説明

樹脂または樹脂組成物の難燃化方法。

【課題】
本発明の目的は、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムを単体で用いた時よりも効果の高い新たな樹脂の難燃化方法を提供することである。
【解決手段】
樹脂または樹脂組成物に、難燃剤として、長径が0.3μm以上1.0μm以下、短径が0.05μm以上0.6μm以下の黄色酸化鉄を、全量に対して3重量%以上50重量%以下含有させることを特徴とする樹脂または樹脂組成物の難燃化方法。難燃剤としてさらに黄色酸化鉄以外の金属水酸化物系難燃剤を含有させることを特徴とする樹脂または樹脂組成物の難燃化方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂または樹脂組成物の難燃化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂製品は様々な用途に利用されているが、一般的に可燃性であるために、難燃性を付与する要請は多い。それに対して供給者は、樹脂に難燃化剤を添加することでそのニーズに応えている。難燃化剤として公知なものとしては、無機系難燃剤、リン系難燃剤、ハロゲン系難燃剤、アンチモン系難燃剤などが挙げられる。
【0003】
樹脂に難燃性を付与するニーズの一例としては、ビルや住宅といった建築物の屋上やベランダに防水性を付すためのコート材が挙げられる。コート材はベランダや屋上部分の表層に塗布され、コート層を形成する。当該コート層は樹脂を主体としているが、近年、火災等に対応するため、前記コート層に難燃性を付与している。特許文献1では、ベランダ用のコート層を作製するためのコート材に適用可能な難燃剤として、無機系難燃剤、リン系難燃剤、ハロゲン系難燃剤、アンチモン系難燃剤が挙げられている。
【0004】
しかし、前記の難燃剤にはそれぞれ欠点がある。無機系難燃剤の1種である水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムは、毒性が小さく、環境への影響も少ないが、十分な難燃性を引き出すには高充填量を必要とするため、樹脂物性が低下する。リン系難燃剤は燃焼時の残渣が水質汚染の原因となる。ハロゲン系難燃剤は燃焼時にハロゲン由来の有毒ガスやダイオキシンが発生する。アンチモン系難燃剤には特許文献2に記載のように毒性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−127898号公報
【特許文献2】特開平11−199717号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、安全性が高く、環境への影響が少なく、難燃効果に優れた樹脂または樹脂組成物の難燃化方法、当該難燃化方法を施された樹脂組成物、当該樹脂組成物から製造された樹脂製品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、樹脂または樹脂組成物に一定範囲の粒径の黄色酸化鉄を所定量含有させることにより前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
請求項1記載の発明は、
樹脂または樹脂組成物に、難燃剤として、長径が0.3μm以上1.0μm以下、短径が0.05μm以上0.6μm以下の黄色酸化鉄を、全量に対して3重量%以上50重量%以下含有させることを特徴とする樹脂または樹脂組成物の難燃化方法である。
【0009】
黄色酸化鉄(FeOOHまたはFe2O3・H2O)は水酸化物であり、180℃前後で比較的容易に結晶水が離脱してFe2O3に変化する。樹脂または樹脂組成物中に黄色酸化鉄を添加すると、火災の際、当該樹脂が熱せられ、黄色酸化鉄中の結晶水が遊離し、当該樹脂または樹脂組成物の燃焼を抑える働きがある。
【0010】
請求項2記載の発明は、
難燃剤としてさらに黄色酸化鉄以外の金属水酸化物系難燃剤を含有させることを特徴とする請求項1記載の樹脂または樹脂組成物の難燃化方法である。
【0011】
樹脂または樹脂組成物中に黄色酸化鉄の他に金属水酸化物系難燃剤を添加すると、黄色酸化鉄による低温域(180℃付近)における結晶水の遊離と、当該黄色酸化鉄よりも高温域の金属水酸化物系難燃剤による水の遊離との相乗効果を期待できる。
【0012】
請求項3記載の発明は、
前記黄色酸化鉄以外の金属水酸化物系難燃剤が水酸化アルミニウム及び/または水酸化マグネシウムであることを特徴とする請求項1または2記載の樹脂または樹脂組成物の難燃化方法である。
【0013】
請求項4記載の発明は、
前記樹脂または樹脂組成物に、黄色酸化鉄由来の黄色の発色を妨げる効果のある顔料を含有させることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の樹脂または樹脂組成物の難燃化方法である。
【0014】
黄色酸化鉄は黄色顔料であるが、意匠性の観点から黄色味を出したくない場合には、当該樹脂または樹脂組成物に黄色酸化鉄の黄色の発色を妨げるような顔料を添加する。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、樹脂または樹脂組成物の安全で環境への影響の少ない難燃効果に優れた難燃化方法を提供できる。さらに、当該難燃化方法により難燃化された樹脂組成物および当該樹脂組成物から製造された難燃性樹脂製品は難燃性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本実施形態は、本発明を実施するための一形態に過ぎず、本発明は本実施形態によって限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更実施の形態が可能である。
【0017】
本発明は、樹脂または樹脂組成物に、難燃剤として、長径が0.3μm以上1.0μm以下、短径が0.05μm以上0.6μm以下の黄色酸化鉄を、全量に対して3重量%以上50重量%以下含有させることを特徴とする樹脂または樹脂組成物の難燃化方法である。本発明では、難燃剤として黄色酸化鉄を使用するが、黄色酸化鉄を難燃剤として使用する事例はこれまで知られていない。
【0018】
本発明で用いられる黄色酸化鉄は、天然にはゲーサイトという鉱物で産出される、FeOOHまたはFe2O3・H2Oで表される水酸化物である。オキシ水酸化鉄またはオーカーとも呼ばれ、180℃前後で比較的容易に結晶水が離脱してFe2O3に変化するという特徴がある。黄色酸化鉄を樹脂または樹脂組成物に添加すると、当該樹脂または樹脂組成物から製造された樹脂製品が、火災などで火に接触した場合でも、当該樹脂製品中に含まれる黄色酸化鉄より結晶水が遊離し、当該樹脂製品を燃えにくくする難燃効果を発揮する。
【0019】
本発明で用いる黄色酸化鉄の難燃化のメカニズムは、水和金属化合物による脱水吸熱反応と、燃焼灰が樹脂表面に付着することによる酸素遮蔽効果によるものと推察される。
【0020】
水和金属化合物による脱水吸熱反応は、従来から難燃剤と利用されている水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムと同じメカニズムであるが、黄色酸化鉄(水の遊離温度:180℃)は水酸化アルミニウム(分解温度:200〜350℃)や水酸化マグネシウム(水の遊離温度:300℃)と比較して分解温度が低い。水が遊離する温度が低い方が燃焼の立ち上がり時の燃焼効率を抑制し、難燃性を高める効果があると考えられる。
【0021】
さらに燃焼灰が樹脂表面に付着することによる酸素遮蔽効果とは、当該樹脂が炎に触れて表面が焦げて燃焼灰が生成した際に、当該燃焼灰が樹脂表層に付着したまま落下しない効果をいい、黄色酸化鉄に特有の効果である。この2つの効果により、従来の金属水酸化物系難燃剤である水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムに比して、より低充填量で高い難燃効果を発揮できるものと考えられる。
【0022】
なお、本発明で用いられる黄色酸化鉄は、長径が0.3μm以上1.0μm以下、短径が0.05μm以上0.6μm以下の粒子形状のものが、難燃剤として好適である。
【0023】
また、樹脂または樹脂組成物中に黄色酸化鉄の他に金属水酸化物系難燃剤を添加すると、黄色酸化鉄による低温域(180℃付近)における結晶水の遊離と、当該黄色酸化鉄よりも高温域の金属水酸化物系難燃剤による水の遊離との相乗効果を期待できる。例えば、黄色酸化鉄と水酸化アルミニウムとを組み合わせた場合には、樹脂または樹脂組成物表面の温度が180℃に到達したときに黄色酸化鉄より結晶水が遊離するが、さらに燃焼が進んだ場合、200℃程度から水酸化アルミニウムの分解が開始され、水が遊離し、難燃効果を高める。
【0024】
本発明の難燃化方法は、最終的な樹脂製品になるまでに180℃以上に加熱されない樹脂であればいかなる樹脂にでも適用可能である。最終的な樹脂製品になる前に180℃以上の熱を与えると、当該樹脂製品に含まれる黄色酸化鉄より結晶水が遊離してしまい、十分な難燃性能を発揮できない。
【0025】
なお、ここでいう樹脂製品とは、樹脂より成型された成型物、フィルム、フラットヤーン、不織布などの樹脂から製造される製品に留まらず、ベランダや屋上のコート層、塗料による塗膜などの物品にコートした樹脂からなる層状のものなども含まれる。
【0026】
前記に該当する樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂などが挙げられる。また熱可塑性樹脂においても、製造段階で180℃以上に加熱されないポリエチレンなどには適用可能である。
【0027】
前記樹脂のうち、不飽和ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂などは、塗料やコート材などとして利用される樹脂であり、塗膜を形成するまでは溶剤などに溶かされており、液体である。最終的な樹脂製品となるのは塗膜成形後であり、塗膜形成までのプロセスにおいて180℃以上に加熱されることはほとんど考えられない。
【0028】
一方、前記樹脂のうち熱可塑性樹脂は、最終的な樹脂製品の製造工程に押出機や射出成形機などによる加熱工程があるのが一般的である。本発明の方法は、加熱工程における最大到達温度が180℃以下であれば適用可能である。最大到達温度が180℃以下の熱可塑性樹脂の代表例はポリエチレンである。
【0029】
本発明においては、樹脂または樹脂組成物の全量に対して黄色酸化鉄を3重量%以上50重量%以下含有させることが望ましい。樹脂組成物の全量に対して黄色酸化鉄を3重量%以上添加すれば、樹脂組成物の全量に対して水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムを10重量%以上添加した際の難燃性能と、同等もしくはそれ以上の難燃性能を、樹脂または樹脂組成物に付与できる。また、樹脂または樹脂組成物の全量に対して黄色酸化鉄を50重量%より多く添加すると、樹脂または樹脂組成物の物性を低下させる恐れがある。
【0030】
本発明で適用可能な樹脂組成物には、顔料、ワックス、硬化剤、硬化促進剤、揺変剤、溶剤等を必要に応じて添加することができる。
【0031】
本発明に適用可能な顔料は、酸化チタン、酸化亜鉛、弁柄、チタニウムオキサイド系焼成顔料、群青、アルミン酸コバルト、カーボンブラックなどの無機顔料、アゾ系、キナクリドン系、アンスラキノン系、ペリレン系、イソインドリノン系、フタロシアニン系、キノフタロン系、スレン系、ジケトピロロピロール系などの有機顔料、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、タルクなどの体質顔料等が挙げられる。
【0032】
なお本発明においては、意匠性の観点から黄色酸化鉄由来の黄色味を出したくない場合には、当該樹脂または樹脂組成物に黄色酸化鉄の黄色の発色を妨げるような顔料を添加する。黄色酸化鉄の黄色の発色を妨げるような顔料は、上記に例示列挙した顔料から選択し、調色によって適宜組み合わせて、顧客の要望に応じた色目にする。
【0033】
本発明に適用可能なワックスは、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックス、ポリエチレンワックスなどが挙げられる。
【0034】
本発明に適用可能な硬化剤は、有機過酸化物が挙げられるが、公知の光硬化剤、紫外線硬化剤等のラジカル重合開始剤も用いてもよい。具体的にはジアシルパーオキサイド系、パーオキシエステル系、ハイドロパーオキサイド系、ジアルキルパーオキサイド系、ケトンパーオキサイド系、パーオキシケタール系、アルキルパーエステル系、パーカーボネート系等の公知のものが単独もしくは2種以上で使用される。
【0035】
本発明に適用可能な硬化促進剤は、硬化剤の有機過酸化物をレドックス反応によって分解し、活性ラジカルの発生を容易にする作用のある物質であり、例えばコバルト系、バナジウム系、マンガン系等の金属石鹸類、第3級アミン類、第4級アンモニウム塩、メルカプタン類等が挙げられる。
【0036】
本発明に適用可能な揺変剤は、有機系では、アマイドワックス、硬化ヒマシ油、酸化ポリエチレン、ポリエーテルやポリエステル、無機系ではシリカやベントナイト等が挙げられるが、いずれの揺変剤も適用可能である。
【実施例】
【0037】
以下に実施例、比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。実施例、比較例では、不飽和ポリエステル樹脂を用いたコート材樹脂組成物について例示した。
【0038】
表1に不飽和ポリエステル樹脂を使用したコート材の主剤および硬化剤の組成および使用した黄色酸化鉄の長径、短径を示した。
<表1>

なお、本実施例・比較例に使用した黄色酸化鉄は、タロックスLL−XLO(チタン工業(株)製、表1中※1)、BAYFEROX3910(ランクセス社、表1中※2)、BAYFEROX915(ランクセス社、表1中※3)また、水酸化アルミニウムはハイジライトH32(昭和電工(株)製)、不飽和ポリエステル樹脂は「ポリホープN325(ジャパンコンポジット(株)製)」、メチルエチルケトンパーオキサイド溶液は「パーメリックN(日本油脂株式会社製)」である。
【0039】
本実施例、比較例に使用した黄色酸化鉄の長径および短径は、添加前に透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社製JEM-2010)により測定した。その結果は表1に示した。なお、本コート材の製造過程においては粉砕工程を含まないため、コート層作製後の黄色酸化鉄の長径及び短径はコート材作製前の長径及び短径と差異はない。
【0040】
表1に示した各材料を混合し、均一になるまでディゾルバーで攪拌し、各コート材の主剤を得た。
【0041】
<燃焼評価試験>
難燃性試験に供する試験片は以下のように作製した。
表1に示した組成になるように主剤に硬化剤を添加し、当該混合剤を剥離剤の塗布されたガラス板で挟みこんだ。50℃・24時間で硬化させ、その後ガラス板を外して、1mm厚のプレートを得た。当該プレートを、150mm x 10mm x 1mmの大きさの棒状にカットし、試験片とした。
【0042】
作製した試験片をJIS K7201−2:2007に準じて、酸素指数法による燃焼試験を実施して、酸素濃度(%)を算出した。本試験においては、酸素濃度の値が大きいほど難燃性が高いと評価される。各実施例・比較例の酸素濃度(%)は表1に示した。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の樹脂または樹脂組成物の難燃化方法を用いることで、火災に対抗できる樹脂製品を提供することが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂または樹脂組成物に、難燃剤として、長径が0.3μm以上1.0μm以下、短径が0.05μm以上0.6μm以下の黄色酸化鉄を、全量に対して3重量%以上50重量%以下含有させることを特徴とする樹脂または樹脂組成物の難燃化方法。
【請求項2】
難燃剤としてさらに黄色酸化鉄以外の金属水酸化物系難燃剤を含有させることを特徴とする請求項1記載の樹脂または樹脂組成物の難燃化方法。
【請求項3】
前記黄色酸化鉄以外の金属水酸化物系難燃剤が水酸化アルミニウム及び/または水酸化マグネシウムであることを特徴とする請求項1または2記載の樹脂または樹脂組成物の難燃化方法。
【請求項4】
前記樹脂または樹脂組成物に、黄色酸化鉄由来の黄色の発色を妨げる効果のある顔料を含有させることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の樹脂または樹脂組成物の難燃化方法。

【公開番号】特開2012−211238(P2012−211238A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77047(P2011−77047)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000219912)東京インキ株式会社 (120)
【Fターム(参考)】