説明

樹脂組成物

【課題】 本発明は、樹脂と特定のフラーレン類とを用いることにより、耐熱性を向上させた樹脂組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明は、樹脂と、フラーレン骨格部分の炭素数が70を超えるフラーレン類を1種以上含有するフラーレン類混合物と、を有することを特徴とする樹脂組成物を提供することにより上記目的を達成するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラーレン類を含有する耐熱性に優れた樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
1990年にC60の大量合成法が確立されて以来、フラーレンに関する研究が一層精力的に展開されるとともに、フラーレンの用途開発が望まれている。これら用途のうちでも、電気電子機器、自動車、建築資材、工業機械の部品など様々な製品へ応用される樹脂組成物への適用は、フラーレンの用途として大きく期待される分野の一つである。
【0003】
このような樹脂組成物としては、ポリブチレンテレフタレートやポリエチレンテレフタレートにC60やC70を含有させたもの(特許文献1)がある。また、ポリイミド樹脂にC60を含有させた報告がある(特許文献2)。さらに、PMMA(ポリメチルメタクリレート)とC60とからなる樹脂組成物に関する報告もある(非特許文献1及び非特許文献2)。
【特許文献1】特開平10−310709号公報(実施例)
【特許文献2】特開2001−98160号公報(実施例1、2)
【非特許文献1】B.B.Troitskii et.al "RETARDATION OF THERMAL DEGRADATION OF PMMA AND PVC BY C60", Eur. Polym. J. Vol.33, No10-12, pp. 1587-1590,1997(pp.1587 "Methods")
【非特許文献2】B.B.Troitskii, et.al "Inhibition of thermo-oxidative degradation of poly(methylmethacrylate) and polystyrene by C60", Europian Polymer Journal 36(2000) 1073-1084(pp.1074 "2.2. Methods", Fig.1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、フラーレン類を含有する樹脂組成物の耐熱性(熱安定性)のさらなる向上を試みて鋭意検討を行ってきた。樹脂組成物の耐熱性を向上させることは、電気電子機器、自動車、建築資材、工業機械のいずれの用途でも望まれることであり、フラーレン類を含有させた樹脂組成物で上記耐熱性の向上が達成できれば、これら樹脂組成物の用途が大きく開けるからである。
その結果、C60、C70、又はこれらの混合物と樹脂とを含有する樹脂組成物は、耐熱性(熱安定性)の向上を図ることができることがわかった。しかしながら、さらなる耐熱性の向上は、フラーレン類を用いた樹脂組成物の適用範囲をさらに広げることができるため、非常に望ましいことである。
【0005】
また、本発明者は、安価で実使用に適したフラーレン類を含有する樹脂組成物の開発を検討してきた。つまり、フラーレン類は一般には未だ高価な材料であり、このフラーレン類のコストも樹脂組成物へのフラーレン類の採用を妨げる一つの要因となっている。樹脂組成物の用途は電気電子機器から建設資材まで広範であるため、用途によっては比較的高いコストでも許容されるものもあるが、一般的にはコストをなるべく低く抑えたいのが実情である。
【0006】
このような実情のもと、本発明は、樹脂とフラーレン類とを含有する樹脂組成物の耐熱性をさらに向上させた安価な樹脂組成物を提供することを主目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、C60、C70のようにフラー
レン骨格を構成する炭素数が少ないフラーレン類よりも、フラーレン骨格を構成する炭素数が多いフラーレン類を用いることにより、フラーレン類と樹脂とを含有する樹脂組成物の耐熱性(熱安定性)を飛躍的に向上させることができることを見出した。
一方、フラーレン骨格を形成する炭素数の多いフラーレン類を製造する場合、通常、複数種類のフラーレン類を含有するフラーレン類混合物が得られるのが通常である。従って、耐熱性の向上を考える場合、フラーレン骨格に所望の炭素数を有するフラーレン類を上記フラーレン類混合物から単離し、この高純度のフラーレン類を用いることが理想である。しかし、上記単離工程は、単なる工程数の増加に留まらず、フラーレン類製造のコストを上昇させる要因となる。
本発明においては、上記高純度のフラーレン類を用いる必要はなく(単離工程を必須としない)、フラーレン骨格の炭素数が所定の数であるフラーレン類と他のフラーレン類との混合物を用いた場合においても十分な耐熱性を得ることができることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は、樹脂と、フラーレン骨格部分の炭素数が70を超えるフラーレン類を1種以上含有するフラーレン類混合物と、を有することを特徴とする樹脂組成物に存する。
【発明の効果】
【0009】
フラーレン骨格部分の炭素数が70を超えるフラーレン類を1種以上含有するフラーレン類混合物と樹脂とを含有する樹脂組成物とすることにより、樹脂組成物の耐熱性が大きく向上する。さらに、フラーレン骨格部分の炭素数が70を超えるフラーレン類を1種以上含有するフラーレン類混合物は、その製造においてフラーレン類の単離が必須とならない。このため、コストを低く抑えた安価な樹脂組成物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0011】
本発明の樹脂組成物は、樹脂と、フラーレン骨格部分の炭素数が70を超えるフラーレン類を1種以上含有するフラーレン類混合物と、を有することを特徴とする。以下、上記特定のフラーレン類、樹脂等について説明する。
1.フラーレン類混合物
本発明において「フラーレン類」としては、通常、
(イ)フラーレン
(ロ)フラーレン誘導体、フラーレンを有する錯体、金属内包フラーレン(メタロフラーレン)等のフラーレン骨格を有する物質
(ハ)フラーレン類が有する球殻構造同士が直接又は少なくとも1つの原子を介して結合した状態にある複数のフラーレン骨格を分子内に有するフラーレン類、
(ニ)上記(イ)、(ロ)、(ハ)のフラーレン類を任意に混合したもの
を挙げることができる。
ここで、フラーレンとは炭素のみから構成される球殻状又は略球殻状分子を指し、フラーレン骨格とは炭素で構成される球殻構造又は略球殻状の構造をいう。なお、上記球殻状又は略球殻状分子及び上記球殻構造又は略球殻状の構造においては、これを構成する炭素の一部が欠損していてもよい。
そして、「フラーレン骨格部分の炭素数が70を超えるフラーレン類」とは、フラーレン骨格を構成する球殻構造又は略球殻構造(当然ながらこの球殻構造又は略球殻構造を構成する炭素の一部は欠損してもよい)の炭素数の合計が70よりも多いことをいう。
フラーレン骨格部分の炭素数は、好ましくは74以上、より好ましくは76以上、さらに好ましくは84以上である。この範囲内にすれは、樹脂組成物の耐熱性を飛躍的に向上させることができるようになる。
一方、フラーレン骨格部分の炭素数は、通常240以下、好ましくは100以下、より好ましくは96以下とする。この範囲にすれば、溶媒に良好に分散または溶解し、樹脂組成物の製造を容易にすることができ、また、フラーレン類としてフラーレン誘導体を用いる場合にはフラーレン骨格に付与した官能基に起因する樹脂組成物の物性低下を低減することができる。
本発明においては、フラーレン骨格部分の炭素数が70を超えるフラーレン類を1種以上用いる。これは、フラーレン類を工業生産する場合、骨格部分の炭素数が一種類のみのフラーレン類を製造することは困難であり、実質的には、フラーレン骨格部分の炭素数を複数有するフラーレン類の混合物が製造されるからである。なお、製造された上記フラーレン類を、骨格部分の炭素数が1種類のフラーレン類のみに単離することは不可能ではないが、このような単離工程は複雑で困難な上、工程数の増加による生産性の低下、及びコストの増加を招くこととなる。本発明においては、フラーレン骨格部分の炭素数が70を超えるフラーレン類を1種類以上含有するフラーレン類混合物を用いればよく、このフラーレン類混合物から、上記フラーレン骨格部分の炭素数が70を超えるフラーレン類以外のフラーレン類を取り除く必要はない(複雑な単離工程が必要とならない)。このため、製造コストを低く抑えることができる利点がある。
フラーレン骨格部分の炭素数が70を超えるフラーレン類を含有するフラーレン類混合物を製造する場合、上記フラーレン骨格部分の炭素数が70を超えるフラーレン類は通常1種類以上含有される。より工業的に得やすい方法においては、2種類以上(場合によっては、3種類以上又は4種類以上)含有されるのが通常である。
上記フラーレン類混合物には、フラーレン骨格部分の炭素数が70を超えるフラーレン類が1種類以上含有されていればよい。このため、フラーレン類混合物に、フラーレン骨格部分の炭素数が70を超えるフラーレン類以外のフラーレン類(C60やC70のような、フラーレン骨格部分の炭素数が70以下のフラーレン類)が含有されていてもよいことはいうまでもない。
フラーレン類混合物中におけるフラーレン骨格部分の炭素数が70を超えるフラーレン類の含有量は、通常0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは0.2重量%以上、さらに好ましくは1重量%以上、特に好ましくは5重量%以上、最も好ましくは10重量%以上となる。一方、フラーレン類混合物中におけるフラーレン骨格部分の炭素数が70を超えるフラーレン類の含有量は、通常99.9重量%以下、好ましくは99重量%以下、より好ましくは98重量%以下、さらに好ましくは97重量%以下となる。この範囲とすると、樹脂組成物の耐熱性を良好に向上させることができるようになる。
【0012】
以下、本発明に用いるフラーレン骨格部分の炭素数が70を超えるフラーレン類の具体例について説明する。
このようなフラーレン類としてフラーレンを用いる場合、通常、C74、C76、C78、C80、C82、C84、C86、C88、C90、C92、C94、C96、C98、C100等又はこれら化合
物の2量体、3量体等が用いられる。
これらフラーレンのうち、工業的に得やすい点から好ましいのは、C76、C78、C82、C84、C86、C88、C90、C94、C96、C98、及びC100からなる群から選ばれる少なく
とも1つである。工業的に得やすい点から特に好ましいのは、C76、C78、及びC84からなる群から選ばれる少なくとも1つである。
【0013】
フラーレン類混合物においては、C84を含有する混合物とすることが好ましく、C78及びC84を含有する混合物とすることがより好ましく、C76、C78、及びC84を含有する混合物とすることがさらに好ましく、C76、C78、C82、及びC84を含有する混合物とすることが特に好ましく、C76、C78、C82、C84、C86、C88、C94、及びC96を含有する混合物とすることが最も好ましい。このような混合物は工業的に得やすい上、本発明の効果が顕著に発揮される利点がある。
フラーレン類混合物にC84を含有させる場合は、C84の含有量は、通常、フラーレン類混合物全体に対して、5重量%以上、より好ましくは10重量%以上、さらに好ましくは20重量%以上とする。一方、C84の含有量は、通常、99.9重量%以下となる。
フラーレン類混合物にC78を含有させる場合は、C78の含有量は、通常、フラーレン類混合物全体に対して、3重量%以上、より好ましくは5重量%以上、さらに好ましくは10重量%以上とする。一方、C78の含有量は、通常、99.9重量%以下となる。
また、C78とC84とを併用する場合は、C78/C84は、通常0.1以上、好ましくは0.3以上、より好ましくは0.4以上とする。一方、通常0.9以下、好ましくは0.8以下、より好ましくは0.7以下とする。上記範囲が工業的に得やすい。
フラーレン類混合物にC76を含有させる場合は、C76の含有量は、通常、フラーレン類混合物全体に対して、2重量%以上、より好ましくは4重量%以上、さらに好ましくは8重量%以上とする。一方、C76の含有量は、通常、99.9重量%以下となる。
また、C76とC84とを併用する場合は、C76/C84は、通常0.1以上、好ましくは0.2以上、より好ましくは0.3以上とする。一方、通常0.8以下、好ましくは0.6以下、より好ましくは0.5以下とする。上記範囲が工業的に得やすい。
【0014】
このようなフラーレン類混合物は、例えば、抵抗加熱法、レーザー加熱法、アーク放電法、燃焼法などにより得られたフラーレン類混合物を含有するスートから抽出分離することによって得られる。この際、必ずしもフラーレン類混合物のみを分離して用いる必要はなく、性能を損なわない範囲でフラーレン類混合物にスートを混合してもよい。また、本発明の要旨の範囲内において、フラーレン類混合物を含有するスートからフラーレン類を抽出した後に得られる残留物に所定のフラーレン類が含有されているならば、この残留物を用いてもよい。
【0015】
また、本発明においては、フラーレン骨格部分の炭素数が70を超えるフラーレン類としてフラーレン誘導体を用いてもよい。フラーレン誘導体とは、フラーレン骨格部分を構成する少なくとも1つの炭素に有機化合物の一部分を形成する原子団や無機元素からなる原子団などが結合した化合物をいう。フラーレン誘導体を用いる場合には、フラーレン骨格部分の炭素数が70を超えるようにする。このようにすることで、樹脂組成物の耐熱性の向上を図ることができる。
フラーレン誘導体を得るために用いるフラーレンとしては、本発明の目的を満たす限り限定されず、上記具体的に示したフラーレンのいずれを用いてもよい。フラーレン誘導体としては、例えば、水素化フラーレン、酸化フラーレン、水酸化フラーレン、ハロゲン(F、Cl、Br、I)化フラーレン等を用いることができる。
なお、フラーレン誘導体は、本発明の要旨の範囲内において、当然ながら2種類以上用いても良い。そして、複数用いる場合には、フラーレン骨格部分の炭素数が70を超えるフラーレン誘導体とともに、フラーレン骨格部分の炭素数が70以下のフラーレン誘導体(例えば、C60誘導体やC70誘導体)を用いてもよいことはいうまでもない。
【0016】
フラーレン誘導体を合成する方法としては、以下のような方法を挙げることができる。
例えば、求核負荷反応においては、有機リチウム試薬やグリニャール試薬などとの反応により、アルキル基やフェニル基などをフラーレン骨格に導入することができる。また、例えば、同じく炭素求核剤であるシアン化ナトリウムとの反応によれば、シアノ基をフラーレン骨格に導入することができる。このように、導入される基は用いられる試薬により変更することができる。上記求核付加反応や、シアン化ナトリウムとの反応により合成されるフラーレン誘導体は、アニオンとして塩を形成することもできるが、アニオンを求電子剤で捕捉することにより1,2―ジヒドロフラーレン誘導体とすることが多い。プロトンで捕捉すれば1,2―ジヒドロフラーレン誘導体の1置換体を得ることができ、求電子剤の種類によれば第2の置換基としてメチル基やシアノ基を有する1,2―ジヒドロフラーレン誘導体の2置換体を得ることができる。求核付加反応では他にシリルリチウムとの
反応やアミンとの反応によりフラーレン誘導体を合成することもできる。
【0017】
また、酸化反応、還元反応によれば水素化フラーレンや酸化フラーレン、水酸化フラーレンを得ることができる。またラジカル反応によりフッ素などのハロゲンを導入することも可能である。
フラーレン誘導体を得るために、フラーレン骨格に直接結合させる基又はフラーレン骨格を環化付加した場合に付加した環を構成する元素が形成する基としては、特に制限はないが、工業的に得やすい点から、水素原子、アルカリ金属原子、カルコゲン原子、ハロゲン原子、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、複素環基、酸素を含む特性基、硫黄を含む特性基、及び窒素を含む特性基からなる群から選ばれる1つであることが好ましい。
【0018】
アルカリ金属原子としては、例えばリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムを挙げることができるが、工業的に合成し易い点から好ましいのは、リチウム、ナトリウム、カリウムである。
カルコゲン原子としては、例えば酸素、イオウ、セレン、テルルを挙げることができるが、工業的に合成し易い点から好ましいのは、酸素、イオウである。
【0019】
ハロゲン原子としては、例えばフッ素、塩素、臭素、ヨウ素を挙げることができるが、工業的に合成し易い点から好ましいのは、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素である。尚、ハロゲン原子を含む基、例えばヨードシル基を用いてもよい。
脂肪族炭化水素基のうち、脂鎖式炭化水素基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、ビニル基、1−プロペニル基、アリル基、イソプロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、2−ペンテニル基、エチニル基を挙げることができる。工業的に合成し易い点から好ましいのは、メチル基、エチル基、プロピル基である。
【0020】
脂肪族炭化水素基のうち、脂環式炭化水素基としては、例えばシクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、1−シクロヘキセニル基を挙げることができる。工業的に合成し易い点から好ましいのは、シクロヘキシル基である。
芳香族炭化水素基としては、例えばフェニル基、トリル基、キシリル基、メシチル基、クメニル基、ベンジル基、ジフェニルメチル基、トリフェニルメチル基、スチリル基、ビフェニリル基、ナフチル基を挙げることができる。工業的に合成し易い点から好ましいのは、フェニル基、ベンジル基、ビフェニリル基である。
【0021】
複素環基としては、例えばフリル基、フルフリル基、チエニル基、ピロリル基、ピリジル基、ピペリジノ基、ピペリジル基、キノリル基を挙げることができるが、工業的に合成し易い点から好ましいのは、フリル基、ピリジル基である。
酸素を含む特性基は、酸素を含む基であれば何でもよいが、例えば水酸基、過酸化水素基、酸素(エポキシ基)、カルボニル基を挙げることができる。工業的に合成し易い点から好ましいのは水酸基、酸素である。
【0022】
その他、酸素を含む特性基としては以下のようなものが挙げられる。
アルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、フェノキシ基を挙げることができるが、工業的に合成し易い点から好ましいのは、メトキシ基、エトキシ基である。
カルボン酸、エステル基としては、例えばカルボキシ基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、アセトキシ基を挙げることができるが、工業的に合成し易い点から好ましいのは、カルボキシ基、アセトキシ基である。
【0023】
アシル基としては、例えばホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基、イソバレリル基、ピバロイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、ラウロイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、オレオイル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、クロロホルミル基、オキサル基、シクロヘキサンカルボニル基、ベンゾイル基、トルオイル基、ナフトイル基を挙げることができる。工業的に合成し易い点から好ましいのは、ホルミル基、アセチル基である。
【0024】
また、例えばアセトニル基、フェナシル基、サリチル基、サリチロイル基、アニシル基、アニソイル基を挙げることができる。工業的に合成し易い点から好ましいのは、アセトニル基、サリチル基である。
硫黄を含む特性基としては、硫黄を含む基であれば何でもよいが、例えばメルカプト基、チオ基(−S−)、メチルチオ基、エチルチオ基、フェニルチオ基、チオホルミル基、チオアセチル基、チオカルボキシ基、ジチオカルボキシ基、チオカルバモイル基、スルホン酸基、メシル基、ベンゼンスルホニル基、トルエンスルホニル基、トシル基、スルホアミノ基を挙げることができる。工業的に合成し易い点から好ましいのは、メルカプト基、スルホン酸基である。
【0025】
窒素を含む特性基としては、窒素を含む基であれば何でもよいが、例えばアミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、アニリノ基、トルイジノ基、キシリジノ基、シアノ基、イソシアノ基、シアナート基、イソシアナート基、チオシアナート基、イソチオシアナート基、ヒドロキシアミノ基、アセチルアミノ基、ベンザミド基、スクシンイミド基、カルバモイル基、ニトロソ基、ニトロ基、ヒドラジノ基、フェニルアゾ基、ナフチルアゾ基、ウレイド基、ウレイレン基、アミジノ基、グアニジノ基を挙げることができるが、工業的に合成し易い点から好ましいのは、アミノ基、シアノ基、シアナート基である。
【0026】
以上述べた所定の基は、さらに他の基で置換されていてもよい。
上記した所定の基のうち、特に好ましいのは、水素原子、ナトリウム、カリウム、酸素、水酸基、アミノ基、スルホン酸基、メチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基、ビフェニリル基、エトキシ基、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素である。上記基の中で、酸素は結合手が2つあるが、それぞれの結合手がフラーレン骨格を構成する炭素原子と結合してエポキシ基を形成する。
【0027】
特に好ましいフラーレン誘導体の例としては、例えば、水素化フラーレン、酸化フラーレン、水酸化フラーレン、ハロゲン(F、Cl、Br、I)化フラーレン、スルホン化フラーレン、ビフェニルフラーレン(単数又は複数のビフェニリル基がフラーレン骨格に結合したフラーレン誘導体)からなる群から選ばれる少なくとも1つを挙げることができる。
上記所定の基は、フラーレンを構成する炭素原子のうちの1つ以上に結合していればよい。一方、フラーレンに結合する上記基の数は、通常36個以下、好ましくは10個以下、より好ましくは4個以下である。
フラーレン類混合物中のフラーレン骨格部分の炭素数が70を超えるような所定のフラーレン誘導体の含有量は、通常0.01重量%以上、好ましくは0.05重量%以上、より好ましくは0.1重量%以上、さらに好ましくは0.2重量%以上となる。一方、フラーレン類混合物中のフラーレン誘導体の含有量は、通常99.9重量%以下とする。
【0028】
なお、フラーレン類混合物に含有されるフラーレン骨格部分の炭素数が70を超えるフラーレン類の種類や、これらフラーレン類それぞれの含有量は、従来公知の分析方法を用いて測定することにより求めることができる。このような分析方法としては、例えば、高速液体クロマトグラフィー法を挙げることができる。
【0029】
このようにして得られたフラーレン類混合物は、常温(25℃)、常湿(50%RH)では、通常粉末状の性状を有し、フラーレン類混合物の二次粒径は、通常10nm以上、好ましくは50nm以上、より好ましくは100nm以上であり、通常1mm以下、好ましくは500μm以下、より好ましくは100μm以下である。
本発明においては、フラーレン類混合物を下記測定条件で熱重量・示差熱分析(Thermogravimeter−Differential Thermal Analyzer)した場合において、上記フラーレン類混合物の総重量の20%が減少する温度(20%減量温度)が570℃以下であることが好ましい。
減量温度が小さいことは空気中におけるフラーレン類混合物の酸化とそれに引き続く熱分解がより低温で起こることを示している。このことは同時に、フラーレン類混合物の反応性の高さを意味している。この反応性の高さは、樹脂の熱分解温度付近でフラーレン類混合物の反応性が高いことにつながるため、樹脂の熱分解によって生じるラジカルをフラーレン類混合物が有効に捕捉して樹脂組成物を安定化することができると推測される。そしてこのラジカルの補捉及び安定化によって、樹脂組成物の更なる熱分解を抑制することができると考えられる。
熱重量・示差熱分析法による20%減量温度は、以下の条件で測定することができる。(熱重量・示差熱分析法の測定条件)
空気70ml/分の気流下で、フラーレン類混合物試料約10mgを昇温速度10℃/分で30℃から600℃まで昇温し、測定開始前の重量を基準(100%)として20%減量温度を求める。
このような測定条件の一例として、より具体的には、以下の条件を挙げることができる。
(熱重量・示差熱分析法のより具体的な測定条件)
装置:島津製作所製DTG−50又はこれに類する装置
試料量:約10mg(試料量は、測定に用いる装置に適した量としてもよい。)
温度範囲:30℃〜600℃
昇温速度:10℃/分(必要に応じて30℃で5分間保持した後昇温を開始する)
ガス流量:空気70ml/分
セル:アルミニウムセル(大きさとしては例えば、6mmφ×5mmH)
参照物質:α−アルミナ又はこれら類似する物質(約20mgとするが、測定に用いる装
置に適した量とすればよい)
30℃で5分間保持する前(測定開始前)におけるフラーレン類混合物の総重量を基準(100%)として、20%重量が減少する温度を20%減量温度とする。
なお、上記フラーレン類混合物の総重量の20%が減少する温度は、上述の通り570℃以下であることが好ましいが、より好ましくは550℃以下、さらに好ましくは530℃以下、特に好ましくは510℃以下、最も好ましくは500℃以下である。上記範囲とすることにより、樹脂組成物の耐熱性の向上がより確実に発揮されるようになる。
一方、上記フラーレン類混合物の総重量の20%が減少する温度は、通常300℃以上となる。
2.樹脂
本発明の樹脂組成物に用いる樹脂は特に制限されない。このような樹脂としては、例えば、結晶性熱可塑性樹脂、非晶性熱可塑性樹脂、及び硬化性樹脂のいずれかを挙げることができる。
(結晶性熱可塑性樹脂)
結晶性熱可塑性樹脂とは、X線回折、示差熱分析等により結晶性を有することが確認できる熱可塑性樹脂をいう。
【0030】
このような結晶性熱可塑性樹脂としては、本発明の効果を奏する限り特に制限されないが、塩化ビニリデン樹脂、フッ素系樹脂、シンジオタクチックポリスチレン、ポリエステ
ル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、およびポリエーテルケトン系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種類以上の樹脂であることが好ましく、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、およびポリエーテルケトン系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種類以上の樹脂であることがより好ましい。
【0031】
本発明において用いられるポリエステル系樹脂としては、ジカルボン酸成分(例えば、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸など)とジオール成分(エチレングリコール、プロピレングリコールなどの直鎖C2-6アルキレングリコール;
ジエチレングリコールなどのポリ(オキシ−C2-4アルキレン)単位を含むグリコール;
1,4−シクロヘキサンジメタノールなど)との重縮合、オキシカルボン酸又はラクトン(C3-12ラクトンなど)の重縮合、またはこれらの成分の重縮合などにより得られるホモポリエステル又はコポリエステルである。好ましいポリエステル系樹脂には、通常、飽和ポリエステル系樹脂、特に芳香族飽和ポリエステル系樹脂が含まれる。
【0032】
このようなポリエステル系樹脂には、アルキレンテレフタレート、アルキレンナフタレートなどのアルキレンアリレートを主成分(例えば、50〜100重量%、好ましくは75〜100重量%程度)とするホモポリエステル又はコポリエステル[例えば、ポリアルキレンテレフタレート(例えば、ポリ1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート(PCT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレンテレフタレート(PPT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などのポリC2-4アルキレンテレフタ
レート)、ポリアルキレンナフタレート(例えば、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレートなどのポリC2-4アルキレンナフタレート)などのホモポリエステル;
アルキレンテレフタレート及び/又はアルキレンナフタレート単位を主成分(例えば、50重量%以上)として含有するコポリエステル]が含まれる。特に好ましいポリエステル系樹脂には、エチレンテレフタレート単位を主成分として含有するポリエチレンテレフタレート系樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートコポリエステル)、エチレンナフタレート単位を主成分として含有するポリエチレンナフタレート系樹脂(例えば、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンナフタレートコポリエステル)、ブチレンテレフタレート単位を主成分として含有するポリブチレンテレフタレート系樹脂(例えば、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートコポリエステル)が含まれる。
【0033】
また、コポリエステルにおいて、共重合可能な単量体としては、C2-6アルキレングリ
コール(エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオールなど)、ポリ(オキシ−C2-4アルキレン)単位を含むグリコール(ジエチレングリコールなど)
、C6-12脂肪族ジカルボン酸(アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸など)、芳香族ジカルボン酸(フタル酸、イソフタル酸など)などが挙げられる。
【0034】
なお、ポリエステル系樹脂は、溶融成形性などを損なわない限り、直鎖状のみならず分岐鎖構造を有していてもよく、架橋されていてもよい。また、液晶ポリエステルであってもよい。
【0035】
ポリエステル系樹脂は、慣用の合成方法、例えば、エステル交換、直接エステル化法などにより製造することができる。なお、これらのポリエステル系樹脂は単独で又は二種以上組み合わせて用いることができる。
【0036】
本発明においては、中でも、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートが好適に用いられる。これら樹脂は、用途が広範で、フラ
ーレン類を含有する樹脂組成物の対象樹脂として有効である。
【0037】
また、本発明に用いられるポリアセタール系樹脂には、オキシメチレン基(−CH2
−)を構成単位とするポリアセタールホモポリマー、およびオキシメチレン基以外に他のコモノマー単位を含有するポリアセタールコポリマーが含まれる。コポリマーにおいて、コモノマー単位には、オキシC2-6アルキレン単位(例えば、オキシエチレン基(−CH2CH2O−)、オキシプロピレン基、オキシテトラメチレン基などのオキシC2-4アルキレン単位)が含まれる。コモノマー単位の含有量は、ポリアセタール系樹脂全体に対して、例えば、0.01〜20モル%、好ましくは0.03〜10モル%程度の範囲から選択できる。
【0038】
ポリアセタールコポリマーは、二成分で構成されたコポリマー、三成分で構成されたターポリマーなどであってもよい。ポリアセタールコポリマーは、ランダムコポリマーの他、ブロックコポリマー、グラフトコポリマーなどであってもよい。また、ポリアセタール樹脂は、線状のみならず分岐構造であってもよく、架橋構造を有していてもよい。さらに、ポリアセタール樹脂の末端は、例えば、酢酸、プロピオン酸などのカルボン酸又はそれらの無水物とのエステル化などにより安定化してもよい。
【0039】
上記ポリアセタール樹脂は、例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒドなどのアルデヒド類、トリオキサン、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、1,3−ジオキソラン、ジエチレングリコールホルマール、1,4−ブタンジオールホルマールなどの環状エーテルや環状ホルマールを重合することにより製造できる。なお、これらのポリアセタール系樹脂は単独で又は二種以上組み合わせて用いることができる。
【0040】
本発明においては、中でも、ポリアセタールコポリマーが好適に用いられる。ポリアセタールコポリマーはポリアセタールホモポリマーと比較して熱安定性がよい利点がある。
【0041】
また、本発明に用いられるポリアミド系樹脂としては、ジアミンとジカルボン酸とから誘導されるポリアミド;アミノカルボン酸(アミノヘプタン酸、アミノウンデカン酸などのC4-20アミノカルボン酸など)、必要に応じてジアミン及び/又はジカルボン酸を併用して得られるポリアミド;ラクタム(ブチロラクタム、ビバロラクタム、カプロラクタムなどのC4-20ラクタムなど)、必要に応じてジアミン及び/又はジカルボン酸との併用により誘導されたポリアミドが含まれる。ポリアミドには、少なくとも2種の異なったポリアミド形成成分により形成されるコポリアミドも含まれる。
【0042】
ジアミンとしては、脂肪族ジアミン(トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどのトリ乃至デカメチレンジアミン)、脂環族ジアミン[ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタンなど]、芳香族ジアミン(フェニレンジアミン、メタキシリレンジアミンなど)が挙げられる。これらのジアミンは1種で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0043】
ジカルボン酸としては、脂肪族ジカルボン酸[グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸などのC4-20脂肪族ジカルボン酸;二量体化脂肪酸(ダイマー酸)など]、脂環族ジカルボン酸(シクロヘキサン−1,4−ジカルボン酸、シクロヘキサン−1,3−ジカルボン酸など)、芳香族ジカルボン酸(フタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸など)などが挙げられる。
【0044】
ポリアミド系樹脂としては、ナイロン46、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12などの脂肪族ポリアミド、芳香族ジカ
ルボン酸(例えば、テレフタル酸および/又はイソフタル酸)と脂肪族ジアミン(例えば、ヘキサメチレンジアミンなど)とから得られるポリアミド、芳香族および脂肪族ジカルボン酸(例えば、テレフタル酸とアジピン酸)と脂肪族ジアミン(例えば、ヘキサメチレンジアミンなど)とから得られるポリアミド、脂肪族ジカルボン酸(α,ω−C4-12ジカルボン酸など)と芳香族ジアミンとから得られるポリアミド[例えば、アジピン酸とメタキシリレンジアミンとから得られるポリアミド(MXD6)、スベリン酸とメタキシリレンジアミンとから得られるポリアミド、アジピン酸とパラキシリレンジアミンとから得られるポリアミド(PMD6)、スベリン酸とパラキシリレンジアミンとから得られるポリアミド、アジピン酸とN,N'−ジメチルメタキシリレンジアミンとから得られるポリア
ミド、スベリン酸とN,N'−ジメチルメタキシリレンジアミンとから得られるポリアミ
ド、アジピン酸と1,3−フェニレンジアミンとから得られるポリアミド、アジピン酸と4,4'−ジアミノジフェニルメタンとから得られるポリアミド、アジピン酸とメタキシ
リレンジアミン及びパラキシリレンジアミンとから得られるコポリアミド、アジピン酸とメタキシリレンジアミン及びN,N'−ジメチルメタキシリレンジアミンとから得られる
コポリアミド、4,4'−ジアミノビフェニレンとアジピン酸とから得られるポリアミド
など]などが挙げられる。これらのポリアミド系樹脂は1種で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0045】
本発明においては、中でも、ナイロン6、ナイロン66が好適に用いられる。これら樹脂は、用途が広範で、フラーレン類を含有する樹脂組成物の対象樹脂として有効である。
【0046】
本発明に用いられるポリオレフィン系樹脂としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどのα−オレフィン(特に、α−C2-10オレフィン)の単独又は共重合体が挙げられる。好ましいオレフィン系樹脂としては、エチレン単位を主成分(例えば、75〜100重量%)として含有するエチレン系樹脂(例えば、ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体など)、プロピレン単位を主成分(例えば、75〜100重量%)として含有するプロピレン系樹脂(例えば、ポリプロピレン、プロピレン−エチレン共重合体、プロピレン−(メタ)アクリル酸共重合体など)などが挙げられる。オレフィン系樹脂は、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0047】
本発明においては、中でも、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(3−メチル−1−ブテン)、及びポリ(4−メチル−1−ペンテン)が好適に用いられる。これら樹脂は、用途が広範で、フラーレン類を含有する樹脂組成物の対象樹脂として有効である。
【0048】
本発明に用いられるポリフェニレンスルフィド系樹脂としては、例えば、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドケトン、ポリビフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホンなどが挙げられる。
【0049】
また、本発明に用いられるポリエーテルケトン系樹脂としては、ポリエーテルケトンとポリ(エーテルエーテルケトン)等を挙げることができる。
【0050】
以上の結晶性熱可塑性樹脂は、同一の系の樹脂または異なる系の樹脂の1種または2種以上を組み合わせて使用できる。
【0051】
結晶性熱可塑性樹脂の数平均分子量は、特に制限されず、通常、300以上、好ましくは400以上、より好ましくは500以上であり、一方、通常、1000×104以下、
好ましくは100×104以下、より好ましくは30×104以下である。なお、本発明で用いられる数平均分子量は、従来公知の方法(例えば、ゲルパーミエーションクロマトグ
ラフィー(GPC)法)を用いることにより測定できる。GPC法では測定する結晶性熱可塑性樹脂とともに溶媒を用いる必要があるが、用いる溶媒は、前記樹脂ごとに従来公知の溶媒を用いればよい。
【0052】
これら結晶性熱可塑性樹脂の性状は、常温(25℃)、常湿(50%RH)で、通常固体である。
【0053】
(非晶性熱可塑性樹脂)
非晶性熱可塑性樹脂とは、熱可塑性樹脂のうち、積極的には結晶状態を作らないような熱可塑性樹脂をいう。より具体的には、分子の立体規則性がよく、側鎖が小さく、枝分かれがなく、分子間凝集力が大きいような熱可塑性樹脂は結晶性となるが、非晶性熱可塑性樹脂は、上記の一部又は全てを備えていないような樹脂をいう。
【0054】
このような非晶性熱可塑性樹脂としては、特に制限されるものではないが、ポリアリレート系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリイミド系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ビニル系樹脂、およびポリカーボネート系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種類以上の樹脂であることが好ましい。これら非晶性熱可塑性樹脂は、工業的に入手が容易で、汎用の成型器で成型可能である利点がある。さらに、これら非晶性熱可塑性樹脂は、可撓性が高く、フラーレン類との相溶性が良好となる利点もある。工業的に特に入手が容易である点からは、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ビニル系樹脂、およびポリカーボネート系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種類以上の樹脂を用いることが特に好ましい。
【0055】
本発明においては、中でもアクリル系樹脂、スチレン系樹脂、およびポリカーボネート系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種類以上の樹脂であることが好ましい。これら非晶性熱可塑性樹脂は、可撓性が特に高くフラーレン類との相溶性が特に良好となるからである。
【0056】
本発明において用いられるアクリル系樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチルなどの(メタ)アクリル酸C1-10アルキルエステル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリルなど(メタ)アクリル系単量体の単独又は共重合体、あるいは(メタ)アクリル系単量体と他の共重合可能な単量体との共重合体(例えば、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体など)などが含まれる。これらのアクリル系樹脂は、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0057】
本発明においては、中でも、(メタ)アクリル酸メチルの単独又は共重合体が好適に用いられる。これら樹脂は、用途が広範で、フラーレン類を含有する樹脂組成物の対象樹脂として有効である。
【0058】
また、本発明において用いられるスチレン系樹脂としては、ポリスチレン(GPPS)、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体(AS樹脂)、ゴム成分にスチレン系単量体が重合した耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、ポリスチレン系グラフト又はブロック共重合体などが含まれる。ポリスチレン系グラフト共重合体としては、ゴム成分に少なくともスチレン系単量体および共重合性単量体がグラフト重合した共重合体(例えば、ポリブタジエンにスチレン及びアクリロニトリルをグラフト重合したABS樹脂、アクリルゴムにスチレン及びアクリロニトリルをグラフト重合したAAS樹脂、塩素化ポリエチレンにスチレン及びアクリロニトリルをグラフト重合したACS樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体にスチレン及びアクリロニトリルをグラフト重合した重
合体、エチレン−プロピレンゴムにスチレン及びアクリロニトリルをグラフト重合したAES樹脂、ポリブタジエンにスチレンとメタクリル酸メチルをグラフト重合したMBS樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体ゴムにスチレン及びアクリルニトリルがグラフト重合した樹脂)などが挙げられる。ポリスチレン系ブロック共重合体としては、ポリスチレンブロックとジエン又はオレフィンブロックとで構成された共重合体(例えば、スチレン−ブタジエン−スチレン(SBS)ブロック共重合体、スチレン−イソプレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレン(SIS)ブロック共重合体、水素添加スチレン−ブタジエン−スチレン(SEBS)ブロック共重合体、水素添加スチレン−イソプレン−スチレン(SEPS)ブロック共重合体)などが挙げられる。これらのスチレン系樹脂
は、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0059】
本発明においては、中でも好ましくは、ポリスチレン、ゴム成分にスチレン系単量体が重合した耐衝撃性ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体、ABS樹脂、AAS樹脂、AES樹脂が用いられ、より好ましくは、ポリスチレン、ゴム成分にスチレン系単量体が重合した耐衝撃性ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体、ABS樹脂が用いられる。これら樹脂は、用途が広範で、フラーレン類を含有する樹脂組成物の対象樹脂として有効である。
【0060】
さらに、本発明において用いられるビニル系樹脂としては、例えばビニル系単量体(例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、クロトン酸ビニル、安息香酸ビニルなどのビニルエステル;塩素含有ビニル単量体(例えば、塩化ビニル、クロロプレンなど);フッ素含有ビニル単量体(例えば、フルオロエチレン);メチルビニルケトン、メチルイソプロペニルケトンなどのビニルケトン類;ビニルメチルエーテル、ビニルイソブチルエーテルなどのビニルエーテル類;N−ビニルカルバゾール、N−ビニルピロリドンなどのビニルアミン類など)の単独又は共重合体、あるいは他の共重合可能なモノマーとの共重合体などが含まれる。
【0061】
また、上記ビニル系樹脂の誘導体(例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラールなどのポリビニルアセタール、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体など)も使用できる。これらのビニル系樹脂は、1種で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0062】
本発明においては、中でも塩化ビニルの単独又は共重合体、ポリビニルアセタール、エチレン−ビニルアルコール共重合体が好適に用いられる。これら樹脂は、用途が広範で、フラーレン類を含有する樹脂組成物の対象樹脂として有効である。
【0063】
一方、本発明に用いられるポリカーボネート系樹脂としては、例えば、種々のジヒドロキシジアリール化合物とホスゲンとを反応させるホスゲン法、またはジヒドロキシジアリール化合物とジフェニルカーボネートなどの炭酸エステルとを反応させるエステル交換法によって得られる重合体または共重合体を用いることができる。代表的なポリカーボネート樹脂としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)又はその誘導体から製造されたポリカーボネート樹脂が挙げられる。
【0064】
上記ジヒドロキシジアリール化合物としては、ビスフェノールAの他;ビス(4−ヒドロキシジフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシジフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−第3ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−ブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−
ヒドロキシ−3,5ジクロロフェニル)プロパンのようなビス(ヒドロキシアリール)アルカン類;1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンのようなビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類;4,4′−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルエーテル、のようなジヒドロキシジアリールエーテル類;4,4′−ジヒドロキシフェニルスルフィド、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルスルフィドのようなジヒドロキシジアリールスルフィド類;4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルスルホキシドのようなジヒドロキシジアリールスルホキシド類;4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメジフェニルスルホンのようなジヒドロキシジアリールスルホン類等があげられる。
【0065】
これらは単独でまたは2種以上混合して使用されるが、これらの他にピペラジン、ジピペリジル、ハイドロキノン、レゾルシン、4,4′−ジヒドロキシジフェニル等を混合して使用してもよい。
【0066】
これらポリカーボネート系樹脂のうち、ビスフェノールA又はその誘導体から製造されるポリカーボネート樹脂が好ましく用いられる。これら樹脂は、用途が広範で、フラーレン類を含有する樹脂組成物の対象樹脂として有効である。
【0067】
以上の非晶性熱可塑性樹脂は、同一の系の樹脂または異なる系の樹脂の1種または2種以上を組み合わせて使用できる。
【0068】
非晶性熱可塑性樹脂の数平均分子量は、特に制限されず、通常、300以上、好ましくは400以上、より好ましくは500以上であり、一方、通常、1000×104以下、
好ましくは100×104以下、より好ましくは30×104以下である。なお、本発明で用いられる数平均分子量は、従来公知の方法(例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法)を用いることにより測定できる。GPC法では測定する非晶性熱可塑性樹脂とともに溶媒を用いる必要があるが、用いる溶媒は、前記樹脂ごとに従来公知の溶媒を用いればよい。
【0069】
これら非晶性熱可塑性樹脂の性状は、常温(25℃)、常湿(50%RH)で、通常固体である。
【0070】
(硬化性樹脂)
硬化性樹脂とは、加熱または放射線、触媒などのような手段によって硬化される際に実質的に不融性かつ不溶性に変化し得る特性を有する樹脂であって、具体的には、例えば、フェノール系樹脂、ユリア系樹脂、メラミン系樹脂、ベンゾグアナミン系樹脂、アルキド系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、ビニルエステル系樹脂、ジアリルフタレート系樹脂、エポキシ系樹脂、シリコーン系樹脂、ウレタン系樹脂、フラン系樹脂、ケトン系樹脂、キシレン系樹脂、熱硬化性ポリイミド、スチリルピリジン系樹脂、トリアジン系樹脂などが挙げられる。これらのうちの上記硬化性樹脂は複数を併用してもよい。
【0071】
本発明に用いられる硬化性樹脂は、上記の中でも、フェノール系樹脂、ユリア系樹脂、メラミン系樹脂、ベンゾグアナミン系樹脂、アルキド系樹脂、エポキシ系樹脂、シリコーン系樹脂、ウレタン系樹脂、フラン系樹脂、ケトン系樹脂、キシレン系樹脂、トリアジン系樹脂が好ましく、特に好ましい例としては、エポキシ系樹脂が挙げられる。これは、これらの硬化性樹脂の硬化原理がラジカル重合ではないため、フラーレン類による硬化反応の阻害がないからである。すなわち、硬化性樹脂を形成する際に、モノマーがラジカル重合により硬化反応を起こす場合、フラーレン類を添加すると、フラーレン類のラジカルトラップ機能により上記ラジカル重合による硬化反応が阻害されるおそれがある。このため
、フラーレン類と共に用いる硬化性樹脂は、ラジカル重合によって硬化する樹脂ではない上記樹脂のいずれかとすることが好ましいのである。
【0072】
本発明において用いられるフェノール系樹脂とは、フェノール等のフェノール類とホルムアルデヒド等のアルデヒド類との反応によって得られる樹脂であり、湿式法(一段法)又は乾式法(二段法)によって製造される樹脂である。具体的には、フェノール類としては、フェノール、クレゾール、キシレノール、tert-ブチルフェノールなどの低級アルキ
ルフェノール;ノニルフェノール、カシュー油、リグニンなどの高級フェノール;レゾルシン、カテコールなどの2価フェノール;が挙げられ、アルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、フルフラール等が挙げられる。
【0073】
本発明においては、中でもアルデヒド類としてホルムアルデヒドを用いたフェノール系樹脂が好適に用いられる。これら樹脂は、用途が広範で、フラーレン類を含有する樹脂組成物の対象樹脂として有効である。
【0074】
本発明で用いられるユリア系樹脂とは、尿素とホルムアルデヒドとから誘導される樹脂が好適に用いられる。これら樹脂は、用途が広範で、フラーレン類を含有する樹脂組成物の対象樹脂として有効である。
【0075】
本発明で用いられるメラミン系樹脂とは、メラミンとホルムアルデヒドとから誘導される樹脂が好適に用いられる。これら樹脂は、用途が広範で、フラーレン類を含有する樹脂組成物の対象樹脂として有効である。
【0076】
また、本発明で用いられるベンゾグアナミン系樹脂とは、ベンゾグアナミンと、ホルムアルデヒドとから誘導される樹脂が好適に用いられる。これら樹脂は、用途が広範で、フラーレン類を含有する樹脂組成物の対象樹脂として有効である。
【0077】
本発明に用いられるアルキド系樹脂は、多価アルコールと多塩基酸との縮合反応により得られる樹脂が好適に用いられる。これら樹脂は、用途が広範で、フラーレン類を含有する樹脂組成物の対象樹脂として有効である。
【0078】
本発明で用いられるエポキシ系樹脂としては、具体的に、ビスフェノールA、ビスフェノールF、テトラブロモビスフェノールA、テトラフェニロールエタン、フェノールノボラック、o-クレゾールノボラック、ポリプロピレングリコール、水素化ビスフェノールAなどのグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ヘキサヒドロ無水フタル酸、ダイマー酸などのグリシジルエステル型エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタン、イソシアヌル酸、ヒダントインなどのグリシジルアミン型エポキシ樹脂、p-アミノフェノール、p-オキシ安息香酸などのグリシジル混合型エポキシ樹脂、脂環式型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0079】
本発明においては、中でもビスフェノールA、ビスフェノールF、テトラブロモビスフェノールA、フェノールノボラック、及びo-クレゾールノボラックのグリシジルエーテ
ル型エポキシ樹脂が好適に用いられる。これら樹脂は、用途が広範で、フラーレン類を含有する樹脂組成物の対象樹脂として有効である。
【0080】
エポキシ樹脂は、通常、種々の硬化剤と組み合わせて使用される。硬化剤としては、例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジエチルアミノプロポリアミン、N−アミノエチルピペラジン、イソホロンジアミン、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン、メンタンジアミン等の脂肪族ポリアミン;植物油脂肪酸/脂肪族ポリアミン/縮合物からなるアミドアミン;植物油脂肪酸(ダイマーまたはトリマー酸)/脂肪族ポリアミン縮合物からなるポリアミド;m−フェニ
レンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、m−キシリレンジアミン等の芳香族ポリアミン;無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリト酸、ベンゾフェノン無水テトラカルボン酸、無水クロレンド酸、ドデシル無水コハク酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルエンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸等の酸無水物;ルイス酸類(例えば、三フッ化ホウ酸−アミン錯体)、ルイス塩基類(例えば、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、ベンジルジメチルアミン、2−エチル−4−メチルイミダゾール、ジシアンジアミド、アジピン酸ジヒドラジド等の触媒性硬化剤;を挙げることができる。この他、硬化剤としては、ポリメルカプタン、ポリサルファイドも挙げることができる。
【0081】
上記硬化剤のうち、工業的入手の容易性から脂肪族ポリアミン、芳香族ポリアミン、及び酸無水物を用いることが好ましい。
【0082】
また、本発明で用いられるシリコーン系樹脂は、具体的には、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、ジフェニルポリシロキサンなどの純シリコーン樹脂、純シリコーン樹脂をアルキッド樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂などの変成用樹脂と反応させた変成シリコーンが好適に用いられる。これら樹脂は、用途が広範で、フラーレン類を含有する樹脂組成物の対象樹脂として有効である。
【0083】
本発明に用いられるウレタン系樹脂とは、イソシアネート化合物と活性水素化合物を主成分として構成される樹脂であり、イソシアネート化合物としては、トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、4,4'−メチレンビスシクロヘキシルイソシアネート(H12MDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)等が好適に用いられる。これら樹脂は、用途が広範で、フラーレン類を含有する樹脂組成物の対象樹脂として有効である。
【0084】
本発明に用いられるフラン系樹脂とは、フルフリルアルコールから得られる樹脂であって、フルフラール樹脂、フルフラールフェノール樹脂、フルフラールケトン樹脂、フルフリルアルコールフェノール樹脂等が好適に用いられる。これら樹脂は、用途が広範で、フラーレン類を含有する樹脂組成物の対象樹脂として有効である。
【0085】
本発明で用いられるケトン系樹脂はケトン類とアルデヒド類との縮合により製造される樹脂であり、ケトン類として例えばアセトン、エチルメチルケトンジエチルケトン、t−ブチルメチルケトンなどの脂肪族ケトン、アセトフェノン、2’−ブチロナフトン、プロピオフェノンなどの芳香族ケトンが好適に用いられる。またアルデヒド類としては例えばホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、アクリルアルデヒド、ベンズアルデヒドなどが挙げられ、又ケトン樹脂の変性物であるケトン樹脂の水素添加によるカルボニル基の水酸基化物、あるいはジイソシアナートとの反応による樹脂等も好適に用いられる。これら樹脂は、用途が広範で、フラーレン類を含有する樹脂組成物の対象樹脂として有効である。
【0086】
本発明に用いられるキシレン系樹脂とは、キシレン又はメシチレンとホルマリンとを強酸触媒下で反応させて得られる樹脂であり、得られる樹脂は主としてキシレン核又はメシチレン核がメチレン、アセタールまたはエーテル結合で結ばれ、末端にキシレン核又はメシチレン核及び一部メチロール基やメトキシメチル基等を有する多分子性の構造をもつものが好適に用いられる。これら樹脂は、用途が広範で、フラーレン類を含有する樹脂組成物の対象樹脂として有効である。
【0087】
本発明のトリアジン系樹脂は、実質的に、トリアジン環が、その2,4,6の位置の少なくとも2つの位置においてカルボジイミド基(−N=C=N−)又はジヒドロカルボジイミド基(−NH−CH=N−)を介して結合した構造を有する重合物質であり、例えばトリアジン樹脂、ビスマレイミド・トリアジン(BT)樹脂等のトリアジン系樹脂が好適に用いられる。これら樹脂は、用途が広範で、フラーレン類を含有する樹脂組成物の対象樹脂として有効である。
【0088】
上記硬化性樹脂のうち、工業的に広く用いられる点から、エポキシ系樹脂を用いることが好ましい。
【0089】
また、硬化性樹脂は、常温(25℃)、常湿(50%RH)において通常固体であるが、硬化性樹脂を形成する前駆体(例えば、硬化性樹脂を形成するモノマー)は、液体又は固体であるのが通常である。
【0090】
3.樹脂組成物
以下、本発明に用いる樹脂組成物に関してさらなる説明を行う。
【0091】
(樹脂と特定のフラーレン類との混合割合)
本発明の樹脂組成物においては、樹脂100重量部に対して、フラーレン類混合物が、0.001重量部以上含有されていることが好ましく、0.01重量部以上含有されていることがより好ましく、0.1重量部以上含有されていることがさらに好ましい。上記含有量とすることにより、樹脂組成物の耐熱性の向上がより確実に発揮されるようになる。
一方、樹脂100重量部に対して、フラーレン類混合物は、通常1000重量部以下、好ましくは500重量部以下、より好ましくは200重量部以下、さらに好ましくは100重量部以下、特に好ましくは50重量部以下、最も好ましくは10重量部以下である。フラーレン類混合物の含有量を上記範囲内とすれば、均一に分散することが容易となる上、物性の均一な材料を得ることも容易となる。また、フラーレン類混合物の含有量を上記範囲内とすれば、分散に要するエネルギーが非常に大きくなる、あるいは得られる樹脂組成物が脆くなるということも抑制しやすい傾向となる。
本発明の樹脂組成物においては、樹脂100重量部に対して、フラーレン骨格部分の炭素数が70を超えるフラーレン類が、0.0001重量部以上含有されていることが好ましく、0.001重量部以上含有されていることがより好ましく、0.002重量部以上含有されていることがさらに好ましく、0.005重量部以上含有されていることが特に好ましく、0.01重量部以上含有されていることが最も好ましい。上記含有量とすることにより、樹脂組成物の耐熱性の向上がより確実に発揮されるようになる。
一方、樹脂100重量部に対して、フラーレン骨格部分の炭素数が70を超えるフラーレン類は、通常900重量部以下、好ましくは200重量部以下、より好ましくは100重量部以下、さらに好ましくは50重量部以下、特に好ましくは10重量部以下である。フラーレン骨格部分の炭素数が70を超えるフラーレン類の含有量を上記範囲内とすれば、均一に分散することが容易となる上、物性の均一な材料を得ることも容易となる。また、フラーレン骨格部分の炭素数が70を超えるフラーレン類の含有量を上記範囲内とすれば、分散に要するエネルギーが非常に大きくなる、あるいは得られる樹脂組成物が脆くなるということも抑制しやすい傾向となる。
なお、フラーレン類混合物中にフラーレン骨格部分の炭素数が70を超えるフラーレン類が複数種類含有される場合は、上記「フラーレン骨格部分の炭素数が70を超えるフラーレン類の含有量」は、これら複数種類のフラーレン類の合計量をいうこととする。
【0092】
(樹脂組成物中におけるフラーレン類混合物の平均粒径)
本発明においては、樹脂内に含有されるフラーレン類混合物の分散性を向上させ、その平均粒径を小さくすることにより、樹脂組成物の耐熱性をさらに向上させることができる
。このように、樹脂中のフラーレン類類混合物の分散が良好となり、その平均粒径が比較的小さな範囲となると、樹脂組成物の耐熱性が向上するのは、以下の理由によるものと考えられる。すなわち、フラーレン類混合物が高いラジカル捕捉能を有しており、フラーレン類混合物が樹脂の熱分解により生じるポリマーラジカルやモノマーラジカル等を捕捉し、それらラジカルにより誘発される樹脂の分解を抑止することができるためと考えられる。フラ
ーレン類混合物の平均粒径が小さい場合は、フラーレン類混合物の粒子の表面積が増大し、上述したような樹脂の分解により生じるラジカルの近傍にフラーレン類混合物が存在する確率がより高まり、より有効にラジカルを捕捉することができる。これにより、耐熱性が向上するものと考えられる。
【0093】
尚、本発明においてフラーレン類混合物の樹脂組成物中での分散がよいとは、多数のフラーレン類混合物の粒子が樹脂中に均一に存在することをいう。
【0094】
本発明の樹脂組成物においては、フラーレン類混合物の平均粒径が30μm以下であることが好ましく、特に10μm以下、中でも5μm以下とすることが好ましい。なお、フラーレン類混合物が樹脂中で均一に分散されるためには、平均粒径が小さい方が好ましいが、現実的には、下限値は0.001μmとなる。
【0095】
フラーレン類混合物は、製造直後は粒子状の形態を有するが、その粒度分布が数nmオーダーから数mmオーダーの範囲(10-9〜10-3mの範囲)と非常に広範にわたる場合がある。このようなフラーレン類混合物をそのまま用いると、樹脂組成物中でのフラーレン類混合物の粒子径の分布が不均一となり、樹脂組成物の性能が安定しない場合がある。すなわち、粒径分布が広範なフラーレン類混合物を樹脂組成物に含有させると、樹脂組成物中において小粒径のフラーレン類混合物が多数分布する領域は、耐熱性が高くなる。一方で、樹脂組成物中において大粒径のフラーレン類混合物が少数分布する領域は、耐熱性の改善が得られにくい。このため、一つの製造ロット内又は複数の製造ロット間において樹脂組成物の性能が安定せず、実使用可能な樹脂組成物を得ることができなくなる場合がある。
【0096】
ここで、樹脂組成物中に存在するフラーレン類混合物のうち、樹脂組成物の性能を最も不安定にする傾向が高いのは、数十μmオーダー、より具体的には30μm程度よりも大きい粒径を有するフラーレン類混合物である。このため、本発明においては、樹脂組成物中に存在するフラーレン類混合物の粒径を30μm以下とすることが好ましい。
【0097】
本発明における平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)観察により、樹脂組成物の断面を観察して樹脂組成物中に存在するフラーレン類混合物の凝集粒子30個の粒径を測定してその平均を計算する方法により得た値を用いることとする。
【0098】
(添加剤)
本発明の樹脂組成物は、目的に応じて添加剤や充填剤等を含有していてもよい。
【0099】
用いられる添加剤としては、酸化防止剤、熱安定剤(耐熱安定剤)、ドリッピング防止剤、離型剤、充填剤等が挙げられ、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。また、本発明の樹脂組成物は、必要に応じて、他の添加剤、例えば、滑剤、可塑剤、難燃助剤、安定剤(紫外線吸収剤、耐候安定剤など)、着色剤(顔料、染料)、帯電防止剤、核剤、衝撃改良剤、摺動剤、分散剤、抗菌剤などを含有していてもよい。添加剤の効果を十分に発揮させるために、樹脂組成物全体の重量に対する添加剤の含有量は、通常10重量%以下、好ましくは5重量%以下、より好ましくは3重量%以下とする。一方、上記添加剤を用いる効果を確実に発揮させるために、上記添加剤は通常0.01重量%以上用いられる

【0100】
また、用いられる充填剤としては、機械的強度、耐熱性、寸法安定性、電気的性質の性能に優れた成形品を得るために、目的に応じて繊維状、粒子状、板状または中空状の充填剤等が挙げられる。繊維状充填剤としては、ガラス繊維、アスベスト繊維、カーボン繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化硅素繊維、硼素繊維、チタン酸カリ繊維、更にステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真鍮等の金属繊維状物などの無機質繊維状物が挙げられる。特に代表的な繊維状充填剤はガラス繊維、またはカーボン繊維である。なお、ポリアミド、フッ素樹脂、アクリル樹脂などの高融点有機質繊維状物質も使用することができる。粒子状充填剤としては、カーボンブラック、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉硅酸カルシウム、硅酸アルミニウム、カオリン、タルク、クレー、硅藻土、ウォラストナイトの如き硅酸塩、酸化鉄、酸化チタン、アルミナの如き金属の酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムの如き金属の炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムの如き金属の硫酸塩、その他炭化硅素、窒化硅素、各種金属粉末等が挙げられる。粒子状充填剤としては、マイカ、ガラスフレーク、各種金属箔等が挙げられる。また、中空状充填剤としては、シラスバルーン、金属バルーン、ガラスバルーン等が挙げられる。これらの充填剤は、有機シラン、有機ボラン、有機チタネート等を使用して表面処理を施すことが好ましい。これらの充填剤は1種または2種以上併用することができる。繊維状充填剤、特にガラス繊維またはカーボン繊維と粒子状または板状充填剤は特に機械的強度と寸法精度、電気的性質等を兼備する上で好ましい組み合わせである。
【0101】
添加剤として充填剤等を用いる場合、充填剤等の効果を十分に発揮させるために、樹脂組成物全体の重量に対する充填剤等の含有量は、通常90重量%以下、好ましくは70重量%以下、より好ましくは60重量%以下とする。一方、上記添加剤を用いる効果を確実に発揮させるために、上記添加剤は通常0.1重量%以上用いられる。
【0102】
4.製造方法
本発明の樹脂組成物は、いかなる製造方法で製造されたものであってもよい。具体的には、用いる樹脂の種類に適した製造方法を用いればよい。以下、樹脂が、結晶性熱可塑性樹脂、非晶性熱可塑性樹脂である場合と、硬化性樹脂である場合とにわけて製造方法の一例を説明する。
(結晶性熱可塑性樹脂、非晶性熱可塑性樹脂の場合)
これら樹脂の場合、樹脂組成物の製造は、大きく溶媒法と溶融混練法とに分けることができる。
(イ)溶媒法
溶媒法としては、例えば、以下の方法がある。すなわち、まず、樹脂を溶媒に溶解させた樹脂溶液を用意する。そして、特定のフラーレン類混合物を上記樹脂溶液と同種又は異種の溶媒に溶解、分散または湿潤させ、これを上記樹脂溶液と混合し、フラーレン類混合物を樹脂溶液中に溶解又は分散させる(これを、便宜的に「フラーレン類含有樹脂溶液」と呼ぶ場合がある)。その後、加熱及び/または減圧等の方法を用いて溶媒を除去し樹脂組成物を得る。
溶媒法を工業製品に応用する具体的な手法としては主としてフラーレン類含有樹脂溶液を支持体の表面に流延または塗布して樹脂膜を形成させるキャスティング法やコーティング法があげられる。
キャスティング法は、一般に、比較的高粘度のフラーレン類含有樹脂溶液を高度に研磨された金属ドラムまたは金属帯(基体)に被着させ、金属基板上でフラーレン類含有樹脂溶液から溶媒を一部除去してフィルム状となった樹脂組成物を形成する。そして、この樹脂組成物を基板から剥ぎ取り、さらに乾燥させることによって、樹脂組成物中に残留している余分の溶媒を除去し、乾燥させたフィルム状の樹脂組成物をロールに巻き取る手法を
いう。
一方、コーティング法は、一般に、比較的低粘度のフラーレン類含有樹脂溶液を可撓性基板に被着させ、乾燥炉内で溶媒を蒸発させ、乾燥させたフィルム状の樹脂組成物/基板の複合材をロールに巻き取る手法などをいう。
粘度に関して、キャスティング法は実用的運転のために、ほぼ10,000〜100,000cPの粘度を有するフラーレン類含有樹脂溶液が通常必要となり、コーティング法は5,000cP未満の非常に低粘度のフラーレン類含有樹脂溶液を通常必要とする。
フラーレン類含有樹脂溶液を作成する方法としては、
1)樹脂、フラーレン類混合物、溶媒を同時に混合してフラーレン類含有樹脂溶液を作製する方法、
2)樹脂と溶媒を混合して樹脂溶液を作成し、それにフラーレン類混合物を加えてフラーレン類含有樹脂溶液を作製する方法、
3)フラーレン類混合物と溶媒を混合して溶液を作成し、それに樹脂を加えてフラーレン類含有樹脂溶液を作製する方法、
4)樹脂と溶媒を混合して樹脂溶液を作成し、フラーレン類混合物と溶媒を混合して得られるフラーレン類混合物を含有する溶液(これを、フラーレン類含有溶液という場合がある。)を作成し、両者を混合してフラーレン類含有樹脂溶液を作製する方法
などが挙げられる。こららいずれの方法でもよいが、フラーレン類混合物を樹脂中により効率的に均一分散させるためには、4)または3)の方法が好ましい。
例えば、4)の方法を実施する場合は、使用する樹脂を完全に溶解するのに十分な量の有機溶媒や水を用意し、この溶媒や水に樹脂を加えて攪拌し、樹脂溶液を得れば良い。また、フラーレン類含有溶液も同様に、それを溶解する有機溶媒や水などの溶媒にフラーレン類混合物を加え攪拌して得れば良い。また、フラーレン類含有溶液においては、最終的な樹脂組成物中で有用な性質を示す限りにおいて、フラーレン類混合物が溶媒中に完全に溶解している必要はない。例えば、樹脂溶液にフラーレン類混合物を添加する場合、樹脂溶液とフラーレン類混合物とが混合しやすいように、フラーレン類混合物を溶媒で湿潤させたり、溶媒中にフラーレン類混合物を分散させたりするなど、フラーレン類混合物が溶解したフラーレン類含有溶液としなくても良い。
溶媒法において、用いる溶媒としては、特に限定されるものではないが、具体的には、ベンゼン、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン、テトラメチルベンゼン、テトラリン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、フルオロベンゼン、クロロベンゼン、ブロモベンゼン、ジクロロベンゼン、ジブロモベンゼン、トリクロロベンゼン、スチレン、ニトロベンゼン、アニソール、ブロモアニソール、ベンズアルデヒド、フェニルイソシアネート、チオフェノール、フェニルナフタレンなどの芳香族炭化水素類、ヘキサン、ヘプタン、ドデカン、テトラデカンなどの鎖式炭化水素類、シクロヘキサン、シクロヘキセン、デカリンなどの環式炭化水素類、ジクロロメタン、トリクロロメタン、テトラクロロメタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ジクロロエタン、テトラクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素類、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコールなどのケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、テトラヒドロフランなどのエーテル類、N−メチルピロリドン、水などが上げられるが、これ以外の有機溶媒を妨げるものではない。また、これらの2種以上を組み合わせた混合溶媒を調製してもよい。また、樹脂溶液の溶媒とフラーレン類含有溶液の溶媒とが異なっていても良い。さらに、これら溶液には、最終的な樹脂組成物の性質を改善するための添加剤のほか、溶液の加工安定性や保存安定性を制御する添加剤を加えても良い。
これら溶液中の樹脂やフラーレン類混合物の濃度は、最終的な樹脂組成物中における樹脂とフラーレン類混合物との量を目的とする割合に調製すれば、特に制限はなく、例えば、塗布加工や乾燥の工程に適した濃度に調製すれば良く、前述のように、キャスティング法であれば粘度をほぼ10,000〜100,000cPとし、コーティング法であれば5,000cP未満の粘度にすればよい。
溶液を作成する装置としては、通常の混合・攪拌装置であればよく特に制限はないが、例えば、マグネチックスターラー、羽根式攪拌機、ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ボールミル、サンドミル、超音波分散機などを挙げることができる。
最適な攪拌混合の温度や時間は、溶媒や樹脂の種類によって異なり一定ではないが、特に制限はなく、工業的に効率的な温度と時間を選択すれば良い。
混合した溶液から溶媒を除去する方法としては、加熱による方法と減圧による方法があり、そのどちらかでも、同時に併用しても、また逐次におこなってもよい。このときの最適な温度や減圧度は溶媒や樹脂の種類によって異なり一定ではないが、特に制限はなく、工業的に効率的な時間と温度を選択すれば良い。但し、残留する溶媒が最終的な樹脂組成物の性質に影響を与える場合には、乾燥温度を溶媒の沸点により近づけるかまたは沸点以上にする、減圧度をできるだけ大きくする、乾燥時間を長くする、などして、残留する溶媒量を少なくする必要がある。また、樹脂の耐熱性が低く、加熱乾燥によっては樹脂が劣化するおそれがある場合には、乾燥温度を上げずに減圧度を大きくしたり、乾燥時間を長くすることによって乾燥させる必要がある。
(ロ)溶融混練法
溶融混練法としては、例えば、樹脂およびフラーレン類混合物を溶融混練して樹脂組成物を得る方法をあげることができる。
また、溶融混練法の他の具体例としては、例えば、樹脂およびフラーレン類混合物を溶融混練して前駆組成物を得た後、さらに上記前駆組成物に樹脂を加えて溶融混練を行うことにより、樹脂組成物を製造する方法を挙げることができる。
すなわち、最終的に製造する樹脂組成物に用いる樹脂の一部とフラーレン類混合物とをあらかじめ溶融混練しておき、フラーレン類混合物を樹脂中に一次分散させる(一段目の溶融混練工程)。その後、残りの樹脂を投入して溶融混練を行うことにより、さらにフラーレン類混合物の分散を行うのである(二段目の溶融混練工程)。
【0103】
この方法を用いることによって、フラーレン類混合物の添加量を多くした場合においても、樹脂組成物中でのフラーレン類混合物の凝集が起こりにくくなり、樹脂組成物中でのフラーレン類混合物の平均粒径を良好に制御することができるようになる。
【0104】
上記一段目の溶融混練工程、すなわち前駆組成物を調製する際における樹脂中のフラーレン類混合物の含有量の下限は、樹脂100重量部に対して、5重量部以上であることが好ましく、特に10重量部以上であることが好ましい。一方、その上限は70重量部以下とすることが好ましく、特に60重量部以下とすることが好ましい。この範囲とすることにより、二段目の溶融混練工程においてフラーレン類混合物を良好に分散させることができるようになるからである。
【0105】
また、上記一段目の溶融混練工程においてフラーレン類混合物を樹脂に添加する際には、フラーレン類混合物は固体状態で添加しても、液体に溶解または分散させて添加しても、少量の液体で湿潤させて添加しても構わないし、同時に他の添加剤と混合して添加しても構わない。このとき用いる液体は特に限定されるものではないが、例えば、上述の溶媒法に記載された溶媒を例示することができる。
【0106】
上記一段目の溶融混練工程及び二段目の溶融混練工程それぞれにおいて用いられる溶融混練方法としては、ロール、バンバリーミキサー、ニーダー、ブラベンダー、一軸押出機、二軸押出機等を用いる方法を挙げることができ、特に一般的に樹脂の溶融混練に用いられる方法であれば特に限定されるものではない。
【0107】
また、上記一段目の溶融混練工程及び二段目の溶融混練工程それぞれにおける溶融混練時の温度範囲は特に制限されず、樹脂の溶解温度と分解温度の間の適切な加工温度に合わせて自由に選択することができる。このような温度の下限は、通常、融点よりも5℃高い
温度以上であり、特に融点よりも10℃高い温度以上、中でも融点よりも20℃高い温度以上であることが好ましい。一方、上限としては、通常、融点よりも150℃高い温度以下であり、特に融点よりも100℃高い温度以下、中でも融点よりも50℃高い温度以下とすることが好ましい。この温度範囲とすれば、フラーレン類混合物の樹脂中への分散が良好となるからである。
【0108】
上記一段目の溶融混練工程及び二段目の溶融混練工程それぞれにおける溶融混練を行う時間は、用いる装置によって異なるものの、通常は、10秒以上、好ましくは30秒以上、より好ましくは1分以上である。溶融混練の時間が過度に短いと、フラーレン類混合物を樹脂中に十分に分散させることができなくなる場合がある。一方、溶融混練を行う時間は、フラーレン類混合物の分散が良好に行われるためには長い方が好ましいが、樹脂の熱劣化を防ぐためには、通常は2時間以下、好ましくは1時間以下、より好ましくは30分以下とする。
【0109】
上記一段目の溶融混練工程及び二段目の溶融混練工程における溶融混練の温度及び時間は、異なっていてもよいが、生産効率の点からは同一であることが好ましい。
【0110】
上記製造方法において用いられる樹脂およびフラーレン類混合物の種類と重量比、さらには各種添加剤等に関しては、既に説明したのでここでの説明は省略する。
【0111】
(硬化性樹脂の場合)
樹脂として硬化性樹脂を用いる場合の製造方法として、例えば、以下の方法を挙げることができる。すなわち、硬化性樹脂を形成するための前駆体とフラーレン類混合物とを含有する樹脂組成物原料を混合する混合工程と、前記前駆体を重合させる重合工程とを有するようにすればよい。
【0112】
この製造方法をより具体的に以下に説明する。
【0113】
まず、硬化性樹脂を形成する前駆体(例えば硬化性樹脂を形成するモノマーを挙げることができ、これら前駆体は通常、常温常湿では液体又は固体の性状を有する。)中にフラーレン類混合物を混合して樹脂組成物原料を得る。
なお、フラーレン類混合物の平均粒径を所定範囲に制御する必要が有る場合には、この樹脂組成物原料を分散処理した後、必要に応じてさらなる前駆体を加えて分散処理樹脂組成物原料を得る。そして、この分散処理樹脂組成物原料に必要に応じてさらに他の前駆体を含有させた後、加熱、紫外線照射、触媒の添加等を行い、前記前駆体を重合させる重合工程を行い、樹脂組成物を得る。なお、上記方法においては、工業的に広く用いられているという点から、前記前駆体を重合させる重合工程において加熱を行うことが好ましい。
【0114】
上記前駆体が液体である場合は、前駆体及びフラーレン類混合物を含有する原料の粘度調整等のためにさらに溶媒を用いてもよい。また、上記前駆体が固体である場合は、前駆体を加熱溶融してフラーレン類混合物を添加しても良いし、上記前駆体及びフラーレン類混合物に溶媒を添加してもよい。このような溶媒としては、特に制限はないが、例えば、トルエン、ベンゼン、キシレン、メチルエチルケトンを挙げることができる。上記粘度調整の観点から、前駆体に対して用いる溶媒の量は、その下限が通常1重量%以上、好ましくは5重量%以上であり、一方、その上限は通常50重量%以下、好ましくは40重量%以下とする。
【0115】
また、フラーレン類混合物を、硬化性樹脂を形成する前駆体に添加する際には、フラーレン類混合物は固体状態で添加しても、液体に溶解または分散させて添加しても、少量の液体で湿潤させて添加してもよく、同時に他の添加剤と混合して添加してもよい。
【0116】
樹脂組成物原料を得るために、混合を行う際に用いる装置としては、例えば、ホモジナイザー、ペイントシェーカー、プラネタリーミキサー、ボールミル、サンドミル、ロール、二軸混練機等を挙げることができる。
【0117】
また、混合を行う時間は、用いる装置によって異なるものの、通常は、30秒以上、好ましくは1分以上、より好ましくは3分以上である。混合の時間が過度に短いと、フラーレン類混合物を前駆体中に十分に分散させることができなくなる場合がある。一方、混合を行う時間は、フラーレン類混合物の分散が良好に行うためには長い方が好ましいが、生産効率を考慮すれば、通常は24時間以下、好ましくは10時間以下、より好ましくは5時間以下とする。
【0118】
また、混合を行う温度は、特に制限はされないが、10℃以上200℃以下の範囲で行えばよい。
【0119】
また、上記樹脂組成物原料を加熱、光照射、または触媒添加を行って上記前駆体を重合させる熱硬化工程における、硬化性樹脂を形成するための硬化条件は、用いる樹脂によって異なるものであり、硬化性樹脂ごとの従来公知の方法を用いればよい。
【0120】
本発明の具体的な方法としては、例えばエポキシ樹脂の場合、液状のエポキシ化合物にフラーレン類混合物を加えて、ホモジナイザー等を用いて混合して樹脂組成物原料を得た後、液状のアミン化合物等の硬化剤を規定量加えて攪拌して、型に注ぎ、オーブン等で加熱して硬化物を得る方法が挙げられる。
上記製造方法において用いられる樹脂およびフラーレン類混合物の種類と重量比、さらには各種添加剤等に関しては、既に説明したのでここでの説明は省略する。
【0121】
5.成形体
本発明の樹脂組成物は、プレス成形、押出成形、射出成形など公知の方法で成形体とすることができる。このような成形体は、フラーレン類混合物が添加されていない樹脂組成物やC60及びC70のようなフラーレン骨格部分の炭素数が70以下のフラーレン類のみを含有する樹脂組成物と比較して耐熱性にすぐれ、電気電子機器、自動車、建築資材、工業機械の部品など様々な製品に広く利用することができる。
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0122】
以下に実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、樹脂組成物に用いた(A)高次フラーレン、(B)混合フラーレン、(C)C60フラーレン、(D)C70フラーレン、(E)ポリスチレン樹脂、(F)トルエンは以下の通りである。なお、実施例中で「部」とは「重量部」を意味する。
(A)高次フラーレン(フラーレン骨格部分の炭素数が70を超えるフラーレン類を1種以上含有するフラーレン類混合物)
高次フラーレン(以下実施例ではHFLと表記する)は、C60=1重量%、C70=3重量%(C70の酸化体0.4重量%を含む)、Cn(nはn>70を満たす整数)=96重量%(そのうち、C76=12重量%、C78=18重量%、C84=31重量%がそれぞれ含有される。)であるフラーレンを用いた。
なお、ここで用いたフラーレン類混合物(HFL)の20%減量温度を以下の方法で測定したところ、414℃であった(以下フラーレン類混合物の20%減量温度はこれと同
様に測定した)。
[熱重量・示差熱分析法の測定条件]
装置:島津製作所製DTG−50
試料量:約10mg
温度範囲:30℃〜600℃
昇温速度:10℃/分(30℃で5分間保持した後昇温を開始する。)
ガス流量:空気70ml/分
セル:アルミニウムセル(6mmφ×5mmH)
参照物質:α−アルミナ(約20mg)
30℃で5分間保持する前におけるフラーレン類混合物の総重量を基準(100%)として、20%重量が減少する温度を20%減量温度とする。
(B)混合フラーレン(フラーレン骨格部分の炭素数が70を超えるフラーレン類を1種以上含有するフラーレン類混合物)
混合フラーレン(以下実施例ではMFと表記する場合がある)は、C60=62重量%(C60の酸化体0.2重量%を含む)、C70=23重量%(C70の酸化体0.1重量%を含む)、Cn(nはn>70を満たす整数)=15重量%であるフラーレンを用いた。
なお、MFの20%減量温度は472℃であった。
(C)C60フラーレン
C60フラーレンは、C60=100重量%(C60の酸化体1重量%を含む)、C70=0重量%、Cn(nはn>70を満たす整数)=0重量%であるフラーレンを用いた。
なお、C60の20%減量温度は580℃であった。
(D)C70フラーレン(フラーレン骨格部分の炭素数が70を超えるフラーレン類を1種以上含有するフラーレン類混合物)
C70フラーレンは、C60=1重量%、C70=98.5重量%(C70の酸化体0.5重量%を含む)、Cn(nはn>70を満たす整数)=0.5重量%であるフラーレンを用いた。
なお、C70フラーレンの20%減量温度は502℃であった。
(E)ポリスチレン樹脂
重量平均分子量280,000のポリスチレン(Aldrich社製)を用いた。以下実施例では、このポリスチレン樹脂をPSと表記する。
(F)トルエン
試薬特級のトルエン(純正化学社製)を用いた。
(実施例1)
PS100部をトルエン400部に溶解して、PS溶液を作製し、またHFL0.30部をトルエン300部に溶解して、HFL溶液を作製した。これらの溶液を混合して、マグネットスターラーを用いて攪拌し、アルミニウム製容器に入れ、室温下で24時間乾燥固化させた後、さらに真空乾燥機を用いて80℃で2時間減圧乾燥してフィルム状の試料片を得た。得られたサンプルを約10mg秤量して、TG−DTAによる耐熱性試験に供した。
<TG−DTA測定条件>
装置:島津製作所製DTG−50
試料量:約10mg
温度範囲:30℃〜500℃
昇温速度:10℃/分(30℃で5分間保持した後昇温を開始する。)
ガス流量:空気70mL/分
セル:アルミニウムセル(6mmφ×5mmH)
参照物質:α−アルミナ(約20mg)
耐熱性指標:
得られた減量曲線において、試料温度が240℃時点の重量を基準として、この重量に対する10%減量温度を読み取り、耐熱性の指標とした。なお、この240℃においてPS
の減量がほとんど起こっていないことを比較例1における測定で確認している。
(実施例2)
HFLとそれを溶解するトルエンの量をそれぞれ1.00部、1000部としたほかは、実施例1と同様に実施した。
(実施例3)
HFLとそれを溶解するトルエンの量をそれぞれ3.00部、3000部としたほかは、実施例1と同様に実施した。
(実施例4)
HFLの代わりにMF0.23部、それを溶解するトルエンの量を230部としたほかは、実施例1と同様に実施した。
(実施例5)
HFLの代わりにC70フラーレンを0.25部、それを溶解するトルエンの量を250部としたほかは、実施例1と同様に実施した。
(実施例6)
HFLの代わりにC60フラーレンと実施例5で用いたC70フラーレンを、それぞれ0.17部、0.06部の合計0.23部を用い、それを溶解するトルエンの量を230部としたほかは、実施例1と同様に実施した。なお、本実施例で用いたフラーレン組成は、その混合比から計算され、C60=73.3重量%、C70=26.6重量%、Cn(nはn>70を満たす整数)=0.1重量%であった。なお、ここで用いたフラーレン類混合物の20%減量温度を測定した結果は523℃であった。
(比較例1)
フラーレン類を全く加えないほかは、実施例1と同様に実施した。
(比較例2)
HFLの代わりにC60フラーレンを0.22部、それを溶解するトルエンの量を220部としたほかは、実施例1と同様に実施した。
(比較例3)
HFLの代わりにC60フラーレンを2.20部、それを溶解するトルエンの量を2200部としたほかは、実施例1と同様に実施した。
以上の実施例1〜6、比較例1〜3の各樹脂組成物の耐熱性を表−1に示す。表−1では、「実施例」は「実」と、「比較例」は「比」と、「C60フラーレン」は「C60」と、「C70フラーレン」は「C70」と、記載してある。
【0123】
【表1】



実施例1、4、5、6の結果と比較例2との結果とを比較することにより、フラーレン骨格部分の炭素数が70を超えるフラーレン類(Cn(nはn>70を満たす整数))を1種以上含有することにより、ほぼ当量のC60フラーレンを添加した場合に比べて、耐熱性が向上することがわかる。
また、実施例2の結果と比較例3の結果とを比較することにより、HFLはC60のほぼ半分の添加量でC60添加の場合よりも高い耐熱性を有することが分かる。
また、実施例3の結果から、HFLの添加量をより大きくするとより耐熱性が向上することが分かる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂と、フラーレン骨格部分の炭素数が70を超えるフラーレン類を1種以上含有するフラーレン類混合物と、を有することを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
前記フラーレン類混合物が、前記フラーレン骨格部分の炭素数が70を超えるフラーレン類を2種以上含有する請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記樹脂100重量部に対して、前記フラーレン骨格部分の炭素数が70を超えるフラーレン類が0.0001重量部以上含有される請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
下記測定条件で熱重量・示差熱分析(TG−DTA)を行った場合における、前記フラーレン類混合物の総重量の20%が減少する温度が570℃以下である請求項1乃至3のいずれかに記載の樹脂組成物。
(熱重量・示差熱分析法の測定条件)
空気70ml/分の気流下で、フラーレン類混合物試料約10mgを昇温速度10℃/分で30℃から600℃まで昇温し、測定開始前の重量を基準(100%)として20%減量温度を求める。
【請求項5】
前記樹脂が結晶性熱可塑性樹脂、非晶性熱可塑性樹脂、及び硬化性樹脂のいずれかである請求項1乃至4のいずれかに記載の樹脂組成物。



【公開番号】特開2006−16466(P2006−16466A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−194507(P2004−194507)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】