説明

樹脂製コンベア用潤滑剤組成物およびその使用方法

【課題】潤滑性、洗浄性、貯ぞう安定性に優れた樹脂性コンベア用潤滑剤の提供。
【解決手段】(A)式(1)で表わされる非イオン系界面活性剤であって且つHLBが16を超えるもの少なくとも一種と、(B)水を含有し、また、必要に応じて、さらに(C)(イ)カチオン系界面活性剤および/または(ロ)両性系界面活性剤を含有することを特徴とする樹脂製コンベア用潤滑剤。
−O−(EO)n−R (1)(式中RはC10〜20のアルキル基などを、EOはエチレンオキサイド基を、nは14〜100を、Rは水素C1〜3のアルキル基などを示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、お茶、コーヒー、紅茶、乳飲料、炭酸清涼飲料、調味料、加工食品等の製造工程、充填工程において、スチール缶、アルミニウム缶、ガラス壜、紙製容器はもとより、特に、ポリアルキレンテレフタレート容器の移動搬送の際に用いられる樹脂製コンベア用の潤滑剤組成物に関するものである。さらに詳しくは、洗浄性、潤滑性に優れるとともに、ポリアルキレンテレフタレート容器のストレスクラックを防止する効果を有する樹脂製コンベア用潤滑剤組成物およびその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年においては、お茶、コーヒー、紅茶、乳飲料、炭酸清涼飲料等の飲料容器として、ポリエチレンテレフタレート等からなるポリアルキレンテレフタレート容器(以下、「PET容器」という。)が広く使用されている。
また、これらの製造工程および重点工程における容器の移動搬送には、ステンレス等の金属材質のコンベアのほかに、ポリアセタール樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂等の樹脂材質のコンベア(以下、「樹脂製コンベア」という。)が用いられている。
そして、前記飲料の充填工程等におけるPET容器の移動搬送には、樹脂製コンベアが常用されている。
【0003】
樹脂製コンベアは自動制御により連続運転されており、このためPET容器の流れが停止されても樹脂製コンベアのみがそのまま連続して運転されることになり、この場合にはPET容器と、コンベア表面との動摩擦力を低下させる必要がある。
また、洗浄機から運ばれてきたPET容器をそのまま樹脂製コンベアの流れに乗せるためにはコンベア表面に適当な静摩擦力も要求される。
【0004】
このため、従来では、高級脂肪酸石鹸を主成分とし、これに必要に応じて、殺菌性を有するカチオン界面活性剤、非イオン界面活性剤等を配合した界面活性剤の含有された潤滑剤組成物が特開平1−96294号公報に開示されている(特許文献1を参照)。これを、高級脂肪酸の濃度として約0.01〜0.1%になるように水で希釈して、コンベア上に塗布等の手段により供給することにより使用に供されていた。
【0005】
しかし、こうした脂肪酸石鹸を主剤とした潤滑剤は使用水の硬度成分によっては潤滑性能等に影響を受けることがある。すなわち、これら潤滑剤が使用水の硬度成分と反応してスケールを生成し、このスケールがコンベア表面上に蓄積して潤滑性を低下せしめるという問題や、このスケール中に微生物(菌)の発生を余儀なくされることがある。また、このスケールにより、潤滑剤供給用ノズルが詰まるという問題も発生する。そこで、特定のアニオン界面活性剤と殺菌性第四級アンモニウム型カチオン界面活性剤とからなる、ビン、缶類の移動の為の殺菌性潤滑剤が特開平2−97592号公報に開示されている(特許文献2を参照)。
【0006】
さらに、これら潤滑剤が、炭酸飲料等用のガスPET容器に付着すると、当該容器内部が炭酸ガスにより加圧状態になっているため、ストレスがかかることにより、PET容器にストレスクラックを発生させてしまい、このため、PET容器は容器の破損の危険性と、容器内部に充填された飲料液のリークの危険性を余儀なくされてしまうという問題がある。
【0007】
特開平6−172773号公報には、水溶性脂肪酸アルカリ塩を主成分とする潤滑剤組成物にさらに、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩を含有せしめることにより、潤滑性を維持しながらPET容器のストレスクラックを防止ないしは抑制し、炭酸清涼飲料等を詰め込む工程におけるPET容器用のボトルコンベアの潤滑剤が開示されている(特許文献3を参照)。
【0008】
また、樹脂製コンベア用の潤滑剤としては、特開平10−158681号公報に、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステルあるいはポリオキシエチレンと、ポリオキシプロピレンのブロックコポリマーの一種以上から構成されるポリエチレングリコール型非イオン系界面活性剤の0.0025重量%以上の水溶液を主成分とする、洗浄性、潤滑性に優れ、スケールの発生しないポリアセタール樹脂等合成樹脂製ボトルコンベア用潤滑剤が開示されている(特許文献4を参照)。
【0009】
しかしながら、HLB10〜16のポリエチレングリコール型非イオン界面活性剤では、PET容器に対してストレスクラックの影響を与えるといった課題を有していた。また、高希釈倍率で使用できるコンパクトな潤滑剤組成物が求められていた。
【特許文献1】特開平1−96294号公報
【特許文献2】特開平2−97592号公報
【特許文献3】特開平6−172773号公報
【特許文献4】特開平10−158681号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、潤滑性、洗浄性および貯蔵安定性に優れた樹脂製コンベア用潤滑剤組成物およびその使用方法の提供にある。なかでも、優れたストレスクラック防止性を有するPET容器の移動搬送に好適な樹脂製コンベア用潤滑剤組成物およびその使用方法の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、特定の非イオン系界面活性剤を主成分として用いることにより、潤滑性、洗浄性および貯蔵安定性に優れた樹脂製コンベア用潤滑剤を得ることができる。特に、特定の成分の選択によって、ストレスクラック防止性をもたせることで、PET容器の移動搬送に好適な樹脂製コンベア用潤滑剤組成物とすることができる。
さらに、特定のカチオン系界面活性剤および/または両性系界面活性剤を添加することにより、優れた潤滑性、洗浄性、ストレスクラック防止性および貯蔵安定性を低下させることなく、微生物(菌)の発生抑制効果(殺菌性)を兼ね備えた樹脂製コンベア用潤滑剤組成物を得ることができる。
そして、これらの樹脂製コンベア用潤滑剤組成物を用いることによって、PET容器の移動搬送に好適な使用方法を提供することを可能にし、本発明を完成するに至ったものである。
【0012】
すなわち、本発明は、(A)下記の式(1)で表される非イオン系界面活性剤であって、且つ、HLBが16を超えるものである群から選択される少なくとも一種と、(B)水とを含有する樹脂製コンベア用潤滑剤組成物を第1の要旨とする。
(式1) R−O−(EO)n−R
は、C10〜20の直鎖または分岐のアルキル基、スチレン化フェニル基またはC9〜19のアシル基。EOはエチレンオキサイド基。n=14〜100。Rは、水素、C1〜3の直鎖または分岐のアルキル基、またはアシル基;−CO−Rであり、このときRはC9〜C19の直鎖または分岐のアルキル基またはアルケニル基。
【0013】
そして、上記(A)非イオン系界面活性剤の配合割合が、組成物全体中において0.0025〜30質量%である上記樹脂製コンベア用潤滑剤組成物を第2の要旨とする。
【0014】
また、(C)(イ)カチオン系界面活性剤および/または(ロ)両性系界面活性剤を含有する上記樹脂製コンベア用潤滑剤組成物を第3の要旨とし、なかでも、上記(C)成分の一つである(イ)カチオン系界面活性剤が、アルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムアジペート、ジデシルジメチルアンモニウムグルコネート、ジデシルモノメチルハイドロキシエチルアンモニウムクロライド、ジデシルモノメチルハイドロキシエチルアンモニウムアジペート、ジデシルモノメチルハイドロキシエチルアンモニウムグルコネート、ジデシルモノメチルハイドロキシエチルアンモニウムスルホネート、ジデシルジメチルアンモニウムプロピオネート、ヘキサデシルトリブチルフォスフォニウムおよびポリヘキサメチレンビグアナイドから選ばれる少なくとも一種である上記樹脂製コンベア用潤滑剤組成物を第4の要旨とし、また、上記(C)成分の一つである両性系界面活性剤が、ラウリルベタイン、ラウロイルアミドプロピルベタイン、2−アルキル−N−カルボキシメチルイミダゾリニウムベタイン、2−アルキル−N−カルボキシエチルイミダゾリニウムベタイン、アルキルアミノエチルグリシン、アルキルジ(アミノエチル)グリシン、グリシンn−(3−アミノプロピル)C10〜16誘導体、アルキルポリアミノエチルグリシンのナトリウム塩や塩酸塩、およびヤシ脂肪酸アミドジメチルヒドロキシプロピルスルホベタインから選ばれる少なくとも一種である上記樹脂製コンベア用潤滑剤組成物を第5の要旨とする。
【0015】
そして、上記非イオン系界面活性剤と、カチオン系界面活性剤および/または(ロ)両性系界面活性剤との配合割合が重量比で、5:1〜1:30である上記樹脂製コンベア用潤滑剤組成物を第6の要旨とする。
【0016】
また、上記要旨1〜6のいずれか一つに記載の上記樹脂製コンベア用潤滑剤組成物を、水または湯を用いて、非イオン系界面活性剤濃度として25〜1,000mg/Lの範囲に希釈した潤滑剤希釈液を、コンベア上に供給、噴霧または塗布して、PET容器の搬送移動に用いる使用方法を第7の要旨とする。
【0017】
さらに、上記要旨7の潤滑剤希釈液とともに、5mg/L以上の次亜塩素酸塩、過酢酸、過酸化水素およびヨウ素、または、0.05mg/L以上の二酸化塩素の水溶液から選ばれる少なくとも一種とを、混合するか或いは別々に、コンベア上に供給、噴霧または塗布して、PET容器の搬送移動に用いる使用方法を第8の要旨とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、特定の非イオン系界面活性剤を主成分として用いることにより、潤滑性、洗浄性および貯蔵安定性に優れ、スチール缶、アルミニウム缶、ガラス壜および紙製容器はもとより、特に、PET容器の移動搬送においては、ストレスクラック防止性を有する樹脂製コンベア用潤滑剤組成物を得ることができる。
また、特定のカチオン系界面活性剤および/または両性系界面活性剤を添加することで、洗浄性、潤滑性およびストレスクラック防止効果を低下させることなく、微生物(菌)の発生抑制効果(殺菌性)を兼ね備えた樹脂製コンベア用潤滑剤を得ることができる。
そして、これらの樹脂製コンベア用潤滑剤組成物を用いることにより、スチール缶、アルミニウム缶、ガラス壜、紙製容器はもとより、特に、樹脂製コンベア上におけるPET容器の移動搬送に好適な使用方法を提供することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
つぎに、本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。
本発明は、特定の非イオン系界面活性剤を主成分とし、必要に応じて、さらにカチオン系界面活性剤および/または両性系界面活性剤を含有することを特徴とする樹脂製コンベア用潤滑剤組成物(以下、「潤滑剤組成物」ともいう。)およびその使用方法に関する。
そして、本発明の潤滑剤組成物およびその使用方法は、スチール缶、アルミニウム缶、ガラス壜および紙製容器はもとより、特に、PET容器の移動搬送に好適なものである。
【0020】
本発明の潤滑剤組成物に用いられる(A)成分の非イオン系界面活性剤としては、下記の式(1)で表される非イオン系界面活性剤である。
(式1) R−O−(EO)n−R
は、C10〜20の直鎖または分岐のアルキル基、スチレン化フェニル基またはC9〜19のアシル基。EOはエチレンオキサイド基。n=14〜100。Rは、水素、C1〜3の直鎖または分岐のアルキル基、またはアシル基;−CO−Rであり、このときRはC9〜C19の直鎖または分岐のアルキル基又はアルケニル基。
【0021】
さらに詳しくは、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンミリスチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンジステアリルエーテル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンジデシルエーテル、ポリオキシエチレンイソデシルエーテル、ポリオキシエチレン椰子アルコールエーテル等が挙げられる。これらは、化学合成により任意に得ることができるほか、市販の上記(A)成分である非イオン界面活性剤として、例えば、商品名:「ノニオンE−230」(日本油脂社製)、商品名:「イオネットDS−4000」(三洋化成工業社製)、商品名:「DSK NL−600」(第一工業製薬社製)、商品名:「ノイゲンEA−207D」(第一工業製薬社製)、商品名:「ノイゲンXL−1000F」(第一工業製薬社製)、商品名:「ノイゲンXL−140」(第一工業製薬社製)、および商品名:「ペグノールO−24」(東邦化学工業社製)などを使用することもできる。
【0022】
なかでも潤滑剤組成物の貯蔵安定性の点からポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンジステアリルエーテル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンイソデシルエーテルを用いることが好ましい。
【0023】
また、上記(A)非イオン系界面活性剤は、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよく、その配合割合は、潤滑剤組成物中に0.0025〜30質量%に設定される。すなわち、0.0025質量%未満では、所望の潤滑性が得られず、また、30質量%を超えると、潤滑剤組成物の貯蔵安定性(−0℃)が得られず、また、他の成分とのバランスから発泡性のものとなりやすく好ましくない。
【0024】
本発明の潤滑剤組成物に用いられる(B)成分の水としては、純水、イオン交換水、軟水、蒸留水、水道水等が挙げられる。これらは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、経済性及び貯蔵安定性の点から、水道水、イオン交換水が好ましく用いられる。なお、「水」は、本発明の潤滑剤組成物を構成する各成分に由来する結晶水や水溶液の形で含まれる水と、その他の外から加えられる水との総和であり、潤滑剤組成物全体が100質量%となるように配合される。
【0025】
本発明の潤滑剤組成物に用いられる(C)成分としては、(イ)カチオン系界面活性剤および/または(ロ)両性系界面活性剤が挙げられ、その一つである(イ)カチオン系界面活性剤としては、各種第四級アンモニウム塩が好ましく、具体的には、アルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムアジペート、ジデシルジメチルアンモニウムグルコネート、ジデシルモノメチルハイドロキシエチルアンモニウムクロライド、ジデシルモノメチルハイドロキシエチルアンモニウムアジペート、ジデシルモノメチルハイドロキシエチルアンモニウムグルコネート、ジデシルモノメチルハイドロキシエチルアンモニウムスルホネート、ジデシルジメチルアンモニウムプロピオネート、ヘキサデシルトリブチルフォスフォニウム等が挙げられる。特に殺菌力の強さの点からアルキル基の炭素数は10〜16に設定される。そして、ビグアナイド型カチオン系界面活性剤としては、ポリヘキサメチレンビグアナイドハイドロクロライド等が挙げられる。これらは単独で用いても、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
市販の上記カチオン系界面活性剤としては、例えば、商品名:「PraepagenHY」(クラリアントジャパン社製)、商品名:「カチオンG50」(三洋化成工業社製)、商品名:「ProxelIB」(アーチケミカル社製)、商品名:「Bardac−2280」(ロンザジャパン社製)、商品名:「オスモリンDA−50」(三洋化成工業社製)等を挙げることができる。
【0026】
そして、(C)成分の一つである(ロ)両性系界面活性剤としては、ラウリルベタインなどのアルキルベタイン型両性系界面活性剤、ラウロイルアミドプロピルベタイン等のアミドベタイン型両性イオン界面活性剤、2−アルキル−N−カルボキシメチルイミダゾリニウムベタイン、2−アルキル−N−カルボキシエチルイミダゾリニウムベタイン等のイミダゾリン型両性イオン界面活性剤、アルキルスルホベタイン型両性イオン界面活性剤、ヤシ脂肪酸アミドジメチルヒドロキシプロピルスルホベタインなどのアミドスルホベタイン型両性系界面活性剤、N−アルキル−β−アミノプロピオン酸塩、N−アルキル−β−イミノジプロピオン酸塩、β−アラニン型両性系界面活性剤、グリシンn−(3−アミノプロピル)−C10〜16誘導体(商品名:「Ampholic−SFB」、ローディア日華社製)、ジアルキルジ(アミノエチル)グリシン(商品名:「ニッサンアノンLG−R」、日本油脂社製)、(商品名:「レボンS」、三洋化成工業社製)等のアルキルポリアミノエチルグリシンのナトリウム塩や塩酸塩などが挙げられる。
これらは単独で用いても、またはニ種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0027】
本発明においては、これら(C)成分として、(イ)カチオン系界面活性剤および/または(ロ)両性系界面活性剤を用いることができ、上記(イ)および/または上記(ロ)はそれぞれ一種であっても、二種以上を用いてもよい。
また、その配合割合は、有効成分量として潤滑剤組成物中に0.001〜30質量%に設定される。すなわち、0.001質量%未満では、所望の殺菌効果が得られず、また、30質量%を超えると、他の成分とのバランスから、所望の潤滑剤組成物の貯蔵安定性が得られず、また、コスト的に好ましくない。
【0028】
そして、上記(A)成分である非イオン系界面活性剤と、上記(C)成分である(イ)カチオン系界面活性剤および/または(ロ)両性系界面活性剤との重量比は、有効成分量として上記潤滑剤組成物中において、A:C=5:1〜1:30であり、且つ、これら〔(A)成分+(C)成分〕の含有量が、潤滑剤組成物中において0.0035〜60質量%の範囲とすることが好ましい。
上記A:Cの重量比が5:1を超えて(A)成分を多く含有する場合、殺菌効果が乏しくなり、1:30を超えて(C)成分を多く含有する場合、ストレスクラック防止性に乏しくなる。また、他の成分とのバランスから貯蔵安定性に乏しいものとなるとともに、コスト的に好ましくない。
また、上記〔(A)成分+(C)成分〕の含有量が、0.0035質量%未満であると、所望の潤滑性が得られず好ましくない。また、60質量%を超えると、他の成分とのバランスから所望の潤滑剤組成物の貯蔵安定性が得られず、また、コスト的に好ましくない。
【0029】
なお、本発明の潤滑剤組成物は、必要に応じて、水溶性溶剤、他の殺菌剤、アニオン系界面活性剤、消泡剤、曇点向上剤、洗浄ビルダー等を含有することもできる。このうち、水溶性溶剤としては、プロピレングリコール、モノエタノールアミン、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、イソプレングリコール等が挙げられ、潤滑剤組成物の可溶化剤、あるいは酸性成分の中和剤として配合されるものである。また、アニオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸、または、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸およびそのアルカリ塩などが挙げられる。そして、洗浄ビルダーとしては、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、クエン酸、リンゴ酸、グルコン酸、イミノジ酢酸およびこれらのアルカリ塩等が挙げられる。
【0030】
また、本発明の樹脂製コンベア用潤滑剤組成物は、使用時において、(A)成分の有効成分濃度として25〜1,000mg/Lの範囲になるように、水または湯で希釈した潤滑剤希釈液として、PET容器の搬送移動に用いられる。
潤滑剤の希釈は、通常、水を用いておこなわれ、使用時に所望の使用濃度に希釈して用いても良いし、予め適度な濃度に希釈した溶液をつくっておいて、これを使用時にさらに所望の使用濃度となるように希釈して用いても良い。
こうして希釈された潤滑剤希釈液は、コンベア上に対して、ポンプ等を介して噴射ノズルから供給、噴霧等する方法や、刷毛等で塗布する方法等をとることができる。
さらに、上記コンベア用潤滑剤組成物の潤滑剤希釈液とともに、5mg/L以上の次亜塩素酸塩、過酢酸、過酸化水素およびヨウ素、または、0.05mg/L以上の二酸化塩素の水溶液から選ばれる少なくとも一種とを、混合するか或いは別々に、コンベア上に供給、噴霧または塗布して、PET容器の搬送移動に用いる使用方法をとることにより、優れた潤滑性、洗浄性およびストレスクラック防止性を低下させることなく、さらに高い殺菌性を付与することができる。
【0031】
以上のとおり、本発明ではHLBが16を超える特定の非イオン系界面活性剤を用いることが特徴である。
また、従来のように脂肪酸石鹸を主成分としないがために、潤滑剤組成物の希釈に用いる水やお湯の水質(カルシウム、マグネシウム等のミネラル分)の影響や材質の影響がないという利点を有する。
そして、潤滑性、洗浄性および貯蔵安定性に優れ、特に、ストレスクラック防止性を有することでPET容器の移動搬送に好適な樹脂製コンベア用潤滑剤を得ることができる。
そして、特定のカチオン系界面活性剤および/または両性系界面活性剤を添加することにより、さらに、微生物(菌)の発生抑制効果(殺菌性)を兼ね備えた樹脂製コンベア潤滑剤とすることができる。
【実施例】
【0032】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。
【0033】
後記の表1〜表11に示す実施例1〜45および比較例1〜6の組成(表中における各成分は有り姿で、数値の単位は質量%である。)の供試潤滑剤組成物を調製し、その潤滑性、洗浄性、ストレスクラックの防止性、貯蔵安定性の試験項目について評価した。また、実施例18〜37および比較例1〜5については、殺菌性の項目についても評価した。
その試験結果を後記の表1〜表11に併せて示す。なお、各項目の試験方法、評価基準は、以下に示すとおりである。
【0034】
〔潤滑性試験〕
・試験方法
ポリアセタール樹脂製コンベアプレート上に試験用PET容器を置き、次いで、このコンベアプレート上に各供試潤滑剤組成物を、非イオン系界面活性剤濃度として25mg/Lとなるように水で希釈した潤滑剤希釈液をそれぞれ、25ml/分で供給したときの10分後の摩擦係数(μ)を測定し、各試料の潤滑性を評価する。
なお、テストコンベア条件コンベア速度は30cm/秒とし、テスト壜は、試験用PET容器1本(重量1610g)とした。
摩擦係数(μ)は以下の算定式より算出し、以下の評価基準にしたがって判定した。
(数1)
摩擦係数(μ)=バネ秤りによる引張抵抗値(g)/テスト壜の重量(g)
【0035】
・評価基準
○:摩擦係数(μ)の値が0.1未満(潤滑性に優れる)。
×:摩擦係数(μ)の値が0.1以上(潤滑性に劣る)。
【0036】
〔洗浄性試験〕
・試験方法
上記潤滑性試験終了後におけるコンベア表面に対する黒ずみの付着状況を目視で観察し、以下の評価基準にしたがって判定した。
【0037】
・評価基準
○:汚れの付着が認められない。
×:汚れの付着が認められた。
とし、評価基準が○を実用性のあるものと判定した。
【0038】
〔ストレスクラック防止性試験〕
・試験方法
500ml容量のPET容器に炭酸水を充填して4.0〜4.5ガスVolの圧力(容器容量の4.0〜4.5倍量の炭酸ガス圧力)に調整し、試験用PET容器とした。次いで、各供試潤滑剤組成物を、非イオン系界面活性剤濃度として300mg/Lとなるように水で希釈した潤滑剤希釈液とし、この中に前述の試験用PET容器3本ずつを半浸漬の状態で浸漬し、40℃、80%湿度の条件下に10日間放置した後、前記PET容器へのクラックの発生状態を目視で観察して以下の評価基準にしたがって判定した。なお、実施例1および16は非イオン系界面活性剤濃度として25mg/Lで、また、比較例1は水で100倍に希釈したものを試験に用いた。
【0039】
・評価基準
A:クラック発生が完全ないしはほとんどなし。
B:小さなクラックがわずかにあるが、ほとんどなしに等しい。
C:大きめのクラックが見受けられる。
D:大きめのクラックが多数あり。
とし、評価基準がAおよびBを実用性のあるものと判定した。
【0040】
〔貯蔵安定性試験〕
・試験方法
各種供試潤滑剤組成物をそれぞれ500mlづつ、500ml容量のガラス容器に入れて密閉したのち、0℃に設定されたインキュベータ(型式:バイテック500/島津製作所社製)および室温にて10日間配置し、以下の評価基準にしたがって目視にて判定した。
【0041】
・評価基準
○:室温および0℃ともに、均一に透明であるとともに固化や分離は認められない。
△:室温で均一に透明であるものの、0℃において僅かに固化または分離が認められる。
×:室温および0℃ともに、固化や分離が認められるものがある。
とし、評価基準が○および△を実用性のあるものと判定した。
【0042】
〔殺菌性試験〕
・試験方法
欧州標準試験法EN1040に準拠して、各種供試潤滑剤組成物を、非イオン系界面活性剤濃度として25mg/Lとなるように純水で希釈した各種潤滑剤希釈液に、大腸菌または緑膿菌を10分間接触させ、これを液体培地に接種し、37℃で48時間培養したときの菌数の対数減少値から、以下の評価基準にしたがって判定した。
【0043】
・評価基準
○:初発菌数の対数減少値が5log以上(殺菌性に優れている)。
×:初発菌数の対数減少値が5log未満(殺菌性に劣る)。
【0044】
(A)成分
・非イオン系界面活性剤1
高級アルコールのEO30モル付加物(HLB=16.6)
商品名:「ノニオンE−230」、日本油脂社製(有効成分100%)
・非イオン系界面活性剤2
ジステアリルアルコールのEO75モル付加物(HLB=18.0)
商品名:「イオネットDS−4000」、三洋化成工業社製(有効成分100%)
・非イオン系界面活性剤3
ラウリルアルコールのEO52モル付加物(HLB=18.6)
商品名:「DSK NL−600」、第一工業製薬社製(有効成分100%)
・非イオン系界面活性剤4
スチレン化フェニルアルコールのEO98モル付加物(HLB=18.7)
商品名:「ノイゲンEA−207D」、第一工業製薬社製(有効成分100%)
・非イオン系界面活性剤5
イソデシルアルコールのEO100モル付加物(HLB=19.3)
商品名:「ノイゲンXL−1000F」、第一工業製薬社製(有効成分100%)
・非イオン系界面活性剤6
高級アルコールのEO14モル付加物(HLB=16.1)
商品名:「ノイゲンXL−140」、第一工業製薬社製(有効成分100%)
・非イオン系界面活性剤7
高級アルコールのEO24モル付加物(HLB=16.6)
商品名:「ペグノールO−24」、東邦化学工業社製(有効成分100%)
・非イオン系界面活性剤8(比較例用)
高級アルコールのEO10モル付加物(HLB=12.4)
商品名:「ノニオンE−210C」、日本油脂社製(有効成分100%)
【0045】
(C)成分
・カチオン系界面活性剤1
アルキルジメチルハイドロキシエチルアンモニウム塩:C12〜14アルキルジメチルハイドロキシエチルアンモニウムクロライド;
商品名:「PraepagenHY」(クラリアントジャパン社製、有効成分40質量%)
・カチオン系界面活性剤2
塩化ベンザルコニウム:C12〜14ジメチルベンジルアンモニウムクロライド;
商品名:「カチオンG50」(三洋化成工業社製、有効成分50質量%)
・カチオン系界面活性剤3
ポリヘキサメチレンビグアナイド塩酸塩:ポリ(n=12)ヘキサメチレンビグアナイドハイドロクロライド;
商品名:「ProxelIB」(アーチケミカル社製、有効成分20質量%)
・カチオン系界面活性剤4
ジデシルジメチルアンモニウムクロライド:ジデシルジメチルアンモニウムクロライド;
商品名:「Bardac−2280」(ロンザジャパン社製、有効成分80質量%)
・カチオン系界面活性剤5
ジデシルジメチルアンモニウムアジペート:ジデシルジメチルアンモニウムアジペート;
商品名:「オスモリンDA−50」(三洋化成工業社製、有効成分48質量%)
・両性系界面活性剤1
ジアミノジエチルグリシン
商品名:「ニッサンアノンLG−R」、(日本油脂社製、有効成分30質量%)
・両性系界面活性剤2
アルキルグリシン
商品名:「レボンS」(三洋化成工業、有効成分30質量%)
【0046】
〔任意成分〕
・水溶性溶剤1
プロピレングリコール
商品名:「アデカプロピレングリコール(PG)」、旭電化工業社製
・水溶性溶剤2
モノエタノールアミン
商品名:「モノエタノールアミン(MEA)」、日本触媒社製
・水溶性溶剤3
エチルアルコール
商品名:「エチルアルコール(試薬1級)」、関東化学社製
・水溶性溶剤4
メタキシレンスルホン酸ナトリウム
商品名:「テイカトックス110」、テイカ社製
・洗浄ビルダー
エチレンジアミン四酢酸三アンモニウム
商品名:「キレスト3N」、キレスト化学社製
・アニオン系界面活性剤1
ポリオキシエチレン エーテルリン酸
商品名:「フォスファノールRA−600」、東邦化学工業社製、有効成分50質量%
・アニオン系界面活性剤2
ポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸ナトリウム
商品名:「ビューライトLCA30D」、三洋化成工業社製、有効成分29質量%
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

【0050】
【表4】

【0051】
【表5】

【0052】
【表6】

【0053】
【表7】

【0054】
【表8】

【0055】
【表9】

【0056】
【表10】

【0057】
【表11】

【0058】
表1〜11の結果より、本発明の樹脂製コンベア用潤滑剤組成物の実施例品1〜45はいずれも、潤滑性、洗浄性、ストレスクラックの防止性、貯蔵安定性に優れている。また、実施例品18〜37においては殺菌性にも優れた樹脂製コンベア用潤滑剤組成物であることがわかる。
【0059】
一方、比較例品1は(A)成分である非イオン界面活性剤を含まない場合であり、潤滑性およびストレスクラック防止性に劣っていることがわかる。また、比較例品2および4は(A)成分と(C)成分との重量比において、(A)成分が特定の範囲から外れて多い場合であり、殺菌性に劣っていることがわかる。そして、比較例品3および5は(A)成分と(C)成分との重量比において、(C)成分が特定の範囲から外れて多い場合であり、貯蔵安定性およびストレスクラック防止性に劣っていることがわかる。
そしてまた、比較例品6は(A)成分の非イオン界面活性剤のHLB値が16以下の場合であり、ストレスクラック防止性に劣っていることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記の式(1)で表される非イオン系界面活性剤であって、且つ、HLBが16を超えるものである群から選択される少なくとも一種と、(B)水とを含有することを特徴とする樹脂製コンベア用潤滑剤組成物。
(式1) R−O−(EO)n−R
は、C10〜20の直鎖または分岐のアルキル基、スチレン化フェニル基またはC9〜19のアシル基。EOはエチレンオキサイド基。n=14〜100。Rは、水素、C1〜3の直鎖または分岐のアルキル基、またはアシル基;−CO−Rであり、このときRはC9〜C19の直鎖または分岐のアルキル基又はアルケニル基。
【請求項2】
上記(A)非イオン系界面活性剤の配合割合が、組成物全体中において0.0025〜30質量%であることを特徴とする請求項1記載の樹脂製コンベア用潤滑剤組成物。
【請求項3】
さらに、(C)(イ)カチオン系界面活性剤および/または(ロ)両性系界面活性剤を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の樹脂製コンベア用潤滑剤組成物。
【請求項4】
上記(C)成分の一つである(イ)カチオン系界面活性剤が、アルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムアジペート、ジデシルジメチルアンモニウムグルコネート、ジデシルモノメチルハイドロキシエチルアンモニウムクロライド、ジデシルモノメチルハイドロキシエチルアンモニウムアジペート、ジデシルモノメチルハイドロキシエチルアンモニウムグルコネート、ジデシルモノメチルハイドロキシエチルアンモニウムスルホネート、ジデシルジメチルアンモニウムプロピオネート、ヘキサデシルトリブチルフォスフォニウムおよびポリヘキサメチレンビグアナイドから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項3記載の樹脂製コンベア用潤滑剤組成物。
【請求項5】
上記(C)成分の一つである(ロ)両性系界面活性剤が、ラウリルベタイン、ラウロイルアミドプロピルベタイン、2−アルキル−N−カルボキシメチルイミダゾリニウムベタイン、2−アルキル−N−カルボキシエチルイミダゾリニウムベタイン、アルキルアミノエチルグリシン、アルキルジ(アミノエチル)グリシン、グリシンn−(3−アミノプロピル)C10〜16誘導体、アルキルポリアミノエチルグリシンのナトリウム塩や塩酸塩、およびヤシ脂肪酸アミドジメチルヒドロキシプロピルスルホベタインから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項3記載の樹脂製コンベア用潤滑剤組成物。
【請求項6】
上記(A)非イオン系界面活性剤と、(イ)カチオン系界面活性剤および/または(ロ)両性系界面活性剤との配合割合が重量比で、5:1〜1:30であることを特徴とする請求項3〜5のいずれか一項に記載の樹脂製コンベア用潤滑剤組成物。
【請求項7】
上記請求項1〜6のいずれか一項に記載の上記樹脂製コンベア用潤滑剤組成物を、水または湯を用いて、非イオン系界面活性剤濃度として25〜1,000mg/Lの範囲に希釈した潤滑剤希釈液を、コンベア上に供給、噴霧または塗布して、PET容器の搬送移動に用いる使用方法。
【請求項8】
上記請求項7の潤滑剤希釈液とともに、5mg/L以上の次亜塩素酸塩、過酢酸、過酸化水素およびヨウ素、または、0.05mg/L以上の二酸化塩素の水溶液から選ばれる少なくとも一種とを、混合するか或いは別々に、コンベア上に供給、噴霧または塗布して、PET容器の搬送移動に用いる使用方法。

【公開番号】特開2007−119557(P2007−119557A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−311874(P2005−311874)
【出願日】平成17年10月26日(2005.10.26)
【出願人】(000205683)大三工業株式会社 (12)
【Fターム(参考)】