説明

樹脂組成物

【課題】各種基材に密着性、ヒートシール性の良好な樹脂組成物を提供する。
【解決手段】不飽和カルボン酸無水物成分を0.1〜10質量%含有するポリオレフィン樹脂(A)と、全構成モノマー成分中のエチレングリコール単位およびテレフタル酸単位を除いた成分の割合が10モル%以上でかつ水酸基を有するポリエステル樹脂(B)との混合物であって、ポリオレフィン樹脂(A)の不飽和カルボン酸無水物成分とポリエステル樹脂(B)の水酸基の少なくとも一部が反応している樹脂組成物およびその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定組成のポリオレフィン樹脂とポリエステル樹脂との混合物であって、両者の少なくとも一部が反応していることを特徴とする樹脂組成物、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィンは廉価で種々の機械的性質、透明性、耐熱性、電気特性、表面光沢性、耐薬品性、耐酸性及び耐アルカリ性に優れ、また、射出成形、ブロー成形、種々のタイプのフィルム成形等の各種成形法による成形が容易であることから、自動車、電気、包装、日用雑貨を中心に大量に使用されている。
【0003】
中でも、酸変性ポリオレフィン樹脂は、ポリエステル樹脂やポリアミド樹脂の耐衝撃性を向上させるために両者を溶融混練するに使用されている。例えば、特許文献1、2にはポリオレフィン樹脂とポリエステル樹脂との溶融混練した樹脂が記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開平7−286048号公報
【特許文献2】特開平10−139985号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1、2には得られた樹脂の接着剤性能として密着性、ヒートシール性などに関する記載は全く無く、ポリオレフィン樹脂やポリエステル樹脂の組成や混合割合が密着性、ヒートシール性に及ぼす知見は無かった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定組成のポリオレフィン樹脂とポリエステル樹脂との混合物であって、両者の少なくとも一部が反応している樹脂組成物は各種基材に対する密着性、ヒートシール性が向上するといった効果を見出し、本発明に到達した。
【0007】
すなわち本発明の要旨は、以下のとおりである。
(1)不飽和カルボン酸無水物成分を0.1〜10質量%含有するポリオレフィン樹脂(A)と、全構成モノマー成分中のエチレングリコール単位およびテレフタル酸単位を除いた成分の割合が10モル%以上でかつ水酸基を有するポリエステル樹脂(B)との混合物であって、ポリオレフィン樹脂(A)の不飽和カルボン酸無水物成分とポリエステル樹脂(B)の水酸基の少なくとも一部が反応していることを特徴とする樹脂組成物。
(2)ポリオレフィン樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)の質量比(A)/(B)が99.9/0.1〜50/50であることを特徴とする(1)記載の樹脂組成物。
(3)ポリエステル樹脂(B)の水酸基価が2〜80mgKOH/gであることを特徴とする(1)または(2)記載の樹脂組成物。
(4)ポリオレフィン樹脂(A)が(メタ)アクリル酸エステル成分を含有していることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の樹脂組成物。
(5)ポリオレフィン樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)とを溶融混練することを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の樹脂組成物の製造方法。
(6)(1)〜(4)のいずれかに記載の樹脂組成物と有機溶剤を含有するコート液。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、各種基材の密着性、ヒートシール性に優れた樹脂組成物が提供され、接着剤や接着剤原料として使用することができる。本発明の樹脂組成物は、特にポリオレフィン基材とポリエステル基材との密着性、ヒートシール性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
ポリオレフィン樹脂(A)の主成分であるオレフィン成分としては、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、ノルボルネン類等が挙げられ、これらのモノマーの混合物を用いてもよい。この中で、エチレン、プロピレンを主たる構成モノマーとする樹脂がより好ましい。
【0011】
本発明におけるポリオレフィン樹脂(A)は、不飽和カルボン酸無水物成分を0.1〜10質量%含有したものであり、好ましくは0.5〜8質量%であり、より好ましくは1〜7質量%である。不飽和カルボン酸無水物成分が0.1質量%未満の場合は、ポリエステル樹脂(B)を混合した場合の密着性、ヒートシール性向上効果が小さい。さらに、金属等の極性の高い材料との密着性が低下する傾向がある。また、不飽和カルボン酸無水物成分が10質量%を超える場合は、極性の低い基材(例えばポリオレフィン樹脂など)に対する密着性が低下する傾向にある。
【0012】
尚、ポリオレフィン樹脂(A)が含有する不飽和カルボン酸無水物は、一部または全てが開環していても、本発明における密着性、ヒートシール性が損なわれることはない。
【0013】
不飽和カルボン酸無水物成分は、分子内(モノマー成分内)に少なくとも1個のカルボキシル酸無水物基を有する化合物であり、具体的には、無水マレイン酸、無水ハロゲン化マレイン酸、無水シトラコン酸、無水テトラヒドロフタル酸、無水メチルテトラヒドロフタル酸、無水ハロゲン化シトラコン酸、無水イタコン酸、無水ハロゲン化イタコン酸、シス−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、エンド−ビシクロ−[2,2,1]−5−ヘプテン−2,3−ジカルボン酸無水物、メチル−エンド−シス−ビシクロ−[2,2,1]−5−ヘプテン−2,3−ジカルボン酸無水物、エンド−ビシクロ−[2,2,1]−1,2,2,2,7,7−ヘキサクロロ−2−ヘプテン−5,6−ジカルボン酸無水物などが挙げられる。中でも無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水イタコン酸が好ましく、特に無水マレイン酸が好ましい。また不飽和カルボン酸無水物成分は、ポリオレフィン樹脂中に共重合されていればよく、その形態は限定されるものではなく、例えばランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合等が挙げられる。
【0014】
さらに、ポリオレフィン樹脂(A)は、様々な樹脂基材との良好な密着性、ヒートシール性を持たせるために(メタ)アクリル酸エステル成分(A3)を含有していることが好ましい。(メタ)アクリル酸エステル成分(A3)の含有量について、オレフィン成分(A2)と(メタ)アクリル酸エステル(A3)成分との質量比(A2)/(A3)は、この2成分の合計量を100質量%とした場合60/40〜99/1であることが好ましく、75/25〜95/5であることがより好ましい。(A3)成分の比率が1質量%未満では、密着性向上効果が小さく、40質量%を超えるとオレフィン成分由来の樹脂の性質が失われ、ポリオレフィン基材との密着性が低下する。
【0015】
(メタ)アクリル酸エステル(A3)成分としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル等が挙げられる。中でも、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチルが特に好ましい。
【0016】
また、ポリオレフィン樹脂(A)には、次のような成分が20質量%を上限として含有されていてもよい。すなわち、ブタジエン等ジエン類、スチレン、置換スチレン、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル等のマレイン酸エステル類、(メタ)アクリル酸アミド類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテルなどのアルキルビニルエーテル類、ぎ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等のビニルエステル類ならびにビニルエステル類を塩基性化合物等でケン化して得られるビニルアルコール、2−ヒドロキシエチルアクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、ハロゲン化ビニル類、ハロゲン化ビリニデン類、一酸化炭素、二酸化硫黄などであり、これらの混合物でもよい。これらの成分は、ポリオレフィン樹脂(A)中に共重合されていればよく、その形態は特に限定されず、例えば、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合(グラフト変性)等が挙げられる。
【0017】
ポリオレフィン樹脂(A)の具体例としては、エチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体、エチレン−プロピレン−無水マレイン酸共重合体、エチレン−ブテン−無水マレイン酸共重合体、プロピレン−ブテン−無水マレイン酸共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン−無水マレイン酸共重合体、エチレン−プロピレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体、エチレン−ブテン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体、プロピレン−ブテン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体などが挙げられ、中でもエチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体が最も好ましい。
【0018】
ポリオレフィン樹脂(A)は、分子量の目安となる190℃、2160g荷重におけるメルトフローレートは特に限定されないが通常、0.001〜10000g/10分であり、0.01〜1000g/10分が好ましく、0.1〜500g/10分がさらに好ましく、1〜300g/10分が特に好ましい。ポリオレフィン樹脂(A)のメルトフローレートが0.01g/10分未満では、樹脂の溶融混練が困難になる。一方、ポリオレフィン樹脂(A)のメルトフローレートが1000g/10分を超えると得られる密着性、ヒートシール性が低下する傾向がある。
【0019】
本発明におけるポリエステル樹脂(B)とは、多塩基酸成分と多価アルコール成分とを主成分とする高分子である。
【0020】
ポリエステル樹脂(B)を構成する多塩基酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、無水フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;シュウ酸、コハク酸、無水コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、アイコサン二酸、水添ダイマー酸等の飽和脂肪族ジカルボン酸;フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、ダイマー酸等の不飽和脂肪族ジカルボン酸;1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、2,5−ノルボルネンジカルボン酸及びその無水物、テトラヒドロフタル酸およびその無水物等の脂環式ジカルボン酸が挙げられる。特に工業的に多量に生産され安価であることからテレフタル酸とイソフタル酸が好ましい。
【0021】
ポリエステル樹脂(B)を構成する多価アルコール成分としては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,3‐プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,9−ノナンジオール、2−エチル−2−ブチルプロパンジオール等の脂肪族グリコール;1,4−シクロヘキサンジメタノール等の脂環族グリコール;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のエーテル結合含有グリコール;2,2−ビス[4−(ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパンのようなビスフェノール類(ビスフェノールA等)およびそのエチレンオキシド付加体、ビス[4−(ヒドロキシエトキシ)フェニル]スルホンのようなビスフェノール類(ビスフェノールS等)およびそのエチレンオキシド付加体等が挙げられる。特に工業的に多量に生産されているので安価であることからエチレングリコールとネオペンチルグリコールを使用することが好ましい。
【0022】
ポリエステル樹脂(B)は前記した成分を公知の方法により重縮合させることにより製造することができる。例えば、全モノマー成分および/またはその低重合体を不活性雰囲気下で180〜260℃、2.5〜10時間程度反応させてエステル化反応をおこない、引き続いて重縮合触媒の存在下、130Pa以下の減圧下に220〜280℃の温度で所望の分子量に達するまで重縮合反応を進めてポリエステル樹脂を得る方法等を挙げることができる。
【0023】
本発明のポリエステル樹脂(B)は、密着性、ヒートシール性が良好になる点から、全構成モノマー成分中のエチレングリコール単位およびテレフタル酸単位を除いた成分の割合(以下、この割合を「変性率」という。)が10モル%以上である必要がある。さらに、ヒートシール性を向上させる点から、変性率は20モル%以上がより好ましく、25〜モル90%がさらに好ましく、30〜80モル%が特に好ましい。
【0024】
ポリエステル樹脂(B)は水酸基を有している必要があり、その水酸基価は2〜80mgKOH/gであることが好ましい。本発明においてポリエステル樹脂(B)の水酸基価は、後述のように、ポリオレフィン樹脂(A)の酸無水物基との反応を起す基点として重要な値である。そして両者の少なくとも一部が反応することによって各種基材に対する密着性、ヒートシール性が向上すると考えられる。その水酸基価としては、2〜70mgKOH/gが好ましく、3〜70mgKOH/gがより好ましく、5〜70mgKOH/gがさらに好ましく、10〜70mgKOH/gが特に好ましい。水酸基価が2mgKOH/g未満の場合は、各種基材に対する密着性、ヒートシール性向上効果が小さい。一方、水酸基価が80mgKOH/gを超える場合は、ポリエステル樹脂の分子量が小さくなり密着性が低下する場合がある。
【0025】
本発明における、ポリエステル樹脂(B)の酸価は特に限定されないが、10mgKOH/g以下であることが好ましく、5mgKOH/g以下であることがより好ましい。酸価が10mgKOH/gを超える場合には、ポリエステル基材とポリオレフィン基材との密着性、ヒートシール性が低下する場合がある。
【0026】
ポリエステル樹脂(B)の酸価や水酸基価を制御するためには、重縮合反応に引き続き、多塩基酸成分または多価アルコール成分をさらに添加し、不活性雰囲気下、解重合をおこなう方法等を採用することができる。
【0027】
ポリエステル樹脂(B)の数平均分子量は、500〜30,000の範囲が好ましく、1,000〜20,000の範囲がより好ましく、1,000〜15000の範囲がさらに好ましい。数平均分子量が500未満の場合は基材との密着性、ヒートシール性が低下してしまう。一方、30,000を超えた場合も基材との密着性、ヒートシール性が低下する傾向がある。
【0028】
ポリエステル樹脂(B)のガラス転移温度は、特に限定されないが、接着剤のヒートシール性が良好となる観点から、−40〜80℃が好ましく、0〜70℃がより好ましい。
【0029】
本発明の樹脂組成物においては、混合されたポリオレフィン樹脂(A)の不飽和カルボン酸無水物成分とポリエステル樹脂(B)の水酸基の少なくとも一部が反応している必要がある。ここで、「少なくとも一部が反応している」とは、ポリオレフィン樹脂(A)の不飽和カルボン酸無水物成分とポリエステル樹脂(B)の水酸基がエステル化反応していることである。
【0030】
ポリオレフィン樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)とのエステル化反応は、ポリオレフィン樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)の混合樹脂の酸価の測定によって確認できる。例えば、ポリオレフィン樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)の混合樹脂の実測酸価と、式(1)によって算出される混合樹脂の理論酸価とを比較し、実測酸価が理論酸価より低いとき、ポリオレフィン樹脂(A)とポリエステル(B)とが反応していると判定できる。
【0031】
式(1): 理論酸価(mgKOH/g)={〔ポリオレフィン樹脂(A)の酸価〕×〔ポリオレフィン樹脂(A)の混合比率(質量%)〕+〔ポリエステル樹脂(B)の酸価〕×〔ポリエステル樹脂(B)の混合比率(質量%)〕
ここで、「混合比率(質量%)」とは、ポリオレフィン樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)の混合樹脂の総和を100質量%としたときの値である。
【0032】
本発明のポリオレフィン樹脂(A)と、ポリエステル樹脂(B)との混合物は、(A)と(B)の質量比(A)/(B)が99.9/0.1〜50/50であることが好ましい。基材との密着性向上効果の点から、(A)/(B)は99.5/0.5〜60/40が好ましく、99/1〜70/30がより好ましく、99/1〜80/20がさらに好ましく、99/1〜85/15が特に好ましい。ポリエステル樹脂(B)の割合が0.1質量%未満の場合や50質量%以上の場合は混合によって密着性、ヒートシール性が向上するといった効果が認められない場合がある。
【0033】
ポリオレフィン樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)の混合方法は特に限定されないが、工業的に最も簡便である溶融混練法によって混練することが望ましい。この際、一般的な押出機を用いることができ、混練状態の向上、両者間の反応促進のため、二軸の押出機を使用することが好ましい。ポリオレフィン樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)の押出機への供給は、予め両樹脂をドライブレンドしたものを一つのポッパーから供してもよいし、二つのホッパーにそれぞれの樹脂を仕込みポッパー下のスクリュー等で定量しながら供してもよい。
【0034】
溶融混練する温度は、両者の少なくとも一部を反応させるために、ポリオレフィン樹脂(A)の融点またはポリエステル樹脂(B)のガラス転移温度の高い方の温度以上であることが好ましい。また、上限は350℃以下であることが好ましく、300℃以下であることがより好ましい。さらに、溶融樹脂をストランドとして得やすくするには、ポリオレフィン樹脂(A)の融点またはポリエステル樹脂(B)のガラス転移温度の高い方の温度以上から250℃以下であることが好ましい。混練温度が少なくとも一方の樹脂の融点やガラス転移温度より低い場合には、溶融混練の効果が低下する場合があり、350℃を超える場合は、樹脂の酸化や熱分解が起こり、物性が低下しやすい。
【0035】
更に両者の縮合反応を高めるために、押出機のバレル途中に設けられたベント口より押出機内を減圧してもよい。
【0036】
溶融混練の際には、目的に応じて、架橋剤、顔料、熱安定剤、酸化防止剤、耐候剤、難燃剤、可塑剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、充填材等を添加してもよい。また、ポリオレフィン樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)の反応性を向上させる目的で、相溶化剤を添加してもよい。
【0037】
本発明の樹脂組成物は各種基材に密着性、ヒートシール性が良好であるため、ホットメルト、溶液、フィルム等の形態での接着剤や接着剤原料として用いることが好適である。なお、溶液で使用する場合は、ポリオレフィン樹脂を溶解できる公知の有機溶媒を用いればよい。このような溶媒としては、例えば、トルエン、デカリン、キシレン、などの炭化水素溶媒が挙げられる。また、ポリオレフィン樹脂の公知の水性化方法を用いて水性分散体としてもよい。
【実施例】
【0038】
以下に実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、各種特性については以下の方法によって測定または評価した。
【0039】
1. 樹脂の特性
(1)ポリオレフィン樹脂の構成
H−NMR分析(バリアン社製、300MHz)より求めた。ポリオレフィン樹脂は、オルトジクロロベンゼン(d)を溶媒とし、120℃で測定した。
(2)ポリエステル樹脂の構成
ポリエステル樹脂は、クロロホルム(d)またはトリフルオロ酢酸(d)を溶媒とし、室温で測定した。1H−NMRスペクトル上に帰属・定量可能なピークが認められない構成モノマーを含むポリエステル樹脂については、封管中230℃で3時間メタノール分解を行った後に、ガスクロマトグラム分析に供し、定量分析を行った。
(3)樹脂の酸価
樹脂0.5gを50mlのテトラヒドロフラン(THF)に仕込み60℃のホットスターラで溶解し、クレゾールレッドを指示薬としてKOHで滴定を行い、中和に消費されたKOHのmg数から樹脂中の酸価(mgKOH/g)を求めた。
(4)ポリエステル樹脂の水酸基価
ポリエステル樹脂3gを精秤し、無水酢酸0.6ml及びピリジン50mlとを加え、室温下で48時間攪拌して反応させ、続いて、蒸留水5mlを添加して、更に6時間、室温下で攪拌を継続することにより、上記反応に使われなかった分の無水酢酸も全て酢酸に変えた。この液にジオキサン50mlを加えて、クレゾールレッド・チモールブルーを指示薬としてKOHで滴定を行い、中和に消費されたKOHの量(W1)と、最初に仕込んだ量の無水酢酸がポリエステル樹脂と反応せずに全て酢酸になった場合に中和に必要とされるKOHの量(計算値:W0)とから、その差(W0-W1)をKOHのmg数で求め、これをポリエステル樹脂のg数で割った値を水酸基価とした。
(5)樹脂の融点、ガラス転移温度(Tg)
樹脂10mgをサンプルとし、DSC(示差走査熱量測定)装置(パーキンエルマー社製 DSC7)を用いて昇温速度10℃/分の条件で測定を行い、得られた昇温曲線から融点を求めた。また、得られた昇温曲線中のガラス転移に由来する2つの折曲点の温度の中間値を求め、これをTgとした。
(6)樹脂のメルトフローレート
JIS 6730記載(190℃、2160g荷重)の方法で測定した。
(7)ポリエステル樹脂の数平均分子量
数平均分子量は、GPC分析(島津製作所製の送液ユニットLC−10ADvp型及び紫外−可視分光光度計SPD−6AV型を使用、検出波長:254nm、溶媒:テトラヒドロフラン、ポリスチレン換算)により求めた。
【0040】
2. 塗膜の特性
以下の評価においては、基材として、2軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(ユニチカ社製エンブレットPET12、厚み12μm)、延伸ポリプロピレン(OPP)フィルム(東セロ社製、厚み50μm)、ポリエチレン(PE)フィルム(東セロ社製、厚み50μm)、アルミ板(厚み2mm)、銅版(厚み2mm)、ガラス板(厚み2mm)を用いた。
(1)密着性(テープ剥離試験)
延伸OPPフィルム、PEフィルム、2軸延伸PETフィルムのコロナ処理面、アルミ板、銅板、ガラス板に樹脂の8質量%トルエン溶液(50℃加熱)を乾燥後の膜厚が2μmになるようにマイヤーバーを用いて塗布した後、100℃で5分間、乾燥させた。得られた積層フィルム(ガラス、金属板)は室温で1日放置後、評価した。塗布剤面にセロハンテープ(ニチバン社製TF−12)を貼り付け、テープを一気に剥がした場合の剥がれの程度を次の基準で目視評価した。
【0041】
○:全く剥がれなし
△:一部、剥がれた
×:全て剥がれた
(3)ヒートシール強度
樹脂の8質量%トルエン溶液(50℃加熱)を、2軸延伸PETフィルムのコロナ処理面に、乾燥後の膜厚が2μmになるように塗布し、90℃で2分間、乾燥させた。得られた積層フィルムのコート層と延伸OPPフィルムのコロナ処理面とを貼り合わせ、ヒートプレス機(シール圧0.2MPa/cm2で6.5秒間)にて100℃でプレスした。このサンプルを15mm幅で切り出し、1日後、引張試験機(インテスコ株式会社製インテスコ精密万能材料試験機2020型)を用い、引張速度200mm/分、引張角度180度で被膜の剥離強度を測定した(測定はn=5で行い測定値はその平均値)。同様にして、2軸延伸PETフィルムのコロナ処理面とPEフィルムとの貼り合わせにおけるヒートシール強度も測定した。
【0042】
ポリオレフィン樹脂(A)としては、市販品であるボンダインHX8290(アルケマ社製、以下HX8290とする)、ボンダインTX8030(アルケマ社製、以下TX8030とする)、ニュクレルN410(三井デュポンケミカル社製、以下N410とする)と以下に示す樹脂A−1を用いた。
【0043】
(ポリオレフィン樹脂A−1の製造)
プロピレン−ブテン−エチレン三元共重合体(ヒュルスジャパン社製、ベストプラスト708、プロピレン/ブテン/エチレン=64.8/23.9/11.3質量%)2.8Kgをオートクレブに仕込み、窒素雰囲気下で加熱溶融させた後、系内温度を170℃に保って攪拌下、不飽和カルボン酸として無水マレイン酸120gとラジカル発生剤としてジクミルパーオキサイド40gをそれぞれ1時間かけて加え、その後1時間反応させた。反応終了後、カッターでペレット化し、多量のアセトン中に投入し、樹脂を析出させた。この樹脂をさらにアセトンで数回洗浄し、未反応の無水マレイン酸を除去した後、減圧乾燥機中で減圧乾燥してポリオレフィン樹脂A−1を得た。
【0044】
用いたポリオレフィン樹脂(A)の特性を表−1にまとめた。
【0045】
【表1】

【0046】
ポリエステル樹脂(B)としては以下に示すポリエステル樹脂を用いた。
【0047】
(ポリエステル樹脂P−1の製造)
テレフタル酸25.10kg、イソフタル酸10.76kg、エチレングリコール9.38kg、ネオペンチルグリコール13.48kgからなる混合物をオートクレーブ中で、260℃で4時間加熱してエステル化反応を行った。次いで触媒として三酸化アンチモンを1質量%含有するエチレングリコール溶液を1.57kg添加し、系の温度を280℃に昇温し、系の圧力を徐々に減じて1.5時間後に13Paとした。この条件下でさらに1時間、重縮合反応を行った後、カッターでペレット化して樹脂P−1を得た。
【0048】
(ポリエステル樹脂P−2の製造)
テレフタル酸12.19kg、イソフタル酸1.58kg、アジピン酸2.15kg、エチレングリコール5.28kg、ネオペンチルグリコール4.69kgからなる混合物をオートクレーブ中において260℃で2.5時間加熱してエステル化反応を行った。次いで、触媒としての三酸化アンチモンを1重量%含有するエチレングリコール溶液を600g添加し、系の温度を280℃に昇温し、系の圧力を徐々に減じて13Paとした。この条件下でさらに重縮合反応を続け、1.5時間後に系を窒素ガスで常圧にし、系の温度を210℃まで下げ、2,2−ビス(4−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン1.92kgを添加して、この温度で55分間撹拌して解重合反応を行った。その後、窒素ガスで加圧状態にしておいてシート状に樹脂を払い出した。そしてこれを室温まで十分に冷却した後、クラッシャーで粉砕し、篩を用いて目開き1〜6mmの分画を採取し、粒状のポリエステル樹脂P−2を得た。
【0049】
市販のポリエチレンテレフタレート樹脂(ユニチカ社製、ポリエステル樹脂NEH−2050、以下PET)も比較にため用いた。
用いたポリエステル樹脂(B)の特性を表−2にまとめた。
【0050】
【表2】

【0051】
(実施例1)
ポリオレフィン樹脂HX8290とポリエステル樹脂P−1とを、HX8290/P−1=99/1の質量比でドライブレンドし、それを温度160℃の2軸混練機(池貝製PCM−30、スクリュー回転180rpm、吐出量100g/分)で溶融混練し、カッターでペレット化して樹脂組成物を得た。得られた樹脂をトルエン還流下で溶解し、8質量%溶液として塗膜の性能を評価した結果を表−3に示す。
【0052】
(実施例2〜9)
表3に示すように、ポリオレフィン樹脂とポリエステル樹脂の種類および混合比を変えた以外は、実施例1と同様の操作を行った(ポリオレフィンにTX8030及びA−1を使用した場合は溶融混練温度を200℃とした)。塗膜の性能を評価した結果を表3に示す。
【0053】
(比較例1、2)
ポリオレフィン樹脂HX8290(比較例1)、TX8030(比較例2)を単独で用いた。それぞれの樹脂をトルエン還流下で溶解し、8質量%溶液として塗膜の性能を評価した結果を表4に示す。
【0054】
(比較例3)
ポリエステル樹脂として変性率が本発明の範囲外のPETを用いた。ポリオレフィン樹脂HX8290とPETとを、HX8290/PET=95/5の質量比でドライブレンドし、それを温度260℃の2軸混練機(池貝製PCM−30、スクリュー回転180rpm、吐出量100g/分)で溶融混練し、カッターでペレット化して樹脂組成物を得た。得られた樹脂を8質量%溶液となるように、トルエン還流下したが完全には溶解しなかった。
【0055】
(比較例4)
ポリオレフィン樹脂として本発明の範囲外の樹脂(酸無水物基を有さない樹脂)を用いた。ポリオレフィン樹脂N410とポリエステル樹脂P−1とを、N410/P−1=95/5の質量比でドライブレンドし、それを温度160℃の2軸混練機(池貝製PCM−30、スクリュー回転180rpm、吐出量100g/分)で溶融混練し、カッターでペレット化して樹脂組成物を得た。得られた樹脂をトルエン還流下で溶解し、8質量%溶液として塗膜の性能を評価した結果を表4に示す。
【0056】
【表3】

【0057】
【表4】

【0058】
実施例1〜6の結果より、特定組成のポリオレフィン樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)とを混合して得られ、両樹脂が反応している樹脂組成物は各種基材との密着性に優れ、しかもポリオレフィン樹脂単独(比較例1)に比べヒートシール性が向上した。これは、ポリオレフィン樹脂の組成が変わっても同様の傾向であった(実施例7、8と比較例2との比較)。さらに、ポリオレフィン樹脂の主骨格がポリプロピレンになった場合でも各種基材への密着性、ヒートシール性は良好であった(実施例9)。実施例5では、樹脂組成物中のポリエステル樹脂(B)含有率が50質量%以上であったため、密着性、ヒートシール性の向上はわずかであった。
【0059】
比較例3では、ポリエステル樹脂の変性率が0モル%(本発明の範囲外)であったため、混合樹脂はトルエンには完全に溶解しなかった。
比較例4では、酸無水物基を有さないポリオレフィン樹脂(本発明の範囲外)を用いたため各種基材との密着性、ヒートシール性は非常に低かった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和カルボン酸無水物成分を0.1〜10質量%含有するポリオレフィン樹脂(A)と、全構成モノマー成分中のエチレングリコール単位およびテレフタル酸単位を除いた成分の割合が10モル%以上でかつ水酸基を有するポリエステル樹脂(B)との混合物であって、ポリオレフィン樹脂(A)の不飽和カルボン酸無水物成分とポリエステル樹脂(B)の水酸基の少なくとも一部が反応していることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
ポリオレフィン樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)の質量比(A)/(B)が99.9/0.1〜50/50であることを特徴とする請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
ポリエステル樹脂(B)の水酸基価が2〜80mgKOH/gであることを特徴とする請求項1または2記載の樹脂組成物。
【請求項4】
ポリオレフィン樹脂(A)が(メタ)アクリル酸エステル成分を含有していることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項5】
ポリオレフィン樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)とを溶融混練することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂組成物と有機溶剤を含有するコート液。


【公開番号】特開2008−63443(P2008−63443A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−242810(P2006−242810)
【出願日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】