説明

樹脂温度調整式Tダイの樹脂流量分布制御方法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、樹脂温度調整式自動Tダイの樹脂流量分布制御方法に関する。
【0002】
【従来の技術】近来、Tダイの樹脂流量分布制御方法として、溶融樹脂の温度を制御する方式が、殊に溶融樹脂粘度の温度依存度が高い樹脂、例えばPMMA,PC,PET等に対して広く採用されるに至っている。
【0003】そこで、この種の制御方法について簡単に説明すると、図5および図6に示すように、溶融樹脂は、Tダイ10のダイ本体12を横方向に延在するマニホルド14から、ダイランド16内を縦方向にダイリップ18へ向けて、複数のレーン24より押出される。ここで、ダイ本体12内には、ダイリップ18を挾んでその両側に複数のセグメントヒータ20が幅方向に所定間隔で配置されている。なお、参照符号22は、ダイ本体12の部分を加熱、保温する別の加熱部である。従って、このような制御方法によれば、所定のヒータ20を制御することにより、溶融樹脂がダイランド16内において幅方向に所定の温度すなわち所定の粘度に調整されるので、前述したようにたとえ温度依存度の高い粘度の樹脂に対しても、シート厚さプロファイルを容易に制御することができる。また、付言すると、この種の制御方法は、リップ隙間制御方式におけるような機械的機構を必要としない利点を併せ有する。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、前述した従来の制御方法は、以下に述べるような基本的な難点を有していた。
【0005】すなわち、前記制御方法は、ダイ本体内のヒータがダイランドおよびダイリップ近傍の局所に集中して配置されていることから、薄物から厚物シートまで適用可能ということにはならず、溶融樹脂温度の調整限界(範囲)が狭められる難点を本質的に有していた。次に、前記ヒータとは別に、ダイ本体用の加熱部を更に必要とすることから、電気加熱配線を含めて構造が複雑となり、コストが上昇する欠点を有していた。
【0006】そこで、本発明の目的は、溶融樹脂温度の調整範囲を大きく設定することができると共に、比較的簡単に構成することができる樹脂温度調整式Tダイの樹脂流量分布制御方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】先の目的を達成するために、本発明に係る樹脂温度調整式Tダイの樹脂流量分布制御方法は、押出機等から供給される溶融樹脂を一旦蓄積し、幅方向に拡げるマニホルドと、それに続く平坦なダイランドおよびダイランドの下流にあり、溶融樹脂をシート状に押出すリップ隙間を有するTダイの幅方向に前記マニホルドおよびダイランドに沿って複数個のヒータを設け、該ヒータを別々に温度制御してダイ内の溶融樹脂の粘度を調整し、リップ隙間から吐出されるシート等の厚さあるいはバンク量プロファイルを制御する樹脂温度調整式自動Tダイの樹脂流量分布制御方法において、リップ隙間を幅方向に複数n個のヒータ、レーンに分割し、ヒータ側制御は、第1工程として、各レーンのシート厚さプロファイルもしくはバンク量プロファイルの偏差から各レーンの目標設定樹脂流量qの必要樹脂流量変化量Δq(i=1,2,…n)を設定し、この必要樹脂流量変化量Δqから、次式(3)
【0008】
【数3】


【0009】但し、Δt:i番目のレーンの目標設定樹脂温度tの必要樹脂温度変化量b:溶融樹脂粘度の温度係数Δq:i番目のレーンの目標設定樹脂流量qに対する必要樹脂流量変化量を演算することにより必要樹脂温度変化量Δtを設定し、次いで、この必要樹脂温度変化量Δtから、次式(4)
【0010】
【数4】


【0011】但し、ΔTj:j番目のヒータの目標設定ヒータ温度Tjに対する必要ヒータ温度変化量αij=Δt/ΔTj、すなわちi番目のレーンの必要樹脂温度変化量Δtのj番目のヒータの必要ヒータ温度変化量ΔTjに対する比例定数(干渉係数)
C:溶融樹脂の比熱q:樹脂流量を演算することにより必要ヒータ温度変化量ΔTiを設定するマスタ制御ループと、第2工程として、前記必要ヒータ温度変化量ΔTiに基づき、それぞれのヒータを制御するスレーブ制御ループとからなるマルチカスケード制御システムにより構成することを特徴とする。
【0012】
【作用】ヒータは、ダイ本体からダイリップ部へ向けて縦方向に延在する単一のヒータから構成され、ヒータによる干渉効果を考慮した制御が行われる。従って、溶融樹脂温度の調整範囲が大きく設定可能となると共に、電気加熱配線を含む全体的構成が簡単化される。
【0013】
【実施例】次に、本発明に係る樹脂温度調整式Tダイの樹脂流量分布制御方法のバンク量プロファイル制御の場合の一実施例につき、添付図面を参照しながら以下詳細に説明する。なお、説明の便宜上、図5および図6に示す従来の構造と同一の構成部分には同一の参照符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0014】図1および図2において、Tダイの構成は、図5および図6に示す従来の構造と同一である。すなわち、Tダイ10に供給された溶融樹脂はマニホルド14からダイランド16内を縦方向にダイリップ18へ向けて複数列(図示例では5列)のレーン24i(i=1,…n)から押出されるように構成されている。
【0015】しかるに、本発明においては、溶融樹脂を加熱しかつ温度調整する単一のセグメントヒータ30i(i=1,…n)が、各レーン24iに対してダイ本体12からダイリップ18へ向けて連続して設けられる。従って、本発明においては、マニホルド14(干渉部分)を流下する溶融樹脂は、最上流側レーン24−1へ押出されるものを除き、順次上流側ヒータ30iによって加熱された後、すなわち干渉効果を受けた後、それぞれのレーン24iへ押出される。そこで、本発明における各ヒータ30iは前記干渉効果を考慮して制御する。以下、この制御方法について詳細に説明する。
【0016】本発明の制御方法の全体的構成を、図3に示す。なお、この図3において、押出し機32から押出される溶融樹脂は、Tダイ10および引取機34を経てシート36に形成され、その後厚さ測定装置38を経て巻取機40に巻取られる。各ヒータ30iに対して、その必要加熱温度変化量ΔTiを設定するマスタ制御ループS1 と、必要加熱変化量ΔPiを設定するスレーブ制御ループS2 とからなるマルチカスケード制御システムが構築される。
【0017】マスタ制御ループS1 においては、引取機34に設けられるバンクセンサ42(もしくはシート厚さプロファイルセンサ38)の出力信号から設定される制御偏差、すなわち各レーン24iに対して予め設定されている溶融樹脂の目標設定流量qの必要樹脂流量変化量Δqに基づき、CPU46において、次式(5)
【0018】
【数5】


【0019】但し、Δt:i番目のレーンの目標設定樹脂温度tの必要樹脂温度変化量b:溶融樹脂粘度の温度係数Δq:i番目のレーンの目標設定樹脂流量qに対する必要樹脂流量変化量が演算されて、各レーン24iの溶融樹脂の必要温度変化量Δtが設定され、次いでこれに基づき次式(6)
【0020】
【数6】


【0021】但し、ΔTj:j番目のヒータの目標設定ヒータ温度Tjに対する必要ヒータ温度変化量αij=Δt/ΔTj、すなわちi番目のレーンの必要樹脂温度変化量Δtのj番目のヒータの必要ヒータ温度変化量ΔTjに対する比例定数(干渉係数)
C:溶融樹脂の比熱q:樹脂流量が演算されて、各ヒータ30iの必要ヒータ温度変化量ΔTiが設定される。なお、この場合、前記必要ヒータ温度変化量ΔTiに基づき次式(7)
ΔPi=ΔTi/λ …… (7)
但し、ΔPi:i番目のヒータの目標設定加熱量Piに対する必要加熱量変化量λ:比例定数を演算して、各ヒータ30iの必要加熱変化量ΔPiを併せて設定すれば好適である。
【0022】なお、前記比例定数αijは、ヒータ30iの干渉部分と非干渉部分(図2参照)における長さ(加熱面積)の配分から、両部分に対する加熱量分配率を設定することにより推定的に算出するか、ステップ応答法などによって実験的に固定するか、あるいは成形運転中の入出力データ基づく相関係数から統計的に設定することができる。そして、この定数αijは、前記式(5)、(6)、(7)における温度係数b、比熱Cおよび比例定数λと共にメモリ46に入力し記憶させる。
【0023】次に、スレーブ制御ループS2 においては、マスタ制御ループS1 から入力される前記必要ヒータ温度変化量ΔTiおよび必要加熱変化量ΔPiに基づく変更設定ヒータ温度Ti+ΔTiおよび変更設定ヒータ加熱量Pi+ΔPiの指令信号により、温度コントローラ48およびパワーユニット50を介して、各ヒータ30iが制御される。なお、温度コントローラ48には、各ヒータ30iから温度測定信号がフィードバックされる。
【0024】図4は、制御プロセスのゼネラルフローチャートを示す。このフローチャートによって、前述したプロセスを再び説明すると、ステップ1においてバンクプロファイルが測定され、ステップ2においてバンクサイズの偏差が算定され、ステップ3において各レーンの必要樹脂流量変化量Δqが算定され、ステップ4において各レーンの必要樹脂温度変化量Δtが算定され、ステップ5において各ヒータ30iの変更設定ヒータ温度Ti+ΔTi(および変更設定ヒータ加熱量Pi+ΔPi)が算定され、そしてステップ6おいてこの指令出力に基づき各ヒータ30iが所定状態に制御される。このプロセスが繰返されることにより、各レーン24iから押出される溶融樹脂の幅方向温度分布、すなわち粘度分布は、所定の状態に制御され、これにより成形シートの厚さプロファイルが所定の状態に確保される。なお、このプロセスにおいて、温度ΔTiあるいはTi+ΔTiの平均値は、常に一定に保持されることは前述した通りである。また、ヒータ30iは、前記制御プロセス以外の時は、通常のダイ本体の加熱用ヒータとして作動する。
【0025】このように、本発明によれば、ダイ本体からダイリップ部へ向けて縦方向に延在する単一のヒータによって、ダイ本体の加熱が行われると同時に、溶融樹脂のダイリップ幅方向の温度調整が達成される。従って、本発明によれば、樹脂温度の調整範囲を大きく設定できる薄物から厚物のシート成形が可能であると共に、全体的構成を簡単化することができる。
【0026】以上、本発明の好適な実施例について説明したが、本発明は前記実施例に限定されることなく、例えば、前述のバンク量のプロファイル制御ばかりでなく、シート厚さのプロファイル制御でも良く、その精神を逸脱しない範囲内において多くの設計変更が可能である。
【0027】
【発明の効果】以上説明したように、本発明に係る樹脂温度調整式Tダイの樹脂流量分布制御方法は、ダイ本体からダイリップ部へ向けて縦方向に延在する複数の加熱兼温度調整用セグメントヒータを、横方向に等間隔で設けて複数列の溶融樹脂流路レーンを設定し、前記各ヒータをマニホルド内を流れる下流側溶融樹脂が上流側のヒータによって順次加熱される干渉効果を考慮して制御し、前記レーン内の溶融樹脂温度を各レーン毎に調整できるよう構成したことにより、すなわち換言すれば、単一のヒータによって、ダイ本体を加熱すると同時に溶融樹脂のダイリップ幅方向温度分布(粘度分布)を調整できるように構成したことにより、ダイリップ近傍の樹脂温度調整範囲を大きく設定することができ、薄物から厚物シートまでの幅広い使用が可能となると共に、装置全体の構成を簡単化することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る樹脂温度調整式Tダイの樹脂流量分布制御方法を実施するTダイの縦方向断面図である。
【図2】図1に示すTダイの横方向断面図である。
【図3】本発明に係る樹脂温度調整式Tダイにおける樹脂流量分布制御方法を説明する系統図である。
【図4】図3に示す本発明に係る樹脂温度調整式Tダイの樹脂流量分布制御方法におけるゼネラルフローチャート図である。
【図5】従来の樹脂流量分布制御方法を実施する樹脂温度調整式Tダイの縦方向断面図である。
【図6】図5に示すTダイの横方向断面図である。
【符号の説明】
10 Tダイ 12 ダイ本体
14 マニホルド 16 ダイランド
18 ダイリップ 24−1〜24−5 レーン
30−1〜30−5 ヒータ 32 押出し機
34 引取機 36 シート
38 厚さ測定装置(プロファイルセンサ)
40 巻取機
42 バンクセンサ 44 CPU
46 メモリ 48 温度コントローラ
50 パワーユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】 押出機等から供給される溶融樹脂を一旦蓄積し、幅方向に拡げるマニホルドと、それに続く平坦なダイランドおよびダイランドの下流にあり、溶融樹脂をシート状に押出すリップ隙間を有するTダイの幅方向に前記マニホルドおよびダイランドに沿って複数個のヒータを設け、該ヒータを別々に温度制御してダイ内の溶融樹脂の粘度を調整し、リップ隙間から吐出されるシート等の厚さあるいはバンク量プロファイルを制御する樹脂温度調整式自動Tダイの樹脂流量分布制御方法において、リップ隙間を幅方向に複数n個のヒータ、レーンに分割し、ヒータ側制御は、第1工程として、各レーンのシート厚さプロファイルもしくはバンク量プロファイルの偏差から各レーンの目標設定樹脂流量qの必要樹脂流量変化量Δq(i=1,2,…n)を設定し、この必要樹脂流量変化量Δqから、次式(1)
【数1】


但し、Δt:i番目のレーンの目標設定樹脂温度tの必要樹脂温度変化量b:溶融樹脂粘度の温度係数Δq:i番目のレーンの目標設定樹脂流量qに対する必要樹脂流量変化量を演算することにより必要樹脂温度変化量Δtを設定し、次いで、この必要樹脂温度変化量Δtから、次式(2)
【数2】


但し、ΔTj:j番目のヒータの目標設定ヒータ温度Tjに対する必要ヒータ温度変化量αij=Δt/ΔTj、すなわちi番目のレーンの必要樹脂温度変化量Δtのj番目のヒータの必要ヒータ温度変化量ΔTjに対する比例定数(干渉係数)
C:溶融樹脂の比熱q:樹脂流量を演算することにより必要ヒータ温度変化量ΔTiを設定するマスタ制御ループと、第2工程として、前記必要ヒータ温度変化量ΔTiに基づき、それぞれのヒータを制御するスレーブ制御ループとからなるマルチカスケード制御システムにより構成することを特徴とする樹脂温度調整式Tダイの樹脂流量分布制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図4】
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【特許番号】特許第3212649号(P3212649)
【登録日】平成13年7月19日(2001.7.19)
【発行日】平成13年9月25日(2001.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−303259
【出願日】平成3年11月19日(1991.11.19)
【公開番号】特開平5−138718
【公開日】平成5年6月8日(1993.6.8)
【審査請求日】平成10年9月14日(1998.9.14)
【出願人】(000003458)東芝機械株式会社 (843)
【参考文献】
【文献】特開 平3−53922(JP,A)
【文献】特開 平2−63715(JP,A)
【文献】特開 平2−38022(JP,A)
【文献】特開 平5−138713(JP,A)
【文献】特公 昭60−50133(JP,B2)