説明

検体中の標的物質を分析するためのマイクロ総合分析システム

【課題】 分析用のチップの微細流路内での送液、反応およびその検出等を制御するための各種の装置から構成される分析制御系をより簡易且つコンパクトな構造にすること。
【解決手段】 一枚のチップの面方向における各位置に複数のマイクロポンプ12が設けられるとともに、その下流側に検査チップの微細流路へ連通させる流路開口15が設けられたマイクロポンプユニット11と、マイクロポンプ12の上流側に連結され、複数のマイクロポンプ12に対して駆動液を供給する駆動液タンクとから、コンパクトなポンプ機構を構成した。微細流路に複数の試薬が収容された検査チップと、マイクロポンプユニットとを、互いの流路開口が連結するように重ね合わせて接続し、マイクロポンプによって駆動液タンクからの駆動液を各試薬の上流へ供給して各試薬を下流へ押し出し、流路内で合流させて試薬を混合させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検体と試薬とを混合して反応させ該反応を検出する一連の微細流路が設けられた検査チップを用いて検体中の標的物質を分析するマイクロ総合分析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マイクロマシン技術および超微細加工技術を駆使することにより、従来の試料調製、化学分析、化学合成などを行うための装置、手段(例えばポンプ、バルブ、流路、セ
ンサーなど)を微細化して1チップ上に集積化したシステムが開発されている(特許文献
1)。これは、μ−TAS(Micro total Analysis System)、バイオリアクタ、ラブ・
オン・チップ(Lab-on-chips)、バイオチップとも呼ばれ、医療検査・診断分野、環境測定分野、農産製造分野でその応用が期待されている。現実には遺伝子検査に見られるように、煩雑な工程、熟練した手技、機器類の操作が必要とされる場合には、自動化、高速化および簡便化されたミクロ化分析システムは、コスト、必要試料量、所要時間のみならず、時間および場所を選ばない分析を可能とすることによる恩恵は多大と言える。
【0003】
各種の分析、検査ではこれらの分析用チップにおける分析の定量性、解析の精度、経済性などが重要視される。そのためにはシンプルな構成で、高い信頼性の送液システムを確立することが課題である。精度が高く、信頼性に優れるマイクロ流体制御素子が求められている。これに好適なマイクロポンプシステムおよびその制御方法を本発明者らはすでに提案している(特許文献2〜4)。
【特許文献1】特開2004−28589号公報
【特許文献2】特開2001−322099号公報
【特許文献3】特開2004−108285号公報
【特許文献4】特開2004−270537号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のミクロ化分析システムを用いる分析においては、分析用のチップの他に、例えばマイクロポンプ、検出装置、温度制御装置など、チップの微細流路内での送液、反応およびその検出等を制御するための各種の装置が必要になる。これらの装置による分析制御系を構築する際に、各構成要素の配置が複雑であったり、大きな場所を占有したりすることは望ましくない。
【0005】
本発明は、分析用のチップの微細流路内での送液、反応およびその検出等を制御するための各種の装置から構成される分析制御系をより簡易且つコンパクトな構造にすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のマイクロ総合分析システムは、流路内の各位置に予め収容された複数の試薬をその下流側で合流させて混合した後、この混合試薬と検体とを合流させて反応させ該反応を検出する一連の微細流路が設けられ、該微細流路における試薬が収容された位置よりも上流側にマイクロポンプへ連通させる流路開口が設けられた検査チップと、
試薬を上流側から押して検査チップの微細流路の下流方向へ送液する駆動液を収容した駆動液タンクと、
一枚のチップの面方向における各位置に複数のマイクロポンプが設けられ、それぞれのマイクロポンプの上流側が駆動液タンクへ連通され、その下流側に検査チップの微細流路
へ連通させる流路開口が設けられたマイクロポンプユニットと、を備え、
検査チップをマイクロポンプユニットに対してこれらの流路開口が重なるように接続した後、前記複数のマイクロポンプによって駆動液を検査チップの微細流路へ送液して前記複数の試薬を下流側へ押し出すことによりこれらの試薬を合流させて混合し、
その後、この混合試薬と検体とを合流させて反応させ該反応を検出することによって検体中の標的物質を分析することを特徴とする。
【0007】
好ましくは、マイクロポンプユニットにおける全てのマイクロポンプが1つの駆動液タンクに連通され、該駆動液タンクに収容された駆動液がそれぞれのマイクロポンプから検査チップの微細流路へ送液される。
【0008】
このように、各試薬を送液するための全てのマイクロポンプを1つのチップに配設し、分析時にこのチップと検査チップとを重ね合わせて互いの流路を連通させるようにしたので、検査チップ内の試薬を微細流路の下流へ押し出すポンプ機構をコンパクトな構造とすることができる。
【0009】
さらに、複数のマイクロポンプが駆動液タンクを共有でき、駆動液タンクとチップ状のマイクロポンプユニットとの接続には特別な配管、引き回しのチップ等は必要ないので、検査チップ内の試薬を微細流路の下流へ押し出すポンプ機構をコンパクトな構造とすることができる。
【0010】
本発明のマイクロ総合分析システムにおける好ましい態様では、2つ以上のマイクロポンプが検査チップの微細流路に収容された1つの試薬に連通され、これらのマイクロポンプからの駆動液が、マイクロポンプユニットに設けられた流路で合流され、合流された駆動液によって当該試薬が押されて微細流路の下流方向へ送液される。
【0011】
このように、マイクロポンプユニットのチップ内に、複数のマイクロポンプからの駆動液を下流側で合流させる流路を設けたので、複数の並列に配置されたマイクロポンプによって1つの試薬を送液することができる。
【0012】
例えば、複数の試薬のうち少なくとも1つの試薬に連通されるマイクロポンプの数と、他の試薬に連通されるマイクロポンプの数とを互いに相違させることによって、これらの試薬を合流させて混合した混合試薬におけるこれらの試薬の混合割合を相違させることができる。特に、ある試薬と他の試薬との混合比率が高い場合には、これらを単独のマイクロポンプで送液すると各マイクロポンプの駆動電圧を大きく相違させる必要があるが、並列に配置したマイクロポンプからの駆動液を合流させて1つの試薬を送液することで、各試薬を送液するマイクロポンプの駆動電圧を大きく相違させることなく高い混合比率で試薬を混合できる。
【0013】
本発明のマイクロ総合分析システムにおいて好ましく用いられるマイクロポンプは、
流路抵抗が差圧に応じて変化する第1流路と、
差圧の変化に対する流路抵抗の変化割合が第1流路よりも小さい第2流路と、
第1流路および第2流路に接続された加圧室と、
電圧によって駆動され該加圧室の内部圧力を変化させるアクチュエータと、
を備えている。
【0014】
本発明のマイクロ総合分析システムは、好ましくは、マイクロポンプユニットおよび駆動液タンクが1つの収納体に収納され一体化されたシステム本体と、前記検査チップと、から構成され、該検査チップをシステム本体に装着した状態で検体中の標的物質の分析が行われる。
【0015】
さらに好ましくは、システム本体が、
前記検査チップにおける反応を検出する検出処理装置と、
マイクロポンプユニットと検出処理装置とを制御する制御装置と、
を収納体の内部に備えている。
【発明の効果】
【0016】
本発明のマイクロ総合分析システムは、検査チップの微細流路内の各試薬を下流へ送液するためのポンプ機構が簡易且つコンパクトな構造である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
<検査チップ>
本発明で用いられる検査チップは、マイクロリアクタとして化学分析、各種検査、試料の処理・分離、化学合成などに利用されるように、各流路エレメントまたは構造部が、機能的に適当な位置に微細加工技術により配設されている。
【0018】
検査チップには、各試薬を収容するための複数の試薬収容部が設けられ、この試薬収容部には所定の反応に用いる試薬類、洗浄液、変性処理液などが収容される。これは、場所や時間を問わず迅速に検査ができるように、予め試薬が収容されていることが望ましいためである。
【0019】
検査チップは、例えば、流路等を構成するための溝を予め基板面に形成した溝形成基板と、この溝形成基板と密着される被覆基板とを用いて作製することができる。溝形成基板には、各構造部と、これらの構造部を連通させる流路が形成されている。このような構造部の具体例としては、各収容部(試薬収容部、検体収容部など)および廃液貯留部などの液溜部と、弁基部、送液制御部(後述する図7に示した撥水バルブ)、逆流防止部(逆止弁、能動弁など)、試薬定量部、混合部などの送液を制御するための部位と、反応部と、検出部と、を挙げることができる。被覆基板にもこのような構造部および流路が形成されていてもよい。溝形成基板に被覆基板を密着させてこれらの構造部および流路を覆うことにより検査チップが構成される。なお、検査チップ内における反応を光学的に検出する場合には、上記の構造部のうち少なくとも検出部は光透過性の被覆基板を密着させて覆う必要がある。また、3枚以上の基板を積層させて検査チップを形成することもある。
【0020】
検査チップは、通常は1以上の成形材料を適宜に組み合わせて作製される。検査チップの成形材料としては、例えば、プラスチック樹脂、各種の無機ガラス、シリコン、セラミックス、金属などが挙げられる。
【0021】
中でも、多数の測定検体、とりわけ汚染、感染のリスクのある臨床検体を対象とするチップに対しては、ディスポーサブルであることが望まれ、さらに多用途対応性、量産性などを具えることが望ましい点から、検査チップの成形材料としてプラスチック樹脂を用いることが好ましい。
【0022】
溝形成基板など流路を形成加工する基板では、吸水による流路の変形などが起こりにくく、微量の検体液が途中でロスすることなく送液されるように疎水性、撥水性のプラスチックが好ましい。このような材質には、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンビニルアルコール、ポリカーボネート、ポリメチルペンテン、フルオロカーボン、飽和環状ポリオレフィンなどの樹脂が例示される。中でもポリスチレンは、透明性、機械的特性および成型性に優れて微細加工がしやすく、溝形成基板の形成材料として好ましい。
【0023】
分析の都合により100℃近くに加熱する必要がある場合には、耐熱性に優れる樹脂、例えばポリカーボネート、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリベンツイミダゾール、ポリエーテルエーテルケトンなどが基板の材料として使用される。
【0024】
アナライトの検出を行う反応を進行させるために、マイクロリアクタの流路の所定箇所または反応部位を所望する温度まで加熱することが多い。加熱領域において局所的に加熱する温度は、通常100℃程度までである。他方、高温では不安定になる検体、試薬類を冷却する必要に迫られることもある。チップ内のそうした局所的な温度の昇降を考慮して、適切な熱伝導率の材料を選択することが望ましい。このような材質としては、樹脂材、ガラス材などを挙げることができ、熱伝導率が小さい材質でこれらの領域を形成することにより、面方向への熱伝導が抑制され、加熱領域のみ選択的に加熱することができる。
【0025】
蛍光物質または呈色反応の生成物などを光学的に検出するために、検査チップ表面のうち少なくとも微細流路の検出部位を覆う部分には、光透過性の部材を配置する必要がある。したがって、検出部位を覆う被覆基板の材料として、透明な材料、例えばアルカリガラス、石英ガラス、透明プラスチック類などが使用される。なお、このような光透過性の被覆基板が検査チップの上面全体を覆う形態であってもよい。
【0026】
マイクロリアクタとしての検査チップの流路は、基板上に目的に応じて予め設計された流路配置に従って形成される。液が流れる流路は、例えば、幅が数十〜数百μm、好ましくは50〜200μm、深さが25〜300μm、好ましくは50〜100μmに形成されるマイクロメーターオーダー幅の微細流路である。流路幅が狭まると流路抵抗が増大し、液の送出等に不具合が生じることがある。流路幅をあまり広くするとマイクロスケール空間の利点が薄まる。検査チップ全体の縦横のサイズは典型的には数十mm、その高さは数mm程度である。
【0027】
基板の各構造部および流路は、従来の微細加工技術によって形成することができる。典型的にはフォトリソグラフィ技術による感光性樹脂による微細構造の転写が好適であり、その転写構造を利用して、不要部分の除去、必要部分の付加、形状の転写が行われる。例えば、検査チップの構成要素を型どるパターンをフォトリソグラフィ技術により作製し、このパターンを樹脂に転写成形する。マイクロリアクタの微細流路を形成する基本的基板の材料には、サブミクロンの構造も正確に転写でき、機械的特性の良好なプラスチック樹脂が好ましく用いられる。中でもポリスチレン、ポリジメチルシロキサンなどは形状転写性に優れる。必要であれば、射出成形、押し出し成形などによって基板の各構造部および流路を形成する加工も行ってもよい。
【0028】
検査チップの微細流路における上流側、例えば試薬、検体等の各液を収容する収容部の上流側には、別途のマイクロポンプに接続するためのポンプ接続部が設けられる。ポンプ接続部には、上記の収容部に連通する流路開口が設けられており、この流路開口からマイクロポンプによって駆動液が供給され、各収容部の液が下流側へ押し出される。
【0029】
図3は、本発明のマイクロ総合分析システムの1つの実施形態における検査チップの平面図である。この検査チップ2には、試薬収容部33a,33b,および33cの計3つの流路に3種類の試薬が収容されている。これらの試薬収容部の両端部(試薬収容部33aでは上流側の端部34aおよび下流側の端部34b)には、図7に示した構造の送液制御部(撥水バルブ)が設けられ、これらの撥水バルブの間の流路に試薬が封入されている。
【0030】
図7は、送液制御部(撥水バルブ)の断面図である。送液制御部51は、細径の送液制
御通路52を備えている。送液制御通路52は、その断面積(流路に対して垂直な断面の断面積)が、上流側の流路53aおよび下流側の流路53bの断面積よりも小さくなっている。
【0031】
流路壁がプラスチック樹脂などの疎水性の材質で形成されている場合には、送液制御通路52に接する液54は、流路壁との表面張力の差によって、下流側の流路53bへ通過することが規制される。
【0032】
下流側の流路53bへ液54を流出させる際には、マイクロポンプによって所定圧以上の送液圧力を加え、これによって表面張力に抗して液54を送液制御通路52から下流側の流路53bへ押し出す。液54が流路53bへ流出した後は、液54の先端部を下流側の流路53bへ押し出すのに要する送液圧力を維持せずとも液が下流側の流路53bへ流れていく。すなわち、上流側から下流側への正方向への送液圧力が所定圧力に達するまで送液制御通路52から先への液の通過が遮断され、所定圧以上の送液圧力が加わることにより液54は送液制御通路52を通過する。
【0033】
流路壁がガラスなどの親水性の材質で形成されている場合には、少なくとも送液制御通路52の内面に、撥水性のコーティング、例えばフッ素系のコーティングを施す必要がある。
【0034】
なお、詳細な説明は省略するが、図3の検査チップ2の微細流路には、試薬収容部33a〜33cの両端部以外の位置にも図7の送液制御部51が設けられており、例えば、試薬混合部36と検体収容部37における合流部38側の端部などにもこの送液制御部が設けられて、その先の流路への送液開始のタイミングを制御している。
【0035】
図3の試薬収容部33a〜33cの上流側には、検査チップ2の一方の面から外部へ開放された開口32c〜32eが設けられている。これらの開口32c〜32eは、検査チップ2を後述するマイクロポンプユニットに重ね合わせて接続した際に、マイクロポンプユニットの接続面に設けられた流路開口と位置合わせされてマイクロポンプに連通される。
【0036】
なお、開口32a,32bおよび32f〜32jも同様に、検査チップ2とマイクロポンプユニットとの接続によってマイクロポンプに連通される。これらの開口32a〜32jを含むチップ面によってポンプ接続部31が構成され、ポンプ接続部31をマイクロポンプユニットの接続面に密着させることによって検査チップ2とマイクロポンプユニットとが接続される。ポンプ接続部31は、必要なシール性を確保して駆動液の漏出を防止するために、ポリテトラフルオロエチレン、シリコーン樹脂などの柔軟性(弾性、形状追随性)をもつ樹脂によって密着面が形成されることが好ましい。このような柔軟性を有する密着面は、例えば検査チップの構成基板自体によるものであってもよく、また、ポンプ接続部における流路開口の周囲に貼着された柔軟性を有する別途の部材によるものであってもよい。
【0037】
流路33a〜33cに収容された試薬は、開口32c〜32eに連通するそれぞれ別途のマイクロポンプによって、図7の送液制御部51を通過して合流部35へ流れ込み、その先に続く流路である試薬混合部36で3種類の各試薬が混合される。
【0038】
試薬混合部36で混合された混合試薬は、検体収容部37に収容された検体と合流部38で合流する。なお、混合試薬は開口32bに連通したマイクロポンプによって駆動液で下流へ押し出され、検体は開口32aに連通したマイクロポンプによって駆動液で下流へ押し出される。混合試薬と検体との混合液は、反応部39へ収容され加熱等によって反応
が開始される。
【0039】
反応後の液は、検出部40へ送液され、例えば光学的な検出方法などによって標的物質が検出される。なお、開口32f〜32jに連通するそれぞれ別途のマイクロポンプによって、これらの開口から先の流路に予め収容された各試薬(例えば混合試薬と検体との反応を停止させる液、検出対象の物質に対して標識などの必要な処理を行うための液、洗浄液など)を所定のタイミングで下流へ押し出して送液するようにしている。
<マイクロポンプユニット>
図1は、本発明のマイクロ総合分析システムの1つの実施形態におけるマイクロポンプユニットの斜視図、図2はその断面図である。このマイクロポンプユニット11は、シリコン製の基板17と、その上のガラス製の基板18と、その上のガラス製の基板19との3つの基板から構成されている。基板17と基板18、および基板18と基板19はそれぞれ、陽極接合によって接合されている。
【0040】
シリコン製の基板17と、その上に陽極接合によって貼り合わされたガラス製の基板18との間の内部空間によってマイクロポンプ12(ピエゾポンプ)が構成されている。
基板17は、シリコンウエハをフォトリソグラフィ技術により所定の形状に加工したものである。例えば、シリコン基板面への酸化膜の形成、レジスト塗布、レジストの露光および現像、酸化膜のエッチング、ICP(高周波誘導結合型プラズマ、Inductively Coupled Plasma)などによるシリコンのエッチング等を含む微細加工によって、加圧室22、第1流路23、第1液室25、第2流路24、および第2液室26が形成されている。
【0041】
加圧室22の位置では、シリコン基板がダイヤフラムに加工され、その外側表面には、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)セラミックスなどからなる圧電素子21が貼着されている。
【0042】
このマイクロポンプ12は、圧電素子21への制御電圧によって次のように駆動される。印加された所定波形の電圧により圧電素子21が振動すると共に、加圧室22の位置におけるシリコンダイヤフラムが振動し、これによって加圧室22の体積が増減する。第1流路23と第2流路24とは、幅および深さが同じで、長さが第1流路23よりも第2流路24の方が長くなっている。第1流路23では、差圧が大きくなると、流路内で渦を巻くように乱流が発生し、流路抵抗が増加する。一方、第2流路24では、流路幅が長いので差圧が大きくなっても層流になり易く、第1流路23に比べて差圧の変化に対する流路抵抗の変化割合が小さくなる。
【0043】
例えば、圧電素子21に対する制御電圧を調整することにより、加圧室22の内部へ向かう方向へ素早くシリコンダイヤフラムを変位させて大きい差圧を与えながら加圧室22の体積を減少させ、次いで加圧室22からその外側へ向かう方向へゆっくりシリコンダイヤフラムを変位させて小さい差圧を与えながら加圧室22の体積を増加させると、駆動液は図2において右から左へ向かう方向へ逆方向に送液される。
【0044】
これとは反対に、加圧室22からその外側へ向かう方向へ素早くシリコンダイヤフラムを変位させて大きい差圧を与えながら加圧室22の体積を増加させ、次いで加圧室22の内部へ向かう方向へゆっくりシリコンダイヤフラムを変位させて小さい差圧を与えながら加圧室22の体積を減少させると、駆動液は同図の左から右へ正方向に送液される。
【0045】
なお、第1流路23と第2流路24における、差圧の変化に対する流路抵抗の変化割合の相違は、必ずしも流路の長さの違いによる必要はなく、他の形状的な相違に基づくものであってもよい。
【0046】
マイクロポンプ12による流量の制御は、圧電素子21に印加する電圧を調整することにより行うことができる。図8に圧電素子へ印加する駆動電圧の波形の一例を示した。圧電素子へ印加する最大電圧は、数ボルトから数十ボルト程度、最大で100ボルト程度である。一例として、時間t1は60μs程度、時間t2は20μs程度である。駆動電圧の周波数は11KHz程度である。
【0047】
圧電素子21の駆動のための2つの電極は、図示しないフレキシブル配線と接続される。シリコンダイヤフラムの表面に透明電極膜であるITO膜を形成し、ITO膜の上に接着剤で圧電素子21の片方の面を接着することによって、圧電素子21の片方の電極がITO膜と電気的に接続され、そのITO膜とフレキシブル配線とが接続される。また、圧電素子21の他方の面には金メッキが施され、その金メッキ部分にフレキシブル配線を直接に接続する。
【0048】
なお、マイクロポンプ12を形成する基板としてシリコン基板以外のものを用いてもよく、例えば感光性のガラス基板などを用いてもよい。
また、マイクロポンプとして、上記のピエゾポンプ以外のもの、例えば逆止弁型のポンプなどを設けてもよいが、本発明ではピエゾポンプを用いることが好ましい。
【0049】
シリコン製の基板17の上に積層されるガラス製の基板18,19としては、例えば、パイレックスガラス(PyrexはCorning Glass Warks社の登録商標)、テンパックスガラス(TempaxはSchott Glaswerk社の登録商標)などが用いられる。
【0050】
基板19には、流路20がパターニングされている。一例として、流路20の寸法および形状は、幅が150μm程度、深さが300μm程度の断面矩形状である。流路20の下流側には、図3の検査チップの開口32a〜32kに位置合わせすることによりマイクロポンプ12を検査チップの微細流路に連通させるための開口15が設けられている。開口15は、検査チップの開口との位置合わせを適切に行うために必要であれば、流路20の幅よりも大きいサイズとしてもよい。図示したように、マイクロポンプユニット11のチップ面における所望の位置に形成された開口15から駆動液を出すことができるので、検査チップ側において、駆動液を所定位置まで送液するための引き回し用流路を省略または低減することができる。
【0051】
流路20の上流側は、基板18の貫通孔16bを介して、基板17に設けられた流路を通りマイクロポンプ12に連通されている。また、マイクロポンプ12の上流側は、基板17に設けられた流路から基板18の貫通孔16aを介して、ガラス製の基板19に設けられた開口14に連通されている。この開口14は不図示の駆動液タンクに接続されている。開口14は、例えば、PDMS(ポリジメチルシロキサン)のパッキンを介して駆動液タンクに接続される。
【0052】
なお、このマイクロポンプユニット11はあくまでも一例であって、フォトリソグラフィ技術などによってマイクロポンプと、流路と、検査チップおよび駆動液タンクと連通させるための接続用開口とを形成した各種のマイクロポンプユニットを作製できる。例えば、マイクロポンプの構造をエッチングにより形成したシリコン基板、感光性ガラス基板等の上にガラス基板を積層し、その上にPDMSを貼り合わせ、さらにその上に、プラスチック、ガラス、シリコン、セラミックスなどからなり流路溝と上記の接続用開口とが形成された基板を貼り合わせることによってマイクロポンプユニットを構成することができる。
【0053】
図1では、1つの開口15から流路20を通じて1つのマイクロポンプ12によって駆動液を供給するようにしている。この場合、それぞれの開口15からの駆動液の送液量は
、各マイクロポンプ12に印加する駆動電圧によっても制御できるが、図6に示したように、サイズ、より具体的には、外側に圧電素子が接合されているポンプ室の大きさが異なるマイクロポンプ12a,12b,12cをそれぞれ設けることによっても制御することができる。
【0054】
この例では、マイクロポンプとしてピエゾポンプを用いている。開口15a,15b,15cはそれぞれ、図3の検査チップの開口32c,32d,32eと連通される(なお、図16ではマイクロポンプユニット全体のうち一部分のみ示している)。マイクロポンプ12aによって流路20a、開口15a、開口32cを通じて駆動液を送液して試薬収容部33aに収容された試薬を下流へ押し出し、マイクロポンプ12bによって流路20b、開口15b、開口32dを通じて駆動液を送液して試薬収容部33bに収容された試薬を下流へ押し出し、マイクロポンプ12cによって流路20c、開口15c、開口32eを通じて駆動液を送液して試薬収容部33cに収容された試薬を下流へ押し出す。
【0055】
サイズが小さいマイクロポンプ12aで試薬収容部33aに収容された試薬を下流へ押し出し、それよりもサイズが大きいマイクロポンプ12bで試薬収容部33bに収容された試薬を下流へ押し出し、それよりもサイズが大きいマイクロポンプ12cで試薬収容部33cに収容された試薬を下流へ押し出すことで、この順で混合比率が大きくなるように図3の試薬混合部36で各試薬が混合される。
【0056】
上記のように、検査チップの微細流路において検体と反応させる試薬は、通常は複数の試薬を混合した試薬であり、別個の試薬収容部に収容された各試薬を合流させて混合試薬としてから検体と合流させる必要があるが、試薬の混合比率を高くする必要がある場合には、同じ形状のマイクロポンプを用いると、各試薬を送液するそれぞれのマイクロポンプを駆動する電圧を大きく相違させなければならない。しかし、図6のように、それぞれの試薬を送液するマイクロポンプのサイズを変えることで、駆動電圧の差を小さくすることができる。
【0057】
図4は、本発明のマイクロ総合分析システムの他の実施形態におけるマイクロポンプユニットを示した斜視図である。本実施形態では、マイクロポンプ12a〜12dが流路20を通じて1つの開口15cに連通されている。
【0058】
試薬を押し出す駆動液は、開口15a,15b,15cから供給されるが、開口15a,15bからの駆動液は1つのマイクロポンプによって送液されるのに対し、開口15cからの駆動液は4つのマイクロポンプ12a〜12dによって送液される。これによって、開口15a,15bからの駆動液によって送液される各試薬と、開口15cからの駆動液によって送液される試薬との混合比率を変えることができる。これによって、高い混合比率で試薬を混合する場合であってもマイクロポンプを駆動する駆動電圧の差を小さくすることができる。
【0059】
マイクロポンプの数によって試薬の混合比率を制御する具体例を図5に示した(なお、同図ではマイクロポンプユニット全体のうち一部分のみ示している)。この例では、1つのマイクロポンプ12aが流路20aを経由して開口15aに連通され、3つのマイクロポンプ12b〜12dが流路20bを経由して開口15bに連通され、5つのマイクロポンプ12e〜12iが流路20cを経由して開口15cに連通されている。各マイクロポンプには同一形状のピエゾポンプを用い、各マイクロポンプに対する駆動電圧も同一としている。
【0060】
開口15a,15b,15cはそれぞれ、図3の検査チップの開口32c,32d,32eと連通される。マイクロポンプ12aによって流路20a、開口15a、開口32c
を通じて駆動液を送液して試薬収容部33aに収容された試薬を下流へ押し出し、マイクロポンプ12b〜12dによって流路20b、開口15b、開口32dを通じて駆動液を送液して試薬収容部33bに収容された試薬を下流へ押し出し、マイクロポンプ12e〜12iによって流路20c、開口15c、開口32eを通じて駆動液を送液して試薬収容部33cに収容された試薬を下流へ押し出す。
【0061】
1つのマイクロポンプ12aで試薬収容部33aに収容された試薬を下流へ押し出し、3つのマイクロポンプ12b〜12dで試薬収容部33bに収容された試薬を下流へ押し出し、5つのマイクロポンプ12e〜12iで試薬収容部33cに収容された試薬を下流へ押し出すことで、略1:3:5の混合比率で図3の試薬混合部36において各試薬が混合される。
<マイクロ総合分析システム>
検査チップは、例えば、別途のシステム本体に装着することにより反応と分析が行われる。このシステム本体と検査チップとによりマイクロ総合分析システムが構成される。このマイクロ総合分析システムの一例を以下に説明する。図9は、マイクロ総合分析システムの一例を示した斜視図、図10は、このマイクロ総合分析システムにおけるシステム本体の内部構成を示した図である。
【0062】
このマイクロ総合分析システム1のシステム本体3は、分析のための各装置を収納する筺体状の収納体62を備えている。この収納体62の内部には、検査チップ2に連通させるための流路開口を有するチップ接続部13と、複数のマイクロポンプ(図示せず)とが設けられたマイクロポンプユニット11が配置されている。
【0063】
さらに収納体62の内部には、検査チップ2における反応を検出するための検出処理装置(LED、光電子増倍菅、CCDカメラ等の光源68および、可視分光法、蛍光測光法などによる光学的な検出を行う検出器69)と、この検出処理装置とマイクロポンプユニット11とを制御する制御装置(図示せず)とが設けられている。この制御装置によって、マイクロポンプによる送液の制御、光学的手段等により検査チップ2における反応を検出する検出処理装置の制御の他、後述する加熱・冷却ユニットによる検査チップ2の温度制御、検査チップ2における反応の制御、データの収集(測定)および処理等を行う。マイクロポンプの制御は、予め送液順序、流量、タイミングなどに関する諸条件が設定されたプログラムに従って、それに応じた駆動電圧をマイクロポンプに印加することによって行う。
【0064】
このマイクロ総合分析システム1では、検査チップ2の微細流路の上流側(例えば試薬収容部、検体収容部などの上流側)に設けられた流路開口およびその周囲のチップ面からなるポンプ接続部31と、マイクロポンプユニット11のチップ接続部13とを液密に密着させた状態で検査チップ2を収納体62の内部に装着した後、検査チップ2において検体中の標的物質が分析される。検査チップ2は、搬送トレイ65に載置されてチップ挿入口63から収納体62の内部に導入される。しかし、検査チップがマイクロポンプユニットに対して加圧された状態で検査チップを収納体62の内部に固定できるのであれば、必ずしも搬送トレイを用いる必要はない。
【0065】
収納体62の内部には、所定位置に装着された検査チップ2を局所的に加熱もしくは冷却するための加熱・冷却ユニット(ペルチェ素子66、ヒーター67)が設けられている。例えば、検査チップ2における試薬収容部の領域にペルチェ素子66を圧接することにより試薬収容部を選択的に冷却し、これによって試薬の変質等を防止するとともに、反応部を構成する流路の領域にヒーター67を圧接することにより反応部を選択的に加熱し、これによって反応部を反応に適した温度にする。
【0066】
マイクロポンプユニット11は1つの駆動液タンク61に接続され、マイクロポンプの上流側はこの駆動液タンク61に連通している。一方、マイクロポンプの下流側は、マイクロポンプユニット11の片面に設けられた流路開口に連通されており、それぞれのマイクロポンプに連通したそれぞれの流路開口と、検査チップ2のポンプ接続部31に設けられたそれぞれの流路開口とが連結するように検査チップ2がマイクロポンプユニット11に対して接続される。
【0067】
マイクロポンプによって、駆動液タンク61に収容された鉱物油などのオイル系あるいは水系の駆動液を、ポンプ接続部13を経由して検査チップ2における各液の収容部に送り出し、駆動液によって各収容部の液を検査チップ2の下流側へ押し出して送液する。
【0068】
測定試料である検体の前処理、反応および検出の一連の分析工程は、マイクロポンプ、検出処理装置および制御装置とが一体化されたシステム本体1に、検査チップ2を装着した状態で行なわれる。好ましくは、試料および試薬類の送液、前処理、混合に基づく所定の反応および光学的測定が、一連の連続的工程として自動的に実施され、測定データが、必要な条件、記録事項とともにファイル内に格納される。図9では、分析の結果が収納体62の表示部64に表示されるようになっている。
【0069】
以下に、検査チップを用いた検体と試薬との反応およびその検出の具体的な例を示す。検査チップの好ましい一態様では、一つのチップ内において、
検体もしくは検体から抽出したアナライト(例えば、DNA、RNA、遺伝子)が注入さ
れる検体収容部と、
検体の前処理を行う検体前処理部と、
プローブ結合反応、検出反応(遺伝子増幅反応または抗原抗体反応なども含む)などに用いる試薬が収容される試薬収容部と、
ポジティブコントロールが収容されるポジティブコントロール収容部と、
ネガティブコントロールが収容されるネガティブコントロール収容部と、
プローブ(例えば、遺伝子増幅反応により増幅された検出対象の遺伝子にハイブリダイズさせるプローブ)が収容されるプローブ収容部と、
これらの各収容部に連通する微細流路と、
前記各収容部および流路内の液体を送液する別途のマイクロポンプに接続可能なポンプ接続部と、が設けられている。
【0070】
この検査チップには、ポンプ接続部を介してマイクロポンプが接続され、検体収容部に収容された検体もしくは検体から抽出した生体物質(例えばDNAまたはそれ以外の生体物質)と、試薬収容部に収容された試薬とを下流の流路へ送液し、微細流路の反応部位、例えば遺伝子増幅反応(タンパク質の場合、抗原抗体反応など)を行う部位で混合して反応させる。次いで、その下流側流路にある検出部へ、この反応液を処理した処理液と、プローブ収容部に収容されたプローブとを送液し、流路内で混合してプローブと結合(またはハイブリダイゼーション)させ、この反応生成物に基づいて生体物質の検出を行う。
【0071】
また、ポジティブコントロール収容部に収容されたポジティブコントロールおよびネガティブコントロールに収容されたネガティブコントロールについても同様に上記反応および検出を行う。
【0072】
検査チップにおける検体収容部は、検体注入部に連通し、検体の一時収容および混合部への検体供給を行う。検体収容部の上面から検体を注入する検体注入部は、外部への漏失、感染および汚染を防ぎ、密封性を確保するために、ゴム状材質などの弾性体からなる栓が形成されているか、あるいはポリジメチルシロキサン(PDMS)などの樹脂、強化フィルムで覆われていることが望ましい。例えば、当該ゴム材質の栓を突き刺したニードル
または蓋付き細孔を通したニードルでシリンジ内の検体を注入する。前者の場合、ニードルを抜くとその針穴が直ちに塞がることが好ましい。あるいは他の検体注入機構を設置してもよい。
【0073】
検体収容部に注入された検体は、必要に応じて、試薬との混合前に、予め流路に設けられた検体前処理部にて、例えば検体と処理液とを混合することによって前処理される。そのような検体前処理部は、分離フィルター、吸着用樹脂、ビーズなどを含んでもよい。好ましい検体前処理として、アナライトの分離または濃縮、除タンパクなどが含まれる。例えば1%SDS混合液などの溶菌剤を用いて溶菌処理・DNA抽出処理を行なう。この過程では、細胞内部からDNAが放出され、ビーズまたはフィルターの膜面に吸着する。
【0074】
検査チップの試薬収容部には、必要な試薬類が予め所定の量だけ封入されている。したがって使用時にその都度試薬を必要量充填する必要はなく、即使用可能の状態になっている。検体中の生体物質を分析する場合、測定に必要な試薬類は、通常それぞれ公知である。例えば、検体に存在する抗原を分析する場合、それに対する抗体、好ましくはモノクローナル抗体を含有する試薬が使用される。抗体は、好ましくはビオチンおよびFITCで標識されている。
【0075】
遺伝子検査用の試薬類には、遺伝子増幅に用いられる各種試薬、検出に使用されるプローブ類、発色試薬とともに、必要であれば前記の検体前処理に使用する前処理試薬も含めてもよい。
【0076】
マイクロポンプから駆動液を供給することにより各収容部から検体液および試薬液を押し出してこれらを合流させることによって、遺伝子増幅反応、アナライトのトラップまたは抗原抗体反応といった分析に必要な反応が開始される。
【0077】
DNA増幅方法としては、改良点も含めて各種文献などに記載され、多方面で盛んに利用されているPCR増幅法を使用することができる。PCR増幅法においては、3つの温度間で昇降させる温度管理が必要になるが、マイクロチップに好適な温度制御を可能とする流路デバイスが、すでに本発明者らにより提案されている(特開2004−108285号)。このデバイスシステムを本発明のチップの増幅用流路に適用すればよい。これにより、熱サイクルが高速に切り替えられ、微細流路を熱容量の小さいマイクロ反応セルとしているため、DNA増幅は、手作業で行う従来の方式よりはるかに短時間で行うことができる。
【0078】
最近開発されたICAN(Isothermal chimera primer initiated nucleic acid
amplification)法は、50〜65℃における任意の一定温度の下にDNA増幅を短時間で実施できるため(特許第3433929号)、本発明システムにおいても好適な増幅技術である。手作業では、1時間かかる本法は、本発明のシステムにおいては、10〜20分、好ましくは15分で解析まで終わる。
【0079】
検査チップの微細流路における反応部位よりも下流側には、アナライト、例えば増幅された遺伝子を検出するための検出部位が設けられている。少なくともその検出部分は、光学的測定を可能とするために透明な材質、好ましくは透明なプラスチックとなっている。
【0080】
微細流路上の検出部位に吸着されたビオチン親和性タンパク質(アビジン、ストレプトアビジン)は、プローブ物質に標識されたビオチン、または遺伝子増幅反応に使用されるプライマーの5’末端に標識されたビオチンと特異的に結合する。これにより、ビオチンで標識されたプローブまたは増幅された遺伝子が本検出部位でトラップされる。
【0081】
分離されたアナライトまたは増幅された目的遺伝子のDNAを検出する方法は特に限定されないが、好ましい態様として基本的には以下の工程で行われる。
(1a) 検体もしくは検体から抽出したDNA、あるいは検体もしくは検体から抽出したRNAから逆転写反応により合成したcDNAと、5’位置でビオチン修飾したプライマーとを、これらの収容部から下流の微細流路へ送液する。
【0082】
反応部位の微細流路内で遺伝子増幅反応を行った後、微細流路内で増幅された遺伝子を含む増幅反応液と変性液とを混合して、増幅された遺伝子を変性処理により一本鎖にし、これと末端をFITC(fluorescein isothiocyanate)で蛍光標識したプローブDNA
とをハイブリダイズさせる。
【0083】
次いで、ビオチン親和性タンパク質を吸着させた微細流路内の検出部位に送液し、前記増幅遺伝子を微細流路内の検出部位にトラップする(増幅遺伝子を検出部位でトラップした後に蛍光標識したプローブDNAとをハイブリダイズさせてもよい。)。
(1b) 検体に存在する抗原、代謝物質、ホルモンなどのアナライトに対する特異的な抗体、好ましくはモノクローナル抗体を含有する試薬を検体と混合する。その場合、抗体は、ビオチンおよびFITCで標識されている。したがって抗原抗体反応により得られる生成物は、ビオチンおよびFITCを有する。これをビオチン親和性タンパク質(好ましくはストレプトアビジン)を吸着させた微細流路内の検出部位に送液し、ビオチン親和性タンパク質とビオチンとの結合を介して該検出部位に固定化する。
(2) 上記微細流路内にFITCに特異的に結合する抗FITC抗体で表面を修飾した金コロイド液を流し、これにより固定化したアナライト・抗体反応物のFITCに、あるいは遺伝子にハイブリダイズしたFITC修飾プローブに、その金コロイドを吸着させる。
(3) 上記微細流路の金コロイドの濃度を光学的に測定する。
【0084】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されることはなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形、変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】図1は、本発明のマイクロ総合分析システムの1つの実施形態におけるマイクロポンプユニットを示した斜視図である。
【図2】図2は、図1のマイクロポンプユニットの断面図である。
【図3】図3は、本発明のマイクロ総合分析システムの1つの実施形態における検査チップの平面図である。
【図4】図4は、本発明のマイクロ総合分析システムの他の実施形態におけるマイクロポンプユニットを示した斜視図である。
【図5】図5は、マイクロポンプユニットにおける複数のマイクロポンプおよびこれに連通する流路の配置の1つの例を示した平面図である。
【図6】図6は、マイクロポンプユニットにおける複数のマイクロポンプおよびこれに連通する流路の配置の他の例を示した平面図である。
【図7】図7は、送液制御部(撥水バルブ)の断面図である。
【図8】図8は、ピエゾポンプの圧電素子に印加する駆動電圧波形の一例を示したグラフである。
【図9】図9は、本発明のマイクロ総合分析システムの1つの実施形態を示した斜視図である。
【図10】図10は、図9のマイクロ総合分析システムにおけるシステム本体の内部構成を示した図である。
【符号の説明】
【0086】
1 マイクロ総合分析システム
2 検査チップ
3 システム本体
11 マイクロポンプユニット
12,12a〜12i マイクロポンプ
13 チップ接続部
14 開口
15,15a〜15c 開口
16a 貫通孔
16b 貫通孔
17 基板
18 基板
19 基板
20,20a〜20c 流路
21 圧電素子
22 加圧室
23 第1流路
24 第2流路
25 第1液室
26 第2液室
31 ポンプ接続部
32a〜32j 開口
33a〜33c 試薬収容部
34a,34b 端部
35 合流部
36 試薬混合部
37 検体収容部
38 合流部
39 反応部
40 検出部
51 送液制御部(撥水バルブ)
52 送液制御通路
53a,53b 流路
54 液
61 駆動液タンク
62 収納体
63 チップ挿入口
64 表示部
65 搬送トレイ
66 ペルチェ素子
67 ヒーター
68 光源
69 検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路内の各位置に予め収容された複数の試薬をその下流側で合流させて混合した後、この混合試薬と検体とを合流させて反応させ該反応を検出する一連の微細流路が設けられ、該微細流路における試薬が収容された位置よりも上流側にマイクロポンプへ連通させる流路開口が設けられた検査チップと、
試薬を上流側から押して検査チップの微細流路の下流方向へ送液する駆動液を収容した駆動液タンクと、
一枚のチップの面方向における各位置に複数のマイクロポンプが設けられ、それぞれのマイクロポンプの上流側が駆動液タンクへ連通され、その下流側に検査チップの微細流路へ連通させる流路開口が設けられたマイクロポンプユニットと、を備え、
検査チップをマイクロポンプユニットに対してこれらの流路開口が重なるように接続した後、前記複数のマイクロポンプによって駆動液を検査チップの微細流路へ送液して前記複数の試薬を下流側へ押し出すことによりこれらの試薬を合流させて混合し、
その後、この混合試薬と検体とを合流させて反応させ該反応を検出することによって検体中の標的物質を分析することを特徴とするマイクロ総合分析システム。
【請求項2】
マイクロポンプユニットにおける全てのマイクロポンプが1つの駆動液タンクに連通され、該駆動液タンクに収容された駆動液がそれぞれのマイクロポンプから検査チップの微細流路へ送液されることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ総合分析システム。
【請求項3】
2つ以上のマイクロポンプが検査チップの微細流路に収容された1つの試薬に連通され、これらのマイクロポンプからの駆動液が、マイクロポンプユニットに設けられた流路で合流され、合流された駆動液によって当該試薬が押されて微細流路の下流方向へ送液されることを特徴とする請求項1または2に記載のマイクロ総合分析システム。
【請求項4】
前記複数の試薬のうち少なくとも1つの試薬に連通されるマイクロポンプの数と、他の試薬に連通されるマイクロポンプの数とが互いに異なり、これらの試薬を合流させて混合した混合試薬におけるこれらの試薬の混合割合が互いに異なることを特徴とする請求項3に記載のマイクロ総合分析システム。
【請求項5】
前記マイクロポンプは、
流路抵抗が差圧に応じて変化する第1流路と、
差圧の変化に対する流路抵抗の変化割合が第1流路よりも小さい第2流路と、
第1流路および第2流路に接続された加圧室と、
電圧によって駆動され該加圧室の内部圧力を変化させるアクチュエータと、
を備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のマイクロ総合分析システム。
【請求項6】
前記マイクロ総合分析システムは、
マイクロポンプユニットおよび駆動液タンクが1つの収納体に収納され一体化されたシステム本体と、前記検査チップと、から構成され、
該検査チップをシステム本体に装着した状態で検体中の標的物質の分析が行われることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のマイクロ総合分析システム。
【請求項7】
前記システム本体は、
前記検査チップにおける反応を検出する検出処理装置と、
マイクロポンプユニットと検出処理装置とを制御する制御装置と、
を収納体の内部に備えることを特徴とする請求項6に記載のマイクロ総合分析システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−284451(P2006−284451A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−106589(P2005−106589)
【出願日】平成17年4月1日(2005.4.1)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】