構造物の補剛方法
【課題】複雑な構造物の剛性を向上させるために補剛すべき箇所を特定し、また、部材板厚を減じて軽量化しながら剛性を確保するための補剛方法を提供する。
【解決手段】弾性有限要素解析により計算された構造物全体のひずみエネルギからひずみエネルギ勾配を算出し、ひずみエネルギ勾配の大きい箇所について、ひずみエネルギ勾配に沿って構造物を補剛する。ひずみエネルギ勾配の大きい箇所を選択することにより、補剛箇所の特定を迅速に行なうことができるとともに、余分な重量増を伴わずに効果的に補剛することができる。
【解決手段】弾性有限要素解析により計算された構造物全体のひずみエネルギからひずみエネルギ勾配を算出し、ひずみエネルギ勾配の大きい箇所について、ひずみエネルギ勾配に沿って構造物を補剛する。ひずみエネルギ勾配の大きい箇所を選択することにより、補剛箇所の特定を迅速に行なうことができるとともに、余分な重量増を伴わずに効果的に補剛することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や電機製品など板状の部材によって構成される構造物において、弾性有限要素解析(以下、剛性解析)により計算された結果を用いて構造物の補剛を行なう方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車や電機製品など板状の部材によって構成される構造物の設計において、剛性解析により構造物に一定荷重あるいは一定変位を作用させた場合に生じる応力、変位、ひずみエネルギ、固有振動数などを計算し、これらの計算結果を参照しながら静剛性あるいは動剛性が高くなるような設計が行なわれている。
【0003】
この設計は、一般的には次のような手順で行なわれている。先ず、設計または評価対象となる構造物の元形状を準備する。次に、元形状に基づいて剛性解析の形状モデルを作成し、荷重や拘束などの境界条件を付与して計算を実施する。次に、計算結果から、応力や変位、ひずみエネルギの高い部位を抽出し、これらの部位を補強するようにして設計変更を行なう。その後、設計変更後の形状について剛性解析を実施し、再度応力や変位、ひずみエネルギの評価を行なう。
【0004】
しかしながら、この設計方法では、必ずしも応力や変位、ひずみエネルギの高い部位が補強するべき部位となるわけではなく、設計者の経験や試行錯誤により補強部位を決定していた。
【0005】
また、非特許文献1、非特許文献2などにおいては、構造各部の補剛、計算を繰り返して、評価すべき応力や変位、固有振動数に対する感度の高い部位を探索する最適化手法などが考案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「計算力学ハンドブック(I 有限要素法 構造編)」、日本機械学会、丸善、P.256〜P.292
【非特許文献2】「技術報告シリーズ22 構造最適化技術の検討」、自動車技術会、P.43〜P.77
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、従来は、剛性解析により構造各部のひずみエネルギを計算し、その分布度合いに応じて設計者が経験などを基にしたり試行錯誤したりしながら補剛方法を検討、設計していた。しかし、構造物が大規模、複雑化するにしたがい、剛性解析の結果においても構造内の多数の部位で応力、変位、ひずみエネルギが高位となり、補剛するべき箇所の特定が困難となっている。そのため、上記の最適化手法を適用しても、補剛、計算の繰り返しを数十回から数百、数千回も行なわなければ補剛部位を特定できず、多大な計算コストおよび時間を要する。
【0008】
また、近年、消費エネルギの軽減や運動性能の向上、コスト削減のため、構造物の軽量化要求が大きく、設計者は部品板厚の低減や部品点数の削減により対応を行なっている。しかし、部品板厚を低減すると一般に剛性は低下するため、軽量化と剛性を確保することは相反することになり、重量増を伴わずに補剛を行なうことは困難であった。
【0009】
そこで、本発明は、構造物の剛性を向上させるために補剛すべき箇所を容易に特定し、また、部材板厚を減じて構造物を軽量化しても剛性を確保できるための補剛方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するために、剛性解析の結果と補剛すべき箇所の関係について検討した結果、ひずみエネルギの勾配の大きい箇所を補剛すべきであることを見出し、本発明に至った。
【0011】
すなわち、本発明は、
(1)構造物の補剛方法であって、構造物全体のひずみエネルギを弾性有限要素解析により計算し、ひずみエネルギからひずみエネルギ勾配を算出し、ひずみエネルギ勾配の大きい箇所について、ひずみエネルギ勾配に沿って構造物を補剛することを特徴とする構造物の補剛方法。
(2)形状または寸法の変更を伴う構造物の補剛方法であって、構造物の形状または寸法の変更前後のそれぞれのひずみエネルギを弾性有限要素解析により計算し、ひずみエネルギから、変更前後のひずみエネルギ差分を算出し、ひずみエネルギ差分の大きい箇所において、変更後の構造物におけるひずみエネルギ勾配を算出し、ひずみエネルギ勾配に沿って構造物を補剛することを特徴とする構造物の補剛方法。
である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、剛性解析により構造物各部のひずみエネルギを計算し、その計算結果を用いて構造全体のひずみエネルギ勾配を算出し、勾配の大きい箇所を選択することにより、補剛箇所の特定を迅速に行なうことができる。また、ひずみエネルギ勾配の方向に沿ってビードを配置することによって、余分な重量増を伴わずに効果的に補剛することができる。さらには、複数の構成部材の板厚などの寸法が変更された場合でも、変更前後のひずみエネルギの差分の大きい箇所を選択し、ひずみエネルギ勾配に沿ってビードを配置することにより、大規模構造物の補剛箇所を容易に特定し補剛することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第一の実施形態にかかる補剛方法の流れを説明するフローチャートである。
【図2】本発明の第二の実施形態にかかる補剛方法の流れを説明するフローチャートである。
【図3】実施例1における構造物の外観を示す斜視図である。
【図4】実施例1におけるひずみエネルギ分布の解析結果を示す図である。
【図5】実施例1におけるひずみエネルギ勾配を示す図である。
【図6】図3の構造物の補剛位置を示す図であり、(a)は実施例1による補剛方法、(b)は従来方法による補剛方法である。
【図7】実施例1における補剛前後の剛性変化を示すグラフである。
【図8】実施例2における構造物の外観を示す斜視図である。
【図9】実施例2における板厚変更前の構造物のひずみエネルギ分布の解析結果を示す図である。
【図10】実施例2における板厚変更後の構造物のひずみエネルギ分布の解析結果を示す図である。
【図11】実施例2における板厚変更前後の構造物のひずみエネルギ差分を示す図である。
【図12】実施例2における構造物のひずみエネルギ勾配を示す図である。
【図13】図8の構造物の補剛位置を示す図であり、(a)は実施例2による補剛方法、(b)は従来方法による補剛方法である。
【図14】実施例2における補剛前後の剛性変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0015】
図1は、本発明の第一の実施形態を示すフローチャートである。図1を参照して、本発明の構造物の補剛方法を説明する。まず、剛性解析入力データとして、対象とする構造物の形状、材料の板厚、ヤング率、ポアソン比、比重、および拘束条件、荷重条件あるいは強制変位条件を設定し、これらの剛性解析入力データを入力し(101)、コンピュータの剛性解析プログラムにより剛性解析を行う(102)。上記剛性解析入力データに基づいてコンピュータが剛性解析を行うと、剛性解析結果として、構造物の変位、応力分布、ひずみエネルギ分布、固有振動数からなる剛性解析出力データを出力する(103)。
【0016】
次に、剛性解析出力データのひずみエネルギ分布を用いて、コンピュータにより構造物中のひずみエネルギ勾配を計算し(104)、ひずみエネルギ勾配出力データを出力する(105)。次に、このひずみエネルギ勾配出力データをコンタ図などで可視化して、ひずみエネルギ勾配の大きい部位を選定する(106)。そして、ひずみエネルギ勾配の大きい部位に沿って補剛を行ない(107)、補剛後の形状を補剛形状出力データとして出力する(108)。
【0017】
図2は、本発明の第二の実施形態を示すフローチャートであり、形状または寸法の変更を伴う構造物の補剛方法を示す。図2を参照して、本発明の構造物の補剛方法を説明する。まず、剛性解析入力データAとして、板厚を変更する前の構造物の形状、材料の板厚、ヤング率、ポアソン比、比重、および拘束条件、荷重条件あるいは強制変位条件を設定し、これらの剛性解析入力データAを入力し(201)、コンピュータの剛性解析プログラムにより剛性解析を行なう(202)。上記剛性解析入力データAに基づいてコンピュータが剛性解析を行なうと、剛性解析結果として、構造物の変位、応力分布、ひずみエネルギ分布、固有振動数からなる剛性解析出力データAを出力する(203)。さらに、剛性解析入力データBとして、板厚を変更した後の構造物の形状、材料の板厚、ヤング率、ポアソン比、比重、および拘束条件、荷重条件あるいは強制変位条件を設定し、これらの剛性解析入力データBを入力し(204)、コンピュータの剛性解析プログラムにより剛性解析を行なう(205)。上記剛性解析入力データBに基づいてコンピュータが剛性解析を行なうと、剛性解析結果として、構造物の変位、応力分布、ひずみエネルギ分布、固有振動数からなる剛性解析出力データBを出力する(206)。
【0018】
次に、剛性解析出力データAおよび剛性解析出力データBを用いて、コンピュータにより両者のひずみエネルギの差分を計算し(207)、ひずみエネルギ差分出力データを出力する(208)。次に、このひずみエネルギ差分出力データを可視化して、ひずみエネルギ差分値の大きい部位を選定する(209)。
【0019】
ひずみエネルギ差分の大きい部位について、剛性解析出力データBのひずみエネルギ分布を用いて、コンピュータにより構造物中のひずみエネルギ勾配を計算し(210)、ひずみエネルギ勾配出力データを出力する(211)。このひずみエネルギ勾配出力データをコンタ図などで可視化して、ひずみエネルギ勾配の大きい部位に沿って補剛を行ない(212)、補剛後の形状を補剛形状出力データとして出力する(213)。
【0020】
なお、ひずみエネルギ勾配およびひずみエネルギ差分の大きい箇所を選定する場合、周辺要素よりもひずみエネルギおよびひずみエネルギ差分が大きい部位を選定すればよいが、ひずみエネルギ勾配およびひずみエネルギ差分全体の上位20%以内、好ましくは上位10%以内である要素を含むように部位を選択する。
【0021】
剛性解析については、市販の有限要素解析プログラムや自製のプログラムを用いればよい。剛性解析用のプログラムでは、MSC.Nastran、MSC.Marc、ABAQUS、ANSYS等の市販のソルバがある。また、ひずみエネルギの勾配や差分の計算および可視化にも、市販または自製のプログラムを用いればよい。ひずみエネルギ勾配の可視化、ひずみエネルギ差分の計算および可視化のプログラムでは、animator3、MetaPost等の市販のポスト処理ツールがある。
【0022】
図1および図2の101、201、204のステップで入力される入力データは、都度外部の入力手段から入力してもよいし、プログラムの中で自動的にデータを取り込んでもよい。103、105、203、206、208、210のステップで出力される出力データは、電子ファイルとして生成し、必要に応じて自製プログラムの計算などで使用する。
【0023】
ひずみエネルギ勾配に沿って補剛する方法としては、板状の部材であれば凹凸の形状を設けたり、板厚を局部的に増したり、新たな部材を取り付けてもよい。
【0024】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【実施例1】
【0025】
本発明の第一の実施形態にかかる実施例として、図3に示す構造物1の剛性を高くするための補剛方法を求める。本実施例において、剛性の大小は、1次固有変形モードの固有振動数で判断し(固有振動数が大きいほど剛性が高い)、荷重、拘束なしでの固有振動計算について、有限要素解析により剛性解析を行なった。構造物1の寸法は、長さ380mm、端部断面直径60mm、中央部断面幅60mm、中央部断面高さ95mm、板厚2.3mmである。材料は、普通鋼であり、ヤング率206GPa、ポアソン比0.3、比重7.86である。
【0026】
市販の有限要素解析プログラム「MSC.Nastran」を用いて、上記剛性解析条件のデータを入力して剛性解析を実施し、構造物1の固有振動変形モード、固有振動数、ひずみエネルギ分布を算出した。図4は、剛性解析により得られたひずみエネルギ分布を示し、側面の中央部が、ひずみエネルギ値の大きい部位2として濃く表示された。
【0027】
次に、自製プログラムにより、図4に示すひずみエネルギ分布に基づいて、ひずみエネルギ勾配を計算した。図5は、ひずみエネルギ勾配を示し、側面の二箇所に、ひずみエネルギ勾配の大きい部位3が表示された。
【0028】
これらの結果を元に、本発明の補剛方法および従来方法により補剛を実施した。図6(a)は本発明による補剛であり、図5に示すひずみエネルギ勾配の大きい部位3に沿って、二箇所にビード(板状部材に凹凸を設けたもの)4を設けた。ビード4の寸法は、それぞれ長さ168mm、幅15mm、深さ5mmである。また、図6(b)は従来方法による補剛であり、図4に示すひずみエネルギ値の大きい部位2にビード5を設けた。ビード5の寸法は、長さ67mm、幅21mm、深さ5mmである。
【0029】
それぞれの方法で補剛を実施した構造物1の形状を新たな剛性解析条件として剛性解析を実施し、補剛による剛性向上の効果を確認した。図7は、補剛前、従来方法による補剛、本発明による補剛における1次固有モード固有振動数を示し、補剛前は931Hz、従来方法により補剛したものは962Hz、本発明により補剛したものは985Hzとなった。したがって、本発明による補剛方法が、従来方法による補剛よりも効果が大きいことがわかった。
【実施例2】
【0030】
本発明の第二の実施形態にかかる実施例として、図8に示す構造物11の剛性を高くするための補剛方法を求める。本実施例においては、剛性の大小は、部材中央部のたわみ量で判断する(たわみ量が小さいほど剛性が高い)。図8に示すように、構造物11の両端を単純支持し、構造物11の中央部に5kNの荷重を作用させた状態について、有限要素解析により剛性解析を行なった。対象構造物11は、ハット型部材12と平板13をスポット溶接により接合したものであり、ハット型部材12の寸法は、長さ1000mm、断面幅80mm、断面高さ80mm、フランジ幅20mm、板厚1.6mmである。平板13の寸法は、長さ1000mm、幅120mmである。両部材とも材料は普通鋼であり、ヤング率206GPa、ポアソン比0.3、比重7.86である。また、軽量化を図るため、ハット型部材12の中央部分400mm長さ範囲の中央部14の板厚を1.2mmに減じた。
【0031】
市販の有限要素解析プログラム「MSC.Nastran」を用いて、上記剛性解析条件のデータを入力して、構造物11のハット型部材中央部14の板厚変更前後それぞれについて、剛性解析を実施し、構造物11の変位、応力分布、ひずみエネルギ分布を算出した。図9は、板厚変更前のひずみエネルギ分布を示し、図10は、板厚変更後のひずみエネルギ分布を示す。
【0032】
自製プログラムにより、剛性解析で得られた図9、図10に示すひずみエネルギ分布に基づいて、ひずみエネルギ差分を計算した。ひずみエネルギ差分の計算結果を図11に示す。図11より、ハット型部材中央部14のひずみエネルギ差分が大きいので、ハット型部材中央部14を、ひずみエネルギ勾配計算、補剛対象部位として選定した。
【0033】
自製プログラムにより、剛性解析により得られた図10に示すひずみエネルギ分布に基づいて、ひずみエネルギ勾配を計算した。その結果を図12に示す。
【0034】
本発明の補剛方法および従来方法により、構造物11の補剛を実施した。図13(a)は本発明による補剛であり、図12に示されたひずみエネルギ勾配の大きい部位に沿って、二箇所にビード15を設けた。ビード15の寸法は、それぞれ長さ390mm、幅15mm、深さ5mmである。また、図13(b)は従来方法による補剛であり、図10に示されたひずみエネルギ値の大きい部位にビード16を設けた。ビード16の寸法は、長さ100mm、幅50mm、深さ5mmである。
【0035】
補剛を実施した構造物11の形状を新たな剛性解析条件として剛性解析を実施し、補剛による剛性向上の効果を確認した。図14は、補剛前、従来方法による補剛、本発明による補剛における部材中央部のたわみ量を示し、板厚変更前は0.7012mm、板厚変更後は0.7868mm、従来方法による補剛は0.8465mm、本発明による補剛は0.7824mmであった。したがって、本発明による補剛が従来方法による補剛よりも効果が大きいことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、板状の部材によって構成される構造物の補剛方法として適用できる。
【符号の説明】
【0037】
1、11 構造物
2 ひずみエネルギ値の大きい部位
3 ひずみエネルギ勾配の大きい部位
4、5 ビード
12 ハット型部材
13 平板
14 ハット型部材中央部
15、16 ビード
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や電機製品など板状の部材によって構成される構造物において、弾性有限要素解析(以下、剛性解析)により計算された結果を用いて構造物の補剛を行なう方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車や電機製品など板状の部材によって構成される構造物の設計において、剛性解析により構造物に一定荷重あるいは一定変位を作用させた場合に生じる応力、変位、ひずみエネルギ、固有振動数などを計算し、これらの計算結果を参照しながら静剛性あるいは動剛性が高くなるような設計が行なわれている。
【0003】
この設計は、一般的には次のような手順で行なわれている。先ず、設計または評価対象となる構造物の元形状を準備する。次に、元形状に基づいて剛性解析の形状モデルを作成し、荷重や拘束などの境界条件を付与して計算を実施する。次に、計算結果から、応力や変位、ひずみエネルギの高い部位を抽出し、これらの部位を補強するようにして設計変更を行なう。その後、設計変更後の形状について剛性解析を実施し、再度応力や変位、ひずみエネルギの評価を行なう。
【0004】
しかしながら、この設計方法では、必ずしも応力や変位、ひずみエネルギの高い部位が補強するべき部位となるわけではなく、設計者の経験や試行錯誤により補強部位を決定していた。
【0005】
また、非特許文献1、非特許文献2などにおいては、構造各部の補剛、計算を繰り返して、評価すべき応力や変位、固有振動数に対する感度の高い部位を探索する最適化手法などが考案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「計算力学ハンドブック(I 有限要素法 構造編)」、日本機械学会、丸善、P.256〜P.292
【非特許文献2】「技術報告シリーズ22 構造最適化技術の検討」、自動車技術会、P.43〜P.77
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、従来は、剛性解析により構造各部のひずみエネルギを計算し、その分布度合いに応じて設計者が経験などを基にしたり試行錯誤したりしながら補剛方法を検討、設計していた。しかし、構造物が大規模、複雑化するにしたがい、剛性解析の結果においても構造内の多数の部位で応力、変位、ひずみエネルギが高位となり、補剛するべき箇所の特定が困難となっている。そのため、上記の最適化手法を適用しても、補剛、計算の繰り返しを数十回から数百、数千回も行なわなければ補剛部位を特定できず、多大な計算コストおよび時間を要する。
【0008】
また、近年、消費エネルギの軽減や運動性能の向上、コスト削減のため、構造物の軽量化要求が大きく、設計者は部品板厚の低減や部品点数の削減により対応を行なっている。しかし、部品板厚を低減すると一般に剛性は低下するため、軽量化と剛性を確保することは相反することになり、重量増を伴わずに補剛を行なうことは困難であった。
【0009】
そこで、本発明は、構造物の剛性を向上させるために補剛すべき箇所を容易に特定し、また、部材板厚を減じて構造物を軽量化しても剛性を確保できるための補剛方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するために、剛性解析の結果と補剛すべき箇所の関係について検討した結果、ひずみエネルギの勾配の大きい箇所を補剛すべきであることを見出し、本発明に至った。
【0011】
すなわち、本発明は、
(1)構造物の補剛方法であって、構造物全体のひずみエネルギを弾性有限要素解析により計算し、ひずみエネルギからひずみエネルギ勾配を算出し、ひずみエネルギ勾配の大きい箇所について、ひずみエネルギ勾配に沿って構造物を補剛することを特徴とする構造物の補剛方法。
(2)形状または寸法の変更を伴う構造物の補剛方法であって、構造物の形状または寸法の変更前後のそれぞれのひずみエネルギを弾性有限要素解析により計算し、ひずみエネルギから、変更前後のひずみエネルギ差分を算出し、ひずみエネルギ差分の大きい箇所において、変更後の構造物におけるひずみエネルギ勾配を算出し、ひずみエネルギ勾配に沿って構造物を補剛することを特徴とする構造物の補剛方法。
である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、剛性解析により構造物各部のひずみエネルギを計算し、その計算結果を用いて構造全体のひずみエネルギ勾配を算出し、勾配の大きい箇所を選択することにより、補剛箇所の特定を迅速に行なうことができる。また、ひずみエネルギ勾配の方向に沿ってビードを配置することによって、余分な重量増を伴わずに効果的に補剛することができる。さらには、複数の構成部材の板厚などの寸法が変更された場合でも、変更前後のひずみエネルギの差分の大きい箇所を選択し、ひずみエネルギ勾配に沿ってビードを配置することにより、大規模構造物の補剛箇所を容易に特定し補剛することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第一の実施形態にかかる補剛方法の流れを説明するフローチャートである。
【図2】本発明の第二の実施形態にかかる補剛方法の流れを説明するフローチャートである。
【図3】実施例1における構造物の外観を示す斜視図である。
【図4】実施例1におけるひずみエネルギ分布の解析結果を示す図である。
【図5】実施例1におけるひずみエネルギ勾配を示す図である。
【図6】図3の構造物の補剛位置を示す図であり、(a)は実施例1による補剛方法、(b)は従来方法による補剛方法である。
【図7】実施例1における補剛前後の剛性変化を示すグラフである。
【図8】実施例2における構造物の外観を示す斜視図である。
【図9】実施例2における板厚変更前の構造物のひずみエネルギ分布の解析結果を示す図である。
【図10】実施例2における板厚変更後の構造物のひずみエネルギ分布の解析結果を示す図である。
【図11】実施例2における板厚変更前後の構造物のひずみエネルギ差分を示す図である。
【図12】実施例2における構造物のひずみエネルギ勾配を示す図である。
【図13】図8の構造物の補剛位置を示す図であり、(a)は実施例2による補剛方法、(b)は従来方法による補剛方法である。
【図14】実施例2における補剛前後の剛性変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0015】
図1は、本発明の第一の実施形態を示すフローチャートである。図1を参照して、本発明の構造物の補剛方法を説明する。まず、剛性解析入力データとして、対象とする構造物の形状、材料の板厚、ヤング率、ポアソン比、比重、および拘束条件、荷重条件あるいは強制変位条件を設定し、これらの剛性解析入力データを入力し(101)、コンピュータの剛性解析プログラムにより剛性解析を行う(102)。上記剛性解析入力データに基づいてコンピュータが剛性解析を行うと、剛性解析結果として、構造物の変位、応力分布、ひずみエネルギ分布、固有振動数からなる剛性解析出力データを出力する(103)。
【0016】
次に、剛性解析出力データのひずみエネルギ分布を用いて、コンピュータにより構造物中のひずみエネルギ勾配を計算し(104)、ひずみエネルギ勾配出力データを出力する(105)。次に、このひずみエネルギ勾配出力データをコンタ図などで可視化して、ひずみエネルギ勾配の大きい部位を選定する(106)。そして、ひずみエネルギ勾配の大きい部位に沿って補剛を行ない(107)、補剛後の形状を補剛形状出力データとして出力する(108)。
【0017】
図2は、本発明の第二の実施形態を示すフローチャートであり、形状または寸法の変更を伴う構造物の補剛方法を示す。図2を参照して、本発明の構造物の補剛方法を説明する。まず、剛性解析入力データAとして、板厚を変更する前の構造物の形状、材料の板厚、ヤング率、ポアソン比、比重、および拘束条件、荷重条件あるいは強制変位条件を設定し、これらの剛性解析入力データAを入力し(201)、コンピュータの剛性解析プログラムにより剛性解析を行なう(202)。上記剛性解析入力データAに基づいてコンピュータが剛性解析を行なうと、剛性解析結果として、構造物の変位、応力分布、ひずみエネルギ分布、固有振動数からなる剛性解析出力データAを出力する(203)。さらに、剛性解析入力データBとして、板厚を変更した後の構造物の形状、材料の板厚、ヤング率、ポアソン比、比重、および拘束条件、荷重条件あるいは強制変位条件を設定し、これらの剛性解析入力データBを入力し(204)、コンピュータの剛性解析プログラムにより剛性解析を行なう(205)。上記剛性解析入力データBに基づいてコンピュータが剛性解析を行なうと、剛性解析結果として、構造物の変位、応力分布、ひずみエネルギ分布、固有振動数からなる剛性解析出力データBを出力する(206)。
【0018】
次に、剛性解析出力データAおよび剛性解析出力データBを用いて、コンピュータにより両者のひずみエネルギの差分を計算し(207)、ひずみエネルギ差分出力データを出力する(208)。次に、このひずみエネルギ差分出力データを可視化して、ひずみエネルギ差分値の大きい部位を選定する(209)。
【0019】
ひずみエネルギ差分の大きい部位について、剛性解析出力データBのひずみエネルギ分布を用いて、コンピュータにより構造物中のひずみエネルギ勾配を計算し(210)、ひずみエネルギ勾配出力データを出力する(211)。このひずみエネルギ勾配出力データをコンタ図などで可視化して、ひずみエネルギ勾配の大きい部位に沿って補剛を行ない(212)、補剛後の形状を補剛形状出力データとして出力する(213)。
【0020】
なお、ひずみエネルギ勾配およびひずみエネルギ差分の大きい箇所を選定する場合、周辺要素よりもひずみエネルギおよびひずみエネルギ差分が大きい部位を選定すればよいが、ひずみエネルギ勾配およびひずみエネルギ差分全体の上位20%以内、好ましくは上位10%以内である要素を含むように部位を選択する。
【0021】
剛性解析については、市販の有限要素解析プログラムや自製のプログラムを用いればよい。剛性解析用のプログラムでは、MSC.Nastran、MSC.Marc、ABAQUS、ANSYS等の市販のソルバがある。また、ひずみエネルギの勾配や差分の計算および可視化にも、市販または自製のプログラムを用いればよい。ひずみエネルギ勾配の可視化、ひずみエネルギ差分の計算および可視化のプログラムでは、animator3、MetaPost等の市販のポスト処理ツールがある。
【0022】
図1および図2の101、201、204のステップで入力される入力データは、都度外部の入力手段から入力してもよいし、プログラムの中で自動的にデータを取り込んでもよい。103、105、203、206、208、210のステップで出力される出力データは、電子ファイルとして生成し、必要に応じて自製プログラムの計算などで使用する。
【0023】
ひずみエネルギ勾配に沿って補剛する方法としては、板状の部材であれば凹凸の形状を設けたり、板厚を局部的に増したり、新たな部材を取り付けてもよい。
【0024】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【実施例1】
【0025】
本発明の第一の実施形態にかかる実施例として、図3に示す構造物1の剛性を高くするための補剛方法を求める。本実施例において、剛性の大小は、1次固有変形モードの固有振動数で判断し(固有振動数が大きいほど剛性が高い)、荷重、拘束なしでの固有振動計算について、有限要素解析により剛性解析を行なった。構造物1の寸法は、長さ380mm、端部断面直径60mm、中央部断面幅60mm、中央部断面高さ95mm、板厚2.3mmである。材料は、普通鋼であり、ヤング率206GPa、ポアソン比0.3、比重7.86である。
【0026】
市販の有限要素解析プログラム「MSC.Nastran」を用いて、上記剛性解析条件のデータを入力して剛性解析を実施し、構造物1の固有振動変形モード、固有振動数、ひずみエネルギ分布を算出した。図4は、剛性解析により得られたひずみエネルギ分布を示し、側面の中央部が、ひずみエネルギ値の大きい部位2として濃く表示された。
【0027】
次に、自製プログラムにより、図4に示すひずみエネルギ分布に基づいて、ひずみエネルギ勾配を計算した。図5は、ひずみエネルギ勾配を示し、側面の二箇所に、ひずみエネルギ勾配の大きい部位3が表示された。
【0028】
これらの結果を元に、本発明の補剛方法および従来方法により補剛を実施した。図6(a)は本発明による補剛であり、図5に示すひずみエネルギ勾配の大きい部位3に沿って、二箇所にビード(板状部材に凹凸を設けたもの)4を設けた。ビード4の寸法は、それぞれ長さ168mm、幅15mm、深さ5mmである。また、図6(b)は従来方法による補剛であり、図4に示すひずみエネルギ値の大きい部位2にビード5を設けた。ビード5の寸法は、長さ67mm、幅21mm、深さ5mmである。
【0029】
それぞれの方法で補剛を実施した構造物1の形状を新たな剛性解析条件として剛性解析を実施し、補剛による剛性向上の効果を確認した。図7は、補剛前、従来方法による補剛、本発明による補剛における1次固有モード固有振動数を示し、補剛前は931Hz、従来方法により補剛したものは962Hz、本発明により補剛したものは985Hzとなった。したがって、本発明による補剛方法が、従来方法による補剛よりも効果が大きいことがわかった。
【実施例2】
【0030】
本発明の第二の実施形態にかかる実施例として、図8に示す構造物11の剛性を高くするための補剛方法を求める。本実施例においては、剛性の大小は、部材中央部のたわみ量で判断する(たわみ量が小さいほど剛性が高い)。図8に示すように、構造物11の両端を単純支持し、構造物11の中央部に5kNの荷重を作用させた状態について、有限要素解析により剛性解析を行なった。対象構造物11は、ハット型部材12と平板13をスポット溶接により接合したものであり、ハット型部材12の寸法は、長さ1000mm、断面幅80mm、断面高さ80mm、フランジ幅20mm、板厚1.6mmである。平板13の寸法は、長さ1000mm、幅120mmである。両部材とも材料は普通鋼であり、ヤング率206GPa、ポアソン比0.3、比重7.86である。また、軽量化を図るため、ハット型部材12の中央部分400mm長さ範囲の中央部14の板厚を1.2mmに減じた。
【0031】
市販の有限要素解析プログラム「MSC.Nastran」を用いて、上記剛性解析条件のデータを入力して、構造物11のハット型部材中央部14の板厚変更前後それぞれについて、剛性解析を実施し、構造物11の変位、応力分布、ひずみエネルギ分布を算出した。図9は、板厚変更前のひずみエネルギ分布を示し、図10は、板厚変更後のひずみエネルギ分布を示す。
【0032】
自製プログラムにより、剛性解析で得られた図9、図10に示すひずみエネルギ分布に基づいて、ひずみエネルギ差分を計算した。ひずみエネルギ差分の計算結果を図11に示す。図11より、ハット型部材中央部14のひずみエネルギ差分が大きいので、ハット型部材中央部14を、ひずみエネルギ勾配計算、補剛対象部位として選定した。
【0033】
自製プログラムにより、剛性解析により得られた図10に示すひずみエネルギ分布に基づいて、ひずみエネルギ勾配を計算した。その結果を図12に示す。
【0034】
本発明の補剛方法および従来方法により、構造物11の補剛を実施した。図13(a)は本発明による補剛であり、図12に示されたひずみエネルギ勾配の大きい部位に沿って、二箇所にビード15を設けた。ビード15の寸法は、それぞれ長さ390mm、幅15mm、深さ5mmである。また、図13(b)は従来方法による補剛であり、図10に示されたひずみエネルギ値の大きい部位にビード16を設けた。ビード16の寸法は、長さ100mm、幅50mm、深さ5mmである。
【0035】
補剛を実施した構造物11の形状を新たな剛性解析条件として剛性解析を実施し、補剛による剛性向上の効果を確認した。図14は、補剛前、従来方法による補剛、本発明による補剛における部材中央部のたわみ量を示し、板厚変更前は0.7012mm、板厚変更後は0.7868mm、従来方法による補剛は0.8465mm、本発明による補剛は0.7824mmであった。したがって、本発明による補剛が従来方法による補剛よりも効果が大きいことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、板状の部材によって構成される構造物の補剛方法として適用できる。
【符号の説明】
【0037】
1、11 構造物
2 ひずみエネルギ値の大きい部位
3 ひずみエネルギ勾配の大きい部位
4、5 ビード
12 ハット型部材
13 平板
14 ハット型部材中央部
15、16 ビード
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の補剛方法であって、
構造物全体のひずみエネルギを弾性有限要素解析により計算し、ひずみエネルギからひずみエネルギ勾配を算出し、ひずみエネルギ勾配の大きい箇所について、ひずみエネルギ勾配に沿って構造物を補剛することを特徴とする構造物の補剛方法。
【請求項2】
形状または寸法の変更を伴う構造物の補剛方法であって、
構造物の形状または寸法の変更前後のそれぞれのひずみエネルギを弾性有限要素解析により計算し、ひずみエネルギから、変更前後のひずみエネルギ差分を算出し、ひずみエネルギ差分の大きい箇所において、変更後の構造物におけるひずみエネルギ勾配を算出し、ひずみエネルギ勾配に沿って構造物を補剛することを特徴とする構造物の補剛方法。
【請求項1】
構造物の補剛方法であって、
構造物全体のひずみエネルギを弾性有限要素解析により計算し、ひずみエネルギからひずみエネルギ勾配を算出し、ひずみエネルギ勾配の大きい箇所について、ひずみエネルギ勾配に沿って構造物を補剛することを特徴とする構造物の補剛方法。
【請求項2】
形状または寸法の変更を伴う構造物の補剛方法であって、
構造物の形状または寸法の変更前後のそれぞれのひずみエネルギを弾性有限要素解析により計算し、ひずみエネルギから、変更前後のひずみエネルギ差分を算出し、ひずみエネルギ差分の大きい箇所において、変更後の構造物におけるひずみエネルギ勾配を算出し、ひずみエネルギ勾配に沿って構造物を補剛することを特徴とする構造物の補剛方法。
【図1】
【図2】
【図7】
【図14】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図7】
【図14】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−250483(P2010−250483A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−98114(P2009−98114)
【出願日】平成21年4月14日(2009.4.14)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月14日(2009.4.14)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
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