説明

機能性微粒子アレイ及びその使用方法

【課題】 キャピラリビーズアレイにおいて、キャピラリ中で行う化学反応に必要な薬剤、酵素、蛍光ラベル化剤などを、機能性微粒子を用いてキャピラリ中に安定に保持するとともに、必要に応じて該薬剤などをキャピラリ中に溶出する方法を提供する。
【解決手段】 プローブビーズ206とともにマイクロカプセル202を配列したキャピラリ201中に、マイクロカプセル202の殻物質203並びに芯物質に相当する薬剤204の種類に応じた温度並びに組成を持つ溶液を添加することにより、芯物質に相当する薬剤204の放出を誘起し、キャピラリ201中に薬剤の溶液205を満たすことが可能である。従って、キャピラリ中に配列するマイクロカプセルの種類、および添加する溶液の温度並びに組成の組み合わせにより、キャピラリ中に溶出する薬剤などの組成及び溶出するタイミングを制御することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟質樹脂などの上に形成したキャピラリにプローブビーズを配列したキャピラリビーズアレイに係り、特にプローブビーズとともに各種の機能性微粒子を配列した機能性微粒子アレイに関する。
【背景技術】
【0002】
軟質樹脂などに形成したキャピラリに、生体関連物質である標的分子を検出するためのプローブを結合したプローブビーズを配列したキャピラリビーズアレイに関する従来技術として、下記特許文献1が挙げられる。特許文献1では、標的分子の検出の一例として、DNAのハイブリダイゼーション反応を説明している。
【0003】
特許文献1では、キャピラリ中に配列するビーズとしてはプローブを保持した「プローブビーズ」、プローブを保持していない「ダミーのビーズ」、及び各プローブビーズの順番を知るための「マーカービーズ」の3種類が示されているのみである。
【0004】
【特許文献1】特開2000−346842号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1には「プローブビーズ」、「ダミーのビーズ」、及び「マーカービーズ」の3種類が開示されているのみであり、キャピラリ中にその他の微粒子を配列することに関しては記述されていない。
【0006】
上記特許文献1に開示されているキャピラリビーズアレイでは、下記の問題があった。
(1)キャピラリ中に、プローブビーズ及びプローブビーズ上捕捉された標的分子に対して化学的作用を及ぼす薬剤や酵素などを添加する場合は、キャピラリ中にある溶液を排出するとともに、該薬剤や酵素などを含む溶液を供給しなければならない。
【0007】
(2)キャピラリ中に添加するサンプルに関して、キャピラリに添加する前の処理については明記されていない。従って、サンプル中に含まれる標的分子の様々な物理化学的性質(分子サイズ、電荷、疎水性など)に応じて、予め標的分子を分離並びに精製することはできない。
【0008】
(3)キャピラリ中のプローブビーズに捕捉されない標的分子は、キャピラリビーズアレイの使用後に廃液としてキャピラリ外に排出されてしまう。特に、生物や環境にとって有害な分子も排出されてしまう。
【0009】
そこで、キャピラリビーズアレイにおいてキャピラリ内に様々な機能性微粒子を配列することにより上記の3つの課題を解決し、様々な機能と高い付加価値を有するキャピラリビーズアレイをユーザに提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、鋭意研究した結果、キャピラリ内に「プローブビーズ」、「ダミーのビーズ」及び「マーカービーズ」とともに、各種の機能性微粒子を配列し、該機能性微粒子の諸機能を利用することにより、上記課題が解決されることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
第1に、本発明は、標的分子を捕捉する性質を持つプローブを表面及び/又は内部に結合したプローブビーズを、基板の上に形成したキャピラリに一次元状又は二次元状に多数個配列したキャピラリビーズアレイの発明であり、同一キャピラリにプローブビーズとともに1種以上の機能性微粒子を配列したことを特徴とする。
【0012】
ここで、本発明で言う機能性微粒子とは、
(1)薬剤、酵素、蛍光ラベル化剤などをタブレット状に成形した微粒子
(2)芯物質として薬剤などを内包するマイクロカプセル及びベシクル
(3)大きな表面積と高い吸着能を持つ吸着担体の微粒子
(4)液体カラムクロマトグラフィーで一般的に使用されるイオン交換樹脂、疎水性微粒子及び多孔性微粒子が好ましく例示される。これらの機能性微粒子は、微粒子製剤、ドラック・デリバリー・システム(DDS)用微粒子、カラムクロマトグラフィーの充填剤などの幅広い用途で活用されているものである。
【0013】
第2に、本発明は、上記機能性微粒子アレイの使用方法の発明であり、以下の態様を有する。
(1)同一キャピラリにプローブビーズとともに、1種以上の機能性微粒子としてプローブビーズまたは該プローブビーズに捕捉された標的分子に対して化学的作用を及ぼす薬剤をタブレット状に成形した微粒子を配列し、該タブレット状に成形した薬剤の微粒子を溶解することにより、キャピラリ内のプローブビーズ及び該プローブビーズに捕捉された標的分子に対して該薬剤を投与する。
【0014】
(2)同一キャピラリにプローブビーズとともに、1種以上の機能性微粒子として、プローブビーズまたは該プローブビーズに捕捉された標的分子に対して化学的作用を及ぼす薬剤の溶液を芯物質として内包するマイクロカプセル、又はプローブビーズまたは該プローブビーズに捕捉された標的分子に対して化学的作用を及ぼす薬剤の溶液を芯物質として内包するベシクルを配列し、該薬剤の溶液を内包したマイクロカプセルまたはベシクルを破裂させる方法、またはマイクロカプセルまたはベシクルの内部から薬剤の溶液を徐放させる方法により、キャピラリ内のプローブビーズ及び該プローブビーズに捕捉された標的分子に対して該薬剤を投与する。
【0015】
(3)同一キャピラリにプローブビーズとともに、1種以上の機能性微粒子として大きな比表面積と高い吸着能を持つ吸着担体の微粒子を配列し、該吸着担体の微粒子上に該プローブビーズにより捕捉されない各種の分子を捕捉する。
【0016】
(4)同一キャピラリにプローブビーズとともに、1種以上の機能性微粒子としてイオン交換能を持つイオン交換樹脂の微粒子を配列し、該微粒子上に各種のイオンを捕捉及び溶出する。
【0017】
(5)同一キャピラリにプローブビーズとともに、1種以上の機能性微粒子として疎水性微粒子をキャピラリ中に配列し、キャピラリ内の溶液に含まれる水と有機溶媒の割合を変化させることにより、該微粒子上に溶液に含まれる疎水性分子を捕捉及び溶出する。
【0018】
(6)同一キャピラリにプローブビーズとともに、1種以上の機能性微粒子として多孔質微粒子をキャピラリ中に配列し、該微粒子が持つ多数の孔を利用し、標的分子のサイズに応じて該標的分子を分離する。
【0019】
このように、本発明の機能性微粒子の具体的機能は、以下の通りである。
(1)キャピラリ中で行う化学反応に必要な薬剤、酵素、蛍光ラベル化剤などを、機能性微粒子を用いてキャピラリ中に安定に保持するとともに、必要に応じて該薬剤などをキャピラリ中に溶出する。
【0020】
(2)キャピラリ中に添加するサンプル中に含まれる種々の標的分子を、該標的分子の物理化学的性質に基づいて機能性微粒子上に吸着し分離するとともに、必要に応じて該機能性微粒子に吸着した該標的分子を溶出する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、キャピラリビーズアレイにおいて、第1に、キャピラリ中で行う化学反応に必要な薬剤、酵素、蛍光ラベル化剤などを、機能性微粒子を用いてキャピラリ中に安定に保持するとともに、必要に応じて該薬剤などをキャピラリ中に溶出することが可能である。第2に、キャピラリ中に添加するサンプル中に含まれる種々の標的分子を、該標的分子の物理化学的性質に基づいて機能性微粒子上に吸着し分離するとともに、必要に応じて該機能性微粒子に吸着した該標的分子を溶出することが可能である。従って、本発明によってキャピラリビーズアレイが高機能を有し、ユーザにとっての付加価値を大幅に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明において、プローブビーズとはプラスチックやガラス等からなり、粒径が数μmから数十μmの球状物である。具体例としてポリスチレンビーズ、ポリプロピレンビーズ、磁気ビーズなどがあり、フローサイトメーターを利用してその蛍光発色等を読み取ることが可能である。
【0023】
また、本発明では機能性微粒子から薬剤などを放出させる、または機能性微粒子上で標的分子を吸着及び溶出させる目的で、キャピラリ中の溶液の組成を変化させる。ここで、変化させ得る溶液の主な組成は
・塩の種類及び濃度及びイオン強度
・水素イオン濃度(pH)
・界面活性剤濃度
・標的分子の結合阻害物質の濃度
である。
【0024】
以下、本発明の実施例を挙げる。
[実施例1:薬剤タブレット]
図1は、プローブビーズまたは該プローブビーズに捕捉された標的分子に対して化学的作用を及ぼす薬剤などをタブレット状に成形した微粒子を配列した機能性微粒子アレイ並びにその使用方法を示す。
【0025】
キャピラリ101中にプローブビーズ102とともに薬剤の微粒子103をアレイした微粒子アレイ(図1(a))に、該薬剤の溶解度に応じた温度並びに組成を持つ溶液を添加すると、薬剤の微粒子103が溶解し、キャピラリ101中に薬剤が溶出され、薬剤の溶液104が満たされる(図1(b))。例えばキャピラリ中に溶解度の大きく異なる2種類の薬剤の微粒子を配列した場合、キャピラリ101中に添加する溶液の温度並びに組成を適切に選択することにより、一方の薬剤の微粒子のみ溶解し、他方の微粒子は溶解させずに保持することも可能である。図1では説明のため、薬剤の微粒子103を1個だけ配列したが、キャピラリ中に配列可能な薬剤の微粒子の種類並びに個数が任意であることは言うまでもない。従って、キャピラリ中に配列する薬剤の微粒子、並びにキャピラリ中に添加する溶液の温度及び組成の組み合わせにより、キャピラリ中に溶出する薬剤などの組成及び溶出のタイミングを制御することが可能である。
【0026】
[実施例2:マイクロカプセル]
図2は、プローブビーズまたは該プローブビーズに捕捉された標的分子に対して化学的作用を及ぼす薬剤などの溶液を芯物質として内包するマイクロカプセルを配列した機能性微粒子アレイ並びにその使用方法を示す。ここでマイクロカプセルとは、殻物質から成る微粒子状の容器内に芯物質を封じ込めたカプセル化物を指す。マイクロカプセルは、殻物質並びに芯物質の種類により、物理化学的性質が大きく異なる。また、マイクロカプセルには、殻物質の外側に芯物質を徐々に放出する性質、即ち徐放性を持たせることができる。そこで、プローブビーズ206とともにマイクロカプセル202(図2(b))を配列したキャピラリ201(図2(a))中に、マイクロカプセル202の殻物質203並びに芯物質に相当する薬剤204の種類に応じた温度並びに組成を持つ溶液を添加することにより、芯物質に相当する薬剤204の放出を誘起し、キャピラリ201中に薬剤の溶液205を満たすことが可能である(図2(c))。従って、キャピラリ中に配列するマイクロカプセルの種類、および添加する溶液の温度並びに組成の組み合わせにより、キャピラリ内に溶出する薬剤などの組成及び溶出するタイミングを制御することが可能である。
【0027】
[実施例3:ベシクル]
図3は、プローブビーズまたは該プローブビーズに捕捉された標的分子に対して化学的作用を及ぼす薬剤などを芯物質として内包するベシクルを配列した機能性微粒子アレイ並びにその使用方法を示す。ここでベシクルとは小胞体ともいい、脂質二分子膜などの両親媒性物質の膜から成る微小球中に、芯物質である液体を封じ込めて人工的に作成したカプセル化物である。ベシクルの芯物質としては薬剤や酵素の水溶液が一般的である。レシチンなどのリン脂質でできた外膜を持つベシクルは特にリポソームと呼ばれる。ベシクルは、生体膜の種々の性質を解明及び模倣すべく人工的に作成されるカプセル化物である。ベシクルは、外膜を構成する両親媒性物質の種類や組成、及びベシクルを取り巻く溶液の温度並びに組成により、外膜の形状並びに物理化学的性質が著しく異なる。特に、ベシクルに物理化学的刺激を与えて、ベシクルの外膜に細孔を空けたり破裂させたりすることにより、外膜の外側に芯物質を放出することができる。ここで物理化学的刺激とは以下のようなものである。
・ベシクルを取り巻く溶液の組成の変化(ここで溶液の組成の変化とは、前述した通り、溶液のpHの変化や界面活性剤濃度の変化を指す)
・温度の変化
・圧力の変化
・電位の変化
・光照射
【0028】
即ち、キャピラリ301中にプローブビーズ302とともにベシクル303(図3(b))を配列し((図3(a))、ベシクル303に上記のような物理化学的刺激を与えると、ベシクル303の外膜304に細孔が空くかまたは破裂する。その結果、ベシクル303に内包された芯物質に相当する薬剤305を放出し、キャピラリ301中が薬剤の溶液306で満たされる(図3(c))。従って、キャピラリ中に配列するベシクルの種類、及びベシクルに与える物理化学的刺激の組み合わせにより、キャピラリ内に放出する薬剤などの組成及び放出のタイミングを制御することが可能である。
【0029】
[実施例4:吸着担体]
図4は、大きな比表面積と高い吸着能を持つ吸着担体の微粒子を配列した機能性微粒子アレイ並びにその使用方法を示す。ここで吸着担体とは多孔性無機物質及び多孔性ポリマーを指す。特に多孔性無機物質はモレキュラーシーブ、活性炭、SiOを主成分とする多孔質シリカゲル、酸化アルミニウムを主成分とする活性アルミナなどを指す。キャピラリ401中に多数のプローブビーズ402を配列する。キャピラリ401中に添加されたサンプル中に含まれる標的分子のうち、プローブビーズ402上のプローブと親和性のある標的分子はプローブと結合するため、プローブビーズ402上に捕捉される。
【0030】
ここで、キャピラリ401中に吸着担体の微粒子が配列されていない場合は、該サンプル中に含まれる標的分子のうち、プローブビーズ402上に捕捉されない標的分子は、該標的分子が生化学的または免疫学的に有意義なものであるかどうかに関わらず、キャピラリビーズアレイを用いた反応の終了後に、キャピラリ外に廃液として捨てられる。一方、キャピラリ401内に吸着担体の微粒子403を配列すると、該サンプル中に含まれる標的分子のうち、プローブビーズ402上に捕捉されない標的分子を吸着し、回収することが可能である。特に、該サンプル中に生物並びに環境に対して有害な分子が含まれている場合、該有害分子を吸着担体の微粒子403上に吸着し、回収することが可能である。このことは、キャピラリビーズアレイを用いた反応の終了後に該有害分子をキャピラリ内に保持し、該有害分子をキャピラリ外に排出しないことにつながる。即ち、キャピラリビーズアレイを用いた反応の終了後にユーザが有害分子にさらされることを防止するとともに、該有害分子の廃棄方法を簡便化するという利点を提供できる。
【0031】
[実施例5:イオン交換樹脂]
図5は、イオン交換能を持つイオン交換樹脂の微粒子を配列した機能性微粒子アレイ並びにその使用方法を示す。イオン交換樹脂は陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂に大別される。イオン交換樹脂の特徴は、液体カラムクロマトグラフィーの移動相に相当する溶液を選択することにより、イオン交換樹脂上で対イオン性物質を捕捉または溶出できることである。ここで、陽イオン交換樹脂では陽イオン性物質が、また、陰イオン交換樹脂では陰イオン性物質が対イオン性物質に相当する。
【0032】
図5では陽イオン交換樹脂の微粒子を例として説明する。キャピラリ501中にプローブビーズ502とともに陽イオン交換樹脂の微粒子503を配列する。キャピラリ501中に標的分子を含むサンプルを添加すると、陽イオン性の標的分子は陽イオン交換樹脂の微粒子503上に選択的に捕捉される。従って、プローブビーズ502上では該サンプル中に含まれる陰イオン性または中性の標的分子だけを選択的に分析することができる。また、必要に応じて、陽イオン交換樹脂の微粒子503上に捕捉された陽イオン性の標的分子を溶出させることができる。イオン交換樹脂上に捕捉された陽イオン性の標的分子の溶出条件は一般的なイオン交換クロマトグラフィーと同様であり、
・NaCl、KCl、NaSOなどを用いてキャピラリ中の溶液の塩濃度を変化させる
・キャピラリ中の溶液のpHを変化させる
等がある。
【0033】
さらに、陽イオン交換樹脂の微粒子503に予め陽イオン性の薬剤などを捕捉しておくと、必要に応じて陽イオン交換樹脂の微粒子503上に捕捉された陽イオン性の薬剤をキャピラリ501中の溶液に溶出することが可能である。この場合、陽イオン交換樹脂の微粒子503は、実施例1の薬剤の微粒子、実施例2のマイクロカプセル、及び実施例3のベシクルと同様に、薬剤などを吸着および溶出する微粒子としてはたらく。
【0034】
尚、実施例5で述べた機能が、陰イオン交換樹脂の微粒子でも実現可能であることは言うまでもない。
【0035】
従って、キャピラリ中にイオン交換樹脂の微粒子を配列することにより、キャピラリ中に添加される対イオン性の標的分子を捕捉するとともに、必要に応じて該対イオン性の標的分子を溶出することが可能である。
【0036】
[実施例6:疎水性微粒子]
図6は、表面に極性が小さい官能基を有し、表面の疎水性が高い疎水性微粒子を配列した機能性微粒子アレイ並びにその使用方法を示す。疎水性微粒子の具体例として、一般的な逆相クロマトグラフィー及び疎水クロマトグラフィーで使用する疎水性担体が挙げられる。これらの疎水性微粒子と疎水性の標的分子との疎水性相互作用を利用し、疎水性微粒子上で疎水性の標的分子の吸着及び溶出を行うことができる。即ち、親水性溶媒中では疎水性相互作用が強まり、疎水性の標的分子が疎水性微粒子に吸着する。一方、脂溶性溶媒中では疎水性相互作用が弱まるため、疎水性の標的分子は疎水性微粒子から溶出する方向に進む。疎水性微粒子上で標的分子を吸着及び溶出する方法は次の2通りに大別される。
【0037】
(1)溶媒に含まれる水の割合を変化させる方法
これは、一般的な逆相クロマトグラフィーにおける標的分子の吸着及び溶出の方法である。最初に、水を多く含む溶媒により標的分子を疎水性微粒子に吸着させる。次に、溶媒中の水の割合を低下させ、疎水性相互作用を減少させることにより、疎水性微粒子上から標的分子を溶出する。
【0038】
(2)塩析を利用する方法
これは、一般的な疎水クロマトグラフィーにおける標的分子の吸着及び溶出の方法である。最初に、高イオン強度の溶媒により標的分子を疎水性微粒子に吸着させる。次に、溶媒のイオン強度を低下させ、標的分子を溶出する。
【0039】
本発明では、上記の方法に基づき、キャピラリ中に配列した疎水性微粒子上で疎水性の標的分子の吸着及び溶出を行う。キャピラリ601中にプローブビーズ602とともに疎水性微粒子603を配列する。標的分子を含むサンプルをキャピラリ601中に添加し、疎水性の標的分子を選択的に疎水性微粒子603上に吸着する。従って、プローブビーズ602上では該サンプル中に含まれる親水性の標的分子だけを選択的に分析することができる。また、必要に応じて、疎水性微粒子603上に捕捉された疎水性の標的分子を溶出させることができる。
【0040】
さらに、疎水性微粒子603に予め疎水性の薬剤などを捕捉しておくと、必要に応じて疎水性微粒子603上に吸着した疎水性の薬剤をキャピラリ601中の溶液に溶出することが可能である。この場合、疎水性微粒子603は、実施例1の薬剤の微粒子、実施例2のマイクロカプセル、及び実施例3のベシクルと同様に、薬剤などを吸着および溶出する微粒子としてはたらく。
【0041】
従って、キャピラリ中に疎水性微粒子を配列することにより、キャピラリ中に添加される疎水性の標的分子を吸着するとともに、必要に応じて該疎水性の標的分子を溶出することが可能である。
【0042】
[実施例7:多孔性微粒子]
図7は、分子サイズの孔径を多数持つ多孔性(多孔質)微粒子を配列した機能性微粒子アレイ並びにその使用方法を示す。多孔性微粒子の具体例としては、一般的なゲルろ過クロマトグラフィーに使用される多孔性微粒子を挙げることができる。ゲルろ過クロマトグラフィーでは、多孔性微粒子を充填したカラムに標的分子を含むサンプルを添加すると、該多孔性微粒子が持つ多数の孔の孔径と比較して見かけの分子サイズが小さい標的分子は該多孔性微粒子の中を満たすように移動し、見かけの分子サイズが大きい標的分子は該多孔性微粒子の外側をたどるように移動する。該多孔性微粒子の孔径は一定ではなくある程度の分布を示すので、カラム中を移動する進路は該標的分子の見かけの分子サイズに応じて差を生じ、これが該標的分子の溶出速度の差として表れる。本発明では、上記の原理に基づき、キャピラリ中に配列した多孔性微粒子を用いて、分子サイズの異なる標的分子を分離する。
【0043】
キャピラリ701内にプローブビーズ702とともに多孔性微粒子703を配列する。次に、様々な分子サイズを持つ標的分子を含むサンプルをキャピラリ中に添加する。図7では説明のため、サンプルを添加する方向704から該サンプルを添加することとする。このとき、該サンプルに含まれる標的分子は多孔性微粒子703上に吸着する。そして、分子サイズの大きい標的分子から溶出が始まり、次第に分子サイズの小さい標的分子が溶出される。従って、プローブビーズ702上では該サンプル中に含まれる標的分子を分子サイズ順に分析することができる。以上のように、キャピラリ中に多孔性微粒子を配列することにより、キャピラリ中に添加される標的分子を分子サイズに応じて分離及び分析することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明によれば、キャピラリビーズアレイにおいて第1に、キャピラリ中で行う化学反応に必要な薬剤、酵素、蛍光ラベル化剤などを、機能性微粒子を用いてキャピラリ中に安定に保持するとともに、必要に応じて該薬剤などをキャピラリ中に溶出することが可能である。第2に、キャピラリ中に添加するサンプル中に含まれる種々の標的分子を、該標的分子の物理化学的性質に基づいて機能性微粒子上に吸着し分離するとともに、必要に応じて該標的分子を溶出することが可能である。
【0045】
キャピラリビーズアレイに以上のような機能を付加することにより、キャピラリビーズアレイの利用分野を大幅に拡大することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】プローブビーズとともに薬剤の微粒子を配列した機能性微粒子アレイの概念図である。図1(a)は薬剤の微粒子が溶解する前の状態の概念図である。図1(b)は薬剤の微粒子が溶解した後の状態の概念図である。
【図2】プローブビーズとともに薬剤の溶液を芯物質として内包するマイクロカプセルを配列した機能性微粒子アレイの概念図である。図2(a)はマイクロカプセルから薬剤が放出される前の状態の概念図である。図2(b)はマイクロカプセルの概念図である。図2(c)はマイクロカプセルから薬剤が放出された後の概念図である。
【図3】プローブビーズとともに薬剤の溶液を芯物質として内包するベシクルを配列した機能性微粒子アレイの概念図である。図3(a)はベシクルから薬剤が放出される前の状態の概念図である。図3(b)はベシクルの概念図である。図3(c)はベシクルから薬剤が放出された後の概念図である。
【図4】プローブビーズとともに吸着担体の微粒子を配列した機能性微粒子アレイの概念図である。
【図5】プローブビーズとともにイオン交換樹脂の微粒子を配列した機能性微粒子アレイの概念図である。
【図6】プローブビーズとともに疎水性微粒子を配列した機能性微粒子アレイの概念図である。
【図7】プローブビーズとともに、多孔性微粒子を配列した機能性微粒子アレイの概念図である。
【符号の説明】
【0047】
101・・・キャピラリ、102・・・プローブビーズ、103・・・薬剤の微粒子、104・・・薬剤の溶液、
201・・・キャピラリ、202・・・マイクロカプセル、203・・・殻物質、204・・・芯物質に相当する薬剤、205・・・薬剤の溶液、206・・・プローブビーズ、
301・・・キャピラリ、302・・・プローブビーズ、303・・・ベシクル、304・・・外膜、305・・・芯物質に相当する薬剤、306・・・薬剤の溶液、
401・・・キャピラリ、402・・・プローブビーズ、403・・・吸着担体の微粒子、
501・・・キャピラリ、502・・・プローブビーズ、503・・・陽イオン交換樹脂の微粒子、
601・・・キャピラリ、602・・・プローブビーズ、603・・・疎水性微粒子、
701・・・キャピラリ、702・・・プローブビーズ、703・・・多孔性微粒子、704・・・サンプルを添加する方向。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的分子を捕捉する性質を持つプローブを表面及び/又は内部に結合したプローブビーズを、基板の上に形成したキャピラリに一次元状又は二次元状に多数個配列したキャピラリビーズアレイにおいて、同一キャピラリにプローブビーズとともに1種以上の機能性微粒子を配列したことを特徴とする機能性微粒子アレイ。
【請求項2】
前記機能性微粒子が、プローブビーズまたは該プローブビーズに捕捉された標的分子に対して化学的作用を及ぼす薬剤をタブレット状に成形した微粒子であることを特徴とする請求項1に記載の機能性微粒子アレイ。
【請求項3】
前記機能性微粒子が、プローブビーズまたは該プローブビーズに捕捉された標的分子に対して化学的作用を及ぼす薬剤の溶液を芯物質として内包するマイクロカプセルであることを特徴とする請求項1に記載の機能性微粒子アレイ。
【請求項4】
前記機能性微粒子が、プローブビーズまたは該プローブビーズに捕捉された標的分子に対して化学的作用を及ぼす薬剤の溶液を芯物質として内包するベシクルであることを特徴とする請求項1に記載の機能性微粒子アレイ。
【請求項5】
前記機能性微粒子が、大きな比表面積と高い吸着能を持つ吸着担体の微粒子であることを特徴とする請求項1に記載の機能性微粒子アレイ。
【請求項6】
前記機能性微粒子が、イオン交換能を持つイオン交換樹脂の微粒子であることを特徴とする請求項1に記載の機能性微粒子アレイ。
【請求項7】
前記機能性微粒子が、表面に極性が小さい官能基を有し、表面の疎水性が高い疎水性微粒子であることを特徴とする請求項1に記載の機能性微粒子アレイ。
【請求項8】
前記機能性微粒子が、分子サイズの孔径を多数持つ多孔質微粒子であることを特徴とする請求項1に記載の機能性微粒子アレイ。
【請求項9】
前記機能性微粒子の直径が前記プローブビーズの直径と略等しいことを特徴とする請求項1に記載の機能性微粒子アレイ。
【請求項10】
同一キャピラリにプローブビーズとともに、1種以上の機能性微粒子としてプローブビーズまたは該プローブビーズに捕捉された標的分子に対して化学的作用を及ぼす薬剤をタブレット状に成形した微粒子を配列し、該タブレット状に成形した薬剤の微粒子を溶解することにより、キャピラリ内のプローブビーズ及び該プローブビーズに捕捉された標的分子に対して該薬剤を投与することを特徴とする機能性微粒子アレイの使用方法。
【請求項11】
同一キャピラリにプローブビーズとともに、1種以上の機能性微粒子として、プローブビーズまたは該プローブビーズに捕捉された標的分子に対して化学的作用を及ぼす薬剤の溶液を芯物質として内包するマイクロカプセル、又はプローブビーズまたは該プローブビーズに捕捉された標的分子に対して化学的作用を及ぼす薬剤の溶液を芯物質として内包するベシクルを配列し、該薬剤の溶液を内包したマイクロカプセルまたはベシクルを破裂させることにより、キャピラリ内のプローブビーズ及び該プローブビーズに捕捉された標的分子に対して該薬剤を投与することを特徴とする機能性微粒子アレイの使用方法。
【請求項12】
前記マイクロカプセルまたはベシクルの内部から薬剤の溶液を徐放させることにより、キャピラリ内のプローブビーズ及び該プローブビーズに捕捉された標的分子に対して該薬剤を投与することを特徴とする請求項11に記載の機能性微粒子アレイの使用方法。
【請求項13】
同一キャピラリにプローブビーズとともに、1種以上の機能性微粒子として大きな比表面積と高い吸着能を持つ吸着担体の微粒子を配列し、該プローブビーズにより捕捉されない各種の分子を捕捉することを特徴とする機能性微粒子アレイの使用方法。
【請求項14】
同一キャピラリにプローブビーズとともに、1種以上の機能性微粒子としてイオン交換能を持つイオン交換樹脂の微粒子を配列し、該微粒子に各種のイオンを捕捉及び溶出することを特徴とする機能性微粒子アレイの使用方法。
【請求項15】
同一キャピラリにプローブビーズとともに、1種以上の機能性微粒子として疎水性微粒子をキャピラリ中に配列し、キャピラリ内の溶液に含まれる水と有機溶媒の割合を変化させることにより、該微粒子上に溶液に含まれる疎水性分子を捕捉及び溶出すること特徴とする機能性微粒子アレイの使用方法。
【請求項16】
前記溶液のイオン強度を変化させることにより、前記微粒子上に溶液に含まれる疎水性分子を捕捉及び溶出すること特徴とする請求項15に記載の機能性微粒子アレイの使用方法。
【請求項17】
同一キャピラリにプローブビーズとともに、1種以上の機能性微粒子として多孔質微粒子をキャピラリ中に配列し、該微粒子が持つ多数の孔を利用し、標的分子のサイズに応じて該標的分子を分離することを特徴とする機能性微粒子アレイの使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−98291(P2006−98291A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−286446(P2004−286446)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(000233055)日立ソフトウエアエンジニアリング株式会社 (1,610)
【Fターム(参考)】