説明

樹脂の2成分混合薬液による飽和膨潤量の予測方法

【課題】樹脂の2成分混合薬液による飽和膨潤量を予測する方法を提供する。
【解決手段】樹脂を2成分混合薬液に浸漬したときの飽和膨潤量を、式(1),(2),(3)から計算的に求める。


ここで、ν1,ν2,ν3は膨潤した樹脂における体積分率を表し、ν1は混合薬液の第一成分の飽和膨潤体積分率、ν2は混合薬液の第二成分の飽和膨潤体積分率、ν3は樹脂の飽和膨潤体積分率である。χ12,χ13,χ23はFlory-Huggins相互作用パラメータを表し、χ12は混合薬液の第一成分と第二成分との相互作用パラメータ、χ13は混合薬液の第一成分と樹脂との相互作用パラメータ、χ23は混合薬液の第二成分と樹脂との相互作用パラメータである。nは結合点間のモノマー単位数である。u1は混合薬液における第一成分の体積分率である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂の2成分混合薬液による飽和膨潤量を予測する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂の1成分薬液による飽和膨潤量の予測については、Floryの著書(非特許文献1)に記されているが、2成分混合薬液における飽和膨潤量の予測は殆ど行われてはいない。
【非特許文献1】Flory, P. J. Principles of Polymer Chemistry; Cornell University Press: Ithaca, NY, 1953
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
飽和膨潤量は、耐薬品性試験の必須項目であり、樹脂部品の製品設計において極めて重要である。特に、結晶性樹脂は耐薬品性が求められる箇所に多く用いられることから、結晶性樹脂の飽和膨潤量が必要とされる場合が多い。2成分混合薬液による飽和膨潤量は、単純に、それぞれの薬液1成分での飽和膨潤量にそれぞれの混合比を乗じて合算した値で推定しようとしても、実際の飽和膨潤量から著しく外れ、どの混合比の場合に飽和膨潤量が最大になるかを予測することはできない。そのため、実際に混合比の異なる混合薬液で浸漬試験を繰り返し実施する必要があり、多大の時間と手間を必要とすることから、効率的な予測手段が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
樹脂を任意比率で混合された2成分からなる混合薬液に浸漬したときの飽和膨潤量は、式(1),(2),(3)から計算的に求めることができる。
また、結晶性樹脂においては、結合点間のモノマー単位数を、ラメラ晶に挟まれた非晶部の平均厚みを結晶格子における分子鎖軸方向でのモノマー単位の長さで除したものとすることにより、結合点となる主鎖分岐点が殆ど無いかもしくは僅かな樹脂においても計算式を応用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
1成分薬液による飽和膨潤量の式を拡張することで導いた、次の式(1),(2),(3)を用いることにより、2成分混合薬液による飽和膨潤量を計算で求めることができる。ここで、飽和膨潤量とは、薬液に浸漬した樹脂へ浸透した薬液の飽和重量を、浸漬前の樹脂重量に対して百分率で表したものである。
3成分以上の混合薬液においても、それぞれの薬液1成分での飽和膨潤量が1番多い成分と2番目に多い成分に対して本発明を実施することにより、近似的に飽和膨潤量を予測することができる。
【0006】
【数2】

【0007】
ここで、ν1,ν2,ν3は膨潤した樹脂における体積分率を表し、
ν1は混合薬液の第一成分の飽和膨潤体積分率、
ν2は混合薬液の第二成分の飽和膨潤体積分率、
ν3は樹脂の飽和膨潤体積分率である。
χ12,χ13,χ23はFlory-Huggins相互作用パラメータを表し、
χ12は混合薬液の第一成分と第二成分との相互作用パラメータ、
χ13は混合薬液の第一成分と樹脂との相互作用パラメータ、
χ23は混合薬液の第二成分と樹脂との相互作用パラメータである。
nは結合点間のモノマー単位数である。
1は混合薬液における第一成分の体積分率である。
【0008】
また、χ13及びχ23は、樹脂を第一成分だけの薬液及び第二成分だけの薬液にそれぞれ浸漬したときの飽和膨潤量を実際に測定することで、式(4)及び(5)からそれぞれ計算的に求めることができる。
【0009】
【数3】

【0010】
χ12は蒸気圧測定から求めることができる。また、これらの値は既に文献に示されている値を用いてもかまわない。
また、樹脂を第一成分だけの薬液及び第二成分だけの薬液にそれぞれ浸漬したときの飽和膨潤量に加えて、任意のある一つの混合比率u1で混合した二成分混合薬液に浸漬したときの飽和膨潤量を実測することで、式(4)及び(5)からそれぞれ求めたχ13及びχ23の値を用いて、式(1)、(2)、(3)からχ12を計算的に求めることができる。
【0011】
結晶性樹脂は結晶部と非晶部の積層構造から成るが、結晶部を形成するラメラ晶は相互にタイモレキュールで結ばれており、ラメラ晶に挟まれた部分(タイモレキュールを含む)が非晶部である。そこで、結晶部を、架橋構造を持つ非晶性樹脂における高分子の結合点と同等とみなすことで、結晶性樹脂についても、結合点間のモノマー単位数nを決めることができ、飽和膨潤量を予測することができる。
【0012】
結晶性樹脂においては、樹脂の非晶部のみが2成分の薬液によって膨潤するので、非晶部の割合を求める必要がある。例えば、密度法で結晶化度を測定することで、非晶部の割合を求めることができる。
ラメラ晶と非晶部で形成される積層構造における非晶部の平均厚みは、例えば小角X線散乱から求めることができる。
ほとんどの樹脂の結晶構造は解析され、文献に結晶格子の長さとモノマー数が示されており、分子鎖軸方向でのモノマー単位の長さを知ることができる。
非晶部の厚みを結晶格子における分子鎖軸方向でのモノマー単位の長さで除することにより、両端が結晶部に組み込まれた非晶部中の部分鎖のモノマー単位数nを決めることができる。
【0013】
上述のパラメータを用いて、樹脂の非晶部における各成分の体積分率を式(1),(2),(3)から計算的に求めることにより、2成分からなる混合薬液に浸漬したときの飽和膨潤量が求まる。
【実施例】
【0014】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
実施例1
ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂での60℃におけるトルエン(Toluene)/エタノール(Ethanol)混合薬液における飽和膨潤量を計算で求め、実際の測定値と比較した(PPS樹脂における各種パラメータ)
・結晶化度;30%(密度測定から、一般的な方法で決定した。)
・非晶部の厚み;6.6nm(小角X散乱測定から、一般的な方法で決定した。)
・結晶格子における分子鎖軸方向でのモノマー単位の長さ;1.026/2=0.513 nm
PPSの結晶格子c軸(分子鎖軸方向)長さ;1.026nm
PPSの結晶格子を形成するモノマー数;2
・結合点間のモノマー単位数;n=6.6/0.513=12.9
次に、薬液1をToluene(密度0.87160g/cm3)とし、飽和膨潤量(60℃)を実験により求めた。
飽和膨潤量は、浸漬前の試験片重量と浸漬平衡後の試験片重量の差から得る。
PPS(密度1.35g/cm3)100gに対して7.27g
結晶化度から非晶分率は0.70であり、樹脂の密度は1.35なので、
【0015】
【数4】

【0016】
となる。
これらの結果を前記式(4)に代入し計算すると、
混合薬液の第一成分と樹脂との相互作用パラメータ:χ13=1.45となる。
薬液2をEthanol(密度0.7893g/cm3)とし、飽和膨潤量(60℃)を実験により求めた。
PPS(密度1.35g/cm3)100gに対して0.85g
であり、上記と同様の計算からν3=0.980となる。
これらの結果を前記式(5)に代入し計算すると、
混合薬液の第二成分と樹脂との相互作用パラメータ:χ23=3.01
となる。
薬液1−2間の相互作用パラメータ(60℃)は、
χ12=1.75(文献中間値)
であり、薬液混合比u1=0.75とした場合、式(1),(2),(3)は次のようになる。
【0017】
【数5】

【0018】
その解は、
ν1=0.110、ν2=0.020、ν3=0.870となる。
次の連立方程式から、高分子ゲルの膨潤平衡時の薬液1(Toluene),薬液2(Ethanol)の重量(それぞれw1,w2する)が算出される。
【0019】
【数6】

【0020】
w1=5.718、w2=0.9405
w1+w2=6.66
これから、飽和膨潤量を重量変化率で表すと、6.66%となる。
薬液混合比u1=0.50の場合も同様に計算される。
w1+w2=6.05
同じく重量変化率は、6.05%となる。
薬液混合比u1=0.25の場合も同様に計算される。
w1+w2=4.51
同じく重量変化率は、4.51%となる。
【0021】
(参考例)
実施例1と同じ成分で同じ割合の混合薬液を用いて、60℃におけるPPS100 gあたりの飽和膨潤量を実験により求めた。
薬液混合比u1=0.75における飽和膨潤量は、w1+w2=6.59であった。
即ち、重量変化率は6.59%となる。
薬液混合比u1=0.50における飽和膨潤量は、w1+w2=6.08であった。
即ち、重量変化率は6.08%となる。
薬液混合比u1=0.25における飽和膨潤量は、w1+w2=4.30であった。
即ち、重量変化率は4.30%となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】参考の実験値と実施例1の計算で求めた予測値をプロットした図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂を2成分混合薬液に浸漬したときの飽和膨潤量を、式(1),(2),(3)から計算的に求める飽和膨潤量予測方法。
【数1】

ここで、ν1,ν2,ν3は膨潤した樹脂における体積分率を表し、
ν1は混合薬液の第一成分の飽和膨潤体積分率、
ν2は混合薬液の第二成分の飽和膨潤体積分率、
ν3は樹脂の飽和膨潤体積分率である。
χ12,χ13,χ23はFlory-Huggins相互作用パラメータを表し、
χ12は混合薬液の第一成分と第二成分との相互作用パラメータ、
χ13は混合薬液の第一成分と樹脂との相互作用パラメータ、
χ23は混合薬液の第二成分と樹脂との相互作用パラメータである。
nは結合点間のモノマー単位数である。
1は混合薬液における第一成分の体積分率である。
【請求項2】
樹脂が結晶性樹脂の場合において、nを、ラメラ晶に挟まれた非晶部の平均厚みを結晶格子における分子鎖軸方向でのモノマー単位の長さで除したものとする、請求項1記載の飽和膨潤量予測方法。
【請求項3】
結晶性樹脂がポリフェニレンサルファイドである請求項2記載の飽和膨潤量予測方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−57533(P2009−57533A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−288035(P2007−288035)
【出願日】平成19年11月6日(2007.11.6)
【出願人】(390006323)ポリプラスチックス株式会社 (302)
【Fターム(参考)】