説明

標識物としてパーオキシダーゼを用いる化学発光分析の性能を改善する方法

【構成】標識物としてパーオキシダーゼに用い、ラジカル安定化剤(増感剤)存在下にルミノール/過酸化水素の化学発光反応を起こさせ、生体成分を測定する場合、反応液中の発光量を検出・測定する際、反応液に脱脂粉乳、卵白アルブミン、蛋白質分解物、糖アルコール及び非イオン性界面活性剤のうち、その一もしくは二以上を存在させ、発光量を検出・測定する。
【効果】非特異的発光反応すなわち試薬ブランク(ノイズ)を低下させ、及び/又は特異的発光反応すなわちシグナル量を増強させ、したがって、S/N比(シグナル/ノイズの比)を向上させ、あるいは発光を持続安定化させることができる。測定値の信頼性の向上に寄与する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、標識物としてパーオキシダーゼに用いる化学発光分析の性能を改善する方法に関するもので、臨床検査分野等における生体微量成分の分析・定量に有用である。
【0002】
【従来の技術】分析対象物質を感度よく検出・測定する方法としては、その物質に特異的に結合する抗体等の特異結合試薬(予め、パーオキシダーゼ等の酵素で標識しておく場合が多い)を検体と反応させ、引き続いて標識物であるパーオキシダーゼ等の酵素の触媒反応により生じる信号を検出・測定する方法(いわゆる、酵素免疫測定法等)が知られている。また、この酵素免疫測定法には、一抗体法、二抗体法、サンドイッチ法、ホモジーニアス法、ヘテロジーニアス法等、種々の改良法又は変法が知られている。
【0003】パーオキシダーゼ等の酵素の触媒反応により生じる信号を効率よく測定する方法として、パーオキシダーゼにより触媒されるルミノール/過酸化水素の化学発光を測定する方法があり、この場合しばしば、ルミノールの一電子酸化を助けるラジカル安定化剤が増感剤として用いられる(Methods in Enzymology,Vol.133,p.331-353,1986;特開平2−291299号公報)。
【0004】一方、パーオキシダーゼの活性はポリオキシエチレンエーテル類の添加により増大することも知られており(Clinica Chimica Acta, 109, 177-181, 1981; J.Clin. Chem. Clin. Biochem., 19, 435-439, 1981)、また酵素免疫測定法において緩衝液中にポリオキシエチレンエーテル類を含有させ、S/N比もしくは測定感度を高める方法も開示されている(特表平2−503029号公報)。
【0005】また従来、抗体の非特異的反応をブロックする目的で、アルブミン等の蛋白質を固相担体に固定化することはよく行われている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】分析対象物質が生体の超微量物質等である場合には、上記の方法よりも更に感度の高い方法の開発が望まれている。本発明は、従来法よりも更に感度の高い方法を開発すること目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、ラジカル安定化剤(増感剤)の存在下にパーオキシダーゼを用いる化学発光分析において、非特異的発光反応すなわち試薬ブランク(以下、ノイズともいう。)を低下させ、及び/又は特異的発光反応(以下、シグナルともいう。)を増強させ、すなわち、S/N比(シグナル/ノイズの比)を向上させる方法を種々検討したところ、反応液中の発光量を検出・測定する際に反応液に脱脂粉乳、卵白アルブミン、蛋白質分解物、糖アルコール及び非イオン性界面活性剤のうち、その一もしくは二以上を添加すると、上記目的を達成することを見出し、本発明を完成した。
【0008】すなわち、本発明は下記の(1)〜(8)に関する。
(1)ラジカル安定化剤の存在下に、標識物であるパーオキシダーゼと、ルミノール及び過酸化水素を反応させ、生じた発光量を検出・測定する化学発光分析において、反応液中の発光量を検出・測定する際、反応液に脱脂粉乳、卵白アルブミン、蛋白質分解物、糖アルコール及び非イオン性界面活性剤のうち、その一もしくは二以上を存在させる、化学発光分析の性能を改善する方法。
(2)ラジカル安定化剤の存在下に、標識物であるパーオキシダーゼと、ルミノール及び過酸化水素を反応させ、生じた発光量を検出・測定する化学発光分析において、反応液中の発光量を検出・測定する際、反応液に脱脂粉乳を存在させる、化学発光免疫分析の性能を改善する方法。
(3)ラジカル安定化剤の存在下に、標識物であるパーオキシダーゼと、ルミノール及び過酸化水素を反応させ、生じた発光量を検出・測定する化学発光分析において、反応液中の発光量を検出・測定する際、反応液に卵白アルブミンを存在させる、化学発光分析の性能を改善する方法。
(4)ラジカル安定化剤の存在下に、標識物であるパーオキシダーゼと、ルミノール及び過酸化水素を反応させ、生じた発光量を検出・測定する化学発光分析において、反応液中の発光量を検出・測定する際、反応液に蛋白質分解物を存在させる、化学発光分析の性能を改善する方法。
(5)蛋白質分解物がカゼイン分解物である上記(1)又は(4)の方法。
(6)ラジカル安定化剤の存在下に、標識物であるパーオキシダーゼと、ルミノール及び過酸化水素を反応させ、生じた発光量を検出・測定する化学発光分析において、反応液中の発光量を検出・測定する際、反応液に糖アルコールを存在させる、化学発光分析の性能を改善する方法。
(7)糖アルコールがマンニトール又はソルビトールである上記(1)又は上記(6)の方法。
(8)ラジカル安定化剤の存在下に、標識物であるパーオキシダーゼと、ルミノール及び過酸化水素を反応させ、生じた発光量を検出・測定する化学発光分析において、反応液中の発光量を検出・測定する際、反応液に非イオン性界面活性剤を存在させる、化学発光分析の性能を改善する方法。
【0009】本発明における化学発光分析は、ラジカル安定化剤の存在下に、標識物であるパーオキシダーゼとルミノール及び過酸化水素を反応させ、生じた発光を検出・測定する分析法であれば特に限定するものではなく、一抗体免疫分析法、二抗体免疫分析法、競合分析法、サンドイッチ法、ホモジーニアス法、ヘテロジーニアス法、ウェスターン分析法、DNAプローブ法等の各種分析法に利用できる。
【0010】本発明で用いられるパーオキシダーゼは、西洋ワサビの塩基性アイソザイムが好適である。西洋ワサビの塩基性アイソザイムにはB、C、D及びEの型が知られているが、これらの中ではC型が最も好ましい。
【0011】発光反応に用いられるルミノールは、通常入手できる試薬グレードのものには製造原料であるヒドラジン及び硫化物イオンが混入している場合が多いので、再結晶を繰り返し、精製したものを用いる。
【0012】本発明に用いられるラジカル安定化剤としては、p−ヨードフェノール、4−[4'−(2'−メチル)チアゾリル]フェノール等のフェノール誘導体、6−ハイドロキシベンゾチアゾール等のベンゾチアゾール誘導体、3−(10−フェノチアジル)−プロピルスルホン酸塩等がある。
【0013】これらのラジカル安定化剤の存在下にパーオキシダーゼの触媒作用でルミノール/過酸化水素の発光反応を行うと、ラジカル安定化剤が増感剤ラジカルとなり、この増感剤ラジカルがルミノールと反応し発光する。
【0014】反応のpHは高いほど発光量は強くなるが、パーオキシダーゼの触媒能に依存しない発光が増大するので、両者を考慮して7.0〜11.0の範囲で行うとよい。
【0015】本発明に用いる脱脂粉乳は市販品が使用できる。その用いる濃度は少なくともS/N比が向上する濃度とする。通常、その濃度は反応液の最終濃度で0.01〜0.5%(重量/容量%、以下、同じ)、好ましくは0.02〜0.2%の範囲である。濃度が0.01%未満ではS/N比を向上させる効果が少なく、0.5%を超えると特異的発光反応を抑えるため好ましくない。
【0016】本発明に用いる卵白アルブミンは市販品が使用できる。その用いる濃度は少なくともS/N比が向上する濃度とする。通常、その濃度は反応液の最終濃度で0.01〜0.5%、好ましくは0.02〜0.2%の範囲である。濃度が0.01%未満ではS/N比を向上させる効果が少なく、0.5%を超えると特異的発光反応を抑えるため好ましくない。
【0017】本発明に用いる蛋白質分解物としては、カゼイン、大豆蛋白質等の蛋白質の酵素分解物や酸分解物等がある。その用いる濃度は少なくともS/N比が向上する濃度とする。通常、その濃度は反応液の最終濃度で0.01〜0.5%、好ましくは0.02〜0.2%の範囲である。濃度が0.01%未満ではS/N比を向上させる効果が少なく、0.5%を超えると特異的発光反応を抑えるため好ましくない。
【0018】本発明に用いる糖アルコールとしては、マンニトール、ソルビトール、ガラクチトール、リビトール、アラビトール、エリスリトール等の6〜4単糖アルコールがある。その濃度は少なくともS/N比が向上する濃度とする。通常、その濃度は反応液の最終濃度で0.01〜10%、好ましくは0.25%〜2.0%の範囲である。濃度が0.01%未満ではS/N比を向上させる効果が少なく、10%を超えると特異的発光反応を抑えるため好ましくない。
【0019】本発明に用いる非イオン性界面活性剤としては、アシルソルビタン、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル類、オクチルフェノールエチレンオキサイド、ポリオキシエチレンソルビタンエステル類等があり、これらはアトラス パウダー社(Atlas Powder Co.)製造のスパン20(ソルビタンモノラウレート)、スパン40(ソルビタンモノパルミテート)、スパン60(ソルビタンモノオレエート)、スパン80(ソルビタンモノステアレート)、スパン85(ソルビタントリオレエート)、ツイーン20(ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート)、ツイーン40(ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート)、ツイーン60(ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート)、ツイーン80(ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート)、ツイーン85(ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート)、ブリッジ 35(ポリオキシエチレンラウリルエーテル)及びブリッジ 58(ポリオキシエチレンセチルエーテル)等、ローム アンド ハース社(Rohm & Haas Co.)製造のトリトンX−100(ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル)及びトリトンX−405(ポリオキシエチレン(40)オクチルフェニルエーテル)等、あるいはシグマ社からノニデットP−40(オクチルフェノールエチレンオキサイド)の商品名で販売されている非イオン性界面活性剤等を入手できる。
【0020】また、非イオン性界面活性剤の添加濃度は、少なくともS/N比が向上する濃度とする。通常、その濃度は反応液の最終濃度で0.001〜2.0%、より好ましくは0.01〜0.5%の範囲である。濃度が0.001%未満でも、2%を超えても、S/N比を向上させる効果は少ない。
【0021】以上の添加剤のなかで、脱脂粉乳はノイズ量を著しく低減させる効果が特徴的である。卵白アルブミンは、シグナル量に対しては殆ど影響を及ぼさないが、ノイズ量を低減させ、生じた発光を安定的に持続させ、更に発光基質溶液の保存安定性を高める効果が特徴的である。蛋白質分解物はシグナル量に対しては殆ど影響を及ぼさないが、ノイズ量を低減させる効果がある。糖アルコールはシグナル量に対しては殆ど影響を及ぼさないが、ノイズ量を低減させる効果がある。非イオン性界面活性剤はノイズ量に対しては殆ど影響を及ぼさないが、シグナル量を増加させる効果が特徴的である。
【0022】
【実施例】
実施例1 試薬ブランク(ノイズ)に及ぼす脱脂粉乳、卵白アルブミン、蛋白質分解物、糖アルコール、又は非イオン性界面活性剤の効果添加剤無添加(対照)の試験は以下のように操作した。すなわち、外側面にアルミ反射膜を蒸着したストリップ型マイクロウェルに50mMホウ酸ナトリウム緩衝液(pH10.0;以下、発光用ホウ酸緩衝液という。)100μl、2mM 4−[4'−(2'−メチル)チアゾリル]フェノールのジメチルスルフォキシド溶液8μl、4mM過酸化水素/発光用ホウ酸緩衝液50μl及び20mM ルミノール溶液(日立化成(株)社製)50μlをとり、撹拌混合し、化学発光測定装置(コロナ電気(株)社製、MLR-100)を用いて、化学発光量を20分間経時的に測定した。
【0023】一方、添加剤添加の試験は、発光用ホウ酸緩衝液100μlの代わりに脱脂粉乳、卵白アルブミン、カゼイン分解物、糖アルコール、又は非イオン性界面活性剤を反応液の最終濃度で下記の表1に示す濃度で含有する発光用ホウ酸緩衝液100μlを用い、上記と同様に操作した。その結果、試薬ブランクは反応の間(20分間)いずれもほぼ一定であった。また、反応時間10分ににおける試薬ブランク(ノイズ)は表1に示す通りであった。
【0024】
【表1】
表1 試薬ブランクに及ぼす脱脂粉乳、卵白アルブミン、蛋白質分解物、糖 アルコール、又は非イオン性界面活性剤の効果 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 添加物 最終濃度 試薬ブランク ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ % ルミカウント 無添加(対照) ─ 240 脱脂粉乳 0.05 50 〃 0.10 30 卵白アルブミン 0.05 120 〃 0.10 100 カゼイン分解物 0.05 140 〃 0.10 200 マンニトール 0.25 120 0.45 65 ソルビトール 0.45 65 ツィーン20 0.05 233 ツィーン80 0.05 236 トリトンX−100 0.05 234 ノニデットP−40 0.05 239 ブリッジ35 0.05 238 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【0025】表1の結果から、脱脂粉乳は試薬ブランクを著しく低減させ、卵白アルブミン、カゼイン分解物及び糖アルコールは試薬ブランクを中程度に低減させるが、ツィーン20等の非イオン性界面活性剤は試薬ブランクにほとんど影響を及ぼさないことが分かる。
【0026】実施例2 脱脂粉乳及びツィーン20の存在下、試薬ブランク値(ノイズ)に及ぼす糖アルコールの効果外側面にアルミ反射膜を蒸着したストリップ型マイクロウェルに、0.1%脱脂粉乳及び0.2%ツィーン20含有の発光用ホウ酸緩衝液100μl、2mM4−[4'−(2'−メチル)チアゾリル]フェノールのジメチルスルフォキシド溶液8μl、下記表2に示した濃度のマンニトールもしくはソルビトールを含有する4mM 過酸化水素/発光用ホウ酸緩衝液50μl及び20mM ルミノール溶液50μlをとり、以下実施例1と同様に操作し、化学発光量を測光した。対照としては、糖アルコールを含有する4mM 過酸化水素/発光用ホウ酸緩衝液50μlの代わりに、糖アルコールを含有しない4mM 過酸化水素/発光用ホウ酸緩衝液50μlを用いて、上記と同様に操作して測定した(表2)。
【0027】
【表2】
表2 脱脂粉乳及びツィーン20存在下、試薬ブランクに及ぼす糖アルコ ールの効果 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 糖アルコール 最終濃度 試薬ブランク ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ % ルミカウント 無添加(対照) 0.0 30 マンニトール 0.25 15 〃 0.45 8 ソルビトール 0.45 8 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【0028】表2の結果から、脱脂粉乳及びツィーン20の存在下において、マンニトール及びソルビトールはいずれも試薬ブランクを更に低下させることが分かる。
【0029】実施例3 マンニトール存在下、試薬ブランクに及ぼす脱脂粉乳、卵白アルブミン又は蛋白質分解物の効果外側面にアルミ反射膜を蒸着したストリップ型マイクロウェルに脱脂粉乳、卵白アルブミン又は蛋白質分解物を0.10%(最終濃度:0.05%)又は0.2%(最終濃度:0.1%)含有する発光用ホウ酸緩衝液100μl、2mMの4−[4'−(2'−メチル)チアゾリル]フェノールのジメチルスルフォキシド溶液8μl、1.0%マンニトール含有の4mM過酸化水素/発光用ホウ酸緩衝液50μl及び20mM ルミノール溶液(日立化成(株)社製)50μlをとり、以下実施例1と同様に操作し、化学発光量を測光した。対照としては、脱脂粉乳、卵白アルブミン又は蛋白質分解物を含有する発光用ホウ酸緩衝液100μlの代わりに、これらを含有しない発光用ホウ酸緩衝液100μlを用いて、上記と同様に操作して測定した(表3)。
【0030】
【表3】
表2 マンニトール存在下、試薬ブランクに及ぼす脱脂粉乳、卵白アルブ ミン、蛋白質分解物の効果 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 蛋白質又は 最終濃度 試薬ブランク 蛋白質分解物 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ % ルミカウント なし(対照) 0.0 70 脱脂粉乳 0.05 20 〃 0.10 10 卵白アルブミン 0.05 30 〃 0.10 24 カゼイン分解物 0.05 35 〃 0.10 54 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【0031】表3の結果から、マンニトール存在下、脱脂粉乳、卵白アルブミン及びカゼイン分解物はいずれも、試薬ブランクを低下させることが分かる。これらの中で脱脂粉乳が試薬ブランクを最も著しく低下させた。
【0032】実施例4 シグナル量に及ぼすマンニトールの効果特異的反応に基づくシグナル量は、添加物無添加(対照)では以下のようにして求めた。すなわち、外側面にアルミ反射膜を蒸着したストリップ型マイクロウェルに、西洋ワサビパーオキシダーゼ(東洋紡グレードI-C)で標識した抗エンドセリン1単クローン抗体(ヤマサ醤油(株)社製,MCA ET-02)の10万倍希釈溶液(希釈液:発光用ホウ酸緩衝液を使用)100μl、2mM 4−[4'−(2'−メチル)チアゾリル]フェノールのジメチルスルフォキシド溶液8μl、4mM 過酸化水素/発光用ホウ酸緩衝液50μl及び20mM ルミノール溶液50μlをとり、撹拌混合し、化学発光測定装置を用いて発光量を、混合直後、1分後、2分後、3分後、4分後及び5分後にそれぞれ測定した。一方、マンニトールを添加した場合は、4mM 過酸化水素/発光用ホウ酸緩衝液50μlの代わりに、マンニトールを含有(最終濃度で0.25%)する4mM 過酸化水素/発光用ホウ酸緩衝液を用いて、上記と同様に操作した(表4)。
【0033】表4の結果から、測光開始後5分間は、無添加(対照)に比べマンニトールを添加したほうがシグナル量はやや強いことが分かる。測光開始後5分間を越えた時間では、両者間に大きな差はなかった。
【0034】
【表4】
表4 シグナル量に及ぼすマンニトールの効果 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 時間(分) シ グ ナ ル 量 無添加(対照) 0.25%マンニトール ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ルミカウント ルミカウント 0 1382 1495 1 1461 1544 2 1480 1553 3 1488 1546 4 1489 1529 5 1485 1511 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【0035】実施例5 マンニトール存在下、試薬ブランク、シグナル量又はS/N比に及ぼす非イオン性界面活性剤の効果外側面にアルミ反射膜を蒸着したストリップ型マイクロウェルに、西洋ワサビパーオキシダーゼで標識した抗エンドセリン1単クローン抗体の10万倍希釈溶液(希釈液:表5に示す各非イオン性界面活性剤を最終濃度で0.02〜1.0%含有する発光用ホウ酸緩衝液を使用)100μl、2mMの4−[4'−(2’−メチル)チアゾリル]フェノールのジメチルスルフォキシド溶液8μl、1.0%マンニトールを含有する4mM 過酸化水素/発光用ホウ酸緩衝液50μl及び20mM ルミノール溶液50μlを順次加え、撹拌混合し、化学発光測定装置を用いて20分間、化学発光量を測定した。
【0036】対照としては、各非イオン性界面活性剤含有の発光用ホウ酸緩衝液100μlの代わりに、これを含有しない発光用ホウ酸緩衝液100μlを用いて、上記と同様に操作して測定した。図1に、各非イオン性界面活性剤(最終濃度で0.05%)含有及び不含有(対照)の場合のシグナル量の時間経過を示した。なお、試薬ブランクは反応時間20分の間はほぼ一定であった。また、表5に、反応時間10分における試薬ブランク(ノイズ)、シグナル量及びS/N比を示した。
【0037】
【表5】
表5 マンニトール存在下、試薬ブランク、シグナル量又はS/N比に及ぼす 非イオン性界面活性剤の効果━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━界面活性剤 最終濃度 ノイズ(N) シグナル(S) S/N比 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ % ルミカウント ルミカウントなし(対照) ─ 278 450 1.62ツィーン20 0.02 238 1311 5.51 0.05 302 1363 4.51 0.10 334 1303 3.90ツィーン80 0.02 303 1293 4.27 0.05 402 1354 3.37 0.10 362 1257 3.47トリトンX-100 0.02 366 1331 3.64 0.05 390 1357 3.48 0.10 270 1233 4.57ノニデットP40 0.02 339 1197 3.53 0.05 340 1195 3.51 0.10 404 1283 3.18ブリッジ35 0.02 290 1058 3.65 0.05 310 1155 3.73 0.10 348 1229 3.53━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【0038】図1及び表5の結果から、ツイーン20、ツイーン80、トリトンX−100、ノニデットP−40又はブリッジ35を添加したものは、これらを添加しないもの(対照)に比べ、(試薬ブランクにはほとんど影響を及ぼしていないが)シグナル量が4〜5倍に増加しており、S/N比も同様に無添加(対照)に比べ高まっていることが分かる。
【0039】実施例6 マンニトール存在下、試薬ブランク、シグナル量又はS/N比に及ぼす脱脂粉乳及び非イオン性界面活性剤の共存の効果外側面にアルミ反射膜を蒸着したストリップ型マイクロウェルに、西洋ワサビパーオキシダーゼで標識した抗エンドセリン1単クローン抗体の10万倍希釈溶液(希釈液:最終濃度0.05%脱脂粉乳及び最終濃度0.05%の各非イオン性界面活性剤を含有する発光用ホウ酸緩衝液を用いた。)100μl、2mMの4−[4'−(2'−メチル)チアゾリル]フェノールのジメチルスルフォキシド溶液8μl、1.0%マンニトールを含有する4mM 過酸化水素/発光用ホウ酸緩衝液50μl及び20mM ルミノール溶液50μlをとり、撹拌混合し、化学発光測定装置を用いて20分間、化学発光量を測定した。
【0040】対照としては、脱脂粉乳及び各非イオン性界面活性剤含有の発光用ホウ酸緩衝液の代わりに、これらを含有しない発光用ホウ酸緩衝液を用いて、上記と同様に操作して測定した。図2にシグナル量の時間的変化を示した。なお、試薬ブランクは反応時間20分の間はほぼ一定であった。また、表6には反応時間10分における試薬ブランク(ノイズ)、シグナル量及びS/N比を示した。
【0041】表6の結果から、脱脂粉乳及びツイーン20、ツイーン80もしくはトリトンX−100の組合せは、無添加(対照)に比べ、発光量が3〜7倍に増加しており、更にS/N比は脱脂粉乳によるノイズ低減の効果とも合わさって無添加(対照)の約20倍にも高まっていることが分かる。
【0042】
【表6】
表6 試薬ブランク、シグナル量又はS/N比に及ぼす脱脂粉乳及び非イオン性界面活性剤の共存の効果━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━脱脂粉乳又は界面活性剤 ノイズ(N) シグナル(S) S/N比━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ルミカウント ルミカウントなし(対照) 254 467 1.84脱脂粉乳+ツィーン20 27 1075 39.81脱脂粉乳+ツィーン80 27 994 36.81脱脂粉乳+トリトンX-100 27 1179 43.67━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【0043】実施例7 マンニトール存在下、シグナル量の安定的持続に及ぼす卵白アルブミン及び非イオン性界面活性剤の共存の効果黒色のマイクロフルオロリモーバウェル(ダイナテク社製)に、西洋ワサビパーオキシダーゼで標識した抗エンドセリン1単クローン抗体の10万倍希釈溶液(希釈液:最終濃度0.05%卵白アルブミン及び最終濃度0.05%のツィーン20を含有する発光用ホウ酸緩衝液を用いた。)100μl、2mMの4−[4'−(2'−メチル)チアゾリル]フェノールのジメチルスルフォキシド溶液8μl、1.0%マンニトールを含有する4mM 過酸化水素/発光用ホウ酸緩衝液50μl及び20mM ルミノール溶液50μlをとり、撹拌混合し、化学発光測定装置を用いて20分間、経時的に化学発光量を測定した。比較として、卵白アルブミンの代わりに同濃度(最終濃度0.05%)の脱脂粉乳を用いたほかは、上記と同様に操作した。図3にシグナル量の経時的変化を示した。卵白アルブミンの添加は脱脂粉乳に比べ、シグナル量が安定し持続することが分かった。
【0044】実施例8 卵白アルブミン又は脱脂粉乳含有の過酸化学水素試液の保存安定性卵白アルブミン含有の過酸化水素試薬と脱脂粉乳の含有の過酸化水素試薬の保存安定性を比較した。卵白アルブミン含有の過酸化水素試薬は、1%マンニトール、0.15%卵白アルブミン、0.1%ツィーン20及び4mM 過酸化水素をそれぞれ含むように、50mMホウ酸ナトリウム緩衝液(pH10.0)で適宜希釈し、調製した。また、脱脂粉乳の含有の過酸化水素試薬は、1%マンニトール、0.075%脱脂粉乳、0.1%ツィーン20及び4mM 過酸化水素をそれぞれ含むように、50mMホウ酸ナトリウム緩衝液(pH10.0)で適宜希釈し、調製した。上記の両過酸化水素試薬を、37℃で保管し、そのうちの一定量を経時的にサンプリングし、これを用いて化学発光反応させ、発光量を測定した。
【0045】化学発光反応は、西洋ワサビペルオキシダーゼで標識した抗エンドセリン1単クローン抗体を0.075%卵白アルブミン(生化学工業社製)含有の50mMホウ酸ナトリウム緩衝液(pH10.0)で100万倍に希釈したのち、これを100μlとり、次いで2mM 4-[4'-(2'-メチル)チアゾリル]フェノールのジメチルスルフォキシド溶液8μl及び上記の過酸化水素試液50μl及び20mMルミノール溶液(日立化成工業(株)社製)50μlをこの順に、黒色のマイクロフルオロリモーバウェル(ダイナテク社製)に注入し、撹拌し、化学発光測定装置(コロナ電気(株)社製,MLR-100)を用いて測光し、9分後の発光量を測定値とした(図4)。図4から、脱脂粉乳よりも卵白アルブミンのほうが酸化水素試薬の保存安定性に効果的である。
【0046】
【発明の効果】本発明は、ラジカル安定化剤の存在下にパーオキシダーゼを用いる化学発光免疫分析の性能を改善する方法であって、非特異的発光反応すなわち試薬ブランク(ノイズ)を低下させ、及び/又は特異的発光反応すなわちシグナル量を増強させ、したがって、S/N比(シグナル/ノイズの比)を向上させ、発光を持続安定させ、あるいは試薬の保存安定性を高めるもので、測定値の信頼性の向上に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【図1】マンニトール存在下、種々の非イオン性界面活性剤を共存(最終濃度で0.05%)させたときの試薬ブランク及びシグナル量の時間的変化を示すグラフである。
【図2】マンニトール存在下、脱脂粉乳及び非イオン性界面活性剤の両者を共存(いずれも最終濃度で0.05%)させたときの試薬ブランク及びシグナル量の時間的変化を示すグラフである。
【図3】マンニトール及び非イオン性界面活性剤存在下、卵白アルブミン又は脱脂粉乳を共存(最終濃度で0.05%)させたときのシグナル量の時間的変化を示すグラフである。
【図4】卵白アルブミン又は脱脂粉乳含有の過酸化学水素試液の保存安定性を示すグラフである。
【符号の説明】
図1及び図2において、
□─□:ツィーン 20
■─■:ツィーン 80
△─△:トリトン X−100
▲─▲:ノニデット P−40
◇─◇:ブリッジ 35
●─●:無添加(対照)
図3において、
□─□:卵白アルブミン
●─●:脱脂粉乳
図4において、
◆─◆:卵白アルブミン
◇─◇:脱脂粉乳

【特許請求の範囲】
【請求項1】ラジカル安定化剤の存在下に、標識物であるパーオキシダーゼと、ルミノール及び過酸化水素を反応させ、生じた発光量を検出・測定する化学発光分析において、反応液中の発光量を検出・測定する際、反応液に脱脂粉乳、卵白アルブミン、蛋白質分解物、糖アルコール及び非イオン性界面活性剤のうち、その一もしくは二以上を存在させる、化学発光分析の性能を改善する方法。
【請求項2】ラジカル安定化剤の存在下に、標識物であるパーオキシダーゼと、ルミノール及び過酸化水素を反応させ、生じた発光量を検出・測定する化学発光分析において、反応液中の発光量を検出・測定する際、反応液に脱脂粉乳を存在させる、化学発光免疫分析の性能を改善する方法。
【請求項3】ラジカル安定化剤の存在下に、標識物であるパーオキシダーゼと、ルミノール及び過酸化水素を反応させ、生じた発光量を検出・測定する化学発光分析において、反応液中の発光量を検出・測定する際、反応液に卵白アルブミンを存在させる、化学発光分析の性能を改善する方法。
【請求項4】ラジカル安定化剤の存在下に、標識物であるパーオキシダーゼと、ルミノール及び過酸化水素を反応させ、生じた発光量を検出・測定する化学発光分析において、反応液中の発光量を検出・測定する際、反応液に蛋白質分解物を存在させる、化学発光分析の性能を改善する方法。
【請求項5】蛋白質分解物がカゼイン分解物である請求項1又は請求項4の方法。
【請求項6】ラジカル安定化剤の存在下に、標識物であるパーオキシダーゼと、ルミノール及び過酸化水素を反応させ、生じた発光量を検出・測定する化学発光分析において、反応液中の発光量を検出・測定する際、反応液に糖アルコールを存在させる、化学発光分析の性能を改善する方法。
【請求項7】糖アルコールがマンニトール又はソルビトールである請求項1又は請求項6の方法。
【請求項8】ラジカル安定化剤の存在下に、標識物であるパーオキシダーゼと、ルミノール及び過酸化水素を反応させ、生じた発光量を検出・測定する化学発光分析において、反応液中の発光量を検出・測定する際、反応液に非イオン性界面活性剤を存在させる、化学発光分析の性能を改善する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開平6−22795
【公開日】平成6年(1994)2月1日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−76054
【出願日】平成5年(1993)4月2日
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)