説明

標的が携わる機能的カスケードを選択的に修飾できるリガンドを同定する方法、及び興味対象分子のハイスループットスクリーニングのためのその使用

本発明は、標的が携わる機能的カスケードを選択的に修飾することができるリガンドを同定するための方法、及び興味対象の分子、特に治療上の分子(薬剤)のハイスループットスクリーニングのためのその使用に関する。上記の方法は、少なくとも次の工程を含む:a) 上記の標的に結合できかつ該標的が携わる上記の機能的カスケードを修飾できる、抗体又は免疫グロブリン鎖の可変ドメインの少なくとも1つを含む抗体フラグメントを同定し;b) 分子の群から、上記の標的とa)で同定された抗体又は抗体フラグメントとの間の結合を修飾するリガンドをスクリーニングし;そしてc) b)で得られた修飾性リガンドのうち、上記の機能的カスケードを修飾できるものを同定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的分子又は標的が携わる機能的カスケード(functional cascade)を選択的に修飾(modulating)できるリガンドを同定する方法、及び興味対象分子、特に治療的興味対象分子(薬剤)のハイスループットスクリーニングのためのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
著しい数の新規な可能性のある治療上の標的の同定に導いているゲノミクス及びプロテオミクスの分野における最近の進歩は、薬学分野において非常に興味深い見通しを切り開いている。
しかし、新規薬剤の発見は、効果的な分子のライブラリのハイスループットスクリーニング方法、すなわち、制限された数の選択された分子(ヒット)から、治療されることを意図する病理に対してインビボで活性な分子(リード)を単離することを可能にする方法の開発を伴う。
実際に、スクリーニングの間に選択されたヒットの活性を確かめることを可能にする機能性試験(細胞培養におけるインビトロで又は適切な動物モデルにおけるインビボで)は、通常、ハイスループットに適用可能ではない。
【0003】
ほとんどの真核タンパク質は多機能性であり、いくつかの機能的カスケードに携わるので、単離された分子は、その修飾が細胞にとって有害な影響となり得るその他の活性に影響することなく、標的の興味対象の特性を特異的に修飾できなければならない。従って、スクリーニングは、同定されたヒットの数を最大限に限定するために特異性が高くなければならず、そのことにより、インビボでの機能性試験において試験しなければならないのはそれらの少数のみである。
【0004】
また、これらのスクリーニング方法は、行うのが容易でかついずれの標的にも適用可能でなければならない。
【0005】
この目的を持って、標的とペプチド又はオリゴヌクレオチド(アプタマ)との相互作用を模倣する分子(ミモトープ)の同定に基づくスクリーニング方法が提案されている。
アプタマ及び/又はペプチドを用いるスクリーニング方法は、Lapanら, Expert Opin. Ther. Targets, 2002, 6, 507〜516; Greenら, BioTechniques, 2001, 30, 1094〜1110; Burgstallerら, Drug Discovery Today, 2002, 7, 1221〜1228; PCT国際出願WO 98/19162及びWO 03/059943並びに米国特許第6329145号に説明されている。
【0006】
第一工程において、標的に結合できるアプタマ/ペプチドをインビトロで選択し、次いで、標的についてのそれらの修飾活性を、適切な細胞系におけるインビトロで又は適切な動物モデルにおけるインビボでの機能性試験により、確かめる。
第二工程において、標的に対して修飾活性を有するアプタマ/ペプチドを、アプタマ/ペプチドと標的との間に存在する結合を置き換えることができるヒットを同定するための競合的結合アッセイにおいて用いる。標的についてのヒットの修飾活性は、その後、「リード」分子を単離するために、細胞培養におけるインビトロで又は適切な動物モデルにおけるインビボでの機能性試験により確かめられる。
【0007】
これらの方法は、ヒト血小板由来成長因子のBBアイソフォーム(PDGF BB)及びヒト免疫不全ウイルス(HIV) Revタンパク質のような標的で確認されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、代替のスクリーニング方法を開発することを目的とした。本発明者らは、従来技術において記載されるようなスクリーニング法において、修飾性(modulatory)抗体若しくは抗体フラグメントで修飾性のアプタマ又はペプチドを置き換えることにより、標的が携わる機能的カスケード(代謝カスケード、活性化カスケード、シグナリングカスケードなど)を選択的に修飾できる分子を同定することが可能になることを示した。
【0009】
抗体は、タンパク質のいずれの領域を特異的にかつ高い親和性(1 nMのオーダーで)で認識するという利点を有する。特に、抗体は、このタンパク質の表面の部位を認識でき、よって、タンパク質−タンパク質相互作用を介する機能的カスケードに携わるタンパク質の領域を特異的に阻害するために非常に有利である。特に、Sykタンパク質チロシンキナーゼのSH2ドメインに指向された抗体フラグメント(scFv)が、ホスホリパーゼC-γ2経路(PLC-γ2; Dauvilliersら, J. Immunol., 2002, 169, 2274〜2283)をインビボで特異的に阻害できることが示されている。従って、抗体又は抗体フラグメントを用いるスクリーニング方法により単離されたミモトープは、特に標的についての親和性/特異性の点で同じ特性を有するはずである。
【0010】
例えば、本発明者らは、Sykタンパク質チロシンキナーゼのSH2ドメインに指向されかつPLC-γ2経路を阻害できる抗体を用いて、3000分子のライブラリをスクリーニングした。選択されたSykタンパク質の10のリガンドのうち少なくとも1は、Sykタンパク質に依存的であるRas経路を損なうことなく、PLC-γ2経路にインビボで作用する阻害分子であった。
【0011】
逆に、アプタマ及びペプチドが抗原のいずれの表面抗原を認識できることは示されていない。それらのサイズが小さいので、ペプチド及びアプタマは、表面よりもむしろ標的の空隙で相互作用するのにより適し、このことは酵素活性を阻害するのには好ましいが、機能的カスケードを阻害するのにはあまり有利でない。
【0012】
さらに、いくつかの組換えモノクローナル抗体は、治療において用いられる。例えば、セツキシマブ(抗EGFR)、リツキシマブ(抗CD20)、インフリキシマブ(抗TNF)などが挙げられる。これらの抗体は、最も一般的にはマウス/ヒトのキメラ抗体、又はヒト化抗体である。これらの抗体は作製するのが難しく、非常に高価である。本発明者らにより提案されるスクリーニング法は、これらの抗体を、より低いコストで(少なくとも10分の1(a factor of 10))容易に生産される、同じ阻害特性を有する化学分子で置き換えることを可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
従って、本発明の主題は、少なくとも次の工程:
a) 標的に結合できかつ該標的が携わる機能的カスケードを修飾できる、抗体又は免疫グロブリン鎖の可変ドメインの少なくとも1つを含む抗体フラグメントを同定し、
b) 上記の標的とa)で同定された抗体又は抗体フラグメントとの結合を修飾するリガンドを、分子のライブラリを用いてスクリーニングし、そして
c) b)で得られた修飾性リガンドから、上記の機能的カスケードを修飾できるものを同定する
を含むことを特徴とする、標的が携わる機能的カスケードを選択的に修飾できるリガンドを同定する方法である。
上記で規定される本発明の方法の工程は、図1に模式的に示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
定義
以下の用語:
「機能的カスケード」は、各反応が前の反応に依存しかつ細胞内での測定可能な生物活性をもたらす細胞内の反応(酵素反応、分子相互作用、立体配置変換、化学修飾)の連続を伴う代謝経路、シグナリング経路又は活性化カスケードを意味することを意図する。
「修飾」は、正又は負の修飾:全体的又は部分的な活性化若しくは阻害を意味することを意図する。
【0015】
「機能的カスケードに携わる標的」は、上記の標的の明確な部位又は領域にそれぞれ結合する1又は複数のリガンド(又は既知若しくは未知の天然パートナー)と相互作用できる、生物(ヒト、動物、植物)の細胞又は微生物(ウイルス、細菌、真菌、寄生体)のいずれの分子を意味することを意図する(図2)。リガンドの結合は、上記の細胞又は上記の微生物の生理的又は病理学的プロセスに携わる機能的カスケードを修飾し、上記の細胞又は微生物における測定可能な生物活性をもたらす。上記の標的は、特に、タンパク質、ペプチド、ポリヌクレオチド(DNA、RNA)、脂質、糖又は上記のものの誘導体(糖タンパク質、糖脂質など)であり得る。
【0016】
図3は、とりわけ2つの活性化カスケードに携わる多機能性タンパク質であるSykタンパク質チロシンキナーゼ(PTK)の例を説明する。Rasタンパク質の活性化、次いでMAPKの活性化をもたらす第一のもの(カスケード1)は、Bリンパ球、肥満細胞、好塩基球及びTリンパ球の副次集団を含むリンパ系統のある細胞の増殖及び分化に携わり(第一生物活性)、PTK Btk及びホスホリパーゼC-γ2 (PLCγ2)の活性化、並びに細胞内のカルシウム流れの増大をもたらす第二のもの(カスケード2)は、脱顆粒及び肥満細胞によるアレルギー性メディエイタの放出をもたらす(第二生物活性)。選択的に阻害されることが意図される機能的カスケードはカスケード2であり、これはアレルギーの予防及び/又は治療において用いられるが、カスケード1は、細胞に有害な副作用(腫瘍攻撃性; Coopmanら, Nature, 2000, 406, 742〜747)をもたらし得るので阻害すべきでない。
【0017】
「分子のライブラリ」又はコンビナトリアルライブラリは、それらの構造、それらの起源又はそれらの機能により関連する抗体又は抗体フラグメント以外の一連の分子を意味し、特に、それらの基本の構成要素の系統的又は無作為な置換により互いに異なる分子、例えばペプチド、オリゴヌクレオチド(アプタマ)及びオリゴ糖のようなオリゴマーのライブラリ、又はオリゴマー以外の環状若しくは非環状有機分子、特に有機小分子、すなわち2500 Da未満、好ましくは2000 Da未満、好ましくは1500 Da未満、好ましくは1000 Da未満、さらにより好ましくは750 Da未満の分子質量を有する有機小分子のライブラリを含むコンビナトリアルライブラリを意味することを意図する。
【0018】
「抗体フラグメント」は、従来の免疫グロブリンの重鎖の可変ドメイン(VH)及び/又は軽鎖の可変ドメイン(VL)、あるいは単鎖免疫グロブリンの可変ドメインを少なくとも含む、標的に結合できるフラグメント、例えばFab、Fv、scFv又はVHHフラグメントを意味することを意図する。
【0019】
「上記の標的に結合できかつ該標的が携わる機能的カスケードを修飾できる抗体又は抗体フラグメント」は、上記の標的に結合できかつ上記の標的の興味対象部位でそのリガンド(天然のパートナー)とのインビボでの相互作用を模倣できる抗体又は抗体フラグメントを意味することを意図する。上記の抗体又は抗体フラグメントにより認識される標的のエピトープは、上記の標的の興味対象部位と部分的又は全体的に重複する(図2B)。
【0020】
分子のライブラリのスクリーニング[工程b)]、又は抗体若しくは抗体フラグメントのライブラリのスクリーニング[標的に結合できる抗体又は抗体フラグメントを同定するための工程a)]は、2つのパートナー間の相互作用を測定するための当業者に知られるいずれの方法によっても行われる(ELISA、共鳴エネルギー転移(FRET)、蛍光偏光、表面プラズモン共鳴)。工程a)及びb)は、標的又は標的の誘導体、例えば興味対象部位を少なくとも含むフラグメント、ミモトープ又は標的の上記の興味対象部位の内部イメージ(internal image)を表現する(representing)抗イディオタイプ抗体を用いて行われる。上記の標的及びその誘導体又は抗体若しくは抗体フラグメントは、任意に、適切な支持体上に固定化されているか及び/又は当業者に知られる測定可能なシグナルを得るためのいずれの手段により標識されていてよい。
【0021】
上記の標的が携わる機能的カスケードを選択的に修飾できるリガンド又は抗体若しくは抗体フラグメントの同定は、上記の機能的カスケードに起因する生物活性を測定する機能性試験により行われる。これは、特に、適切な細胞系でのインビトロ試験、又は適切な生物でのインビボ試験である。
【0022】
培養にある細胞は不死化できるか又は初代培養であり得、接着しているか又は懸濁状態であり得る。生存生物は、いずれの実験用又は研究用の生物又は微生物(動物(げっ歯類、ウサギ、ブタ、ウシ、ヒツジ科のメンバーなど)又はトランスジェニック若しくは非トランスジェニック植物、寄生体など)であり得る。
適切な細胞系及び生物のうち、特に、上記の機能的カスケードを伴う生理的又は病理学的プロセスのモデル、限定しないが例えば糖尿病、アレルギー、関節炎又は喘息のモデルであるものを挙げることができる。
【0023】
有利には、上記の標的が携わる機能的カスケードを修飾できる抗体又は抗体フラグメントの同定は、上記の抗体又はそれらのフラグメント(細胞内である抗体又は抗体フラグメント)の発現用ベクターで改変された細胞において行われる。
細胞系でのインビトロでの、又は適切な生物におけるインビボでのこの確認において用いられる機能性試験は、治療的又は治療的でない目的のために修飾されようとする生物活性に依存する。細胞における測定できる生物活性の限定しない例としては、特に、分裂、移動(migration)、脱顆粒、膜を介する輸送、分化、アポトーシス、複製、転写、及びサイトカインのような因子の産生が挙げられる。インビトロ又はインビボで上記の生物活性を測定するための機能性試験は、当業者に知られている。
【0024】
上記の方法の有利な実施形態によると、a)における上記の抗体又は抗体フラグメントの同定は、抗体又は抗体フラグメントのライブラリ、好ましくはscFvフラグメントのライブラリ、好ましくはその表面でscFvフラグメントを発現するファージのライブラリをスクリーニングすることにより行われる。
【0025】
上記の抗体の同定は:
- 上記の標的に結合できる抗体又は抗体フラグメントを、特にファージ-ELISAによりスクリーニングすることからなる第一工程と
- 特に、上記の抗体又は抗体フラグメント(細胞内である抗体又は抗体フラグメント)を発現するためのベクターで改変された細胞において、上記の機能的カスケードを修飾できる抗体又は抗体フラグメントを同定することからなる第二工程と
を含み得る。
【0026】
より具体的には、スクリーニング工程で選択される抗体又は抗体フラグメント、特scFvフラグメントは、次いで、適切なベクターにクローニングされ、このようにして得られた組換えベクターで改変された細胞、特に真核細胞、例えば哺乳動物細胞で発現される。細胞内抗体と呼ばれる(Cattaneoら, Trends in Biotechnology, 1999, 17, 115〜121)このような抗体又は抗体フラグメントは、標的が発現される改変細胞の区画(核、細胞質、分泌区画)内の標的に結合できる機能的な形で発現される。さらに、選択される抗体又は抗体フラグメントの配列に変異を導入して、細胞内、特に真核細胞内でのそれらの溶解性及び/又はそれらの構造を改善することができる。考え得る変異としては、特に、Hurleら, PNAS USA, 1994, 91, 5446〜5450及びMartineauら, J. Mol. Biol., 1998, 280, 117〜127に記載される点突然変異が挙げられる。さらに、安定性及び/又は親和性が増大した抗体又は抗体フラグメントは、上記のCattaneoらに記載されるようなさらなる表現型選択工程により選択できる。
【0027】
あるいは、上記の機能的カスケードを修飾できる抗体又は抗体フラグメントの同定は、上記のCattaneoらに記載されるような原理に従って、抗体又は抗体フラグメントのライブラリで改変された細胞の適切な表現型選択により行われる。
【0028】
上記の方法の別の有利な実施形態によると、スクリーニング工程b)は:
- 試験されるべき分子のライブラリを標的又は上記で規定されるその誘導体の1つと接触させ、
- 任意に標識された抗体又は抗体フラグメントを加え、そして
- 上記の分子ライブラリの存在下又は非存在下で、いずれの適切な手段により、標的に結合した抗体の相対量を測定する
ことを含む。
【0029】
上記の方法の別の有利な実施形態によると、スクリーニング工程b)は、上記の抗体又は抗体フラグメントとの競合の下での上記の標的の結合についての試験により行われ、標的/抗体又は抗体フラグメント複合体から上記の抗体又は抗体フラグメントを置き換える、上記の標的のリガンドを単離する。
【0030】
この実施形態の例は:
- 任意に標識された抗体又は抗体フラグメントを、標的又は上記で規定されるその誘導体の1つと接触させ、
- 試験されるべき分子のライブラリを加えて、抗体又は抗体フラグメントを標的のフラグメントとのその複合体から置き換えることができる分子を検出し、そして
- 上記の分子のライブラリの存在下又は非存在下で、いずれの適切な手段により、標的に結合した抗体の相対量を測定する
ことを含む。
【0031】
この実施形態の別の例は:
- 任意に標識された抗体又は抗体フラグメントを、試験されるべき分子のライブラリと混合し、
- 上記の混合物を、上記で規定される標的又はその誘導体の1つと接触させ、そして
- 上記の分子のライブラリの存在下又は非存在下で、適切な手段により、標的に結合した抗体の相対量を測定する
ことを含む。
【0032】
標的と抗体との結合を修飾する分子の能力は、別々に試験されるライブラリの各分子の存在下または非存在下で抗体結合シグナルの値を比較することにより測定される。
【0033】
上記の方法の別の有利な実施形態によると、工程a)及びc)は、上記の機能的カスケードに起因する生物活性を測定する機能性試験により、特に、適切な細胞系でのインビトロ試験によるか又は適切な生物でのインビボ試験により行われる。
【0034】
上記の方法の別の有利な実施形態によると、上記の標的は、酵素、受容体、アダプタタンパク質、輸送体(transporter)、シャペロンタンパク質及び調節タンパク質から選択される。
これらのタンパク質の限定しない例としては、タンパク質チロシンキナーゼ、例えばSykタンパク質のような酵素;IL-13受容体、EGF受容体又はTNF受容体のようなサイトカイン受容体;SLP-76及びE6-APのようなアダプタタンパク質;HSP70及びHSP60のようなシャペロンタンパク質;及びNF-κB、I-κB、Akt、PSAT-1、p53、p73及びBcl2ファミリーのような調節タンパク質が挙げられる。
【0035】
上記の方法の別の有利な実施形態によると、a)における上記の抗体又は抗体フラグメントは、Sykタンパク質のSH2ドメインに指向され、PLCγ-2経路を阻害できる。このような抗体は、病理、例えば最も深刻な場合は結膜炎、アレルギー性鼻炎、外因性喘息、クインケ浮腫及びアナフィラキシーショックの予防及び/又は治療に用いることができる、1型過敏症反応に特異的に作用する薬剤を同定することを可能にする。
【0036】
上記の方法の別の有利な実施形態によると、b)における上記の分子ライブラリは、有機小分子のライブラリである。
【0037】
本発明の主題は、少なくとも:
- 機能的カスケードに携わる標的、上記で規定される興味対象部位を少なくとも含む上記標的のフラグメント、上記の標的のミモトープ、又は標的の上記の興味対象部位の内部イメージを表現する抗イディオタイプ抗体、
- 上記の標的に結合できかつ上記の標的が携わる上記の機能的カスケードを修飾できる、抗体又は免疫グロブリン鎖の可変ドメインの少なくとも1つを含む抗体フラグメント、あるいは上記で規定される抗体又は抗体フラグメントのライブラリ、並びに
- 上記で規定される、試験されるべき分子のライブラリ
を含むことを特徴とする、上記で規定される方法を行うためのキットでもある。
【0038】
本発明による方法は、上記で規定されるいずれの種類の細胞又は微生物の生理的又は病理学的プロセスに対して作用できる、治療上又は治療上でない興味の対象のいずれの種類の分子をスクリーニングするのに用いることができる。
これは、治療上又は治療上でない興味の新規な特性を示す分子、又は比活性及び/又は治療係数が改善されたこれらの分子の誘導体をスクリーニングするのに用いることができる。
分子ライブラリは、当業者に知られる、コンビナトリアル化学合成の通常の方法に従って調製される。
【0039】
上記で規定される抗体又は抗体フラグメントは、当業者に知られる通常の方法、例えばAntibodies: A Laboratory Manual, E. Howell and D Lane, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988に記載されるものにより作製される。より具体的には:
- モノクローナル抗体は、Kohler及びMilstein (Nature, 1975, 256, 495〜497)の方法に従って、免疫された動物からのBリンパ球とミエローマとの融合により得られるハイブリドーマから産生される。ハイブリドーマは、インビトロで、特に醗酵槽で培養されるか、又はインビボで、腹水の形で産生される。あるいは、上記のモノクローナル抗体は、Methods in Molecular Biology: Antibody Phage Display Methods and Protocols, P.M. O'Brien及びR. Aitken. Humana Press, 第178巻, 2002に記載されるようにして、遺伝子工学により産生される。例えば、等容量の完全フロイントアジュバント中の抗原の腹腔内注射による最初の免疫化、及び同じ条件ではあるがこの場合は不完全フロイントアジュバントを用いる、15日後の2回目の免疫化(ブースター)を含む標準的なプロトコルに従って、適切な動物を、標的又はそのフラグメントの1つで反復免疫する。モノクローナル抗体は、最後のブースターの2週間後に動物を犠牲にし、脾臓を回収し、脾臓リンパ球を懸濁し、これらのリンパ球を、いずれのマウス抗体を産生せず、不死化されかつ免疫グロブリンの分泌に要求される全ての機構を有するSP2/0マウス細胞系統と融合させることを含む標準的なプロトコルに従って産生される。
【0040】
- 抗体のライブラリは、ハイブリドーマ又はナイーブ若しくは予め免疫された個体の脾臓リンパ球のmRNAからクローニングされたVH及びVL領域から産生される天然のライブラリ、あるいは組換えライブラリのいずれかである。例えば、Fv、scFv又はFabフラグメントは、Winter及びMilstein, Nature, 1991, 349, 293〜299により最初に記載された技術に従って、線状ファージの表面で発現される(Methods in Molecular Biology: Antibody Phage Display Methods and Protocols, P.M. O'Brien及びR. Aitken. Humana Press, 第178巻, 2002; Knappikら, J. Mol. Biol., 2000, 296, 57〜86; Vaughanら, Nature Biotech, 1996, 14, 309〜314)。
【0041】
- 標的特異的抗体は、上記で規定されるライブラリ、特にファージライブラリをスクリーニングすることにより単離される。数回の選択工程の後に、標的特異的抗体フラグメントを発現するファージが単離され、該フラグメントに対応するcDNAが、組換えDNAのクローニング及び発現のための通常の技術により、適切な発現系で発現される。好ましくは、上記のcDNAは、少なくともその-NH2又はCOOH端に上記の抗体フラグメントの検出のためのタグ、例えばエピトープ(c-myc、HA)を含む融合タンパク質の形で、原核発現ベクター及び真核発現ベクターの両方にクローニングされる。上記の融合タンパク質は、端の一方に、抗体フラグメントの精製のためのタグ、例えばニッケル−アガロースカラムでの精製のためのポリヒスチジン配列を任意に含むことができる。上記の真核発現ベクターは、上記で規定されるコーディング配列がその制御下に挿入される転写/翻訳のための適切な調節要素(プロモータ、エンハンサ、コザック(Kozak)コンセンサス配列、ポリアデニル化シグナルなど)に加えて、上記で規定される適切な細胞区画内、特に細胞質内で上記のフラグメントを発現させるために必要な要素と、任意に、上記の発現ベクターで安定的に改変されかつ細胞内抗体を産生する細胞系統、特に真核細胞系統の選択のための適切なマーカー(抗生物質耐性遺伝子など)とを含む。
【0042】
上記で規定されるモノクローナル抗体又はそのフラグメントは、当業者に知られる通常の技術、特にアフィニティクロマトグラフィーにより精製される。
【0043】
標的又は興味対象部位を含むフラグメントは、組織又は細胞から、当業者に知られる通常の技術により精製されるか、又は特にCurrent Protocols in Molecular Biology (Frederick M. AUSUBEL, 2000, Wiley and son Inc, Library of Congress, USA)に記載されるもののような標準的な方法に従う、当業者に知られる通常の組換えDNA技術により産生されるかのいずれかであり得る。上記のタンパク質又はフラグメントをコードするポリヌクレオチドは、該ポリヌクレオチドが転写又は翻訳のための適切な調節要素の制御下におかれる発現ベクター(プラスミド、ウイルスなど)にクローニングされる。さらに、上記のベクターは、上記のポリヌクレオチドの5'及び/又は3'の端とフレーム内で融合された(タグ)配列を含むことができ、これは上記のベクターから発現されたタンパク質の固定化及び/又は検出及び/又は精製に用いることができる。次いで、上記のタンパク質は、適切な宿主細胞(細菌、酵母、昆虫細胞又は哺乳動物細胞)において発現され、任意に精製される。
【0044】
あるいは、興味対象部位を含むフラグメントは、Merrifieldら(J. Am. Chem. Soc., 1964, 85: 2149〜)により最初に記載された方法に従って、固相で合成される。
【0045】
標的、抗体又はそのフラグメントの標識、並びに抗体/標的の結合及びリガンド/標的の結合の検出は、当業者に知られる通常の技術により:(i) コーディング配列をエピトープの配列(c-myc、HA)と融合させることにより、(ii) 適切な標識、例えば蛍光体、酵素(アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ)、放射性同位体又はビオチンとの結合により、(iii) 標識された二次抗体又は適切な標識とのいずれの特異的な相互作用により行われる。例えば、抗体/標的の結合及びリガンド/標的の結合は、2つの相補的蛍光タンパク質の間 (Philippsら, J. Mol. Biol., 2003, 327, 239)、2つの相補的蛍光体の間(フルオレセイン/テトラメチルローダミン)又はこれら2つの組み合わせの蛍光転移により検出される。例えば、上記の標的又は上記のフラグメントは、そのNH2及び/又はCOOHの端にそれぞれ受容蛍光体又は供与蛍光体を含み、抗体又は抗体フラグメントは、そのNH2及び/又はCOOHの端に相補的蛍光体を含む。
【0046】
本発明の方法は、以下の利点を有する。
本発明の方法は、生理病理学的プロセスに選択的及び特異的に作用しかつ薬剤として用いることができる可能性がある新規な分子を、2つのスクリーニング工程:
- 容易に自動化でき、ハイスループットに適する結合アッセイによる、標的と抗体又は抗体フラグメントとの相互作用を模倣し(イディオタイプ的アプローチ)、よって上記の標的が携わる機能的カスケードを修飾できる分子のスクリーニングの工程、及び
- 上記の標的が携わる機能的カスケードを修飾できる分子の、細胞培養又は適切な動物モデルでの機能性試験による、特に該カスケードに起因する生物活性を測定することによるロースループットスクリーニングの工程
の組み合わせを介して同定することを可能にする。
【0047】
例えば、Sykタンパク質チロシンキナーゼの場合、3000分子のライブラリから得られる結果は、抗Syk抗体を用いる最初のスクリーニング工程の効率が、制限された数の分子(10分子)についての第二の機能的スクリーニング工程が、選択される機能的カスケードに対してインビボで活性な少なくとも1つの阻害的分子を単離することを可能にするようなものであることを示す。
【0048】
イディオタイプのアプローチを用いる限りは、本発明の方法は以下の利点を有する。すなわち:
- 本発明の方法は、全ての細胞標的に適切であり、
- 本発明の方法は、タンパク質−タンパク質の種類の相互作用によりパートナーに結合できる興味対象の標的のいずれの部位、特に該標的の表面での部位の特異的及び高親和性(1 nM程度)の認識に適し、したがって、このスクリーニング方法により単離されるリガンドは、特に標的についての親和性/特異性の点で同じ特性を有するはずであり、
- 本発明の方法は、標的との相互作用が抗体と分子ライブラリから選択されるリガンドとにより模倣される天然のパートナーの知見を必要としない。
【0049】
本発明の方法は、製造が困難で高価である、治療に用いられる組換えモノクローナル抗体、例えばセツキシマブ(抗EGFR)、リツキシマブ(抗CD20)及びインフリキシマブ(抗体TNF)を有利に置き換えるための新規な分子の同定を可能にする。
【0050】
上記の全ての配置に加えて、本発明は、Syk標的、PTK (タンパク質チロシンキナーゼ)ファミリーのSH2ドメインに指向されたscFvフラグメントを用いる、肥満細胞脱顆粒を選択的に修飾できる分子のスクリーニングの実施例及び添付の図面に言及する以下の記載から明らかになるその他の配置も含む。添付の図面において:
- 図1は、本発明による方法の概略図である。
- 図2は、標的及びそれが携わる機能的カスケードの概略図である。
【0051】
- 図3は、Sykタンパク質チロシンキナーゼが携わるカスケードの活性化及びそれによる生物活性の概略図である。
- 図4は、標的としてSykタンパク質を、及びコンビナトリアルライブラリをスクリーニングするための抗体としてG4G11 scFvフラグメントを用いる本発明による方法の確認を示す。ELISAによるスクリーニングに由来する10の分子のうち、少なくとも1つは、β−ヘキソサミニダーゼ放出試験において炎症メディエイタの放出を強く阻害する。3μMの濃度において、薬剤は、IgEによる誘導される脱顆粒の93%を阻害するが、イオノマイシンにより誘導される脱顆粒は阻害しない。
【0052】
- 図5は、scFvを用いて観察される阻害との薬剤の生物学的効果の比較を示す。1.5 〜12μM (a及びb)又は3μM (c及びd)の最終濃度でのELISAにより選択された分子(薬剤)の存在下で、あるいはこの分子の非存在下で、活性化していない(NA)及び活性化した(A) RBL-2H3細胞の溶解物を、a及びb:抗ホスホチロシン抗体4G10 (a)、抗ホスホMAPK抗体(b1)又は抗MAPK抗体(b2)を用いるイムノブロッティング;c及びd:抗Syk抗体(c)又は抗PLC-γ2抗体(d)を用いる免疫沈降により分析し、次いでコントロールとして用いたのと同じ抗体又は抗ホスホチロシン抗体4G10を用いるイムノブロッティングにより分析した。
【実施例】
【0053】
実施例:PLC-γ2及びBtkチロシンキナーゼ活性化カスケードを阻害できる(これは、肥満細胞の脱顆粒と炎症メディエイタの放出とをもたらす)分子をスクリーニングするための、Sykタンパク質のSH2ドメインに指向されたscFvフラグメントの使用
Sykタンパク質は、Bリンパ球、肥満細胞及び好塩基球並びにTリンパ球の副次集団を含むリンパ球系統のある細胞の活性化において重要な役割を演じる多機能性タンパク質チロシンキナーゼである。アレルゲンに関連するIgEのIgE受容体(FcεRI)による認識の後の肥満細胞系統の活性化は、ヒスタミン及びセロトニンのようなアレルギー性メディエイタの放出をもたらす。
【0054】
より具体的には、FcεRI受容体の凝集は、Sykタンパク質のリン酸化とその活性化を迅速にもたらす。このようにして活性化されたSykは、次に、肥満細胞の脱顆粒とアレルギー性メディエイタの放出の原因となる活性化カスケードに共に携わるBtkタンパク質チロシンキナーゼ及びホスホリパーゼC-γ2 (PLC-γ2)を含む、その細胞質基質をリン酸化する(PLC-γ2経路;図3)。
Sykタンパク質は第二の経路に携わり(図3)、これがRasタンパク質、次いでMAPキナーゼ(MAPK)の活性化の原因となる。この経路は細胞増殖及び分化に携わり、この第二の経路の修飾は悪性の現象に導き得ることが示されているので、この経路を妨害しないことが重要である。
【0055】
以前の研究では、SH2ドメインと相互作用する2つのscFvが、インビボで、PLCγ-2経路を特異的に阻害できることを示すことができた(G4G11、G4E4; Dauvillierら, J. Immunol., 2002, 169, 2274〜2283)。G4G11抗体は、この経路をインビボで特異的に阻害できる有機小分子をスクリーニングするのに用いられている。
【0056】
1) ELISAによる分子ライブラリのスクリーニング
a) 材料
グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)のC-末端と融合した2つのSH2ドメインを含む組換えSykタンパク質を、大腸菌(E. coli)で産生させ、上記のPeneffらに記載されるようにして精製する。
抗体を用いる検出のためのc-mycタグ、及びアフィニティクロマトグラフィーによる精製のためのポリヒスチジンタグをC-末端に含む、G4G11とよばれる抗SykヒトscFv抗体フラグメントを大腸菌で産生させ、上記のPeneffらに記載されるようにして精製する。
【0057】
二次抗体は、ペルオキシダーゼと結合した、c-myc エピトープ(EQKLISEEDLN)に指向されたモノクローナル抗体9E10である(Munroら, Cell, 1986, 46, 291〜300)。
試験される分子のライブラリは、3000の有機小分子のライブラリである(ChemBridge Corporation; http://chembridge.com)。
【0058】
全ての希釈及びインキュベーションは、PBS/0.1% Tween 20/0.1% BSA緩衝液で行った。
洗浄は、PBS/0.1% Tween 20緩衝液で行った。
【0059】
基質は、H2O2 (0.03%)を添加したリン酸塩クエン酸塩緩衝液、pH 5中の0.1 mg/mlのテトラメチルベンジジン二塩酸塩である。
【0060】
b) プロトコル
組換えSykタンパク質(PBS中に10μg/ml)を、96ウェルプレート(Maxisorp(登録商標)、NUNC; 100μl、すなわちウェル当たり1μg)に、4℃で一晩吸着させた。最初の洗浄後、プレートの非特異的部位を、ウェル当たり250μlのPBS/1% BSAの溶液で、周囲温度にて一晩飽和させた。過剰の飽和溶液の洗浄後、ライブラリの分子(3000分子)を、50μlの容積中に20μMの濃度で加え、プレートを周囲温度にて1時間インキュベートした。次いで、scFvフラグメントを、50μlの容積中に150 nMの濃度で加え、プレートを周囲温度にて1時間インキュベートした。さらなる洗浄の後、ペルオキシダーゼ標識二次抗体50μlを加え、ウェルを周囲温度にて30分間インキュベートした。最後の洗浄の後、ペルオキシダーゼ反応基質を100μlの容積で加え、プレートを5分間インキュベートし、50μlの2N H2SO4を加えることにより反応を停止した。450 nmでの吸光度を、自動ELISAプレートリーダーを用いて測定した。
ライブラリは、独立した実験において2回スクリーニングした。
【0061】
c) 結果
試験されるべき分子による、Sykタンパク質のフラグメントとG4G11 scFvとの間の結合の阻害は:
((薬剤の非存在下でのシグナル)−(薬剤の存在下でのシグナル))/(薬剤の非存在下でのシグナル)
に等しい比Iにより測定される。
【0062】
結果は、次のとおりである。
- 2990の分子は、いずれの阻害も発生しない (I = 1±0.2)
- 8の分子は、弱い阻害を生じる(0.4<I<0.8)
- 2の分子は、強い阻害を生じる(I≦0.3)。
【0063】
2) インビボ、細胞培養での選択された分子の修飾能力の確認
ELISAにより選択された分子の修飾能力のインビボでの確認を、上記のDauvillierらにより記載されるβ−ヘキソサミニダーゼの放出の測定による肥満細胞脱顆粒試験により行った。
さらに、全でのタンパク質チロシンリン酸化並びにSyk、PLCγ-2及びMAPKタンパク質のチロシンリン酸化に対する、ELISAにより選択された分子の影響を、上記のDauvillierらに記載されるようにして分析した。
【0064】
簡単に、RBL-2H3細胞(ラット好塩基球性白血病系統)を、2×105細胞/ウェルの割合で96ウェルプレートに播種する。これらを、抗DNPモノクローナルIgE抗体の存在下に、37℃にて一晩感作させる。次いで、細胞を、ELISAにより選択された分子の種々の濃度での存在下に、37℃にて2時間インキュベートし、DNP-BSA抗原を用いて、37℃で3分間活性化する。次いで、培養上清を回収して、4℃で保存する(S1)。接着細胞を、0.1%のTriton X-100及びプロテアーゼ阻害剤を含有する溶解緩衝液の存在下に溶解する。細胞溶解物を回収して、4℃で保存する(S2)。
【0065】
放出されるβ−ヘキソサミニダーゼの量を算出するために、S1及びS2の溶液を酵素基質:4-ニトロフェニル-2-デオキシ-β-D-グルコピラノシドと、37℃にて1時間30分インキュベートする。酵素反応を、グリシン溶液、pH 3の添加により停止し、405 nmで吸光度を読み取る。放出されたβ−ヘキソサミニダーゼは:
Hex S1/(Hex S1 + Hex S2)×100
に相当する。
【0066】
各濃度について、カルシウムイオノフォア(イオノマイシン)を用いる脱顆粒試験を、コントロールとして行った。
I≦0.8の比を有するELISAスクリーニング由来の10の分子のうち、1つが、図4に示すようにβ−ヘキソサミニダーゼを強く阻害する。具体的には、この分子は、3μMの濃度でIgE誘導脱顆粒を93%阻害するが、イオノマイシン誘導脱顆粒には影響しない。
【0067】
補助的なアッセイは、同定された分子が、インビボにおいてG4G11 scFvのようにふるまい、Ras-依存性経路に影響することなく、PLC-γ-依存性経路を阻害することを示した(図5)。具体的には:
- これは、全体のタンパク質のリン酸化に影響せず(図5a)、
- これは、Sykのリン酸化に影響せず(図5c)、
- これは、MAPKのリン酸化に影響せず(図5b)、
- これは、PLC-γのリン酸化を減少させる(図5d)。
【0068】
3) インビボ、マウスでの選択された分子の修飾能力の確認
図4の最も活性な分子の、全身性アナフィラキシーショックを阻害する能力を、BALB/cマウスにおいて試験した。
より具体的には、マウスの群(群1)に、BALB/cマウス当たり100μgの割合で、抗DNPモノクローナルIgEを静脈内注射した。47時間後、及びDNP抗原の注射の1時間前に、分子を、100 mg/kgの割合で単回用量で投与した。分子の投与の1時間後に、2% Evansブルー含有DNP抗原を、マウス当たり1 mgの割合で静脈内注射した。コントロールマウスの3つの群を、群1と並行して試験した。すなわち:
- 群2:最大アナフィラキシーショックを測定するために、薬剤を投与していないBALB/cマウス(ポジティブコントロール)。
- 群3:不活性な分子を与えられたBALB/cマウス。
- 群4:IgEを投与されたがDNP抗原を与えられていないマウス(ネガティブコントロール)。
【0069】
アナフィラキシーショックに対する分子の影響を、溢出(extravasation)によるEvansブルーの放出を測定することにより決定した。これを行うために、マウスを犠牲にし、その耳を切断した。耳の等しい表面積をパンチを用いて回収し、これらを切断してホルムアミド溶液中に、55℃にて一晩放置した。次の日に、ホルムアミド溶液中へのEvansブルーの放出を、610 nmでの吸光度を測定することにより決定した。
【0070】
結果は、肥満細胞脱顆粒における活性分子を与えられたマウスでは、分子を与えられていないか又は不活性分子を与えられたコントロールマウスに比べて、Evansブルーの溢出が70%減少したことを示す(図4)。これらの結果は、本発明によるスクリーニング方法により選択された分子の、アナフィラキシーショックから動物を守る能力を証明する。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明による方法の概略図である。
【図2】標的及びそれが携わる機能的カスケードの概略図である。
【図3】Sykタンパク質チロシンキナーゼが携わるカスケードの活性化及びそれによる生物活性の概略図である。
【図4】標的としてSykタンパク質を、及びコンビナトリアルライブラリをスクリーニングするための抗体としてG4G11 scFvフラグメントを用いる本発明による方法の確認を示す。
【図5】scFvを用いて観察される阻害との薬剤の生物学的効果の比較を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも以下の工程:
a) 標的に結合できかつ該標的が携わる機能的カスケードを修飾できる、抗体又は免疫グロブリン鎖の可変ドメインの少なくとも1つを含む抗体フラグメントを同定し、
b) 分子のライブラリを用いて、前記標的とa)で同定された抗体又は抗体フラグメントとの結合を修飾するリガンドをスクリーニングし、そして
c) b)で得られた修飾性リガンドから、前記機能的カスケードを修飾できるものを同定する
を含むことを特徴とする、標的が携わる機能的カスケードを選択的に修飾できるリガンドを同定する方法。
【請求項2】
前記工程a)及びb)が、標的又は標的の誘導体、例えば興味対象部位を少なくとも含むフラグメント、ミモトープ又は標的の前記興味対象部位の内部イメージを表現する抗イディオタイプ抗体を用いて行われることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記標的及びその誘導体又は前記抗体及び該抗体フラグメントが、適切な支持体上に固定化されているか及び/又は測定可能なシグナルを得るためのいずれの手段により標識されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
a)における前記抗体又は抗体フラグメントの同定が、抗体又は抗体フラグメントのライブラリ、好ましくはscFvフラグメントのライブラリ、好ましくはその表面でscFvフラグメントを発現するファージのライブラリをスクリーニングすることにより行われることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
前記スクリーニングが、前記ライブラリ又は該ライブラリから単離された前記抗体若しくは抗体フラグメントを発現するためのベクターを用いて改変された細胞を用いて行われる請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記スクリーニング工程b)が:
- 試験されるべき分子のライブラリを、請求項2で規定される標的又はその誘導体の1つと接触させ、
- 任意に標識された抗体又は抗体フラグメントを加え、そして
- 前記分子のライブラリの存在下又は非存在下に、適切な手段により、標的に結合した抗体の相対量を測定する
ことを含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
前記スクリーニング工程b)が:
- 任意に標識された抗体又は抗体フラグメントを、請求項2で規定される標的又はその誘導体の1つと接触させ、
- 試験されるべき分子のライブラリを加えて、抗体又は抗体フラグメントを標的のフラグメントとのその複合体から置き換えることができる分子を検出し、そして
- 前記分子ライブラリの存在下又は非存在下に、適切な手段により、標的に結合した抗体の相対量を測定する
ことを含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の方法。
【請求項8】
前記スクリーニング工程b)が:
- 任意に標識された抗体又は抗体フラグメントを試験されるべき分子のライブラリと混合し、
- 前記混合物を、請求項2で規定される標的又はその誘導体と接触させ、そして
- 前記分子ライブラリの存在下又は非存在下に、適切な手段により、標的に結合した抗体の相対量を測定する
ことを含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の方法。
【請求項9】
工程a)及びc)が、前記機能的カスケードに起因する生物活性を測定するための機能性試験により、特に適切な細胞系におけるインビトロ試験又は適切な生物におけるインビボ試験により行われることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1つに記載の方法。
【請求項10】
前記標的が、酵素、受容体、アダプタタンパク質、輸送体、シャペロンタンパク質及び調節タンパク質からなる群より選択されることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1つに記載の方法。
【請求項11】
a)で同定された前記抗体又は抗体フラグメントが、Sykタンパク質のSH2ドメインに指向されかつPLCγ-2経路を特異的に阻害できることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1つに記載の方法。
【請求項12】
工程b)の前記ライブラリが、有機小分子のライブラリであることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1つに記載の方法。
【請求項13】
少なくとも:
- 機能的カスケードに携わる標的、興味対象部位を少なくとも含む該標的のフラグメント、該標的のミモトープ又は該標的の前記興味対象部位の内部イメージを表現する抗イディオタイプ抗体、
- 前記標的に結合できかつ前記標的が携わる前記機能的カスケードを修飾できる、抗体又は免疫グロブリン鎖の可変ドメインの少なくとも1つを含む抗体フラグメント、あるいは抗体又は抗体フラグメントのライブラリ、及び
- 試験されるべき分子のライブラリ
を含むことを特徴とする請求項1〜12のいずれか1つに記載の方法を行うためのキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−534954(P2007−534954A)
【公表日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−510072(P2007−510072)
【出願日】平成17年4月25日(2005.4.25)
【国際出願番号】PCT/FR2005/001020
【国際公開番号】WO2005/106481
【国際公開日】平成17年11月10日(2005.11.10)
【出願人】(502205846)サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィク (154)
【出願人】(506360871)ユニベルシテ デ モンペリエ ファースト (1)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE MONTPELLIER I
【住所又は居所原語表記】5 Boulevard Henri IV,F−34006 Montpellier Cedex 1,France
【出願人】(506360882)ユニベルシテ デ モンペリエ セカンド (2)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE MONTPELLIER II
【住所又は居所原語表記】Place Eugene Bataillon,F−34095 Montpellier Cedex 5,France
【Fターム(参考)】