説明

樹脂粘度測定方法及び樹脂粘度測定装置

【課題】高せん断流動下の樹脂粘度を測定できるようにする。
【解決手段】樹脂流入口15aと、開放された樹脂流出口15bとを有し、内部に樹脂流路15が形成された測定ブロック14を、射出成形機に型締め装置によって取り付け、射出ノズルから射出される溶融樹脂を樹脂流路15に流入させ、この樹脂流路15を流れる溶融樹脂の圧力勾配と単位時間当たりの流量とに基いて、該溶融樹脂の粘度を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形用の樹脂粘度測定方法及び樹脂粘度測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多くの分野で大型プラスチック製品の採用が拡大しているが、成形すべき品物が大型になると、その射出成形が非常に難しくなってくる。それにも拘わらず、金型開発期間の短縮・開発費用の削減は以前に増して強く求められている。このような背景から、金型設計を射出成形シミュレーションによって支援するニーズが高まっている。このシミュレーションにおいては、射出成形に供する溶融樹脂の粘度データが必要になる。
【0003】
上記溶融樹脂の粘度は、キャピラリーレオメーターのような専用測定装置を用いて測定することが考えられる。しかし、射出成形機と一口に言っても、同一機種のマシン間には機差があるのが通常である。例えば、射出成形機のスクリュー形状や各構成要素の摩耗等によって樹脂材料のせん断発熱度合は異なり、繊維強化樹脂材料の場合は繊維破断の度合が異なり、そのため、溶融射出される樹脂の粘度もマシン間で異なる。従って、そのような専用機で得られた粘度に基いて、シミュレーションを行なっても、必ずしも実機に即したデータは得られない。これに対して、射出成形機(実機)を用いて樹脂粘度を測定する方法も知られており、例えば、下記特許文献1〜5に記載されている。
【0004】
特許文献1は、射出成形機の射出ノズルを金型にタッチさせない状態で溶融樹脂を射出し、そのときの射出圧力、射出速度、樹脂流量等に基いて樹脂粘度を求めることを開示する。
【0005】
特許文献2は、射出成形機の射出シリンダとノズルとの間に、圧力センサ、温度センサ及びヒータを組み込んだ樹脂粘度測定用ノズルを設け、溶融樹脂の圧力勾配、樹脂流量、樹脂温度等に基いてオンラインで樹脂粘度を求めることを開示する。
【0006】
特許文献3は、射出成形機の固定プラテンに、圧力センサ及び温度センサを組み込んだ細管式の樹脂粘度測定装置を取り付け、溶融樹脂の圧力勾配、樹脂流量、樹脂温度等に基いて、射出成形とは別工程で樹脂粘度を求めることを開示する。
【0007】
特許文献4は、固定型と可動型とからなる樹脂粘度測定用の金型を構成し、これを射出成形機に型締装置によって取り付け、樹脂粘度を測定することを開示する。すなわち、その測定用金型は、成形キャビティと、射出ノズルから供給される溶融樹脂を成形キャビティに供給する第1通路と、該第1通路から分岐した第2通路とを備え、第2通路の通路端に溶融樹脂を第1通路に押し戻すためのプランジャが設けられている。ノズル側からプランジャ側への溶融樹脂の供給時、並びにプランジャ側からノズル側への溶融樹脂の逆送時の各々において第2通路での溶融樹脂の圧力勾配、樹脂流量、樹脂温度等に基いて樹脂粘度を求めるというものである。
【0008】
特許文献5は、射出成形機の固定プラテンに装着する樹脂粘度測定ブロックと、可動プラテンに装着する溶融樹脂排出型とからなる樹脂粘度測定装置を開示する。その測定ブロックに、樹脂溜りとこれに続くキャピラリーが設けられ、キャピラリーの先端は溶融樹脂排出型を介して外部に開放されている。溶融樹脂を粘度測定装置内に射出し、樹脂溜りでの樹脂圧力に基いて溶融樹脂の粘度を求めるようになされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−142204号公報
【特許文献2】特開平5−329864号公報
【特許文献3】特開平6−166068号公報
【特許文献4】特開2006−137057号公報
【特許文献5】実開平3−70343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記特許文献1〜3に開示された樹脂粘度の測定方法又は装置は、いずれも射出機から射出されて金型に入らんとする溶融樹脂の粘度を射出機の設定値等から得るものである。このため、金型内を高いせん断速度で流動する溶融樹脂の特性評価に相応しい粘度データが得られるとは云うことができない。
【0011】
これに対して、特許文献4,5に開示された樹脂粘度の測定方法又は装置は、金型に相当する粘度測定装置ないし測定ブロックを射出成形機にその型締め機構を利用して取り付けて溶融樹脂の粘度を測定する。しかし、特許文献4では、プランジャの後退又は前進によって生ずる、閉じられた樹脂通路での溶融樹脂の流動に基いて粘度を測定するものであるから、高せん断流動下での樹脂粘度測定にはならない。また、特許文献5の方法は、樹脂溜りの樹脂圧力に基いて粘度測定をするものであって、高せん断流動下の樹脂粘度を直接測定するものでない。
【0012】
加えて、特許文献2〜4では、キャピラリーのような細い樹脂流路に溶融樹脂を通すことから、目詰まりを生じ易く、例えば繊維強化プラスチック部品を成形する繊維入り樹脂の粘度測定には適切でない。
【0013】
そこで、本発明は、射出成形機を用いて、溶融樹脂が金型内を高せん断速度で流動する実機に即した高せん断流動下の樹脂粘度を測定できるようにすること、そして、繊維入り樹脂の粘度測定も可能にすることを課題とする。
【0014】
また、上記特許文献1〜4では、射出機側の計量値(シリンダの移動量)に基いて溶融樹脂の流量が求められている(なお、特許文献5にはその流量測定方法は開示されていない)。しかし、例えばインラインスクリュー式では、スクリュー先端の逆流防止弁での溶融樹脂のバックフローがあり、また、射出開始から終了まで溶融樹脂が定常的に流動するわけではない。溶融樹脂の流れは、射出行程初期は不安定であり、射出行程の途中では比較的安定した状態になり、射出行程末期では再び不安定な流れになる。すなわち、上記計量値から得られる溶融樹脂の流量は、安定流動期の流量ではない。
【0015】
すなわち、別の課題は、安定流動期の流量を用いて樹脂粘度を測定できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、射出成形機に対してその型締め用の固定盤と可動盤とによって樹脂流路を有する測定ブロックを取り付け、その樹脂流路を用いて高せん断流動下の溶融樹脂の粘度を測定するようにした。
【0017】
すなわち、本発明の好ましい態様の一つは、樹脂粘度測定方法であって、溶融樹脂を流入させる樹脂流入口と、開放された樹脂流出口とを有し、内部に樹脂流路が形成された測定ブロックを、射出成形機に対して、その固定盤と型締め用の可動盤とによって取り付け、
上記射出成形機の射出ノズルから射出される溶融樹脂を上記樹脂流入口から上記樹脂流路に流入させ、
上記樹脂流路を流れる溶融樹脂の圧力勾配と流量(「単位時間当たりの流量」のこと、以下、同じ。)とに基いて、該溶融樹脂の粘度を求めることを特徴とする。
【0018】
この方法によれば、粘度測定ブロックを射出成形機に取り付けて溶融樹脂の粘度を測定するから、該射出成形機の機差を包含した粘度データが得られる。また、開放された樹脂流路を流れる溶融樹脂の圧力勾配と流量とに基いてその溶融樹脂の粘度を求めるから、射出成形機の高圧力を用いて高せん断流動下の粘度を得ることができる。
【0019】
また、その樹脂流路の流路断面積を大きくすることにより、溶融樹脂が、長繊維を含有するものであっても、目詰まりを招くことなく流れ易くなる。すなわち、そのような長繊維入り溶融樹脂の粘度測定も可能になる。
【0020】
溶融樹脂の粘度を測定するには、溶融樹脂の流量を求める必要がある。この流量については、上記射出成形機の射出速度を一定とし且つ計量値を変えて少なくとも2回、上記樹脂流路に溶融樹脂を射出し、上記計量値の変化に伴う、実際に上記噴射ノズルから射出された溶融樹脂量(実射出量)の変化量と、上記計量値の変化に伴う、溶融樹脂が上記樹脂流路を所定の安定度をもって流れる安定流動期間の変化量とに基いて求めることが好ましい。
【0021】
先に述べたように、溶融樹脂の流れは、射出行程初期は不安定であり、射出行程の途中では比較的安定した状態になり、射出行程末期では再び不安定な流れになる。
【0022】
これに対して、上記計量値が変わっても、射出行程の初期と末期に溶融樹脂の流れが不安定になる点は同じである。すなわち、基本的には、実際に射出された実射出量が変化した分だけ、溶融樹脂の安定流動期間が変化するだけである。そして、上記計量値の変化に伴う、安定流動期間の変化は、実射出量が変化したことによるものであるから、該実射出量の変化量を該安定流動期間の変化量で除してなる流量は、安定流動期の流量を精度良く反映したものになる。
【0023】
この場合、上記安定流動期間は、当該樹脂流路における溶融樹脂の圧力波形の変化を検出することによって求めることができる。
【0024】
本発明の別の好ましい態様は、樹脂粘度測定装置であって、射出成形機の固定盤に取り付ける固定型と、型締め用の可動盤に取り付ける可動型とによって構成される測定ブロックを備え、
上記固定型と可動型との間に、該固定型と可動型との型締めによって、上記射出成形機の射出ノズルから射出される溶融樹脂を流入させる樹脂流入口と、開放された樹脂流出口とを有する樹脂流路が形成されるものであり、
上記測定ブロックに、上記樹脂流路を流れる溶融樹脂の粘度を求めるための圧力勾配を検出する圧力センサと、該溶融樹脂の温度を検出する温度センサと、上記樹脂流路の温度を調整する温度調整手段とが設けられていることを特徴とする。
【0025】
従って、かかる樹脂粘度測定装置であれば、これを射出成形機に取り付けることによって、該射出成形機の機差を包含した粘度データを得ることができ、また、その測定ブロックの樹脂流路は、樹脂流出口が開放されているから、高せん断流動下の樹脂粘度を測定することができる。また、その樹脂流路の流路断面積を大きくすることにより、長繊維入り溶融樹脂であっても、目詰まりを生ずることなく、粘度を精度良く測定することができる。
【0026】
また、上記圧力センサ及び温度センサの先端は、溶融樹脂に乱流を生ずることを避けるために、樹脂流路面と面一になっていることが好ましい。この点に関し、円形断面の樹脂流路であれば、センサ先端面を樹脂流路面と面一にするために、凹曲面に加工する必要があるところ、実際にはそのような加工は困難である。これに対して、樹脂流路を扁平断面にすれば、センサ先端面を平坦にするだけで、簡単に上記面一状態を得ることができる。
【0027】
従って、上記樹脂粘度測定方法及び樹脂粘度測定装置においては、樹脂流路を扁平断面にすることが好ましい。この点についてさらに説明すると、キャピラリーの場合は、上述の如くセンサ先端面の凹曲面加工が困難であるから、キャピラリーには圧力センサを配置せずに、上流側圧力P1は射出成形機の射出圧力(又はキャピラリー手前の樹脂溜まりの圧力(特許文献5参照))で代替し、下流側圧力P2は開放端圧零で代替して圧力勾配を求めているのが実情である。しかし、上流側圧力P1は上記代替でもそれほど問題にはならないものの、下流側圧力P2は理論上は開放端圧零であっても、実際は零ではないため、補正をかける必要が出てくる。そのために、得られる樹脂粘度の信頼性が低くならざるを得ないのである。
【0028】
これに対して、扁平断面の樹脂流路であれば、該樹脂流路に圧力センサを配置することが容易であり、そのため、その樹脂流路における真の圧力勾配を求めることができ、得られる樹脂粘度の信頼性が高くなる。上記扁平断面の樹脂流路は、その幅Wが高さHの5倍以上の大きさになっていること、さらには10倍以上ないし20倍以上の大きさになっていることが好ましい。
【0029】
上記可動型に関して好ましいのは、上記可動盤に取り付ける可動型本体と、上記固定型との間に断面形状が異なる樹脂流路を択一的に形成する(例えば、幅又は高さが異なる扁平断面の樹脂流路を択一的に形成する、或いは内径が異なる円形断面の樹脂流路を択一的に形成する、或いは扁平断面の樹脂流路と円形断面の樹脂流路とを択一的に形成する)ための、上記可動型本体に着脱自在な複数の入れ子とを備えていることである。従って、入れ子の選択により、射出成形に使用する樹脂特性に応じた、例えば長繊維の種類や混入量に応じた、粘度測定に最適な樹脂流路を形成することができる。
【0030】
また、好ましいのは、上記固定型と可動型との間に、該固定型と可動型との型締めによって、断面形状が異なる複数の樹脂流路(幅又は高さが異なる扁平断面の樹脂流路、或いは内径が異なる円形断面の樹脂流路、或いは扁平断面の樹脂流路と円形断面の樹脂流路と)が形成され、この複数の樹脂流路から粘度測定に使用する樹脂流路を選択するための流路選択弁を備えていることである。従って、射出成形に使用する樹脂特性に応じた、例えば長繊維の種類や混入量に応じた最適な樹脂流路を選択することができる。
【0031】
また、上記入れ子式と上記弁による流路選択式とを比較した場合、入れ子式では、樹脂流路をスプルに直結できるため、つまり、流路選択式とは違って、溶融樹脂の流動性に影響を及ぼす入り組んだランナ部や流路選択弁を必要としないため、粘度測定の精度が高くなる。また、流路選択式の場合、各樹脂流路にセンサを配置する必要があるため、センサ数が多くなるが、入れ子式の場合、各入れ子に対してセンサを共用することできるため、センサ数を少なくすることができる。一方、流路選択式は、流路選択弁によって樹脂流路を簡単に選択使用することができ、粘度測定の段取り効率が入れ子式よりも高くなる。
【0032】
また、好ましいのは、固定型と可動型の合わせ面が型締め方向に対して垂直になった縦割り式の測定ブロックを採用することである。これにより、型締め力を強くすることができ、溶融樹脂の洩れ防止に有利になる。
【発明の効果】
【0033】
以上のように、本発明によれば、粘度測定ブロックを射出成形機に取り付けて溶融樹脂の粘度を測定するから、該射出成形機の機差を包含した粘度データが得られ、しかも、樹脂流出口が開放されている樹脂流路を流れる溶融樹脂の圧力勾配と流量とに基いてその溶融樹脂の粘度を求めるから、高せん断流動下の粘度を得ることができる。
【0034】
また、溶融樹脂の安定流動期の流量を用いて粘度測定をするようにした方法によれば、その測定粘度データの信頼性が高くなり、実機に即したシミュレーションを行なう上で有利になる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施形態1に係る樹脂粘度測定装置を取り付けた射出成形機を一部断面で示す側面図である。
【図2】同実施形態の測定ブロックを示す断面図である。
【図3】同測定ブロックを型開き状態で示す断面図である。
【図4】同測定ブロックの入れ子の一部の部分断面斜視図である。
【図5】別の入れ子の一部の部分断面斜視図である。
【図6】粘度算出の説明図である。
【図7】流量算出の説明図(圧力波形図)である。
【図8】本発明の実施形態2に係る測定ブロックの断面図である。
【図9】同測定ブロックの樹脂流路を示す一部省略した斜視図である。
【図10】同測定ブロックの可動型を示す一部省略した断面図である。
【図11】本発明の実施形態3に係る測定ブロックの断面図である。
【図12】同測定ブロックの可動型の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0037】
<実施形態1>
図1に示す射出成形機はインラインスクリュー式であり、同図において、1は加熱シリンダ、2は加熱シリンダ1にペレット状樹脂材料を供給するためのホッパ、3は射出シリンダを内蔵する射出装置、4は固定盤、5は可動盤6を有する型締め装置である。加熱シリンダ1は、樹脂材料を溶融可塑化させて輸送するためのものであって、外周にはバンドヒーター7が取り付けられ、内部にはスクリュー8が設けられている。樹脂材料は、外部よりの伝熱と、スクリュー8の回転によるせん断力とによって加熱されて可塑化される。スクリュー8の先端には逆流防止弁9が設けられており、スクリュー8の前進によって、加熱シリンダ1の先端の射出ノズル1aから溶融樹脂が成形用金型のキャビティに射出される。
【0038】
射出成形時には、上記固定盤4に成形用固定型が取り付けられ、可動盤6に成形用可動型が取り付けられるが、図1は射出成形用樹脂の粘度を測定するために樹脂粘度測定装置11を射出成形機に取り付けた状態を示している。樹脂粘度測定装置11は、固定型12と可動型13とによって構成される測定ブロック14を備えている。
【0039】
図2及び図3は測定ブロック14の具体的な構造を示している。本例の測定ブロック14では、固定型12と可動型13とは、その一方が上に、他方が下になるように配置されており、型締めによって、両者間に樹脂流路15が形成されるようになっている。図例では、可動型13が固定型12の上側に配置されている。固定型12には固定盤4に取り付ける固定側取付板16が設けられ、可動型1には型締め用の可動盤6に取り付ける可動側取付板17が設けられている。固定側取付板16にロケートリング16aが設けられている。
【0040】
樹脂流路15について具体的に説明すると、固定型12は、その上面が固定盤4側から可動盤6側に向かって下り勾配に傾斜している。可動型13の下面も同じく、固定盤4側から可動盤6側に向かって下り勾配に傾斜している。可動型13は、可動型本体18と、該可動型本体18に着脱自在に設けられた入れ子19とを備えてなる。図3及び図4に示すように、入れ子19の下面に流路溝21が形成されており、該流路溝21と固定型12の上面とによって、固定盤4側から可動盤6側に向かって下り勾配に傾斜した扁平断面の樹脂流路15が形成されている。
【0041】
樹脂流路15の一端(固定盤側)の樹脂流入口15aは、固定側取付板16に形成されたスプル22に接続され、樹脂流路15の他端(可動盤側)の樹脂流出口15bは固定型12の下方に開放されている。従って、スプル22から樹脂流路15に流入する溶融樹脂は高いせん断速度でもって該樹脂流路15を流れて樹脂流出口15bから流出する。
【0042】
固定型12及び可動型13の入れ子19には、樹脂流路15の温度を調整する温度調整手段としてのヒータ23,24が設けられている。さらに、固定型12には、樹脂流路長手方向に間隔をおいて2箇所に、樹脂流路15を流れる溶融樹脂の圧力勾配を検出するための圧力センサ25,26が設けられ、両圧力センサ25,26間、並びに可動側取付板17には、樹脂流路15を流れる溶融樹脂の温度を検出する温度センサ27,28が設けられている。
【0043】
図5は上記入れ子19と適宜交換して使用する別の入れ子19を示す。すなわち、この入れ子19は、その流路溝31の幅及び深さが図4に示す入れ子19の流路溝21の幅及び深さよりも小さくなったものである。このような流路溝の幅及び深さの少なくとも一方が異なる複数の入れ子を準備しておくことにより、入れ子の交換によって、固定型12と可動型13との間に、粘度測定すべき樹脂の種類に応じて幅又は高さが異なる扁平断面の樹脂流路を形成することができる。
【0044】
(樹脂粘度の測定)
測定ブロック14を射出成形機に、その固定盤4と型締め用の可動盤6とによって取り付ける。射出成形機の射出ノズル1aを前進させてスプル22に接続する(ノズルタッチ)。測定ブロック14は、溶融樹脂が樹脂流路15を固化することなく流れるようにヒータ23,24にて適切な温度に調整しておく。
【0045】
加熱シリンダ1を所定温度に加熱した状態でスクリュー8を回転・後退させる。これにより、ホッパ2から投入された樹脂材料を加熱可塑化させ、溶融樹脂を加熱シリンダ1の先端部に溜めていく(計量)。スクリュー8を前進させることにより、加熱シリンダ1の先端部の計量された溶融樹脂を射出ノズル1aからスプル22を介して樹脂流路15に流入させ、樹脂流出口15bから流出させる。このときの樹脂流路15を流れる溶融樹脂の圧力勾配∂P/∂xを圧力センサ25,26の検出値から求めるとともに、その溶融樹脂の温度Tを温度センサ27,28の検出値によって求める。また、樹脂流路15を流れる溶融樹脂の流量Qを別に求める。上記圧力勾配∂P/∂xと流量Qとに基いて、当該温度Tでの溶融樹脂の粘度ηを求める。
【0046】
すなわち、図6において、Hは樹脂流路15の高さ、P及びPは圧力センサ25,26の検出値である。粘度ηは、せん断速度をγとして、せん断応力をτとすると、次式(1)で表すことができる。また、樹脂流路15の幅をWとすると、せん断速度γは次式(2)で表すことができ、さらに、せん断応力τは次式(3)で表すことができる。
η=τ/γ ……(1)
γ=6Q/WH ……(2)
τ=(∂P/∂x)・(H/2) ……(3)
H及びWは樹脂流路15の高さ及び幅であるから、圧力勾配∂P/∂xと流量Qが得られると、当該温度Tでの粘度ηが求まることになる。温度Tは、例えば温度センサ27,28の検出値にて与えることができる。粘度測定後は、図3に示すように測定ブロック14の型開きを行ない、樹脂流路15内の樹脂固化物20を取り除くことができる。
【0047】
次に流量Qの求め方について説明する。図7はそのための説明図である。上記圧力勾配を求めるときと同じ条件で(加熱可塑化条件、射出速度(スクリュー前進速度)、射出圧力及び測定ブロックの温度を同じにして)、溶融樹脂の計量値を変えて少なくとも2回、樹脂流路15への溶融樹脂を射出を行なう。
【0048】
図7は計量値50と計量値100で当該射出を行なったときの、圧力センサ25で検出される溶融樹脂の圧力波形を模式的に示している。計量値50及び計量値100のいずれにおいても、射出開始と共に溶融樹脂圧力が高くなっていき、その後、比較的安定した圧力が続き、次いで溶融樹脂圧力が低下して射出終了に至っている。すなわち、溶融樹脂の流れは、射出行程初期は不安定であり、その後は比較的安定した状態になり(安定流動期)、射出行程末期では再び不安定な流れになる。
【0049】
そこで、本実施形態では、安定流動期の流量Qを求めんとするものである。まず、上記圧力波形に基いて、計量値50及び計量値100各々における溶融樹脂の安定流動期の終期t,tを特定し、その差Δt=t−tを求める。このΔtは、計量値が50から100に変わったことに伴う、安定流動期間の変化量に相当する。
【0050】
一方、計量値50及び計量値100各々での、実際に噴射ノズル1aから射出された溶融樹脂量Q1,Q2を測定する。加熱シリンダ1では射出時に逆流防止弁9でのバックフローがあるため、実射出量Q1,Q2は、計量値50,100よりも少なくなる。図7では、計量値50での実射出量Q1が40、計量値100での実射出量Q2が70であるとしている。この実射出量Q1,Q2は、樹脂流路15からの溶融樹脂の流出量及び樹脂流路15における溶融樹脂の残量から求めることができる。そして、その差ΔQ=Q2−Q1を求める。すなわち、このΔQは、計量値を50から100に変えたときの、実射出量の変化量である。
【0051】
従って、樹脂流路15における溶融樹脂の安定流動期の流量Qは、ΔQをΔtで除することによって求めることができる(Q=ΔQ/Δt)。なお、実射出量Q1,Q2は、加熱シリンダ1側の溶融樹脂量の射出前後での変化量から求めることもできる。
【0052】
以上のように、本実施形態では、測定ブロック14を射出成形機に取り付けて溶融樹脂の粘度を測定するから、該射出成形機の機差を包含した粘度データが得られる。その測定ブロック14に形成された樹脂流路15は扁平断面であって樹脂流出口15bが外部に開放されているから、高せん断流動下の樹脂粘度が得られ、しかも、長繊維入り溶融樹脂であっても、目詰まりを招くことなく、その粘度を測定することができるようになる。また、溶融樹脂の安定流動期の流量Qを用いて粘度を求めるから、その粘度データの信頼性が高くなる。このため、本実施形態によれば、実機に即した射出成形シミュレーションを行なう上で有利になる。
【0053】
<実施形態2>
本実施形態については図8乃至図10に示している。先の実施形態では入れ子式にすることによって、樹脂材料の種類に応じて異なる扁平断面の樹脂流路を形成するようにしたが、本実施形態は、測定ブロック41に扁平断面の幅又は高さが異なる複数の樹脂流路42〜45を形成しておき、それらの中から樹脂材料の種類に適した樹脂流路を選択して粘度測定に使用するようにした。以下、具体的に説明する。
【0054】
図8において、46は図1の固定盤4に取り付ける固定型、47は図1の可動盤6に取り付ける可動型である。この固定型46と可動型47によって測定ブロック41が形成されている。この測定ブロック41は、型合わせ面が上下に広がった(型締め方向に対して垂直になった)縦割り式である。実施形態1と同じく、固定型46には固定側取付板48が設けられ、可動型47には可動側取付板49が設けられている。固定側取付板48にロケートリング48aが設けられている。
【0055】
固定側取付板48にスプル51が設けられ、固定型46の本体部にスプル51から可動型47に向かって延びる第1ランナ52が設けられている。そして、固定型46と可動型47との間に、型締めによって、第2ランナ53、第3ランナ54及び各樹脂流路が形成されるようになっている。第2ランナ53、第3ランナ54及び各樹脂流路は、可動型47に対応する凹部を形成することによって形成されている。また、固定型46及び可動型47には、各樹脂流路の温度を調整する温度調整手段としてのヒータ55,56が設けられている。
【0056】
図9に第2ランナ53、第3ランナ54及び樹脂流路42〜45の具体的な構成が示されている。すなわち、第2ランナ53は第1ランナ52に続いて上方に延び、第2ランナ53の上端より第3ランナ54が両側に分かれて延びている。そして、両側の第3ランナ54からゲート(樹脂流入口)42a〜45aを介して各々扁平断面の樹脂流路42〜45が下方に延び、樹脂流出口42b〜45bが下方に開口している。樹脂流路42〜45は、扁平断面の幅及び高さの少なくとも一方が互いに異なる。
【0057】
図10に示すように、第2ランナ53の上端には両側の第3ランナ54に対して択一的に溶融樹脂を流入させる流路選択弁(流路切換弁)57が設けられている。また、各ゲート42a〜45aには、該ゲートを開閉する流路選択弁(開閉弁)58〜61が設けられている。また、図9及び図10では図示を省略しているが、固定型46には、図8に示すように、各樹脂流路42〜45を流れる溶融樹脂の圧力勾配を検出するための圧力センサ25,26が設けられ、両圧力センサ25,26間には、樹脂流路15を流れる溶融樹脂の温度を検出する温度センサ27が配置されている。なお、図8及び図9では流路選択弁57〜61の図示を省略している。
【0058】
従って、本実施形態によれば、流路選択弁57の切り換え及び流路選択弁58〜61の開閉作動によって、複数の樹脂流路42〜45から溶融樹脂を流入させる樹脂流路を簡単に選択することができる。すなわち、射出成形に使用する樹脂特性に応じた最適な樹脂流路を選択して粘度測定を行なうことができる。また、測定ブロック41は、実施形態1の固定型12と可動型13とを上下に配置して固定盤4側から可動盤6側に向かって下り勾配に傾斜した樹脂流路15を形成する勾配式とは違って、縦割り式であるから、型締め力を強くすることができ、溶融樹脂の洩れ防止に有利になる。
【0059】
<実施形態3>
本実施形態については図11及び図12に示している。本実施形態は測定ブロック71を縦割り式且つ入れ子式にした点に特徴がある。図11において、72は図1の固定盤4に取り付ける固定型、73は図1の可動盤6に取り付ける可動型である。この固定型72と可動型73によって測定ブロック71が形成されている。この測定ブロック71は、型合わせ面が型締め方向に対して垂直になった縦割り式である。実施形態1と同じく、固定型72には固定側取付板74が設けられ、可動型73には可動側取付板75が設けられている。固定側取付板74にロケートリング74aが設けられている。
【0060】
可動型73は、可動型本体76と、該可動型本体76に着脱自在に設けられた入れ子77とを備えてなる。図12にも示すように、入れ子77には流路溝78が形成されており、該流路溝78と固定型72とによって、上下方向に延びる扁平断面の樹脂流路79が形成されている。樹脂流路79の上端の樹脂流入口79aに固定型72を貫通するランナ81が接続され、該ランナ81に固定側取付板74に形成されたスプル82に接続され、樹脂流路79の他端の樹脂流出口79bは測定ブロック71の下方に開放されている。
【0061】
固定型72及び可動型73には、樹脂流路79の温度を調整する温度調整手段としてのヒータ23,24が設けられている。さらに、固定型72には、樹脂流路長手方向に間隔をおいて2箇所に、樹脂流路79を流れる溶融樹脂の圧力勾配を検出するための圧力センサ25,26が設けられ、両圧力センサ25,26間に樹脂流路79を流れる溶融樹脂の温度を検出する温度センサ27が設けられている。また、可動型73には、樹脂流路79の上流端部(所謂コールドスラグウェルに相当する部分)で溶融樹脂の温度を検出する温度センサ28が設けられている。
【0062】
従って、本実施形態によれば、実施形態1と同様に、入れ子77の交換によって断面形状が異なる樹脂流路を測定ブロック71に形成することができる。入れ子式であるから、センサ類25〜27は各入れ子に共用することができ、実施形態2の流路選択式に比べてセンサ数を少なくすることができ、また、縦割り式であるから、型締め力を強くすることができ、溶融樹脂の洩れ防止に有利になる。
【0063】
なお、本発明がインラインスクリュー式に限らず、プランジャ式、プランジャプリプラ式、スクリュープリプラ式など各種の射出成形機に適用できることはもちろんである。
【符号の説明】
【0064】
1 加熱シリンダ
1a 射出ノズル
4 固定盤
5 型締め装置
6 可動盤
11 樹脂粘度測定装置
12,46,72 固定型
13,47,73 可動型
14,41,71 測定ブロック
15 樹脂流路
15a 樹脂流入口
15b 樹脂流出口
18 可動型本体
19,77 入れ子
23,24,
55,56 ヒータ(温度調整手段)
25,26 圧力センサ
27,28 温度センサ
42〜45 樹脂流路
42a〜45a ゲート(樹脂流入口)
42b〜45b 樹脂流出口
57〜61 流路選択弁
79 樹脂流路
79a 樹脂流入口
79b 樹脂流出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融樹脂を流入させる樹脂流入口と、開放された樹脂流出口とを有し、内部に樹脂流路が形成された測定ブロックを、射出成形機に対して、その固定盤と型締め用の可動盤とによって取り付け、
上記射出成形機の射出ノズルから射出される溶融樹脂を上記樹脂流入口から上記樹脂流路に流入させ、
上記樹脂流路を流れる溶融樹脂の圧力勾配と流量とに基いて、該溶融樹脂の粘度を求めることを特徴とする樹脂粘度測定方法。
【請求項2】
請求項1において、
上記樹脂流路は扁平断面であることを特徴とする樹脂粘度測定方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
上記射出成形機の射出速度を一定とし且つ計量値を変えて少なくとも2回、上記樹脂流路に溶融樹脂を射出し、上記計量値の変化に伴う、実際に上記噴射ノズルから射出された溶融樹脂量の変化量と、上記計量値の変化に伴う、溶融樹脂が上記樹脂流路を所定の安定度をもって流れる安定流動期間の変化量とに基いて、上記溶融樹脂の粘度測定のための上記流量を求めることを特徴とする樹脂粘度測定方法。
【請求項4】
射出成形機の固定盤に取り付ける固定型と、型締め用の可動盤に取り付ける可動型とによって構成される測定ブロックを備え、
上記固定型と可動型との間に、該固定型と可動型との型締めによって、上記射出成形機の射出ノズルから射出される溶融樹脂を流入させる樹脂流入口と、開放された樹脂流出口とを有する樹脂流路が形成されるものであり、
上記測定ブロックに、上記樹脂流路を流れる溶融樹脂の粘度を求めるための圧力勾配を検出する圧力センサと、該溶融樹脂の温度を検出する温度センサと、上記樹脂流路の温度を調整する温度調整手段とが設けられていることを特徴とする樹脂粘度測定装置。
【請求項5】
請求項4において、
上記樹脂流路は扁平断面であることを特徴とする樹脂粘度測定装置。
【請求項6】
請求項4又は請求項5において、
上記可動型として、上記可動盤に取り付ける可動型本体と、上記固定型との間に流路断面形状が異なる樹脂流路を択一的に形成するための、上記可動型本体に着脱自在な複数の入れ子とを備えていることを特徴とする樹脂粘度測定装置。
【請求項7】
請求項4又は請求項5において、
上記固定型と可動型との間に型締めによって流路断面形状が異なる複数の樹脂流路が形成され、
上記固定型に上記複数の樹脂流路から粘度測定に使用する樹脂流路を選択するための流路選択弁が設けられていることを特徴とする樹脂粘度測定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2011−163873(P2011−163873A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−25819(P2010−25819)
【出願日】平成22年2月8日(2010.2.8)
【出願人】(591079487)広島県 (101)