構造体の構造決定方法
【課題】構造体の本来の耐久性を発現することが可能となる構造を決定する、構造体の構造決定方法を提供する。
【解決手段】例えば、溶融亜鉛めっき鋼板からなり、形状が異なる4種類の試験片を用いて、SAE J2334腐食試験サイクル条件で腐食試験を行なう。腐食試験後、鋼板合わせ部の腐食生成物を除去し、マイクロメーターで板厚減少量を測定することにより、評価部分の最大腐食深さを測定する。次いで、測定結果をもとに、各試験片での鋼及び亜鉛の腐食速度を、そして腐食速度比(Fe/Zn)を求め、腐食速度比30以上の試験片を、亜鉛めっき鋼板が本来有する耐食性を発現することのできる構造を有している構造体とする。
【解決手段】例えば、溶融亜鉛めっき鋼板からなり、形状が異なる4種類の試験片を用いて、SAE J2334腐食試験サイクル条件で腐食試験を行なう。腐食試験後、鋼板合わせ部の腐食生成物を除去し、マイクロメーターで板厚減少量を測定することにより、評価部分の最大腐食深さを測定する。次いで、測定結果をもとに、各試験片での鋼及び亜鉛の腐食速度を、そして腐食速度比(Fe/Zn)を求め、腐食速度比30以上の試験片を、亜鉛めっき鋼板が本来有する耐食性を発現することのできる構造を有している構造体とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造体の構造を決定する方法であって、無塗装の状態で使用される部位を有する構造体、特に、合わせ部を有する構造体の本来の耐久性を発現することが可能となる構造を決定する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車や建築物、家電製品などの製品の長寿命化やライフサイクルコストを最小化することが社会的に求められている。
このような製品や鋼構造物の接合部周辺の金属合わせ構造内部は、化成処理や電着塗装が行われず無塗装の状態が多い。そのため、上記金属合わせ構造内部は製品の寿命や耐久性に大きく影響を与えることになる。
この無塗装部における耐久性は、使用環境、接合部周辺の金属合わせ構造に大きく影響される。にも拘わらず、構造物を設計する際に、構造と耐久性との関係は明らかにされていない。また、使用される材料が本来持つ耐久性を発現することが可能となる構造かどうかを決定する手段もなかった。
【0003】
非特許文献1では、自動車におけるドアヘム部を模擬した試験片を用いて腐食試験を行うことにより、ドアヘム部における鋼板の耐久性を評価している。しかし、使用される材料が本来持つ耐久性を発現する構造かどうかを決定する手段には至っていない。
【0004】
非特許文献2では、自動車の腐食が発生しやすい板合わせ部や袋構造部の長期防錆保証対応が示されているが、これは経験的かつ定性的な判断によるものであり、その根拠及び定量的判断については示されていない。
【0005】
以上のように、構造物を実環境で使用する際に、その構造体の構造が本来持つ耐久性を発現する構造かどうかを決定する手段が必要とされているにも拘わらず、未だにその構造決定手段は開発されていない。
【非特許文献1】Shigeru Wakano and Minoru Nishihara: The Sumitomo Serch, 39, Sept, 1989 P11〜18.
【非特許文献2】滝川和則、竹内寿浩著、防錆管理、 6、2007 p314〜319
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる事情に鑑みなされたもので、無塗装の状態で使用される部位を有する構造体の本来の耐久性を発現することが可能となる構造を決定する、構造体の構造決定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
金属を使用した構造体の構造は、単純なものから複雑なものまで多岐に及んでいる。同じ材料を用いたとしても、構造によってその耐久性は異なる。
自動車を例に挙げると、化成処理や電着塗装のされにくい鋼板合わせ部が、構造体において、腐食しやすい部分である。また、形状、クリアランス、接触面積、スポット溶接の接合間隔、あるいは塗膜を有する場合の塗膜の厚み等の違いによって構造が異なると耐久性が変化する。
また、自動車、家電製品、建築物等の構造物の材料として用いられる亜鉛めっき鋼板では、亜鉛の腐食生成物が下地の鋼板を保護する作用があり、これによる防錆期間が構造体の耐久性に大きな役割を果たしている。しかし、鋼板合わせ部における亜鉛の腐食生成物の残存しやすさは構造によって大きく変化する。
以上のように、さまざまな構造の条件の違いによって耐久性が変化すると考えられる。
【0008】
本発明は、以上の知見に基づき、鋭意研究を重ねた結果完成されたもので、その要旨は以下のとおりである。
[1]金属A、金属Bのうちの少なくとも一つを含む構造体の構造決定方法であって、2つ以上の異なる構造で、それぞれ、金属Aと金属Bの腐食試験を行い、次いで、前記腐食試験結果により得られた金属A及び金属Bの腐食速度比を用いて構造を決定することを特徴とする構造体の構造決定方法。
[2]前記[1]において、前記構造体は合わせ部を有する構造体であり、前記腐食試験は、形状、クリアランス、接触面積のいずれか一つ以上が異なる構造で行うことを特徴とする構造体の構造決定方法。
[3]前記[1]または[2]において、前記構造体はスポット溶接による合わせ部を有する構造体であり、前記腐食試験は、前記合わせ部のスポット溶接の接合間隔が異なる構造で行うことを特徴とする構造体の構造決定方法。
[4]前記[1]〜[3]のいずれかにおいて、前記構造体は合わせ部以外の平面開放部に塗膜を有する構造体であり、前記腐食試験は、前記塗膜の膜厚が異なる構造で行うことを特徴とする構造体の構造決定方法。
[5]前記[1]〜[4]のいずれかにおいて、前記構造体は金属Aの表面に金属Bをめっきしたものからなる構造体であることを特徴とする構造体の構造決定方法。
[6]前記[1]〜[5]のいずれかにおいて、前記金属Aが鋼であり、前記金属Bが亜鉛または亜鉛含有合金であることを特徴とする構造体の構造決定方法。
[7]前記[6]において、前記腐食速度比が亜鉛の本来持つ耐食性を発現可能な所定の値になるように構造を決定することを特徴とする構造体の構造決定方法。
[8]前記[7]において、前記所定の値が30以上であることを特徴とする構造体の構造決定方法。ただし、前記腐食速度比は、金属Aの腐食速度(mm/単位時間)/金属Bの腐食速度(mm/単位時間)とする。
[9]前記[1]〜[8]のいずれかにおいて前記構造体が自動車を構成する構造体であることを特徴とする構造体の構造決定方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、無塗装の状態で使用される部位を有する構造体の本来の耐久性を発現することが可能な構造を決定することができる。その結果、実環境において、使用する材料の本来持つ耐食性を十分に発現した形で構造体を使用することができる。さらに、本発明では、構造体に用いる金属の腐食速度比を用いて評価するという簡便な方法で、予め評価可能であるため、構造体の構造決定方法として産業上の利用価値は高く、有益な発明といえる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明を詳細に説明する。
まず、本発明の対象となる構造体について説明する。本発明の構造体とは、自動車や建築物、家電製品などを構成する構造体である。特に化成処理、電着塗装、中塗り塗装および上塗り塗装が付き回らず、無塗装の状態となる部位を有する構造体、中でも、合わせ部を有する構造体が適している。合わせ部を有する構造体としては、例えば、パネル周縁がヘミングと呼ばれる構造で重なり合った構造になっている自動車のドアヘム部が挙げられる。この部位は、スポット溶接による合わせ部を有する構造体である。また、合わせ部以外の平面開放部に塗膜を有する構造体も本発明を適用することができる。
また、構造体に用いる材料として、金属A、金属Bのうちの少なくとも一つを含むものとする。金属A、Bについては、特に限定はしない。例えば、金属Aの表面に金属Bをめっきしたもの、金属Aが鋼であり、前記金属Bが亜鉛または亜鉛含有合金であるものが用いられる。
以上の説明を基に、以下に本発明に好適に用いられる構造体の一例を図1〜図4に示す。図1は、自動車のドアヘム部を想定した合わせ部を有する4種類の構造体を示したものであり、形状、クリアランス、接触面積のいずれか一つ以上が異なる場合である。なお、接触面積とは、クリアランスが0μmである時の合わせ部の接触面積である。また、使用した金属は、金属Aとして鋼(冷延鋼板)、金属Bとして溶融亜鉛めっき層である。
図2は、図1と同様に、自動車のドアヘム部を想定した合わせ部を有する4種類の構造体を示したものである。形状は4種類とも同一であるが、スポット溶接接合間隔およびスポット溶接個数が異なる場合である。使用した金属は、金属Aとして鋼(冷延鋼板)、金属Bとして溶融亜鉛めっき層である。
図3は、図1と同様に、自動車のドアヘム部を想定した合わせ部を有する4種類の構造体を示したものである。形状は4種類とも同一であるが、鋼板合わせ部のクリアランスが異なる場合である。使用した金属は、金属Aとして鋼(冷延鋼板)、金属Bとして合金化溶融亜鉛めっき層である。
図4は、図1と同様に、自動車のドアヘム部を想定した合わせ部を有する4種類の構造体を示したものである。4種類とも形状は同一であり、合わせ部以外の平面開放部に電着塗装による塗膜を有する構造体であるが、膜厚が異なる場合である。使用した金属は金属Aとして鋼(冷延鋼板)、金属Bとして溶融亜鉛めっき層である。この形態は、例えば、塗膜を電着塗装により形成し、膜厚設計を行おうとする場合に用いられ、本発明の方法は効果的に適用される。
【0011】
次に、本発明の構造体の構造決定について説明する。
本発明では、2つ以上の異なる構造で、それぞれ、金属A及び金属Bの腐食試験を行う。
次いで、前記腐食試験結果から、金属Aと金属Bの腐食速度比を求める。そして、その腐食速度比を用いて構造を決定する。自動車用、建築物、または家電製品用の構造体の場合、金属Aとして鋼、金属Bとして亜鉛または亜鉛含有合金とする腐食速度比を用いることが好ましい。さらに、腐食速度比が亜鉛の本来持つ耐食性を発現可能な所定の値になる様に構造を決定することが好ましい。なお、所定の値とは、構造体の使用目的に応じて適宜設定される値である。例えば、自動車用の構造体であり、金属Aとして鋼、金属Bとして亜鉛含有合金の場合、腐食速度比A/Bは、使用部位によって変動はあるもののA/Bは30以上が好ましい。
【0012】
このように、本発明においては、構造体の本来の耐久性を発現することが可能となる構造を決定するにあたり、2つ以上の異なる構造体について、それぞれ、金属Aと金属Bの腐食試験を行い、金属Aと金属Bの腐食速度比を用いて、構造を決定することを特徴とする。これは本発明において最も重要な要件であり、このように、任意の腐食促進試験で、2つ以上の異なる構造体を用いて腐食試験を行うことにより、本来有する耐食性を発現する構造かどうかを判定し構造を決定することが可能となる。以下に、本発明の実施形態の一つとして、金属Aとして下地金属、金属Bとして表面処理層を含む構造体を挙げ、詳細に説明する。
1)上述したように構造が異なる2つ以上の構造体(以下、各試験片と称す)を用いて、任意の腐食試験により、下地金属と表面処理層の腐食試験を行なう。この場合、腐食試験としては、構造によっては制約を受ける場合があるものの、基本的には、下地金属と表面処理金属(下地金属に表面処理したもの)を別々に行う方法、表面処理金属のみ試験を行いこの腐食試験結果から下地金属と表面処理層の各々の腐食速度を求める方法、いずれも用いることができる。腐食試験については、特に限定しない。例えば、後述する図5に示すSAE(Society Automotive Engineers 米国技術者会)の規格であるSAEJ2334を用いることができる。なお、被腐食試験面積は腐食試験の信頼性の点から、合わせ部として2000mm2以上が好ましい。
2)1)の腐食試験後の試験片から、例えば、以下に示す様にして、下地金属と表面処理層の腐食速度比を各試験片毎に求める。各試験片に生成した腐食生成物を除去し、マイクロメーターを使用して、最大腐食深さを測定する。下地金属と表面処理金属を別々に腐食試験する場合、まず、下地金属の最大腐食深さを基に単位時間あたりの腐食深さを求め、これを下地金属の腐食速度とする。次に、表面処理金属においては、表面処理層の防錆時間が終わった後は下地金属の腐食速度と同じ速度で腐食が進行すると考えることができるので、図6に示す様に表面処理金属の最大腐食深さのデータに、下地金属の腐食速度を外挿し、最大腐食深さが0となる点までを表面処理層による防錆期間とする。表面処理層の厚みと、ここで求めた表面処理層の防錆期間から、単位時間あたりの腐食深さを求め、これを表面処理層の腐食速度とする。なお、上記最大腐食深さに代えて重量変化を用いて、腐食速度を求めることもできる。
表面処理金属のみ腐食試験を行う場合、まず、表面処理層による防錆期間を求める。下地金属の腐食が進行すると、最大腐食深さは急激に増加する。この急激に増加する点より下地金属の腐食速度を外挿し、最大腐食深さが0となる点を境にして表面処理層による防錆期間と下地金属の腐食期間を分ける。表面処理層の厚みと防錆期間から、表面処理層の腐食速度を求める。また、最大腐食深さから、下地金属の腐食速度を求める。
3)各試験片の腐食速度比から、各構造体が本来持つ耐食性を十分に発現する構造、つまり、表面処理層が下地金属に対して本来持つ耐食性を発現する構造であるか否かを判定する。判定するにあたっては、構造体の使用目的によって適宜設定される値を基準値とし、腐食速度比が基準値以上もしくは基準値の設定の仕方によっては基準値以下の値を有する構造が、表面処理層が本来持つ耐食性を十分に発現していると判断する。例えば、自動車を構成する構造体を決定する場合、実際に自動車で用いられている構造体の腐食速度比を参考にし、腐食速度比:下地金属の腐食速度(mm/単位時間)/表面処理層の腐食速度(mm/単位時間)が30以上の場合を本来持つ耐久性を十分に発現していると判断する。
4)以上の結果から、使用される金属が本来持つ耐久性を十分に発現することのできる構造を選定し、決定する。
以上は、金属Aとして下地金属、金属Bとして表面処理層を含む構造体について説明したが、金属Aと金属Bとして別々に腐食試験に供して腐食速度比を求めてもよい。一例を、図11を用いて以下に示す。図11は、試験期間(サイクル数)と金属Aの最大腐食深さ、および金属Bの腐食重量との関係を示す図である。図11に示すように、金属Aは、各試験片に生成した腐食生成物を除去し、マイクロメーターを使用して、腐食孔部の板厚を測定して、試験片の最大腐食深さを測定する。この最大腐食深さを試験期間(サイクル数)で割り、単位試験期間に進行する腐食深さを金属Aの腐食速度とする。一方、金属Bは、金属Aと同様に各試験片に生成した腐食生成物を除去し、腐食試験前後の重量変化を試験期間(サイクル数)で割り、単位試験期間に腐食する重量を金属Bの腐食速度とする。そして、腐食速度比を算出する時は、密度から腐食速度の単位を統一して計算する。
【実施例1】
【0013】
本発明の実施例について以下に詳細に説明する。
以下に説明する実施例1〜4では、本発明の方法に従い、自動車のドアヘム部における鋼板合わせ部について構造決定を行った。
まず、溶融亜鉛めっき層が下地鋼に対して本来持つ耐食性を発現する腐食速度比V1を決定する目的で、実際に使用されているドア(溶融亜鉛めっき鋼板使用)を使用し、米国自動車技術者会の規格であるSAE J2334に従い腐食試験を行なった。図5にSAE J2334に規格化されている前記腐食試験のサイクル条件を、図6に試験結果を示す。以上の結果をもとに、溶融亜鉛めっき層が本来持つ耐食性を発現する腐食速度比V1は30となった。なお、腐食速度比V1は図6に示す式にて算出した。
これより、以下の実施例においては、自動車のドアヘム部における鋼板合わせ部について、構造決定するに際して、腐食速度比の判定の基準値は30とし、30以上を良好(○)とする。
【0014】
<実施例1>
図1に示す形状が異なる4種類の試験片を用いて、図5に示すSAE J2334腐食試験サイクル条件で腐食試験を行なった。使用した金属は、金属Aとして鋼、金属Bとして溶融亜鉛めっき層とし、冷延鋼板と溶融亜鉛めっき鋼板について評価した。また、試験片は、自動車の組立て工程に従い、スポット溶接にて接合した後、化成処理・電着塗装を施した。化成処理は、日本パーカライジング社製パルボンドを使用し、35℃で2分間浸漬する条件で行った。電着塗装は、自動車用電着塗装を使用し、170℃で25分間焼付を行なった。また、化成処理皮膜の付着量は2.5g/m2、電着塗装膜厚は30μm、スポット溶接間隔は8cm、クリアランスは0μm(意図的にスペーサなどでクリアランスは設けていないことを意味する)とした。
腐食試験後、合わせ部内側(評価面積:20000mm2)の腐食生成物を除去し、マイクロメーターで板厚減少量を測定することにより、評価部分の最大腐食深さを測定した。得られた結果を図7に示す。さらに、図7の結果から、各試験片での溶融亜鉛めっき層(Zn)及び鋼(Fe)の腐食速度をそれぞれ算出した。算出結果を表1に示す。以上の結果をもとに腐食速度比(Fe/Zn)を求め、上記基準値:30とし、判定を行った。判定結果を各々の腐食速度と併せて表1に示す。
【0015】
【表1】
【0016】
表1より、構造(1)、(2)の腐食速度比は30以上であり、溶融亜鉛めっき層が本来有する耐食性を発現することのできる構造であることがわかる。一方、構造(3)、(4)の腐食速度比は30未満であった。塩水が溜まりやすい構造のため、腐食速度比は低い値であり、溶融亜鉛めっき層が本来有する耐食性を発現することのできる構造ではないと判定できる。以上より、構造(1)又は(2)を選定し、この中から構造を決定することができる。
【0017】
<実施例2>
図2に示すスポット溶接接合間隔が異なる4種類の試験片を用いて、図5に示すSAE J2334腐食試験サイクル条件で腐食試験を行った。使用した金属は金属Aとして鋼、金属Bとして溶融亜鉛めっき層とし溶融亜鉛めっき鋼板について評価した。また、試験片は、実施例1と同様に、スポット溶接後、化成処理、電着塗装を施した。なお、化成処理、電着塗装の各々の条件は実施例1と同様である。
腐食試験後、実施例1と同様の方法にて評価部分の最大腐食深さを測定した。得られた結果を図8に示す。さらに、図8の結果から、溶融亜鉛めっき層(Zn)の腐食速度、鋼(Fe)の腐食速度をそれぞれ算出した。算出結果を表2に示す。以上の結果をもとに腐食速度比(Fe/Zn)を求め、上記基準値:30とし、判定を行った。判定結果を各々の腐食速度と併せて表2に示す。
【0018】
【表2】
【0019】
表2より、構造(5)、(6)、(7)の腐食速度比は30以上であり溶融亜鉛めっき層が本来有する耐食性を発現することのできる構造であることがわかる。一方、構造(8)の腐食速度比は30未満であった。この構造は、スポット溶接間隔が広く、亜鉛の腐食生成物が流されやすい構造であるために、溶融亜鉛めっき層が本来有する耐食性を発現することのできる構造ではないと判定できる。以上より、構造(5)、(6)、(7)を選定し、これらの中から構造を決定することができる。
【0020】
<実施例3>
図3に示す合わせ部のクリアランスが異なる4種類の試験片を用いて、図5に示すSAE J2334腐食試験サイクル条件で腐食試験を行なった。金属Aとして鋼、金属Bとして合金化溶融亜鉛めっき層とし、冷延鋼板と合金化溶融亜鉛めっき鋼板について評価した。また、試験片は、実施例1と同様に、スポット溶接後、化成処理、電着塗装を施した。なお、化成処理、電着塗装の各々の条件は実施例1と同様である。
腐食試験後、実施例1と同様の方法にて評価部分の最大腐食深さを測定した。得られた結果を図9に示す。さらに、図9の結果から、各試験片形状での鋼(Fe)及び合金化溶融めっき層(Zn)の腐食速度をそれぞれ算出した。算出結果を表3に示す。以上の結果をもとに腐食速度比(Fe/Zn)を求め、上記基準値:30とし、判定を行った。判定結果を各々の腐食速度と併せて表3に示す。
【0021】
【表3】
【0022】
表3より、全ての試験片の腐食速度比は30以上であり、合金化溶融亜鉛めっき層が本来有する耐食性を発現することのできる構造であることがわかる。以上より、構造(9)〜(12)を選定し、これらの中から構造を決定することができる。
【0023】
<実施例4>
図4に示す電着塗装膜厚が異なる4種類の試験片を用いて、図5に示すSAE J2334腐食試験サイクル条件で腐食試験を行なった。使用した金属は、金属Aとして鋼、金属Bとして溶融亜鉛めっき層とし、溶融亜鉛めっき鋼板について評価した。また、試験片は、実施例1と同様に、スポット溶接後、化成処理、電着塗装を施した。なお、化成処理、電着塗装の各々の条件は電着塗装膜厚を除いて実施例1と同様である。
腐食試験後、実施例1と同様の方法にて評価部分の最大腐食深さを測定した。得られた結果を図10に示す。さらに、図10の結果から、各試験片形状での鋼(Fe)及び溶融亜鉛めっき層(Zn)の腐食速度をそれぞれ算出した。算出結果を表4に示す。以上の結果をもとに腐食速度比(Fe/Zn)を求め、上記基準値:30とし、判定を行った。判定結果を各々の腐食速度と併せて表4に示す。
【0024】
【表4】
【0025】
表4より、構造(13)、(14)、(15)の腐食速度比は30以上であり亜鉛めっき鋼板が本来有する耐食性を発現することのできる構造であることがわかる。一方、構造(16)の腐食速度比は30未満であった。電着塗装膜厚が薄い(5μm)ため、塩水が浸入しやすく、亜鉛の腐食生成物が流されやすい構造であるために、溶融亜鉛めっき層が本来有する耐食性を発現することのできる構造ではないと判定できる。以上より、構造(13)〜(15)を選定し、これらの中から構造を決定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の構造体の構造決定方法は、実際に使用する前に、構造体の本来の耐久性を発現する構造かどうかを判定・決定することが可能となるため、自動車や建築物、家電製品などを中心に、構造体の本来の耐久性を発現する必要性のある構造体など、多様な用途に用いることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に用いられる構造体の一例を示す図である。
【図2】本発明に用いられる構造体の一例を示す図である。
【図3】本発明に用いられる構造体の一例を示す図である。
【図4】本発明に用いられる構造体の一例を示す図である。
【図5】SAE J2334腐食試験サイクルを示す図である。
【図6】実ドアを使用しての腐食試験におけるサイクル数と最大腐食深さとの関係および腐食速度比の関係式を示す図である。
【図7】サイクル数と最大腐食深さとの関係を示す図である。(実施例1)
【図8】サイクル数と最大腐食深さとの関係を示す図である。(実施例2)
【図9】サイクル数と最大腐食深さとの関係を示す図である。(実施例3)
【図10】サイクル数と最大腐食深さとの関係を示す図である。(実施例4)
【図11】試験期間(サイクル数)と金属Aの最大腐食深さ、および金属Bの腐食重量との関係を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造体の構造を決定する方法であって、無塗装の状態で使用される部位を有する構造体、特に、合わせ部を有する構造体の本来の耐久性を発現することが可能となる構造を決定する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車や建築物、家電製品などの製品の長寿命化やライフサイクルコストを最小化することが社会的に求められている。
このような製品や鋼構造物の接合部周辺の金属合わせ構造内部は、化成処理や電着塗装が行われず無塗装の状態が多い。そのため、上記金属合わせ構造内部は製品の寿命や耐久性に大きく影響を与えることになる。
この無塗装部における耐久性は、使用環境、接合部周辺の金属合わせ構造に大きく影響される。にも拘わらず、構造物を設計する際に、構造と耐久性との関係は明らかにされていない。また、使用される材料が本来持つ耐久性を発現することが可能となる構造かどうかを決定する手段もなかった。
【0003】
非特許文献1では、自動車におけるドアヘム部を模擬した試験片を用いて腐食試験を行うことにより、ドアヘム部における鋼板の耐久性を評価している。しかし、使用される材料が本来持つ耐久性を発現する構造かどうかを決定する手段には至っていない。
【0004】
非特許文献2では、自動車の腐食が発生しやすい板合わせ部や袋構造部の長期防錆保証対応が示されているが、これは経験的かつ定性的な判断によるものであり、その根拠及び定量的判断については示されていない。
【0005】
以上のように、構造物を実環境で使用する際に、その構造体の構造が本来持つ耐久性を発現する構造かどうかを決定する手段が必要とされているにも拘わらず、未だにその構造決定手段は開発されていない。
【非特許文献1】Shigeru Wakano and Minoru Nishihara: The Sumitomo Serch, 39, Sept, 1989 P11〜18.
【非特許文献2】滝川和則、竹内寿浩著、防錆管理、 6、2007 p314〜319
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる事情に鑑みなされたもので、無塗装の状態で使用される部位を有する構造体の本来の耐久性を発現することが可能となる構造を決定する、構造体の構造決定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
金属を使用した構造体の構造は、単純なものから複雑なものまで多岐に及んでいる。同じ材料を用いたとしても、構造によってその耐久性は異なる。
自動車を例に挙げると、化成処理や電着塗装のされにくい鋼板合わせ部が、構造体において、腐食しやすい部分である。また、形状、クリアランス、接触面積、スポット溶接の接合間隔、あるいは塗膜を有する場合の塗膜の厚み等の違いによって構造が異なると耐久性が変化する。
また、自動車、家電製品、建築物等の構造物の材料として用いられる亜鉛めっき鋼板では、亜鉛の腐食生成物が下地の鋼板を保護する作用があり、これによる防錆期間が構造体の耐久性に大きな役割を果たしている。しかし、鋼板合わせ部における亜鉛の腐食生成物の残存しやすさは構造によって大きく変化する。
以上のように、さまざまな構造の条件の違いによって耐久性が変化すると考えられる。
【0008】
本発明は、以上の知見に基づき、鋭意研究を重ねた結果完成されたもので、その要旨は以下のとおりである。
[1]金属A、金属Bのうちの少なくとも一つを含む構造体の構造決定方法であって、2つ以上の異なる構造で、それぞれ、金属Aと金属Bの腐食試験を行い、次いで、前記腐食試験結果により得られた金属A及び金属Bの腐食速度比を用いて構造を決定することを特徴とする構造体の構造決定方法。
[2]前記[1]において、前記構造体は合わせ部を有する構造体であり、前記腐食試験は、形状、クリアランス、接触面積のいずれか一つ以上が異なる構造で行うことを特徴とする構造体の構造決定方法。
[3]前記[1]または[2]において、前記構造体はスポット溶接による合わせ部を有する構造体であり、前記腐食試験は、前記合わせ部のスポット溶接の接合間隔が異なる構造で行うことを特徴とする構造体の構造決定方法。
[4]前記[1]〜[3]のいずれかにおいて、前記構造体は合わせ部以外の平面開放部に塗膜を有する構造体であり、前記腐食試験は、前記塗膜の膜厚が異なる構造で行うことを特徴とする構造体の構造決定方法。
[5]前記[1]〜[4]のいずれかにおいて、前記構造体は金属Aの表面に金属Bをめっきしたものからなる構造体であることを特徴とする構造体の構造決定方法。
[6]前記[1]〜[5]のいずれかにおいて、前記金属Aが鋼であり、前記金属Bが亜鉛または亜鉛含有合金であることを特徴とする構造体の構造決定方法。
[7]前記[6]において、前記腐食速度比が亜鉛の本来持つ耐食性を発現可能な所定の値になるように構造を決定することを特徴とする構造体の構造決定方法。
[8]前記[7]において、前記所定の値が30以上であることを特徴とする構造体の構造決定方法。ただし、前記腐食速度比は、金属Aの腐食速度(mm/単位時間)/金属Bの腐食速度(mm/単位時間)とする。
[9]前記[1]〜[8]のいずれかにおいて前記構造体が自動車を構成する構造体であることを特徴とする構造体の構造決定方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、無塗装の状態で使用される部位を有する構造体の本来の耐久性を発現することが可能な構造を決定することができる。その結果、実環境において、使用する材料の本来持つ耐食性を十分に発現した形で構造体を使用することができる。さらに、本発明では、構造体に用いる金属の腐食速度比を用いて評価するという簡便な方法で、予め評価可能であるため、構造体の構造決定方法として産業上の利用価値は高く、有益な発明といえる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明を詳細に説明する。
まず、本発明の対象となる構造体について説明する。本発明の構造体とは、自動車や建築物、家電製品などを構成する構造体である。特に化成処理、電着塗装、中塗り塗装および上塗り塗装が付き回らず、無塗装の状態となる部位を有する構造体、中でも、合わせ部を有する構造体が適している。合わせ部を有する構造体としては、例えば、パネル周縁がヘミングと呼ばれる構造で重なり合った構造になっている自動車のドアヘム部が挙げられる。この部位は、スポット溶接による合わせ部を有する構造体である。また、合わせ部以外の平面開放部に塗膜を有する構造体も本発明を適用することができる。
また、構造体に用いる材料として、金属A、金属Bのうちの少なくとも一つを含むものとする。金属A、Bについては、特に限定はしない。例えば、金属Aの表面に金属Bをめっきしたもの、金属Aが鋼であり、前記金属Bが亜鉛または亜鉛含有合金であるものが用いられる。
以上の説明を基に、以下に本発明に好適に用いられる構造体の一例を図1〜図4に示す。図1は、自動車のドアヘム部を想定した合わせ部を有する4種類の構造体を示したものであり、形状、クリアランス、接触面積のいずれか一つ以上が異なる場合である。なお、接触面積とは、クリアランスが0μmである時の合わせ部の接触面積である。また、使用した金属は、金属Aとして鋼(冷延鋼板)、金属Bとして溶融亜鉛めっき層である。
図2は、図1と同様に、自動車のドアヘム部を想定した合わせ部を有する4種類の構造体を示したものである。形状は4種類とも同一であるが、スポット溶接接合間隔およびスポット溶接個数が異なる場合である。使用した金属は、金属Aとして鋼(冷延鋼板)、金属Bとして溶融亜鉛めっき層である。
図3は、図1と同様に、自動車のドアヘム部を想定した合わせ部を有する4種類の構造体を示したものである。形状は4種類とも同一であるが、鋼板合わせ部のクリアランスが異なる場合である。使用した金属は、金属Aとして鋼(冷延鋼板)、金属Bとして合金化溶融亜鉛めっき層である。
図4は、図1と同様に、自動車のドアヘム部を想定した合わせ部を有する4種類の構造体を示したものである。4種類とも形状は同一であり、合わせ部以外の平面開放部に電着塗装による塗膜を有する構造体であるが、膜厚が異なる場合である。使用した金属は金属Aとして鋼(冷延鋼板)、金属Bとして溶融亜鉛めっき層である。この形態は、例えば、塗膜を電着塗装により形成し、膜厚設計を行おうとする場合に用いられ、本発明の方法は効果的に適用される。
【0011】
次に、本発明の構造体の構造決定について説明する。
本発明では、2つ以上の異なる構造で、それぞれ、金属A及び金属Bの腐食試験を行う。
次いで、前記腐食試験結果から、金属Aと金属Bの腐食速度比を求める。そして、その腐食速度比を用いて構造を決定する。自動車用、建築物、または家電製品用の構造体の場合、金属Aとして鋼、金属Bとして亜鉛または亜鉛含有合金とする腐食速度比を用いることが好ましい。さらに、腐食速度比が亜鉛の本来持つ耐食性を発現可能な所定の値になる様に構造を決定することが好ましい。なお、所定の値とは、構造体の使用目的に応じて適宜設定される値である。例えば、自動車用の構造体であり、金属Aとして鋼、金属Bとして亜鉛含有合金の場合、腐食速度比A/Bは、使用部位によって変動はあるもののA/Bは30以上が好ましい。
【0012】
このように、本発明においては、構造体の本来の耐久性を発現することが可能となる構造を決定するにあたり、2つ以上の異なる構造体について、それぞれ、金属Aと金属Bの腐食試験を行い、金属Aと金属Bの腐食速度比を用いて、構造を決定することを特徴とする。これは本発明において最も重要な要件であり、このように、任意の腐食促進試験で、2つ以上の異なる構造体を用いて腐食試験を行うことにより、本来有する耐食性を発現する構造かどうかを判定し構造を決定することが可能となる。以下に、本発明の実施形態の一つとして、金属Aとして下地金属、金属Bとして表面処理層を含む構造体を挙げ、詳細に説明する。
1)上述したように構造が異なる2つ以上の構造体(以下、各試験片と称す)を用いて、任意の腐食試験により、下地金属と表面処理層の腐食試験を行なう。この場合、腐食試験としては、構造によっては制約を受ける場合があるものの、基本的には、下地金属と表面処理金属(下地金属に表面処理したもの)を別々に行う方法、表面処理金属のみ試験を行いこの腐食試験結果から下地金属と表面処理層の各々の腐食速度を求める方法、いずれも用いることができる。腐食試験については、特に限定しない。例えば、後述する図5に示すSAE(Society Automotive Engineers 米国技術者会)の規格であるSAEJ2334を用いることができる。なお、被腐食試験面積は腐食試験の信頼性の点から、合わせ部として2000mm2以上が好ましい。
2)1)の腐食試験後の試験片から、例えば、以下に示す様にして、下地金属と表面処理層の腐食速度比を各試験片毎に求める。各試験片に生成した腐食生成物を除去し、マイクロメーターを使用して、最大腐食深さを測定する。下地金属と表面処理金属を別々に腐食試験する場合、まず、下地金属の最大腐食深さを基に単位時間あたりの腐食深さを求め、これを下地金属の腐食速度とする。次に、表面処理金属においては、表面処理層の防錆時間が終わった後は下地金属の腐食速度と同じ速度で腐食が進行すると考えることができるので、図6に示す様に表面処理金属の最大腐食深さのデータに、下地金属の腐食速度を外挿し、最大腐食深さが0となる点までを表面処理層による防錆期間とする。表面処理層の厚みと、ここで求めた表面処理層の防錆期間から、単位時間あたりの腐食深さを求め、これを表面処理層の腐食速度とする。なお、上記最大腐食深さに代えて重量変化を用いて、腐食速度を求めることもできる。
表面処理金属のみ腐食試験を行う場合、まず、表面処理層による防錆期間を求める。下地金属の腐食が進行すると、最大腐食深さは急激に増加する。この急激に増加する点より下地金属の腐食速度を外挿し、最大腐食深さが0となる点を境にして表面処理層による防錆期間と下地金属の腐食期間を分ける。表面処理層の厚みと防錆期間から、表面処理層の腐食速度を求める。また、最大腐食深さから、下地金属の腐食速度を求める。
3)各試験片の腐食速度比から、各構造体が本来持つ耐食性を十分に発現する構造、つまり、表面処理層が下地金属に対して本来持つ耐食性を発現する構造であるか否かを判定する。判定するにあたっては、構造体の使用目的によって適宜設定される値を基準値とし、腐食速度比が基準値以上もしくは基準値の設定の仕方によっては基準値以下の値を有する構造が、表面処理層が本来持つ耐食性を十分に発現していると判断する。例えば、自動車を構成する構造体を決定する場合、実際に自動車で用いられている構造体の腐食速度比を参考にし、腐食速度比:下地金属の腐食速度(mm/単位時間)/表面処理層の腐食速度(mm/単位時間)が30以上の場合を本来持つ耐久性を十分に発現していると判断する。
4)以上の結果から、使用される金属が本来持つ耐久性を十分に発現することのできる構造を選定し、決定する。
以上は、金属Aとして下地金属、金属Bとして表面処理層を含む構造体について説明したが、金属Aと金属Bとして別々に腐食試験に供して腐食速度比を求めてもよい。一例を、図11を用いて以下に示す。図11は、試験期間(サイクル数)と金属Aの最大腐食深さ、および金属Bの腐食重量との関係を示す図である。図11に示すように、金属Aは、各試験片に生成した腐食生成物を除去し、マイクロメーターを使用して、腐食孔部の板厚を測定して、試験片の最大腐食深さを測定する。この最大腐食深さを試験期間(サイクル数)で割り、単位試験期間に進行する腐食深さを金属Aの腐食速度とする。一方、金属Bは、金属Aと同様に各試験片に生成した腐食生成物を除去し、腐食試験前後の重量変化を試験期間(サイクル数)で割り、単位試験期間に腐食する重量を金属Bの腐食速度とする。そして、腐食速度比を算出する時は、密度から腐食速度の単位を統一して計算する。
【実施例1】
【0013】
本発明の実施例について以下に詳細に説明する。
以下に説明する実施例1〜4では、本発明の方法に従い、自動車のドアヘム部における鋼板合わせ部について構造決定を行った。
まず、溶融亜鉛めっき層が下地鋼に対して本来持つ耐食性を発現する腐食速度比V1を決定する目的で、実際に使用されているドア(溶融亜鉛めっき鋼板使用)を使用し、米国自動車技術者会の規格であるSAE J2334に従い腐食試験を行なった。図5にSAE J2334に規格化されている前記腐食試験のサイクル条件を、図6に試験結果を示す。以上の結果をもとに、溶融亜鉛めっき層が本来持つ耐食性を発現する腐食速度比V1は30となった。なお、腐食速度比V1は図6に示す式にて算出した。
これより、以下の実施例においては、自動車のドアヘム部における鋼板合わせ部について、構造決定するに際して、腐食速度比の判定の基準値は30とし、30以上を良好(○)とする。
【0014】
<実施例1>
図1に示す形状が異なる4種類の試験片を用いて、図5に示すSAE J2334腐食試験サイクル条件で腐食試験を行なった。使用した金属は、金属Aとして鋼、金属Bとして溶融亜鉛めっき層とし、冷延鋼板と溶融亜鉛めっき鋼板について評価した。また、試験片は、自動車の組立て工程に従い、スポット溶接にて接合した後、化成処理・電着塗装を施した。化成処理は、日本パーカライジング社製パルボンドを使用し、35℃で2分間浸漬する条件で行った。電着塗装は、自動車用電着塗装を使用し、170℃で25分間焼付を行なった。また、化成処理皮膜の付着量は2.5g/m2、電着塗装膜厚は30μm、スポット溶接間隔は8cm、クリアランスは0μm(意図的にスペーサなどでクリアランスは設けていないことを意味する)とした。
腐食試験後、合わせ部内側(評価面積:20000mm2)の腐食生成物を除去し、マイクロメーターで板厚減少量を測定することにより、評価部分の最大腐食深さを測定した。得られた結果を図7に示す。さらに、図7の結果から、各試験片での溶融亜鉛めっき層(Zn)及び鋼(Fe)の腐食速度をそれぞれ算出した。算出結果を表1に示す。以上の結果をもとに腐食速度比(Fe/Zn)を求め、上記基準値:30とし、判定を行った。判定結果を各々の腐食速度と併せて表1に示す。
【0015】
【表1】
【0016】
表1より、構造(1)、(2)の腐食速度比は30以上であり、溶融亜鉛めっき層が本来有する耐食性を発現することのできる構造であることがわかる。一方、構造(3)、(4)の腐食速度比は30未満であった。塩水が溜まりやすい構造のため、腐食速度比は低い値であり、溶融亜鉛めっき層が本来有する耐食性を発現することのできる構造ではないと判定できる。以上より、構造(1)又は(2)を選定し、この中から構造を決定することができる。
【0017】
<実施例2>
図2に示すスポット溶接接合間隔が異なる4種類の試験片を用いて、図5に示すSAE J2334腐食試験サイクル条件で腐食試験を行った。使用した金属は金属Aとして鋼、金属Bとして溶融亜鉛めっき層とし溶融亜鉛めっき鋼板について評価した。また、試験片は、実施例1と同様に、スポット溶接後、化成処理、電着塗装を施した。なお、化成処理、電着塗装の各々の条件は実施例1と同様である。
腐食試験後、実施例1と同様の方法にて評価部分の最大腐食深さを測定した。得られた結果を図8に示す。さらに、図8の結果から、溶融亜鉛めっき層(Zn)の腐食速度、鋼(Fe)の腐食速度をそれぞれ算出した。算出結果を表2に示す。以上の結果をもとに腐食速度比(Fe/Zn)を求め、上記基準値:30とし、判定を行った。判定結果を各々の腐食速度と併せて表2に示す。
【0018】
【表2】
【0019】
表2より、構造(5)、(6)、(7)の腐食速度比は30以上であり溶融亜鉛めっき層が本来有する耐食性を発現することのできる構造であることがわかる。一方、構造(8)の腐食速度比は30未満であった。この構造は、スポット溶接間隔が広く、亜鉛の腐食生成物が流されやすい構造であるために、溶融亜鉛めっき層が本来有する耐食性を発現することのできる構造ではないと判定できる。以上より、構造(5)、(6)、(7)を選定し、これらの中から構造を決定することができる。
【0020】
<実施例3>
図3に示す合わせ部のクリアランスが異なる4種類の試験片を用いて、図5に示すSAE J2334腐食試験サイクル条件で腐食試験を行なった。金属Aとして鋼、金属Bとして合金化溶融亜鉛めっき層とし、冷延鋼板と合金化溶融亜鉛めっき鋼板について評価した。また、試験片は、実施例1と同様に、スポット溶接後、化成処理、電着塗装を施した。なお、化成処理、電着塗装の各々の条件は実施例1と同様である。
腐食試験後、実施例1と同様の方法にて評価部分の最大腐食深さを測定した。得られた結果を図9に示す。さらに、図9の結果から、各試験片形状での鋼(Fe)及び合金化溶融めっき層(Zn)の腐食速度をそれぞれ算出した。算出結果を表3に示す。以上の結果をもとに腐食速度比(Fe/Zn)を求め、上記基準値:30とし、判定を行った。判定結果を各々の腐食速度と併せて表3に示す。
【0021】
【表3】
【0022】
表3より、全ての試験片の腐食速度比は30以上であり、合金化溶融亜鉛めっき層が本来有する耐食性を発現することのできる構造であることがわかる。以上より、構造(9)〜(12)を選定し、これらの中から構造を決定することができる。
【0023】
<実施例4>
図4に示す電着塗装膜厚が異なる4種類の試験片を用いて、図5に示すSAE J2334腐食試験サイクル条件で腐食試験を行なった。使用した金属は、金属Aとして鋼、金属Bとして溶融亜鉛めっき層とし、溶融亜鉛めっき鋼板について評価した。また、試験片は、実施例1と同様に、スポット溶接後、化成処理、電着塗装を施した。なお、化成処理、電着塗装の各々の条件は電着塗装膜厚を除いて実施例1と同様である。
腐食試験後、実施例1と同様の方法にて評価部分の最大腐食深さを測定した。得られた結果を図10に示す。さらに、図10の結果から、各試験片形状での鋼(Fe)及び溶融亜鉛めっき層(Zn)の腐食速度をそれぞれ算出した。算出結果を表4に示す。以上の結果をもとに腐食速度比(Fe/Zn)を求め、上記基準値:30とし、判定を行った。判定結果を各々の腐食速度と併せて表4に示す。
【0024】
【表4】
【0025】
表4より、構造(13)、(14)、(15)の腐食速度比は30以上であり亜鉛めっき鋼板が本来有する耐食性を発現することのできる構造であることがわかる。一方、構造(16)の腐食速度比は30未満であった。電着塗装膜厚が薄い(5μm)ため、塩水が浸入しやすく、亜鉛の腐食生成物が流されやすい構造であるために、溶融亜鉛めっき層が本来有する耐食性を発現することのできる構造ではないと判定できる。以上より、構造(13)〜(15)を選定し、これらの中から構造を決定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の構造体の構造決定方法は、実際に使用する前に、構造体の本来の耐久性を発現する構造かどうかを判定・決定することが可能となるため、自動車や建築物、家電製品などを中心に、構造体の本来の耐久性を発現する必要性のある構造体など、多様な用途に用いることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に用いられる構造体の一例を示す図である。
【図2】本発明に用いられる構造体の一例を示す図である。
【図3】本発明に用いられる構造体の一例を示す図である。
【図4】本発明に用いられる構造体の一例を示す図である。
【図5】SAE J2334腐食試験サイクルを示す図である。
【図6】実ドアを使用しての腐食試験におけるサイクル数と最大腐食深さとの関係および腐食速度比の関係式を示す図である。
【図7】サイクル数と最大腐食深さとの関係を示す図である。(実施例1)
【図8】サイクル数と最大腐食深さとの関係を示す図である。(実施例2)
【図9】サイクル数と最大腐食深さとの関係を示す図である。(実施例3)
【図10】サイクル数と最大腐食深さとの関係を示す図である。(実施例4)
【図11】試験期間(サイクル数)と金属Aの最大腐食深さ、および金属Bの腐食重量との関係を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属A、金属Bのうちの少なくとも一つを含む構造体の構造決定方法であって、2つ以上の異なる構造で、それぞれ、金属Aと金属Bの腐食試験を行い、次いで、前記腐食試験結果により得られた金属A及び金属Bの腐食速度比を用いて構造を決定することを特徴とする構造体の構造決定方法。
【請求項2】
前記構造体は合わせ部を有する構造体であり、前記腐食試験は、形状、クリアランス、接触面積のいずれか一つ以上が異なる構造で行うことを特徴とする請求項1に記載の構造体の構造決定方法。
【請求項3】
前記構造体はスポット溶接による合わせ部を有する構造体であり、前記腐食試験は、前記合わせ部のスポット溶接の接合間隔が異なる構造で行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の構造体の構造決定方法。
【請求項4】
前記構造体は合わせ部以外の平面開放部に塗膜を有する構造体であり、前記腐食試験は、前記塗膜の膜厚が異なる構造で行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに一項に記載の構造体の構造決定方法。
【請求項5】
前記構造体は金属Aの表面に金属Bをめっきしたものからなる構造体であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の構造体の構造決定方法。
【請求項6】
前記金属Aが鋼であり、前記金属Bが亜鉛または亜鉛含有合金であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の構造体の構造決定方法。
【請求項7】
前記腐食速度比が亜鉛の本来持つ耐食性を発現可能な所定の値になるように構造を決定することを特徴とする請求項6に記載の構造体の構造決定方法。
【請求項8】
前記所定の値が30以上であることを特徴とする請求項7に記載の構造体の構造決定方法。ただし、前記腐食速度比は、金属Aの腐食速度(mm/単位時間)/金属Bの腐食速度(mm/単位時間)とする。
【請求項9】
前記構造体が自動車を構成する構造体であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の構造体の構造決定方法。
【請求項1】
金属A、金属Bのうちの少なくとも一つを含む構造体の構造決定方法であって、2つ以上の異なる構造で、それぞれ、金属Aと金属Bの腐食試験を行い、次いで、前記腐食試験結果により得られた金属A及び金属Bの腐食速度比を用いて構造を決定することを特徴とする構造体の構造決定方法。
【請求項2】
前記構造体は合わせ部を有する構造体であり、前記腐食試験は、形状、クリアランス、接触面積のいずれか一つ以上が異なる構造で行うことを特徴とする請求項1に記載の構造体の構造決定方法。
【請求項3】
前記構造体はスポット溶接による合わせ部を有する構造体であり、前記腐食試験は、前記合わせ部のスポット溶接の接合間隔が異なる構造で行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の構造体の構造決定方法。
【請求項4】
前記構造体は合わせ部以外の平面開放部に塗膜を有する構造体であり、前記腐食試験は、前記塗膜の膜厚が異なる構造で行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに一項に記載の構造体の構造決定方法。
【請求項5】
前記構造体は金属Aの表面に金属Bをめっきしたものからなる構造体であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の構造体の構造決定方法。
【請求項6】
前記金属Aが鋼であり、前記金属Bが亜鉛または亜鉛含有合金であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の構造体の構造決定方法。
【請求項7】
前記腐食速度比が亜鉛の本来持つ耐食性を発現可能な所定の値になるように構造を決定することを特徴とする請求項6に記載の構造体の構造決定方法。
【請求項8】
前記所定の値が30以上であることを特徴とする請求項7に記載の構造体の構造決定方法。ただし、前記腐食速度比は、金属Aの腐食速度(mm/単位時間)/金属Bの腐食速度(mm/単位時間)とする。
【請求項9】
前記構造体が自動車を構成する構造体であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の構造体の構造決定方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図4】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図4】
【公開番号】特開2008−180694(P2008−180694A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−302333(P2007−302333)
【出願日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】
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