説明

構造部材の載荷加熱試験装置

【課題】装置全体ではなく部分的な変更のみにより各種大きさの試験体の火災時破壊挙動を適切に観測し得る構造部材の載荷加熱試験装置を提供する。
【解決手段】加熱炉等の加熱装置1に、該加熱装置1で発生する熱を通過させる熱通過窓2が設けられた耐火マスク3を、前記加熱装置1の開口を覆うように取り付け、該耐火マスク3に対し載荷装置5を、前記熱通過窓2の外周を取り囲むように別体に配置することにより、前記熱通過窓2を塞ぐようにセットされる構造部材の試験体4に前記載荷装置5で圧縮荷重を付与する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造部材の載荷加熱試験装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、繊維強化プラスチック、特に炭素繊維強化プラスチック(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP:Glass Fiber Reinforced Plastics)、アラミド繊維強化プラスチック(AFRP:Aramid Fiber Reinforced Plastics)等の複合材料は、比剛性と比強度が優れており、従来よりも軽量構造が可能となることから、橋梁、車両、航空機、船舶、プラント等の構造部材といった各種分野で広く使用されている。
【0003】
しかしながら、前記繊維強化プラスチックはマトリックス樹脂が高温で軟化する。このため、構造物が加熱された際に、繊維強度に依存して挙動が予測しやすい引張荷重下とは異なり、圧縮荷重下においては樹脂の強度に依存する部分が多く挙動が予想し難い。
【0004】
かかる背景を鑑みて、金属部材構造と比べると、FRP部材構造の設計では、火災時のような高温環境における破壊挙動の把握が重要視されている。該構造に用いる部材の載荷加熱挙動を取得する必要性が高まっているが、このような挙動を観測する試験方法の国内基準はない。
【0005】
尚、建築構造部材の耐火試験装置の一般的技術水準を示すものとしては、例えば、特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2977918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されているような試験装置は、建築構造部材を対象としているため、装置の大型化が避けられず、しかも、建築構造部材のように規格寸法が定まっているものへの試験には適している反面、構造部材の試験体の寸法が小さいような場合には、対応が困難となり、装置全体を試験体の大きさに合わせて変更せざるを得なくなるという欠点を有していた。
【0008】
本発明は、斯かる実情に鑑み、装置全体ではなく部分的な変更のみにより各種大きさの試験体の火災時破壊挙動を適切に観測し得る構造部材の載荷加熱試験装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、開口が設けられた加熱室を有する加熱装置と、
前記開口を覆うと共に前記加熱装置で発生する熱を通過させる熱通過窓が設けられた耐火マスクと、
前記熱通過窓の外側周囲に設けられ、構造部材の試験体に圧縮荷重を付与する載荷装置と、を備え、
前記試験体は、前記熱通過窓を塞ぐように前記載荷装置にセットされることを特徴とする構造部材の載荷加熱試験装置にかかるものである。
【0010】
上記手段によれば、以下のような作用が得られる。
【0011】
構造部材の試験体を載荷装置にセットし、前記試験体に圧縮荷重を付与しつつ、加熱装置で熱を発生させると、該加熱装置で発生する熱が耐火マスクの熱通過窓から前記構造部材の試験体へ伝わって該試験体が加熱され、これにより、構造部材の載荷加熱挙動を取得し、火災時破壊挙動を観測することが可能となる。
【0012】
本発明では、前記加熱装置に対して、耐火マスクと載荷装置とを別体としているため、特許文献1に開示されているような建築構造部材を対象とした試験装置とは異なり、装置を大型化しなくて済み、しかも、構造部材の試験体の寸法が各種変更された場合には、耐火マスクの熱通過窓の大きさを変えると共に、載荷装置の調整を行うだけで対応が可能となり、加熱装置を含む装置全体を試験体の大きさに合わせて変更しなくて済む。
【0013】
前記構造部材の載荷加熱試験装置においては、前記耐火マスクを、
前記加熱装置の開口を覆い且つ中央部に前記熱通過窓が穿設された耐火パネルと、
該耐火パネルの外周縁部に固定される外枠と、
該外枠に掛け渡すように且つ前記熱通過窓を両側から挟むように前記耐火パネルの外面に固定される中間枠と
から構成すると共に、
前記載荷装置を、
前記中間枠に対し前記熱通過窓の外周を取り囲むように取り付けられ且つ前記試験体をセット可能な載荷架台と、
該載荷架台に取り付けられ且つ前記試験体に圧縮荷重を付与する加圧ジャッキと、
前記載荷架台に対し前記熱通過窓の外周縁部と試験体との間に介在されるよう取り付けられ且つ前記載荷架台への熱の伝わりを遮断する遮熱部材と
から構成することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の構造部材の載荷加熱試験装置によれば、装置全体ではなく部分的な変更のみにより各種大きさの試験体の火災時破壊挙動を適切に観測し得るという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の構造部材の載荷加熱試験装置の実施例を示す斜視図である。
【図2】本発明の構造部材の載荷加熱試験装置の実施例を示す正面図である。
【図3】本発明の構造部材の載荷加熱試験装置の実施例を示す側面図である。
【図4】本発明の構造部材の載荷加熱試験装置の実施例を示す平断面図であって、図2のIV−IV断面相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0017】
図1及び図2〜図4は本発明の構造部材の載荷加熱試験装置の実施例であって、該載荷加熱試験装置は、加熱装置1と、耐火マスク3と、載荷装置5とを備えてなる構成を有している。前記加熱装置1は、ガス等の燃料を燃焼させ熱を発生する加熱炉等のように開口1aが設けられた加熱室を有するものである。前記耐火マスク3は、前記加熱装置1の開口1aを覆うように取り付けられ、前記加熱装置1で発生する熱を通過させる熱通過窓2が設けられている。前記載荷装置5は、前記耐火マスク3に対し前記熱通過窓2の外周を取り囲むように別体に配置される。そして、構造部材の試験体4が前記熱通過窓2を塞ぐようにセットされ、該セットされる構造部材の試験体4に前記載荷装置5で圧縮荷重を付与するようにしてある。
【0018】
本実施例の場合、前記耐火マスク3は、前記加熱装置1の開口1aを覆い且つ中央部に前記熱通過窓2が穿設された耐火パネル6と、該耐火パネル6の外周縁部にボルト7にて固定されるC形鋼で組まれた外枠8と、該外枠8に掛け渡すように且つ前記熱通過窓2を両側から挟むように前記耐火パネル6の外面にボルト9にて固定されるC形鋼からなる中間枠10とから構成してある。尚、前記耐火パネル6は、図3及び図4に示す如く、ALCパネル6a(ALC:Autoclaved Lightweight aerated Concrete(オートクレーブ養生した軽量気泡コンクリート))に、シリカアルミナ系の耐熱繊維に無機及び微量の有機バインダーを加えて板状に成形したセラミックボード6bと、シリカアルミナ系の耐熱繊維を連続的に積層しブランケット状に成形したセラミックス繊維製断熱材6cとを貼り付けることにより構成してある。
【0019】
又、前記載荷装置5は、前記中間枠10に対し前記熱通過窓2の外周を取り囲むように保持板11にて取り付けられ且つ前記試験体4をセット可能なH形鋼で組まれた載荷架台5aと、該載荷架台5aに取り付けられ且つ前記試験体4に台座5bを介して圧縮荷重を付与する加圧ジャッキ5cと、前記載荷架台5aに対し前記熱通過窓2の外周縁部と試験体4との間に介在されるよう取り付けられ且つ前記載荷架台5aへの熱の伝わりを遮断する遮熱部材5dとから構成してある。尚、前記遮熱部材5dは、ALCパネルで形成してある。
【0020】
本発明で載荷加熱挙動を観測できる前記構造部材の試験体4の一例としては、コア材と呼ばれる密度の低い材料を、剛性及び強度の高いスキン(又はフェイスと呼ばれる)で挟み、軽量高剛性なサンドイッチ構造としたものが挙げられる。因みに、前記コア材には、機能性を考慮した上で、バルサ、アルミハニカム、アラミドハニカム、フォーム材(PVC、PET、PEI等)のような材料が一般的に用いられ、又、前記スキンには、炭素繊維強化プラスチック、ガラス繊維強化プラスチック、アラミド繊維強化プラスチック等の複合材料が用いられ、これらの繊維強化プラスチックのマトリックス樹脂としては、ポリエステル、ビニルエステル、エポキシ等が挙げられる。尚、前記構造部材の試験体4としては、前述の如きサンドイッチ構造のものに限らず、木材、コンクリート、鉄鋼、アルミニウム、プラスチック等を選定することも可能である。
【0021】
次に、上記実施例の作用を説明する。
【0022】
構造部材の試験体4を載荷装置5の載荷架台5aにセットし、加圧ジャッキ5cにより前記試験体4に台座5bを介して圧縮荷重を付与しつつ、加熱炉等の加熱装置1内でガス等の燃料を燃焼させ熱を発生させると、該加熱装置1で発生する熱が耐火マスク3の熱通過窓2から前記構造部材の試験体4へ伝わって該試験体4が加熱され、これにより、構造部材の載荷加熱挙動を取得し、火災時破壊挙動を観測することが可能となる。
【0023】
本実施例では、前記加熱装置1に対して、耐火マスク3と載荷装置5とを別体としているため、特許文献1に開示されているような建築構造部材を対象とした試験装置とは異なり、装置を大型化しなくて済み、しかも、構造部材の試験体4の寸法が各種変更された場合には、耐火マスク3の熱通過窓2の大きさを変えると共に、載荷装置5の調整を行うだけで対応が可能となり、加熱装置1を含む装置全体を試験体4の大きさに合わせて変更しなくて済む。
【0024】
ここで、仮に、前記載荷装置5の載荷架台5aが加熱装置1の熱によって加熱された場合、その温度上昇に伴う剛性の低下を補うべく、H形鋼で組まれる載荷架台5aを大きくしてその剛性を高めなければならなくなるが、前記載荷架台5aには前記熱通過窓2の外周縁部と試験体4との間に介在されるよう遮熱部材5dを取り付けているため、載荷装置5の載荷架台5aへの熱の伝わりが遮断され、その温度上昇に伴って剛性が低下することが避けられ、H形鋼で組まれる載荷架台5aを大きくしなくて済み、この点も装置全体をコンパクト化する上で有効となる。
【0025】
又、前記載荷架台5aに対し前記熱通過窓2の外周縁部と試験体4との間に介在されるよう遮熱部材5dを取り付けたことにより、試験体4の全面が加熱されず、試験体4の加熱面積が試験体4の面積よりも小さくなるが、このように試験体4の全面ではなく部分的に加熱が行われることに伴う試験結果へのサイズ効果を小さくするために、加熱面積ひいては試験体4の面積は大きい方が望ましい。
【0026】
しかし、試験体4の圧縮荷重が付与される方向の長さを長くすると、該圧縮荷重載荷によって試験体4が座屈変形する可能性があり、試験体4の長さは座屈変形が生じない範囲に収める必要があると考えられる。
【0027】
一方、前記試験体4の幅(圧縮荷重が付与される方向と直角な方向の寸法)は、試験体4の熱伝導率により決定することが望ましい。例えば、前記試験体4の面内熱伝導率が小さい場合は、試験体4の面積を大きくし且つ熱通過窓2の面積(暴露面積)を大きくして暴露面積/遮熱部材面積の比率を大きくし、遮熱部材5dによるサイズ効果を小さくすることが有効となる。
【0028】
逆に、前記試験体4の面内熱伝導率が大きい場合には、遮熱部材5dによるサイズ効果は小さいため、試験体4の面積を小さくし且つ熱通過窓2の面積を小さくして暴露面積/遮熱部材面積の比率を小さくすることも可能となる。
【0029】
因みに、繊維強化プラスチックの繊維による熱伝導率の差は、
アラミド繊維≪ガラス繊維<PAN系炭素繊維<ピッチ系炭素繊維
となる。
【0030】
こうして、装置全体ではなく部分的な変更のみにより各種大きさの試験体4の火災時破壊挙動を適切に観測し得る。
【0031】
尚、本発明の構造部材の載荷加熱試験装置は、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0032】
1 加熱装置
1a 開口
2 熱通過窓
3 耐火マスク
4 試験体
5 載荷装置
5a 載荷架台
5c 加圧ジャッキ
5d 遮熱部材
6 耐火パネル
6a ALCパネル
6b セラミックボード
6c セラミックス繊維製断熱材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口が設けられた加熱室を有する加熱装置と、
前記開口を覆うと共に前記加熱装置で発生する熱を通過させる熱通過窓が設けられた耐火マスクと、
前記熱通過窓の外側周囲に設けられ、構造部材の試験体に圧縮荷重を付与する載荷装置と、を備え、
前記試験体は、前記熱通過窓を塞ぐように前記載荷装置にセットされることを特徴とする構造部材の載荷加熱試験装置。
【請求項2】
前記耐火マスクを、
前記加熱装置の開口を覆い且つ中央部に前記熱通過窓が穿設された耐火パネルと、
該耐火パネルの外周縁部に固定される外枠と、
該外枠に掛け渡すように且つ前記熱通過窓を両側から挟むように前記耐火パネルの外面に固定される中間枠と
から構成すると共に、
前記載荷装置を、
前記中間枠に対し前記熱通過窓の外周を取り囲むように取り付けられ且つ前記試験体をセット可能な載荷架台と、
該載荷架台に取り付けられ且つ前記試験体に圧縮荷重を付与する加圧ジャッキと、
前記載荷架台に対し前記熱通過窓の外周縁部と試験体との間に介在されるよう取り付けられ且つ前記載荷架台への熱の伝わりを遮断する遮熱部材と
から構成した請求項1記載の構造部材の載荷加熱試験装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−83244(P2012−83244A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−230337(P2010−230337)
【出願日】平成22年10月13日(2010.10.13)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【Fターム(参考)】