説明

樹脂構造物の製造方法

【課題】 亜臨界状態または超臨界状態の二酸化炭素を利用して固体樹脂同士を溶着する新規な方法の提供、およびかかる方法を利用した連続気泡を有する構造物の製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】 固体樹脂が配置された容器内に二酸化炭素を導入する工程、前記二酸化炭素を亜臨界状態または超臨界状態にする工程、上記の条件下で保持し、固体樹脂を溶着する工程、および亜臨界状態または超臨界状態を解除する工程を含む、樹脂構造物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
近年、亜臨界状態または超臨界状態における流体の特異な性質が注目され、それを利用した応用が進んでいる。
中でも二酸化炭素は、化学的に不活性で安全であるという特徴のため、種種の利用が図られている。二酸化炭素は無毒性のガスであり、加圧下で熱可塑性樹脂にとけ込む一方、常温常圧では樹脂に少量しか溶解しないという特徴を有する。さらに、二酸化炭素は31.0℃、7.4MPa以上と比較的温和な条件において超臨界状態になり、各種の機能を発現するという特徴を有している。
具体的には、亜臨界状態または超臨界状態の二酸化炭素を溶媒として利用する方法として、反応場としての利用、物質の抽出・分離に際しての利用、溶解させた物質を析出させて微粒子を作るための利用等が提案されている。さらに、亜臨界状態または超臨界状態の二酸化炭素を溶質として利用する方法として、繊維染色、表面メッキ、高分子ブレンド、微細発泡への利用が提案されている。
しかし、亜臨界状態または超臨界状態の流体の特性を利用して、固体樹脂同士を溶着する方法は知られていなかった。
また、高分子多孔体を形成する方法としては、高分子に二酸化炭素を加圧して溶解させ、その後減圧または昇温操作を行うことによって二酸化炭素が溶解できない状態とし、相変化を起こして気泡を樹脂中に発生させる方法が提案されていた。この方法から容易に理解できるように、得られる発泡体中の気泡は独立気泡となる。このような成形物は軽量化、および寸法安定性が望まれる用途には好適であるが、たとえば、フィルターや、タンパク質培養のための保持体のような連続気泡を有する発泡体が必要とされる用途には使用できなかった。
【非特許文献1】神戸製鉄技報/Vol.52 No.2(2002年、9月)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0002】
本発明は亜臨界状態または超臨界状態の二酸化炭素を利用して固体樹脂同士を溶着する方法の提供、およびかかる方法を利用した連続気泡を有する構造物の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明は、固体樹脂が配置された容器内に二酸化炭素を導入する工程、
前記二酸化炭素を亜臨界状態または超臨界状態にする工程、
上記の条件下で保持し、固体樹脂を溶着する工程、および
亜臨界状態または超臨界状態を解除する工程を含む、樹脂構造物の製造方法を提供する。
固体樹脂とは任意の形状の固体の樹脂をいい、たとえば、微粒子またはシートであることができる。
二酸化炭素を亜臨界状態または超臨界状態にするとは、二酸化炭素を前記のように31.0℃、7.4MPa以上の条件下において超臨界状態とするか、または臨界温度よりわずかに低い温度領域での高密度状態である亜臨界状態とすることをいう。より具体的には、0℃から100℃までの温度範囲、1から30MPaの圧力範囲内の二酸化炭素を使用できる。
溶着とは、固体樹脂同士が互いにその接触面において一体となり、強固に結合されることをいう。
亜臨界状態または超臨界状態を解除するとは、亜臨界状態または超臨界状態から通常の状態に戻すことをいい、たとえば、減圧または冷却により、亜臨界状態または超臨界状態を解消することをいう。
樹脂構造物とは、溶着された複数の固体樹脂により形成されるものをいう。
本発明の特定の態様においては、溶着点に対して圧力が加えられることができる。
本発明により得られる樹脂構造物は、その内部に気泡を有しないものであることができるし、異なる態様においては、その内部に気泡を有することができる。
【0004】
本発明の効果は、亜臨界状態または超臨界状態において二酸化炭素をポリマー中に溶解させることにより生ずる、ガラス転移点の低下及び粘度の低下現象に起因するものと考えられる。これはプラスチックの分子鎖間の相互作用が溶解ガスによって低下し高分子鎖の移動度が上がるためと言われている。樹脂に対するガスの溶解度が上昇すると粘度低下がより進行するという報告もある。また含浸の特徴として、ヘンリー定数に比例して圧力が上昇すると共に樹脂へのガス溶解度が比例して増加すると言われている。すなわち、圧力を増加させると樹脂に対する溶解度が増加し、粘度が大きく低下することとなる。よって、二酸化炭素ガスは圧力7MPa以下の領域でも、温度31℃以下の領域でも、樹脂への溶解が可能である。なお、温度が低いほど樹脂に対するガスの溶解度は高い。
【0005】
上記のシステムにより樹脂内部に二酸化炭素が進入して、粘度が低下された樹脂では、隣接する固体樹脂の表層同士が一体となり、両者はその境界面で融合する。その後の亜臨界状態または超臨界状態の解除により、固体樹脂の状態が固定されたまま二酸化炭素が除去され、固体樹脂同士が強固に結合されるものと考えられている。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、固体樹脂を溶着して樹脂構造物を成形するための新規な製造方法が提供される。本発明の方法では、粘度のコントロールは亜臨界状態または超臨界二酸化炭素による含浸での粘度低下により行うため、熱の出入りが少なく、温度勾配、熱の出入りのコントロールをせずに成形できるという利点を有する。
また、本発明の方法では荷重をかけずに形成できるため、得られた構造物内の残留応力が無い。そのためたとえば、微粒子の樹脂固体を薄く配置して成形することにより良好な光学特性を有するフィルムを成形することも可能である。
【0007】
本発明の方法において樹脂の微粒子を固体樹脂として使用して、微粒子同士を結合することにより、粒子の間に空隙が形成された多孔質の部材を形成することができる。この空隙は連続気泡として機能し、フィルターやタンパク質培養のための保持体として良好な特性を付与する。この場合には粒径を選択することにより空隙の大きさを制御することができるので、フィルターとして使用する場合の性能制御が容易となる。たとえば、水を通さずに蒸気だけを通すフィルターなどの用途が期待される。
またタンパク質の培養に関しては、タンパク質に酸素や、栄養分を多く送り込む必要性から、比表面積が非常に大きい微細多孔体が望まれているので、微粒子の粒径を選択することにより簡単に比表面積を調節できる本発明の方法は非常に有用である。
また、二酸化炭素を使用するので、有害物を排出せず、成形コストが低く、安全な樹脂構造物の製造方法が提供される。また低温度での成形が可能なため、タンパク質培養のための保持体を製造する場合には、生物を培養させたまま成形することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明における操作をより詳細に以下に説明する。
本発明の固体樹脂が配置された容器内に二酸化炭素を導入する工程では、固体樹脂を容器内に置き、その後二酸化炭素を容器内に導入する。固体樹脂の配置はたとえば、樹脂の粉末やペレットなどを充填することにより行うことができる。また粒子状の固体を媒体中に分散し、これを容器内に投入した後、分散媒を蒸発などにより除去することにより、樹脂を配置することもできる。一般に、容器は最終製品の形状に対応して選択することができる。
前記二酸化炭素を亜臨界状態または超臨界状態にする工程では、上記の容器を密閉し、導入した二酸化炭素が亜臨界状態または超臨界状態となる条件に加熱および/または加圧する。加熱方法および加圧方法としては任意の方法が使用できるが、加熱速度、加圧速度を正確に制御することが好ましい。
上記の条件下で保持し、固体樹脂を溶着する工程では、前記の状態に十分な時間保持し、固体樹脂同士を互いに結合させる。この際、温度および圧力を調節することにより、溶着の状態を制御することができる。この条件は使用する樹脂の種類によって変化するが、一般的には温度は0℃から100℃の範囲、圧力は1から30MPaの範囲であり、保持時間は約1−24時間である。この条件範囲は、後述の実施例において使用されるポリメチルメタアクリレートの場合にも当てはまる。また処理温度は樹脂のガラス転移温度または融点よりも低い温度とされるべきである。
【0009】
亜臨界状態または超臨界状態を解除する工程では、冷却および/または減圧により流体を亜臨界状態または超臨界状態から戻す。冷却速度および減圧速度も、固体樹脂の組成などにより変化するが、具体的な条件は実験により適宜決定することができる。一般的には、冷却速度は0.001℃/秒から30℃/秒、減圧速度は0.05MPa/分から10MPa/分の範囲である。この条件範囲は、後述の実施例において使用されるポリメチルメタアクリレートの場合にも当てはまる。
【0010】
先の溶着工程での保持時間と、亜臨界状態または超臨界状態の解除工程での冷却および/または減圧の速度により、得られる樹脂構造物の発泡状態を制御することができる。すなわち、保持時間が長いほど樹脂固体の内部まで二酸化炭素が含浸され、亜臨界状態または超臨界状態を解除する際に発泡が起こりやすくなる。したがって、発泡体が望まれる場合には保持時間を長くすることが好ましい。二酸化炭素を除去する際に、減圧を急速に行ったり、減圧により亜臨界状態または超臨界状態を脱した後に昇温することにより、発泡させることもできる。発泡により構造物の軽量化が図れる他、樹脂固体の溶着点に圧力が加えられるため、構造物の強度を上げることができる。
【0011】
樹脂としては、亜臨界状態または超臨界状態の二酸化炭素で粘度を低下することのできる任意の樹脂が使用できるが、一般的には熱可塑性樹脂が使用され、典型的にはポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、塩化ビニル樹脂などの塩素化ポリオレフィン、ポリメチルアクリレート、ポリエチルアクリレート、ポリメチルメタアクリレートなどのポリアクリレートおよびポリメタアクリレート、酢酸ビニルやEVAなどのビニル樹脂、および耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂(ABS)、アクリロニトリル−エチレンプロピレンゴム−スチレン樹脂(AES)などの複合樹脂を使用することができる。しかし、たとえば、熱硬化性の樹脂であっても、架橋度が低く、その表層の粘度が超臨界流体により低下される場合には使用することができる。また、硬化前の樹脂またはB−ステージ状態の樹脂を使用して構造物を形成した後に、樹脂を硬化することもできる。
また、たとえば、カーボン粒子、金属粉、顔料、炭酸カルシウムなどの無機充填剤、ガラス繊維などの各種繊維、ナノファイバー、カーボナノチューブ、ウイスカーなどの強化材を樹脂に混合することもできる。
【0012】
実施例
材料はポリメチルメタクリレート(旭化成ケミカルズ株式会社 デルペット560F)(Tg101℃(実測値)メルトフローレイト13.0g/10分)(カタログ値))の高さ3.2mm、直径2.55mmの円筒状のペレット)を使用した。
高圧ガス容器内を30℃にした後、図1に示すように、上記の試料を金属製の皿に乗せ容器に挿入した。その後二酸化炭素を導入し、容器内温度30℃、容器内圧力8MPaに、3時間保持して、試験片に二酸化炭素を含浸させた。その後0.5MPa/分の減圧速度で減圧し、試料を取り出した。成形後の全体像を図2に示す。図3には試料の溶着点の拡大図を示す。試料同士が溶着していることを確認した。また内部が発泡していることも確認した。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は実施例1における成形前試料の状態を示す図である。
【図2】図2は実施例1における成形された構造物の全体像を示す図である。
【図3】図3は実施例1における成形された構造物の、溶着点の状態を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体樹脂が配置された容器内に二酸化炭素を導入する工程、
前記二酸化炭素を亜臨界状態または超臨界状態にする工程、
上記の条件下で保持し、固体樹脂を溶着する工程、および
亜臨界状態または超臨界状態を解除する工程を含む、樹脂構造物の製造方法。
【請求項2】
亜臨界状態または超臨界状態が、0℃から、100℃、固体樹脂のガラス転移温度および融点のいずれか低い温度までの温度範囲、および1から30MPaの圧力範囲の、温度および圧力条件下で形成される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
固体樹脂が樹脂の微粒子である、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
固体樹脂が樹脂のシートである、請求項1または2記載の方法。
【請求項5】
樹脂が熱可塑性樹脂である、請求項1から4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
樹脂がポリメチルメタアクリレートである、請求項1から5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
固体樹脂を溶着する工程において、溶着点に対して圧力が加えられる、請求項1から6のいずれか1項記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−231355(P2008−231355A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−76552(P2007−76552)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(591267855)埼玉県 (71)
【Fターム(参考)】