説明

樹脂加工布

【課題】経済的で環境に優しい、バイオマス由来ポリマーを使用した樹脂加工布の提供。
【解決手段】基布を構成する繊維が石油系由来ポリマーからだけでなく、少なくとも25質量%がバイオマス由来ポリマーからなる繊維であることを特徴とする樹脂加工布。バイオマス由来ポリマーからなる繊維は芯鞘構造を呈した複合繊維であって、該鞘部がポリエチレンテレフタレート、該芯部がポリ乳酸からなることが好ましく、また該基布におけるカバーファクター(CF)が350以上2200以下であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバイオマス由来ポリマーを含んでなる加工布であって、建設工事用シート、建設工事用メッシュシート等に好適に使用できる樹脂加工布に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の合成繊維は、その大部分が石油などの限りある化石燃料資源を原料としているが、近年、該化石燃料資源はその埋蔵残量が懸念されるだけでなく、焼却廃棄時に発生する二酸化炭素についても地球温暖化を誘引するものとして大きな社会問題化している。したがって、上記の課題をクリアする新たな資源の探索・開発が急務となっている。この中で、バイオマス由来物質が、廃棄後においても新たに余分な二酸化炭素を産出しない資源として注目を集めている。これは、バイオマス由来の物質から製造された資材等は、燃焼させても、その際に発生する二酸化炭素はもともと大気中にあったものであり、人類の産業活動のタイムスケールにおいて、大気中の二酸化炭素のマクロバランスとしては増加しないという考え方に基づくものである。これはカーボンニュートラルと称され、重要視される傾向にある。
【0003】
例えば、バイオマス由来物質から製造されたプラスチック製品では、石油系由来のプラスチック製品に比べて環境負荷が少なく、かつ炭酸ガスのバランスを崩すことが無いなどの特徴を有するため、地球温暖化防止、化石燃料資源の節約、自然環境の保全に資するとの認識が社会的に定着しつつある。さらに、バイオマス由来のプラスチック製品の普及促進を図るため、既存の石油系由来のプラスチック製品と識別するための制度として、民間の任意団体である日本バイオプラスチック協会が「バイオマスプラ識別表示制度」を提唱し、その中で、バイオマス由来ポリマー成分を25.0質量%以上含むことを認定基準としている。
【0004】
ここで、樹脂加工布に焦点をあてると、環境負荷の少ないポリマーとして、例えば、ポリ乳酸または乳酸類とその他のヒドロキシカルボン酸とのコポリマーを主成分とする熱可塑性ポリマー組成物から製造された産業資材織物やポリ乳酸繊維を用いてなる樹脂加工布、工事用シートが開示されている(例えば特許文献1,2および3参照)。しかし、これらの開示技術は生分解性を主たる目的とし、石油系由来のモノマー成分も包含した技術的思想に根ざしたものであり、バイオマスを使用する目的での記載は無い。
【0005】
また、バイオマス由来ポリマーの使用形態として、ポリ乳酸系樹脂を芯に、芳香族ポリエステル系樹脂を鞘に配した複合糸について開示されている(例えば特許文献4,5および6)。しかしながら、具体的な用途について詳細が記載されておらず、また、各資材についての要求性能についても触れられておらず、具体的に環境に配慮したバイオマスを使用した樹脂加工布の作製技術は見出されていない。
【0006】
また一方、現段階ではバイオマス由来ポリマーは汎用樹脂と比較して生産量が少ないため、安価ではないという問題点を抱えている。
【0007】

【特許文献1】特開平6−065835号公報
【特許文献2】特開2001−303426号公報
【特許文献3】特開2001−303387号公報
【特許文献4】特開2004−353161号公報
【特許文献5】特開2550−187950号公報
【特許文献6】特開2005−232627号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、この様な現状に鑑みて行われたもので、バイオマス由来ポリマーを25〜60質量%含有することで二酸化炭素発生量を低減するなど環境に優しく、また良好な要求性能を保持しながら、石油系ポリマーと併用することで経済的に生産できる樹脂加工布を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、このような課題を解決するために鋭意検討した結果、基布に樹脂加工されてなる樹脂加工布において、バイオマス由来ポリマーを樹脂加工布全質量に対し25〜60質量%の範囲で含有させることにより、環境に配慮し、かつ物性的に遜色のない樹脂加工布を得ることができるという知見を見出し、本発明に到達した。すなわち本発明は、以下の構成を要旨とするものである。
(a).基布に樹脂加工を施してなる加工布において、該基布がバイオマス由来ポリマーを含んでなる繊維にて構成され、カバーファクター(CF:下記式(1))が250〜2200であり、かつ、バイオマス由来ポリマーの含有比率が前記加工布の全質量に対し25〜60質量%であることを特徴とする樹脂加工布。
(b).前記バイオマス由来ポリマーを含んでなる繊維が芯鞘構造を呈した複合繊維であって、該鞘部がポリエチレンテレフタレート、該芯部がポリ乳酸からなることを特徴とする(a)記載の樹脂加工布。
(c).(a)又は(b)記載の加工布が、建築工事用シート又は建築工事用メッシュシートのいずれかであることを特徴とする樹脂加工布。
カバーファクター(CF)=Td・(Ts/pt)1/2+Yd・(Ys/py)1/2
・・・(1)
Td:タテ織密度(本/2.54cm)
Yd:ヨコ織密度(本/2.54cm)
Ts:タテ糸繊度(デシテックス)
Ys:ヨコ糸繊度(デシテックス)
pt:タテ糸材料の比重(g/cm
py:ヨコ糸材料の比重(g/cm

【発明の効果】
【0010】
本発明の樹脂加工布は、バイオマス由来ポリマーを25〜60質量%含有しているため、従来のような全成分が石油系由来ポリマーからなる樹脂加工布に比べ、焼却廃棄にあたっても大気中の二酸化炭素を増加させる度合いが少なく、地球温暖化を軽減させる効果を奏する。
【0011】
また、本発明の樹脂加工布は、脂肪族成分がリッチであるバイオマス由来ポリマーを構成成分として25〜60質量%含んでいながら、樹脂加工布として求められる力学特性や施工性などにおいて優れた性能を保持している。
【0012】
本発明の樹脂加工布は、例えば、トラック幌、野積みシート、船舶用シート、バックリット、テント類、ルーフィング材料、フレキシブルコンテナ、オイルフェンスなどの用途に好適に用いることができる。また、建築工事用途にあっては、建築工事用シート、建築工事用メッシュシートとして好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の樹脂加工布としては、基布に樹脂加工を施してなる形態を有するものであり、基布と、該基布に施された樹脂加工部とから構成される。
【0014】
本発明の樹脂加工布としては、バイオマス由来ポリマーが樹脂加工布の全質量に対し25〜60質量%含有することが必要であり、好ましくは30〜55質量%含有するものである。バイオマス由来ポリマーの含有率が25質量%未満の場合、例えばポリエチレンテレフタレートなどの従来の汎用ポリマーの含有割合が多くなるため、樹脂加工布の力学物性などにおいては好ましい傾向になる。しかしながら、本発明の趣旨である環境負荷の軽減、カーボンニュートラルの観点にはそぐわないものであり、またバイオプラスチックの認定には当てはまらないものとなる。
【0015】
一方、バイオマス由来ポリマーの含有率が60質量%を超える場合、例えば、バイオマス由来ポリマーが脂肪族ポリエステルであり、基布を構成する繊維に使用される場合、得られた樹脂加工布の力学強度や耐候性において、求められる特性を保持できなくなる。また、樹脂加工量を減らし樹脂加工部の樹脂加工布全体に占める比率を小さくすることで、ポリマー由来ポリマーの含有比率を上げることはできるが、逆に加工布としての耐摩耗性や耐候性等が低下する傾向となるため、総合的なバランスを見た場合、60質量%が上限となる。
【0016】
また、本発明におけるバイオマス由来のポリマーとしては、溶融紡糸が可能であるものであればよく、特に限定されるものではない。具体的にはPLA(ポリ乳酸)、PTT(ポリトリメチレンテレフタレート)やPBS(ポリブチレンサクシネート)などバイオマス由来のモノマーを化学的に重合してなるポリマー類やポリヒドロキシ酪酸などのPHA(ポリヒドロキシアルカノエート)などの微生物生産系を挙げることができる。好ましくは耐熱性的に安定で、比較的量産化されてきているポリ乳酸がよい。ポリ乳酸としては、ポリD−乳酸、ポリL−乳酸、ポリD−乳酸とポリL−乳酸との共重合体であるポリDL−乳酸、ポリD−乳酸とポリL−乳酸との混合物(ステレオコンプレックス)、ポリD−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、ポリL−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、ポリD−乳酸またはポリL−乳酸と脂肪族ジカルボン酸および脂肪族ジオールとの共重合体、あるいはこれらのブレンド体などが挙げられる。
【0017】
また、ポリ乳酸を使用する場合、上記のようにD−乳酸とL−乳酸が単独で用いられているもの、もしくは併用されているものであるが、中でも融点が120℃以上、融解熱が10J/g以上であることが好ましい。例えば、ポリ乳酸のホモポリマーであるポリL−乳酸やポリD−乳酸の融点は約180℃であるが、D−乳酸とL−乳酸との共重合体の場合、いずれかの成分の割合を10モル%程度とすると、融点はおよそ130℃程度となる。さらに、いずれかの成分を18モル%以上とすると、融点は120℃未満、融解熱は10J/g未満となって、ほぼ完全に非晶性の性質となる。このような非晶性のポリマーとなると、製造工程において特に熱延伸し難くなり、高強度の繊維が得られに難くなるとうい問題が生じたり、繊維が得られたとしても、耐熱性、耐摩耗性に劣ったものとなるため好ましくない。そこで、ポリ乳酸としては、ラクチドを原料として重合する時のL−乳酸やD−乳酸の含有割合で示されるL−乳酸やD−乳酸の含有比(モル比)であるL/D又はD/Lが82/18以上のものが好ましく、中でも90/10以上、さらには95/5以上とすることが好ましい。
【0018】
また、使用されるポリ乳酸が、上記したようなポリD−乳酸とポリL−乳酸との混合物(ステレオコンプレックス)の場合は、融点が200〜230℃と高く、摩擦熱などの影響を受けにくいため、特に好ましい。また、使用されるポリ乳酸がポリ乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体である場合、ヒドロキシカルボン酸の具体例としてはグルコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシペンタン酸ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸等が挙げられ、中でもヒドロキシカプロン酸またはグルコール酸を用いることがコスト面からも好ましい。ポリ乳酸と脂肪族ジカルボン酸及び脂肪族ジオールとの共重合体の場合は、脂肪族ジカルボン酸及び脂肪族ジオールとしては、セバシン酸、アジピン酸、ドデカン二酸、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール等が挙げられる。また、このようなポリ乳酸に他の成分を共重合させる場合では、ポリ乳酸を80モル%以上とすることが好ましい。ポリ乳酸が80モル%未満であると、共重合ポリ乳酸の結晶性が低くなり、融点120℃未満、融解熱10J/g未満となりやすい。
【0019】
また、ポリ乳酸の分子量としては、分子量の指標として用いられるASTM D−1238法に準じ、温度210℃、荷重2160gで測定したメルトフローレートが、1〜100(g/10分)であることが好ましく、より好ましくは5〜50(g/10分)である。メルトフローレートをこの範囲にすることにより、強度、湿熱分解性、耐摩耗性がさらに向上する。
【0020】
また、ポリ乳酸の耐久性を高める目的で、ポリ乳酸に脂肪族アルコール、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物、エポキシ化合物などの末端封鎖剤を添加してもよい。さらに、本発明の目的を損なわない範囲であれば必要に応じて、ポリ乳酸中に熱安定剤、結晶核剤、艶消剤、顔料、耐光剤、耐候剤、滑剤、酸化防止剤、抗菌剤、香料、可塑剤、染料、界面活性剤、難燃剤、表面改質剤、各種無機及び有機電解質、その他類似の添加剤を添加してもよい。
【0021】
本発明の樹脂加工布において使用されるバイオマス由来ポリマー以外のポリマーとしては、特に制限されるものではないが、基布として使用する場合には溶融紡糸が可能な石油系由来ポリマーであることが好ましい。具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタテート、ポリトリメチレンテレフタレートなどのポリアルキレンテレフタレートに代表されるポリエステル:ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン11およびナイロン12に代表されるポリアミド:ポリプロピレンやポリエチレンに代表されるポリオレフィン:ポリ塩化ビニルやポリ塩化ビニリデンに代表されるポリ塩化ポリマー:ポリ4フッ化エチレンならびにその共重合体、ポリフッ化ビニリデンなどに代表されるフッ素系繊維などが挙げられる。好ましくは低コストであるポリエステルやポリアミド系ポリマーがよい。またより好ましくは、バイオマス系ポリマーでは脂肪族ポリエステル系ポリマーが多いことから、相溶性の面からポリエステル系がよい。特に好ましくはコスト面や取扱い性からポリエチレンテレフタレートがよい。
【0022】
また、粘度、熱的特性、相溶性を鑑みて上記のポリエステル系ポリマーには、他のモノマー成分を共重合させてもいてもよい。例えば、酸成分としては、イソフタル酸、5−スルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸:アジピン酸、コハク酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸などが挙げられ、アルコール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどの脂肪族ジオールなどが挙げられる。また、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸などのヒドロキシカルボン酸:ε―カプロラクトンなどの脂肪族ラクトンなどを共重合していてもよい。
【0023】
また、本発明における石油系由来の汎用ポリマー、バイオマス由来のポリマーには必要に応じて各種充填剤、増粘剤、結晶核剤として効果を示す公知の添加剤を添加することができる。具体的にはカーボンブラック、炭酸カルシウム、酸化ケイ素及びケイ酸塩、亜鉛華、ハイサイトクレー、カオリン、塩基性炭酸マグネシウム、マイカ、タルク、石英粉、ケイ藻土、ドロマイト粉、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アンチモン、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、アルミナ、ケイ酸カルシウム、窒化ホウ素、ベヘン酸アミド等の脂肪族アミド系化合物、脂肪族尿素系化合物、ベンジリデンソルビトール系化合物、架橋高分子ポリスチレン、ロジン系金属塩や、ガラス繊維、ウィスカー等が挙げられる。該物質は、そのまま添加してもよいし、ナノコンポジットとして必要な処理の後添加することもできる。価格や良好な物性バランスを達成するためには、無機の充填剤の配合が好ましい。また、結晶核剤の配合が好ましい。
【0024】
本発明におけるバイオマス由来ポリマーを含んでなる繊維としては、特に制限されるものではなく、例えば、石油系由来ポリマーからなる繊維とバイオマス由来ポリマーからなる繊維とを合撚して得られる繊維、生地の経緯方向に別々に製織して得られる繊維、所定の間隔おきに石油系由来ポリマーからなる繊維とバイオマス由来ポリマーを設定して得られる繊維、バイオマス由来ポリマーからなる繊維に石油系由来ポリマーからなる繊維をカバーリングして得られる繊維、また、石油系由来ポリマーとバイオマス由来ポリマーを使用した複合繊維およびこれらの組み合わせによる繊維等から適宜選択することができる。これらの中で、本発明におけるバイオマス由来ポリマーを含んでなる繊維としては、石油系由来ポリマーとバイオマス由来ポリマーからなる複合繊維が好ましい。また、複合繊維としても、異形断面型複合繊維やサイドバイサイド型複合繊維、芯鞘型複合繊維など、公知の技術によって得られる繊維を適宜選択することができるが、好ましくは芯鞘型複合繊維である。また、芯鞘型複合繊維においても、その芯部と鞘部とがほぼ同心円状に配置された同心芯鞘複合繊維であることが、機械的物性や熱的物性に斑が生じにくいため、好ましい。
【0025】
さらに、上記の芯鞘複合繊維としては、バイオマス由来ポリマーを芯部、バイオマス由来以外のポリマーを鞘部に配した構造を有するものであることが好ましい。さらには、芯部をバイオマス由来ポリマーであるポリ乳酸、鞘部を石油系由来ポリマーであるエチレンテレフタレートとすることが、製造面及び物性バランスの面で、より好ましい。
【0026】
また、上記芯鞘複合繊維における芯鞘比率(質量比率)としては、芯部/鞘部=50/50〜90/10であることが好ましく、60/40〜80/20がより好ましい。バイオマス由来ポリマーを使用した芯部の比率が50未満の場合、バイオマス由来ポリマーの使用量が少ないため、本発明の趣旨にそぐわなくなるため好ましくない。また、芯部の比率が90を超える場合、力学特性や耐候性などを保持するための鞘部の厚みが少なくなるため、得られる遮水シートの要求物性を維持できなくなる傾向となるため好ましくない。
【0027】
また、本発明における複合繊維においては、必要に応じて、顔料、染料などの着色剤、活性炭、ゼオライト等の臭気吸収剤、バニリン、デキストリン等の香料、酸化防止剤、紫外線吸収剤などの安定剤、滑剤、離型剤、撥水剤、抗菌剤その他の副次的添加剤を配合することができる。
【0028】
本発明における複合繊維を構成する樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で可塑剤を併用することも可能である。可塑剤を使用することで、加熱加工時、特に押出加工時の溶融粘度を低下させ、せん断発熱等による分子量の低下を抑制することが可能であり、場合によっては結晶化速度の向上も期待でき、更にフィルムやシートを成形品として得る場合には伸び性等を付与できる。可塑剤としては、特に限定はないが、以下のものが例示できる。脂肪族ポリエステル系生分解性ポリエステルの可塑剤としては、エーテル系可塑剤、エステル系可塑剤、フタル酸系可塑剤、リン系可塑剤などが好ましく、ポリエステルとの相溶性に優れる点から、エーテル系可塑剤、エステル系可塑剤がより好ましい。エーテル系可塑剤としては、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリオキシアルキレングリコール等を挙げることができる。また、エステル系可塑剤としては脂肪族ジカルボン酸と脂肪族アルコールとのエステル類を挙げることができ、脂肪族ジカルボン酸として、例えばシュウ酸、コハク酸、セバシン酸、アジピン酸などを挙げることができ、脂肪族アルコールとして、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ヘキサノール、n−オクタノール、2−エチルヘキサノール、n−ドデカノール、ステアリルアルコール等の一価アルコール、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール等の二価アルコール、また、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の多価アルコールを挙げることができる。
【0029】
本発明における基布としては、特に制限されるものではなく、通常の織物や編物を使用することができる。例えば、強力が求められる分野であれば、原糸の強力が反映され易い織物が好ましく、グリッドのような目の粗いものが要求される場合は緯糸挿入ラッセル編などを利用すればよい。また、織物についても特に制限されるものではなく、用途に応じて種々の形態をとることができ、該織物の組織選択についても原糸や使用される状況下によって適時選択することが可能である。
【0030】
しかしながら、本発明における基布としては、カバーファクター(CF)が250〜2200であることが必要である。式(1)にカバーファクター(CF)の計算式を示す。
CF=Td・(Ts/pt)1/2+Yd・(Ys/py)1/2 ・・・(1)
Td:タテ織密度(本/2.54cm)
Yd:ヨコ織密度(本/2.54cm)
Ts:タテ糸繊度(デシテックス)
Ys:ヨコ糸繊度(デシテックス)
pt:タテ糸材料の比重(g/cm
py:ヨコ糸材料の比重(g/cm
上記のCFが250未満であれば、樹脂加工が施される布地としては空隙率が大きすぎているため、表面が凹凸になり、凸部では樹脂加工された被覆層が薄くなるため、外界のエネルギーと環境の影響を受けやすく、クラックが発生しやすくなる。一方、CFが2200より大きくなると基布の原糸間に隙間がなく、基布へのアンカー効果が少なくなるため、基布と樹脂または樹脂同士の接着性が不良となる。カバーファクターについては、例えば、トラック幌、野積みシート、船舶用シート、バックリット、テント類、ルーフィング材料、フレキシブルコンテナ、オイルフェンス用途などの樹脂加工布の場合、250以上であることが好ましく、また、建築工事用シート(ターポリン)、建設工事用メッシュシート(1類メッシュシート及び2類メッシュシート、建築工事用飛散防止シート)などの用途においては、350以上であることがより好ましい。カバーファクターの上限としては、2000以下であることが好ましく、1300以下であることがより好ましい。
【0031】
本発明の樹脂加工布としては、既述のとおり、基布部と樹脂加工部とから構成される。
本発明における樹脂加工法としては、特に制限されるものではなく、ラミネート法,コーティング法,パッディッング法,トッピング法あるいはこれらを組み合わせた方法などのコーティング方法を適宜採用することができる。
【0032】
本発明における樹脂加工に用いる樹脂としては、耐薬品性、耐光性及び機械的特性を考慮してビニル系樹脂であることが好ましく、塩化ビニル系樹脂であることが特に好ましい。
また、塩化ビニル系樹脂としては、ペーストレジンタイプおよびストレートレジンタイプのいずれをも用いることができ、さらに、一般に配合される可塑剤、充填剤、耐寒剤、防炎剤、紫外線吸収剤等を配合することも可能である。
【0033】
また、本発明の樹脂加工布において、樹脂加工のための塩化ビニル系樹脂の付着量としては、65〜260%o.m.fであることが好ましく、80〜220%o.m.fであることがより好ましく、90〜150%であることがさらに好ましい。該付着量が、65%o.m.f未満の場合、繊維を保護する効果が不足する傾向にあるので好ましくない。一方、該付着量が260%o.m.fを超える場合、樹脂加工布においてバイオマス由来ポリマーの含有比率を25質量%以上保持させるための条件選定が困難となるため好ましくなく、さらに、得られた樹脂加工布の可撓性が損なわれる傾向にある点、加工コスト面でも不利になる点でも好ましくない。
【0034】
本発明の樹脂加工布における機械的強度としては、バイオマス由来ポリマーと石油系由来ポリマーとの含有比率に起因する繊維強度、織組織やカバーファクターによる基布強度、及び基布と加工樹脂との質量バランス、などによって左右される。本発明の樹脂加工布においては、上記の要素を既述のとおり好適に選択することで、バイオマス由来ポリマーの含有量に基づく環境負荷の軽減と、樹脂加工布に求められる物性(例えば機械的強度などの物性)とのバランスを好適に保持させることができる。これにより、従来の化石燃料由来のポリマーのみからなる樹脂加工布に比べ、環境負荷を大幅に軽減させながら、従来品と同等の力学物性を保持した樹脂加工布を得ることができる。
【実施例】
【0035】
次に本発明について詳細に説明する。なお、実施例中の各物性値の測定方法及び評価方法は次のとおりである。
(1)ポリ乳酸の融点(℃)、融解熱(J/g):パーキンエルマー社製の示差走査熱量計DSC−2型を使用し、昇温速度20℃/分の条件で測定した。
(2)繊維繊度(dtex):JIS L−1013正量繊度に準じて測定した。
(3)強度(cN/dtex):JIS L−1013引張強さ及び伸び率の標準時試験に準じて測定した。
(4)強力(N):JIS L−1096引張強さ及び伸び率のA法ラベルドストリップ法(定速伸長法)に準じて測定した。
(5)耐摩耗性:試料を幅5cm、長さ30cmの試料を、6角棒(硬さHR B97〜101、材質JIS−G4303のSUS416と同等品、角の半径0.5±0.1mm、2面角は6.35±0.03mm)に任意の回数擦りつけ、その外観変化を観察した。
【0036】
(実施例1)
ポリ乳酸として、融点170℃、融解熱38J/g、L−乳酸とD−乳酸の含有比98.5/1.5(ネイチャーワークス社製)のものを用い、芳香族ポリエステルとして、融点217℃のイソフタル酸15モル%共重合したPETを用い、それぞれのチップを減圧乾燥した後、同心芯鞘型複合溶融紡糸装置に供給して溶融紡糸を行った。このとき、共重合PETが鞘部、ポリ乳酸が芯部となるように配し、複合比(芯鞘質量比)を50/50とし、紡糸温度240℃で溶融紡糸を行った。得られた複合繊維は、繊度280dtex48フィラメントの丸断面形状のものであり、引張強度は4.7cN/dtex、切断伸度15.5%であった。この原糸を用いてレピア織機にて経糸密度30.5本/2.54cm、緯糸密度32本/2.54cmの織密度で平織組織にて製織した。(CF=908)(原糸比重は、芯鞘質量比が50/50なので(1.27+1.38)/2=1.325として計算を行った。)次いでこの基布に下記処方1よりなる塩化ビニルペーストを基布質量に対して100%o.m.fになるように、両面カレンダコーティング加工(加工温度170℃)し、180℃にて焼付け加工を行って、テント用生地を得た。
【0037】
(処方1)
〔塩化ビニルペースト組成〕
・塩化ビニルコンパウンド 50部
・フタル酸ジオクチル(可塑剤) 15部
・フタル酸ジイソノイル(可塑剤) 15部
・エポキシ系可塑剤 3部
・安定剤 3部
・三酸化アンチモン(防炎剤) 7部
・炭酸カルシウム(充填剤) 7部
【0038】
(実施例2)
実施例1と同様に溶融紡糸を行い、繊度830dtex96フィラメントの丸断面形状の複合繊維を得て、該繊維の引張強度は5.6cN/dtex、切断伸度は17%であった。この原糸を用いてレピア織機にて経緯共に密度19本/2.54cmで平織組織にて製織した(CF=950)。次いでこの基布に実施例1と同様に塩化ビニルペーストを基布質量に対して100%o.m.fになるように、両面カレンダコーティング加工(加工温度170℃)し、180℃にて焼付け加工を行って、コンテナバッグ用生地を得た。
【0039】
(実施例3)
実施例1と同様に溶融紡糸を行い、繊度560dtex96フィラメントの丸断面形状の複合繊維を得て、該繊維の引張強度は5.5cN/dtex、切断伸度は17.5%であった。この原糸を用いてレピア織機にて経糸密度34本、緯糸密度36本で平織組織に製織した(CF=1439)。次いでこの基布に実施例1と同様に塩化ビニルペーストを基布質量に対して100%o.m.fになるように、両面カレンダコーティング加工(加工温度170℃)し、180℃にて焼付け加工を行って、トラック幌用生地を得た。
【0040】
(実施例4)
実施例1と同様に溶融紡糸を行い、繊度940dtex48フィラメントの丸断面形状の複合繊維を得て、該繊維の引張強度は4.9cN/dtex、切断伸度は25.5%であった。この原糸を用いてレピア織機にて経糸密度20.3本/2.54cm、緯糸密度19.5本/2.54cmで平織組織にて製織した。(CF=1060)(原糸比重は、芯鞘質量比が50/50なので(1.27+1.38)/2=1.325として計算を行った。)次いでこの基布に下記処方1よりなる塩化ビニルペーストを基布重量に対して100%o.m.fになるように、両面カレンダコーティング加工(加工温度170℃)し、180℃にて焼付け加工を行って、建築工事用シートを得た。
【0041】
(処方1)
〔塩化ビニルペースト組成〕
・塩化ビニルコンパウンド 100重量部
・フタル酸ジオクチル(可塑剤) 60重量部
・炭酸カルシウム(充填剤) 20重量部
・安定剤 3部
・三酸化アンチモン(防炎剤) 7部
【0042】
(実施例5)
実施例1における芯鞘比率を60/40とした以外は、実施例1と同様に溶融紡糸を行い、繊度1200dtex70フィラメントの丸断面形状の複合繊維を得て、該繊維の引張強度は4.9cN/dtex、切断伸度は25.5%であった。この原糸を用いてレピア織機にて経緯共に33本/2.54cmの織密度で3本模紗織組織にて製織した。(CF=1986)(原糸比重は、芯鞘質量比が60/40なので(1.27×0.6+1.38×0.4)=1.314として計算を行った。)次いで処方1よりなる塩化ビニルペーストを93%o.m.fになるように両面コーティング加工し、130℃で乾燥した後、170℃にて熱処理を行い、重量484g/mの建築工事用メッシュシートを得た。
【0043】
(処方1)
〔塩化ビニルペースト組成〕
・塩化ビニルコンパウンド 50部
・フタル酸ジオクチル(可塑剤) 15部
・フタル酸ジイソノイル(可塑剤) 15部
・エポキシ系可塑剤 3部
・安定剤 3部
・三酸化アンチモン(防炎剤) 7部
・炭酸カルシウム(充填剤) 7部
【0044】
(実施例6)
ポリ乳酸として、融点170℃、融解熱38J/g、L−乳酸とD−乳酸の含有比であるL/Dが98.5/1.5のものを用い減圧乾燥した後、溶融紡糸装置に供給して紡糸温度240℃で溶融紡糸を行った。得られたポリ乳酸繊維は、繊度280dtex48フィラメントの丸断面形状のものであり、引張強度4.5cN/dtex、切断伸度30.9%であった。この原糸を用いて実施例1と同様に製織、加工したもの(CF=928)を実施例6とした。
【0045】
(比較例1)
芳香族ポリエステルとして、融点217℃のイソフタル酸15モル%共重合したPETを減圧乾燥した後、溶融紡糸装置に供給して紡糸温度240℃で溶融紡糸を行った。得られた繊維は、繊度280dtex48フィラメントの丸断面形状のものであり、引張強度は7.1cN/dtex、切断伸度17.5%であった。この原糸を用いて実施例1と同様に製織・加工したものを比較例1とした(CF=890)。
【0046】
(比較例2)
実施例2で得られた複合繊維を用いてレピア織機にて経緯共に4本/2.54cmの織密度で製織した(CF=200)。次いで実施例1と同様に塩化ビニルペーストの加工を施したが、目ずれが発生し、品位良い樹脂加工布は得られなかった。
(比較例3)
実施例1で得られた複合繊維を用いてレピア織機にて経糸79本/2.54cm、緯糸79本/2.54cmの織密度で製織した(CF=2297)。次いでこの基布に実施例1と同様に塩化ビニルペーストを100%o.m.fとなるように加工を施し、比較例3の樹脂加工布を得た。
【0047】

【表1】

【0048】
各実施例及び比較例について物性測定した結果を表1に示す。
表1の結果から実施例1〜5は全ての項目で満足するものであり、環境に優しい素材であるといえる。また、実施例6は基布を構成する繊維がポリ乳酸のみからなるため、環境負荷の軽減の面ではよいが、使用可能の域ではあるが耐摩耗性において、一部に若干の樹脂剥離が見られた。また、比較例1は、耐摩耗性に問題はなかったが、バイオマス由来ポリマーを使用していないため、環境負荷の面で改善されていないものである。比較例2は、カバーファクターが小さいため目ずれが発生し、品位良い樹脂加工布は得られなかった。また比較例3は、カバーファクターが大きすぎるため加工樹脂のアンカー効果が弱くなり、樹脂加工布としての耐摩耗性が不良であり、実用上に耐え得るものではなかった。











【特許請求の範囲】
【請求項1】
基布に樹脂加工を施してなる加工布において、該基布がバイオマス由来ポリマーを含んでなる繊維にて構成され、カバーファクター(CF:下記式(1))が250〜2200であり、かつ、バイオマス由来ポリマーの含有比率が前記加工布の全質量に対し25〜60質量%であることを特徴とする樹脂加工布。

CF=Td・(Ts/pt)1/2+Yd・(Ys/py)1/2 ・・・(1)
Td:タテ織密度(本/2.54cm)
Yd:ヨコ織密度(本/2.54cm)
Ts:タテ糸繊度(デシテックス)
Ys:ヨコ糸繊度(デシテックス)
pt:タテ糸材料の比重(g/cm
py:ヨコ糸材料の比重(g/cm

【請求項2】
前記バイオマス由来ポリマーを含んでなる繊維が芯鞘構造を呈した複合繊維であって、該鞘部がポリエチレンテレフタレート、該芯部がポリ乳酸からなることを特徴とする請求項1記載の樹脂加工布。
【請求項3】
請求項1又は2記載の加工布が、建築工事用シート又は建築工事用メッシュシートのいずれかであることを特徴とする樹脂加工布。








【公開番号】特開2009−84739(P2009−84739A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−254596(P2007−254596)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(399065497)ユニチカファイバー株式会社 (190)
【Fターム(参考)】