸は、直径40mm以下のものであることを特徴とする。
【0020】
また、第8の態様の椎茸の加工品の製造方法は、前記第1〜7のいずれかの態様の椎茸の加工品の製造方法において、前記刻印する生椎茸は、奇形のものであることを特徴とする。
【0021】
また、第9の態様の椎茸の加工品の製造方法は、前記第1〜8のいずれかの態様の椎茸の加工品の製造方法において、前記刻印する生椎茸は、前記かさの開き具合が8分開き以上のものであることを特徴とする。
【0022】
また、第10の態様の椎茸の加工品の製造方法は、前記第1〜9のいずれかの態様の椎茸の加工品の製造方法において、前記刻印は、文字、図形、記号又はこれらの組み合わせであることを特徴とする。
【0023】
また、第11の態様の椎茸の加工品の製造方法は、前記第1〜10のいずれかの態様の椎茸の加工品の製造方法において、前記刻印した生椎茸を、−60℃〜−80℃で冷凍させることを特徴とする。
【0024】
また、第12の態様の椎茸の加工品の製造方法は、前記第11の態様の椎茸の加工品の製造方法において、前記冷凍した椎茸を、アルミニウム製のシートで覆い冷凍させることを特徴とする。
【0025】
また、第13の態様の椎茸の加工品の製造方法は、前記第1〜10のいずれかの態様の椎茸の加工品の製造方法において、前記刻印した椎茸は、乾燥させることを特徴とする。
【0026】
また、第14の態様の椎茸の加工品の製造方法は、前記第2〜4のいずれかの態様の椎茸の加工品の製造方法において、前記椎茸は、搬送手段によって、前記椎茸のかさの表面を上側に向けた状態で前記刻印手段により刻印する位置に搬送することを特徴とする。
【0027】
また、第15の態様の椎茸の加工品の製造方法は、前記第14の態様の椎茸の加工品の製造方法において、前記搬送手段は、ベルトコンベアーであり、前記ベルトコンベアーは、V字状又は凹状の溝又は穴が形成され、前記溝又は穴に前記椎茸の軸が挿入され、前記椎茸のかさの表面を上側に向けて搬送することを特徴とする。
【0028】
また、第16の態様の椎茸の加工品の製造方法は、前記第14又は15の態様の椎茸の加工品の製造方法において、前記搬送手段は、前記刻印手段の直前に、前記椎茸のかさの表面の水分量を測定する水分量測定装置を配置し、前記水分量測定装置で測定された水分量に応じて、前記レーザー光の照射時間又はレーザー光の移動速度を変更することを特徴とする。
【0029】
また、第17の態様の椎茸の加工品の製造方法は、前記第14又は15の態様の椎茸の加工品の製造方法において、前記搬送手段は、前記刻印手段の直前に前記乾燥装置を設置することを特徴とする。
【0030】
また、第18の態様の椎茸の加工品の製造方法は、前記第14又は15の態様の椎茸の加工品の製造方法において、前記搬送手段は、前記刻印手段と前記水分量測定装置の間に前記乾燥装置が配置され、前記水分量測定装置で測定した前記椎茸のかさの表面の水分量に応じて、前記乾燥装置の乾燥時間を変更することを特徴とする。
【0031】
また、第19の態様の椎茸の加工品は、前記第1〜18のいずれかの態様の椎茸の加工品の製造方法によって製造されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0032】
本発明の第1の態様の椎茸の加工品の製造方法によれば、椎茸のかさの表面に刻印を形成することができるので、商品的な付加価値の高い椎茸を製造することができる。
【0033】
本発明の第2の態様の椎茸の加工品の製造方法においては、椎茸のかさの表面の刻印は、レーザー照射装置から照射されるレーザー光で行われるので、従来のように、焼印を用いた場合や印刷と比べ、鮮明な表現が可能となり、椎茸の商品的な付加価値を高めることができる。また、レーザー光は非接触による切断であるため、椎茸に余計な負荷を与えることなく加工することができ、椎茸の変形や破損を抑制し、品質の安定した椎茸の加工品を製造することができる。
【0034】
また、従来では、焼印を押すために椎茸のかさの一部を切り取って平面にしていたが、本発明の第3の態様の椎茸の加工品の製造方法によれば、レーザー光に3次元制御レーザー照射装置からのレーザー光を用いることで、椎茸のかさの凹凸を考慮した刻印が可能となり、椎茸のかさの一部を切除する必要がなくなるため、無駄になる部分のない刻印を施した椎茸の加工品を製造することができる。
【0035】
また、レーザー光での刻印では、刻印される椎茸のかさの表面の水分量により加工の精度が異なり、表面の水分量は少ないほうが好ましい。そのため、本発明の第4の態様の椎茸の加工品の製造方法によれば、椎茸のかさの表面は刻印を行う際に例えば温風等を数秒間吹き付け一時的に乾燥させることで、レーザー加工しやすくなるため加工時間も短くて済み、また、鮮明に刻印ができるようになる。なお、一時的に乾燥した椎茸の表面は、数秒で元の水分量に戻るので、品質に与える影響はない。
【0036】
本考案の第5の態様の椎茸の加工品の製造方法によれば、圧縮空気噴射装置から噴射する圧縮空気によっても椎茸に刻印を形成することができるので、椎茸に直接接触することなく刻印を形成でき、椎茸に余計な負荷を与えることなく加工することができ、椎茸の変形や破損を抑制し、品質の安定した椎茸の加工品を製造することができる。
【0037】
また、一般に、椎茸のかさの表面の褐色の部分の厚さは、品種や成長具合により異なり0.3mm〜0.8mmとなっている。そのため、本発明の第6の態様の椎茸の加工品の製造方法によれば、椎茸のかさの表面の褐色の部分を0.3mm〜1.5mm削ることで、椎茸の白い肉の部分を確実に表出させることができるので、より鮮明に刻印がされた椎茸の加工品を製造することが可能となる。
【0038】
また、一般に、椎茸は一定の大きさ以上のもであって形の整ったもの、及びかさの開き具合が一定以下のものが市場に出され、それ以外のものは、いわゆるC級品や規格外品として、廃棄されるか又は著しく安い値段しかつかないものとなっている。本発明の第7〜9の態様の椎茸の加工品の製造方法によれば、いわゆるC級品や規格外品として、廃棄等されていた椎茸に刻印を施すことで、このような椎茸にも商品として高い付加価値を与えることができるようになり、本来廃棄される椎茸を市場に出すことができるので、生産された椎茸に無駄がなくなる。
【0039】
また、本発明の第10の態様の椎茸の加工品の製造方法によれば、消費者の望む様々な刻印を作ることができるので、より椎茸に商品的な付加価値が付き、椎茸の加工品の需要が高くなる。
【0040】
また、本発明の第11の態様の椎茸の加工品の製造方法によれば、刻印された生椎茸を−60℃〜−80℃で冷凍することで、椎茸の細胞を破壊することなく長期間の保存が可能となり、鮮度を保ったまま流通させることができる。さらに、−60℃〜−80℃で冷凍することで、解凍したとき、細胞の破壊が行われていないので元の生椎茸と略同じ状態にすることが可能となり、刻印が施された美味しい椎茸を製造することができる。
【0041】
また、本発明の第12の態様の椎茸の加工品の製造方法によれば、生椎茸を冷凍する際に熱伝導効率の良いアルミニウム製のシート、例えばアルミホイルで覆われて冷凍されることで、冷凍を短時間で効率よく行うことができ、また、短時間で冷凍することで、椎茸の細胞の破壊をさらに抑制した椎茸の加工品を製造することができる。
【0042】
また、本発明の第13の態様の椎茸の加工品によれば、刻印を施した乾燥椎茸や干し椎茸を製造することができる。さらに、乾燥等させる前の生椎茸のかさの表面に刻印がされているので、干し椎茸等を元の大きさに戻したとき、刻印が鮮明に現れることになるので、商品の付加価値を高めた椎茸の加工品を製造することができる。
【0043】
また、本発明の第14の態様の椎茸の加工品の製造方法によれば、椎茸は、搬送手段によって刻印手段により刻印する位置まで搬送されるので、刻印する工程を自動化することができる。また、椎茸のかさの表面は、上側を向くように搬送されるので、刻印を施しやすくなる。
【0044】
また、本発明の第15の態様の椎茸の加工品の製造方法によれば、搬送手段にベルトコンベアーを用いることで、椎茸を連続してレーザー光を照射する位置まで搬送し、刻印を施すことができるので、刻印した椎茸を効率よく製造することができる。
【0045】
また、本発明の第16の態様の椎茸の加工品の製造方法によれば、椎茸のかさの表面の水分量が異なっていても、その水分量に応じてレーザー光の照射時間及びレーザー光の移動速度を変更できるので、一定の刻印を椎茸に施すことができる。
【0046】
また、本発明の第17の態様の椎茸の加工品の製造方法によれば、搬送手段において刻印手段の直前に乾燥装置を配置することで、刻印を施す直前に椎茸のかさの表面を一時的に乾燥し、刻印を施しやすくすることができる。また、この工程を連続して自動的に行うことができる。
【0047】
また、本発明の第18の態様の椎茸の加工品の製造方法によれば、椎茸のかさの表面の水分量が異なっていても、その水分量に応じて乾燥時間を変更することで、すべての椎茸のかさの表面を同じ状態とすることで、一定の刻印を椎茸に施すことができる。
【0048】
また、本発明の第19の態様の椎茸の加工品の製造方法によれば、上記第1〜第18の態様の椎茸の加工品の製造方法の発明の効果を奏する椎茸の加工品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】図1は椎茸の加工品の正面図である。
【図2】図2Aは椎茸の加工品の斜視図であり、図2Bは図2AのIIIB部の拡大図である。
【図3】図3は椎茸のかさの表面に刻印を施す工程を示す簡略図である。
【図4】図4A及び図4Bは椎茸の加工品の実物を示す平面図である。
【図5】図5は椎茸の加工品の陳列例を示す平面図である。
【図6】図6は椎茸の加工品の他の陳列例を示す平面図である。
【図7】図7Aは椎茸の加工品の製造工程の概略側面図であり、図7Bは図7Aの概略上面図であり、図7Cは図7BのVIIC−VIIC線での断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下、本発明を実施するための形態について、実施形態及び図面を参照しながら詳細に説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための一例を示すものであって、本発明をこの実施形態に記載された椎茸の加工品及びその製造方法に特定することを意図するものではなく、本発明は特許請求の範囲に含まれるその他の実施形態のものにも等しく適応し得るものである。
【実施例1】
【0051】
本実施例1の椎茸の加工品の製造方法により製造される椎茸の加工品10(以下、単に椎茸10とも言う)は、図1に示すように、椎茸のかさ11の表面12に文字等の刻印13がされている。図中の番号14は椎茸10の軸である。椎茸10のかさ11の表面12は、曲面であり、また、凹凸が存在するが、本実施例1の椎茸10のかさ11の表面12には、椎茸の曲面や凹凸に影響されることなく、一定の深さの刻印13が施されている。椎茸自体は、栄養価が高く、美味しいものであるが、このように、刻印が施されることによって椎茸10は、外観にも目を引くような特徴を表わすことができ、商品の付加価値を高くすることができる。また、刻印される文字等により、結婚式や葬式等の場面にあった贈答品として使用することができる。
【0052】
実施例1の椎茸10には、図2Aに示すように、「寿」の文字が刻まれている。このとき、図2Bに示すように、刻印13の深さdは、0.3mm〜1.5mmの範囲となるようにする。実施例1の刻印13は、椎茸10のかさ11の表面12にある褐色部分15を、レーザー光により削り取ることで刻印し、褐色の下の白い肉部分16を表出させ、文字等を読み取れるようにしている。そして、この椎茸10のかさ11の表面12の褐色部分15の厚さd1は品種や育成状態にもよるが、おおむね0.3mm〜0.8mmの範囲であるので、刻印13の深さを0.3mm〜1.5mmの範囲とすることで鮮明に刻印13を施すことができるようになる。また、椎茸のかさの表面をあまり深く掘りすぎると、椎茸に穴が開いたり、食す部分が減少したりするので好ましくない。
【0053】
この刻印13は、図3に示すように、3次元制御レーザー照射装置17(以下、単にレーザー装置ともいう)によりなされている。レーザー光による加工は、高エネルギー密度のレーザー光を照射することにより、熱エネルギーとして対象物を融解又は蒸発させる加工技術である。そのため、焼印での加工と異なり、椎茸のかさの表面を焦して表示させるものではないので、鮮明な表示が可能となり、また、椎茸の品質への影響も少ない。また、印刷のようにインク等を使用することもないので、安全性に問題はない。さらに、削る加工法として代表的な刃物やカッターを用いた場合と比べても、レーザー光による加工では、レーザー光は非接触による切断であるため、椎茸に余計な負荷を与えることなく加工することができ、椎茸の変形や破損を抑制し、品質を安定化することができる。
【0054】
さらに、椎茸のかさの表面は個々に異なる凹凸があるため、従来のレーザー照射装置を用いた場合には、焦点が一定のまま刻印されるため、刻印された文字等に濃淡が表れ不鮮明な刻印となるおそれがある。そのため、本実施例1の椎茸の加工品では、刻印に3次元制御されたレーザー光の照射が可能な装置を用いることにより、椎茸のかさの表面の凹凸に合わせて焦点がコントロールされ、鮮明な刻印をすることが可能となる。なお、3次元制御レーザー照射装置は、公知であるので詳細な説明は省略する。
【0055】
本実施例1の椎茸10のかさ11の表面12の刻印13は、図3に示すように、台19上に配置された生椎茸10に向けて、レーザー装置17からレーザー光18を照射することにより行われる。このとき、レーザー装置17は不図示のコンピューターと接続され、刻印される文字等のデータがインプットされるようになっている。なお、図3では、椎茸10は台19上に配置されているが、これに限らず、後述するように例えば、椎茸をベルトコンベアー上に載せ、レーザー装置の元へ移動させるようにすることで、椎茸の加工品を自動的に生産するようにすることも可能である。なお、上述した刻印13の深さは、レーザー装置17にインプット可能であり、このとき、椎茸の径の大きさを計測することによって褐色部分の厚さを導き出せるようにしておくこともできる。
【0056】
また、椎茸のかさの表面に刻印を施す際、かさの表面の水分量が多くなると、レーザー光による刻印の時間が長くなり、生産効率が悪くなるので、レーザー光で刻印する際に、椎茸のかさの表面に温風を当てる等して乾燥させると刻印しやすくなると共に、刻印の時間も短縮することができ、また、刻印の深さについても一定の品質を保つことができる。なお、一時的に乾燥した椎茸の表面は、数秒で元の水分量に戻るので、品質に影響はない。
【0057】
ここで、図4には、実際に生椎茸のかさの表面に刻印を施したものを例示して示している。図4Aに示すように、椎茸10のかさ11の表面12には、「寿」の文字が刻印されている。そして、この文字は焼印と異なるため、黒く焦げた表示ではなく、かさの表面の褐色部分を削ることで、下の白い肉の部分を表出させているので、文字も鮮明となり読み取りやすくなっている。また、図4Bに示すように、「いつもありがとう」のような文章による刻印も可能となり、様々な場面での商品としての付加価値を高くすることができる。
【0058】
また、図5及び図6は、刻印された複数個の椎茸をそれぞれ所定の大きさの器20A、21Aに配置し、1つのパッケージ20、21として収めた場合の陳列例を示したものである。このように、実施例1の椎茸の加工品を複数個集めて所定の大きさの器20A、21Aに陳列することで、贈答品等による様々なバリエーションの商品を提供することが可能となる。なお、焼印を用いてこのような商品を提供しようとすると、焼印用のこてをその文字ごとにそれぞれ製造する必要があり、製造コストがかかり、また、こての製造に時間がかかり、消費者のニーズにすぐに対応することができない。しかし、椎茸の刻印にレーザー装置を用いることで、レーザー光の照射はコンピューターで制御され、刻印させる文字等も、このコンピューターにインプットさせるだけであるので、製造コストならびに製造時間も大幅に短縮することが可能となる。また、図5及び図6に示すように、椎茸のかさの表面に文字や図形等を施したものを、複数個まとめて配置することで、贈答品等にも活用でき、さらに、複数の椎茸の加工品を用いて1つのメッセージ等を表わすこともできるようになる。
【0059】
また、実施例1のような刻印は、大きさが小さいものや形状が整っていないもの、及びかさの開き具合が一定以上のものであるいわゆるC級品や規格外品に分類される椎茸に施すこともできる。このようにすることで、従来、廃棄されていたものや、極端に安い値段であったる椎茸に商品的な付加価値が付くようになり、生産に無駄がなくなる。なお、C級品及び規格外品の椎茸とは、例えば、かさの直径が40mm以下のものや、かさの形が円形ではなく奇形なもの、及びかさの開き具合が8分開き以上のものなどが挙げられる。
【0060】
また、椎茸のかさの表面に刻印されるものは、文字だけに限られず、図形や記号等、レーザー装置のコンピューターにインプット可能なものであり、椎茸のかさの表面に刻印可能なものであればよい。
【0061】
また、実施例1では、刻印手段としてレーザー装置を用いたが、これに限らず、圧縮空気を噴射して、椎茸に刻印を施すことができる装置を用いてもよい。
【0062】
次に、椎茸の加工品の製造工程の一例を説明する。図7A及び図7Bに示すように、まず加工前の椎茸10'は、搬送手段としてのベルトコンベアー22に載置される。このとき、ベルトコンベアー22は、椎茸10'のかさ11の表面12を上側に向けたまま搬送できるように、椎茸の軸14部分が入り込めるように、図7Cに示すように、ベルト部分22aをV字状にしてある。なお、このV字状の部分は、ベルト部分全体をV字状としてもいいし、一部分をV字状としてもよい。そして、椎茸10'は、椎茸のかさの裏側を支持されて、搬送される。
【0063】
搬送された椎茸10'は、まず、水分量測定装置23の下を通り椎茸10'のかさ11の表面12の水分量が測定される。レーザー光で加工する場合、椎茸のかさの表面の水分量により、刻印の加工精度が異なるため、この水分量を測定することにより、後の加工工程を水分量に対応させて行うことができるようになる。
【0064】
次に、椎茸10'は乾燥装置24の下に搬送される。そして、椎茸10'のかさ11の表面12は、乾燥装置24から、例えば温風24aを吹きつけることで一時的に乾燥される。このようにすることで、レーザー光による加工を行いやすくすることができる。なお、このときの乾燥時間は、先に測定した椎茸のかさの表面の水分量に応じて変化させることもできる。すなわち、水分量が多い場合は、乾燥時間を長めにし、水分量が少ない場合は、乾燥時間を短くすることで対応することができる。
【0065】
その後、椎茸10'は刻印手段としてのレーザー装置17の下に搬送され、上述したようにレーザー光18により、椎茸10'のかさ11の表面12に刻印13が施される。このとき、レーザー光の照射時間及び、レーザー光の移動速度を、先に計測した椎茸のかさの表面の水分量に対応して変化させることもできる。すなわち、水分量が多いと判断した場合には、レーザー光の照射時間を長くしたり、移動速度を遅くしたりすることで対応することができる。また、水分量が少ないと判断した場合は、レーザー光の照射時間を短くしたり、移動速度を速くしたりすることで対応することができる。
【0066】
以上のようにして、刻印が施された椎茸の加工品が製造される。なお、ベルトコンベアー22のベルト部22aをV字状としたが、これに限らず、凹状としてもよい。また、上述した椎茸のかさの表面の水分量に応じた、乾燥装置25の乾燥時間やレーザー装置17の走者時間等の変化は、いずれか一方で行うようにすればよい。
【実施例2】
【0067】
実施例2の椎茸の加工品の製造方法により製造される椎茸の加工品は、実施例1で説明した椎茸のかさの表面に刻印がされた椎茸を冷凍させたものである。
【0068】
一般に、生椎茸は、採取したときから変質が始まり、鮮度を保つのが困難であるとされている。そのため、採取した生椎茸に上記実施例1に示したように刻印を施し、その後、冷凍することで、刻印を施した生椎茸を長期間保存することができるようになる。このとき、冷凍する温度は、−60℃〜−80℃の範囲で行われる。一般に、−60℃〜−80℃の超低温で冷凍することで、食材の細胞の活動を略停止させることができるため、椎茸の細胞をほとんど破壊することなく冷凍させることができ、長期間にわたって品質を保ったまま保存することができるようになる。さらに、−60℃〜−80℃で冷凍された椎茸は、解凍したとき、椎茸の細胞が破壊されていないので、縮み難く元の生椎茸と略同じ状態にすることが可能となる。なお、冷凍の際、熱伝導効率の良いアルミニウム製のシートで覆うと、冷凍を素早く行うことができる。また、アルミニウム製のプレートやトレイ等の上に載せて冷凍するようにしても、冷凍を素早く行うことができるようになる。
【0069】
このように、−60℃〜−80℃で冷凍された椎茸の加工品は、長期間品質を保持したままの状態でいられるので、椎茸を採取したのちすぐに刻印を施し、その後冷凍することで、刻印が施された椎茸の鮮度を保った状態で消費者に提供することができるようになる。このとき、消費者は、−60℃〜−80℃で冷凍された椎茸の加工品を解凍する事で、略生椎茸と同様な品質の椎茸のかさの表面に刻印が施された椎茸を得ることができる。
【実施例3】
【0070】
実施例3の椎茸の加工品の製造方法により製造される椎茸の加工品は、実施例1で説明した椎茸のかさの表面に刻印がされた椎茸を乾燥させたいわゆる干し椎茸及び乾燥椎茸である。
【0071】
干し椎茸及び乾燥椎茸は、生椎茸を天日、火力又は電気などの機械で乾燥させたものであり、干し椎茸等は生椎茸と比べ、長期間鮮度を保つことが可能となり、さらに、乾燥させることで栄養成分が濃縮されるため、栄養価も高くなるという特徴がある。
【0072】
そこで、実施例3の椎茸の加工品としての干し椎茸等は、乾燥等させる前に、収穫したての生椎茸のかさの表面に上記実施例1で示したように刻印を施し、その後、天日等で乾燥させることで得ることができる。このようにすることで、実施例3の椎茸の加工品によれば、刻印を施した乾燥椎茸や干し椎茸を提供することができ、生椎茸に比べ、長期間の保存が可能となり、さらに、この干し椎茸を水に浸す等して元の大きさに戻したとき、刻印が鮮明に現れることになるので、商品の付加価値を高めることができる。
【符号の説明】
【0073】
10:椎茸の加工品 11:かさ 12:表面 13:刻印 14:軸 15:褐色部 16:白い部分 17:レーザー装置 18:レーザー光 19:台 20、21:パッケージ 20A、21A:器 22:ベルトコンベアー 22a:ベルト部分 23:水分量測定装置 24:乾燥装置 24a:温風

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生椎茸のかさの表面に刻印手段を用いて刻印を形成することを特徴とする椎茸の加工品の製造方法。
【請求項2】
前記刻印手段は、レーザー照射装置であることを特徴とする請求項1に記載の椎茸の加工品の製造方法。
【請求項3】
前記刻印手段は、3次元制御レーザー照射装置であることを特徴とする請求項1に記載の椎茸の加工品の製造方法。
【請求項4】
前記椎茸のかさの表面は、レーザー光によって刻印する直前に、乾燥装置によって乾燥することを特徴とする請求項2又は3に記載の椎茸の加工品の製造方法。
【請求項5】
前記刻印手段は、圧縮空気噴射装置であることを特徴とする請求項1に記載の椎茸の加工品の製造方法。
【請求項6】
前記刻印は、前記椎茸のかさの表面から、0.3mm〜1.5mmの深さに削ることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の椎茸の加工品の製造方法。
【請求項7】
前記刻印する生椎茸は、直径40mm以下のものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の椎茸の加工品の製造方法。
【請求項8】
前記刻印する生椎茸は、奇形のものであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の椎茸の加工品の製造方法。
【請求項9】
前記刻印する生椎茸は、前記かさの開き具合が8分開き以上のものであることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の椎茸の加工品の製造方法。
【請求項10】
前記刻印は、文字、図形、記号又はこれらの組み合わせであることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の椎茸の加工品の製造方法。
【請求項11】
前記刻印した生椎茸を、−60℃〜−80℃で冷凍させることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の椎茸の加工品の製造方法。
【請求項12】
前記冷凍した椎茸を、アルミニウム製のシートで覆い冷凍させることを特徴とする請求項11に記載の椎茸の加工品の製造方法。
【請求項13】
前記刻印した椎茸は、乾燥させることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の椎茸の加工品の製造方法。
【請求項14】
前記椎茸は、搬送手段によって、前記椎茸のかさの表面を上側に向けた状態で前記刻印手段により刻印する位置に搬送することを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の椎茸の加工品の製造方法。
【請求項15】
前記搬送手段は、ベルトコンベアーであり、
前記ベルトコンベアーは、V字状又は凹状の溝又は穴が形成され、前記溝又は穴に前記椎茸の軸が挿入され、前記椎茸のかさの表面を上側に向けて搬送することを特徴とする請求項14に記載の椎茸の加工品の製造方法。
【請求項16】
前記搬送手段は、前記刻印手段の直前に、前記椎茸のかさの表面の水分量を測定する水分量測定装置を配置し、前記水分量測定装置で測定された水分量に応じて、前記レーザー光の照射時間又はレーザー光の移動速度を変更することを特徴とする請求項14又は15に記載の椎茸の加工品の製造方法。
【請求項17】
前記搬送手段は、前記刻印手段の直前に前記乾燥装置を設置することを特徴とする請求項14又は15に記載の椎茸の加工品の製造方法。
【請求項18】
前記搬送手段は、前記刻印手段と前記水分量測定装置の間に前記乾燥装置が配置され、前記水分量測定装置で測定した前記椎茸のかさの表面の水分量に応じて、前記乾燥装置の乾燥時間を変更することを特徴とする請求項14又は15に記載の椎茸の加工品の製造方法。
【請求項19】
前記請求項1〜18のいずれかの椎茸の加工品の製造方法によって製造されたことを特徴とする椎茸の加工品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−65583(P2012−65583A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−212857(P2010−212857)
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【出願人】(504328152)株式会社サカト産業 (13)
【Fターム(参考)】