説明

樹脂物性改良剤

【課題】 簡単に高分子樹脂の物性を向上させることのできる手段を見出し、これを利用して物性が向上した高分子樹脂を提供すること。
【解決手段】シリコンオイル、水性シリコン・アクリルエマルジョンおよびフッ素樹脂からなる群より選ばれる流動性化合物を、超臨界二酸化炭素流体で処理することにより得られる樹脂物性改良剤および高分子樹脂中に、前記樹脂物性改良剤を添加することを特徴とする物性が改良された高分子樹脂の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂物性改良剤およびこれを用いる物性が改良された高分子樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
戦後に開発されたナイロンをはじめとする高分子樹脂は、現在までに、繊維製品や成形性品等など多方面の多くの分野において汎用されている。そして、特に最近では、樹脂製品に要求される性能がだんだん厳しくなり、高分子樹脂の有する種々の物性を高めることが要求されている。
【0003】
特に、電子部品関連で使用する樹脂製品や、エンジニアリングプラスチックでは、その利用用途に対応した、従来にない高い物性の高分子樹脂の開発が広く求められている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って本発明は、簡単に高分子樹脂の物性を向上させることのできる手段を見出し、これを利用して物性が向上した高分子樹脂を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、高分子樹脂の物性を向上しうる手段について、広く検討を行っていたところ、特定の流動性化合物を超臨界二酸化炭素流体で処理し、これを成型前の樹脂に添加することにより、成型された高分子樹脂の物性が格段に向上することを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち本発明は、シリコンオイル、水性シリコン・アクリルエマルジョンおよびフッ素樹脂からなる群より選ばれる流動性化合物を、超臨界二酸化炭素流体で処理することにより得られる樹脂物性改良剤である。
【0007】
また本発明は、高分子樹脂中に、上記樹脂物性改良剤を添加することを特徴とする物性が改良された高分子樹脂の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の樹脂物性向上剤を使用することにより、樹脂の透明性を挙げると共に、引張強度、引張伸び、耐摩耗性等の力学的特性をも向上させることが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の樹脂物性向上剤は、シリコンオイル、水性シリコン・アクリルエマルジョンおよびフッ素樹脂からなる群より選ばれる流動性化合物(以下、「流動性化合物」という)を、超臨界二酸化炭素流体で処理することにより得られる。
【0010】
この流動性化合物としては、ポリエーテル変性シリコンオイル、アミノ変性シリコンオイル、ウレイド変性シリコンオイル等のシリコンオイル、水性常温硬化型シリコーンアクリル樹脂等の水性シリコン・アクリルエマルジョンおよびフルオロオレフィンとアルキルビニルエ−テルの交互共重合体、フルオロオレフィンとカルボン酸ビニルエステルの共重合体等のフッ素樹脂が例示される。これらのうち、水性シリコン・アクリルエマルジョン市販品としては、リプレSF80(ナトコ社製)、WSA−900(大日本インキ化学工業社製)等が挙げられる。
【0011】
また、上記流動性化合物の超臨界二酸化炭素流体処理は、二酸化炭素を超臨界状態とすることのできる圧力容器利用した超臨界二酸化炭素流体処理装置を用い、例えば、超臨界逆相蒸発法(SCRPE)で行うことができる。そして処理の際の条件は、超臨界二酸化炭素領域の温度および圧力範囲であり、これに限定されるものではないが、31.1℃以上の温度、7.38MPa以上の圧力であることが好ましい。また、処理時間は、1分から12時間程度であり、好ましくは5分ないし3時間の処理時間である。
【0012】
このような条件を達成しうる超臨界二酸化炭素流体処理装置の一例としては、その概要を図1に示すようなものを挙げることができる。図中、1は超臨界二酸化炭素流体処理装置、2は圧力容器、3は反応部、4は観察窓、5は排出ライン、6は導入ライン、7は調圧弁、8はハンドポンプ、9は圧力計、10はバルブである。
【0013】
図1の装置を用いる圧力容器を用いる超臨界二酸化炭素流体処理は、例えば次の手順で行うことができる。
(1) 圧力容器2の反応部3に、流動性化合物(図示せず)を入れる。
(2) 圧力容器2を密封する。
(3) バルブ10b、10cおよび10eを開け、炭酸ガスボンベ(図示せず)から
二酸化炭素を反応部3に注入する。
(4) バルブ10eを閉じた後、ハンドポンプ8で加圧する。
(5) 撹拌手段(図示せず)により、反応部3中の流動性化合物を撹拌する。
(6) バルブ10cおよび10dを閉めた後、バルブ10aを開いて減圧する。
(7) 反応部3から、超臨界二酸化炭素流体で処理された流動性化合物を取り出す。
【0014】
上記のようにして超臨界二酸化炭素流体処理された流動性化合物は、そのままで各種樹脂に対する樹脂物性改良剤として使用することができる。
【0015】
本発明の樹脂物性改良剤を用いることのできる高分子樹脂としては、これに限定されるものではないが、ナイロン等のポリアミド類を挙げることができる。
【0016】
また、高分子樹脂に対する本発明の樹脂物性改良剤の添加量は、特に制約されるものではないが、高分子樹脂100重量部に対し、0.001ないし20重量部程度、好ましくは、0.05ないし15重量部である。
【0017】
更に、高分子樹脂に対する本発明の樹脂物性改良剤の添加方法は、特に制約されるものではなく、押出成形機、ミキサ−混合機、流動層乾燥機、スプレ−乾燥機等を使用する方法により添加することが可能である。
【0018】
本発明の樹脂物性改良剤の作用機序は、不明な部分が多いが、現時点では次のように推定される。すなわち、流動性化合物を超臨界二酸化炭素流体中に暴露することで、流動性化合物の分子内に二酸化炭素を多く坦持することができ、高分子樹脂中への分散が容易になったために物性が向上したと考えられる。そして、特に透明性に対しては、ナノ寸法を維持したまま樹脂と混合分散が出来るので、ナノサイズの結晶が形成されると考えられる。このような機構で、例えば、アクリル樹脂なみの透明性を持ちながら強度が向上したナイロン樹脂が得られたものと推定される。
【実施例】
【0019】
以下に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に何ら制約されるものではない。
【0020】
実 施 例 1
(1)50℃に加熱された、図1に示すような、観察窓付き高圧ステンレス容器2(内容積30ml;以下、「圧力容器」とする)の容器部3中に、ポリエ−テル変性シリコンオイル(KF−352A;信越シリコン社製/比重1.03、屈折率1.446、曇点35℃、HLB7)を流し込むことにより仕込んだ。
【0021】
次いで、二酸化炭素容器(図示せず)とハンドポンプ8を連通するバルブ10eを開き、ハンドポンプ8に二酸化炭素を導入し、このバルブ10eを閉じた。
【0022】
更に、ハンドポンプ8と圧力容器2を連通するバルブ10bおよび10cを開き、ハンドポンプ8により導入ライン6を通じて二酸化炭素を圧力容器2中に導入した。この時、圧力容器2は50℃付近で安定していることを確認した。
【0023】
圧力容器2内の圧力が10Mpaとなるまで二酸化炭素を導入後、ハンドポンプ8と連通するバルブ10bおよび10cを閉め、15分間放置した。この間圧力が一定であることと、圧力容器内部が均一相になっていることを確認した。
【0024】
最後に、圧力容器2の放出ライン5のバルブ10aを開けて圧力容器2内の二酸化炭素を外へ放出し、常圧および常温に戻した後、超臨界二酸化炭素処理ポリエ−テル変性シリコンオイル(樹脂物性改良剤1)を得た。
【0025】
(2)上記(1)で得られた樹脂物性改良剤1を用い、下記のようにして物性が向上したナイロン樹脂フィルムを得た。
【0026】
すなわち、ナイロン6樹脂(アミランCM1021FS、東レ(株)製)100部に対し、樹脂物性改良剤1を5部添加した。次いで、ミキサ−を用い、500rmp、5分間撹拌処理した後、製袋機を用い、縦方向・横方向のブロ−比が各3.5倍でインフレ−ションさせ、厚さ20μmのナイロン製の透明袋を得た。
【0027】
実 施 例 2
ナイロン6樹脂100部に対し、樹脂物性改良剤1を1部添加する以外は、実施例1と同様にしてナイロン製透明袋(フィルム)を得た。
【0028】
実 施 例 3
ナイロン6樹脂100部に対し、樹脂物性改良剤1を10部添加する以外は、実施例1と同様にしてナイロン製透明袋を得た。
【0029】
実 施 例 4
実施例1(1)において、ポリエ−テル変性シリコンオイルを水性シリコン・アクリルエマルジョン(リプレSF80;ナトコ社製)に代えて得られる樹脂物性改良剤2を用いる以外は実施例1(2)と同様にしてナイロン製透明袋を得た。
【0030】
実 施 例 5
実施例1(1)において、ポリエ−テル変性シリコンオイルをフッ素樹脂(ルミフロンLF600;旭硝子社製)に代えて得られる樹脂物性改良剤3を用いる以外は実施例1(2)と同様にしてナイロン製透明袋を得た。
【0031】
実 施 例 6
実施例1(1)において、ポリエ−テル変性シリコンオイルをN−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン(KBM−573;信越シリコン社製)に代えて得られる樹脂物性改良剤4を用いる以外は実施例1(2)と同様にしてナイロン製透明袋を得た。
【0032】
比 較 例 1
樹脂物性改良剤を用いない以外は、実施例1(2)と同様にしてナイロン樹脂フィルムを得た。
【0033】
実 施 例 7
実施例1(1)で得られた樹脂物性改良剤1を用い、下記のようにして物性が向上したナイロン樹脂モノフィラメントを得た。
【0034】
すなわち、ナイロン6樹脂(アミランCM1021FS、東レ(株)製)100部に対し、樹脂物性改良剤1を0.5部添加した。次いで、軸内径30mmの押出成形機と延伸槽、ロ−ル式引取り機および巻き取り機を用い、その押出成形機のダイヘッドに直径1mmの穴が開いているノズルを取り付け押出成形して、直径0.1mmのモノフィラメントを得た。
【0035】
実 施 例 8
樹脂物性改良剤1を樹脂物性改良剤2に変更する以外は、実施例7と同様にして直径0.1mmのモノフィラメントを得た。
【0036】
実 施 例 9
樹脂物性改良剤1を樹脂物性改良剤3に変更する以外は、実施例7と同様にして直径0.1mmのモノフィラメントを得た。
【0037】
実 施 例 10
樹脂物性改良剤1を樹脂物性改良剤4に変更する以外は、実施例7と同様にして直径0.1mmのモノフィラメントを得た。
【0038】
実 施 例 11
樹脂物性改良剤1を樹脂物性改良剤5に変更する以外は、実施例7と同様にして直径0.1mmのモノフィラメントを得た。
【0039】
比 較 例 2
樹脂物性改良剤を用いない以外は、実施例8と同様にして直径0.1mmのモノフィラメントを得た。
【0040】
試 験 例 1
樹脂フィルム:
実施例1ないし6および比較例1で得たナイロン製透明袋について、A.透明性、B.引張強度、C.引張伸びおよびD.耐摩耗性を評価した。このうち、透明性(A)については、同一の厚さのアクリル樹脂を対照とし、目視比較で評価した。また、引張強度(B)および引張伸び(C)については、ASTM D638に記載の方法で評価し、耐摩耗性(D)については、各樹脂でテーパー摩耗の試験片を作成しテーパー試験を行って評価した。この結果を表1に示す。なお、いずれもインフレ−ション成形の縦および横方向の両方について評価した。
【0041】
【表1】

【0042】
この結果から明らかなように、本発明の樹脂物性改良剤を用いて製造したナイロンフィルムは、透明性においてアクリル樹脂と同等であった。しかも、引張強度、引張伸びおよび耐摩耗性の何れにおいても、樹脂改良剤を使用しないナイロンフィルムに比べ、格段に優れたものであった。
【0043】
試 験 例 2
実施例7ないし11および比較例2で得たナイロンモノフィラメントについて、A.透明性、B.引張強度、C.引張伸び、E.結び引張強度およびF.結び引張伸びを評価した。このうち、透明性(A)については、同一直径のアクリル樹脂フィラメントを対照とし、目視比較で評価した。また、引張強度(B)、引張伸び(C)、結び引張強度(E)および結び引張伸び(F)については、引張試験器(引張速度10mm/sec)で評価した。この結果を表2に示す。
【0044】
【表2】

【0045】
この結果から明らかなように、本発明の樹脂物性改良剤を用いて製造したナイロンフィラメントは、透明性においてアクリル樹脂と同等であった。しかも、引張強度、引張伸び、結び引張強度および結び引張伸び引張強度の何れにおいても、樹脂改良剤を使用しないナイロンフィラメントに比べ、いずれも優れており、特に、結び引張強度は優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の樹脂物性改良剤は、ポリアミド類を始めとする多くの高分子樹脂の物性を改良することができるものであるから、高分子分野において従来のものより物性の優れた高分子樹脂を製造する場合や、今までにない物性を持つ高分子樹脂を製造する際に有利に使用することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明で用いる超臨界二酸化炭素流体処理装置の概要を示す図面である。
【符号の説明】
【0048】
1 … … 超臨界二酸化炭素流体処理装置
2 … … 高圧容器
3 … … 反応部
4 … … 観察窓
5 … … 導入ライン
6 … … 排出ライン
7 … … 調圧弁
8 … … ハンドポンプ
9 … … 圧力計
10 … … バルブ
以 上


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンオイル、水性シリコン・アクリルエマルジョンおよびフッ素樹脂からなる群より選ばれる流動性化合物を、超臨界二酸化炭素流体で処理することにより得られる樹脂物性改良剤。
【請求項2】
超臨界二酸化炭素流体で処理が、31.1℃以上の温度で行われる請求項第1項記載の樹脂物性改良剤。
【請求項3】
超臨界二酸化炭素流体で処理が、7.38MPa以上の圧力下で行われる請求項第1項または第2項記載の樹脂物性改良剤。
【請求項4】
超臨界二酸化炭素流体での処理が、二酸化炭素充填完了後1分間ないし12時間行われる請求項第1項ないし第3項の何れかの項記載の樹脂物性改良剤。
【請求項5】
シリコンオイルが、ポリエーテル変性シリコンオイル、アミノ変性シリコンオイルまたはウレイド変性シリコンオイルから選ばれたものである請求項第1項ないし第4項の何れかの項に記載の樹脂物性改良剤。
【請求項6】
水性シリコン・アクリルエマルジョンが、水性常温硬化型シリコーンアクリル樹脂である請求項第1項ないし第4項の何れかの項に記載の樹脂物性改良剤。
【請求項7】
フッ素樹脂が、フルオロオレフィンとアルキルビニルエ−テルの交互共重合体またはフルオロオレフィンとカルボン酸ビニルエステルの共重合体である請求項第1項ないし第4項の何れかの項に記載の樹脂物性改良剤。
【請求項8】
高分子樹脂中に、シリコンオイル、水性シリコン・アクリルエマルジョンおよびフッ素樹脂からなる群より選ばれる流動性化合物を、超臨界二酸化炭素流体で処理することにより得られる樹脂物性改良剤を添加することを特徴とする物性が改良された高分子樹脂の製造方法。
【請求項9】
高分子樹脂100重量部に対し、樹脂物性改良剤を0.01から20重量部添加する物性が改良された高分子樹脂の製造方法。
【請求項10】
高分子樹脂が、ポリアミド樹脂である請求項第8項または第9項記載の物性が改良された高分子樹脂の製造方法。
【請求項11】
高分子樹脂への樹脂物性改良剤の添加を、押出成形機、ミキサ−混合機、流動層乾燥機またはスプレ−乾燥機を用いて行う請求項第8項ないし第10項の何れかの項記載の物性が改良された高分子樹脂の製造方法。


【図1】
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【公開番号】特開2008−201916(P2008−201916A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−40182(P2007−40182)
【出願日】平成19年2月21日(2007.2.21)
【出願人】(501370945)株式会社日本ボロン (33)
【Fターム(参考)】