説明

標的成分の分離方法およびキット

【課題】検体中に含まれる標的成分を分離するために、標的成分と特異的に結合する分子を表面に固定した担体を用いる分離方法において、標的成分と特異的に結合する分子に結合された状態を維持して標的成分を分離する方法、また、標的成分がタンパク質の場合であってもその立体構造を変化させることなく分離できる方法、さらに反応性の高い標的成分を対象とする場合にも、標的成分を損なわず分離する方法を提供する。
【解決手段】酵素分解性物質で担体の表面を被覆し、その表面に標的成分と特異的に結合する分子を固定した担体と検体とを接触させて標的成分のみ捕獲した後に、分解酵素により担体表面を分解することで標的成分と特異的に結合する分子に結合した標的成分を分離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、担体上に固定された分子との特異的親和性を利用して、標的成分を分離する方法およびキットに関する。
【背景技術】
【0002】
検体試料中に含まれる標的成分、特に医学的生物学的に興味を持たれる標的成分を、分離回収し、同定し、構造、機能や物性を解析する方法は、疾病の原因解明や薬剤を開発する上で必須である。
【0003】
標的成分を分離回収する方法の一つとして、標的成分に対して特異的な結合親和性のある分子を、担体上に固定化することにより構築された結合構造体を用いて次の工程を行う方法が知られている。その工程は、標的成分を含有する検体と上記の結合構造体とを接触させることにより、標的成分と上記の標的成分結合分子とを特異的に結合させ、共雑物を取り除いた後に、上記の結合構造体から標的成分を分離回収する工程である。
【0004】
ここで標的成分と標的成分結合分子との特異的な結合とは、例えば、抗原抗体反応、薬剤とその薬剤に結合するレセプターの結合、DNA分子のハイブリダイゼーション等が挙げられる。
【0005】
標的成分と標的成分結合分子との特異的結合を利用し、標的成分を分離回収する方法は、標的成分結合分子の選択性が高いため頻繁に利用される。標的成分と標的成分結合分子との特異的結合の強さは、結合の条件、例えば検体中に含まれる塩類の濃度、結合時の温度、検体中に含まれる共雑物等に大きく依存する。また担体の種類、分散状態、表面状態にも左右される。
【0006】
このような背景において、特開平5-253290号公報には、水不溶性固体表面に化学修飾により親水性スペーサーを導入し、さらにその末端にトシル酸エステルを表面に有する担体の製造方法が開示されている。これにより、活性を保持したまま生理活性物質を固定化でき、かつ遊離等の起こらない担体が提供できるとしている。
【0007】
また、特開2005-082538号公報には、標的物質の分離回収を行う目的で、磁性微粒子と刺激応答性ポリマーとが固定されてなる、刺激応答性ポリマー固定化磁性微粒子およびこれを用いた吸着剤が開示されている。これにより、刺激応答による凝集分散を繰り返すことが出来、標的物質を効率よく回収できる微粒子が提供できるとしている。
【0008】
さらに特開2004-333232号公報には、標的成分の分離、検出スクリーニングを行う目的で、担体として生体親和性の高い高分子材料である、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)を用い、基材の一部を被覆したものを用いる方法が開示されている。上述の如く、担体の表面状態も標的成分と親和性分子との結合の強さに関与するため、合成高分子を担体として用いた場合では合成高分子中の残留モノマー成分の漏出による結合力の低下などの課題がある。この課題に対処するため、微生物などの生物細胞内で酵素的に重合されるPHAを担体材料に採用することにより、担体の生体親和性を向上させている。その結果、標的成分と親和性分子との結合反応をより生体条件に近い条件に維持した状態で行うことができ、効率よく標的成分の分離、検出スクリーニングを行うことができるとしている。
【特許文献1】特開平5-253290号公報
【特許文献2】特開2005-082538号公報
【特許文献3】特開2004-333232号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のような方法においては、担体からの標的成分を溶離・遊離するために、酸性またはアルカリ性条件への置換、タンパク質変性剤や界面活性剤の添加等が従来実施されてきた。
【0010】
これらの従来法は、遊離された標的成分をHPLCや電気泳動にて分析する目的には、用いることが出来るが、標的成分が特にタンパク質であって、遊離された標的成分を、その立体構造解析や機能解析を行う目的に用いる場合には必ずしも適さなかった。なぜなら、従来知られた分離方法では標的成分の立体構造が変化してしまうため、添加したタンパク質変性剤を透析等により除去するなどして、標的成分の立体構造を回復する工程が必要になるという課題があったからである。
【0011】
また従来知られた標的成分を分離する方法においては、化学的に反応しやすい標的成分を対象とする場合、酸性またはアルカリ性条件下ならびにタンパク質変性剤存在下等での回収では、標的成分が化学変化を起こしてしまうという課題があった。また、標的成分と結合親和性のある分子との結合が強い場合には、標的成分の分離がしばしば困難になるという課題があった。さらに、特にタンパク質と薬剤の結合解析が例として挙げられる、標的成分と標的成分結合分子との複合体そのものに対してX線結晶構造解説分析やNMR(核磁気共鳴)分析による立体構造解析を行う場合、立体構造が保たれたまま回収する必要があった。
【0012】
本発明の目的は、化学的に反応性の高い標的成分については反応させることなく、またタンパク質などの標的成分については、その立体構造を変性させずに分離する方法及びキットを提供することである。また、本発明の他の目的は、標的成分と標的成分結合分子との結合状態を変化させることがなく標的成分を分離する方法およびキットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記問題点を鑑みなされたものである。
【0014】
すなわち、本発明の検体からの標的成分の分離方法は、検体中に含まれる標的成分を分離する方法であって、
酵素分解性表面を有する担体と、前記標的成分に対して特異的な結合親和性を有する標的成分結合分子と、を有し、前記標的成分結合分子が前記酵素分解性表面に固定されている結合構造体を用意する工程と、
前記結合構造体に前記標的成分を含有する検体を接触させることにより、前記標的成分と前記標的成分結合分子との結合複合体を形成させる工程と、
前記結合複合体の形成により、前記結合構造体に結合した前記標的成分を、前記結合構造体とともに前記検体中から分離する工程と、
前記検体中から分離された、前記標的成分が結合した結合構造体に、分解酵素を作用させて該結合構造体に結合していた結合複合体を遊離させる工程と、
を有することを特徴とする。
【0015】
本発明のキットは、検体中に含まれる標的成分を分離するためのキットであって、
酵素分解性表面を有する担体、または、該担体と、該担体の酵素分解性表面に固定された、前記標的成分に対して結合親和性を有する分子とを有する結合構造体、のいずれかと、
前記酵素分解性表面の分解のための分解酵素と、
を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の標的成分の分離方法によれば、標的成分がタンパク質の場合であってもその立体構造を変化させることがなく分離することが可能になる。また反応性の高い標的成分や、標的成分結合分子との結合が極めて強い標的成分を対象とする場合にも、標的成分を損なわず分離することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、本発明の好ましい実施の形態について、詳細に説明する。
【0018】
本発明による標的成分の分離方法は、検体中の標的成分を選択的に取得するための方法であって、
1)酵素分解性表面を有する担体と、前記標的成分に対して特異的な結合親和性を有する標的成分結合分子と、を有し、前記標的成分結合分子が前記酵素分解性表面に固定されている結合構造体を用意する工程と、
2)前記結合構造体に前記標的成分を含有する検体を接触させることにより、前記標的成分と前記標的成分結合分子との結合複合体を形成させる工程と、
3)前記結合複合体の形成により、前記結合構造体に結合した前記標的成分を、前記結合構造体とともに前記検体中から分離する工程と、
4)前記検体中から分離された、前記標的成分が結合した結合構造体に、分解酵素を作用させて該結合構造体に結合していた結合複合体を遊離させる工程と、
を有する。
【0019】
担体の有する酵素分解性の表面は、少なくとも酵素分解性物質(酵素で分解できる物質)を用いて形成される。担体の酵素分解性表面は、分解酵素を作用させた際に標的成分結合分子の遊離を誘導できる酵素分解性を有するものであればよく、部分的に、あるいはその全体が酵素分解性であってもよい。すなわち、酵素分解性の表面は、酵素分解性物質のみから形成されていてもよく、所望とする酵素分解性が得られる範囲内で酵素分解性でない物質と酵素分解性物質との混合物から形成されていてもよい。また、担体全体が酵素分解性の材料からなるものであってもよく、また、酵素分解性ではない基材上に酵素分解性を有する層を被覆して酵素分解性の表面を形成したものであってもよい。
【0020】
本発明にかかる分子、複合体および構造体は、名称を付けて用いる。標的成分と特異的に結合親和性を有する分子を「標的成分結合分子」と呼ぶ。また、担体の酵素分解性表面に標的成分結合分子を固定した構造体を「結合構造体」と呼ぶ。さらに、標的成分と標的成分結合分子とが結合して形成された複合体を「結合複合体」と呼ぶ。
【0021】
(酵素分解性物質)
本発明の担体における「酵素分解性表面」を形成する「酵素分解性物質」としては、担体の少なくとも表面部分を形成するための材料として使用することができ、かつ酵素で分解できる物質であれば特に限定されない。このような物質としては、ポリヒドロキシアルカノエート(以降PHAと記載する場合もある)、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、ポリアスパラギン酸、セルロース、でんぷん(アミロース)、キチン、キトサン、アルギン酸等が例示できる。特にポリヒドロキシアルカノエートは、化学合成法、微生物を用いた生物学的合成法の両方で製造が可能であり、側鎖に対するさまざまな化学修飾も出来る。このため、本発明の上記工程1)において、標的成分結合分子を固定する際の官能基を容易に導入できることから、特に好適である。
【0022】
「酵素分解性物質」は単独、あるいは必要に応じて2種類以上を組み合わせて用いることが出来る。「酵素分解性物質」が2種類以上の場合、それぞれに対する分解酵素が必要ではあるが、分解酵素を操作の段階に応じて添加することにより、効率的に複数種の標的物質を分離することが出来る。
【0023】
(分解酵素)
本発明における分解酵素としては、担体そのもの、あるいは担体の一部として含まれる酵素分解性物質を分解できる酵素であり、酵素分解性物質に応じて選択される。
【0024】
このような分解酵素としては、酵素分解性物質の各々に対して示すと、ポリヒドロキシアルカノエートに対するポリヒドロキシアルカノエート分解酵素(PhaZ等)、ポリカプロラクトンに対するポリカプロラクトン分解酵素(リパーゼ等)、ポリ乳酸に対するポリ乳酸分解酵素(PLAリパーゼ等)、ポリウレタンに対するポリウレタン分解酵素(PURエステラーゼ等)、ポリビニルアルコールに対するポリビニルアルコール分解酵素、ポリアスパラギン酸に対するポリアスパラギン酸分解酵素、セルロースに対するセルロース分解酵素(セルラーゼ等)、でんぷん(アミロース)に対するでんぷん分解酵素(アミラーゼ等)、キチンに対するキチン分解酵素(キチナーゼ、リゾチーム等)、キトサンに対するキトサン分解酵素(キトサナーゼ、リゾチーム等)、アルギン酸に対するアルギン酸分解酵素、が例示できる。
【0025】
特にポリヒドロキシアルカノエート分解酵素は、酵素分解性物質として特に好適に用いられるポリヒドロキシアルカノエートと組み合わせて用いられるため、特に好適である。
【0026】
(ポリヒドロキシアルカノエート分解酵素(PhaZ))
本発明に用いるPHA分解酵素は、PHAを分解する生物から適宜選択された生物、あるいは、それら生物由来のPHA分解酵素遺伝子を導入した形質転換体により生産された、遺伝子組換え型PHA分解酵素を用いることができる。
【0027】
PHA分解酵素を得るためのPHA分解酵素産生生物としては、例えば、ポリヒドロキシブチレート(PHB)やポリ(ヒドロキシブチレート/ヒドロキシバレレート)共重合体(PHB/V)生産菌として知られている微生物を用いることができる。なぜならば、このような微生物は、前記PHBやPHB/Vの重合酵素と同時に分解酵素も有しているためである。前記PHBやPHB/V生産性を有する微生物として、アエロモナス属(Aeromonas sp.)、アルカリゲネス属(Alcaligenes sp.)、クロマチウム属(Chromatium sp.)、コマモナス属(Comamonas sp.)、メチロバクテリウム属(Methylobacterium sp.)、パラコッカス属(Paracoccus sp.)、シュードモナス属(Pseudomonas sp.)などが知られている。
【0028】
また、中鎖PHAや側鎖に脂肪族アルカン以外の分子構造を有する所謂「unusual PHA」分解酵素を得るためのPHA分解酵素産生微生物としては、本発明者らにより、別途分離された菌株である、シュードモナス スピーシーズ YN21株(Pseudomonas sp. YN21)、シュードモナス・チコリアイ・H45株(Pseudomonas cichorii H45)、シュードモナス・ジェッセニイ・P161株(Pseudomonas jessenii P161)、及びシュードモナス・プチダ・P91株(Pseudomonas putida P91)などを用いることができる。なお、YN21株は、寄託番号FERM BP−08569として、H45株は、寄託番号FERM BP−7374として、P161株は、寄託番号FERM BP−7376として、P91株は寄託番号FERM BP−7373として、それぞれ、「特許手続上の微生物寄託の国際的承認に関するブタペスト条約」に基づき、国際寄託機関である、独立行政法人 産業技術総合研究所特許生物寄託センター(旧 経済産業省 産業技術総合研究所 生命工学工業技術研究所(NIBH)特許微生物寄託センター)に国際寄託されている。
【0029】
また、上述するPHA分解酵素を生産する野生株以外に、PHA分解酵素を生産するために、形質転換体を用いることもできる。野生株由来のPHA分解酵素遺伝子のクローニング、発現ベクターの作製、および、遺伝子組換えによる形質転換体の創製は、常法に従って行うことができる。PHA分解酵素遺伝子のクローニングに関しては、既に、アルカリゲネス・ユートロファスのPHB分解酵素遺伝子(phaZ)がクローニングされ、報告されている。また、本発明者らは、バークホルデリア・セパシア KK01株のPHB分解酵素遺伝子であるphbZについて、クローニングを完了しており、また、ラルストーニャ・ユートロファ TB64株のPHB分解酵素遺伝子であるphbZについても、クローニングを完了している。PHA分解酵素を産生する形質転換体は、宿主微生物に、このphbZ遺伝子を含むベクターを導入することによって創製できる。形質転換に利用する、phbZ遺伝子を含むベクターは、例えば、プラスミド・ベクター、ファージ・ベクター等にphbZ遺伝子を挿入することによって調製される。宿主としては、例えば、大腸菌(エシェリチア・コリ:Escherichia coli)が広く利用されている。
【0030】
PHA分解酵素の生産には、以上に挙げたようなPHA生産菌は、単独で、あるいは必要に応じて2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
(キトサン分解酵素(キチナーゼ、キトサナーゼ))
発明に用いるキトサン分解酵素(キチナーゼ、キトサナーゼ)は、市販されているキトサン分解酵素はもちろん、キトサンを分解する生物から適宜選択された生物、あるいは、それら生物由来のキトサン分解酵素遺伝子を導入した形質転換体により生産された、遺伝子組換え型キトサン分解酵素を用いることができる。これまでに報告されているキトサナーゼには、バチルス(Bacillus sp.)R−4の生産するキトサナーゼ〔トミナガおよびツジサカ:ビオヒミカ・エ・ビオフイジカ・アクタ(Y.Tominaga&Y.Tsujisaka:Biochimica et Biophysica Acta)第410巻、第145−155頁(1975年)〕、ペニシリウム・イスランデイクム(Penicillium islandicum)の生産するキトサナーゼ〔デイー・エム・フエントン等:ジヤーナル・オブ・ジエネラル・ミクロバイオロジー(D.M.Fenton et al:Journal of General Microbiology)、第126巻、第151−165頁(1981年)〕等が知られており、これらから単離することで利用できる。キトサン分解酵素遺伝子のクローニング、発現ベクターの作製、および、遺伝子組換えによる形質転換体の創製は、常法に従って行うことができる。形質転換に利用する、キトサン分解酵素遺伝子を含むベクターは、例えば、プラスミド・ベクター、ファージ・ベクター等にキトサン分解酵素遺伝子を挿入することによって調製される。宿主としては、例えば、大腸菌(エシェリチア・コリ:Escherichia coli)が広く利用されている。同様に、キトサンをアセチル化した化合物であるキチン分解酵素、キチナーゼも利用できる。
【0032】
キトサン分解酵素の生産には、キトサン分解酵素生産菌は、単独で、あるいは必要に応じて2種以上を組み合わせて用いることができる。
(セルロース分解酵素(セルラーゼ))
セルロース分解酵素は分解様式による分類が行われ、エンドグルカナーゼ(EC 3.2.1.4)とエキソグルカナーゼ(セロビオヒドロラーゼ)(EC 3.2.1.91)に大きくわけられている。発明に用いるセルロース分解酵素(セルラーゼ)はどちらを選択しても行うことが出来る。
【0033】
セルロース分解酵素としては、市販されているセルロース分解酵素はもちろん、セルロースを分解する生物から適時選択された生物から得られたセルロース分解酵素を用いることができる。更には、セルロース分解酵素を産生する野生株由来のセルロース分解酵素遺伝子のクローニング、発現ベクターの作製および遺伝子組換えによる形質転換体により生産された遺伝子組換え型セルロース分解酵素を用いることが出来る。本発明にセルロース分解酵素を適用する際、単独で、あるいは必要に応じて2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
(その他分解酵素)
その他酵素分解性物質の分解酵素は、市販品はもちろん、分解酵素生産生物により生産された分解酵素、あるいはそれら生物由来の分解酵素遺伝子を導入した形質転換体により生産された、遺伝子組換え型分解酵素を用いることが出来る。担体の種類によって分解酵素は適宜選ぶべきであり、単独で、あるいは必要に応じて2種類以上を組み合わせて用いることが出来る。
【0035】
尚、用途に応じて分解酵素は次の(1)〜(3)のいずれかの形態を取っても良い。
(1)精製酵素:分解酵素生産生物抽出物、あるいは分解酵素遺伝子を導入した形質転換体からの抽出物を精製し、不純物を含まないもの。
(2)酵素活性を有するフラグメント:市販品の酵素、上記の精製酵素等を適当な方法で断片化処理することにより得られるペプチドフラグメント。または酵素活性を有するペプチドフラグメントをコードする遺伝子を導入した形質転換体により生産されたペプチドフラグメント。
(3)固定化酵素:酵素を通常の方法、例えばポリアクリルアミド、ガラスビーズ、イオン交換樹脂等に固定化したもの。
【0036】
培地に分泌される場合は、培地から精製される酵素、酵素活性を有するフラグメント及び固定化酵素が例として挙げられる。また、(上記2における)「酵素活性を有するフラグメント」は、対象とする酵素分解性物質の分解酵素活性を有し、本発明の目的に有用なペプチドフラグメントを指す。
【0037】
分解酵素は、適当な固体支持体に固定化することができる。分解酵素の固定化は、分解反応後に分解酵素を回収するために行うことも出来、またはじめから固定化した分解酵素を分解反応に供することも出来る。酵素の固定化は当該技術分野で既知の方法により行うことができる。例えば、担体結合法、架橋化法、包括法、複合法等によって行う。担体としては、高分子ゲル、マイクロカプセル、アガロース、アルギン酸、カラゲーナン、などがある。結合は共有結合、イオン結合、物理吸着法、生化学的親和力を利用することが出来る。このようにして得られた固定化酵素は、分解酵素の再利用に有効であるし、標的物質との分離において、簡便に分解酵素を取り除くのに有効である。
【0038】
(標的成分、および標的成分に特異的に結合親和性を有する分子)
本発明における標的成分としては、標的成分に特異的に結合親和性を有する分子(標的成分結合分子とも記載)が入手できるものであれば如何なる分子も対象とすることが可能である。分離対象である標的成分に対して特異的に結合親和性を有する標的成分結合分子を適宜選択することにより、多様な標的成分の分離が可能となる。
【0039】
例えば抗原抗体反応をする抗原と抗体において、抗原を標的成分とすれば抗体は標的成分結合分子となり、この場合の担体表面に標的成分結合分子を固定化させた結合構造体は、抗原を選択的に取得する際に有効であると考えられる。逆に抗体を標的成分とすれば抗原は標的成分結合分子となり、この場合の担体表面に標的成分結合分子を固定化させた結合構造体は、抗体を選択的に取得する際に有効であると考えられる。
【0040】
同様に例えば薬剤と薬剤に結合するタンパク質の組み合わせにおいて、薬剤を標的成分とすればタンパク質は標的成分結合分子となる。この場合の担体表面に標的成分結合分子を固定化させた結合構造体は、前記薬剤に結合するタンパク質に対する薬剤候補を選択的に取得する際に有効であると考えられる。逆にタンパク質を標的成分とすれば薬剤は標的成分結合分子となり、この場合の担体表面に標的成分結合分子を固定化させた結合構造体は、薬剤に結合するタンパク質を選択的に取得する際に有効であると考えられる。
【0041】
標的成分と標的成分結合分子は、非生体分子あるいは生体分子のいずれであってもよい。
【0042】
標的成分または標的成分結合分子に用いる非生体分子で、産業上利用価値の大きいものの一例としては、種々の環境汚染物質が挙げられる。具体例としては、塩素置換数および塩素置換位置の少なくともいずれかが異なるPCB類、同じく塩素置換数および塩素置換位置の少なくともいずれかが異なるダイオキシン類および、いわゆる環境ホルモンと呼ばれる内分泌撹乱物質等が挙げられる。内分泌撹乱物質の例としては、ノニルフェノール、ヘキサクロロベンゼン等が挙げられる。
【0043】
これら生体内で好ましくない作用を発揮する汚染物質は、生体内細胞が産生する受容体タンパク質など、当該汚染物質に対する結合能を示すタンパク質、あるいは複合体形成能を有する核酸分子を介して、様々な臓器、組織、細胞へ取り込まれる。従って、これら環境汚染物質の検出には、当該汚染物質に対する結合能を示すタンパク質、あるいは複合体形成能を有する核酸分子を、本発明における標的成分結合性分子として好適に利用することができる。
【0044】
標的成分または標的成分結合分子して用いる非生体分子は、環境汚染物質に限定されるものではない。薬剤、食品添加物、農薬等市販の非生体分子、合成した薬剤候補等未知の非生体分子を例として、あらゆるものが使用できる。ただし、これらの非生体分子を標的成分として、抗体を標的成分結合分子として用いる場合には、非生体分子をアジュバントタンパクにより、いわゆるハプテン化処理する必要が生じる場合もある。
【0045】
標的成分または標的成分結合分子として用いる生体分子としては、核酸、タンパク質、糖鎖、脂質、生体内に存在する低分子化合物及びそれらの複合体から選択される生体分子が挙げられる。より詳しくは、核酸、タンパク質、糖鎖、脂質から選択される生体分子を含んでなるものである。具体的には、DNA、RNA、アプタマー、遺伝子、染色体、細胞膜、ウイルス、抗原、抗体、レクチン、ハプテン、ホルモン、レセプタ、酵素、ペプチド、スフィンゴ糖、スフィンゴ脂質、アミノ酸、ビタミン等が挙げられる。さらには前記の生体物質を産生する細菌や細胞そのものも、細菌や細胞に由来する「生体物質」と同様に実験操作を行うことにより、広義の「標的物質」とすることが可能である。
【0046】
標的成分または標的成分結合分子として用いるタンパク質の具体例として、疾病マーカーが挙げられる。かかる疾病マーカー・タンパク質の一例として、胎児期に肝細胞で産生され胎児血中に存在する酸性糖蛋白であり、肝細胞癌(原発性肝癌)、肝芽腫、転移性肝癌およびヨークサック腫瘍のマーカーとなるα−フェトプロテイン(AFP)、ヒト前立腺組織から抽出された糖蛋白であり、前立腺組織のみに存在し、それゆえ前立腺癌のマーカーとなる前立腺特異抗原(PSA)、等が挙げられる。
【0047】
標的成分または標的成分結合分子して用いるタンパク質は、疾病マーカーに限定されるものではない。糖タンパク、膜タンパク、リポタンパク、抗体、ペプチド、人工的に作成したタンパク質を例として、あらゆるものが使用できる。
【0048】
標的成分または標的成分結合分子とする核酸分子の具体例として、特定の塩基配列を有する核酸分子に関しては、その塩基配列の相補性を利用し、プローブ・ハイブリダイゼーション法を適用して、DNAプローブと選択的に結合させることができる。すなわち、標的物質である核酸分子に対して、良好なハイブリダイゼーションが可能なDNAプローブを、標的成分結合分子として好適に利用することができる。また、DNA結合タンパク質を標的成分結合分子として好適に用いることが出来る。
【0049】
標的成分または標的成分結合分子して用いる核酸は、プローブ・ハイブリダイゼーション法を適用できる核酸に限定されるものではない。DNA、RNA、アプタマー、リボザイムを例として、あらゆるものが使用できる。また、合成品、生体抽出品であるかは問わない。
【0050】
標的成分または標的成分結合分子とする糖鎖の具体例として、グルコース、マンノース、N-アセチルグルコサミン、フコース、ガラクトースおよびグルクロン酸等の単糖ユニットが1個または、複数(数個から数十個)連なった直鎖および分岐のオリゴマー及びポリマー等を挙げることが出来る。また、合成品、生体抽出品であるかは問わない。
【0051】
標的成分または標的成分結合分子とする脂質の具体例として、生物の神経組織、形質膜およびミトコンドリア、ミクロソーム、細胞核などの細胞内オルガネラの膜として存在する複合脂質、組織境界脂質膜等の天然脂質、レシチンのようなリン脂質、リポソーム等を挙げることが出来る。合成品、生体抽出品であるかは問わない。
【0052】
標的成分または標的成分結合分子とする生体内に存在する低分子化合物の具体例として、アミノ酸、ビタミン、金属イオンを包含しているまたは包含していないポルフィリンとその誘導体、生体物質から抽出された新規な化合物等を挙げることが出来るが、これに限定されるものではない。また、合成品、生体抽出品であるかは問わない。
【0053】
(基材)
本発明による標的成分の分離方法に用いる担体を、酵素分解性の部分と、酵素分解性の部分の支持体としての部分とを用いて構成する場合には、支持体としての部分を基材という。基材は単独、あるいは必要に応じて2種類以上を組み合わせて用いることが出来る。
【0054】
この際用いられる基材としては、酵素分解性物質に物理的な剛性が少ない場合に担体の物理的強度を増したい場合や、結合構造体に新たな機能を付加したい場合等に用いられるものを選択する。そのような基材の例としては、一般的な高分子化合物や無機系固形物、例えば樹脂、ガラス、金属などから適宜選択して用いることが出来る。また、酵素分解性物質を複数種使用した担体に対し、分解酵素が分解する成分と、分解酵素で分解しない成分があるならば、分解しない物質は基材として用いることも出来る。基材の種類、形状、大きさに関しては、用途に応じて選択して用いることが出来る。
【0055】
基材の形態は、担体表面の少なくとも一部に酵素分解性物質が存在することで酵素分解性をそこに付与できる形態であれば良い。例えば、酵素分解性物質で基材の少なくとも一部を被覆した担体、酵素分解性物質の表面に基材が結合した担体が挙げられる。
【0056】
特に好適な基材としては、磁性体を挙げることができる。磁性を有する物質を担体に含ませることにより、機械的強度の増強に加え、磁力を用いて遠隔的に担体を回収することが可能になるという効果があるためである。
【0057】
この際の磁性体としては、その表面に「酵素分解性物質」が存在できるものであり、かつ本発明の方法を妨げるものでなければ、磁性材料の種類、形状、大きさに関しては特に限定されない。このような磁性体の例としては、例えば磁性を有する金属または金属化合物が挙げられる。さらに具体的にはフェライトならば、マグネタイト(Fe3O4)、マグヘマイト(γ‐Fe2O3)、およびこれらのFeの一部を、Li、Mg、Al、Si、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、Cd、In、Sn、Ta、およびWのいずれかで置換した置換体の、少なくともいずれか1種、または2種以上の複合体フェライトを用いることが出来る。フェライト以外では、Fe、Co、Mn、Ni、Crなどの金属、Fe、Mn、Co、Niなどの合金を挙げることが出来る。
【0058】
また磁性体の例として、強磁性または超常磁性を有するものを挙げることが出来る。超常磁性を有する物質は、残留磁化や保磁力が無いが、外部磁界を印加することにより、磁気的操作が可能になるため本発明における基材として好適に使用できる。
【0059】
(担体)
本発明にかかる担体は、酵素分解性物質を、少なくとも担体の表面の一部に含んでいる構造を有する。よって、担体は、酵素分解性物質で基材の少なくとも一部を被覆した構造でもよいし、あるいは酵素分解性物質の表面に基材が結合した構造でもよい。また、担体は、基材を有しないで、酵素分解性物質のみからなる構造でもよい。
【0060】
本発明による標的成分の分離方法にて用いる担体の形状は特には限定されない。例えば板状、粒子状、糸状(フィルター状)など何れの形状であってもよい。特に好適な担体の形状は粒子状とした場合である。なぜなら粒子状にすることにより、担体の体積に対する表面積の割合が大きくなり、それに伴い固定化できる標的成分結合分子の分子数も増えるため、より効率的に標的成分を回収することが可能になるからである。また、液中での撹拌等の操作により動的に反応を促進することが出来る。これは検体が往々にして少量である生体物質を扱う実験にとって有利である。また、遠心分離や磁気操作により、固体である担体と液体である検体を分けることが容易であることから、実験を簡便に進めることにも役立つ。
【0061】
(標的成分結合分子の担体への固定化)
酵素分解性物質で被覆された担体の表面に、標的成分に対して特異的に結合親和力を有する分子(標的成分結合分子)を固定する。標的成分結合分子は、担体表面の少なくとも酵素分解性物質で被覆された箇所に固定されている。好ましい固定方法は、再現性や安定性を考慮すると、酵素分解性物質の官能基と、標的成分結合分子の有する官能基とを、そのまま、あるいは変換・修飾・活性化試薬の存在下に結合させて、不可逆的な共有結合を介在させることにより行う。他の固定方法としては、担体の表面を被覆する酵素分解性物質と標的成分結合分子との疎水性、イオン性、ファンデルワールス力、水素結合、配位結合等の物理的親和力による物理吸着によることもできる。標的成分結合分子の担体への固定化によって、担体表面に標的成分結合分子が固定された形態である酵素分解性物質で被覆された担体を結合構造体とする。
【0062】
本発明の方法に用いる酵素分解性物質の一例としてポリヒドロキシアルカノエート(PHA)を用いることが出来る。このPHA担体の一形態として、側鎖上にエポキシ基を有するPHAを用いることができる。該エポキシ基は、標的成分結合分子が有するアミノ基(−NH2)あるいはスルファニル基(−SH)と直接的に共有結合を形成することができる。結合形成に試薬を必要とせず、共有結合の形成が可能であることから、用いる標的成分結合分子として、酵素タンパク質等の変性を起こし易いタンパク質や、Aタンパク質、Gタンパク質といった抗体(Fc)受容体タンパク質等の担持に有効である。さらには、該PHA担体上にイミノ二酢酸(IDA)を担持し、Ni2+等の金属イオンを添加することにより、ヒスタグ化された標的タンパク質の効率的回収に利用することが可能である。本エポキシ基との反応を利用して、共有結合を形成する方法は、標的成分結合分子が薬剤候補物質のような低分子化学物質である場合にも、該低分子化学物質がアミノ基(−NH2)あるいはスルファニル基(−SH)を有していれば、勿論応用することができる。
【0063】
該エポキシ基含有PHA担体は、エポキシ基に対して、10〜100倍モル量の水酸化アンモニウム、あるいはヘキサメチレンジアミン塩酸塩等を用いて、アルカリ条件下で反応させることにより、アミノ基を有するPHA担体に変換することができる。このアミノ基は、標的成分結合分子がタンパク質やペプチドの場合は、N−ヒドロキシスクシンイミド(以下NHSと略す)等の架橋化剤によりアミド結合を形成させることができる。タンパク質またはペプチドの主鎖カルボキシ末端やアスパラギン酸、グルタミン酸といったアミノ酸残基の側鎖カルボキシ基がこのアミド結合に関与する。
【0064】
その場合、標的成分結合分子側のカルボキシ基をNHS処理により活性化エステルとする必要があるので、NHS処理を施した際、標的成分結合分子の機能が十分保持されるか否かを、予め確認しておく必要がある。本アミド結合形成を利用する担持方法は、標的成分結合分子が薬剤候補物質のような低分子化学物質である場合にも、該低分子化学物質がカルボキシ基を有していれば、勿論応用することができる。
【0065】
さらに、該アミノ基は、標的成分結合分子が、糖鎖やレクチン等の糖タンパク質、リポ多糖等の糖脂質の場合には、その糖鎖中のアルデヒド構造(ホルミル基:−CHO)との間で、シッフ塩基(−CH=N−)形成および還元的アミネーションによる安定な結合を形成することができる。本糖鎖とアミノ基との反応を利用する共有結合の形成方法は、糖鎖中にアルデヒド構造を導入する、糖鎖部分の部分的酸化により促進され、また、そのFc部分に糖鎖を有するIgG等の抗体分子の担持にも応用可能である。また、この方法は、標的成分結合分子が薬剤候補物質のような低分子化学物質であっても、低分子化学物質がアルデヒド構造を有しているか、部分的酸化によりアルデヒド構造を導入することが可能であれば、勿論応用することができる。
【0066】
さらに、該アミノ基は、マレイミド誘導体、ピリジルジチオ化合物、ヨウ素/臭素アセチル化合物の存在下で、スルファニル基(−SH)を有する標的成分結合分子と結合させることができる。このアミノ基とスルファニル基(−SH)との反応条件は、加える変換・修飾・活性化試薬の種類により異なり、例えばマレイミド誘導体を用いる場合は0.1Mリン酸ナトリウム(pH6.5−7.5)中で4℃から室温で2−4時間が基本的な反応条件となる。その他同様に、ピリジルジチオ化合物を用いる場合は、PBS緩衝液(pH7.5)中で、室温にて15−20時間程度、ヨウ素/臭素アセチル化合物を用いる場合は、0.05Mホウ酸ナトリウム溶液(pH8.3)中で、遮光下に室温にて、1時間となる。これらの基本的な反応条件は、標的成分結合分子の種類、その後の目的に応じて適宜変更することも可能である。
【0067】
本発明の方法に用いるPHA担体への担持の別の一形態として、該PHAの側鎖にカルボキシル基を有するPHA磁性構造体を利用するものを挙げることができる。該カルボキシル基は、標的成分結合分子が、タンパク質やペプチドの場合は、その主鎖アミノ末端や、リジン、アルギニンといったアミノ酸残基側鎖上のアミノ基との間で、NHS等の架橋化剤によって、アミド結合を形成することができる。このアミド結合形成反応は、PHAのカルボキシ基をNHS処理により予め活性化エステルとすることにより、アミド結合の形成速度・頻度を向上したものである。また、標的成分結合分子がDNAやオリゴヌクレオチドである場合には、通常の既知の方法で、その末端をアミノ化したDNA、オリゴヌクレオチドを用いることで、上記の反応方法によって、側鎖にカルボキシル基を有するPHA上に担持することができる。本PHA側鎖のカルボキシ基を利用するアミド結合の形成方法は、標的成分結合分子が薬剤候補物質のような低分子化学物質である場合にも、該低分子化学物質がアミノ基を有していれば、勿論応用することができる。
【0068】
本発明の方法に用いるPHA担体への担持の別の一形態として、該PHAの側鎖にクロロ基(−Cl)、ブロモ基(−Br)、フルオロ基(−F)といったハロゲンを有するPHA磁性構造体を利用するものを挙げることができる。該ハロゲンがクロロ基やブロモ基の場合、スルファニル基(−SH)を有する標的成分結合分子との間で、温和な条件により、スルフィド結合(−S−)を形成することができる。
【0069】
その他、上記の活性官能基に、PHA担体に担持したい標的成分結合分子と特異的に結合する物質を結合させた後、この物質に対して、目的の標的成分結合分子を特異的に結合させることにより、構造体上に担持する方法も挙げられる。
【0070】
例えば標的成分結合分子が抗体の場合には、抗体と特異的に結合するプロテインAやプロテインGなどを介して構造体に担持できる。また、さらに標的成分結合分子を修飾した後、同様の方法で担持することも可能である。後者の例としては、ビオチンに特異的に結合するアビジンあるいはストレプトアビジンで標的成分結合分子を修飾する方法が挙げられる。この場合、カルボキシル基含有PHA担体の表面に、試薬NHS−iminobiotin(Pierce製)を用いて、ビオチンを担持させることにより、標的成分結合分子を構造体上に担持することができる。
【0071】
他の物質を介した標的成分結合分子の担持に利用可能な親和性結合対の例として、他に、レクチンと糖、ハプテンと抗体、タンパク質AあるいはGと抗体Fc等が挙げられる。その他にも、互いに反応はするが、一般に、タンパク質とは反応しない化学的部分対であれば利用可能である。
【0072】
標的成分結合分子を固定した担体には更に必要に応じて、構造体上への非特異吸着を防止するための処理を行うことができる。好ましい方法としては、担持される標的成分結合分子の活性を損失しないような「ブロッキング剤」でコーティングすることが好ましい。この「ブロッキング処理」に適したブロッキング剤として、コラーゲン、ゼラチン、スキムミルク、カゼイン、およびBSA等の血清タンパク質が挙げられる。その他にも、タンパク質とは反応しない化合物であって、疎水性部分および親水性部分を含むものであれば利用することができる。
【0073】
(検体と結合構造体との接触による結合複合体の形成)
検体中の標的成分を結合構造体に結合させる方法として、担体等の構造体を用いた標的成分の精製に一般に適応される方法が利用できる。
【0074】
担体が微粒子の場合にはカラム法とバッチ法による2種の精製方法が知られている。カラム法とは、担体を充填したカラムに検体を添加して流すことにより、標的成分結合分子と標的成分の複合体を形成させる方法である。バッチ法は、検体をビーカー等の容器に入れ、それに担体を加えることにより標的成分結合分子と標的成分の複合体を形成させる方法である。カラム法は検体の大量処理、バッチ法は小さい実験系でも出来る利点があるが、実験設備、操作の容易さを考慮して適宜選択することが出来る。これらの実験条件は既知の実験方法を参照しながら実施することができる。
【0075】
(検体中からの標的成分が結合した結合構造体の分離)
標的成分と標的成分結合分子との結合複合体の形成によって標的成分が結合した構造結合体から結合複合体を遊離させる工程を、検体中の標的成分以外の成分が含まれない環境で行うために、標的成分が結合した構造結合体を検体中から分離する工程を行う。本工程を経ることで、標的成分以外の成分が含まれていない環境で、結合複合体を遊離させて回収できるため、担体に分解酵素を作用させた反応液から、そのまま結合複合体を高い精製度で簡便に回収することが可能となる。検体中から分離された結合構造体は、さらに洗浄液で洗浄することにより、結合構造体の表面に吸着等により残存する標的成分以外の成分を取り除くこともできる。
【0076】
(酵素分解性物質の分解酵素による分解)
酵素分解性物質の分解反応を行うには、担体の有する酵素分解性物質の分解酵素を接触させる。pH、温度及び反応時間等の反応条件は、分解酵素それぞれに最適値があるため、それを実験または公知文献などから調べた上で選択するとよい。例としてポリヒドロキシアルカノエート分解酵素であれば、好ましくはpH6.0〜9.0、より好ましくはpH約7.0から8.0であり、反応温度は25〜50℃、好ましくは30〜40℃、より好ましくは約35℃である。反応時間は酵素分解性物質の表面積と量、分解酵素の量に依存する。酵素の失活やコンタミネーションの防止を勘案すると、例としてポリヒドロキシアルカノエート分解酵素であれば、反応時間は好ましくは1分〜168時間、より好ましくは30分〜72時間である。
【0077】
(結合複合体の遊離・回収)
酵素分解性物質に対する分解反応後に得られる結合複合体の精製については、一般的に適用される方法を用いることが出来る。結合複合体に変性しやすいタンパク質を含む場合、または不安定な物質を含む場合には、遠心分離、透析、カラム精製、限外ろ過膜による分離やこれらの精製方法を組み合わせた方法に例示されるように、酸、アルカリ、変性剤や反応性の高い試薬を用いない温和な方法が好適に用いられる。
【0078】
分解酵素を適当な固体支持体に固定化して用いると、標的成分からの分解酵素の分離において遠心分離、ろ過等により簡便に取り除くのに有効である。さらに分解酵素を固定する固体支持体が磁性体を含んでいれば、磁気回収により簡単に分解酵素を取り除くことができる。固体支持体に固定した形態の分解酵素は再利用にも有効である。
【0079】
また、分解酵素にGSTタグ、Hisタグなどを予め付与しておき、分解反応後にこれらのタグに親和性の固体支持体を添加することにより、分解酵素を吸着させ遠心などで分離することも好適に用いられる。
【0080】
(標的成分の分離キット)
本発明は、上記に説明した標的成分の分離方法に好適に利用できるキットも提供する。
本発明のキットは、検体中に含まれる標的成分を分離するためのキットであって、次の(A)または(B)のいずれかの構成で提供される。
(A)酵素分解性の表面を有する、例えば「酵素分解性物質」が少なくとも表面の一部に存することで酵素分解性の表面を有する担体と、分解酵素と、を有するキット。
(B)酵素分解性の表面を有する、例えば「酵素分解性物質」が少なくとも表面の一部に存することで酵素分解性の表面を有する担体と、この表面に固定された標的成分結合分子とを有する結合構造体と、分解酵素と、を有するキット。
【0081】
酵素分解性物質が2種類以上からなる場合は、酵素分解性物質の各種類に対するそれぞれの分解酵素が、分離キットに含まれてもよいが、少なくとも、担体表面に存する「酵素分解性物質」に対する分解酵素が含まれている必要がある。
【0082】
以上のとおり、本発明の実施形態を詳細に説明したが、それぞれの実施形態においては、次のような効果が得られる。
【0083】
本発明の標的成分の分離方法によれば、標的成分がタンパク質の場合であってもその立体構造を変化させることがなく分離することが可能になる。また反応性の高い標的成分や、標的成分結合分子との結合が極めて強い標的成分を対象とする場合にも、標的成分を損なわず分離することが可能になる。
【0084】
上記分離方法に更に、標的成分と標的成分結合分子との結合複合体を分離、回収する工程を含むことにより、例えば担体の表面の分解に用いた分解酵素や酵素分解性物質の分解物を効率的に取り除け、上記の結合複合体を簡便に得る方法の提供が可能になる。
【0085】
本発明の標的成分の分離方法において、担体の形状を粒子状にすることによって、担体の比表面積が大きくなり標的成分結合分子を固定化できる量が増え、標的分子を含む検体との接触の際にも接触機会が多くなることから反応が速やかに進むことになる。結果として標的分子の効率的な回収が可能になるという効果がある。また遠心回収など操作性も向上するという効果もある。さらに分解酵素による分解速度は、分解酵素が触れられる表面積に比例するため、酵素分解性物質の分解も速やかに進むという効果がある。
【0086】
さらに本発明の標的成分の分離方法において、特に磁性を有する物質を担体に含ませることにより、機械的強度の増強、磁力を用いて遠隔的に担体を回収することが可能になるという効果がある。
【0087】
本発明のキットは、酵素分解性物質が少なくとも表面の一部に存する担体、または、この担体と、この担体表面の少なくとも酵素分解性物質が存する箇所に固定された、標的成分結合分子とを有する結合構造体、のいずれと、担体に存する酵素分解性物質を分解できる分解酵素を少なくとも同梱する。このキットにより、標的成分がタンパク質の場合であっても立体構造を変化させること無く、また反応性の高い標的成分や、標的成分結合分子との結合が極めて強い標的成分を対象とする場合にも、標的成分を損なわず分離するための実験を簡便にするという効果がある。
【実施例】
【0088】
以下、実施例を用いてさらに詳細に本発明を説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、材料、反応条件、組成条件およびそれらの組み合わせは、同様な効果を有する分離方法が出来る範囲で自由に変えることができる。
【0089】
(実施例1)
磁性体微粒子含有エポキシ型ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)微粒子への抗AFP抗体固定化による結合構造体の作成と、抗AFP(α−フェトプロテイン)抗体とAFPとの結合複合体の作製、取得及び検出
1)Pseudomonas sp. YN21株の培養及びポリヒドロキシアルカノエート分解酵素PhaZ粗酵素液の調製
0.1%(v/v)ノナン酸、0.5%ポリペプトン(w/v)および0.5%(w/v)グルコースを加えたM9培地を用いて、Pseudomonas sp. YN21株を30℃で36時間前培養を行う。本培養には0.1%(v/v)ノナン酸 、0.5%ポリペプトン(w/v)および0.5%(w/v)グルコースを加えたM9培地を用い、前培養液を添加して30℃で24時間振とう培養する。
M9培地の組成は表1の通りである。
【0090】
【表1】

【0091】
M9培地組成中の微量成分溶液の組成は表2の通りである。
【0092】
【表2】

【0093】
その後、遠心分離(4℃,9500rpm,40分)して菌体を回収し、100mM Tris−HCl緩衝液(pH7.5)で菌体を懸濁し再度遠心分離して回収することによって菌体を洗浄する。ついで100mM Tris−HCl緩衝液(pH7.5)で菌体を懸濁し、フレンチプレス処理によって菌体を破砕する。破砕液を遠心分離して、未破砕の細胞を沈殿として除き、上清を粗酵素液として調整する。
【0094】
2)ポリヒドロキシアルカノエート分解酵素PhaZの精製
調製した粗酵素液に、体積比で1/20量の50mM Tris-HCl(pH7.5)緩衝液で十分に平衡化したDEAE-cellulose樹脂を加え、15分間撹拌、10分間静置を2回繰り返し、バッチ法による吸着を行う。20分間静置してデカンテーションで上清を取り除き、50mM Tris-HCl(pH7.5)緩衝液で洗浄してからカラムに詰める。溶出はNaCl(0〜1M)のリニアグラジエントで行う。
【0095】
集めた活性画分は、10mMのNaClを含む50mM Tris-HCl緩衝液(pH7.5)で平衝化したPhenyl-Sepharose CL-4Bにアプライした。同緩衝液で洗浄後、塩濃度とエチレングリコールの直線濃度勾配により溶出させる。活性画分はエチレングリコールを除去するため、回収後、50mMTris-HCl緩衝液(pH7.5)で一晩透析する。最後にDEAE−Toyopearlカラムクロマトグラフィーを行う。予め50mM Tris-HCl緩衝液(pH7.5)で平衝化したカラムに、透析した活性画分をアプライする。同緩衝液で洗浄後、NaClによる塩濃度勾配により目的タンパクを溶出させる。これらのステップでポリヒドロキシアルカノエート分解酵素を粗酵素液精製する。
【0096】
得られた酵素標品を用いてSDS−PAGE(ドデシル硫酸ナトリウム・ポリアクリルアミドゲル電気泳動)を行い分子量の決定をする。SDS−PAGEは7.5%ゲルを用いて20mAの一定電流で2時間泳動後、染色はクマシーブリリアントブルーで行う。分子量既知の数種のタンパク(ミオシン、β−ガラクトシダーゼ、ホスホリラーゼB、牛血清アルブミン、オボアルブミン)を同様に泳動し、分子量マーカーを作成する。この結果より、精製酵素は分子量約31kDaのタンパク質であることがわかる。また等電点電気泳動の結果、本酵素の等電点は9.6である。
【0097】
また、ポリヒドロキシアルカノエート分解酵素活性は以下の力価の測定法に従って測定する。ポリヒドロキシノナン酸をソルベントキャスト法にてQCM(水晶発振子マイクロバランス)上にフィルム化し、これを50mM Tris-HCl緩衝液(pH7.5)2ml、35℃中に静置し、QCM信号が安定するまでプレインキュベートする。ポリヒドロキシアルカノエート分解酵素150μgの添加で反応を開始し、QCMの共振周波数を経時的に測定する。周波数変化量からポリヒドロキシアルカノエートの質量減少量を求め、これを酵素活性とする。なお、IUは35℃で1分間に1μgのポリヒドロキシアルカノエートを分解する酵素量と定義する。
【0098】
3)Pseudomonas sp. YN21株由来のポリヒドロキシアルカノエート合成酵素PhaCの調製
特開2003-333232号公報記載の方法に従い、ポリヒドロキシアルカノエート合成酵素PhaCを作成した。YN2株のPhaC配列と、それに対するprimer配列は、特開2004-333232に開示されている。
【0099】
まず、Pseudomonas chicorii YN2株からWizard(R) SV Genomic DNA Purification System(Promega社製)にて全DNAを取得する。また、PhaCのN末端をコードするヌクレオチド配列および制限酵素BamHI配列を含むforward primerと、C末端をコードする配列に相補的なヌクレオチド配列および制限酵素XhoI配列を含むreverse primerを用意する。これらのプライマーを用いて全DNAを鋳型としてLA PCR taq polymerase(タカラバイオ(株)製)を使用し、PCRを行う。得られたDNA断片のヌクレオチド配列を解析したところ、特開2004-333232に記載の配列と同じであったことから、PhaCをコードするDNAであると確認する。
【0100】
PhaCをコードするDNAを、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(以下GSTと記述)をコードする塩基配列を有する発現プラスミドpGEX-6p-1(アマシャムバイオサイエンス(株)製)に挿入するため、このプラスミドとPhaCをコードするPCR増幅産物を制限酵素BamHI、XhoIにより消化、精製後、両者をligaseにて連結する。このプラスミドを用いてEscherichia coli BL21株(フナコシ(株)製)コンピテント細胞を形質転換し、pGEX-6p-1にPhaCが挿入されたプラスミド(以下pGEX-phaCと記述)を持つE. coli BL21株を得る。
【0101】
pGEX-phaCを持つE. coli BL21株を培養し、途中OD600が0.4〜0.6に到達した時点でイソプロピルβ-D-チオガラクトピラノシド(IPTG)を最終濃度1mMとなるように添加することにより、PhaCの発現を誘導する。SDS-PAGE分析したところ、IPTG添加後約95kDaのGST融合PhaC(以下GST-PhaCと記述)の産生が誘導されたことを確認する。
【0102】
培養菌体は遠心分離により回収しPMSF 1mMを含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS buffer)へ懸濁する。ついで菌体を破砕、遠心分離にて抽出液を得る。抽出液中のGST-PhaC吸着のため、グルタチオンセファロース4B(アマシャムバイオサイエンス(株)製)を添加する。グルタチオンセファロース4Bは洗浄し、その後Cleavage buffer(50 mM Tris-HCl、150 mM NaCl、1 mM EDTA、1 mM DTT、pH 7.0)へbuffer交換する。さらにGSTとPhaCのリンカー部分を切断するPreScission Protease(アマシャムバイオサイエンス(株)製) を添加し消化させる。PhaC以外の共雑物を取り除くことにより、精製PhaCとする。
【0103】
得られたPhaCの濃度測定は、Micro BCA Protein Assay Reagent キット(PIERCE社製)を用いる。得られたPhaCの活性測定は、基質となるDL-β-hydroxybutyl Coenzyme A Lithium salt(Sigma社製)からPhaCがPHAを合成する際に遊離するCoenzyme Aを定量することにより行う。Coenzyme Aの定量はDTNB (5,5'-dithiobis-2-nitrobenzoic acid)の添加と412nmの吸光度測定により行う。
【0104】
4)磁性体微粒子含有エポキシ型ポリヒドロキシアルカノエート微粒子の作成
特開2003-333232 実施例に記載の方法に従って磁性体微粒子含有エポキシ型ポリヒドロキシアルカノエート微粒子を作製する。
【0105】
YN2株由来のポリヒドロキシアルカノエート合成酵素(PhaC)に、1次粒子径20nmのγ-Fe2O3微粉「NanoTek」(シーアイ化成(株)社製)を添加しPhaC固定化磁性体微粒子を得る。
【0106】
前記PhaC固定化磁性体微粒子を5mM HEPES buffer(pH=7.5)に懸濁し、基質として (R,S)-3-hydroxy-5-Phenoxyvaleryl Coenzyme A と、(R,S)-3-hydroxy-7-epoxyoctanoyl Coenzyme A(Int. J. Biol. Macromol., 1990, 12, 85-91)を添加することにより、磁性体被覆ポリヒドロキシアルカノエート微粒子を合成する。
【0107】
5)フェライト微粒子含有エポキシ型PHA微粒子への抗体固定化による結合構造体の作成と、抗AFP抗体とAFPとの結合複合体の作成
リン酸緩衝液(0.1M;pH7.4)中に、4)において作製されたエポキシ型PHA磁性構造体微粒子を均一に分散させる(理論濃度5−10×108個/mL)。この分散液に、リン酸緩衝液に溶解した抗AFP(α−フェトプロテイン)抗体を加え、ピペッティングにより穏やかに攪拌、さらにロータリーシェーカーで30℃で1時間反応させることにより、抗AFP抗体を固定化させる。
【0108】
終了後、磁気回収して上清を除する。さらに、リン酸緩衝液で懸濁、磁気回収、上清除去の操作を2回繰り返し、共雑物を除去する。この抗AFP担持エポキシ型PHA磁性構造体微粒子を分散させた溶液に、AFPを溶解した溶液を添加し、37℃で30分、抗AFP体とAFPとの結合反応を行う。結合反応後はリン酸緩衝液で懸濁、遠心分離、上清除去という洗浄操作を3回繰りかえし共雑物を取り除くことにより回収する。
【0109】
6)PHA分解酵素の添加による、抗AFP抗体とAFPとの結合複合体の取得
抗AFP抗体とAFPとの結合複合体固定化PHA被覆フェライト微粒子構造体に対して、3)で作成したGST融合PHA分解酵素であるGST-PhaZを添加、37℃で2時間撹拌する。フェライトを磁気にて沈殿させ、上清を取得する。上清に対して、グルタチオンセファロース4Bを添加して、4℃ 1時間の撹拌によりGST-PhaZを吸着させ、さらに透析を行う。
【0110】
7)抗AFP抗体とAFPとの結合複合体の検出
6)で得られた上清をサンプルとして5-20%の濃度勾配があるアクリルアミドゲルを用いたSDS-PAGEにより、抗AFP抗体に由来する約150kDaとAFPに由来する約70kDaのバンドのみが得られ、また、共雑物も無いサンプルであると確認する。更に確認するためにはウエスタンブロッティングを行う。J. Immunoassay, 4, 209(1983)およびBiochemistry, 11(12), 2291 (1972)に記載の方法に従って、アルカリ・ホスファターゼ標識抗AFP抗体Fab’を作製する。この標識抗AFP抗体Fab’を0.1Mトリス−塩酸緩衝液(2% BSA、1mM MgCl2 、0.1mM ZnCl2 含有;pH7.5)、およびブロッキング剤としてウシ血清アルブミン(BSA)(終濃度0.3%)を含有した溶液に混合・溶解する。最終濃度は0.1μg/mLにする。その500μLをSDS-PAGEゲルに添加し、1時間室温で振盪する。同量の500μLのグリシン−NaOH緩衝液(0.1M:pH10.3:MgCl2(1mM)および卵白アルブミン(250mg/L)を含む)を加え、37℃で5分間反応させる。その後、さらに4−ニトロフェニルリン酸(最終濃度5.5mM)を含む前記緩衝液500μlを加え、37℃で60分間反応させる。反応終了後、1M NaOH水溶液500μLを加えて、反応を停止し、紫外・可視吸光度を測定する。その結果、標識酵素アルカリ・ホスファターゼによる反応産物に由来する405nmの吸収が検出され、実際に、抗原AFPが回収されていることが確認される。
【0111】
(実施例2)
キトサン微粒子へのセロペンタオース固定化による結合構造体の作成と、セロペンタオースとコンカナバリンAとの結合複合体の作成、取得及び検出
1)キトサン分解酵素の作製
特開2004-000131号公報の実施例に従って、キトサン合成酵素を作製する。
【0112】
Aspergillus oryzaeを培養後、Wizard(R) SV Genomic DNA Purification System(Promega社製)にて全DNAを取得する。また、キトサン分解酵素のN末端をコードするヌクレオチド配列および制限酵素BamHI配列を含むforward primer、C末端をコードする配列に相補的なヌクレオチド配列および制限酵素BamHI配列を含むreverse primerを用意する。これらのプライマーを用いて全DNAを鋳型とするPCRを行い、制限酵素サイトを導入したキトサン分解酵素DNAを得る。キトサン分解酵素DNAは、Hisタグをコードする発現プラスミドpQE60(キアゲン社製)に挿入するため、プラスミドとDNAを制限酵素BamHI消化、精製後、両者をligaseにて連結した。このプラスミドを用いてEscherichia coli M15株(キアゲン社製)コンピテント細胞を形質転換し、pQE60にキトサン分解酵素を持つE. coli M15株を得る。
【0113】
このE. coli M15株を培養し、途中OD600が0.6〜0.7に到達した時点でイソプロピルβ-D-チオガラクトピラノシド(IPTG)を最終濃度1mMとなるように添加することにより、PhaCの発現を誘導する。菌体上清をサンプルとするSDS-PAGE分析により、IPTG添加後約44kDaのバンドを確認する。さらにHisタグ精製を行い、共雑物を取り除く。
【0114】
キトサン分解酵素の濃度は、Micro BCA Protein Assay Reagent キット(PIERCE社製)を用いる。キトサン分解酵素活性は、特開2004-000131号公報の試験例に従って確認する。
【0115】
2)コロイダルキトサンの作製
担体として、特開平3−30671号公報の実施例に記載の「コロイダルキトサンの調製」に従う。キトサン(焼津水産化学工業製)の塩酸溶液を希水酸化ナトリウム溶液で中和後、不溶化したキトサンをミキサーで粉砕してコロイダルキトサンを得る。
【0116】
3)キトサン微粒子へのセロペンタオース固定化による結合構造体の作成と、セロペンタオースとコンカナバリンAとの結合複合体の作製
コロイダルキトサンをリン酸緩衝液(100mM、pH=7.0)中へ均一に分散させる。一方、セロペンタオース(D‐(+)-Cellopentaose:Sigma社製)を、過ヨウ素酸ナトリウムで非還元末端を酸化する事により、アルデヒド構造(‐CHO:アルデヒド基)を生成させる。このアルデヒド構造を有する
セロペンタオースをコロイダルキトサン分散液に加え、30℃で30時間撹拌し、セロペンタオースをキトサンのアミノ基に対して共有結合させる。
【0117】
その後、微粒子表面に残存する未反応のアミノ基をすべてなくすため、水で2回、DMFで2回洗浄後にDMFで微粒子を懸濁させた後、無水酢酸を加えて30℃で8時間撹拌する。反応後、DMFで2回、水で2回、リン酸緩衝液で2回洗浄した後、リン酸緩衝液を用いてセロペンタオース固定化キトサン微粒子の懸濁液とする。
【0118】
コンカナバリンAが多量に含まれる事が知られているなた豆をすりつぶして得られた抽出液に対して、PMSFを終濃度 1mMとなるよう添加し、前記リン酸緩衝液に希釈する。この液にセロペンタオース固定化キトサン微粒子の懸濁液を添加し、30℃で1時間撹拌、セロペンタオースとコンカナバリンAとの結合反応を行う。結合反応後はリン酸緩衝液で懸濁、遠心分離、上清除去という洗浄操作を3回繰りかえし共雑物を取り除くことにより回収する。
【0119】
4)キトサン分解酵素の添加による、セロペンタオースとコンカナバリンAとの結合複合体の取得
得られたコンカナバリンA−セロペンタオース固定化キトサン微粒子をリン酸緩衝液に懸濁し、キトサン分解酵素を添加、半透膜にそれら懸濁液を詰め、外液リン酸緩衝液とした状態で、30℃ 48時間撹拌しながら分解反応を進行させる。48時間の間に、透析外液は8時間毎に6回交換する。得られた透析内液に対して、未修飾のキトサン微粒子を添加、30℃で30分キトサン分解酵素を吸着させた後、遠心分離をかけ、上清を単離する操作を2回行う。得られた上清をもう一度半透膜に詰めて、外液リン酸緩衝液として4時間毎に3回透析外液を交換、結果、透析内液よりコンカナバリンA−セロペンタオースを単離する。
【0120】
5)セロペンタオースとコンカナバリンAとの結合複合体の結晶構造解析
得られたコンカナバリンA−セロペンタオース結合複合体の結晶化を行う。タンパク質結晶化用スクリーニングツール(Nextal社製)を用いて、ハンギングドロップ法にて結晶化条件を検討した結果、コンカナバリンA−セロペンタオース結合複合体の結晶を得る。結晶解析はタンパク質結晶構造解析用X線回折装置(Xcalibur PX Ultra、Oxford Diffraction社製)を用いて行う。
【0121】
(実施例3)
カルボキシメチルセルロース被覆ポリエチレンテレフタレート膜への抗アルキルフェノール抗体固定化による結合構造体の作製と、抗アルキルフェノール抗体とノニルフェノール結合複合体の作製、取得及び検出
1)カルボキシメチルセルロース被覆膜の作製
特開2000-154276号公報の実施例1に記載の方法に準じ、非水溶性の酸型のカルボキシメチルセルロースが被覆されたポリエチレンテレフタレート製シートの作製を次の手順で行う。
【0122】
カルボキシメチルセルロースナトリウム塩(ダイセル化学社製)6gを蒸留水100mlに溶解し、フィルターによる濾過および脱泡後、ポリエチレンテレフタレート製シート上にキャストする。3日間自然乾燥後、0.5mol/L塩酸メタノール溶液に30秒間浸漬する。引き上げ後、20時間自然乾燥を行い、次いで流水で洗浄し再び乾燥させる。
【0123】
2)カルボキシメチルセルロース被覆膜への抗アルキルフェノール抗体固定化による結合構造体の作製と、抗アルキルフェノール抗体とノニルフェノールとの結合複合体の作製
カルボキシメチルセルロースのカルボキシ基を、N−エチル−N’−(ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)およびN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)で活性化する。これに、理論上2倍量の抗アルキルフェノール抗体(和光純薬製)を反応させて、抗アルキルフェノール抗体を担持したカルボキシメチルセルロース被覆膜を得る。
【0124】
標的成分として加えるノニルフェノールには、検出和光純薬製「アルキルフェノールELISAキット」の手法に準じ、このキットに付属するノニルフェノール標準原液と抗原酵素複合体溶解液を混合して用いる。この混合液に前工程で得られた抗アルキルフェノール抗体が結合したカルボキシメチルセルロースを加えて30℃で30分間振盪する。
【0125】
反応後、カルボキシメチルセルロース被覆膜が容器に残るように、残りの溶液を流す。次いで、容器への洗浄液添加、30℃で10分振盪後反応液除去の作業を3回繰り返し、被覆膜を洗浄する。
【0126】
3)セルロース分解酵素添加による抗アルキルフェノール抗体とノニルフェノールとの結合複合体の取得
得られた抗アルキルフェノール抗体とノニルフェノールとの結合複合体固定化カルボキシメチルセルロース被覆膜をリン酸緩衝液に浸し、セルロース分解酵素(セルラーゼ)であるセルロシンT2(エイチビィアイ(株)製)を添加、37℃で24時間撹拌しカルボキシメチルセルロースの分解反応を促進させる。
【0127】
4)抗アルキルフェノール抗体とノニルフェノールとの結合複合体の検出
得られた抗アルキルフェノール抗体とノニルフェノールとの結合複合体に発色基質溶液(アルキルフェノールELISAキットに付属)を加えて、吸光度を測定すると、450nmに強い吸収が見られ、本方法により、ノニルフェノールが回収されていることが確認される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体中に含まれる標的成分を分離する方法であって、
酵素分解性表面を有する担体と、前記標的成分に対して特異的な結合親和性を有する標的成分結合分子と、を有し、前記標的成分結合分子が前記酵素分解性表面に固定されている結合構造体を用意する工程と、
前記結合構造体に前記標的成分を含有する検体を接触させることにより、前記標的成分と前記標的成分結合分子との結合複合体を形成させる工程と、
前記結合複合体の形成により、前記結合構造体に結合した前記標的成分を、前記結合構造体とともに前記検体中から分離する工程と、
前記検体中から分離された、前記標的成分が結合した結合構造体に、分解酵素を作用させて該結合構造体に結合していた結合複合体を遊離させる工程と、
を有することを特徴とする標的成分の分離方法。
【請求項2】
前記遊離した結合複合体を分離、回収する工程を更に有することを特徴とする請求項1に記載の標的成分の分離方法。
【請求項3】
前記分離した結合複合体から標的成分を分離、回収する工程を更に有することを特徴とする、請求項2に記載の標的成分の分離方法。
【請求項4】
前記担体が粒子状であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の標的成分の分離方法。
【請求項5】
前記担体が磁性を有する物質を含むことを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載の標的成分の分離方法。
【請求項6】
検体中に含まれる標的成分を分離するためのキットであって、
酵素分解性表面を有する担体、または、該担体と、該担体の酵素分解性表面に固定された、前記標的成分に対して結合親和性を有する分子とを有する結合構造体、のいずれかと、
前記酵素分解性表面の分解のための分解酵素と、
を有することを特徴とする標的成分の分離キット。

【公開番号】特開2007−228909(P2007−228909A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−56303(P2006−56303)
【出願日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「ナノ微粒子利用スクリーニングプロジェクト」に係わる委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】