説明

構造物の強度変化検出方法

【課題】不特定な振動源からの雑多な振動により駆動されている構造物の振動から構造物の固有の振動特性を推定し、推定した振動特性の時間変化から構造物の強度変化を検出する。
【解決手段】観測振動波形を一定の時間長さに分割して得た短区間波形の各々から、非調和フーリエ解析によって求めた周波数成分でパワーが最大となる周波数及びパワーが最小となる周波数を検出し、それぞれの周波数の検出頻度分布を求め、一定の標本の数ごとに求めた上記頻度分布を時間の順に配列表示して、頻度分布の変化から観測する構造物の強度変化を検出する構成。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の強度変化を検出する方法に係り、さらに詳細には、気流、水流、地盤振動等により振動中の橋梁、建物、発電所等の構造物の老朽化または損傷による強度劣化を点検または監視するための非破壊検査方法に係る。
【背景技術】
【0002】
橋やビルなどの構造物の強度の点検は、専門技術を備えた自治体の職員、エンジニア、建築士等による目視が基本であり、必要に応じて更に詳しい検査が行なわれている。
【0003】
そうした検査にはエックス線探査、超音波探査、磁粉を用いる探査、打音探査、ファイバースコープ探査、赤外線探査のような技術が使用されるが、これらの探査は専門技術または資格を必要とする。
【0004】
特開2002−188955号公報及び信学技報EA2000−83(2000年)に記載された、構造物の振動を測定してその強度劣化を検知する方法は、振動波形から統計的方法によって推定された振動の極大となる周期の非可逆的変動から強度劣化を検出するものである。この方法には、極大となる周期の変動を伴わない強度劣下は検出できないという問題がある。また、建造物の共振が鋭くない場合は、極大となる周期が変化してもその変化を検出できないという問題がある。更に、統計的に信頼できる頻度分布の標本数が定まらないという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−188955号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】電子情報通信学会 信学技報 EA2000−83(2000年)平田、堀越
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
建造物の点検または監視は従来の検査法によるのであれば専門技術を必要とし、時間も費用も嵩む。本発明の目的は、専門技術を必要とせず、客観的且つ定量的に構造物の強度変化を検出し、構造物の強度変化の点検または常時監視を可能にする方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、構造物の強度の変化を検出する方法であって、構造物の振動を検出して、検出した振動を表す振動波形を発生させ、振動波形を所定長さの短区間の波形に分割し、各短区間波形を分析して、含まれる周波数成分のうちパワーが最大となる最大周波数成分の周波数及びパワーが最小となる最小周波数成分の周波数を求め、パワーが最大となる最大周波数成分の周波数の検出頻度を示す最大周波数成分周波数頻度分布及びパワーが最小となる最小周波数成分の周波数の検出頻度を示す最小周波数成分周波数頻度分布を求め、最大周波数成分周波数頻度分布及び最小周波数成分周波数頻度分布の少なくとも1つの時間変化から構造物の強度の変化を検知するステップより成る構造物の強度変化検出方法を提供する。
【0009】
また、本発明は、パワーが最大または最小となる最大または最小周波数成分の周波数の検出頻度を示す頻度分布の標本の数の大きさが、最大周波数成分周波数頻度分布と最小周波数成分周波数頻度分布の積が所望の観測周波数帯域で周波数に関してほぼ一定の値になる時の数で与えられることを特徴とする構造物の強度の変化の検出方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
橋、ビル、ダムなどの構造物は、その大きさや重さに関係なく風や水流あるいは地盤の振動によって常に微小な振動をしている。本発明による構造物の強度変化検出方法によると、上記のような自然の力によって振動している構造物の雑多な振動波形から構造物の固有振動特性を推定することが可能となり、その特性の変化から構造物の強度変化を検知できるという効果がある。
【0011】
本発明による構造物の強度変化検出方法を従来の検査法と併用すると、点検する建造物を選択して重点的な検査を行うことが可能になり、点検と検査に要する時間と費用を大幅に削減できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明による構造物の強度変化検出方法を説明するためのブロック図である。
【図2】図2は、構造物の振動を表わすデジタル信号のコンピューターによる処理を説明するブロック図である。
【図3】図3は、本発明の方法により得られた最大周波数成分周波数頻度分布の時間変化を示す図である。
【図4】図4は、フーリエ解析(DFT)により得られた振動特性の時間変化を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明による構造物の強度変化検出方法は、建造物の振動を検出する振動検出器、振動波形をデジタル信号に変換するA/D変換器、信号処理用コンピューター及び出力表示装置から成るシステムにより実施可能である。構造物の振動特性を推定する周波数帯域の下限周波数をGとする時、短区間波形の時間長さTを1/G、mを10以上で150以下の正の整数、k=0.1として、mk/Tで与えられる周波数を分析周波数とし、短区間波形の数N(頻度分布の標本数)を最大周波数成分周波数頻度分布と最小周波数成分周波数頻度分布の積が所望する観測周波数帯域で周波数に関してほぼ一定の値になる時の数とする。
【0014】
構造物の基本周期が10秒なら1/Gは10秒、1秒なら1/Gは1秒程度とするのが適当である。Nは周囲の振動環境により異なるが、2000乃至4000が典型的な数である。
【実施例】
【0015】
図1は、本発明の一実施例の構成を示すブロック図である。構造物の振動を検出する振動検出器(101)の出力電気信号は前置増幅器(102)で増幅され、ローパス・フィルター(103)を経て、A/D変換器(104)によりデジタル信号に変換され、コンピューター(105)により処理される。コンピューター(105)による信号の処理は、図2に示すように、デジタル信号の短区間波形(短いサンプル列)への分割(201)、分割された短区間波形ごとの非調和周波数分析(非調和フーリエ解析)(202)、分析により求められた周波数成分の中からの最大パワーと最小パワーを有する周波数成分の検出(203)、検出された周波数成分の各周波数の記録(204)、こうして記録された周波数に基づく頻度分布の確定の順序で行なわれ、その結果が表示部(106)に表示
される。
【0016】
上記の頻度分布は建物を例とすると、一度だけ最大周波数成分周波数頻度分布と最小周波数成分周波数頻度分布からNの数を決めれば、それ以降は同じ標本数Nで頻度分布を求めて、頻度分布の変化を監視するようにしてもよい。また、最大周波数成分周波数頻度分布と最小周波数成分周波数頻度分布は互いに逆特性の関係を有するため、どちらか一方だけを用いて頻度分布の変化を監視してもよい。
【0017】
コンピューター(105)で行なわれる信号処理を数式により説明すると、以下のようになるが、これらはソフトウェアで行なう。
【0018】
A/D変換器の出力デジタル信号である構造物の振動波形から得た短区間波形のサンプル列をW(r)(r=1,2,・・・,K)、分析周波数をfとして、係数a(m)およびb(m)をそれぞれ以下の式で求める。
K K
a(m)= Σ W(r)sin(2πfx/F)/ Σ sin2(2πfx/F)
r=1 r=1
K K
b(m)= Σ W(r)cos(2πfx/F)/ Σ cos2(2πfx/F)
r=1 r=1
ただし、x=r−1/2−K/2、Fは標本化周波数とする。
【0019】
次に、
Q(m)=a2(m)+b2(m)
として、Q(m)が最大となる周波数をf、最小となる周波数とをfqとすると、構造物の振動波形から得た全短区間波形よりfの頻度分布(最大周波数成分周波数頻度分布)およびfqの頻度分布(最小周波数成分周波数頻度分布)が得られる。
【0020】
図3は、最大周波数成分周波数頻度分布の時間変化を示す例である。これは構造物の模型に雑多な振動(非定常振動)を加え、構造物の強度を変えて求めたものである。各頻度分布の標本の数Nは2400である。
【0021】
図4は、図3の頻度分布を求めた振動波形を、従来法の周波数分析(フーリエ解析、DFT)を使って分析して、図3の頻度分布を得るために分割した短区間波形の長さの10倍の長さの区間波形240個のスペクトルを求めて平均した特性曲線の変化を示したものである。
【0022】
図3と図4の比較から、雑多な振動の周波数特性の影響は、従来法による振動特性の推定に比べて本発明による方法の方が少ないことが分かる。
【0023】
図3において、たとえば時刻n=1における頻度分布をy1(m)、時刻nにおける頻度分布をy(m)(m=10,11,・・・,150)とし、y1(m)を基準の分布としたy(m)の変化の度合いE(n)を
150 150
E(n)= Σ {y(m)−y(m)}2/ Σ {y2(m)+y2(m)}
m=10 m=10
で与えるか、y(m)とy(m)の一致の度合いV(n)を
150 150
V(n)=2Σy(m) y(m)/ Σ {y2(m)+y2(m)}
m=10 m=10
で与えれば、頻度分布の変化を定量的に示すことができる。同図において、n=2でE(2)=0.02、V(2)=0.98、n=15でE(15)=0.38、V(15=0.62となる。
【0024】
このように頻度分布の変化を定量的に表せば、E(n)が所定の値を超えた時、あるいはV(n)が所定の値以下になった時、建造物の強度に有意または重大な劣化が生じたとして警報を自動的に発生することができる。
【0025】
また、飛行中の機体の振動を検出して、その振動波形から本発明の方法で頻度分布を求めることにより、機体の強度変化の有無を航空機の飛行中に常時監視することが可能である。
【0026】
雑多な振動下にあるパワープラントにおいて、様々な構造物の振動を検出し、その振動波形から本発明の方法で頻度分布を求めるなら、それぞれの部分の強度変化の有無をプラントの稼動中に常時監視することができる。
【符号の説明】
【0027】
101 振動検出器
102 前置増幅器
103 ローパス・フィルター
104 A/D変換器
105 コンピューター
106 表示部
201 デジタル信号の短区間波形への分割
202 分割された短区間波形ごとの非調和周波数分析
203 最大パワーと最小パワーを有する周波数成分の検出
204 検出された周波数成分の各周波数の記録

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の強度の変化を検出する方法であって、
構造物の振動を検出して、検出した振動を表す振動波形を発生させ、
振動波形を所定長さの短区間の波形に分割し、
各短区間波形を分析して、含まれる周波数成分のうちパワーが最大となる最大周波数成分の周波数及びパワーが最小となる最小周波数成分の周波数を求め、
パワーが最大となる最大周波数成分の周波数の検出頻度を示す最大周波数成分周波数頻度分布及びパワーが最小となる最小周波数成分の周波数の検出頻度を示す最小周波数成分周波数頻度分布を求め、
最大周波数成分周波数頻度分布及び最小周波数成分周波数頻度分布の少なくとも1つの時間変化から構造物の強度の変化を検知するステップより成る構造物の強度変化検出方法。
【請求項2】
短区間波形の所定長さをTとすると、短区間波形の分析は、kを1より小さい正の係数としてk/Tの整数倍の周波数で与えられる周波数成分を求める非調和周波数分析であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
パワーが最大または最小となる最大または最小周波数成分の周波数の検出頻度を示す頻度分布の標本の数の大きさは、最大周波数成分周波数頻度分布と最小周波数成分周波数頻度分布の積が所望の観測周波数帯域で周波数に関してほぼ一定の値になる時の数で与えられることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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