説明

樹脂組成物、及びそれからなる成形体

【課題】良好な成形性で光反射体に成形することが可能であり、しかも、熱の影響による光反射率の低下が起こり難い光反射体を与えることができるLED光反射体用の材料を提供する。
【解決手段】多環式ノルボルネン系単量体由来の繰り返し単位を有する環状オレフィン開環重合体を、酸化ケイ素及び/又は酸化マグネシウムを主成分として含み、酸化アルミニウム含有割合が5重量%以下である無機酸化物存在下、均一系ルテニウム触媒を用いて水素化して得られる結晶性の環状オレフィン開環重合体水素添加物100重量部と、前記無機酸化物0.5〜8重量部とを含有する樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
LED(発光ダイオード:Light Emitting Diode)は、電気エネルギーを直接光に変換して発光することからエネルギー効率が良好で、しかも、白熱電球や蛍光灯などに比して、長寿命で小型軽量化が可能であるという特徴を有する光源である。そのため、携帯電話などの電子機器のバックライトや道路交通表示板の光源などとして広く利用されている。さらに、近年の青色LEDや白色LEDの開発に伴い、白熱電球や蛍光灯に代わる一般照明器具や大型液晶表示装置のバックライトの光源としても利用されている。
【0002】
LEDは、一般的に、発光素子である半導体チップ、それを保護する封止材及び光の方向を調整するための光反射体により構成される。光反射体は、半導体チップが発光した光を反射して、光を必要な方向に集める目的で使用され、LEDの輝度向上を果たすために重要な部材である。
【0003】
LEDを構成するために用いられる光反射体(LED光反射体)には、高い光反射率が求められ、さらには、光反射体の成形時(溶融成形のための加熱など)、LEDの製造時(封止材の硬化のための加熱やハンダ付けなど)及びLEDの使用時(半導体チップの放熱)などに生じる熱の影響を受けても光反射率の低下が起こり難いことが求められる。そのため、LED光反射体の材料としては、例えば、特許文献1や特許文献2に記載されるような、耐熱性に優れるポリアミド樹脂に、酸化チタンなどの白色顔料を配合してなる組成物が広く用いられている。
【0004】
しかしながら、ポリアミド樹脂を用いた組成物により構成した光反射体であっても、未だその耐熱性が十分でなく、光反射体の成形時、LEDの製造時及びLEDの使用時に生じる熱によって、光反射率が低下してしまう場合があった。また、ポリアミド樹脂に酸化チタンなどの白色顔料を配合してなる組成物は、その成形のために高い温度が必要であり、しかも、溶融時の粘度が高いことから、光反射体への成形に困難を伴うという問題もあった。そのため、光反射体を良好な成形性で与えることができ、しかも、熱の影響による光反射率の低下が起こり難い光反射体を与える材料が強く求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2−288274号公報
【特許文献2】特開2006−257314号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、良好な成形性で光反射体に成形することが可能であり、しかも、熱の影響による光反射率の低下が起こり難い光反射体を与えることができるLED光反射体用の材料を提供することを目的とする。
【0007】
かかる従来技術のもと、本発明者らは結晶性の環状オレフィン開環重合体水素添加物が、耐熱性の高い光反射体を与えること(特願2010−200353号)、さらに核剤を配合することで、結晶化を促進し、より高い耐熱性を実現すること(特願2010−275702号)を見いだしている。
【0008】
そして、さらに本発明者らが鋭意検討を行った結果、核剤としてある種の無機酸化物を選択した場合、多環式ノルボルネン系単量体由来の繰り返し単位を有する環状オレフィン開環重合体のルテニウム触媒を用いた水素化を、核剤存在下で行うと、核剤不存在下で水素化した後の環状オレフィン開環重合体水素添加物に、核剤を添加するより、核剤の量が両者同量で比較すると、高温条件下であってもその優れた光反射率の低下が抑制される上、変形が起こりにくい材料が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かくして本発明によれば、
多環式ノルボルネン系単量体由来の繰り返し単位を有する環状オレフィン開環重合体を、酸化ケイ素及び/又は酸化マグネシウムを主成分として含み、酸化アルミニウム含有割合が5重量%以下である無機酸化物存在下、均一系ルテニウム触媒を用いて水素化して得られる結晶性の環状オレフィン開環重合体水素添加物100重量部と、前記無機酸化物0.5〜8重量部とを含有する樹脂組成物が提供される。
前記無機酸化物の酸化ケイ素と酸化マグネシウムとの合計量の含有割合が50重量%以上であるのが好ましく、90重量%以上であるのがより好ましい。
前記無機酸化物が、タルク又は酸化マグネシウムであるのが好ましい。
また、本発明によれば、上述した樹脂組成物からなる光学成形体が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に用いる結晶性の環状オレフィン開環重合体水素添加物(以下、単に「環状オレフィン開環重合体水素添加物」ということがある)は、多環式ノルボルネン系単量体由来の繰り返し単位を有する環状オレフィン開環重合体を、酸化ケイ素及び/又は酸化マグネシウムを主成分として含み、酸化アルミニウム含有割合が5重量%以下である無機酸化物無機物質存在下で均一系ルテニウム触媒を用いて水素化したものである。
多環式ノルボルネン系単量体由来の繰り返し単位を有する結晶性の環状オレフィン開環重合体水素添加物を得る方法は、特に限定されるものではないが、例えば特開2006−52333号公報に記載されるような方法により、多環式ノルボルネン系単量体を少なくとも単量体の一部として用いて開環重合を行い、シンジオタクチック立体規則性を有する環状オレフィン開環重合体を得て、それを水素化する方法が好適である。以下、シンジオタクチック立体規則性を有することに基づいて結晶性を有する、多環式ノルボルネン系単量体由来の繰り返し単位を有する結晶性の環状オレフィン開環重合体水素添加物について説明する。
【0011】
多環式ノルボルネン系単量体由来の繰り返し単位を有する結晶性の環状オレフィン開環重合体水素添加物を得るために用いられる環状オレフィン開環重合体は、多環式ノルボルネン系単量体を少なくとも単量体の一部として用いて得ることができる。多環式ノルボルネン系単量体は、分子内に、ノルボルネン骨格と、そのノルボルネン骨格に縮合した1つ以上の環構造を有するノルボルネン系化合物であればよい。樹脂組成物から得られる成形体の耐熱性を特に良好なものとする観点からは、多環式ノルボルネン系単量体として、下記の式(1)又は式(2)で表される化合物を用いることが特に好ましい。
【0012】
【化1】

【0013】
(式中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子;ハロゲン原子;置換基を有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基;又はケイ素原子、酸素原子もしくは窒素原子を含む置換基;を表し、互いに結合して環を形成していてもよい。Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜20の二価の炭化水素基である。)
【0014】
【化2】

【0015】
(式中、R〜Rはそれぞれ独立に水素原子;ハロゲン原子;置換基を有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基;又はケイ素原子、酸素原子もしくは窒素原子を含む置換基;を表し、RとRは互いに結合して環を形成していてもよい。mは1又は2である。)
【0016】
式(1)で表される多環式ノルボルネン系単量体の具体例としては、ジシクロペンタジエン、メチルジシクロペンタジエン、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−8−エン、テトラシクロ[9.2.1.02,10.03,8]テトラデカ−3,5,7,12−テトラエン(1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロ−9H−フルオレンともいう)、テトラシクロ[10.2.1.02,11.04,9]ペンタデカ−4,6,8,13−テトラエン(1,4−メタノ−1,4,4a,9,9a,10−ヘキサヒドロアントラセンともいう)を挙げることができる。
【0017】
また、式(2)で表される多環式ノルボルネン系単量体としては、式(2)のmが1である場合のテトラシクロドデセン類と、式(2)のmが2である場合のヘキサシクロヘプタデセン類を挙げることができる。テトラシクロドデセン類の具体例としては、テトラシクロドデセン、8−メチルテトラシクロドデセン、8−エチルテトラシクロドデセン、8−シクロヘキシルテトラシクロドデセン、8−シクロペンチルテトラシクロドデセンなどの無置換又はアルキル基を有するテトラシクロドデセン類;8−メチリデンテトラシクロドデセン、8−エチリデンテトラシクロドデセン、8−ビニルテトラシクロドデセン、8−プロペニルテトラシクロドデセン、8−シクロヘキセニルテトラシクロドデセン、8−シクロペンテニルテトラシクロドデセンなどの環外に二重結合を有するテトラシクロドデセン類;8−フェニルテトラシクロドデセンなどの芳香環を有するテトラシクロドデセン類;8−メトキシカルボニルテトラシクロドデセン、8−メチル−8−メトキシカルボニルテトラシクロドデセン、8−ヒドロキシメチルテトラシクロドデセン、8−カルボキシテトラシクロドデセン、テトラシクロドデセン−8,9−ジカルボン酸、テトラシクロドデセン−8,9−ジカルボン酸無水物などの酸素原子を含む置換基を有するテトラシクロドデセン類;8−シアノテトラシクロドデセン、テトラシクロドデセン−8,9−ジカルボン酸イミドなどの窒素原子を含む置換基を有するテトラシクロドデセン類;8−クロロテトラシクロドデセンなどのハロゲン原子を含む置換基を有するテトラシクロドデセン類;8−トリメトキシシリルテトラシクロドデセンなどのケイ素原子を含む置換基を有するテトラシクロドデセン類を挙げることができる。
【0018】
ヘキサシクロヘプタデセン類の具体例としては、ヘキサシクロヘプタデセン、12−メチルヘキサシクロヘプタデセン、12−エチルヘキサシクロヘプタデセン、12−シクロヘキシルヘキサシクロヘプタデセン、12−シクロペンチルヘキサシクロヘプタデセンなどの無置換又はアルキル基を有するヘキサシクロヘプタデセン類;12−メチリデンヘキサシクロヘプタデセン、12−エチリデンヘキサシクロヘプタデセン、12−ビニルヘキサシクロヘプタデセン、12−プロペニルヘキサシクロヘプタデセン、12−シクロヘキセニルヘキサシクロヘプタデセン、12−シクロペンテニルヘキサシクロヘプタデセンなどの環外に二重結合を有するヘキサシクロヘプタデセン類;12−フェニルヘキサシクロヘプタデセンなどの芳香環を有するヘキサシクロヘプタデセン類;12−メトキシカルボニルヘキサシクロヘプタデセン、12−メチル−12−メトキシカルボニルヘキサシクロヘプタデセン、12−ヒドロキシメチルヘキサシクロヘプタデセン、12−カルボキシヘキサシクロヘプタデセン、ヘキサシクロヘプタデセン12,13−ジカルボン酸、ヘキサシクロヘプタデセン12,13−ジカルボン酸無水物などの酸素原子を含む置換基を有するヘキサシクロヘプタデセン類;12−シアノヘキサシクロヘプタデセン、ヘキサシクロヘプタデセン12,13−ジカルボン酸イミドなどの窒素原子を含む置換基を有するヘキサシクロヘプタデセン類;12−クロロヘキサシクロヘプタデセンなどのハロゲン原子を含む置換基を有するヘキサシクロヘプタデセン類;12−トリメトキシシリルヘキサシクロヘプタデセンなどのケイ素原子を含む置換基を有するヘキサシクロヘプタデセン類を挙げることができる。
【0019】
多環式ノルボルネン系単量体を用いて環状オレフィン開環重合体を得るにあたり、1種の多環式ノルボルネン系単量体を単独で用いてもよいし、2種以上の多環式ノルボルネン系単量体を組み合わせて用いることもできる。
【0020】
環状オレフィン開環重合体水素添加物の結晶性を高め、樹脂組成物から得られる成形体の耐熱性を特に良好なものとする観点からは、水素化反応に供する環状オレフィン開環重合体を得るための多環式ノルボルネン系単量体として、ジシクロペンタジエンを含むものを用いることが好ましく、用いる多環式ノルボルネン系単量体全体に対して50重量%以上のジシクロペンタジエンを含むものを用いることがより好ましく、ジシクロペンタジエンを単独で用いることが特に好ましい。
【0021】
また、多環式ノルボルネン系単量体には、エンド体及びエキソ体の立体異性体が存在するが、そのどちらも単量体として用いることが可能であり、一方の異性体を単独で用いてもよいし、エンド体及びエキソ体が任意の割合で存在する異性体混合物を用いることもできる。但し、環状オレフィン開環重合体水素添加物の結晶性を高め、樹脂組成物から得られる成形体の耐熱性を特に良好なものとする観点からは、一方の立体異性体の割合を高くすることが好ましく、例えば、エンド体又はエキソ体の割合が、80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが特に好ましい。なお、割合を高くする立体異性体は、合成容易性の観点から、エンド体であることが好ましい。
【0022】
環状オレフィン開環重合体を得るにあたっては、本発明を逸脱しない範囲において、多環式ノルボルネン系単量体に、多環式ノルボルネン系単量体以外の単量体を共重合させてもよい。多環式ノルボルネン系単量体と共重合できる単量体としては、ノルボルネン骨格に縮合した環構造を有しない2環のノルボルネン系化合物、モノ環状オレフィン、及び環状ジエン、ならびにこれらの誘導体を挙げることができる。
【0023】
ノルボルネン骨格に縮合した環構造を有しない2環のノルボルネン系化合物の具体例としては、ノルボルネン、5−メチルノルボルネン、5−エチルノルボルネン、5−ブチルノルボルネン、5−ヘキシルノルボルネン、5−デシルノルボルネン、5−シクロヘキシルノルボルネン、5−シクロペンチルノルボルネンなどの無置換又はアルキル基を有するノルボルネン類;5−エチリデンノルボルネン、5−ビニルノルボルネン、5−プロペニルノルボルネン、5−シクロヘキセニルノルボルネン、5−シクロペンテニルノルボルネンなどのアルケニル基を有するノルボルネン類;5−フェニルノルボルネンなどの芳香環を有するノルボルネン類;5−メトキシカルボニルノルボルネン、5−エトキシカルボニルノルボルネン、5−メチル−5−メトキシカルボニルノルボルネン、5−メチル−5−エトキシカルボニルノルボルネン、ノルボルネニル−2−メチルプロピオネイト、ノルボルネニル−2−メチルオクタネイト、5−ヒドロキシメチルノルボルネン、5,6−ジ(ヒドロキシメチル)ノルボルネン、5,5−ジ(ヒドロキシメチル)ノルボルネン、5−ヒドロキシ−i−プロピルノルボルネン、5,6−ジカルボキシノルボルネン、5−メトキシカルボニル−6−カルボキシノルボルネン、などの酸素原子を含む極性基を有するノルボルネン類;5−シアノノルボルネンなどの窒素原子を含む極性基を有するノルボルネン類;を挙げることができる。
【0024】
モノ環状オレフィンの具体例としては、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテンを挙げることができる。また、環状ジエンの具体例としては、シクロヘキサジエン、シクロヘプタジエンを挙げることができる。
【0025】
環状オレフィン開環重合体水素添加物の結晶性を高め、樹脂組成物から得られる成形体の耐熱性を特に良好なものとする観点からは、水素化反応に供する環状オレフィン開環重合体を得るための単量体として、用いる単量体全体に対して80重量%以上の多環式ノルボルネン系単量体を含むことが好ましく、用いる単量体が実質的に多環式ノルボルネン系単量体のみで構成されることが特に好ましい。
【0026】
シンジオタクチック立体規則性を有する環状オレフィン開環重合体水素添加物を得るためには、シンジオタクチック立体規則性を有する環状オレフィン開環重合体を水素化反応に供する必要がある。したがって、多環式ノルボルネン系単量体を開環重合するにあたっては、環状オレフィン開環重合体にシンジオタクチック立体規則性を与えることができる開環重合触媒を用いる必要がある。用いる開環重合触媒は、環状オレフィン開環重合体にシンジオタクチック立体規則性を与えることができるものであれば特に限定されないが、下記の式(3)で表される金属化合物を含んでなる開環重合触媒が好適である。
【0027】
【化3】

【0028】
(式中、Mは周期律表第6族の遷移金属原子から選択される金属原子であり、Nは窒素原子であり、Oは酸素原子であり、Rは3,4,5位の少なくとも1つの位置に置換基を有していてもよいフェニル基、又は−CH10で表される基であり、Rは置換基を有していてもよいアルキル基及び置換基を有していてもよいアリール基から選択される基であり、Xはハロゲン原子、アルキル基、アリール基及びアルキルシリル基から選択される基であり、Lは電子供与性の中性配位子であり、aは0又は1であり、bは0〜2の整数である。R10は水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基及び置換基を有していてもよいアリール基から選択される基である。)
【0029】
式(3)で表される金属化合物を構成する金属原子(式(3)中のM)は、周期律表第6族の遷移金属原子(クロム、モリブデン、タングステン)から選択される。中でも、モリブデン又はタングステンが好適に用いられ、タングステンが特に好適に用いられる。
【0030】
式(3)で表される金属化合物は、金属イミド結合を含んでなるものである。金属イミド結合を構成する窒素原子上の置換基(式(3)中のR)は、3,4,5位の少なくとも1つの位置に置換基を有していてもよいフェニル基、又は−CH10(但し、R10は水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基及び置換基を有していてもよいアリール基から選択される基である。)で表される基である。3,4,5位の少なくとも1つの位置に置換基を有していてもよいフェニル基が有しうる置換基としては、メチル基、エチル基などのアルキル基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基などのアルコキシ基;などが挙げられ、さらに、3,4,5位の少なくとも2つの位置に存在する置換基が互いに結合したものであってもよい。3,4,5位の少なくとも1つの位置に置換基を有していてもよいフェニル基の具体例としては、無置換フェニル基や、4−メチルフェニル基、4−クロロフェニル基、3−メトキシフェニル基、4−シクロヘキシルフェニル基、4−メトキシフェニル基などの一置換フェニル基;3,5−ジメチルフェニル基、3,5−ジクロロフェニル基、3,4−ジメチルフェニル基、3,5−ジメトキシフェニル基などの二置換フェニル基;3,4,5−トリメチルフェニル基、3,4,5−トリクロロフェニル基などの三置換フェニル基;2−ナフチル基、3−メチル−2−ナフチル基、4−メチル−2−ナフチル基などの置換基を有していてもよい2−ナフチル基;を挙げることができる。
【0031】
式(3)で表される金属化合物において、窒素原子上の置換基(式(3)中のR)として用いられ得る、−CH10で表される基において、R10は水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基及び置換基を有していてもよいアリール基から選択される基を表す。このR10で表される基となり得る、置換基を有していてもよいアルキル基の炭素数は、特に限定されないが、通常1〜20、好ましくは1〜10である。また、このアルキル基は直鎖状であっても分岐状であってもよい。このアルキル基が有し得る置換基は、特に限定されないが、例えば、フェニル基、4−メチルフェニル基などの置換基を有していてもよいフェニル基;メトキシ基、エトキシ基などのアルコキシル基;を挙げることができる。
【0032】
式(3)で表される金属化合物において、窒素原子上の置換基(式(3)中のR)として用いられ得る、置換基を有していてもよいアリール基としては、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、及びこれらの基の水素原子が他の置換基に置き換わってなるアリール基などが挙げられる。また、このアリール基の置換基としては、特に限定されないが、例えば、フェニル基、4−メチルフェニル基などの置換基を有していてもよいフェニル基;メトキシ基、エトキシ基などのアルコキシル基;を挙げることができる。
【0033】
10で表される基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基などの炭素数が1〜20のアルキル基が特に好適に用いられる。
【0034】
式(3)で表される金属化合物は、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基及びアルキルシリル基から選択される基を3個又は4個有してなる。すなわち、式(3)において、Xは、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基及びアルキルシリル基から選択される基を表す。なお、式(3)で表される金属化合物においてXで表される基が2以上あるとき、それらの基は互いに結合していてもよい。
【0035】
Xで表される基となり得るハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。また、アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ベンジル基、ネオフィル基などが挙げられる。アリール基としては、フェニル基、4−メチルフェニル基、2,6−ジメチルフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基などが挙げられる。アルキルシリル基としては、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基などが挙げられる。
【0036】
式(3)で表される金属化合物は、1個の金属アルコキシド結合又は1個の金属アリールオキシド結合を有するものであってもよい。この金属アルコキシド結合又は金属アリールオキシド結合を構成する酸素原子上の置換基(式(3)中のR)は、置換基を有していてもよいアルキル基及び置換基を有していてもよいアリール基から選択される基である。このRで表される基となり得る、置換基を有していてもよいアルキル基や置換基を有していてもよいアリール基としては、前述のR10で表される基におけるものと同様のものを用いることができる。
【0037】
式(3)で表される金属化合物は、1個又は2個の電子供与性の中性配位子を有するものであってもよい。この電子供与性の中性配位子(式(3)中のL)としては、例えば、周期律表第14族又は第15族の原子を含有する電子供与性化合物が挙げられる。その具体例としては、トリメチルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリフェニルホスフィンなどのホスフィン類;ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフランなどのエーテル類;トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ルチジンなどのアミン類;を挙げることができる。これらの中でも、エーテル類が特に好適に用いられる。
【0038】
シンジオタクチック立体規則性を有する環状オレフィン開環重合体を得るための開環重合触媒として、特に好適に用いられる式(3)で表される金属化合物としては、フェニルイミド基を有するタングステン化合物(式(3)中のMがタングステン原子で、かつ、Rがフェニル基である化合物)を挙げることができ、その中でも、テトラクロロタングステンフェニルイミド(テトラヒドロフラン)が特に好適である。
【0039】
式(3)で表される金属化合物は、第6族遷移金属のオキシハロゲン化物と、3,4,5位の少なくとも1つの位置に置換基を有していてもよいフェニルイソシアナート類、又は一置換メチルイソシアナート類と、電子供与性の中性配位子(L)、及び必要に応じてアルコール類、金属アルコキシド、金属アリールオキシドを混合することなど(例えば、特開平5−345817号公報に記載された方法)により合成することができる。合成された式(3)で表される金属化合物は、結晶化などにより精製・単離したものを用いてもよいし、精製することなく、触媒合成溶液をそのまま開環重合触媒として使用することもできる。
【0040】
開環重合触媒として用いる式(3)で表される金属化合物の使用量は、(金属化合物:用いる単量体全体)のモル比が、通常1:100〜1:2,000,000、好ましくは1:500〜1,000,000、より好ましくは1:1,000〜1:500,000でとなる量で用いる。触媒量が多すぎると触媒除去が困難となるおそれがあり、少なすぎると十分な重合活性が得られない場合がある。
【0041】
式(3)で表される金属化合物を開環重合触媒として用いるにあたっては、式(3)で表される金属化合物を単独で使用することもできるが、重合活性が高くする観点からは式(3)で表される金属化合物と有機金属還元剤とを併用することが好ましい。用いられ得る有機金属還元剤としては、炭素数1〜20の炭化水素基を有する周期律表第1、2、12、13、14族の有機金属化合物を挙げることができる。その中でも、有機リチウム、有機マグネシウム、有機亜鉛、有機アルミニウム、又は有機スズが好ましく用いられ、有機アルミニウム又は有機スズが特に好ましく用いられる。有機リチウムとしては、n−ブチルリチウム、メチルリチウム、フェニルリチウムなどを挙げることができる。有機マグネシウムとしては、ブチルエチルマグネシウム、ブチルオクチルマグネシウム、ジヘキシルマグネシウム、エチルマグネシウムクロリド、n−ブチルマグネシウムクロリド、アリルマグネシウムブロミドなどを挙げることができる。有機亜鉛としては、ジメチル亜鉛、ジエチル亜鉛、ジフェニル亜鉛などを挙げることができる。有機アルミニウムとしては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロリド、エチルアルミニウムセスキクロリド、エチルアルミニウムジクロリド、ジエチルアルミニウムエトキシド、ジイソブチルアルミニウムイソブトキシド、エチルアルミニウムジエトキシド、イソブチルアルミニウムジイソブトキシドなどを挙げることができる。有機スズとしては、テトラメチルスズ、テトラ(n−ブチル)スズ、テトラフェニルスズなどを挙げることができる。有機金属還元剤の使用量は、式(3)で表される金属化合物に対して、0.1〜100モル倍が好ましく、0.2〜50モル倍がより好ましく、0.5〜20モル倍が特に好ましい。使用量が少なすぎると重合活性が向上しない場合があり、多すぎると副反応が起こりやすくなるおそれがある。
【0042】
環状オレフィン開環重合体を得るための重合反応は、通常、有機溶媒中で行う。用いる有機溶媒は、目的とする開環重合体やその水素添加物が所定の条件で溶解もしくは分散させることが可能であり、重合反応や水素化反応を阻害しないものであれば、特に限定されない。有機溶媒の具体例としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジエチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、ビシクロヘプタン、トリシクロデカン、ヘキサヒドロインデン、シクロオクタンなどの脂環族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン系脂肪族炭化水素;クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどのハロゲン系芳香族炭化水素;ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリルなどの含窒素炭化水素系溶媒;ジエチルエ−テル、テトラヒドロフランなどのエ−テル類;又はこれらの混合溶媒を挙げることができる。これらの溶媒の中でも、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素、エーテル類が好ましく用いられる。
【0043】
開環重合反応は、単量体と、式(3)で表される金属化合物と、必要に応じて有機金属還元剤とを混合することにより開始することができる。これらの成分を添加する順序は、特に限定されない。例えば、単量体に式(3)で表される金属化合物と有機金属還元剤との混合物を添加して混合してもよいし、有機金属還元剤に単量体と式(3)で表される金属化合物との混合物を添加して混合してもよく、また、単量体と有機金属還元剤との混合物に式(3)で表される金属化合物を添加して混合してもよい。また、各成分を混合するにあたっては、それぞれの成分の全量を一度に添加してもよいし、複数回に分けて添加してもよく、比較的に長い時間(例えば1分間以上)にわたって連続的に添加することもできる。中でも、重合温度や得られる開環重合体の分子量を制御して、特に成形性に優れた樹脂組成物を得る観点からは、単量体又は式(3)で表される金属化合物を、複数回に分けて、又は連続的に、添加することが好ましく、単量体を、複数回に分けて、又は連続的に、添加することが特に好ましい。
【0044】
有機溶媒中の重合反応時における単量体の濃度は、特に限定されないが、1〜50重量%であることが好ましく、2〜45重量%であることがより好ましく、3〜40重量%が特に好ましい。単量体の濃度が低すぎると重合体の生産性が悪くなるおそれがあり、高すぎる場合は重合後の溶液粘度が高すぎて、その後の水素化反応が困難となる場合がある。
【0045】
重合反応系には、活性調整剤を添加してもよい。活性調整剤は、開環重合触媒の安定化、重合反応の速度及び重合体の分子量分布を調整する目的で使用することができる。活性調整剤は、官能基を有する有機化合物であれば特に制限されないが、含酸素、含窒素、含りん有機化合物が好ましい。具体的には、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、アニソール、フラン、テトラヒドロフランなどのエーテル類;アセトン、ベンゾフェノン、シクロヘキサノンなどのケトン類;エチルアセテートなどのエステル類;アセトニトリルベンゾニトリルなどのニトリル類;トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、キヌクリジン、N,N−ジエチルアニリンなどのアミン類;ピリジン、2,4−ルチジン、2,6−ルチジン、2−t−ブチルピリジンなどのピリジン類;トリフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリフェニルホスフェ−ト、トリメチルホスフェ−トなどのホスフィン類;トリフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリフェニルホスフェ−ト、トリメチルホスフェ−トなどのホスフィン類;トリフェニルホスフィンオキシドなどのホスフィンオキシド類;などが挙げられるが、これらに限定されない。これらの活性調整剤は、1種を単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。添加する活性調整剤の量は、特に限定されないが、通常、開環重合触媒として用いる金属化合物に対して0.01〜100モル%の間で選択すればよい。
【0046】
また、重合反応系には、開環重合体の分子量を調整するために分子量調整剤を添加してもよい。分子量調整剤としては、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどのα−オレフィン類;スチレン、ビニルトルエンなどの芳香族ビニル化合物;エチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、アリルグリシジルエーテル、酢酸アリル、アリルアルコール、グリシジルメタクリレートなどの酸素含有ビニル化合物;アリルクロライドなどのハロゲン含有ビニル化合物;アクリルアミドなどの窒素含有ビニル化合物;1,4−ペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、1,5−ヘキサジエン、1,6−ヘプタジエン、2−メチル−1,4−ペンタジエン、2,5−ジメチル−1,5−ヘキサジエンなどの非共役ジエン;1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエンなどの共役ジエン;を挙げることができる。添加する分子量調整剤の量は目的とする分子量に応じて決定すればよいが、通常、用いる単量体に対して、0.1〜50モル%の範囲で選択すればよい。
【0047】
重合温度は特に制限はないが、通常、−78℃〜+200℃の範囲であり、好ましくは−30℃〜+180℃の範囲である。重合時間は、特に制限はなく、反応規模にも依存するが、通常1分間から1000時間の範囲である。
【0048】
上述したような式(3)で表される金属化合物を含む開環重合触媒を用いて、上述したような条件で多環式ノルボルネン系単量体を含む単量体の開環重合反応を行うことにより、シンジオタクチック立体規則性を有する環状オレフィン開環重合体を得ることができる。水素化反応で重合体のタクチシチーが変化することはないので、このシンジオタクチック立体規則性を有する環状オレフィン開環重合体を水素化反応に供することにより、シンジオタクチック立体規則性を有することに基づいて結晶性を有する、多環式ノルボルネン系単量体由来の繰り返し単位を有する結晶性の環状オレフィン開環重合体水素添加物を得ることができる。
【0049】
水素化反応に供する環状オレフィン開環重合体におけるラセモ・ダイアッドの割合は、特に限定されないが、通常60%以上、好ましくは65%以上、より好ましくは70〜99%である。環状オレフィン開環重合体のラセモ・ダイアッドの割合(シンジオタクチック立体規則性の度合い)は、開環重合触媒の種類を選択することなどにより、調節することが可能である。
【0050】
水素化反応に供する環状オレフィン開環重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定した重量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、ポリスチレン換算で10,000〜100,000であることが好ましく、15,000〜80,000であることがより好ましい。このような重量平均分子量を有する環状オレフィン開環重合体から得られる結晶性の環状オレフィン開環重合体水素添加物を用いることによって、特に成形性と耐熱性とのバランスに優れた樹脂組成物を得ることができる。環状オレフィン開環重合体の重量平均分子量は、重合時に用いる分子量調整剤の添加量などを調節することにより、調節することができる。
【0051】
水素化反応に供する環状オレフィン開環重合体の分子量分布〔ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定したポリスチレン換算の数平均分子量と重量平均分子量との比(Mw/Mn)〕は、特に限定されないが、通常1.5〜4.0であり、好ましくは1.6〜3.5である。このような分子量分布を有する環状オレフィン開環重合体から得られる環状オレフィン開環重合体水素添加物を用いることによって、特に成形性に優れた樹脂組成物を得ることができる。環状オレフィン開環重合体水素添加物の分子量分布は、開環重合反応時における単量体の添加方法や単量体の濃度により、調節することができる。
【0052】
環状オレフィン開環重合体の水素化反応(主鎖二重結合の水素化)は、水素化触媒の存在下で、反応系内に水素を供給することにより行うことができる。水素化触媒は、オレフィン化合物の水素化に際して一般に均一系触媒として使用されているものであって、ルテニウム化合物であれば、特に制限されないが、例えば、次のようなものが挙げられる。
例えば、クロロヒドリドカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリジンルテニウム(IV)ジクロリド、ジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、ジクロロカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、クロロヒドリドカルボニルトリス(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウム、RuH(OCOPh)(CO)(PPh)、RuH(OCOPh-CH)(CO)(PPh)、RuH(OCOPh−C)(CO)(PPh)、RuH(OCOPh−C11)(CO)(PPh)、RuH(OCOPh−C17)(CO)(PPh)、RuH(OCOPh−OCH)(CO)(PPh)、RuH(OCOPh−OC)(CO)(PPh)、RuH(OCOPh)(CO)(P(c−C11))、RuH(OCOPh−NH)(CO)(PPh)などを挙げることができる。
【0053】
水素化反応は、酸化ケイ素及び/又は酸化マグネシウムを主成分として含み、酸化アルミニウム含有割合が5重量%以下である無機酸化物(以下、「特定の無機酸化物)ということがある)存在下で行う。ここで「酸化ケイ素及び/又は酸化マグネシウムを主成分として含む」とは、この無機酸化物中、酸化ケイ素と酸化マグネシウムの合計量が50重量%以上、好ましくは90重量%以上であることをいう。また、この無機酸化物中の酸化アルミニウムの含有量は5重量%以下、好ましくは1重量%以下である。
このような特定の無機酸化物としては、タルク、酸化ケイ素及び酸化マグネシウムなどが挙げられる。
本発明の製造方法においては、水素化する環状オレフィン開環重合体100重量部に対して、このような特定の無機酸化物存在下、好ましくは0.05〜8重量部、より好ましくは0.1〜8重量部存在させて水素化反応を進行させる。水素化反応の際に用いる特定の無機酸化物の量が0.5重量部に満たない場合、得られた環状オレフィン開環重合体水素添加物に、特定の無機酸化物を添加することになる。
【0054】
また、水素化反応は、通常、不活性有機溶媒中で行う。このような不活性有機溶媒としては、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素;ペンタン、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素;シクロヘキサン、デカヒドロナフタレンなどの脂環族炭化水素;テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類;などが挙げられる。不活性有機溶媒は、通常は、重合反応に用いる溶媒と同じでよく、重合反応液にそのまま水素化触媒を添加して反応させればよい。
【0055】
水素化反応は、使用する水素化触媒系によっても適する条件範囲が異なるが、反応温度は通常−20℃〜+250℃、好ましくは−10℃〜+220℃、より好ましくは0℃〜200℃である。水素化温度が低すぎると反応速度が遅くなりすぎる場合があり、高すぎると副反応が起こる場合がある。水素圧力は、通常0.01〜20MPa、好ましくは0.05〜15MPa、より好ましくは0.1〜10MPaである。水素圧力が低すぎると水素化速度が遅くなりすぎる場合があり、高すぎると高耐圧反応装置が必要となる点において装置上の制約が生じる。反応時間は所望の水素化率とできれば特に限定されないが、通常0.1〜10時間である。
【0056】
環状オレフィン開環重合体の水素化反応における水素化率(水素化された主鎖二重結合の割合)は、特に限定されないが、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上、最も好ましくは99%以上である。水素化率が高くなるほど、環状オレフィン開環重合体水素添加物の耐熱性が良好なものとなる。
【0057】
以上のようにして得られる、環状オレフィン開環重合体水素添加物は、下記の式(4)又は式(5)で表されるような多環式ノルボルネン系単量体由来の繰り返し単位を有するものである。
【0058】
【化4】

【0059】
(式中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子;ハロゲン原子;置換基を有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基;又はケイ素原子、酸素原子もしくは窒素原子を含む置換基;を表し、互いに結合して環を形成していてもよい。Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜20の二価の炭化水素基である。)
【0060】
【化5】

【0061】
(式中、R〜Rはそれぞれ独立に水素原子;ハロゲン原子;置換基を有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基;又はケイ素原子、酸素原子もしくは窒素原子を含む置換基;を表し、RとRは互いに結合して環を形成していてもよい。mは1又は2である。)
【0062】
また、以上のようにして得られる環状オレフィン開環重合体水素添加物では、水素化反応に供した開環重合体が有するシンジオタクチック立体規則性が維持される。したがって、以上のようにして得られる環状オレフィン開環重合体水素添加物は、シンジオタクチック立体規則性を有する。本発明に係る環状オレフィン開環重合体水素添加物におけるラセモ・ダイアッドの割合は、その水素添加物が結晶性を有する限りにおいて特に限定されないが、通常55%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは65〜99%である。このようなシンジオタクチック立体規則性を有する環状オレフィン開環重合体水素添加物を用いることにより、当該水素添加物を含む樹脂組成物から得られるLED光反射体が、熱の影響による光反射率の低下が特に起こり難い光反射体を与えることができるものとなる。なお、環状オレフィン開環重合体水素添加物のラセモ・ダイアッドの割合は、水素化反応に供する環状オレフィン開環重合体のラセモ・ダイアッドの割合に依存する。
【0063】
環状オレフィン開環重合体水素添加物のラセモ・ダイアッドの割合は、13C−NMRスペクトル分析で測定し、定量することができる。定量の方法は、重合体によっても異なるが、例えばジシクロペンタジエンの開環重合体水素添加物の場合、オルトジクロロベンゼン−d4を溶媒として、150℃で13C−NMR測定を行い、メソ・ダイアッド由来の43.35ppmのシグナルと、ラセモ・ダイアッド由来の43.43ppmのシグナルの強度比からラセモ・ダイアッドの割合を決定できる。
【0064】
本発明に係る上述してきた環状オレフィン開環重合体水素添加物は、結晶性を有するものである限りにおいて、その融点は特に限定されないが、200℃以上の融点を有することが好ましく、230〜290℃の融点を有することがより好ましい。このような融点を有する環状オレフィン開環重合体水素添加物を用いることによって、特に成形性と耐熱性とのバランスに優れた成形体を与える樹脂組成物を得ることができる。環状オレフィン開環重合体水素添加物の融点は、そのシンジオタクチック立体規則性の度合い(ラセモ・ダイアッドの割合)を調節したり、用いる単量体の種類を選択したりすることなどにより、調節することができる。
【0065】
本発明の樹脂組成物は、上述してきた特定の無機酸化物を含有する環状オレフィン開環重合体水素添加物であり、通常ペレット化された状態で提供される。樹脂組成物には、必要に応じて他の配合剤を混合していても良い。混合方法としては、重合体中に配合剤が十分に分散する方法であれば、特に限定されない。例えば、ミキサー、一軸混練機、二軸混練機、ロール、ブラベンダー、押出機などで樹脂を溶融状態で混練する方法、適当な溶剤に溶解して分散させて凝固法、キャスト法、又は直接乾燥法により溶剤を除去する方法などがある。
二軸混練機を用いる場合、混練後は、通常は溶融状態で棒状に押出し、ストランドカッターで適当な長さに切り、ペレット化して用いられることが多い。
また、特定の無機酸化物は、環状オレフィン開環重合体水素添加物の結晶化を促進する核剤としても機能するので、結晶性の環状オレフィン開環重合体水素添加物100重量部に対して特定の無機化合物の総量(水素化反応時に用いた量と核剤として後から添加する量との合計)が0.5重量部〜8重量部となる範囲において、添加することができる。特定の無機酸化物の量が少なすぎると、核剤としての機能が十分発揮されないため耐熱性の向上が見込めず、逆に多すぎると、反射率の耐熱安定性が低下する。
【0066】
樹脂組成物を、LED光反射体の製造に用いる場合、白色顔料を配合することができる。白色顔料としては、例えば、酸化チタン、鉛白、亜鉛華、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、塩基性硫酸鉛、リトポン、硫化亜鉛、チタン酸鉛、酸化ジルコニウム、バライト、炭酸バリウム、白亜、沈降性炭酸カルシウム、石コウ、炭酸マグネシウム、アルミナ、クレー、滑石粉、珪藻土を挙げることができる。白色顔料は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いることもできる。これらの白色顔料の中でも酸化チタンを用いることが好ましい。
【0067】
酸化チタンの種類は特に限定されず、ルチル型酸化チタン、アナターゼ型酸化チタンのいずれも使用することができるが、熱安定性の点でルチル型酸化チタンを用いることが特に好ましい。また、酸化チタンの形状も特に限定されず、球状、鱗片状、不定形などのいずれであってもよい。酸化チタンの平均粒径は、通常0.05〜5μm、好ましくは0.05〜1μm、さらに好ましくは0.1〜1μmである。このような平均粒径を有する酸化チタンを用いることにより、可視光の反射率が特に優れるLED光反射体を得ることができる。なお、酸化チタンの粒径とは、球状の場合は直径を指し、その他の場合は最長の両端間距離を指す。また、平均粒径は、電子顕微鏡(透過型(TEM)又は走査型(SEM))でいくつかの単一粒子径を測定し、平均した値である。
【0068】
LED光反射体の製造に用いる樹脂組成物における白色顔料の配合量は、得られる組成物の光反射率と成形性とのバランスを考慮して決定すればよく、特に限定されるものではないが、結晶性の環状オレフィン開環重合体水素添加物100重量部に対して、通常20〜100重量部、好ましくは25〜90重量部、より好ましくは30〜80重量部の範囲で選択される。
【0069】
LED光反射体の製造に用いる樹脂組成物は、結晶性の環状オレフィン開環重合体水素添加物及び白色顔料のみで構成してもよいし、さらに他の材料を配合して構成することもできる。LED光反射体の製造に用いる樹脂組成物に配合できる他の材料としては、酸化防止剤、核剤(上述した特定の無機酸化物を除く)、ガラス繊維などの充填剤、難燃剤、難燃助剤、白色顔料以外の着色剤、帯電防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、光安定剤、近赤外線吸収剤、滑剤(ワックス)、及び多環式ノルボルネン系単量体由来の繰り返し単位を有する結晶性の環状オレフィン開環重合体水素添加物以外の高分子材料を例示することができる。LED光反射体の製造に用いる樹脂組成物を、特に熱の影響による光反射率の低下が起こり難いものとする観点からは、これらの中でも、酸化防止剤を配合することが好ましい。
【0070】
酸化防止剤は、特に限定されず、例えば、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤を用いることができる。これらの中でも、フェノール系酸化防止剤を用いることが好ましい。
酸化防止剤の配合量は、特に限定されないが、結晶性の環状オレフィン開環重合体水素添加物100重量部に対して、通常0.001〜5重量部、好ましくは0.1〜3重量部の範囲で選択される。
【0071】
LED光反射体の製造に用いる樹脂組成物を調製するにあたっては、常法にしたがって、結晶性の環状オレフィン開環重合体水素添加物に白色顔料などを配合して混合すればよい。混合方法は特に限定されず、例えば一軸混練機や二軸混練機などを用いて溶融混練することにより行ってもよいし、ミキサーなどを用いてドライブレンドすることもできる。
【0072】
LED光反射体の光反射率(波長450nmの分光反射率、劣化前)は、特に限定されないが、80%以上であることが好ましく、85〜95%であることがより好ましい。LED光反射体の光反射率は、白色顔料の種類及び配合量により調節することが可能である。
【0073】
LED光反射体の製造に用いる樹脂組成物のメルトフローレート(280℃,2.16kgf)は、特に限定されないが、5〜150g/10分であることが好ましく、10〜100g/10分であることがより好ましい。樹脂組成物のメルトフローレートは、用いる結晶性の環状オレフィン開環重合体水素添加物の分子量や白色顔料の種類及び配合量により調節することが可能である。
【0074】
LED光反射体の製造に用いる樹脂組成物は、射出成形、押出成形、プレス成形、ブロー成形、カレンダー成形などの溶融成形法を適用することによって、LEDの半導体チップから発光される光を反射するための反射体(リフレクタ)に成形することができる。成形法は目的とするLED光反射体の形状などに応じて決定すればよいが、本発明の樹脂組成物が優れた成形性(溶融成形性)を有することから、量産性に優れる射出成形法を適用してLED光反射体に成形することが好ましい。
【0075】
本発明の樹脂組成物を用いて得られるLED光反射体は、例えば、大型液晶表示装置のバックライトの光源、照明器具、携帯電話などの小型電子機器の液晶ディスプレイのバックライトの光源、道路交通表示板などの電光表示板の光源として用いられるLEDの反射体として用いることができる。また、LED光反射体の形状は、その用途などに応じて適宜決定すればよく、必要に応じて、他の材料と組み合わせてLED光反射体を構成することもできる。LED光反射体を用いてLEDを構成する方法に制限はなく、常法にしたがって、LED光反射体に半導体チップや封止材を組み合わせればよい。
【実施例】
【0076】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。なお、各例中の部及び%は、特に断りのない限り、重量基準である。
【0077】
また、各例における測定や評価は、以下の方法により行った。
(1)環状オレフィン開環重合体の分子量(重量平均分子量及び数平均分子量) ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)システム HLC−8220(東ソー社製)で、Hタイプカラム(東ソー社製)を用い、テトラヒドロフランを溶媒として40℃で測定し、ポリスチレン換算値として求めた。
(2)環状オレフィン開環重合体水素添加物における水素化率
オルトジクロロベンゼン−d溶媒として、145℃でH−NMR測定により求めた。
(3)環状オレフィン開環重合体水素添加物の融点
示差走査熱量計を用いて、10℃/分で昇温して測定した。
(4)(ΔHm−ΔHc)/ΔHm
示差走査熱量計を用いて、成形体10mgをJIS K 7122に準じて、加熱速度を10℃/分で昇温した時のサーモグラムから、結晶融解熱量ΔHm(J/g)と結晶化熱量ΔHc(J/g)を求め、算出した。該数値の最大値は1.0であり、数値が大きいほど結晶化が進行していることを意味しており、0.9より小さいものでは、充分に結晶化が進行しておらず、寸法安定性が低下したり、はんだ耐熱性が不充分となり好ましくない。ここで該数値が、0.9以上のものを○、0.6以上0.9未満のものを△、0.6より小さいものを×とした。
(5)初期反射率
射出成形性の評価のために成形した平板について、日本電色工業社製分光式色差計(商品名「SE−2000」)を用い、標準白色板を標準試料として、450nm波長光の分光反射率を測定した。なお、射出成形性の評価において、初期反射率の測定に適さない平板しか得られなかった場合には、成形条件を変更して平板を作製し、欠点のない部分を選択して測定を行った。
(6)耐熱長期安定性試験後の反射率
初期反射率を測定した平板について、オーブンを用いた180℃×6時間の熱処理を行った後、初期反射率の測定法と同様の方法により450nm波長光の分光反射率を測定した。
(7)耐熱長期安定試験後の変形
初期反射率を測定した平板について、オーブンを用いた180℃×6時間の熱処理を行った後、成形体の寸法変形を確認した。変形のなかったものを○、0.2mm以上の反りが見られたものを×とした。
【0078】
〔合成例1〕
充分に乾燥した後、窒素置換したSUS製耐圧反応容器に、ジシクロペンタジエン(エンド体含有率99%以上)の70%シクロヘキサン溶液857.2部(ジシクロペンタジエンの量として600部)を仕込み、さらに、シクロヘキサン3,076部及び1−ヘキセン23.2部を加え、続いて、ジエチルアルミニウムエトキシドの19%n−ヘキサン溶液2部を加えて攪拌しながら、40℃に加温した。次いで、テトラクロロタングステンフェニルイミド(テトラヒドロフラン)錯体0.88部を11部のトルエンに溶解した溶液を加えて、開環重合反応を開始した。4時間後、0.4部のイソプロパノールを加えて、重合反応を停止した。得られた開環重合体の数平均分子量(Mn)及び重合平均分子量(Mw)は、それぞれ、21,900及び67,400であり、これから求められる分子量分布(Mw/Mn)は3.08であった。
【0079】
〔合成例2〕
充分に乾燥した後、窒素置換したSUS製耐圧反応容器に、合成例1で得られた開環重合体のシクロヘキサン溶液200部(開環重合体の量として30部)を加えて攪拌し、さらにクロロヒドリドカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム0.022部とタルク(含水珪酸マグネシウム、商品名「タルクMS」、日本タルク社製)0.3部をシクロヘキサン100部に加えた懸濁溶液を加えて、水素圧4.4MPa、160℃で5時間水素化反応を行った。得られた水素化反応液を多量のイソプロピルアルコールに注いでポリマーを完全に析出させ、ろ過により分離して回収した後、真空下80℃で20時間乾燥して、結晶性の環状オレフィン開環重合体水素添加物A、28部(収率93%)を得た。環状オレフィン開環重合体水素添加物Aの水素化率は99%以上、融点は262℃であった。
【0080】
〔実施例1〕
合成例2で得られた環状オレフィン開環重合体水素添加物A10部、酸化チタン(平均粒径0.2μmのルチル型酸化チタン、商品名「FTR−700」、堺化学工業社製;酸化アルミニウム量10ppm以下)5部、ガラス繊維(商品名「CSG 3PA−830」、日東紡社製)2部、ワックス(融点69℃、商品名「LUVAX(登録商標)1266」、日本精鑞社製)0.2部、酸化防止剤(テトラキス〔メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン、商品名「イルガノックス(登録商標)1010」、BASFジャパン社製)0.1部、を混合後、小型混練機(DSM Xplore製、Micro15Compounder)を用い290℃、1.67s−1、の条件で2分間混練してペレット化した。その後、小型射出成形機(Micro Injection Moulding Machine 10cc、DSM Xplore社製)で成形温度290℃、射出圧力0.7MPa、金型内保持時間10秒で、それぞれ金型温度を100℃で、縦70mm、横30mm、厚さ3mmの平板を成形した。得られた平板の初期反射率は91%であった。成形板の破片を、示差走査熱量計を用いてΔHm−ΔHc)/ΔHmを求め、耐熱長期安定性試験を行い、変形ないことを確認した。耐熱長期安定性試験後の反射率は89%であった。また、組成物の組成とそれぞれの評価結果は、表1にまとめて示した
【0081】
〔実施例2〕
合成例2における水素化反応時に添加するタルク(含水珪酸マグネシウム、商品名「タルクMS」、日本タルク社製;酸化アルミニウム量0.7%)の量を0.15部とし、また実施例1におけるペレット化の工程でもタルクを0.15部、酸化チタンやワックス等と同様に添加した以外は実施例1と同様にして、成形体を得て、その評価を行った。それぞれの評価結果は、表1に示す。
【0082】
〔実施例3、4〕
水素化反応時に加えるタルク(含水珪酸マグネシウム、商品名「タルクMS」、日本タルク社製)の量を表1に示す通りに変更した以外は合成例2と同様にして、結晶性の環状オレフィン開環重合体水素添加物を得て、その評価を行った。また、得られた開環重合体水素化物から、実施例1と同様にして成形体を得て、その評価を行った。それぞれの結果は表1にまとめて示す。
〔実施例5〕
水素化反応時に添加するタルク(含水珪酸マグネシウム、商品名「タルクMS」、日本タルク社製;酸化アルミニウム量0.7%)の量を0.06部とし、またペレット化時に添加するタルクの量を0.03部にした以外は実施例2と同様にして、成形体を得て、その評価を行った。それぞれの評価結果は、表1に示す。
【0083】
〔実施例6〕
水素化反応時に加えるタルクを酸化マグネシウム(商品名「パイロキスマ(登録商標)5Q」、協和化学工業社製)0.3部に変更した以外は合成例2と同様にして、結晶性の環状オレフィン開環重合体水素添加物を得て、その評価を行った。また、実施例1と同様にして成形体を得て、その評価を行った。それぞれの結果は表1にまとめて示す。
【0084】
〔比較例1〕
水素化反応時にタルク(含水珪酸マグネシウム、商品名「タルクMS」、日本タルク社製)を加えなかった以外は、合成例2と同様にして、結晶性の環状オレフィン開環重合体水素化物を得て、その評価を行った。この開環重合体水素化物を用いることと、開環重合体水素化物をペレット化する工程でタルク(含水珪酸マグネシウム、商品名「タルクMS」、日本タルク社製)0.1部を添加する以外は、実施例2と同様にして成形体を得て、その評価を行った。それぞれの評価結果は、表1にまとめて示す。
【0085】
〔比較例2〕
ペレット化の工程で添加するタルク(含水珪酸マグネシウム、商品名「タルクMS」、日本タルク社製)の量を0.8部に変更した以外は、比較例1と同様にして成形体を得て、その評価を行った。耐熱長期安定性試験後の成形体に0.3mmの反りがあった。結果は表1にまとめて示す。
【0086】
〔比較例3〕
水素化反応時にタルク(含水珪酸マグネシウム、商品名「タルクMS」、日本タルク社製)を0.06部に変更した以外は、合成例2と同様にして、結晶性の環状オレフィン開環重合体水素添加物を得て、その評価を行った。また、得られた開環重合体水素化物から、実施例1と同様にして成形体を得て、その評価を行った。耐熱長期安定性試験後の成形体に0.3mmの反りがあった。結果は表1にまとめて示す。
【0087】
〔比較例4〕
水素化反応時にタルク(含水珪酸マグネシウム、商品名「タルクMS」、日本タルク社製)を3部に変更した以外は、合成例2と同様にして、結晶性の環状オレフィン開環重合体水素添加物を得て、その評価を行った。また、得られた開環重合体水素化物から、実施例1と同様にして成形体を得て、その評価を行った。耐熱試験後の反射率が72%と11%落ちており、タルクの過剰添加は反射率を著しく低下させた。
【0088】
〔比較例5〕
水素化反応時にタルクの代わりに、合成ハイドロタルサイト(商品名「キョーワード(登録商標)700」、協和化学工業社製;酸化アルミニウム量10.5%)を加えた以外は、合成例2と同様にして、結晶性の環状オレフィン開環重合体水素化物を得た。しかし、水素化率が96%と水素化不良を引き起こした。得られた開環重合体水素化物から、実施例1と同様にして成形体を得て、その評価を行った。耐熱長期安定性試験後の成形体に0.8mmの反りがあった。結果は表1にまとめて示す。
【0089】
〔比較例6〕
水素化反応時にタルクの代わりに、活性アルミナ(商品名「NHKD−24HD」、住友化学工業社製)を加えた以外は、合成例2と同様にして、結晶性の環状オレフィン開環重合体水素化物を得た。しかし、水素化率が95%と水素化不良を引き起こした。得られた開環重合体水素化物から、実施例1と同様にして成形体を得て、その評価を行った。耐熱長期安定性試験後の成形体に0.9mmの反りがあった。結果は表1にまとめて示す。
【0090】
【表1】

【0091】
この結果から、以下のことがわかる。
多環式ノルボルネン系単量体由来の繰り返し単位を有する環状オレフィン開環重合体を水素化する際に、タルクを存在させた場合(実施例1、2)と、環状オレフィン開環重合体水素添加物にタルクを配合した場合(比較例1)とを比べると、同量のタルクであっても、耐熱長期安定性に差が出ることがわかる。
タルクの量が多い場合、環状オレフィン開環重合体水素添加物にタルクを配合すると、耐熱試験後の反射率が大幅に低下することがわかる(実施例3と比較例2)。
水素化反応時に添加するタルクの量が0.2部であっても、ペレット化時にタルクを追加して0.5部にすることで、水素化反応時に添加するタルクの量が0.5部である場合と同等の効果が得られることがわかる(実施例4、5、比較例3)。
また、タルクの添加量が多すぎると、耐熱長期安定性試験での反射率の低下が大きくなることがわかる(比較例4)。
更に、無機酸化物をタルクの代わりに酸化マグネシウムに変えても、タルクと同様の効果の得られることがわかる(実施例6)一方、タルクの代わりに、酸化アルミニウムの多いハイドロタルサイトや活性アルミナを用いると、耐熱長期安定性試験での反射率の低下が大きくなる上、耐熱試験後の変形も確認されることがわかる(比較例5、6)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多環式ノルボルネン系単量体由来の繰り返し単位を有する環状オレフィン開環重合体を、酸化ケイ素及び/又は酸化マグネシウムを主成分として含み、酸化アルミニウム含有割合が5重量%以下である無機酸化物存在下、均一系ルテニウム触媒を用いて水素化して得られる結晶性の環状オレフィン開環重合体水素添加物100重量部と、前記無機酸化物0.5〜8重量部とを含有する樹脂組成物。
【請求項2】
前記無機酸化物の酸化ケイ素と酸化マグネシウムとの合計量の含有割合が50重量%以上である請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記無機酸化物の酸化ケイ素と酸化マグネシウムとの合計量の含有割合が90重量%以上である請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記無機酸化物が、タルク又は酸化マグネシウムである請求項1又は2記載の樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜6のいずれかに記載の樹脂組成物を溶融成形して成るLED光反射体。

【公開番号】特開2013−56991(P2013−56991A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195657(P2011−195657)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】