説明

機器の汚損度推定方法および機器のメンテナンス方法

【課題】 機器の汚損度を測定するためには機器を停止するタイミングで行うか、機器を停止しなければならず測定時期が制限され、かつ設置環境と機器の状態の両方を考慮した評価手法がなかったという課題を解決する。
【解決手段】 環境条件、実装基板の汚損度測定値あるいは汚損度検査カードによる汚損度測定値から汚損速度を求め、この汚損速度と経過時間、測定値などから将来の汚損度を推定するようにした。また、汚損度の推定値によってメンテナンス方法を選択するようにした。合理的な機器の管理ができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラントの計装機器やコンピュータ機器等の各種機器の安全操業を維持するための、機器の汚損度推定方法および機器のメンテナンス方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラントの計装機器やコンピュータ機器等の各種機器の安全操業を維持するためには、機器内の温度、機器の周囲温度、周囲湿度、浮遊塵埃量、腐食性ガスの濃度などの設置環境条件を考慮しなければならない。
【0003】
これらの設置環境条件は長期間に渡って各種機器にストレスを与え続ける。これらのストレスが徐々に蓄積された結果、各種機器の機能が低下、劣化し、ついにプラントが操業停止に至る。プラントが操業停止になると、ユーザに重大な損失を与える。
【0004】
このようなプラントの操業停止を防止し、損失を発生させないためには、機器の状態を的確に把握し、その結果に基づいて機器の保守計画を立案して実行し、機器の信頼性を長期に渡って維持することが極めて重要である。機器の状態は、機器停止を伴う外観調査や汚損度測定によって把握することが一般的に行われている。
【0005】
【特許文献1】特開平5−40146号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、前述したように外観調査や汚損度測定を行って機器の状態を把握するためには、機器を停止するか、機器が停止したタイミングで行わなければならなかった。そのため、調査時期が制限され、また調査を行うことができない場合も発生するという課題があった。
【0007】
また、機器の状態は設置環境と相関があるため、設置環境や機器の状態に応じた予防保全の改善が行われていた。しかし、設置環境や機器の状態は長期的に変動するので、設置環境と機器状態の両方を考慮して評価しなければならないが、定量的な評価のための確立された手法が存在しないという課題もあった。
【0008】
さらに、一般に機器の状態は機器保全活動と相関があるが、機器保全活動を定量的に加味した評価ができていなかった。一般的に工業用計算機の保全活動のひとつである分解清掃は一定期間毎に刷毛などを用いて行われるが、この方法では内部の細かな汚れを完全に除去することができないために汚れが年を経る毎に大きくなって行く。しかし、これを評価する手法が存在していないという課題もあった。
従って本発明が解決しようとする課題は、設置環境から機器の汚損度を推定し、これによって劣化状況を的確に把握し、保守計画を立案することができる機器の汚損度推定方法および機器のメンテナンス方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような課題を達成するために、本発明のうち請求項1記載の発明は、
環境条件または汚損度の測定値から機器の汚損速度を演算する工程と、
前記機器の清掃が行われたときに前記汚損速度を用いて清掃前の汚損度を求め、この清掃前汚損度に清掃後に残存する汚損度の割合を表す清掃汚損度残存率を乗算して前記清掃直後の汚損度を演算する工程と、
前記清掃直後の汚損度と、前記汚損速度および前記清掃が行われてからの経過時間から将来の任意の時点における汚損度を推定する工程と、
を具備したものである。将来の汚損度を推定できる。
【0010】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、
浮遊塵埃量と、この浮遊塵埃に含まれている硫黄と塩素の割合から前記汚損速度を求めるようにしたものである。簡単に汚損速度を求めることができる。
【0011】
請求項3記載の発明は、請求項1記載の発明において、
前記機器と同等の条件で設置された汚損度検査カードの汚損度の測定値と、前記汚損度検査カードが設置された経過時間とから前記汚損速度を求めるようにしたものである。機器を停止しないで汚損速度を求めることができる。
【0012】
請求項4記載の発明は、
機器の一部の汚損度を測定する工程と、
環境条件または前記機器の一部の汚損度から機器の汚損速度を求める工程と、
前記汚損度の測定値と、前記汚損速度と、前記測定からの経過時間により、将来の任意の時点における機器の汚損度を推定する工程と、
を具備したものである。測定値を用いるので、正確に将来の汚損度を推定できる。
【0013】
請求項5記載の発明は、請求項4記載の発明において、
浮遊塵埃量と、この浮遊塵埃に含まれている硫黄と塩素の割合から前記汚損速度を求めるようにしたものである。簡単に汚損速度を求めることができる。
【0014】
請求項6記載の発明は、請求項4記載の発明において、
前記機器の一部の汚損度測定値と、機器が設置されてから前記汚損度測定までの経過時間から前記汚損速度を求めるようにしたものである。正確に汚損速度を求めることができる。
【0015】
請求項7記載の発明は、請求項6記載の発明において、
機器の清掃が行われたときに、前記機器が設置されてから前記汚損度測定までの経過時間を、清掃後に残存する汚損度の割合を表す清掃汚損度残存率で補正するようにしたものである。清掃を行った場合でも正確に汚損速度を求めることができる。
【0016】
請求項8記載の発明は、
機器と同等の条件で設置された汚損度検査カードの汚損度の測定値と前記汚損度検査カードが設置された経過時間から第1の汚損速度を求める工程と、
浮遊塵埃量と、この浮遊塵埃に含まれている硫黄と塩素の割合から第2の汚損速度を求める工程と、
将来の所定の時点における汚損度を、前記第1の汚損速度と機器が設置されてからの経過時間から求める工程と、
前記所定の時点から前記将来の任意の時点までの経過時間と、前記第2の汚損速度および前記求めた所定の時点の汚損度から、前記将来の任意の時点における汚損度を推定する工程と、
を具備したものである。環境条件が変わっても正確に将来の汚損度を推定できる。
【0017】
請求項9記載の発明は、請求項8記載の発明において、
前記機器の清掃が行われたときに、前記機器が設置されてから前記所定の時点までの経過時間を、清掃後に残存する汚損の割合を表す清掃汚損残存率で補正するようにしたものである。清掃による誤差を補正できる。
【0018】
請求項10記載の発明は、
将来の時点における機器の汚損度を推定する工程と、
汚損による故障履歴がない場合または前記推定した汚損度が第1の値より大きい場合に一般清掃の推奨、特別清掃の検討および接触抵抗測定の推奨を行う工程と、
汚損による故障履歴があり、かつ前記推定した汚損度が前記第1の値と第2の値の間にあるときに、一般清掃の推奨と特別清掃の検討を行う工程と、
汚損による故障履歴があり、かつ前記推定した汚損度が前記第2の値より小さいときに、分解清掃を行わないと判断する工程と、
を具備したものである。汚損度に合ったメンテナンスができる。
【0019】
請求項11記載の発明は、請求項10記載の発明において、
前記将来の時点における機器の汚損度は、浮遊塵埃量とこの浮遊塵埃中に含まれる硫黄と塩素の割合から算出した汚損速度、および機器が設置されてからの経過時間から推定するようにしたものである。簡単に汚損速度を求めることができる。
【0020】
請求項12記載の発明は、請求項10記載の発明において、
前記将来における汚損度は、前記機器と同等の条件で設置された汚損度検査カードの測定値と経過時間から算出した汚損速度、および機器が設置されてからの経過時間から推定するようにしたものである。機器の動作に影響を与えない。
【0021】
請求項13記載の発明は、請求項10記載の発明において、
前記将来における汚損度は、浮遊塵埃量とこの浮遊塵埃中に含まれる硫黄と塩素の割合から算出した汚損速度、および前記汚損度測定値から推定するようにしたものである。正確に汚損度を推定できる。
【0022】
請求項14記載の発明は、請求項10記載の発明において、
前記将来における汚損度は、前記機器の一部の汚損度測定値と経過時間から求めた汚損速度、および前記汚損度測定値から推定するようにしたものである。正確に汚損度を推定できる。
【0023】
請求項15記載の発明は、請求項10記載の発明において、
前記将来における汚損度は、機器と同等の条件で設置された汚損度検査カードの汚損度の測定値と前記汚損度検査カードが設置された経過時間から求めた第1の汚損速度、浮遊塵埃量と、この浮遊塵埃に含まれている硫黄と塩素の割合から求めた第2の汚損速度、および機器が設置されてからの経過時間から推定するようにしたものである。環境条件が変わっても正確に汚損度を推定できる。
【0024】
請求項16記載の発明は、請求項10若しくは請求項15いずれかに記載の発明において、
前記第1の値として略0.01mg/cm、前記第2の値として略0.005mg/cmの値を用いたものである。合理的なメンテナンスができる。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したことから明らかなように、本発明によれば次のような効果がある。
請求項1乃至9の発明によれば、環境条件または汚損度測定値から汚損速度を求め、この汚損速度と経過時間から将来の汚損度を推定するようにした。
【0026】
将来の汚損度を正確に推定することができるので、無駄のない効率的な機器の管理ができ、プラントを長期間安全に操業することができるという効果がある。また、汚損速度を浮遊塵埃量や硫黄と塩素の割合から求めることにより、汚損度測定を行わないで将来の汚損度を推定できるので、機器を停止することなく、また機器のメンテナンス間隔に影響されずに汚損度を推定できるという効果もある。
【0027】
また、汚損度検査カードを用いることにより、機器の動作に影響されずに汚損度を測定することができるという効果もある。さらに、測定以降の汚損度の推定に浮遊塵埃量等から求めた汚損速度を用いることにより、環境条件の変化に対応することができるという効果もある。
【0028】
請求項10乃至16の発明によれば、将来の汚損度を推定して、この推定値によってメンテナンスの方法を選択して提案するようにした。機器の設置環境を含めた広範囲な条件を考慮した汚損度推定値を用いてメンテナンスの方法を選択するので、無駄のない効率的な機器管理を行うことができ、プラントを長期間安定かつ安全に操業することができるという効果がある。また、機器を停止しなくても汚損度を推定できるので、短期間で正確なメンテナンスができるという効果もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下本発明を図面を用いて詳細に説明する。予防保全を行うためには、機器の汚損度を的確に推定しなければならない。将来の汚損度を推定する方法として、周囲環境から推定する方法と、機器の状態から推定する方法、およびこれら2つを組み合わせた方法がある。
【0030】
まず、周囲環境から将来の汚損度を推定する方法について説明する。これは、周囲環境の浮遊塵埃量とこの浮遊塵埃量に含まれる硫黄(S)と塩素(Cl)の重量濃度から汚損速度を演算し、これによって基板等の将来の汚損度を推定するものである。
【0031】
機器に実装されている基板等の推定汚損速度Pveは、下記(1)式で表すことができる。浮遊塵埃量が増えると基板が汚損されやすくなるので、汚損速度Pveは浮遊塵埃量に比例するとした。また、硫黄や塩素のような腐食性の高い成分が含まれているとやはり汚損度は高くなるので、硫黄と塩素を加算した重量%にも比例するとした。
Pve(mg/cm・年)=D*R*K ・・・・・・・・ (1)
【0032】
ここにおいて、Dは機器の周囲に浮遊している浮遊塵埃量(mg/m)、Rはこの浮遊塵埃に含まれている硫黄と塩素の重量濃度(wt%)、Kは換算係数である。換算係数Kは、過去の診断実績から0.02の値を用いる。なお、導電性の小さい塵埃の場合は、過度の堆積許容を防止するためにRの最小値を1.0とする。また、塵埃分析データがない場合は、Rとして2.0の値を用いる。
【0033】
前記(1)式から、測定時における実装基板の推定汚損度Pe1は、下記(2)式で演算することができる。清掃前までに堆積した汚損のうち割合Rcが清掃後まで残り、その後Pveの速度で汚染が堆積するためである
Pe1(mg/cm)=Pve*(T1−T3)*Rc+Pve*T3
=Pve*((T1−T3)*Rc+T3)) ・・・・(2)
【0034】
ここにおいて、T1は機器が納入されてから基板汚損度測定までの経過年数(単位:年)、T3は前回清掃してからの経過年数(年)、Rcは清掃で除去できない汚損の割合を示す清掃汚損残存率である。過去の実績から、清掃汚損残存率Rcとして0.5を用いる。また、一度も清掃していないときは、T3=T1とする。従って、前記(2)式は清掃を行っていない場合にも用いることができる。
【0035】
前記(1)、(2)式から、機器に実装されている基板の汚損度Pe2は、下記(3)式で推定することができる。
Pe2(mg/cm)=Pe1+Pve*T2 ・・・・・・・ (3)
なお、T2はPe1を演算してから汚損度を推定する時点までの経過年である。この(3)式によって、将来の任意の時点における基板汚損度を推定することができる。(3)式からわかるように、推定汚損度Pe2は、推定する時点に依存する関数である。
【0036】
前記(3)式は下記(4)式に書き直すことができる。
Pe2=Pve*(T1−T3)*Rc+Pve*(T2+T3) ・・ (4)
この式の1項目は清掃直後の汚損度であり、2項目は清掃後に堆積した汚損度である。すなわち、汚損度の推定値は清掃直後の汚損度に清掃後に堆積した汚損度を加算したものである。
【0037】
図1に前記(1)〜(3)式の関係を示す。図1は機器汚損度の変化を表したグラフであり、横軸は時間、縦軸は機器汚損度の程度を表す。機器汚損度は前記(1)式で計算する傾きで、一点鎖線1のように増加していく。しかしながら、定期的に清掃されるので、実際の汚損度はそれより低い実線2のように変化する。
【0038】
時刻t1で清掃が行われ、時刻t2で測定が行われたとすると、前記(2)式のT1〜T3は図1に示すようになる。すなわち、T1は機器が設置されてから測定が行われるまでの時間、T2は測定から将来の汚損度を推定する時点までの時間、T3は前回の清掃から測定までの時間になる。前記(2)、(3)式を用いることにより、時刻t2、t3での汚損度を計算することができる。なお、一度清掃して落ちなかった汚れは何度清掃しても除去することができない。そのため、前記(2)式は清掃回数には依存しない式になっている。
【0039】
図2は換算係数Kを0.02とした根拠を示したものである。図2の横軸は硫黄(S)と塩素(Cl)の塵埃積算値、縦軸は基板の汚損度であり、黒の菱形は測定値、点線3は測定値の一次回帰直線である。この直線の傾きは0.0216なので、換算係数として0.02の値を用いる。
【0040】
図3は刷毛とエアブロアを用いた清掃前後の汚損度の関係を示したものであり、横軸は清掃前の汚損度、縦軸は清掃後の汚損度、黒い菱形は測定値である。この測定値の一次回帰直線4の傾きは0.4848なので、清掃汚損除去率Rcとして0.5を用いる。
【0041】
次に、汚損度調査カードを用いて機器の汚損度を推定する方法を説明する。汚損度検査カードは、外部と電気的な接続がなく、機器に外乱を与えないもので、かつ機器と同等な構造条件を備えているものとする。この汚損度検査カードを取り外してその汚損度を測定することにより、機器自身を停止させることなく汚損度の調査を実施することができる。図4に汚損度調査カードの一例を示す。
【0042】
汚損度調査カードの測定汚損度Pmから、汚損速度はPve下記(5)式で求めることができる。
Pve=Pm/T4 ・・・・・・・・・・ (5)
T4は汚損度調査カードが実装されてから測定までの経過時間である。
【0043】
前記(2)式と同様にして、測定時の機器の汚損度Pe1は、下記(6)式で演算することができる。なお、T1〜T3およびRcの意味は、前記(2)式と同じである。
Pe1(mg/cm)=Pve*(T1−T3)*Rc+Pve*T3
=Pve*((T1−T3)*Rc+T3)) ・・・・(6)
【0044】
将来の任意の時点における汚損度Pe2は、前記(3)式と同様にして下記(7)式で推定することができる。
Pe2=Pe1+Pve*T2 ・・・・・・・・・・・ (7)
この場合も前記(3)式と同じように、清掃直後の汚損度に清掃後に堆積する汚損度を加算した値になる。
【0045】
図5にこれらの関係を示す。なお、図1と同じ要素には同一符号を付し、説明を省略する。図5において、時刻t1とt2の間で汚損度調査カードが実装され、時刻t2でこの汚損度調査カードを取り外してその汚損度を測定している。T4は汚損度調査カードが実装されている経過時間、Pmは測定値である。この方法では、汚損度調査カードは機器が設置された後に設置することができ、また汚損度を測定するときも機器の運転を停止しなくてもよいという長所がある。
【0046】
次に、汚損度測定値を基にして将来の汚損度を推定する方法を説明する。測定時における実装基板の汚損度をPm(mg/cm)とすると、実装基板は機器と同じ環境に置かれているので、下記(8)式が成立する。Pe1は機器の汚損度である。
Pe1=Pm ・・・・・・・・・・ (8)
【0047】
汚損速度は、汚損度をその汚損度に達するまでの時間で割ることで求められる。但し、清掃によって汚損の一部が強制的に除去されるので、そのことを考慮すると下記(9)式で汚損速度Pveを求めることができる。
Pve=Pm/((T1−T3)*Rc+T3)) ・・・・・・ (9)
【0048】
ここにおいて、T1(年)は機器が納入されてから汚損度測定までの経過年数、T3(年)は前回の清掃からの経過年数であり、清掃がなかった場合にはT1と同じ値になる。また、Rcは清掃によって除去できない汚損の割合を示す清掃汚損度残存率であり、図3で説明したように0.5の値を用いる。
【0049】
Pe2を任意時点の実装基板の推定汚損度、T2を前記(9)式で汚損速度を測定してから機器の汚損度を推定する時点までの経過年数とすると、機器はPveの汚損速度でT2間汚損されるので、下記(10)式が成立する。すなわち、任意の時点の汚損度を推定することができる。
Pe2=Pe1+Pve*T2 ・・・・・・・・・・・ (10)
【0050】
図6にこの関係を示す。なお、図1と同じ要素には同一符号を付し、説明を省略する。Pmは、前述したように機器の一部である実装基板の測定汚損度である。実装基板の汚損は、汚損度Pmを初期値として、T2年の時間をかけてPveの汚損速度で汚損される。
【0051】
前記(9)式では汚損速度Pveを実装基板の汚損度測定結果と経過時間から算出したが、前記(1)式で示した理論的な汚損速度を適用してもよい。すなわち、汚損速度Pve2を下記(11)式から求める。
Pve2=D*R*K ・・・・・・・・・・ (11)
【0052】
Dは浮遊塵埃量、Rは浮遊塵埃中に含まれている硫黄と塩素を加算した重量濃度、Kは換算係数である。これらの意味は前記(1)式で説明したものと同じなので、説明を省略する。
【0053】
測定時の汚損度は前記(8)式と同じとする。すなわち、機器の汚損度は実装基板の測定汚損度と同じとし、この値をPe1とする。将来の推定汚損度Pe2は下記(12)式で推定することができる。なお、T2は汚損度測定から汚損度を推定するまでの経過時間であり、前記(10)式と同じである。
Pe2=Pe1+Pve2*T2 ・・・・・・・・・・ (12)
【0054】
過去の汚損速度として汚損度検査カードから得られた値を用い、将来の汚損速度として理論的な値を用いることもできる。測定時の汚損度検査カードの汚損度測定値をPm、汚損度検査カードが設置されていた経過時間をT4とすると、汚損速度Pve1は下記(13)式で求めることができる。
Pve1=Pm/T4 ・・・・・・・・・・ (13)
【0055】
この汚損速度を用いると、測定時の実装基板の推定汚損度Pe1は下記(14)式で求めることができる。
Pe1=Pve1*(T1−T3)*Rc+Pve1*T3
=Pve1*((T1−T3)*Rc+T3)) ・・・・・ (14)
T1は機器が設置されてから汚損度測定までの経過年、T3は前回清掃時から測定時までの経過年、Rcは清掃汚損除去率であり、前記(2)式と同じ意味合いを有する。
【0056】
測定時から実装基板の汚損度を推定する時点までの汚損速度Pve2は理論的な値を用いる。すなわち、前記(1)式によって得られる値を用いる。実装基板の推定汚損度Pe2は、下記(15)式で得ることができる。
Pe2=Pe1+Pve2*T2 ・・・・・・・・・・ (15)
Pe1は前記(14)式で計算した汚損度、T2は測定時から実装基板の汚損度を推定するまでの経過年、Pve2は前記(11)式で求めた汚損速度である。
【0057】
図7は、前記(1)〜(15)式を用いて計算した推定汚損度を用いたメンテナンスの手順を示したフローチャートである。図7において、まず(A−1)で汚損による故障履歴があるかどうかを調べ、ないと汚損度が大(A−5)とする。
【0058】
汚損による故障履歴があると、前記(1)〜(15)式に基づいて実装基板の汚損度を推定(A−2)し、汚損度が小さい(A−3)、汚損度が中程度(A−4)、汚損度が大(A−5)の3種類に場合分けする。
【0059】
汚染度が小さいとき(Pe2≦0.005mg/cm)は、機器の機器内部に重度の汚損劣化が発生している可能性は非常に低いと推定できるので、分解清掃の必要はないと判断する(A−6)。
【0060】
汚染度が中程度(0.005mg/cm<0.010mg/cm)のとき、あるいは汚損度の算出が不可能なとき(A−4)は、一般清掃を推奨し、かつ特別清掃を検討する(A−7)。機器内部に重度の汚損劣化が発生している可能性は低いと推測されるが、予期しない原因によって内部汚損が進行する可能性があるので、一般清掃を実施する。
【0061】
特別清掃はリカバリーサービスとコネクタ清掃からなり、一般清掃だけでは除去できない汚損を除去することができる。リカバリーサービスは一般清掃よりもコストがかかるが、蓄積した汚れを除去することができ、将来行わなければならない一般清掃の間隔を長くすることができるというメリットがある。そのため、長期的な汚損予測とコスト試算を基に実施時期を決定する。一方、コネクタ清掃は、後述する接触抵抗測定と外観検査の結果に基づいて決定することが望ましい。
【0062】
汚損度が大きい(0.01mg/cm以上)、あるいは汚損による故障履歴がないときは(A−5)、一般清掃を実施しかつ特別清掃を検討する(A−8)。機器内部に重度の汚損劣化が発生している可能性があるためである。また、接触抵抗測定と精密外観検査も推奨する。このようにすることにより、余計な清掃あるいは検査を行う必要がなくなるので、維持管理に要する費用を低減することができる。
【0063】
なお、接触抵抗測定とは、ネストとガードがコネクタを介して装着されている状態でコネクタの接触抵抗を測定するもので、コネクタの接触不良がおきやすい状態であるかどうかを検査するために行う。この接触抵抗測定の結果に応じて、バックボード交換やリカバリー処理などの保全提案が行われる。汚損が大きい状態では、接触抵抗測定や精密外観検査の結果によっては、即時バックボード交換やコネクタ清掃が要求される可能性があるので、予めサービスの準備を行う。
【0064】
図8は本発明の方法を実施するための汚損度推定装置の一実施例の構成図である。
図8で、センサ10は機器の汚損度を測定する。
演算装置20で、汚損速度演算手段21は、環境条件または汚損度の測定値から機器の汚損速度を算出する。
汚損度演算手段22は、機器の清掃が行われたときに汚損速度演算手段21で求めた汚損速度を用いて清掃前の汚損度を求め、この清掃前汚損度に清掃後に残存する汚損度の割合を表す清掃汚損度残存率を乗算して清掃直後の汚損度を算出する。
汚損度推定手段23は、清掃直後の汚損度と、汚損速度演算手段21で求めた汚損速度および清掃が行われてからの経過時間から将来の任意の時点における汚損度を推定する。
【0065】
図9は本発明の方法を実施するための汚損度推定装置の他の実施例の構成図である。図9で前出の図と同一のものは同一符号を付ける。
センサ10は機器の一部の汚損度を測定する。
演算装置30で、汚損速度演算手段31は、環境条件または機器の一部の汚損度から機器の汚損速度を求める。
汚損速度推定手段32は、汚損度の測定値と、汚損速度演算手段31で求めた汚損速度と、測定からの経過時間により、将来の任意の時点における機器の汚損度を推定する。
【0066】
図10は本発明の方法を実施するための汚損度推定装置の他の実施例の構成図である。
図10で、汚損度調査カード40は機器と同等の条件で設置されたカードで、例えば図4に示すようなカードである。
センサ10は汚損度調査カード40の汚損度を測定する。
【0067】
演算装置50で、汚損速度演算手段51は、汚損度検査カード40の汚損度の測定値と汚損度検査カード40が設置された経過時間から第1の汚損速度を求める。また、汚損速度演算手段51は、浮遊塵埃量と、この浮遊塵埃に含まれている硫黄と塩素の割合から第2の汚損速度を求める。
汚損度演算手段52は、所定の時点の汚損度を、第1の汚損速度と機器が設置されてからの経過時間から求める。
汚損度推定手段53は、所定の時点から将来の任意の時点までの経過時間と、第2の汚損速度および汚損度演算手段52で求めた所定の時点の汚損度から、将来の任意の時点における汚損度を推定する。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】汚損度推定の方法を説明するための特性図である。
【図2】塵埃積算値と汚損度の関係を示すグラフである。
【図3】清掃前後の汚損度の関係を示すグラフである。
【図4】汚損度検査カードの一例を示す図である。
【図5】汚損度推定の方法を説明するための特性図である。
【図6】汚損度推定の方法を説明するための特性図である。
【図7】メンテナンス方法のフローチャートである。
【図8】本発明の方法を実施するための汚損度推定装置の一実施例の構成図である。
【図9】本発明の方法を実施するための汚損度推定装置の他の実施例の構成図である。
【図10】本発明の方法を実施するための汚損度推定装置の他の実施例の構成図である。
【符号の説明】
【0069】
1,2 汚損度の変化曲線
3 塵埃積算値と汚損度の関係の一次回帰直線
4 清掃前後の汚損度の一次回帰直線
T1 機器が設置されてから測定までの経過時間
T2 測定から汚損度を推定する時点までの経過時間
T3 清掃から測定までの経過時間
T4 汚損度検査カードの設置時間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環境条件または汚損度の測定値から機器の汚損速度を演算する工程と、
前記機器の清掃が行われたときに前記汚損速度を用いて清掃前の汚損度を求め、この清掃前汚損度に清掃後に残存する汚損度の割合を表す清掃汚損度残存率を乗算して前記清掃直後の汚損度を演算する工程と、
前記清掃直後の汚損度と、前記汚損速度および前記清掃が行われてからの経過時間から将来の任意の時点における汚損度を推定する工程と、
を具備したことを特徴とする機器の汚損度推定方法。
【請求項2】
浮遊塵埃量と、この浮遊塵埃に含まれている硫黄と塩素の割合から前記汚損速度を求めるようにしたことを特徴とする請求項1記載の機器の汚損度推定方法。
【請求項3】
前記機器と同等の条件で設置された汚損度検査カードの汚損度の測定値と、前記汚損度検査カードが設置された経過時間とから前記汚損速度を求めるようにしたことを特徴とする請求項1記載の機器の汚損度推定方法。
【請求項4】
機器の一部の汚損度を測定する工程と、
環境条件または前記機器の一部の汚損度から機器の汚損速度を求める工程と、
前記汚損度の測定値と、前記汚損速度と、前記測定からの経過時間により、将来の任意の時点における機器の汚損度を推定する工程と、
を具備したことを特徴とする機器の汚損度推定方法。
【請求項5】
浮遊塵埃量と、この浮遊塵埃に含まれている硫黄と塩素の割合から前記汚損速度を求めるようにしたことを特徴とする請求項4記載の機器の汚損度推定方法。
【請求項6】
前記機器の一部の汚損度測定値と、機器が設置されてから前記汚損度測定までの経過時間から前記汚損速度を求めるようにしたことを特徴とする請求項4記載の機器の汚損度推定方法。
【請求項7】
機器の清掃が行われたときに、前記機器が設置されてから前記汚損度測定までの経過時間を、清掃後に残存する汚損度の割合を表す清掃汚損度残存率で補正するようにしたことを特徴とする請求項6記載の機器の汚損度推定方法。
【請求項8】
機器と同等の条件で設置された汚損度検査カードの汚損度の測定値と前記汚損度検査カードが設置された経過時間から第1の汚損速度を求める工程と、
浮遊塵埃量と、この浮遊塵埃に含まれている硫黄と塩素の割合から第2の汚損速度を求める工程と、
所定の時点の汚損度を、前記第1の汚損速度と機器が設置されてからの経過時間から求める工程と、
前記所定の時点から将来の任意の時点までの経過時間と、前記第2の汚損速度および前記求めた所定の時点の汚損度から、前記将来の任意の時点における汚損度を推定する工程と、
を具備したことを特徴とする機器の汚損度推定方法。
【請求項9】
前記機器の清掃が行われたときに、前記機器が設置されてから前記所定の時点までの経過時間を、清掃後に残存する汚損の割合を表す清掃汚損残存率で補正するようにしたことを特徴とする請求項8記載の機器の汚損度推定方法。
【請求項10】
将来の時点における機器の汚損度を推定する工程と、
汚損による故障履歴がない場合または前記推定した汚損度が第1の値より大きい場合に一般清掃の推奨、特別清掃の検討および接触抵抗測定の推奨を行う工程と、
汚損による故障履歴があり、かつ前記推定した汚損度が前記第1の値と第2の値の間にあるときに、一般清掃の推奨と特別清掃の検討を行う工程と、
汚損による故障履歴があり、かつ前記推定した汚損度が前記第2の値より小さいときに、分解清掃を行わないと判断する工程と、
を具備したことを特徴とする機器のメンテナンス方法。
【請求項11】
前記将来の時点における機器の汚損度は、浮遊塵埃量とこの浮遊塵埃中に含まれる硫黄と塩素の割合から算出した汚損速度、および機器が設置されてからの経過時間から推定するようにしたことを特徴とする請求項10記載の機器のメンテナンス方法。
【請求項12】
前記将来における汚損度は、前記機器と同等の条件で設置された汚損度検査カードの測定値と経過時間から算出した汚損速度、および機器が設置されてからの経過時間から推定するようにしたことを特徴とする請求項10記載の機器のメンテナンス方法。
【請求項13】
前記将来における汚損度は、浮遊塵埃量とこの浮遊塵埃中に含まれる硫黄と塩素の割合から算出した汚損速度、および前記汚損度測定値から推定するようにしたことを特徴とする請求項10記載の機器のメンテナンス方法。
【請求項14】
前記将来における汚損度は、前記機器の一部の汚損度測定値と経過時間から求めた汚損速度、および前記汚損度測定値から推定するようにしたことを特徴とする請求項10記載の機器のメンテナンス方法。
【請求項15】
前記将来における汚損度は、機器と同等の条件で設置された汚損度検査カードの汚損度の測定値と前記汚損度検査カードが設置された経過時間から求めた第1の汚損速度、浮遊塵埃量と、この浮遊塵埃に含まれている硫黄と塩素の割合から求めた第2の汚損速度、および機器が設置されてからの経過時間から推定するようにしたことを特徴とする請求項10記載の機器のメンテナンス方法。
【請求項16】
前記第1の値として略0.01mg/cm、前記第2の値として略0.005mg/cmの値を用いたことを特徴とする請求項10若しくは請求項15いずれかに記載の機器のメンテナンス方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2006−29783(P2006−29783A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−204039(P2004−204039)
【出願日】平成16年7月12日(2004.7.12)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】