説明

樹脂潤滑用グリース組成物

【課題】樹脂と樹脂、樹脂と金属などの他の材料との間の潤滑性を良好にする樹脂潤滑用グリース組成物を得ようとする。
【解決手段】
本発明は、基油と増ちょう剤を含むグリース基材に、飽和脂肪酸のアミン塩を含有させて樹脂潤滑用グリース組成物とする。この飽和脂肪酸のアミン塩は、特に、下記一般式(1)で示されるものが好ましい。
〔化1〕 RCOO- R'NH3+ ・・・・・・・・(1)
(但し、Rは、炭素数5〜21の直鎖状飽和炭化水素基、R’は炭素数16〜18の不飽和炭化水素基である。)
飽和脂肪酸アミン塩の合計含有量は、グリース組成物全量に対して0.1〜10質量%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂材料が使用されている転がりや滑りなどが生ずる潤滑個所において使用する樹脂潤滑用グリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年自動車産業を初めとして各種産業機械の部品には、軽量化やコスト低減、低摩擦、またはリサイクル等の多くの観点から樹脂材の使用が目立つようになっているが、部品の構成要素が多様化する中で、新たな課題も多く発生し、様々な技術の改良が行われている。
【0003】
例えば、自動車の電動ドアミラーの可動部やステアリングの伸縮軸の摺動部、R&Pステアリングのラックガイド等の各種摺動部、電動パワーステアリング装置の動力伝達歯車、各種アクチュエータ、エアシリンダ内部の摺動部、工作機械のリニヤガイドやボールネジのリテーナや各種軸受けのリテーナ、クレーンのブームの摺動部、更に、ラジカセ、ビデオテープレコーダー、CDプレーヤ等音響機器の樹脂ギヤ部、プリンター、複写機、ファックス等のOA機器の樹脂ギヤ部、各種電気スイッチの摺動部などにおいて、樹脂と樹脂、又は樹脂と金属などの樹脂以外の材料とが接触状態で機能する潤滑個所がある。
【0004】
従来、潤滑の分野においては、機械類の構成要素の殆どが金属材料であったため、鉄、アルミ、これらの合金類、真鍮、青銅などといった金属同士の摩擦や摩耗における研究の歴史は古く、広くて深い経験や知見によって多くの技術が蓄積されている。
例えば、金属同士の摩擦や摩耗には、リンやイオウなどの元素を含む極圧剤や耐摩耗剤
が効果的で、これらの添加剤は積極的に金属表面と化学反応を起こすことによって皮膜を形成し、これによって摩擦や摩耗の低減や焼付を防止するなどの機能を発揮させる事はよく知られており、エンジンオイルやギヤーオイル及び高機能な工業用潤滑油やグリースにはこれらの技術が広く応用されている。
【0005】
しかしながら、樹脂同士ないしは、樹脂と金属などの異種材料との潤滑技術の歴史は浅いにも拘わらず、上記したように近年その用途が広がり、多様化する中で、潤滑グリースに対する種々の要求に対して必ずしも満足できる技術を提供しきれていないのが現状である。
例えば、上記した金属同士の摩擦や摩耗に効果的なリン系やイオウ系添加剤を使用する技術を、樹脂同士あるいは樹脂と金属材料等の潤滑個所に適用した場合は、金属同士で得られるような摩擦低減効果は殆ど得られず、逆に摩擦や耐摩耗の性能が悪化し、却って機械部品の寿命が短くなったりするケースも少なくない。
【0006】
これは、樹脂の場合は金属に比べると界面の化学活性が微弱なため、摺動面等においてリン系やイオウ系等の有機系の添加剤との反応が殆んど行なわれず、吸着も弱い事から、摩擦や摩耗に対する効果が薄く、このために摩擦低減作用が弱いものと考えられる。また、強制的に温度が上昇する環境等で使用される場合は、これらの添加剤の活性イオウやリンが樹脂内部に浸透し、クラックの発生や脆化を起こしたり、または摩擦や摩耗を促進させたりといった背反作用が起こることもある。
【0007】
上記したような樹脂同士ないしは、樹脂と金属などの異種材料との潤滑状態を良好にするために、基油と増ちょう剤を含むグリースに、平均分子量が900〜10000のポリオレフィンワックスを含有する潤滑グリースが樹脂潤滑部で低摩擦を実現し、樹脂潤滑部を有する部品の効率向上に寄与する技術が提案されたり(特許文献1)、増ちょう剤として金属石けん系増ちょう剤、複合体金属石けん系増ちょう剤及びポリウレアと、層状構造を持つ化合物を含有する樹脂用グリースにより優れた樹脂の耐摩耗性を有する技術が開示されているが(特許文献2)、更なる改善が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−194867号公報
【特許文献2】特開2008−31416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、樹脂と樹脂、または樹脂と金属などの異種材料などの、相対する少なくとも一方が樹脂材料により構成されている転がりや滑りなどが生ずる潤滑個所において、摩擦がより軽減され良好な潤滑性が得られる樹脂潤滑用グリース組成物を得ようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、従来より樹脂の潤滑挙動を界面化学の理論等に基づいて研究、調査を行っていた処、樹脂と樹脂、または樹脂と金属などの異種材料など、樹脂と相対する材料との界面で発生する微弱の電気がグリース中に添加したある種の脂肪酸アミン塩と相互に作用し、更にこの添加物がグリースとのバインダー作用を発揮し、樹脂及び樹脂と相対する材料との界面に潤滑膜をより確実に形成維持することができ、摩擦を低減し良好な潤滑性が得られることを見出し本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明は、基油と増ちょう剤を含むグリース基材に、飽和脂肪酸アミン塩の少なくとも1種以上を含有することを特徴とする樹脂潤滑用グリース組成物であり、特に好ましくは、下記一般式(1)の脂肪酸アミン塩を含有させて樹脂潤滑用グリース組成物とする。
〔化1〕 RCOO- R'NH3+ ・・・・・・・・(1)
(但し、Rは、炭素数5〜21の直鎖状飽和炭化水素基、R’は炭素数16〜18の不飽和炭化水素基である。)
【0012】
また、上記した少なくとも1種類以上を含有する飽和脂肪酸アミン塩の合計含有量は、グリース組成物全量に対して0.1〜10質量%程度で使用する事が好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、相対する一方が樹脂材料により構成される部材間における転がりや滑りなどの潤滑個所において、より摩擦が軽減され良好な潤滑性を得ることができ、樹脂潤滑用グリース組成物として広範に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明における基油は、一般的に潤滑油の基油やグリースの基油として使用されるものであって、特に限定されるものではないが、例えば、鉱物油、合成油、動植物油、及びこれらの混合油が挙げられる。
特に、API(American Petroleum Institute;米国石油協会)基油カテゴリーでグループ1、グループ2、グループ3、グループ4などに属する基油を、単独または混合して使用することができる。
【0015】
グループ1基油には、例えば、原油を常圧蒸留して得られる潤滑油留分に対して、溶剤精製、水素化精製、脱ろうなどの精製手段を適宜組み合わせて適用することにより得られるパラフィン系鉱油がある。
グループ2基油には、例えば、原油を常圧蒸留して得られる潤滑油留分に対して、水素化分解、脱ろうなどの精製手段を適宜組み合わせて適用することにより得られたパラフィン系鉱油がある。ガルフ社法などの水素化精製法により精製されたグループ2基油は、全イオウ分が10ppm未満、アロマ分が5%以下であり、本発明において好適に用いることができる。
【0016】
グループ3基油およびグループ2プラス基油には、例えば、原油を常圧蒸留して得られる潤滑油留分に対して、高度水素化精製により製造されるパラフィン系鉱油や、脱ろうプロセスにて生成されるワックスをイソパラフィンに変換・脱ろうするISODEWAXプロセスにより精製された基油や、モービルWAX異性化プロセスにより精製された基油があり、これらも本発明において好適に用いることができる。
【0017】
合成油の具体例としては、例えば、ポリオレフィン、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール、ジ−2−エチルヘキシルセバケートやジ−2−エチルヘキシルアジペート等のジエステル、トリメチロールプロパンエステルやペンタエリスリトールエステル等のポリオールエステル、パーフルオロアルキルエーテル、シリコーン油、ポリフェニルエーテルその他がある。
【0018】
上記ポリオレフィンには、各種オレフィンの重合物又はこれらの水素化物が含まれる。オレフィンとしては任意のものが用いられるが、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン、炭素数5以上のα−オレフィンなどが挙げられる。ポリオレフィンの製造にあたっては、上記オレフィンの1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いても良い。特にポリα−オレフィン(PAO)と呼ばれているポリオレフィンが好適であり、これはグループ4基油である。
【0019】
天然ガスの液体燃料化技術のフィッシャートロプッシュ法により合成されたGTL(ガストゥリキッド)は、原油から精製された鉱油基油と比較して、硫黄分や芳香族分が極めて低く、パラフィン構成比率が極めて高いため、酸化安定性に優れ、蒸発損失も非常に小さいため、本発明の基油として好適に用いることができる。
【0020】
また、動植物油の代表例としては、ひまし油や菜種油等があげられる。
上記した各種の油は、単独で又は混合して基油として使用することができるが、上記のものは単なる例示であって、これによって本発明が限定されるものではない。
【0021】
上記基油に配合される増ちょう剤には、潤滑グリースとして使用される全ての増ちょう剤を含むものであり、特に限定されるものではないが、例えば、リチウム石けん、カルシウム石けん、ナトリウム石けん、バリウム石けん、バリウムコンプレックス石けん、カルシウムコンプレックス石けん、アルミニウムコンプレックス石けん、リチウムコンプレックス石けん、ベントン、クレイ、シリカ、第三リン酸カルシウム、カルシウムスルフォネートコンプレックス、ウレア、ナトリウムテレフタラメート等がありこれらの増ちょう剤を単独で又は組み合わせて用いる事ができる。
【0022】
上記した基油と増ちょう剤を含むグリース基材に加えられるのは、脂肪酸アミン塩であり、これは一級アミンと脂肪酸とが結合したものであって、脂肪酸の種類とアミンの種類の組み合わせを変える事によって多種類の脂肪酸アミン塩が容易に生成可能であり、工業分野では主に界面活性剤や防錆剤として用いられることが多い。
脂肪酸アミン塩の中で飽和脂肪酸のアミン塩が好ましく、特に好ましくは、下記一般式(1)の飽和脂肪酸アミン塩である。
〔化2〕
RCOO- R'NH3+ ・・・・・・・・(1)
(但し、Rは、炭素数5〜21の直鎖状飽和炭化水素基、R’は炭素数16〜18の不飽和炭化水素基である。)
【0023】
上記脂肪酸アミン塩の原料である一級アミンとしては、炭素数16〜18の不飽和の一級アミンが好ましく、例えば、パルミトイルアミン、オレイルアミン、リノレイルアミン等が挙げられる。
【0024】
また、脂肪酸としては炭素数6〜22の直鎖状飽和脂肪酸が好ましく、例えば、カプロン酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、リンデル酸、ミリスチン酸、ツズ酸、フィセトレイン酸、ミリストレイン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ペトロセリン酸、エライジン酸、ツベルクロステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、等が挙げられる。
【0025】
この飽和脂肪酸アミン塩は、樹脂と樹脂以外の材料との間の摩擦面への吸着が強く、材料間の摩擦力の低減効果が極めて大きい。
【0026】
上記飽和脂肪酸アミン塩の1種類または2種類以上の合計の含有量は、グリース組成物全量に対して約0.1〜10%程度の範囲で添加するとよく、好ましくは約1〜5質量%程度で用いるとよい。0.1質量%より少ないと、界面への電気化学的な作用が少な過ぎて摩擦係数を低減する効果が低い。また、飽和脂肪酸アミン塩が10質量%より多いと、グリース組成物本来の性能(例えば、粘弾性、せん断安定性、耐熱性等)を効果的に発揮する事が難しくなり、長期的に安定な状態を維持することが難しくなり易いし、コスト高にもなる。
【0027】
また、本発明のグリース組成物には、さらに酸化防止剤、防錆剤、油性剤、極圧剤、耐摩耗剤、固体潤滑剤、金属不活性剤、ポリマー等の他の添加剤を適宜に加えることができる。
酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジ−tブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−tブチルパラクレゾール、P,P′−ジオクチルジフェニルアミン、N−フェニル−α−ナフチルアミン、フェノチアジンなどがある。
防錆剤としては、酸化パラフィン、カルボン酸金属塩、スルフォン酸金属塩、カルボン酸エステル、スルフォン酸エステル、サリチル酸エステル、コハク酸エステル、ソルビタンエステルや各種アミン塩などがある。
【0028】
油性剤、極圧剤、耐摩耗剤としては、例えば、硫化ジアルキルジチオリン酸亜鉛、硫化ジアリルジチオリン酸亜鉛、硫化ジアルキルジチオカルバミン酸亜鉛、硫化ジアリルジチオカルバミン酸亜鉛、硫化ジアルキルジチオリン酸モリブテン、硫化ジアリルジチオリン酸モリブテン、硫化ジアルキルジチオカルバミン酸モリブテン、硫化ジアリルジチオカルバミン酸モリブテン、有機モリブテン錯体、硫化オレフィン、トリフェニルフォスフェート、トリフェニルフォスフォロチオネート、トリクレジルフォスフェート、その他リン酸エステル類、硫化油脂類などがある。
【0029】
固体潤滑剤としては、例えば、二硫化モリブテン、グラファイト、窒化ホウ素、メラミンシアヌレート、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、二硫化タングステン、マイカ、フッ化黒鉛などがある。
金属不活性剤としては、N,N′ジサリチリデン−1,2−ジアミノプロパン、ベンゾトリアゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾチアゾール、チアジアゾールなどがある。
ポリマーとしては、ポリブテン、ポリイソブテン、ポリイソブチレン、ポリイソプレン、ポリメタクリレートなどが挙げられる。
なお、上記した他の添加剤は、いずれも例示であって何らこれに限られるものではない。
【0030】
本発明においては、相対する一方が樹脂材料により構成される部材間の転がりや滑りなどが見られる潤滑個所において、摩擦を軽減し、良好な潤滑性を得ることができるものであるから、相対する一方の部材が樹脂であることは必要であるが、その樹脂と相対する部材は、樹脂以外にも、鉄、銅、アルミニウムその他の金属、及びこれらの合金類などの各種金属材料の他、ゴムやガラス、セラミックなどの無極性材料であってもよく、特に限定されることなく広く用いられる。
【0031】
また、上記樹脂材料としては、汎用プラスチック、エンジニアリングプラスチックを問わず各種のものに対して使用することができ、例えば、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、フッ素樹脂、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリイミド、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、フェノール樹脂、AS樹脂、ABS樹脂、AES樹脂、AAS樹脂、ACS樹脂、MBS樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、ABS/ポリカーボネートアロイ等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【実施例】
【0032】
以下、実施例及び比較例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
実施例及び比較例の調製に当り、下記の材料を用意した。
1.基油A:40℃の動粘度が101.1mm/sの鉱物油である。
2.基油B:40℃の動粘度が31.2mm/sのポリα−オレフィン油である。
3.基油C:40℃の動粘度が47.08mm/s、粘度指数が146、%CAが1以下、%CNが11.9、%CPが85以上である高度精製油である。
4.増ちょう剤A:基油中でオクチルアミン2モルとMDI(4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート)1モルとの合成反応により得られるジウレアである。
5.増ちょう剤B:基油中で12ヒドロキシステアリン酸と水酸化リチウムとの反応で得られるリチウム12ヒドロキシステアレ−ト石けんである。
6.増ちょう剤C:〔Ca(PO・Ca(OH)で表わされるヒドロキシアパタイト組成の第三リン酸カルシウムを有機溶媒で膨潤しゲル化させて得られるものである。
7.増ちょう剤D:基油中でベントナイトを有機溶媒で膨潤しゲル化させて得られるベントナイトである。
8.増ちょう剤E:基油中でNオクタデシルテレフタル酸メチルと水酸化ナトリウムとの反応で有られるナトリウムテレフタラメートである。
9.脂肪酸アミン塩の原料であるオレイルアミンについては、炭素数18の不飽和成分(オレイル成分)が75%以上、炭素数16の不飽和成分(パルミトイル成分)が5%以上の一般的な工業用の原料を用いた。
10.オレイルアミン以外のアミン及び脂肪酸は1級以上の試薬を用いた。
【0033】
実施例1〜23は、表1〜4に示す配合割合の基油及び増ちょう剤を用いグリースを製造し、各種脂肪酸アミン塩を添加してグリース組成物を得た。
具体的には、実施例1〜8の増ちょう剤A(ウレア)を使用したグリースについては、グリース組成物の合計量が1000gになるように、基油、増ちょう剤Aの原料、並びに添加剤である各種アミン及び脂肪酸を、表1〜2に示す配合割合及びモル比になるようにあらかじめ計量した。その後、内容量3kgのグリース専用の製造釜内に基油の一部と増ちょう剤Aの原料のMDI(4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート)を張込み、加熱攪拌しながら60℃まで昇温させ、残部の基油に予め混合溶解させたオクチルアミンを張り込んで反応させ、180℃まで昇温後、一定の速度にて冷却し、増ちょう剤Aから成るベースグリースを得た。更に、上記各種アミンと脂肪酸をあらかじめ別口のベッセルにてベースオイル中で溶解結合させた脂肪酸アミン塩を釜内に張り込み、ホモジナイザー処理して各実施例の樹脂潤滑用グリース組成物を得た。
【0034】
実施例9〜12の増ちょう剤B(リチウム石けん)を使用したグリース組成物については、組成物の合計量が1000gになるように、基油、増ちょう剤Bの原料、並びに添加剤である各種アミン及び脂肪酸を、表2に示す配合割合及びモル比になるようにあらかじめ計量した。その後、内容量3kgのグリース専用の製造釜内に、基油と12ヒドロキシステアリン酸および水酸化リチウムと少量の水を張込み、密封し、攪拌加熱しながらけん化反応を行い、約150℃で0.35MPaの圧力まで上昇させ、徐々に脱水した。更に215℃まで加熱し内容物を溶解させ、一定の速度にて冷却し、石けん繊維を成長させて、増ちょう剤Bから成るベースグリースを得た。次に、上記各種アミンと脂肪酸をあらかじめ別口のベッセルにてベースオイル中で溶解結合させた脂肪酸アミン塩を釜内に張り込み、ホモジナイザー処理して各実施例の樹脂潤滑用グリース組成物を得た。
【0035】
実施例13〜14の増ちょう剤C(第三りん酸カルシウム)を使用したグリース組成物については、組成物の合計量が1000gになるように、基油、増ちょう剤Cの原料、並びに添加剤である各種アミン及び脂肪酸を、表3に示す配合割合及びモル比になるようにあらかじめ計量した。その後、内容量3kgのグリース専用の製造釜内に基油と第三リン酸カルシウムおよびゲル化を促進させるための有機溶媒を張込み、加熱攪拌しながら徐々に150℃まで昇温させ、十分に有機溶媒を気化させると共に均質に分散膨潤させ、一定の速度にて冷却し増ちょう剤Cから成るベースグリースを得た。更に、上記各種アミンと脂肪酸をあらかじめ別口のベッセルにてベースオイル中で溶解結合させた脂肪酸アミン塩を釜内に張り込み、ホモジナイザー処理して各実施例の樹脂潤滑用グリース組成物を得た。
【0036】
実施例17、18、21の他の増ちょう剤と混合使用している増ちょう剤D(ベントナイト)を使用したグリース組成物については、あらかじめ表3〜表4の配合割合にて組成物の合計量が1000gになるように、基油、増ちょう剤Dの原料を計量した。その後、内容量3Kgのグリース専用の製造釜内に基油と、ベントナイト及びゲル化を促進させるための有機溶媒を張込み、加熱攪拌しながら徐々に150℃まで昇温させ、十分に有機溶媒を気化させると共に均質に分散膨潤させ、その後、一定の速度にて冷却し増ちょう剤Dから成るベースグリースを得た。
次に、増ちょう剤Dと混合する実施例17〜18の増ちょう剤A、及び実施例21の増ちょう剤Cからなるベースグリースを表3〜表4に記載の配合割合にて夫々別の釜にて製造し、増ちょう剤Dから成るベースグリースと表に記載の割合で常温にて混合した。最後に、あらかじめ実施例記載の配合割合及びモル比にてアミン及び脂肪酸をベースオイル中にて溶解結合させた脂肪酸アミン塩を釜内に張り込み、ホモジナイザー処理して実施例17〜18及び実施例21の樹脂潤滑用グリース組成物を得た。
【0037】
実施例23の増ちょう剤E(ナトリウムテレフタラメート)を使用したグリースについては、グリース組成物の合計量が1000gになるように、基油、増ちょう剤Eの原料、並びに添加剤である各種アミン及び脂肪酸を、表4に示す配合割合及びモル比になるようにあらかじめ計量した。その後、内容量3Kgのグリース専用の製造釜内に基油の一部と増ちょう剤Eの原料のNオクタデシルテレフタル酸メチルを張込み、加熱攪拌しながら90℃の温度にて、あらかじめ水に攪拌分散しておいた水酸化ナトリウム懸濁液を釜内に徐々に張込み反応させ、170℃まで昇温後、一定の速度にて冷却し、増ちょう剤Eから成るベースグリースを得た。更に、上記各種アミンと脂肪酸をあらかじめ別口のベッセルにてベースオイル中で溶解結合させた脂肪酸アミン塩を釜内に張り込み、ホモジナイザー処理して実施例の樹脂潤滑用グリース組成物を得た。
【0038】
実施例15、16、19、20、22の混合した増ちょう剤を用いたグリースについても同様に、上記したグリースの製造方法に従って得たベースグリースを実施例17、18及び21の増ちょう剤を混用したグリースに準じて、各実施例の樹脂潤滑用グリース組成物を得た。
【0039】
比較例1〜18については、表5〜7に示す配合割合にて各種原料を計量し、上記の実施例に記載した製造方法に準じて、各種グリース組成物を製造した。
【0040】
実施例及び比較例の性状及び性能を比較するために、下記の測定、試験を行った。
1.ちょう度 :JIS K2220−7によって測定した。
2.滴 点 :JIS K2220−8によって測定した。
3.基油の動粘度:JIS K2283によって測定した。
4.摩擦試験 :バウデン式摩擦試験を行った。すなわち、バウデン式摩擦試験装置を用い下記の試験条件にて、樹脂(試験材1b)と相対する樹脂以外の材料(試験材1a)間の摩擦係数を測定した。
(1)試験材1a:材質;鋼材S45Cと銅合金ALBC2。
寸法;外形5.0mm、長さ24mmでピン状で、ピンの先端は
r=2.5mmの半球状で、
接触面は直径約1.0mmの平面に加工してある。
(2)試験材1b:材質;ポリアミド樹脂(東レ社製・66ナイロン/アミラン)と
ポリアセタール樹脂(デュポン社製・デルリン500P)。
寸法;長さ200mm、幅52mmの板状体である。
(3)温 度 :25℃
(4)すべり速度:1.0mm/s
(5)荷 重 :870g
(6)接触面の面圧:10MPa
なお、ポリアミド樹脂と鋼材間については全実施例及び全比較例についてバウデン式摩擦試験を行い、ポリアセタール樹脂と銅合金間についてはいくつか選択して試験を行った。
【0041】
(試験結果)
表1〜7に示すとおりである。
(考察)
実施例1〜23の樹脂潤滑用グリース組成物は、全て半固体のグリース状を示し、ちょう度は270〜305の範囲で適度な硬さの値を示し、滴点も178℃以上で良好な状態であった。また、バウデン摩擦試験におけるポリアミド樹脂−鋼の間の摩擦係数は0.048〜0.065であり、ポリアセタール樹脂−銅合金の間の摩擦係数は0.049〜0.062と一様に低く、各種樹脂と鋼や銅合金などの樹脂以外との材料において良好な潤滑性能を示していることが判る。
一方、比較例1〜18のグリース組成物は、全て半固体のグリース状を示し、ちょう度も266〜302で適度な硬さの値を示し、滴点も175℃以上と良好な状態であったが、バウデン摩擦試験におけるポリアミド樹脂−鋼の間の摩擦係数は0.081〜0.127であり、ポリアセタール樹脂−銅合金の間の摩擦係数も0.088〜0.121と一様に高く、各種樹脂と銅合金や鋼などの樹脂以外との材料との間の潤滑状態において実施例よりもいずれも劣っており、潤滑性能の向上効果が得られていないことが判る。
こうした結果から、本発明の樹脂潤滑用グリース組成物は、良好な潤滑性能を示すことが判る。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
【表3】

【0045】
【表4】

【0046】
【表5】

【0047】
【表6】

【0048】
【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油と増ちょう剤を含むグリース基材に、飽和脂肪酸アミン塩の少なくとも1種類以上を含有させた樹脂潤滑用グリース組成物。
【請求項2】
上記飽和脂肪酸アミン塩が下記一般式(1)のものであることを特徴とする請求項1に記載の樹脂潤滑用グリース組成物。
(化1) RCOO- R'NH3+ ・・・・・・・・(1)
(但し、Rは、炭素数5〜21の直鎖状飽和炭化水素基、R’は炭素数16〜18の不飽和炭化水素基である。)
【請求項3】
上記少なくとも1種類以上含有する飽和脂肪酸アミン塩の合計含有量が、グリース組成物全量に対して0.1〜10質量%である請求項1または2に記載の樹脂潤滑用グリース組成物。

【公開番号】特開2010−106255(P2010−106255A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−220538(P2009−220538)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(000186913)昭和シェル石油株式会社 (322)
【Fターム(参考)】