説明

機能性成分の含有量を増加させた玄米及びその製造方法

【課題】玄米の加水量を必要最低限に抑え、かつ、緩慢な加水速度にて加水を行っても、通常玄米と比較して米粒中に含まれるγ−アミノ酪酸等の機能性成分を大幅に増加させる技術を提供することを課題とする。
【解決手段】穀物乾燥機と同様な構造の装置を用い、装置内を循環搬送されている玄米に高湿度の空気を通風し、0.1〜0.3%/hの加水速度で前記玄米の水分を16.5〜18.5%の範囲で上昇させ、その後、通風及び循環搬送を停止した状態にて該玄米を静置することで、玄米に含まれるγ−アミノ酪酸等の機能性成分を増加させる、という技術的手段を講じた。また、機能性成分の含有量を増加させた玄米を製造し、該玄米を精米して、機能性成分の含有量を増加させた分搗き米、胚芽米及び白米に加工し、さらに、これらを無洗分搗き米、無洗胚芽米及び無洗米に加工した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、玄米が含有する機能性成分を増加させる方法及びその方法により製造される玄米に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、γ−アミノ酪酸(ギャバ)は、人体の血圧上昇を抑制するなどの健康維持又は疾病予防に有効な物質として注目されており、玄米などの穀物が含有するγ−アミノ酪酸の含有量を増加させることが行われている。例えば、特許文献1には、玄米の水分を20%以上に加水し、加水した玄米を別途配設したタンクに投入し、該タンク内の換気を行いながら前記玄米を調質することで、玄米が含有するγ−アミノ酪酸の量を増加させる方法が記載されている。しかし、この方法では、一度乾燥した玄米を再度、水分が20%を越えるまで加水する必要があり、そのためには0.5%/h以上の加水速度で加水する必要がある。このような再加水行う玄米の加工方法では、玄米の食味が低下すると思われ、また、胴割れなどの被害が発生するおそれもある。また、一度乾燥した玄米を再度加水し、加水後に再度乾燥する必要があるため、通常の玄米と比較して製造コストが高くなるという問題もある。このため、食味の低下を防止し、さらに、玄米の加水に必要なコスト及び再乾燥に必要なコストを低減させるため、玄米の加水を必要最低限に抑え、かつ、胴割れなどの被害を防止するために加水速度を遅くすることが強く望まれている。
【0003】
また、玄米を発芽させることで、該玄米が含有するγ−アミノ酪酸が大幅に増加することが知られている。しかし、玄米を発芽させて得る発芽玄米は、その食味が、例えば特許文献2にも記載されているように、通常の白米に比べて劣ると考えられている。このため、玄米を発芽させることなく、該玄米が含有するγ−アミノ酪酸の量を通常の玄米よりも増加させることが望まれている。
【0004】
【特許文献1】特開2005−52073号公報
【特許文献2】特開2005−168444号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記問題点にかんがみて、玄米の加水を必要最低限に抑え、かつ、緩慢な加水速度にて加水を行っても、通常玄米と比較して米粒中に含まれるγ−アミノ酪酸等の機能性成分を大幅に増加させる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため本発明は、穀物乾燥機と同様な構造の装置を用い、装置内を循環搬送されている玄米に高湿度の空気を通風し、0.3%/h以下の加水速度で前記玄米の水分を16.5〜18.5%の範囲で上昇させ、その後、通風及び循環搬送を停止した状態にて該玄米を前記装置内に静置することで、玄米に含まれるγ−アミノ酪酸等の機能性成分を増加させる、という技術的手段を講じた。
【0007】
また、機能性成分の含有量を増加させた玄米を製造し、該玄米を精米して、機能性成分の含有量を増加させた分搗き米、胚芽米及び白米に加工し、さらに、これらを無洗分搗き米、無洗胚芽米及び無洗米に加工した。
【発明の効果】
【0008】
本発明の機能性成分の含有量を増加させた玄米の製造方法によれば、原料である玄米の水分を18.5%より高くする必要がない。このことにより、非常に緩やかな加水速度で加水を行うことができるようになり、胴割れなどの被害を防ぐことができる。また、加水に必要なコストを削減でき、同時に加水後の乾燥に必要なコストをも削減できるようになる。さらに、原料である玄米の水分が18.5%を越えることがないので、前記玄米が発芽することはない。このため、発芽による食味低下を防ぐことができ、前記玄米を白米に精米した場合には、該白米を通常の米飯として食することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明を実施するための最良の形態を図1〜図8を参照しながら説明する。図1は、本発明の製造方法における製造工程を示したフローチャートである。図2は、本発明の製造方法にて使用する加水乾燥装置1の一部を破断した正面図である。図3は、加水乾燥装置1の一部を破断した側面図である。図4は、加水乾燥装置1の横断面図である。図5は、加水乾燥装置1の制御ブロック図である。
【0010】
加水乾燥装置1は、一般的な循環式穀物乾燥機とほぼ同様な構造になっており、上部から玄米を貯留する貯留部2、前記玄米に高湿度の空気(以下、「加湿風」という)又は熱風を通風する加水乾燥部7及び加水乾燥部7の玄米を装置外に排出する排出部10が順次重設してある。加水乾燥部7は、送風路3、排風路4及び前記貯留部2に接続した穀物流下槽5が、図3に示した長手方向一方のA側と他方のB側との間にかけて配設された複数の有孔板6で仕切られて形成してある。排出部10には、穀物流下槽5に接続させて傾斜させた無孔板12の下端側に玄米を間欠排出させるための排出バルブ8が設けられており、さらに、排出バルブ8の下方に、該排出バルブ8から繰り出された玄米を横搬送しながら装置外に排出する下部スクリューコンベア9が配設されている。排出された玄米は、バケットコンベア11及び上部スクリューコンベア27を介して前記貯留部2に循環搬送されるようにしてある。
【0011】
なお、バケットコンベア11の上部には、バケットコンベアモータ25cが備えてあり、バケットコンベアモータ25cの動力はバケットコンベア11のほか、上部スクリューコンベア27にも伝達し駆動させるようにしてある。また、排出部10には取り出し部モータ25bが備えてあり、排出バルブ8及び下部スクリューコンベア9は取り出し部モータ25bの動力によって駆動するようにしてある。
【0012】
前記A側の下方には灯油を燃料として燃焼する熱風発生バーナ14及び加湿装置13が設けてあり、また、前記B側の下方にはファンモータ25aを備えた排風ファン20が設けてある。熱風発生バーナ14は、流路切換弁16に接続してある。前記排風ファン20は、前記加水乾燥部7の排風路4の前記B側に接続してあり、排風路4内の熱風を吸引して機外に排風する。熱風が供給される送風路3の供給口近傍には加湿風及び熱風の温度及び湿度を検出する温湿度センサ21が備えてあり、また、前記バケットコンベア11の一側部には穀物の水分値を検出する水分計18が備えてある。
【0013】
前記熱風発生バーナ14で生成される熱風は、前記排風ファン20の吸引作用によって、加水時には、流路切換弁16を介して加湿装置13を通過し、加湿風となって、通風口17、前風路15、送風路3、穀物流下槽5及び排風路4を通って排風ファン20から機外に排風されるようになっている。また、乾燥時には、流路切換弁16によりバイパス風路19を経由して、通風口17、前風路15、送風路3、穀物流下槽5及び排風路4を通って排風ファン20から機外に排風されるようになっている。
【0014】
なお、乾燥開始直後は、急激な乾燥による玄米の胴割れを防ぐために熱風の一部を、気化装置44を通過させて該熱風の相対湿度を上げ、この高湿度の熱風とバイパス風路を通過した熱風とを接続弁26にて混合し、相対湿度75%程度の熱風にして乾燥を行うとよい。
【0015】
ここで、加湿装置13及び熱風発生バーナ14の構成について、図3を参照しながら説明する。加湿装置13は、本実施例では一般的な気化式のものを使用しているが、スチーム式等のその他の加湿方法のものを使用してもよい。熱風発生バーナ14には穀物乾燥機に一般に使用されているものを用いればよい。加湿装置13と熱風発生バーナ14とは、流路切換弁16を介して接続されている。流路切換弁16は、熱風発生バーナ14で生成した熱風を、加水時には、全ての前記熱風が加湿装置13を通過するように、乾燥時にはバイパス風路19を通過するように流路を切り換えることができる。また、流路切換弁16は、乾燥時には、熱風の湿度を調節するために熱風の一部を、加湿装置13を通過させる構造となっている。
【0016】
加水乾燥装置1の各部分の制御は制御部22で行うようになっており、該制御部22は加水乾燥装置1の前記A側に設けてある。図5に示すように、制御部22は、CPU22bを中心とし、該CPU22bに、入出力ポート22a、読み出し専用の記憶部(以下「ROM」という。)22c及び書き込み・読み込み用の記憶部(以下「RAM」という)22dがそれぞれ接続して構成してある。前記ROM22cには、加水運転及び乾燥運転を行うためのプログラムがあらかじめ記憶されている。
【0017】
前記入出力ポート22aには、A/D変換回路23を介して温湿度センサ21が、A/D変換回路24を介して前記水分計18がそれぞれ接続してある。また、前記入出力ポート22aには、加湿装置13、熱風発生バーナ14、流路切換弁16及び入力部29が接続してあるほか、モータ駆動回路25を介してファンモータ25a、取り出し部モータ25b及びバケットコンベアモータ25cがそれぞれ接続してある。入力部29には、張り込み量を設定する張り込み設定スイッチ29a、加水時の水分値を設定する加水設定スイッチ29b、仕上がり水分値を設定する水分設定スイッチ29c、張り込みを開始する張り込みボタン29d、加水を開始する加水ボタン29e、乾燥を開始する乾燥ボタン29f及び穀物を排出する排出ボタン29g等が備えてあり、これらのスイッチやボタンを操作することによって、制御信号が前記CPU22bに伝達され、前記CPU22bは、加水運転プログラムや乾燥運転プログラムなどを実行する。
【0018】
次に、本発明の加水乾燥装置1の作用について説明する。まず、加水運転について説明する。加水乾燥装置1内に原料である玄米を投入して張り込み(ステップS1)、張り込み設定スイッチ29a及び加水設定スイッチ29bにより玄米張り込み量及び加水目標水分値をそれぞれ設定する。設定後、加水ボタン29eを押すと前記ROM22cに組み込まれている加水運転プログラムが前記CPU22bによって実行される(ステップS2)。加水運転プログラムが実行されると、ファンモータ25a、取り出し部モータ25b及びバケットコンベアモータ25cに電流がそれぞれ供給され、排風ファン20、排出バルブ8、下部スクリューコンベア9、バケットコンベア11及び上部スクリューコンベア27がそれぞれ稼働する。
【0019】
また、加湿装置13及び熱風発生バーナ14も稼働し加湿風の生成を開始する。加水乾燥部7の穀物流下槽5に通風する加湿風の設定湿度及び温度は、加水運転開始時に設定した前記玄米張り込み量及び加水目標水分値に基づいて決定され、前記加湿風の湿度及び温度がそれぞれ前記設定湿度及び温度となるように、前記温湿度センサ21で検出する湿度及び温度に基づいて熱風発生バーナ14の燃焼レベルを変更する。加水運転中、前記設定湿度及び温度は、水分計18によって随時測定される穀物水分値に応じて変更するようにしてあり、加湿風の湿度及び温度を、変更された設定湿度及び温度となるように熱風発生バーナ14の燃焼レベルも変更するようにしてある。
【0020】
なお、加水運転中に穀物流下槽5に通風する加湿風の風量は、0.2〜0.6立方メートル/s・tの範囲で調節すればよく、望ましくは0.3〜0.5立方メートル/s・tであり、より望ましくは0.3〜0.35立方メートル/s・tである。また、加湿風の温度は35℃以下にするのが望ましい。
【0021】
前記貯留タンク2から加水乾燥部7の穀物流下槽5に流下した玄米は、加湿装置13及び熱風発生バーナ14で生成された加湿風が通風されて加水される。加水された玄米は、排出バルブ8により穀物流下槽5から排出され、バケットコンベア11及び上部スクリューコンベア27を介して貯留タンク2に循環搬送される。この循環搬送は、水分計18で随時測定される水分値が前記加水目標水分値になるまで行われる。
【0022】
加水乾燥装置1内を循環搬送されながら加水されている玄米の水分が、加水目標水分値になった時点で加水運転は終了する。加水運転終了後、玄米の循環搬送及び加湿風の通風を停止し、加水が終了した玄米を加水乾燥装置1内に静置する(ステップS3)。本発明においては、加水時の玄米水分を18.5%以下に抑えているため、循環搬送や通風を行わない状態で玄米を静置することが可能となる。静置する時間は、増加させるγ−アミノ酪酸の量により異なるが、10時間程度である。また、この時間は容易に変更することが可能であり、2〜25時間の範囲で調節すればよく、8〜12時間の範囲が望ましく、より望ましくは9〜11時間の範囲である。
【0023】
静置後、乾燥運転を開始する(ステップS4)。乾燥仕上目標水分値を設定し、乾燥ボタン29fを押すことでROM22cに組み込まれている乾燥運転プログラムがCPU22bにより実行され、乾燥運転が開始される。乾燥運転プログラムが実行されると、ファンモータ25a、取り出し部モータ25b及びバケットコンベアモータ25cに電流がそれぞれ供給され、停止していた排風ファン20、排出バルブ8、下部スクリューコンベア9、バケットコンベア11及び上部スクリューコンベア27がそれぞれ稼働を開始する。また、熱風発生バーナ14も稼働し熱風の生成を開始する。
【0024】
加水乾燥部7の穀物流下槽5に通風する熱風の設定熱風温度は、乾燥運転開始時に設定した乾燥仕上目標水分値に基づいて決定し、温湿度センサ21の検出温度に基づいて、該検出温度が前記設定熱風温度となるように熱風発生バーナ14の燃焼レベルを変更する。乾燥運転中、前記設定熱風温度は、水分計18によって随時測定される穀物水分値に応じて変更するようにしてあり、穀物流下槽5に通風する熱風の温度が、変更された設定熱風温度となるように熱風発生バーナ14の燃焼レベルも変更するようにしてある。
【0025】
前記貯留タンク2から加水乾燥部7の穀物流下槽5に流下した玄米は、熱風発生バーナ14で生成された熱風の通風によって乾燥される。このようにして穀物流下槽5で乾燥される玄米は、前記排出部10、バケットコンベア11及び上部スクリューコンベア27を介して貯留タンク2に循環搬送され、水分計18で随時測定される玄米の水分値が前記乾燥仕上目標水分値になるまで循環搬送される。乾燥仕上目標水分値まで乾燥が行われた時点で乾燥運転は終了となる。乾燥が終了した玄米は、通常の玄米と同様に取り扱うことが可能である。また、本発明においては、加水運転の後で熱風による乾燥工程を行うので、加水乾燥装置1内における菌類の繁殖を防ぐことができ衛生的である。
【0026】
次に、本発明の製造方法で製造された、γ−アミノ酪酸等の機能性成分の含有量を増加させた玄米(以下、「機能富化玄米」という)の加工(精米)方法について説明する。本発明の製造方法で製造された機能富化玄米は、米粒中に含有するγ−アミノ酪酸の量が増加しているだけであって、その他の性質は通常の玄米と同様である。したがって、通常の玄米と同じように取り扱うことができる。まず、精米の方法について説明する。精米は一般的な方法で行えばよく、目的に応じて、分搗き米、胚芽米及び白米に精米すればよい(ステップS5)。
【0027】
前記機能富化玄米を胚芽米に精米するには、例えば、特開平6−209724に記載されているような方法を用いればよい。この方法の概要を図6及び図7を参照しながら説明する。図6は機能富化玄米を胚芽米に精米するための胚芽米製造装置31の構成を示した図であり、図7は研削式精米機34の部分縦断面図である。
【0028】
胚芽米製造装置31は、マイクロ波加熱装置32と冷却タンク33と研削式精米機34とで構成されている。下部にホッパ35及び36を備える揚穀機37は、投入タンク38を介してマイクロ波加熱装置32の投入樋39に連絡し、マイクロ波加熱装置32の排出樋40は、ベルトコンベア41、ホッパ42、揚穀機43及び切換弁44を介して冷却タンク33A及び33Bに連絡している。冷却タンク33A及び33Bの排出部に排出シャッタ45A及び45Bをそれぞれ設け、冷却タンク33A及び33Bは、ベルトコンベア46、ホッパ47、揚穀機48及び切換弁49を介して研削式精米機34の供給ホッパ50に連絡する。
【0029】
マイクロ波加熱装置32は、立設した樹脂製の円筒体53内に、主軸(図示せず)により回転自在に設けた螺旋円筒52を設け、螺旋円筒52と円筒体53とで形成する空間に玄米の流下路54が形成されている。そして、発振機55A及び55Bがそれぞれ連結する導波管56A及び56Bの先端を円筒体53に臨ませ、流下路54を流下する玄米にマイクロ波を照射する構造となっている。また、導波管56A及び56Bを装設した機枠57の上端に蓋筒58が連結されている。マイクロ波加熱装置32の下部には排出樋40が設けられており、該排出樋40は機外のベルトコンベア41に連絡する。
【0030】
研削式精米機34は、図7に示すように横設した多孔壁精白筒59に回転自在に設けた主軸60に、螺旋転子61と研削精白転子62とを軸装し、多孔壁精白筒59と研削精白転子62とを主要部とする精白室63の一方を供給口64に、他方を排出口65に連絡する。排出口65に重錘66で付勢される抵抗板67を設け、排出口65は排出樋68を介して機外に連絡する。多孔壁精白筒59を集糠室69を介して集塵ダクト(図示せず)に連絡し、供給口64の上方に供給ホッパ50を設ける。主軸60に取付けたプーリ70とモータ71に取付けたプーリ72とをベルト73を介して連絡する。
【0031】
次に、上記構成における作用を説明する。ホッパ35に投入された機能富化玄米は、揚穀機37により揚送されて投入タンク38へ送られ、投入タンク38と連結されている投入樋39を流下し、螺旋円筒52の上端に落下する。螺旋円筒52の上端に落下した機能富化玄米は、螺旋円筒52の回転により流下路54を流下する。流下路54を流下する機能富化玄米には、マイクロ波発振機55Aにより発振されて導波管56Aを経て照射されるマイクロ波により加熱される。マイクロ波発振機55Aにより加熱された機能富化玄米は流下路54を流下し、次いでマイクロ波発振機55Bにより発振されて導波管56Bを経て照射されるマイクロ波により再び加熱される。マイクロ波発振機55Bにより加熱された機能富化玄米は流下路54を流下し、排出樋40からベルトコンベア41に供給される。
【0032】
マイクロ波により加熱された機能富化玄米は、ベルトコンベア41からホッパ42、揚穀機43を経て切換弁44へ送られ、切換弁44を切換えることにより冷却タンク33Aまたは冷却タンク33Bに投入される。マイクロ波加熱装置32により加熱されて穀温の上昇した機能富化玄米は、冷却タンク33A及び33B内で加熱前の穀温以下に冷却される。冷却された機能富化玄米は、シャッタ45A又はシャッタ45Bを開くことにより、冷却タンク33A又は冷却タンク33Bからベルトコンベア46に供給される。ベルトコンベア46に供給された機能富化玄米は、ホッパ47、揚穀機48を介して切換弁49に送られ、切換弁49からホッパ36、揚穀機37、投入タンク38及び投入樋39を介してマイクロ波加熱装置32へ供給されて、再びマイクロ波により加熱される。このように、マイクロ波加熱装置32による加熱と冷却タンク33による冷却とを複数回繰り返されて、含水率が13%以下に乾燥されるとともに加熱前の穀温以下に冷却された機能富化玄米は、切換弁49を切換えることにより供給ホッパ50を介して研削式精米機34へ供給される。
【0033】
研削式精米機34の供給口64から螺旋転子61に供給された機能富化玄米は、螺旋転子61により精白室63へ横送される。精白室63において、機能富化玄米は研削精白転子62の回転によって生じる精白作用を受けて精白され、機能富化胚芽米となる。精白室63における精白作用により発生した糠等の塵埃は、吸引機(図示せず)の吸引作用により多孔壁精白筒59の通孔から集糠室69へ排出され、集糠室69からサイクロン(図示せず)等の集糠装置へ送られる。機能富化玄米を精白した機能富化胚芽米は、排出口65に到達し、抵抗板67に抗しながら排出樋68を流下して機外へ排出される。精米回数は本実施例のように1回に限らず、研削式精米機34に揚穀機を横設して複数回循環させて精米してもよく、研削式精米機34を複数台直列行程に配設して精米してもよい。また、精米機は研削式に限定されるわけではなく、一般的な精米機を使用することができる。
【0034】
なお、本発明の製造方法により製造した機能富化玄米を胚芽米に精米する場合に、マイクロ波による加熱を行わず、周知の精米機により、精米時の歩留まりを調節して胚芽米に精米してもよい。
【0035】
ところで、玄米粒が乾燥するときには胚芽部を通して大部分の水分が米粒外へ出るため、米粒の胚芽と胚乳との接合部の水分が最も高くなる。また、マイクロ波のエネルギーは水分中に吸収されるため、水分が最も高い胚芽と胚乳との接合部での発熱が最大となり、胚芽と胚乳とが糊化結合される。胚芽と胚乳とが糊化結合されているため、その玄米を精米しても脱芽しにくいので胚芽残存率の高い胚芽米に仕上がる。また、冷却タンク33により冷却されて低温状態で精米されるので、食味を損なわない美味しい飯米に仕上がる。
【0036】
本発明の製造方法で製造された機能富化玄米を精米して得られる分搗き米(以下、「機能富化分搗き米」という)、機能富化胚芽米及び白米(以下、「機能富化白米」という)は、それぞれ一般的に市場に流通している分搗き米、胚芽米及び白米と同様に取り扱うことが可能である。よって、周知の無洗米化技術を用いて、前記機能富化分搗き米を機能富化無洗分搗き米に、前記機能富化胚芽米を機能富化無洗胚芽米に、そして、前記機能富化白米を機能富化無洗米に各々加工することが容易にできる(ステップS6)。
【0037】
ここで、無洗米化技術について、前記機能富化白米を例として概要を説明する。無洗米化技術として、例えば、特開2001−259447に記載されているような無洗米の製造方法を用いることができる。この無洗米の製造方法の概要を図8により説明する。図8は無洗米の製造方法の工程を示した図である。無洗米の製造工程は、水分添加手段79、撹拌混合手段80及び分離手段81とから主要部が構成される。水分添加手段79では、機能富化白米に水分が添加され、撹拌混合手段80により水分を添加した機能富化白米に粉砕米を混合し、その状態で撹拌することで機能富化白米の研磨が行われ、分離手段81により研磨された機能富化白米と使用済みの粉砕米とが分離される。
【0038】
水分添加手段79は、円筒状の精白米誘導筒82内に、回転可能な螺旋転子83を内装した構造であり、精白米誘導筒82の任意位置には、水タンク84、電磁弁85及び水管86などからなる適宜な水分添加装置87が接続される。そして、ホッパ76から機能富化白米を投入するとともに、精白米誘導筒82内で螺旋転子83を回転させて、米粒を転動させる過程で水分を添加させるのであるが、水分添加装置87により、例えば、米粒重量の3〜5%の水分を添加させるとよい。また、機能富化白米が精白米誘導筒82内を通過する時間は、例えば、15秒程度に設定することで、米粒に亀裂が生じる危険を防ぐことができ、機能富化白米に安全に水分を添加することができる。水分が添加された機能富化白米の表面は、わずかに軟質化状態となる。
【0039】
前記機能富化白米は、直ちに粉砕米と撹拌混合するため撹拌混合手段80に投入される。撹拌混合手段80は、ドラム状の機枠88と、回転可能に設けた撹拌装置89とを主要構成とし、機枠88の一端側には、前記水分添加手段79から連絡する精白米供給樋90と、適宜搬送手段により搬送される粉砕米の粉砕米供給樋91とがそれぞれ接続されている。前記搬送手段として、例えば、エアー搬送を用いる場合は、気流分離するためのサイクロン92を前記粉砕米供給樋91の上端に接続する一方、該サイクロン92からは粉砕米供給樋91とは別に分岐する粉砕米排出樋77を接続する。前記撹拌装置89には、複数の撹拌羽根93が設けられ、モータ等の動力により回転される。該撹拌羽根93が回転されると、機能富化白米と粉砕米とが機枠88内で撹拌混合され、機枠88の他端側に設けた排出口94から混合粒が排出される。
【0040】
撹拌混合手段80に投入された機能富化白米は、水分5%以下に仕上げられた粉砕米と撹拌混合される。この作用により、機能富化白米表面付近の水分を含んで膨潤したアリューロンが粉砕米に吸着され、アリューロン隔壁から浮き上がり、そして、機能富化白米と粉砕米との粒子同士の軽い摩擦作用によって、機能富化白米表面の研磨が行われる。機能富化白米と粉砕米との混入割合は、機能富化白米100重量部に対し、粉砕米5〜30重量部とするのが好ましい。
【0041】
分離手段81は、機能富化白米と粉砕米とを分離することができる篩分装置であれば、どの様な構造のものでもよく、例えば、篩網95を張設した粗選機96のようなものでよい。また、この粗選機96に振動を与えることができるように、ユーラスモータを設けてもよい。
【0042】
以上のように分離手段81により得られた機能富化白米は、米粒表面に残存する糠を除去した無洗米となるが、さらに無洗米の白度を向上させ生産性を上げるためには、分離手段81の後工程に、第2撹拌混合手段98と、第2分離手段99とを設ければよい。これにより、米粒表面に残存する糠が完全に剥離除去され、白度が向上した光沢のある機能富化無洗米を製造することができる。
【0043】
また、前記機能富化分搗き米及び前記機能富化胚芽米は、例えば、特開2002−166485号公報に記載されているような蒸気を利用した無洗米化技術を用いることで無洗米に加工することができる。当然、機能富化白米にもこの無洗米化技術を用いることができる。また、前記蒸気の代わりに過熱蒸気を使用すれば、より高温で米粒の熱殺菌処理を行うことが可能となる(ステップS7)。
【実施例1】
【0044】
本発明の実施例の一つとして、コシヒカリ(広島産、平成16年度産)を本発明の製造方法にて加工した。前記加水乾燥装置1を使用して、前記コシヒカリの玄米の水分を、該水分が18.5%を越えないように、0.2%/h以下の加水速度で加水した。この加水運転では、加湿風の相対湿度は95%以上とし、前記加湿風の温度を、加水開始後2時間は15℃とし、以後、2時間ごとに5℃ずつ温度を上げて行き、最終的に35℃の加湿風で16時間、加水のための通風を行った。加水運転終了後、前記コシヒカリを加水乾燥装置1の貯留タンク2内に10時間静置し、前記コシヒカリが含有するγ−アミノ酪酸の量を増加させた。静置後、乾燥運転にて乾燥を行い、前記コシヒカリの機能富化玄米を得た。さらに、前記機能富化玄米を通常の精米方法にて精米して機能富化白米を得た。ひとめぼれ(広島産、平成16年度産)及びきらら397(北海道産、平成16年度産)についても同様の条件でそれぞれ機能富化玄米及び機能富化白米を製造して得た。
【0045】
このようにして得た前記コシヒカリの機能富化玄米及び機能富化白米が含有するγ−アミノ酪酸の量及び白度を表1に示す。前記ひとめぼれについては表2に、前記きらら397については表3に、それぞれの機能富化玄米及び機能富化白米が含有するγ−アミノ酪酸の量及び白度示す。また、γ−アミノ酪酸の測定は高速液体クロマトグラフ(株式会社島津製作所、LC−VP)で行い、白度は白度計(株式会社ケット科学研究所、C−300)で測定した。
【0046】
【表1】

【表2】

【表3】

【0047】
表1においては、機能富化玄米及び機能富化白米のγ−アミノ酪酸の増加割合を示すために、原料に使用した前記コシヒカリの玄米を「原料玄米」、該玄米を精米した白米を「原料白米」として表示している。原料玄米と機能富化玄米とでは、機能富化玄米のγ−アミノ酪酸の含有量が原料玄米の2倍以上、原料白米と機能富化白米とでは、機能富化玄米のγ−アミノ酪酸の含有量が原料白米の約3.3倍となった。また、原料玄米と機能富化玄米及び原料白米と機能富化白米とで、白度には明確な差が認められなかった。
【0048】
なお、ひとめぼれ及びきらら397についてもコシヒカリと同様な傾向の結果となった。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】玄米が含有する機能性成分を増加させるための製造方法を示したフローチャートである。
【図2】本発明を実施した加水乾燥装置の一部を破断した概略正面図である。
【図3】本発明を実施した加水乾燥装置の一部を破断した概略側面図である。
【図4】加湿風及び熱風の流れを説明するための加水乾燥部の横断面の概略図である。
【図5】本発明を実施した加水乾燥装置の制御ブロック図である。
【図6】胚芽米に精米するための装置の概略図である。
【図7】精米機の概略図である。
【図8】無洗米の製造方法を示した図である。
【符号の説明】
【0050】
1 加水乾燥装置
2 貯留タンク
3 送風路
4 排風路
5 穀物流下槽
6 有孔板
7 加水乾燥部
8 排出バルブ
9 下部スクリューコンベア
10 排出部
11 バケットコンベア
12 無孔板
13 加湿装置
14 熱風発生バーナ
15 前風路
16 流路切換弁
17 通風口
18 水分計
19 バイパス風路
20 排風ファン
21 温湿度センサ
22 制御部
22a 入出力ポート
22b CPU
22c ROM
22d RAM
23 A/D変換回路
24 A/D変換回路
25 モータ駆動回路
25a ファンモータ
25b 取り出し部モータ
25c バケットコンベアモータ
26 接続弁
27 上部スクリューコンベア
29 入力部
29a 張り込み設定スイッチ
29b 加水設定スイッチ
29c 水分設定スイッチ
29d 張り込みボタン
29e 加水ボタン
29f 乾燥ボタン
29g 排出ボタン
31 胚芽精米装置
32 マイクロ波加熱装置
33 冷却タンク
34 研削式精米機
35 ホッパ
36 ホッパ
37 揚穀機
38 投入タンク
39 投入樋
40 排出樋
41 ベルトコンベア
42 ホッパ
43 揚穀機
44 切換弁
45 シャッタ
46 ベルトコンベア
47 ホッパ
48 揚穀機
49 切換弁
50 供給ホッパ
52 螺旋円筒
53 円筒体
54 流下路
55 発振機
56 導波管
57 機枠
58 蓋筒
59 多孔壁精白筒
60 主軸
61 螺旋転子
62 研削精白転子
63 精白室
64 供給口
65 排出口
66 重錘
67 抵抗板
68 排出樋
69 集糠室
70 プーリ
71 モータ
72 プーリ
73 ベルト
76 ホッパ
77 粉砕米排出樋
79 水分添加手段
80 撹拌混合手段
81 分離手段
82 精白米誘導筒
83 螺旋転子
84 水タンク
85 電磁弁
86 水管
87 水分添加装置
88 機枠
89 撹拌装置
90 精白米供給樋
91 粉砕米供給樋
92 サイクロン
93 撹拌羽根
94 排出口
95 篩網
96 粗選機
97 ユーラスモータ
98 第2撹拌混合手段
99 分離手段
102 粉砕米取出樋
103 精白米取出樋


【特許請求の範囲】
【請求項1】
循環搬送されている玄米を加水する工程と、
加水が終了した玄米を静置する静置工程と、
静置後に前記玄米を乾燥する乾燥工程と、
からなり、
前記加水工程において、高湿度の空気の通風により、前記玄米の水分が16.5〜18.5%の範囲となるように0.3%/h以下の加水速度で加水することを特徴とする機能性成分の含有量を増加させた玄米の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法の静置工程において、循環搬送及び通風を停止した状態で玄米を静置することを特徴とする機能性成分の含有量を増加させた玄米の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の製造方法によって製造された機能性成分の含有量を増加させてなる玄米。
【請求項4】
請求項3に記載の玄米を精米して得られる機能性成分の含有量を増加させてなる分搗き米、胚芽米又は白米。
【請求項5】
請求項4に記載の分搗き米、胚芽米又は白米をそれぞれ無洗米化して得られる機能性成分の含有量を増加させた無洗分搗き米、無洗胚芽米又は無洗米。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−215504(P2007−215504A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−41074(P2006−41074)
【出願日】平成18年2月17日(2006.2.17)
【出願人】(000001812)株式会社サタケ (223)
【Fターム(参考)】