説明

極細繊維の製造方法

【課題】本発明は、紡糸原液の導電率を向上して、紡糸原液に静電気力を作用させて延伸するとともに細径化し、繊維化して捕集する工程によって、平均繊維径が小さい繊維が得られると共に、粒子状のポリマー塊が生じることを防いで繊維径が一定な品位の良い繊維が得られ、更に、得られる繊維中に塩が残留し難く、また、繊維製造時ならびに得られる繊維から、ハロゲンガスやハロゲン系化合物が放出されない、繊維の製造方法の提供を目的とする。

【解決手段】紡糸原液に添加される塩が、加熱処理によって揮発する、有機酸と窒素化合物からなる塩であるため、加熱工程を経て最終的に得られる繊維中に、該塩が残留しにくく、繊維製造時ならびに得られる繊維中から、ハロゲンガスやハロゲン系化合物が放出されない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維の平均繊維径が小さいと、分離性能、液体保持性能、払拭性能、隠蔽性能、絶縁性能、或いは柔軟性など、様々な性能に優れる繊維集合体を形成できるため、繊維の平均繊維径は小さいのが好ましい。
【0003】
このような平均繊維径の小さい繊維を得ることができる、繊維の製造方法として、紡糸原液に静電気力を作用させて延伸するとともに細径化し、繊維化して捕集する、いわゆる静電紡糸法が知られている。
【0004】
このような静電紡糸法を用いて、粒子状のポリマー塊が生じることを防いで繊維径が一定な品位の良い繊維が得られるように、紡糸原液に塩を添加することで紡糸原液の導電率を向上させ、静電気力による紡糸原液の延伸を効率良くすることが行われている。
【0005】
このように、静電紡糸法において紡糸原液に添加できる塩の種類として、塩化リチウムなどの無機塩を使用すること(非特許文献1)や、有機第4級アンモニウムのハロゲン塩を使用すること(特許文献1)が知られている。
【0006】
しかし、上述した非特許文献1に係る技術のように、紡糸原液に無機塩を添加して静電紡糸法により繊維を製造する場合、無機塩は沸点が高いため、静電紡糸法による繊維の製造過程において、繊維中に無機塩が残留しやすい。
【0007】
そのため、無機塩を添加することで得られた繊維を、例えば、濾過用の濾材、二次電池やキャパシタ用のセパレータなどとして使用すると、繊維中に残留する無機塩が溶出して、濾材の処理流体を汚染する、使用環境を汚染して二次電池やキャパシタの作用を阻害する傾向があった。
【0008】
また、上述した特許文献1に係る技術のように、紡糸原液にハロゲン塩を添加して静電紡糸法により繊維を製造する場合、有機第4級アンモニウムのハロゲン塩は低い温度で揮発及び/又は分解して揮発しやすいため、静電紡糸法による繊維の製造過程において、繊維中に有機第4級アンモニウムのハロゲン塩が残留しにくいものの、ハロゲン塩は分解される際に、反応性および毒性が高い、ハロゲンガスやハロゲン元素のオキソ酸などのハロゲン系化合物を生じる傾向がある。
【0009】
そのため、ハロゲン塩を添加することで得られた繊維を、例えば、濾過用の濾材、二次電池やキャパシタ用のセパレータなどとして使用すると、繊維中に残留するハロゲン塩あるいはハロゲン系化合物が、ごくわずかな量溶出したとしても、濾材の処理流体を汚染する、使用環境を汚染して二次電池やキャパシタの作用を阻害する恐れがある。
【0010】
そして、繊維製造時に、生じたハロゲンガスやハロゲン元素のオキソ酸などのハロゲン系化合物が揮発して、紡糸空間を深刻に汚染する恐れがある。
【0011】
繊維中に塩が残留するという上述の問題は、純度の高い樹脂を用いて品位の良い繊維を得ようとする場合に、より深刻な問題となるものであった。
【0012】
つまり、純度の高い樹脂中には、樹脂を合成する際に使用した触媒や反応副生成物などの不純物の残留量が少ないため、塩を添加することなく調製された、該樹脂を用いてなる紡糸原液の導電率は20μS/cm未満と低くなる傾向があった。
【0013】
このように紡糸原液とした際の導電率が低い、純度の高い樹脂を用いて静電紡糸法により紡糸を行うと、静電気力による紡糸原液の延伸が効率良くなされず、その結果、粒子状のポリマー塊を生じることなく繊維径が一定な品位の良い繊維を得ることが困難となる傾向があった。
【0014】
そのため、純度の高い樹脂を用いて品位の良い繊維を得ようとする場合には、該樹脂を用いてなる紡糸原液に、より多量の塩を添加する必要があった。
【0015】
なお、市場に流通している上述したような純度の高い樹脂として、例えば、ポリエーテル系樹脂、ウレタン系樹脂、フッ素系樹脂、アクリル系樹脂などが知られており、例示したこれらの樹脂を用いて品位の良い繊維を得ようとする場合には、該樹脂を用いてなる紡糸原液に、より多量の塩を添加する必要があるものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Polymer ; 40 (1999) , P4585-P4592
【特許文献1】特開2009-270210号公報(特許請求の範囲、0010、0042)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、紡糸原液の導電率を向上して、紡糸原液に静電気力を作用させて延伸するとともに細径化し、繊維化して捕集する工程によって、平均繊維径が小さい繊維が得られると共に、粒子状のポリマー塊が生じることを防いで繊維径が一定な品位の良い繊維が得られ、更に、得られる繊維中に塩が残留し難く、また、繊維製造時ならびに得られる繊維から、ハロゲンガスやハロゲン系化合物が放出されない、繊維の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0018】
請求項1の、繊維の製造方法は
「(1)紡糸原液に静電気力を作用させて延伸するとともに細径化し、繊維化して捕集する工程、
(2)捕集した繊維を、加熱処理する工程、
を備える、繊維の製造方法において、
前記の加熱処理によって揮発する、有機酸と窒素化合物からなる塩が、前記紡糸原液に添加されていることを特徴とする、繊維の製造方法。」
である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の請求項1にかかる繊維の製造方法は、紡糸原液に塩が添加されていることによって紡糸原液の導電率が向上しているため、紡糸原液に静電気力を作用させて延伸するとともに細径化し、繊維化して捕集する工程によって、平均繊維径が小さい繊維が得られると共に、粒子状のポリマー塊が生じることを防いで繊維径が一定な品位の良い繊維を得ることができる。
そして該塩は、繊維の加熱処理によって揮発する塩であるため、加熱工程を経て最終的に得られる繊維中に、該塩が残留しにくい。
更に、本発明の請求項1にかかる繊維の製造方法は、紡糸原液に有機酸と窒素化合物からなる塩を添加するため、繊維製造時ならびに得られる繊維中から、ハロゲンガスやハロゲン系化合物が放出されない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例1で得られた繊維の、顕微鏡写真である。
【図2】実施例2で得られた繊維の、顕微鏡写真である。
【図3】比較例1で得られた繊維の、顕微鏡写真である。
【図4】比較例2で得られた繊維の、顕微鏡写真である。
【図5】実施例3で得られた繊維の、顕微鏡写真である。
【図6】比較例3で得られた繊維の、顕微鏡写真である。
【図7】実施例4で得られた繊維の、顕微鏡写真である。
【図8】比較例4で得られた繊維の、顕微鏡写真である。
【図9】実施例5で得られた繊維の、顕微鏡写真である。
【図10】比較例5で得られた繊維の、顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係る、繊維の製造方法において使用する紡糸原液を調製するため、まず、ポリマー溶液を用意する。このポリマー溶液は、静電気力の作用によって延伸して細径化できて、繊維化が可能なポリマーを溶媒に溶解させた溶液を使用できる。
【0022】
ポリマーの種類は、本発明に係る紡糸方法を用いて紡糸することができる限り、特に限定されるものではないが、例えば、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテンなど)、スチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリエーテル系樹脂(ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアセタール、変性ポリフェニレンエーテル、芳香族ポリエーテルケトンなど)、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアリレート、全芳香族ポリエステル樹脂など)、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド系樹脂(例えば、芳香族ポリアミド樹脂、芳香族ポリエーテルアミド樹脂、ナイロン樹脂など)、二トリル基を有する樹脂(例えば、ポリアクリロニトリルなど)、ウレタン系樹脂(ポリウレタンなど)、エポキシ系樹脂、ポリスルホン系樹脂(ポリスルホンなど)、フッ素系樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなど)、セルロース系樹脂などの公知の有機ポリマー、あるいは、金属アルコキシド(ケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、ホウ素、スズ、亜鉛などのメトキシド、エトキシド、プロポキシド、ブトキシドなど)が重合した無機ポリマーなどの公知の無機系化合物が重合してなるポリマーを用いることができる。
【0023】
これらのポリマーは、直鎖状ポリマーまたは分岐状ポリマーのいずれからなるものでも構わず、またポリマーがブロック共重合体やランダム共重合体でも構わず、またポリマーの立体構造や結晶性の有無がいかなるものでも、特に限定されるものではない。
また、これら例示以外のポリマーも使用可能であり、例示以外のポリマーも含め、2種以上のポリマーからなるポリマー溶液とすることもできる。
【0024】
上述のポリマーを溶媒に溶解させる場合、溶媒は使用するポリマーや紡糸条件によっても変化するため、特に限定されるものではないが、例えば、水、アセトン、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,4−ジオキサン、ピリジン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、2−ブタノン、3−ペンタノン、アセトニトリル、ギ酸、トルエン、ベンゼン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、四塩化炭素、塩化メチレン、クロロホルム、トリクロロエタン、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネートなどを挙げることができる。これら例示以外の溶媒も使用可能であり、例示以外の溶媒も含め、2種以上の溶媒が混和した混和溶媒を使用することもできる。
【0025】
このようにして調製されたポリマー溶液の粘度は、使用するポリマーの組成、ポリマーの分子量、溶媒の組成、溶媒におけるポリマーの濃度等によって変化するため特に限定されるものではないが、本発明に係る紡糸原液を繊維化して捕集する工程への適用性の点から、粘度が10〜10000mPa・sの範囲となるような濃度であるのが好ましく、20〜8000mPa・sの範囲となるような濃度であるのがより好ましい。粘度が10mPa・s未満であると、粘度が低すぎて曳糸性が悪く、繊維になりにくい傾向があり、粘度が10000mPa・sを超えると、紡糸原液が延伸されにくくなり、繊維形状となりにくい傾向がある。
【0026】
なお、この「粘度」は粘度測定装置を用い、温度25℃で測定したシェアレート100s−1時の値をいう。
【0027】
上述した、ポリマーおよび該ポリマーを溶解することのできる溶媒のうち少なくとも一方が、後述する塩を溶解できるものであるのが好ましい。
【0028】
更に、上述した、ポリマーおよび該ポリマーを溶解することのできる溶媒は、紡糸原液に添加されている塩と酸化還元など化学反応を起こさない、あるいは化学反応を起こし難いものであるのが好ましい。
【0029】
次いで、本発明では有機酸と窒素化合物からなる塩を用意する。
【0030】
本発明でいう有機酸とは、炭素、酸素、水素、窒素、硫黄、リンなど周期表において非金属元素および非ハロゲン元素に分類される元素のみから構成されている、カルボン酸化合物、カルボン酸化合物がエステル置換されてなる化合物を指す。
【0031】
また、本発明に係る塩が加熱処理において揮発しやすいように、加熱処理の温度よりも低い温度で揮発する特性を有する有機酸、および/又は、イオン状態において、加熱処理の温度よりも低い温度で揮発する特性を有する有機酸であるのが好ましい。
【0032】
このような有機酸として、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、安息香酸、シュウ酸などを例示できる。
【0033】
本発明でいう窒素化合物とは、炭素、酸素、水素、窒素、硫黄、リンなど周期表において非金属元素および非ハロゲン元素に分類される元素のみから構成されており、少なくとも窒素原子を一原子以上含んでなる化合物を指す。
【0034】
また、本発明に係る塩が加熱処理において揮発しやすいように、加熱処理の温度よりも、低い温度で揮発する特性を有する窒素化合物、および/又は、イオン状態において、加熱処理の温度よりも低い温度で揮発する特性を有する窒素化合物であるのが好ましい。
【0035】
このような窒素化合物として、例えば、アンモニア、ヒドラジンなどを例示できる。
【0036】
本発明でいう塩とは、「化学大辞典1」(化学大辞典編集委員会,共立出版株式会社刊,昭和58年9月発行.第1014頁参照)に詳説されているように、「酸と塩基との中和反応によって生ずる化合物で、酸の陰性成分と塩基の陽性成分とから成るもの」を指す。
本発明における塩は、上述の有機酸(酸)と上述の窒素化合物(塩基)との中和反応によって生ずる化合物で、有機酸の陰性成分と窒素化合物の陽性成分とから成るものである。
なお、塩は1種類の有機酸と1種類の窒素化合物から成ることに限定されるものではなく、その態様は複塩や錯塩としても良い。
【0037】
本発明に係る塩は加熱処理において揮発する塩である必要がある。ここでいう揮発とは、加熱処理によって塩が揮発する、あるいは、塩が分解した後に揮発するなどして、加熱処理によって塩が繊維から除去されることを指す。
【0038】
このような塩として、例えば、酢酸アンモニウム、ギ酸アンモニウム、シュウ酸アンモニウムなどを例示できる。
【0039】
本発明に係る塩は、炭素、酸素、水素、窒素、硫黄、リンなど周期表において非金属元素および非ハロゲン元素に分類される元素のみから構成されているため、低い温度で揮発しやすく、加熱過程を経て最終的に得られる繊維中に、該塩が残留しにくい。
【0040】
また、本発明に係る塩を含む紡糸原液に静電気力を作用させて延伸するとともに細径化し、繊維化して捕集する工程によって、最終的に得られる繊維中からハロゲンガスやハロゲン元素のオキソ酸などのハロゲン系化合物が溶出しない。そして、繊維の加熱工程において、ハロゲンガスやハロゲン元素のオキソ酸などのハロゲン系化合物が生じず、紡糸環境を汚染しない。
【0041】
次いで、調製したポリマー溶液に、本発明に係る塩を添加することで紡糸原液を調製する。
【0042】
ポリマー溶液に添加する塩の量は、使用するポリマーの組成や導電率、溶媒の組成、溶媒におけるポリマーの濃度等によって変化するため、特に限定されるものではないが、最終的に調製される紡糸原液に添加されている塩の量が少なければ少ないほど、得られる繊維中から塩を揮発させて除去することが容易となる傾向がある。そのため、ポリマー溶液に添加する塩の量は、ポリマー質量の10質量%以下であるのが好ましく、7.5質量%以下であるのがより好ましく、5質量%以下であるのが最も好ましい。
【0043】
一方、ポリマー溶液に添加する塩の量が少ないと、紡糸原液の導電率の上昇が少ないため、静電気力を作用させて延伸するとともに細径化し、繊維化することが困難となる傾向がある。そのため、最終的に調製される紡糸原液に添加されている塩の量は、ポリマー質量の0.05質量%以上であるのが好ましく、0.1質量%以上であるのがより好ましく、0.2質量%以上であるのが最も好ましい。
【0044】
また、平均繊維径が1000nmよりも小さく、かつ、品位の良い繊維を得ることができるように、紡糸原液の導電率が、20μS/cm以上となるようにポリマー溶液に塩を添加するのが好ましい。
【0045】
紡糸原液が好適に調製できる、あるいは、静電気力を作用させて延伸するとともに細径化し、繊維化できるように、ポリマー溶液に塩を添加する方法は、適宜選択するのが好ましい。
ポリマー溶液に塩を添加する方法として、例えば、ポリマーならびに塩を溶媒に同時に混ぜ合わせて溶解させる、塩を溶媒に溶解した後にポリマーを溶解させる、ポリマーを溶媒に溶解した後に塩を溶解させる、あるいは、塩を添加したポリマーを溶媒に溶解させるといった方法を挙げることができる。また、溶媒、または、ポリマー溶液に塩を添加する際に、溶媒、またはポリマー溶液を加熱あるいは冷却しながら、塩を添加することができる。
【0046】
本発明に係る、繊維の製造方法において使用する紡糸方法は、紡糸原液に静電気力を作用させて延伸するとともに細径化し、繊維化して捕集する工程を備える、いわゆる静電紡糸法を用いる限り、限定されるものではない。
【0047】
本発明に係る紡糸方法として、例えば、紡糸原液を開口から吐出すると共に静電気力を作用させて紡糸する方法、突起の先端など紡糸の開始位置に紡糸原液を導くと共に静電気力を作用させて紡糸する方法、紡糸原液を波あるいは泡立たせて頂点部分を形成すると共に静電気力を作用させて紡糸する方法、などを例示することができる。
【0048】
このように紡糸された繊維は、繊維捕集体に不織布の態様として捕集されるが、繊維捕集体は紡糸された繊維を捕集できればよく、その構造や素材などは特に限定されるものではない。
例えば、繊維捕集体として、金属製や炭素などの導電性材料又は有機高分子などの非導電性材料からなる、不織布、織物、編物、ネット、ドラム、或いはベルトなどを挙げることができる。繊維捕集体がコンベアなど可動式のものであると、不織布の態様として連続的に繊維を製造することができる。特に、繊維捕集体の移動方向端部に巻取り装置を備えていると、長尺状の不織布の態様として連続的に繊維を製造することができる。
【0049】
繊維捕集体に電圧を印加する場合には、繊維捕集体は体積固有抵抗値が10Ω・cm以下の導電性材料(例えば、金属製)からなるのが好ましい。
一方、繊維捕集体が導電性材料からならない場合には、紡糸原液側から見て繊維捕集体よりも後方に、導電性材料からなる対向電極を設けるのが好ましい。この時、繊維捕集体は電圧が印加されている必要性はなく、対向電極がパワーサプライによって電圧が印加されている状態、あるいはアースされている状態であれば良い。また、繊維捕集体と対向電極とは離間していても、接触していてもよい。
【0050】
次いで、このようにして得られた繊維から、溶媒および塩を除去するために、繊維を加熱処理へ供する。
繊維の加熱処理に使用する装置は、例えば、キャンドライヤやカレンダなどの加熱ローラ、熱風ドライヤ、熱風乾燥機、電気炉、ヒートプレートなど、公知の装置を挙げられる。
加熱処理において繊維が加熱される温度は、樹脂の繊維形状が変形することなく、使用した溶媒を除去することができ、しかも繊維中の塩を揮発させることができるように、適宜調整するのが好ましい。
【0051】
例えば、ポリエーテルスルホン樹脂をジメチルアセトアミドに溶解させたポリマー溶液に酢酸アンモニウム塩を添加した紡糸原液に静電気力を作用させて延伸するとともに細径化し、繊維化して捕集する工程によって、得られた繊維を加熱処理へ供する場合には、酢酸アンモニウムはおよそ114℃以上の温度条件で分解し、揮発すること、ジメチルアセトアミドは室温以上の温度条件で除去することが可能であること、ポリエーテルスルホン樹脂の繊維形状を維持できる温度が230℃であることから、得られた繊維を114〜230℃の範囲で加熱処理するのが好ましく、120℃〜220℃の範囲で加熱処理するのがより好ましい。
【実施例】
【0052】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
また、以下に説明する測定方法を用いて、本発明に係る繊維を測定あるいは評価した。
【0053】
(導電率の測定)
導電率計(京都電子工業株式会社製、CM−117)を用いて、調製した紡糸原液の導電率を測定した。
【0054】
(平均繊維径の測定)
捕集された繊維を、10000倍に拡大した顕微鏡写真を撮り、該顕微鏡写真から40本の繊維を選出して、該選出した40本の繊維の外径(単位:nm、繊維径)の算術平均値(単位:nm)を求め、これを繊維の平均繊維径とした。
【0055】
(品位の評価)
不織布状態で捕集された繊維の主面を、500〜5000倍に拡大した顕微鏡写真を撮り、粒子状のポリマー塊があるかどうか、また、繊維径が一定かどうかを基準に品位を評価した。
表中において、品位の評価を表す記号は、
○:粒子状のポリマー塊が存在せず繊維径が一定であり品位に優れている、
×:粒子状のポリマー塊が存在している、あるいは、繊維径が一定でないため品位に劣る、
ことを意味する。
【0056】
(精製水の導電率の測定)
60℃の精製水100gの中に、捕集して加熱処理した繊維を0.6g加え、2時間洗浄した。洗浄した後、精製水中から繊維を取り除き、洗浄に使用した精製水の導電率を、導電率計(京都電子工業株式会社製、CM−117)を用いて測定した。
精製水の導電率が高いことは、繊維に残留している塩が、精製水中へと多量に溶出したことを示しており、繊維中に残留している塩の量が多いことを示唆している。また、精製水の導電率が低い値を示すことは、繊維に残留している塩が、精製水中へと溶出しにくいことを示しており、繊維中に残留している塩の量が少ないことを示唆している。
例えば、濾過用の濾材、二次電池やキャパシタ用のセパレータなどとして使用しても、濾材の処理流体を汚染しにくく、使用環境を汚染しにくいため二次電池やキャパシタの作用を阻害しにくい、という効果を奏する繊維を得ようとする場合、本測定に供した際の、精製水の導電率が20μS/cm未満となるように繊維を調製するのが好ましい。

なお、本測定で使用する精製水とは、JIS K 0557に基づきA4に分類される導電率が0.1μS/cm(25℃)以下の水を指し、精製水は電気透析純水製造装置(アドバンテック社、RFP843RA)を用いて調製した。
また、本発明の実施例および比較例において塩として添加した、酢酸アンモニウム、ギ酸アンモニウム、塩化リチウムはいずれも水に易溶である。
【0057】
(実施例1)
(1)紡糸原液の調製
ポリエーテルスルホン樹脂(登録商標:ウルトラゾーンE6020P、BASF社製、ガラス転移点:225℃)を、ジメチルアセトアミド(沸点:165℃)に溶解させて、ポリマー溶液を調製した。このとき、ポリマー溶液におけるポリエーテルスルホン樹脂の濃度は、ポリマー溶液質量の25質量%であった。
このポリマー溶液に、有機酸と窒素化合物からなる塩として酢酸アンモニウム(分解して揮発する温度:114℃)を添加し、完全に溶解させて紡糸原液を調製した。このとき、紡糸原液における酢酸アンモニウムの添加量は、紡糸原液中のポリエーテルスルホン樹脂質量の2質量%であり、紡糸原液の導電率は81.4μS/cmであった。
【0058】
(2)静電気力を作用させて繊維化する方法
内径が0.44mmの金属製のノズルに、アース処理されたパワーサプライを接続した。ノズル先端部の開口と対面するように、アース処理された繊維捕集体(ガラスクロスにポリテトラフルオロエチレンおよび導電性粒子を含浸し、焼成したもの)を設けた。この時、ノズル先端部と繊維捕集体との最短距離が、8cmとなるように調整した。
ノズルをパワーサプライにより12kVで印加して、ノズルと繊維捕集体の間に電界を形成した。
ノズルの開口から紡糸原液を吐出量が1g/3600sとなるようにして吐出させ、紡糸原液を電界に導いて、紡糸原液をノズル先端部の開口から繊維捕集体へと飛翔させると共に細径化させ、繊維化して繊維捕集体に不織布状態で捕集した。
なお、本工程における紡糸環境は、温度25℃、湿度35%RHであった。
【0059】
(3)加熱処理方法
このようにして得られた不織布状態で捕集された繊維を、電気炉(TABAI社製PHH200)を用いて180℃で30分間加熱処理して、繊維中に残留しているジメチルアセトアミドならびに塩を分解させ、揮発させて除去した。

このように紡糸原液に静電気力を作用させて延伸するとともに細径化し、繊維化することで、ポリエーテルスルホン樹脂繊維を製造した。
このようにして得られたポリエーテルスルホン樹脂繊維の平均繊維径は500nmであった。不織布状態で捕集された繊維の主面を5000倍と1万倍に拡大した顕微鏡写真を、図1に示す。繊維に粒子状のポリマー塊の存在は認められず、繊維径は一定であった。
また、捕集して加熱処理した繊維を精製水の導電率の測定へと供した結果、洗浄に使用した精製水の導電率は6.6μS/cmであった。
【0060】
(実施例2)
有機酸と窒素化合物からなる塩として、ギ酸アンモニウム(分解して揮発する温度:180℃)を添加したこと以外は実施例1と同様にして、紡糸原液に静電気力を作用させて延伸するとともに細径化し、繊維化することで、ポリエーテルスルホン樹脂繊維を製造した。
なお、この時の、紡糸原液におけるギ酸アンモニウムの添加量は、紡糸原液中のポリエーテルスルホン樹脂質量の1質量%であり、紡糸原液の導電率は105μS/cmであった。

このようにして得られたポリエーテルスルホン樹脂繊維の平均繊維径は450nmであった。不織布状態で捕集された繊維の主面を5000倍と1万倍に拡大した顕微鏡写真を、図2に示す。繊維に粒子状のポリマー塊の存在は認められず、繊維径は一定であった。
また、捕集して加熱処理した繊維を精製水の導電率の測定へと供した結果、洗浄に使用した精製水の導電率は5μS/cmであった。
【0061】
(比較例1)
有機酸と窒素化合物からなる塩を、添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして、紡糸原液に紡糸原液に静電気力を作用させて延伸するとともに細径化し、繊維化することで、ポリエーテルスルホン樹脂繊維を製造した。
なお、この時の、紡糸原液の導電率は3μS/cmであった。

このようにして得られたポリエーテルスルホン樹脂繊維の平均繊維径は900nmであった。不織布状態で捕集された繊維の主面を5000倍と1万倍に拡大した顕微鏡写真を、図3に示す。繊維に粒子状のポリマー塊の存在は認められなかったものの、繊維径は一定ではなかった。
また、捕集して加熱処理した繊維を精製水の導電率の測定へと供した結果、洗浄に使用した精製水の導電率は5.7μS/cmであった。
【0062】
(比較例2)
有機酸と窒素化合物からなる塩の替わりに、塩化リチウム(沸点:1360℃)を添加したこと以外は実施例1と同様にして、紡糸原液に紡糸原液に静電気力を作用させて延伸するとともに細径化し、繊維化することで、ポリエーテルスルホン樹脂繊維を製造した。
なお、この時の、紡糸原液における塩化リチウムの添加量は、紡糸原液中のポリエーテルスルホン樹脂質量の0.2質量%であり、紡糸原液の導電率は80μS/cmであった。

このようにして得られたポリエーテルスルホン樹脂繊維の平均繊維径は500nmであった。不織布状態で捕集された繊維の主面を5000倍と1万倍に拡大した顕微鏡写真を、図4に示す。繊維に粒子状のポリマー塊の存在は認められず、繊維径は一定であった。
また、捕集して加熱処理した繊維を精製水の導電率の測定へと供した結果、洗浄に使用した精製水の導電率は22.8μS/cmであった。
【0063】
実施例1〜2、比較例1〜2で得られた繊維の、各種測定結果を表1にまとめた。
【0064】
【表1】

【0065】
(実施例3)
(1)紡糸原液の調製
ポリアクリロニトリル樹脂(Aldrich社製、ガラス転移点:85℃)を、メタノール中に分散させて1時間攪拌した後、ポリアクリロニトリル樹脂を精製水で洗浄した。この一連の工程を3回繰り返すことで、ポリアクリロニトリル樹脂中に含まれている不純物を除去した。
次いで、このようにして得た純度の高いポリアクリロニトリル樹脂を、ジメチルホルムアミド(沸点:153℃)に溶解して、ポリマー溶液を調製した。このとき、ポリマー溶液におけるポリアクリロニトリル樹脂の濃度は、ポリマー溶液質量の9質量%であった。
ポリマー溶液に、有機酸と窒素化合物からなる塩として酢酸アンモニウム(分解して揮発する温度:114℃)を添加し、完全に溶解させて紡糸原液を調製した。このとき、紡糸原液における酢酸アンモニウムの添加量は、紡糸原液中のポリアクリロニトリル樹脂質量の3質量%であり、紡糸原液の導電率は100μS/cmであった。
【0066】
(2)静電気力を作用させて繊維化する方法
このようにして調製した紡糸原液を、実施例1と同様にして、繊維化して繊維捕集体に不織布状態で捕集した。
なお、本工程における紡糸環境は、温度25℃、湿度23%RHであった。
【0067】
(3)加熱処理方法
このようにして得られた不織布状態で捕集された繊維を、電気炉(TABAI社製PHH200)を用いて180℃で30分間加熱処理して、繊維中に残留しているジメチルホルムアミドならびに塩を分解させ、揮発させて除去した。

このようにして得られたポリアクリロニトリル繊維の平均繊維径は200nmであった。不織布状態で捕集された繊維の主面を5000倍と1万倍に拡大した顕微鏡写真を、図5に示す。繊維に粒子状のポリマー塊の存在は認められず、繊維径は一定であった。
また、捕集して加熱処理した繊維を精製水の導電率の測定へと供した結果、洗浄に使用した精製水の導電率は4.2μS/cmであった。
【0068】
(比較例3)
有機酸と窒素化合物からなる塩を、添加しなかったこと以外は実施例3と同様にして、紡糸原液に紡糸原液に静電気力を作用させて延伸するとともに細径化し、繊維化することで、ポリアクリロニトリル繊維を製造した。
なお、この時の、紡糸原液の導電率は18μS/cmであった。

このようにして得られたポリアクリロニトリル繊維の平均繊維径は300nmであった。不織布状態で捕集された繊維の主面を5000倍と1万倍に拡大した顕微鏡写真を、図6に示す。繊維径は一定であるものの、繊維に粒子状のポリマー塊の存在が認められた。
また、捕集して加熱処理した繊維を精製水の導電率の測定へと供した結果、洗浄に使用した精製水の導電率は4.8μS/cmであった。
【0069】
実施例3、比較例3で得られた繊維の、各種測定結果を表2にまとめた。
【0070】
【表2】

【0071】
(実施例4)
(1)紡糸原液の調製
ポリフッ化ビニリデン樹脂(Solvay社製、登録商標:SOLEF6020、融点:165℃)を、ジメチルホルムアミド(沸点:153℃)に溶解して、ポリマー溶液を調製した。このとき、ポリマー溶液におけるポリフッ化ビニリデン樹脂の濃度は、ポリマー溶液質量の15質量%であった。
ポリマー溶液に、有機酸と窒素化合物からなる塩として酢酸アンモニウム(分解して揮発する温度:114℃)を添加し、完全に溶解させて紡糸原液を調製した。このとき、紡糸原液における酢酸アンモニウムの添加量は、紡糸原液中のポリフッ化ビニリデン樹脂質量の2質量%であり、紡糸原液の導電率は94μS/cmであった。
【0072】
(2)静電気力を作用させて繊維化する方法
このようにして調製した紡糸原液を、実施例1と同様にして、繊維化して繊維捕集体に不織布状態で捕集した。
なお、本工程における吐出量は0.5g/3600sで紡糸環境は、距離15cm、温度25℃、湿度50%RHであった。
【0073】
(3)加熱処理方法
このようにして得られた不織布状態で捕集された繊維を、電気炉(TABAI社製PHH200)を用いて140℃で30分間加熱処理して、繊維中に残留しているジメチルホルムアミドならびに塩を分解させ、揮発させて除去した。

このようにして得られたポリフッ化ビニリデン繊維の平均繊維径は500nmであった。不織布状態で捕集された繊維の主面を5000倍と1万倍に拡大した顕微鏡写真を、図7に示す。繊維に粒子状のポリマー塊の存在は認められず、繊維径は一定であった。
また、捕集して加熱処理した繊維を精製水の導電率の測定へと供した結果、洗浄に使用した精製水の導電率は2.5μS/cmであった。
【0074】
(比較例4)
有機酸と窒素化合物からなる塩を、添加しなかったこと以外は実施例4と同様にして、紡糸原液に紡糸原液に静電気力を作用させて延伸するとともに細径化し、繊維化することで、ポリフッ化ビニリデン繊維を製造した。
なお、この時の、紡糸原液の導電率は0.5μS/cmであった。

このようにして得られたポリフッ化ビニリデン繊維の平均繊維径は1000nmであった。不織布状態で捕集された繊維の主面を5000倍と1万倍に拡大した顕微鏡写真を、図8に示す。繊維に粒子状のポリマー塊の存在は認められないものの、繊維径が一定ではなかった。
また、捕集して加熱処理した繊維を精製水の導電率の測定へと供した結果、洗浄に使用した精製水の導電率は2.5μS/cmであった。
【0075】
実施例4、比較例4で得られた繊維の、各種測定結果を表3にまとめた。
【0076】
【表3】

【0077】
(実施例5)
(1)紡糸原液の調製
ポリウレタン樹脂(DIC社製、登録商標:パンデックスT5202、融点:60℃)を、ジメチルホルムアミド(沸点:153℃)に溶解して、ポリマー溶液を調製した。このとき、ポリマー溶液におけるポリウレタン樹脂の濃度は、ポリマー溶液質量の20質量%であった。

ポリマー溶液に、有機酸と窒素化合物からなる塩として酢酸アンモニウム(分解して揮発する温度:114℃)を添加し、完全に溶解させて紡糸原液を調製した。このとき、紡糸原液における酢酸アンモニウムの添加量は、紡糸原液中のポリウレタン樹脂質量の2質量%であり、紡糸原液の導電率は90μS/cmであった。
【0078】
(2)静電気力を作用させて繊維化する方法
このようにして調製した紡糸原液を、実施例1と同様にして、繊維化して繊維捕集体に不織布状態で捕集した。
なお、本工程における紡糸環境は、距離10cm、温度25℃、湿度50%RHであった。
【0079】
(3)加熱処理方法
このようにして得られた不織布状態で捕集された繊維を、電気炉(TABAI社製PHH200)を用いて140℃で30分間加熱処理して、繊維中に残留しているジメチルホルムアミドならびに塩を分解させ、揮発させて除去した。

このようにして得られたポリウレタン繊維の平均繊維径は600nmであった。不織布状態で捕集された繊維の主面を5000倍と1万倍に拡大した顕微鏡写真を、図9に示す。繊維に粒子状のポリマー塊の存在は認められず、繊維径は一定であった。
また、捕集して加熱処理した繊維を精製水の導電率の測定へと供した結果、洗浄に使用した精製水の導電率は2.8μS/cmであった。
【0080】
(比較例5)
有機酸と窒素化合物からなる塩を、添加しなかったこと以外は実施例5と同様にして、紡糸原液に紡糸原液に静電気力を作用させて延伸するとともに細径化し、繊維化することで、ポリウレタン繊維を製造した。
なお、この時の、紡糸原液の導電率は1.6μS/cmであった。

なお、不織布状態で捕集されたポリウレタン繊維を、加熱処理へと供したところ、ポリウレタン繊維が溶融してしまったことから、比較例5で得られた、不織布状態で捕集されたポリウレタン繊維の品位の評価は、加熱処理へと供する前の不織布状態で捕集されたポリウレタン繊維を用いて、評価した。
比較例5で得られた、加熱処理へと供する前の不織布状態で捕集されたポリウレタン繊維には、粒子状のポリマー塊が多数存在していたため、平均繊維径を求めることができなかった。不織布状態で捕集された繊維の主面を5000倍と1万倍に拡大した顕微鏡写真を、図10に示す。繊維に粒子状のポリマー塊が多数存在しており、繊維径が一定ではなかった。

また、不織布状態で捕集されたポリウレタン繊維は、上述のように、加熱処理へと供することができないため、比較例5では精製水の導電率を測定することができなかった。
【0081】
実施例5、比較例5で得られた繊維の、各種測定結果を表3にまとめた。
【0082】
【表4】

*平均繊維径、ならびに、精製水の導電率の測定において、
―:粒子状のポリマー塊が多数存在していたため、平均繊維径を求めることができなかった、精製水の導電率を測定することができなかった、ことを意味する。
【0083】
以上の結果から、「加熱処理によって揮発する、有機酸と窒素化合物からなる塩」が添加された紡糸原液は、塩が添加されていない紡糸原液よりも、紡糸原液の導電率が向上したものであった。
そのため、本発明の繊維の製造方法によれば、紡糸原液に静電気力を作用させて延伸するとともに細径化し、繊維化して捕集する工程によって、平均繊維径が1000nmよりも小さい繊維が得られると共に、粒子状のポリマー塊が生じることなく、繊維径が一定な品位の良い繊維が得られることが分かった。
【0084】
また、「加熱処理によって揮発する、有機酸と窒素化合物からなる塩」が添加された紡糸原液を用いる、本発明に係る繊維の製造方法によって、最終的に得られた繊維を精製水の導電率の測定へと供した結果、洗浄に使用した精製水の導電率は、塩が添加されていない紡糸原液を用いることで最終的に得られた繊維の、洗浄に使用した精製水の導電率と近似の値を示すものであった。
そのため、本発明の繊維の製造方法によれば、加熱工程を経て最終的に得られる繊維中に、塩が残留しにくいことが分かった。
【0085】
更に、該塩は有機酸と窒素化合物からなる塩であるため、繊維製造時ならびに得られる繊維から、ハロゲンガスやハロゲン系化合物が放出されない。
【0086】
そして、例えば、ポリエーテル系樹脂(特に、ポリエーテルスルホン)、ウレタン系樹脂(ポリウレタン)、フッ素系樹脂(特に、ポリフッ化ビニリデン)、ポリイミド系樹脂などの、該樹脂を用いてなる紡糸原液の導電率が20μS/cm未満である、純度の高い樹脂を用いて品位の良い繊維を得ようとする場合であっても、加熱工程を経て最終的に得られる繊維中に、塩が残留しにくいことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、紡糸原液の導電率を向上して、紡糸原液に静電気力を作用させて延伸するとともに細径化し、繊維化して捕集する工程によって、平均繊維径が小さい繊維が得られると共に、粒子状のポリマー塊が生じることを防いで繊維径が一定な品位の良い繊維が得られ、更に、得られる繊維中に塩が残留し難く、また、繊維製造時ならびに得られる繊維から、ハロゲンガスやハロゲン系化合物が放出されない、繊維の製造方法に関する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)紡糸原液に静電気力を作用させて延伸するとともに細径化し、繊維化して捕集する工程、
(2)捕集した繊維を、加熱処理する工程、
を備える、繊維の製造方法において、
前記の加熱処理によって揮発する、有機酸と窒素化合物からなる塩が、前記紡糸原液に添加されていることを特徴とする、繊維の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−46844(P2012−46844A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−189885(P2010−189885)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(000229542)日本バイリーン株式会社 (378)
【Fターム(参考)】