説明

樹脂製コンタクトレンズの親水処理方法

【課題】樹脂性コンタクトレンズの親水処理において、損傷を与えることなく、均一一様で、高い効果の親水処理を実現する。
【解決手段】プラズマを、その発光領域におけるプラズマの流線に垂直な断面積を、樹脂製コンタクトレンズの表面積よりも小さくした大気圧プラズマビームとする。大気圧プラズマビームの発光領域内に、樹脂製コンタクトレンズの表面における照射領域を位置させ、その照射領域の発光領域内のビーム軸方向における位置を一定としつつ、表面の法線方向から大気圧プラズマビームを表面に照射しながら、表面の全体に渡って照射領域を相対的に走査して、親水処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製コンタクトレンズの親水処理方法に関する。特に、大気圧プラズマを用い、レンズへの損傷を与えることがなく、且つ、親水性効果の高い処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンタクトレンズに親水性(水濡れ性)を付与する手段として、例えば、下記特許文献1に開示されている技術が知られている。この技術は、酸素含有雰囲気下でプラズマ処理を施してコンタクトレンズに親水性を付与する方法である。しかしながら、この方法を用いる場合、減圧下、且つ、酸素を含有した雰囲気下で処理を行うことから、チャンバーにコンタクトレンズを設置した後に減圧作業を行わなければならないし、処理の後には大気開放を行わなければならず、作業効率が悪かった。この方法を解決するため、本願出願人の出願である下記特許文献2、3に開示されている技術が知られている。特許文献2は、一対の電極間で放電させて得られた大気圧プラズマを用いて、コンタクトレンズを立設して、レンズの表面及び裏面に平行を方向からプラズマをレンズに照射する方法である。また、特許文献3は、レンズの表面に垂直な方向から、金属メッシュを通過させた大気圧プラズマを、レンズに照射する方法である。また、大気圧プラズマを発生させる装置として、特許文献4に開示の装置が知られている。この装置は、表面に凹部を有した3つの電極を用いて、3相交流により、大気圧プラズマを安定して発生させる装置である。
【0003】
【特許文献1】USP4,214,014号公報
【特許文献2】特許第3494970号公報
【特許文献3】特開2003−50379号公報
【特許文献4】特開2007−323864号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献2、3で用いられるプラズマ発生装置は、大気圧下でプラズマを発生させるために、プラズマの安定性に乏しいものであった。特許文献2の方法では、立設したコンタクレンズの上辺端部にプラズマが集中して照射されることになるため、加熱により、この部分でクラックが発生するという問題があった。これを解消するために、本出願人により、特許文献3の方法のように、レンズをプラズマ流に垂直に設けると共に、プラズマ発生電極と、レンズとの間に、金属メッシュを設けて、レンズの周辺端部へプラズマが集中して照射されることを防止して、クラックの発生を抑制する方法が開発された。
【0005】
しかしながら、この方法では、余分に金属メッシュが必要となると共に、この方法を用いても、コンタクトレンズの表面全体に渡って一様な親水効果を得ることが困難であった。
【0006】
そこで、本発明者らは、安定した大気圧プラズマビームを発生できる特許文献4に記載の構造のプラズマ発生装置を用いて、その装置で発生されたプラズマビームの特性を、各種、測定した。その結果、本発明者らは、プラズマビームの温度は、プラズマの発光領域内が低く、発光領域から外側に外れににつれて、温度が上昇することを発見した。また、プラズマビームを照射されたレンズの親水性効果と、照射領域のビーム軸方向の位置とには、密接な関係があることを初めて発見した。
【0007】
本発明は、このような発見に基づいて成されたものであり、その目的は、レンズに損傷を与えることがなく、表面全体に渡って一様な高親水性が得られる樹脂製コンタクトレンズの親水処理方法を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、樹脂製コンタクトレンズの表面にプラズマを照射して、親水処理をする樹脂製コンタクトレンズの親水処理方法において、プラズマを、その発光領域におけるプラズマの流線に垂直な断面積を、樹脂製コンタクトレンズの表面積よりも小さくした大気圧プラズマビームとし、大気圧プラズマビームの発光領域内に、樹脂製コンタクトレンズの表面における照射領域を位置させ、その照射領域の発光領域内のビーム軸方向における位置を一定としつつ、表面の法線方向から大気圧プラズマビームを表面に照射しながら、表面の全体に渡って照射領域を相対的に走査して、親水処理を行うことを特徴とする。
また、他の発明は、照射領域の発光領域内のビーム軸方向における位置は、発光領域の発光開始点から発光修了点までのビーム軸方向の長さをLとするとき、発光開始点から、0.3L以上、0.7L以下の領域内としたことを特徴とする。
【0009】
ここにおいて、プラズマ温度は100℃以下とすることができ、樹脂製コンタクトレンズは、ガラス転位温度が120℃以下のものにも適用できる。プラズマを発生させるガスは、アルゴンの他、窒素、酸素、これらの2種以上の混合ガスを用いることができる。酸素とアルゴンとの混合ガスを用いた場合には、酸素混合比率は、0.1%以上、10%以下が望ましい。プラズマビームの直径(可視発光領域の軸に垂直な断面)は、5mm以下が望ましい。本発明によると樹脂製コンタクトレンズの処理時の表面温度を100℃以下、最も望ましい場合には、70℃以下にすることができるので、損傷を与えることがない。
【発明の効果】
【0010】
本発明者らは、プラズマビームに対するレンズのビーム軸方向の配設位置と、親水性との間には、相関があるこをと発見した。すなわち、プラズマビームにおける可視発光領域内に、レンズを設けると、高い親水性効果が得られることを発見した。したがって、本発明によると、表面にプラズマビームの照射された樹脂製コンタクトレンズの親水性を高く保持することができる。また、プラズマを、その発光領域におけるプラズマの流線に垂直な断面積を、樹脂製コンタクトレンズの表面積よりも小さくした大気圧プラズマビームとすることで、プラズマを安定化でき、ビーム軸に垂直な断面におけるプラズマ密度を均一にすることができる。そして、大気圧プラズマビームの発光領域内に、樹脂製コンタクトレンズの表面における照射領域を位置させ、その照射領域の発光領域内のビーム軸方向における位置を一定としつつ、表面の法線方向から大気圧プラズマビームを表面に照射しながら、表面の全体に渡って照射領域を相対的に走査することにより、レンズの表面全体に渡って均一一様で、且つ、高い親水性を付与することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を具体的な実施例に基づいて説明する。
ただし、本発明の実施形態は、以下に示す個々の実施例に限定されるものではない。
まず、プラズマ発生装置について説明する。本プラズマ発生装置は、3相又は、3相以上の多相交流電源を用いた大気圧下でグロー放電プラズマを発生させる装置である。
【0012】
本発明の大気圧グロー放電プラズマ発生装置の小形化やグロー放電プラズマの均一化などの観点等より、n相交流電源の周波数は、20Hz〜200Hz程度がより望ましい。したがって、交流電圧を適当な電圧(例:数kV程度)にまで昇圧する昇圧回路を用いれば、大気圧グロー放電プラズマ発生装置の電源回路に50Hz乃至60Hzの商用電源を利用することも可能である。
【0013】
また、上記のプラズマ原料ガスとしては、アルゴン(Ar)ガスなどが最も適しているが、その他にも用途や被加工物に応じて、一般に大気圧グロー放電プラズマの生成に使用される公知のガスを用いてもよい。これらのプラズマ原料ガスとしては、例えば、He、Neなどの希ガスや、窒素、空気、酸素などである。
【0014】
また、親水性処理をするために、樹脂性コンタクトレンズと反応させるための酸素原子を含むガスを同時に電極の微小間隙に流入させてもよい。放電電極の材料としては、ステンレス、モリブデン、タンタル、ニッケル、銅、タングステン、又は、これらの合金などを使用することができる。
【0015】
また、特に電子捕捉作用(ホローカソード放電)に寄与する凹部または溝部を形成する場合、放電ギャップを構成する放電電極のガス流方向の長さは、1〜10mm程度設けると良い。1mmより狭い場合、10mmより広い場合には、安定した放電が実現できない。また、その凹部または溝部は、例えば幅及び深さを1mm以下、より望ましくは0.5mm程度とすると良い。溝部の幅及び深さが1mmより大きくすると、安定した放電が得られない。また、電子捕捉作用に寄与する凹部はドット状に形成しても良い。更に、これらの凹部または溝部の形状は、円柱面状、半球面状、角柱面状、角錐状、その他任意に形成することができる。
【0016】
図1−A,−Bに、大気圧グロー放電プラズマ発生装置100の正面図と、当該装置100のキャップ3の正面図をそれぞれ示す。また、図2−Aには、本大気圧グロー放電プラズマ発生装置100の図1−Aの矢視方向断面αにおける特徴部分の断面図を示す。
大気圧グロー放電プラズマ発生装置100は、円筒状の外管1を有している。その外管1の内部空間には、外管1の側壁と平行に、3つの放電電極6U,6V,6Wが配設されている。そして、3つの放電電極6U,6V,6Wが対向する部分に放電ギャップG1が形成されている。図1−Aに示されている中央の放電ギャップG1は、放電電極6U,放電電極6V,放電電極6Wによって囲まれた直径約2mmの微小間隙から形成されている。また、セラミックスから成るプラズマ原料ガス導入管5が、外管1の側壁に平行に設けられ、この放電ギャップG1に、開口している。これにより、プラズマ原料ガスが、放電ギャップG1に、輸送される。このプラズマ原料ガス導入管5の軸は、外管1の軸と一致している。プラズマ原料ガス導入管5の内径(直径)は約1mmであり、外管1の内径(直径)は約10mmである。
【0017】
外管1も、セラミックス等の絶縁体から構成されている。また、外管1の側壁には、放電ギャップG1に対して、プラズマ原料ガス導入管5の軸に垂直な方向から、アルゴンや酸素である原料ガスを供給するガス導入管4が接続されている。ガス導入管4から、アルゴンガスを、放電ギャップG1に対して、横方向から供給することで、プラズマの発光領域を長くすることができる。放電電極6U,放電電極6V,放電電極6Wは、120°(即ち、1/3回転)の回転操作に対する回転対称形に形成されている。すなわち、放電ギャップG1は、ガス流の方向を回転軸方向とする1/n(本実施例では、n=3)回転の回転操作に対して回転対称形に形成された微小間隙からなり、放電電極は、幅及び深さが共に1mm以下のマイクロサイズの凹部を放電ギャップに面する表面上に有するものである。また、凹部は、ガス流の方向に直交する方向の溝から形成されている。また、凹部を、鋸歯状又はネジ溝状の凹凸部を有する導電性の突起を各前記放電電極に設けることによって形成されても良い。
【0018】
図2−Aに示す様に、略直方体形状の放電電極6Uは後述の電源回路に接続すべき接続部6Ubを有し、放電電極6Uとこの接続部6Ubとは軸部6Ucにより連結されて一体の導体として形成されている。接続部6Ubは円板形状、軸部6Ucは縦方向(即ち、図中のz軸方向)に長い円柱形状である。他の放電電極6V、6Wの構成も同様である。
【0019】
プラズマ原料ガス導入管5や、放電電極6U,放電電極6V,放電電極6Wを外管1の内部において支持するために、絶縁体から成り、外管1と同軸の円板形状に形成された支持部材21,22が設けられている。支持部材21,22は、外管1の側壁で固定されて、プラズマ原料ガス導入管5や各放電電極の軸部6Ucなどを支持固定している。
【0020】
プラズマ原料ガス導入管5の軸上には、中性線に接続される中性電極7が配設されている。そして、この中性電極7の下方、放電ギャップG1及びその下方領域に、グロー放電プラズマの可視発光領域ρが形成される。図1−Bのキャップ3は、中央に穴を有する円板形状をしており、耐熱性の高いセラミックスから形成されている。これは、反応ガス導入管4から必要な反応ガスを送り込む際に、それらの反応ガスをプラズマの発光領域ρに集中させるために設けられたものであるので、反応ガス導入管4から反応ガスを導入しない場合には、キャップ3は装着しなくても良い。
【0021】
図2−Bは、放電電極6Uのプラズマの発光領域ρの近傍の部分的な断面図を示す。放電電極6Uの放電ギャップG1に面する表面6Uaの上には、長手方向がガス流と直交する様に、ストライプ状の溝s1,s2,s3が設けられている。これらの溝の深さ及びストライプ幅は何れも約0.5mmであり、これらの溝s1,s2,s3は、周知のホローカソード放電の場合と略同様に、電子捕捉作用に寄与する。勿論、放電電極6V上や放電電極6W上の放電ギャップG1に面する部位においても、同様のストライプ状の溝が形成されている。
【0022】
図3に、本大気圧グロー放電プラズマ発生装置100のY結線タイプの3相交流給電手段の回路図を示す。回路図中の各交流電源(ac1,ac2,ac3)は、100V,60Hzの一般の商用電源の電圧を6kvにまで昇圧する交流電源回路を用いて構成した。図中の符号Nは中性線を示し、符号U,V,Wは3相交流の各相を示している。これらの各相の位相差は、それぞれ120°である。また、アルゴン(Ar)ガスを所定のガスタンクから図略のガス圧調整弁を介してプラズマ原料ガス導入管5に供給し、これによって、該ガス導入管5内におけるアルゴンガスの流速を変化させることにより、発光領域の長さを変化させることができる。また、プラズマ原料ガス導入管5から、アルゴンに酸素を混合したガスを導入するようにしても良い。また、ガス導入管4からは、必要により、アルゴンガスや酸素ガスを導入しても良い。以下の実験においては、プラズマ原料ガス導入管5やガス導入管4から、酸素ガスを導入しない場合も実験された。
【0023】
以上の構成にしたがって、大気圧環境下でグロー放電によるプラズマを発生させた所、プラズマの発光領域ρが上記の放電ギャップG1を頭部とする彗星形状に形成され、1015cm-3オーダの電子密度及びプラズマ密度を得ることができた。相対峙する2つの放電電極だけで放電ギャップを構成し、100V,60Hzの一般の商用電源の電圧を6kvにまで昇圧する単相の交流電源回路を用い、その他の点は上記と略同等の構成とした従来の単相タイプのプラズマ発生装置に対して、上記の電子密度及びプラズマ密度1015cm-3は、約2倍の数値を示すものである。
【0024】
したがって、本発明の手段を用いれば、グロー放電に基づく所望のプラズマ処理を大気圧近傍下において従来よりも高速に実施することができる。
また、上記の装置構成に従えば、高周波電源や大電流電源などの大掛りな電源装置が不要となり、更に、チャンバや複雑な制御装置なども必要ないので、所望のプラズマ発生装置を極めて小形で簡潔かつ安価に構成することが可能となる。
【0025】
次に、本大気圧グロー放電プラズマ発生装置100を用いてプラズマビームを発生させてコンタクトレンズに照射した時のコンタクトレンズのビーム軸方向の位置と、表面温度との関係を測定した。表面温度は、サーモテープを用いて測定した。なお、プラズマビーム13の発光領域のビームの直径は2mm、コンタクトレンズ10の直径は8mmとした。また、プラズマビーム13の照射は、図8に示すように、コンタクトレンズ10の表面11上の照射領域12が、内周aと、外周bに沿って、2周走査されることで、表面10の全体がプラズマビームにより表面処理される。すなわち、コンタクトレンズ10の半径4mmの幅を、ビーム直径2mmのプラズマビームで、内周と外周と合わせて2周、それぞれ、1回の走査を行うことで、コンタクトレンズの表面全体を処理することができる。この時、プラズマ流は、コンタクトレンズ10の表面11に当たって、外側に拡大される。内周aに沿った走査と、外周bに沿った走査で、照射領域12の周辺部分が一部重なるようにして、コンタクトレンズの表面において照射されない領域が形成されないようにした。プラズマビームの周回の走査速度は、0.9rad/sec 程度である。電極6への給電電流は、15mA〜30mAである。発光領域内におけるコンタクトレンズの表面位置を一定に制御して、同心円状に、表面の法線方向からプラズマをコンタクトレンズの表面に照射した場合には、xy軸走査に比べて、水滴の接触角は大きく低下した。たとえば、アルゴンガスの流量を30sccmで、100 度/secの走査速度の同心円状走査で、接触角は1度程度となった。
【0026】
その結果を図4に示す。この実験では、アルゴンガスの流速を3sml として、可視発光領域のビーム軸方向の長さを10mmとした。横軸は、電極6からコンタクトレンズ10の表面11上の照射領域12までの距離である。10mm以下の発光領域において、温度は、70℃以下が得られている。このことは、発光領域にコンタクトレンズを位置させれば、ガラス転位温度120℃以下の樹脂製コンタクトレンズの親水処理を行っても、熱による損傷は与えないことを意味する。
【0027】
表面温度は、コンタクトレンズ10をビーム軸方向に沿って発光領域12の外側に位置させるに連れて、発光領域の先端から17mm(電極6から27mm)の位置まで、上昇し、その位置で110℃となった。その後、遠ざかるにつれて、表面温度は減少した。これはプラズマ粒子が発散するために、温度が低下するためである。通常の大気圧プラズマの場合には、電極から離れるにつれて、温度が低下するが、今回、本装置によるプラズマの発光領域においては、温度が低いことが、初めて発見された。
【0028】
また、このようにプラズマを照射したコンタクトレンズ10の表面11の親水性を水滴の接触角で評価した。その測定結果を図5に示す。発光領域(電極6から10mm以下の範囲)で、接触角は28度以下であり、発光領域の先端から4mm内部に入った位置(電極6から6mmの位置)で、接触角は17度となり、最低角を示した。プラズマで照射する前のコンタクトレンズの表面における水滴の接触角は、85度であった。すなわち、発光領域の中央部にコンタクトレンズを設置して、プラズマを照射処理することにより、接触角を、1/5に低下できることが分かった。コンタクトレンズの発光領域における位置は、中点が最も望ましいが、中点を基準に、発光領域の長さの10%前後の領域、すなわち、発光領域のビーム軸方向の長さをLとすると、0.4L以上、0.6L以下の範囲が、最も望ましい。
【0029】
また、コンタクトレンズ10の表面11の酸素原子の比率を測定した。酸素原子比率の測定は、XPSを用いた。発光領域の内部で電極6に近い所で、プラズマビーム13をコンタクレンズ10に照射する程、酸素原子の比率が高くなっていることが分かる。
【0030】
また、アルゴンガスをガス導入管4より、流量を3slm に変化させて、可視発光領域の長さを20mmとした。この時のビーム軸方向におけるコンタクレンズ10の表面11の照射領域12の位置と、処理後のコンタクトレンズ10の表面温度、処理後の表面に滴下した水滴の接触角を測定した。その結果を図6に示す。横軸は、発光領域の先端と、コンタクトレンズ10の表面11との距離を示し、負値は、表面が発光領域の内部に位置していることを意味する。発光領域内部で、表面温度は、100℃以下が得られている。このことから、発光領域内部に、コンタクトレンズを位置させれば、ガラス転位温度120℃以下の樹脂製コンタクトレンズに熱損傷を与えることなく、親水処理を行うことができることが理解される。
【0031】
また、発光領域の先端から6mmから11mmだけ内部に入った領域で表面温度は85℃と最低であることが分かった。接触角は、発光領域内部で処理した場合には、58度以下が得られている。また、発光領域の先端から6mm以上内部に入った位置で処理した場合には、接触角は29度以下が得られていることが分かる。また、発光領域の先端から11mm内部に入った位置で処理した場合には、接触角は18度と最低角が得られた。すなわち、発光領域の中点に、コンタクトレンズを位置させて、プラズマビームを照射することで、最大の親水性効果を得ることができる。図6の測定結果から、発光領域の先端から6mm以下、14mm以上の領域に、コンタクトレンズを位置させることで、20度以下の接触角が得られることが分かる。すなわち、長さL=20mmの発光領域の電極6の側から6L/20=0.3L以上、14L/20=0.7L以下の範囲において、処理前の接触角を1/5に低下できるほどの顕著な親水性効果が得られることが分かる。最も望ましいのは、発光領域の中点、すなわち、電極6から10mmの位置と考えられるので、この中点を基準に、発光領域の長さの10%程度、前後した領域、すなわち、電極6から8mm以上(割合にして、0.4L以上)、12mm以下(割合にして、0.6L以下)の範囲が、最も望ましい。
【0032】
また、可視発光領域の長さを20mmとした時のビーム軸方向におけるコンタクレンズ10の表面11の照射領域12の位置と、表面の酸素原子の比率を測定した。その結果を図7に示す。酸素原子の比率は、コンタクトレンズ10を電極6に近づく位置に設置して、表面処理する程、酸素原子の比率が高いことが分かる。
【0033】
〔その他の変形例〕
本発明の実施形態は、上記の形態に限定されるものではなく、その他にも以下に例示される様な変形を行っても良い。この様な変形や応用によっても、本発明の作用に基づいて本発明の効果を得ることができる。
【0034】
(変形例1)
例えば、上記の実施例では、本発明のn相交流の供給をY結線の3相交流としたが、Δ結線としても良い。放電電極は3極以上の任意数設けることができ、同時に、電源は、3相以上の任意の相数の交流電源を用いるても良い。多層にするほど、安定したプラズマが発生できる。この場合、各放電電極を正多角形の各頂点に対応する位置に配置することによって、正多角形の各対角線に対応する位置にも効果的に高密度のグロー放電プラズマを発生させることができるため、放電電極や電源などの装置構成は若干複雑になるものの、グロー放電プラズマの更なる均一化や高密度化の点で有利となる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、樹脂製コンタクトレンズの親水処理に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1−A】実施例の大気圧グロー放電プラズマ発生装置100の正面図
【図1−B】大気圧グロー放電プラズマ発生装置100のキャップ3の正面図
【図2−A】大気圧グロー放電プラズマ発生装置100の特徴部分の断面図
【図2−B】放電電極6Uのプラズマの発光領域ρ近傍の部分的な断面図
【図3】大気圧グロー放電プラズマ発生装置100の3相交流給電手段の回路図
【図4】プラズマビームの軸方向の位置と温度との関係を示した測定図。
【図5】発光領域が10mmのプラズマビームの軸方向におけるコンタクトレンズの配置位置と、処理後のコンタクトレンズ表面の水滴の接触角及び酸素原子比率との関係を示した測定図。
【図6】発光領域が20mmのプラズマビームの軸方向におけるコンタクトレンズの配置位置と、処理後のコンタクトレンズ表面の水滴の接触角及び表面温度との関係を示した測定図。
【図7】発光領域が20mmのプラズマビームの軸方向におけるコンタクトレンズの配置位置と、コンタクトレンズの処理後の表面の酸素原子比率との関係を示した測定図。
【図8】本発明の具体的な実施例に係るプラズマビームをコンタクトレンズに照射する方法を示した説明図。
【符号の説明】
【0037】
4 : ガス導入管
5 : プラズマ原料ガス導入管
6U : 放電電極(U相電極)
6V : 放電電極(V相電極)
6W : 放電電極(W相電極)
6Ua: 凹部形成面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製コンタクトレンズの表面にプラズマを照射して、親水処理をする樹脂製コンタクトレンズの親水処理方法において、
前記プラズマを、その発光領域におけるプラズマの流線に垂直な断面積を、前記樹脂製コンタクトレンズの表面積よりも小さくした大気圧プラズマビームとし、
前記大気圧プラズマビームの発光領域内に、前記樹脂製コンタクトレンズの表面における照射領域を位置させ、その照射領域の前記発光領域内のビーム軸方向における位置を一定としつつ、前記表面の法線方向から前記大気圧プラズマビームを前記表面に照射しながら、前記表面の全体に渡って前記照射領域を相対的に走査して、親水処理を行うことを
特徴とする樹脂製コンタクトレンズの親水処理方法。
【請求項2】
前記照射領域の前記発光領域内のビーム軸方向における位置は、前記発光領域の発光開始点から発光修了点までのビーム軸方向の長さをLとするとき、前記発光開始点から、0.3L以上、0.7L以下の領域内としたことを特徴とする請求項1に記載の樹脂製コンタクトレンズの親水処理方法。
【請求項3】
前記樹脂製コンタクトレンズは、ガラス転位温度120℃以下であることを特徴とする請求項1乃又は請求項2に記載の樹脂製コンタクトレンズの親水処理方法。

【図1−A】
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【図1−B】
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【図2−A】
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【図2−B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−180902(P2009−180902A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−19267(P2008−19267)
【出願日】平成20年1月30日(2008.1.30)
【出願人】(304036008)NUエコ・エンジニアリング株式会社 (59)
【出願人】(000138082)株式会社メニコン (150)
【出願人】(395022731)
【Fターム(参考)】