説明

樹皮原料から糖類を製造する方法

【課題】
未利用の木質系バイオマスである樹皮の糖化処理において、樹皮原料の含水率および乾燥温度を制御することで、糖化処理工程におけるエネルギー効率を改善することを課題とする。
【解決手段】
含水率10%以上である樹皮原料を糖化処理することを特徴とする樹皮原料から糖類を製造する方法。樹皮原料を40〜100℃で加熱処理する乾燥工程によって含水率10〜40%としたのち糖化処理する前記の樹皮原料から糖類を製造する方法。糖化処理が、原料樹皮を酸性の水溶液で浸漬してなる酸糖化処理である、前記の樹皮原料から糖類を製造する方法。糖化処理が、酵素による酵素糖化処理である前記の樹皮原料から糖類を製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹皮を糖類製造用の原料として利用する糖類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化対策として、二酸化炭素の排出削減が迫られているが、そのためには、化石燃料エネルギーからバイオマスエネルギーへの転換が有効である。
バイオマスエネルギーの製造方法は、多数の著書(非特許文献1〜4参照)に示されているように、バイオマスの熱分解、ガス化、嫌気性発酵など様々な方法があり、その中でも、バイオマスに含まれる糖質を発酵させてエタノールを得る方法が広く研究されている。エタノールは液体燃料として広く利用可能であり、トウモロコシやサトウキビを原料とした燃料用エタノールの工業的製造については既に実用化されている。
【0003】
しかし、トウモロコシやサトウキビ等の食糧資源を燃料用エタノールの原料とすることによって、食糧需要との競合による価格の高騰など、様々な社会問題が発生している。
そのため、バイオマスエネルギーの原料として、これらの需要と競合しない樹木由来の木質系バイオマスや、バガス、籾殻等の農業系バイオマス、古紙、パルプ等のセルロース系物質などが期待されている。
【0004】
樹木は細胞分裂が活発な形成層を境界にその内側の木部と外側の樹皮に分けられる。樹皮は総樹木重量の約10〜15%を占め、樹皮は木部と比べてリグニン含量が比較的に低く、可溶性成分を多く含み柔軟である。さらに、樹皮は死んだ組織の外樹皮と生きている組織の内樹皮に分けられる。
【0005】
外樹皮は主に周皮あるいはコルク層からなり、木材組織を機械的損傷から守るとともに、温度と湿度の変動を小さくしている。
内樹皮は師要素、柔細胞および厚壁細胞からなり、師要素は液体と栄養素の運搬の機能を持ち、柔細胞はデンプン等の栄養素貯蔵の機能を持ち、内樹皮の師要素間に介在する。厚壁細胞は支持組織として機能し、木部の年輪と同じように層状に観察され、形によって靭皮繊維とスクレレイドとに区別される。
【0006】
樹皮組織は、大きく分けて、繊維、コルク細胞及び柔細胞を含む微細物質からなる。樹皮の繊維は、木部の繊維と化学的に似ており、セルロース、ヘミセルロース及びリグニンからなる。コルク細胞及び柔細胞を含む微細物質には多量の抽出成分が存在し、コルク細胞の壁にはスベリン類が、微細物質画分にはポリフェノール類が多い。このように、樹皮は木部と異なり多くの有用な可溶性成分を含有し、その量は乾燥質量の20〜40%に達し、しかも繊維画分には木部と同様な繊維質を有しているという優れた性質を有している。
しかし、樹皮は、材木用途では使用されず、製紙工程のパルプ化の際には、わずかに混入してもパルプの品質を低下させるため、枝や根とともに植林地で肥料として土壌に戻されるか、製材工場又はチップ工場で剥皮され焼却されており、有効利用されていない未利用バイオマスである。従って、バイオエタノールの原料としては特に有望視されている。
【0007】
樹皮からエタノールや有機酸などの有用物質を製造するには、樹皮中の糖を抽出し発酵による微生物変換を行う必要がある。そのためには糖類と複合体を形成している難分解性高分子ポリマーであるリグニンを除去し、植物体内に存在するリグノセルロースを加水分解して単糖であるグルコース等とする糖化工程が必要である。
【0008】
現在、リグノセルロースから単糖を生成する方法として、基本的には、酸糖化法(特許文献1,2など)と酵素糖化法(特許文献3,4など)が知られているが、いずれの方法にしても、できるだけ低いエネルギー消費量で、かつ高い収率で糖類を製造するために様々な観点から研究が行われている。糖化に要するエネルギーコストを減らすことは、化石燃料からバイオマスエネルギーへの代替を可能とするために極めて重要であり、そのために様々な方法が検討されており、樹皮原料の前処理もその一つである。
【0009】
【特許文献1】特開2004−89016号公報
【特許文献2】特開2005−229822号公報
【特許文献3】特開2008−521396号公報
【特許文献4】特開2005−168335号公報
【非特許文献1】日本木材学会編「木質バイオマスの利用技術」p19〜61、文永堂出版、1997年7月発行
【非特許文献2】湯川英明ら「バイオマスエネルギー利用の最新技術」各論編II−1章、CMC出版、2001年8月発行
【非特許文献3】飯塚尭介ら「ウッドケミカルスの最新技術」p6〜34、CMC出版、2001年10月発行
【非特許文献4】船岡ら「木質系有機資源の新展開」第5章−2、CMC出版、2005年1月発行
【非特許文献5】福井作蔵著「還元糖の定量法」p49〜52、学会出版センター、1990年10月発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明における課題は、未利用の木質系バイオマスである樹皮の糖化処理において、樹皮原料の含水率および乾燥温度を制御することで、糖化処理工程におけるエネルギー効率を改善することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するための本発明は、次の各発明を包含する。
即ち、本発明の第1は、含水率10%以上である樹皮原料を糖化処理する、樹皮原料から糖類を製造する方法である。
【0012】
本発明の第2は、樹皮原料を40〜100℃で加熱処理する乾燥工程によって含水率10〜40%としたのち糖化処理する、本発明の第1に記載の樹皮原料から糖類を製造する方法である。
【0013】
本発明の第3は、前記糖化処理が、原料樹皮を酸性の水溶液で浸漬してなる酸糖化処理である、本発明の第1又は2に記載の樹皮原料から糖類を製造する方法である。
【0014】
本発明の第4は、前記糖化処理が、酵素による酵素糖化処理である、本発明第1又は2に記載の樹皮原料から糖類を製造する方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によって、未利用の木質系バイオマスである樹皮の糖化処理によって有用な生化学原料やエネルギー資源となる組成物を得るプロセスのエネルギーコストを低減化することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明をさらに詳しく説明する。
本発明で用いる樹皮の樹種は特に限定されないが、ユーカリ属、アカシア属などの広葉樹、マツ属、スギ属などの針葉樹のいずれも用いることができる。
【0017】
本発明は、含水率10%以上である樹皮原料を用いて糖類を製造するものである。
本発明において、糖化工程に供する樹皮原料の含水率は10%以上であれば任意で良いが、含水率が高いと原料が重くなり、輸送エネルギーコストが高くなるので必要に応じて原料乾燥工程を加えて水分量を減少させることができる。さらに、酸糖化処理を行う際には、含水率が高いと必要な薬品量が増えるため、40%以下にすることが好ましい。また、酵素糖化処理を行う際には、含水率が低いと破砕等による前処理効果が低減することがあるため30%以上にすることが好ましい。
【0018】
なお、本発明において、樹皮の含水率は、下記の式1によって算出した。
〈式1〉 含水率(%)=(乾燥前質量−乾燥質量)÷乾燥前質量×100
【0019】
また、本発明において、樹皮原料を乾燥させる場合、乾燥工程の温度は40〜100℃であることが望ましい。100℃以上で乾燥させた場合は樹皮が硬化するため、糖化に必要な使用電力量が増加し、また、糖収率が減少する。なお、本発明において、最も好ましい乾燥温度は60〜80℃である。
【0020】
本発明には、上記のように含水率10%以上に調整した樹皮原料の糖化処理を行う。
なお、樹皮原料は、糖化処理の前に、糖化が効率よく行える粒度にするために破砕処理を行うことができる。破砕処理に使用する機械は、樹皮が破砕または解繊できればよく、特に限定されないが、レファイナー、破砕機、離解機等が使用できる。
【0021】
樹皮原料の主要な成分であるリグノセルロースを糖化する際には、セルロースを単糖であるグルコース等に分解する糖化が重要な段階となる。リグノセルロースから単糖を生成する方法としては、基本的には酸糖化法と酵素糖化法がよく知られているが、本発明においては、従来知られている任意の方法に適用が可能である。
【0022】
なお、酸糖化処理で使用する酸は、硫酸、硝酸、塩酸、リン酸、沸酸などの鉱酸やトリフルオロ酢酸のような有機酸、もしくは、これらの酸混合液などが使用できる。
【0023】
本発明で得られる糖液には木質バイオマス由来の多糖であるセルロースやヘミセルロース、またグルコースやキシロース等の種々の単糖が含まれている。これら糖類を発酵工程でアルコールおよび有機酸に微生物変換する。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。以下に示す各実施例において、%は、特に断りがない限りは全て質量による。
糖濃度の測定には、フェノール硫酸法(非特許文献5)を用いた。原料の含水率による糖化工程への影響を破砕処理に要した電力量および破砕・酵素糖化処理と酸糖化処理で得られた糖液の糖収率によって評価した。
【0025】
<実施例1>
ユーカリ・グロブラスの樹皮(含水率62%)を採取したのち、以下の方法により、酵素糖化処理、及び酸糖化処理の各々の電力量と糖収率を測定し、糖化効率を評価した。
a)酵素糖化処理
樹皮を約40mm四方の切片に切断したのち、絶乾で600g相当を、樹皮に含まれる水分も含め計3000g、10%アルカリ溶液となるように水酸化ナトリウムと純水を加えて浸漬し、この混合物をオートクレーブを用いて120℃にて1時間加熱したのち、ふるいを用いて樹皮をアルカリ溶液と固液分離し、レファイナー(熊谷理機工業製)を用いて、クリアランス1mmにて破砕処理を行った。樹皮の破砕に要したレファイナー動力は電力積算計を用いて計測した。所要動力は実際に樹皮を破砕するのに要した消費電力から空転に要した電力を差し引いた電力として求めた。空転動力は樹皮を破砕せずにレファイナーを動作させるのに要した動力と定義する。
次に、以下の反応液組成にて、30℃、反応時間20時間で酵素糖化を行った。酵素糖化処理後の糖濃度をフェノール硫酸法により測定し、下記の式2によって糖収率を算出した。
【0026】
[反応液組成]
5% 樹皮
5% セルラーゼ (GC220 Danisco社製)
50mMリン酸緩衝液(pH4.5)
〈式2〉糖収率(%)=(糖化処理後の全糖量/使用した樹皮の乾燥重量)×100
【0027】
b)酸糖化処理
樹皮を約20mm四方の切片に切断したのち、絶乾で5g相当をプラスチックビーカーに投入し、70%硫酸100mlを加えて20℃で18時間攪拌して、得られた酸糖化液の糖濃度を上記と同様に測定して糖収率を算出した。
【0028】
<実施例2>
ユーカリ・グロブラスの樹皮を、乾燥温度60℃で含水率30%としてから糖化処理を行った以外は、実施例1と同様に評価を行った。
【0029】
<実施例3>
ユーカリ・グロブラスの樹皮を、乾燥温度60℃で含水率15%としてから糖化処理を行った以外は、実施例1と同様に評価を行った。
【0030】
<比較例1>
ユーカリ・グロブラスの樹皮を、乾燥温度60℃で含水率5%としてから糖化処理を行った以外は、実施例1と同様に評価を行った。
以上、実施例1〜3,比較例1の電力量、糖収率の結果を表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
実施例1〜3と比較例1を比較すると、比較例では使用電力量の増加と糖収率の減少がみられた。即ち、樹皮の糖化処理において樹皮の含水率を10%以上にすることで糖化効率が向上することが示唆された。
【0033】
<実施例4>
実施例1で使用したユーカリ・グロブラスの樹皮を、乾燥温度80℃で含水率15%とてから糖化処理を行った以外は、実施例1と同様に評価を行った。
【0034】
<実施例5>
実施例1で使用したユーカリ・グロブラスの樹皮を、乾燥温度120℃で含水率15%としてから糖化処理を行った以外は、実施例1と同様に評価を行った。
以上、実施例3〜5の結果を表2に示す。
【0035】
【表2】

【0036】
実施例3、4と実施例5を比較すると、実施例5では電力量が増加した。また糖収率も僅かに減少し、樹皮の乾燥工程において乾燥温度を100℃以下にすることで処理コストが改善されることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、バイオマス原料である樹皮から発酵用の糖液を製造する工程において、含水率および乾燥温度の制御によって糖収率および電力コストを改善することで、バイオマス化学産業に広く用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含水率10%以上である樹皮原料を糖化処理することを特徴とする樹皮原料から糖類を製造する方法。
【請求項2】
樹皮原料を40〜100℃で加熱処理する乾燥工程によって含水率10〜40%としたのち糖化処理することを特徴とする請求項1に記載の樹皮原料から糖類を製造する方法。
【請求項3】
前記糖化処理が、原料樹皮を酸性の水溶液で浸漬してなる酸糖化処理であることを特徴とする請求項1又は2に記載の樹皮原料から糖類を製造する方法。
【請求項4】
前記糖化処理が、酵素による酵素糖化処理であることを特徴とする請求項1又は2に記載の樹皮原料から糖類を製造する方法。