説明

楕円ビーム整形光学系とその均一性向上方法

【課題】 ガウシアン分布するレーザビームを均一パワーの楕円断面ビームにすること。
【解決手段】 直径Dのガウシアンビームを楕円断面(アスペクト比a)の均一化ビームにするために、シリンドリカルレンズZ1と、Z1から距離dに置かれたガウシアンビームを均一化ビームにし、焦点距離L2を有する強度変換レンズZ2と、Z2から距離bに置かれた像面Iとよりなり、シリンドリカルレンズZ1によってZ2面でのビームの短径がD’となるようにし、Z1とZ2の合成焦点距離をLとし、Db=LD’が成り立つように強度変換レンズZ2の焦点距離L2を計算し、そのような焦点距離L1、L2のレンズが像面に作る楕円の形状を求め、所望のアスペクト比に達しない場合はL2を2(Db(L1−d))/(D’L1−Db)≧L2≧(Db(L1−d))/(D’L1−Db)の範囲で増やし像面でのアスペクト比aが所望の値に到達するまで繰り返す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ガウシアン分布するレーザビームから、楕円断面で均一パワー密度を持つレーザビームを生成する楕円ビーム生成光学系に関する。強いパワー密度を持つレーザビームによって対象物に穴開け、熱処理、切断、溶接などの処理をすることをレーザ加工という。
【0002】
レーザ加工は、対象物や目的によって炭酸ガスレ−ザ、YAGレーザなどのパルス光や連続光が用いられる。レーザビームは、中心部でパワー密度が高く、周辺部で低い不均一パワー分布をしている。実際には分布は様々であるが、理想的にはガウシアン分布するので、レーザからのビームを簡単にガウシアンビームと呼ぶ。
【0003】
レーザビームはそのまま(ガウシアンビーム)で加工に利用できることもあるが、ある範囲でパワー密度が均一であることが望まれることもある。対象物に丸穴を穿孔したいという場合は、ガウシアンビームをレンズまたは回折型光学部品である円領域で一様のパワー密度を持つビーム(トップハット)に変換してから、レンズで絞って対象物に照射する。
【0004】
頻度はそれほど多くないが、対象物に楕円の穴を穿孔したいという場合もある。その場合、ガウシアン分布の楕円ビームで良いということもあるが、目的によっては均一パワー分布する楕円分布のレーザ光が必要だということもある。均一パワー分布する楕円断面のビームを作る手段は未だにない。均一パワー分布する円形断面のレ−ザ光を生成する方法は、既に幾つか存在する。そこで、楕円開口部を持つマスクで均一パワー円形断面のビームを楕円ビームに変形するという方法も考えられるが、それではビームのパワーの一部が損失になるので望ましくない。パワー損失なしに、円形断面ガウシアンビームを楕円均一パワービームに変換することが望まれる。
【0005】
円形断面の光を楕円断面に変換するには、シリンドリカルレンズを利用すれば良い。シリンドリカルレンズは一軸性のレンズである。軸方向に同一の凸型断面を持つ。軸方向には集光性がなく軸直交方向にだけ集光性がある。だから円形断面のビームを楕円断面に変換することができる。しかしそれだけでは均一パワー分布する楕円断面のビームを作ることはできない。
【0006】
円形断面のガウシアンビームを円形断面の均一パワー密度(トップハット)に変換するレンズ光学系、回折型光学部品(DOE)光学系も存在する。シリンドリカルレンズと均一パワー分布円形断面ビームに変換するレンズ系を組み合わせると、均一楕円断面のビームができる筈である。しかしそれには未だ問題がある。
【背景技術】
【0007】
円形断面のガウシアンビームを円形断面の均一パワー密度(トップハット)に変換するレンズ光学系は、様々な人によって提案されている。例えば特許文献1のようなものがある。これは2枚の非球面レンズZh、Zqを組み合わせたものである。図1に、ガウシアンビームを円形断面均一パワー分布に変える特許文献1に提案されたレンズ系を示す。ビームの伝搬方向をz方向とし、レンズ面はxy面とする。
【0008】
Zhは、ガウシアン分布するビームをある面で、ある半径Rmの範囲で一定強度にし、その外側では強度を0にする(強度分布が山高帽に似ているのでトップハットと言う)もので、強度変換レンズと呼ぶ。強度変換レンズZhは、前面は平坦で後面は中央で窪み60を有し、中間部に凸部62、63を有し、周辺では厚みが減少する面となっている。つまり凸凹凸の形状である。レンズなので軸線周りに同じ形状を持つ回転対称性がある。凸部62、63は、だから一続きのものである。反対に、後面を平坦にし前面を凸凹凸の形状にしてもよい。前後面に凹凸を配分してもよい。それは中央部ではビームを広げ、周辺部ではビームを縮めるようにするためである。球面レンズでは製作するのが難しいので非球面レンズとする。非球面と言っても回転対称性はあり、素材を回転させながら刃物で表面を削り、曲面を創成してゆく。
【0009】
強度変換レンズZhによって、入射ビームWがある半径U内で均一パワー分布になるが、位相が歪んでいる。そこでビームの位相を揃え、ビームの方向を軸線方向に直す必要がある。そのためにもう一つのレンズが設けられる。それが位相補正レンズZqである。これは前面中央部近くが凸面66で中間部が凹部64、65を持ち、周辺部が平板のレンズである。円筒対称であり、凹部64、65は一つのものである。これも球面では作りにくくて、非球面レンズとする。強度変換レンズと位相補正レンズの距離をgとする。gを均一化距離と呼ぶ。Zh,Zqは半径Wでガウシアン分布するビームを半径Uの均一パワーにするレンズである。だから入射ガウシアンビーム半径Wを均一化可能半径Wと呼ぶこともある。均一化する前の半径である。これに対して均一化後の半径を均一化半径Uと言う。均一化可能半径Wと均一化半径Uと均一化距離gが強度変換レンズZh、位相補正レンズZqの重要なパラメータである。ガウシアンビームの半径Wというのは、中央部の強度を1とし、exp(−2)に強度が低下した所までの中央からの距離として定義する。
【0010】
図1のホモジナイザーレンズはW=Uの例である。しかしWが必ずUに等しくなくても良い。ここでは半径Wのガウシアンビームを半径Uの均一化ビームにするのが強度変換レンズZhであり、半径Uの均一化ビームを半径Uの位相同一平行ビームにするのが位相補正レンズZqである。図1に示すように強度変換レンズZhから位相補正レンズZqまでの距離gは明確に決まっている。その値より近くても遠くても位相補正レンズZqによって位相同一平行ビームに直す事はできない。
【0011】
レーザからのガウシアンビームに含まれる光線を70〜82で示す。強度変換レンズZhの端の方に入射した光線70、71、82は凸面62、63の傾きの外にあるからZhで内方へ曲がる。位相補正レンズZqの凹部64、65の外に至り、ここで軸線に平行なビームとなる。周辺部の弱いパワーが集められて強度が増強される。中央部のパワー密度の高い光線73〜80は強度変換レンズZhの凹面60で広げられる。位相補正レンズZqに至る時にはかなり分散している。それがZqによって平行で位相の揃った光線となる。丁度凸部62を通る光線は、ほぼ直進して位相補正レンズZqの凹部64に至り、平行性を得る。そのようにガウシアンビームの中央部の光線は広げられ、周辺部の光線は縮められて、位相補正レンズZqの直後では位相が揃った強度分布が均一のトップハットビームとなる。このようなレンズをホモジナイザーと呼ぶこともある。円形断面のガウシアンビームを円形断面のトップハットとするものである。
【0012】
特許文献1以外にも沢山の均一化のためのレンズ系が提案されている。ガウシアンビームの半径Wと均一化ビームの半径Uが異なるものもあるが、それは集光作用あるいは発散作用を与える凸面、凹面をレンズに付加すればよいのであって、基本は特許文献1のようなものである。
【0013】
ところが楕円断面のビームで均一化するような光学系は未だ存在しない。円形断面ビームを楕円断面に変形するために、シリンドリカルレンズが第一の候補に上がるであろう。シリンドリカルレンズと上記図1のホモジナイザーレンズを組み合わせると均一分布の楕円ビームが得られるように思われるであろう。

【0014】
図2、図3にシリンドリカルレンズと円形均一ビームに変換するホモジナイザーレンズを組み合わせたビーム整形光学系の例を示す。これは実験のための光学系であり、楕円断面ビームの生成用に実際に使用されているのではない。図2はzy断面を示す。図3はzx断面を示す。そのようにシリンドリカルレンズZs、Ztはy方向だけビームを縮小する。
【0015】
この光学系はシリンドリカル凸レンズZsとシリンドリカル凹レンズZtと非球面タイプの強度変換レンズZhの3枚から構成される。位相補正レンズZqは省いてある。そのかわり位相補正レンズの位置に像面Iを置く。
【0016】
シリンドリカル凸レンズZsとシリンドリカル凹レンズZtはビームをy方向だけ縮小しx方向はそのままの寸法を維持するようなレンズである。y方向だけに有限の曲率を持ち、x方向には曲率が0であるようなレンズである。Zsはy方向のみに凸、Ztはy方向のみに凹である。楕円断面の平行ビームにするために二つのレンズを組み合わせる必要がある。ZsとZtを含めてレデューサーレンズという。ZsとZtの距離をd’、ZtとZhの距離をe、Zhと像Jの距離をgとする。
【0017】
円形断面のガウスビーム5を、レデューサーレンズZs、Ztによって異方性収束ビーム6にする。Ztの後では軸線に平行な楕円断面ビーム7となる。それはx方向にもy方向にもガウスパワー分布を持つ。
【0018】
それを強度変換レンズZhでパワー均一化ビーム8とする。
【0019】
位相補正レンズZqのあるべき位置に像面Iを設ける。像面Iの上に楕円断面の像Jができる。図1のような均一光学系でZhとZqの距離をgとする場合、Zhと像面Iの距離をgに等しくとる。像Jで少なくともx方向のパワー分布は均一に近くなる筈である。
【0020】
【特許文献1】米国特許第3,476,463
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
図2、3のZs+Zt+Zhの光学系でガウシアンビームを整形すると、図4、図5に示すような分布になる。図4で横軸は像面Iにおける像Jのビーム断面の長径側(長軸)における中心からの半径方向の距離である。図5で横軸は像面Iにおける像Jのビーム断面の短径側(短軸)における中心からの半径方向の距離である。縦軸はビーム強度である。図4のようにビーム強度は長径側では均一な分布になる。しかし図5のように短径側の強度分布が均一にならない。図8(1)に楕円断面でのパワー分布を等高線で示す。
【0022】
シリンドリカルレンズに入射するビーム径が、ビーム整形レンズでビーム均一化するための仕様値であることを前提とすると、長径側の強度分布は均一になる。ところが短径側は、ビーム整形レンズに入射するビーム径がシリンドリカルレデューサーにより仕様値より小さくなるので、均一にならない。これは、設計仕様より入射ビーム径が小さくなると急峻性や均一性が損なわれるビーム整形レンズ(強度変換レンズ)Zh特有の特性によるものである。
【0023】
そうすると、強度変換レンズZhを回転対称の形状でなく、xy方向に異方性を持つようにし、x方向(長軸方向)にはそのままで、y軸(短軸)方向には凸凹凸の形状を縮小すれば良いはずである。シリンドリカルレンズによるy方向の縮小比に等しく凸凹凸の寸法を縮小すると問題はなくなる筈である。そうすればxy方向に均一な楕円断面ビームが得られる。
【0024】
しかしながら回転対称性のないレンズは作りにくい。非球面レンズであっても、素材を軸廻りに回転させながら刃物で凹凸面を削ってゆくのである。だからどうしても回転対称性あるレンズしか作ることができない。楕円断面で均一パワーを生成するため、凹凸面が楕円分布をしたレンズの表面の高さ分布は、いくらでも計算することができる。しかし計算できるということと、作製できるということは別である。素材を回転させながら作るのでは、非回転対称のレンズを作ることはできない。型で作るプラスチックレンズならできようが、石英や光学ガラスで、非回転対称のレンズは簡単には製作できない。手間を掛けるとできるが高コストになり実用的でない。
【0025】
非回転対称性のあるレンズを使うことなく、円筒対称性のあるビーム整形レンズ(強度変換レンズ)Zhを用いながら、均一分布を持つ楕円断面のビームを作りだす光学系を提供することが、本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0026】
所望の楕円断面の半径をRa、Rbとする。シリンドリカル凸レンズZ1と、均一可能半径Wが、W≦Rb<Raのビーム整形レンズ(強度変換レンズ)Z2とだけを用い、シリンドリカル凸レンズZ1とビーム整形レンズZ2を所望の楕円断面(Ra、Rb)を得るような距離に接近させる。かつ像面Iとビーム整形レンズZ2の距離bを、ビーム整形レンズの均一化距離gより短くする。
【発明の効果】
【0027】
シリンドリカルレンズによって楕円断面のビームとし、これを回転対称性のある強度変換(ビーム整形レンズ)レンズに通したとき、短軸側のビーム強度の均一性が向上する。短軸側の強度均一性と長軸側の強度均一性は相補性がある。両立させることはできない。短軸側の均一性を重視する場合は、均一可能半径WがRbに近いビーム整形レンズを用いる。長軸側の均一性を重視する場合は、均一化可能半径WがRaに近いレンズを用いる。短軸側、長軸側の両方の均一性を同時に高めることはできない。しかしWとbの選び方によって、所望の比率で短軸側と長軸側の均一性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
より詳しく本発明の本質を定義する必要がある。強度変換レンズZhと位相補正レンズZqからなるホモジナイザーレンズ系について、均一化半径Uというものと、両レンズの適正距離gというものが何であるのか? 曲面の式や実効焦点距離と対応させて論じる必要がある。入射ガウシアンビームの半径Wは、中心の強度のexp(−2)に減衰する点までの距離として定義されるが、これとホモジナイザーの均一化半径Uとはどういう関係にあるのか?というようなことをよりはっきりさせなければならない。
【0029】
図9は強度変換レンズZhと位相補正レンズZqを示す説明図である。光軸lmに関して回転対称のレンズである。計算を簡単にするために、強度変換レンズZhの入射側は平坦面、位相補正レンズZqの出射側は平坦面だとする。図1のように強度変換レンズZhも位相補正レンズZqも、一部凸一部凹という複雑な形状をしている。中央部だけを見れば強度変換レンズZhは凹レンズ、位相補正レンズZqは凸レンズである。勿論強度変換レンズZhを両凹に、位相補正レンズZqを両凸にすることもできる。中央部だけを見て、実効的な焦点距離Fというものと均一化距離g、均一化半径U、ガウシアンビーム半径(均一化可能半径)Wとの具体的な関係を求めよう。これはかなり複雑な関係にある。レンズ設計において正しく理解しておく必要がある。
【0030】
光軸lmに平行なガウシアンビームがE点から強度変換レンズZhに入りK点で出射する。レンズの屈折率をnとする。ZhはK点で凹面であるから、広がる方向へ屈折される。K点の面の傾き角をαとする。平行ビームなのでこれが法線とビームのなす角度である。スネルの法則がここで成り立つ。
【0031】
屈折角をθ=α+φとする。ビームはφだけ上方へ屈折する。自由空間をqだけ伝搬して位相補正レンズZqの前面M点に至る。M点で屈折しMNとなる。MNは光軸lmに平行である。M点でもスネルの法則が成り立つがK点と同じ式になる。M点での入射角度はθ=α+φであって、屈折角はαであるべきである。だからK点でのZhの接線とM点でのZqの接線は平行である。K、M点でのスネルの法則は次にように書く事ができる。
【0032】
nsinα=sinθ=sin(α+φ) (1)
【0033】
レーザの入射ビームはガウシアンビームだという仮定である。レーザビーム半径をW、半径座標をsとすると入射ガウシアンビームのパワー密度はBexp(−2s/W)と表現することができる。ガウシアンビームの半径はe−2に減衰する位置の中心からの距離として定義されるから、上の式でWがビーム半径となる。
【0034】
強度変換レンズZhの半径sでの幅dsの円周部はパワー密度に2πsdsを乗じたパワーを持つ。位相補正レンズZqの半径座標をrとする。位相補正レンズZqの均一化半径をUとする。均一化半径Uというのはその中では一様パワー密度、その外ではパワー0だというような半径である。均一化半径Uはガウシアンビーム(均一化可能半径と呼ぶ)の半径Wと同じこともあるし違うこともある。レンズ間距離gを均一化距離と呼ぶ。これも重要なパラメータである。
【0035】
だからホモジナイザーを特徴付けるものは、入射ガウシアンビーム半径W、均一化半径U、均一化距離gの三つのパラメータである。Wは均一化可能半径とも呼ぶ。均一化半径Uと混同してはならない。Wが原因でありUが結果である。ただしこれら重要なパラメータW、U、gと実効的な焦点距離Fとの関係が明らかでない。
【0036】
本発明は実効的な焦点距離Fを用いて定義されるので、その関係を求める必要がある。ZhもZqも単純な凹レンズ、凸レンズでないので正確な意味での焦点距離というのは存在しない。しかし中央部だけに着目すると、強度変換レンズは凹レンズZh、位相補正レンズZqは凸レンズであるから、中央部だけの焦点距離を定義することができる。
【0037】
均一化されたビームの均一化密度をEとする。位相補正レンズZqの後面での半径rの円周上のパワーの合計は、2πErdrによって与えられる。これをrで積分したものが全パワーであるが、r>Uで0であるから、r≦Uだけの積分となる。ガウシアンビームのパワーの合計は、密度をsによって0から無限大まで積分したものである。
【0038】
(ガウシアンビーム総パワー)
2π∫sBexp(−2s/W)ds=[−(πBW/2)exp(−2s/W)]=πBW/2 (2)
【0039】
である。一方均一化ビームの総パワーは2πEをrによって0からUまで積分したものである。
【0040】
(均一化ビームの総パワー)
2π∫Erdr=πUE (3)
【0041】
これらのパワーは等しい。だから
【0042】
πBW/2=πUE (4)
【0043】
であるので、
【0044】
E=BW/2U (5)
となる。
【0045】
均一化ということは、強度変換レンズZhの半径sで幅がdsの輪帯のパワーが、位相補正レンズZqの半径rで幅がdrの輪体のパワーに等しいということである。
【0046】
2πsBexp(−2s/W)ds=2πErdr (6)
これが均一化条件である。幸いなことにこれは積分できる。
【0047】
−(π/2)BW2exp(−2s/W)=πEr (7)
【0048】
である。Cは積分定数である。s=0(光軸lmに沿う光線)でr=0であるし、(5)が成り立つので、
【0049】
1−exp(−2s/W)=r/U (8)
【0050】
これが強度変換レンズZhの半径sでのビームが、位相補正レンズZqの半径rに至る場合の、sとrの関係を与える。ホモジナイザーの基本を成す式である。
【0051】
幾何光学の考察によってレンズ曲面を求める。強度変換レンズZhの曲面をK(s)によって与える。これは右向きに正とする。位相補正レンズZqの曲面をH(r)によって与える。これも右向きに正とする。K(s),H(r)も正の関数となるが、K(s)は凹のレンズを、H(r)は凸のレンズを定義する。
【0052】
曲面K(s)のs点での傾きも、曲面H(r)のr点での傾きもtanαである。
【0053】
dK(s)/ds=tanα (9)
dH(r)/dr=tanα (10)
【0054】
αを求めなければならない。先ほどのスネルの公式(1)によって
【0055】
nsinα=sinαcosφ+sinφcosα (11)
【0056】
となるが、両辺をcosαで割って、
【0057】
tanα=sinφ/(n−cosφ) (12)
【0058】
ということになる。これは曲がり角φとレンズの曲面を関係付ける。もう一つ条件がある。それがrとsを関係付けるものである。実効的な光路長は屈折率と光路の積の和によって与えられる。自由空間では光路そのものでレンズでは光路に屈折率を掛けたものである。
【0059】
位相補正レンズZqはビームを平行に戻すと同時に位相を揃えるという作用がある。だから位相補正レンズなのである。EKMNの光路長と光軸に沿った光路長が等しい。強度変換レンズZhの後面から位相補正レンズZqの前面までの距離をgとする。強度変換レンズZhの前面から位相補正レンズZqの後面までの距離をpとする。光軸に沿った光路長はn(p−g)+gである。前がレンズ内の光路長であり後ろが自由空間での光路長である。KM=qとおくと、EKMNの光路長はレンズ分がn(p−qcosφ)であり、自由空間分がqであるからその和である。それが光軸の光路長と等しいので、
【0060】
n(p−g)+g=n(p−qcosφ)+q (13)
【0061】
ということである。これが位相同一の条件である。
【0062】
q(ncosφ−1)=(n−1)g (14)
【0063】
となる。図9からrはsよりもqsinφだけ大きい。
【0064】
qsinφ=r−s (15)
【0065】
(14)と(15)からqを消去する。
【0066】
(ncosφ−1)/sinφ=(n−1)g/(r−s) (16)
【0067】
(12)と(16)からφを消去して、tanαを(r−s)によって表現するようにする。
【0068】
1/tanα=(n−cosφ)/sinφ=(n−2ncosφ+cosφ)/sinφ=(nsinφ+ncosφ−2ncosφ+1−sinφ)/sinφ=(ncosφ−2ncosφ+1)/sinφ+(nsinφ−sinφ)/sinφ=(ncosφ−1)/sinφ+(n−1)={(n−1)g/(r−s)}1/2+(n−1)
(17)
【0069】
となる。これによってtanαが求められる。
【0070】
tanα=[{(n−1)g/(r−s)}1/2+(n−1)]1/2 (18)
【0071】
である。これはdG/dsとdH/drに等しい。rとsの関係は、初めの均一化の条件(8)によって決まる。dG/dsを計算するときは独立変数をsにし、dH/drを積分するときは独立変数をrにする。
【0072】
dG/ds=[{(n−1)g/(r−s)}1/2+(n−1)]−1/2 (19)
dH/dr=[{(n−1)g/(r−s)}1/2+(n−1)]−1/2 (20)
【0073】
である。ここまでは厳密式である。近似は使っていない。精密な式である。rに(8)で決まる関係を入れ計算すればよい。しかし複雑な関数で数値計算はできるが解析的な計算はできない。正確なG(s)、H(r)を求めたいという場合はコンピュータで数値計算すればよい。
【0074】
しかしここでは近似計算によって大体のことを知りたい。(19)、(20)の右辺は分母の平方根のなかにg/(r−s)という変数が含まれる。gはレンズ間距離で、r−sは半径座標の差である。g/(r−s)は1よりかなり大きな値となる。そこで(17)の分母平方根の2番目の式を落とす近似をしよう。
【0075】
ここからは近似である。
【0076】
近似式 G(s)={1/(n−1)g}∫(r−s)ds
(21)
【0077】
同じようにH(r)に関しても
【0078】
近似式 H(r)={1/(n−1)g}∫(r−s)dr
(22)
【0079】
(8)から、
【0080】
−log(1−r/U)=2s/W (23)
【0081】
だから、
【0082】
s=W{−(1/2)log(1−r/U)}1/2 (24)
【0083】
これを(22)に代入し、sによって積分することにより、H(r)を求めることができる。コンピュータによって数値計算すると厳密なことが分かる。しかしここでは大体の事が分かれば良いので、(24)を更に近似する。級数に展開して1項だけをとることにする。
【0084】
s=Wr/21/2U (25)
【0085】
この関係によって(22)を積分する。
【0086】
H(r)={1−W/21/2U}r/{2(n−1)g}
(26)
(25)を逆に解いて
【0087】
r=21/2sU/W (27)
【0088】
これを(21)に代入し積分することによってG(s)の近似式を求める。
【0089】
G(s)={21/2U/W−1}s/{2(n−1)g}
(28)
【0090】
上のG(s)は強度変換レンズZhの中心部分の形状を与え、H(r)は位相補正レンズの中心部分の形状を与える。図1のような全体の形状を求めるには厳密な計算をすれば良い。Zh,Zqの組み合わせはどのような寸法のガウシアンビームでも均一化できるということではない。入射ガウシアンビーム半径がWであるものだけである。だからホモジナイザーは入射ビーム半径Wに固有のものだということができる。入射ビーム半径W一つに一つのホモジナイザーが決まる。だから均一可能な入射ビーム半径Wを「均一化可能半径」とも呼ぶ。レンズから見れば「均一化可能半径W」と言った方が分かりやすい。
【0091】
ここでは、強度変換レンズZhと位相補正レンズZqの中心近傍での焦点距離Fh、Fqだけを求めたい。レンズの焦点距離の逆数は、前面、後面の曲率の和に(n−1)を掛けたものである。レンズ面の高さを示す式は半径座標rの2乗に曲率をかけ2で割った値である。だから強度変換レンズZhの実効的な焦点距離F1の逆数は
【0092】
1/F1=−{(21/2U/W)−1}/g (29)
【0093】
マイナスがつくのはZhが(U/Wが1程度のとき)中心近傍で凹レンズだからである。{(21/2U/W)−1}が負であれば、これは中心近傍で凸レンズとなる。
【0094】
同様に位相補正レンズZqの実効的な焦点距離F2の逆数は
【0095】
1/F2={1−(W/21/2U)}/g (30)
【0096】
となる。常に1/F1+1/F2は負である。上の式は何を言っているかというと、Zh、Zqの実効(中心付近の近似)焦点距離F1、F2が入射ガウシアンビームの半径(均一可能半径)W、均一化ビームの半径U、均一化距離gによって決まるということである。レンズの屈折率nが含まれないことに注意すべきである。このようにして強度変換レンズZhと位相補正レンズZqの曲面を決めることができる。入射レーザビームの直径2W,均一化ビームの直径2U、レンズ間距離gが与えられるとレンズ曲面を精密に決定することができる。本発明は位相補正レンズは用いず強度変換レンズだけを用いる。強度変換レンズZhの曲面は、先述のとおり決定可能である。
【0097】
本発明は、y方向だけに曲率を持つシリンドリカル凸レンズZ1を使って楕円断面のビームを作り、強度変換レンズZ2によって楕円断面において強度分布を一様にし、所望の離心率、形状を持つ均一化楕円ビームを像面に生成する。Z1+Z2の2枚レンズで楕円均一化ビームを作る。Z1とZ2の距離をd(第1距離)、Z2と像面Iの距離をb(第2距離)とする。位相補正レンズを使わない。位相補正レンズの位置に直接に像面Iを持ってくる。そのような簡単な構造でどのようにして均一化楕円ビームを作るのか? これが問題である。目的とする楕円の長径は2Raでこれは入射ビーム直径Dに等しいとする(D=2Ra)。楕円の短径は2Rbである。これが予め与えられる。
つまり離心率e=(Ra−Rb1/2/Raが決まっている。特に短径方向の均一化に重点をおいてシリンドリカルレンズZ1、強度変換レンズZ2、距離d、bとの間の関係を適切に決める。長径側の均一性は多少犠牲にしてもよいものとする。
シリンドリカルレンズZ1によって、短径側直径が減少する。Z1での短径側直径がDであり、Z2面での短径側直径がD’とする。D’/Dはシリンドリカルレンズによる減少比である。レンズZ1、Z2の合成焦点距離をLとする。その場合に、Lと第2距離bの比率と、DとD’の比率を等しいものとする。
L:b=D:D’ (31)
これはパラメータの関係を決める根本の式である。b、d、Z1が決まっておれば、これは合成焦点距離Lを決める式である。合成焦点距離を通して強度変換レンズZ2の焦点距離L2を決める式だということになる。L:b=D:D’が本発明のパラメータ関係を決める最も重要な式である。これは当然のことではなく本発明の特異な条件である。(31)はbD=LD’と書くこともできる。実際にはこれだけで所望のRa、Rbの像が得られないことが多いので、試行錯誤して上の式から得られた強度変換レンズZ2の焦点距離L2の1〜2倍の値を与えるものとする。
【0098】
回転対称のビームをy方向にのみ集光するシリンドリカルレンズの曲面Z1(y)の式は
【0099】
Z1(y)=const−y/2L1(n−1)
(32)
【0100】
によって表現される。L1はシリンドリカルレンズZ1のy方向の焦点距離である(x方向の焦点距離は無限大)。平行ガウシアンビームが入射するのだから、距離L1の点でy方向に収束する。所望の楕円ビームの半径がRa×Rbとする。
短/長径比Rb/Raを楕円のアスペクト比aという。これは1より小さい正数である。a+e=1である。シリンドリカルレンズZ1のy方向の焦点距離がL1、レンズZ1と像面Iの距離がd+bなので、アスペクト比はa=(L1−d−b)/L1である。mを1〜2の定数とすると、
mD≧D’≧aD (m=1〜2) (33)
そのような限定がある。
【0101】
図6、7に示すように、シリンドリカルレンズZ1の下流側dの位置に強度変換レンズ(ビーム整形レンズ)Z2がある。この強度変換レンズZ2は円筒対称性のあるレンズで、これまで説明した図1、図9等のZhのレンズにあたる。近似的な焦点距離については既に説明した。図12に示すように、初めのシリンドリカルレンズZ1のため、焦点距離L1の距離にあるC点まで短径側は直線的に縮小する。Z1C間はL1で、Z2C間は(L1−d)であるから、Z2での短径側直径D’は
【0102】
D’=D(L1−d)/L1 (34)
【0103】
というようになる。ここでは凸のシリンドリカルレンズの場合で説明するが、凹のシリンドリカルレンズでも同じ式で表される関係が成り立つ。図12においてIC間は(L1−d−b)であるので、像面での短径直径はD(L1−d−b)/L1=aDとなる。ここでビーム密度均一化のためdの位置に強度変換レンズZ2を置く。強度変換レンズZ2の焦点距離をL2とする。これが決定の対象となる未知数である。Z1とZ2の合成焦点距離をLとする。
【0104】
(31)のようにL:b=D:D’となるようにLを決める。Lが値が決まると、Z2の焦点距離L2が決まりZ2の形状が決定される。
【0105】
距離dだけ離れた焦点距離L1、L2のレンズの合成焦点距離Lは
L=L1L2/(L1+L2−d) (35)
によって与えられる。(31)に代入し、D、D’、bから好ましいLが決まる。
【0106】
(35)からL2が決まる。それによって、強度変換レンズZ2の焦点距離L2が分かるので強度変換レンズZ2の形状を決めることができる。
【0107】
像面での楕円の形状Ra×Rbが初めから与えられる。第1、2距離d、bは自由に決める事ができる。シリンドリカルレンズZ1の焦点距離L1も自在に決められる。先ほど述べたように、これらの変数の間には、アスペクト比aによって、一つの関係が決まる。Rb/Ra=a=(L1−b−d)/L1。
【0108】
また合成焦点距離の式(35)から一つの拘束条件が与えられる。Z1、Z2上でのビームの短径D、D’の間には、D’L1=D(L1−d)という関係がある。さらに本発明の根本の条件bD=LD’からもう一つの条件が決まる。D、aは初めから与えられ、L1、L2、b、dは自在に決めることのできるパラメータである。4つの拘束条件があるから、これらの値が決まる。並べて書くと
【0109】
a=(L1−b−d)/L1 (36)
L=L1L2/(L1+L2−d) (35)
D’=D(L1−d)/L1 (34)

bD=LD’
(31’)
【0110】
というようになる。様々の場合がありうる。b、D、D’、L1が既知であり、d、L2が未知数だとすると、(34)から、
【0111】
d=L1−(D’L1/D)
(37)
となってdが求められる。(35)と(31’)からLを消去すると、
【0112】
L2=(L1−d)Db/(D’L1−bD) (38)
あるいは
L2=D’L1b/(D’L1−bD) (39)
というようになる。
【0113】
a、b、D、L1が既知である場合は
L2=b+b/aL1 (39)’
d=(1−a)L1−b (40)
D’=D(aL1+b)/L1 (41)
L=bL1/(aL1+b) (42)
というようになる。
【0114】
d、b、D、aが既知である場合は、
【0115】
L1=(b+d)/(1−a) (43)
D’=D(b+ad)/(b+d) (44)
L=b(b+d)/(b+ad) (45)
L2=b(b+ad)/a(b+d) (46)
である。
【0116】
実際にはこれで最適解が得られるのではない場合が多い。その場合はL2を少しずつ増やし漸近的に解を求める。上の式のパラメータで決まる光学系が像面に作る楕円像のパワー分布を計算する。
【0117】
所望のアスペクト比aにならない場合はZ2の焦点距離L2を少し増やしてパラメータを決め、そのパラメータを持つ光学系が像面に作る楕円を求める。像面でのパワー分布が所望のアスペクト比aになるまで、L2を増やす。そのような繰り返し操作を行なう。
【0118】
実際には1〜2の定数mがあって、
L2=m(L1−d)Db/(D’L1−bD) (47)
となるときに、所望アスペクト比aの(短径方向)均一楕円ができる。
だからL2に対する条件は
【0119】
2(L1−d)Db/(D’L1−bD)>L2≧(L1−d)Db/(D’L1−bD)>b (48)
ということである。
【0120】
これはZ2レンズに対する焦点距離L2を決定するということでZ2を決めている。しかしZ2は強度変換レンズであって一様な焦点距離L2というものはない。しかしそれでも中心部の近似的な焦点距離を決めることができる。さらにここでは楕円ビームの形状を決めるのは周辺部なので、強度変換レンズZ2のある範囲の周辺部だけの焦点距離を決めるようにもできる。
【0121】
あるいはZ2のパラメータを初めに決めておいて、シリンドリカルレンズZ1の曲率1/L1を決めるようにしてもよい。どのパラメータを予め既知とし、どのパラメータを未知とするかということは、目的とレンズ製作の容易さなどを勘案して決める事ができる。
【実施例1】
【0122】
図6、図7に示すようにシリンドリカル凸レンズZ1とビーム整形レンズ(強度変換レンズ)Z2を距離dだけ隔てて設け、Z2と距離bを隔てて像面Iを設けた。シリンドリカルレンズZ1はy軸方向だけに曲率を持ち、焦点距離L1のレンズである。ビーム整形レンズZ2は回転対称形のレンズであり、ある範囲でガウシアン分布するビームを均一化するもので、焦点距離L2を持つ。ビームの直径はDであり、シリンドリカルレンズZ1によって、ビーム整形レンズZ2で短径はD’になっている。合成焦点距離をLとして、bD=LD’或いはb/L=D’/Dとする。直径Dのガウシアンビームをシリンドリカル凸レンズZ1へ入射させた。シリンドリカル凸レンズZ1によってビーム整形レンズ(強度変換レンズ)Z2の面では断面楕円(D×D’)のビームとなる。ビーム整形レンズZ2は、短径方向に均一化した楕円ビームを像面に投影する。
【0123】
実施例1の光学系の具体的なレーザ光の波長、レンズ材料、間隔b、d、像面での楕円ビームのアスペクト比を次に示す。
レーザ光波長 10.6μm
レンズ材料 ZnSe
入射ビーム直径D 10mm
Z1Z2の間隔d 30mm
Z2Iの間隔b 70mm
アスペクト比(長径/短径) 3
【0124】
シリンドリカルレンズZ1の寸法仕様は次のようである。
y方向焦点距離L1
150mm
中心厚み 5mm
【0125】
ホモジナイザーレンズZ2の寸法仕様は次のようである。
中心部焦点距離L2 155mm
面上でのビーム短径D’
8mm
中心厚み 5mm
【0126】
非球面係数
=+1.4484123017196962×10−3
=−5.8585940705886955×10−5
=+1.0436403844764425×10−6
=−2.0355542429464749×10−8
=+6.9874079461343713×10−10
=−2.3337586133166805×10−11
=+4.9572769055067414×10−13
=−6.1625698851364172×10−15
=+4.1198295579632210×10−17
10=−1.1414660754802261×10−19
【0127】
合成焦点距離Lは、1/150+1/155−30/150・155=1/84.5からL=84.5mmとなる。b/L=70/84.5=0.82である。D’/D=8/10=0.8である。ほぼb/L=D’/Dとなっている。
【0128】
像面でのビーム強度の長径方向での分布を図10に示す。短径方向でのビーム強度分布を図11に示す。縦軸はビーム強度(任意目盛り)、横軸は像の中心からの距離(mm)である。図8(2)に楕円断面における強度の分布を等高線で示す。これによれば短径方向でのビーム強度均一性が向上している。
【0129】
そのかわりに長径側のビーム強度は少し不均一になっている。これはやむを得ないことである。長径側と短径側の両方を等しくパワー密度均一化させることはできない。これは相補性がある。長径側のパワー密度を均一化させると短径側のパワー均一性は悪くなる。目的によって長径側と短径側のどちらの均一性をより重視するかによってZ1、Z2、Iの距離d、bを調整する。図14は像面にできたビームの写真である。長軸方向の端はビームが滲んでおり境界が明確でない。しかし短軸方向の端は鋭く切れており、短軸方向のパワー均一性に優れていることが良く分かる。
【実施例2】
【0130】
実施例2も図6、図7に示すようにシリンドリカル凸レンズZ1とビーム整形レンズ(強度変換レンズ)Z2を距離dだけ隔てて設け、Z2と距離bを隔てて像面Iを設けた。シリンドリカルレンズZ1はy軸方向だけに曲率を持ち、焦点距離L1のレンズである。そこまでは実施例1と同じであるが、レーザビームやZ1、Z2レンズが異なる。
【0131】
実施例2の光学系の具体的なレーザ光の波長、レンズ材料、間隔b、d、像面での楕円ビームのアスペクト比を次に示す。
レーザ光波長 10.6μm
レンズ材料 ZnSe
入射ビーム直径D 5mm
Z1Z2の間隔d 40mm
Z2Iの間隔b 160mm
アスペクト比(長径/短径) 2
【0132】
シリンドリカルレンズZ1の寸法仕様は次のようである。
y方向焦点距離L1
400mm
中心厚み 5mm
ホモジナイザ-レンズZ2の寸法仕様は次のようである。
中心部焦点距離L2 290mm
面上でのビーム短径D’ 4.5mm
中心厚み 5mm
【0133】
非球面係数
=+7.7413279096606139×10−4
=−9.8961217701964627×10−5
=+5.5691379167782349×10−6
=−3.4257251977897809×10−7
=+3.7092063160010601×10−8
=−3.9137007140599322×10−9
=+2.6266152164999071×10−10
=−1.0314650350615032×10−11
=+2.1777810644905250×10−13
10=−1.9051278773103865×10−15
【0134】
合成焦点距離Lは、1/400+1/290−40/400・290=1/178からL=178mmとなる。b/L=160/178=0.898である。D’/D=4.5/5=0.9である。ほぼb/L=D’/Dとなっている。

【0135】
像面でのビーム強度の長径方向での分布を図15に示す。短径方向でのビーム強度分布を図16に示す。縦軸はビーム強度(任意目盛り)、横軸は像の中心からの距離(mm)である。これによれば短径方向でのビーム強度均一性は良い。
【0136】
そのかわりに長径側のビーム強度は少し不均一になっている。しかし実施例1に比べて細かい変動が減っている。実施例1と同じことが言えて、長径側と短径側の両方で等しくパワー密度を均一化させることはできない。これは相補性がある。長径側のパワー密度を均一化させると短径側のパワー均一性は悪くなる。目的によって、長径側と短径側のどちらの均一性をより重視するかでZ1、Z2、Iの距離d、bを調整する。図17は像面にできたビームの写真である。短軸方向の端の切れが悪くなり、長軸方向の端のぼやけが少なくなっている。短軸方向のパワー均一性に優れていることが分かる。
【実施例3】
【0137】
図18、図19に示すように凹面を持つシリンドリカルレンズZ1とビーム整形レンズ(強度変換レンズ)Z2を距離dだけ隔てて設け、Z2と距離bを隔てて像面Iを設けた。凹面シリンドリカルレンズZ1はy軸方向だけに曲率を持ち、焦点距離L1(L1は負)のレンズである。ビーム整形レンズZ2は円筒対称形のレンズであって、ある範囲でガウシアン分布するビームを均一化するもので、焦点距離L2を持つ。ビームの直径はDであり、シリンドリカルレンズZ1によって、ビーム整形レンズZ2で長径はD’(D’>D)になっている。合成焦点距離をL(正)として、bD=LD’とする。直径Dのガウシアンビームをシリンドリカル凹レンズZ1へ入射させた。シリンドリカル凹レンズZ1によって、ビーム整形レンズ(強度変換レンズ)Z2の面では断面楕円(D×D’)のビームとなる。ビーム整形レンズZ2は、短径方向に均一化した楕円ビームを像面に投影する。
【0138】
実施例3の光学系の具体的なレーザ光の波長、レンズ材料、間隔b、d、像面での楕円ビームのアスペクト比を次に示す。
レーザ光波長 10.6μm
レンズ材料 ZnSe
入射ビーム直径D 5mm
Z1Z2の間隔d
40mm
Z2Iの間隔b 160mm
アスペクト比(長径/短径) 2
【0139】
シリンドリカルレンズZ1(凹面)の寸法仕様は次のようである。
y方向焦点距離L1
−200mm
中心厚み 5mm
ホモジナイザレンズZ2の寸法仕様は次のようである。
中心部焦点距離L2 120mm
面上でのビーム長径D’ 4.5mm
中心厚み 5mm
【0140】
非球面係数
=+1.8708756533220730×10−3
=−1.3453033065410883×10−4
=+4.2603296791059667×10−6
=−1.4770512410335926×10−7
=+9.0127072927223198×10−9
=−5.3513472452941607×10−10
=+2.0207928608732162×10−11
=−4.4658810805343239×10−13
=+5.3074485369716941×10−15
10=−2.6141135823018697×10−17
【0141】
合成焦点距離Lは、−1/200+1/120+40/200・120=1/200からL=200mmとなる。b/L=160/200=0.8である。D’/D=4.5/5=0.9である。ほぼb/L=D’/Dとなっている。
【0142】
像面でのビーム強度の長径方向での分布を図20に示す。短径方向でのビーム強度分布を図21に示す。縦軸はビーム強度(任意目盛り)、横軸は像の中心からの距離(mm)である。これは長径側がシリンドリカルレンズで広がっている。アスペクト比が2であるが、長径側では直径が10mmになっている。短径方向でのビーム強度均一性も良い。
【0143】
本発明は初めのシリンドリカルが凹面のものでも適用できるということである。図22は像面にできたビームの写真である。長軸方向の端はビームが僅かに滲んでいる。短軸方向の端は鋭く切れており、短軸方向のパワー均一性に優れていることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0144】
【図1】強度変換レンズZhと位相補正レンズZqからなり、ガウシアンビームを均一ビーム(トップハット)に変換するホモジナイザーレンズ系の図。
【0145】
【図2】x軸方向に軸を持つシリンドリカル凸レンズZs、シリンドリカル凹レンズZt、強度変換レンズZhからなる光学系であって、Zsによってy軸方向にビームを縮小し、Ztによってy軸方向にビームを平行ビームにし、強度変換レンズZhによって像面Iに均一化ビームJを投射していることを示すyz断面図。
【0146】
【図3】x軸方向に軸を持つシリンドリカル凸レンズZs、シリンドリカル凹レンズZt、強度変換レンズZhからなる光学系であって、Zsによってy軸方向にビームを縮小し、Ztによってy軸方向にビームを平行ビームにし、x方向にはビーム直径を維持しつつ、強度変換レンズZhによって像面Iに均一化ビームJを投射していることを示すzx断面図。
【0147】
【図4】図2、3の光学系によって像面Iに形成されたビーム像Jの長径(x方向)に沿ったビーム強度分布図。
【0148】
【図5】図2、3の光学系によって像面Iに形成されたビーム像Jの短径(y方向)に沿ったビーム強度分布図。
【0149】
【図6】楕円断面のビームを形成するシリンドリカル凸レンズZ1と強度変換レンズ(ビーム整形レンズ)Z2だけを用い、Z1とZ2の距離dを短くして、像面に短径側に均一分布する楕円断面ビーム像Jを形成するようにした本発明の光学系のyz断面図。
【0150】
【図7】楕円断面のビームを形成するシリンドリカル凸レンズZ1と強度変換レンズ(ビーム整形レンズ)Z2だけを用い、Z1とZ2の距離hを短くして、像面に短径側に均一分布する楕円断面ビーム像Jを形成するようにした本発明の光学系のzx断面図。
【0151】
【図8】シリンドリカル凸レンズとシリンドリカル凹レンズZ1と強度変換レンズZ2を組み合わせた楕円断面のビームの強度分布図(1)とシリンドリカル凸レンズと強度変換レンズを組み合わせた本発明に係る楕円断面図のビーム強度分布図。
【0152】
【図9】ホモジナイザーレンズをなす、強度変換レンズZhと位相補正レンズZqによってガウシアンビームを均一化ビームに変換するための、Zh、Zqのレンズ曲面と光線の伝搬の関係を求めるための説明図。
【0153】
【図10】シリンドリカルレンズとホモジナイザによってガウシアンビームを楕円断面のビームに変換し、パワー密度を均一化する、実施例1によって得られた楕円ビームの長軸側に沿った強度分布図。
【0154】

【図11】シリンドリカルレンズとホモジナイザによってガウシアンビームを楕円断面のビームに変換し、パワー密度を均一化する、実施例1によって得られた楕円ビームの短軸側に沿った強度分布図。
【0155】
【図12】シリンドリカルレンズZ1、強度変換レンズZ2を距離dを隔てて設け、距離bをおいて像面Iを設けた本発明の光学系において、入射ビーム直径Dと、強度変換レンズでの短径側直径D’と、シリンドリカルレンズZ1の焦点距離L1との関係を説明するための図。
【0156】
【図13】シリンドリカルレンズZ1、強度変換レンズZ2を距離dを隔てて設け、距離bをおいて像面Iを設けた本発明の光学系において、入射ビーム直径Dと、強度変換レンズでの短径側直径D’との関係を合成焦点距離LとZ2I間距離bの比率に等しい(D’/D=b/L)として、強度変換レンズZ2の焦点距離L2を計算することとした本発明の思想を説明するための図。
【0157】
【図14】実施例1において像面に投影された楕円ビーム像の図。
【0158】
【図15】シリンドリカルレンズとホモジナイザによってガウシアンビームを楕円断面のビームに変換、しパワー密度を均一化する、実施例2によって得られた楕円ビームの長軸側に沿った強度分布図。
【0159】
【図16】シリンドリカルレンズとホモジナイザによってガウシアンビームを楕円断面のビームに変換し、パワー密度を均一化する、実施例2によって得られた楕円ビームの短軸側に沿った強度分布図。
【0160】
【図17】実施例2において像面に投影された楕円ビーム像の図。
【0161】
【図18】楕円断面のビームを形成するシリンドリカル凹レンズZ1とホモジナイザレンズを用い、像面にy方向に拡大した像を投影し、ホモジナイザで短径側に均一分布する楕円断面ビーム像Jを形成するようにした本発明の光学系のyz断面図。
【0162】
【図19】楕円断面のビームを形成するシリンドリカル凸レンズZ1とホモジナイザレンズを用い、像面にx方向には同一の寸法の像を形成するようにした本発明の光学系のzx断面図。
【0163】
【図20】シリンドリカルレンズとホモジナイザによってガウシアンビームを楕円断面のビームに変換、しパワー密度均一化する、実施例3によって得られた楕円ビームの長軸側に沿った強度分布図。
【0164】
【図21】シリンドリカルレンズとホモジナイザによってガウシアンビームを楕円断面のビームに変換し、パワー密度均一化する、実施例3によって得られた楕円ビームの短軸側に沿った強度分布図。
【0165】
【図22】実施例3において像面に投影された楕円ビーム像の図。
【符号の説明】
【0166】
5ガウシアンビーム
6一軸縮小ビーム
7一軸平行ビーム
8均一化ビーム
70〜80、82ガウシアンビーム光線


【特許請求の範囲】
【請求項1】
直径Dのガウシアンビームを楕円断面(長半径Ra、短半径Rb、アスペクト比a=Rb/Ra)の均一化ビームにするために、y方向にのみ有限の焦点距離L1を持つシリンドリカルレンズZ1と、Z1から距離dに置かれたガウシアンビームを均一化ビームにし焦点距離L2を有する強度変換レンズZ2と、強度変換レンズZ2から距離bに置かれた像面Iとよりなり、シリンドリカルレンズZ1によって強度変換レンズZ2面に形成される楕円ビームの短径をD’として、
D>D’≧aD、
2(Db(L1−d))/(D’L1−Db)≧L2≧(Db(L1−d))/(D’L1−Db)≧b
であることを特徴とする楕円ビーム整形光学系。
【請求項2】
Ra/Rbが1〜10であることを特徴とする請求項1に記載の楕円ビーム整形光学系。
【請求項3】
直径Dのガウシアンビームを楕円断面(長半径Ra、短半径Rb、アスペクト比a=Rb/Ra)の均一化ビームにするために、y方向にのみ有限の焦点距離L1を持つシリンドリカルレンズZ1と、Z1から距離dに置かれたガウシアンビームを均一化ビームにし焦点距離L2を有する強度変換レンズZ2と、強度変換レンズZ2から距離bに置かれた像面Iとよりなり、シリンドリカルレンズZ1によって強度変換レンズZ2で短径がD’となるようにし、D>D’≧aD、という関係を満足し、シリンドリカルレンズZ1と強度変換レンズZ2の合成焦点距離をLとして、Db=LD’が成り立つように強度変換レンズZ2の焦点距離L2を計算して、L2=(Db(L1−d))/(D’L1−Db)とし、そのような焦点距離L1、L2のレンズが像面に作る楕円の形状を求め、所望のアスペクト比に達しない場合はL2を2(Db(L1−d))/(D’L1−Db)≧L2≧(Db(L1−d))/(D’L1−Db)の範囲で増やして像面でのアスペクト比aが所望の値に到達するまで繰り返えすことを特徴とする楕円ビーム整形光学系の均一性向上方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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