説明

樹皮繊維培土の製造方法及び樹皮繊維培土

【課題】 簡易な手段で生育障害をできるだけ低減できるようにするとともに、製造も容易にして製造効率の向上を図る。
【解決手段】 樹皮原料を一次粉砕する一次粉砕工程(Sa)と、一次粉砕工程で一次粉砕された樹皮繊維材料を堆積して所要期間養生する養生工程(Sb)と、養生工程で養生された樹皮繊維材料を二次粉砕する二次粉砕工程(Sc)と、二次粉砕工程で二次粉砕された樹皮繊維材料を解繊処理する解繊処理工程(Sd)とを備え、養生工程と二次粉砕工程との間、二次粉砕工程と解繊処理工程との間、解繊処理工程の後の少なくとも何れかのときに、樹皮繊維材料に硫黄華粉末を混合する硫黄華粉末混合工程(Se1,Se2,Se3)を設け、樹皮繊維材料100重量部(乾物重量部)に対して、硫黄華粉末を、0.45〜2.7重量部混合した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の栽培用に用いられる樹皮繊維培土の製造方法及び樹皮繊維培土に係り、特に、製材工場などから出るスギやヒノキ等の樹皮原料を粉砕して生成される樹皮繊維材料を主成分とした樹皮繊維培土を製造する樹皮繊維培土の製造方法及び樹皮繊維培土に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の樹皮繊維培土としては、例えば、特公平7−55097号公報(特許文献1)に掲載されているものが知られている。これは、原木より剥皮した杉の樹皮原料をハンマークラッシャー等の粉砕機にかけて粉砕して羽毛状の樹皮繊維材料を生成し、これを主成分として構成されている。そして、この樹皮繊維培土を植物の栽培用として用いるときは、この樹皮繊維培土に、P(リン)、K(カリ)、N(チッソ)を含む液肥を含浸させ、例えば、植木鉢に入れ、これに栽培に係る植物の幼苗を植え込み、育成するようにしている。
ところで、この従来の樹皮繊維培土においては、植物の栽培時に液肥を含浸させて育成するようにしているが、植物の幼苗を移植後、葉縁から白化するとともに根が張らず、最終的に枯死するという生育障害がしばしば発生し易いという問題があった。
これを解決するために、従来においては、例えば、特開平11−89422号公報(特許文献2)に記載されているように、樹皮繊維材料を硫酸第一鉄溶液に浸漬し、植物繊維に含まれるタンニンを鉄イオンと反応させて不活性化する樹皮繊維培土も開発されている。この樹皮繊維培土を用いることにより、生育障害を改善できることが明らかにされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平7−55097号公報
【特許文献2】特開平11−89422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の樹皮繊維材料を硫酸第一鉄溶液に浸漬することで、生育障害を改善する技術においては、溶液を作成するために大量の硫酸第一鉄を必要とすることや浸漬後の廃液処理などの問題があり、製造効率が極めて悪いという問題があった。
本発明は上記の点に鑑みて為されたもので、簡易な手段で生育障害をできるだけ低減できるようにするとともに、製造も容易にして製造効率の向上を図った樹皮繊維培土の製造方法及び樹皮繊維培土を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願発明者らは、従来の硫酸第一鉄以外の材料で簡易に生育障害を解消する方法を模索した結果、硫黄華粉末の添加が生育障害の軽減に有効であるとともに健全な生育が得られることを確認し、本発明を完成した。
即ち、このような目的を達成するための本発明の樹皮繊維培土の製造方法は、樹皮原料を粉砕して樹皮繊維材料を生成し、該樹皮繊維材料を主成分とした樹皮繊維培土を製造する樹皮繊維培土の製造方法において、
上記樹皮繊維材料100重量部(乾物重量部)に対して、硫黄華粉末を、0.45〜2.7重量部混合した構成としている。
一般的には植物にとってpH5〜pH7の弱酸性の範囲が生育に適しているが、上記の混合量により適正なpH範囲にすることができる。0.45重量部より少ないと、効果が薄く、2.7重量部より多いと培土が酸性に傾き過ぎて好ましくない。
【0006】
これにより、硫黄華粉末を樹皮繊維材料に添加して混合するだけなので、製造が容易に行われ、製造効率を大幅に向上させることができる。特に、硫黄華粉末の混合量が極めて少ないので、混合も容易であり、安価に製造ができる。また、硫黄華粉末の添加により弱酸性になる。
また、このように製造された本発明の樹皮繊維培土を植物の栽培用として用いるときは、この樹皮繊維培土に、例えば、P(リン)、K(カリ)、N(チッソ)を含む液肥を含浸させ、例えば、植木鉢に入れ、これに栽培に係る植物の幼苗を植え込み、育成するようにする。この植物の栽培においては、植物の幼苗を移植後、葉縁から白化する現象が抑制され、根も十分に生育して張り、最終的に枯死するという生育障害が防止される。
これは、樹皮繊維材料に硫黄華を添加すると、培地が酸性に傾くが、これにより、元々樹皮に含まれていた微量の鉄分が溶出し、生育障害の原因となるタンニン等のフェノール物質と結合して不溶化することに起因するものと考えられる。
【0007】
そして、必要に応じ、上記樹皮繊維材料100重量部(乾物重量部)に対して、硫黄華粉末を、0.9〜1.8重量部混合した構成としている。この範囲で、より一層、生育障害の発生が軽減される。
【0008】
また、必要に応じ、上記硫黄華粉末を、該硫黄華粉末の重量の10〜50倍重量のゼオライトに混合して上記樹皮繊維材料に混合する構成としている。
ゼオライトにより混合物自体の量は増えるので、硫黄華の分散性が良くなり、ムラなく分散させることができる。
【0009】
更に、必要に応じ、樹皮原料を一次粉砕する一次粉砕工程と、該一次粉砕工程で一次粉砕された樹皮繊維材料を二次粉砕する二次粉砕工程とを備え、
上記一次粉砕工程と二次粉砕工程との間、上記二次粉砕工程の後の少なくとも何れかのときに、上記樹皮繊維材料に硫黄華粉末を混合する硫黄華粉末混合工程を設けた構成としている。
粉砕工程を、段階的に行うので、樹皮繊維材料を、確実に羽毛状にすることができる。また、硫黄華の樹皮繊維材料への付着性が向上させられる。
【0010】
更にまた、必要に応じ、樹皮原料を一次粉砕する一次粉砕工程と、該一次粉砕工程で一次粉砕された樹皮繊維材料を堆積して所要期間養生する養生工程と、該養生工程で養生された樹皮繊維材料を二次粉砕する二次粉砕工程と、該二次粉砕工程で二次粉砕された樹皮繊維材料を解繊処理する解繊処理工程とを備え、
上記養生工程と二次粉砕工程との間、上記二次粉砕工程と解繊処理工程との間、上記解繊処理工程の後の少なくとも何れかのときに、上記樹皮繊維材料に硫黄華粉末を混合する硫黄華粉末混合工程を設けた構成としている。
上記の硫黄華粉末混合工程は、複数工程設けても良い。その場合は、硫黄華粉末は分割して混合する。また、解繊処理工程の後に硫黄華粉末混合工程を設ける場合には、撹拌機(ミキサー)を用いて行う。
養生工程は、例えば、2カ月〜1年半間程度自然堆積することが望ましい。1年半を超える長期に養生すると、繊維性が損なわれ、気相率が低くなり、撥水性が高まり好ましくない。
【0011】
これにより、養生工程を設けたので、阻害成分を溶脱し、繊維を柔らくし、木屑を劣化させることができる。また、粉砕工程を、段階的に行うとともに、解繊処理工程を設けたので、樹皮繊維材料を、確実に羽毛状にすることができる。特に、解繊処理工程においては、例えば、膨潤機で繊維に圧力をかけ解繊するが、これにより、樹皮繊維材料がピートモス状に細繊維化される。その結果、作業時の取り扱いが容易になるとともに、硫黄華の樹皮繊維材料への付着性がより一層向上させられ、植物の生育も好ましいものになる。
【0012】
この場合、上記解繊処理工程において、樹皮繊維材料を、5mmの篩の通過割合が95重量%以上になるように処理することが有効である。樹皮繊維材料がより一層ピートモス状に細繊維化され、好ましい。
【0013】
また、必要に応じ、上記樹皮原料の木部混合率が10重量%以下である構成としている。望ましくは5重量%以下である。木部含有率が少ないので、樹皮繊維材料の品質が向上させられる。
【0014】
そして、上記の目的を達成するための本発明の樹皮繊維培土は、上記の樹皮繊維培土の製造方法によって製造された樹皮繊維培土にある。植物の葉縁から白化する現象を抑制し、根を十分に生育させ、最終的に枯死するという生育障害を防止することができる等、上記と同様の作用,効果を奏する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、硫黄華粉末を樹皮繊維材料に添加して混合するだけなので、製造が容易であり、製造効率を大幅に向上させることができる。特に、硫黄華粉末の混合量が極めて少ないので、混合も容易であり、安価に製造ができる。また、樹皮繊維培土を植物の栽培用として用いると、硫黄華の存在により、植物の葉縁から白化する現象を抑制し、根を十分に生育させ、最終的に枯死するという生育障害を防止することができる。即ち、簡易な手段で生育障害をできるだけ低減できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態に係る樹皮繊維培土の製造方法を示す工程図である。
【図2】本発明の実施例及び比較例に係るパンジーの苗の育成試験において、開花期における外観状態を示す写真である。
【図3】本発明の実施例及び比較例に係るパンジーの苗の育成試験において、開花期における根部形成状況を示す写真である。
【図4】本発明の実施例及び比較例に係るパンジーの苗の育成試験において、開花期における葉枯症状発生程度の結果を示すグラフ図である。
【図5】本発明の実施例及び比較例に係るパンジーの苗の育成試験において、開花期における地上部生体重量の測定結果を示すグラフ図である。
【図6】本発明の実施例及び比較例に係るパンジーの苗の育成試験において、当該試験終了後の各培地の土壌酸度(pH)と電気伝導度(EC)を測定した結果を示すグラフ図である。
【図7】本発明の実施例及び比較例に係る小松菜の育成試験において、葉枯症状発生程度及び地上部生体の草丈の測定結果を示すグラフ図である。
【図8】本発明の実施例において、杉樹皮繊維のサイズ別重量の測定結果を示す表図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面に基づいて、本発明の実施の形態に係る樹皮繊維培土の製造方法及び樹皮繊維培土について詳細に説明する。
図1には、本発明の実施の形態に係る樹皮繊維培土の製造方法に係る工程図を示している。本発明の実施の形態に係る樹皮繊維培土の製造方法は、樹皮原料を一次粉砕する一次粉砕工程(Sa)と、一次粉砕工程で一次粉砕された樹皮繊維材料を堆積して所要期間養生する養生工程(Sb)と、養生工程で養生された樹皮繊維材料を二次粉砕する二次粉砕工程(Sc)と、二次粉砕工程で二次粉砕された樹皮繊維材料を解繊処理する解繊処理工程(Sd)とを備えている。また、養生工程と二次粉砕工程との間、二次粉砕工程と解繊処理工程との間、解繊処理工程の後の少なくとも何れかのときに、樹皮繊維材料に硫黄華粉末を混合する硫黄華粉末混合工程(Se1,Se2,Se3)を設けている。
【0018】
樹皮原料としては、どのような樹種のものでも良いが、例えば、スギやヒノキ等の樹皮が用いられる。実施の形態においては、スギが用いられる。スギの樹皮原料は、製材所などで、スギ原木をバーカーで皮むきした際に得られる。樹皮原料の木部混合率(木屑率)は、10重量%以下、望ましくは、5重量%以下になるようにしている。
【0019】
次に各工程について説明する。
<一次粉砕工程(Sa)>
例えばハンマークラッシャ―により、樹皮原料を一次粉砕し、樹皮繊維原料を生成する。
【0020】
<養生工程(Sb)>
一次粉砕工程で一次粉砕された樹皮繊維材料を堆積して所要期間養生する。養生工程は、例えば、2カ月〜1年半間程度屋外で自然堆積することが望ましい。1年半を超える長期に養生すると、繊維性が損なわれ、気相率が低くなり、撥水性が高まり好ましくない。これにより、阻害成分が少しでも溶脱させられる。また、樹皮繊維材料の繊維が柔らくなり、木屑は劣化させられる。
【0021】
<二次粉砕工程(Sc)>
養生工程で養生された樹皮繊維材料を、例えばハンマークラッシャ―により、二次粉砕する。樹皮繊維材料が更に繊維化される。粉砕工程を、段階的に行うので、樹皮繊維材料を、確実に羽毛状にすることができる。
【0022】
<解繊処理工程(Sd)>
二次粉砕工程で二次粉砕された樹皮繊維材料を解繊処理する。特に、解繊処理工程においては、例えば、膨潤機で繊維に圧力をかけ解繊する。この場合、樹皮繊維材料を、5mmの篩の通過割合が95重量%以上になるように処理することが有効である。樹皮繊維材料がピートモス状に細繊維化され、好ましい。この場合、2mmの篩の通過割合が50重量%以上になるように処理することが好ましい。
【0023】
<硫黄華粉末混合工程(Se1,Se2,Se3)>
養生工程と二次粉砕工程との間に設けられる硫黄華粉末混合工程(Se1)、二次粉砕工程と解繊処理工程との間に設けられる硫黄華粉末混合工程(Se2)、解繊処理工程の後に設けられる硫黄華粉末混合工程(Se3)の何れか1つ以上を設ける。2以上設ける場合には、硫黄華粉末を分割して混合する。硫黄華粉末混合工程(Se1)及び硫黄華粉末混合工程(Se2)においては、ハンマーカッターへの樹皮繊維材料の投入時に硫黄華粉末を添加する。硫黄華粉末混合工程(Se3)では、例えば撹拌機(ミキサー)を用いて行う。
【0024】
硫黄華粉末は、樹皮繊維材料100重量部(乾物重量部)に対して、硫黄華粉末を、0.45〜2.7重量部混合する。望ましくは、樹皮繊維材料100重量部(乾物重量部)に対して、硫黄華粉末を、0.9〜1.8重量部混合する。
具体的には、樹皮繊維材料の含水率が66.8重量%の場合、例えば、樹皮繊維材料100重量部に対して、0.15〜0.9重量部、望ましくは、0.3〜0.6重量部混合する。この範囲で、効率的に生育障害の発生が軽減され、植物の生育は慣行並みとなる。
この場合、硫黄華粉末を、硫黄華粉末の重量の10〜50倍重量のゼオライトに混合して、樹皮繊維材料に混合する。これにより、ゼオライトにより混合物自体の量は増えるので、硫黄華の分散性が良くなり、ムラなく分散させることができる。
また、この混合物を樹皮繊維材料に混合するが、硫黄華粉末とゼオライトの混合物を、樹皮繊維材料に添加して混合するだけなので、製造が容易に行われ、製造効率が大幅に向上させられる。特に、硫黄華粉末とゼオライトの混合物の混合量が極めて少ないので、混合も容易であり、安価に製造ができる。
【0025】
更に、硫黄華粉末とゼオライトの混合物を樹皮繊維材料に混合すると、繊維材料は、養生工程において、阻害成分が溶脱して繊維が柔らかくなっており、また、粉砕工程を、一次及び二次と段階的に行うとともに、解繊処理工程を設けたので、確実に羽毛状になり、特に、解繊処理工程において、樹皮繊維材料がピートモス状に細繊維化されることから、その結果、硫黄華の樹皮繊維材料への付着性が良く、また、分散性も良くなる。
【0026】
このように製造された本発明の実施の形態に係る樹皮繊維培土は、例えば、含水率60〜70重量%、5mmの篩の通過割合が95重量%以上になり、木部含有率10重量%以下、pHが6.7〜7.1、CEC(塩基置換容量)が15.9、C/N比(炭素率)が143程度のものになる。
そして、この樹皮繊維培土を植物の栽培用として用いるときは、この樹皮繊維培土に、例えば、P(リン)、K(カリ)、N(チッソ)を含む液肥を含浸させ、例えば、植木鉢に入れ、これに栽培に係る植物の幼苗を植え込み、育成するようにする。この植物の栽培においては、植物の幼苗を移植後、葉縁から白化する現象が抑制され、根も十分に生育して張り、最終的に枯死するという生育障害が防止される。
これは、樹皮繊維材料に硫黄華を添加すると、培地が酸性に傾くが、このことにより、元々樹皮に含まれていた微量の鉄分が溶出し、生育障害の原因となるタンニン等のフェノール物質と結合して不溶化することに起因するものと推測される。
【実施例】
【0027】
次に、実施例について説明する。上記実施の形態で示したと同様の工程でスギ樹皮繊維培土を作成した。スギ樹皮繊維材料330g(含水率66.8重量%、容量約1L)当たり、硫黄華粉末を0.5g、1g、2g、3g、4g、5gを混合した。乾物重量部に換算すると、樹皮繊維材料100重量部(乾物重量部)に対して、硫黄華粉末を、0.45g,0.9g,1.8g,2.7g,3.6g,4.5g混合したことになる。
硫黄華粉末の添加混合は解繊処理後に行った。この場合、硫黄華粉末を、硫黄華粉末の重量の10倍重量のゼオライトに混合した混合物を樹皮繊維材料に添加して混合した。
【0028】
次に、これらの実施例について、試験を行った。
<試験例1>
各実施例330g(容量約1L)について、緩効性肥料(ハイポネックス社製「マグァンプK」細粒、肥料成分(重量%)N6−P40−K6−Mg15)を2.5g施用したものを、9cmポリポットに充てん後、十分量を潅水して放置した6区(「実施例」区という)を設けた。
また、比較例として、硫黄華を添加しないものに同じ緩効性肥料を2.5g施用したものを、9cmポリポットに充てん後、十分量を潅水して放置した1区(「無処理」区という)を設けた。
更に、火山灰(赤土)とピートモスを主体とする市販培土(三研ソイル株式会社製「パンジー子床培土」、肥料含有量(mg/Kg)N150−P700−K150)を9cmポリポットに充てん後、十分量を潅水して放置した1区(「慣行」区という)を設けた。
【0029】
これらの実施例,無処理,慣行の各区について、10月2日に用意し、これらを4日間放置後、これらに予め育苗していたパンジーの苗(品種:F1デルタプレミアムイエローウイズブロッチ)を、植え込んで鉢上げし、無加温パイプハウス内に置いた。鉢上げ後は、無追肥とし、開花期の11月20日に、葉枯症状発生程度と、地上部生体重量を調べた。
【0030】
開花期の11月20日における各区の外観状態を図2の写真に、根部形成状況を図3の写真に示す。また、葉枯症状発生程度を調べた結果を図4に示し、地上部生体重量の測定結果を図5に示す。
これらの結果から、図2の写真に示すように、地上部の生育量は、実施例区0.5gから5gの添加量の範囲においてほぼ慣行と同等となることが分かった。また、図3の写真に示すように、根郡形成の程度(外観)については、実施例区0.5g及び1gにおいて、慣行区程度と観察された。
尚、慣行は、赤土とピートモスを主体とした培養土であり、杉樹皮を用いていないので、生育を抑制する要素がなく、成績は良い。これに対して、実施例は、杉樹皮100%の培土であることから、慣行を超える事はない。杉樹皮に赤土を混合した場合には、より生育改善効果が認められる。
図4及び図5に示すように、樹皮繊維材料に硫黄華粉末を添加することによって、いずれも生育が改善され、地上部生体重量は慣行と略同等であり、生育障害が軽減されることが分かった。また、葉枯症状発生程度においては、実施例区1g及び2gにおいて、葉枯れ症状は解消された。
【0031】
<試験例2>
試験例1の実験後、各培地の土壌酸度(pH)と電気伝導度(EC)を測定した。結果を図6に示す。
この結果から、硫黄華の添加量が増すにしたがい、pHは低下しECは上昇する。一般に、多くの植物にとって生育に適する培土の条件として、土壌酸度(pH)においてpH5〜pH7の弱酸性の範囲が生育に適し、どの肥料成分も吸収しやすくなり、また、電気伝導度(EC)において、0.2〜0.4mS/cmの範囲内が生育に適し、0.8mS/cm以上では濃度障害などの悪影響があらわれるとされている。
従って、これらの適正条件を勘案すると、適正な硫黄華の添加量は、杉樹皮培地330g(容量約1L)当たり、1.0g〜2.0g、即ち、樹皮繊維材料100重量部(乾物重量部)に対して、硫黄華粉末を、0.9〜1.8重量部混合することがより最適な条件と考えられる。
【0032】
<試験例3>
上記のパンジーに変えて、小松菜について同様の栽培試験を行った。6月1日から6月30日まで育成したときにおいて、葉枯症状発生程度と、地上部生体の草丈を調べた。測定結果を図7に示す。この小松菜の結果からも、上記と同様のことが言える。
【0033】
<試験例4>
解繊処理工程においては解繊された樹皮(杉樹皮)繊維材料のサイズ別重量を測定した。結果を図8に示す。この結果から、繊維材料は、5mmの篩の通過割合が95重量%以上になっており、2mmの篩の通過割合が50重量%以上になるように処理されていることが分かる。
【0034】
尚、上記実施の形態においては、樹皮原料としてスギの樹皮を用いたが、必ずしもこれに限定されるものではなく、他の樹種の樹皮、あるいは、各種樹皮の混合であっても良く、適宜変更して差し支えない。
また、上記実施の形態においては、硫黄華粉末、あるいは、硫黄華粉末とゼオライトの混合物を添加したものを、樹皮繊維培土の製品としたが、必ずしもこれに限定されるものではなく、これに、液肥等他の材料を加えたものを製品としても良く、適宜変更して差し支えない。栽培する植物により与える肥料は種々異なることから、硫黄華粉末、あるいは、硫黄華粉末とゼオライトの混合物を添加したものを、樹皮繊維培土の製品とした場合には、汎用性があり、例えば、これを大量に肥料メーカなどに納入することができる。
【符号の説明】
【0035】
(Sa) 一次粉砕工程
(Sb) 養生工程
(Sc) 二次粉砕工程
(Sd) 解繊処理工程
(Se1,Se2,Se3)硫黄華粉末混合工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹皮原料を粉砕して樹皮繊維材料を生成し、該樹皮繊維材料を主成分とした樹皮繊維培土を製造する樹皮繊維培土の製造方法において、
上記樹皮繊維材料100重量部(乾物重量部)に対して、硫黄華粉末を、0.45〜2.7重量部混合したことを特徴とする樹皮繊維培土の製造方法。
【請求項2】
上記樹皮繊維材料100重量部(乾物重量部)に対して、硫黄華粉末を、0.9〜1.8重量部混合したことを特徴とする請求項1記載の樹皮繊維培土の製造方法。
【請求項3】
上記硫黄華粉末を、該硫黄華粉末の重量の10〜50倍重量のゼオライトに混合して上記樹皮繊維材料に混合することを特徴とする請求項1または2記載の樹皮繊維培土の製造方法。
【請求項4】
樹皮原料を一次粉砕する一次粉砕工程と、該一次粉砕工程で一次粉砕された樹皮繊維材料を二次粉砕する二次粉砕工程とを備え、
上記一次粉砕工程と二次粉砕工程との間、上記二次粉砕工程の後の少なくとも何れかのときに、上記樹皮繊維材料に硫黄華粉末を混合する硫黄華粉末混合工程を設けたことを特徴とする請求項1乃至3何れかに記載の樹皮繊維培土の製造方法。
【請求項5】
樹皮原料を一次粉砕する一次粉砕工程と、該一次粉砕工程で一次粉砕された樹皮繊維材料を堆積して所要期間養生する養生工程と、該養生工程で養生された樹皮繊維材料を二次粉砕する二次粉砕工程と、該二次粉砕工程で二次粉砕された樹皮繊維材料を解繊処理する解繊処理工程とを備え、
上記養生工程と二次粉砕工程との間、上記二次粉砕工程と解繊処理工程との間、上記解繊処理工程の後の少なくとも何れかのときに、上記樹皮繊維材料に硫黄華粉末を混合する硫黄華粉末混合工程を設けたことを特徴とする請求項1乃至3何れかに記載の樹皮繊維培土の製造方法。
【請求項6】
上記解繊処理工程において、樹皮繊維材料を、5mmの篩の通過割合が95重量%以上になるように処理することを特徴とする請求項5記載の樹皮繊維培土の製造方法。
【請求項7】
上記樹皮原料の木部混合率が10重量%以下であることを特徴とする請求項1乃至6何れかに記載の樹皮繊維培土の製造方法。
【請求項8】
上記請求項1乃至7何れかに記載の樹皮繊維培土の製造方法によって製造されたことを特徴とする樹皮繊維培土。

【図1】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−24006(P2012−24006A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−164641(P2010−164641)
【出願日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年3月21日 園芸学会発行の「園芸学研究 第9巻 別冊1 −2010− 園芸学会平成22年度春季大会研究発表要旨」に発表
【出願人】(390025793)岩手県 (38)
【出願人】(597054024)葛巻林業株式会社 (3)
【Fターム(参考)】