説明

極軟加工栗およびその製造方法

【課題】一般に極軟栗または極軟栗甘露煮と称される加工栗(以下、「極軟加工栗」という。)及びその製造方法を提供する。
【解決手段】下記の(1)及び(2)の工程を有する極軟加工栗の製造方法:
(1)澱粉が加熱糊化してなる味付け加工栗を原料栗とし、これを一旦減圧した後、復圧または加圧しながら湿熱処理し、次いで、復圧、及び冷却する工程、
(2) 上記で得られた加工栗を密閉包装し、殺菌する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工栗、特に極軟栗または極軟栗甘露煮と称される加工栗(以下、本発明が対象とする加工栗を「極軟加工栗」という。)及びその製造方法に関する。詳しくは、本発明は、栗の食味品質である食感、味、および外観が良好で、なおかつ、生産性の良好な新規な極軟加工栗およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
栗は、古くから澱粉質食品として食用されてきた季節的な収穫果実で、世界中で栽培されている。本来この栗は、食用として加熱し澱粉を糊化させてから直接食用とされてきたが、近年では栗の食品加工用途も広がり、その保存方法、加工方法も多様化し、工業的な加工食品として利用されている。
【0003】
このような、栗を加工した代表的な加工食品としては、焼き栗、栗甘露煮、天津甘栗、マロングラッセ、栗ペーストなどの各種の調理栗が知られている。特に、栗の鬼皮および渋皮を剥離した栗本来の形状をした加工品は、消費者側で皮剥き等の煩雑な手間が不要であるために、栗ごはん、栗きんとん、栗甘露煮などに手軽に用いられるなど、二次加工に利用する加工食品原料としての需要が多い。特に、業務用向けの味付け加工栗である栗甘露煮、栗水煮、栗シロップ漬けなどがその加工食品原料に該当する。
【0004】
しかしながら、実際の味付け加工栗の工業生産には様々な煩雑な製造工程が必要とされる場合が少なくない。この製造工程は、一般的には、まず生栗の鬼皮及び渋皮を皮剥きし、水晒しした後に加熱工程に入る。この加熱工程で栗の食感や味が決まるため、この工程は各加工栗生産者のノウハウとなるが、一般的には加熱温度、時間を変えながら2〜5回程度段階的に加熱が行われる。特に、この段階的な加熱工程には、加熱しながら栗を漂白処理する工程や、栗の形割れを防止するために食品添加物を配合する工程が入る場合もある。
【0005】
味付け加工栗の製造工程における、この2〜5回にわたる段階的な加熱処理は、栗に糖液の甘味質を徐々に浸透させるためにも行われる。この意味で加熱工程は調理工程でもあり得る(これらの処理を総称して「加熱・調理」ともいう)。すなわち、栗内部には一度の加熱・調理処理では甘味質が浸透しないために、上記する段階的な加熱処理において、糖液の濃度を変えながら数度にわたって甘味質を加熱浸透させる場合が多い。そのため、度重なる加熱・調理処理で、加工栗の外観が煮崩れたり、栗の割れが起こったりして生産の歩留りが著しく低下する原因にもなる。
【0006】
斯くして加熱・調理された栗は、最後に糖液等の調味液とともに缶やパウチ等の容器に詰められて長期保存が可能なように殺菌されるが、このように味付け加工栗の製造には、皮剥きから殺菌及び容器充填まで、多くの工程を要することになる。
【0007】
味付け加工栗の製造に関する具体的な例として、特許文献1には、生栗を剥皮し、水晒しした後、ボイルし、糖液(調味液)を加えて煮上げる方法が記載されている。さらに、複雑な加工工程として、特許文献2では、栗収穫後の保存、あるいは栗加工後の長期保存を考慮して、生栗を剥栗、冷・解凍、選別、ボイル、冷却、焼き、糖液浸漬、調味液混合、及び殺菌と多くの工程を経由した製造工程が開示されている。特に、糖液浸漬工程に関しては、栗に浸透させる糖質量を上げるために、低濃度糖液への浸漬から順次段階的に高濃度糖液に浸漬させる等、複数回の浸漬工程が用いられている。しかし、濃度の異なる糖液で複数回、加熱・調理することにより、栗の外観は著しく損なわれてしまう。
【0008】
こうした味付け加工栗は、そのまま食するのみならず、二次加工食品原料としても広く用いられる。具体的には、スーパーマーケットやコンビニエンスストアなどの量販店の拡大や外食産業の多様化に伴って発展してきた加工食品業界では、この味付け加工栗を基にした栗惣菜、栗和菓子、栗洋菓子などの二次加工食品が作られてきている。
【0009】
このような二次加工食品の原料となる味付け加工栗に求められる品質的ニーズとして、第一に食味品質が挙げられる。
【0010】
栗の食味品質は、(1)食感(軟らかさ、ホクホク感等)、(2)外観(色調、型崩れ・煮崩れがない)、及び(3)味(甘味の浸透と均一性)の3点で評価される(非特許文献1)。なかでも食感と味(甘味の強さ)は栗の食味品質の評価に大きく影響する。特に、栗甘露煮、栗水煮、栗シロップ漬けなどの甘味付け加工栗は、甘味質の均一性と食感の軟らかさが要求される。また味付け加工栗には、これらの食味品質に加えて、さらに長期保存性、長期保存時安定性、物流時安定性、供給安定性などが要求される。さらに、加工栗生産者からの経済性視点では、原料栗の安定供給、加工歩留まり向上、及び簡易生産性なども要求される。
【0011】
味付け加工栗が、特に、栗和菓子や栗洋菓子に二次加工食品原料として利用される場合は、菓子に用いることのできる甘味質とクリームやスポンジの食感に合った軟らかい食感が求められる。栗加工業界では甘味を付与した味付け加工栗のうち、特に食感が軟らかい栗を「極軟栗」と称し、特別な加工商品として重宝されている。これは、栗加工品のうち「極軟栗」の食感を食味品質に優れた上級品として認めていることにほかならない。
【0012】
極軟栗を始めとする、こうした味付け加工栗に要求される多くのニーズを満たすために、様々な製造方法が提案されている。特許文献1には、生栗を糖液でボイルし、甘露煮にした後、ビン詰め時に寒天溶液を入れてビン詰め甘露煮にすることで、栗澱粉の老化防止を図るとともに、溶液のゲル化により栗の割れを防止することが記載されている。しかし、当該方法は、味付け加工栗の品質、特に食感や味を向上させるものではなく、また製造工程が複雑であるため、生産性が劣るという問題がある。
【0013】
特許文献3には、剥き栗を水あるいは糖液に漬けて脱気し、その後加圧加熱殺菌することで、加熱時の泡発生を抑え、栗の煮崩れや酸素による栗表面の白斑点化を防止すること、また極軟栗のような軟らかい食感と綺麗な外観を備えた味付け加工栗が調製できることが記載されている。また当該方法によれば、製造歩留りが向上することが記載されている。しかしながら、当該方法では、栗の甘露煮に必要な甘味質を栗内部に均一に浸透させるという課題が解決されない。
【0014】
また、特許文献3には加圧加熱殺菌処理(レトルト処理)を、栗を密閉容器(缶やプラスチックパウチ)に入れて行うとは記載されていない。一般的な加圧加熱殺菌処理装置(レトルト装置)に使用される水は、必ずしも衛生的な水ではなく、装置のサビや水垢が混入している場合や、サビ止め剤や水垢防止剤などの水質保持用薬品が配合されている場合が多い。こうしたことを考えると、特許文献3に記載されている発明は、実際には使用できない課題を抱えている。
【0015】
さらに、味付け加工栗の味の均一性を図るため、特に栗果肉への甘味質の浸透性を高めるために、特許文献4では渋皮付き栗を一旦凍結した後に解凍することが記載されている。つまり、栗を凍結解凍することで、栗果肉に無数の孔を設け、糖質をこの孔内より果肉内に円滑に浸透させて甘味質の均一性を図る方法である。この方法では、栗甘露煮の歩留りを通常の30〜50%から75%まで上げることができ、経済性を向上させることができる。しかしながら、逆に栗果肉内組織に無数の孔が形成され多孔質になるために、食感が脆くなり、本来の栗甘露煮の食感が損なわれるという問題がある。
【0016】
特許文献5では、剥き栗に誘導蛋白質や繊維状蛋白質をコーティングしてから加熱殺菌することで、加工栗の加熱褐変や風味劣化を防止して品質向上を図ることが記載されている。この方法では、剥き栗を水晒しするなどといった前処理工程が不要なため、生産性の向上を図ることができる。この方法は、栗表面をコーティングすることにより栗表面からのタンニンやポリフェノール類の溶出を防ぐことで、加熱褐変や風味劣化を防止するというものであるが、逆に栗表面をコーティングしてしまうことで、糖液などの栗内部への浸透が妨げられてしまい、栗加工品の味覚品質(甘味)を向上させることができない。さらには、栗内部への水分浸透がないことから、栗の持つ水分のみで澱粉を糊化するために、加工栗の食感も硬くなってしまうと想定される。
【0017】
特許文献6と特許文献7では、剥き栗の加熱による割れや破損を防止し色調の良い加工栗を作ることを目的にして、剥き栗の表面に水もしくは糖液、あるいは水溶性多糖類溶液を塗布するか、または剥き栗を水溶性多糖類溶液に浸漬し、加圧加熱殺菌する方法が提案されている。この方法では、剥き栗表面に糖質を含めた多糖類がコーティングされるために栗内部の澱粉質が溶出しにくくなり、出来上がった加工栗の色調や、手で触った時のベタつき、あるいは加熱による割れが防止できる。しかしながら、栗表面に糖質や多糖類をコーティングしてしまうために、逆に加工栗本来の甘味質が栗内部まで浸透しないことになる。そのため、かかる製造方法では、所望な味覚が得られないという問題がある。さらに、特許文献5と同様に栗内部への水分浸透がないため、栗が持つ水分のみで澱粉を糊化するため、加工栗の食感も硬くなる。
【0018】
また特許文献8には、加工栗の外観を改良し、長期保存を目的にした製造方法が開示されている。具体的には、当該文献には、剥き栗を、アスコルビン酸を加えた糖液に浸漬した後、糖液中の酸素を脱気して、次いで加圧加熱殺菌することで、殺菌時の栗のむれ臭を低減し、色調の良好な加工栗が製造できることが記載されている。しかし、この方法では、味、風味及び色調は改善できているものの、栗の食味品質として最重要な食感についての改善ができるかは不明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開昭53−072849号公報
【特許文献2】特開平06−209702号公報
【特許文献3】特開平01−240141号公報
【特許文献4】特開平05−103642号公報
【特許文献5】特開2000−125800号公報
【特許文献6】特開2001−204381号公報
【特許文献7】特開2003−000203号公報
【特許文献8】特開2005−073617号公報
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】杉本温美、他、「栗果肉の食味評価と理化学特性との関連について」、近畿大学農学部紀要、第37号、p.31−37、(2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
上記の栗加工に関する先行技術を総括すると、味付け加工栗に求められる食味品質の3大要素である(1)食感(軟らかさ、ほくほく感等)、(2)外観(色調、型崩れ・煮崩れがない)、(3)味(甘味の浸透と均一性)を個々に解決する製造方法は従来から種々提案されているが、全てを同時に解決できる製造方法は未だに確立されていない。さらに、味付け加工栗を二次加工食品原料として工業的に生産するためには、加工歩留りの向上、加工時間の短縮、製造工程の簡素化などが必要であるが、これらの生産性を向上させた製造方法も確立されていないのが現状である。そのため、現在、味付け加工栗の生産者は、食味品質の三大要素(食感、外観、及び味)を満足させるために、複雑で手間のかかる製造方法を用いざるをえない状況であり、これが味付け加工栗が広く二次加工食品原料として流通しない一つの原因にもなっている。
【0022】
前述するように、栗加工業界では甘味を付与した味付け加工栗のうち、通常の味付け加工栗に比べて非常に食感が軟らかいものを「極軟栗」と称し、最上級品として位置付けている。この極軟栗は、単に通常の味付け加工栗よりも食感が軟らかいだけでなく、加工栗の形が煮崩れしていない、割れがないなどの外観的要素も重要視される。すなわち、極軟栗は食感の軟らかさと甘味質の均一性と外観のよさのすべてが満たされて初めて高い評価が得られる。
【0023】
一般的な極軟栗の製造方法は、通常の味付け加工栗の製造方法と同様に、糖液浸漬(味付け)、加熱、及び冷却の工程(加熱・調理工程)を繰り返して行う。ただし、通常の味付け加工栗が、糖液の濃度を段階的に上げて浸漬し、加熱し、次いで冷却するという一連の加熱・調理工程を2〜5回繰り返して製造するのに対して、食感の軟らかい極軟栗の場合は、この工程を5〜7回に増やして加熱調理される。しかし、このような加熱・調理工程を繰り返して行うと、味付け加工栗の食感は軟らかくなるものの、その外観は大きく煮崩れしてくる。そのため、通常の味付け加工栗の製造方法における浸漬、加熱、及び冷却の繰り返しでは、出来上がった極軟栗は煮崩れが多発し、歩留まりが大きく低下してしまうという問題がある。
【0024】
具体的には、加熱・調理工程を2〜5回繰り返して製造される通常の味付け加工栗の製造歩留まりがだいたい80〜95%であるのに対して、加熱・調理工程を5〜7回行って製造される極軟栗の製造歩留まりは40〜60%と極めて低い。この極軟栗の歩留まりの低さに伴う生産性の低さが、加工食品市場における極軟栗の価格の高さに反映している。またこれが極軟栗を和菓子や洋菓子などの二次加工食品に広く利用できない原因でもある。このため、この極軟栗をいかに安定的に効率よく生産するかが大きな課題となっている。
【0025】
本発明は、このような栗加工業界の現状を勘案してなされたものであり、その目的とするところは、需要者側のニーズである食味品質(食感、外観、味)を満たした極軟加工栗を、生産者側のニーズである生産性の高い製造方法で安定的に効率よく製造し、提供することである。また、所望の食感(ほくほく感、もっちり感、ねっとり感)を有する極軟加工栗を簡便に生産性の高い方法で製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明者らは、味付け栗加工品における食味品質の最上級品として位置付けられている極軟栗と同様の食感、味及び外観を有する加工栗(以下、「極軟加工栗」という)を、安定的に効率よく製造することを目的に、鋭意検討を重ねていたところ、既に味付けし澱粉を糊化処理した剥き栗(味付け加工栗)を原料として、これを一旦減圧した後、衛生的な加熱水蒸気、好ましくは飽和水蒸気で復圧下または加圧下で加熱処理し、次いで復圧、冷却し、その後、密閉包装(真空包装、合気包装)して加熱殺菌することで、栗内部に調味液の味質が均一に浸透し、且つ極軟栗と同様に軟らかい食感を有する味付け加工栗が得られること、加えて加熱・調理による栗の割れ等の外観の劣化が防止できるなど、食味品質(食感、外観、味)を満たした味付け加工栗が、複雑な工程なく短時間で製造できることを見出した。また、加熱殺菌時に採用する包装形態と殺菌条件を選択することで、味付け加工栗の食感をコントロールできることを見出した。
【0027】
本発明はかかる知見に基づいて完成したものであり、下記の実施態様を包含するものである。
【0028】
(I)下記(1)及び(2)の工程を有する極軟加工栗の製造方法:
(1)澱粉が加熱糊化してなる味付け加工栗を原料栗とし、これを一旦減圧した後、復圧または加圧しながら湿熱処理し、次いで、復圧、及び冷却する工程、
(2) 上記で得られた加工栗を密閉包装し、殺菌する工程。
【0029】
(II)上記(1)の工程が、下記(1-a)〜(1-c)工程を有するものである(I)に記載する製造方法:
(1-a)上記原料栗を8.0×103〜1.0×104Paまで減圧処理する工程、
(1-b)上記(1-a)工程で得られた栗を、加熱水蒸気を用いて、7.0×104〜2.0×105 Pa、80〜120℃の条件で、復圧または加圧しながら加熱処理する工程、
(1-c)上記(1-b)で得られた栗を、4.0×104〜5.0×104 Paの減圧条件で少なくとも品温75℃になるまで冷却処理する工程。
【0030】
(III)上記加熱水蒸気が飽和水蒸気である、(II)に記載する製造方法。
【0031】
(IV)上記(2)工程が、(1)工程で得られた栗を、(a)真空包装して100℃以下の温度条件下で常圧加熱殺菌するか、または(b)含気包装して100℃以上の温度条件で加圧加熱殺菌する、工程である、(I)乃至(III)のいずれかに記載する製造方法。
【0032】
(V)前記原料栗が、鬼皮を剥いた生栗または鬼皮及び渋皮を剥いた生栗を調味液を用いて加熱調理した味付け加工栗であることを特徴とする(I)乃至(IV)のいずれかに記載する製造方法。
【0033】
(VI)(I)〜(V)のいずれかに記載の製造方法により得られることを特徴とする極軟加工栗。
【0034】
なかでも好適な製造方法としては、次の方法を挙げることができる:
通常の製造方法で、例えば糖液浸漬(味付け)、加熱、及び冷却の工程を2〜5回繰り返して製造した味付け加工栗をそのまま、圧力と温度が制御可能な装置、例えば加圧加熱装置の庫内に入れ密閉する。その後、密閉庫内の空気を排除して真空近くまで減圧状態にする(減圧工程)。次に、衛生的で安全な加熱水蒸気、好ましくは飽和水蒸気を用いて、所定の温度及び圧力まで徐々に移行させ(温度・圧力移行工程)、所定温度及び圧力に達した後、加熱を行う(加熱工程)。加熱が終了すれば圧力を戻し(復圧工程)、温度を下げて、最後に温度と圧力を下げながら真空に近い状況で冷却し(減圧冷却工程)、その後、加圧加熱装置から取り出す。またこの一連の工程内では、密閉庫内の水蒸気を定期的に排気して圧力と温度を制御する。
【0035】
こうして、加熱水蒸気(好ましくは飽和水蒸気)による加熱・調理工程を終えた栗は、そのまま又は調味液と一緒にプラスチックフィルムパウチ等に真空密封包装され、常圧条件下で加熱殺菌するか、または、そのままプラスチックトレイや缶に含気密封包装されて加圧条件下で加熱殺菌し、斯くして食感が非常に軟らかく、ホクホク感、もっちり感またはねっとり感のある、煮崩れのない極軟加工栗を得ることができる。
【0036】
すなわち、本発明の極軟加工栗の製造方法は、好適には、通常の味付け加工栗の製造工程で作られた味付け加工栗を、そのまま、圧力と温度が制御可能な加圧加熱装置の密閉庫内に入れて、減圧工程、温度・圧力移行工程、加熱工程、復圧工程、及び減圧冷却工程の一連の処理を、衛生的な水蒸気(好ましくは飽和水蒸気)を利用しながら行い、その後、プラスチック等の包装資材に入れて真空包装して常圧加熱殺菌するか、あるいは含気包装し加圧加熱殺菌することを特徴とする製造方法である。この製造方法によれば、栗の外観を損なうことなく、軟らかく、しかもホクホクした食感、もっちりとした食感またはねっとりとした食感など所望の食感を有する極軟加工栗を得ることができる。さらにこの製造方法は、従来からの複雑な極軟加工栗の製造方法を簡略化し、短時間で行えること、また加工栗の製造歩留まりが大きいことも特徴である。
【発明の効果】
【0037】
本発明の製造方法によれば、栗の煮崩れや割れなどを有意に防ぎながら、付加価値の高い極軟栗に求められる食味品質(食感、外観、味)を満たした極軟栗加工栗を、歩留まりの高い生産性の高い製造方法で製造し、提供することができる。
【0038】
さらに、本発明の製造方法によれば、各製造工程を温度と圧力とが制御可能な装置、好ましくは飽和水蒸気での加熱処理または過熱処理が可能な装置内で行うことにより、製造の手間と時間を省くことができ、生産性を向上させることができる。すなわち、かかる装置を用いて飽和水蒸気を利用した一連の加熱調理を段階的に行うことで、複雑で煩雑な製造工程を省力化することができる。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明が対象とする極軟加工栗は、少なくとも鬼皮を除去した皮剥ぎ栗を味付け加熱調理した加工栗であり、煮崩れがなく、軟らかな食感を有することを特徴とする。好ましくは栗の可食部(果実)が全形をとどめているものである。軟らかな食感の程度は、果実硬度計で評価することができ、例えば対象とする加工栗の測定硬度が130N以下である場合、「極軟栗」に相応しい軟らかな食感を有すると評価することができる。好ましい測定硬度は、120N以下、より好ましくは80〜100Nである。
【0040】
本発明の極軟加工栗の製造方法は、下記の製造工程を含むものである:
(1)澱粉が加熱糊化してなる味付け加工栗を原料栗とし、これを一旦減圧した後、復圧または加圧しながら湿熱処理し、次いで、復圧、及び冷却する工程(第1工程)、
(2) 上記で得られた加工栗を密閉包装し、殺菌する工程(第2工程)。
【0041】
以下、各工程について説明する。
(1)第1工程(加熱工程)
本発明の極軟加工栗の製造方法において、原料とする栗は、栗澱粉が加熱等によって既に糊化(α化)しており、且つ味付けされてなる味付け加工栗である。また少なくとも鬼皮が全て除去された味付け加工栗である。なお、渋皮は鬼皮と同様に全部除去されていることが好ましいが、その一部または全部が残っていてもよい。当該味付け加工栗(原料栗)は可食部(果実)が全形をとどめているものであることがより好ましい。
【0042】
当該原料となる味付け加工栗を製造する方法は特に制限されない。味付けに使用する調味液の組成も、また加熱調理方法も特に制限されない。例えば、味付けに使用する調味液は、栗実に少なくとも甘味質を付与することができるものであればよく、例えば糖類または甘味料を含む糖液、あるいは糖類及び/または甘味料以外に各種調味料や酸味料を含む糖調味液を挙げることができる。ここで糖類としては食用されている糖類であれば特に制限されず、例えば砂糖(白糖、黒糖、三温糖、和三盆等)、果糖、乳糖、オリゴ糖、麦芽糖、ブドウ糖、ブドウ糖果糖液糖、オリゴ糖、水飴、モラセス(糖蜜)、蜂蜜、メープルシロップ等の糖;並びにキシリトールやソルビトール等の糖アルコールを挙げることができる。甘味料としても食用されている天然由来または非天然の甘味料であれば特に制限されず、例えば、エリスリトール、トレハロース、マルチトール、パラチノース、スクラロース、甘草抽出物、ステビア、ソーマチン、サッカリンナトリウム、アスパラテーム、アセスルファムカリウム、ネオテーム、羅漢果抽出物等を例示することができる。これらの糖類や甘味料はその種類を特に制限することなく、1種単独でまたは2種以上を任意に組み合わせて、所望の甘味質に合わせて適宜設定調整することができる。これらの糖類または甘味料に組み合わせて配合する調味料または酸味料としても、特に制限されず、食用されている調味料や酸味料を適宜用いることができる。調味料としては、アスパラギン酸ナトリウム、アラニン、グリシン、グルタミン酸やその塩、バリン等のアミノ酸;5’-イノシン酸二ナトリウム、5’-ウリジル酸二ナトリウム、5’-グアニル酸二ナトリウム、5’-シチジル酸二ナトリウム、5’-リボヌクレオチドカリウム、5’-リボヌクレオチド二ナトリウム等の核酸;クエン酸、クエン酸三ナトリウム、コハク酸、コハク酸二ナトリウム、グルコン酸塩、乳酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム、酒石酸水素ナトリウム、酒石酸ナトリウム等の有機酸またはその塩;塩化カリウムやホエイソルトなどの無機塩を例示することができる。また、酸味料としては、クエン酸、乳酸、氷酢酸、リンゴ酸、クエン酸ナトリウム、フマル酸一ナトリウム、酒石酸等の有機酸またはその塩;及びリン酸などの無機酸を例示することができる。また調味液には、栗色を保持するアスコルビン酸や着色料などの食品添加物を含んでも良い。
【0043】
第1工程では、上記の原料栗をそのまま制御された圧力と温度条件下で処理する。かかる処理は、上記の原料栗を耐熱性または耐熱耐圧性のトレイまたはホテルパン等の容器に入れ、これを圧力と温度が制御可能な装置に入れることによって行うことができる。
【0044】
第1工程は、詳細には下記の工程に分類することができる:
(1-a)原料栗をそのままの状態で減圧処理する工程(減圧工程)、
(1-b)上記(1-a)で得られた栗を復圧または加圧しながら加熱処理する工程(復・加圧加熱工程)、
(1-c)上記(1-b)で得られた栗を減圧冷却処理する工程(減圧冷却工程)。
【0045】
これらの一連の工程は、圧力と温度が制御可能な装置内で密閉した状態で実施することができる。圧力と温度が制御可能な装置としては、制限されないが、加圧加熱装置、好ましくはレトルト殺菌装置等の加圧加熱殺菌装置を挙げることができる。加熱処理には加熱空気による乾熱処理と、蒸気や熱水による湿熱処理が挙げられるが、好ましくは後者の湿熱処理である。かかる湿熱処理は、好ましくは加熱水蒸気や飽和水蒸気または熱水による加熱処理機能を備えた装置を用いて行うことができる。かかる装置としては飽和蒸気調理機や熱水噴流式調理殺菌装置等を挙げることができる。より好ましくは飽和水蒸気による加熱処理機能を備えた装置(飽和蒸気加熱調理機)である。具体的には、飽和蒸気加熱調理機としては、例えば槽内を60〜120℃の範囲の飽和蒸気環境にして加熱または過熱調理することができる三浦工業(株)製の飽和蒸気調理器CK・CLや飽和蒸気調理機スチームマイスターを例示することができる。
【0046】
(1-a)減圧工程
当該工程において減圧処理は、原料栗をそのままの状態で上記装置内に入れて、庫内を密閉した後、庫内の空気を排除して減圧状態にすることによって実施することができる。
【0047】
ここで減圧状態とは、「大気圧よりも低い圧力(負圧)の気体で満たされた空間内の状態」を意味する。ここで「大気圧よりも低い圧力」とは、必ずしも「標準大気圧(1 atm=760 Toor=1.01325×105 Pa)よりも低い圧力」を厳密に意味するものではなく、周囲の圧力(常圧)に対して減圧された状態を意味するが、標準大気圧を基準に判断してもよい。
【0048】
制限はされないものの、かかる減圧条件として、具体的には1.0×104 Pa(abs:以下同じ)程度以下、好ましくは8.0×103〜1.0×104 Pa程度、より好ましくは8.5×103〜9.5×103 Pa程度を挙げることができる。かかる減圧処理時の温度条件としては、特に制限されず、例えば室温(25±5℃)を挙げることができるが、必要に応じて80〜50℃、好ましくは60〜50℃の温度範囲に設定する。
【0049】
なお、減圧処理にかける時間は特に制限されないが、通常20分以上、好ましくは30〜40分程度の時間をかけて徐々に処理することが好ましい。
【0050】
(1-b)復・加圧加熱工程
上記減圧処理後、庫内が例えば8.0×103〜1.0×104 Pa程度の真空状況に近くなれば加熱処理を開始する。
【0051】
加熱温度条件としては、澱粉が再糊化する温度以上であればよく、通常80℃程度以上を挙げることができる。栗の均一加熱を考えると、好ましくは80〜120℃、より好ましくは90〜120℃である。
【0052】
加熱は上記減圧状態を解除した状態(復圧状態)で行うことが好ましく、通常、7.0×104 Pa(abs:以下同じ)程度以上の条件で加熱される。好ましくは大気圧以上の条件、より好ましくは加圧した条件(加圧状態)で加熱される。ここで「大気圧」は、標準大気圧(1.01325×105 Pa)を厳密に意味するものではなく、通常の状態における周囲の圧力(常圧)を含む意味で用いられるが、標準大気圧を基準にして判断することもできる。また加圧状態とは、「大気圧よりも高い圧力(正圧)の気体(水蒸気を含む)で満たされた空間内の状態」を意味する。
【0053】
制限はされないものの、かかる加圧条件として、具体的には大気圧(1.0×105 Pa(abs:以下同じ)程度)より高い条件、好ましくは大気圧より高く2.0×105 Pa程度以下、より好ましくは大気圧より高く1.5×105 Pa程度以下を挙げることができる。本発明では、上記復圧条件下での加熱処理及び加圧条件下での加熱処理を総称して「復・加圧加熱処理」という。
【0054】
なお、復・加圧加熱処理にかける時間は特に制限されないが、上記復・加圧加熱状態を通常10分以上、好ましくは10〜60分程度、より好ましくは10〜50分程度維持することが望ましい。
【0055】
かかる加熱処理は、加熱水蒸気または過熱水蒸気(以下「加熱(過熱)水蒸気」という)を用いて行うことが好ましい。加熱(過熱)水蒸気の中でも好ましくは飽和水蒸気である。具体的には、食用の衛生的で安全な水(例えば、水道水や滅菌水など)を水蒸気、好ましくは飽和水蒸気にして用い、温度によっては上記するように庫内に圧力を加えて所望の温度まで徐々に昇温し(昇温工程)、その後、当該所定温度で所定時間加熱する(加熱工程)。より具体的には、上記(1-a)工程での減圧処理後、庫内が例えば8.0×103〜1.0×104 Pa程度の真空状況に近くなれば、飽和水蒸気を庫内に吹き込んで加熱処理を開始する。
【0056】
本発明において原料栗として使用する味付け加工栗は、既に味付け加熱・調理されているが、味質や澱粉の糊化(α化)は栗内部で完全に均質化されていない場合が多い。上記するように加熱(過熱)水蒸気、特に飽和水蒸気を用いて工程(1-a)で得られた栗を加熱することで、加熱による煮崩れや割れを防止しながらも、味付け加工栗(原料栗)内の味質を再拡散することで栗内部に均質化することができ、また栗澱粉を再加熱して再糊化することにより栗内部で栗澱粉を均一に再膨潤化することができる。その結果、均質な味と軟らかな食感を均一に有する栗を調製することができる。
【0057】
これは、飽和水蒸気の温度と圧力の関係が一対一になる現象を応用したものである。つまり、密閉庫内が同じ圧力状態になるため庫内温度もむらなく一定になることを用いている。この飽和水蒸気を用いた圧力と温度との関係によって、栗内部を均一に加熱でき、また飽和水蒸気による高い凝集熱伝達効果によって全体的に軟らかい加工栗を効率よく製造することができる。つまり、飽和水蒸気は高い凝縮熱伝達率を有するため、急速加熱を実現して短時間で栗澱粉を再糊化し、再膨潤化することができる。特に飽和水蒸気は温度の低いところほど集中して蒸気が凝縮し熱が加えられるために、むらなく栗を再加熱することができ、これがまた栗の均質な味と食感の発現に寄与している。
【0058】
これは原料栗(味付け加工栗)を加熱・調理するうえで非常に重要な効果であり、通常の製造方法では得られない効果である。
【0059】
なお、この飽和水蒸気による密閉庫内での圧力と温度の制御は、装置庫内の蒸気を定期的または不定期に間歇排気することで行うことができる。このように蒸気を定期または不定期に間歇排気することから、栗の加熱調理時に発生するむれ臭等が排気されて、臭いの点からも品質の良い加工栗を得ることができる。
【0060】
(1-c)減圧冷却工程
上記復・加圧加熱処理後、加圧状態を解除し(復圧)、次いで徐々に圧力と温度を下げながら粗熱をとり、減圧状態で冷却する(減圧冷却工程)。
【0061】
ここで減圧状態としては、大気圧以下の状態であればよく、制限はされないが、4.0×104〜5.0×104Pa程度を例示することができる。冷却の時間は制限されないが10〜50分程度を挙げることができ、加熱調理栗の品温が75℃程度以下、好ましくは50〜75℃程度まで冷えたら、減圧状態を解除して(復圧)、加圧加熱装置から取り出す。
【0062】
上記減圧工程、復・加圧加熱工程(昇温工程→復圧下または加圧下での加熱工程)、減圧冷却工程(復圧工程→減圧下での冷却工程)の一連の処理工程は、通常約1〜2時間半で終了することが好ましい。
【0063】
(2)第2工程(殺菌工程)
当該第2工程は、上記第1工程で得られた加工栗を密閉包装し、殺菌する工程である。すなわち、第2工程は、上記第1工程において加熱水蒸気(好ましくは飽和水蒸気)による加熱処理で栗内部の澱粉の糊化状態を均質化するとともに味質を栗内部に均質に浸透ないし拡散させた味付け加工栗を、密閉可能な容器に充填包装し、殺菌する工程である。
【0064】
このとき、包装方法と殺菌方法に応じて異なる食感を有する極軟加工栗を調製することができる。
【0065】
一つは、プラスチックフィルム、缶またはビンなどの真空包装可能な容器に、上記で得られた味付け加工栗をそのままの状態で充填して、真空包装した後、常圧条件下で100℃以下の温度で加熱する方法である(本発明では、かかる方法を便宜上「常圧加熱殺菌方法」という)。なお、「常圧」とは、通常の状態における周囲の圧力を意味し、大気圧を基準に判断することができる。
【0066】
この方法では、極軟栗と同様に軟らかく、ねっとりとした食感を有する極軟加工栗を得ることができる。これは、第1工程で得られた味付け加工栗を、調味液なくそのままの状態で真空条件下で加熱殺菌することにより、栗外部からの水分補給及び栗外部への水分放出がない状態で加熱されるため、栗の表面と内部の水分量が平衡になって同じ水分量となるためであり、その結果、上記するようにねっとりとした食感になる。
【0067】
加熱温度は、殺菌可能な温度であれば特に制限されないが、85〜100℃、好ましくは85〜95℃を挙げることができる。殺菌処理時間としても殺菌可能な時間であれば特に制限されないが、通常30〜60分程度の時間を必要とする。
【0068】
また、当該方法において、第1工程で得られた味付け加工栗を調味液と一緒に真空包装可能な容器に充填し、真空包装して、上記と同様に常圧加熱殺菌すると、軟らかく、もっちりとした食感を有する極軟加工栗を得ることができる。
【0069】
これらの真空包装に用いる包装容器は耐熱性で、気密性及び液密性を備えて密封できるものであればよく、特に制限されない。例えばプラスチックフィルムからなる容器は、水蒸気バリアー性及び酸素透過性がないか、あるいは少ないものであればよく、その材質構成は特に制限されない。缶やビンなどの容器も、上記の条件(耐熱性と密封性)を満たす限り、その材質構成は特に制限されない。
【0070】
他の一つの方法は、プラスチックフィルム、プラスチックトレイ、缶またはビンなどの含気包装可能な容器に、上記で得られた味付け加工栗をそのままの状態で充填して、空気とともに包装(含気包装)した後、加圧条件下で100℃以上の温度で加熱する方法である(本発明では、かかる方法を便宜上「加圧加熱殺菌方法」という)。含気包装に際して、容器に味付け加工栗とともに充填する気体の割合(含気包装に占める気体の割合)は、制限されないものの、容器内容積の通常10〜40%を例示することができる。好ましくは20〜30%である。
【0071】
この方法では、極軟栗と同等以上に軟らかく、ほくほくした食感を有する極軟加工栗を得ることができる。第1工程で得られた味付け加工栗を、空気存在下、加圧条件下で加熱殺菌すると、栗表面から水分が蒸発して栗内部よりも水分含量が低下すると同時に、水分含量の多い栗内部の糊化澱粉は、加圧加熱によりさらに膨潤し、一部の澱粉粒は崩壊し始めている。このため、かかる方法によれば、栗表面は比較的しっかりしているが、栗内部は溶けたような独特のほくほくとした食感を生じることになる。
【0072】
加熱温度は、殺菌可能な温度であれば特に制限されないが、100〜120℃、好ましくは105〜120℃を挙げることができる。加圧は、上記温度との関係で設定することができ、例えば1×105〜2×105 Paを例示することができる。好ましくは1×105〜1.5×105 Pa、より好ましくは1.1×105〜1.2×105 Paである。
【0073】
殺菌処理時間としても殺菌可能な時間であれば特に制限されないが、通常20〜40分程度の時間を必要とする。
【0074】
また、当該方法において、第1工程で得られた味付け加工栗を調味液と一緒に含気真空包装可能な容器に充填し、含気包装して、上記と同様に加圧加熱殺菌すると、軟らかく、もっちりとした食感を有する極軟加工栗を得ることができる。
【0075】
これらの含気包装に用いる包装容器は耐熱性及び耐圧性で、気密性及び液密性を備えて密封できるものであればよく、特に制限されない。例えばプラスチックフィルムからなる容器やプラスチックトレイは、水蒸気バリアー性及び酸素透過性がないか、あるいは少ないものであればよく、その材質構成は特に制限されない。缶やビンなどの容器も、上記の条件(耐熱性、耐圧性、密封性)を満たす限り、その材質構成は特に制限されない。
【0076】
上記包装に際して、味付け加工栗とともに充填する調理液としては、前述の調理液を同様に用いることができる。
【0077】
以上説明するように、本発明の製造方法によれば、既に加熱調理により味付けされ且つ栗澱粉が糊化している加工栗(原料栗)を、一旦減圧した後、復圧または加圧しながら湿熱処理することで、原料栗に浸透している味質を再拡散することで栗内部に均質化することができ、また栗澱粉を再糊化することで栗内部の澱粉を均一に再膨潤化することができ、その結果、均質な味と均質化された軟らかな食感を有する栗を調製することができる。さらに当該加熱処理で調製した加工栗は、引き続き、密封包装して殺菌処理に供することができ、用いる包装形態及び殺菌処理方法に応じて、軟らかく、所望の食感(ほくほくした食感、もっちりした食感、またはねっとりとした食感)を有する長期保存可能な極軟加工栗を得ることができる。
【実施例】
【0078】
以下、本発明について実施例を用いて更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0079】
実験例 極軟加工栗の調製
(1)原料栗とその調製
原料栗として、一般的な味付け加工栗の製造方法を用いて調製した味付け加工栗を用いた。具体的には、下記の方法で調製した味付け加工栗を使用した。
【0080】
鬼皮と渋皮を剥いた生栗を水に入れて60℃で40分間加熱し、その後、漂白剤を加えて温度を70℃に上げて70℃で30分間加熱し、さらに温度を80℃に上げて、焼ミョウバンやリン酸塩などの食品添加物を加えて80℃で30分間加熱し、最後に95℃で30分間加熱した後に冷却し水切りし、この加熱加工栗に糖度62°(Brix62°)の糖液を加えて98℃で70分間加熱殺菌する。なお、この糖液は、栗に味を付与するための調味料であり、62重量%の砂糖が含まれている。
【0081】
次いで、調製した味付け加工栗の糖液を切って形・サイズ選別した後に、ホテルパンに入れた。その後、味付け加工栗を入れたホテルパンを、飽和蒸気加熱機能を備えた温度と圧力が制御可能な調理装置(飽和蒸気加熱調理機CK210:三浦工業(株)製)(以下、単に「装置」という)に入れた。この時のホテルパンは蓋をせずに直接、衛生的な飽和水蒸気に晒されるようにしておく。
【0082】
(2)減圧及び加熱・調理工程
この味付け加工栗を飽和蒸気で加熱・調理するために、まず装置庫内の空気を抜いて8.0×104Paまで減圧した(温度25℃)。減圧が終了した後、衛生的な飽和水蒸気を装置内に流入し圧力とともに温度を上げていく。具体的には、装置庫内の温度を約10分間かけて設定の105℃とし、105℃に達したときに飽和水蒸気による加熱調理を開始し30分間加熱調理を行った。この加熱調理時の装置庫内の圧力は庫内温度が25℃の8.0×104 Paから105℃の1.2×105 Paまで上昇している。105℃、1.2×105 Paに達すると、この条件で30分間飽和水蒸気を用いて加熱調理する。飽和水蒸気による加熱調理が終了すると、装置庫内の圧力を通常の圧力(大気圧:約1.0×105 Pa)に戻していき、さらに4.0×104 Paまで減圧し、冷却を開始するとともに、糖質の栗内部への浸透を図った。冷却は4.0×104 Paで、栗の品温が70℃になるまで30分間程度行った。
【0083】
(3)殺菌工程
調理した栗の品温が70℃以下になった後、加工栗を飽和蒸気加熱調理装置から取りだした。この調理された栗は、甘味質が栗内部に均質に浸透し、栗の澱粉も均一に再糊化している。次いで、この再加熱された味付け加工栗を、常圧加熱殺菌群と加圧加熱殺菌群の二群に分け、さらに常圧加熱殺菌群を二群(調味液非配合群、調味液配合群)に分けた。調味液非配合群の味付け加工栗は、プラスチックフィルムからなる耐熱性容器にそのまま充填して、真空包装した後、95℃で40分間常圧殺菌した(実施例1:常圧加熱殺菌栗/調味液非配合)。調味液配合群の味付け加工栗は、プラスチックフィルムからなる耐熱性容器に調味液と一緒に充填して、真空包装した後、95℃で40分間常圧殺菌処理をした(実施例2:常圧加熱殺菌栗/調味液配合)。なお、調味液として、糖度62°の砂糖水を用いた(砂糖含有量62重量%)。
【0084】
また加圧加熱殺菌群の味付け加工栗は、プラスチックフィルムからなる耐圧耐熱性容器(プラスチックパウチ)に空気とともにそのまま充填し(含気包装、空気含量:10〜40%)、1.5×105 Paの加圧条件下、110℃で30分間、加圧殺菌処理を行った(実施例3:加圧加熱殺菌栗/調味液非配合)。
【0085】
(4)比較例及び対照例
上記実施例の比較例として、通常の一般的な味付け加工栗の製造工程を用いて製造した味付け加工栗を用意した。この味付け加工栗は、上記実施例において原料栗として用いた栗と同じ方法で製造されたものである。
【0086】
また上記実施例の対照例(極軟味付け栗)として、通常の一般的な味付け加工栗の製造工程を用いて製造した味付け加工栗(実施例の原料栗、及び上記比較例と同じ)を原料として、これを糖度62°(Brix62°)の糖液とともにホテルパンにいれて、硬度が130Nになるまで90〜120分間加熱した極軟栗を用意した。
【0087】
(5)評価
本発明の製造方法(実施例)と従来の製造方法(比較例)で製造した加工栗の食感、外観、味および生産性を比較するために、調製した加工栗の硬度、歩留まり、甘味質及び食感を比較した。硬度は、果実硬度計(果実硬度計:(株)大場計器製作所(株)製)を用いて測定した。甘味質と食感は、調製した味付け加工栗の実を実際に8名のパネラーに食させて官能検査で評価した。
【0088】
歩留まりは、処理後に煮崩れたり、割れたりして外観が劣化した栗を除いた加工栗の数の、処理前の栗数(原料栗数)に対する割合から算出した。つまり、処理前の栗数(原料栗数)が100個である場合において、処理によって外観が劣化した加工栗数が15個である場合は、歩留まりは85%になる。
【0089】
原料として用いた味付け加工栗(原料栗:比較例)、極軟味付け栗(対照例)、実施例で製造した本発明の極軟加工栗(常圧加熱殺菌栗/調味液非配合、常圧加熱殺菌栗/調味液配合、加圧加熱殺菌栗/調味液非配合)の結果を表1に示す。
【0090】
【表1】

【0091】
この結果からわかるように、本発明の方法で製造した極軟加工栗(実施例1〜3)は、従来の方法に準じて調製した極軟味付け栗(対照例)より低い硬度を示して、非常に軟らかいものの、対照例とは異なり、製造工程における煮崩れや割れは殆ど認められなかった(歩留まり100%)。つまり、本発明の製造方法によれば、従来の極軟栗(対照例)と同様またはそれ以上に軟らかな食感の極軟加工栗を、効率よく高い生産性をもって製造することができる。また、本発明の方法によれば、殺菌方法及びその包装形態を工夫することで、種々の食感(ねっとり感、もっちり感、ほくほく感)を有する極軟加工栗を調製することができる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
栗を味付け加工栗として、惣菜、和菓子や洋菓子の二次加工原料として利用するためには、需要者からの要求である3つの食味品質(食感、甘味質、外観)という品質特性を満たす必要がある。さらに、加工栗生産者からの経済性視点での歩留まり向上、生産性向上の必要もある。
【0093】
本発明の極軟加工栗の製造方法によれば、食味品質の面では、農産物であるために品種や産地による品質のバラツキの大きい栗を原料として、食感を均一的に軟らかくでき、さらに甘味質も均一となり、見た目もキズや割れの少ないものを安定的に製造することができる。そのため、加工栗を二次原料として利用している総菜、和菓子、洋菓子だけでなく様々な食品加工分野へと汎用性を広げると同時に安定的に生産できるようになる。
【0094】
さらに、栗の生産者からの立場で考えると、複雑で、手作業の多かった極軟栗加工の製造工程を本製造方法のように一連の工程で、簡単で短時間の製造工程で製造でき、さらに、栗の加工・製造時の割れや砕けを防止でき、極軟栗加工の生産者として歩留まりの向上と生産性の向上が可能になる。本発明で用いた衛生的な飽和蒸気加熱装置や、加圧加熱殺菌装置は、すでに食品産業で普及、利用されているものであるために、これらの装置を組み合わせることで、一貫生産することも可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)及び(2)の工程を有する極軟加工栗の製造方法:
(1)澱粉が加熱糊化してなる味付け加工栗を原料栗とし、これを一旦減圧した後、復圧または加圧しながら湿熱処理し、次いで、復圧、及び冷却する工程、
(2) 上記で得られた加工栗を密閉包装し、殺菌する工程。
【請求項2】
上記(1)の工程が、下記(1-a)〜(1-c)工程を有するものである請求項1に記載する製造方法:
(1-a)上記原料栗を8.0×103〜1.0×104 Paまで減圧処理する工程、
(1-b)上記(1-a)工程で得られた栗を、加熱水蒸気を用いて、7.0×104〜2.0×105 Pa、80〜120℃の条件で、加圧加熱処理する工程、
(1-c)上記(1-b)で得られた栗を、4.0×104〜5.0×104 Paの減圧条件で少なくとも品温75℃になるまで冷却処理する工程。
【請求項3】
上記加熱水蒸気が飽和水蒸気である、請求項2に記載する製造方法。
【請求項4】
上記(2)工程が、(1)工程で得られた栗を、
(a)真空包装して100℃以下の温度条件下で常圧加熱殺菌するか、または
(b)含気包装して100℃以上の温度条件下で加圧加熱殺菌する、
工程である、請求項1乃至3のいずれかに記載する製造方法:
【請求項5】
前記原料栗が、鬼皮及び渋皮を剥いた生栗を調味液を用いて加熱調理した味付け加工栗であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載する製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法により得られることを特徴とする極軟加工栗。

【公開番号】特開2012−55182(P2012−55182A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−198894(P2010−198894)
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【出願人】(504347555)株式会社中温 (5)
【Fターム(参考)】