説明

検査デバイス

【課題】試験者の操作に伴い視覚的な変化を生じる検査デバイスを提供すること。
【解決手段】被検物質を含有する被検査液を含む2種の処理液が滴下される滴下部位11と、その被検物質を検出する検出部位12と、滴下部位11及び検出部位12の間を接続する接続部位13とを有する薄膜状部材10から構成され、薄膜状部材10は後に滴下する処理液のpHの変化により呈色する呈色部材11を含むものである。処理液の滴下という検査に必要な操作を今まで通りに行うだけで、どのような操作をどこまで(複数の検査デバイスを使用する場合)行ったかについての情報を視覚的に明らかにできる。その結果、操作の間違いを減少でき、検査の精度が向上して品質向上が実現できる。また、操作の間違いに対する不安が無くなり、検査を速やかにできるようになり、被検査液を処理する数を増加可能になり検査に要するコストを削減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検査液中に含有される被検物質を検査する検査デバイスに関し、特に、一度に数多くの被検査液を検査するときに人為的な失敗が発生し難い検査デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、微量の化学物質を定量する方法としては、大型機器を用いる質量分析や(高速)液体クロマトグラフィーなどが知られている。また、生物学的反応を利用して微量成分の定量、検出を行うバイオアッセイが知られている。バイオアッセイの1つとしてELISA法が知られている。ELISA法は感度が高く、種々の検査法において公定法として数多く採用されており、その特長としては、検出感度が概ね良好で、試験群にコントロールを加えることで定量が可能である点である。しかしながら、操作が煩雑であり、測定者の熟練度による誤差・ばらつきが大きい欠点がある。また、作業時間が数時間と長く使用する反応試薬や溶液量が多く必要である。
【0003】
そこで、現場にてすぐに結果が判断できる手法の開発が進んでいる。例えば、抗原抗体反応を利用し、被検査液を滴下するだけでその中に含有される被検物質を特異的に検出できるイムノクロマト法、酵素を用いて被検物質の検出を行うグルコースセンサー、表面プラズモン共鳴を用いるSPRなどが挙げられる。中でもイムノクロマト法は操作が簡便であり、妊娠検査薬など一般消費者向けの製品にも応用されている。イムノクロマト法では金コロイド標識抗体による簡単な一液の反応が主体であり、その場合定性的な検査を行うことができる。
【0004】
最近では更に検出に対する要求が進み、簡便なイムノクロマト法の原理を利用しながら、複数の被検物質を検出する技術(特許文献1)や、酵素標識を用いて高感度化する技術が提案されている。しかしながら、要求に応えるべく複雑な反応系を構築すると、反応に関連する処理液を複数回注入して検出を行う必要が生じ、その操作は複雑になってしまう。簡便さを重視する場合には酵素標識抗体を固定しておくシステムも提案されているが(特許文献2)、正確な定量を行うためには処理液を複数回滴下するシステムの方が優れている。
【特許文献1】特許第3519451号公報
【特許文献2】特開平5−12832号公報
【特許文献3】特開平5−52836号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、複数の被検査液について検査を行う場合に、試験者は、被検査液や発色剤溶液などの処理液を、順次、検査用の検査デバイスに滴下していくことになるが、同じような作業の繰り返しになるため、どの検査デバイスにまでその処理液を滴下したのか滴下の途中で分からなくなることがあった。
【0006】
もし、滴下済の検査デバイスに対して重複して同じ処理液を滴下したり、滴下しておらず次に滴下すべき検査デバイスを飛ばしてしまったりすると、当然ながらその検査デバイスにおける検査結果は異常値となってしまう。そのため、処理液を滴下する毎に検査デバイスに対してマーキングを行ったり、検査デバイスの位置をずらしたりするなど試験者の工夫により、そのような間違いが生じないようにしていることが多かった。
【0007】
しかしながら、試験者が検査に必要な操作とは別に行う工夫して行う操作ではその操作自体を忘れたり間違えることもあって、検査デバイス自体に間違いの発生を抑制する手段を備えることが望まれた。具体的には、複数の検査デバイスを用いた上で複数の被検査液について試験者が検査の操作を行うのに伴い、どのような操作をどの検査デバイスまで行ったかについて必然的に明らかになることが望まれている。
【0008】
特許文献3においては検査デバイスにおいて、被検物質と相互作用する部位の下流側に被検査液が移動してきたときに呈色する部材が配設され、その部材が呈色することで処理液の滴下がなされたことがわかるシステムが提案されているが、そこまで液体が移動するためにはある程度の時間が必要であり、それを待たないと呈色が進行せず、操作を速やかに行うことは困難であった。
【0009】
本発明は上記実情に鑑みなされたものであり、試験者が検査の操作を行うのに伴い、視覚的に明らかな変化を生じさせることができる検査デバイスを提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する請求項1に係る本発明の検査デバイスの特徴は、被検物質を含有する被検査液を含む1種又は2種以上の処理液が滴下される滴下部位と、前記被検物質に対して特異的相互作用を生じる検出用物質を保持する検出部位と、前記滴下部位から前記検出部位に前記処理液が移動可能に前記滴下部位及び前記検出部位の間を接続する接続部位とを有する薄膜状の毛管移動媒体から構成される検査デバイスであって、
前記毛管移動媒体は前記被検査液中の前記被検物質以外の1種以上の特定成分に対して相互作用して呈色する呈色部材を少なくとも一部に含むことにある。
【0011】
上記課題を解決する請求項2に係る本発明の検査デバイスの特徴は、請求項1において、前記呈色部材が前記滴下部位又は前記接続部位に含まれることにある。
【0012】
上記課題を解決する請求項3に係る本発明の検査デバイスの特徴は、請求項1又は2において、前記毛管移動媒体が、前記滴下部位から前記検出部位に向けて前記処理液が移動する方向と反対方向且つ前記滴下部位に隣接する部位に前記呈色部材が配設される呈色部位をもつことにある。
【0013】
上記課題を解決する請求項4に係る本発明の検査デバイスの特徴は、請求項1〜3の何れか1項において、前記処理液が前記被検査液及び他の処理液とから構成され、、
前記呈色部材は前記処理液のうち後に滴下される処理液中に含まれる前記特定成分に対して相互作用することにある。
【0014】
上記課題を解決する請求項5に係る本発明の検査デバイスの特徴は、請求項1〜4の何れか1項において、前記呈色部材は、前記1種以上の特定成分の濃度及び/又は組み合わせに応じて呈色する色が異なる部材であるか、又は、前記1種以上の特定成分の濃度及び/又は組み合わせに応じてそれぞれ異なる色にて呈色する複数の部材から構成されており、
前記処理液は、それぞれ異なる組成にて前記1種以上の特定成分を含有している、2種以上の液体であることにある。
【0015】
上記課題を解決する請求項6に係る本発明の検査デバイスの特徴は、請求項1〜5の何れか1項において、前記呈色部材が、前記毛管移動媒体に共有結合され、前記特定成分との化学的な相互作用により呈色する物質であることにある。
【0016】
上記課題を解決する請求項7に係る本発明の検査デバイスの特徴は、請求項1〜6の何れか1項において、前記呈色部材が、前記特定成分の接触により変化する、pH、温度、磁気に応じて呈色することにある。
【0017】
上記課題を解決する請求項8に係る本発明の検査デバイスの特徴は、請求項1〜7の何れか1項において、前記特定成分が前記処理液中で溶解せずに懸濁する微粒子状物質であり、
前記呈色部材は前記特定成分の移動を抑制する網目状部材であることにある。
【0018】
上記課題を解決する請求項9に係る本発明の検査デバイスの特徴は、被検物質を含有する被検査液を含む1種又は2種以上の処理液が滴下される滴下部位と、前記被検物質に対して特異的相互作用を生じる検出用物質を保持する検出部位と、前記滴下部位から前記検出部位に前記処理液が移動可能に前記滴下部位及び前記検出部位の間を接続する接続部位とを有する薄膜状の毛管移動媒体から構成される検査デバイスであって、
前記毛管移動媒体の前記滴下部位は圧力により変色する感圧部材をもつことにある。
【発明の効果】
【0019】
上記のように構成した請求項1に係る検査デバイスにおいては、処理液の滴下に関連して呈色する呈色部材を有することにより、処理液の滴下という検査に必要な操作を今まで通りに行うだけで、どのような操作をどこまで(複数の検査デバイスを使用する場合)行ったかについての情報を視覚的に明らかにすることができる。その結果、検査デバイスに対する操作の間違い(重複滴下、滴下忘れ)を減少させることができるため、検査の精度が向上して検査の更なる品質向上が実現できる。また、操作の間違いに対する試験者の不安が無くなるため、検査を更に速やかに行うことができるようになって、被検査液を処理する数を増加させることが可能になり検査に要するコストを削減することができる。
【0020】
上記のように構成した請求項2に係る検査デバイスにおいては、呈色部材を配置する部位として、処理液を滴下する部位である滴下部位や、その滴下部位から処理液が速やかに流れていく接続部位を選択することにより、処理液を滴下する操作に対して速やかに呈色部材が呈色することが可能になって、処理液の滴下をどこまで行ったについての情報を速やかに試験者に伝達することが可能になり、操作の間違いを減少させることが可能になる。
【0021】
上記のように構成した請求項3に係る検査デバイスにおいては、滴下した処理液が滴下部位から検出部位に移動する間ではなく、滴下部位に隣接する部位であり検出部位に至る接続部位に対して反対側(上流側)に呈色部材を配置する呈色部位を設けることにより、検出部位に至る処理液には呈色部材が接触するおそれが小さくなって、呈色部材と処理液との望まれない相互作用や、呈色部材と検出部位に配置した検出用物質との望まれない相互作用の進行を防止することができる。例えば、呈色部材が処理液に溶解するようなときに、滴下した処理液が滴下部位から検出部位に移動する間に呈色部材を配置すると、そのままでは呈色部材の呈色が検出部位における、検出用物質及び被検物質の間の特異的相互作用に影響を与え、検査結果の精度が低下するおそれが想定されるが、本発明の検査デバイスのように、滴下部位から検出部位に向けての処理液の流れの外に呈色部材を設けることにより、呈色部材による検査結果への直接的な影響を減少させることができる。
【0022】
上記のように構成した請求項4に係る検査デバイスにおいては、処理液として被検査液とその他の処理液との2種類を用いた上で、その2種類の処理液のうち、後に滴下する処理液中に含まれる成分(特定成分)に対して相互作用する呈色部材を採用することにより、より簡便な構成にて上述したような本発明の効果を実現することができる。つまり、最初に滴下する処理液については毛管移動媒体に処理液が浸透することによる色の変化により滴下の有無を明らかにし、次に滴下する処理液についてはその処理液中に含まれる特定成分と相互作用する呈色部材の呈色により滴下の有無を明らかにするものである。
【0023】
上記のように構成した請求項5に係る検査デバイスにおいては、処理液が2種類以上あるときに、それぞれの処理液の中に含まれる特定成分の組成に応じて呈色する呈色部材を採用することにより、処理液のうちのどれを滴下したか、試験者がより正確に把握することができるものである。
【0024】
上記のように構成した請求項6に係る検査デバイスにおいては、呈色部材が毛管移動媒体に共有結合されているため、呈色部材が処理液の移動に伴い、検出部位に移動していって、検出部位における被検物質の検出に影響を与えるおそれが無くなるものである。
【0025】
上記のように構成した請求項7に係る検査デバイスにおいては、これらの特に応じて呈色する呈色部材を採用することから、呈色部材におけるより確実な呈色が実現できる。
【0026】
上記のように構成した請求項8に係る検査デバイスにおいては、特定成分として処理液に溶解しない微粒子状物質を採用し、呈色部材としての網目状部材にて補足する構成を採用することにより、より簡便な方法にて処理液の滴下の有無が明らかになると共に、網目状部材からなる呈色部材を採用することにより微粒子状物質が検出部位に移動して被検物質の検出に影響を及ぼすおそれが少なくなるものである。
【0027】
上記のように構成した請求項9に係る検査デバイスにおいては、処理液の滴下を行う部位である滴下部位に圧力により変色する感圧部材を配置することにより、滴下部位に接触させるように処理液を滴下することにより、感圧部材の変色の有無により、処理液を滴下したか否かについて判断が容易になるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明の検査デバイスについて以下実施形態に基づき詳細に説明を行う。
【0029】
本実施形態の検査デバイスがどのような原理により被検査液中に含まれる被検物質を検査するかについては特に限定しない。例えば、イムノクロマト法、ELISA法などやそれらの方法の原理を利用する方法が挙げられる。また、その他の一般的な物理的性質に基づき被検物質を検査するものであっても良い。例えば、pH、何らかの特異的な化学反応などである。
【0030】
本実施形態の検査デバイスは検査の対象となる被検査液を含む処理液を滴下して用いるデバイスであり、薄膜状の毛管移動媒体を有する。処理液としては被検査液の他、被検査液に含まれる被検物質を検出するための試薬などを含むものが例示できる。また、被検査液についても、被検物質を検出したい試料をそのまま適用する場合の他、そのような試料から何らかの方法により被検物質を抽出した液体を用いることもできる。望ましくは検査デバイスにおいて採用される被検物質の検出機構を阻害しないように、阻害するおそれがある成分を除去した液体を採用する。
【0031】
薄膜状の毛管移動媒体は繊維状物質や多孔質物質から構成されている。例えば、適正な高分子材料から形成された多孔質材料や、紙・布・不織布などのように、繊維状物質を薄膜状にした部材や、微粒子材料を薄板上に固着させた部材などが挙げられる。また、毛管移動媒体は使用される処理液に親和性をもつ材料から形成されることが望ましい。
【0032】
毛管移動媒体は滴下部位と検出部位と接続部位とをもつ。そして必要に応じて呈色部位をもつことがある。滴下部位は処理液を滴下する部位である。検出部位は被検物質に対して特異的相互作用を生じる検出用物質が保持されている。検出部位には定量のための対照となる試薬などが保持されることもある。接続部位は滴下部位と検出部位との間を接続する部材である。望ましくは、滴下部位、検出部位及び接続部位はすべて一体的に形成する。滴下部位、検出部位及び接続部位はそれぞれ望ましい厚みにすることができる。また、処理液は滴下部位から接続部位を介して検出部位に移動するが、その移動を円滑に進行させるために、検出部位に隣接する部位であって接続部位から処理液が流れてくる方向の反対側に多孔質部材を配設することが望ましい。この多孔質部材がドレインとして作用して処理液を吸収することにより、検出部位には順次新しい処理液が接続部位から移動してくることになり、多孔質部材が無い場合よりも多量の処理液を検出部位に接触させることができる。
【0033】
薄膜状の毛管移動媒体には呈色部材が配設されている。呈色部材は処理液中に含まれる被検物質以外の成分である特定成分との間で相互作用することにより呈色する部材である。特定成分は1種又は2種以上である。呈色部材についても1種又は2種以上である。処理液が複数ある場合には、それぞれの処理液毎に異なる呈色が進行するようにするために、それぞれの処理液毎に異なる呈色が進行する呈色部材を採用したり、それぞれの処理液に対応する複数の呈色部材を採用したりすることが望ましい。特に、処理液が2種の場合には後に滴下する処理液中に含まれる特定成分に対応して呈色する呈色部材を採用することが望ましい。
【0034】
呈色部材が毛管移動媒体のどの部位に配設されるかについては特に限定しない。例えば、滴下部位に配設することができる。処理液を滴下したときに速やかに呈色部材が呈色するため望ましい。接続部位に配設した場合でも速やかに滴下した処理液が呈色部材に到達可能となると思われるため望ましい。
【0035】
滴下した処理液が滴下部位から検出部位に移動する間ではなく、滴下部位に隣接する部位であり検出部位に至る接続部位に対して反対側(上流側)に呈色部材を配置する呈色部位を設けることにより、検出部位に至る処理液には呈色部材が接触するおそれが小さくなって、呈色部材と処理液との望まれない相互作用や、呈色部材と検出部位に配置した検出用物質との望まれない相互作用の進行を防止することができる。例えば、呈色部材が処理液に溶解するようなときに、滴下した処理液が滴下部位から検出部位に移動する間に呈色部材を配置すると、そのままでは呈色部材の呈色が検出部位における、検出用物質及び被検物質の間の特異的相互作用に影響を与え、検査結果の精度が低下するおそれが想定されるが、本発明の検査デバイスのように、滴下部位から検出部位に向けての処理液の流れの外に呈色部材を設けることにより、呈色部材による検査結果への直接的な影響を減少させることができる。
【0036】
呈色部材が呈色する機構としては特に限定しない。また、呈色部材及び特定成分との組み合わせが複数ある場合にはそれぞれの呈色部材としては同じ機構、異なる機構を問わずに採用することができる。そして、呈色部材としては、1つの呈色部材にて複数の特定成分の有無や、濃度に応じて呈色の程度が変わるものであっても良いし、複数の特定成分の構成は変わらなくても、その組成比が変化する場合にその変化する組成比に応じて呈色の程度が変化するものであっても良い。
【0037】
具体的な呈色部材としては、例えば、処理液毎の、pH、温度などの変化により変化する化学物質を採用可能である。pHにより呈色する呈色部材を採用する場合には、各処理液毎に含有する水素イオン(又は水素イオンを生成する物質)が特定成分に相当し、その濃度により決定されるpHに応じて呈色部材は呈色する。また、温度により変化する呈色部材を採用する場合には、その呈色部材が変化する温度になっている処理液の溶媒などが特定成分に相当する。なお、毛管移動媒体に液体を浸透させると、光の散乱が抑えられてその部分の色調が変化するが、本実施例における呈色部材の呈色には、そのような液体の浸透により変化する光の散乱の程度に由来する呈色は含まれないものとする。なお、前述の呈色に加えて副次的に毛管移動媒体の濡れによる色調の変化を利用することは排除しない。
【0038】
pHの変化により呈色する呈色部材としてはいわゆるpH試薬と称される物質をそのまま若しくは何らかの担体に担持して不溶化した状態で用いることができる。呈色部材としてpH試薬を採用する場合には、何らかの方法にて処理液に対して不溶化されていることが望ましい。具体的には、直接、毛管移動媒体を担体としてその表面に化学結合させることが望ましい。使用できるpH試薬としては特に限定されないが、クレゾールレッド、クレゾールパープル、メチルオレンジ、ニトロフェノール、フェノールレッド、チモールフタレインなどが例示できる。これらのpH試薬を担体に結合させる方法については特に限定しないが共有結合によることが望ましく、pHの変化による呈色に関与する原子団について変化させるないことが望ましい。
【0039】
温度の変化によって呈色する部材としては感温塗料などが例示できる。感温塗料は、処理液との間での相互作用により、望ましくない反応や溶解などが進行しない限り毛管移動媒体の表面に直接付着させることができる。また、直接的な接触により何らかの望ましくない相互作用が進行する場合には何らかの透明な膜にて封止することにより直接処理液に接触しないようにすることが望ましい。
【0040】
また、特定成分として磁性をもつ化合物や微粒子状物質を処理液中に含有させ、その特定成分との間で相互作用する磁性紙、磁石などを呈色部材として用いることができる。磁性をもつ特定成分が磁性紙などにより凝集することにより呈色する機構を利用する。
【0041】
そして、特定成分としては毛管移動媒体の表面において識別可能な色を持ち、処理液に溶解せずに懸濁している微粒子状物質を採用することができる。この場合に呈色部材としては、その微粒子状物質を補足可能な網目状部材を採用する。網目状部材としては特定成分としての微粒子状物質の粒径よりも小さな孔径をもつ多孔質材料(不織布などの繊維の集合体を含む)から構成することができる。呈色部材は微粒子状物質からなる特定成分を補足することにより呈色する。具体的な微粒子状物質としては一般的な顔料のうち、処理液に溶解しないものを適正な粒径になるように調製したものが挙げられる。網目状部材としては前述の毛管移動媒体を兼用することもできる。
【0042】
上記のように構成した本実施形態の検査デバイスにおいては、処理液の滴下に関連して呈色する呈色部材を有することにより、処理液の滴下という検査に必要な操作を今まで通りに行うだけで、どのような操作をどこまで行ったかについての情報を視覚的に明らかにすることができる。特に、複数の検査デバイスを並行して使用する場合にそれぞれの検査デバイス毎にどこまで操作が完了されたかについても判りやすくなる利点がある。その結果、検査デバイスに対する操作の間違い(重複滴下、滴下忘れ)を減少させることができるため、検査の精度が向上して検査の更なる品質向上が実現できる。また、操作の間違いに対する試験者の不安が無くなるため、検査を更に速やかに行うことができるようになって、被検査液を処理する数を増加させることが可能になり検査に要するコストを削減することができる。
【0043】
更に、特定成分は含有せず、毛管移動媒体の滴下部位に圧力により変色する感圧部材をもつものを採用することができる。感圧部材としては特に限定されず一般的な部材が採用できる。処理液の滴下を行う部位である滴下部位に圧力により変色する感圧部材を配置することにより、滴下部位に接触させるように処理液を滴下することにより、感圧部材の変色の有無により、処理液を滴下したか否かについて判断が容易になる。
【実施例】
【0044】
以下に実際の検査デバイスに適用した実施例を説明する。この実施例においては呈色部材としてpHの変化により呈色するクレゾールレッドを採用したものである。このクレゾールレッドは共有結合により毛管移動媒体に結合されている。
【0045】
本実施例にて用いる検査デバイスは、図1に示すように、滴下部位11、検出部位12、それらの間を接続する接続部位13からなり一体的に形成されている毛管移動媒体としての薄膜部材10とその薄膜部材10の一端部に接するように配設されている不織布からなる多孔質部材20とそれら薄膜部材10及び多孔質部材20を一面側に配設する板状基材30とを有する。滴下部位11には後述するクレゾールレッドが結合された多孔質膜が貼付されている。多孔質部材20は滴下部位11から移動してきた処理液を吸収して処理液の流れを滞らせないようにする部材である。
【0046】
薄膜部材10はセルロースアセテートからなる多孔質膜から形成されている。滴下部位に11にはクレゾールレッドが化学的に結合されている。クレゾールレッドを結合させる方法としては、クレゾールレッドにスルホ基を導入した後、多孔質膜が有するOH基に結合する方法にて行った。具体的には以下の通りである。クレゾールレッド濃硫酸でスルホン化した後、32%NaOHで中性に戻した水溶液を調製した。その溶液に滴下部位11を浸漬した。所定時間経過後、Na2CO3水溶液、NaOHを順に加えて反応を完了した。その後、水洗、乾燥した。クレゾールレッドは滴下部位11に均一に結合しており、水などの液体を滴下してもにじむことが無かった。検出部位12には模擬抗体及び補足抗体を結合した。
・試料の前処理(被検査液の調製)
測定対象である試料(絶縁油:PCB含有)をマイクロチューブ中に0.2g(0.24mL)量り取った。DMSOを0.5mL添加して30秒間震とう混合した。遠心分離機にて処理した(5000G、1分間)。
【0047】
下層に分離したDMSOを0.4mL量り取り、n−ヘキサン(0.5mL)/4%食塩水(0.2mL)に添加して、30秒間震とう混合した。その後、遠心分離機にて遠心分離を行った(5000G、1分間)。
【0048】
上層に分離したDMSOを0.4mL量り取り、硝酸銀カラムに滴下した。その後、カラムにヘキサン2mLを通過させ、そのヘキサンは廃棄した。更にヘキサン6mLを通過させ、そのヘキサンは回収し、DMSO300μLを添加した。この混合液を65℃にて1.5時間加熱してヘキサンを揮発除去し、残ったDMSO溶液を回収した。
【0049】
アルカリホスファターゼ標識PCB抗体(凍結乾燥品)に溶解緩衝液を加え完全に溶解させた。得られた溶液を0.1mLずつバイアルに分注し、更に先述したDMSO溶液を2μL添加した。10秒間、震とう混合した後、1時間放置し、被検査液(pH7.5)とした。
・被検査液の測定(PCB含有量の測定)
本実施例の検査デバイスの滴下部位11に被検査液(処理液)を75μL滴下し、20分間放置した。被検査液は検出部位12に移動して含有するPCBが補足抗体により補足されたものと思われる。このときに被検査液のpHは7.5なので、クレゾールレッドは変化せず、呈色しない。しかしながら、被検査液を滴下したことにより濡れていることは判別可能であった。
【0050】
アルカリフォスファターゼ発色基質(BCIP/NBT)のタブレットを滅菌水10mL中に溶解した溶液(発色剤溶液:処理液:pH9.5)を滴下部位11に75μL滴下した。発色剤溶液のpHは9.5であるため、クレゾールレッドは速やかに青紫色に呈色した。
【0051】
滴下した発色剤溶液は検出部位12に移動いていき、補足抗体が存在する部分においては補足した被検物質としてのPCB濃度に応じて発色し、模擬抗体の部分においてはその模擬抗体の量に応じて発色した。これらの発色も青紫色であるが、滴下部位11とは物理的に分離されていると共に、滴下部位11に結合したクレゾールレッドも流出しないため、検出部位12における発色には影響しなかった。
【0052】
従って、複数の検査デバイスを用いて検査を行う場合であっても、どこまで処理液を滴下したかは十分に把握できることが判った。
【0053】
なお、呈色部材を結合する部位としては滴下部位11を採用したが、その他の部位を呈色部位として採用することもできる。例えば、図1における呈色部位14(滴下部位11に隣接する部位であって滴下部位11から検出部位12に処理液が移動する方向の反対方向に位置する部位)に結合することもできる。これらの部位に呈色部材を配置する場合には特に共有結合させておかなくても呈色部材は検出部位12に移動せず、検出部位12における発色を阻害するおそれはない。
【0054】
また、図1に示す検査デバイスにおいては、滴下部位11が網目状部材としても作用可能なので、特定成分として着色した微粒子状物質を採用することもできる。また、滴下部位11としてクレゾールレッドを結合した多孔質膜を貼付する代わりに感圧部材としての感圧紙を貼付することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】図である。
【符号の説明】
【0056】
10…薄膜基材 11…滴下部位 12…検出部位 13…接続部位 14…呈色部位
20…多孔質部材
30…板状基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検物質を含有する被検査液を含む1種又は2種以上の処理液が滴下される滴下部位と、前記被検物質に対して特異的相互作用を生じる検出用物質を保持する検出部位と、前記滴下部位から前記検出部位に前記処理液が移動可能に前記滴下部位及び前記検出部位の間を接続する接続部位とを有する薄膜状の毛管移動媒体から構成される検査デバイスであって、
前記毛管移動媒体は前記被検査液中の前記被検物質以外の1種以上の特定成分に対して相互作用して呈色する呈色部材を少なくとも一部に含むことを特徴とする検査デバイス。
【請求項2】
前記呈色部材は前記滴下部位又は前記接続部位に含まれる請求項1に記載の検査デバイス。
【請求項3】
前記毛管移動媒体は、前記滴下部位から前記検出部位に向けて前記処理液が移動する方向と反対方向且つ前記滴下部位に隣接する部位に前記呈色部材が配設される呈色部位をもつ請求項1又は2に記載の検査デバイス。
【請求項4】
前記処理液は前記被検査液及び他の処理液とから構成され、、
前記呈色部材は前記処理液のうち後に滴下される処理液中に含まれる前記特定成分に対して相互作用する請求項1〜3の何れか1項に記載の検査デバイス。
【請求項5】
前記呈色部材は、前記1種以上の特定成分の濃度及び/又は組み合わせに応じて呈色する色が異なる部材であるか、又は、前記1種以上の特定成分の濃度及び/又は組み合わせに応じてそれぞれ異なる色にて呈色する複数の部材から構成されており、
前記処理液は、それぞれ異なる組成にて前記1種以上の特定成分を含有している、2種以上の液体である請求項1〜4の何れか1項に記載の検査デバイス。
【請求項6】
前記呈色部材は、前記毛管移動媒体に共有結合され、前記特定成分との化学的な相互作用により呈色する物質である請求項1〜5の何れか1項に記載の検査デバイス。
【請求項7】
前記呈色部材は、前記特定成分の接触により変化する、pH、温度、磁気に応じて呈色する請求項1〜6の何れか1項に記載の検査デバイス。
【請求項8】
前記特定成分は前記処理液中で溶解せずに懸濁する微粒子状物質であり、
前記呈色部材は前記特定成分の移動を抑制する網目状部材である請求項1〜7の何れか1項に記載の検査デバイス。
【請求項9】
被検物質を含有する被検査液を含む1種又は2種以上の処理液が滴下される滴下部位と、前記被検物質に対して特異的相互作用を生じる検出用物質を保持する検出部位と、前記滴下部位から前記検出部位に前記処理液が移動可能に前記滴下部位及び前記検出部位の間を接続する接続部位とを有する薄膜状の毛管移動媒体から構成される検査デバイスであって、
前記毛管移動媒体の前記滴下部位は圧力により変色する感圧部材をもつことを特徴とする検査デバイス。

【図1】
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【公開番号】特開2009−210273(P2009−210273A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−50679(P2008−50679)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】