説明

楽器用椅子

【課題】演奏の際に、良好な外観を確保しながら、演奏者が安定した状態で座ることができるとともに、運搬の際に、容易に移動させることができる楽器用椅子を提供する。
【解決手段】楽器の演奏時に演奏者が座るための楽器用椅子1であって、座部2と、この座部2から下方に延びる複数の脚部3と、複数の脚部3の下端部にそれぞれ設けられ、下面が開放する複数のキャスタ収容部8と、複数の脚部3の下端部にそれぞれ設けられ、各々が、対応する脚部3に対し、キャスタ収容部8に収容される収容位置と、キャスタ収容部8の下面よりも下方に突出する突出位置との間で出没自在の複数のキャスタ4と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピアノなどの楽器の演奏時に演奏者が座るための楽器用椅子に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ピアノを演奏する際に使用されるピアノ椅子は、演奏者が腰掛けるための座部と、座部の下面の四隅から下方に延びる4つの脚部とを備えている。ピアノ椅子は通常、座部の上面である座面の高さを調整可能に構成され、そのための調整機構が組み込まれており、また、きしみなどによるノイズが演奏中に発生しないよう、重厚に作られている。このようなピアノ椅子は、調整機構が組み込まれるとともに重厚に作られているために、重量が比較的重い(例えば10〜20kg)。そのため、例えば、演奏前にピアノ椅子を保管スペースなどからピアノの前まで移動させたり、演奏後にピアノ椅子を保管スペースに戻したりするなど、ピアノ椅子を持って運搬する際に、比較的大きな労力が必要となる。特に、女性や子供など、力の弱い者にとっては、ピアノ椅子を持ち運ぶ際の負担が大きい。
【0003】
上記のようなピアノ椅子の運搬の際の労力を軽減するために、例えば、特許文献1に開示されたピアノ椅子のように、脚部の下端部にキャスタを設けることが考えられる。この場合には、キャスタ付きのピアノ椅子を運搬する際に、それを床面に置いた状態のまま、横から押すことなどによって、ピアノ椅子を簡単に移動させることが可能である。
【0004】
しかし、キャスタ付きのピアノ椅子に座って演奏する場合、演奏者の動作によっては、ピアノ椅子が動いてしまうことがある。この場合、ピアノ椅子に座った演奏者は、下半身が不安定な状態で演奏することになる。また、上記のキャスタ付きのピアノ椅子では、キャスタが外部に露出しているため、そのピアノ椅子の見栄えや外観が、キャスタの無い一般的なものに比べて悪く、したがって、キャスタ付きのピアノ椅子は、コンサートなどでの使用には適さない。以上のような問題が生じるのは、ピアノ以外の楽器の演奏時に使用される他の楽器用椅子についても同様である。
【0005】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、演奏の際に、良好な外観を確保しながら、演奏者が安定した状態で座ることができるとともに、運搬の際に、容易に移動させることができる楽器用椅子を提供することを目的とする。
【0006】
【特許文献1】特開2005−40552号公報
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、楽器の演奏時に演奏者が座るための楽器用椅子であって、座部と、この座部から下方に延びる複数の脚部と、複数の脚部の下端部にそれぞれ設けられ、下面が開放する複数のキャスタ収容部と、複数の脚部の下端部にそれぞれ設けられ、各々が、対応する脚部に対し、キャスタ収容部に収容される収容位置と、キャスタ収容部の下面よりも下方に突出する突出位置との間で出没自在の複数のキャスタと、を備えていることを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、座部から下方に延びる複数の脚部の下端部にはそれぞれ、複数のキャスタ収容部が設けられており、各キャスタ収容部の下面が開放している。また、複数の脚部の下端部にはそれぞれ、複数のキャスタが設けられており、各キャスタが、対応する脚部に対し、キャスタ収容部に収容される収容位置と、キャスタ収容部の下面よりも下方に突出する突出位置との間で出没自在に構成されている。床面などに置かれた楽器用椅子に座って演奏する際に、各キャスタを収容位置に位置させることにより、そのキャスタは、キャスタ収容部に覆われることによって、外部に露出することがなくなるとともに、各脚部の下面、すなわち各キャスタ収容部の下面周縁部が、床面に接した状態となる。これにより、演奏の際には、楽器用椅子の良好な外観を確保しながら、演奏者が座部に腰掛け、楽器用椅子に安定した状態で座ることができる。一方、演奏の前後などにおいて楽器用椅子を運搬する際に、各キャスタを突出位置に位置させることにより、各キャスタが床面に接した状態となる。これにより、楽器用椅子の運搬の際には、それを持ち上げることなく、床面に置いた状態のまま、横から押すことなどにより、キャスタを利用しながら、楽器用椅子を容易に移動させることができる。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の楽器用椅子において、複数のキャスタ収容部の内側にそれぞれ設けられ、各々が、対応するキャスタ収容部に収容されるキャスタを、突出位置側に付勢する複数の弾性部材を、さらに備えており、複数の弾性部材の各々は、楽器用椅子が床面に置かれた状態において、座部に上方から所定の大きさ以上の外力が作用するときに、床面からの反力によるキャスタの収容位置への移動を許容するとともに、座部に上方からの外力が作用していないときに、キャスタを突出位置に保持する弾性力を有していることを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、複数のキャスタ収容部の内側にはそれぞれ、キャスタを突出位置側に付勢する複数の弾性部材が設けられている。各弾性部材は、所定の弾性力を有しており、具体的には、楽器用椅子が床面に置かれた状態において、座部に上方から所定の大きさ以上の外力が作用するときに、床面からの反力によるキャスタの収容位置への移動を許容するとともに、座部に上方からの外力が作用していないときに、キャスタを突出位置に保持する弾性力を有している。これにより、例えば、演奏者が座部に腰掛けることにより、上記の所定の大きさ以上の外力が座部に上方から作用するときには、キャスタがいずれも、床面からの反力によって収容位置側に押圧されることで、キャスタ収容部に収容され、各キャスタ収容部の下面周縁部が床面に当接する。このように、演奏者が座部に腰掛けるだけで、前述した請求項1における演奏の際の作用効果、すなわち、楽器用椅子の良好な外観を確保しながら、演奏者が楽器用椅子に安定した状態で座ることができる。一方、例えば、演奏者が座部に腰掛けていない場合など、座部に上方からの外力が作用していないときには、キャスタがいずれも、弾性部材の弾性力によって、キャスタ収容部から下方に押し出され、突出位置に保持される。その結果、各キャスタが床面に接し、かつキャスタ収容部の下面周縁部が床面から浮いた状態となる。これにより、前述したように、キャスタを利用しながら、楽器用椅子を容易に移動させることができる。
【0011】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の楽器用椅子において、複数のキャスタ収容部にそれぞれ設けられ、各々が、対応するキャスタ収容部に収容されるキャスタを、突出位置にロックする複数の第1ロック機構を、さらに備えていることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、複数のキャスタ収容部にはそれぞれ、複数の第1ロック機構が設けられており、各第1ロック機構が、対応するキャスタ収容部に収容されるキャスタを、突出位置にロックする。これにより、各キャスタは、対応する脚部やキャスタ収容部に対し、下方に突出した状態で、上下方向に不動に固定される。したがって、楽器用椅子の運搬の際には、楽器用椅子本体が移動中に上下に振動することなく、その移動を安定して行うことができる。
【0013】
請求項4に係る発明は、請求項3に記載の楽器用椅子において、複数のキャスタ収容部にそれぞれ設けられ、各々が、対応するキャスタ収容部に収容されるキャスタを、収容位置にロックする複数の第2ロック機構と、複数のキャスタ収容部にそれぞれ設けられ、各々が、外部から操作可能に構成されるとともに、対応する第2ロック機構によるロックを解除するための複数のロック解除部と、をさらに備えていることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、複数のキャスタ収容部にはそれぞれ、複数の第2ロック機構が設けられており、各第2ロック機構が、対応するキャスタ収容部に収容されるキャスタを、収容位置にロックする。これにより、各キャスタは、対応するキャスタ収容部に収容された状態に固定される。この状態における楽器用椅子は、キャスタが無いものと同様であり、したがって、キャスタの無い楽器用椅子と同様の取り扱いを行うことができる。また、複数のキャスタ収容部にはそれぞれ、複数のロック解除部が設けられており、各ロック解除部を操作することにより、対応する第2ロック機構によるキャスタのロックが解除される。各ロック解除部は、外部から操作可能に構成されているので、外部からの操作により、各第2ロック機構によるキャスタのロックを簡単に解除でき、キャスタを脚部から突出させることができる。
【0015】
請求項5に係る発明は、請求項1ないし4のいずれかに記載の楽器用椅子において、複数のキャスタ収容部の内側にそれぞれ設けられ、各々が、対応するキャスタ収容部に収容されるキャスタが収容位置に位置するときに、キャスタに圧接することにより、キャスタの振動を阻止する複数の振動阻止部を、さらに備えていることを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、複数のキャスタ収容部の内側にはそれぞれ、キャスタの振動を阻止するための複数の振動阻止部が設けられている。各振動阻止部は、対応するキャスタ収容部に収容されるキャスタが収容位置に位置するときに、そのキャスタに圧接し、それにより、そのキャスタの振動を阻止する。これにより、演奏時に、例えば、演奏によって発生した楽音の周波数がキャスタの固有振動数に一致した場合でも、楽音によるキャスタの共振(共鳴)を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の第1実施形態による楽器用椅子を適用したピアノ椅子を示している。このピアノ椅子1は、ピアノの演奏時に演奏者が座るためのものであり、演奏者が腰掛けるための座部2と、この座部2の下面から下方に延びる4つの脚部3と、これらの脚部3の下端部にそれぞれ設けられ、各々が、対応する脚部3に対して出没自在の4つのキャスタ4とを備えている。
【0018】
座部2は、平面形状が横長矩形のボックス状のベース5と、このベース5の上側に配置され、ベース5と同じ平面形状を有するクッション6とを有している。ベース5には、座部2の上面である座面の高さを調整するための調整機構(図示せず)が内蔵されている。この調整機構は、Xリンクなどで構成された一般的なものであり、これを操作するための回転式の2つのハンドル7(図1では1つのみ図示)が、座部2の左右両側に設けられている。したがって、両ハンドル7を回し、クッション6を昇降させることにより、座部2の座面の高さを容易に調整することができる。
【0019】
4つの脚部3は、互いに同じものであり、ベース5の底面の四隅から下方に所定長さ、延びている。各脚部3の下端部には、下面が開放する筒状のキャスタ収容部8が設けられている。そして、各脚部3に対応するキャスタ4は、全体がキャスタ収容部8に収容される収容位置(図1(a)に示す位置)と、下部がキャスタ収容部8の下面よりも下方に突出する突出位置(図1(b)に示す位置)との間で、出没自在になっている。なお、キャスタ4を含む4つの脚部3は、互いに構成が同じであるので、以下の説明では、1つの脚部3を代表して説明するものとする。
【0020】
図2は、キャスタ4を中心とする、脚部3の下端部の内部構造を示す拡大図であり、キャスタ4が突出位置に位置する状態を示している。同図に示すように、脚部3の下端部に設けられたキャスタ収容部8は、所定の高さおよび厚さを有し、上下方向に延びる筒状に形成されている。
【0021】
キャスタ4は、キャスタ収容部8内の水平方向の最小長さよりも短い所定の径および厚さを有するホイール11と、このホイール11の中心を貫通する水平な支軸12を介して、ホイール11を回転自在に支持する逆U字状のホイールホルダ13とで構成されている。そして、このキャスタ4は、キャスタ収容部8内のスライダ14の下側に、連結軸15を介して連結されている。
【0022】
スライダ14は、所定の厚さを有するとともに、平面形状が、キャスタ収容部8内の横断面と同じで、かつ、その横断面よりも一回り小さいブロック状に形成されている。また、このスライダ14は、キャスタ収容部8内において、その内面に沿って上下方向にスライド自在になっている。連結軸15は、上下方向に延びており、その上部がスライダ14の下面中央部に固定される一方、下部がキャスタ4のホイールホルダ13に回転自在に連結されている。これにより、キャスタ4は、連結軸15を中心として回転自在になっている。
【0023】
さらに、スライダ14とキャスタ収容部8の天井面8aとの間には、コイルばねから成るキャスタばね16(弾性部材)が設けられている。このキャスタばね16は、キャスタ4を突出位置側に付勢するものであり、次のような弾性力を有している。すなわち、キャスタばね16は、ピアノ椅子1の座部2に上方からの外力が作用していないときには、図2に示すように、キャスタ4を突出位置に保持するような弾性力を有している。また、キャスタばね16は、図3に示すように、座部2に上方から所定の大きさ以上の外力Aが作用するときに、床面Fからの反力Rによるキャスタ4の収容位置への移動を許容する弾性力を有している。
【0024】
また、キャスタ収容部8の内周面8bの所定位置には、キャスタ4の振動を阻止するための振動阻止部材17が取り付けられている。この振動阻止部材17は、所定の厚さを有するスキンやフェルトなどで構成されており、キャスタ収容部8の内周面8bの全周にわたって接着されている。そして、この振動阻止部材17は、図3(b)に示すように、キャスタ4が収容位置に位置するときに、そのホイール11に圧接する。
【0025】
以上説明したように、本実施形態のピアノ椅子1によれば、例えば、演奏者が座部2に腰掛けることにより、各脚部3に上方から作用する外力Aが、前記所定の大きさ以上であるときには、図1および図3に示すように、キャスタ4がいずれも、床面Fからの反力Rによって収容位置側に押圧されることで、キャスタ収容部8に収容される。その結果、各キャスタ4が、キャスタ収容部8に覆われることによって、外部に露出することがなくなるとともに、各脚部3のキャスタ収容部8の下面周縁部が床面Fに当接する。このように、演奏者が座部2に腰掛けるだけで、ピアノ椅子1の良好な外観を確保しながら、演奏者がピアノ椅子1に安定した状態で座ることができる。またこの場合、各キャスタ収容部8内の振動阻止部材17が、キャスタ4のホイール11に圧接する。これにより、ピアノの演奏時に、演奏によって発生した楽音の周波数が、キャスタ4(ホイール11など)の固有振動数に一致した場合でも、楽音によるキャスタ4の共振(共鳴)を防止することができる。
【0026】
一方、例えば、演奏者が座部2に腰掛けていない場合など、座部2に上方からの外力が作用していないときには、キャスタ4がいずれも、キャスタばね16の弾性力によって、キャスタ収容部8から下方に押し出され、突出位置に保持される。その結果、各キャスタ4が床面Fに接し、かつキャスタ収容部8の下面周縁部が床面Fから浮いた状態となる。これにより、ピアノ椅子1の運搬の際には、それを持ち上げることなく、床面Fに置いた状態のまま、横から押すことなどにより、キャスタ4を利用しながら、ピアノ椅子1を容易に移動させることができる。
【0027】
次に、図4を参照して、本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態のピアノ椅子では、上述した第1実施形態と同様、各キャスタ4が、対応する脚部3に対し、突出位置と収容位置の間で出没自在であり、突出位置にロック可能に構成されている。なお、以下の説明では、上述した第1実施形態のピアノ椅子1と同じ構成部品については同じ符号を付して、その詳細な説明を省略し、第1実施形態との差異を中心に説明するものとする。
【0028】
図4(a)に示すように、本実施形態のピアノ椅子1は、4つの脚部3にそれぞれ設けられ、対応するキャスタ4を突出位置にロックする4つのロック機構21(第1ロック機構)を備えている。各ロック機構21は、スライダ14に設けられ、その側面に対して水平に出没自在のロック部材22と、コイルばねから成り、ロック部材22をスライダ14から外方に突出する方向に付勢するロックばね23で構成されている。スライダ14には、側方に開口し、所定の深さを有するロック部材収容凹部14aが設けられており、このロック部材収容凹部14aに、ロック部材22が出没自在に収容されている。
【0029】
図4(c)に示すように、ロック部材22は、ロック部材収容凹部14aに沿って延び、先端部(図4の右端部)が外方に凸に湾曲するように形成されている。また、ロックばね23は、ロック部材収容凹部14aに内蔵されており、上述したように、ロック部材22を、常時、突出する方向に付勢している。
【0030】
一方、キャスタ収容部8の内側面8bの所定位置には、ロック機構21のロック部材22が係合可能なロック凹部24が設けられている。このロック凹部24は、内方に開口し、ロック部材22の先端部と相補的な形状を有している。
【0031】
なお、図示は省略するが、ピアノ椅子1の各脚部3には、キャスタ収容部8の内側面8bの所定位置に、第1実施形態と同様の振動阻止部材17が取り付けられている。
【0032】
以上のように構成されたロック機構21およびロック凹部24において、図4(a)および(c)に示すように、ロック部材22の先端部が、ロック凹部24に嵌合した状態に係合することにより、脚部3のキャスタ収容部8に対し、スライダ14が上下方向に不動にロックされる。これにより、キャスタ4が、突出位置にロックされる。
【0033】
一方、キャスタ4が突出位置にロックされた状態において、演奏者が座部2に腰掛けるなど、座部2に上方から所定の大きさ以上の外力を作用させることにより、その外力の分力が、ロック凹部24側からロック部材22に作用する。これにより、ロック部材22は、ロックばね23の付勢力に抗して、ロック部材収容凹部14aの内方に押圧され、ロック凹部24との係合が解除される。その結果、キャスタ4は、突出位置におけるロックが解除され、図4(b)に示すように、収容位置への移動が許容される。
【0034】
なお、各脚部3には、キャスタ収容部8の内側面8bの所定位置に、ストッパ25が突設されている。このストッパ25は、キャスタ4が突出位置に位置するときに、スライダ14が上方から当接するように構成されている。したがって、収容位置に位置するキャスタ4を突出位置に移動させる際に、例えば、脚部3を床面Fから浮かせることによって、キャスタ4が、キャスタばね16の付勢力によって勢い良く、突出位置側に移動する場合でも、スライダ14がストッパ25で止められ、それにより、ロック機構21のロック部材22の高さが、ロック凹部24のそれに合致し、ロック部材22がロック凹部24に嵌合する。その結果、ロック機構21により、キャスタ4が突出位置に確実にロックされる。
【0035】
以上のように、本実施形態によれば、上述した第1実施形態と同様の作用効果を得ることができ、加えて、キャスタ4を突出位置にロックすることができる。このように、キャスタ4を突出位置にロックできることにより、ピアノ椅子1の運搬の際には、ピアノ椅子1本体が移動中に上下に振動することなく、その移動を安定して行うことができる。
【0036】
次に、図5〜図7を参照して、本発明の第3実施形態について説明する。本実施形態のピアノ椅子では、上述した第1実施形態と同様、各キャスタ4が、対応する脚部3に対し、突出位置と収容位置の間で出没自在であるとともに、第2実施形態と同様、各キャスタ4が突出位置にロック可能であり、加えて、収容位置にもロック可能に構成されている。なお、以下の説明では、上述した第1および第2実施形態のピアノ椅子1と同じ構成部品については同じ符号を付して、その詳細な説明を省略し、第1および第2実施形態との差異を中心に説明するものとする。
【0037】
図5および図6に示すように、本実施形態のピアノ椅子1は、4つの脚部3にそれぞれ設けられ、対応するキャスタ4を、突出位置および収容位置の一方にロックする4つのロック機構31(第1および第2ロック機構)と、収容位置におけるキャスタ4のロックを解除するための4つのロック解除スイッチ32(ロック解除部)とを備えている。各ロック機構31は、第2実施形態のロック機構21と同様、ロック部材22およびロックばね23で構成されている。また、キャスタ収容部8には、第2実施形態のロック凹部24が設けられるとともに、その上方の所定位置に、ロック機構31のロック部材22が係合可能なロック孔33が設けられている。
【0038】
図6に示すように、ロック解除スイッチ32は、キャスタ収容部8の外側に、上下方向に延びるように設けられ、その中央部の支点34aを中心として揺動自在のスイッチ本体34と、スイッチ本体34を後述するロック位置側に付勢するスイッチばね35などで構成されている。スイッチ本体34の裏面上部には、キャスタ収容部8のロック孔33内に突出するロック解除凸部34bが設けられている。そして、スイッチ本体34は、支点34aを中心として、ロック解除凸部34bがキャスタ収容部8の内側面8bに到達するロック解除位置(図7(b)および(c)参照)と、ロック解除凸部34bが内側面8bから離れるロック位置(図6、図7(a)および(d)参照)との間で揺動自在に構成されている。
【0039】
以上のように構成されたロック機構31およびロック孔33において、図6に示すように、ロック部材22の先端部が、ロック孔33に嵌入した状態に係合することにより、脚部3のキャスタ収容部8に対し、スライダ14が上下方向に不動にロックされる。これにより、キャスタ4が、収容位置にロックされる。
【0040】
ここで、図7を参照して、収容位置にロックされているキャスタ4のロック解除の手順を簡単に説明する。同図(a)は、キャスタ4が収容位置にロックされるとともに、ピアノ椅子1が床面Fに置かれた状態を示している。この状態からまず、1つまたは2つの脚部3を、手で持ち上げ、同図(b)に示すように、床面Fから浮かし、ロック解除スイッチ32のスイッチ本体34を白抜き矢印の方向に押す。これにより、ロック機構31のロック部材22が、ロック孔33から抜けることによって、収容位置におけるキャスタ4のロックが解除される。そして、このキャスタ4は、キャスタばね16の復元力により、スライダ14とともに、突出位置側に移動する。
【0041】
図7(c)に示すように、スライダ14がストッパ25に当接することにより、キャスタ4が突出位置に到達すると、ロック機構31のロック部材22が、キャスタ収容部8のロック凹部24に嵌合する。これにより、キャスタ4が、突出位置にロックされる。そして、キャスタ4を突出させた脚部3から手を離すことにより、同図(d)に示すように、そのキャスタ4が床面Fに載置される。その後、収容位置にロックされている、他の脚部3のキャスタ4も同様にしてロックを解除する。
【0042】
以上のように、本実施形態によれば、前述した第1および第2実施形態と同様の作用効果を得ることができ、加えて、キャスタ4を収容位置にロックすることができる。このように、キャスタ4を収容位置にロックした状態では、ピアノ椅子1は、キャスタ4が無いものと同様であり、したがって、キャスタの無いピアノ椅子と同様の取り扱いを行うことができる。また、各脚部3のキャスタ収容部8の外側に、ロック解除スイッチ32が設けられているので、これを操作することにより、ロック機構31によって収容位置にロックされているキャスタ4のロックを簡単に解除でき、キャスタ4を脚部3から突出させることができる。
【0043】
なお、本発明は、説明した各実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。実施形態ではいずれも、本発明の楽器用椅子をピアノ椅子に適用した場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、ピアノ以外の楽器を演奏する楽器用椅子に適用できることはもちろんである。
【0044】
また、実施形態で示したピアノ椅子1やキャスタ4、ロック機構21、31の細部の構成などは、あくまで例示であり、本発明の趣旨の範囲内で適宜、変更することができる。例えば、実施形態では、キャスタばね16、ロックばね23およびスイッチばね35として、コイルばねを採用したが、同様の機能を有するものであれば、他の弾性部材、例えば板ばねなどの他の種類のばねや、所定の弾性力を有するゴムなどを採用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の第1実施形態による楽器用椅子を適用したピアノ椅子を示す斜視図であり、(a)は、キャスタが脚部に収容された状態、(b)は、キャスタが脚部から突出した状態を示す。
【図2】脚部から突出したキャスタおよびその周囲を拡大して示す図であり、(a)は、キャスタの支軸と直交する方向から見たときの状態、(b)は、支軸の長さ方向から見たときの状態を示す。
【図3】(a)および(b)はそれぞれ、図2の(a)および(b)に対応し、脚部に収容されたキャスタおよびその周囲を拡大して示す図である。
【図4】本発明の第2実施形態による楽器用椅子を適用したピアノ椅子の脚部の下端部の内部を拡大して示す図であり、(a)は、キャスタが突出位置にロックされた状態、(b)は、キャスタが収容位置に位置する状態、(c)は、(a)の一点鎖線円の内側を拡大して示す。
【図5】本発明の第3実施形態による楽器用椅子を適用したピアノ椅子を示す斜視図であり、(a)は、キャスタが脚部に収容された状態、(b)は、キャスタが脚部から突出した状態を示す。
【図6】図5(a)のピアノ椅子の脚部の下端部の内部を拡大して示す図であり、キャスタが収容位置にロックされた状態を示す。
【図7】図5のピアノ椅子のキャスタを脚部から突出させる際の操作を順に示す説明図である。
【符号の説明】
【0046】
1 ピアノ椅子
2 座部
3 脚部
4 キャスタ
8 キャスタ収容部
16 キャスタばね(弾性部材)
17 振動阻止部材
21 ロック機構(第1ロック機構)
31 ロック機構(第1および第2ロック機構)
32 ロック解除スイッチ(ロック解除部)
F 床面
A 外力
R 反力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
楽器の演奏時に演奏者が座るための楽器用椅子であって、
座部と、
この座部から下方に延びる複数の脚部と、
当該複数の脚部の下端部にそれぞれ設けられ、下面が開放する複数のキャスタ収容部と、
前記複数の脚部の下端部にそれぞれ設けられ、各々が、対応する当該脚部に対し、前記キャスタ収容部に収容される収容位置と、当該キャスタ収容部の下面よりも下方に突出する突出位置との間で出没自在の複数のキャスタと、
を備えていることを特徴とする楽器用椅子。
【請求項2】
前記複数のキャスタ収容部の内側にそれぞれ設けられ、各々が、対応する当該キャスタ収容部に収容される前記キャスタを、前記突出位置側に付勢する複数の弾性部材を、さらに備えており、
当該複数の弾性部材の各々は、前記楽器用椅子が床面に置かれた状態において、前記座部に上方から所定の大きさ以上の外力が作用するときに、前記床面からの反力による前記キャスタの前記収容位置への移動を許容するとともに、前記座部に上方からの外力が作用していないときに、前記キャスタを前記突出位置に保持する弾性力を有していることを特徴とする請求項1に記載の楽器用椅子。
【請求項3】
前記複数のキャスタ収容部にそれぞれ設けられ、各々が、対応する当該キャスタ収容部に収容される前記キャスタを、前記突出位置にロックする複数の第1ロック機構を、さらに備えていることを特徴とする請求項2に記載の楽器用椅子。
【請求項4】
前記複数のキャスタ収容部にそれぞれ設けられ、各々が、対応する当該キャスタ収容部に収容される前記キャスタを、前記収容位置にロックする複数の第2ロック機構と、
前記複数のキャスタ収容部にそれぞれ設けられ、各々が、外部から操作可能に構成されるとともに、対応する前記第2ロック機構による前記ロックを解除するための複数のロック解除部と、
をさらに備えていることを特徴とする請求項3に記載の楽器用椅子。
【請求項5】
前記複数のキャスタ収容部の内側にそれぞれ設けられ、各々が、対応する当該キャスタ収容部に収容される前記キャスタが前記収容位置に位置するときに、当該キャスタに圧接することにより、当該キャスタの振動を阻止する複数の振動阻止部を、さらに備えていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の楽器用椅子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−104420(P2010−104420A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−276757(P2008−276757)
【出願日】平成20年10月28日(2008.10.28)
【出願人】(000001410)株式会社河合楽器製作所 (563)
【Fターム(参考)】