説明

標的物質検出用キット及びこれを利用した標的物質検出方法

【課題】標的物質検出用キット及びこれを利用した標的物質検出方法を提供する。
【解決手段】本発明は、第1分子及び前記第1分子と連結されたプローブを含む標的物質結合部と、双性イオンを持つ化合物及び第2分子が表面に連結されたナノ粒子を含む標的物質検出部と、で形成されたものであり、前記第1分子及び第2分子は、互いに対をなして特異的に結合する標的物質検出用キットを提供する。本発明による標的物質検出用キット及びこれを利用した標的物質検出方法によれば、標的物質を効率的に検出できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的物質検出用キット及びこれを利用した標的物質検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アビジンとビオチンとは、抗体と抗原との反応と類似しており、非共有結合に基づいた分子間の相互作用を通じて非常に安定した結合をなして複合体を形成する。一つのアビジンに最大4個のビオチンが結合でき、アビジンとビオチンとの相互作用は、これまで知られた自然界に存在するもののうち最も強い結合力を持つ。しかし、アビジンに蛍光分子体や酵素を接合させる場合、検出対象でない物質や基板への非特異的結合の程度が高く現れて、信号対ノイズの比率が低くなるので、高感度のセンサーを具現し難く、したがって、標的物質を再現性のあるように高感度で検出できなくなる。それだけでなく、蛍光分子体の場合、光、特に、紫外線領域の光に露出された時、容易に蛍光性質を失ってしまい、酵素の場合、温度、湿度などの条件によってその活性が容易に低減する。これらの短所のため、蛍光分子体または酵素を利用した標的物質信号増幅方法に基づいた検出器具は長時間保管し難く、急性発病の頻繁な心血関係疾患、循環系疾患に対する自宅での自家診断、野戦状況での診療などの応用において制約される。
【0003】
一方、量子点は、高エネルギーの光に長時間露出されても容易に光漂白が起きないため、蛍光分子体より非常に安定的に、長時間蛍光信号を出すことができる。また、量子点の表面は非特異的結合が低くなるように改質できるので、信号対ノイズの比率を相対的に非常に高めることができるという長所がある。それだけでなく、周囲環境によって電荷の特性が容易に変わらずに、中性に近い表面電荷を持たせた双性イオン化合物を量子点の表面に導入することで、量子点が検出対象ではない物質や基板に非特異的に結合される現象を最小化できる。
【0004】
これらの特性を利用して、標的物質に対する検出信号を素早く簡単に増幅させることができる方法を開示する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の一具体例は、第1分子及び前記第1分子と連結されたプローブを含む標的物質結合部と、双性イオンを持つ化合物及び第2分子が表面に連結されたナノ粒子を含む標的物質検出部と、を備える標的物質検出用キットを提供する。
【0006】
本発明の他の具体例は、一具体例による標的物質検出用キットを利用した標的物質の検出方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一態様は、第1分子及び前記第1分子と連結されたプローブを含む標的物質結合部と、双性イオンを持つ化合物及び第2分子が表面に連結されたナノ粒子を含む標的物質検出部と、で形成されたものであり、前記第1分子及び第2分子は、互いに対をなして特異的に結合するものである標的物質検出用キットを提供する。
【0008】
用語“標的物質(target material)”は、試料中から検出しようとする物質を意味するものであり、前記標的物質は、例えば、蛋白質、核酸、炭水化物、脂質などの生物学的高分子でありうる。
【0009】
前記キットは、標的物質結合部及び標的物質検出部で形成される。前記キットで標的物質結合部は、前記標的物質と直接的に結合する部分であり、標的物質検出部は、前記標的物質結合部との特異的な結合により標的物質の存否を検出する役割を行える。
【0010】
一具体例によれば、標的物質結合部は、第1分子及び前記第1分子と連結されたプローブを含む。
【0011】
一具体例によれば、前記第1分子は、後述する標的物質検出部上に存在する第2分子と対をなして特異的な結合を行える。用語“特異的な結合”は、2つ以上の分子が共有結合または非共有結合により互いに相互作用することを意味するものであり、例えば、抗原及び抗体が特異的に結合して免疫学的反応を行うものでありうる。このような定義によれば、前記第1分子及び第2分子対になりうるのは、例えば、一本鎖核酸分子及びこれと相補的な塩基配列を持つ一本鎖核酸分子、二本鎖DNA及びこれと特異的に結合する蛋白質、並びに抗原及び抗体からなる群から選択されるものであり、さらに具体的には、ストレプトアビジン及びビオチン、アビジン及びセイヨウワサビペルオキシダーゼ、ストレプトアビジン及びアルカリラインホスファターゼ、並びにアビジン及びビオチンからなる群から選択されるものでありうるが、これらに限定されるものではない。前記第1分子及び第2分子が特異的に結合することで、標的物質の検出時に、第1分子を含む標的物質結合部及び第2分子を含む標的物質検出部が互いに隣接して位置できる。
【0012】
用語“プローブ”は、標的物質を検出する過程で標的物質と直接結合し、標的物質と特異的に結合する探針になりうるあらゆる分子を意味すると解釈される。したがって、標的物質の種類によって、プローブの種類も多様である。例えば、標的物質が抗原蛋白質である場合、プローブは、前記抗原蛋白質と特異的に結合する抗体でありうる。一具体例によれば、前記プローブは、標的物質と特異的に結合する分子でありうる。前記プローブは、例えば、核酸、炭水化物、抗体及び脂質からなる群から選択されるものでありうるが、これらに限定されるものではない。
【0013】
一具体例によれば、標的物質検出部は、双性イオンを持つ化合物及び第2分子が表面に連結されたナノ粒子を含む。
【0014】
用語“ナノ粒子”は、直径1ないし1000nmサイズの物質からなる粒子を意味し、前記ナノ粒子は、金属ナノ粒子または非金属ナノ粒子でありうる。一具体例によれば、前記金属は、金、銀、銅、アルミニウム、ニッケル、パラジウム、白金、磁性鉄及びその酸化物から選択されるものであるが、これらに限定されず、前記非金属は、シリカ、ポリスチレン、ラテックス及びアクリレート系列の物質から選択されるものであるが、これらに限定されるものではない。また、前記ナノ粒子は、周期表上のIIないしVI族の化合物半導体、IIIないしV族の化合物半導体、及びIV族の化合物半導体物質からなる群から選択される一つ以上を含む量子点複合体でありうる。
【0015】
用語“双性イオン”は、分子内の互いに異なる位置に正電荷と負電荷とをいずれも含む分子を意味し、したがって、双性イオンを持つ化合物は、前記化合物が水溶液でイオン化した時、化合物内で正電荷と負電荷とをいずれも含む化合物を意味する。前記双性イオンを持つ化合物は前記標的物質検出部の表面に連結されて、一具体例による標的物質結合部との非特異的な結合を防止させる。一具体例によれば、前記双性イオンを持つ化合物は、例えば、アミノ酸、ビシン、トリシン、スルファミン酸、アルカロイド、サイロシビン、キノノイド及びベタインからなる群から選択されるものであるが、これらに限定されるものではない。
【0016】
一方、前記第2分子は、前記説明した標的物質結合部上に存在する第1分子と対をなして特異的な結合をなしうる。前記第1分子及び第2分子対は前記の通りであり、前記第2分子と第1分子とが特異的に結合することで、標的物質の検出時に、第1分子を含む標的物質結合部及び第2分子を含む標的物質検出部が互いに隣接して位置できる。
【0017】
一具体例によれば、前記第2分子は前記ナノ粒子の表面に結合されたリンカーを通じて連結される。前記リンカーは、当業界でリンカーとして利用されるいかなる化合物も可能であり、第2分子上に存在する作用基の種類によって好適なリンカーを選択できる。例えば、前記リンカーは、ヒドロキシル基、チオール基またはフェノール基を含む有機酸、ピリジン、メチルアミン、イミダゾール、ベンズイミダゾール、ヒスチジン、ホスファゼンベースまたはヒドロキシル基を含む有機塩基からなる群から選択されるが、これらに限定されるものではない。
【0018】
一具体例によれば、前記標的物質検出部は、前記ナノ粒子の表面に連結された検出可能なラベルをさらに含む。
【0019】
用語“検出可能なラベル(detectable label)”は、ラベルのない同種の分子のうちラベルを含む分子を特異的に検出させる原子または分子であり、前記検出可能なラベルは、例えば、カラービード、抗原結晶体、酵素、混成化可能な核酸、発色物質、蛍光物質、燐光物質、電気的に検出可能な分子、変更された蛍光−分極または変更された光−拡散を提供する分子を含む。また、前記ラベルは、P32及びS35などの放射性同位元素、化学発光化合物、ラベルのある結合蛋白質、重金属原子及びダイなどの分光学的マーカー、及び磁気ラベル化物を含む。
【0020】
他の態様は、a)前記標的物質検出用キットの標的物質結合部と、検出しようとする標的物質とを接触させる段階と、b)前記a)段階の結果物と、前記標的物質検出用キットの標的物質検出部とを接触させる段階と、c)標的物質を検出する段階と、を含む標的物質の検出方法を提供する。
【0021】
前記標的物質の検出方法をそれぞれの段階別に詳細に説明すれば、次の通りである。
【0022】
まず、前記方法は、a)前記標的物質検出用キットの標的物質結合部と、検出しようとする標的物質とを接触させる段階を含む。
【0023】
一具現例によれば、前記標的物質は、固体支持体に固定されている。前記固体支持体は、例えば、スライド、ウェーハ、ビード、膜及びプレートからなる群から選択されるが、これらに限定されるものではない。一具現例によれば、前記標的物質は、検出しようとする対象によってその種類が多様であり、例えば、DNA、RNA、PNA(Peptide Nucleic Acid)またはLNA(Locked Nucleic Acid)などの核酸、蛋白質、ペプチド、炭水化物及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるが、これらに限定されるものではない。
【0024】
前記接触は、当業界で周知の緩衝液内で行われる。すなわち、前記標的物質及び標的物質結合部に存在する分子が安定した状態で互いに相互作用できる条件下で行われる。また、前記接触は、例えば、固体支持体に固定されている標的物質上に、前記標的物質結合部が含まれている緩衝液を直接的に添加する方法により行われる。
【0025】
前記接触により、前記標的物質結合部の表面に結合されたプローブは標的物質と特異的に結合し、したがって、前記標的物質結合部は、第1分子が露出している状態で標的物質に結合される。
【0026】
一具体例によれば、前記方法は、a)段階以後、a−1)結合されていない標的物質結合部を除去する段階をさらに含む。a−1)段階での標的物質結合部の除去は、例えば、蒸留水、アルコールなどの当業界で周知の洗浄液を過量添加して行われる。
【0027】
以後、前記方法は、b)前記a)段階の結果物と前記標的物質検出用キットの標的物質検出部とを接触させる段階を含む。
【0028】
前記接触は、前記a)段階と同様に、当業界で周知の緩衝液内で行われる。すなわち、前記標的物質、標的物質結合部及び標的物質検出部に存在する分子が、安定した状態で互いに相互作用できる条件下で行われる。また、前記接触は、例えば、前記a)段階の結果物に前記標的物質検出部が含まれている緩衝液を直接的に添加する方法により行われる。
【0029】
前記a)段階の実行の結果、標的物質は標的物質結合部のプローブと特異的に結合しており、前記プローブと連結された第1分子は外部に露出する。したがって、前記標的物質検出部を接触させれば、前記標的物質検出部の表面に結合された第2分子が前記第1分子と特異的に結合するが、この時、前記標的物質検出部の表面に存在する双性イオン化合物は、周囲の環境によって電荷の特性が容易に変わらずに、中性に近い表面電荷を持つようになって、前記固体支持体または前記標的物質検出部間の非特異的な結合を防止できる。
【0030】
一具体例によれば、前記方法は、b)段階以後、b−1)結合されていない標的物質検出部を除去する段階を含む。また、前記方法は、b)段階以後、b−2)前記標的物質検出用キットの標的物質検出部を、前記b−1)段階の結果物に再び接触させる段階をさらに含むことができる。次いで、前記方法は、b)ないしb−2)段階を1回以上24回以下の回数ほど反復する段階をさらに含む。
【0031】
前記過程は、b)段階で、a)段階の結果物に接触させた標的物質検出部を反復して接触させることを意味する。標的物質結合部に含まれた第1分子は、分子の種類によって複数の第2分子と特異的に結合できるので、第2分子を含む標的物質検出部の接触回数を数回反復すれば、前記第1分子に結合できる第2分子の数が飽和するまで、標的物質検出部が前記標的物質結合部に特異的に結合できる。このような特異的な結合により、前記標的物質結合部と標的物質検出部とが隣接した状態で多量存在すれば、前記標的物質検出部から検出できる信号が増幅される。
【0032】
最後に、前記方法は、c)標的物質を検出する段階を含む。
【0033】
一具体例によれば、前記c)段階で、前記検出は、磁気的信号、電気的信号、発光信号、散乱信号及び放射能信号からなる群から選択される信号を検出することでありうる。前記信号は、例えば、前記検出可能なラベルから発生する磁気的信号、電気的信号、蛍光またはラマンなどの発光信号、散乱光信号、及び放射能信号からなる群から選択される信号であり、検出信号についての具体例は、前記検出可能なラベルで説明した通りである。
【発明の効果】
【0034】
本発明の一具体例による標的物質検出用キット及びこれを利用した標的物質検出方法によれば、標的物質を効率的に検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】一具体例による標的物質検出部の模式図であり、量子点の表面に双性イオン化合物及びストレプトアビジンが結合されたものを示す。
【図2】量子点自体に対する吸光(A)、発光スペクトル(C)と、双性イオン化合物及びストレプトアビジンが結合された量子点に対する吸光(B)、発光スペクトル(D)とを比較したグラフを示す。
【図3】双性イオン化合物及びストレプトアビジンが結合された量子点(B)、ビオチンが結合された量子点(C)、前記物質の結合前の量子点(A)、双性イオン化合物及びストレプトアビジンが結合された量子点と、ビオチンが結合された量子点とを相互作用させて特異的結合が発生した後(D)のそれぞれに対して、動的光散乱法で水和されたサイズを測定した結果を示すグラフである。各グラフ上の数字は、最も高い頻度を持つ頂点の測定値を示す。
【図4】量子点表面の非特異的結合力の差によるミオグロビン検出信号増幅を比較したグラフである。
【図5】一具体例による標的物質検出部及び標的物質結合部を使用してミオグロビンを検出する方法を示す模式図である。
【図6A】反応時間による双性イオン化合物及びストレプトアビジンが結合された量子点と、ビオチンが結合された量子点との間の特異的相互作用による蛍光信号様相を示すグラフである。
【図6B】ビオチンが結合された量子点を処理した回数によるミオグロビン検出蛍光信号様相を示すグラフである。
【図7】双性イオン化合物及びストレプトアビジンが結合された量子点と、ビオチンが結合された量子点との間の特異的相互作用によって増幅したミオグロビン検出信号の強度を示すグラフであり、97.5pg/mL〜1.60μg/mL間の多様なミオグロビン濃度に対して得た検出基板の蛍光顕微鏡写真から、相対的蛍光信号強度(それぞれ32回(逆三角形)、4回(三角形)増幅した検出信号)、信号対ノイズ比(それぞれ32回(円形)、4番(正方形)増幅した検出信号)を定量化して得た。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、一つ以上の具体例を、実施例によりさらに詳細に説明する。しかし、これら実施例は一つ以上の具体例を例示的に説明するためのものであり、本発明の範囲がこれら実施例に限定されるものではない。
【0037】
[実施例1:非特異的結合が最小化した標的物質検出部の合成]
オクタデセン及びオレイルアミンを溶媒として、窒素ガス(N)が飽和した高温の溶媒にカドミウム(Cd)、セレン(Se)、亜鉛(Zn)、硫黄(S)前駆体を素早く投入して合成する高温熱分解法により合成されたCdSe/CdZnSコア/シェル構造のナノ粒子を、クロロホルムに分散させた。前記ナノ粒子は量子点として使われた。また、予め合成しておいた下記化学式Iの双性イオン化合物と下記化学式IIのカルボキシ基を持つ化合物とが過量で溶解されている水溶液と、前記精製された量子点が含まれたクロロホルム溶液とを混合して、常温で攪拌した。
【0038】
[化学式I]
【化1】

【0039】
[化学式II]
【化2】

【0040】
この時、量子点表面に存在する有機分子リガンド(トリオクチルホスフィン、トリオクチルホスフィンオキシド、オレイルアミン、オレイン酸など)が、双性イオン化合物及びカルボキシ基を持つ化合物に同時に置換されつつ、量子点を水溶液層に移動して分散させた。次いで、クロロホルム層を分離して除去し、水溶液層のみを透析して余分のリガンドを除去した。次いで、カルボン酸と双性イオン化合物とを同時に表面置換した量子点を、共有結合を助けるカルボジイミド基盤の結合試薬で処理した後、量子点1nmol当り2.5mg/mLのストレプトアビジン溶液を125μL添加して前記カルボキシ基にストレプトアビジンを結合させることで、双性イオン化合物及びストレプトアビジンが表面に結合された量子点(すなわち、標的物質検出部)を製作した。図1は、前記製作した標的物質検出部の模式図を示す。図1に示したように、一具体例による標的物質検出部は、量子点100の表面に双性イオン化合物110及び第2分子の一例として使われたストレプトアビジン120が、有機分子リガンド130により結合されている。また、図2に示したように、前記標的物質検出部に双性イオン化合物及びストレプトアビジンが結合されているにもかかわらず、双性イオン化合物及びストレプトアビジンが結合されていない対照群と比較した場合、前記標的物質検出部を構成している量子点の吸光及び発光特性がよく維持されていることが分かる。
【0041】
[実施例2:標的物質検出部のストレプトアビジン及びビオチン間の特異的な結合による自己アセンブリの確認]
カルボキシ基と双性イオン化合物とが同時に表面置換された量子点を、共有結合を助けるカルボジイミド基盤結合試薬で処理した後、1次アミンが結合されているビオチンを添加して、ビオチンの結合された量子点を得た。この時、前記過程において量子点1nmol当り1mg/mLのビオチン溶液36μLを処理した。次いで、前記ビオチンが結合された量子点を、実施例1で製造された標的物質検出部と互いに混合した後、30分間放置した後で動的光散乱(Dynamic Light Scattering)法で水和したサイズ(hydrodynamic size)を測定した結果を、図3に示した。実施例1でストレプトアビジンを添加せず、双性イオン化合物及びカルボキシ基を持つ化合物のみで表面を置換した量子点自体の水和したサイズ(図3のA)は、標的物質検出部またはビオチンが結合された量子点のサイズ(図3のBまたはC)に比べて約1ないし1.5nmほど小さく測定されたが、これは、前記量子点の表面で互いに特異的に結合されたストレプトアビジン及びビオチンにより全体的な粒子のサイズが大きくなった複合体はそうでないものに比べてその動きが遅いことから、大きく測定されるためである。また、標的物質検出部とビオチンが結合された量子点とを互いに混合した試料の水和したサイズ(図3のD)は、約1000nmの値が測定されたが、これは、数多くの標的物質検出部とビオチンが結合された量子点とが出合いつつ、持続的に互いに特異的な結合場所を提供して、複合体の凝集現象が現れるためである。
【0042】
[実施例3:ストレプトアビジン−ビオチン間の相互作用による、ビオチンが結合された量子点の蛍光信号増幅の確認]
実施例1で製作された標的物質検出部に、ビオチンが結合された量子点の量を順次に増やしつつ接触させた。その結果、標的物質検出部に存在するストレプトアビジンとビオチンが結合された量子点との間には特異的な結合が活発に起き、特に、ストレプトアビジン1分子当り4個のビオチンが結合できるので、ビオチンが結合された量子点の量が増加するにつれて量子点の蛍光信号が増加することが分かる。
【0043】
図4で示したように、非特異的な結合力が最小化していない場合、すなわち、双性イオン化合物が表面に処理されていない量子点の場合には、ビオチンが結合された量子点を処理するほど非特異的な結合が顕著に増加するため、ノイズ信号が増加することが確認できる(図4のA)。しかし、双性イオン化合物が表面に処理された量子点の場合には、ビオチンが結合された量子点を処理してもノイズ信号が相対的に非常に低く、ビオチンが結合された量子点を処理するほど蛍光信号の強度が増加して、一定量以上処理されれば、蛍光信号の強度が最大値になることが分かる(図4のB)。
【0044】
[実施例4:ストレプトアビジン−ビオチン間の特異的な結合による標的物質検出部及び標的物質結合部の自己アセンブリに対する反応速度及び標的物質の検出信号増幅実験]
実施例3に示したように、ナノ粒子の表面に双性イオン化合物を結合させて非特異的結合力を低めることで、蛍光信号を効果的に増加させることが分かる。これを実際に標的物質の検出例で具現するために、標的物質としてミオグロビンを選択した。図5は、一具体例による標的物質検出部及び標的物質結合部を使用してミオグロビンを検出する方法を示す模式図である。基板140上にミオグロビン抗体150を固定させ、ミオグロビン160を前記基板上のミオグロビン抗体と接触させた後、ビオチンが結合されたミオグロビン抗体(標的物質結合部)200を処理すれば、基板表面にはビオチンが露出される。ここに、ストレプトアビジン及び双性イオン化合物が表面に結合されたナノ粒子(標的物質検出部の一具体例)300、並びにビオチン及び双性イオン化合物が表面に結合されたナノ粒子(標的物質検出部の一具体例)310を数回反復処理すれば、図5のように、標的物質検出部を処理する回数によって、デンドリマーの形態で一つの標的物質結合部に複数の標的物質検出部が結合するため、これにより、量子点からの蛍光信号が増幅する。
【0045】
この時、実際にストレプトアビジン及び双性イオン化合物が結合された量子点とビオチンが結合された量子点との特異的な結合がいかほど短時間内になされるかを確認した。図5のように、基板上にビオチンが露出されている状態で、ストレプトアビジン及び双性イオン化合物が結合された量子点とビオチンが結合された量子点とを接触させる時間を多様に調節することで、図6のような結果を得た。図6Aに示したように、ストレプトアビジン及び双性イオン化合物が結合された量子点並びにビオチンが結合された量子点を処理した後、3分になる前から蛍光信号が急増し始めて、4分が過ぎた後からはある程度信号の強度が最大値になることが分かる。このような結果から、ストレプトアビジン及び双性イオン化合物が結合された量子点とビオチンが結合された量子点との結合は、非常に速い速度でなされ、一定時間後には非常に安定した状態に維持されることが分かる。
【0046】
また、多様なミオグロビン濃度に対して、ストレプトアビジン及び双性イオン化合物が結合された量子点並びにビオチンが結合された量子点を反復的に処理した時、信号増幅が最大に現れる回数について調べた。図6Bに示したように、総32回の反復処理中に蛍光検出信号を測定したが、この時、ストレプトアビジン及び双性イオン化合物が結合された量子点並びにビオチンが結合された量子点を処理した時間は、それぞれの処理回数当り4分とした。その結果、処理回数の増加によって検出信号が増幅して、蛍光信号が全般的に増加するが、24回の反復処理、すなわち、24回の信号増幅以後からは蛍光信号が最大値になることが分かる。
【0047】
[実施例5:標的物質検出部及び標的物質結合部の反復処理による高感度標的検出方法]
実施例2ないし4の結果に基づいて、ストレプトアビジン及び双性イオン化合物が結合された量子点並びにビオチンが結合された量子点対を、標的物質(例えば、ミオグロビン)の検出信号増幅に応用できるということを確認し、これを、既知の信号増幅方法より非常に高感度の検出方法で具現してみた。図7に示したように、蛍光信号を増幅させた基板の蛍光顕微鏡写真に基づいて、ミオグロビン濃度が増加するにつれて相対的蛍光強度と信号対ノイズ比とが大きくなることが分かる。前記結果から、ミオグロビン濃度が増加するにつれて蛍光信号が増加することが分かるが、1000ng/mL以上の濃度では、抗体がコーティングされた基板自体の検出限界に到達するため、蛍光信号が最大値になることが分かる。また、信号対ノイズ比が3以上になる場合の試料濃度を基準とした時、このシステムの検出限界は約390pg/mLであることが分かり、酵素基盤の既存のミオグロビン検出方法に比べて約13倍の低い検出限界を持つことが確認された。また、一般的に酵素基盤のミオグロビン検出方法にかかる時間が約180分であることを鑑みると、一具体例による標的物質検出方法は、これよりさらに短い所要時間である約120分内でさらに高い感度のミオグロビンを検出でき、また、一具体例による標的物質検出方法は、別途の酵素を使用せずに標的物質を検出できるという利点を持つ。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、標的物質検出用キット関連の技術分野に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0049】
100 量子点
110 双性イオン化合物
120 ストレプトアビジン
130 リンカー
140 基板
150 ミオグロビン抗体
160 ミオグロビン
200 標的物質結合部
300 標的物質検出部
310 標的物質検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1分子及び前記第1分子と連結されたプローブを含む標的物質結合部と、
双性イオンを持つ化合物及び第2分子が表面に連結されたナノ粒子を含む標的物質検出部と、で形成されたものであり、前記第1分子及び第2分子は、互いに対をなして特異的に結合するものである標的物質検出用キット。
【請求項2】
前記双性イオンを持つ化合物は、アミノ酸、ビシン、トリシン、スルファミン酸、アルカロイド、サイロシビン、キノノイド及びベタインからなる群から選択されるものである請求項1に記載のキット。
【請求項3】
前記第2分子は、前記ナノ粒子の表面に結合されたリンカーを通じて連結されるものである請求項1に記載のキット。
【請求項4】
前記リンカーは、ヒドロキシル基、チオール基またはフェノール基を含む有機酸、ピリジン、メチルアミン、イミダゾール、ベンズイミダゾール、ヒスチジン、ホスファゼンベースまたはヒドロキシル基を含む有機塩基からなる群から選択されるナノ粒子結合部位、及びカルボン酸、アジド基を含む有機分子体からなる群から選択されるナノ粒子非結合部位からなるものである請求項3に記載のキット。
【請求項5】
前記ナノ粒子は、周期表上のIIないしVI族の化合物半導体、IIIないしV族の化合物半導体、及びIV族の化合物半導体物質からなる群から選択される一つ以上を含む量子点または金、銀または酸化鉄からなるものである請求項1に記載のキット。
【請求項6】
第1分子及び第2分子対は、一本鎖核酸分子及びこれと相補的な塩基配列を持つ一本鎖核酸分子、二本鎖DNA及びこれと特異的に結合する蛋白質、並びに抗原及び抗体からなる群から選択されるものである請求項1に記載のキット。
【請求項7】
第1分子及び第2分子対は、ストレプトアビジン及びビオチンまたはアビジン及びビオチンである請求項1に記載のキット。
【請求項8】
前記プローブは、標的物質と特異的に結合する分子である請求項1に記載のキット。
【請求項9】
前記プローブは、核酸、炭水化物、抗体及び脂質からなる群から選択されるものである請求項1に記載のキット。
【請求項10】
前記標的物質検出部は、前記ナノ粒子の表面に連結された検出可能なラベルをさらに含むものである請求項1に記載のキット。
【請求項11】
前記検出可能なラベルは、カラービード、発色物質、蛍光物質、燐光物質、電気的に検出可能な分子及び変更された蛍光−分極または変更された光−拡散を提供する分子からなる群から選択されるものである請求項10に記載のキット。
【請求項12】
a)請求項1ないし11のうちいずれか1項に記載のキットの標的物質結合部と、検出しようとする標的物質とを接触させる段階と、
b)前記a)段階の結果物と、請求項1ないし11のうちいずれか1項に記載のキットの標的物質検出部とを接触させる段階と、
c)標的物質を検出する段階と、を含む標的物質の検出方法。
【請求項13】
前記標的物質は、固体支持体に固定されている請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記固体支持体は、スライド、ウェーハ、ビード、膜及びプレートからなる群から選択されるものである請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記標的物質は、DNA、RNA、PNA、LNA、蛋白質、ペプチド、炭水化物及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるものである請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記方法は、a)段階以後、a−1)結合されていない標的物質結合部を除去する段階をさらに含む請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記方法は、b)段階以後、b−1)結合されていない標的物質検出部を除去する段階をさらに含む請求項12に記載の方法。
【請求項18】
前記方法は、b−1)段階以後、b−2)請求項1ないし11のうちいずれか1項に記載のキットの標的物質検出部を、前記b−1)段階の結果物に再び接触させる段階をさらに含む請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記c)段階で、前記検出は、磁気的信号、電気的信号、発光信号、散乱信号、及び放射能信号からなる群から選択される信号を検出することである請求項12に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−242394(P2012−242394A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−113213(P2012−113213)
【出願日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【出願人】(390019839)三星電子株式会社 (8,520)
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】129,Samsung−ro,Yeongtong−gu,Suwon−si,Gyeonggi−do,Republic of Korea
【出願人】(508355493)浦項工科大學校 産學協力團 (14)