説明

検体処理装置および検体処理方法

【課題】反応以外での待機時間が長くなることに伴う検体と試薬の劣化を防ぐとともに、装置の稼働効率の向上を図る。
【解決手段】少なくとも2つが独立して検体をそれぞれ反応させる複数の反応部と、検体の反応以外での待機時間の上限値、および検体の反応時間を入力するための入出力ターミナル15と、入出力ターミナル15で入力された反応以外での待機時間の上限値、および反応時間に基づいて、検体の投入時刻、および検体を処理するために使用する反応部、および検体の反応以外での待機時間のいずれか一つ以上を決定するスケジュール管理部44と、スケジュール管理部44による決定に基づいて複数の反応部で検体を処理するように制御する全体制御部40とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生化学反応を自動的に行う処理装置、特に検体から抽出した核酸を検出する遺伝子検査で用いられる検体処理装置および検体処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年DNAマイクロアレイ、DNAチップ等の試験片を用いた遺伝子解析が行われている。スライドガラスやシリコン基板などからなる基板の表面に、多数のDNAプローブをプローブスポットとしてマトリックス上に配置固定したDNAマイクロアレイと、蛍光色素などで標識されたDNAなどの試料とをハイブリダイゼーション条件下で接触させる。検出体(DNAマイクロアレイ)および試料に互いにハイブリダイゼーション反応する核酸同士が含まれていたとき、検出体に標識物質がプローブ核酸を介して固定される。そして、検出体上のどこに標識物質が存在するかを検出することによって、ハイブリダイゼーション反応した核酸の種類を特定することができる。
【0003】
遺伝子解析の処理フローの代表的な例として、(1)検体から核酸を抽出、(2)抽出した核酸を増幅、(3)増幅した核酸をDNAマイクロアレイにハイブリダイゼーション反応、(4)検出、という順序で行うものが挙げられる。この中で(1)〜(3)の工程では、検体および試薬の液体ハンドリングや容器ハンドリングにおいて煩雑な操作が必要であり、省力化、時間短縮の観点から自動化することが強く求められている。
【0004】
従来技術として、生化学反応の自動化を実現する試みがいくつか提案されている。
【0005】
例えば特許文献1では、検体の種類に応じて、各処理段階において必要な処理時間および待ち時間を共に設定する。かつ、受け付けた各検体間に、検出処理の優先度を設定して、設定された優先度および待ち時間に基づいて、処理する検体を選択して、優先度が最も高い検体から検出処理を開始する。ある検体の一処理段階における処理時間の経過後、その待ち時間に、待ち時間がゼロまたは待ち時間を経過して処理可能な処理段階にある他の検体のうちで、優先度が高い検体の処理を行う抗体検出方法が開示されている。この方法によれば、待ち時間を有効に活用して、他の検体の処理や処理手順が異なる検体の処理、あるいは処理操作途中で検体の追加が可能とされている。
【0006】
また、特許文献2では、連結された複数の検体処理ユニットにおいて、各処理ユニットの受取位置および待機位置の空き状態によって搬送の判断を行うシステムが開示されている。このシステムによれば、搬送対象の合理的な分配を簡便な方式で実現することができ、また、検体処理ユニットの連結個数によらずに簡便にシステムを構築することが可能とされている。
【特許文献1】特開平5−307039号公報
【特許文献2】特開2003−098180号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
生化学反応の省力化、時間短縮を実現するために、連続する工程処理ユニットを備えたシステムが典型的な形態として考えられる。また、処理能力を更に向上させるために、各工程処理ユニットが同時に多数の検体を処理可能に構成することが望ましい。
【0008】
ところが、単に各工程処理ユニットが複数の検体を扱えるだけでは、不定期な検体の投入に対して効率的な運用を行うことができない。すなわち、1つの各工程処理ユニットが、ユニット内で独立動作可能な複数のサブユニットに分割されていることが望ましい。
【0009】
このような構成を採る場合、装置の処理能力を発揮させるためには、検体の処理状況に合わせて効率的にスケジュール管理を行う必要がある。現在の技術では、生化学反応全般として、個々の処理工程に長い反応時間を必要としているのが実状である。装置の最大処理能力よりも少ない数の検体を処理する場合、処理ユニットの空き時間が長くなり,処理効率が落ちるとともに,ユーザーは次の処理を行うために長時間待たなければならない。また、将来的に工程の時間が短縮された場合にも、それにつれてより多くの検体処理が望まれるので、処理スケジューリングの重要性はさらに増すものと考える。
【0010】
また、生化学反応を行う場合、検体と試薬にとっては、長時間放置すると望ましくない状態が存在するのが普通である。典型的な例としては、PCR用のポリメラーゼ酵素を常温以上の環境に長時間放置した場合、活性が低下し、増幅結果に大きな悪影響を及ぼすことが知られている。また、検体についても、処理中の放置時間の長短によって検査結果に影響を及ぼす恐れがあるので、放置時間の範囲を定める必要がある。
【0011】
上述の特許文献1では、装置に投入された検体の中で優先度を設定して複数の検体の処理スケジュールを作成している。この処理スケジュールによって、優先度が高い検体が望ましくない待ち状態におかれる可能性は低下するが、装置に同じ優先度の検体が多数投入された場合には効果が得られない。加えて、優先度が低く設定された検体は望ましくない待ち状態におかれる可能性がより一層高くなってしまう不都合がある。
【0012】
上述の特許文献2では、搬送する時点とその後の待機位置と受取り位置の空き状態によって、空いている箇所に搬送を行っている。しかしながら、この技術においても検体の待ち時間を抑制することは考慮されていない。
【0013】
以上の課題は、結局、処理能力に限度がある検査装置に対して無考慮に検体を投入したときに必然的に発生する事象である。したがって、処理のスケジュール管理を最適化した上で、装置への検体の投入を制限し、装置の稼働効率の向上と、処理結果の精度の向上とを両立することが望ましい対策となりうる。
【0014】
そこで、本発明は、装置の稼働効率の向上と、処理結果の精度の向上とを両立することができる検体処理装置および検体処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述した目的を達成するため、本発明に係る検体処理装置は、少なくとも2つが独立して検体をそれぞれ反応させる複数の反応部と、
検体の反応以外での待機時間の上限値、および検体の反応時間を入力するための入力手段と、
入力手段で入力された反応以外での待機時間の上限値、および反応時間に基づいて、検体の投入時刻、および検体を処理するために使用する反応部、および検体の反応以外での待機時間のいずれか一つ以上を決定するスケジュール管理手段と、
スケジュール管理手段による決定に基づいて複数の反応部で検体を処理するように制御する制御手段とを備える。
【0016】
なお、本発明において、検体とは、生体組織、生体組織から抽出した核酸およびたんぱく質等の成分、およびそれらが試薬と混合されたものを指す。検体の投入時刻とは、検体検査装置が検体を受け入れる時刻を指している。また、本発明において、反応以外での待機時間の上限値とは、次の処理ステップを開始するまでに検体に劣化による悪影響が生じないため、もしくは装置動作上の理由により定められるべき許容時間を指している。
【発明の効果】
【0017】
上述した本発明によれば、装置の稼働効率の向上と、処理結果の精度の向上とを両立することができる。具体的には、装置内で検体の滞留が起きなくなり、検体に悪影響を与えるような長時間の待機を避けることができる。したがって、本発明によれば、装置による処理量を向上し、同時に検体の劣化による処理結果の精度の低下を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の具体的な実施形態について、図面を参照して説明する。
【0019】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態として、検体から抽出した核酸を増幅し、DNAマイクロアレイと反応、検出することによって、検体中の核酸を同定する遺伝子検査装置について説明する。
【0020】
図1は遺伝子検査装置を上方から示す平面図である。図2は遺伝子検査装置を示す正面図である。図3に遺伝子検査装置の制御系のブロック図を示す。
【0021】
サンプル核酸液を増幅ユニット3でPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)増幅し、次にサンプル核酸を蛍光色素で標識し、続いてハイブリユニット5で目的とする核酸をDNAマイクロアレイとハイブリダイゼーション反応させる。その後、遺伝子検査装置1からDNAマイクロアレイを取り出して、遺伝子検査装置1とは別体の蛍光検出器(不図示)によってシグナルの検出を行う。
【0022】
本実施形態の遺伝子検査装置1では、検体を投入、処理可能な待機場所および反応場所が3系統設けられている。ここでは、3系統は、独立して動作可能であり、それぞれをAライン、Bライン、Cラインと呼ぶ。
【0023】
各容器間での液体の移送は、ピペットユニット13によって自動的に行われる。ピペットユニット13は、図1中に示す座標系におけるX軸,Y軸,Z軸方向に対する3軸駆動機構と、液体の吸引、吐出のためのシリンジ部を駆動するZ軸駆動機構とを備えている。このピペットユニット13は、ピペットユニットX軸ガイド10、ピペットユニットY軸ガイド11、ピペットユニットZ軸ガイド12によって3軸方向に移動可能に支持されている。なお、本実施形態のピペットユニット13は、1個のピペットチップ28が装着された構成であるが、複数個を装着可能な構成とされてもよい。複数個を備える場合には、本発明の特徴である3ラインでの独立処理が可能となるように、ピペットチップが個別に着脱可能に構成されることが望ましい。
【0024】
また、ハイブリユニット5には、ハイブリ反応容器を一時的に固定するハイブリ反応容器押さえ14が設けられている。
【0025】
また、図3に示すように、遺伝子検査装置1では、入力手段としての入出力ターミナル15から入力された各種情報が、制御手段としての全体制御部40に入力される。この全体制御部40は、ユーザーI/F制御部40、機器入出力制御部42、中央演算装置43、スケジュール管理部44を有している。また、機器入出力制御部42は、ピペットユニット駆動部47を介してピペットX軸、ピペットY軸、ピペットZ軸、ピペットシリンジ軸がそれぞれ駆動される。また、機器入出力制御部42は、増幅制御部48を介して増幅温度および精製を制御し、ハイブリ制御部49を介してハイブリダイゼーション反応における温度制御を行う。
【0026】
以下、遺伝子検査装置1の動作について、処理の順序に沿って説明する。
【0027】
(1)容器の設置
ユーザーによって動作開始前に各容器が所定位置にそれぞれ設置される。検体を一時的に保留する増幅前サンプル待機場所2に、増幅前サンプル容器22A,22B,22Cが設置され、増幅ユニット3に増幅反応容器23A,23B,23Cが設置される。また、ハイブリダイゼーション反応前の検体を一時的に保留するハイブリ前サンプル待機場所4にハイブリ前サンプル容器24A,24B,24Cが設置される。また、ハイブリユニット5にハイブリ反応容器25A,25B,25Cが設置され、試薬置き場6に試薬容器26A,26B,26Cが設置され、ピペットチップ置き場8にピペットチップ28が設置される。本実施形態では、遺伝子検査装置1に対する容器の設置および回収をユーザーによる手作業で行っているが、処理の自動化を図るためには自動搬送手段を備えることが好ましい。この自動搬送手段は当業者にとって容易な各種手段によって構成可能である。
【0028】
試薬容器26A,26B,26C中には、増幅反応およびハイブリダイゼーション反応に必要な所定量の試薬をあらかじめ分注されている。
【0029】
(2)検体の投入
例えば血液等の検体を、遺伝子検査装置1とは別の検査装置によって核酸抽出処理を施して、サンプル核酸液を作製する。遺伝子検査装置1に投入しようとする検体IDとその投入順序を入出力ターミナル15によって入力する。
【0030】
各種情報を入力すると、中央演算装置43は、投入される各検体IDに対して、使用する増幅前サンプル容器(22A,22B,22Cのいずれか))と投入可能予定時刻をそれぞれ決定し、これらの情報を入出力ターミナル15に表示する。ユーザーは、入出力ターミナル15に表示された情報に従ってサンプル核酸液を投入する。サンプル核酸液を投入した後、入出力ターミナル15に投入完了の旨を入力する。
【0031】
中央演算装置43は、検体IDに対応する増幅前サンプル容器と投入可能予定時刻をそれぞれ決定すると同時に、増幅反応容器、ハイブリ前サンプル容器、ハイブリ反応容器の対応付けと投入可能予定時刻とをそれぞれ決定する。すなわち、検体が遺伝子検査装置1に投入される前に、検体に対応する増幅前サンプル容器、増幅反応容器、ハイブリ前サンプル容器、ハイブリ反応容器の予約が時刻と関連付けられて行われる。
【0032】
本発明の骨子をなすこの予約の方法については、後に詳しく説明する。
【0033】
(3)増幅反応容器へのサンプル核酸液の移送
ピペットユニット13をピペットチップ置き場8に移動して、ピペットユニット13に、未使用のピペットチップ28を装着する。続いて、ピペットユニット13を駆動して、そのサンプル核酸液が収容されている増幅前サンプル容器(例えば容器22Aとする)から、予約された増幅反応容器(例えば容器23Bであったとする)の図1における左側のウエル(23B−Lと呼ぶ)まで、サンプル核酸液を移送する。さらに、ピペットユニット13を試薬置き場6まで移動させ、所定のウエル(例えば試薬容器26Aの最も左側のウエル)からPCR用試薬をウエル23B−Lまで移送する。そして、ウエル23B−Lにおいて、ピペットユニット13を用いて吸引、吐出を繰り返し、サンプル核酸液と試薬液との混合を促進する。サンプル核酸液が移送された後、所定のタイミングで使用済みの増幅前サンプル容器22Aを未使用のものに交換する。
【0034】
(4)増幅工程
増幅ユニット3は、増幅反応容器23A,23B,23Cを用いて核酸をPCRによって増幅するものである。増幅ユニット3は、それぞれ独立に動作可能な3ラインのユニット3A,3B,3Cによって構成されている。各ラインのユニット3A,3B,3Cは、サーマルサイクルを行える温度ブロックと、増幅後の産物から不要物を除去する精製操作を制御する機構を備えている。本実施形態では、精製手段として磁性シリカビーズを用いた核酸吸着分離方式を採用して、各ラインの増幅ユニット3が磁石(永久磁石または電磁石)を有している。なお、精製手段としては、この方式に限らず、一般に知られている他の方法、例えばカラムを用いた方法などが採用されてもよい。
【0035】
次に、増幅ユニット(ここでは例としてユニット3B)の温度ブロックをディネーチャー、アニール、伸長の所定の3温度に駆動し、それを繰り返す(サーマルサイクル動作)。
【0036】
所定回数のサーマルサイクル工程が終了したら、精製工程のために増幅反応容器23Bの中央のウエル(23B−Mと呼ぶ)に増幅産物を移送する。続いて、ウエル23B−Mに、試薬容器26A(例えば図1中左から2番目のウエル)から精製用試薬を移送する。ピペットユニット13でウエル23B−M中の液体を混合撹拌し、サンプル核酸が磁性ビーズへ吸着する反応を促進する。次に、増幅ユニット3Bの精製用磁石機構をウエルに近接するよう駆動し、ピペットユニット13で液体を撹拌する。その結果、目的の核酸が吸着した磁性ビーズは磁石近傍に集められた状態となる。その状態で、ピペットユニット13によって磁性ビーズを含まない液体(不要物となる)を吸引し、廃液場7に移送して、廃棄する。
【0037】
次に、磁性ビーズから核酸を脱離させるための試薬を試薬容器26A(例えば左から3番目のウエル)からウエル23B−Mに移送し、精製用磁石機構をウエルから遠ざけた状態で反応させる。(同様にピペットユニット13による混合攪拌を行う。)
【0038】
続いて、精製用磁石機構をウエルに近接させ磁性ビーズを集め、磁性ビーズ以外の液体部分(目的の核酸が含まれている)をピペットで吸引する。この液体を増幅反応容器23Bの図1中右側のウエル(23B−Rと呼ぶ)に移送する。
【0039】
次に、ウエル23B−Rに試薬容器26A(例えば図1中左から4番目のウエル)から標識用試薬を移送する。標識用試薬には、蛍光色素が結合されたプライマが含まれており、このプライマとサンプル核酸とでPCRが行われることで、目的とする核酸が蛍光標識される。
【0040】
なお、増幅、精製、標識からなる増幅工程の途中でピペットチップを交換する必要がある場合には、全体制御部40に、事前にピペットチップの交換のための制御をプログラムしておく。
【0041】
(5)ハイブリ前サンプル容器への移送
上述した(4)の工程が終了したサンプル核酸液を、予約されたハイブリ前サンプル容器(例えば24Cであったとする)が使用許可状態である場合には、この容器24Cにピペットユニット13によって移送する。また、予約された容器24Cが使用許可状態でない場合には、使用許可状態となるまで、サンプル核酸液は増幅反応容器に置かれる。その後,使用許可状態となったら,サンプル核酸液を容器24Cに移送する。サンプル核酸液が移送された後、所定のタイミングで使用済みの増幅反応容器を未使用のものに交換する。
【0042】
(6)ハイブリ反応容器への移送
サンプル核酸液が、予約されたハイブリ前サンプル容器に移送された状態で、検体IDに対応付けられて予約されたハイブリ反応容器(例えば容器25Aとする)が使用許可状態であるか否かが確認される。
【0043】
容器25Aが使用許可状態であれば、中央演算装置43は、まずハイブリユニット5の温度をハイブリダイゼーション反応に好適な所定の温度(例えば50℃程度)にする制御を開始する。続いて、ピペットユニット13を試薬置き場6まで移動し、所定のウエル(例えば試薬容器26Aの最も右側のウエル)からハイブリダイゼーション用試薬をハイブリ前サンプル容器24Cまで移送する。ハイブリ前サンプル容器24Cのウエルにおいて、ピペットユニット13を用いて吸引、吐出を繰り返し、サンプル核酸液と試薬液との混合を促進する。
【0044】
続いて、ハイブリユニット5の温度が所定温度に安定した後、ハイブリ前サンプル容器からハイブリ反応容器へ、ピペットユニット13によってサンプル核酸液を移送する。ハイブリ反応容器(例えば容器25Aとする)が使用許可状態でない場合には、使用許可状態となるまで、サンプル核酸液は、ハイブリ前サンプル容器に置かれる。その後,使用許可状態となったら,サンプル核酸液を容器25Aに移送する。ハイブリ反応容器にサンプル核酸液が移送された後、所定のタイミングで使用済みのハイブリ前サンプル容器を未使用のものに交換する。
【0045】
(7)ハイブリダイゼーション反応
ハイブリユニット5は、ハイブリ反応容器25A,25B,25Cを用いてサンプル核酸液とDNAマイクロアレイのハイブリダイゼーション反応を行うものである。ハイブリユニット5は、それぞれ独立に動作可能な3ラインのユニット5A,5B,5Cによって構成されている。各ラインのユニット5A,5B,5Cは、ハイブリ反応容器を所定温度に保持可能な温度ブロックを備えている。
【0046】
ハイブリ反応容器にサンプル核酸液を収容した後、ハイブリユニット5を所定温度に保った状態で所定時間だけ経過させる。本実施形態では、ハイブリ容器内のサンプル核酸液を静置させるように構成されているが、例えば液体駆動手段を備えて、液体を攪拌させるなどして反応を促進させることは、当業者にとって容易な技術であり、必要に応じて液体を撹拌する構成が採用されてもよい。
【0047】
(8)遺伝子検査装置からの取り出し
上述した(7)のハイブリダイゼーション反応後、反応を終えたハイブリ反応容器をユーザーが遺伝子検査装置1から取り出す。その後、ハイブリ反応容器中のDNAマイクロアレイを洗浄し、乾燥させる。なお、他の実施形態としては、遺伝子検査装置1内に洗浄および乾燥を行う洗浄乾燥部が設けられて、この洗浄乾燥部による処理が、ハイブリダイゼーション反応に続いて行われるように構成してもよい。この構成の場合には、洗浄乾燥部が、液体駆動手段および気流発生手段を有し、試薬容器26A,26B,26Cに洗浄用試薬を備えるように構成すればよい。
【0048】
遺伝子検査装置1からハイブリ反応容器を取り出した後、所定のタイミングで未使用のものを設置する。
【0049】
乾燥させたDNAマイクロアレイは、蛍光検出器によってシグナルの読み取りが行われる。本実施形態では、サンプル核酸液中の核酸鎖が、DNAマイクロアレイ上に固定された核酸鎖とハイブリダイゼーション反応を行うことによって結合した場所のみで蛍光シグナルが読み取られることから、サンプル核酸液中の核酸種類が判明する。
【0050】
次に、本発明の骨子となる予約の方法について、図4〜図7を参照して説明する。なお、説明の都合上、(1)〜(8)で述べた遺伝子検査装置1のタイムテーブルとは別の場合のものとして説明を行う。これは説明の便宜上のみのことであって、技術的内容は同一である。
【0051】
図4に、スケジュール管理部が生成する予約テーブルを示す。この予約テーブルを生成すること、および予約テーブルを生成する過程が本発明の骨子である。予約テーブルが生成されれば、中央演算装置43はこの予約テーブルに沿って検体の処理を行う。図4に示すように、待機時間上限T11、処理時間T12,処理時間T14はユーザーが任意に指定する数値であり、各プロセスの反応条件に応じて適宜決定されればよい。時刻T1〜T10と各工程の容器番号は、遺伝子検査装置1によって決定される事項である。
【0052】
なお、本実施形態では、待機時間上限T11,処理時間T12,処理時間T14の指定は、上述したようにユーザーが指定する事項として構成している。他の実施形態として、予約テーブルを生成することなく、予め作成された予約テーブルを参照することで、検体の処理を行う構成が採られてもよい。例えば次の(1)〜(2)の構成も発明に含まれる。すなわち、(1)容器に記録された時間の数値を遺伝子検査装置1が読み取る、(2)容器に記録された識別番号を読み取り、装置1内または装置1外の機器から、予め定義された予約テーブルを参照して決定する。
【0053】
一例として、検体1〜7の予約テーブルが決定されている状態から、検体8、9を追加して投入しようとする場合における予約テーブルの生成方法について説明する。図5は、予約テーブルをタイミングチャートで表したものである。図5に示すように、時刻3のときに追加の検体8,9を投入すべく予約テーブルの生成を行ったとする。(図6中のア参照。)
【0054】
図7に示すように、ステップS1において、ハイブリ反応容器の解放時刻を評価する。最も早くにハイブリ反応容器が解放されるのは、容器25Cで時刻21である(図6中のイ参照)。2番目に解放されるのが容器25Bで時刻24(図6中のウ参照)、3番目に解放されるのが容器25Aで時刻26(図6中のエ参照)である。このことから、検体8の使用容器を容器25Cとして時刻T9を時刻21、検体9の使用容器を容器25Bとして時刻T9を時刻24にそれぞれ設定する。補正値は、他の工程について評価したときに時刻T9を変更する場合に使用するが、まず最初は補正値を「0」としているので、今回の例では関係がない。
【0055】
ステップS2において、ハイブリ前サンプル容器の解放時刻を評価する。ハイブリ前サンプル容器における待機時間上限(最大値)T13は時間「5」であるから、時刻T9から時間「5」だけ遡ったよりも後に、ハイブリ前サンプル容器に検体、試薬を投入する。当然、早く投入すれば、増幅ユニットが解放され、遺伝子検査装置1の処理量を向上させられるので、ここでは投入時刻が早くなることを優先的な条件とする。検体8の使用容器を容器24Aとして時刻T7を時刻16(図6中のオ参照)、検体9の使用容器を容器24Bとして時刻T7を時刻19(図6中のカ参照)にそれぞれ設定する。この時点で、時刻T7の補正値は「0」としているので今回の例では関係がない。また、時刻T7を設定するのにあたって、時刻T9を変更する必要がなかったので、この時点での時刻T9の補正値は「0」のままである。
【0056】
ステップS3において、時刻T9の変更がある場合には、ループR1でステップS1に戻って再設定を行う。今回の例では変更がないのでステップS4に進む。
【0057】
ステップS4において、増幅反応容器の解放時刻を評価する。増幅反応の処理時間T12は時間「8」であるから、時刻T7から時間「8」だけ遡った時刻に投入できる場合には、そのときを時刻T4に設定する。また、その時刻に投入できない場合には、時刻T7,T9を変更できる範囲内で時間的に前に変更するか、時刻T7,T9をなるべく小さい変更に抑えて時間的に後ろに変更することになる。今回の例では、検体8の使用容器を容器23Aとして時刻T4を時刻8(図6中のキ参照)に設定して使用したが、容器23Aが解放されていないので、時刻T4を時刻9(図6中のク参照)に変更して設定することになる。
【0058】
この変更に伴って、時刻T5が時刻17(図6中のコ参照)となるので、これに合わせて時刻T7を時刻17に変更する必要があることが判断される。したがって、検体8の時刻T7の補正値として「+1」を設定する。そして、待機時間T6を時間「5」から時間「4」に変更し、時刻T9は時刻21(図6中のイ参照)のままで変更しないでよいことが判断される。検体9の使用容器を容器23Bとして時刻T4を時刻11(図6中のケ参照)と設定する。
【0059】
ステップS5において、検体8の時刻T7に変更があるので、ループR2でステップS1に戻る。今回の例では、検体8と検体9を同時に評価しているので、検体9についても一緒にステップS1に戻して条件を再評価する。
【0060】
2度目の評価になるステップS1ではパラメータの変更はない。2度目の評価のステップS2で、検体8の時刻T7を時刻17(図6中のコ参照)に変更する。2度目の評価のステップS4で評価した結果、今度は、時刻T4,T7,T9をそれぞれ矛盾なく設定することができる。
【0061】
次に、ステップS6において、増幅前サンプル容器の解放時刻を評価する。増幅前サンプル容器での待機時間上限(最大値)T11は時間「4」であるから、時刻T4から時間「4」だけ遡ったよりも後に、ハイブリ前サンプル容器に検体、試薬を投入する。当然、早く投入すれば、検査を早く開始することができ、遺伝子検査装置1の処理量が向上されるので、ここでは投入時刻が早くなることを優先的な条件とする。検体8の使用容器を容器22Aとして時刻T2を時刻5(図6中のシ参照)に設定し、検体9の使用容器を容器22Bとして時刻T2を時刻7(図6中のス参照)に設定する。
【0062】
ステップS7で、時刻T4,T7,T9の変更はない。ステップS8において、検体8,9の予約テーブルの全項目を確定し、予約テーブルに書き込みを行って更新する。
【0063】
なお、本実施形態では、液体搬送、容器交換等に必要な時間を考慮しない場合について述べた。実際の遺伝子検査装置では、これらの時間を考慮する必要があるが、上述した本発明に係る基本的な考え方に沿って、それらの時間も考慮した予約テーブルを作成することもできる。
【0064】
上述したように、本実施形態の遺伝子検査装置1によれば、生成した予約テーブルに基づいてスケジュール管理が行われることで、
稼働効率の向上を図ることが可能になるとともに、検体と試薬の劣化を防止して、検体の処理結果の精度を向上することができる。
【0065】
(第2の実施形態)
図8に示すように、第2の実施形態の遺伝子検査装置51,52は、第1の実施形態の遺伝子検査装置1が備える全体制御部40に通信I/F部46が設けられて構成されている。そして、2台の遺伝子検査装置51,52は、通信I/F部46に接続された通信ライン53を介して相互に接続されている。例えば、遺伝子検査装置51をマスター制御側として動作させ、遺伝子検査装置52をスレーブ側として動作させる。遺伝子検査装置51のスケジュール管理部44が、2台の遺伝子検査装置51,52の処理をあたかも1台の遺伝子検査装置であるかのように予約テーブルを作成する。ある検体の工程移行が各装置51,52間の検体の移動を伴う場合は、入出力ターミナル15でユーザーに通知を行い、ユーザーが手作業で容器の移動を行う。ただし、当然のことながら、同一装置内で工程を受け継いだ方が、処理効率が良いので、同一装置内での処理を優先するように予約テーブルの作成アルゴリズムが設定されている。例えば、各装置51,52間の移動を伴う工程移行については、待機時間の下限を設定する。ある検体の、ある処理ステップ間の待機時間が、この下限以下の場合には、同一装置内の次処理ユニットを割り当てる。待機時間が下限を超える場合には、同一装置内、もしくは他の装置の次処理ユニットを割り当てる。
【0066】
さらに、本実施形態は、2台の装置51,52間を検体と容器を自動搬送するための搬送系を備え、全体制御部40により検体と容器の搬送を制御すれば、更に稼働効率が高いスケジュール管理を行うことが可能となる。そのための搬送系の構成、および搬送制御については、当業者にとって容易な各種手段により実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】第1の実施形態の遺伝子検査装置を示す平面図である。
【図2】第1の実施形態の遺伝子検査装置を示す正面図である。
【図3】第1の実施形態の遺伝子検査装置の制御系を示すブロック図である。
【図4】第1の実施形態の遺伝子検査装置で作成される予約テーブルを示す図である。
【図5】追加の検体が予約される前のタイミングチャートである。
【図6】追加の検体が予約された後のタイミングチャートである。
【図7】予約テーブルを作成するためのフローチャートである。
【図8】第2の実施形態の遺伝子検査装置を説明するための制御系のブロック図である。
【符号の説明】
【0068】
1 遺伝子検査装置
2 増幅前サンプル待機場所
3 増幅ユニット
4 ハイブリ前サンプル待機場所
5 ハイブリユニット
6 試薬置き場
7 ピペットチップ廃棄場および廃液場
8 ピペットチップ置き場
13 ピペットユニット
15 入出力ターミナル
22A,22B,22C 増幅前サンプル容器
23A,23B,23C 増幅反応容器
24A,24B,24C ハイブリ前サンプル容器
25A,25B,25C ハイブリ反応容器
26A,26B,26C 試薬容器
28 ピペットチップ
40 全体制御部
43 中央演算装置
44 スケジュール管理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つが独立して検体をそれぞれ反応させる複数の反応部と、
検体の反応以外での待機時間の上限値、および検体の反応時間を入力するための入力手段と、
前記入力手段で入力された反応以外での待機時間の前記上限値、および前記反応時間に基づいて、検体の投入時刻、および検体を処理するために使用する反応部、および検体の反応以外での待機時間のいずれか一つ以上を決定するスケジュール管理手段と、
前記スケジュール管理手段による決定に基づいて前記複数の反応部で検体を処理するように制御する制御手段と
を備えることを特徴とする検体処理装置。
【請求項2】
前記反応部で処理させる検体を一時的に保留するための保留場所を備える請求項1に記載の検体処理装置。
【請求項3】
他の検体処理装置との間で通信するための通信手段を備え、
前記スケジュール管理手段は、複数の検体処理装置全体において、検体の投入時刻、および前記複数の反応部のうちで検体を処理させる反応部,および検体の反応以外での待機時間のいずれか一つ以上を決定する請求項1または2に記載の検体処理装置。
【請求項4】
前記スケジュール管理手段は、検体の投入時刻と、検体を処理するために使用する反応部とを組み合わせた予約テーブルを生成する請求項1ないし3のいずれか1項に記載の検体処理装置。
【請求項5】
前記スケジュール管理手段は、前記検体処理装置に投入される検体が追加されるとき、反応以外での待機時間の上限値、および追加される検体の反応時間、そのときに前記反応部で処理されている他の検体の反応の残り時間に基づいて、前記予約テーブルを変更する請求項4に記載の検体処理装置。
【請求項6】
少なくとも2つが独立して検体をそれぞれ反応させる複数の反応部を備える検体処理装置を用いる検体処理方法であって、
前記検体処理装置に投入される検体の反応以外での待機時間の上限値、および前記検体処理装置に投入される検体の反応時間に基づいて、検体の投入時刻、および検体を反応させるために使用する前記反応部,および検体の反応以外での待機時間のいずれか一つ以上を決定する管理ステップと、
前記管理ステップでの決定に基づいて検体を前記反応部で反応させる反応ステップとを有することを特徴とする検体処理方法。
【請求項7】
前記管理ステップでは、検体の投入時刻と、検体を処理するために使用する前記反応部とを組み合わせた予約テーブルを生成する請求項6に記載の検体処理方法。
【請求項8】
前記検体処理装置に投入される検体が追加されるとき、追加される検体の反応以外での待機時間の上限値、および反応時間、そのときに前記反応部で処理されている他の検体の反応の残り時間に基づいて、前記予約テーブルを変更する請求項7に記載の検体処理方法。
【請求項9】
少なくとも2つが独立して検体をそれぞれ反応させる複数の反応部を備える検体処理装置を用いる検体処理方法であって、
前記反応部での検体の処理中に検体が追加されたとき、追加される検体の反応時間、追加される検体の反応以外での待機時間の上限値、そのときに前記反応部で処理されている他の検体の反応の残り時間に基づいて、追加される検体の投入時刻、追加される検体を反応させるために使用する反応部、追加される検体の反応以外での待機時間のうちの少なくとも1つを決定する管理ステップと、
前記管理ステップでの決定に基づいて検体を前記反応部で反応させる反応ステップとを有することを特徴とする検体処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−39556(P2008−39556A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−213275(P2006−213275)
【出願日】平成18年8月4日(2006.8.4)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】