説明

検体と加え液を混合した混合検体から液状成分を分離するための分離構造

【課題】 本発明は検体と加え液を混合した混合検体から液状成分を分離する分離構造であって、長い時間を要する自然落下を利用せず、検体と加え液を混合した混合検体から液状成分を分離する時間を短縮し、且つ分離時に検体に加圧又は減圧を生じさせないことを課題とする。
【解決手段】 検体と加え液を混合した混合検体を入れるための貯留室と、その混合検体から分離した液状成分を入れるための採取室を有し、貯留室と採取室はフィルターを介して連通しており、貯留室及び採取室内にそれぞれピストンが装着され、両ピストンは同時に同方向へ移動するように連結装置によって連結されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は比較的微量の検体に加え液を加えて混合し、液状成分を分離するための分離構造に係り、主に血液から血漿を分離するために用いられる。
【背景技術】
【0002】
従来の血液成分分離構造は、血液成分と化学物質を含む溶液とを混合するための手段と、血液成分から主に血漿成分を分離するための分離手段を有し、且つ前記混合するための手段と前記分離手段とを接続するための連結手段を有し、血液成分を自然落下によりフィルターを通して血漿成分を分離するものが存在する。さらに必要に応じて加圧または引圧を生じさせる駆動手段を有し、迅速に血漿成分を分離するものも存在している(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2003−149234号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は検体と加え液を混合した混合検体から液状成分を分離する時間を短縮し、且つ分離時に検体に加圧又は減圧を生じさせないことを課題とする。前述したように、従来の分離構造は血液成分を自然落下によりフィルターを通して血漿成分を分離している。しかし、自然落下による分離は非常に時間がかかるという欠点がある。その欠点を克服するために、加圧または引圧を生じさせる駆動手段を利用して分離時間を短縮するものが存在している。しかし、血液などの検体に加圧又は減圧を生じさせることは、正確な分析等の障害になる虞があり好ましいことではない。そこで本発明は、自然落下を利用せずに迅速に分離することができ、しかも検体に加圧又は減圧をほとんど生じさせない分離構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の請求項1は、検体と加え液を混合した混合検体を入れるための貯留室と、その混合検体から分離した液状成分を入れるための採取室を有し、貯留室と採取室はフィルターを介して連通しており、貯留室及び採取室にそれぞれピストンが装着され、両ピストンは同時に同方向へ移動するように連結装置によって連結されている構成である。
【0005】
請求項2は、採取室に入った液状成分が逆流して採取室から出ることを防止するための手段を備えている要素が請求項1に限定的に付加された構成である。請求項3は、連結装置が両ピストンの後端から室外に延びる連結部を室外で連結した要素が請求項1又は請求項2に限定的に付加された構成である。請求項4は、貯留室に装着された第一ピストンとフィルターの間の空間に混合検体を入れるための開口が設けられ、且つ第一ピストン移動時に前記開口から外気が流入し又は室内の空気が外気中に流出することを阻止するための手段を有する要素が請求項1乃至請求項3に限定的に付加された構成である。
【0006】
請求項5は、貯留室がシリンダーで構成され、そのシリンダーを分割して分離構造から取り外し再結合可能である要素が請求項1乃至請求項3に限定的に付加された構成である。請求項6は、両ピストンの断面積が同一である要素が請求項1乃至請求項5に限定的に付加された構成である。
【発明の効果】
【0007】
請求項1は、貯留室と採取室はフィルターを介して連通しており、貯留室及び採取室にそれぞれピストンが装着され、両ピストンは同時に同方向へ移動するように連結装置によって連結されている。両ピストンが連結されていないときは、貯留室に入っている混合検体をフィルターを通して採取室に送るために、まず採取室内の第二ピストンを引いて減圧する。そのときにフィルターで採取室と連通している貯留室も減圧されて貯留室内の第一ピストンがフィルター方向へ移動する。そして、第一ピストンは移動しながら混合検体をフィルターから採取室へと押出して液状成分が分離される。すなわち、第一ピストンをフィルター方向へ移動させるために減圧状態にするのである。このように、両ピストンが連結されていないときは、貯留室及び採取室を減圧するので検体も減圧されてしまうのである。これに対して請求項1は、前述したように両ピストンが連結されて同時に同方向へ移動する。したがって、採取室の第二ピストンを引いたときにそれと連結されている第一ピストンと同時に移動するので、第一ピストンを移動させるための減圧が不要である。また、第二ピストンと引いたときにその引いた容積分の空気が貯留室から送られて来るが、貯留室内の第一ピストンが移動して貯留室の容積を減じるので、貯留室及び採取室のいずれの室内でもほとんど減圧されないという効果を奏する。また、第二ピストンと引くと同時に第一ピストンが強制的にフィルター方向へ移動させられるので、液状成分の分離を迅速に行うことができる。
【0008】
請求項2は、採取室に入った液状成分が逆流して採取室から出ることを防止するための手段を備えており、そのままの状態で保存することができるから、液状成分をすぐに取り出す必要がなく取り扱いに便利である。請求項3は、連結装置は両ピストンの後端から室外に延びる連結部を室外で連結した構成である。したがって、室外の連結部を操作することによって第二ピストンを引くことができるから操作を容易に行うことができる。
【0009】
請求項4は、貯留室に装着された第一ピストンとフィルターの間の空間に混合検体を入れるための開口が設けられ、且つ第一ピストン移動時に前記開口から外気が流入し又は室内の空気が外気中に流出することを阻止するための手段を有する構成である。したがって、混合検体を開口から貯留室に入れ、空気の出入りを阻止することにより、簡単に液状成分の分離操作をすることができる。
【0010】
請求項5は、貯留室がシリンダーで構成され、そのシリンダーを分割して分離構造から取り外し再結合可能である構成である。したがって、請求項4のように開口を設けなくても、貯留室を構成するシリンダーを外して貯留室を開き、その開いた口から混合検体を入れることができる。混合検体を入れた後に再びシリンダーを取付けることにより、簡単に液状成分の分離操作をすることができる。
【0011】
請求項6は、両ピストンの断面積が同一である構成である。したがって、両ピストンは同方向へ同時に移動するように連結されているから、同断面積の両ピストンが同じ距離だけ移動することになり、第二ピストンによる容積の増加と、第一ピストンによる容積の減少が同一である。これにより、第二ピストンを引いたときに同時に第一ピストンが同じ距離を移動するので減圧を生じないという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に本発明を実施するための最良の形態について説明する。実施形態は、血液を希釈液で希釈した希釈血液から血漿を採取する分離構造に関する。図1に示すように貯留室1は貯留シリンダー2の中に形成され、図2に示すように採取室3は採取シリンダー4の中に形成される。両シリンダー2,4は一直線に連結されて連通しており、その境にフィルター5と逆止め弁6が介在している。貯留シリンダー2内に第一ピストン7が移動可能に装着されており、希釈血液を貯留室1内に入れるための開口8を塞がないように貯留シリンダー2の端部寄りに装着されている。第一ピストン7とフィルター5との間の空間が貯留室1であって、第一ピストン7の移動により広げたり狭くしたりすることができる。
【0013】
採取シリンダー4の中に第二ピストン9が装着されており、使用前にこの第二ピストン9の先端は逆止め弁6と密接している。したがって、当初、採取室3は存在せず、第二ピストン9を引くことによって採取室3が形成される。しかし本発明の採取室3はこのような構成に限定されるものでなく、当初から第二ピストン9をやや引いた状態にして、逆止め弁6と第二ピストン9との間に隙間を設けて当初から採取室3を形成しておくこともできる。
【0014】
第一ピストン7の後端から第一連結部17が貯留シリンダー2の外部に延び、U字形に曲がって採取シリンダー4の端部まで届いている。また、第二ピストン9の後端から第二連結部18が採取シリンダー4の外部に延び第一連結部17とピン19により結合している。したがって、第一ピストン7と第二ピストン9は連結部17,18により同時に同方向へ移動する。また、第一ピストン7と第二ピストン9の径は同一に形成されている。
【0015】
フィルター5の採取シリンダー4側に逆止め弁6が装着され、フィルター5で濾過された血漿が採取シリンダー4内に送られ逆流を阻止することができる。図3は逆止め弁6を拡大した正面図であり、ゴムやエラストマーなどの柔軟性のある材料で円板状に形成され、3つの透孔10が設けられている。周辺部11は固定されており周辺部11よりも内側の部分が撓むことになる。図3の紙面の裏側に通路12が存在しており、この通路12は透孔10よりも内側にあって透孔10と通路12が重なることはない。この状態で貯留室1に希釈血液を入れ、開口8を栓39で塞ぎ、第二ピストン9を紙面の手前側に引くと第一ピストン7も同時に移動して希釈血液を押し、フィルター5で濾過された血漿を採取室3に送り出す。この際、第一ピストン7を移動させるについて減圧する手段を用いず、連結部17によって強制的に移動させるので検体をほとんど減圧させることがない。逆止め弁6が撓むことによって血漿が採取室3に送り出されるので、逆止め弁6が撓むことによる反力で検体が加圧されるがほとんど無視できる程度である。採取室3内に採取された血漿を取り出す方法としては種々あるが、例えばピン19を抜き取り、採取シリンダー4の後端に螺合している蓋25を取り外すことによって血漿を取り出すことができる。
【0016】
また、逆止め弁6が撓むことによる加圧を避けるために逆止め弁を用いず、図4に示すような逆止め機能を有するフィルター部材13を用いることによって逆流を防止でき加圧も生じない。このフィルター部材13を用いるときは図1に示すフィルター5が不要であることは勿論である。フィルター部材13は細長い矩形に形成され、一方の端部寄りに孔14が形成され内部にフィルター15が設けられている。このフィルター部材13を摺動可能に貯留室1と採取室3との間に装着し、当初は通路12にフィルター15を合わせておき、血漿を分離した後でフィルター部材13を摺動してフィルター15を通路12から外し、シャッター部16を通路12に合わせることで通路12を遮断し逆流を防止できる。この場合、逆止め弁がなく、第一ピストン7で押出した空気及び希釈血液の合計容積と、第二ピストン9の移動によって広がる採取室3の容積が同じであるために減圧状態も加圧状態も生じることがない。
【0017】
さらに、図4に示すフィルター部材13に代えて図5に示す逆止め機能を有するフィルター部材20を用いることもできる。このフィルター部材20を用いるときも図1に示すフィルター5は不要である。フィルター部材20は円筒体21の胴部に孔22を形成し、その中にフィルター23が取付けられている。また、端部にレバー24が設けられている。フィルター部材20を回動可能に貯留室1と採取室3との間に装着し、当初は通路12にフィルター23を合わせておき、血漿を分離した後でレバー24を摘んでフィルター部材20を90度回動してフィルター23を通路12から外し、円筒体21の表面を通路12に合わせることで通路12を遮断し逆流を防止できる。この場合も逆止め弁がなく、第一ピストン7で押出した空気及び希釈血液の合計容積と、第二ピストン9の移動によって広がる採取室3の容積が同じであるために減圧状態も加圧状態も生じることがない。
【0018】
図6は、開口8を設けないで他の方法で希釈血液を貯留室1に入れる構造を示したものである。この構造は、貯留シリンダー2がネジ26で分割可能であり、分割分離された分割シリンダー27を下にして、この分割シリンダー27の中に希釈血液を入れて再びネジ26で貯留シリンダー2を1つに結合することによって希釈血液を貯留室1に入れることができる。
【0019】
図7は、血液の希釈容器40から希釈血液を貯留室1に入れる構成を示したものである。図7は希釈容器40と本発明の分離構造が結合した状態を示しているが、希釈容器40と分離構造は当初は結合されておらず、希釈容器40に血液を採取して希釈液で希釈した後に分離構造に結合されるものである。希釈容器40は、容器本体28と希釈液の封入体を兼ねる蓋29とから成り、容器本体28の底部に孔30が設けられ閉塞部35で塞がれている。容器本体28の上半部にはそれよりも面積の小さなプラスチック製受け皿32が取り付けられている。さらに細長い上向きのカッター33が受け皿32と一体に形成されている。
【0020】
蓋29の下面に希釈液の封入室38が設けられ防水シート31で希釈液が封入されている。蓋29を回動して容器本体28への螺合作業を開始すると蓋29が下降してカッター33が防水シート31に突き刺さり、さらに蓋29を回動させることによって防水シート31を破くことができる。血液を希釈して貯留室1に入れるためには、まず別体の希釈容器40を用意し、ランセットを用いて指等に針等を刺して得られた血液を受け皿32の上に落とし、次いで容器本体28の上に蓋29を被せて回動しながら防水シート31を破いて希釈液を受け皿32の上に流し、希釈された血液を容器本体28に流す。蓋29が容器本体28に完全に結合したときに希釈容器を逆さにするなどして血液と希釈液を混合する。混合が終了したときに図7に示すように希釈容器40を分離構造に嵌合又は螺合により取り付ける。この取付けの際に、カッター34が閉塞部35を破り、希釈された血液が通路36及び流入口37を通って貯留室1に流れ込む。なお、本発明において希釈血液を貯留室1に入れる構造あるいは他の構造について以上述べた実施形態に限定されないことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の希釈血液分離前の断面図
【図2】本発明の液状成分分離後の断面図
【図3】逆止め弁の正面図
【図4】逆止め機能を有するフィルター部材の斜視図
【図5】逆止め機能を有する他のフィルター部材の斜視図
【図6】本発明の他の実施形態の断面図
【図7】希釈容器を結合した本発明の断面図
【符号の説明】
【0022】
1 貯留室
2 貯留シリンダー
3 採取室
4 採取シリンダー
5 フィルター
6 逆止め弁
7 第一ピストン
8 開口
9 第二ピストン
10 透孔
11 周辺部
12 通路
13 フィルター部材
14 孔
15 フィルター
16 シャッター部
17 第一連結部
18 第二連結部
19 ピン
20 フィルター部材
21 円筒体
22 孔
23 フィルター
24 レバー
25 蓋
26 ネジ
27 分割シリンダー
28 容器本体
29 蓋
30 孔
31 防水シート
32 受け皿
33 カッター
34 カッター
35 閉塞シート
36 通路
37 流入口
38 封入室
39 栓
40 希釈容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体と加え液を混合した混合検体を入れるための貯留室と、その混合検体から分離した液状成分を入れるための採取室を有し、貯留室と採取室はフィルターを介して連通しており、貯留室及び採取室にそれぞれピストンが装着され、両ピストンは同時に同方向へ移動するように連結装置によって連結されていることを特徴とする分離構造
【請求項2】
採取室に入った液状成分が逆流して採取室から出ることを防止するための手段を備えている請求項1記載の分離構造
【請求項3】
連結装置は両ピストンの後端から室外に延びる連結部を室外で連結したものである請求項1又は請求項2記載の分離構造
【請求項4】
貯留室に装着された第一ピストンとフィルターの間の空間に混合検体を入れるための開口が設けられ、且つ第一ピストン移動時に前記開口から外気が流入し又は室内の空気が外気中に流出することを阻止するための手段を有する請求項1乃至請求項3記載の分離構造
【請求項5】
貯留室はシリンダーで構成され、そのシリンダーを分割して分離構造から取り外し再結合可能である請求項1乃至請求項3記載の分離構造
【請求項6】
両ピストンの断面積は同一である請求項1乃至請求項5記載の分離構造

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−105770(P2006−105770A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−292421(P2004−292421)
【出願日】平成16年10月5日(2004.10.5)
【出願人】(504330786)株式会社ヒポクラテス (2)
【Fターム(参考)】