説明

樋鉄皮の開き防止方法及びそのための開き防止機具

【課題】鉄皮を更新することなく、簡便な方法で大樋の立ち上がり部の端面の亀裂、あるいは溶銑樋の樋先部の端面の亀裂を防止すること。
【解決手段】大樋の立ち上がり部あるいは溶銑樋の樋先において、溶銑の流れ方向と直角方向に鉄皮2の上部を橋渡しするようにバー8で固定する。そのために、鉄皮2の上部に設けたヒンジ部7とヒンジ部7に基端部を回動可能に設けたバー8とバー8の先端部を着脱可能に固定する受け部9とからなる樋鉄皮の開き防止機具1を使用する。また、バー8の先端部及び受け部8に貫通孔を設け、バー8の先端部に設けた貫通孔は、受け部9に設けた貫通孔よりバー8の長手方向に沿った長さが等しいかあるいは短く、バー8の先端部を受け部9に位置させた状態において、バー8の先端部に設けた貫通孔の内側端部が受け部9に設けた貫通孔の内側端部よりもバー8の基端部側に位置するようにする。そしてこれらの貫通孔にコッター14を着脱することで、バー8の先端部を受け部9に着脱可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉からの溶銑やスラグ等が流動する大樋の立ち上がり部あるいは溶銑樋の樋先における鉄皮の開き防止方法及びそのための開き防止機具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、高炉などの溶解炉の出銑においては、溶銑と溶融スラグとが混在して炉から排出されるため、溶銑とスラグとを分離するために、図4の縦断面図に示すように大樋50が使用される。すなわち、大樋は、その後部に設けられた溶銑の出側の流路にダンパー51が取り付けられ、その後流路に設けられた立ち上がり部52までの間に溶銑が貯留できるように構成される。
【0003】
そして、この大樋は溶銑とスラグとをその比重差を利用してダンパー51により分離するものであり、ダンパー51で堰き止められたスラグは、スラグ排出口53から排出される。また、溶銑はダンパー51の下を通り、出側の流路に設けられた立ち上がり部52の上部から排出され、溶銑樋(図示せず)、溶銑傾注樋(図示せず)を経由して、トピードカー等の溶銑運搬容器(図示せず)に注入される。また、立ち上がり部52を設けることにより、ダンパー51と立ち上がり部52の間に溶銑が貯留できる仕組みになっており、よってこのダンパー51により、溶銑とスラグとを分離することができる。
【0004】
通常、大樋は、樋形状をした鉄皮54の内側に不定形耐火物等の耐火物55がライニングされた構造をしている。耐火物55は、溶銑やスラグ等の流れによって損耗するために定期的に補修されている。ところが、大樋の通銑稼働中に突発的に耐火物に亀裂が生じることがある。この亀裂により、耐火物が異常溶損したり、あるいはこの亀裂補修のために、使用中の大樋の残銑抜き作業を行わなければならず炉前作業負荷と耐火物補修コストが上昇することがしばしばあり、問題となる。特に、大樋の立ち上がり部52は、耐火物のライニング厚みが薄く、大樋の貯銑中には、その端面が外気と触れることとなり、加熱、冷却の熱スポ−ル現象を伴なう結果となる。したがって、この部分においては、亀裂の発生頻度が高い。特にこの端面を示す図5に示すように、外面から内側に向って亀裂56が入ると一旦操業を止めて補修する必要があるため非常に手間を要するという問題がある。
【0005】
また、大樋から排出される溶銑を傾注樋へ流す溶銑樋においても、その端面の排出部、つまり溶銑樋の樋先部は、常に加熱、冷却の熱スポ−ル現象を伴っているために、大樋と同じように亀裂が発生しやすくなる。
【0006】
この溶銑樋の樋先や大樋の立ち上がり部52の端面に発生する亀裂を防止するためには、従来、耐火物の耐熱衝撃性や強度、弾性率の大小などを調整することによる耐火物の材料用途開発などが、その手段として採られていた。また、亀裂に対してパッチング材や焼付け材等の補修材を充填して補修を行っていたが、完全に亀裂を防止することはできない。
【0007】
一方、樋はその構造上加熱、冷却の繰り返しによって、鉄皮が歪むことがあり、これに起因した耐火物の損傷とその対策も知られている。
【0008】
例えば、特許文献1には、加熱による鉄皮の過変形を防止するための鉄皮の補強構造及び冷却構造が記載されており、これによって種々のトラブルを無くすことができ、高炉操業の安定化及び炉材原単位低減に効果があるとされている。しかしながら、この方法は鉄皮の構造が大掛かりとなり、イニシャルコストのアップに繋がるという問題があり実用的でない。
【0009】
また、特許文献2には、鉄皮の横方向に対する拡がり変形を抑制するための鉄皮の構造が記載されているが、これを含めて特許文献1においても大樋の鉄皮を更新することにより初めて適用可能となるため、現状において使用中の大樋に容易、かつ簡便な方法でそのまま適用することはできない。
【特許文献1】実開昭58−12254号公報
【特許文献2】実開昭62−162246号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、鉄皮を更新することなく、簡便な方法での大樋の立ち上がり部の端面の亀裂、あるいは溶銑樋の樋先部の端面の亀裂を防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、大樋の立ち上がり部の端面の亀裂、及び溶銑樋の樋先の亀裂については、使用時に鉄皮が膨張することによって外側に開き、その結果立ち上がり部を含む樋先端面への耐火物の拘束力が低下することによって、外周部から内面へかけての亀裂が発生すると推定した。そして、亀裂発生を防止するために、大樋の立ち上がり部、及び溶銑樋の樋先における鉄皮の開きを防止することに着目した。
【0012】
すなわち、本発明は、大樋の立ち上がり部あるいは溶銑樋の樋先において、溶銑の流れ方向と直角方向に鉄皮の上部を橋渡しするようにバーで固定する樋鉄皮の開き防止方法である。
【0013】
この樋鉄皮の開き防止方法においては、バーの基端部を鉄皮の上端部に回動可能に取り付け、先端部を鉄皮の上端部に着脱可能に固定し、しかも鉄皮の側壁の内傾を妨げないように設けることができる。
【0014】
また、本発明の樋鉄皮の開き防止機具は、大樋の立ち上がり部あるいは溶銑樋の樋先の鉄皮上部に設けたヒンジ部と、ヒンジ部に基端部を回動可能に取り付けたバーと、ヒンジ部を設けた鉄皮上部と対向する鉄皮上部に設けられたバーの先端部を着脱可能に固定する受け部とからなるものである。
【0015】
また、バーの先端部及び受け部に貫通孔を設け、バーの先端部に設けた貫通孔は、受け部に設けた貫通孔よりバーの長手方向に沿った長さが等しいかあるいは短く、バーの先端部を受け部に位置させた状態において、バーの先端部に設けた貫通孔の内側端部が受け部に設けた貫通孔の内側端部よりもバーの基端部側に位置するようにし、さらに、これらの貫通孔を貫通するコッターを設けたものとすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、大樋の立ち上がり部の端面、あるいは溶銑樋の樋先に発生する亀裂を防止することができるため、安定した操業、高生産が確保できる。また、この部分の亀裂発生によって耐火物の補修を行う頻度が少なくなり、耐火物の補修コストも削減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面に示す実施例(大樋の立ち上がり部をモデル)に基づき本発明の実施の形態を説明する。
【0018】
図1は、本発明の大樋鉄皮の開き防止機具の実施例を示す正面図、図2はその要部平面図、図3は図1のA−A断面図である。
【0019】
図1は、大樋の立ち上がり部の端面側から見た図であり、鉄皮2の内側に耐火物3をライニングし、鉄皮2のそれぞれの側壁4の上端部にはそれぞれ板状の天板5を設けている。そして、この大樋の溶銑通路6を挟んで、溶銑の流れに対して直角方向に鉄皮2の上部を橋渡しするようにバー8を固定することで本発明の樋鉄皮の開き防止機具1が取り付けられている。すなわち、本発明の樋鉄皮の開き防止機具1は、鉄皮2の上部に設けたヒンジ部7と、ヒンジ部7に基端部を回動可能に設けたバー8と、バー8の先端部を着脱可能に固定する受け部9とからなる。ヒンジ部7と受け部9とはそれぞれ対向する鉄皮2の上部(天板5)に設けられている。
【0020】
ヒンジ部7においては、2つの固定板11間に設けたピン15をバー8の基端部の貫通孔10に挿通することによって、バー8の基端部が回動可能に固定されている。
【0021】
受け部9は、隙間を設けて対向して設けた2つの板9a,9aからなり、その板9a,9aには貫通孔13が設けられている。この2つの貫通孔13は同じ大きさとなっている。また、バー8の先端部にも貫通孔12が設けられている。そして、受け部9の2つの板9a,9aの間にバー8の先端部を入れ、バー8の貫通孔12と受け部9の貫通孔13を整合させてこれらの貫通孔12,13にコッター14を着脱することで、バー8の先端部を受け部9に着脱可能としている。
【0022】
バー8の先端部に設けた貫通孔12は、受け部9に設けた貫通孔13よりバーの長手方向に沿った長さが等しいかあるいは短くしている。さらに、図3に示すように、バー8の先端部を受け部9に位置させた状態において、バー8の先端部に設けた貫通孔12の内側端部12aが受け部9に設けた貫通孔13の内側端部13aよりもバー8の基端部側に位置するようにしている。つまり、鉄皮2は外側への開きは拘束されているが、内側の動き(内傾)はフリーとなっている。このことで、鉄皮2の外側への開きを防止でき、しかも冷却時にはバー8に掛かる圧縮応力を緩和できる。その結果、バー8が圧縮応力を受けて曲がってしまうといった機具の破損を防止することができる。
【0023】
実際に使用するにあたっては、鉄皮2に耐火物3をライニングした後、バー8を倒して水平にして、受け部9の貫通孔13とバー8先端部の貫通孔12との位置を合わせて、コッター14を挿入することでバー8を固定する。
【0024】
大樋休止後の耐火物の継足し施工や補修等の場合にはコッター14を外し、さらにバー8を外側に倒すことで、補修作業の邪魔にならないようにする。
【0025】
本発明は、大樋の立ち上がり部、あるいは溶銑樋の樋先部に同様に適用することで、耐火物端面に発生する亀裂を防止することができ、高生産性確保や耐火物補修コストも削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の樋鉄皮の開き防止機具の実施例を示す正面図である。
【図2】図1の要部平面図である。
【図3】図1のA−A断面図である。
【図4】大樋の構成を示す縦断面図である。
【図5】大樋の立ち上がり部の端面を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0027】
1 樋鉄皮の開き防止機具
2 鉄皮
3 耐火物
4 側壁
5 天板
6 溶銑通路
7 ヒンジ部
8 バー
9 受け部
9a 板
10 バー基端部の貫通孔
11 固定板
12 バー先端部の貫通孔
12a 貫通孔の内側端部
13 受け部の貫通孔
13a 貫通孔の内側端部
14 コッター
15 ピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大樋の立ち上がり部あるいは溶銑樋の樋先において、溶銑の流れ方向と直角方向に鉄皮の上部を橋渡しするようにバーで固定する樋鉄皮の開き防止方法。
【請求項2】
バーの基端部を鉄皮の上端部に回動可能に取り付け、先端部を鉄皮の上端部に着脱可能に固定し、しかも鉄皮の側壁の内傾を妨げないように取り付ける請求項1に記載の樋鉄皮の開き防止方法。
【請求項3】
大樋の立ち上がり部あるいは溶銑樋の樋先の鉄皮上部に設けたヒンジ部と、ヒンジ部に基端部を回動可能に取り付けたバーと、ヒンジ部を設けた鉄皮上部と対向する鉄皮上部に設けられたバーの先端部を着脱可能に固定する受け部とからなる樋鉄皮の開き防止機具。
【請求項4】
バーの先端部及び受け部に貫通孔を設け、バーの先端部に設けた貫通孔は、受け部に設けた貫通孔よりバーの長手方向に沿った長さが等しいかあるいは短く、バーの先端部を受け部に位置させた状態において、バーの先端部に設けた貫通孔の内側端部が受け部に設けた貫通孔の内側端部よりもバーの基端部側に位置するようにし、さらに、これらの貫通孔を貫通するコッターを設けた請求項3に記載の樋鉄皮の開き防止機具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−249560(P2006−249560A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−71811(P2005−71811)
【出願日】平成17年3月14日(2005.3.14)
【出願人】(000170716)黒崎播磨株式会社 (314)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】