説明

構造物の浮き上がり防止構造およびその構築方法

【課題】 地中の構造物を構築する際に必要となる設備を利用して構造物の浮き上がり防止対策のコストを低減することが可能な構造物の浮き上がり防止構造を提供する。
【解決手段】 地盤中に少なくとも一部が埋設された構造物1が浮き上がることを防止するために、地盤中に埋設された部分の側壁周囲全体を地中連続壁2で囲むと共に、この地中連続壁2をジョイント筋3により構造物1と一体化する。被圧水が構造物1の下方に回り込んで構造物を浮き上がらせることを防止するために、地中連続壁2は被圧水が進入しない岩盤に達するように設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤中に少なくとも一部が埋設された構造物の浮き上がりを有効に抑えることが可能な構造物の浮き上がり防止構造とその構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図2に示されるように、地盤中に少なくとも一部が埋設された構造物1、例えば、地盤中に埋設された埋設部分1aに変電所が設けられ、地上階1bを事務所として利用するような構造物にあっては、構造物1の埋設部分1aの底部に地盤内部の地下水の浮力が作用し、この浮力により構造物1が浮き上がってしまう問題が発生している。
【0003】
このため、このような地下水を含む地盤中に構造物1を建設する場合には、地中連続壁2を構造物の施工予定地の周囲に打設し、また、通常は、構造物1の荷重が、構造物1の埋設部分1aに作用する浮力を上回るため、構造物1が浮き上がることはないが、図3に示されるように、埋設部分1aを残したまま地上階1bを取り壊して建て替えるような場合には、地上階1b部分が除去された段階で、浮力に打ち勝つだけの重量が確保されなくなり、構造物1の埋設部分1aが浮き上がってしまう不都合がある。また、このような不都合は、予め地中にのみ駐車場や地下道などを施設する構造物においても、自身の重量が十分に確保されていないと同様に生じるものである。
【0004】
そこで、従来においては、このような地中構造物の浮き上がりに対処するために、例えば、下記の特許文献1に示されるように、地中構造物が周囲地盤の液状化現象により浮き上がることを防止するために、遮蔽壁を構造物の周囲に構築するようにした構成や、特許文献2に示されるように、地中構造物の周囲に止水壁を設け、地中構造物の浮き上がりを回避するようにした構成、特許文献3に示されるように、地中連続壁に拡幅リングを設けて浮き上がりを防止するようにした構成などが提案されている。
【0005】
【特許文献1】特開平2001−317068号公報
【特許文献2】特開平5−287767号公報
【特許文献3】特開2003−20098号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述したいずれの技術も、地中構造物の浮き上がり防止のために、新たな地中壁の構築や拡幅リング等の構造を形成する必要があり、浮き上がり防止対策に必要なコストがかかる不都合がある。
【0007】
そこで、本発明においては、地中の構造物を構築する際に必要となる設備を利用することで上述した不都合を回避し、浮き上がり防止対策のコストを低減することが可能な構造物の浮き上がり防止構造およびその構築方法を提供することを主たる課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を達成するために、この発明に係る構造物の浮き上がり防止構造は、地盤中に少なくとも一部が埋設された構造物の浮き上がりを防止するための構造であって、前記構造物の地盤中に埋設された部分の側壁周囲全体を地中連続壁で囲むと共に、前記地中連続壁をジョイント筋により前記構造物と一体化したことを特徴としている(請求項1)。
【0009】
地中連続壁は、地中構造物を構築する場合の止水や土留めのために構造物の施工予定地の周囲に予め設けられるものであるので、この地中連続壁を構造物にジョイント筋によって一体化すれば、地中構造物の重量に地中構造物の重量が加えられる。このため、地中の構造物に作用する浮力に対抗することが可能となり、構造物の浮き上がりを防止することが可能となる。
【0010】
ここで、地中連続壁は、地中構造物を構築するために地中連続壁の内側を所定の深さまで掘削する際の掘削底面の盤ぶくれや被圧水の大量自噴を防止するために、被圧水が進入しない岩盤などの非液状化地盤に達するように設けることが好ましい(請求項2)。
【0011】
また、上述の構造物の浮き上がり防止構造は、地中に非液状化地盤に達するように地中連続壁を打設する工程と、前記地中連続壁の内側を所定の深さまで掘削する工程と、掘削された範囲で前記地中連続壁にジョイント筋を付設する工程と、前記地中連続壁の内側に構造物の側壁を形成すると共に前記地中連続壁と前記構造物の側壁とを前記ジョイント筋により一体化する工程とを少なくとも経て構築するようにしてもよい(請求項3)。
【0012】
このような方法によれば、地中連続壁に設けられたジョイント筋を構造物の施工時に仮設支持部材として利用することができるので、構造物の構築作業を容易にすることが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
以上述べたように、請求項1に係る発明によれば、地盤中に少なくとも一部が埋設された構造物の浮き上がり防止構造を、構造物の地盤中に埋設された部分の側壁周囲全体を地中連続壁で囲むと共に、前記地中連続壁をジョイント筋により前記構造物と一体化して地中連続壁の重量を構造物の重量に加算するようにしたので、浮き上がり防止機構を構築するために新たな設備や構造を設ける必要がなく、コストをかけずに構造物の浮き上がり防止を図ることが可能になる。
【0014】
また、請求項2に係る発明によれば、地中連続壁が非液状化地盤にまで達するように設けられるので、地中に被圧水の層があっても、その層を地中連続壁によって確実に遮蔽することが可能となり、被圧水による掘削底面の盤ぶくれや、被圧水の大量自噴を防止することが可能となる。
【0015】
さらに、請求項3に係る発明によれば、上述した構造物の浮き上がり防止機構が、少なくとも、地中に非液状化地盤に達するように地中連続壁を打設する工程と、前記地中連続壁の内側を所定の深さまで掘削する工程と、掘削された範囲で前記地中連続壁にジョイント筋を付設する工程と、前記地中連続壁の内側に構造物の側壁を形成すると共に前記地中連続壁と前記構造物の側壁とを前記ジョイント筋により一体化する工程とにより構築されるので、地中連続壁に設けられたジョイント筋を構造物の施工時の仮設支持部材として使用することが可能となり、構造物の構築作業を容易にすることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、この発明の最良の実施形態を添付図面を参照しながら説明する。
【0017】
図1において、本発明にかかる構造物1の浮き上がり防止構造が示され、この浮き上がり防止構造は、地盤中に埋設された埋設部分1aの側壁周囲全体を囲むように設けられた地中連続壁2をジョイント筋3により埋設部分1aの側壁に一体化することにより構成されている。
【0018】
地中連続壁2は、構造物1の施設箇所を囲むように設けられ、上端は地盤の地表面(GL)にほぼ一致させ、下端は、被圧水が進入しない非液状化地盤である例えば岩盤4に達するように延設されている。この地中連続壁2は、内側に構築される構造物1の外形に合わせて形成されるもので、例えば、構造物1が円柱形状であれば断面円筒状に形成され、構造物1が直方体状であれば断面矩形状に形成される。したがって、地中連続壁2で囲まれた内側には、被圧水が浸入しない閉空間が形成され、この閉空間に構造物1の埋設部分1aが施設されるようになっている。
【0019】
そして、地中連続壁2と構造物1の埋設部分1aの側壁とは対峙して設けられ、地中連続壁2に内側へ突出するジョイント筋3を設け、このジョイント筋3により、地中連続壁2を構造物1の埋設部分1aの外側壁に結合させている。
【0020】
したがって、地中に埋設された構造物1の埋設部分1aには、浮力が作用するが、構造物1の埋設部分1aにはジョイント筋3により地中連続壁2が一体化しているので、構造物1には地中連続壁2の重量が加算されることになり、浮力によって構造物1が浮き上がることがなくなる。また、地中連続壁2は、岩盤4に達するように設けられているので、岩盤4の上方で被圧水が存在する場合でも、この被圧水が地中連続壁2の下方を通って進入することを防ぐことが可能となり、地中連続壁2の内側の掘削底面の盤ぶくれや、被圧水の大量自噴を防止することが可能となる。尚、地中連続壁2の構造物1よりも下方へ延びる部分は、切断されてしまうこともあるが、少なくとも埋設部分1aの側壁にはジョイント筋3で結合した部分が残るので、重量不足を回避することが可能となる。
【0021】
以上の浮き上がり防止機構は、例えば、構造物の施工予定地の周囲に地中連続壁2を打設して止水及び土留めを行ない、しかる後に、地中連続壁2の内側を所定の深さまで掘削して掘削された範囲で地中連続壁2にジョイント筋3を付設し、その後、構造物1の側壁を形成すると共に地中連続壁2と構造物1の側壁とを前記ジョイント筋3により一体化して構築すればよく、逆打工法にて地中の構造物を地表側から順次構築していく場合には、上述したジョイント筋3の付設工程から構造物1の側壁と地中連続壁2とを一体化する工程を地表側から順次掘削して繰り返し行なえばよい。
【0022】
このような工法を採用することで、地中連続壁2に設けられたジョイント筋3を構造物1の施工時に鉄筋などの仮設支持部材として使用することが可能となり、地中構造物の構築作業を容易にすることが可能となる。
【0023】
尚、上述の構成は、構造物1の一部を地中に埋設するような構造物、例えば、将来的に地上部分を建て替えるために除去するような構造物に対しても、駐車場や地下道などのように、地中の構築のみを予定している構造物に対しても、浮き上がりを防止するために適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、本発明に係る構造物の浮き上がり防止構造を示す断面図である。
【図2】図2は、従来の構造物の施工状態を示す断面図である。
【図3】図3は、図2の構造物の地上階を除去した状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0025】
1 構造物
1a 埋設部分
2 地中連続壁
3 ジョイント筋
4 岩盤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤中に少なくとも一部が埋設された構造物の浮き上がりを防止するための浮き上がり防止構造であって、
前記構造物の地盤中に埋設された部分の側壁周囲全体を地中連続壁で囲むと共に、前記地中連続壁をジョイント筋により前記構造物と一体化したことを特徴とする構造物の浮き上がり防止構造。
【請求項2】
前記地中連続壁は、非液状化地盤にまで達するように設けられることを特徴とする請求項1記載の構造物の浮き上がり防止構造。
【請求項3】
地盤中に少なくとも一部が埋設された構造物の浮き上がりを防止するための浮き上がり防止構造の構築方法において、
地盤中に非液状化地盤に達するように地中連続壁を打設する工程と、
前記地中連続壁の内側を所定の深さまで掘削する工程と、
掘削された範囲で前記地中連続壁にジョイント筋を付設する工程と、
前記地中連続壁の内側に構造物の側壁を形成すると共に前記地中連続壁と前記構造物の側壁とを前記ジョイント筋により一体化する工程
とを含むことを特徴とする構造物の浮き上がり防止構造の構築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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