説明

樹脂成形品

【課題】合成皮革を表層に用いたインサート樹脂成形品において、合成皮革の質感を維持した樹脂成形品の提供。
【解決手段】表層に合成皮革10を有する樹脂成形品1であって、合成皮革10の下層には熱可塑性のエラストマー層20を配置し、該エラストマー層20の硬度は60〜80度であることを特徴とする。更に合成皮革10とエラストマー層20の色を同系統の色であることを特徴とする。樹脂成形品全体に合成皮革のような質感を与えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表層に合成皮革などの層を有する樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、合成皮革等の樹脂を成形型のキャビティ内に載置し、その状態で溶融した樹脂を前記キャビティ内に注入して成形するインサート成形が行われている(例えば、特許文献1及び2参照)。合成樹脂のインサート成形によれば、樹脂成形品の表面に皮革模様が表れるため、樹脂成形品の外観に高級感を与えることができる。
【0003】
図3に従来の樹脂成形品100の構造を示す。図3に示すように、合成皮革101は一般に、トップ層102、ウレタン層103、繊維層104から構成される。そして、この合成皮革101を金型のキャビティに載置して熱可塑性樹脂105を射出注入することで、熱可塑性樹脂105が合成皮革101と一体となり、樹脂成形品100を得る。
【0004】
【特許文献1】特開昭62−156947号公報
【特許文献2】特開昭62−162081号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、射出注入される熱可塑性樹脂は、金型のキャビティ内に高温・高圧となるため、樹脂の圧力で載置される合成皮革101が潰れて密度が高くなる。また、熱可塑性樹脂105が硬化すると、合成皮革101の下層も硬くなる。これにより、合成皮革101及びその下層が固くなり、皮の軟らかい質感が損なわれるという問題があった。
【0006】
本発明の目的は、合成樹脂を表層に用いた樹脂成形品において、表層の質感を維持した樹脂成形品を成形することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
課題を解決するための本発明の構成は、次のとおりである。
【0008】
表層に合成皮革を有する樹脂成形品であって、合成皮革の下層には熱可塑性のエラストマー層を配置し、前記エラストマー層の硬度は60〜80度であることを特徴とする。
【0009】
また、前記エラストマー層の色は、前記合成皮革と同系統の色であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、合成皮革の下層に熱可塑性のエラストマーを用い、その硬度を60〜80度に設定したことにより、合成皮革の下層に十分な弾力性を持たせることができる。このため、合成皮革の質感を皮の持つ表面が滑らかな質感に加え、軟らかい質感をも持たせることができる。
【0011】
また、前記エラストマー層の色を、前記合成皮革と同系統の色すると、樹脂成形品全体に、合成皮革のような質感を与えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の一実施形態について、図面を用いて説明する。
【0013】
(樹脂成形品1の構造)
図1を用いて樹脂成形品1の構造を説明する。図1は樹脂成形品の説明図である。図1(a)は樹脂成形品を携帯電話への使用状態を示す斜視図であり、図1(b)は樹脂成形品の斜視図であり、図1(c)は樹脂成形品の断面図である。
【0014】
図1に示すように、本実施形態の樹脂成形品1は、表面となる上面に合成皮革10の層、下面にエラストマー20の層を有する。
【0015】
合成皮革10は、図1(c)に示すように、従来と同様、上面からトップ層11、ウレタン層12、繊維層13を有する多層構造である。
【0016】
エラストマー20は、熱可塑性のエラストマーであり、その硬度を60〜80度とする。この硬度により、合成皮革10の裏面に皮の持つ軟らかい質感を付与することができる。
【0017】
(樹脂成形品1の製法)
図2を用いて、樹脂成形品1の製法を説明する。図2は樹脂成形品の製法を説明する図である。
【0018】
図2に示すように、樹脂成形品の成形金型50は、固定金型60と、これと対向する可動金型70とを有する。固定金型60には、溶融した透明な熱硬化性エラストマー(TPE:Termoplastic Elastomer)を射出注入する射出成形機のノズル部80が配設されている。
【0019】
固定金型60は、注入される溶融樹脂としてエラストマーを導入する導入口61と、導入された溶融樹脂を各方面に分配するゲート62と、分配された溶融樹脂によって成形品とするキャビティ63と、を有する。また、可動金型70は、合成皮革10を載置し、溶融樹脂を積層するためのキャビティ71を有する。
【0020】
樹脂成形品1を成形する際には、まず、可動金型70を固定金型60から型開きした状態で、合成皮革10をキャビティ71上に載置する。次に、可動金型70を固定金型60方向に移動させ、型閉じをする(図2の状態)。そして、射出成形機のノズル部80から溶融樹脂であるエラストマーを射出する。
【0021】
成形型に射出注入された溶融樹脂は、導入口61、ゲート62を介してキャビティ63、71内に入り込む。この際、溶融樹脂は、加熱と共に加圧されているため、キャビティ71に載置した状態の合成皮革10を押圧しつつ、キャビティ71内に充填される。溶融樹脂が充填された後に固化する。そして、可動金型70を固定金型60から型開きし、固化した樹脂を成形金型50から取り出す。最後に、取り出した樹脂から、導入口61やゲート62の部分を取り除くことにより、樹脂成形品1が完成する。
【0022】
ここで、図1(c)に示す樹脂成形品1の全体の厚さW0は、図3に示す従来の樹脂成形品100の厚さW0と同じであるが、本実施形態の樹脂成形品1の合成皮革10の厚さW1は、従来の樹脂成形品100の厚さW2よりも厚くなっている。これは、本実施形態のエラストマーが有する弾力性に起因する。即ち、エラストマーは軟らかいために流動性が良い。このため、射出成形機のノズル部80による樹脂の射出圧力は小さくてよい。射出圧力が小さいことにより、合成皮革10を過度に潰すことがない。このように、本実施形態によれば、合成皮革10を過度に潰すことなく、合成皮革10の持つ軟らかな質感を保つことができる。
【0023】
また、樹脂成形品1は柔軟である。このため、図1(a)のように、製品の外形が湾曲していても、その湾曲に沿って樹脂成形品1が変形する。これにより、本実施形態の樹脂成形品1は、より多様な製品の外装に用いることができる。
【0024】
また、合成皮革10の下層に弾力性のあるエラストマー20があり、その硬度が60〜80度であることにより、合成皮革10の下層に弾力性が付与される。このため、皮の軟らかい質感を維持した樹脂成形品を成形することができる。
【0025】
〔他の実施形態〕
前述した実施形態においては、溶融樹脂の色については透明としているが、溶融樹脂のエラストマーの色を合成皮革10の色と同系統の色とすると、より、皮のような外観とすることができる。
【0026】
前述した実施形態においては、表層を合成皮革としているが、これに限るものではなく、紙のような質感を有する合成樹脂や、布のような質感を有する合成樹脂でもよい。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、表層に、皮、紙又は布などの独特の質感を有する合成樹脂を用いた樹脂成形品に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本実施形態の樹脂成形品1の説明図。
【図2】本実施形態の樹脂成形品1の製法の説明図。
【図3】従来の樹脂成形品100の構造を示す図。
【符号の説明】
【0029】
1…樹脂成形品、10…合成皮革、11…トップ層、12…ウレタン層、13…繊維層、14…繊維層、20…エラストマー、50…成形金型、60…固定金型、61…導入口、62…ゲート、63…キャビティ、70…可動金型、71…キャビティ、80…射出成形機のノズル部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表層に合成皮革を有する樹脂成形品であって、
合成皮革の下層には熱可塑性のエラストマー層を配置し、
前記エラストマー層の硬度は60〜80度であることを特徴とする樹脂成形品。
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂成形品であって、
前記エラストマー層の色は、前記合成皮革と同系統の色であることを特徴とする樹脂成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−237624(P2007−237624A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−64945(P2006−64945)
【出願日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【出願人】(000160223)吉田プラ工業株式会社 (136)
【Fターム(参考)】