説明

標的体積に線量を蓄積する照射装置および照射方法

本発明は、照射されるべき標的体積に線量分布を蓄積する照射装置であって、標的体積を照射するための粒子ビームを提供する加速装置と、照射装置が作動してきるときに、粒子ビームが引き続いて所定の走査体積中の異なる点に向けられ、それにより走査体積にわたる走査が行われるように、粒子ビームのビーム特性を変更する走査装置と、を備える照射装置に関する。走査装置は、標的体積とは無関係に設定される固定の走査経路に沿って走査体積を走査し、粒子ビームが走査経路に沿って走査される間に、粒子ビームの強度を調節することにより、標的体積に蓄積されるべき線量分布を調整するように構成される。本発明はさらに、照射装置に対応する照射方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子ビームを利用して標的体積に線量分布を蓄積することができる照射装置および照射方法に関する。このような照射装置またはこのような照射方法は、例えば病理的変化した組織を照射するために、粒子治療の分野において使用される。
【0002】
従来の粒子治療設備の場合、粒子ビームを拡大し、続いて例えばコリメータを利用した重ね合わせによって標的体積の各形状に合わせ、粒子ビームが通過するボーラスを任意で介することで、所望の線量分布を照射されるべき標的体積に適用することができる。これは、パッシブビームアプリケーションとも称される。
【0003】
パッシブビームアプリケーションとも称されるこのようなビーム応用に加えて、比較的細い粒子ビームは、標的体積にわたって能動的に走査することができる。ここで、粒子ビームは、引き続いて、標的体積において所望の線量分布が得られるまで、標的体積に線量が蓄積される格子点に向けられる。走査は、アクティブビームアプリケーションとも称される。この工程において、一般的に曲線で範囲が定められる標的体積が対象とされる。これは、例えば逐次走査によって、そこに沿って粒子ビームが標的体積を走査する飛跡が、標的体積の特定の形状に適合されることを意味する。
【発明の概要】
【0004】
本発明の目的は、所望の線量分布を標的体積に蓄積することができると同時に有利な設置制御を有する照射装置および照射方法を特定することにある。
【0005】
本発明の目的は、独立請求項に記載の特徴によって達成される。発明の有利な発展は、従属請求項に記載の特徴に含まれる。
【0006】
照射されるべき標的体積に線量分布を蓄積する本発明による照射装置は、
前記標的体積を照射するための粒子ビームを提供する加速装置と、
前記照射装置が作動してきるときに、前記粒子ビームが引き続いて所定の走査体積中の異なる点に向けられ、それにより前記走査体積にわたる走査が行われるように、前記粒子ビームのビーム特性を変更する走査装置と、を備え、
前記走査装置が、
前記標的体積とは無関係に設定される固定の走査経路に沿って前記走査体積を走査し、
前記粒子ビームが前記走査経路に沿って走査される間に、前記粒子ビームの強度を調節することにより、前記標的体積に蓄積されるべき前記線量分布の調整を実現するように具体化されている。
【0007】
照射装置は、粒子ビームを使用して標的体積を迅速に走査するために使用することができる。
【0008】
ここで、本発明は、従来の設備によって実行されるような標的体積に適合される走査経路を使用した走査は不利益につながるという認識に基づく。これは、標的体積に適合される走査経路が、原理として粒子ビームが標的体積の格子点のみに向けられるように走査装置が粒子ビームの偏向および深さを設定することを意味するためである。
【0009】
ある格子点が十分に照射されるとすぐに、走査装置は、標的体積の次の格子点を照射されるように設定する。こうして、従来の設備で所望の線量が標的体積に適用され得る。
【0010】
しかし、多くの場合、照射されるべき標的体積はその位置、寸法および形状に関して変化し、個々のケースにおいて異なるため、走査装置は、常に、走査経路を標的体積に個別に適合させなければならない。この適応性は、装置制御に反映させなければならないため、照射されるべき個々の標的体積に常に合わせるオプションを提供するために比較的複雑となる。
【0011】
一方で、本発明による照射装置では、走査経路は、照射されるべき標的体積とは無関係に設定される。例として、走査経路は、走査装置またはその制御装置において事前に設定する方法で記憶することができる。これは、走査体積が走査される方法が、あらかじめ、標的体積の正確な構造、すなわち寸法、形状および位置を詳細に知らずに固定されていることを意味する。
【0012】
走査体積もまた、例えば制御装置に記憶させることによって事前に設定することができる。走査体積は、同様に、すなわちここでもその正確な構造を詳細に知ることなく、標的体積とは無関係に事前に設定することができる。
【0013】
これによる利点は、一定の最適化された調整でビームの偏向および深さの調節を実施することができることである。
【0014】
また、たとえば異なる形状、寸法および位置を有する複数の異なる走査体積を設定することができ、走査体積の1つが選択されるような場合を含む。同じことが、走査経路にも適用される。ここで、複数の走査経路を設定し、そのうち1つの走査経路を照射用に選択することも可能である。しかし、複数の走査体積および複数の走査経路は、標的体積の詳細な幾何学的寸法とは無関係に、例えばあらかじめ設定される。
【0015】
1実施形態では、走査装置は、標的体積とは無関係に事前に設定される所定の走査速度で走査経路を走査するように具体化され得る。これは、走査の時系列が標的体積とは無関係に設定されることを意味する。
【0016】
蓄積された局所的線量と、標的体積の所望の意図された線量分布との間の適合は、走査プロセスの形状によって設定されるのではなく、むしろ走査プロセスの間に標的体積を照射するビーム強度の調節によって設定される。
【0017】
ここで、特定の回数走査経路を走査する場合、走査装置は、粒子ビームが標的体積の外側で停止するように照射プロセスの間に設定され得る。これは、標的体積が走査体積より小さな場合である。しかし、この場合、照射が起こらないように強度はゼロに設定される。走査経路の走査の間に、粒子ビームが再度標的体積内を照射するように、走査装置が再度設定される場合、強度はゼロ以外の値に設定される。したがって、走査装置は、標的体積の内側または外側に向けられるかとは無関係に、ビーム経路の走査のための走査時に設定される。正確な適用線量が、強度調節のみによって得られる。
【0018】
概して、走査プロセス、すなわち走査体積、走査経路および/または走査速度は、標的体積とは無関係に構成される。これにより、照射装置の制御の著しく単純な実施形態が可能となる。照射装置は、この1つの走査経路が特に効率的なやり方で走査されるように、走査経路に対して最適化され得る。
【0019】
例として、走査装置は、粒子ビームを横方向に可変的に偏向することができる1つまたは複数の偏向電磁石を備える。偏向電磁石は、照射装置の作動時に、一定の偏向周波数で作動し得る。
【0020】
偏向電磁石は、この一定の偏向周波数に対して最適化され得る。例えば、偏向電磁石は、電気的共振で作動し得る。結果として、大した努力なしに非常に迅速かつ強い偏向が得られる。
【0021】
1実施形態では、走査装置は、所定のパターンのとおりの浸入深さに調節するために粒子ビームのエネルギーを変更することができる。RF場を利用して帯電粒子を加速させることができる加速装置の場合、粒子ビームのエネルギー、ひいては浸入深さの調節を、RF出力および/またはRFフェーズの調節によって制御することができる。この調節は走査装置によって制御され得る。
【0022】
さまざまなエネルギーレベルを得るための加速器ユニットの柔軟な制御は、技術的観点から困難かつ比較的柔軟性のないやり方でのみ実施され得るため、エネルギーひいては浸入深さを制御するための固定のプログラムは、特に有利である。
【0023】
固定の走査プログラムの結果、高速走査用の走査装置の部材を最適化することが可能である。加速器の単一のパルス列において全走査体積を走査することが選択的に可能である。パルス列は、数マイクロ秒、例えば50マイクロ秒未満、または20マイクロ秒もしくは10マイクロ秒未満しか要しない。さらに、従来の比較的低速のターゲットに適合される走査の間に起こり得る、誤った線量分布をもたらすアーチファクトが効率的に回避される。
【0024】
特に、走査装置は、粒子ビームを走査体積にわたって複数回、例えば、走査経路にわたって複数回走査するように具体化され得る。走査体積は、プロセス中に複数回上書きされる。結果として、ビーム強度調節が十分に優れていなくても、より優れた線量分布を得ることが可能となる。しかし、走査経路を一度走査する間に意図する線量分布を得るためには低すぎる線量しか蓄積できない場合にも、十分に高い線量を蓄積することができる。
【0025】
照射されるべき標的体積に線量分布を蓄積するための本発明による照射方法は、
粒子ビームを提供するステップと、
前記粒子ビームを照射されるべき標的体積に向けるステップと、を含み、
前記粒子ビームが引き続いて所定の走査体積中の異なる点に向けられ、それにより前記走査体積にわたる走査が行われるように、照射の間に少なくとも1つの前記粒子ビームのビーム特性が変更され、
前記粒子ビームが、前記標的体積とは無関係に設定される固定の走査経路に沿って前記走査体積にわたって走査され、
前記粒子ビームが前記走査経路に沿って走査される間に、前記粒子ビームの強度を調節することにより、前記標的体積に蓄積されるべき所望の線量分布が得られる。
【0026】
走査経路は、標的体積とは無関係の所定の走査速度で走査され得る。
【0027】
粒子ビームは、偏向電磁石によって可変的に偏向され得、偏向電磁石は一定の偏向周波数で作動する。偏向電磁石は、電気的共振で作動され得る。
【0028】
粒子ビームのエネルギーは、所定のプログラムのとおりの浸入深さに調節するために変更され得る。エネルギーは、粒子ビームを生成する加速装置のRF出力および/またはRFフェーズの調節によって変更され得る。
【0029】
粒子ビームは、走査経路に沿って複数回走査され得る。
【0030】
これまでおよび以降に説明されている個々の特徴、利点、およびその効果は、それぞれの場合において詳細を明確に言及しないが、装置のカテゴリーおよび方法のカテゴリーの双方に関するものである。つまり、そのようにして開示された個々の特徴はまた、示されたもの以外のその他の組み合わせにおける発明にとっても不可欠であり得る。
【0031】
本発明の実施形態について、これらに限定されるわけではないが、以下の図面に基づいて詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】標的体積を照射するための照射装置の概略図を示す。
【図2】本発明による方法の実施形態のフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図1は、粒子ビーム15を利用して標的体積13を照射する照射装置11の部材を概略的に示す。
【0034】
意図された線量が適用されるべき標的体積13は、対象17内に配置されている。例として、標的体積13は、患者の不規則な形状の腫瘍とすることができるが、研究目的でファントムを照射すること、または試験もしくは補整目的でファントムを照射することも可能である。
【0035】
標的体積13を照射するために、粒子ビーム15は、不規則な形状の標的体積13よりも大きな走査体積19に向けられる。したがって、粒子ビームは、走査経路21に沿って方向付けられる。
【0036】
ここで、照射装置11の走査装置は、粒子ビーム15を2つの相互に直交する方向における伝搬方向に垂直に偏向することができる、2つの偏向磁石の対23を備える。とりわけ、制御装置25が偏向磁石の対23を制御する。偏向は、事前に設定したプログラムによりもたらされる。
【0037】
さらに、照射装置11の加速装置27は、粒子ビーム15が設定プログラムによるエネルギーによって変化するように、制御装置25によって制御することができる。
【0038】
偏向磁石23および加速装置27によるエネルギー変化を組み合わせた結果、粒子ビーム15は、走査経路21に沿って走査体積に向けられる。走査自体、すなわち粒子ビーム15の空間的誘導は、照射されるべき標的体積13に独立してもたらされる。
【0039】
しかし、所望の線量分布が標的体積13に蓄積されるようにするために、ビームが走査経路21に沿って走査される間に、粒子ビーム15は強度によって調節される。粒子ビーム15が走査体積19内の標的体積13の外の領域に作用するこれらの点で、粒子ビーム15の強度はゼロに調節される。
【0040】
走査装置によって粒子ビーム15が標的体積13内の点に向けられるとすぐに、線量が実際にこれらの点に蓄積されるように、粒子ビーム15の強度はゼロでない値に設定される。
【0041】
したがって、蓄積された線量分布は、粒子ビーム15の強度の目標とされる制御によって、標的体積13の個別の状況に適合される。走査経路21の空間特性は、標的体積13とは無関係に選択される。
【0042】
図2は、本発明による方法の実施形態において実施される方法ステップの概略を示す。
【0043】
第1のステップでは、走査体積は、照射されるべき標的体積の形状、寸法、および/または位置とは無関係に設定される(ステップ41)。
【0044】
照射装置の走査装置が設置される走査経路は、同様に、粒子ビームが走査経路に沿って誘導されるように固定される。これもまた、標的体積の形状、寸法、および/または位置とは無関係に行われる(ステップ43)。
【0045】
走査速度も同様に、標的体積とは無関係に設定される(ステップ45)。
【0046】
続いて、加速装置によって粒子ビームが生成され、走査体積に向けられる。走査体積は、走査経路に沿って走査される。走査体積における粒子ビームが標的体積を走査するときはいつでも、強度は、線量が実際に標的体積に蓄積されるように、ゼロではない値に設定される(ステップ47)。
【0047】
例として、粒子ビームの走査の際に、偏向電磁石を使用することができ、これは、粒子ビームを横方向に偏向させるために、電気的共振において固定偏向周波数で作動される(ステップ49)。
【0048】
粒子ビームの浸入深さは同様に、適当に調節される粒子加速器のフェーズまたはRF電力によって、粒子ビームのエネルギーを制御するための一定のプログラムによって制御することができる(ステップ51)。
【0049】
線量分布は、走査の間に調節される粒子ビームの強度によって標的体積に適合される(ステップ53)。
【0050】
標的体積において所望の線量分布に到達するまで、走査体積を何度も走査することができる(ステップ55)。
【符号の説明】
【0051】
11 照射装置
13 標的体積
15 粒子ビーム
17 対象
19 走査体積
21 走査経路
23 偏向磁石
25 制御装置
27 加速器ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
照射されるべき標的体積(13)に線量分布を蓄積する照射装置(11)であって、
前記標的体積(13)を照射するための粒子ビーム(15)を提供する加速装置(27)と、
前記照射装置(11)が作動してきるときに、前記粒子ビーム(15)が引き続いて所定の走査体積(19)中の異なる点に向けられ、それにより前記走査体積(19)にわたる走査が行われるように、前記粒子ビーム(15)のビーム特性を変更する走査装置(25,23)と、を備え、
前記走査装置(25,23)が、
前記標的体積(13)とは無関係に設定される固定の走査経路(21)に沿って前記走査体積(19)を走査し、
前記粒子ビーム(15)が前記走査経路(21)に沿って走査される間に、前記粒子ビーム(15)の強度を調節することにより、前記標的体積(13)に蓄積されるべき前記線量分布の調整を実現するように具体化されている、照射装置(11)。
【請求項2】
前記走査装置(23,25)が、前記標的体積(13)とは無関係に事前に設定される所定の走査速度で前記走査経路(21)を走査するように具体化されている、請求項1に記載の照射装置(11)。
【請求項3】
前記走査装置が、前記粒子ビーム(15)を可変的に偏向することができる少なくとも1つの偏向電磁石(23)を備え、前記照射装置(11)が作動しているときに、前記偏向電磁石(23)が一定の偏向周波数で作動する、請求項1から3のいずれか一項に記載の照射装置(11)。
【請求項4】
前記偏向電磁石(23)が電気的共振で作動するように前記偏向周波数が選択される、請求項3に記載の照射装置(11)。
【請求項5】
前記走査装置(25,23)が、所定のパターンのとおりの侵入深さに調節するために前記粒子ビーム(15)のエネルギーを変更することができる、請求項1から4のいずれか一項に記載の照射装置(11)。
【請求項6】
前記加速装置(27)のRF出力および/またはRFフェーズの調節が、前記走査装置(25,23)によって引き起こされ得る、請求項5に記載の照射装置(11)。
【請求項7】
前記走査装置(25,23)が、前記粒子ビーム(15)を前記走査体積(19)にわたって複数回走査するように具体化されている、請求項1から5のいずれか一項に記載の照射装置(11)。
【請求項8】
照射されるべき標的体積(13)に線量分布を蓄積する照射方法であって、
粒子ビーム(15)を提供するステップと、
前記粒子ビーム(15)を照射されるべき標的体積(13)に向けるステップと、を含み、
前記粒子ビーム(15)が引き続いて所定の走査体積(19)中の異なる点に向けられ、それにより前記走査体積(19)にわたる走査が行われるように、照射の間に少なくとも1つの前記粒子ビーム(15)のビーム特性が変更され、
前記粒子ビーム(15)が、前記標的体積(13)とは無関係に設定される固定の走査経路(21)に沿って前記走査体積(19)にわたって走査され、
前記粒子ビーム(15)が前記走査経路(21)に沿って走査される間に、前記粒子ビーム(15)の強度を調節することにより、前記標的体積(13)に蓄積されるべき所望の線量分布が得られる、照射方法。
【請求項9】
前記標的体積(13)とは無関係の所定の走査速度で前記走査経路(21)を走査する、請求項8に記載の照射方法。
【請求項10】
前記粒子ビーム(15)を偏向電磁石(23)によって可変的に偏向することができ、前記偏向電磁石(23)が一定の偏向周波数で作動する、請求項8または9に記載の照射方法。
【請求項11】
前記偏向電磁石(23)が電気的共振で作動する、請求項10に記載の照射方法。
【請求項12】
所定のパターンのとおりの侵入深さに調節するために前記粒子ビーム(15)のエネルギーを変更する、請求項8から11のいずれか一項に記載の照射方法。
【請求項13】
加速装置(27)のRF出力および/またはRFフェーズの調節によって前記エネルギーを変更する、請求項12に記載の照射方法。
【請求項14】
前記粒子ビーム(15)を走査体積(19)にわたって複数回走査する、請求項8から13のいずれか一項に記載の照射方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−520257(P2013−520257A)
【公表日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−554268(P2012−554268)
【出願日】平成23年2月2日(2011.2.2)
【国際出願番号】PCT/EP2011/051465
【国際公開番号】WO2011/107313
【国際公開日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(508008865)シーメンス アクティエンゲゼルシャフト (99)
【Fターム(参考)】