説明

樹脂粒子の製造方法、そのための樹脂組成物及び樹脂粒子

【課題】 充填剤粒子が表面又は内部に偏在した樹脂粒子を選択的に製造できる方法、そのための樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 樹脂(A)と充填剤(B)とで構成され、かつ前記樹脂(A)及び充填剤(B)に対して非相溶性の乳化媒体(C)と溶融混合又は混練して、乳化媒体(C)中に充填剤(B)を含む樹脂(A)の分散相を形成する。この方法で、下記式で表され、かつ周波数ω1.12(sec-1)でのηr(ω)と周波数ω62.9(sec-1)でのηr(ω)との割合X=ηr(1.12)/ηr(62.9)の値を指標にして、Xが小さな値の樹脂組成物を用いて充填剤(B)が少なくとも内包された樹脂粒子を生成させ、Xが大きな樹脂組成物を用いて充填剤(B)で被覆された樹脂粒子を生成させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔料や機能性微粒子などの充填剤が表面又は内部に存在する樹脂粒子の製造方法、前記樹脂粒子の製造に有用な樹脂組成物、並びに充填剤を含む樹脂粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
充填剤が複合化された樹脂粒子としては、例えば、顔料が分散したトナーやインク粒子、紫外線吸収能を有する無機微粒子が複合化された化粧品用樹脂粒子などが利用されている。このような複合樹脂粒子では、高濃度の充填剤を樹脂粒子中に内包させることにより、例えば、着色剤を保護することができ、アレルギーを引き起こす可能性がある紫外線吸収剤などの機能性微粒子を樹脂粒子に内包させることにより、化粧品として使用してもアレルギー症状の発症の危険性を大幅に低減できる。また、充填剤を樹脂粒子の表面に付着させることにより、樹脂粒子の流動性、表面特性(帯電特性など)を改善できる。
【0003】
従来、充填剤を含む熱可塑性樹脂微粒子を得る方法としては、機械的な粉砕法、例えば、充填剤を樹脂と溶融混錬し、得られる樹脂組成物をクラッシャーなどで粗粉砕した後、ジェットミルなどを用いて微粉砕し、その後風力分級機などにより分級する方法が利用されている。しかし、このような方法では、得られた微粒子において充填剤の存在位置を制御することが困難である。例えば、粉砕に伴って充填剤と樹脂との界面を優先的に破壊することにより、粒子表面での充填剤の存在確率が高くなるため、充填剤が樹脂粒子に内包された状態に制御することは不可能である。また、粉砕に伴って樹脂粒子の表面に充填剤の一部が露出するため、樹脂粒子を充填剤で被覆することも困難である。さらに、このような方法は製造機器が高価であることに加え、得られた粒子形状も不定形で、粒子サイズにばらつきがある。また、樹脂粒子サイズを揃えるために分級すると、利用できないサイズの樹脂粒子が大量に生成するため、経済的にも不利である。さらに、粒子同士のブロッキング、分散性、流動性などの観点から、球状の粒子が好ましいものの、機械的な粉砕法では、球状の微粒子を得ることは不可能である。
【0004】
特開平10−176065号公報(特許文献1)には、微粉末化する熱可塑性樹脂(a)に、他の1種類以上の熱可塑性樹脂(b)を溶融混練することにより、樹脂(a)が分散相を形成し、樹脂(b)が連続相を形成する樹脂組成物を生成させ、樹脂(a)は溶解せず、樹脂(b)が溶解する溶媒及び条件で前記樹脂組成物を洗浄することにより、樹脂(a)の球状微粒子を得る方法が開示されている。この文献には、樹脂(a)に対して顔料や染料を含む各種添加剤を添加する方法も提示されている。
【0005】
特開昭62−30258号公報(特許文献2)には、熱可塑性樹脂に代表されるバインダー成分(a)と、この成分と相溶性のない成分(b)と、着色剤(C)や磁性顔料(d)とを溶融混練し、冷却し、得られた溶融混合物を、バインダー成分(a)の貧溶媒で、成分(b)の良溶媒となる溶媒(s)中に浸漬して溶融混合物を崩壊させ、着色剤(c)や磁性顔料(d)を内包する(a)の粒子(真球状電子写真用トナー)を得る方法が開示されている。この文献には、成分(b)として、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコールなどが記載されている。
【0006】
特許第3176925号公報(特許文献3)には、(A)不相溶性である第一の固体材料と第二の固体材料を溶融し;(B)この第一材料と第二材料の溶融混合物に剪断を適用して第一材料と第二材料の乳濁物を生成し、それによって第一材料の微細球状液粒が他方の材料の中に分散され:(C)この分散物を冷却して少なくとも第一材料を固体化し;(D)そしてこの冷却された分散物から第二材料を除去して第一材料の球状粒子を生じる;行程を含む、球状粒子の製造方法が開示され、第一材料が、トナー材料として使用するのに適する熱可塑性重合体を含むこと、第二材料が重合体材料(ポリエチレングリコールなど)やカラメルであること、第二材料が水溶性であり、溶剤が水であることが記載されている。さらに、剪断の工程が完了する前に溶融乳濁物の中に粉末の不溶性物質を添加することを包含し、それによって、この粉末は液粒に付着し、そしてそれによって、得られる粒子を被覆することも記載されている。
【0007】
しかし、これらの方法では、顔料や染料などの着色剤や磁性顔料などの添加剤が、連続相を構成するマトリックスにも分配されるため、顔料などの添加剤を樹脂の機能剤として有効利用できず、経済的にも不利である。特に、充填剤が内部に偏在する樹脂粒子や充填剤が表面に偏在する樹脂粒子を選択的に製造することが困難である。また、これらの方法では、樹脂粒子を形成するための樹脂は、耐溶剤性に優れた樹脂である必要があるとともに、分散相と連続相とがそれぞれ非相溶である必要もあり、さらに分散相の樹脂の種類によって、連続相の樹脂と溶媒との組み合わせを適切に選択する必要がある。そのため、樹脂同士の組合せが制限されるだけでなく、樹脂と溶媒との組み合わせについても制限される。さらに、分散体を冷却する過程において、非相溶である樹脂同士は、大きな相分離を起こし易いため、一旦生成した分散相が再び集合し、所定形状の微粒子を得ることができなくなる。さらにまた、連続相を形成する樹脂は、製品となる樹脂微粒子にはなんら関与しないため、最終的に回収されるか、あるいは溶解状態のまま廃棄されることになる。しかし、溶液中の樹脂を回収することは、非常に困難であるばかりか、樹脂微粒子の製造コストを上昇させる要因となる。また、樹脂溶液を廃液としてそのまま廃棄した場合、環境への悪影響も懸念される。
【0008】
特開2004−51942号公報(特許文献4)には、熱可塑性樹脂などの樹脂成分(A)と少なくともオリゴ糖(B1)で構成された水溶性助剤成分(B)とで分散体を形成し、樹脂粒子を製造すること、助剤成分(B)はオリゴ糖(B1)と水溶性可塑化成分(B2)とで構成できることが開示されている。この文献には、フィラーなどの種々の添加剤を配合してもよいことも記載されている。
【0009】
しかし、充填剤が内部に偏在する樹脂粒子や充填剤が表面に偏在する樹脂粒子を選択的に製造することは記載されていない。
【0010】
なお、充填剤と樹脂と水溶性成分とを用いて充填剤含有樹脂粒子を製造する場合、生成する樹脂粒子の形態が、各成分の親和性、充填剤の分散状態や分配状態などに依存するためか、所定の樹脂粒子(例えば、充填剤を含有し、表面平滑性の高い樹脂粒子、充填剤が表面に偏在する樹脂粒子など)を得るためには、数多くの試行錯誤を必要とし、簡便かつ効率よく所定の樹脂粒子を得ることができない。
【特許文献1】特開平10−176065号公報(請求項1、段落番号[0042])
【特許文献2】特開昭62−30258号公報(請求項、実施例)
【特許文献3】特許第3176925号公報(特許請求の範囲、第3頁左欄)
【特許文献4】特開2004−51942号公報(特許請求の範囲、段落番号[0100])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の目的は、試行錯誤を繰り返すことなく、充填剤の分布状態がコントロールされた複合樹脂粒子、例えば、充填剤が表面又は内部に偏在する複合樹脂粒子を選択的に製造できる方法(又は制御方法)、このような複合樹脂粒子を製造するための樹脂組成物、並びに前記複合樹脂粒子を提供することにある。
【0012】
本発明の他の目的は、充填剤がマトリックスに分配されるのを有効に防止しつつ、充填剤粒子が表面又は内部に偏在した複合樹脂粒子を選択的に製造できる方法(又は制御方法)、このような複合樹脂粒子を製造するための樹脂組成物、並びに前記複合樹脂粒子を提供することにある。
【0013】
本発明のさらに他の目的は、充填剤が内包され、かつ表面平滑性の高い複合樹脂粒子とその製造方法、並びにこのような複合樹脂粒子を製造するために適した樹脂組成物を提供することにある。
【0014】
本発明の別の目的は、充填剤が表面に局在化した複合樹脂粒子とその製造方法、並びにこのような複合樹脂粒子を製造するために適した樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、以下の知見を得た。(1)樹脂単独と、樹脂及び充填剤を含む樹脂組成物とについて、所定の温度でそれぞれ剪断粘度の周波数依存性を測定すると、樹脂(A)単独では周波数が大きくなるにつれてηA(ω)が徐々に減衰又は低減するのに対して、樹脂組成物(composition)ではηC(ω)が低周波数で立ち上がり高周波数になるにつれて徐々に減衰又は低減し、低周波数での粘度比ηR(ω)=ηC(ω)/ηA(ω)の値により樹脂組成物の構造粘性(換言すれば、充填剤の分散状態)を評価できること、(2)オリゴ糖を含む所定の乳化媒体と樹脂組成物とを溶融混合又は混練し、溶媒で乳化媒体を溶出させて、充填剤を含有する樹脂粒子を生成する方法において、粘度比ηR(ω)=ηC(ω)/ηA(ω)の周波数依存性とを調べたところ、構造粘性によるためか、低周波数でのηR(ω)が立ち上がりの程度が小さく高周波数でのηR(ω)のレベルが高い樹脂組成物を用いると、充填剤粒子が内包された樹脂粒子が生成し、低周波数でのηR(ω)が立ち上がりの程度が大きく高周波数でのηR(ω)のレベルが低い樹脂組成物を用いると、表面が充填剤粒子で被覆された樹脂粒子が生成し、高周波数域でのηR(ω)に対する低周波数域でのηR(ω)の割合が樹脂粒子での充填剤粒子の存在位置(分布状態)の指標となることを見いだした。本発明はこれらの知見に基づいて完成したものである。
【0016】
すなわち、本発明の方法では、少なくとも1種類の樹脂(A)と充填剤(B)とで構成され、かつ前記樹脂(A)及び充填剤(B)に対して非相溶性の乳化媒体(C)と溶融混合又は混練して、乳化媒体(C)中に充填剤(B)を含む樹脂粒子が分散した分散相を形成する。この方法において、下記式で表され、かつ周波数ω1.12(sec-1)でのηR(ω)と周波数ω62.9(sec-1)でのηR(ω)との割合X=ηR(1.12)/ηR(62.9)の値を指標にして、樹脂粒子中の充填剤の分布状態をコントロールする。すなわち、前記割合Xを指標にすることにより、充填剤(B)が表面又は内部に偏在する樹脂粒子を生成させることができる。
【0017】
ηR(ω)=η*C(ω)/η*A(ω)
(式中、η*C(ω)は、温度T及び周波数ω(sec-1)での上記樹脂組成物の動的粘弾性測定におけるせん断粘度を示し、η*A(ω)は、温度T及び周波数ω(sec-1)での樹脂(A)の動的粘弾性測定におけるせん断粘度を示す。温度Tは、120℃から20℃毎に温度を上げながら樹脂(A)のせん断粘度を測定したとき、周波数35.4sec-1での値が、1000Pa・s以下になる最も低い温度を示す。)
粘度比の値Xは0.1〜5程度、例えば、0.5〜3.5(例えば、0.7〜3)程度であり、Xが小さな値の樹脂組成物を用いると、充填剤(B)が少なくとも内包された樹脂粒子を生成でき、Xが大きな樹脂組成物を用いると、充填剤(B)で被覆された樹脂粒子を生成させることができる。例えば、X=1.5〜2(例えば、1.5〜1.8、特に1.5)程度を境界領域として、この境界領域以下の樹脂組成物を用いると、充填剤(B)が少なくとも内包された樹脂粒子を生成させ、境界領域を超える樹脂組成物を用いると、充填剤(B)で被覆された樹脂粒子を生成させることができる。この方法では、平均粒子径100nm以下の充填剤(B)を用い、充填剤(B)が少なくとも内包された樹脂粒子を生成させることができる。乳化媒体は、少なくともオリゴ糖で構成できる。
【0018】
本発明の樹脂組成物は、乳化媒体と組み合わせて充填剤の分布状態がコントロールされた樹脂粒子、例えば、充填剤が偏在した樹脂粒子を生成させるのに有用である。すなわち、樹脂組成物は、少なくとも1種類の樹脂(A)と充填剤(B)とで構成され、かつ前記樹脂(A)及び充填剤(B)に対して非相溶性の乳化媒体(C)と溶融混合又は混練し、乳化媒体(C)中に、樹脂(A)で構成され、かつ充填剤(B)の分布状態がコントロールされた分散相(充填剤(B)が表面又は内部に偏在する樹脂粒子が乳化媒体(C)中に分散した分散相)を形成するために利用される。この樹脂組成物において、下記式で表され、かつ周波数ω1.12(sec-1)でのηR(ω)と周波数ω62.9(sec-1)でのηR(ω)との割合X=ηR(1.12)/ηR(62.9)が0.1〜5(例えば、0.5〜3.5)である。
【0019】
ηR(ω)=η*C(ω)/η*A(ω)
(式中、η*C(ω)は、温度T及び周波数ω(sec-1)での上記樹脂組成物の動的粘弾性測定におけるせん断粘度を示し、η*A(ω)は、温度T及び周波数ω(sec-1)での樹脂(A)の動的粘弾性測定におけるせん断粘度をそれぞれ示す。温度Tは、120℃から20℃ずつ温度を上げながら樹脂(A)のせん断粘度を測定したとき、周波数35.4sec-1での値が、1000Pa・s以下になる最も低い温度を示す。)
このような樹脂組成物でも、X=1.5〜2を境界領域として、充填剤が表面及び/又は内部に存在する樹脂粒子を生成させることができる。すなわち、充填剤(B)が少なくとも内包された樹脂粒子を生成させるための樹脂組成物は、前記境界領域以下の値を有しており、充填剤(B)で被覆された樹脂粒子を生成させる樹脂組成物は、前記境界領域を超える値を有している。樹脂(A)としては、熱可塑性樹脂や硬化性樹脂が使用でき、熱可塑性樹脂としては、例えば、スチレン系樹脂、オレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ハロゲン含有樹脂、ビニルエステル系樹脂又はその誘導体、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリ(チオ)エーテル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリイミド系樹脂、セルロース誘導体などが例示できる。これらの樹脂は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。充填剤(B)としては、無機又は有機粒子が使用できる。例えば、充填剤(B)は、金属酸化物、金属水酸化物、金属塩、金属窒化物、金属炭化物、金属ホウ化物、金属、炭素などであってもよく、有機顔料及び/又は無機顔料であってもよい。これらの充填剤は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。樹脂(A)と充填剤(B)との重量比は、例えば、前者/後者=40/60〜99/1程度であってもよい。
【0020】
本発明では、前記樹脂組成物と、樹脂(A)及び充填剤(B)に対して相溶性を有さない乳化媒体(C)とを、樹脂(A)及び乳化媒体(C)が溶融する温度で混練し、樹脂(A)が分散相を形成し、乳化媒体(C)が連続相を形成した分散体(D)を生成させ、樹脂(A)は溶解せず乳化媒体(C)を溶解する溶媒を用いて分散体(D)の乳化媒体(C)を溶解し、樹脂(A)及び充填剤(B)で構成され、かつ充填剤(B)の分布状態が制御された複合樹脂粒子(例えば、充填剤が表面又は内部に偏在した複合樹脂粒子)を製造する。乳化媒体(C)は、通常、水溶性であり、溶媒は、通常、水である。乳化媒体(C)は、少なくともオリゴ糖(C1)で構成する場合が多く、オリゴ糖(C1)は、少なくとも四糖類で構成されている場合が多い。前記乳化媒体(C)は、オリゴ糖(C1)と、このオリゴ糖(C1)を可塑化するための水溶性可塑化成分(C2)とで構成でき、可塑化成分(C2)は、糖類及び糖アルコール(エリスリトール、ペンタエリスリトール、アラビトール、リビトール、キシリトール、ソルビトール、ズルシトール及びマンニトールから選択された少なくとも一種の糖アルコールなど)から選択された少なくとも一種で構成できる。オリゴ糖(C1)と可塑化成分(C2)との重量割合は、例えば、オリゴ糖(C1)/可塑化成分(C2)=99/1〜50/50程度である。
【0021】
本発明の方法で得られた複合樹脂粒子は、充填剤(B)が樹脂(A)で構成された粒子(樹脂粒子)の表面又は内部に偏在している。前記複合樹脂粒子は、平均粒子径が3nm〜1μmの充填剤粒子を樹脂粒子全体に対して0.01〜40体積%の割合で包含し、充填剤粒子を含む樹脂粒子の体積平均粒子径が0.2〜100μmの複合樹脂粒子であってもよい。この複合樹脂粒子の粒子径から計算される粒子1g当たりの表面積SAcと、窒素吸着法で測定される複合樹脂粒子1g当たりの比表面積SAtとは、関係式1≦SAt/SAc≦4を満たしてもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明では、特定の粘度比Xを指標として樹脂粒子を生成させるため、数多くの試行錯誤を繰り返すことなく、充填剤が内部又は表面に偏在する樹脂粒子を選択的に製造できる。特に、充填剤がマトリックスに分配されるのを有効に防止しつつ、充填剤が表面又は内部に偏在した樹脂粒子を生成できる。例えば、充填剤が内包され、表面平滑性の高い複合樹脂粒子や充填剤が表面に局在化した複合樹脂粒子を製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
[樹脂組成物の動的粘弾性]
本発明の樹脂組成物は、少なくとも1種類の樹脂(A)と充填剤(B)とで構成されており、特定の動的粘弾特性を示す。すなわち、充填剤を含む樹脂組成物において、下記式
ηR(ω)=η*C(ω)/η*A(ω)
から導き出されるX=ηR(1.12)/ηR(62.9)は、通常、0.1〜5(例えば、0.3〜4)程度の範囲であり、好ましくは0.5〜3.5、さらに好ましくは0.7〜3(例えば、0.75〜2.5)程度である。前記式において、η*C(ω)は、温度T及び周波数ω(sec-1)での上記樹脂組成物の動的粘弾性測定におけるせん断粘度を示し、η*A(ω)は、温度T及び周波数ω(sec-1)での樹脂(A)の動的粘弾性測定におけるせん断粘度をそれぞれ示す。温度Tは、120℃から20℃毎に温度を上げながら樹脂(A)のせん断粘度を測定したとき、周波数35.4sec-1での値が、1000Pa・s以下になる最も低い温度を示す。なお、周波数35.4sec-1は一般的な溶融混合又は混練法において、混練される成分に作用するせん断速度が10〜100sec-1であることに基づくものまであり、粘度1000Pa・sは、同様に、一般的な混練条件における樹脂の粘度範囲であることに基づくものである。
【0024】
前記式で表されるηR(ω)の周波数依存性に関し、樹脂(A)単独では周波数が大きくなるにつれてηA(ω)が徐々に減衰又は低減するのに対して、樹脂組成物(composition)ではηC(ω)が低周波数では急激に立ち上がり高周波数になるにつれて徐々に減衰又は低減する。そのため、低周波数域での粘度比ηr(ω)=ηC(ω)/ηA(ω)の値により樹脂組成物の構造粘性(換言すれば、充填剤の分散状態)を評価できることが実験的に確認された。
【0025】
そして、所定の乳化媒体と樹脂組成物とを溶融混合又は混練し、溶媒で乳化媒体を溶出させて得られた樹脂粒子(充填剤を含有する樹脂粒子)の形態と、粘度比ηR(ω)=ηC(ω)/ηA(ω)の周波数依存性との関係を調べると、低周波数でのηR(ω)が立ち上がりの程度が小さく高周波数でのηR(ω)の値(レベル)が高い樹脂組成物を用いると、充填剤粒子が内包された樹脂粒子が生成し、低周波数でのηR(ω)が立ち上がりの程度が小さい程、表面平滑性の高い球状粒子が生成する。一方、低周波数でのηR(ω)が立ち上がりの程度が大きく高周波数でのηR(ω)のレベルが低い樹脂組成物を用いると、表面が充填剤粒子で被覆された樹脂粒子が生成し、低周波数でのηR(ω)が立ち上がりの程度が大きいほど、樹脂粒子の表面が充填剤粒子で被覆された球状粒子が生成する。特に、高周波数域のうち周波数ω=62.9(sec-1)を利用すると、樹脂組成物に対応する固有の値ηC(ω)が安定して得られ、低周波数域のうち周波数ω=1.12(sec-1)での値を利用すると、種々の樹脂及び充填剤について樹脂組成物に固有の特性(構造粘性)を評価できる。そして、高周波数域でのηr(ω)に対する低周波数域でのηr(ω)の割合が樹脂粒子での充填剤粒子の存在位置の指標となり、乳化媒体との関係で、Xが小さな値の樹脂組成物を用いると、充填剤(B)が少なくとも内包された樹脂粒子が生成し、Xが大きな樹脂組成物を用いると、充填剤(B)で被覆された樹脂粒子が生成することが実験的に確かめられた。
【0026】
そのため、本発明では、粘度比X=ηr(1.12)/ηr(62.9)の値(又は境界領域)を指標又は尺度として、充填剤粒子が表面に偏在する樹脂粒子を得るのに適しているか否か、充填剤粒子が内部に偏在する樹脂粒子を得るのに適しているか否かなどを判断又は推測できる。
【0027】
境界領域Xは臨界的ではないものの、境界領域Xとしては、通常、1.3〜2(例えば、1.5〜2)、好ましくは1.4〜1.8(例えば、1.5〜1.8)、さらに好ましくは1.5〜1.7(特に1.5)を採用できる。この境界領域以下(上記境界領域の下限値以下)の樹脂組成物を用いると、充填剤(B)が少なくとも内包された樹脂粒子を生成でき、境界領域(上記境界領域の上限値)を超える樹脂組成物を用いると、充填剤(B)で被覆された樹脂粒子を生成できる。特に、境界領域Xが1.5以下(例えば、0.5〜1.45)、好ましくは1.4以下(例えば、0.6〜1.35)、さらに好ましくは1.3以下(例えば、0.7〜1.3)の樹脂組成物を用いると、充填剤(B)が樹脂粒子内に内包され、表面が平滑な複合樹脂粒子が得られる。さらに、境界領域Xが1.7以上(例えば、1.7〜3.5)、好ましくは1.8以上(例えば、1.9〜3)、さらに好ましくは2以上(例えば、2.1〜2.7)の樹脂組成物を用いると、充填剤(B)が樹脂粒子の表面に偏在し、樹脂粒子の表面が充填剤粒子で覆われた複合樹脂粒子が得られる。
【0028】
なお、境界領域の範囲においては、樹脂粒子中に充填剤が比較的均一に分散した粒子(球状粒子)を得ることができ、前記境界領域の範囲内であっても、値が小さい樹脂組成物であるほど、充填剤(B)が内包された樹脂粒子を生成でき、値が大きい樹脂組成物であるほど、充填剤(B)で被覆された樹脂粒子を生成できる。そのため、本発明では、粘度比X=ηr(1.12)/ηr(62.9)の値(又は境界領域)を指標又は尺度として、樹脂粒子中の充填剤粒子の存在状態をも判断又は推測できる。
【0029】
前記樹脂組成物は、前記少なくとも1種類の樹脂(A)と充填剤(B)と、前記樹脂(A)及び充填剤(B)に対して相溶性のない乳化媒体(C)とを溶融混合又は混練して、乳化媒体(C)中に、充填剤(B)を含む樹脂粒子が分散した分散相を形成するために有用である。特に、前記充填剤(B)を含む樹脂(A)(樹脂(A)中に充填剤(B)が分散した分散体や溶融混練体)と、乳化媒体(C)とを溶融混合又は混練して、乳化媒体(C)中に、充填剤(B)を含む樹脂粒子(充填剤(B)が表面又は内部に偏在する樹脂粒子)が分散した分散相を形成するために有用である。
【0030】
[樹脂(A)]
樹脂(A)としては、乳化媒体(C)に対して非相溶の種々の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂(特に溶融可能な樹脂)が使用でき、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂は組み合わせて使用してもよい。代表的な熱可塑性樹脂としては、例えば、ビニル重合系熱可塑性樹脂(スチレン系樹脂、オレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ハロゲン含有樹脂、ビニルエステル系樹脂又はその誘導体など)、縮合系熱可塑性樹脂(ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリ(チオ)エーテル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリイミド系樹脂など)、天然物由来樹脂(セルロース誘導体など)などが例示できる。これらの樹脂は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0031】
スチレン系樹脂としては、スチレン系単量体(スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンなど)の単独又は共重合体(ポリスチレン、スチレン−ビニルトルエン共重合体、スチレン−α−メチルスチレン共重合体など)、スチレン系単量体と共重合性単量体との共重合体(スチレン−アクリロニトリル共重合体(AS樹脂)、(メタ)アクリル酸エステル−スチレン共重合体(MS樹脂など)、スチレン−無水マレイン酸共重合体など;スチレン−ブタジエンブロック共重合体などのブロック共重合体など;ゴム成分の存在下、少なくともスチレン系単量体をグラフト重合したグラフト重合体、例えば、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS、又はゴムグラフトポリスチレン系樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、このABS樹脂のブタジエンゴムBに代えて、エチレンプロピレンゴムE、アクリルゴムA、塩素化ポリエチレンC、酢酸ビニル重合体などのゴム成分を用いたグラフト共重合体(AES樹脂,AAS樹脂,ACS樹脂などのAXS樹脂)、アクリロニトリルに代えて(メタ)アクリル系単量体(メタクリル酸メチルなど)を用いたグラフト共重合体(例えば、メタクリル酸メチル−ブタジエンゴム−スチレン共重合体(MBS樹脂)など)などが挙げられる。
【0032】
オレフィン系樹脂としては、α−C2-6オレフィンの単独又は共重合体、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリ(メチルペンテン−1)などのオレフィンの単独又は共重合体、オレフィンと共重合性単量体との共重合体(エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体など)が挙げられる。
【0033】
アクリル系樹脂としては、(メタ)アクリル系単量体((メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸C1-18アルキルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリロニトリルなど)の単独又は共重合体、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸メチルなどのポリ(メタ)アクリル酸エステル、メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸共重合体、メタクリル酸メチル−アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体、メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(メタ)アクリル酸エステル−スチレン共重合体(MS樹脂など)などが挙げられる。
【0034】
ハロゲン含有樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニリデン系樹脂、フッ素樹脂などが例示できる。ビニルエステル系樹脂又はその誘導体としては、例えば、カルボン酸ビニルエステルの単独又は共重合体(ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体など)、これらのケン化物(ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体などのビニルアルコール系樹脂)、ケン化物(ビニルアルコール系樹脂)からの誘導体(例えば、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラールなどのポリビニルアセタール系樹脂など)などが例示できる。エチレン−ビニルアルコール共重合体において、エチレン含量は5〜40重量%程度であってもよい。
【0035】
ポリエステル系樹脂としては、ジカルボン酸成分、ジオール成分、オキシカルボン酸、ラクトン類を用いた種々の樹脂、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリ(トリメチレンテレフタレート)、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ(1,4−シクロへキシルジメチレンテレフタレート)、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレートなどのポリC2-6アルキレン−アリレート系樹脂、C2-6アルキレン−アリレート単位を主成分(例えば、50重量%以上)として含むコポリエステル(例えば、共重合成分が、オキシアルキレン単位を有するポリオキシC2-4アルキレンジオールやC6-12の脂肪族ジカルボン酸、イソフタル酸、フタル酸などの非対称性芳香族ジカルボン酸などのコポリエステル)、ポリアリレート系樹脂、液晶性ポリエステルなどの芳香族ポリエステル系樹脂;ポリC2-6アルキレン−オギザレート、ポリC2-6アルキレン−サクシネート、ポリC2-6アルキレン−アジペートなどのポリ(C2-6アルキレングリコール−C2-10脂肪族ジカルボン酸エステル)、ポリオキシカルボン酸系樹脂(例えば、ポリグリコール酸やポリ乳酸、グリコール酸−乳酸共重合体など)、ポリラクトン系樹脂(例えば、ポリカプロラクトンなどのポリC3-12ラクトン系樹脂など)、これらのコポリエステル(例えば、ポリカプロラクトン−ポリブチレンサクシネート共重合樹脂など)などが挙げられる。ポリエステル系樹脂はウレタン結合を含んでいてもよい。さらに、ポリエステル系樹脂は生分解性を有していてもよい。
【0036】
ポリアミド系樹脂、例えば、脂肪族ポリアミド系樹脂(例えば、ポリアミド46、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド1010、ポリアミド1012、ポリアミド1212など)、コポリアミド(例えば、ポリアミド6/11,ポリアミド6/12,ポリアミド66/11,ポリアミド66/12など);脂環式ポリアミド系樹脂;芳香族ポリアミド系樹脂などが挙げられる。ポリアミド系樹脂のジカルボン酸成分はダイマー酸単位を含んでいてもよい。さらに、ポリアミド系樹脂は生分解性を有していてもよい。
【0037】
ポリウレタン系樹脂としては、例えば、ジイソシアネート類(ヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート類、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどの脂環族ジイソシアネート類、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4′−ジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート類又はその水添ジイソシアネート類、キシリレンジイソシアネートなどの芳香脂肪族ジイソシアネート類又はその水添ジイソシアネート類など)と、ポリオール類(例えば、ポリエステルポリオール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールなどのポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオールなど)と、必要により鎖伸長剤との反応により得られるポリウレタン系樹脂が例示できる。
【0038】
ポリ(チオ)エーテル系樹脂としては、例えば、ポリオキシアルキレン系樹脂(安定化されたポリオキシメチレングリコール又はホモ又はコポリアセタール系樹脂、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体などのポリオキシC1-4アルキレンジオール)、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンエーテルケトン系樹脂、ポリスルフィド系樹脂(ポリフェニレンスルフィド又はその共重合体などのポリチオエーテル系樹脂)、ポリエーテルケトン系樹脂(ポリエーテルエーテルケトン系樹脂を含む)などが含まれる。
【0039】
ポリカーボネート系樹脂としては、ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂などのビスフェノール類をベースとする芳香族ポリカーボネート、ジエチレングリコールビスアリルカーボネートなどの脂肪族ポリカーボネートなどが含まれる。
【0040】
ポリスルホン系樹脂としては、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリアリールスルホン樹脂などが例示できる。ポリイミド系樹脂としては、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリベンズイミダゾール系樹脂などが例示できる。
【0041】
セルロース誘導体としては、セルロースエステル類(例えば、セルロースジアセテート、セルローストリアセテートなどのセルロースアセテート(酢酸セルロース)、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどのアシルセルロース;セルロースの無機酸エステルなど)、セルロースエーテル類(例えば、アルキルセルロース(例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、イソプロピルセルロース、ブチルセルロースなどのアルキルセルロース;ベンジルセルロースなどのアラルキルセルロース;ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのヒドロキシアルキルセルロース;ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのヒドロキシアルキルアルキルセルロース;カルボキシメチルセルロースなどのカルボキシアルキルセルロース;シアノエチルセルロースなど)など)、セルロースカーバメート類(セルロースフェニルカーバメートなど)などが挙げられる。
【0042】
熱可塑性樹脂には、熱可塑性エラストマー(例えば、ポリアミド系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリ塩化ビニル系エラストマー、フッ素系熱可塑性エラストマーなど)、熱可塑性シリコーン樹脂、天然樹脂又はその誘導体なども含まれる。
【0043】
これらの熱可塑性樹脂のうち、例えば、スチレン系樹脂、オレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ハロゲン含有樹脂、ビニルエステル系樹脂、ビニルアルコール系樹脂又はその誘導体、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリ(チオ)エーテル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリイミド系樹脂、及びセルロースエステル系樹脂(酢酸セルロース系樹脂など)が好ましい。また、生分解性樹脂、例えば、脂肪族ポリエステル系樹脂(例えば、ポリ乳酸系樹脂やポリC3-12ラクトン系樹脂など)、ポリエステルアミドなどの生分解性ポリエステル系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、前記セルロース誘導体も好ましい。
【0044】
樹脂成分の熱変形温度(例えば、JIS K 7206で規定されるビカット軟化点)は、60〜300℃の範囲から選択でき、例えば、80〜260℃、好ましくは100〜240℃(例えば、110〜240℃)、さらに好ましくは120〜230℃(例えば、130〜220℃)程度である。
【0045】
ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる熱可塑性樹脂の数平均分子量は、例えば、ポリスチレン換算で5,000〜500,000、好ましくは10,000〜300,000、さらに好ましくは20,000〜150,000程度である。なお、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる分子量の測定が困難なセルロース誘導体などの熱可塑性樹脂については、粘度平均分子量を採用できる。
【0046】
熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、アミノ樹脂(尿素樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂など)、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂(シリコーンゴム、シリコーンワニスなど)などが含まれる。さらに、樹脂として、種々のゴムも使用可能である。これらの樹脂は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0047】
樹脂(A)としては、通常、熱可塑性樹脂が使用される。樹脂(A)は、親水性樹脂であってもよいが、通常、非水溶性樹脂又は疎水性樹脂である場合が多い。さらに、樹脂は、混練性などの観点から、ヒドロキシル基、カルボキシル基、エーテル基、オキシアルキレン基、エステル基、アミノ基、置換アミノ基、イミノ基、アミド基、およびフェニル基から選択された少なくとも1種(特に、アミノ基、ヒドロキシル基やカルボキシル基などの極性基)を有していてもよい。
【0048】
[充填剤(B)]
充填剤(B)としては、無機粒子及び/又は有機粒子が使用でき、充填剤は溶融可能であってもよいが、通常、混練温度において溶融しない場合が多い。充填剤は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。無機充填剤(無機粒子)としては、例えば、金属酸化物(微粉末シリカ(無水物)、ホワイトカーボン(含水物)などのシリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化チタン、酸化鉄、酸化ストロンチウム、酸化セリウム、酸化亜鉛など)、金属水酸化物(水酸化アルミニウムなど)、金属塩(硫酸塩、炭酸カルシウムなどの炭酸塩;リン酸カルシウム、リン酸チタンなどのリン酸塩;マイカ、珪酸カルシウム、ベントナイト、ゼオライト、麦飯石、タルク、モンモリロナイトなどのケイ酸塩;タングステン酸カルシウムなどのタングステン酸塩;チタン酸バリウム、チタン酸カリウム、チタン酸アルミニウムなどのチタン酸塩など)、金属窒化物(窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化チタンなど)、金属炭化物(炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化チタン、炭化タングステンなど)、金属ホウ化物(ホウ化チタン、ホウ化ジルコニウムなど)、金属(金、プラチナ、パラジウムなど)、炭素(カーボンブラック、黒鉛、フラーレン、カーボンナノチューブなど)などが例示できる。無機充填剤は、粉粒状であってもよく、繊維状(例えば、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、ウィスカーなど)であってもよい。無機充填剤は、強磁性体、例えば、鉄、コバルト、ニッケルなどの強磁性金属(粉末);マグネタイト、フェライトなどの強磁性合金(粉末);磁性酸化鉄などの強磁性金属酸化物(粉末)などであってもよい。これらの無機充填剤は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0049】
有機充填剤としては、例えば、架橋樹脂粒子(架橋ポリスチレン系樹脂、架橋ポリメタクリル酸メチル系樹脂、架橋メラミン系樹脂などの架橋樹脂で構成された樹脂粒子)、溶融混練温度よりも高い熱変形温度を有する耐熱性樹脂粒子などが例示できる。
【0050】
無機充填剤及び有機充填剤には、着色剤、例えば、顔料[無機着色剤(無機顔料)、有機着色剤(有機顔料)]も含まれる。着色剤は、無彩色であってもよく有彩色(黄色、橙色、赤色、紫色、青色、緑色など)であってもよい。
【0051】
無機着色剤(無機顔料)としては、体質顔料(炭酸カルシウム、硫酸バリウム、シリカ、水酸化アルミニウム、カオリンクレー、タルク、ベントナイトなど)、白色顔料(酸化チタン(疎水化二酸化チタンなど)、酸化亜鉛など)、黄色顔料(リサージ、黄鉛、黄色酸化鉄、カドミウムイエローなど)、赤色顔料(ベンガラなどの酸化鉄、鉛丹、モリブデンレッド、カドミウムレッドなど)、青色顔料(紺青、群青など)、黒色顔料(カーボンブラックなど)などが挙げられる。有機着色剤(有機顔料)としては、アゾ系顔料[不溶性アゾ顔料又はアゾレーキ顔料、例えば、黄色、橙色又は赤色顔料(例えば、β−ナフトール系アゾ顔料;ピラゾロン系アゾ顔料など)、緑色顔料(アゾ化合物の金属錯塩など)、縮合アゾ化合物、高分子量アゾ顔料、アゾメチン基を含むアゾ顔料、アゾメチン顔料など]、フタロシアニン系顔料[銅フタロシアニン、例えば、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーンなど]、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、ペリノン・ペリレン系顔料、スレン系顔料、ジオキサジン顔料、アントラキノン系顔料、インジゴ又はチオインジゴ系顔料;アニリンブラックなどの黒色顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ベンズイミダゾロン化合物、ディアリライドイエローなどが挙げられる。なお、着色剤は、蛍光顔料又は染料、蓄光顔料などであってもよい。前記着色剤は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0052】
充填剤として、乳化媒体(C)よりも樹脂(A)に対する親和性の高い充填剤(水不溶性又は疎水性充填剤)を用いると、充填剤を分散相(樹脂(A))に分配させ、充填剤含有樹脂粒子を得るのに適している。
【0053】
充填剤の平均粒子径(一次粒子径)は、樹脂粒子のサイズに応じて選択でき、例えば、平均粒子径2nm〜10μm程度の広い範囲から選択でき、通常、3nm〜1μm、好ましくは5〜500nm、さらに好ましくは10〜300nm程度であってもよい。好ましい充填剤の平均粒子径は、150nm以下(例えば、2〜120nm)、好ましくは100nm以下(例えば、3〜100nm)、さらに好ましくは80nm以下(例えば、5〜75nm)、特に50nm以下(例えば、10〜40nm)である。平均粒子径の小さな充填剤を用いると、充填剤粒子が少なくとも内包された樹脂粒子が生成しやすい。なお、充填剤の平均粒子径が大きすぎると、充填剤が内包した樹脂粒子よりも充填剤が表面に偏在した樹脂粒子が生成する場合がある。
【0054】
充填剤(B)は、充填剤を樹脂(A)で予め稀釈したマスターバッチ又は予備混合物の形態で用いてもよい。マスターバッチは、慣用の混練機を用いて樹脂と充填剤とを混合することにより作製できる。マスターバッチ中の充填剤の濃度は特に限定されず、慣用の濃度、例えば、5〜70重量%程度であってもよい。
【0055】
樹脂(A)と充填剤(B)との重量比は特に制限されず、充填剤の種類に応じて前者/後者=40/60〜99/1程度の範囲から選択でき、通常、45/55〜95/5、好ましくは50/50〜90/10、さらに好ましくは60/40〜90/10程度である。なお、充填剤の使用量が多くなると、樹脂の種類によって、樹脂粒子の表面に充填剤粒子が存在する割合が多くなる場合がある。
【0056】
前記樹脂(A)と充填剤(B)とで構成された樹脂組成物は、樹脂(A)と充填剤(B)(充填剤を含むマスターバッチなども含む)を混練することにより調製できる。混練は、慣用の混練機(例えば、単軸もしくは二軸スクリュー押出機、ニーダー、カレンダーロール、バンバリーミキサーなど)を用いて行なうことができる。また、混練に先だって、各成分は、予め凍結粉砕機などで粉体状に予備加工したり、ヘンシェルミキサー、タンブルミキサー、ボールミル、リボンミキサーなどで予備混合又は混練してもよい。さらに、充填剤の平均粒子径が非常に細かい場合(例えば、50nm以下)には、予め適当な溶媒に充填剤を分散させた分散液を用い樹脂(A)に充填剤を分散させてもよい。
【0057】
前記樹脂組成物は、樹脂(A)及び充填剤(B)に対して非相溶性の乳化媒体(C)と、樹脂(A)及び乳化媒体(C)が溶融する温度で混合又は混練し、樹脂(A)が分散相を形成し、乳化媒体(C)が連続相を形成した分散体(D)を生成させ、この分散体の乳化媒体を溶出することにより、充填剤(B)が表面又は内部に偏在した複合樹脂粒子を製造するのに適している。すなわち、樹脂(A)及び充填剤(B)を溶解せず乳化媒体(C)を溶解する溶媒を用いて分散体(D)の乳化媒体(C)を溶解することにより、樹脂(A)及び充填剤(B)で構成され、かつ充填剤(B)が表面又は内部に偏在した複合粒子(複合樹脂粒子)を製造できる。
【0058】
[乳化媒体(C)]
乳化媒体(C)は、樹脂(A)及び充填剤(B)と相溶性を有さず、かつ樹脂(A)と溶融混合又は混練が可能であれば特に制限されず、有機溶媒に可溶であってもよいが、工業的観点や環境負荷の面を考慮すると、水溶性であるのが好ましい。水溶性乳化媒体は、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、水溶性アクリル系樹脂、水溶性スチレン系樹脂、ポリビニルピロリドン、セルロースエーテル系樹脂などの水溶性樹脂であってもよいが、樹脂粒子のコントロール性及び製造効率、広範な樹脂(A)に対する適用性などの観点から、少なくともオリゴ糖を含む水溶性糖組成物が好ましい。
【0059】
水溶性糖組成物は、少なくともオリゴ糖(C1)を含んでいればよいが、オリゴ糖の熱溶融特性を調整するため、水溶性糖組成物は、さらに前記オリゴ糖を可塑化するための水溶性可塑化成分(C2)を含んでいてもよい。オリゴ糖(C1)と水溶性可塑化成分(C2)とを組み合わせると、充填剤複合樹脂組成物との混練において、水溶性糖組成物(C)の溶融粘度を調整できる。なお、水溶性糖組成物については、特開2004−51942号公報を参照できる。
【0060】
(C1)オリゴ糖
オリゴ糖(C1)は、ホモオリゴ糖であってもよくヘテロオリゴ糖であってもよい。オリゴ糖(C1)としては、例えば、二糖類〜十糖類が挙げられ、通常、二糖類〜六糖類のオリゴ糖が使用される。なお、オリゴ糖(C1)は無水物でもよい。また、オリゴ糖(C1)において、単糖類と糖アルコールとが結合していてもよい。さらに、オリゴ糖(C1)は複数の糖成分で構成されたオリゴ糖組成物であってもよく、多糖類の分解により生成するオリゴ糖組成物であってもよい。このようなオリゴ糖組成物であっても単にオリゴ糖(C1)という場合がある。オリゴ糖(C1)は、通常、常温で固体である。オリゴ糖(C1)(又はオリゴ糖組成物)は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。なお、前記オリゴ糖(C1)は、一般的に天然物由来であるため、環境への負荷を低減できるとともに、水に対する溶解速度が速いため、前記分散体から樹脂粒子を効率よく生成できる。
【0061】
二糖類としては、例えば、トレハロース、マルトース、イソマルトース、セロビオース、ゲンチオビオースなどのホモオリゴ糖;ラクトース、スクロース、パラチノースなどのヘテロオリゴ糖が挙げられる。三糖類としては、例えば、マルトトリオース、イソマルトトリオース、パノース、セロトリオースなどのホモオリゴ糖;マンニノトリオース、ソラトリオース、メレジトース、プランテオース、ゲンチアノース、ウンベリフェロース、ラクトスクロース、ラフィノースなどのヘテロオリゴ糖が挙げられる。
【0062】
四糖類としては、例えば、マルトテトラオース、イソマルトテトラオースなどのホモオリゴ糖;スタキオース、セロテトラオース、スコロドース、リキノース、パノースの還元末端に糖又は糖アルコールが結合したテトラオースなどのヘテロオリゴ糖が挙げられる。これらの四糖類のうち、パノースの還元末端に単糖類又は糖アルコールが結合したテトラオースは、例えば、特開平10−215892号公報に開示されており、パノースの還元末端に、グルコース、フルクトース、マンノース、キシロース、アラビノースなどの単糖類や、ソルビトール、キシリトール、エリスリトールなどの糖アルコールが結合したテトラオースが例示できる。
【0063】
五糖類としては、例えば、マルトペンタオース、イソマルトペンタオースなどのホモオリゴ糖;パノースの還元末端に二糖類が結合したペンタオースなどのヘテロオリゴ糖が挙げられる。パノースの還元末端に二糖類が結合したペンタオースは、例えば、特開平10−215892号公報に開示されており、パノースの還元末端に、スクロース、ラクトース、セロビオース、トレハロースなどの二糖類が結合したペンタオースが例示できる。六糖類としては、例えば、マルトヘキサオース、イソマルトヘキサオースなどのホモオリゴ糖などが挙げられる。
【0064】
これらのオリゴ糖(又はオリゴ糖組成物)のうち、少なくとも四糖類で構成されたオリゴ糖は、溶融粘度特性、樹脂成分との溶融混合又は混練性の観点から好ましい。
【0065】
このようなオリゴ糖又はオリゴ糖組成物としては、例えば、デンプン糖(デンプン糖化物)、ガラクトオリゴ糖、カップリングシュガー、フルクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、大豆オリゴ糖、キチンオリゴ糖、キトサンオリゴ糖などが挙げられ、これらの成分は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。例えば、デンプン糖は、デンプンに酸又はグルコアミラーゼなどを作用させて得られるオリゴ糖組成物であり、複数個のグルコースが結合したオリゴ糖の混合物であってもよい。デンプン糖としては、例えば、東和化成工業(株)製の還元デンプン糖化物(商品名:PO−10、四糖類の含有量90重量%以上)などが挙げられる。ガラクトオリゴ糖は、ラクトースにβ−ガラクトシダーゼなどを作用させて得られるオリゴ糖組成物であり、ガラクトシルラクトースとガラクトース−(グルコース)nの混合物(nは1〜4の整数)であってもよい。カップリングシュガーは、デンプンとスクロースにシクロデキストリン合成酵素(CGTase)を作用させて得られるオリゴ糖組成物であり、(グルコース)n−スクロースの混合物(nは1〜4の整数)であってもよい。フルクトオリゴ糖(フラクトオリゴ糖)は、砂糖にフルクトフラノシダーゼを作用させて得られるオリゴ糖組成物であり、スクロース−(フルクトース)nの混合物(nは1〜4の整数)であってもよい。
【0066】
これらのオリゴ糖(C1)において、溶融混合又は混練での急激な粘度低下を防止するため、オリゴ糖組成物中の三糖類及び四糖類(特に四糖類)の含有量は、例えば、60重量%以上(例えば、60〜100重量%程度)、好ましくは70重量%以上(例えば、70〜100重量%程度)、さらに好ましくは80重量%以上(例えば、80〜100重量%程度)、特に90重量%以上(例えば、90〜100重量%程度)であってもよい。
【0067】
オリゴ糖(C1)は非還元型(トレハロース型)であってもよいが、還元型(マルトース型)のオリゴ糖は、耐熱性に優れるため好ましい。還元型のオリゴ糖としては、遊離のアルデヒド基又はケトン基を有し、還元性を示す糖、例えば、コージービオース、ニゲロース、マルトース、イソマルトース、ソホロース、ラミナリビオース、セロビオース、ゲンチオビオース、ラクトース、パラチノース、メリビオース、ルチノース、プリメベロース、ツラノースなどの二糖類;マルトトリオース、イソマルトトリオース、パノース、セロトリオース、マンニノトリオース、ソラトリオースなどの三糖類;マルトテトラオース、イソマルトテトラオース、セロテトラオース、リキノースなどの四糖類;マルトペンタオース、イソマルトペンタオースなどの五糖類;マルトヘキサオース、イソマルトヘキサオースなどの六糖類などが挙げられる。
【0068】
混練により樹脂成分を分散させるためには、オリゴ糖の粘度は高いのが望ましい。具体的には、B型粘度計を用いて温度25℃で測定したとき、オリゴ糖の50重量%水溶液の粘度は、例えば、1〜500Pa・s、好ましくは2〜250Pa・s(例えば、3〜100Pa・s)、さらに好ましくは4〜50Pa・s(例えば、6〜50Pa・s)程度である。
【0069】
オリゴ糖の融点又は軟化点は、樹脂成分(A)の熱変形温度(例えば、JIS K 7206で規定されるビカット軟化点)より高いのが好ましい。なお、融点又は軟化点を示さず、熱分解するオリゴ糖[例えば、還元デンプン糖化物などのデンプン糖など]では、分解温度をオリゴ糖の「融点又は軟化点」としてもよい。明瞭な融点や軟化点を示さない熱分解性オリゴ糖であっても、水溶性可塑化成分(A2)で可塑化できるため、有効に使用できる。オリゴ糖の融点又は軟化点は、樹脂(A)の種類などに応じて、70〜300℃の範囲で選択でき、例えば、90〜290℃、好ましくは100〜280℃(例えば、110〜270℃)、さらに好ましくは120〜260℃(例えば、130〜260℃)程度であってもよい。なお、一般にオリゴ糖の無水物は、高い融点又は軟化点を示す。オリゴ糖の融点又は軟化点と、樹脂(A)の熱変形温度との温度差は、例えば、1〜80℃、好ましくは10〜70℃、さらに好ましくは15〜60℃程度である。
【0070】
(C2)水溶性可塑化成分
水溶性可塑化成分(C2)としては、オリゴ糖(C1)が可塑化して水飴状態となる現象を発現できるればよく、例えば、糖類、糖アルコールなどが使用できる。これらの水溶性可塑化成分(C2)は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0071】
(a)糖類
糖類としては、通常、単糖類及び/又は二糖類が使用される。単糖類としては、例えば、トリオース、テトロース、ペントース、ヘキソース、ヘプトース、オクトース、ノノース、デコースなどが挙げられる。これらの化合物は、アルドースやケトースであってもよく、ジアルドース(糖の誘導体であって炭素鎖両末端がアルデヒド基である化合物、例えば、テトラアセチルガラクトヘキソジアルドース、イドヘキソジアルドース、キシロペントドアルドースなど)、複数のカルボニル基を有する単糖類(オソン、オノース等のアルドアルコケトースなど)、メチル基を有する単糖類(アルトロメチロースなどのメチル糖など)、アシル基(特にアセチル基などのC2-4アシル基など)を有する単糖類(前記アルドースのアセチル体、例えば、アルデヒドグルコースペンタアセチル化合物などのアセチル体など)、カルボキシル基が導入された糖類(糖酸またはウロン酸など)、チオ糖、アミノ糖、デオキシ糖などであってもよい。
【0072】
単糖類の具体例としては、例えば、テトロース(エリトロース、トレオロース等)、ペントース(アラビノース、リボース、リキソース、デオキシリボース、キシロース等)、ヘキソース(アロース、アルトロース、グルコース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトース、フルクトース、ソルボース、フコース、ラムノース、タロース、ガラクチュロン酸、グルクロン酸、マンヌロン酸、グルコサミン等)などが例示できる。
【0073】
また、単糖類は、ヘミアセタール結合により環状構造を形成した環状異性体であってもよい。単糖類は、旋光性を有している必要はないが、D形、L形、DL形のいずれであってもよい。
【0074】
二糖類としては、例えば、前記二糖類のうち、低融点または低軟化点を有する二糖類(例えば、ゲンチビオース、メリビオース、トレハロース(二水化物)など)、前記単糖類のホモ及びヘテロ二糖類に相当する二糖類(例えば、グルクロン酸とグルコースとがα−1,6グリコシド結合したグルクロノグルコースなどのアルドビオウロン酸など)が例示できる。
【0075】
糖類は、熱安定性の点から還元糖が好ましく、そのような糖類としては、遊離の単糖類の他、前記二糖類のうち、低融点又は低軟化点の還元糖(例えば、ゲンチビオース、メリビオースなど)が挙げられる。これらの糖類は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0076】
(b)糖アルコール
糖アルコールとしては、イノシットなどの環式糖アルコールであってもよいが、通常、アルジトール(グリシトール)などの鎖状糖アルコールが使用される。これらの糖アルコールは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0077】
鎖状糖アルコールとしては、例えば、テトリトール(トレイトール、エリスリトールなど)、ペンチトール[ペンタエリスリトール、アラビトール、リビトール(アドニトール)、キシリトール、リキシトールなど]、ヘキシトール[ソルビトール、マンニトール、イジトール、グリトール、タリトール、ズルシトール(ガラクチトール)、アロズルシトール(アリトール)、アルスリトールなど]、ヘプチトール、オクチトール、ノニトール、デキトール、ドデキトールなどが挙げられる。
【0078】
これらの糖アルコールのうち、エリスリトール、ペンタエリスリトール、アラビトール、リビトール、キシリトール、ソルビトール、ズルシトール及びマンニトールから選択された少なくとも一種が好ましい。糖アルコールは、エリスリトール、ペンタエリスリトール、キシリトールから選択された少なくとも1つの糖アルコールを含む場合が多い。
【0079】
水溶性可塑化成分(C2)は、常温(例えば、15〜20℃程度)で液体(シロップ状)であってもよいが、取扱い性などの点から、通常、固体である場合が多い。オリゴ糖(C1)を水溶性可塑化成分(C2)で可塑化できるため、明瞭な融点や軟化点を示さない熱分解性オリゴ糖であっても、有効に可塑化又は軟化して使用できる。
【0080】
可塑化成分の融点又は軟化点は、通常、樹脂成分(A)の熱変形温度(例えば、JIS K 7206で規定されるビカット軟化点)以下である。なお、可塑化成分の中には、ペンタエリスリトールなどのように、樹脂成分の熱変形温度よりも高い高融点(例えば200℃以上)を有するにも拘わらず、オリゴ糖と共存すると、実際の融点よりも低い温度で融解し、オリゴ糖を有効に可塑化する物質が存在する。このような可塑化成分では、オリゴ糖に対して可塑化効果を発揮する温度を、可塑化成分の「融点又は軟化点」としてもよい。
【0081】
オリゴ糖の融点又は軟化点(若しくは分解温度)よりも低い融点を有する可塑化成分を用いると、冷却に伴って、可塑化成分が凝固することにより、樹脂成分又はマトリックスを効率よく固定できる。そのため、樹脂成分との組合せにおいて、前記樹脂成分の固化温度に達しなくても、分散相の形状を、例えば、球状などに固定することができる。特に、可塑化成分が低分子であり、明瞭な凝固点を示すので、瞬時に樹脂成分(分散相)の形状を固定できる。
【0082】
乳化媒体(B)又は水溶性糖組成物において、オリゴ糖と可塑化成分との重量割合は、例えば、前者/後者=99/1〜50/50、好ましくは95/5〜60/40、さらに好ましくは90/10〜65/35(例えば、85/15〜70/30)程度である。
【0083】
乳化媒体の融点又は軟化点は、樹脂の熱変形温度と同等又は低くてもよく高くてもよい。例えば、乳化媒体の融点又は軟化点と、樹脂成分の熱変形温度との温度差は、0〜100℃程度の範囲から選択でき、例えば、3〜80℃(例えば5〜60℃)、好ましくは7〜50℃、さらに好ましくは10〜40℃(例えば、15〜35℃)程度であってもよい。
【0084】
乳化媒体のメルトフローレートは、例えば、樹脂成分の熱変形温度(例えば、前記ビカット軟化点)より30℃高い温度でJIS K 7210に従って測定したとき、1〜40、好ましくは5〜30、さらに好ましくは10〜20程度であってもよい。
【0085】
充填剤含有樹脂組成物と乳化媒体(C)との重量割合は、樹脂(A)、充填剤(B)及び乳化媒体(C)の種類や粘度、樹脂と乳化媒体との相溶性などに応じて選択でき、通常、成形性を損なわない範囲、例えば、充填剤含有樹脂組成物/乳化媒体(C)=55/45〜1/99、好ましくは50/50〜5/95、さらに好ましくは45/55〜10/90程度である。
【0086】
前記樹脂組成物と乳化媒体(C)との混合又は混練は、樹脂(A)及び乳化媒体(C)が溶融可能な温度で行えばよく、溶融混合又は混練は、前記と同様の混練機を利用して行うことができる。混練温度は、例えば、90〜300℃程度の範囲から選択でき、通常、110〜260℃、好ましくは150〜240℃(例えば、170〜230℃)、特に180〜220℃程度であってもよい。また、熱分解を避けるため、混練温度を230℃以下にしてもよい。混練時間は、例えば、10秒〜1時間程度の範囲から選択できる。
【0087】
このような混合又は混練により、樹脂(A)が分散相を形成し、乳化媒体(C)が連続相(マトリックス)を形成した分散体(D)が形成される。この分散体において、充填剤はマトリックスである乳化媒体よりも樹脂粒子に分配しており、乳化媒体中に分散する充填剤の割合は極めて少なく、殆どの充填剤粒子が樹脂粒子に含有されている。特に、樹脂組成物の粘度比X=ηr(1.12)/ηr(62.9)の値(又は境界領域)に応じて、樹脂粒子の表面又は内部に充填剤粒子が偏在している。
【0088】
分散体は、通常、冷却され、分散相が固定化される。そして、分散体の乳化媒体を、常圧、減圧又は加圧下で溶出することにより、充填剤を含む複合樹脂粒子を生成できる。
【0089】
乳化媒体の溶出又は溶解には、種々の溶媒、例えば、水、水溶性溶媒(例えば、アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなど)、エーテル類(セロソルブ、ブチルセロソルブなど)など)が使用できる。好ましい溶媒は水である。溶出は、慣用の方法、例えば、前記分散体を、前記水性媒体中に浸漬、分散して、マトリックスを溶出・溶解又は洗浄(水性溶媒に移行)することに行うことができる。なお、水溶性助剤の分散及び溶出を促進するため、超音波を作用させたり、撹拌してもよい。乳化媒体の溶出温度は、例えば、10〜100℃程度の範囲から選択できる。生成した複合樹脂粒子は、濾過、遠心分離などの固液分離方法を用いて分離し、必要により乾燥することにより回収できる。なお、水溶性乳化媒体の溶出又は溶解率は、通常、95重量%以上(95〜100重量%)、特に98重量%以上(98〜100重量%)である。
【0090】
なお、充填剤を含有する樹脂組成物、又はこの樹脂組成物と乳化媒体(C)とで構成された組成物は、必要に応じて、種々の添加剤(溶融混練温度で融解してもよい添加剤など)、例えば、可塑剤又は軟化剤、滑剤、安定剤(熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐候(光)安定剤など)、着色剤[水不溶性(又は難溶性)染料(油溶性染料(ソルベント染料)、分散染料、バット染料、硫化染料、アゾイック染料(ナフトール染料)など]、分散剤、難燃剤、帯電防止剤、電荷制御剤(ニグロシン染料、トリフェニルメタン系染料、4級アンモニウム塩、グアニジン化合物、イミダゾール化合物、アミン系化合物などの正荷電制御剤;サリチル酸金属錯体、アゾ染料金属錯体、銅フタロシアニン染料、ニトロイミダゾール誘導体、尿素誘導体などの負電荷制御剤など)、流動化剤、ワックス類[ポリエチレンワックス、エチレン共重合体ワックス、ポリプロピレンワックスなどのオレフィン系ワックス;パラフィンワックス;高級脂肪酸又はその誘導体(塩、多価アルコールエステル、アミド(高級脂肪酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミドなどのアルキレンビス高級脂肪酸アミド、ステアロアミドエチルステアレートなどのN−(C2-6アルキル−C16-34アルカンカルボン酸エステル)C16-34アルカンカルボン酸アミドなどのエステルアミド類など)など);エステル系ワックスなど]、架橋剤、結晶核剤、抗菌剤、防腐剤などを含んでいてもよい。これらの添加剤は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの添加剤は、充填剤を含有する樹脂組成物、又はこの樹脂組成物と乳化媒体(C)とで構成された組成物に、予め含有させていてもよく、溶融混合又は混連過程で含有させてもよい。なお、充填剤とともに前記添加剤を含有する樹脂組成物を用いると、これらの添加剤がマトリックス(乳化媒体)中に分散するのを抑制でき、添加剤を含有する樹脂粒子、例えば、添加剤が均一に分配された複合樹脂粒子、樹脂粒子の表面又は内部に前記添加剤が偏在した複合樹脂粒子を得ることができる。
【0091】
前記添加剤は、最終製品である複合樹脂粒子の用途などに応じて選択でき、例えば、化粧品(ファンデーション、白粉、頬紅など)などの用途では、紫外線吸収剤(ベンゾフェノン系吸収剤、ケイ皮酸系吸収剤、p−アミノ安息香酸系吸収剤、サリチル酸系吸収剤、ジベンゾイルメタン系吸収剤、ウロカニン酸又はそのエステル、β−イソプロピルフラノン、β−カロチンなど)、紫外線散乱剤などを使用してもよい。トナーなどの画像記録材料用途では、例えば、電荷制御剤、流動化剤、ワックス類などを用いてもよい。また、塗料やコーティング剤などの用途では、例えば、架橋剤、耐候(光)安定剤、紫外線吸収剤、流動化剤などを使用してもよい。
【0092】
これらの添加剤は、それぞれ有効量であればよく、例えば、樹脂(A)100重量部に対して、添加剤の総量は、0〜100重量部程度の範囲から選択でき、例えば、0〜50重量部(例えば、0〜30重量部)、好ましくは0.05〜20重量部(例えば、0.1〜20重量部)程度、さらに好ましくは0.1〜10重量部(例えば、0.5〜10重量部)程度であってもよい。
【0093】
[複合樹脂粒子の形態]
生成した複合樹脂粒子の形状は、粒子状であればよく、例えば、球状、楕円体状、多角体状、角柱状、円柱状、棒状、不定形状などであってもよい。好ましい粒子の形状は、球状である。球状粒子には、真球状に限らず、例えば、長径と短径との長さ比が、例えば、長径/短径=1.5/1〜1/1程度である形状も含まれる。長径と短径との長さ比は、好ましくは長径/短径=1.3/1〜1/1(例えば、1.2/1〜1/1)、さらに好ましくは1.1/1〜1/1程度であってもよい。
【0094】
複合樹脂粒子において、充填剤粒子の割合は、樹脂粒子全体に対して、0.01〜50体積%程度の範囲から選択でき、通常、0.01〜40体積%、好ましくは0.1〜35体積%、さらに好ましくは1〜30体積%(例えば、3〜25体積%)程度である。なお、充填剤粒子の割合は、複合樹脂粒子の電子顕微鏡写真を解析することにより算出することができる。また、分散体における各成分の重量割合と、乳化媒体の溶出又は溶解に伴って生成する遊離の充填剤粒子の割合とに基づいて、複合樹脂粒子中の成分を体積換算することにより算出してもよい。
【0095】
複合樹脂粒子において、充填剤は、樹脂粒子全体に均一に分散していてもよいが、樹脂粒子の表面又は内部に偏在している場合が多い。充填剤が樹脂粒子の表面に偏在した複合樹脂粒子は、その表面が平滑であってもよいが、凹凸である場合が多い。また、樹脂粒子の内部に充填剤が偏在した複合樹脂粒子は、その表面に凹凸が合ってもよいが、全体として表面が平滑である場合が多い。また、表面に凹凸部があったとしても比較的なだらかな凹凸部であったり、全体に亘り表面が平滑である場合が多い。
【0096】
なお、複合樹脂粒子表面の平滑性(又は凹凸性)は、複合樹脂粒子が真球であると仮定して平均粒子径から計算される粒子1g当たりの表面積SAcと、窒素吸着法で測定される複合樹脂粒子1g当たりの比表面積SAtとに基づいて評価できる。すなわち、表面積SAcに対する比表面積SAtの比(SAt/SAc)が大きくなると、表面に存在する充填剤によってもたらされる粒子表面の凹凸形状により比表面積が大きくなる。そのため、樹脂粒子の表面に充填剤粒子が結合して存在(又は偏在)する複合樹脂粒子では、SAt/SAcは、4を超える値(例えば、4.1〜25)、好ましくは4.2〜10、さらに好ましくは4.3〜8(4.5〜6)程度である。一方、樹脂粒子の内部に充填剤粒子が内包された複合樹脂粒子では、比較的表面が平滑であり、SAt/SAcの値は、1〜4、好ましくは1〜3.5、さらに好ましくは1〜3.3(例えば、1〜3)、特に1〜2.5程度である。
【0097】
複合樹脂粒子の平均粒子径(体積平均粒子径)は、特に制限されず、用途に応じて、0.1μm〜1mm(例えば、0.1〜800μm)程度の範囲から選択でき、例えば、0.2〜100μm、好ましくは0.5〜50μm、さらに好ましくは0.7〜30μm、特に1〜20μm程度であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明の充填剤含有複合樹脂粒子は、樹脂と充填剤との屈折率差を利用して、反射防止フィルムやアンチグレアフィルムなどの充填粒子と使用できる。また、紫外線吸収能を有する充填剤を用いた場合、紫外線吸収能を発揮しつつ、充填剤が人体に直接接触しない安全な化粧品用(例えば、ファンデーション用)などに使用することができる。また、樹脂と充填剤との屈折率差を調整することにより、粒子内部での光の散乱によりソフトフォーカス効果が発現する化粧品用素材としても利用できる。さらに、顔料などの着色剤を内包した粒子は、耐候性インクやトナー材料、特に耐候性が求められる自動車など屋外用の塗装用途や、使用時に湿式媒体中に分散される工程を経るインクジェット印刷用インク粒子や湿式トナー印刷用トナー粒子などの画像記録材料として利用できる。また、充填剤により粒子全体の硬度を上げつつ、一方で粒子表面の平滑性や摺動性(又は滑り性)を保持する粒子は、半導体のケミカルメカニカルポリッシング(CMP)用の研磨剤などとしても使用できる。
【実施例】
【0099】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0100】
実施例1〜6
表1に示す組成、混練温度で、樹脂と充填剤とを、必要に応じてヘンシェルミキサーを用いて予備混合した後、ブラベンダー(東洋精機(株)製、ラボプラストミル)により回転速度150rpmで15分間溶融混練した後、冷却して充填剤含有樹脂組成物を調製した。この充填剤含有樹脂組成物と乳化媒体とを、表1に示す組成、混練温度でブラベンダー(東洋精機(株)製、ラボプラストミル)により回転速度100rpmで10分間溶融混練して、分散体を得た。得られた分散体を60℃の湯水中に浸漬し、複合樹脂粒子の懸濁液を得た。メンブレン膜(孔径0.45μm,ポリビニリデンフルオライド製)を用いて、前記懸濁液から不溶分を濾別し、複合樹脂の微粒子を回収した。
【0101】
なお、実施例及び比較例では、下記の成分を用いた。
【0102】
(A)樹脂
樹脂1:ポリスチレン樹脂(東洋スチレン(株)製、GPPS G100C)
樹脂2:ナイロン12樹脂(ダイセル・デグサ(株)製、ダイアミドL1640)
樹脂3:ブタンジオール−コハク酸−カプロラクトン三元共重合体(ダイセル化学工業(株)製、CBS−171、重量平均分子量17万)
(B)充填剤
充填剤1:酸化亜鉛微粒子(住友大阪セメント(株製)、超微粒子酸化亜鉛ZnO−350(Si)、平均粒子径10〜30nm)
充填剤2:酸化チタン粒子(日本アエロジル(株)製、二酸化チタンT−805、平均粒子径21nm、表面をオクチルシランにより疎水化処理)
充填剤3:酸化チタン粒子(石原産業(株)製、塩素法酸化チタン タイペークCR−50、平均粒子径250nm)
充填剤4:有機顔料マイクロリスレッドBR−K (長瀬産業(株)製、縮合アゾ系赤色、色素赤色144号)
充填剤5:カーボンブラック(三菱化学(株)製、MA100、平均粒子径24nm)
(C)乳化媒体
(C1)オリゴ糖:デンプン糖(東和化成工業(株)製、還元デンプン糖化物PO−10、25℃においてB型粘度計で測定した50重量%水溶液の粘度:6.5Pa・s)
(C2)水溶性可塑化成分:糖アルコール ソルビトール(東和化成工業(株)製、ソルビット)。
【0103】
樹脂、樹脂組成物や複合樹脂粒子などの特性は次のようにして測定した。
【0104】
[樹脂及び充填剤含有樹脂組成物の動的粘弾性測定]
下記装置を用い下記の条件で、樹脂について、120℃から20℃高い温度毎に周波数35.4sec-1でのせん断粘度を測定した。この測定において、前記せん断粘度が1000Pa・sec以下となった最も低い温度を温度Tとした。
【0105】
次いで、同様にして、樹脂(A)及び充填剤含有樹脂組成物(C)について、前記温度Tで、周波数1.12sec-1および62.9sec-1でのせん断粘度を測定し、η*C(ω)/η*A(ω)(ω=1.12sec-1および62.9sec-1)を得た。これらの値より、ηr(ω)=η*C(ω)/η*A(ω)を算出した。
【0106】
測定装置:回転式レオメーター(Perr Physica社製、UDS200)
プレート:パラレルプレート(25φmm、50φmm)
プレート間ギャップ:1mm
測定モード:動的測定(歪量1%)
[重量平均分子量]
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、標準ポリスチレン換算で、重量平均分子量を算出した。
【0107】
[充填剤含有樹脂組成物中の充填剤の分散粒子径]
得られた充填剤含有樹脂組成物を、マイクロトームにより厚さ約0.05〜0.2μmの超箔切片に切り出した後、透過型電子顕微鏡を用いて構造を観察し、電子顕微鏡写真を得た。電子顕微鏡写真から50個の充填剤粒子を無作為に選択し、各粒子の長径及び短径の平均値を各粒子の粒子径とした。50個の粒子の数平均粒子径を充填剤の分散粒子径とした。
【0108】
[粒子の真比重ρ]
下記装置を用い、下記の条件で粒子の真比重を測定した。
【0109】
装置:乾式密度計 アキュピック1330−03(島津製作所)
温度:25℃
使用ガス:ヘリウム
前処理条件:60℃の真空乾燥、3時間
測定回数:試料を変えて3回
[粒子の外観]
得られた粒子を走査型電子顕微鏡により観察し、表面形状及び全体形状の写真を得た。
【0110】
[粒子の体積平均粒子径及び計算上の比表面積SAc]
前記走査型電子顕微鏡写真を用い、写真上に少なくとも200個の粒子が含まれるように任意のサイズの長方形を描き、その長方形内に存在する全粒子について真球換算の粒子径を算出した。得られた少なくとも200個の粒子径より、体積平均粒子径、数平均粒子径を得た。
【0111】
また、上記測定により各粒子径に対する粒子の個数分布n(r)を得た(n(r):粒子径rを有する粒子の個数)。測定された全粒子径(r)領域における総表面積At=Σ[4×π×r2×n(r)]、総体積Vt=Σ[4×π×r3×n(r)/3]及び前記真比重ρから、下式を用いて個数平均SAcを算出した。
【0112】
SAc=At/(Vt/ρ)
[粒子の断面形状及び充填剤の分散状態]
得られた樹脂粒子をエポキシ樹脂系化学反応型接着剤(コニシ(株)製、ボンドクイック5)と混合して、前記樹脂粒子が分散した塊状物を作成し、マイクロトームにより厚さ約0.05〜0.2μmの超箔切片に切り出した後、透過型電子顕微鏡観察を行い、断面形状の電子顕微鏡写真を得た。
【0113】
[粒子の真の比表面積SAt、及び凹凸度SAt/SAc]
下記条件での窒素ガス吸着法による比表面積測定により、比表面積SAtを測定した。
【0114】
測定装置:高速比表面積・細孔分布測定装置NOVA-1200(ユアサアイオニクス(株)製)
前処理条件:試料を測定セルに入れ、室温(真空下)で30分間脱気
測定原理:定容法(ブランク補正型)
相対圧力;圧力トランスデューサによるサンプルセル内の吸着平衡圧力と飽和蒸気圧の比
吸着ガス量;圧力トランスデューサによる圧力検出とサーミスタによるマニホールド温度検出から理想気体での注入ガス量を計算
吸着ガス:窒素ガス
セルサイズ:ラージペレットセル5.2cm3(ステム外径9mm)
測定項目:0.1、0.2、0.3の吸着点3点
解析項目:BET1点、BET多点、ラングミュアによる比表面積
測定回数:試料を変えて2回
さらに、前記方法により得られたSAcを用いて、SAt/SAcを得た。
【0115】
結果を表1に示す。
【0116】
【表1】

【0117】
表1から明らかなように、粘度比X=ηr(1.12)/ηr(62.9)の値が小さな樹脂組成物を用いると、充填剤粒子が内包された樹脂粒子が生成し、前記粘度比Xが大きな樹脂組成物を用いると、充填剤粒子が表面に存在する樹脂粒子が生成する。
【0118】
なお、図1は実施例3及び実施例6で用いた充填剤含有樹脂組成物の動的粘弾性を示すグラフである。このグラフから明らかなように、低周波数域でηr(ω)=η*C(ω)/η*A(ω)の立ち上がり(傾斜)が小さな樹脂組成物(実施例3)を用いると、充填剤が内部に内包され、表面が平滑な樹脂粒子が得られ、前記立ち上がり(傾斜)が大きな樹脂組成物(実施例6)を用いると、表面が充填剤で被覆された樹脂粒子が得られる。
【0119】
図2に実施例1で得られた複合樹脂粒子の電子顕微鏡写真、図3に実施例1で得られた複合樹脂粒子の断面の電子顕微鏡写真を示す。図4に実施例2で得られた複合樹脂粒子の電子顕微鏡写真、図5に実施例2で得られた複合樹脂粒子の断面の電子顕微鏡写真を示す。これらの実施例では、図に示されるように、充填剤粒子が樹脂粒子内に内包され、表面が平滑な複合樹脂粒子が得られる。
【0120】
一方、図6に実施例6で得られた複合樹脂粒子の電子顕微鏡写真、図7に実施例6で得られた複合樹脂粒子の断面の電子顕微鏡写真を示す。この実施例では、図に示されるように、充填剤粒子が表面に偏在した複合樹脂粒子が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】図1は実施例3及び実施例6で用いた充填剤含有樹脂組成物の動的粘弾性特性を示すグラフである。
【図2】図2は実施例1で得られた複合樹脂粒子の電子顕微鏡写真である。
【図3】図3は実施例1で得られた複合樹脂粒子の断面の電子顕微鏡写真である。
【図4】図4は実施例2で得られた複合樹脂粒子の電子顕微鏡写真である。
【図5】図5は実施例2で得られた複合樹脂粒子の断面の電子顕微鏡写真である。
【図6】図6は実施例6で得られた複合樹脂粒子の電子顕微鏡写真である。
【図7】図7は実施例6で得られた複合樹脂粒子の断面の電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種類の樹脂(A)と充填剤(B)とで構成され、かつ前記樹脂(A)及び充填剤(B)に対して非相溶性の乳化媒体(C)と溶融混合又は混練して、乳化媒体(C)中に充填剤(B)を含む樹脂(A)の分散相を形成するための方法であって、下記式
ηR(ω)=η*C(ω)/η*A(ω)
(式中、η*C(ω)は、上記樹脂(A)と充填剤(B)とで構成された樹脂組成物の温度T及び周波数ω(sec-1)での動的粘弾性測定におけるせん断粘度を示し、η*A(ω)は、樹脂(A)の温度T及び周波数ω(sec-1)での動的粘弾性測定におけるせん断粘度を示す。温度Tは、120℃から20℃毎に温度を上げながら樹脂(A)のせん断粘度を測定したとき、周波数35.4sec-1での値が、1000Pa・s以下になる最も低い温度を示す。)
で表され、かつ周波数ω1.12(sec-1)でのηR(ω)と周波数ω62.9(sec-1)でのηR(ω)との割合X=ηR(1.12)/ηR(62.9)の値を指標にして、分散相中の充填剤の分布状態をコントロールする方法。
【請求項2】
Xが0.1〜5であり、Xが小さな値の樹脂組成物を用いて充填剤(B)が少なくとも内包された樹脂粒子を生成させ、Xが大きな樹脂組成物を用いて充填剤(B)で被覆された樹脂粒子を生成させる請求項1記載の方法。
【請求項3】
Xが0.7〜3であり、X=1.5〜2を境界領域として、この境界領域以下の樹脂組成物を用いて充填剤(B)が少なくとも内包された樹脂粒子を生成させ、境界領域を超える樹脂組成物を用いて充填剤(B)で被覆された樹脂粒子を生成させる請求項1記載の方法。
【請求項4】
境界領域が1.5〜1.8である請求項3記載の方法。
【請求項5】
Xが1.5以下の条件で充填剤(B)が少なくとも内包された樹脂粒子を生成させ、Xが1.5を超える条件で充填剤(B)で被覆された樹脂粒子を生成させる請求項1記載の方法。
【請求項6】
平均粒子径100nm以下の充填剤(B)を用い、充填剤(B)が少なくとも内包された樹脂粒子を生成させる請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
乳化媒体(C)が、少なくともオリゴ糖で構成されている請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
少なくとも1種類の樹脂(A)と充填剤(B)とで構成され、かつ前記樹脂(A)及び充填剤(B)に対して非相溶性の乳化媒体(C)と溶融混合又は混練し、乳化媒体(C)中に、樹脂(A)で構成され、かつ充填剤(B)の分布状態がコントロールされた分散相を形成するための樹脂組成物であって、下記式
ηR(ω)=η*C(ω)/η*A(ω)
(式中、η*C(ω)は、温度T及び周波数ω(sec-1)での上記樹脂組成物の動的粘弾性測定におけるせん断粘度を示し、η*A(ω)は、温度T及び周波数ω(sec-1)での樹脂(A)の動的粘弾性測定におけるせん断粘度をそれぞれ示す。温度Tは、120℃から20℃ずつ温度を上げながら樹脂(A)のせん断粘度を測定したとき、周波数35.4sec-1での値が、1000Pa・s以下になる最も低い温度を示す。)
で表され、かつ周波数ω1.12(sec-1)でのηR(ω)と周波数ω62.9(sec-1)でのηR(ω)との割合X=ηR(1.12)/ηR(62.9)が0.1〜5である樹脂組成物。
【請求項9】
X=1.5〜2を境界領域として、充填剤が表面又は内部に存在する樹脂粒子を生成させるための樹脂組成物であって、充填剤(B)が少なくとも内包された樹脂粒子を生成させるための樹脂組成物が前記境界領域以下の値を有する樹脂組成物であり、充填剤(B)で被覆された樹脂粒子を生成させる樹脂組成物が境界領域を超える値を有する樹脂組成物である請求項9記載の樹脂組成物。
【請求項10】
樹脂(A)が、スチレン系樹脂、オレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ハロゲン含有樹脂、ビニルエステル系樹脂又はその誘導体、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリ(チオ)エーテル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリイミド系樹脂、及びセルロース誘導体から選択された少なくとも一種で構成されている請求項8又は9記載の樹脂組成物。
【請求項11】
充填剤(B)が、無機又は有機粒子である請求項8〜10のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項12】
充填剤(B)が、金属酸化物、金属水酸化物、金属塩、金属窒化物、金属炭化物、金属ホウ化物、金属及び炭素から選択された少なくとも一種で構成されている請求項8〜11のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項13】
充填剤(B)が、有機顔料及び無機顔料から選択された少なくとも一種で構成されている請求項8〜12のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項14】
樹脂(A)と充填剤(B)との重量比が前者/後者=40/60〜99/1である請求項8〜13のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項15】
請求項8〜14のいずれかに記載の樹脂組成物と、樹脂(A)及び充填剤(B)に対して非相溶性の乳化媒体(C)とを、樹脂(A)及び乳化媒体(C)が溶融する温度で混練し、樹脂(A)が分散相を形成し、乳化媒体(C)が連続相を形成した分散体(D)を生成させ、樹脂(A)は溶解せず乳化媒体(C)を溶解する溶媒を用いて分散体(D)の乳化媒体(C)を溶解し、樹脂(A)及び充填剤(B)で構成され、かつ充填剤(B)の分布状態がコントロールされた複合樹脂粒子を製造する方法。
【請求項16】
乳化媒体(C)が水溶性であり、溶媒が水である請求項15記載の製造方法。
【請求項17】
乳化媒体(C)が、オリゴ糖(C1)と、このオリゴ糖(C1)を可塑化するための水溶性可塑化成分(C2)とで構成されている請求項15又は16記載の製造方法。
【請求項18】
オリゴ糖(C1)と可塑化成分(C2)との重量割合が、オリゴ糖(C1)/可塑化成分(C2)=99/1〜50/50である請求項17記載の製造方法。
【請求項19】
請求項15〜18のいずれかに記載の製造方法で得られ、充填剤(B)が樹脂(A)で構成された粒子の表面又は内部に偏在する複合樹脂粒子。
【請求項20】
平均粒子径3nm〜1μmの充填剤粒子を樹脂粒子全体に対して0.01〜40体積%の割合で包含し、充填剤粒子を含む樹脂粒子の体積平均粒子径が0.2〜100μmの複合樹脂粒子であって、この複合樹脂粒子の粒子径から計算される粒子1g当たりの表面積SAcと、窒素吸着法で測定される複合樹脂粒子1g当たりの比表面積SAtとが、SAt/SAc=1〜4の関係を満たす請求項19記載の複合樹脂粒子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−328218(P2006−328218A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−153700(P2005−153700)
【出願日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】