説明

構造物の保護部材

【課題】 構造物の表面を覆う施工時に製造時の寸法のばらつきや歪みを調整可能とする。また、施工後の環境温度変化によって、保護部材の膨張ないし収縮の影響を吸収できるようにする。
【解決手段】 構造物の表面に装着されこの構造物の損傷や摩耗を防止するゴム様弾性体製保護部材において、該保護部材1は弾性を有する本体保護部2とこの本体保護部2を構造物に装着するための取付部材5とから構成されており、本体保護部2の側面2aの少なくとも1つの面に鍔部6を備えるようにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の保護部材に関する。さらに詳述すると、本発明は砂防ダム、橋脚、護岸壁その他の各種コンクリート構造物の損傷や摩耗を防止するためにその表面に装着される保護部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、砂防ダム、橋脚等のコンクリート製の構造物が岩石等の衝突により損傷したり摩耗したりするのを防止するため、図9に示すように、構造物101の表面にゴムや合成樹脂等の弾性体製の板状保護部材102が取り付けられている(例えば、特許文献1参照)。この保護部材102は、板状に成形された弾性部材に相手部材への取付手段を設けたもので、必要に応じて弾性部材中に補強部材が埋め込まれている。また、保護部材として、廃タイヤをスチールコードやナイロン糸ごと粉砕し、スチールコードやナイロン糸等を補強部材として含む小片をバインダーを加えて加圧成形するようにしたものもある(特許文献2)。
【0003】
【特許文献1】特開平11−324189
【特許文献2】特開20004−150136
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、保護部材を構造物に沿って並べるようにして設置・固定する際に、個々の製品に製造時の寸法のばらつきや歪みが生じている場合には、施工精度により決められた寸法内に収まらない場合がある。例えば、図10及び図11に示すように、保護部材102と保護部材102との間に隙間Sが生じたり、保護部材102そのものが突き合わせ部分で僅かに浮き上がるような事態が起こり得る。このような場合、保護部材102は石などの衝撃を受け止めるために厚く堅固に製作されているため、その調整は極めて厄介なものとなる。
【0005】
また、施工後、保護部材102が環境の温度変化により、膨張して突き合わされた部分が盛り上がってしまい(符号103で示す部分)、保護部材102が損傷し易くなったり、河川の流動抵抗を高めてしまうことにより、保護部材102と構造物101との固定を弱めてしまう危険もある。逆に、温度変化により収縮すると、保護部材102の間に隙間Sが開いて、内部の構造物101が損傷する危険がある。
【0006】
そこで、本発明は、構造物の表面を覆う施工時に製造時の寸法のばらつきや歪みを調整可能な構造の保護部材を提供することを目的とする。また、本発明は、施工後の環境温度変化によって、保護部材の膨張ないし収縮の影響を吸収できる構造の保護部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するため、請求項1記載の発明は、構造物の表面に装着されこの構造物の損傷や摩耗を防止するゴム様弾性体製保護部材において、該保護部材は弾性を有する本体保護部とこの保護部を前記構造物に装着するための取付部材とから構成されており、前記本体部の側面の少なくとも1つの面に鍔部を備えるようにしている。
【0008】
ここで、鍔部は本体保護部の構造物への施工後に表面となる面側に形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
請求項1記載の構造物の保護部材によると、鍔部同士あるいは鍔部と隣接する他の保護部材の本体の側面とが突き合わされるように施工されることによって、構造物を隙間無く覆いながらも、鍔部の介在により隣接する保護部材の本体の側面と側面との間に隙間(空間部)が形成されるので、個々の製品のばらつきがあっても、さらには施工時のばらつきがあっても、これを鍔部の変形により吸収することができる。依って、保護部材を隙間無く構造物の表面に敷き詰めて被覆することができる。したがって、この保護部材自体が破損し難く、砂防ダム、橋脚、護岸壁など各種コンクリート構造物の損傷や摩耗を防止するための保護壁あるいは保護膜として好適である。
【0010】
しかも、本発明にかかる保護部材は、鍔部を介して隣接する保護部材同士が連接されているので、本体部が膨張した場合にも空間部が膨張を吸収することで、大きな盛り上がりを防止できる。また、収縮する危険がある場合には、施工時に予め鍔部を圧縮させながら保護部材を並べて行くことで、隙間が生じるのを防止することができる。
【0011】
また、請求項2記載の構造物の保護部材によると、構造物の表面に敷き詰めて被覆する保護部材で形成される表面に隙間や溝が無くなるので、河川の流動抵抗を高めてしまうことがないし、砂礫や泥などを詰まらせたりするとがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の構成を図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0013】
図1〜図5に本発明の保護部材の一実施形態を示す。この保護部材1は、弾性を有する保護本体部2とこの保護本体部2を構造物に装着するための取付部材5とから構成されている。保護本体部2は、加硫ゴムの複数の砕片にバインダーを加えて加圧成形したもので、成形する際に補強部材3並びに取付部材5を組み込むためのナット4が埋め込まれる。本実施形態の場合、補強部材3は縦横に配筋した棒材の枠からなり、保護本体部2の下面から突出する取付部材5を装着する為のナット4を溶接などで固着するようにしている。取付部材5は、例えば金属製のボルトで、その一部が保護本体部2内のナット4にねじ込まれて埋設されるとともに保護本体部2から突出するように設けられている。本実施形態の場合には、取付部材5は保護本体部2に着脱可能な構造とすることにより、施工現場での組み立てを可能とすると共に、必要に応じた長さの取付部材5を適宜装着することができる。また、運搬時には保護本体部2からの突出物(取付部材5)を無くして保護部材1が嵩張らないようにして積み重ね可能とし、運搬を容易なものとできる。しかしながら、取付部材5はこのような構造に特に限られるものではなく、取付部材5そのものを例えばU型(門形)に成形して埋設することにより保護本体部2と一体化するようにしても良い。
【0014】
加硫ゴムの砕片としては、例えば自動車等の廃タイヤを粉砕することにより得られる砕片の使用が産業廃棄物の再利用を可能とするなどの観点から好ましい。そして、この加硫ゴムの砕片を、砕片間に微小空隙が残されるようにして(例えば保護本体部2に占める隙間の割合が5%〜30%となるように)バインダーで繋いで加圧成形により一体化する。これにより、高いクッション性を備えることができ、構造物の保護効果をより高め得る。勿論、保護本体部材の材料として新規に作成した加硫ゴム片を用いることもできる。しかしながら、廃タイヤを利用した場合、回収された廃タイヤを粉砕することで材料となる砕片が得られるため資源再利用、コスト削減の点で好ましい。尚、バインダーは、砕片どうしを接合するための接着手段として用いられるもので、砕片同士を強固に結合でき、尚かつ成形後の保護本体部2を金型から離型させうるものであればその種類は特に限定されない。このようなバインダーとしては、例えばウレタン樹脂等の使用が好ましい。
【0015】
また、廃タイヤ以外のゴム材料を使用しても良く、例えば天然ゴム、イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム等を使用することができ、更にはこれらのゴム材料がブレンドされたものを使用することもできる。砕片の大きさは特に限定されないが、具体例を挙げれば、10mm角程度のものを主要な構成砕片とすることが好ましく、大きくても20mm角程度のものとすることが好ましい。
【0016】
ここで、廃タイヤから砕片を得る場合には、ゴム層のみを粉砕したものを使用することが好ましい。特に、タイヤ中に存在するスチールコードが残留したものを使うことは残留するスチールコードが保護部材の表面に剥き出しになったときに危険であるので好ましくない。勿論、カーカス部とゴム層とを分離せずに粉砕して得た砕片を用いることも可能である。この場合には砕片2a中に残存するナイロン糸等が補強部材として機能することから、砕片自体の強度を補強して保護本体部の強度を増すことができる。
【0017】
補強部材3は、保護本体部2中に埋め込まれてこの保護本体部2を補強している部材である。補強部材3としては、補強用の鉄筋が縦横に配筋され、それぞれ埋設されている。鉄筋コンクリート用棒鋼を用いた。縦筋と横筋とはそれぞれが交差する箇所を溶接することにより互いに連結した。また、ナット4は補強部材3の縦筋と横筋とが交差する箇所に溶接することが好ましい。ナット4は等間隔で6箇所に埋設され、保護本体部2の底面に達する長さとされている。このナット4に取付部材5の頭のねじ部をねじ込んで取付部材5を保護本体部2の底面から突出させるように設置する。
【0018】
保護本体部2の側面2aの少なくとも1つの面には鍔部6が設けられている。この鍔部6は、少なくとも1つの側面2aに備えられていれば隣接する保護部材1との間の緩衝機能を発揮するには足りるが、好ましくは4つの側面2aの全ての全域に設けること、即ち保護本体部2の全周に設けることである。この場合には、調整量が不足したり、調整可能な方向に制限を受けない利点がある。
【0019】
鍔部6の保護本体部2の側面2aからの突出量は2〜10mmにすることが好ましい。2mm未満であると、鍔部6の効果が少なく、10mmを超えると鍔部6の強度が弱くなって衝撃などに耐えられない。また、鍔部6の厚さは10〜30mmであることが好ましい。10mm未満であると鍔部6の強度が弱くなって衝撃などに耐えられず、30mmを超えると剛性が高くなり鍔部6の緩衝効果が小さくなる。
【0020】
さらに、鍔部6の保護本体部2の高さ方向の位置は、図2に示すように、構造物への施工後に表面となる面側に形成されることが好ましい。この場合には、保護部材1を構造物の表面に敷き詰めて被覆する場合に、本体保護部2で形成される表面に鍔部6が存在することで隙間や溝が無くなるので、河川の流動抵抗を高めてしまうことがないし、砂礫や泥などを詰まらせたりすることがない。
【0021】
ここで、鍔部6の保護本体部2の高さ(厚さ)方向の形成位置は、上述の場合に限られず、図6に示すように、構造物への施工後に底面となる面側に形成されても良いし、場合によっては保護本体部2の高さ方向の真ん中であっても良い。また図7に示すように、鍔部6は高さ方向において一つだけではなく、複数あっても良い。この場合には、隣接する保護部材1の間の隙間(緩衝スペース)7が複数の鍔部6で多重シールされることとなり、防護効果が高まる。さらに、鍔部6は全周において同じ高さに形成する必要はなく、例えば図8に示すように、相対向する2つの面(例えば前端面と後端面あるいは右端面と左端面)で鍔部6の高さを食い違わせることにより、隣接する他の保護部材1の保護本体部2の鍔部6との間で二重シール構造を構成することができる。
【0022】
尚、本実施形態の保護部材1は、完成した構造物に対して施工させることもあるが、構造物を施工する際の型枠材として保護部材が使用されるものである。すなわち、例えば砂防ダムを施工する場合、まず保護本体部2がダム外壁を形成するように枠組みされ、その後この枠組み内へコンクリートが打設される。コンクリートが固化すると、取付部5をこのコンクリート中に突出させている保護本体部2はこのコンクリートの表面に固着される。これにより、保護本体部2は構造物(この例では砂防ダム)の表面に装着された状態となり、この構造物が岩石等の衝突により損傷したり摩耗したりするのを防止する保護膜あるいは保護壁として機能する。
【実施例】
【0023】
鍔部6の効果を確認するために以下の試験を行った。ここで、保護部材1の寸法は、構造物の表面に複数装着される部材として適当な大きさとして、一辺が1000mmの正方形で、厚さが200mmのゴムであり、廃タイヤを粉砕したゴムをウレタン樹脂のバインダーで硬化させたものである。鍔部6は図1に示すように全周に形成され、突出量2.8mm、厚さ20mmに形成されている。また、保護本体部2中には補強用の鉄筋3が埋設されている。
【0024】
(1)まず、保護部材の熱による寸法変化をみるため、保護部材1を一定温度で24時間放置した後の寸法を測定した。表1に収縮試験の結果を示す。
【表1】

【0025】
本結果より、0℃の平均収縮量が3.2mmであることから、全周あるいは対向する二辺に鍔部がある場合には、室温において少なくとも片側1.6mm以上の鍔部の突出量(高さ)が必要であり、片側2mmの突出量があれば収縮に対応することができることが判明した。最も、鍔部は少なくとも一辺に存在すれば足りることから、この場合には、室温において少なくとも3.2mm以上、好ましくは4mm以上の突出量があれば良い。尚、この鍔部の突出量は長さ1000mm当たりのものであり、保護部材の寸法が1000mmよりも大きい場合あるいは逆に小さい場合には、それに応じて鍔部の適切な突出量も増減することは言うまでもない。
【0026】
(2)次に、鍔部6の突出量と厚さを種々変化させ、鍔部6の変形状態を試験した。保護本体部2の鍔部6を除く寸法については試験1と同じものを用い、鍔部6の突出量と厚みについて種々寸法を変更した8サンプルを用いた。表2に試験結果を示す。
【表2】

尚、表中、成形×は成形上の判定で、材料が十分に充填できずに欠けの発生率が高いことを示す。また、作業性×は、作業性の判定で、圧縮して構造物の上に設置することが困難であることを示す。強度×は、強度判定で、直径10mmの丸棒を先端に取り付けた荷重50kgfの錘を、2枚の保護部材を並べて鍔部を接触させた処に載せて、鍔部の変形状態を観察した結果であり、〇はほとんど変形せず、△は錘が鍔部を貫通しない程度に変形したことを示す。×は錘が鍔部を貫通したことを示す。
【0027】
この結果より、鍔部は突出量が2〜10mm、厚さが10〜30mmであることが好ましいことが判明した。
【0028】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、本実施形態では保護本体部2として略直方体としたものを例示したが(図1〜図5参照)、これは形状の一例に過ぎず、構造物の種類、大きさ、形状等に合わせて適宜形状を変化させることができる。また、保護本体部2に加硫ゴムの砕片を使用しているが、保護本体部全体を加硫成形により製造しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明にかかる構造物の保護部材の一実施形態を示す平面図である。
【図2】同保護部材の正面図である。
【図3】同保護部材の側面図である。
【図4】本発明の保護部材を並べるときの一実施形態を示す平面図である。
【図5】同正面図である。
【図6】保護部材の鍔部の他の実施形態を示す正面断面図である。
【図7】保護部材の鍔部のさらに他の実施形態を示す正面断面図である。
【図8】保護部材の鍔部のさらに他の実施形態を示す正面断面図である。
【図9】保護本体部材が表面に装着された砂防ダムの一例を示す図である。
【図10】従来の保護部材が構造物の表面に設置された状態を示す平面図である。
【図11】同保護部材が構造物の表面に設置された状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0030】
1 保護部材
2 保護本体部
2a 保護本体部の側面
3 補強部材
4 取付部材を構成するナット
5 取付部材を構成するボルト
6 鍔部
7 鍔部の介在により隣接する保護本体部の間に形成される隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の表面に装着されて前記構造物の損傷や摩耗を防止する保護部材において、ゴム様弾性体で構成される本体保護部とこの本体保護部を前記構造物に装着するための取付部材とを備え、前記本体保護部の側面の少なくとも1つの面に鍔部を備えることを特徴とする構造物の保護部材。
【請求項2】
前記鍔部を前記本体保護部の前記構造物への施工後に表面となる面側に形成したものである請求項1記載の構造物の保護部材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2010−24783(P2010−24783A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−190449(P2008−190449)
【出願日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【出願人】(000104490)キーパー株式会社 (23)
【Fターム(参考)】