説明

構造体及びその作製方法

【課題】機能的な構造体を得るのに際して、多量体の向きやその並び方を制御して配向させる技術を提供する。
【解決手段】構造体2を、光により分子構造の変化又は分子配列の変化を生じる光応答性成分を含有する光応答性材料4の表面に少なくとも一端が光照射により固定され、1種又は
2種以上の会合性ユニット12が一定の方向性、一定の順序又は一定の組み合わせで会合した会合領域14を有する多量体10、を備えるように構築する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、会合によって得られる多量体を含む構造体を、多量体の向きや並び方を制御して構築する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
微小な物体、特に生体物質を光照射により固定化した例としては、DNAやタンパク質を光応答性のアゾ色素を含有するポリマー(アゾポリマー)の薄膜表面に配置後、光照射によりその配置パターンに応じてDNA及びタンパク質等をアゾポリマーの表面上に固定したものがある(特許文献1)。また、微小な物体に一定の方向性を付与して配列するには、LB膜や脂質膜を利用することが知られている。
【0003】
細胞骨格タンパク質の一種であるアクチンフィラメントは、その構成単位であるG−アクチンをATP、K、Mg2+などを含む溶液条件下におくと、自己会合により形成される。アクチンフィラメントは極性を有しており、筋肉細胞等においては、極性について一定の方向性を持って配列されるとともにその配列間にミオシンを介在させることで筋収縮が可能となっている。
【特許文献1】特開2003−329682号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、光固定化及びLB膜の利用はそれぞれ分子の固定と分子の配向とを実現しようとするものであって、分子を配向させ、その後得られた配列状態を固定できるものではない。さらに、これらの技術を組み合わせても、分子の配向と固定とを実現できるものでもない。また、アクチンフィラメントはアクチン分子(G−アクチン)を所定の溶液中で会合させることによって得られるものの、生体内機能を模倣させるには、アクチンフィラメントの向き(極性)を揃えて配列させねばならない。しかし、アクチンフィラメントを配列させることもまた向きを揃えて配列させることも実現されていない。
【0005】
ボトムアップ手法により機能的な構造体を構築するには、構造体を構成する多量体をその向き(極性)や並び方を制御して配向させ、さらにそうして得られた配列を機能が発揮できる程度に安定的に固定する必要がある。そこで、本発明では、機能的な構造体を得るのに際して、多量体の向きやその並び方を制御して配向させる技術を提供することを一つの目的とする。また、本発明は、配向されて得られた多量体の配列を機能発揮可能に固定する技術を提供することを他の一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、光により分子構造の変化又は分子配列の変化を生ずる光応答性材料に微小物体を光照射により固定する光固定化技術を既に開発している。光固定された生体物質が会合などによる自己集合又は自己組織化の基点となりうることは知られていなかった。本発明者らの検討により、光応答性成分を含有する材料表面に会合性ユニットを光照射により固定すると、このユニットを基点として次々に会合性ユニットを会合させることができることがわかった。さらに、例えば、多量体の一方向への多量化速度が他方向への多量化速度を上回る場合、すなわち、多量化反応速度に異方性がある場合には、固定した会合性ユニットからは会合方向が一つの方向に制御された多量体を容易に材料表面上に作製できることを見出した。そして、さらに、こうして得られた多量体は、その会合領域を前記材料表面上に一定の並び方で配向させることが可能であり、光照射により多量体の機能を維持しつつこの配列状態を固定できることを見出した。すなわち、本発明によれば以下の手段が提供される。
【0007】
本発明の一つの態様によれば、光により分子構造の変化又は分子配列の変化を生じる光応答性成分を含有する光応答性材料と、この光応答性材料の表面に少なくとも一端が光照射により固定され、1種又は2種以上の会合性ユニットが一定の方向性、一定の順序又は一定の組み合わせで会合した会合領域を有する多量体と、を備える構造体が提供される。
【0008】
この態様においては、前記会合性ユニットはタンパク質を含むことができる。また、前記会合領域は、前記会合性ユニットの自己集合又は自己組織化による会合領域とすることができる。なお、本発明において自己組織化とは、自発的な秩序化を伴う自己集合を意味するものとするが、自己集合と厳密に区別することを意図するものではない。前記多量体は、アクチンフィラメント、微小管及び中間径フィラメントから選択されるものとすることができる。
【0009】
また、2以上の前記多量体を備え、これらの多量体は、前記会合性ユニットが同一の方向性で会合した会合領域を有する多量体を主体とすることができる。
【0010】
この態様においては、前記多量体は、前記光応答性材料の表面に前記一端のみで固定されていてもよいし、前記多量体が前記光応答性材料表面に二次元的に配列されていてもよい。さらに、前記多量体の前記一端以外の少なくとも一部分が前記光応答性材料の表面に光照射により固定されていてもよい。
【0011】
また、本発明の他の態様によれば、光により分子構造の変化又は分子配列の変化を生じる光応答性成分を含有する光応答性材料と、この光応答性材料の表面に少なくとも一端が光照射により固定されており、極性が統一されかつ整列された複数のアクチンフィラメントと、を備える駆動デバイスが提供される。この態様においては、さらに、ミオシンフィラメントを前記アクチンフィラメントと相互作用可能に保持するように構成することもできる。
【0012】
さらに、本発明の他の態様によれば、多量体を含む構造体の作製方法であって、光により分子構造の変化又は分子配列の変化を生じる光応答性成分を含有する光応答性材料の表面に前記多量体の構成成分である1種又は2種以上の会合性ユニットのうち少なくとも1個を基点ユニットとして光照射により固定する光固定工程と、固定した前記基点ユニットを基点として1種又は2種以上の前記会合性ユニットを会合させて会合領域を有する多量体を合成する会合工程と、を備える、作製方法が提供される。
【0013】
この態様においては、前記会合性ユニットが会合して多量化する反応速度は前記多量体において異方性を有しており、前記会合工程は、選択的に多量化の反応速度の速い会合様式により前記会合性ユニットを会合させて会合領域を有する多量体を合成する工程とすることができる。また、前記会合工程は、前記会合性ユニットの自己集合又は自己組織化を利用する工程とすることもできる。
【0014】
この態様においては、前記光固定工程は、前記多量体の会合核となる前記会合性ユニットの多量体を前記基点ユニットとして前記光応答性材料に固定する工程としてもよいし、前記光固定工程は、会合していない前記会合性ユニットの単量体を前記基点ユニットとして前記光応答性材料に固定する工程とし、前記会合工程は、固定された前記会合性ユニットに追加の会合性ユニットを会合させ多量化して会合核を形成することを含むようにすることもできる。
【0015】
この態様においては、前記会合性ユニットは、タンパク質を含むことができる。また、前記多量体は、アクチンフィラメント、チューブリン及び中間径フィラメントから選択されることができる。また、前記多量体はアクチンフィラメントであり、前記基点ユニットは、アクチン分子のArp2/3複合体とすることができ、前記多量体はチューブリンであり、前記基点ユニットは、γ−チューブリン複合体とすることができる。
【0016】
この態様においては、作製した前記多量体を前記光応答性材料の表面上に二次元的に配向する配向工程を備えることもできる。さらに、前記光応答性材料の表面上に配列した前記多量体の少なくとも一部を前記光応答性材料の表面に光照射により固定する光固定工程を備えることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の構造体は、光により分子構造の変化又は分子配列の変化を生じる光応答性材料を含有する光応答性材料と、この光応答性材料の表面に少なくとも一端が固定され、1種又は2種以上の会合性ユニットが一定の方向性、一定の順序又は一定の組み合わせで会合した会合領域を有する多量体を備えることを特徴としている。
【0018】
本発明の構造体によれば、複数の会合性ユニットが一定の方向性、一定の順序又は一定の組み合わせで会合した会合領域を有する多量体を備えるため、多量体の機能を有効に発揮させることができる。また、多量体をその少なくとも一端を材料表面に固定した状態で備えているため、多量体は安定して材料表面に保持される。また、前記一端を基部として、材料表面に固定されていない多量体の自由端側にせん断応力などを付与することで、多量体を容易に配向させることができる。さらに、多量体を光応答性材料の表面に二次元的に配向させた場合には、その多量体の配列を光照射により材料表面に固定することもできるようになっている。また、光応答性材料表面に固定されていない多量体の自由端側をそのまま用いることもできるほか、自由端側に対して架橋等の加工を施すこともできる。
【0019】
本発明の構造体の作製方法は、光により分子構造の変化又は分子配列の変化を生じる光応答性成分を含有する光応答性材料表面に前記多量体の構成成分である1種又は2種以上の会合性ユニットのうち少なくとも1個の会合性ユニットを基点ユニットとして光照射により固定する工程と、固定した前記基点ユニットを基点として1種又は2種以上の前記会合性ユニットを会合させて会合領域を有する多量体を作製する工程と、を備えることを特徴としている。
【0020】
本発明の構造体の作製方法によれば、光応答性成分を含有する光応答性材料表面に少なくとも1個の会合性ユニットを基点ユニットとして光照射により固定することで、この基点ユニットを基点として他の会合性ユニットを会合して会合領域を伸長させて会合性ユニットの多量体を作製することができる。基点となる会合性ユニットは光照射により固定されているため、光照射領域の制御によりその固定箇所は任意に設定できる。このため、材料表面の所望の位置に多量体をその一端が固定された状態で作製することができる。さらに、得られた多量体を、前記一端を基部として容易に材料表面に二次元的に配向させることができるとともに、材料表面上に配列させた多量体の少なくとも一部を光照射により固定することもできる。
【0021】
以下、本発明の実施形態として、構造体及びその作製方法について適宜図面を参照しながら説明する。図1には、本発明の構造体の各種形態を例示し、図2には、会合性ユニットが一定の方向性で会合されて得られる極性を有する多量体の例を示し、図3には、本発明の構造体を用いた駆動デバイスの例を示し、図4には、本発明の構造体の作製工程の一例と各工程において得られる構造体の例を示す。
【0022】
(構造体)
本発明の構造体2は、光応答性成分を含有する光応答性材料4と、この材料4の表面に少なくとも一端が固定され複数個の会合性ユニット12が会合した会合領域14を有する多量体10とを備えている。
【0023】
(光応答性成分を含有する光応答性材料)
光応答性材料4は、光により分子構造の変化又は分子配列の変化を生じる光応答性成分を含有している。光により分子構造の変化が生じる現象は、フォトクロミズムと一般にいわれている。本発明で用いる光応答性成分としては、一般にフォトクロミック化合物といわれる化合物を用いることができるが、なかでも、光異性化を生じる化合物を用いることが好ましい。なお、光異性化等の分子構造変化を伴って又は光異性化等の分子構造変化を伴わないで光誘起配向、光会合等の分子配列の変化(特に異方的な変化)を生じる化合物も、本発明の構造体を構築できるものである限り本発明の光応答性成分として用いることができる。また、光応答性成分を含有する材料4は、光によるこうした分子構造の変化等により結果として形状変形(以下、光変形ともいう。)を生じる材料であることが好ましい。材料4が光変形材料であるときには、光照射による分子構造の変化等のみならず、表面形状を変化させることができ、表面形状の異方性により多量体を配向することもできる。
【0024】
光応答性成分としては、例えば、公知の光異性化成分を用いることができる。光異性化成分としては、例えばトランス−シス光異性化を生じる成分、特に代表的にはアゾ基(−N=N−)を有する色素構造、なかでも、アゾベンゼンやその誘導体の構造を持つ成分が挙げられる。
【0025】
光応答性材料4は、有機材料、無機材料、有機−無機複合材料等材料を問わないが、当該材料において光変形を生じさせる観点からは、可塑性を有する材料であることが好ましく、より好ましくは可塑性を有する高分子材料又は高分子材料を含む複合材料であることが好ましい。光応答性材料4は、光応答性材料4の材料を構成する高分子材料の一部(主鎖、側鎖あるいは修飾基)として光応答性成分を含有することができる。この場合、高分子材料としては、特に限定しないで、ビニル系樹脂やポリウレタン等各種の高分子材料を用いることができるが、構成単位中にウレタン基,ウレア基,又はアミド基を含んだものが、更には高分子の主鎖中にフェニレン基のような環構造を備えたものが、耐熱性の点では好ましい。
【0026】
光反応性成分を含む高分子材料として、実施例で述べるものの他、次の式(1)〜(6)に示すものが好ましく例示される。
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【0027】
その他、本発明において使用可能な光応答性材料4としては、特開2003−329682号公報、特開2004−93996号公報及び特開2004−251801号公報に記載の担体や光固定化材料を用いることができる。また、本明細書には、特開2003−329682号公報、特開2004−93996号公報及び特開2004−251801号公報に記載されるすべての事項が引用により取り込まれるものとする。
【0028】
光応答性材料4は、光応答性成分をそのマトリックスに添加物(ドーパント)として含有していてもよい。こうしたマトリックス材料としては、上記した各種高分子材料が好ましく用いられる。なお、光応答性材料としては、この他、イオウ,セレン及びテルルのいずれかと、ゲルマニウム,ヒ素及びアンチモンのいずれかとが結合した構造を含みカルコゲナイトガラスと総称されるもの等の無機材料も使用できる。
【0029】
光応答性材料4の三次元形態は特に限定しない。フィルム状体、シート状体の他、球形、不定形、針状、棒状、薄片状等の各種の粒子形態を取ることもできる。さらに、光応答性材料4は、適当な支持体に対して固定されていてもよい。
【0030】
光応答性材料4の表面には、後述する多量体10以外の成分を備えることができる。例えば、多量体10としてのアクチンフィラメントと相互作用するI型ミオシンを備えることができる。作製しようとするデバイスの形態に応じ、多量体10と相互作用するこうしたユニットは、多量体10が備えられる光応答性材料4とは別個の光応答性材料4の表面に備えるようにしてもよい。また、例えば、ミトコンドリア、小胞体などのオルガネラが光応答性材料4に多量体10とともに又は多量体10とは別に固定されていてもよいし、同様に筋線維細胞、軟骨細胞等の動物細胞、植物細胞、微生物、ウイルス等が固定されていてもよい。
【0031】
(多量体)
本発明の構造体2は、光応答性材料4の表面に多量体10を備えている。多量体10は、1個あるいは複数個備えることができる。また、1種類の多量体10を備えることもできるし、2種類以上の多量体を同じ表面上に備えることもできる。本発明における多量体10は、複数個の会合性ユニット12の会合領域14を主体とする多量体である。本発明でいう会合は、ファンデルワールス力、クローン力、水素結合、配位結合、疎水結合などによる結合であって非共有結合性の結合が挙げられる。したがって、本発明でいう多量体10は、共有結合で連結された一般的な高分子材料は含まれない。なお、多量体10における共有結合を排除するものではなく、多量体10が会合性ユニットの会合を主体として構成されている限りS−S結合などの共有結合が会合性ユニット12内あるいは会合性ユニット12間に存在していてもよい。さらに、多量体10同士が共有結合で結合されていてもよい。また、多量体10は、同一種類の会合性ユニット12から構成されるホモ多量体であってもよいし、2種以上の会合性ユニット12から構成されるヘテロ多量体であってもよい。
【0032】
多量体10は、一定の方向、一定の組み合わせ又は一定の順序で会合性ユニット12が会合した会合領域14を有している。こうした多量体10としては、生体物質の自己集合又は自己組織化を利用した多量体が挙げられる。なお、「一定の方向性で会合性ユニット12が会合する」とは、会合性ユニット12が会合する自体が方向性を有しており、会合性ユニット12が同じ向きで会合することを意味している。こうして得られる会合領域14の両端は通常異なる構造を有しており、極性を有しているともいう。このような多量体10としては、アクチンフィラメントや微小管が挙げられる。
【0033】
多量体10の形態は特に問わない。会合領域14は、会合性ユニット12の形態及び会合形態によって様々な形態を採ることができる。例えば、会合領域14は会合性ユニット12が連なった線状構造を有することができる。線状構造は、直鎖状のほか、分岐状であってもよく、架橋部分を備えることもできる。また、多量体10は、複数の会合領域14が組み合わされた束状構造、二次元あるいは三次元網状構造等を採ることもできる。さらに、多量体10が、生体物質の自己集合又は自己組織化に基づく多量体である場合には、自己集合又は自己組織化により得られる生体機能を実現可能な形態を備えることができる。
【0034】
また、図2に示すように、多量体10としては、会合性ユニット12が会合して多量化する反応速度が、多量体10において異方性を有していることが好ましい。多量化の反応速度が異方性を有しているとは、多量体10の有する2以上の多量化可能な端部における多量化の反応速度の異なることをいう。多量化反応速度に異方性がある場合、会合工程においては優先的に多量化反応速度の早い会合形式、すなわち、多量化速度の速い端部に会合性ユニット12が会合し、さらに形成された新たな多量化反応速度の速い端部に会合性ユニット12が会合するという会合様式によって、当該端部側が優先的に伸長されることになる。例えば、アクチンフィラメントや微小管などの多量体10では、その両端において多量化速度、すなわち、伸長スピードが異なっており、伸長スピードが速い端部をプラス端といい、遅い端部をマイナス端という。本発明においては、会合の基点となる会合性ユニット12が光応答性材料4の表面に固定されているため、プラス端が材料4の表面上に露出されている会合性ユニット12に対して優先的に会合性ユニット12が会合し、このプラス端が伸長する形態で会合工程が実施されることになる。この結果、基点がマイナス端、自由端がプラス端となって極性を有する多量体10を選択的に作製することができる。多量化反応速度の異方性を利用することで、会合性ユニット12が一定の方向性で会合した会合領域14を有し、結果として会合領域14における会合性ユニット12の方向性が同一で会合領域14の極性が同一である多量体10を主体的(選択的)に作製できる。
【0035】
こうした多量体10としては、1種又は2種以上のユニットが会合して機能を発揮する多量体が好ましい。なかでも、タンパク質サブユニットが会合した多量体10が好ましい。このような多量体10としては、例えば、代謝関連タンパク質である酵素、調節因子、転写因子、レセプター等が挙げられる。こうしたタンパク質としては、バクテリオロドプシン、シトクローム、ATPaseが挙げられる。また、細胞骨格タンパク質である微小管、アクチンフィラメント及び中間径フィラメントが挙げられる。これらの細胞骨格タンパク質は、駆動デバイスを構築するのに有用である。より好ましくは微小管やアクチンフィラメントであり、さらに好ましくはアクチンフィラメントである。なお、中間径フィラメントとしては、核ラミン、ビメンチン様タンパク質、ケラチン、ニューロフィラメントが包含される。また、これら各種の細胞骨格タンパク質に結合するモータータンパク質など細胞骨格関連タンパク質であるミオシン、キネシン、ダイニン、トロポミオシン、α−アクチニン、フィラミン、スペクトリン、フィンブリン、アクチニン等が挙げられる。なお、多量体10は、細胞骨格タンパク質と細胞骨格関連タンパク質とが会合したものであってもよい。さらにまた、多量体10としては、細胞外マトリックスタンパク質であるコラーゲン、エラスチン、フィブロネクチン等が挙げられる。
【0036】
(会合性ユニット)
会合性ユニット12は、合成しようとする多量体10の種類や構造に応じて選択される。なお、多量体10が、鎖状に伸長する会合領域14を有する場合には、会合性ユニット12は、少なくとも2つの会合部位を有している必要がある。なお、遊離した状態で二つの会合部位を備えている必要はなく、一つの会合部位が多量体10に会合することで、コンフォメーションの変化によりもう一つの会合部位が形成されるものであってもよい。
【0037】
個々の会合性ユニット12の形態は特に問わない。微小管やアクチンフィラメントを構成するサブユニットのように球状体であってもよいし、中間径フィラメントやコラーゲンを構成するサブユニットのように繊維状体であってもよい。また、会合性ユニット12の大きさも問うものではないが、好ましくは50μm以下であり、さらに好ましくは10μm以下である。より好ましくは50nm以下であり、さらに好ましくは10nm以下である。
【0038】
会合性ユニット12としては、生体機能を模倣又は代替する構造体2を作製することを考慮すれば、タンパク質を含むことが好ましい。タンパク質をサブユニットとする機能的構造体としては、既に述べたような、代謝関連タンパク質、細胞骨格タンパク質、細胞骨格関連タンパク質、細胞外マトリックスタンパク質などが挙げられる。こうした多量体10を合成する場合、多量体10の種類や構造に応じて会合性ユニット12が決定される。多量体10を微小管とする場合、会合性ユニット12は、α−チューブリン、β−チューブリン及びγ−チューブリンから選択される。また、多量体10をアクチンフィラメントとする場合には、アクチン−G(アクチン分子)が選択され、多量体10を中間径フィラメントとする場合には、その種類に応じ、ケラチン、ビメンチン、デスミン、グリア繊維酸性タンパク、ペリフェリン、ニューロフィラメントタンパク、ラミン類が挙げられる。また、得ようとする多量体10の構造や発現させようとする機能に必要な追加の会合性ユニット12が決定される。例えば、細胞骨格タンパク質を多量体10として合成する場合には、主たる構造を構築する細胞骨格タンパク質の会合性ユニットのほかに、得ようとする構造や機能に対応した細胞骨格タンパク質結合タンパク質などの細胞骨格関連タンパク質が追加の会合性ユニット12として必要になる。
【0039】
なお、会合性ユニット12は、生体から採取されたものに限定されないで、生体から採取され人工的な改変が施されたものであっても、人工的に合成されたものであってもよい。人工的な改変とは、例えば、蛍光色素などの色素を含む標識の結合などが挙げられる。
【0040】
(構造体における多量体の存在形態)
構造体2においては、このような多量体10は、少なくともその一部が光応答性材料4の表面に固定されて存在している。多量体10の少なくとも一部が固定されていることにより、多量体10を光応答性材料4の表面に安定して保持できる。多量体10の光応答性材料4の表面への固定は、光照射により光応答性材料4の表面に固定されていることが好ましい。また、多量体10は会合性ユニット12を介して光応答性材料4の表面に固定されていることが好ましい。光照射による固定(光固定)によれば、会合性ユニット12を介して固定しても会合性ユニット12の生理活性等を低下させることが少ないからであり、また、任意の箇所で光固定できるからである。
【0041】
多量体10の好ましい存在形態の一つは、多量体10の少なくとも一端が固定されている形態である。多量体10の一端が固定されていることにより、引き上げ法や移流集積法による多量体10の配向制御が容易になるからである。特に、多量体10が線状、束状等の異方性の大きい会合領域14を有する場合には少なくともその一端が固定されていることが好ましい。さらに好ましくは、図1(a)に示すように、多量体10の一端のみが固定されていることが好ましい。この形態によれば、多量体10の他端側は、自由端となっており、配向制御できる領域が多いため、配向制御の自由度が大きいものとなっている。さらに、こうした自由端をそのまま利用することもできる。
【0042】
多量体10の好ましい存在形態の他の一つは、図1(b)に示すように、多量体10が光応答性材料4の表面に二次元的に配向され配列された形態である。この形態は、例えば、多量体10の一端が光応答性材料4の表面に固定された状態において引き上げ法等により形成される。こうした存在形態によれば、多量体10を用いたデバイスなどの設計が容易となる。なお、この形態においては、多量体10は前記一端においてのみ固定されている。図1(b)においては、二次元的配列は直線状になっているが、種々の配向制御を組み合わせることにより他の二次元的配列も可能である。
【0043】
多量体10の好ましい存在形態の他の一つは、図1(c)に示すように、多量体10の固定された一端以外の部分の少なくとも一部分が光応答性材料4の表面に固定された形態である。この形態においては、多量体10は光応答性材料4の表面に二次元的に配列された状態を有していることが好ましい。多量体10の少なくとも2箇所以上が光応答性材料4の表面に固定されていることにより、多量体10の配列を安定して維持することができ、所望の機能も安定して発現させることができる。なお、配列形態は特に限定しないが、多量体10の配向と光固定とを繰り返すことにより複雑なパターンで多量体10が固定される場合もある。
【0044】
以上説明した構造体2によれば、一定の方向性、一定の順序又は一定の組み合わせで会合性ユニット12が会合した会合領域を有する多量体10を備えるとともに、少なくとも一部において光応答性材料4の表面に固定されているため、多量体10の機能を効果的に発揮させることができ、多量体10によって発揮される機能を利用するデバイスを容易に構築できる。また、会合領域14がタンパク質などの自己集合又は自己組織化により形成される場合には、生体機能を模倣又は代替するデバイスを容易に構築することができる。さらに、2種類以上の構造体2を組み合わせることで生体機能模倣デバイスを構築してもよい。
【0045】
構造体2は、特に、バイオリアクター、バイオ燃料電池などの生体機能模倣デバイス、バイオセンサーなどに利用できる。また、細胞骨格タンパク質を多量体10として備える場合には、人工筋肉、人工繊毛、人工鞭毛のような生体模倣型の駆動デバイスに利用できる。例えば、多量体10として、極性が統一されかつ整列された1又は2以上のアクチンフィラメントを備える駆動デバイスが提供される。
【0046】
本発明の構造体2によれば、生体におけるアクチンフィラメントとミオシン、微小管、中間径フィラメントなどの細胞骨格タンパク質による筋肉、鞭毛、繊毛、細胞形態、細胞移動等における各種の動きを模倣するデバイスを構築できる。アクチンフィラメントを用いたデバイスの基本的構造を図3に例示する。図3(a)は、I型ミオシンとアクチンフィラメントを利用するものであり、アクチンフィラメント上をI型ミオシンを吸着ないし固定した要素を移動させる駆動デバイスである。この場合、I型ミオシン要素は、固定されたアクチンフィラメント上をプラス端方向に向かって移動する。図3(b)は、I型ミオシンとアクチンフィラメントを利用するものであって、アクチンフィラメントを備える要素を移動させる駆動デバイスである。この場合、アクチンフィラメント要素はマイナス端方向に移動する。また、図3(c)は、I型ミオシンとアクチンフィラメントを利用するものであり、ミオシンあるいはミオシンを備える要素を介してアクチンフィラメントを固定等した要素を相対移動させる駆動デバイスである。この場合、アクチンフィラメントを備える要素はスライド移動可能に構成される。図3(d)は、II型ミオシンフィラメントとアクチンフィラメントを利用するものであり、アクチンフィラメントを固定等した要素を収縮駆動させる駆動デバイスである。この場合、アクチンフィラメントを備える要素はスライド移動可能に構成される。
【0047】
なお、駆動デバイスには、アクチンフィラメントと相互作用可能にI型ミオシンを備えることもできるし、II型ミオシンフィラメントを備えることもできる。さらに、駆動デバイスを構成する光応答性材料4には、ミオシン以外にもアクチンフィラメント結合タンパク質である、トロポミオシン、フィンブリン、α−アクチニン、フィラミン、ゲルゾリン、スペクトリンなどを備えることもできる。
【0048】
(構造体の作製方法)
次に、本発明の構造体2を作製するのに好適な方法について、適宜図4を参照しながら説明する。本作製方法では、図4の最上段に示すように、まず、光応答性材料4と会合性ユニット12とを準備する。これらについては既に説明したとおりである。
【0049】
(光照射による固定工程)(ステップS10)
本作製方法は、図4のステップS10に示すように、多量体10の構成成分である1種又は2種以上の会合性ユニット12から選択される少なくとも1個の会合性ユニット12を基点ユニット12aとして光応答性材料4の表面に光照射により固定する工程を備えている。光照射による固定(以下、単に光固定ともいう。)により、会合性ユニット12は、会合能力を保持した状態で材料4の表面に固定される。この結果、材料4の表面に光固定された会合性ユニット12は、会合開始の基点となることができる。
【0050】
ここに、光固定とは、光応答性材料4の表面に配した微小な物体に光照射して光応答性材料4の表面において光異性化ないしは光変形を生じさせて固定することをいう。光固定化については、特開2003−329682号公報、特開2004−93996号公報及び特開2004−251801号公報において本出願人が開示しており、これらの方法を本発明における光固定化についても適用することができる。
【0051】
光固定のための光照射の方法は特に限定しない。各種の伝搬光、近接場光又はエバネッセント光などの任意の光が会合性ユニット12の存在する光応答性材料4の表面又はその近傍に到達するように照射すればよい。また、照射光の波長やエネルギーは、光応答性材料4において光異性化又は光変形を生じさせるであればよく、例えば、波長は好ましくは300nm以上800nm以下程度、より好ましくは400nm以上700nm以下程度、エネルギーは、好ましくは数μW/cm以上数十W/cm以下程度、より好ましくは数mW/cm以上数百mW/cm以下程度で用いる。照射光源としては、レーザー、LED,ハロゲンランプ等、いずれも用いることができる。
【0052】
また、光固定は、液状媒体の不存在下、材料4の表面に会合性ユニット12が付着した状態で行うことができるが、会合性ユニット12を含有する液状媒体が存在している状態で行うこともできる。会合性ユニット12を液状媒体中で光固定するには、会合性ユニット12と材料4の表面の親和性を高めておく必要がある。さらに、光照射はマスクを用いたり描画技術など公知の手法を用いたりして光応答性材料4の表面の一部の領域に対して選択的に行うこともできる。なお、光固定のための光照射については、特開2003−329682号公報、特開2004−93996号公報及び特開2004−251801号公報に既に記載される照射光や光照射方法を採用することができる。
【0053】
光固定では、エネルギーの低い可視光の照射によっても固定が可能であるので生体分子などへの障害を抑制又は回避した固定が可能である。このため、配向制御される会合性ユニット12が生体分子などの機能的分子の場合には、良好な活性を有する生体分子を機能的に組織化することができるようになる。
【0054】
基点ユニット12aを材料4の表面に光固定するには、まず、材料4の表面に基点ユニット12aとなる会合性ユニット12を供給する。会合性ユニット12を光応答性材料4の表面に供給する方法は特に限定しないが、液状の媒体を介して適用することが好ましい。液状の媒体は、光応答性材料4の表面と会合性ユニット12との相互作用を高めるようなものを選択することができる。例えば、液状媒体のpH、電解質濃度、極性などを調整することにより相互作用を高めることができる。液状の媒体としては、水、水と相溶性のある有機溶媒である水性溶媒、非水性溶媒を単独であるいは組み合わせるなどして、光応答性材料4及び会合性ユニット12の種類に応じて適切なものを選択することができる。なお、会合性ユニット12を含む液体を、材料4の表面に供給後は、そのまま光照射を行うこともできるし、必要に応じ液状媒体を留去してもよい。
【0055】
なお、後段の会合工程において、少なくとも1個の会合性ユニット12が基点ユニット12aとして光固定されていれば会合性ユニット12の会合を開始させることができるが、多くの場合、ある程度の個数の会合性ユニット12が会合した会合核を形成後に、会合性ユニット12の会合反応が促進される。したがって、例えば、一個の会合性ユニット12を基点ユニット12aとして光応答性材料4の表面に光固定した場合、後述する会合工程を実施することで、基点ユニット12aに他の会合性ユニット12を会合させて所定の会合核を形成することができる。なお、速やかに会合性ユニット12の会合を開始するには、予め会合性ユニット12を複数個会合して形成した会合核を基点ユニット12aとして、材料4の表面に光固定してもよい。
【0056】
例えば、合成しようとする多量体10がアクチンフィラメントであるときには、基点ユニット12aは、アクチン分子とすることもできるし、会合核であるアクチン分子のArp2/3複合体(J. Biol. Chem. 274 (1999), pp32531-32534に基づいて採取、精製することができる。)とすることもできる。また、チューブリンを合成するときには、基点ユニット12aを、γ−チューブリンとすることもできるし、会合核であるγ−チューブリン複合体(Nature, 378(1995), pp578-583に基づいて採取、精製することができる。)とすることもできる。
【0057】
基点ユニット12aの光固定後は、光応答性材料4の表面の洗浄や乾燥を必要に応じて行うことができる。図4のステップS10の右側には、光固定工程実施後の光応答性材料4の状態を例示する。
【0058】
(会合工程)
次に、図4のステップS20に示すように、光固定した基点ユニット12aを会合の基点として、1種又は2種以上の会合性ユニット12を会合させて多量体を合成する会合工程を実施する。会合性ユニット12の会合を行うには、生体物質の自己集合や自己組織化を利用した会合系を形成することが好ましい。会合系には、会合性ユニット12のほか、使用する会合性ユニット12の種類に応じた成分が必要である。例えば、アクチンフィラメントを合成する場合には、アクチン分子のほか、KとMg2+とATPが必要である。また、これら各成分の濃度も必要に応じて設定される。こうした会合系は、得ようとする多量体10に応じて商業的に入手することもできるし、また当業者であれば適宜設定することができる。なお、会合系に加えられる会合性ユニット12は、多量体10を構成する単量体であってもよいし、例えば、単量体ユニットを多量化した多量体を会合性ユニット12として加えてもよい。例えば、微小管は、α−チューブリンとβ−チューブリンのヘテロ二量体が会合単位となっているので、これらを単量体で会合系に加えてもよいし、ヘテロ二量体として会合系に加えてもよい。
【0059】
会合の基点となる基点ユニット12aが光固定された光応答性材料4に対して適切な会合系を供給することで、会合が開始される。既に述べたように、材料4の表面上に会合核を備えていない場合には、まず会合核が形成され、会合核を材料4の表面上に備えている場合には、会合核を基点として会合性ユニット12の速やかな会合による多量体10の会合領域の伸長が開始される。
【0060】
多量体10において多量化の反応速度に異方性がある場合、基点ユニット12aの光応答性材料4への固定された向きによって、得られる多量体10が異なる。すなわち、基点ユニット12aが、多量化反応速度が速い端部を表面に露出して光応答性材料4の表面に固定されている場合には、この端部に会合性ユニット12が会合し同様にして順次会合性ユニット12が会合して、基点ユニット12aから一つの方向性でのみ会合した極性を有する多量体10が得られる。一方、基点ユニット12aが多量化反応速度の遅い端部が露出されるように材料4の表面に光固定されたときには、この基点ユニット12aへの会合性ユニット12の会合及び多量化は生じにくく、結果として多量体10が合成されないかあるいは形成されても前者の多量体10とは異なる方向性の短い多量体10しか合成されない。
【0061】
図4のステップS20の右側には、会合工程の実施によって得られる構築物の一例を示す。会合工程によって得られる構築物は、本発明の構造体2の第2の形態でもある。この例においては、基点ユニット12aのみで多量体10が光応答性材料4の表面に固定されている。したがって、例えば、液状媒体中においては、多量体10の自由端側は揺動可能な状態となっている。
【0062】
(配向工程)
図4のステップS30に示すように、本発明の多量体の作製方法は、作製した多量体10を光応答性材料4の表面に二次元的に配向させる工程を備えることができる。光応答性材料4の表面に多量体10を合成後、必要に応じて、この多量体10を光応答性材料4の表面に所定の並び方で配向させてもよい。配向は、例えば、引き上げ法や移流集積法など、界面張力やせん断力を利用することができる。例えば、引き上げ法を用いる場合、会合系の液体中で基板状の光応答性材料4を垂直に支持した状態で会合工程を実施し、その後、光応答性材料4をゆっくりと会合系の液体から引き上げることにより、引き上げ方向に沿って会合領域の自由端を垂直下方を指向させた直線状に全ての多量体10を配向させることができる。
【0063】
このような配向工程を実施することで、多量体10の会合領域14を光応答性材料4の表面に所望の態様で配列させた状態を得ることができる。この配向工程によって得られる構築物は、本発明の構造体2の第2の形態でもある。この構築物を図4のステップS30の右側に例示する。この例においては、光応答性材料4の表面に全ての多量体10が基点ユニット12aを基部として同じ方向性(極性)で直線状に配列されている。なお、この段階の多量体10にあっては、依然として基点ユニット12aのみが材料4の表面に固定されているだけである。
【0064】
(光固定工程)
図4のステップS40に示すように、本発明の構造体の作製方法は、光応答性材料4の表面に配列した多量体10の少なくとも一部を光応答性材料4の表面に光照射により固定する工程を備えることができる。この光固定工程によれば、基点ユニット12aだけでなく、光応答性材料4の表面に配列された多量体10の少なくとも一部を光応答性材料4の表面に光固定して、配向工程で得た配列状態を安定して保持させることができる。また、光固定によれば、会合性ユニット12及び多量体10の機能を損なうことなく光応答性材料4の表面に固定できるとともに、固定された状態においても多量体10の機能を発揮させることができる。したがって、本発明の作製方法によれば、安定性と有効性とが確保されて、駆動デバイスなど各種のデバイスに有用な構造体2を提供することができる。なお、多量体10の光照射は、基点ユニット12aの光固定と同様にして行うことができる。光照射領域は適宜設定できるので、会合領域14の全体を光固定する場合には、会合領域14の全体を光照射すればよいし、会合領域14を部分的に光固定する場合には、必要な箇所にのみ光照射すればよい。この光固定工程によって得られる構築物は、本発明の構造体2の第3の形態でもある。この構築物を図4のステップS40の右側に例示する。この例においては、光応答性材料4の表面に全ての多量体10が基点ユニット12aを基部として同じ方向性(極性)で直線状に配列されているとともに、多量体10の少なくとも一部が材料4の表面に光固定されている。
【0065】
(洗浄工程)
会合工程、配向工程及び光固定工程の各工程実施後には、必要に応じ洗浄及び/又は乾燥を実施することができる。また、得られた構造体2は、そのままあるいはさらなる加工や修飾を施すことにより各種用途のデバイスとして用いることができるようになる。
【0066】
なお、基点ユニットの光固定工程、会合工程及び光固定工程は、それぞれ繰り返し行うこともできるし、基点ユニットの光固定−会合−多量体の光固定の一連の工程を繰り返し行うこともできる。こうした同一工程あるいは2種以上の工程を繰り返し行うことで、一つの光応答性材料4の表面に異なる種類の多量体10を合成したり、また、一旦合成した多量体10に別の会合性ユニット12や多量体10を付加することができる。
【0067】
以上説明したように、本発明の構造体の作製方法によれば、会合性ユニット12が会合して得られる会合領域14を有する多量体10を、光応答性材料4の任意の領域に合成することができる。会合の基点ユニット12aが光応答性材料4の表面に固定されているため、会合速度の異方性を利用すれば、同一方向を指向する多量体10を選択的に合成することができる。さらに、多量体10を光応答性材料4の表面に容易に二次元的に配向させることができるため、所望の二次元的配列を多量体10に付与することができる。さらにまた、多量体10の二次元的配列を光応答性材料4の表面に光固定することで、多量体10に安定してその機能を発揮させることができる。
【実施例1】
【0068】
以下、本発明を、具体例を挙げて説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0069】
(試料の調製)
光応答性材料として、以下の式で表される、アゾ色素を有するアクリル系アゾポリマー(重量平均分子量41300、数平均分子量22800)を用いた。本ポリマーをピリジンに所定量溶解し、スピンコーターにてガラス基板上に所定回転数でコーティングを行いフィルム化した。ガラス基板としては、剥離防止用MASコートスライドガラス(松浪ガラス製:表面が高密度アミノ基で覆われている)を用いた。アゾポリマーをスピンコートしたガラス基板は、真空下、室温で一晩、130℃で1時間乾燥して、以下の試験に供した。なお、膜厚は約40nmであった。
【化7】

【0070】
(アクチン分子のアゾポリマーフィルムへの光固定)
Rabbit Skeletal Muscleから精製したアクチンタンパク質(Cytoskeleton社からの購入品、カタログ番号AKL9、ロット番号032)を0.001mg/mlから1mg/mlの濃度になるように水で希釈した溶液を準備した。これら希釈した各アクチン溶液を1μlずつ図5で示した配置で上記したアゾポリマーフィルム上に滴下した(なお、図5においてはスポッティング位置を○で示す。)。デシケーターの中にアクチン溶液を滴下したフィルムを置いて真空乾燥して、引き続きスライドガラスチャンバーにいれ、青色LEDを基板上に配列させた光源を用いて約20mW/cmのパワーで光照射を1時間行うことによって光固定を実施した。その後、0.01%Tween20(v/v)を含んだPBS溶液にサンプルを浸し攪拌して10分間洗浄後、水ですすいでNガスを吹き付けて乾燥した。
【0071】
(アクチンのアゾポリマー上での会合)
(1)Cy5標識アクチンの作製
1mg/mlのアクチン溶液1mlをFluoroLink(商標)Cy5 monofunctionaldye(Amersham Pharmacia Biotech社)のバイアル瓶に加えた。室温30分で反応させたあと、透析膜にサンプルを充填して、PBS中4℃で一晩透析を行った。
【0072】
(2)会合と配向
テフロン(登録商標)で作られた反応槽に10×Polymerazation Buffer(Cytoskeleton社、BSA02)を最終濃度で原液の1/10、Phalloidin(メタノール溶液)を最終濃度10μg/ml、Tween20を最終濃度1mMとなる溶液を準備した。この会合用反応液にアクチン固定済みアゾポリマーフィルムを浸漬した。このとき、フィルムは垂直方向に設置した。ここに最終濃度0.1mg/mlになるように(1)で準備したCy5ラベルしたアクチンを加えて、室温で1時間反応させた。この後、反応槽からフィルムを2cm/分の速度で引き上げた。
【0073】
(会合したアクチンの観察)
Cy5を付加したアクチン分子を次の機器で検出した。顕微鏡としてAxiotech100(ZEISS社、対物レンズ(×100)、接眼レンズ(×10))、蛍光検出器としてORCA-ER-1394(浜松フォトニクス社)を用いた。なお、励起光光源としてハロゲンランプ(100W)を用い、励起光と放射光との分離は、Filter Set 26(ZEISS社)を用いた。観察像を図6に示す。なお、観察部位は、図5に示すスポット部位周辺である。なお、反応槽からのフィルムの引き上げ方向を図示した。
【0074】
図6に示すように、アクチン分子がファイバー状に会合した状態が観察された。また、引き上げ方向に沿ってファイバーが配向している様子も観察された。また、スポットの外側にはアクチン分子のファイバーが観察されないことから、最初に固定したアクチンのみから会合が進行したことが推測される。すなわち、アクチンの会合は、アクチンを固定した部位に選択的に生じて、アクチンが固定されない部位にはアクチンファイバーが形成されないことが支持された。
【0075】
(会合したアクチンの光固定)
顕微鏡観察したアクチンファイバーを、そのまま最初にアクチンを固定したのと同一の光固定条件で光固定し、0.01%Tween20(v/v)を含むPBS溶液にサンプルを浸漬し攪拌して10分間洗浄後、水ですすいで、Nガスを吹き付けて乾燥した。上記と同様にして顕微鏡観察を行ったところ、図6とほぼ同様の形態でアクチンファイバーが固定されていることが確認できた。
【0076】
(アクチン上でのミオシンの運動確認)
(1)ミオシン固定ビーズの作製
1.ミオシン(PROzyme社、MW20)をPBSにて2g/mlに希釈した溶液を準備した。また、ラテックスビーズ(Merk社、F1-Z030、粒径288nm)を1/10に希釈した溶液とミオシンとラテックスビーズとを2:1(重量比)の割合で混合した。この混合液を氷上で2時間冷却して、ミオシンをビーズ表面に吸着させた。その後、3000gで遠心して上清を取り除いた。
【0077】
(2)ミオシン微小球の運動の確認
上記(1)で得られたミオシン吸着ビーズをmotile buffer(2mM ATP、1mM DTT、50mM KCl、4mM MgCl)にビーズ:バッファが1:3の割合で加えた。この溶液をアクチンフィラメントを固定したアゾポリマーフィルム上に滴下して顕微鏡観察(暗視野顕微鏡、対物レンズ×100、接眼レンズ×10)した。顕微鏡観察では、ビーズが一定方向に動いていく様子が観察された。蛍光像と重ねて観察したところ、固定したアクチンにほぼ沿って動いていくことがわかった。さらに、この運動の様子を動画として記憶して動く方向を解析したところ、明らかに方向性を持って、すなわち、片側にのみ動いていることが確認できた。
【0078】
以上のことから、本発明によれば、光応答性材料に会合性ユニットを固定するとともに、当該会合性ユニットを基点として会合反応が可能であり、これにより光応答性材料など会合性ユニットを光固定可能な表面上でその場における会合により特定構造を有し機能的な組織化体、ここでは繊維状の多量体を構築できることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の構造体の各種形態を示す図。
【図2】多量化の反応速度に異方性がある場合における会合領域の伸長形態を示す図。
【図3】本発明の構造体を利用した駆動デバイスの基本的構成を示す図。
【図4】本発明の構造体の作製方法の一例を示す図。
【図5】アゾポリマーフィルム上へのアクチン溶液のスポッティング形態を示す図。
【図6】アクチンフィラメントの顕微鏡観察像を示す図。なお、濃淡の境界において淡色部はスポッティング領域であり、濃色部はスポッティング領域外である。
【符号の説明】
【0080】
2 構造体、4 光応答性材料、10 多量体、12 会合性ユニット、12a 基点ユニット、14 会合領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光により分子構造の変化又は分子配列の変化を生じる光応答性成分を含有する光応答性材料と、
この光応答性材料の表面に少なくとも一端が光照射により固定され、1種又は2種以上の会合性ユニットが一定の方向性、一定の順序又は一定の組み合わせで会合した会合領域を有する多量体と、
を備える構造体。
【請求項2】
前記会合性ユニットはタンパク質を含む、請求項1に記載の構造体。
【請求項3】
前記会合領域は、前記会合性ユニットの自己集合又は自己組織化による会合領域である、請求項1又は2に記載の構造体。
【請求項4】
前記多量体は、アクチンフィラメント、微小管及び中間径フィラメントから選択される、請求項3に記載の構造体。
【請求項5】
2以上の前記多量体を備え、これらの多量体は、前記会合性ユニットが同一の方向性で会合した会合領域を有する多量体を主体とする、請求項1〜4のいずれかに記載の構造体。
【請求項6】
前記多量体は、前記光応答性材料の表面に前記一端のみで固定されている、請求項1〜5のいずれかに記載の構造体。
【請求項7】
前記多量体が前記光応答性材料表面に二次元的に配列されている、請求項1〜6のいずれかに記載の構造体。
【請求項8】
前記多量体の前記一端以外の少なくとも一部分が前記光応答性材料の表面に光照射により固定されている、請求項1〜7のいずれかに記載の構造体。
【請求項9】
光により分子構造の変化又は分子配列の変化を生じる光応答性成分を含有する光応答性材料と、
この光応答性材料の表面に少なくとも一端が光照射により固定されており、極性が統一されかつ整列された複数のアクチンフィラメントと、
を備える駆動デバイス。
【請求項10】
さらに、ミオシンフィラメントを前記アクチンフィラメントと相互作用可能に保持する、請求項9に記載の駆動デバイス。
【請求項11】
多量体を含む構造体の作製方法であって、
光により分子構造の変化又は分子配列の変化を生じる光応答性成分を含有する光応答性材料の表面に前記多量体の構成成分である1種又は2種以上の会合性ユニットのうち少なくとも1個を基点ユニットとして光照射により固定する光固定工程と、
固定した前記基点ユニットを基点として1種又は2種以上の前記会合性ユニットを会合させて会合領域を有する多量体を合成する会合工程と、
を備える、作製方法。
【請求項12】
前記会合性ユニットが会合して多量化する反応速度は前記多量体において異方性を有しており、
前記会合工程は、選択的に多量化の反応速度の速い会合様式により前記会合性ユニットを会合させて会合領域を有する多量体を合成する工程である、請求項11に記載の作製方法。
【請求項13】
前記会合工程は、前記会合性ユニットの自己集合又は自己組織化を利用する、請求項11又は12に記載の作製方法。
【請求項14】
前記光固定工程は、前記多量体の会合核となる前記会合性ユニットの多量体を前記基点ユニットとして前記光応答性材料に固定する工程である、請求項11〜13のいずれかに記載の作製方法。
【請求項15】
前記光固定工程は、会合していない前記会合性ユニットの単量体を前記基点ユニットとして前記光応答性材料に固定する工程であり、
前記会合工程は、固定された前記会合性ユニットに追加の会合性ユニットを会合させ多量化して会合核を形成することを含む、請求項11〜13のいずれかに記載の作製方法。
【請求項16】
前記会合性ユニットは、タンパク質を含む、請求項11〜15のいずれかに記載の作製方法。
【請求項17】
前記多量体は、アクチンフィラメント、チューブリン及び中間径フィラメントから選択される、請求項11〜16のいずれかに記載の作製方法。
【請求項18】
前記多量体はアクチンフィラメントであり、前記基点ユニットは、アクチン分子のArp2/3複合体である、請求項17に記載の作製方法。
【請求項19】
前記多量体はチューブリンであり、前記基点ユニットは、γ−チューブリン複合体である、請求項17に記載の作製方法。
【請求項20】
作製した前記多量体を前記光応答性材料の表面上に二次元的に配向する配向工程を備える、請求項11〜19のいずれかに記載の作製方法。
【請求項21】
前記光応答性材料の表面上に配列した前記多量体の少なくとも一部を前記光応答性材料の表面に光照射により固定する光固定工程を備える、請求項20に記載の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−321719(P2006−321719A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−143640(P2005−143640)
【出願日】平成17年5月17日(2005.5.17)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】