説明

椎間板負荷の測定装置および測定方法

【課題】被験者の負担が少なく、しかも精度良く椎間板に加わる負荷を測定できる椎間板負荷の測定装置および測定方法を提供する。
【解決手段】人体の動作に起因して椎間板に加わる負荷を推定する方法であって、動作中の被験者の背中を撮影して、脊柱を構成する脊椎骨の動作を測定し、測定された脊椎骨の動作に基づいて脊柱の変形を算出し、算出された脊柱の変形に基づいて、椎間板に加わる負荷を推定する。よって、椎間板への負荷を求めるときに、筋肉等の情報等の不明確な情報を使用する必要がないので、椎間板に加わる負荷を精度良く推定することができる。しかも、脊椎骨の動作に関する情報は体表面を撮影することによって計測しているので、測定において外科的な処置が不要であり、被験者の負担を少なくすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、椎間板負荷の測定装置および測定方法に関する。
人間の脊柱(背骨)は複数の脊椎骨(椎骨)で構成されている。各脊椎骨は、人体の腹側に位置する椎体と背側に位置する椎弓とを備えており、隣接する脊椎骨の椎体間には椎間板がそれぞれ存在している。この椎間板は、椎体間の緩衝材として機能している。
現在、生活環境や労働環境の変化に伴って、日本では多数の人が腰痛で悩まされるようになっている。かかる腰痛の代表的な原因の一つとして、椎間板ヘルニアがある。椎間板ヘルニアは、脊椎骨間の椎間板に負荷が加わり椎間板が変形して神経を圧迫することにより発症する。また、椎間板ヘルニア以外でも椎間板への負荷が原因で発生する発症する腰痛は多い。このため、人が動作しているときにおける椎間板への負荷が把握できれば、椎間板ヘルニアやその他の腰痛の原因究明や予防法、治療法を検討する際に、非常に有用な情報となる。
本発明は、かかる椎間板への負荷を求める椎間板負荷の測定装置および測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
腰椎の椎間板に掛かる負荷を把握する方法として、椎間板に加わる負荷を直接測定する方法(侵襲的な方法)がある(例えば、非特許文献1)。この方法では、被験者の椎間板にセンサを埋め込んで、動作中における椎間板への負荷を直接センサによって測定できるので、椎間板への負荷を正確に測定できるという利点がある。
しかし、上記方法の場合、センサを埋め込むためには外科的な処置が必要であるため、この処置の際や動作中に被験者の脊髄などを損傷するリスクがある上、センサをつけた状態で測定を行うので被験者への負担が大きいという問題がある。
【0003】
近年、筋骨格モデルにより人間の内力を非侵襲的に推定する方法が検討されており(例えば、非特許文献2)、この方法を椎間板への負荷の推定に適用することも考えられる。
筋骨格モデルは、人体を構成する複数の骨および複数の筋肉を詳細にモデル化したものであるが、筋骨格モデルを用いて内力(椎間板への負荷)を正確に推定する場合には、各被験者について、各部の力学的な特性や随意筋の状況などの情報が必要である。しかし、これらの情報は計測が困難な不明確な情報であるため、筋骨格モデルを用いて椎間板への負荷を推定しても、上述した侵襲的な方法に比べて大幅に精度が低くなる。
【0004】
以上のごとく、現存する方法により椎間板への負荷を測定する場合、被験者の安全性利便性と、測定の精度のいずれか一方を犠牲にせざるを得ないため、両方法の利点を兼ね備えた計測法が望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】A.Nachemson et.al, Scand.J.Rehabil. Med. Supp, 1970, 1-40
【非特許文献2】平尾章成ほか1名,“2次元筋骨格モデルによる座位姿勢の生体内負荷測定方法”,日本機会学会論文集(C編),66巻661号,2001,173-179.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情に鑑み、被験者の負担が少なく、しかも精度良く椎間板に加わる負荷を測定できる椎間板負荷の測定装置および測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(測定方法)
第1発明の椎間板負荷の測定方法は、人体の動作に起因して椎間板に加わる負荷を推定する方法であって、所定の姿勢の被験者の背中を撮影し、この撮影によって得られた画像情報に基づいて脊椎骨の位置情報を算出し、該脊椎骨の位置情報に基づいて脊柱の変形を算出し、算出された脊柱の変形に基づいて、椎間板に加わる負荷を推定することを特徴とする。
第2発明の椎間板負荷の測定方法は、第1発明において、前記脊柱の形状を、測定された脊椎骨の動作から算出される脊椎骨の位置情報に基づいて曲線近似によって算出し、前記脊柱の変形を、基準姿勢における被験者の脊柱の形状と、基準姿勢から姿勢を変更したときにおける脊柱の形状と、に基づいて算出することを特徴とする。
第3発明の椎間板負荷の測定方法は、第1発明において、脊柱を構成する各脊椎骨を剛体としかつ隣接する脊椎骨間に柔軟性を有する椎間板が配置された脊柱モデルであって、基準姿勢における被験者の脊柱の形状に基づいて形成される基準脊柱モデルを使用し、前記脊柱の変形を、基準姿勢から姿勢を変更したときに測定された被験者の脊椎骨の動作を強制変位入力として、脊柱モデルの変形を解析して求めることを特徴とする。
第4発明の椎間板負荷の測定方法は、第2または第3発明において、前記基準姿勢が、椎間板に負荷が加わらない姿勢であることを特徴とする。
(測定装置)
第5発明の椎間板負荷の測定装置は、人体の動作に起因して椎間板に加わる負荷を推定する装置であって、被験者の体表面における脊椎骨の後端と対応する位置に取り付けられた複数のマーカーと、該複数のマーカーを撮影する撮影手段と、該撮影手段が撮影した画像を解析する解析手段とからなり、該解析手段は、前記撮影手段が撮影した画像に基づいて脊椎骨の位置情報を算出し、算出した脊椎骨の位置情報に基づいて脊柱の変形を算出する変形解析部と、該変形解析部によって算出された脊柱の変形に基づいて、椎間板に加わる負荷を推定する負荷推定部とからなることを特徴とする。
第6発明の椎間板負荷の測定装置は、第5発明において、前記変形解析部は、前記脊椎骨の位置情報に基づいて曲線近似によって算出し、前記脊柱の変形を、基準姿勢における被験者の脊柱の形状と、基準姿勢から姿勢を変更したときにおける脊柱の形状と、に基づいて算出することを特徴とする。
第7発明の椎間板負荷の測定装置は、第5発明において、前記解析手段は、脊柱を構成する各脊椎骨を剛体としかつ隣接する脊椎骨間に柔軟性を有する椎間板が配置された脊柱モデルであって、基準姿勢における被験者の脊柱の形状に基づいて形成される基準脊柱モデルを記憶する基準脊柱モデル記憶部を備えており、前記変形解析部は、前記基準脊柱モデルを用いて、前記基準姿勢から姿勢を変更したときに測定された被験者の脊椎骨の動作を強制変位入力として、前記基準脊柱モデルの変形を解析して求めるものであることを特徴とする。
第8発明の椎間板負荷の測定装置は、第6または第7発明において、前記基準姿勢が、椎間板に負荷が加わらない姿勢であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
(測定方法)
第1発明によれば、椎間板を構成要素として含む脊柱の変形から椎間板への負荷を求めており、しかも、脊柱の変形は、その構成要素である脊椎骨の動作を測定した結果に基づいて算出されている。よって、椎間板への負荷を求めるときに、筋肉の情報等の不明確な情報を使用する必要がないので、椎間板に加わる負荷を精度良く推定することができる。しかも、脊椎骨の動作を、被験者の体表面を撮影することによって計測しているので、測定において外科的な処置が不要であり、被験者の負担を少なくすることができる。
第2発明によれば、姿勢変更後の脊柱の形状を曲線で近似しているので、個々の脊椎骨の位置を測定する精度が低かったり、測定されたデータに基づく位置推定精度が低かったりしても、椎間板に加わる負荷をある程度高い精度で推定することができる。
第3発明によれば、基準脊柱モデルに対して、脊柱の構成要素である脊椎骨の動作を強制変位として入力して基準脊柱モデルの変形を算出しているので、算出される基準脊柱モデルの変形の精度を高くすることができる。
第4発明によれば、椎間板に負荷が加わっていない状態の脊柱の形状に基づいて脊柱の変形を算出するので、推定により得られる椎間板に加わる負荷の誤差を小さくすることができる。
(測定装置)
第5発明によれば、負荷推定部は、椎間板を構成要素として含む脊柱の変形から椎間板への負荷を求めており、しかも、変形解析部は、脊柱の変形を、撮影手段が撮影した画像に基づいて算出される脊椎骨の位置情報に基づいて算出している。よって、椎間板への負荷を求めるときに、筋肉の情報等の不明確な情報を使用する必要がないので、椎間板に加わる負荷を精度良く推定することができる。しかも、脊椎骨の動作を、被験者の体表面を撮影することによって計測しているので、測定において外科的な処置が不要であり、被験者の負担を少なくすることができる。
第6発明によれば、姿勢変更後の脊柱の形状を曲線で近似しているので、個々の脊椎骨の位置を測定する精度が低かったり、測定されたデータに基づく位置推定精度が低かったりしても、椎間板に加わる負荷をある程度高い精度で推定することができる。
第7発明によれば、基準脊柱モデルに対して、脊柱の構成要素である脊椎骨の動作を強制変位として入力して基準脊柱モデルの変形を算出しているので、算出される基準脊柱モデルの変形の精度を高くすることができる。
第8発明によれば、椎間板に負荷が加わっていない状態の脊柱の形状に基づいて脊柱の変形を算出するので、推定により得られる椎間板に加わる負荷の誤差を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の椎間板負荷測定方法のフローチャートである。
【図2】(A)は本実施形態の椎間板負荷測定装置の概略ブロック図であり、(B)はマーカーM貼付位置の一例を示した図である。
【図3】脊柱の曲率を2次曲線から算出する場合に使用する局所座標系の説明図である。
【図4】(A)は実施例におけるマーカーMの撮影状況の概略説明図であり、(B)測定姿勢の説明図である。
【図5】実施例の結果を示した図である。
【図6】腰椎を含む脊柱の概略説明素である。
【図7】脊柱の曲率を2次曲線から算出する場合に使用する局所座標系の説明図である。
【図8】傾斜計31を利用した脊柱の変形を検出する方法の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
本発明の椎間板負荷測定方法は、非侵襲的な方法によって椎間板の負荷を測定する方法であって、脊椎骨の動き、つまり、脊柱の変形に基づいて椎間板の負荷を推定するようにしたことに特徴を有している。
【0011】
まず、上記のごとき方法から椎間板に加わる負荷が推定できる原理について説明する。
図6(カイロプラクティック概論、鈴木正教著から引用)は腰椎を含む脊柱を示しているが、図6に示すように、脊柱は複数の脊椎骨から構成されており、隣接する脊椎骨の椎体間にそれぞれ椎間板が存在している。
このため、脊柱の姿勢が変化して隣接する脊椎骨の椎体間の隙間が変化すれば、椎間板に加わる負荷が変化する。具体的には、椎体間の隙間が狭くなれば、椎体間に位置している椎間板は圧縮されるので、椎間板に加わる圧縮方向の負荷が大きくなる。逆に、椎体間の隙間が広くなれば、椎間板に加わっていた圧縮力が弱くなるので、椎間板に加わる圧縮方向の負荷は小さくなる。
したがって、脊柱の形状の変化、つまり、脊柱のたわみ曲線の変化を見れば、椎骨の隙間がどのように変化したかを推定できるので、椎間板への負荷の変化も推定することができるのである。
【0012】
つぎに、本発明の椎間板負荷測定方法に使用する装置を説明する。
図2に示すように、椎間板負荷測定方法に使用する装置(以下、椎間板負荷測定装置という)は、撮影手段10と、解析手段20とを備えている。
【0013】
撮影手段10は、椎間板の負荷を測定する人(以下、被験者という)の背中を撮影して、被験者の脊柱を構成する脊椎骨の動作を測定するものである。具体的には、撮影手段10は、被験者の背中において、脊椎骨と対応する位置に貼り付けられたマーカーMを含む画像を撮影できる撮影機器を備えている。この撮影機器は、撮影した画像に関する情報(画像情報)を解析手段20に送信することができる機能も有するものである。例えは、撮影機器には、高速度カメラや光学式3次元形状計測装置などを採用することができるが、前記機能を有するものであれば、特に限定されない。
【0014】
なお、撮影手段10は、通常、撮影機器を2台以上備えているが、後述する基準姿勢から負荷測定姿勢までの脊椎骨の動きがほぼ2次元的であると考えられる場合には撮影機器は1台でもよい。また、被験者の姿勢によって、2台の撮影機器ではマーカーMを撮影できない状況が生じる可能性がある場合には、3台以上の撮影機器を設ける必要がある。
【0015】
解析手段20は、撮影手段10が撮影した画像情報に基づいて、椎間板に加わる負荷を算出するものである。
この解析手段20は、変形解析部21、データ記憶部22、負荷推定部25、および基準脊柱モデル記憶部30とを備えている。
【0016】
変形解析部21は、撮影手段10が撮影した画像の画像情報に基づいて脊椎骨の動作を解析し、脊柱の変形を解析するものである。脊柱の変形とは、基準姿勢における脊柱の形状に対するある姿勢での脊柱の形状の変化を意味している。つまり、被験者が基準姿勢から姿勢を変えたときに、全脊椎骨について、基準姿勢における位置からのズレを積算したものが、脊柱の変形となるのである。
【0017】
負荷推定部25は、変形解析部21が算出する脊柱の変形に基づいて椎間板に加わる負荷(圧力値や圧縮力、ねじりモーメント)を算出するものである。具体的には、脊柱が変形すると、隣接する脊椎骨の椎体間の相対的な位置(両者間の距離や相対的な回転等)が変化するので、この変形量に基づいて、椎間板の変形量が得られる。すると、椎間板の変形量と椎間板の性質(物性)とに基づいて、椎間板に加わる負荷(圧力)を算出することができるのである。
例えば、椎間板の物性がわかっている場合には、非線形の有限要素法で椎間板をモデル化し椎間板の変形量を強制変位として与えて解析する。すると、椎間板に加わる負荷として、数値的に応力や反力を求めることが可能である。この場合には、椎間板にねじり変形がある場合でも、ねじれ応力を数値的に求めることもできる。
【0018】
また、負荷推定部25が算出する負荷は、椎間板に加わる圧力値等以外にも、脊柱の変形や椎間板の歪の程度によって表すことができる。かかる変形や平均的な歪は,椎間板の物性や形状によらず得ることができるので,これらを用いて評価すれば,比較的簡単に椎間板に加わる負荷を評価することができる。とくに、脊柱の変形があまり速い動きでない場合、つまり、負荷の変動があまり速くない現象であれば,歪自身を負荷として評価するのがもっとも単純である。
例えば、基準姿勢における脊柱に対して、ある姿勢における脊柱の曲率がどの程度変化したか、つまり、脊柱の曲率の変化量を算出し、この曲率の変化量を用いて負荷を評価することも可能である。この場合、圧力値を負荷として算出する場合のように負荷を絶対値として把握することはできないが、基準姿勢において椎間板に加わる負荷に対する相対値として、ある姿勢における椎間板に加わる負荷を把握することができる。なお、脊柱の曲率の変化量によって椎間板に加わる負荷を推定できる理由は後述する。
【0019】
データ記憶部22は、撮影手段10から送信される画像情報を記憶しておくものであり、変形解析部21の要求に応じて所定のデータを変形解析部21に対して供給できる機能も有している。
【0020】
基準脊柱モデル記憶部30は、変形解析部21や負荷推定部25が解析を行う際に基準データとして使用する基準脊柱モデルの情報を記憶しておくものである。また、基準脊柱モデル記憶部30は、要求に応じて基準脊柱モデルの情報を変形解析部21や負荷推定部25に対して供給できる機能も有している。
ここで、基準脊柱モデルとは、被験者の基準姿勢における脊柱の形状を再現したものである。つまり、基準脊柱モデルの情報は、被験者の基準姿勢おける各脊椎骨の相対的な位置の情報(位置情報)や各脊椎骨の大きさ、形状等を含んでいる。
【0021】
なお、基準姿勢は特に限定されないが、負荷を推定する誤差を小さくでき負荷算出精度を高くする上では、椎間板への負荷が最も小さいと考えられる姿勢とすることが好ましい。とくに、椎間板に加わる負荷が全く無い基準姿勢(無負荷姿勢)で得られた位置情報に基づいて基準脊柱モデルが形成されることが理想的である。無負荷姿勢は、例えば、被験者を寝かせた状態とすれば得られると考える。
【0022】
また、基準姿勢における脊柱の形状を把握することが困難である場合には、統計的なデータや医学的な知識をもとに理想的な姿勢をコンピュータ上で設定するというのが現実的である。
【0023】
そして、後述するように、ある姿勢における椎間板への負荷を、基準姿勢の負荷に対する割合で評価する場合、つまり、負荷を無次元化して評価する場合には、基準姿勢は任意の姿勢とすることができる。かかる相対的な評価は、負荷の絶対値の表現が難しいときに有効である。例えば、椎間板への負荷が比較的の小さいと考えられる立位を基準として、ある姿勢における負荷は、立位における負荷の何倍と評価することもできる。かかる相対的な評価に用いる基準姿勢を、以下では、標準姿勢として説明する。
(測定方法)
【0024】
以上のごとき構成であるので、図1に示すような手順により、椎間板に加わる負荷を推定することができる。
【0025】
まず、被験者の背中に複数のマーカーMを貼り付ける。この複数のマーカーMは、被験者の背中において、脊柱を構成する複数の脊椎骨と対応する位置にそれぞれ貼り付けられる(図2(B))。
【0026】
複数のマーカーMを貼り付けると、被験者に上述した標準姿勢をとらせる。
被験者が標準姿勢をとると、その状態で、撮影手段10によって被験者の背中、つまり、被験者の背中に貼り付けられている複数のマーカーMを撮影する。撮影された画像の情報は、撮影手段10から解析手段20のデータ記憶部22に送信されて記録される。
【0027】
標準姿勢での被験者の背中を撮影すると、被験者の姿勢を、標準姿勢から所定の姿勢(負荷測定姿勢)に変更させる。負荷測定姿勢とは、例えば、標準姿勢から上半身を前方に曲げた状態等を挙げることができるが、特に限定されない。
【0028】
被験者が負荷測定姿勢をとると、その状態で、撮影手段10によって被験者の背中に貼り付けられている複数のマーカーMを撮影する。撮影された画像の情報は、標準姿勢の画像と同様に、撮影手段10から解析手段20のデータ記憶部22に送信されて記録される。
【0029】
なお、被験者が標準姿勢から負荷測定姿勢まで姿勢を変化させる状況を連続して撮影してもよい。この場合には、撮影された画像の情報は、撮影手段10から解析手段20のデータ記憶部22に随時送信されるようになっていてもよいし、負荷測定姿勢になるまでの全ての画像を撮影してから、全ての画像の情報を解析手段20のデータ記憶部22に送信するようにしてもよい。
【0030】
標準姿勢および負荷測定姿勢での撮影が終了すると、データ記憶部22に記憶されている標準姿勢の画像および負荷測定姿勢の画像に基づいて、変形解析部21によって脊柱の変形が算出される。
例えば、変形解析部21は、各画像における撮影した個々についてマーカーMの3次元位置情報(絶対座標上における座標値)を算出する。マーカーMの3次元位置情報を算出する方法はとくに限定されず公知の方法を採用できる。例えば、マーカーMの座標値を算出する場合には、画像情報から各マーカーMの座標を算出する市販のソフトを、変形解析部21における座標算出手段として使用することも可能である。座標算出を行う市販のソフトとしては、例えば、Motion Analysis社製のEva RT 5.0.4Post Processinや、Vicon Motion Systemsなどを採用することができる。
【0031】
マーカーMの3次元位置情報が算出されると、この情報に基づいて標準姿勢時および負荷測定姿勢時における脊柱の形状が算出される。そして、各状態における脊柱の形状に基づいて、標準姿勢時に対する負荷測定姿勢時の変形が算出される。
【0032】
なお、撮影された画像の情報が撮影手段10から解析手段20のデータ記憶部22に随時送信されるようになっている場合には、リアルタイムでマーカーMの3次元位置情報および脊柱の形状の算出を行ってもよいし、全ての画像の情報がそろってからマーカーMの3次元位置情報および脊柱の形状の算出を行ってもよい。
【0033】
また、撮影手段10がマーカーMの3次元座標を解析し、マーカーMの3次元位置情報を解析手段20に送信する機能を有している場合には、変形解析部21は、マーカーMの3次元位置情報(絶対座標上における座標値)を算出する機能を備えていなくてもよい。この場合、変形解析部21は、マーカーMの3次元位置情報に基づいて、各状態における脊柱の形状や、標準姿勢時に対する負荷測定姿勢時の変形だけに基づいて負荷測定姿勢時の変形を算出する機能を有していればよい。
【0034】
標準姿勢時の脊柱に対する負荷測定姿勢時の脊柱の変形が算出されると、この脊柱の変形に基づいて椎間板に加わる負荷を算出することができる。例えば、脊柱の変形から隣接する脊椎骨における椎体間の距離の変化量が求まるので、椎間板の変形量と椎間板の性質(弾性や減衰等)とに基づいて、負荷を算出することができるのである。
また、脊柱の変形として、標準姿勢時の脊柱の曲率と、負荷測定姿勢時の脊柱の曲率を算出し、これらに基づいて算出される脊柱の曲率の変化量から椎間板に加わる負荷を評価することもできる。脊柱の曲率は、例えば、曲率を求めたい部分の脊椎骨の形状にフィットする曲線(円や2次曲線等)を求めて、この曲線から曲率半径を推定して算出することが可能である。かかる曲率半径を推定する方法の具体例については、後述する。
【0035】
以上のごとく、本発明の方法では、マーカーMの移動に代表される脊椎骨の動作に基づいて算出した脊柱の変形に基づいて椎間板に加わる負荷を算出しており、筋骨格モデルなどのように、筋肉の情報等のように不明確な情報を使用する必要がない。言い換えれば、全筋肉の動きの結果である脊柱の変形に基づいて椎間板に加わる負荷を算出しているので、椎間板に加わる負荷の推定精度を高くすることができる。
しかも、脊椎骨の動作は、体表面(背中)に貼り付けられたマーカーMを撮影手段10によって撮影した画像情報から算出しているので、負荷測定において外科的な処置が不要であり、被験者の負担を少なくすることができる。
つまり、本発明の椎間板負荷測定方法は、現存する方法により椎間板への負荷を測定する場合に問題となる、被験者の安全性・利便性と、測定の精度を両立させることができるのである。
【0036】
(脊柱の変形の算出)
つぎに、解析手段20の変形解析部21において、脊柱の変形を算出する方法を説明する。
【0037】
(梁モデルに基づく方法)
梁モデルに基づく方法では、脊柱を曲がりはりと仮定して、標準姿勢における状態からの変形を算出する。この梁モデルでは、脊柱の曲率の変化量によって椎間板に加わる負荷を推定することができる。
【0038】
まず、梁モデルに基づく方法によって、脊柱の変形を算出する手順を説明する前に、脊柱の曲率の変化量によって椎間板に加わる負荷を推定できる理由を説明する。
【0039】
脊柱の曲率の変化量によって椎間板に加わる負荷を推定できるのは、両者の関係が、脊柱を梁と考えた場合における曲げ変形(曲率と関連)と曲げモーメントが1対1の関係にあることから想定できる。つまり、一様な曲げ変形をしている梁において,曲率半径をρとすれば梁の曲げのたわみyを長さ方向の位置xで2回微分した値は,ほぼ1/ρとなる。よって、梁に発生している曲げモーメントをM,梁の断面2次モーメントをI,Eをヤング率とすると、以下の数1の関係が成立する。
【数1】

脊柱は単純な梁のようにその断面形状等が一様ではないものの、脊柱が2次元的に変形する場合(ねじれなし)であれば、脊柱についても一様な梁と同様に考えることができる。
よって、脊柱の曲率の変化量によって椎間板に加わる負荷を推定は可能である。
なお、曲げ以外に梁の軸方向の引っ張り圧縮が加わる場合であって、その引っ張り圧縮が計測できる場合には、その効果も加えて脊柱の曲率の変化量を算出すれば、椎間板に加わる負荷を推定は可能である。
【0040】
つぎに、梁モデルに基づく方法によって、脊柱の変形を算出する手順を以下に説明する。
【0041】
まず、撮影手段10によって撮影された負荷測定姿勢の画像情報に基づいて、脊椎骨の位置に相当する各マーカーMの3次元位置情報(座標点)を算出する。
各マーカーMの座標点が算出されれば、この座標データを基に、最小2乗法を用いて関数の式を求める。つまり、脊柱の形状を関数として求めるのである。
【0042】
例えば、腰椎は第3腰椎と第4腰椎の部分が腹側に凹んだ形状であるので、腰椎部分の椎間板の負荷を求めるのであれば、腰椎部分の形状を、第3腰椎と第4腰椎の間に頂点を有する2次曲線であると仮定することができる。つまり、腰椎部分の形状を曲線によって近似させることができる。
このため、各姿勢における各マーカーMの座標点に基づいて、最小2乗法を用いて2次関数の式を求めれば、各姿勢(標準姿勢や負荷測定姿勢)での腰椎部分の形状を曲線近似により求めることができるから、標準姿勢に対する負荷測定姿勢時の腰椎部分の形状を求めることができる。
【0043】
そして、変形解析部21において各姿勢での脊柱の形状が求められれば、負荷推定部25において、標準姿勢における脊柱各部の曲率(標準曲率)からの負荷測定姿勢における脊柱各部の曲率(負荷時曲率)の変化量を求めることができる。すると、標準曲率に対する負荷時曲率の変化量は、脊椎骨間の隙間の変化に起因するので、隙間の変化量が得られる。変化量が得られれば、この変化量を用いて椎間板に対する負荷の変化を推定することができるのである。なお、上記隙間の変化量は、負荷時曲率を標準曲率で除せば,変化量を無次元化した値として表すことができる.
【0044】
しかも、脊柱の形状を曲線で近似しており、しかも、この曲線の関数を最小2乗法を用いて求めているので、個々の脊椎骨における位置の測定の精度が低くても、基準曲率に対する負荷時曲率の変化量をある程度の高い精度で推定することができる。
【0045】
なお、上記のごとき方法によって得られる標準曲率および負荷時曲率と、上述した基準姿勢(無負荷姿勢)の基準脊柱モデルとを用いれば、脊椎骨間の隙間の変化も把握することができる。よって、基準脊柱モデルにおける椎間板に対する負荷から、負荷測定姿勢における椎間板に対する負荷を直接推定することも可能である。
【0046】
また、上記例では腰椎の形状を推定する場合を説明したが、上記方法は腰椎の部分に限らず、脊柱の他の部分についても適用することができる。
また、腰椎部分の形状や脊柱の他の部分の形状を近似する関数は2次関数に限られず、円弧でもよいし、より多くのマーカーMの座標点(例えば、6個以上)を用いる場合には、次数を増加させた関数によって形状を表してもよい。
【0047】
(脊柱の曲率変化を算出する具体的方法の説明)
つぎに、各マーカーMの座標点に基づいて、曲線近似により脊柱の曲率を算出し、その曲率変化を求める具体的方法を説明する。
以下では、選択した脊椎骨に円をフィットさせて曲率半径を推定する方法(円弧フィット)と、2次曲線などによってカーブフィットする方法を採用することができる。
【0048】
(円弧フィット)
まず、円弧フィットにより脊柱の曲率を算出する方法を説明する。
【0049】
図7において、符号rは、脊椎に(図1では腰椎部分)の形状にフィットする円弧の曲率半径を示している。
また、符号θは、解析に採用する複数のマーカーM(図7では5個)のうち、もっとも距離の離れたマーカーM間(以下、両端のマーカーM間)の部分を円弧とする扇形の中心角を示している。
【0050】
(θの算出)
まず、撮影された画像に基づいて計測された、両端のマーカーM間の距離をmとする。すると、以下の関係が成り立つので、中心角θを算出することができる。
【数2】

【0051】
(曲率半径rの推定)
つぎに、撮影された画像から得られるマーカーMの座標に基づいて、曲率半径rを算出することができる。
具体的には、撮影手段10が撮影した画像を解析して得られるマーカーMの位置データから、その姿勢における曲率半径rを、最小2乗法を用いて次式のような円弧の式(3)により求めることができる。
【数3】

ここで、x,yは、上述した3次元動作解析により得られた、各マーカーMの2次元の座標である。
【0052】
なお、マーカーMが3〜5個あれば曲率半径rは算出できる。しかし、最小2乗法によって曲率半径rを算出する際、より多くのマーカーMの情報を用いれば、算出される曲率半径rの誤差を平均化することができる。
一方、曲率半径rの算出に使用するマーカーMの数が少なければ、算出される曲率半径rの誤差は大きくなるが、局所的な曲率半径rの値を得ることができる。
【0053】
(隙間算出)
中心角θと曲率半径rがわかれば、以下のような方法で、椎間板の位置におけるマーカーMが取り付けられている椎骨間の距離を求めることができる。
なお、以下において、円弧とは、椎間板の位置を通る円弧、つまり、椎間板の中心を通る円(図7ではC1が相当する)の一部を意味している。つまり、円C1において、もっとも距離の離れたマーカーMが取り付けられている椎骨間に位置する円弧を意味しており、符号lはその円弧の長さを示している。(図7参照)。
【0054】
円弧の長さlは、円弧が外に凹の場合(図7の状態)では以下の式(4)により、また、円弧が外に凸の場合には以下の式(5)によりで表すことができる。
【数4】

【0055】
なお、上記式において、dは各マーカーM中心から椎骨ジョイント部までの距離、eは椎骨ジョイント部から椎間板の位置までの距離である(図7参照)。距離d、距離eとも、事前に把握できる値であるから、距離d,eがわかれば、円弧の長さlは簡単に計算することができる。例えば、距離d、距離eは、レントゲン撮影により求めてもよいし、統計的な数値を使用してもよく、とくに限定されない。
【0056】
ここで、椎間板に負荷がかかっていない無負荷の状態(つまり基準姿勢)での円弧の長さlをlとし、測定した状態(つまり負荷測定姿勢)での円弧の長さlとする。すると、両者の差Δl(式(6))は全ての隙間の変化量が合算されたものになる。つまり、差Δlは、基準姿勢から負荷測定姿勢に姿勢が変化したときにおける腰椎系全体としての隙間変化量を表しているから、姿勢が変化したときにおける平均均な隙間変化に比例した量、言い換えれば、全隙間の変化量の平均に比例した量であると考えられる。
【数5】

【0057】
そして、差Δl(隙間の変化)が把握されると、椎間板に加わる負荷pを差Δlの関数として評価することは可能である。
【0058】
例えば、椎間板の負荷が隙間変化に線形であると仮定すれば、負荷pは椎間板のばね定数を乗じたもので表現できるから、以下の式で求めることができる。なお、符号kは、差Δlに対する個々の被験者における椎間板のばね定数と等価なばね定数である。
【数6】

【0059】
ここで、直立の立位等の標準姿勢における負荷や差Δlを添え字sをつけて表現する。かかる標準姿勢は静止状態であるので、ばね定数kのみを用いて、静止状態の負荷は以下の式(8)で表すことができる。
【数7】

【0060】
そして、標準姿勢から負荷測定姿勢に姿勢を変更したときにおける負荷pは、静止状態の負荷pによって正規化すると以下の式(9)で表現することができる。なお、ρは、正規化された負荷である。
【数8】

【0061】
(ジョイント部の長さ変化)
また、標準姿勢から負荷測定姿勢に姿勢を変更した際に、脊椎骨におけるジョイント部が弾性変形すれば,腰椎系が全体的に圧縮され脊椎骨間の隙間も狭くなるので、ジョイント部が弾性変形したことによる負荷も椎間板に加わる。つまり、脊椎骨におけるジョイント部が弾性変形した場合には、脊柱の曲率変化に起因して椎間板に加わる負荷に加えて、ジョイント部が弾性変形したことに起因して椎間板に加わる負荷も求めなければならない。よって、椎間板に加わる負荷pを正確に算出するには、姿勢変更の際に、ジョイント部が変形するか否かを把握する必要がある。
このジョイント部の変形は、以下の方法により確認することができる。
【0062】
まず、図7に示すように、ジョイント部の長さをLとすると、円弧が外に凹の場合には、ジョイント部の長さLは以下の式(10)により、また、円弧が外に凸の場合には、ジョイント部の長さLは以下の式(11)であらわすことができる。
【数9】

【0063】
このジョイント部の長さLの値を調べれば、ジョイント部の変形の様子を把握することができ、ジョイント部の変形をも考慮した負荷pを算出できるので、負荷pの算出精度を高くすることも可能である。
【0064】
(ジョイント部の変形を無視できる場合)
姿勢を変更した場合において、各姿勢におけるジョイント部の長さLは式(12)で表現することができる。なお、rおよびθは、各姿勢での曲率半径および中心角を示している。
【数10】

【0065】
ここで、ある異なる2つの姿勢におけるジョイント部の長さL,Lが、L=Lであれば、以下の式(13)〜(15)が成立する。
【数11】

【0066】
そして、あらゆる異なる2つの姿勢の組み合わせからdを計算しても、dの値にあまり変化がないのであれば、マーカーMからdだけはなれた位置におけるジョイント部の長さLは、姿勢が変化してもその長さはほとんど変化しないことになる。つまり、姿勢が変化した場合におけるジョイント部の長さLの変化を無視することができる。
【0067】
ジョイント部の長さLの変化を無視することができるのであれば、円弧が外に凹の場合(図7の状態)では以下の式(16)により、また、円弧が外に凸の場合には以下の式(17)によりで表すことができる。
【数12】

【0068】
すると、この式(16)や式(17)によって得られる中心角θの値を式(4)に代入すれば、円弧の長さlを計算でき、円弧の長さlから差Δlや負荷pが算出できる。つまり、マーカーM間の距離mを計測しなくてもよくなるから、測定が容易なるし、円弧の長さl等の算出精度を高くすることができる。
【0069】
なお、上述したようなジョイント部の長さLの変化を無視することができる状態としては、例えば、被験者が重量を持たない場合をあげることができる。かかる場合であれば、ジョイント部が十分剛でなく弾性変形する場合でも,弾性変形の影響は小さいと考えられるので、弾性変形を無視することができる。
【0070】
(速度の影響)
また、負荷pが、椎骨間の隙間だけでなく、椎骨間の隙間が変化する速度の影響を受ける場合には、以下の式(18)で負荷pを表現することができる。ただし、cは、個々の被験者における椎間板の減衰定数と等価な減衰定数であり、αはc/kである。
【数13】

【0071】
また、隙間変化の速度は、外に凹の場合であれば、上記式(4)を時間で微分した以下の式(19)から計算できる。
【数14】

【0072】
そして、標準姿勢から負荷測定姿勢に姿勢を変更したときにおける負荷pは、速度の影響がある場合でも、静止状態の負荷psによって正規化すると以下の式(20)で表現することができる。なお、ρは、正規化された負荷である。
【数15】

【0073】
なお、負荷pが椎骨間の隙間だけでなく椎骨間の隙間が変化する速度の影響を受ける場合には、曲率半径rや曲率半径が変化する速度が必要となるが、これらの値は各姿勢における計測から推定して得られる。
一方、α、つまり、ばね定数や減衰係数は、被験者ごとに求めることができれば好ましいが、被験者の値を計測することが困難であれば、公表されたデータを用いるなど、別途定数を準備すればよい。
【0074】
(2次関数あるいは3次関数によるフィット)
上述した例では、腰椎部分の形状を円弧でフィットする場合について示したが、以下では、2次関数あるいは3次関数でフィットさせる場合を説明する。
円弧の場合には、静止座標系でカーブフィットすればよいが、2次関数あるいは3次関数の場合には、図3に示すように局所座標系への座標変換が必要である。
【0075】
具体的には、両端のマーカーMの座標を結ぶ直線を水平座標Yとし、両端のマーカーMのいずれか一方の点を原点とする局所座標系(X−Y座標系)へ座標変換したのち、カーブフィットを行う。
【0076】
局所座標系における2次関数あるいは3次関数を以下の式(21)であらわすことができ、得られた関数の2階微分(式(22))から円弧の場合と同様の手順で負荷を推定することができる。
【数16】

【0077】
微小変形理論を用いた梁の曲げ変形に関する理論でも示されているように、曲率半径rと上記2階微分との間には、近似的に以下の式(23)関係があることが知られている。
【数17】

【0078】
したがって、得られた2階微分より曲率半径rを求めれば、円弧フィットの場合と同様の手順で正規化した負荷ρが推定できる。
【0079】
なお、腰椎部分の形状や脊柱の他の部分の形状を近似する関数として、上記例では2次関数を用いたが、3次関数を用いてもよい。2次関数を用いた場合には、2階微分係数が定数になるので円弧の場合と同様、系全体の平均的な負荷が得られる。一方、3次関数を用いた場合には、微分係数が定数にならないので、負荷が場所の関数として得られるという利点がある。
【0080】
(マーカーMの取付方法の他の例)
また、各脊椎骨にマーカーMを一つだけ設け、各マーカーMの移動によって脊椎骨の移動を代表させてもよいが(図2(B)参照)、脊椎骨を剛体と見なせば、以下の方法を採用することによって脊椎骨の3次元的な移動を正確に把握することができる。
【0081】
剛体は、その一部の変位が把握できれば残りの部分の動きを決定することができ、その動きは、1点の変位(x軸、y軸、z軸の各方向)と回転(x軸、y軸、z軸の各軸周りの回転)がわかれば決定することができる。そして、1つの剛体について任意の3点の変位がわかれば,任意の1点の変位および回転の6自由度の値を他の3点の変位から求めることができる。しかも、剛体はその3点の3次元座標を与えれば,あとのすべての部分の座標は決定することができる。
よって、各脊椎骨についてそれぞれマーカーを3点設ければ、画像情報に基づいて各脊椎骨の3次元的な動きを推定することも可能である。
【0082】
(傾斜計と距離計を用いる場合)
また、上述した方法では、マーカーMを背中に取り付け、このマーカーMを撮影することによって脊柱の変形を算出した。
しかし、マーカーMを使用せず、人体に取り付けられる傾斜計と、この傾斜計の間の距離を計測する距離計の組み合わせても、脊柱の変形を把握することができる。
【0083】
この方法を用いた場合には、上述したようなマーカーMおよび撮影手段を用いる場合に比べて、ウエアラブルなセンサシステムとすることができる。つまり、人が傾斜計と距離計を備えた装置を身につけるだけで簡単に脊柱の変形を測定することが可能となる。すると、脊柱の変形を測定できる場所や条件の制約が少なくなるので、好適である。
例えば、装置が、人体と密着させることができるような部材(例えば、衣類(例えば、体にフィットするような衣類等)や、椅子の背もたれ等)を備えていれば、かかる部材に傾斜計を設けておけば、簡単に脊柱の変形を測定することが可能となるのである。
【0084】
以下では、傾斜計と距離計の組み合わせにより脊柱の変形を測定する構成について説明する。
【0085】
図8に示すように、2つの傾斜計31を、人体の脊柱に沿った方向で離間した位置に取り付ける。このとき、2つの傾斜計31は、体を伸ばした状態から、体を前後に曲げたときに、体を伸ばした状態の軸方向(例えば、直立姿勢であれば鉛直方向)に対する傾斜計31の傾斜を検出できるように配置する。
図示しないが、距離計は、2つの傾斜計31間の距離mが測定できるように配置する。
なお、傾斜計や距離計には、市販されているものを使用することができ、例えば、傾斜計であれば、ウアエラブルな姿勢センサであってジャイロセンサと加速度計と地磁気センサ(それぞれ3軸)を組み合わせたものなどを使用することが可能である。
また、距離計には、接触型であれば、差動トランスを用いた変位計,非接触型であれば、レーザ変位計や超音波変位計などを使用することが可能である。
【0086】
上記のごとく2つの傾斜計31を配置した状態において、上述した軸方向に対する2つの傾斜計31の鉛直方向あるいは水平方向からの傾きをφ、φとする(図8(B))。
すると、図8のように、脊柱が外に凸となっている状態では、θは、φ、φを用いて、以下の式(24)、(25)で表すことできる。
【数18】

【0087】
したがって、上記式から、以下の式(26)、(27)の関係が成立する。
【数19】

【0088】
つまり、2つの傾斜計31の軸方向からの傾きφ、φと、2つの傾斜計31間の距離mとが測定できれば、脊柱にフィットする円弧の曲率半径rと中心角θを得ることができる。
そして、脊柱にフィットする円弧の曲率半径rと中心角θが得られれば、円弧フィットの場合と同様の方法により、椎間板の変形および負荷を求めることができる。
【0089】
(その他)
なお、上述した梁モデルに基づく方法を採用する場合には、標準姿勢における状態からの変形を算出するので、試験開始時に標準姿勢での撮影を行う場合には、基準脊柱モデルは必ずしも必要ないので、基準脊柱モデル記憶部30は設けなくてもよい。
【0090】
(剛体マルチボディシステムに基づく方法)
また、マーカーMの3次元位置情報を入力として、数値解析によって脊柱の変形を算出してもよい。この場合、脊椎骨と椎間板とを有する脊柱モデルを作成して、この脊柱モデルの変形を、脊柱の変形として算出する。例えば、剛体の脊椎骨がピン結合され、かつ隣接する脊椎骨間に柔軟性を有する椎間板が配置された脊柱モデルを作成する。この脊柱モデルに対する強制変位入力として各マーカーMの3次元位置情報を使用すれば、数値シミュレーションによって測定された各姿勢における脊柱モデルの変形を求めることができる。そして、数値シミュレーションによる解析では、各脊椎骨の位置を個別に算出することができるので、各脊椎骨間の隙間を個別に算出することができる。
【0091】
すると、基準姿勢(無負荷時)における各脊椎骨間の隙間等の情報(基準脊柱モデルにおける各脊椎骨間の隙間等の情報)と、算出された各姿勢に各脊椎骨間の隙間等を用いれば、各姿勢における脊椎骨間の隙間が、基準姿勢における各脊椎骨間の隙間からどれだけ、また、どのように変化したかについて算出することができる。
【0092】
そして、基準姿勢に対する各姿勢における各脊椎骨間の隙間等の変形と椎間板の物性などから、有限要素法などを用いて、各脊椎骨間に位置する椎間板について、個別に歪,歪速度を推定することも可能であるし、各脊椎骨間に位置する椎間板に加わる応力や反力を絶対値として求めることも可能である。
【0093】
また,基準姿勢における位置から脊椎骨同士がどの程度相対的に回転したかを算出できるので、椎間板にねじりが加わった場合でも、椎間板に加わる負荷として、ねじれモーメントを絶対値として求めることも可能である。
【実施例】
【0094】
本発明の椎間板負荷測定方法によって、被験者(3名)の椎間板負荷を推定し、その結果を、椎間板内圧を直接測定したNachemsonの実験結果と比較した。
【0095】
本実施例では、Nachemsonの実験と同様の姿勢を再現して、各姿勢において、被験者の背中に貼り付けたマーカーの位置座標を計測した(図4(A))。そして、得られた計測結果を用いて、基準姿勢(図4(B)(a)の姿勢)に対する各姿勢における腰椎の曲率の変化量比を算出した。
【0096】
実験した各姿勢は、以下のとおりである(図4(B))。
(a) 立位と座位の中で最も腰椎への負担が小さいとされている姿勢
(b) (a)から上半身を20度前に倒した姿勢
(c) 背もたれの無い椅子に真っ直ぐに座った姿勢
(d) (b)から上半身を20度前に倒した姿勢
【0097】
本実施例では、マーカーは、被験者の背中における第1腰椎〜第5腰椎について、各腰椎の上部にそれぞれ一つずつ貼り付けた。
マーカーの位置座標の計測には、Hawk digital Camera(HWK-200RT: Motion Analysis社製)を6台用いて、一画像に全てのマーカー(5個)が入るように撮影を行った。各マーカーの座標点の算出には、市販の解析ソフトであるEva RT 5.0.4Ρost Ρrocessing(Motion Analysis社製) を用いた。
【0098】
また、Nachemsonが行った実験の測定箇所(第3腰椎、第4腰椎間の椎間板内圧)と対応させるために、各姿勢における曲率の変化量比は、第3腰椎と第4腰椎との間の位置における曲率の変化量比を算出した。
なお、各姿勢における曲率の変化量比は、基準姿勢(図4(B)(a)の姿勢)を100とし、この基準姿勢に対する相対的な変化量比として表している。
【0099】
以下、図5に基づいて、結果を示す。
図5(A)に示すように、数値誤差はあるものの、被験者全員について、全体の傾向は、Nachemsonの実験結果に類似していることが確認できる。このことから本発明の方法は、各姿勢における椎間板に掛かる負荷の計測に有効である考えられる。
【0100】
また、図5(B)は、被験者が、図4(B)(a)の状態から、6秒間掛けて前方に上体を倒すように姿勢を変化させた場合における変化量の比を示したものであるが、図5(B)に示すように、被験者の上体が前方に傾いて行くに従って変化量比が増加していることが確認できる。つまり、本発明の方法は、運動中における椎間板に掛かる負荷の計測にも適応できると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明の椎間板負荷の測定方法は、椎間板ヘルニアの原因究明や予防法、治療法を検討する際に非常に有用な情報となる椎間板への負荷を求める方法として採用することができる。
【符号の説明】
【0102】
1 椎間板負荷測定装置
10 撮影手段
20 解析手段
21 変形解析部
25 負荷推定部
M マーカー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体の動作に起因して椎間板に加わる負荷を推定する方法であって、
所定の姿勢の被験者の背中を撮影し、
この撮影によって得られた画像情報に基づいて脊椎骨の位置情報を算出し、
該脊椎骨の位置情報に基づいて脊柱の変形を算出し、
算出された脊柱の変形に基づいて、椎間板に加わる負荷を推定する
ことを特徴とする椎間板負荷の測定方法。
【請求項2】
前記脊柱の形状を、
測定された脊椎骨の動作から算出される脊椎骨の位置情報に基づいて曲線近似によって算出し、
前記脊柱の変形を、
基準姿勢における被験者の脊柱の形状と、
基準姿勢から姿勢を変更したときにおける脊柱の形状と、に基づいて算出する
ことを特徴とする請求項1記載の椎間板負荷の測定方法。
【請求項3】
脊柱を構成する各脊椎骨を剛体としかつ隣接する脊椎骨間に柔軟性を有する椎間板が配置された脊柱モデルであって、基準姿勢における被験者の脊柱の形状に基づいて形成される基準脊柱モデルを使用し、
前記脊柱の変形を、
基準姿勢から姿勢を変更したときに測定された被験者の脊椎骨の動作を強制変位入力として、基準脊柱モデルの変形を解析して求める
ことを特徴とする請求項1記載の椎間板負荷の測定方法。
【請求項4】
前記基準姿勢が、椎間板に負荷が加わらない姿勢である
ことを特徴とする請求項2または3記載の椎間板負荷の測定方法。
【請求項5】
人体の動作に起因して椎間板に加わる負荷を推定する装置であって、
被験者の体表面における脊椎骨の後端と対応する位置に取り付けられた複数のマーカーと、
該複数のマーカーを撮影する撮影手段と、
該撮影手段が撮影した画像を解析する解析手段とからなり、
該解析手段は、
前記撮影手段が撮影した画像に基づいて脊椎骨の位置情報を算出し、算出した脊椎骨の位置情報に基づいて脊柱の変形を算出する変形解析部と、
該変形解析部によって算出された脊柱の変形に基づいて、椎間板に加わる負荷を推定する負荷推定部とからなる
ことを特徴とする椎間板負荷の測定装置。
【請求項6】
前記変形解析部は、
前記脊椎骨の位置情報に基づいて曲線近似によって算出し、
前記脊柱の変形を、
基準姿勢における被験者の脊柱の形状と、
基準姿勢から姿勢を変更したときにおける脊柱の形状と、に基づいて算出する
ことを特徴とする請求項5記載の椎間板負荷の測定装置。
【請求項7】
前記解析手段は、
脊柱を構成する各脊椎骨を剛体としかつ隣接する脊椎骨間に柔軟性を有する椎間板が配置された脊柱モデルであって、基準姿勢における被験者の脊柱の形状に基づいて形成される基準脊柱モデルを記憶する基準脊柱モデル記憶部を備えており、
前記変形解析部は、
前記基準脊柱モデルを用いて、前記基準姿勢から姿勢を変更したときに測定された被験者の脊椎骨の動作を強制変位入力として、前記基準脊柱モデルの変形を解析して求めるものである
ことを特徴とする請求項5記載の椎間板負荷の測定装置。
【請求項8】
前記基準姿勢が、椎間板に負荷が加わらない姿勢である
ことを特徴とする請求項6または7記載の椎間板負荷の測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図7】
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【図8】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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