説明

検査装置

【課題】常に一定の精度でリチウムイオン二次電池電極を検査可能な検査装置を提供する。
【解決手段】搬送される電極10に電極合剤12が均一の厚みで塗布されているか否かを検査する検査装置1であって、電極10に対する信号強度を連続的に計測する可動センサ4と、可動センサ4の校正に使用される基準材2と、基準材2に対する信号強度を連続的に計測する固定センサ3と、を備え、可動センサ4による電極10の検査の初期校正として、空気層に対する固定センサ3と可動センサ4との信号強度の差、及び基準材2に対する固定センサ3と可動センサ4との信号強度の差に基づいて可動センサ4を校正し、可動センサ4によって電極10に対する信号強度を計測すると同時に、固定センサ3によって基準材2に対する信号強度を計測し、前記初期校正における基準材2に対する固定センサ3の信号強度との差に基づいて可動センサ4を校正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査装置に関し、特に、超音波センサを用いてリチウムイオン二次電池電極の電極合剤の厚みを検査する検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池電極(以下、単に「電池電極」という。)は、アルミニウム箔や銅箔等の集電体の表面に、活物質(正極活物質又は負極活物質)とバインダーとを溶媒で混練したペースト状の電極合剤を塗布した後、ロール圧縮等の所定の処理を経て形成される。この時、電極合剤が均一の厚みで塗布されていないと、充放電時に電池電極の厚い部分に電流が集中しやすくなり、微短絡が起こりやすくなる等の問題がある。そのため、電池電極の電極合剤が均一の厚みで塗布されているか否かを検査する必要がある。
【0003】
このような検査に際して、超音波センサによって、電極合剤が塗布された電池電極に対する信号強度を連続的に計測して、電極合剤の厚みの均一性を評価する検査装置が用いられている。
超音波センサは、対象物の有無や対象物までの距離の検出等に用いられるセンサであり、特許文献1のような装置等にも用いられ公知となっている。上記検査装置の超音波センサは、いわゆる透過型の超音波センサであり、電池電極を介して互いに対向する位置に配置された超音波の発信用及び受信用の一対のセンサによって、電極合剤が塗布された電池電極に対する信号強度、つまり電池電極に発信され、該電池電極を透過した超音波信号の強度の測定が行われる。
【0004】
また、上記検査装置は、電池電極の検査前に所定の基準材を超音波センサによって計測し、この計測値を基に超音波センサを校正する構成をとっている。
しかし、検査前にのみ超音波センサが校正され、その後は検査開始から検査終了まで超音波センサの校正が行われないため、長尺物、例えば、数千メートルもの電池電極を検査する場合、検査の経過に伴う大気の流れや温度の変化等の外乱要因によって超音波センサの精度にバラツキが生じる等の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−201219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、常に一定の精度でリチウムイオン二次電池電極を検査可能な検査装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の検査装置は、搬送されるリチウムイオン二次電池電極に電極合剤が均一の厚みで塗布されているかを検査する検査装置であって、前記リチウムイオン二次電池電極に対する信号強度を連続的に計測する第一の超音波センサと、該第一の超音波センサの校正に使用される基準材と、該基準材に対する信号強度を連続的に計測する第二の超音波センサと、を備え、前記第一の超音波センサによる前記リチウムイオン二次電池電極の検査の初期校正として、空気層に対する前記第一の超音波センサと前記第二の超音波センサとの信号強度の差、及び前記基準材に対する前記第一の超音波センサと前記第二の超音波センサとの信号強度の差に基づいて前記第一の超音波センサを校正し、前記第一の超音波センサによって前記リチウムイオン二次電池電極に対する信号強度を計測すると同時に、前記第二の超音波センサによって前記基準材に対する信号強度を計測し、前記初期校正における前記基準材に対する前記第二の超音波センサの信号強度との差に基づいて前記第一の超音波センサを校正するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、リチウムイオン二次電池電極の検査前の超音波センサと同様の状態を担保することができ、超音波センサが常に一定の精度でリチウムイオン二次電池電極に対する信号強度を計測することが可能となる。したがって、リチウムイオン二次電池電極の集電体に塗布された電極合剤の厚みの均一性の評価を正確なものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態に係る検査装置の構成を示す斜視図。
【図2】可動センサの初期校正を示す図であり、(a)は固定センサ及び可動センサによる空気層に対する信号強度の計測を示す図、(b)は固定センサ及び可動センサによる基準材に対する信号強度の計測を示す図。
【図3】可動センサの初期校正を示す図。
【図4】可動センサによる電極に対する信号強度の計測、及び固定センサによる基準材に対する信号強度の計測を示す図。
【図5】可動センサの校正を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下では、本発明の一実施形態に係る検査装置1について説明する。
【0011】
検査装置1は、電極10の集電体11に電極合剤12が均一の厚みで塗布されているか否かを検査するものである。
電極10は、アルミニウム箔や銅箔等の長尺状の金属箔である集電体11の表面に、活物質(正極活物質又は負極活物質)とバインダーとを溶媒で混練したペースト状の電極合剤12を塗布したものである。電極10は、例えば、リチウムイオン二次電池等の電池電極として用いられる。
【0012】
図1に示すように、検査装置1は、基準材2、固定センサ3、可動センサ4、及び制御手段5を備える。
【0013】
基準材2は、面精度及び密度が把握されているアルミニウム箔や銅箔等の金属箔であり、所定の位置に固設される。
【0014】
固定センサ3は、固定発信探触子3S及び固定受信探触子3Rからなる一対の透過型超音波センサである。
固定発信探触子3S及び固定受信探触子3Rは、基準材2を介して対向するように固設され、固定発信探触子3Sが基準材2に向けて超音波を発信し、基準材2を透過した超音波(透過波)を固定受信探触子3Rが受信することで基準材2に対する信号強度(基準材2に向けて発信され、基準材2を透過した超音波信号の強度)を計測する。
【0015】
可動センサ4は、固定センサ3と同様に、可動発信探触子4S及び可動受信探触子4Rからなる一対の透過型超音波センサである。
可動発信探触子4S及び可動受信探触子4Rは、図示しないローラ等の搬送手段によって搬送される電極10を介して対向するように配設され、可動発信探触子4Sが電極10に向けて超音波を発信し、電極10を透過した超音波(透過波)を可動受信探触子4Rが受信することで電極10に対する信号強度(電極10に向けて発信され、電極10を透過した超音波信号の強度)を計測する。可動発信探触子4S及び可動受信探触子4Rは、電極10が搬送される方向と直交し、電極10が延在する方向(電極10の幅方向)に向けて一体的に移動可能に構成され、かつ、電極10の幅方向に対して所定範囲内を往復移動可能に構成されている。
固定センサ3は、例えば電極10の幅方向における側方、かつ電極10の搬送方向において可動センサ4と同じ位置に配置されている。
なお、固定センサ3及び可動センサ4における超音波の周波数は、空気中を伝搬可能な値であって、対象物の材質等によって最適な値(例えば、100KHz以下)として設定される。
【0016】
制御手段5は、固定センサ3及び可動センサ4と電気的に接続され、固定センサ3及び可動センサ4によって計測された信号強度を取得し、予め記憶された評価用の閾値等に基づいて、電極10の集電体11に塗布された電極合剤12の厚みの均一性を評価するものである。
詳細には、長手方向に向けて搬送される電極10に対する信号強度を、電極10の幅方向(電極10の搬送方向と直交する方向)に、固定センサ3に対して近接離間移動する可動センサ4によって連続的に計測し、その計測結果を制御手段5に予め記憶された評価用の閾値等と比較することで、その良否を判定する。
【0017】
制御手段5は、また、可動センサ4によって電極10に対する信号強度を計測する時、つまりライン稼動中、及びライン稼動前に可動センサ4の校正を行う。
【0018】
まず、ライン稼動前における制御手段5による可動センサ4の初期校正について説明する。
【0019】
図2(a)に示すように、固定センサ3及び可動センサ4によって、空気層に対する(超音波センサによる計測対象物が無い状態、すなわち固定発信探触子3Sと固定受信探触子3Rとの間、及び可動発信探触子4Sと可動受信探触子4Rとの間に計測対象物が無い状態での)信号強度を計測し、固定センサ3によって計測された信号強度をA1K、可動センサ4によって計測された信号強度をA1Mとする。なお、説明の便宜上、以下の説明では、A1K>A1Mとするが、これらの値の関係を限定するものではない。
そして、A1KとA1Mとの差を、固定センサ3と可動センサ4との初期機差A1Dとする(A1D=|A1K−A1M|)。
【0020】
続いて、図2(b)に示すように、固定センサ3及び可動センサ4によって基準材2に対する信号強度を計測し、固定センサ3によって計測された信号強度をB1K、可動センサ4によって計測された信号強度をB1Mとする。
そして、B1KとB1Mとの差を、固定センサ3と可動センサ4との初期機差B1Dとする(B1D=|B1K−B1M|)。
【0021】
図3に示すように、初期機差A1Dと初期機差B1Dとを比較して、初期機差B1Dが初期機差A1Dよりも大きい場合等、初期機差A1Dと初期機差B1Dとが等しくない場合には、制御手段5によって初期機差A1Dと初期機差B1Dとが等しくなるようにB1Mが補正されることで、可動センサ4の初期校正が行われる。
初期機差A1Dと初期機差B1Dとが等しい場合には、前述のような初期校正は行われない。
このように、固定センサ3と可動センサ4との機差を把握し、ライン稼動前に可動センサ4を初期校正することによって、可動センサ4の精度を担保する。
【0022】
次に、ライン稼動中における制御手段5による可動センサ4の校正について説明する。
【0023】
図4に示すように、可動センサ4によって電極10に対する信号強度を計測すると同時に、固定センサ3によって基準材2に対する信号強度も計測する。この時、可動センサ4によって計測された信号強度をB2M、固定センサ3によって計測された信号強度をB2Kとする。
【0024】
続いて、図5に示すように、ライン稼動前に固定センサ3によって計測された基準材2に対する信号強度であるB1Kと、ライン稼動中に固定センサ3によって計測された基準材2に対する信号強度であるB2Kとを比較して、B2KがB1Kよりも大きい場合等、B1KとB2Kとが等しくない場合には、B1KとB2Kとの差、つまりライン稼動前とライン稼動中の固定センサ3の基準材2に対する信号強度のズレが制御手段5によって算出される。この算出された値をDとする。
【0025】
このようなズレは、大気の流れや温度の変化等の外乱要因によって発生すると考えられるので、このズレを基にして制御手段5によって可動センサ4の校正が行われる。
具体的には、B2KはB1KよりDの分だけ大きい(換言すれば、ライン稼動前よりも固定センサ3によって計測された基準材2に対する信号強度がDの分だけ大きくなっている)ので、ライン稼動中に可動センサ4によって計測された電極10に対する信号強度であるB2MからDを減ずる補正がされることで、可動センサ4の校正が行われる。なお、B2KがB1Kよりも小さい場合も同様にして可動センサ4の校正が行われる。
B1KとB2Kとが等しい場合には、前述のような校正は行われない。
【0026】
上記のように、ライン稼動前には、固定センサ3と可動センサ4との機差を把握して可動センサ4を校正し、ライン稼動中には、大気の流れや温度の変化等の外乱要因を考慮して計測ごとに可動センサ4を校正することで、ライン稼動前の可動センサ4と同様の状態を担保することができ、可動センサ4が常に一定の精度で電極10に対する信号強度を計測することが可能となる。したがって、検査装置1による電極10の集電体11に塗布された電極合剤12の厚みの均一性の評価を正確なものとすることができる。
また、大気の流れや温度を常にモニタリングして、その計測値等を基に可動センサ4を校正するよりも、電極合剤12の厚みの均一性の評価の正確性、及び検査装置1の構成の容易性等の点で有益である。
【符号の説明】
【0027】
1 検査装置
2 基準材
3 固定センサ
4 可動センサ
5 制御手段
10 電極
11 集電体
12 電極合剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送されるリチウムイオン二次電池電極に電極合剤が均一の厚みで塗布されているか否かを検査する検査装置であって、
前記リチウムイオン二次電池電極に対する信号強度を連続的に計測する第一の超音波センサと、
該第一の超音波センサの校正に使用される基準材と、
該基準材に対する信号強度を連続的に計測する第二の超音波センサと、を備え、
前記第一の超音波センサによる前記リチウムイオン二次電池電極の検査の初期校正として、空気層に対する前記第一の超音波センサと前記第二の超音波センサとの信号強度の差、及び前記基準材に対する前記第一の超音波センサと前記第二の超音波センサとの信号強度の差に基づいて前記第一の超音波センサを校正し、
前記第一の超音波センサによって前記リチウムイオン二次電池電極に対する信号強度を計測すると同時に、前記第二の超音波センサによって前記基準材に対する信号強度を計測し、前記初期校正における前記基準材に対する前記第二の超音波センサの信号強度との差に基づいて前記第一の超音波センサを校正する検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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