説明

樹状細胞の異なるサブセット

本発明は、以下の(E1)〜(E3)の特徴を有する脱活性化した(expired)樹状細胞を提供する;(E1)自然免疫刺激剤及び永続的免疫活性化剤の作用により成熟型に移行しない;(E2)未成熟DCと同様の形状を有する;(E3)IL−10を発現する。また、本発明は、下記の特徴を有する永続的に活性化された樹状細胞を提供する;(M2−1)突き出た樹状突起を有し、凝集クラスターを形成する;(M2−2)未反応の細胞傷害性T細胞(CTL)を活性化する能力を有する;(M2−3)抗CD40モノクローナル抗体の作用に対しその性質が安定している;(M2−4)CD80,CD83及びCD86からなる群から選択される少なくとも1種の発現量が高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、脱活性化した樹状細胞、樹状細胞の一時的または永続的成熟方法、これらの樹状細胞を用いた抗ガン剤及び免疫抑制剤、さらにガンの治療方法及び臓器ないし器官の移植方法に関する。
なお、本明細書において、樹状細胞(dendritic cell)を「DC」と略すことがある。
【背景技術】
樹状細胞(DC)は、自然免疫と適応性免疫との間の重要な媒介物質である。炎症に焦点を合わせると、自然免疫に関係するエンドトキシンまたは炎症性サイトカインは、未成熟DCの成熟DCへの分化を誘導する。後者は、適応性免疫の主要なエフェクターである、ヘルパーT細胞および細胞傷害性T細胞を効率的に刺激する(Banchereau,J.& Steinman,R.M.Nature 392,245−252(1998);Mellman,I.& Steinman,R.M.Cell 106,255−258(2001))。また、活性型T細胞上に存在するCD40リガンド(CD154)によるCD40を介する未成熟DCへの刺激は、DC成熟のためのシグナルを与える。しかしながら、DC成熟に関する様々な因子の相対的な重要性は、依然として不明瞭なままである。骨髄からの未成熟DC調製について記載されるオリジナルの誘発プロトコル通りに、単に細胞のピペティングあるいは再プレーティングするだけでも成熟が引き起こされた(Inaba,K.et al J.Exp.Med.191,927−936(2000);Gallucci,S.,Lolkema,M.& Matzinger,P.Nat.Med.,5,1249−1255(1999))。
本発明に関連する公知文献として、さらに参考文献(References)1〜22が挙げられる。
しかしながら、これらの公知文献は、DCの成熟過程の全体像を明らかにするものではない。
【図面の簡単な説明】
図1:成熟時における骨髄性DCのCD86発現の時間経過
a、C57BL/6骨髄細胞に由来する未成熟DC(immature DC)は、抗−CD40 mAb、LPS(リポポリサッカライド)またはTNFαと共に培養され、次いで8時間および24時間後フローサイトメトリーを用いてに解析された。細胞を抗−CD11c−FITC、抗−CD86−PE(Phycoerythrin)およびヨウ化プロピウム(PI)で染色した。これらの事象は、CD11cおよびPIlowにおいてゲートされた(gated)。b、LPS刺激の6時間後、CD11cDCを磁気選別によって分離し、LPSまたは抗−CD40 mAbの存在下あるいは非存在下において、24時間培養した。細胞を抗−CD86−PEおよびPIで染色し、PIlow集団上でゲートされた。生存率は85.3%(培地コントロール)、85.8%(LPS)および89.7%(抗−CD40)であった。c、2次刺激後の2つの異なるDC集団によるCD86発現のパターン。未成熟DCを、それぞれ、LPSまたは抗−CD40 mAbを用いて48時間刺激し、次いでそれぞれLPSまたは抗−CD40 mAbを用いてさらに24時間再刺激し。これらのデータは、類似した結果を有する3回以上の独立した実験の代表である。
図1aにおいて、control(未成熟DC)、anti−CD40(8hrs:未成熟DCとM2DCタイプ2の混合物)、anti−CD40(24hrs:M2DCタイプ2)。LPS(8hrs:M1DC)、LPS(24hrs:Expired DC)、TNFα(8hrs:未成熟DC(major)とM2DCタイプ2(minor)の混合物)、TNFα(24hrs:未成熟DCとM2DCタイプ2の混合物)である。
図1bにおいて、CD11cDC+(抗−CD40mAbとLPS無し、24hrs)並びにCD11cDC+LPS(24hrs)で脱活性化DCが得られ、CD11cDC+抗−CD40mAb(24hrs)でM2DCタイプ1が得られた。
図1cにおいて、左欄は、LPSの48時間刺激後の脱活性化DCは、anti−CD40及びLPSを作用させても脱活性化DCのままであることを示し、右欄は、anti−CD40の48時間刺激後のM2DC(タイプ1)は、anti−CD40及びLPSを作用させてもM2DCのままであることを示す。
図2:成熟時における骨髄性DCの表現型的分析
a、4種類の異なるDCサブタイプの細胞形態学:未成熟DC(刺激されていない)、M1DC(LPSと共に6時間培養)、脱活性化DC(LPSと共に24時間培養)およびM2DC(抗−CD40 mAbと共に24時間培養)。b、LPSもしくはCD40刺激後6時間もしくは24時間における、(B6×C3H)F1マウス由来の未成熟DCのCD86、MHCクラスI(H−2K)、MHCクラスII(H−2A)およびFcγRII/IIIの発現パターン。c、未成熟DC(白色のプロフィール(white profile))もしくは脱活性化DC(灰色のプロフィール(gray profile))のTLR4/MD2の発現レベルにおける差異。d、未成熟DC、脱活性化DCおよびM2DCの食作用能力。FITC標識ビーズを、8時間共培養にかけた。これらのデータは、類似する結果を有する独立する3回の実験の代表である。
図2bにおいて、LPS 6h(M1DC)、LPS 24h(expired DC)、anti−CD40(6h:未成熟DCとM2DCタイプ1の混合物)、anti−CD40(24hrs:M2DCタイプ1)である。
図3:DCサブユニットのサイトカイン産生プロフィール。
未成熟DC、M1DC、脱活性化DCおよびM2DC(タイプ2)、もしくはLPSおよび抗−CD40 mAbで連続的に刺激されたM2DC(タイプ1)を細胞分類によって精製した。a、未成熟DC(1)、M1DC(2)、M2DC(3)、および脱活性化DC(4)のRNaseプロテクションアッセイ(“M”は分子マーカーを示す)。b、4つの異なるDCサブセット(未成熟DC(1)、M1DC(2)、M2DC(タイプ2;3)、および脱活性化DC(4))ならびにLPSおよび抗−CD40 mAbで連続的に刺激されたM2DC(タイプ1;(5))におけるIL−6、IL−10、およびTNFαのmRNAレベルの、リアルタイム定量的PCRによるRT−PCR分析。コピー数は、β−アクチンに対して標準化された。これらの結果は、類似する結果を有する独立する3回以上の実験の代表である。
図4:DCサブセット機能的分析
a、F5マウス由来の未反応CD8T細胞を、数種類の異なる濃度のNP366−374を適用させた以下のDCサブセットと共に48時間共培養した:未成熟DC(黒色のプロフィール(black profile))、脱活性化DC(灰色のプロフィール(gray profile))、M2DC(白色のプロフィール(white profile))。このデータは、類似する結果を有する4つの独立する実験の代表である。b、OVA257−264/K特異的T細胞クローン(4G3)を、脱活性化DCおよびOVA257−264(10μM)と共に48時間共培養し、次いでペプチド適用されたMMC処理済B6脾臓細胞(滴定濃度)と共にさらに24時間培養し、その応答を測定した。これらのデータは、類似する結果を有する独立する2回の実験の代表である。
図5:生体内におけるDCの分化および成熟
a、LPS刺激された未成熟DCをCFDA−SEで標識し、DO.11.10マウスへ注射(OVA323−339有りまたは無し)した。48時間後、リンパ節(LNs)および脾臓(SPL)中のDCを抗−86抗体で染色した。CFSE陽性細胞を分析した。これらの結果は、類似する結果を有する独立する3回の実験の代表である。b、未成熟DCを、ペプチドグリカンIII型、CpG ODNもしくは壊死細胞派生物、LPS、または抗−CD40 mAbで刺激した。そのDCを、刺激の6時間(白色のプロフィール(white profile))および48時間(灰色のプロフィール(gray profile))後、CD86について染色した。これらのデータは、類似する結果を有する独立する2回の実験の代表である。c、骨髄性DC成熟のモデル。TLRを介して微生物シグナルによって刺激された未成熟DCは、直ぐに、MHCクラスIIおよび副刺激分子を発現するM1DCへと変化する。M1DCは、CD40Lを有するTh細胞と結合し、CD40からシグナルを受けてM2DCへ連続的にシフトし、成熟表現型を維持する。CD40の刺激が無い場合、M1DCは、ダウンレギュレーションされたMHCクラスIIおよび副刺激分子を有する脱活性化DCへと成長する。
図6は、IL−10及び抗CD−40抗体の効果と作用時間についての結果を示す。
図7は、誘導方法によるサイトカイン分泌の評価(ELISA法)を示す。
図8は、生体内キラーT細胞(CTL)誘導能の評価を示す。
図9は、未成熟DCと脱活性化DCの相違を示す。
図10は、単核球由来のヒト未成熟DCをピシバニール(OK432)、抗−CD40抗体、抗IL−10抗体で刺激した結果を示す。図10中、点線は、抗体を加えていないネガティブコントロールを示す。
【発明の開示】
本発明は、DCの成熟過程に関する新たな知見を提供することを目的とする。
具体的には、本発明は、免疫抑制機能を有する脱活性化した樹状細胞、免疫機能を永続的に活性化した成熟DC(M2DC;mature 2 dendritic cell)及びその調製方法、並びに免疫賦活機能を有する一時的に活性化された成熟DC(M1DC;mature 1 dendritic cell)の調製方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、免疫抑制剤、抗ガン剤、ガンの治療方法及び拒絶反応が抑制された臓器、器官の移植方法を提供することを目的とする。
本発明者は、上記のようなピペティングおよび再プレーティングを行わずに、エンドトキシン(LPS)、抗−CD40モノクローナル抗体(mAb)(CD154の代替物)、TNFα(前炎症サイトカインの例)、ピシバニール(OK432)などの自然免疫刺激剤を用いて、未成熟DC(immature dendritic cell)の成熟を評価した。
本発明者は、自然免疫刺激剤によって誘導される、脱活性化DCについて記載する。この脱活性化DCは、高レベルなMHCクラスI発現、IL−10産生、および別の方法で成熟を誘導する刺激に対する非反応性を除いて、多くの点で未成熟DCに類似している。このような脱活性化DCは、未反応の細胞傷害性T細胞(CTL)を刺激することができない。むしろ、脱活性化DCはCTLクローンにおいてアナジーを誘導し、免疫抑制作用を有する。CD40を介する刺激は、脱活性化表現型へのLPS誘導型移行を阻害し、結果的にLPS刺激後の初期段階においてみられる表現型とは異なる成熟表現型の獲得、即ちM2DCへの移行をもたらした。
本発明者はまた、未成熟DCが自然免疫刺激剤による刺激を受けた後に、所属リンパ節に移行して、ここで活性型ヘルパーT細胞と相互作用することによって、成熟表現型の維持がもたらされることを観察した。これらのデータに基づいて、本発明者は、免疫調節に関係するDC成熟の新たな概念を提唱する。DC成熟過程の詳細を明らかにしたのは本発明者が初めてである。
すなわち、本発明は、以下の発明に関する。
1.以下の(E1)〜(E3)の特徴を有する脱活性化した(expired)樹状細胞:
(E1)自然免疫刺激剤及び永続的免疫活性化剤の作用により成熟型に移行しない;
(E2)未成熟DCと同様の形状を有する;および
(E3)IL−10を発現する。
2.前記樹状細胞がヒトの樹状細胞である項1に記載の脱活性化した樹状細胞。
3.下記の特徴を有する項2に記載のヒトの脱活性化した樹状細胞:
(E1’)LPS及び抗CD40モノクローナル抗体の作用により成熟型に移行しない;
(E2)未成熟樹状細胞と同様の形状を有する;および
(E3)IL−10を発現する;
4.さらに下記の特徴を有する項3に記載のヒトの脱活性化した樹状細胞:
(E4)CD80の発現量が未成熟DCと同等程度である;及び/又は
(E5)CD83の発現量が未成熟DCと同等程度である。
5.さらに下記の特徴の少なくとも1つを有する項4に記載のヒトの脱活性化した樹状細胞:
(E6)マイクロビーズに対する食作用活性が未成熟樹状細胞と同程度である;
(E7)MHCクラスIを高発現する;
(E8)抗原ペプチドの存在下で未反応T細胞を活性化しない;および
(E9)未成熟DCよりも低いTLR4/MD2発現を示す。
6.下記の特徴を有する永続的に活性化された樹状細胞:
(M2−1)突き出た樹状突起を有し、凝集クラスターを形成する;
(M2−2)未反応の細胞傷害性T細胞(CTL)を活性化する能力を有する;
(M2−3)抗CD40モノクローナル抗体の作用に対しその性質が安定している;および
(M2−4)CD80,CD83及びCD86からなる群から選択される少なくとも1種の発現量が高い。
7.前記樹状細胞がヒト由来の細胞であって、下記の特徴を有する項6に記載の永続的に活性化された樹状細胞:
(M2−1)突き出た樹状突起を有し、凝集クラスターを形成する;
(M2−2)未反応の細胞傷害性T細胞(CTL)を活性化する能力を有する;
(M2−3)抗CD40モノクローナル抗体の作用に対しその性質が安定している;および
(M2−4’)CD80及びCD83の発現量が高い。
8.さらに下記の特徴の少なくとも1つを有する項7に記載のヒトの永続的に活性化された樹状細胞:
(M2−5)FcγRの発現量が低い(FcγRlow);
(M2−6)MHC−Iの発現量が高い(MHC−Ihigh);
(M2−7)MHC−IIの発現量が高い(MHC−IIhigh);及び
(M2−8)IL−12p40の発現量が高い。
9.未成熟樹状細胞を自然免疫刺激剤で活性化して一時的に活性化された成熟樹状細胞(M1DC)に導く工程、該M1DCを永続的活性化剤の非存在下で培養する工程を含む脱活性化された樹状細胞(expired DC)の調製方法。
10.未成熟樹状細胞を永続的活性化剤とともに処理する工程を含む、永続的に活性化された成熟樹状細胞(M2DC)の調製方法。
11.未成熟樹状細胞を自然免疫刺激剤で活性化して一時的に活性化された成熟樹状細胞(M1DC)に導く工程、該M1DCを永続的活性化剤の存在下で培養する工程を含む永続的に活性化された成熟樹状細胞(M2DC)の調製方法。
12.未成熟樹状細胞を自然免疫刺激剤で処理することを特徴とする一時的に活性化された成熟樹状細胞(M1DC)の調製方法。
13.項7または8に記載のヒトの永続活性化成熟樹状細胞(M2DC)或いは、項10又は11に記載の方法により調製されたヒトM2DCを有効成分とする、抗ガン剤
14.項7または8に記載のヒトの永続活性化成熟樹状細胞(M2DC)或いは、項10又は11に記載の方法により調製されたM2DCを有効成分とする、抗病原体剤。
15.項1〜5に記載の脱活性化樹状細胞または項9に記載の方法により得られた脱活性化樹状細胞を有効成分とする免疫抑制剤。
16.項7または8に記載のヒトの永続活性化成熟樹状細胞(M2DC)或いは、項10又は11に記載の方法により調製されたヒトM2Dをヒトガン患者に投与することを特徴とするガンの治療方法。
17.ヒト移植ドナー由来の項2〜5に記載のヒト脱活性化樹状細胞または項9に記載の方法により得られたヒト脱活性化樹状細胞をヒトのレシピエントに導入し、次いで、ヒト移植ドナーの臓器ないし器官をヒトのレシピエントに導入することを包含する拒絶反応を抑制した移植方法。
18.前記臓器ないし器官が骨髄細胞である項17に記載の方法。
DCの供給源としては、ヒト、マウス、ウシ、ウマ、ブタ、イヌ、サル等の哺乳動物が好ましく例示され、より好ましくはヒトが例示される。
本発明では、未成熟DCが以下の3種のいずれかの経路で変換される。
経路1:未成熟DC → M1DC → 脱活性化DC(expired DC)
経路1A(ヒトDC):未成熟DC → 脱活性化DC(expired DC)
経路2:未成熟DC → M1DC → M2DC(タイプ1)
経路3:未成熟DC → M2DC(タイプ2)
経路1A(ヒトDC):未成熟DC → 脱活性化DC(expired DC)
経路1、2において、未成熟DCからM1DCへは、自然免疫刺激剤ないしdanger signalにより誘導される。
経路1Aにおいて、ヒト未成熟DCをLPSで刺激すると、IL−10を産生する脱活性化DCに移行するが、CD80、CD83またはCD86が急激に上昇し、IL−12p40およびIL−10を高発現するM1DCに相当する明確な活性化DCが見られない。従って、ヒトDCでは、経路1のようにM1DC(但し、CD80、CD83またはCD86などの表面抗原並びにIL−12p40およびIL−10の発現の低度は弱い)を経由して脱活性化DCに移行する経路1と明確なM1DC表現型を示すことなく脱活性化DCに移行する経路1Aのいずれかにより脱活性化DCに移行すると考えられる。
自然免疫刺激剤は、未成熟DCからM1DCへの成熟化を誘導するものであれば特に限定されず、エンドトキシン(LPS)、CpGなどが例示される。自然免疫刺激剤には、LPS,CpG、ペプチドグリカン、壊死細胞成分等のToll−like receptors(TLRs)に結合し、活性化シグナルを誘導するものが包含される。さらに好ましい自然免疫刺激剤としてLPS,CPGなどが挙げられる。
経路2において、M1DCからM2DCタイプ1(mature 2 dendritic cell type 1)への誘導及び経路3において、未成熟DCからM2DC(タイプ1)への誘導は、永続的活性化剤により実施することができる。
経路1において、M1DCから脱活性化DCへの移行は、特別な物質は必要なく、通常の培養液中(但し、永続的活性化剤は含まない)で5〜100時間程度培養することで、行うことができる。当該培養を自然免疫刺激剤の存在下に行っても、同様に5〜100時間程度培養することで、M1DCから脱活性化DCへの移行が行われる。
未成熟DCは、骨髄細胞や、未成熟DCになり得る幹細胞を適切な誘導剤を用いて誘導して調製してもよいし、或いは脾臓から直接未成熟DCを得ることもできる。たとえば骨髄細胞にGM−CSFを作用させることで、未成熟DCに導くことが可能である。また、血液から単球などの未成熟DCになり得る細胞を分離して使用することもできる。未成熟DC、脱活性化DC、M1DC,M2DC(タイプ1,タイプ2)の分離は、例えば蛍光標識又は染色を行った後、セルソーターにより行うことができる。具体的には、マウスDCでは、脱活性化DCとM2DCの、CD86で染色後に細胞分離装置(セルソーター)により分離することができ、ヒトDCでは、脱活性化DCとM2DCの、CD80またはCD83で染色後に細胞分離装置(セルソーター)により分離することができる。
未成熟DCとM1DCについても同様にCD80、CD83又はCD86で染色後に細胞分離装置(セルソーター)により分離することができる。
さらに、マウス脱活性化DCはLPSで刺激48時間後のCD86−lowをセルソーターで分離精製することができ、ヒト脱活性化DCはLPSで刺激48時間後のCD80−lowもしくはCD80−lowかつCD86−highをセルソーターで分離精製することができる。
永続的活性化剤は、未成熟DCまたはM1DCから永続的に活性化された成熟DC(M2DC)に導くことができる活性化剤であれば特に限定されず、例えばDCのCD40に結合してDCを活性化する抗CD40抗体(ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体を含む)、CD40リガンド(CD154)を発現したヘルパーT細胞、IL−10の作用をブロックする抗IL−10抗体または抗IL−10受容体抗体(ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体を含む)、ピシバニール(OK432)、TNFαなどが例示され、好ましくは抗CD40モノクローナル抗体、抗IL−10モノクローナル抗体が例示される。ヒトDCに関してはピシバニール(OK432)と抗CD40モノクローナル抗体が好ましく使用できる。
M1DCは、自らが分泌するIL−10により、脱活性化DCに移行するが、抗IL−10抗体や他の永続的活性化剤(例えば抗CD40mAb)があればM2DCに移行する。
本発明により、初めて脱活性化DC及びM2DCが提供される。
脱活性化DCのキャラクタリゼーション
脱活性化DCは、以下に示すような1以上の性質を有している。
(E1)自然免疫刺激剤及び永続的免疫活性化剤の作用により成熟型に移行しない
脱活性化DCは、自然免疫刺激剤により活性化され、M1DCとなった後、永続的免疫活性化剤の作用を受けることなく脱活性化DCへ移行したものである。いったん脱活性化DCへ移行すると、さらに自然免疫刺激剤及び永続的免疫活性化剤を作用させても脱活性化DCのままである。
(E2)未成熟DCと同様の形状を有する
脱活性化DCは、とげ状の突起を有さず、形態的に未成熟DCと同様な外観を有する。
(E3)IL−10を発現する
脱活性化DCは、IL−10を発現、分泌する。未成熟DCは、IL−10を意味のある程度に発現せず、M1DCはIL−10を高発現するが、M1DCから移行した脱活性化DCはIL−10の発現量がM1DCよりも明らかに低下し、M1DCの1/2以下、例えばM1DCの1/3〜1/100程度の発現量を有する。
また、ヒト未成熟DCにLPSを作用させて得られた脱活性化DCは、同様に弱いIL−10発現を示す。
(E4〜E5)CD80/CD83/CD86の発現量が低い(CD80low/CD83low/CD86low
マウス由来のDCでは、活性化DC(M1DC、M2DC)においてCD86発現量が未成熟DCよりも明らかに高く、脱活性化DCは未成熟DCと同等程度の低いCD86発現量を有する(CD86low)。
一方、ヒト由来のDCでは、CD80および/またはCD83の緩やかな発現量の変化を経て未成熟DCから低発現量の脱活性化DC(CD80low/CD83low)に変化する。
(E6)マイクロビーズに対する食作用活性が未成熟DCと同程度である;
活性化DC(M1DC、M2DC)ではマイクロビーズに対する食作用活性が非常に低いが、脱活性化DCに移行するとマイクロビーズに対する高い食作用活性を有する。
(E7)MHCクラスIIの発現量が低い
未成熟DCと同様にMHCクラスIIの発現レベルが低く、MHCクラスIIの発現量が高い活性化DC(M1DC,M2DC)と区別可能である。
(E8)抗原ペプチドの存在下で未反応T細胞を活性化しない;
M2DCは抗原ペプチドの存在下で未反応T細胞(CTL)を誘導(活性化)するが、脱活性化DCは抗原ペプチドの存在下で未反応T細胞(CTL)を誘導(活性化)せず、むしろT細胞アナジーを誘導する。
(E9)未成熟DCよりも低いTLR4/MD2発現を示す
TLR4/MD2発現が低いと、これ以上LPSが作用しなくなることが予測される。
M2DCのキャラクタリゼーション
M2DCは、以下に示すような1以上の性質を有している。
(M2−1)突き出た樹状突起を有し、凝集クラスターを形成する;
図2aに示されるように、M2DCは突き出た樹状突起及び凝集クラスターを形成する。活性化DC(M1DC,M2DC)は、樹状突起を有し、M2DCはM1DCよりも樹状突起の数が多い
(M2−2)未反応の細胞傷害性T細胞(CTL)を活性化する能力を有する;
例えばOVA蛋白を取り込ませたM2DCでマウスを免疫すると、マウスに移入した標的細胞のうちOVA抗原を持つものが特異的に排除されることから、M2DCによりOVAペプチド特異的なCTLが活性化されることが明らかにされた。
(M2−3)抗CD40モノクローナル抗体の作用に対しその性質が安定している;
抗CD40モノクローナル抗体の存在下で培養すると未成熟DCとM1DCはM2DCに変化するが、M2DCは変化しない。
(M2−4)CD80,CD83及びCD86からなる群から選択される少なくとも1種の発現量が高い
例えばOK432と抗CD40モノクローナル抗体でヒト未成熟DCを処理して得られたヒトM2DCでは、CD80及びCD83の発現量が著明に増加する(MFIで約100倍、図10)。従って、CD80,CD83がヒトM2DCを特定する重要な指標になる。一方、マウスM2DCでは、CD86が重要な指標になり、マウスM2DCでは、CD86の発現量が高く、マウス脱活性化DCで低い。
(M2−5)FcγRの発現量が低い(FcγRlow
図2bに示されるように、LPS24時間で処理されたM1DCはFcγRの発現量が高いが、抗CD40mAbで24時間処理されたM2DCはFcγRの発現量が低い(FcγRlow)。
(M2−6)MHC−Iの発現量が高い(MHC−Ihigh
MHC−Iの発現量は未成熟DCで低く、M2DCで区別可能な程度に高い。
(M2−7)MHC−IIの発現量が高い(MHC−IIhigh
MHC−IIの発現量は、M2DCで高く(MHC−IIhigh)、未成熟DCでは低い。
(M2−8)IL−12p40の分泌(発現)量が高い
M2DCは、M1DCと同様にIL−12p40の発現量が高く、強力な免疫活性化能を有している。
本明細書において、脱活性化DCが「未成熟DCと同様の形状を有する」とは、具体的には、図2aに示されるように脱活性化DCは集塊をほとんど或いは全く形成せず、球形、楕円型、菱形等の形状を有する付着細胞であり、とげ状の樹状形状及びクラスター形成が少ないことを意味する。このとげ状の樹状形状およびクラスター形成の程度は、CD86(マウス)或いはCD80/CD83(ヒト)の発現量と比例していると考えられる。
マウス、ヒト以外の哺乳動物細胞に関しては、CD86、CD80、CD83の少なくとも1種の発現量が変化する。
また「CD86/CD83/CD80の発現レベルが低い(CD86low/CD83low/CD80low)」とは、色素物質(例えばフィコエリトリン)または蛍光物質(FITCなど)等のマーカーを結合した抗CD86抗体/抗CD83抗体/抗CD80抗体を使用し、脱活性化DCと反応させると、コントロール(脱活性化DCのみを用い、マーカー結合抗CD86抗体/抗CD83抗体/抗CD80抗体を使用しない)に比べて10倍以下(通常1〜10倍、特に3〜8倍程度)の吸光度または蛍光強度を有することを意味する。なお、「CD86/CD83/CD80の発現レベルが高い(CD86high/CD83high/CD80high)」M1DC,M2DCでは、脱活性化DCに対し15〜100倍程度、特に50〜100倍程度(コントロールに対し50〜800倍程度、特に200〜500倍程度)の吸光度または蛍光強度を有する。CD80−high/CD83−high/CD86−highとはCD80−low/CD83−low/CD86−lowと比べて3〜100倍程度、好ましくは10〜80倍程度、特に20〜60倍程度の吸光度または蛍光強度を示すものを指す。
本発明の脱活性化DCは、未成熟DCと同様の形状を有し、CD86/CD83/CD80の発現レベルが低い点並びにマイクロビーズに対する食作用を有する点でも未成熟DCに類似するが、以下の点で、未成熟DCと異なっている:
(i)LPSなどの自然免疫刺激剤および抗CD40 mAbなどの永続的活性化剤を作用させても成熟DC(M1DCまたはM2DC)に移行しない;
(ii)IL−10、IL−6及びTNFαの発現レベルが未成熟DCよりも高く、これらを放出する。特に免疫抑制性のIL−10の産生は重要と考えられる。
(iii)MHCクラスI(MHCクラスI/ペプチド複合体)を高発現する
(iv)未反応T細胞を活性化しない;
(v)TLR4/MD2が、未成熟DCよりも低い。
未成熟DC、脱活性化DC、M1DC,M2DCの表面抗原の相違を以下の表に示す。

なお、脱活性化DCは、塊を形成しない楕円型の付着細胞であり、樹状突起のクラスターが少なく、未成熟DCと類似した外観を呈するが、M1DC、M2DCは集塊を形成し突起が出現する点で、これらは明瞭に区別できる。また、M2DCはM1DCよりも突起の数が多い。
未成熟DCは、CD80/CD83/CD86の発現量が低いので、レシピエントに導入された場合にキラーT細胞及びヘルパーT細胞のアナジーを誘導する可能性があるが、未成熟DCはレシピエント内で活性化されて成熟DC(M1DC,M2DCなど)になって、免疫系を賦活する可能性が高い。
一方、脱活性化DCは再び成熟DCに戻ることはなく、安定している。従って、ドナーの脱活性化DCをレシピエントに予め投与するとドナー移植片を拒絶可能なレシピエントのキラーT細胞及びヘルパーT細胞の両方にアナジー(anergy)誘発し、次にドナーの臓器ないし器官等を移植した場合に、拒絶反応を抑制することが可能となる。例えば臓器移植や骨髄移植の場合、一般的に6種類のHLAのうち、5種ないし6種の型が一致している必要があるが、ドナーの脱活性化DCを予めレシピエントに投与しておくことで、HLAの適合性の低いドナーの臓器ないし骨髄をレシピエントに移植することができるようになるため、臓器移植や骨髄移植が容易に行えるようになる。
本発明の脱活性化DCが免疫拒絶を抑制することは、MLC法(mixed Lymphocyte reaction culture)により確認することが可能である。具体的には、ドナーとレシピエント(脱活性化DC投与前)の脾臓組織の一部を取り出し、該組織の脾臓細胞を混合培養したとき、T細胞数が増加するが、レシピエントにドナー由来の脱活性化DCを投与してレシピエントのキラーT細胞、及び任意にヘルパーT細胞のアナジーを誘発し、次にMLC法を行った場合にはT細胞数が増加しないことから、ドナー由来の脱活性化DCがレシピエントの免疫拒絶を抑制することが確認できる。データは示さないが、本発明者は、ドナー由来の脱活性化DCをレシピエントに投与後に、ドナーの骨髄をレシピエントに移植すると、MLC反応が起こらなかったことを確認している。
該移植される臓器ないし器官等としては、心臓、肝臓、腎臓、肺、小腸、膵臓等の臓器、さらに骨髄が例示される。
さらに、脱活性化DCは移植拒絶の抑制だけでなく、アレルギー、自己免疫疾患の治療剤としても有効である。
M2DCは、経路2と経路3のいずれかにより未成熟DCから調製することが可能であり、経路2により調製されたM2DC(タイプ1)は経路3により調製されたM2DC(タイプ2)よりもIL−12(特にIL−12P40)の発現量が有意に大きい点で、両者は異なっている。従って、M2DC(タイプ1)はより免疫増強効果が強いと考えられる。
不安定なM1DCとは異なり、M2DCは安定であって脱活性化DCに移行しない。従って、例えばガン患者から得た未成熟DC(骨随細胞、血液細胞などから誘導されたものを含む)を経路2または3に従いM2DCに誘導し(タイプ1はより有効)、このM2DCをガン患者に戻すことにより、ガン患者のキラーT細胞及びヘルパーT細胞を活性化し、それによりガンの転移の予防及びガンの治療を行うことが可能になる。さらに、各種病原体(A型、B型ないしC型肝炎ウイルス、エイズウイルス、インフルエンザウイルス等)に対する抗病原体剤としても有効である。病原体は、病原体由来のペプチドさえあれば、その種類を問わない。
治療対象となるガンとしては、特に制限はなく、例えば、頭頸部癌、食道癌、胃癌、結腸癌、直腸癌、肝臓癌、胆嚢・胆管癌、膵臓癌、肺癌、乳癌、卵巣癌、膀胱癌、前立腺癌、睾丸腫瘍、骨・軟部肉腫、悪性リンパ種、白血病、子宮頸癌、皮膚癌、脳腫瘍等が挙げられる。
本発明者は、本明細書において、自然免疫刺激剤による刺激後の未成熟DCの急速な成熟およびそれに続く脱活性化(expiration)について記載した。脱活性化したDC(expired DC)は、高レベルなMHCクラスI発現および大量のIL−10/TNFα産生、それ以上の活性化を受けないことを除いて、未成熟DCに似ている。このような脱活性化DCは、未反応のCTLを刺激することができず、むしろCTLクローンにおいてアナジーを誘導した。CD40、IL−10などを介する永続的活性化剤による刺激は、脱活性化表現型へのLPS誘導型移行を阻害し、結果的に自然免疫刺激剤による刺激後の初期段階においてみられる表現型(M1DC)とは異なる成熟表現型(M2DC)の獲得をもたらした。このことはまた、生体内においても観察された。
これらの結果は、免疫調節への新たな手段を提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明を実施例に従って説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
(I)新規DCサブセットの検出
マウス由来のDC成熟を時間をおって観察し、本発明者は、LPS刺激の8時間後ほとんど全てのDCがCD86発現の急速な増加を伴って応答することを見出した。これとは対照的に、抗−CD40 mAb刺激およびTNFα刺激は、CD86high集団のより緩やかな増加を誘導した。興味深いことに、CD86の初期の急速なアップレギュレーションにも関わらず、多数のCD86low細胞が、LPS刺激の24時間後に依然として存在していた(図1a)。私達は、LPS刺激型DCにおけるCD86low集団がCD11cCD86high集団に由来する否かを試験するために、LPS刺激の6時間後、磁気選別、それに続く完全洗浄、そしてLPSもしくは抗−CD40 mAbを用いる24時間のインキュベーションによって、CD11c細胞をDCから精製した。このように準備されたCD11c細胞のほとんど全てが、その細胞表面上で高レベルな(ピークには達していなかったが)CD86を発現していた。二次培養物中にLPSが存在するか否かに関わらず、ほとんどのCD11c細胞がCD86の高密度な表面発現を消失した。しかしながら興味深いことに、二次培養物中における抗−CD40 mAbの存在下においては、多数のCD11c細胞が依然としてとしてCD86highであった(図1b)。培養中に観察される細胞数の変化が微々たるものであったことを考慮すると、この観察の説明として、LPS刺激後24時間以内にCD86highDCが大量細胞死した可能性を引き合いに出すことは困難である。従って、LPSがDC上のCD86の急速なアップレギュレーションおよびそれに続くダウンレギュレーションを24時間以内に引き起こした可能性が高い。
次に、2種類のDC表現型(すなわち、抗−CD40 mAbによってアップレギュレーションされるCD86またはLPSによってダウンレギュレーションされるCD86)の安定性を検証した。そこで、これら2種類のDCサブタイプを、LPSまたは抗−CD40 mAbによって2次刺激した。しかしながら、どちらの表現型も再び変化することはなかった(図1c)。これらのデータは以下の4つの結論を与える。
(1) LPSは骨髄性DCの一時的かつ不安定な成熟を誘導する。
(2) その後、LPS刺激はCD86low表現型を有する安定なDC集団を産生する。
(3) CD40刺激は、CD86のLPS誘導型ダウンレギュレーションを阻害する効果を発揮する。
(4) 抗−CD40 mAb誘導型CD86highDCは、比較的安定な表現型のDCである。
上記のデータに基づいて、本発明者は、マウス骨髄性DCの成熟を4つのカテゴリーに分類した:
(1) 未成熟DC:
新しく分化されて刺激を受けていないCD86low表現型。
(2) 第1段階の成熟DC(M1DC):
LPS刺激後、初期の一時的なCD86high表現型。
(3) 第2段階の成熟DC(M2DC):
抗−CD40刺激後の安定なCD86high表現型。
(4) 脱活性化DC:
LPS刺激後、後期におけるCD86low表現型。
これら4種類のDC表現型の形態学的評価によって、樹状形状およびクラスター形成がCD86発現と相互関係にあることが明らかになった。凝集されたM1DCが外見上とげ状(spiny)であるのに対し、脱活性化DCにおいては、樹状突起の減少を伴ってこれらのクラスターが減少し、視覚的に未成熟DCを思わせる外見を有していた。M2DCもまた、突出た樹状突起を有する凝集クラスター(solid clusters)を形成した(図2a)。LPS刺激の48時間後には、ほとんど全てのCD86high表現型M1DCがCD86low脱活性化DC表現型を獲得していたが、その集団の中でも少数のCD86highDCが依然として残存していた。
(II)DCサブセットの表現型の相違
次に、未成熟DCおよび脱活性化DCがCD86発現および形態学の両方において非常に類似しているように思われたので、それらの間の相違点を捜した。抗−CD40 mAbを用いる刺激の6時間後のDC(未成熟DC)とLPSを用いる刺激の24時間後のDC(脱活性化DC)との間の表面マーカー発現の比較によって、MHCクラスIの発現レベルが両者を識別するマーカーを表すことが実証された(図2b)。さらに、M1DCおよびM2DCは、FcγRII/IIIの発現レベルによって識別された。さらに、本発明者は、脱活性化DCのLPSに対する非反応性に基づいて、LPSレセプター(TLR4/MD2)がこれらの細胞においてダウンモジュレーションされるという仮説を立てた(Nomura,F.et al,J.Immunol.164,3476−3479(2000))。予測した通り、未成熟DCは、脱活性化DCよりも高いTLR4/MD2発現を示した(図2c)。また、FITC標識化マイクロビーズを使用して、脱活性化DCの食作用活性を試験した(図2d)。一般的に、活性型DCは抗原を捕捉することができないと考えられている(Inaba,K.et al J.Exp.Med.178,479−488(1993))。しかしながら、脱活性化DCは、すでに活性化されているにもかかわらず、未成熟DCと同じくらい効率的にビーズを捕捉した。対照的に、M2DC集団における細胞のほとんどが、マイクロビーズを捕捉し得なかった。
4つのDCサブタイプ間の相違点をさらに同定するために、分類された細胞のサイトカインRNaseプロテクションアッセイを行った。LPS刺激型DC(M1DCおよび脱活性化DC)2つのサブセットは、非常に良く似たサイトカインmRNAパターンを示した。脱活性化DCにおいて、IL−1およびIL−6はアップレギュレーションされたが、IL−12p40シグナルは弱かった。対照的に、M2DCは、全く異なるパターン(すなわちIL−12p40およびIL−6のアップレギュレーション、反対にIL−1およびIL−1Raのダウンレギュレーション)を有した(図3a)。サイトカイン産生をより正確に比較するために、4つのDCサブセットおよびLPSに次いで抗−CD40 mAbで連続的に刺激されたDCのIL−6およびIL−10ならびにTNFαのmRNAの相対的コピー数を、リアルタイム定量的PCRによって測定した。LPS刺激の後、IL−6、IL−10およびTNFαは、M1DCにおいてアップレギュレーションされ、次いで脱活性化DCにおいてわずかにダウンレギュレーションされたのに対して、M2DCにおけるIL−6のアップレギュレーションはほとんど検出されず、TNFαおよびIL−10の低レベルな発現が検出された(図3b)。抗−CD40を用いた刺激によってM1DCから誘導されたCD86high成熟DCは、M2DCに対してほとんど同じサイトカインプロフィールを示し、抗−CD40刺激が主にM1DCからM2DCへのシフトを媒介するという概念が支持された。これらの異なるサイトカイン産生プロフィールは、4種類のDCサブセットを明瞭に区別する。
M2DCおよび脱活性化DCによるMHCクラスI発現のレベルは非常に似ているので、本発明者は、異なるDCサブセットのCTL活性化の能力を比較した。F5トランスジェニックマウス由来の未反応CD8T細胞(ここで、このT細胞はインフルエンザ核タンパク質(NP)366−374特異的D−特異的抗原レセプターを保有する)を、数種類の濃度のNPペプチドを加えた3種類のDCサブセット(すなわち、未成熟DC、M2DCおよび脱活性化DC)と共に培養した。本発明者は、M1DCの表現型が暫定的であるので、M1DCが機能的アッセイにおける使用に適していないと考えた。未成熟および脱活性化DCが未反応T細胞を活性化し得ないということが見出されたのに対して、M2DCは、100pM以上のNP366−374濃度でCTLを活性化した(図4a)。
次いで、脱活性化DCがT細胞アナジーを誘導し得るか否かを試験した。
OVA257−264(オボアルブミン(OVA)由来のペプチド)に特異的なT細胞クローン(4G3)は、脱活性化DCおよびOVA257−264と共に48時間培養され、次いでB6脾臓細胞および種々の濃度のOVA257−264と共に再び培養された。これらの4G3細胞は、ConA培養上清にはなお応答し得たものの、いずれの試験濃度のOVA257−264にももはや応答しなかった。このことは、脱活性化DCがアナジーを誘導し得ること示している。
(III)DC成熟の新規モデル
これらのデータに基づいて、本発明者は、CD40を介するシグナル伝達の非存在下ではM1DCから脱活性化DCへ至り、抗CD40モノクローナル抗体によりCD40を介するシグナルを受けると、安定な成熟型(M2DC)へと分化するというモデルを提案する(図5c)。抗CD40モノクローナル抗体の代わりに抗IL−10モノクローナル抗体を使用しても、同様に安定な成熟型(M2DC)へと分化する。その結果、CD40刺激は、CTLの寛容化に反して活性化するための選択において極めて重要な役割を果たすことが判明した。一方で、ミコバクテリアの熱ショックタンパク質70がCD40を介して単球誘導型DCを刺激することが報告されていることから、未成熟DCがCD40刺激を介して直接的にM2DCへとシフトする経路が存在し得ることを無視することはできない(Wang,Y.et al.Immunity 15,971−983(2001))。このモデルによって、すでに出版された報告(Stoll,S.et al.Science 296,1973−1876(2002);Ingulli,E.et al.J.Immunol.169,2247−2252(2002);Lee,B.O.et al.J.Exp.Med.196,693−704(2002))を参考にして、生体内における以下のシナリオが予測される。炎症に焦点を置くと、未成熟DCは、抗原を捕捉し、TLRもしくは前炎症リンフォカインレセプターを介してM1DCへの分化を引き起こすシグナルを受け取る。M1DCは、それらがヘルパーT細胞表面上でのCD40L発現を誘導する所属リンパ節へ迅速に移動する。この一連の事象は、一般的に24時間以内、特に12時間以内に成し遂げられる。従って、活性型ヘルパーT細胞はCD40を介してシグナルをM1DCに与え、その結果、脱活性化DCへの最終的変化が起こる前に、CTLを活性化し得るM2DCへの分化が生じる。CD40とCD40Lとの間の相互作用が失敗すると、CTLを寛容化する脱活性化DCへの移行が誘導される(図5c)。生体内でこれを確かめるために、LPSによって誘導されたCFDA−SE標識化CD11cM1DCにOVA323−336(これは、DO11.10マウスにおいてヘルパーT細胞を活性化する)を加えて、DO11.10マウスに接種した。2日後、所属リンパ節および脾臓内のCFSE陽性細胞についてCD86発現を分析した。リンパ節においてOVA323−336を加えたDCのみがCD86を高レベルで発現したのに対して、脾臓におけるほとんどのDCは、OVAペプチドの存在の有無に関わらず、未成熟/脱活性化表現型のDCであった(図5a)。それゆえ、M1DCは、特にリンパ節において、ヘルパーT細胞と相互作用した後M2DCへ進行すると考えられる。
最後に、本発明者は、M1DCの脱活性化が一般的な現象であるか否かを調べた。ペプチドグリカン(TLR2リガンド)、CpG ODN(TRL9リガンド)、および壊死細胞(内因性活性化因子で、自己物質に由来する天然のアジュバンドの形状であると考えられている;Gallucci,S.,Lolkema,M.& Matzinger,P.Nat.Med.,5,1249−1255(1999))を未成熟DCと共に6もしくは48時間培養した。抗−CD40 mAbは、48時間後にDC上でCD86の高レベルな発現を誘導したが、6時間後には誘導しなかった(図1に示されるのと同様に)。それとは対照的に、ペプチドグリカン、CpG ODN、および壊死細胞は、6時間後に強いCD86発現を誘導したが、48時間後にはほとんどの細胞において明らかに発現されず、LPS刺激型DCの場合も同様であった(図5b)。これらのデータは、ここに提唱した成熟モデルがDC成熟の主要な生理学的経路であることを示す。
(IV)考察
本発明の新たな成熟DCモデルは、いくつかの長年の疑問を解決し得る。第1に、なぜDCを誘導する全ての試薬のうち抗−CD40 mAb(もしくはCD154)のみがCTL活性化を顕著に特徴付けるのかである(Ridge,J.P.et al.Nature 393,474−478(1998);Bennett,S.R.et al.Nature 393,478−480(1998);Schoenberger,S.P.et al.Nature 393,480−483(1998))。本発明者は、CTL誘導におけるCD40刺激の本当の役割は成熟DC表現型の継続的な安定性の維持であると考えている。実際、MHCクラスII/ペプチド複合体およびMHCクラスI/ペプチド複合体の発現が、LPS刺激後それぞれ約8時間および24時間で検出された(未発表の研究)。M1DC表現型は初期段階において短時間だけ存在しているので、MHCクラスI/ペプチド複合体の発現レベルはこの段階ではCTL活性化に必要とされるレベルにまで達することができない。脱活性化DCもまた、十分なレベルのMHCクラスI/ペプチド複合体の保持にも関わらず、CD80/CD86およびIL−12をほとんど発現しないために、CTL活性化能力を有さない。CD40刺激の24時間後ないしピシバニール+CD40刺激の48時間後に達成されるM2DCのみが、MHCクラスI/ペプチド複合体をCTLに提示することができた。総合すると、M1DCおよびM2DCの主な役割は、それぞれヘルパーT細胞およびCTL(もしくはヘルパーT細胞)を活性化することである可能性がある。
第2に、「未成熟DCは単独でCTL寛容化を誘導することができるのか?」である。本発明者は、脱活性化DCが未成熟DCと機能的にほぼ同一である寛容誘発DCの候補となり得ることを表現型的および機能的に同定した。未成熟DCは寛容を生じる効果を発揮し得ると信じられている(Hawiger,D.et al.J.Exp.Med.194,769−779(2001);Hugues,S.et al.Immunity 16,169−181(2002);Jonuleit,H.et al.J.Exp.Med.192,1213−1222(2001);Liu,K.et al.J.Exp.Med.196,1091−1097(2002))。しかしながら、Albertら(Albert,M.L.et al.Nat.Immunol.,2,1010−1017(2001))は、CD8T細胞の交差寛容化の誘導にDC成熟が必要であることを実証した。さらに、DCのCD40刺激は、交差寛容化ではなく交差活性化の結果を決定づけた。本発明者のモデルは、おそらくこれらの研究を説明する。さらに、脱活性化DCは、免疫応答を減少させる能力(IL−10産生を含む)に帰因する様々な特徴を有している。従って、このサブセットは、抗原特異的免疫応答の調節に有用であり得る。
最後に、エンドトキシン寛容のメカニズムは何であるかについて説明する。エンドトキシン寛容(Greisman,S.E.et al.J.Exp.Med.124,983−1000(1966))(エンドトキシン(LPSを含む)への継続的な暴露によって誘導される)は、おそらく、CD40を介する刺激の非存在下で起こる急速な表現型の変化(M1DCから脱活性化DCへの)によって説明される。この概念は、脱活性化DCにおけるTLR4/MD2のより低レベルな発現(図2b)によって、部分的に支持される。さらに、いくつかの他の報告(Wysocka,M.et al.J.Immunol.166,7504−7513(2001);Alves−Rosa,F.et al.Clin.Exp.Immunol.128,221−228(2002))(IL−12産生が実験的エンドトキシン寛容の間に抑制されること、およびIL−1βがエンドトキシン寛容に関係していること)で述べられている研究はまた、脱活性化DCのサイトカインプロフィールによっても説明される。同様に、大量壊死および重篤な感染(たとえば、エンドトキシンショック)においては、非常に多くのM1DCが存在するため、ヘルパーT細胞が全てのM1DCをM2DCへと分化させることはできない。これらは、結果的に、脱活性化DCの増加およびそれに対応する免疫不全の現象をもたらす。総じて、ここで定義されるDCサブセットは、免疫応答の調節に深く関係していると結論づけられる。
【実施例2】
(I)骨髄性DCの調製
DCは前述のようにマウスの骨髄より調製した(Inaba,K.et al J.Exp.Med.176,1693−1702(1992))。簡単には、C57BL/6J、BALB/cCrもしくはB6C3F1マウス(SLC)の骨髄細胞から、特異的な抗体および補体を用いてT細胞、B細胞および顆粒球を除いた後に、10%FCS、4ng/ml組み換えマウス顆粒球/マクロファージコロニー刺激因子(rmGM−CSF)(Kirin Brewery Co.Ltdにより提供された)および50μM β−メルカプトエタノールを補ったRPMI1640(Nacalai Tesque)中で、24ウェル培養プレートにて6日間培養した。培養培地は、2日に1回新鮮な培地と交換した。DCの成熟は、5μg/ml 抗−CD40 mAb(NM40−3)、1μg/ml LPS(E.coli由来)(Nacalai Tesque)、1μg/mlペプチドグリカンIII型(S.aureus由来)(Wako)、0.1μMホスホチオエート保護化CpG ODN(5’−TCCATGACGTTCTTGATGTT−3’(配列番号1)、Hokkaido System Science)もしくは凍結および解凍された1×10COS−7細胞(壊死細胞として)からの派生物を、各々の培養ウェルへ添加することによって誘導された。
(II)フローサイトメトリー
DCを抗−FcγRII/III mAb(2.4G2)で処理し、次いでフルオレセイン(FITC)結合型の抗−CD11c、フィコエリトリン(PE)結合型の抗DC86もしくはI−A、およびビオチン結合型のハムスター抗−IgG、I−K(BD Phar Mingen)またはTLR4/MD2(eBioscience)を用いて染色し、ストレプトアビジン−PEを行った。染色された細胞は、FACScanを用いて得た(Becton Dickinson Immunocytometory System)。
結果を図2bに示す。
(III)食作用アッセイ
FITC標識された2μm樹脂マイクロビーズ(5×10)(Sigma)を、FACSVantage(Becton Dickinson Immunocytometory System)を用いて分類された未成熟DC、M2DCもしくは脱活性化DC(1×10)と共に、共培養した。8時間インキュベーションした後、各々のDCをFACS分析にかけた。
(IV)RNaseプロテクションアッセイ(RPA)
製造業者のプロトコルに従ってRNA単離キット(Roche Diagnostics)を使用し、各DCサブセットから細胞の全RNAを単離した。mCK−2bプローブセットと共にRiboQuant kits(BD PharMingen)を使用して、サイトカインmRNAのレベルをRPAによって検出した。簡単には、FACSVantageによって分類された各DCサブセットの全RNA(2μg)を、56℃にて16時間、[α−32P]UTP標識化アンチセンスリボプローブにハイブリダイゼーションさせた。RNase Aおよびプロテイナーゼ Kによって消化した後、保護されたRNAフラグメントを変性シークエンスゲル上で分離し、オートラジオグラフィーを行った。
(V)RT−PCR
全RNA(0.5μg)をcDNA合成に用いた。逆転写(RT)は、業者のプロトコルに従って、SuperScriptTMII RTaseおよびoligo−(dT)12−18プライマー(Invitrogen)を用いて行われた。総量20μlのRT反応混合液のうち1μlを、各リアルタイムPCR反応のためのテンプレートとして使用した。プライマーおよびハイブリダイゼーションプローブは、Primer 3 software(http://www−genome.wi.mit.edu/cgi−bin/primer/primer3_www.cgi)を使用して設計し、合成した(Hokkaido System Science)。このプローブを、5’末端でレポーター色素、また3’末端でクエンチング剤を結合させるように改変した。そのオリゴヌクレオチドの配列は、mβ−アクチン(順方向:5’−ggccaggtcatcactattgg−3’(配列番号2)、逆方向:5’−atgccacaggattccatacc−3’(配列番号3)、プローブ:5’Fam−tcagggcatcggaaccgctc−Tamra3’(配列番号4))、mIL−6(順方向:5’−cttcacaagtcggaggcttaa−3’(配列番号5)、逆方向:5’−cagaattgccattgcacaac−3’(配列番号6)、プローブ:5’Fam−tcatttccacgatttcccagagaaca−Tamra3’(配列番号7))、mIL−10(順方向:5’−cctgggtgagaagctgaaga−3’(配列番号8)、逆方向:5’−gctccactgccttgctctta−3’(配列番号9)、プローブ:5’Fam−aatcgatgacagcgcctcagcc−Tamra3’(配列番号10))およびTNFα(順方向:5’−ccagaccctcacactcagatc−3’(配列番号11)、逆方向:5’−cacttggtggtttgctacga−3’(配列番号12)、プローブ:5’Fam−aattcgagtgacaagcctgtagcccac−Tamra3’(配列番号13))、である。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、LightCycler(登録商標)(Roche Diagnostics)を使用して前述された(Stordeur,P.et al.J.Immunol.Method.259 55−64(2002))ように行った。簡単には、FastStart DNA Master Hybridysation Probes(2μl)(Roche Diagnostics)、1μlのハイブリダイゼーションプローブ(4pmol/μl)および適切な濃度の順方向プライマーおよび逆方向プライマーを用いて、最終体積20μlの反応混合液になるようにした。最初の変性工程(95℃にて10分間)の後、温度サイクル(95℃にて0秒、60℃にて20秒)を開始した。計45サイクル行った。各サイクルの終わりに、F1/F2を用いてフルオレセインを読み取った。全ての増幅を3回行って、標準曲線からの計算値によって定量した。全ての結果は、β−アクチンに対して標準化した。
(VI)T細胞増殖アッセイ
RAG−1欠損(Corbela,P.et al.Immunity 1,269−276(1994))を有するD制限(restricted)NP366−374特異的TCRトランスジェニックマウス(F5)に由来する未反応T細胞を、ナイロンウールカラムを用いて精製した。T細胞(2×10/ウェル)を、各DCサブセット(5×10/ウェル)と共に3日間培養した。その応答をH−チミジンの取り込みによって測定した。脱活性化DCのアナジー誘導能力をみるために、K制限(restricted)OVA257−264特異的T細胞クローン(1×10/ウェル)(4G3;Sykulev,Y.et al.Proc Natl.Acad.Sci.USA 91,11487−11491(1994))を、脱活性化DC(1×10/ウェル)と共に、10μl OVA257−264の存在下で、24ウェルプレート中で2日間培養した。次いで、4G3細胞(1×10/ウェル)を洗浄し、滴定された(tittated)濃度のOVA57−264ペプチドと共にマイトマイシンCで処理した脾臓細胞(2×10/ウェル)(抗原提示細胞として)と共に培養した。これらの応答は、H−チミジンの取り込みによって測定した。
(VII)生体内におけるDC成熟アッセイ
OD11.10マウス(Murphy,K.A.et al.Science 250,1720−1723(1990))の4本の足全てに、1×10CFDA−SE(Molecular probes)標識されかつLPS刺激されたDC(OVA257−264ペプチド(Hokkaido System Science)を適用した、またはこれを適用していない)を皮下注射した。注射の2日後、リンパ節および脾臓を、分解能の低いコラゲナーゼを用いて37℃で30分間消化した。次いで、CFSE陽性細胞を抗−CD86抗体で染色し、前述のように解析した。
【実施例3】
1.樹状細胞の表現型の変化は、IL−10に強く依存しており、拮抗作用を持つ刺激性抗CD40抗体とは作用時期が異なっていた。
マウスの未成熟樹状細胞を、LPSで刺激して時間経過にともなう副刺激分子CD86の発現変化を解析した。樹状細胞上のCD86分子はLPS刺激により一時的に発現量が増加するが、その後徐々に低下に転じる(図6上段)。この際、反応の最初からIL−10の働きをブロックする抗IL−10受容体抗体を加えると、30時間後でも成熟樹状細胞が多く残るようになる(図6中段)。このIL−10の効果が、一時的に活性化する前に作用するのか、一時的活性化後に起こるのかを確かめるため、LPS刺激後8時間で培養液を交換してから抗IL−10受容体抗体(aIL−10)を加えた。その結果、一時的活性化後にIL−10の作用をブロックしても脱成熟化を防ぐには至らなかった(図6下段)。従って、IL−10は樹状細胞が刺激を受けて一時的に活性化するまでの初期段階で作用することが判明した。また抗CD40抗体は、一時的活性化以降に作用しても効果があることが判明した(図1下段)。この結果から、IL−10やCD40を介する刺激を時間的および量的に調節する事で樹状細胞を免疫活性化の表現型に誘導するか、免疫抑制性の表現型に誘導するかの制御がより確実に行えるようになった
2.樹状細胞の機能誘導法によるサイトカイン産生の再評価
樹状細胞を活性型または脱活性型に機能誘導する際、LPSまたはCpGに抗CD40抗体(aCD40)または抗IL−10抗体を入れて、あるいはその両方を入れて誘導した場合、サイトカイン産生にどのような違いが出るかを明らかにした。活性型はCD86が高発現のものをフローサイトメーターで分離し、脱活性型はCD86が低発現のものを同じように分離して培養した。結果、活性型樹状細胞(M2DC)では抗CD40抗体(aCD40)と抗IL−10抗体(aIL−10)どちらも加えた群はIL−12p40の産生が強く、抑制性サイトカインであるIL−10産生が弱い事から、CpG+抗CD40抗体+抗IL−10抗体の組み合わせがIL−12分泌に最も効果的であった。一時的活性型(M1DC)と活性型(M2DC)の違いは、M1がIL−10とIL−12の両方を産生するのに対し、M2はIL−12のみ産生し、IL−10は有意な測定値以下であった。一方脱活性型DCの場合はIL−12の分泌はみられずIL−10を少量産生するにとどまった(図7)。
3.活性型(M2DC)または抑制型(Expired DC)樹状細胞の生体内での機能
実験プロトコール:C57BL/6(B6)マウスの四肢に卵白アルブミン(OVA)蛋白抗原を取り込ませた活性型または抑制型樹状細胞を皮下投与する。一週間後にOVA蛋白抗原を取り込ませてLPSで6時間刺激した樹状細胞をさらに四肢に皮下投与する。さらに一週間後、別のB6マウスの脾細胞を異なる蛍光強度で標識し、蛍光強度の強い細胞にOVAペプチド(アミノ酸配列:SIINFEKL)10μMをパルスし、蛍光強度の弱い細胞にはOVA蛋白とは無関係のNPペプチド(アミノ酸配列:ASNENMDAM)をパルスし、これらを1:1で混合して細胞1x10個ずつを樹状細胞で免疫したマウスすべてに静脈内投与する。約10時間後に免疫したマウスの脾臓を取り出し、蛍光標識した細胞をフローサイトメーターで解析する。
樹状細胞誘導プロトコールの変更点:
1の結果を踏まえ、活性型樹状細胞は、未成熟樹状細胞をLPS(1μg/ml)と抗CD40抗体(10μg/ml)および抗IL−10抗体(10μg/ml)を含有する培養液で30時間培養し、フローサイトメーターでCD86高発現の分画を精製したものを使用した。抑制型樹状細胞は、従来通りLPS(1μg/ml)またはCpG ODN(0.1μM)を含有する培養液で30時間培養し、フローサイトメーターでCD86低発現の分画を精製し、使用した。
成績:樹状細胞はOVA蛋白を取り込んでいるので、マウスはOVA抗原で免疫されたことになり、免疫が誘導されていれば蛍光強度の強い細胞集団は排除されることになる。まず、実験システムが動いているかを未処置マウスと、蛋白を取り込ませなかった活性型樹状細胞で確かめたところ、どちらも細胞の排除はみられなかった(図8上段)。結果的に1回だけ免疫したことになるPBS群は、約30%の抗原特異的排除がみられた(図8下段左)が、活性型樹状細胞を先に免疫しておくと約70%へと効果が促進された(図8下段右)。一方、先に抑制型樹状細胞を免疫した群では、抗原特異的排除が抑制された(図8下段中)。以上の結果から、活性型および抑制型樹状細胞の生体応用への効果が実証された。
4.未成熟樹状細胞と脱活性型樹状細胞の違いについて。
骨髄樹状細胞をCD11cマグネットビーズで精製し、刺激前のもの(未成熟樹状細胞)とLPSで48時間刺激したもの(脱活性化樹状細胞)のCD40の発現を、HM40−3抗体による染色で評価した。フローサイトメーターによる解析(図10)の結果、未成熟樹状細胞もCD40分子を発現しているものの、脱活性化樹状細胞は蛍光強度にして10〜20倍のCD40分子を発現していた。
実施例4:ヒト活性化樹状細胞誘導
1.誘導法
・ 癌患者末梢血より濃度勾配遠心分離法にて単核球を分離する。
・ 2x10個の単核球を10mlの5%ヒトAB血清含培養液に浮遊させた後、100−mmプラスチックプレート中で2時間静置する。
・ 浮遊細胞を除き、10mlの5%ヒトAB血清含培養液を加えプラスチックプレート付着細胞を5ng/ml GM−CSFと100ng/ml IL−4存在下に7日間培養する。
・ 培養液を除き、新たにOK432(0.1KE/ml),抗CD40抗体(2.5microgram/ml)あるいは抗IL−10抗体(10microgram/ml)を含む培養液を加え48時間培養する。
・ 培養終了後細胞を回収し、フローサイトメトリーにより誘導樹状細胞表面マーカーを検討する。
図10の上段より、無添加(未成熟DC)、OK432のみ(脱活性化DC)、OK432/抗CD40抗体(M2DCタイプ1)、OK432/抗IL−10抗体(M2DCタイプ1)、OK432/抗CD40抗体/抗IL−10抗体(M2DCタイプ1)添加による誘導樹状細胞。
2.結果
無添加誘導細胞(未成熟DC)と比較して、OK432添加によりヒトの活性化DCにおいてCD80,83,86およびclass IIすべての発現増加が認められた。さらに抗CD40抗体を添加することにより、CD80と83発現が著明に増加した(MFIで約100倍)。この発現増加は抗IL−10抗体では認められなかった。
OK432+抗CD40抗体の刺激がその他のどの刺激よりも強くCD80の発現を増強させており、臨床応用を考えた場合、重要であると考えられる。
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【配列表】




【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(E1)〜(E3)の特徴を有する脱活性化した(expired)樹状細胞:
(E1)自然免疫刺激剤及び永続的免疫活性化剤の作用により成熟型に移行しない;
(E2)未成熟DCと同様の形状を有する;および
(E3)IL−10を発現する。
【請求項2】
前記樹状細胞がヒトの樹状細胞である請求項1に記載の脱活性化した樹状細胞。
【請求項3】
下記の特徴を有する請求項2に記載のヒトの脱活性化した樹状細胞:
(E1’)LPS及び抗CD40モノクローナル抗体の作用により成熟型に移行しない;
(E2)未成熟樹状細胞と同様の形状を有する;および
(E3)IL−10を発現する。
【請求項4】
さらに下記の特徴を有する請求項3に記載のヒトの脱活性化した樹状細胞:
(E4)CD80の発現量が未成熟DCと同等程度である;及び/又は
(E5)CD83の発現量が未成熟DCと同等程度である。
【請求項5】
さらに下記の特徴の少なくとも1つを有する請求項4に記載のヒトの脱活性化した樹状細胞:
(E6)マイクロビーズに対する食作用活性が未成熟樹状細胞と同程度である;
(E7)MHCクラスIを高発現する;
(E8)抗原ペプチドの存在下で未反応T細胞を活性化しない;および
(E9)未成熟DCよりも低いTLR4/MD2発現を示す。
【請求項6】
下記の特徴を有する永続的に活性化された樹状細胞:
(M2−1)突き出た樹状突起を有し、凝集クラスターを形成する;
(M2−2)未反応の細胞傷害性T細胞(CTL)を活性化する能力を有する;
(M2−3)抗CD40モノクローナル抗体の作用に対しその性質が安定している;および
(M2−4)CD80,CD83及びCD86からなる群から選択される少なくとも1種の発現量が高い。
【請求項7】
前記樹状細胞がヒト由来の細胞であって、下記の特徴を有する請求項6に記載の永続的に活性化された樹状細胞:
(M2−1)突き出た樹状突起を有し、凝集クラスターを形成する;
(M2−2)未反応の細胞傷害性T細胞(CTL)を活性化する能力を有する;
(M2−3)抗CD40モノクローナル抗体の作用に対しその性質が安定している;および
(M2−4’)CD80及びCD83の発現量が高い。
【請求項8】
さらに下記の特徴の少なくとも1つを有する請求項7に記載のヒトの永続的に活性化された樹状細胞:
(M2−5)FcγRの発現量が低い(FcγRlow);
(M2−6)MHC−Iの発現量が高い(MHC−Ihigh);
(M2−7)MHC−IIの発現量が高い(MHC−IIhigh);及び
(M2−8)IL−12p40の発現量が高い。
【請求項9】
未成熟樹状細胞を自然免疫刺激剤で活性化して一時的に活性化された成熟樹状細胞(M1DC)に導く工程、該M1DCを永続的活性化剤の非存在下で培養する工程を含む脱活性化された樹状細胞(expired DC)の調製方法。
【請求項10】
未成熟樹状細胞を永続的活性化剤とともに処理する工程を含む、永続的に活性化された成熟樹状細胞(M2DC)の調製方法。
【請求項11】
未成熟樹状細胞を自然免疫刺激剤で活性化して一時的に活性化された成熟樹状細胞(M1DC)に導く工程、該M1DCを永続的活性化剤の存在下で培養する工程を含む永続的に活性化された成熟樹状細胞(M2DC)の調製方法。
【請求項12】
未成熟樹状細胞を自然免疫刺激剤で処理することを特徴とする一時的に活性化された成熟樹状細胞(M1DC)の調製方法。
【請求項13】
請求項7または8に記載のヒトの永続活性化成熟樹状細胞(M2DC)或いは、請求項10又は11に記載の方法により調製されたヒトM2DCを有効成分とする、抗ガン剤
【請求項14】
請求項7または8に記載のヒトの永続活性化成熟樹状細胞(M2DC)或いは、請求項10又は11に記載の方法により調製されたM2DCを有効成分とする、抗病原体剤。
【請求項15】
請求項1〜5に記載の脱活性化樹状細胞または請求項9に記載の方法により得られた脱活性化樹状細胞を有効成分とする免疫抑制剤。
【請求項16】
請求項7または8に記載のヒトの永続活性化成熟樹状細胞(M2DC)或いは、請求項10又は11に記載の方法により調製されたヒトM2Dをヒトガン患者に投与することを特徴とするガンの治療方法。
【請求項17】
ヒト移植ドナー由来の請求項2〜5に記載のヒト脱活性化樹状細胞または請求項9に記載の方法により得られたヒト脱活性化樹状細胞をヒトのレシピエントに導入し、次いで、ヒト移植ドナーの臓器ないし器官をヒトのレシピエントに導入することを包含する拒絶反応を抑制した移植方法。
【請求項18】
前記臓器ないし器官が骨髄細胞である請求項17に記載の方法。

【国際公開番号】WO2004/063363
【国際公開日】平成16年7月29日(2004.7.29)
【発行日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−508022(P2005−508022)
【国際出願番号】PCT/JP2004/000332
【国際出願日】平成16年1月16日(2004.1.16)
【出願人】(899000046)関西ティー・エル・オー株式会社 (75)
【Fターム(参考)】