説明

樹状細胞機能変換剤および変換方法

【課題】アトピー性皮膚炎の治療や予防に有効な免疫調節剤及びそれを用いた免疫調節方法の提供。
【解決手段】BCGを有効成分として含有する、Th2誘導性樹状細胞のTh1誘導性樹状細胞への機能変換剤;BCGを有効成分として含有する、胸腺間質リンパ球増殖因子(TSLP)が関与する疾患の治療又は予防薬;ケラチノサイトからTSLPを産生する哺乳動物由来の血液試料を分画し、樹状細胞画分を得る工程、前記樹状細胞画分を試験管内でBCGとともにインキュベートする工程、及び前記インキュベート後の樹状細胞画分中の樹状細胞の機能を調べ、インキュベート前後で当該樹状細胞がTh2誘導性樹状細胞優位からTh1誘導性樹状細胞優位に機能変換したことを確認する工程を含む、Th2誘導性樹状細胞のTh1誘導性樹状細胞への機能変換方法;前記確認工程の後に、確認後の樹状細胞を採取した哺乳動物に投与する工程をさらに含む、前記機能変換方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹状細胞の機能変換を介してアレルギーを制御する分野に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アレルギー反応は、B細胞からのIgE産生を促進するヘルパー2型T細胞(Th2細胞または単にTh2と略す場合がある)により惹起されることが知られている。そして、このアレルギー反応のカスケードの上流において樹状細胞が重要な機能を発揮することが明らかにされつつある。
【0003】
樹状細胞(Dendritic Cells:DC)は、分化経路の面からミエロイド系DCとリンパ球系DCに大別される。前者はミエロイド系のマーカーを発現しその分化成熟にGM−CSFが必須である。ミエロイド系DCにはランゲルハンス細胞(LC)、真皮DC、内皮系組織間質DC、輸入リンパ管のベール細胞、末梢血CD11cDCが含まれ、in vitroで調製される単球由来DCもこれに属する。ミエロイド系DCは、未熟な成熟段階では旺盛な食作用機能を発揮する。一方、後者はCD11cCD4の表現型を示し、形質細胞様の形態をもつ血液中のDC前駆細胞(plasmacytoid DC precursor:pDC)やリンパ組織に分布するCD11cCD4 plasmacytoid cell (PC)として同定され、IL−3存在下で成熟する。また、pDCはウィルス感染によって多量の1型インターフェロン(IFN−α/β)を産生する特性を有し、いわゆるnatural IFN-producing cell(IPC)としても認知されている。これらの細胞は、ミエロイド系のマーカーを発現せず食作用機能をもたないこと、リンパ球特異的な分子の発現や遺伝子の再構成が認められることから、リンパ球系DCと呼称される。このようにDCシステムは異なる分化経路・属性(lineage heterogeneity)を示す複数のDCサブセットから構成されており、T細胞応答の多様性を生み出す要因の一つと考えられる。
【0004】
最近、アトピー性皮膚炎の病態に胸腺間質リンパ球増殖因子(thymic stromal lymphopoetin ;以下、TSLPと省略する場合がある)がヒトCD11cDCを介して重要な役割を果たしていることが示され、注目されている(非特許文献1)。TSLPはIL−2ファミリーに属し、マウスではB細胞分化因子として機能するがヒトにおいてはCD11cDC特異的に作用する。TSLPで刺激したヒトCD11cDC(TSLP−DC)をナイーブCD4T細胞と共培養すると、T細胞の活発な増殖が促され、T細胞からIL−4、IL−5、IL−13などのTh2サイトカインとTNF−αの産生が誘導される。一方、アトピー性皮膚炎の病変皮膚組織では表皮のケラチノサイトがTSLPを高発現していることから、皮膚表皮に異常発現するTSLPがアトピー性皮膚炎におけるアレルギー反応のトリガーとして機能すると考えられる。すなわち、TSLPによって活性化されたCD11cDCがTh2細胞を誘導することによりアトピー性皮膚炎の病態が形成されるものと認識される。したがって、TSLPがアトピー性皮膚炎の治療のターゲットになりうることが予想される。
【0005】
このようなIgE産生を促進するTh2優位なアレルギー状態を、自然免疫系を活性化するCpGオリゴヌクレオチド(ODN)の作用を利用して細胞性免疫を促進するヘルパー1型T細胞(Th1細胞または単にTh1と略す場合がある)優位に変換する報告(非特許文献2〜4)や医薬品開発の現状がある。しかしながら、CpG ODNによるTh1増強作用はマウスでは顕著であるが、ヒトでは顕著ではない。その理由として考えられるメカニズムは、CpG ODNの標的であるToll様受容体(TLR−9)が、マウスではプロフェッショナルな抗原提示細胞であるDCに発現しているが、ヒト末梢血DCでは一部にしか発現していないことである。マウスではDCに発現するTLR−9を介してCpG ODNはIL−12を誘導し、Th1分化増殖を促すことができるが、ヒトではTLR−9を発現する一部のDC(CD11cDC)に対してCpG ODNはIL−12産生を誘導しない(1型インターフェロンを産生するだけ)ので、Th1分化増殖が著明に促進されないことになる。
【0006】
一方、ヒトDCを刺激してIL−12等のサイトカインを産生しTh1応答を誘導するアジュバント候補のひとつにマイコバクテリウム ボビス(ウシ型結核菌)のカルメットーゲラン菌(BCG)株がある。BCGをヒトミエロイド系未熟DC(末梢血単球からサイトカインにより分化誘導したDC)に感染させると、DCは成熟活性化し、TNF−α、IL−1βおよびIL−12などの炎症性サイトカインの分泌と、CD40、CD80およびMHCクラスI分子のアップレギュレーションを促進することが明らかにされている(非特許文献5〜9)。BCGにより成熟活性化したDCは、Th1応答を誘導することが知られている(非特許文献6)。最近、このようなBCGによるDCの成熟活性化は、pathogen associated molecular patterns(PAMPs)と呼ばれる一群の微生物に共通の分子構造を認識するToll様受容体(TLR)のうちTLR−2とTLR−4を介して起こることが明らかにされた(非特許文献7、10)。実際、マウスの気管支喘息モデルでは、BCGの接種がTh2応答を減弱させることが示されている(非特許文献11)。そしてBCG投与によりIL−12を産生する成熟DCが肺に集積すること、およびこのIL−12産生性のDCはナイーブCD4T細胞をインターフェロン-γ産生性のTh1細胞に分化させることが明らかにされた(非特許文献12)。
【0007】
特許文献1には、BCGの細胞壁骨格(CWS)を用いる未成熟樹状細胞の成熟化方法が開示されている。上記BCGの作用は、未成熟樹状細胞の成熟化によりもたらされたものと理解される。特許文献2には、移植片拒絶反応、移植片対宿主病、自己免疫疾患、アレルギー性疾患、関節リウマチ又は多発性硬化症の治療に用いるヒト免疫制御性樹状細胞を含む医薬組成物が開示されているが、未成熟細胞を様々なサイトカインおよびリポポリサッカリド(LPS)とともに培養して得られた樹状細胞を用いることを特徴とするものである。
【特許文献1】国際公開第01/48154号パンフレット
【特許文献2】特開2004−298181号公報
【非特許文献1】Soumelis V et al. Nat Immunol 3: 605, 2002
【非特許文献2】Shirota H et al. J Respir Cell Mol Biol 22: 176, 2000
【非特許文献3】Shirota H et al. J Immunol 164: 5575, 2000
【非特許文献4】Sano K et al. J Immunol 170: 2367, 2003
【非特許文献5】Shanker G et al. J Transl Med 1: 7, 2003
【非特許文献6】Cheadle EJ et al. Immunology 108: 79, 2003
【非特許文献7】Tsuji S et al. Infection and Immunity 68: 6883, 2000
【非特許文献8】Kim KD et al. Immunology 97: 626, 1999
【非特許文献9】Thurnher M et al. Int J Cancer 70: 128, 1997
【非特許文献10】Uehori J et al. Infection and Immunity 71: 4238, 2003
【非特許文献11】Nahori MA et al. Vaccine 19: 1484, 2001
【非特許文献12】Lagranderie M et al. Immunology 108: 352, 2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、アトピー性皮膚炎の治療や予防に有効な免疫調節剤およびそれを用いた免疫調節方法の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記問題点に鑑み、鋭意検討した結果、BCGの新たな作用および樹状細胞の制御方法を見出し、本発明を完成するに至った。即ち、本願発明は、以下に示す通りである。
【0010】
〔1〕 マイコバクテリウム ボビスのカルメット−ゲラン菌(以下、BCGと略す場合がある)を有効成分として含有する、Th2誘導性樹状細胞のTh1誘導性樹状細胞への機能変換剤(以下、単に機能変換剤と略す場合がある)。
〔2〕 前記Th1誘導性樹状細胞におけるOX40リガンドの発現が、前記Th2誘導性樹状細胞における発現に比べて抑制されている、前記〔1〕に記載の機能変換剤。
〔3〕 BCGを有効成分として含有する、胸腺間質リンパ球増殖因子(以下、TSLPと略す場合がある)が関与する疾患の治療または予防薬。
〔4〕 前記疾患がアトピー性皮膚炎である前記〔3〕に記載の治療または予防薬。
〔5〕 下記工程:
ケラチノサイトからTSLPを産生する哺乳動物由来の血液試料を分画し、樹状細胞画分を得る工程、
前記樹状細胞画分を試験管内でBCGとともにインキュベートする工程、および
前記インキュベート後の樹状細胞画分中の樹状細胞の機能を調べ、インキュベート前後で当該樹状細胞がTh2誘導性樹状細胞優位からTh1誘導性樹状細胞優位に機能変換したことを確認する工程
を含む、Th2誘導性樹状細胞のTh1誘導性樹状細胞への機能変換方法。
〔6〕 前記確認工程が、インキュベート前後の樹状細胞におけるOX40リガンドの発現量を比較することにより行われる、前記〔5〕に記載の機能変換方法。
〔7〕 前記確認工程の後に、確認後の樹状細胞を、採取した哺乳動物に投与する工程をさらに含む、前記〔5〕または〔6〕に記載の機能変換方法。
〔8〕 BCGの有効量を、ケラチノサイトからTSLPを産生する哺乳動物に投与することを含む、TSLPが関与する疾患の治療または予防方法。
〔9〕 前記疾患の治療または予防が、樹状細胞におけるOX40リガンドのダウンレギュレーションを介して行われる、前記〔8〕に記載の治療または予防方法。
〔10〕 前記疾患がアトピー性皮膚炎である前記〔8〕または〔9〕に記載の治療または予防方法。
〔11〕 前記〔3〕または〔4〕に記載の治療または予防薬、および当該治療または予防薬をアトピー性皮膚炎の治療もしくは予防に使用することができることまたは使用すべきであることを記載した当該治療または予防薬に関する記載物を含む商業パッケージ。
【発明の効果】
【0011】
本発明のBCGを含有する機能変換剤は、
1)BCGは、TSLPによるミエロイド系樹状細胞からTh2誘導性の成熟樹状細胞への誘導を阻害することにより、CD4ナイーブT細胞をTh1優位に誘導可能であること、
2)BCGは、TSLPによりミエロイド系樹状細胞からTh2誘導性の成熟樹状細胞が誘導された場合であっても、当該成熟樹状細胞をTh1誘導性樹状細胞に機能変換可能であること、ならびに
3)BCGは、好ましくは成熟樹状細胞におけるOX40リガンドの発現を抑制可能であること
が解明されたことにより、一旦Th2優位に傾いた樹状細胞の機能を有効にTh1優位に変換することができる。
本発明のTSLPが関与する疾患の治療または予防薬によると、BCGを含有することから、安全かつ有効に当該疾患、特にアトピー性皮膚炎を治療または予防することができる。本発明の機能変換方法によると、生体外で樹状細胞画分をBCGで処理することにより、安全かつ有効に、Th2優位に傾いた樹状細胞の機能をTh1優位に変換することができる。また、本発明のTSLPが関与する疾患の治療または予防方法によると、BCGの有効量を投与することにより、安全かつ有効に当該疾患、特にアトピー性皮膚炎を治療または予防することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の機能変換剤の有効成分であるマイコバクテリウム ボビスのカルメット−ゲラン菌株(BCG)は、弱毒菌であり、長年結核ワクチンとして用いられてきたものである。本発明においては、BCGおよびその継代培養株であれば特に限定されるものではないが、日本株(Tokyo 172 strain)が好適に用いられる。BCGは生菌であっても死菌であってもよい。また、BCGの菌体の一部(例えば細胞壁骨格(CWS)、細胞壁(CW)等)も、本発明の範囲に包含される。BCGのCWSは、公知文献(Cancer Res., 33, 2187-2195(1973); J. Natl. Cancer Inst., 48, 831-835(1972); J. Bacteriol., 94, 1736-1745(1967); Gann, 69, 619-626(1978); J. Bacteriol., 92, 869-879(1966); J. Natl. Cancer Inst., 52, 95-101(1974)等)に基づき、単離または製造することが可能である。
【0013】
前記BCGの力価は、樹状細胞の機能変換に必要かつ十分な力価であれば特に限定されるものではない。BCG菌体を用いて機能変換する場合、樹状細胞1個当たり、0.1〜20MOI、好ましくは1〜10MOIとなるように機能変換剤と樹状細胞とを接触させる。ここで、MOIとは感染多重度を意味し、1MOIは、1個の細胞に対して1個のウイルス粒子を感染させることである。このように通常MOIは感染ウイルス粒子に対して用いられる用語であるが、本発明においても1樹状細胞あたりの接触BCG菌体数を調節して投与するため、便宜上MOIを用いる。BCG菌体は、前記MOIを目安にして、機能変換剤に配合される。
【0014】
本発明の機能変換剤におけるBCGの含有量は、所望の機能変換効果を奏することができる範囲で適宜設定することができるが、通常、0.0001〜100重量%である。
【0015】
前記BCGは、樹状細胞、特にTh2誘導性樹状細胞におけるOX40リガンドの発現を抑制する作用を有する。OX40リガンド(OX40L)は、CD143とも呼ばれ、樹状細胞表面に発現し、OX40−OX40リガンド系で免疫反応に重要な機能を有する因子である。ヒトOX40リガンドのアミノ酸配列および塩基配列は、GenBank Accession No. NM_003326に開示されている。
【0016】
本発明の機能変換剤における機能変換の成否は、機能変換処理後の樹状細胞をアロCD4ナイーブT細胞とインキュベートし、当該T細胞からのインターフェロンγ等のTh1サイトカインの誘導を調べることにより確認することができる。あるいは、機能変換前後の樹状細胞におけるOX40リガントの発現量を調べ、変換後の発現量が変換前の発現量に比べて有意に減少しているか否かにより確認することができる。本発明の機能変換剤を用いた機能変換方法およびその確認方法は、後述する。
【0017】
本発明の機能変換剤は、BCGの有効量に加え、任意の担体を含むことができる。
【0018】
任意の担体としては、例えば、安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メチルパラベン、プロピルパラベン等の保存剤;メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ステアリン酸アルミニウム等の懸濁剤;界面活性剤等の分散剤;水、生理食塩水、緩衝液等の希釈剤などが挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0019】
本発明のTSLPが関与する疾患の治療または予防薬は、前記BCGを有効成分として含有するものである。
【0020】
本発明においてTSLPとは、IL−2ファミリーに属し、ヒトにおいてはCD11cDC特異的に作用する因子である。TSLPで刺激したヒトCD11cDC(TSLP−DC)をナイーブCD4T細胞と共培養すると、T細胞の活発な増殖が促され、T細胞からIL−4、IL−5、IL−13などのTh2サイトカインとTNF−αの産生が誘導される。アトピー性皮膚炎の病変皮膚組織では表皮のケラチノサイトがTSLPを高発現していることから、皮膚表皮に異常発現するTSLPがアトピー性皮膚炎におけるアレルギー反応のトリガーとして機能すると考えられる。すなわち、TSLPによって活性化されたCD11cDCがTh2細胞を誘導することによりアトピー性皮膚炎の病態が形成されるものと認識される。ヒトTSLPのアミノ酸配列および塩基配列は、GenBank Accession No. NM_138551に開示されている。
【0021】
本発明においてTSLPが関与する疾患とは、ケラチノサイトから産生されたTSLPによって活性化されたCD11cDCがTh2細胞を誘導することにより引き起こされるあらゆる疾患をいい、具体的には、アトピー性皮膚炎などがあげられる。
【0022】
本発明の治療または予防薬の有効成分であるBCGは、前記機能変換剤において記載した通りである。
【0023】
本発明の治療または予防薬は、BCGの有効量に加え、医薬上許容され得る担体を含むことができる。
【0024】
医薬上許容され得る担体としては、前記機能変換剤において記載したものと同様のものを用いることができる。また、投与剤型に応じて、下記のように適する担体を選択することができる。
【0025】
本発明の治療または予防薬は、所望の効果を奏するような投与剤型、好ましくは非経口的な投与剤型にすることが好ましい。非経口的な投与(例えば、皮内注射、皮下注射、経皮注射(管針法)、筋肉注射、局所注入、腹腔内投与)に好適な製剤としては、水性および非水性の等張な無菌の注射液剤があり、これにはアスコルビン酸、クエン酸、亜硫酸ナトリウム等の抗酸化剤;クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸、酢酸ナトリウム、リン酸、リン酸ナトリウム等の緩衝剤;塩化カリウム、塩化ナトリウム、グリセリン、ブドウ糖等の等張化剤等が含まれていてもよい。また、水性および非水性の無菌の懸濁液剤が挙げられ、これにはメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ステアリン酸アルミニウム等の懸濁剤;果糖、キサンタンガム、グリセリン等の増粘剤;安息香酸ナトリウム、メチルパラベン、プロピルパラベン等の防腐剤等が含まれていてもよい。当該製剤は、アンプルやバイアルのように単位投与量あるいは複数回投与量ずつ容器に封入することができる。また、有効成分および医薬上許容され得る担体を凍結乾燥し、使用直前に適当な無菌のビヒクルに溶解または懸濁すればよい状態で保存することもできる。
【0026】
本発明の治療または予防薬の有効成分としてBCGの生菌を用いる場合には、これを凍結乾燥させた生ワクチン製剤とすることもまた好ましい。生ワクチン製剤は、適切な分散溶媒(例えば蒸留水、生理食塩水等)を用いて分散され、管針法にて接種される。更に、有効成分として菌体の一部(例えば細胞壁骨格、細胞壁)を用いる場合には、エマルション製剤(例えば水中油型(o/w)エマルション製剤等)の剤型をとることが好ましい。エマルション製剤の構成成分である油状物質としては鉱物油や動植物油等があげられる。エマルション製剤は必要に応じて界面活性剤、安定化剤、賦形剤等を含むことができる。また、エマルション製剤は凍結乾燥製剤の形とすることも可能である。その際、凍結乾燥製剤を分散するために使用される分散溶媒は、エマルション粒子の分散媒体となるものであり、蒸留水、生理食塩水等があげられるが、注射可能な分散溶媒であれば特に限定されない。
【0027】
本発明の治療または予防薬の適用量は、疾患の重篤度、適用対象となる動物種、適用対象の薬物受容性、体重、年齢等によって異なり一概に設定することはできないが、通常、成人1回あたり有効成分量として小児へのBCGワクチン接種1回量の1/3である。投与回数は、4ヶ月間隔で年3回を基本とする。
【0028】
適用対象となる動物は、ヒトおよびヒト以外の哺乳動物であり、ヒト以外の哺乳動物としてはサル、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ウサギ、イヌ、ネコ、マウス、ラット、ハムスターおよびモルモットなどがあげられる。
【0029】
本発明のTh2誘導性樹状細胞のTh1誘導性樹状細胞への機能変換方法は、下記工程を含むことを特徴とする:
ケラチノサイトからTSLPを産生する哺乳動物由来の血液試料を分画し、樹状細胞画分を得る工程、
前記樹状細胞画分を試験管内でBCGとともにインキュベートする工程、および
前記インキュベート後の樹状細胞画分中の樹状細胞の機能を調べ、インキュベート前後で当該樹状細胞がTh2誘導性樹状細胞優位からTh1誘導性樹状細胞優位に機能変換したことを確認する工程。
【0030】
(1)ケラチノサイトからTSLPを産生する哺乳動物由来の血液試料を分画し、樹状細胞画分を得る工程
前記哺乳動物としては、ヒト、サル、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ウサギ、イヌ、ネコ、マウス、ラット、ハムスターおよびモルモットなどがあげられるが、ヒトが好ましい。
【0031】
ケラチノサイトからTSLPを産生する哺乳動物とは、ケラチノサイトでTSLPを発現しているかまたはその可能性のある哺乳動物であって、好ましくはTSLPが関与する疾患に罹患しているか、過去に罹患していたか、あるいは罹患するリスクを持った動物をいう。
【0032】
ケラチノサイトからのTSLPの産生は、対象哺乳動物のケラチノサイトを採取し、当該細胞からmRNAを単離し、PCRによりTSLPの発現を調べる方法、抗TSLP抗体を用いた免疫学的手法により当該細胞におけるTSLPの存在を調べる方法などの公知の方法により確認することができる。
【0033】
前記哺乳動物由来の血液試料としては、通常末梢血を用いる。血液試料を分画する方法は、公知の方法により行うことができる。例えば、後述の実施例、材料と方法の(2)に準じて、比重遠心分離法により末梢血単核球を分離し、表面マーカーを認識する種々の標識抗体を用いてセルソーターにより分画する方法があげられる。
【0034】
前記分画により得られる樹状細胞画分は、ヒトの場合、CD11c樹状細胞を含む画分であることが必要である。
【0035】
(2)前記樹状細胞画分を試験管内でBCGとともにインキュベートする工程
インキュベーションは、樹状細胞の試験管内での培養に通常用いられる培地を用いて常法により行う。一具体例として、10%ウシ胎児血清を補足したRPMI1640培地中に、前記樹状細胞画分とBCGとを加え、約37℃で数時間〜7日間程度培養する。
【0036】
(3)前記インキュベート後の樹状細胞画分中の樹状細胞の機能を調べ、インキュベート前後で当該樹状細胞がTh2誘導性樹状細胞優位からTh1誘導性樹状細胞優位に機能変換したことを確認する工程
機能変換の確認方法は、前記インキュベート後の樹状細胞、すなわち、BCGで刺激後の樹状細胞を、例えば、アロCD4ナイーブT細胞と共培養し、培養後の当該T細胞からのサイトカイン産生を抗サイトカイン抗体を用いて調べる方法があげられる。対照としてBCGで刺激前の樹状細胞またはBCGなしでインキュベートした樹状細胞を、前記と同条件下でアロCD4ナイーブT細胞と共培養し、サイトカイン産生を調べる。BCGで刺激後の樹状細胞が刺激前または刺激なしの樹状細胞と比べて、T細胞からのTh1サイトカインを有意に産生させる場合、Th2誘導性樹状細胞優位からTh1誘導性樹状細胞優位に機能変換したと定義することができる。ここで、Th1サイトカインとしては、インターフェロン(IFN)γなどがあげられる。
【0037】
別の方法として、BCGで刺激後の樹状細胞におけるOX40リガンドの発現をPCR等により調べ、BCGで刺激前または刺激なしの樹状細胞と比べてOX40リガンドの発現量が低下している場合、Th2誘導性樹状細胞優位からTh1誘導性樹状細胞優位に機能変換したと定義することができる。
【0038】
前記確認工程は、解析が短時間で容易なことから、インキュベート前後の樹状細胞におけるOX40リガンドの発現量を比較することにより行われることが好ましい。
【0039】
本発明の機能転換方法は、いわゆるエクスビボ(ex vivo)による治療を目的とする場合、(4)前記確認工程の後に、確認後の樹状細胞を、採取した哺乳動物に投与する工程を含むことが好ましい。機能転換した樹状細胞を採取した哺乳動物に投与する方法としては、公知の方法により行うことができ、例えば、注射(皮下、皮内、静脈内等)による方法があげられる。
【0040】
本発明のTSLPが関与する疾患の治療または予防方法は、BCGの有効量を、ケラチノサイトからTSLPを産生する哺乳動物に投与することを特徴とする。
【0041】
前記哺乳動物は、ヒトおよびヒトを除く哺乳動物であり、ヒトを除く哺乳動物としては前記した通りである。前記疾患は、アトピー性皮膚炎であることが好ましい。
【0042】
本方法においては、BCGの有効量を投与することから、樹状細胞におけるOX40リガンドのダウンレギュレーションを介して前記疾患の治療または予防が行われることが好ましい。
【0043】
以下、実施例等により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例等によりなんら制限されるものではない。
【実施例】
【0044】
材料と方法
(1)試薬類、ELISAキットおよび抗体
次の物質は表示の通り入手した。
Lymphoprep(Nycomed Pharma AS;ノルウェー・オスロ)、
BCG(Mycobacterium Bacille Calmette-Guerin, strain:Tokyo 172)(CALBIOCHEM;カリフォルニア州サンディエゴ)、
RPMI medium 1640(Invitorogen Corporation;カリフォルニア州カールスバッド)、
FBS(ウシ胎児血清)(HyClone:ユタ州ロガン)、
Ionomycin、PMA(Phorbol 12-myristate 13-acetate)、BFA((+)-Brefeldin A)(Alexis Biochemicals Industriestrasse;スイス・ルーセン)、
FIX&PERM cell permeabilization reagents(CALTAG Laboratories;カリフォルニア州バーリンガム)、
Dynabeads M-450(Dynal;ノルウェー・オスロ)、
ヒトCD4 Microbeads(Miltenyi Biotec;ドイツ・グラドバッハ)
【0045】
次の抗体は表示の通り入手した。
抗CD3抗体(HIT3a)、抗CD14抗体、抗CD16抗体(3G8)、抗CD19抗体(HIB19)、抗CD56抗体(B159)および抗CD235a抗体(GA-R2)、抗IL−10抗体、抗IL−12抗体(BD Pharmingen;カリフォルニア州サンディエゴ)
FITC(fluorescen isothiocyanate)標識抗CD3抗体、抗CD14抗体(exalpha Biologicals, Inc;マサチューセッツ州メイナード)、抗CD15抗体(BD Pharmingen;カリフォルニア州サンディエゴ)、抗CD16抗体(exalpha Biologicals, Inc;マサチューセッツ州メイナード)、抗CD19抗体、抗CD56抗体(BD Pharmingen;カリフォルニア州サンディエゴ)
PE(phycoerythrin)標識抗CD3抗体(exalpha Biologicals, Inc;マサチューセッツ州メイナード)、抗CD14抗体(exalpha Biologicals, Inc;マサチューセッツ州メイナード)、抗CD15抗体(IMMUNOTECH;フランス・マルセイユ)、抗CD16抗体(exalpha Biologicals, Inc;マサチューセッツ州メイナード)、抗CD19抗体、抗CD56抗体(BD Pharmingen;カリフォルニア州サンディエゴ)、抗OX40L(京都大学血液腫瘍内科 堀利行博士より供与)
PECy5標識抗HLA−DR抗体(IMMUNOTECH;フランス・マルセイユ)
【0046】
ELISAキットは表示の通り入手した。
ヒトIL−4ELISAキット、ヒトIL−10ELISAキット、ヒトIL−12(p40+p70)ELISAキット、IFN−γELISAキット(Pierce Biotechnology;イリノイ州ロックフォード)
【0047】
(2)CD11c樹状細胞(CD11cDC)の採取
成人ボランティアドナーから末梢血を採取し、Lymphoprepを用いた比重遠心法でPBMC(Peripheral Blood Mononuclear Cells:末梢血単核球)を分離した。PBMC中のCD3、14、16、19、56、235a陽性細胞を、マウス抗ヒトCD3抗体、CD14抗体、CD16抗体、CD19抗体、CD56抗体、CD235a抗体およびヒツジ抗マウスDynabeads M-450を用いて除去した。その後、抗ヒトCD4 Microbeadsを用いてCD4発現細胞を採取した。採取した細胞をPE標識抗CD3抗体、抗CD14抗体、抗CD15抗体、抗CD16抗体、抗CD19抗体、抗CD56抗体、FITC標識抗CD11c抗体、PECy5標識抗HLA−DR抗体で染色し、EPICS ALTRA HYPERSORT(BECKMAN COULTER, INC.;カリフォルニア州フラトン)を用いてCD11c DC(CD3-、CD14-、CD15-、CD16-、CD19-、CD56-、CD11c、HLA−DR)を採取した。
【0048】
(3)CD4ナイーブT細胞の採取
成人ボランティアドナーから末梢血を採取し、Lymphoprepを用いた比重遠心法でPBMCを分離した。PBMC中のCD4発現細胞を抗ヒトCD4 Microbeadsを用いて採取した。採取した細胞をFITC標識抗ヒトCD14抗体、抗CD16抗体、抗CD19抗体、抗CD25抗体および抗CD56抗体、PE標識抗ヒトCD45RO抗体、PECy5標識抗ヒトCD4抗体で染色し、EPICS ALTRA HyPerSort(Beckman Coulter, Inc.;カリフォルニア州フラトン)を用いてCD4ナイーブT細胞(CD14、CD16、CD19、CD25、CD56、CD45RO、CD4)を採取した。
【0049】
(4)BCGによるCD11c DCの刺激および共刺激分子のFACS分析
前述の方法で末梢血より採取したCD11c DCを、10%FBS含有のRPMI 1640に再懸濁し、96穴平底プレートに10×10ずつ分配し、BCG(MOI=10)を入れ37℃で24時間刺激した。24時間刺激したCD11cDCをEDTAおよび2%FBS含有のPBSにて回収し、同緩衝液で2回洗浄後PE標識抗CD40抗体、抗CD86抗体、抗マウスIgG1抗体にて染色し、FACScan flow cytometer(Becton Dickinson社)にて分析した。同時に、同様に採取した未熟なDCもPE標識抗CD40抗体、抗CD86抗体、抗マウスIgG1抗体にて染色し比較した(図1)。
図1より、未成熟なDCではCD40、CD86共にほとんど発現が認められないが、BCGによる24時間刺激後のDCでは、両分子共に著明に発現が増加したことがわかる。
【0050】
(5)CD11c DCのサイトカイン産生の測定
前述の方法にて分離したCD11cDCを、10%FBS含有のRPMI 1640に再懸濁し、96穴平底プレートに10×10ずつ分配し、それぞれにmedium、GM−CSF(100ng/ml)、LPS(1μg/ml)、BCG(MOI=10)を入れ37℃で24時間刺激した。24時間刺激後、それぞれのCD11cDC培養液の上清を採取し、ヒトTNF−αELISAキット、ヒトIL−12(p40+p70)ELISAキットで測定した。結果を図2に示す。
図2より、BCGで刺激したDCはIL−12(p40+p70)およびTNF−αを著明に産生し、LPSで刺激したDCよりも両サイトカインが多量に産生されることが明らかになった。
【0051】
(6)TSLP±BCGで刺激したCD11cDCとアロCD4ナイーブT細胞の共培養
medium、GM−CSF(100ng/ml)、BCG(MOI=10)、TSLP(50ng/ml)±BCG(MOI=10)で24時間刺激したCD11CDCを、10%FBS含有のRPMI 1640にて回収し、同培養液で2回洗浄後再び同培養液にて懸濁し、96穴平底プレートに1×10となるように分配し、これにアロCD4ナイーブT細胞を5×10ずつ加え37℃で6日間共培養し、T細胞からのサイトカイン産生を細胞内サイトカイン染色法で染色してFACSで解析した。結果を図3に示す。
図3より、BCGで刺激したDCとCD4ナイーブT細胞の共培養により、IFN−γ産生性のTh1細胞が著明に増加することが明らかになった。一方、コントロールとしてmediumまたはGM−CSFのみでDCを刺激した場合、BCG刺激DCに比べTh1細胞の誘導は弱かった。
【0052】
(7)CD11c DCと共培養したT細胞産生サイトカインの測定(細胞内サイトカイン染色法)
上記(6)の方法で6日間共培養したのち、T細胞を10%FBS含有のRPMI 1640にて回収し、同培養液で2回洗浄した。回収した細胞をPMA(75ng/ml)、Ionomycine(2μg/ml)で37℃、4時間刺激した後、BFA(10μg/ml)を加えて更に37℃、2時間刺激した。合計6時間刺激後のT細胞をPBSにて2回洗浄後、FIX&PERM cell permeabilization reagentsおよびPE標識抗ヒトIFN−γ抗体、FITC標識抗ヒトIL−4抗体、IL−13抗体、TNF−α抗体にて細胞内サイトカインを染色し、FACScan flow cytometer(Becton Dickinson社)にて分析した(図4)。
図4より、TSLPのみの刺激ではIL−4、IL−13、TNF-α産生性のTh2細胞の誘導がみられるが、TSLPにBCGを同時添加して刺激したDCではTh2細胞の減少がみられる一方、IFN−γ産生性のTh1細胞の有意な増加がみられた。
【0053】
(8)CD11c DCとの共培養によるT細胞数の変化
上記(6)の方法で6日間共培養したのち、T細胞を10%FBS含有のRPMI 1640にて回収した。回収した細胞を同培養液に再懸濁し、0.5%トリパンブルー液で染色し、計算盤で生存細胞数をカウントした。この生存細胞数に、細胞内サイトカイン染色およびFACScan flow cytometerで測定したIL−4、IFN−γ、TNF−α産生細胞の割合を掛け、各サイトカイン産生性T細胞の絶対数を計算した(図5)。
図5より、TSLP刺激DCでは3.1x10個のIL−4産生性T細胞が誘導されたが、TSLP+BCGでDCを刺激した場合、IL−4産生性T細胞の誘導は1.2x10個と減少していた。同様にTNF−α産生性のT細胞の誘導もBCG添加により減少した。一方、TSLP単独刺激に比べTSLP+BCGによる刺激では、IFN−γ産生性のT細胞の誘導が増強した。
【0054】
(9)TSLP±BCGで刺激したCD11c DCとアロCD4ナイーブT細胞との共培養によるT細胞産生サイトカインの測定(ELISA法)
末梢血より採取したCD11c DCを、10%FBS含有のRPMI 1640に再懸濁し、96穴平底プレートに10×10ずつ分配し、それぞれにTSLP(50ng/ml)、TSLP(50ng/ml)+BCG(MOI=10)を入れ37℃で24時間刺激した。24時間刺激後、CD11cDCを10%FBS含有のRPMI 1640にて回収し、同培養液で2回洗浄後再び同培養液にて懸濁し、96穴平底プレートに1×10となるように分配し、これにアロCD4ナイーブT細胞を5×10ずつ加え37℃で6日間共培養した。6日間共培養したのち、T細胞を10%FBS含有のRPMI 1640にて回収し、同培養液で2回洗浄した。これをPMA(75ng/ml)、Ionomycine(2μg/ml)で37℃、48時間刺激した後上清を採取し、ヒトIFN−γELISAキット、ヒトIL−4ELISAキットで測定した(図6)。
図6より、TSLP単独でDCを刺激した場合、多量のIL−4が検出されたが、TSLP+BCGの同時刺激ではIL−4の産生は減少していた。一方、TSLP単独刺激に比べTSLP+BCGによる同時刺激ではT細胞からのIFN−γの産生は増強することが明らかになった。
【0055】
(10)TSLP刺激CD11c DCとアロCD4ナイーブT細胞との共培養(BCG非存在下または存在下)
前述の通り末梢血より採取したCD11c DCを、10%FBS含有のRPMI 1640に再懸濁し、96穴平底プレートに10×10になるよう分配し、TSLP(50ng/ml)を入れ37℃で24時間刺激した。24時間刺激後、CD11c細胞を10%FBS含有のRPMI 1640にて回収し、同培養液で2回洗浄後再び同培養液にて懸濁し、96穴平底プレートに1×10となるように分配し、これにアロCD4ナイーブT細胞を5×10ずつ加え、更にmediumもしくはBCG(MOI=10)を加え37℃で6日間共培養した。
【0056】
(11)TSLP刺激CD11cDCとBCG非存在下または存在下で共培養したT細胞から産生されるサイトカインの測定(細胞内サイトカイン染色法)
上記(10)の方法で6日間共培養したのち、T細胞を10%FBS含有のRPMI 1640にて回収し、同培養液で2回洗浄した。洗浄後の細胞を、PMA(75ng/ml)、Ionomycine(2μg/ml)で37℃、4時間刺激した後、BFA(10μg/ml)を加えて更に37℃、2時間刺激した。合計6時間刺激後のT細胞をPBSにて2回洗浄後、FIX&PERM cell permeabilization reagentsおよびPE標識抗ヒトIFN−γ抗体、FITC標識抗ヒトIL−4抗体、TNF−α抗体にて細胞内サイトカインを染色し、FACScan flow cytometer(Becton Dickinson社)にて分析した(図7)。
図7より、TSLPで刺激されたDCではIL−4およびTNF−α産生性のTh2細胞の誘導がみられるが、一旦TSLPで刺激され成熟したDCにBCGを添加することにより、Th2細胞誘導の減少がみられるとともにIFN−γ産生性のTh1細胞の有意な増加がみられた。すなわち、BCGによりDCの機能変換がなされたことが示唆される。
【0057】
(12)TSLP刺激CD11cDCとBCG非存在下または存在下におけるアロCD4ナイーブT細胞との共培養によるT細胞数の変化
上記(10)の方法で6日間共培養したのち、T細胞を10%FBS含有のRPMI 1640にて回収した。回収した細胞を同培養液に再懸濁し、0.5%トリパンブルー液で染色し、計算盤で生存細胞数をカウントした。この生存細胞数に、細胞内サイトカイン染色およびFACScan flow cytometerで測定したIL−4、IFN−γ、TNF−α産生細胞の割合を掛け、各サイトカイン産生性T細胞の絶対数を計算した(図8)。
図8より、TSLP刺激DCでは3.0x10個のIL−4産生性T細胞が誘導されたが、共培養時BCGを添加した場合、IL−4産生性T細胞の誘導は1.4x10個と減少していた。同様に、TNF−α−産生性のT細胞の誘導もBCG添加により減少した。一方、BCG添加により、IFN−γ−産生性のT細胞の誘導が増強した。BCG添加により、Th2誘導性DCがTh1誘導性DCに機能変換したことが示唆される。
【0058】
(13)TSLP±BCG刺激CD11cDCからのサイトカイン測定
図9は、TSLP(50ng/ml)±BCG(10MOI)で24時間刺激したCD11cDCからのIL−10産生をELISAにて解析した結果である。BCG単独刺激により大量のIL−10が産生された。TSLP+BCGでも同様に大量のIL−10がDCから産生された。
【0059】
(14)TSLP±BCGで刺激したDCと抗IL−10抗体非存在下または存在下でのアロCD4ナイーブT細胞との共培養によるT細胞産生サイトカインの測定(細胞内サイトカイン染色法)
上記(2)で採取したCD11cDCを、10%FBS含有のRPMI 1640に再懸濁し、96穴平底プレートに10×104ずつ分配し、それぞれにTSLP(50ng/ml)、TSLP(50ng/ml)+BCG(MOI=10)を入れ37℃で24時間刺激した。24時間刺激後、CD11cDCを10%FBS含有のRPMI 1640にて回収し、同培養液で2回洗浄後再び同培養液にて懸濁し、96穴平底プレートに1×104となるように分配し、これにアロCD4ナイーブT細胞を5×104ずつ加え、更にmediumもしくは抗ヒトIL-10抗体を加え37℃で6日間共培養した。6日間共培養したのち、T細胞を10%FBS含有のRPMI 1640にて回収し、同培養液で2回洗浄した。洗浄後の細胞をPMA(75ng/ml)、Ionomycine(2μg/ml)で37℃、4時間刺激した後、BFA(10μg/ml)を加えて更に37℃、2時間刺激した。合計6時間刺激後のT細胞をPBSにて2回洗浄後、FIX&PERM cell permeabilization reagentsならびにPE標識抗ヒトIFN-γ抗体、FITC標識抗ヒトIL−4抗体およびTNF−α抗体にて細胞内サイトカインを染色し、FACScan flow cytometer(Becton Dickinson社)にて分析した(図10)。
図10より、抗IL−10ブロッキング抗体を添加しても、BCGによるTSLP−DCのTh2誘導能の機能変換は解除されなかった。この結果は、BCGによるTSLP−DCのTh2誘導能の抑制はDCが産生するIL−10に依存しないことを示している。
【0060】
(15)TSLP±BCGで刺激したCD11cDCの細胞表面OX40LのFACS解析
上記(2)で末梢血から採取したCD11c DCを、10%FBS含有のRPMI 1640に再懸濁し、96穴平底プレートに10×104ずつ分配し、TSLP(50ng/ml)、BCG(MOI=10)、TSLP(50ng/ml)+BCG(MOI=10)、TSLP(50ng/ml)+LPS(1μg/ml)を入れ37℃で48時間(Day2)および96時間(Day4)刺激した。刺激したCD11cDCをEDTAおよび2%FBS含有のPBSにて回収し、同緩衝液で2回洗浄後PE標識抗OX40L抗体および抗mouse IgG1抗体にて染色し、FACScan flow cytometer(Becton Dickinson社)にて分析した(図11)。
図11より、TSLPで刺激されたDCのOX40Lの発現は時間依存性に増加するが、TSLPと同時にBCGまたはLPSを添加したDCではOX40Lの発現を認めなかった。すなわち、BCGとLPSは、TSLPによるOX40Lの発現を抑制することが明らかになった。
【0061】
(16)TSLP±BCGで刺激したCD11cDCにおけるOX40L発現のRT−PCRによる解析
上記(2)で末梢血から採取したCD11cDCを、10%FBS含有のRPMI 1640に再懸濁し、96穴平底プレートに10×104ずつ分配し、TSLP(50ng/ml)、TSLP(50ng/ml)+BCG(MOI=10)を入れ37℃で96時間刺激した。刺激したCD11c+細胞をEDTAおよび2%FBS含有のPBSにて回収し、同緩衝液で2回洗浄後、OX40Lの発現をRT−PCR法を用いて測定した。PCR法の温度プロファイルは以下の通りであった。初期熱変性は94℃5分、次に94℃1分の熱変性、55℃1分のアニーリング、72℃30秒の伸長反応を36サイクル施行したのち、最終伸長反応を72℃7分施行した。プライマーのシークエンスは、OX40Lが
forward:5’-CCCAGATTGTGAAGATGGAA-3’(配列番号:1)、
reverse:5’-GCCTGGTTTTAGATATTGCC-3’(配列番号:2)であり、β−actinが
forward:5’-CTGGAACGGTGAAGGTGACA-3’(配列番号:3)、
reverse:5’-AAGGGACTTCCTGTAACAATGCA-3’(配列番号:4)であった。結果を図12に示す。
図12より、TSLP単独刺激ではOX40Lの発現を認めるが、BCG添加したDCではOX40Lの発現をほとんど認めなかった。すなわち、BCGは、TSLPによるOX40Lの発現をmRNAのレベルで抑制することが明らかになった。
【0062】
(17)TSLP+BCG刺激したCD11cDCと抗OX40Lブロッキング抗体存在下でのアロCD4ナイーブT細胞との共培養によるT細胞産生サイトカインの測定(細胞内サイトカイン染色法)
上記(2)で末梢血から採取したCD11cDCを、10%FBS含有のRPMI 1640に再懸濁し、96穴平底プレートに10×104となるように分配し、TSLP(50ng/ml)+BCG(MOI=10)を加えて37℃で24時間刺激した。24時間刺激後、CD11cDCを10%FBS含有のRPMI 1640にて回収し、同培養液で2回洗浄後再び同培養液にて懸濁し、96穴平底プレートに1×10となるように分配し、これにアロCD4ナイーブT細胞を5×104ずつ加え、更にmediumもしくは抗ヒトOX40L抗体を加え37℃、6日間共培養した。6日間共培養したのち、T細胞を10%FBS含有のRPMI 1640にて回収し、同培養液で2回洗浄した。洗浄後の細胞をPMA(75ng/ml)、Ionomycine(2μg/ml)で37℃、4時間刺激した後、BFA(10μg/ml)を加えて更に37℃、2時間刺激した。合計6時間刺激後のT細胞をPBSにて2回洗浄後、FIX&PERM cell permeabilization reagentsおよびFITC標識抗ヒトIFN−γ抗体、PE標識抗ヒトIL−4抗体およびTNF−α抗体にて細胞内サイトカインを染色し、FACScan flow cytometer(Becton Dickinson社)にて分析した(図13)。
図13より、抗OX40Lブロッキング抗体非存在下では、TSLP+BCG刺激のDCではIL−4およびTNF−α産生性のTh2細胞を誘導しているが、抗体存在下ではTh2細胞が減少した。
【0063】
図11から図13までの結果より、TSLP−DCによるTh2細胞の誘導には樹状細胞膜上にアップレギュレーションされるOX40Lが重要であること、そしてBCGによるTSLP−DCのTh2誘導能の抑制はOX40Lのダウンレギュレーションに基づくことが示唆された。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】図1は、BCG(10MOI)で刺激したCD11cDCにおける細胞表面の共刺激分子の発現をFACSで解析した結果である。左列は末梢血中から採取直後の未成熟な状態のDC、右列はBCGで24時間刺激したDCで、白のヒストグラムはisotype control(anti mouse IgG1)、グレーのヒストグラムはCD40(上段)およびCD86(下段)の発現である。
【図2】図2は、BCGまたはLPSで24時間刺激したCD11cDCからのサイトカイン産生をELISAで測定した結果である。
【図3】図3は、BCG(10MOI)で24時間刺激したCD11cDCをCD4ナイーブT細胞と6日間共培養し、T細胞からのサイトカイン産生を細胞内サイトカイン染色法で染色してFACSで解析した結果である。コントロールとしてmediumまたはGM−CSFのみでDCを刺激した場合を示す。
【図4】図4は、TSLP(50ng/ml)±BCG(10MOI)で24時間刺激したCD11cDCをアロCD4ナイーブT細胞と6日間共培養し、T細胞からのサイトカイン産生を細胞内サイトカイン染色法で染色してFACSにて解析した結果である。
【図5】図5は、図4におけるDCとアロCD4ナイーブT細胞(5x10個)との共培養の実験で、共培養6日後におけるIL−4−、IFN−γ-およびTNF−α−産生性のT細胞の絶対数を示したものである。
【図6】図6は、TSLP(50ng/ml)±BCG(10MOI)で24時間刺激したCD11cDCをアロCD4ナイーブT細胞と6日間共培養し、T細胞からのサイトカイン産生を培養上清のELISAで解析した結果を示す。
【図7】図7は、TSLP(50ng/ml)で24時間刺激したCD11cDCとアロCD4ナイーブT細胞を共培養する際にBCGを添加し、6日間培養後T細胞からのサイトカイン産生を細胞内サイトカイン染色法で解析した結果を示す。
【図8】図8は、図7におけるDCとアロCD4ナイーブT細胞(5x104個)との共培養の実験で、共培養6日後におけるIL−4−、IFN−γ− およびTNF−α−産生性のT細胞の絶対数を示したものである。
【図9】図9は、TSLP(50ng/ml)±BCG(10MOI)で24時間刺激したCD11cDCからのIL−10産生をELISAにて解析した結果である。
【図10】図10は、TSLP(50ng/ml)±BCG(10MOI)で24時間刺激したCD11cDCをアロCD4ナイーブT細胞と6日間共培養する際、抗IL−10ブロッキング抗体を加え、TSLP−DCのTh2誘導能がBCGにより変化するかどうか細胞内サイトカイン染色にて調べた結果である。
【図11】図11は、BCG(10MOI)で48時間または96時間刺激したCD11cDCの細胞表面のOX40Lの発現をFACSで解析した結果である。
【図12】図12は、TSLP±BCGで96時間刺激したCD11cDCのOX40Lの発現をRT−PCRにより調べた結果である。
【図13】図13は、TSLP+BCGで24時間刺激したCD11cDCを抗OX40Lブロッキング抗体の非存在下および存在下でCD4ナイーブT細胞と6日間共培養し、T細胞からのサイトカイン産生を細胞内サイトカイン染色法で染色してFACSで解析した結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイコバクテリウム ボビスのカルメット−ゲラン菌を有効成分として含有する、Th2誘導性樹状細胞のTh1誘導性樹状細胞への機能変換剤。
【請求項2】
前記Th1誘導性樹状細胞におけるOX40リガンドの発現が、前記Th2誘導性樹状細胞における発現に比べて抑制されている、請求項1に記載の機能変換剤。
【請求項3】
マイコバクテリウム ボビスのカルメット−ゲラン菌を有効成分として含有する、胸腺間質リンパ球増殖因子が関与する疾患の治療または予防薬。
【請求項4】
前記疾患がアトピー性皮膚炎である請求項3に記載の治療または予防薬。
【請求項5】
下記工程:
ケラチノサイトから胸腺間質リンパ球増殖因子を産生する哺乳動物由来の血液試料を分画し、樹状細胞画分を得る工程、
前記樹状細胞画分を試験管内でマイコバクテリウム ボビスのカルメット−ゲラン菌とともにインキュベートする工程、および
前記インキュベート後の樹状細胞画分中の樹状細胞の機能を調べ、インキュベート前後で当該樹状細胞がTh2誘導性樹状細胞優位からTh1誘導性樹状細胞優位に機能変換したことを確認する工程
を含む、Th2誘導性樹状細胞のTh1誘導性樹状細胞への機能変換方法。
【請求項6】
前記確認工程が、インキュベート前後の樹状細胞におけるOX40リガンドの発現量を比較することにより行われる、請求項5に記載の機能変換方法。
【請求項7】
前記確認工程の後に、確認後の樹状細胞を、採取した哺乳動物に投与する工程をさらに含む、請求項5または6に記載の機能変換方法。
【請求項8】
マイコバクテリウム ボビスのカルメット−ゲラン菌の有効量を、ケラチノサイトから胸腺間質リンパ球増殖因子を産生する哺乳動物に投与することを含む、胸腺間質リンパ球増殖因子が関与する疾患の治療または予防方法。
【請求項9】
前記疾患の治療または予防が、樹状細胞におけるOX40リガンドのダウンレギュレーションを介して行われる、請求項8に記載の治療または予防方法。
【請求項10】
前記疾患がアトピー性皮膚炎である請求項8または9に記載の治療または予防方法。
【請求項11】
請求項3または4に記載の治療または予防薬、および当該治療または予防薬をアトピー性皮膚炎の治療もしくは予防に使用することができることまたは使用すべきであることを記載した当該治療または予防薬に関する記載物を含む商業パッケージ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図13】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−22930(P2007−22930A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−203690(P2005−203690)
【出願日】平成17年7月12日(2005.7.12)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年3月4日 学校法人関西医科大学主催の「第121回 関西医科大学学内学術集談会」において文書をもって発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年6月17日 日本リンパ網内系学会発行の「日本リンパ網内系学会会誌 Vol.45 2005」に発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度 文部科学省委託研究「アレルギー予防治療技術の研究開発」の成果、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(500409219)学校法人関西医科大学 (36)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】