機能性有機りん化合物およびその製造方法
【課題】有機高分子化合物に対する難燃剤としての機能と架橋剤としての機能とを合わせ持っていて、しかも、それが有機合成の原料としても有用であるような機能性有機りん化合物およびその製造方法を提供する。
【解決手段】一般式1で表され、非加水分解性であり、分子内に三個の不飽和基を持っている事を特徴とする機能性有機りん化合物およびその製造方法を提供する事によって課題を解決する。
【化5】
(式1中、R1 は4−アリロキシフェニル基、4−メタリロキシフェニル基等を示し、R2 およびR3 は同じであっても異なっていてもよく、アリル基、メタリル基等を示し、nは0または1を示す。)
【解決手段】一般式1で表され、非加水分解性であり、分子内に三個の不飽和基を持っている事を特徴とする機能性有機りん化合物およびその製造方法を提供する事によって課題を解決する。
【化5】
(式1中、R1 は4−アリロキシフェニル基、4−メタリロキシフェニル基等を示し、R2 およびR3 は同じであっても異なっていてもよく、アリル基、メタリル基等を示し、nは0または1を示す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は機能性有機りん化合物およびその製造方法に関する。さらに詳細には、有機りん化合物が非加水分解性であり、分子内に複数個の不飽和基を持っていて、これを含有している有機高分子化合物に電子線またはγ線などの放射線の処理を施す事によって有機高分子化合物との間に架橋結合が形成されるゆえに、有機高分子化合物に対する難燃剤としての機能と架橋剤としての機能とを合わせ持っていて、しかも、それが有機合成の原料としても有用であるような機能性有機りん化合物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機りん化合物は有機高分子化合物の安定剤、可塑剤または難燃剤として有用であり、また特殊な界面活性剤、極圧添加剤または農薬などとしても幅広い用途を持っている。中でも、高分子化合物の難燃剤としては、同じ用途に使用されていた有機ハロゲン化合物が火災における燃焼時に有毒ガスを発生したり、その焼却処分時に焼却炉を腐食したりまたは環境汚染性の有害物質を排出したりする事などが忌避されて、難燃剤を使用する業界においてはハロゲン系の難燃剤を他の難燃剤に置き換えようとする動きが活発であり、この目的には有機りん化合物が特に注目されている。
【0003】
しかし従来、難燃剤として使用されて来た有機りん化合物の多くはりん酸エステル系のものであり、有機ハロゲン化合物に比較すれば加水分解しやすく、特に電気部品または電子機器部品などの用途には電気絶縁性の保持などの目的から、有機りん化合物に対しても非加水分解性の要求は強いものである。従来、広く使用されて来たりん酸エステル系の有機りん化合物は高分子材料の中で高温の水分またはアルカリの存在下で加水分解されて、その生成物が高分子材料の電気絶縁性を低下させたり、極端な場合には高分子材料の基板上に設けられた微細な電気配線を腐食したりする傾向があった。ゆえに、それらの難燃剤を電気部品または電子機器部品などの用途に使用する場合には問題であり、非加水分解性の有機りん化合物の開発は切実な要求であり、それが待たれているのが現状である。
【0004】
一方では、複数個の不飽和基を持っていて、重合開始剤や紫外線、電子線またはγ線などの放射線の処理によって、重合または有機高分子化合物との間に架橋結合の形成可能な機能を持った有機りん化合物の開発も同様に望まれている。従来、高度な耐熱性が要求される機械部品、電気部品または電子機器部品などの製造にはフェノール樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂またはエポキシ樹脂などのように耐熱性の優れた熱硬化性の樹脂が使用されてきたが、これらの熱硬化性樹脂を使用する時の欠点としては、熱可塑性樹脂の成形に比べて、1.硬化に時間が掛かり生産性が悪い事、2.部品の小型化または精密化に限度がある事または3.製品の均一性が充分でない事などがあった。そこで、これらの熱硬化性の樹脂に代わって、架橋剤を添加した熱可塑性樹脂の成形品に電子線やγ線などの放射線の処理を施す事によって、樹脂に架橋構造を形成させて熱硬化性樹脂並みの耐熱性を与えようとする技術が発展していて、既に実用化もされている。そして最近では、この架橋剤にさらに難燃剤としての機能を持っているものが要求されており、この理由で有機りん化合物にも架橋剤としての機能を持ったものの開発が求められているところである。この技術によれば、たとえば、ポリエチレンまたは若干のゴム類のように放射線処理による自己架橋性の熱可塑性樹脂には単なる放射線などの処理だけで架橋されて、架橋剤の存在なしで耐熱性が得られるものも幾つか知られてはいるが、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂またはポリアミド樹脂などのように自己架橋性のない多くの熱可塑性樹脂には通常、放射線処理前に架橋剤としてPFM(ポリファンクショナルモノマー:多官能性単量体)と称されている有機化合物が添加されてから部品類が成形され、その後で電子線またはγ線などの放射線の処理がなされ、部品類の外形を全く変化させないで所望の耐熱性が与えられる。PFM(以下、本明細書においては放射線処理を目的とした架橋剤を単にPFMと称する。)は複数個の不飽和基を持った有機化合物であって、対象となる熱可塑性樹脂と相溶性のある事が必要である。もしも、有機りん化合物に複数個の不飽和基があれば、これには難燃剤としての機能とPFMとしての機能とを合わせ持つ事が期待出来る。そのような有機りん化合物としては、現在トリアリルホスフェート(りん酸トリアリル)が良く知られてはいるが、これは分子量が小さく揮発性がある事と容易に加水分解される事からこの技術には限定された用途にしか使用されていない。そして、この技術に適合する非加水分解性の有機りん化合物からなる難燃性PFMは目下その開発が待たれているところである。
【0005】
また、複数個のフェノール性ヒドロキシ基を持っている非加水分解性の有機りん化合物はエポキシ樹脂の硬化剤として、電気部品または電子機器部品への用途に貴重であり(例えば特許文献1参照)、同様にその開発が待たれるところである。
【特許文献1】特開2000−186186号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
既に説明したように、特に電気部品または電子機器部品に使用される難燃剤としての有機りん化合物には非加水分解性が求められている。非加水分解性の有機りん化合物を提供する事が本発明の第一の課題である。一方で、有機りん化合物が複数個の不飽和基を持っているような難燃性PFMはその開発が望まれている。そのような機能性有機りん化合物を提供する事が第二の課題である。さらに、機能性有機りん化合物が持っている不飽和基またはヒドロキシ基の反応性を利用して、これから種々の用途や他の有用な有機りん化合物が誘導される事はまた望ましい事であり、これが第三の課題である。そして、このような機能性有機りん化合物の工業的な製造方法を提供する事が第四の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によって、一般式1で表される新規な機能性有機りん化合物およびその製造方法が提供される。
【0008】
【化3】
(式1中、R1 は4−アリロキシフェニル基、4−メタリロキシフェニル基、3−アリル−4−ヒドロキシフェニル基または3−メタリロキシ−4−ヒドロキシフェニル基を示し、R2 およびR3 は同じであっても異なっていてもよく、アリル基、メタリル基、4−アリロキシフェニル基、4−メタリロキシフェニル基、3−アリル−4−ヒドロキシフェニル基または3−メタリル−4−ヒドロキシフェニル基を示し、nは0または1を示す。)
一般式1で表される機能性有機りん化合物ではりん原子と三個の炭素原子がすべて直接に結合している。この構造から理解されるように、これは非加水分解性であり、本発明の第一の課題が解決される。また、一般式1で表される有機りん化合物はすべてが三個の不飽和基を持っていて、重合開始剤や放射線などの処理によって重合反応ないし有機高分子化合物に対しての架橋形成反応などの機能があり、難燃性PFMとしての第二の課題が解決される。さらに、この不飽和基は反応性に富んでいて酸化剤による酸化反応ではエポキシ化合物が、そのハロゲン化反応ではハロゲン化合物が誘導される。そして、一般式1で表される有機りん化合物の一部が持っているヒドロキシ基もまた反応性に富んでいて、有機ハロゲン化物とアルカリの存在下にエーテル化反応が容易に実施出来る。エーテル化反応の中で重要なのはグリシジルエーテル化反応である。ヒドロキシ基を持っている機能性有機りん化合物、特に、トリス−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)ホスフィンオキサイドは三個のヒドロキシ基を持っていて、エポキシ樹脂の難燃性硬化剤としての機能を持つとともに、アルカリの存在下でエピハロヒドリンと縮合反応してグリシジルエーテルを形成して、トリス−(3−アリル−4−グリシジルオキシフェニル)ホスフィンオキサイドが得られる。これらには非加水分解性である特性が保持されていて、電気部品または電子機器部品の用途への難燃性エポキシ樹脂組成物として有用である。さらに、ヒドロキシ基のオルソ位置も反応性であって、ホルムアルデヒドなどと反応して難燃性のフェノール樹脂が誘導される。これらの一部の実例からも理解される通り、これらはさらに多くの誘導体への可能性を持っていて、第三の課題に答える事が出来る。
【0009】
第四の課題は本発明の機能性有機りん化合物の工業的な製造方法を提供する事であり、以下に説明する方法で解決される。
【0010】
一般式1で表される有機りん化合物の内、4−アリロキシフェニルジアリルホスフィン、4−メタリロキシフェニルジメタリルホスフィン、トリス−(4−アリロキシフェニル)ホスフィン、トリス−(4−メタリロキシフェニル)ホスフィン、4−アリロキシフェニルジアリルホスフィンオキサイド、4−メタリロキシフェニルジメタリルホスフィンオキサイド、トリス−(4−アリロキシフェニル)ホスフィンオキサイドまたはトリス−(4−メタリロキシフェニル)ホスフィンオキサイドなどの分子中にヒドロキシ基を持たないものは一般式2で表される有機りん化合物とアリルマグネシウムハロゲナイド、メタリルマグネシウムハロゲナイド、4−アリロキシフェニルマグネシウムハロゲナイドまたは4−メタリロキシフェニルマグネシウムハロゲナイドとの縮合反応を行い、必要ならば続いて酸化剤による酸化反応を行なう事によって製造する事が出来る。一般式2で表される有機りん化合物は4−アリロキシフェニルマグネシウムハロゲナイドまたは4−メタリロキシフェニルマグネシウムハロゲナイドと三塩化りん、三臭化りん、トリフェニルホスファイト(亜りん酸トリフェニル)またはオキシ塩化りん(POCl3 )との縮合反応によって製造する事が出来る。
【0011】
【化4】
(式2中、R4 は4−アリロキシフェニル基または4−メタリロキシフェニル基を示し、Xは塩素原子、臭素原子またはフェノキシ基を示し、nは0または1を示す。)
一般式1で表される有機りん化合物の内、3−アリル−4−ヒドロキシフェニルジアリルホスフィンオキサイド、3−メタリル−4−ヒドロキシジメタリルホスフィンオキサイド、トリス−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)ホスフィン、トリス−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)ホスフィンオキサイドまたはトリス−(3−メタリル−4−ヒドロキシフェニル)ホスフィンオキサイドなどの分子中にヒドロキシ基を持っているものは、先のヒドロキシ基を持たない有機りん化合物の分子内転移反応によって製造する事が出来る。
【発明の効果】
【0012】
各実施例で明らかなように、本発明の機能性有機りん化合物はいずれも工業的な規模で製造し得る事が確認され、また、各実施例、比較例および参考例の結果から明らかなように、これは非加水分解性であり、難燃剤として有機分子中に添加されても極めて安定な事が実証された。そして、ヒドロキシ基を持たない機能性有機りん化合物はポリスチレンとポリフェニレンオキサイド混合物に対する難燃性PFMの機能を持っている事が、また、ヒドロキシ基を持っている機能性有機りん化合物は6,6−ナイロンに対して難燃性PFMの機能を持っている事が確認された。三個のヒドロキシ基を持っている機能性有機りん化合物はエポキシ樹脂に対して硬化剤としての機能と難燃剤としての機能を合わせ持っている事が確認された。これらの結果は本発明の産業上の有用性を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に従って、一般式1で表され、分子内に三個の不飽和基を有する事を特徴とする非加水分解性の機能性有機りん化合物およびその製造方法が提供される。以下、本発明の機能性有機りん化合物およびその製造方法のより好ましい実施形態を例示しつつ本発明を説明する。
【0014】
既に説明したように、一般式1で表される機能性有機りん化合物の内、分子内にヒドロキシ基を持たないものは一般式2で表される有機りん化合物とアリルマグネシウムハロゲナイド、メタリルマグネシウムハロゲナイド、4−アリロキシフェニルマグネシウムハロゲナイドまたは4−メタリロキシフェニルマグネシウムハロゲナイドとの縮合反応を行い、必要ならば続いて酸化剤による酸化反応を行なう事によって製造する事が出来る。また、一般式1で表される機能性有機りん化合物の内、分子内にヒドロキシ基を持っているものは先のヒドロキシ基を持たない有機りん化合物の分子内転移反応によって製造する事が出来る。
【0015】
一般式2で表される有機りん化合物は4−アリロキシフェニルマグネシウムハロゲナイドまたは4−メタリロキシフェニルマグネシウムハロゲナイドと三塩化りん、三臭化りん、トリフェニルホスファイトまたはオキシ塩化りんとの縮合反応によって製造する事が出来る。このとき三塩化りん、三臭化りん、トリフェニルホスファイトまたはオキシ塩化りんは無水の不活性な有機溶媒に溶解してから4−アリロキシフェニルマグネシウムハロゲナイドまたは4−メタリロキシフェニルマグネシウムハロゲナイドとの縮合反応を行なわせれば反応が円滑である。無水の不活性な有機溶媒としては、エチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ピラン、n−ヘキサン、ヘプタン、ノナン、デカン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼンまたはエチルベンゼンなどが挙げられる。三ハロゲン化りんとしては三塩化りんまたは三臭化りんが使用され得るが、経済的な理由で三塩化りんが使用され、三臭化りんはその使用の理由が見出だし難い。また、本明細書では記述の複雑化を避けるために、トリフェニルホスファイトを特定したが、容易に理解される通り、トリクレジルホスファイトまたは混合ホスファイトなども全く同様に使用し得て、トリフェニルホスファイトだけに限定されるものではない。一般式2で表される有機りん化合物の調製にあたっては縮合反応の温和さと選択率向上の目的でトリフェニルホスファイトまたはオキシ塩化りんを使用する事が推奨される。三塩化りんとグリニア試薬との縮合反応は非常に激烈であって、不活性有機溶媒で充分に希釈し、且つ可能な限りの低温で縮合反応を行なう事が好ましい。従って実験室での調製ではトリフェニルホスファイトまたはオキシ塩化りんの使用が簡便で好ましい。ここで、三塩化りん、三臭化りん、トリフェニルホスファイトまたはオキシ塩化りん1モルに対して1モルの4−アリロキシフェニルマグネシウムハロゲナイドまたは4−メタリロキシフェニルマグネシウムハロゲナイドを縮合反応させれば、一般式2で表される有機りん化合物が得られるが、1モルに対して3モルを縮合反応させれば一挙にトリス−(4−アリロキシフェニル)ホスフィンまたはトリス−(4−メタリロキシフェニル)ホスフィン、トリス−(4−アリロキシフェニル)ホスフィンオキサイドまたはトリス−(4−メタリロキシフェニル)ホスフィンオキサイドが得られる。
【0016】
これらの縮合反応はグリニア反応(Gregnard reaction)と称される人名反応であって、良く知られている。またアリルマグネシウムハロゲナイド、メタリルマグネシウムハロゲナイド、4−アリロキシフェニルマグネシウムハロゲナイドまたは4−メタリロキシフェニルマグネシウムハロゲナイドなどの置換マグネシウムハロゲナイド類はグリニア試薬(Gregnard reagent)と称されていて、有機ハロゲン化合物と金属マグネシウムとの反応によって調製される。通常、グリニア試薬の調製は無水のエチルエーテルまたはテトラハイドロフラン(以下、本明細書ではTHFと称する。)の存在下で行なわれる。しかし、現在ではエチルエーテルが使用される事は稀であり、殆どTHFが使用されている。本発明においてもTHFを使用してグリニア試薬の調製およびグリニア反応を行なう事が好ましい。
【0017】
本発明に関係するグリニア試薬の調製はアリルハロゲナイド、メタリルハロゲナイド、4−アリロキシフェニルハロゲナイドまたは4−メタリロキシフェニルハロゲナイドと金属マグネシウムとをTHFの存在下で反応させる事で達せられる。この時はじめに微量の沃素が存在すれば反応は円滑である。アリルハロゲナイドおよびメタリルハロゲナイドはアリルクロライドおよびメタリルクロライドが工業的規模で入手出来て、しかもグリニア試薬の調製が容易な事からそれらのブロマイドを使用する理由は少ない。4−アリロキシフェニルハロゲナイドまたは4−メタリロキシフェニルハロゲナイドの内、4−アリロキシフェニルクロライドまたは4−メタリロキシフェニルクロライドは金属マグネシウムとの反応が極めて緩慢であって、加圧下でTHFのより高い温度でようやく進行するに過ぎない。従って、実験室でのグリニア試薬の調製では4−アリロキシフェニルブロマイドまたは4−メタリロキシフェニルブロマイドを使用する事が簡便であって推奨される。
【0018】
4−アリロキシフェニルハロゲナイドまたは4−メタリロキシフェニルハロゲナイドは4−ヒドロキシフェニルクロライド(パラクロロフェノール)または4−ヒドロキシフェニルブロマイド(パラブロモフェノール)とアリルクロライドまたはメタリルクロライドとをアルカリの存在下に縮合反応を行なう事によって調製される。アルカリとしては水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムが使用されるが、水酸化ナトリウムが経済的であり好ましい。さらに、パラクロロフェノールはフェノールの塩素または塩化スルフリルによる塩素化によって製造されるが、塩素による塩素化では多くのオルソクロロフェノールが副生して収率が乏しく、塩化スルフリルによる塩素化が実施される。パラブロモフェノールはフェノールの臭素による臭素化によって製造されるが、低温での臭素化ではオルソブロモフェノールなどの副生はより少なく好ましい。
【0019】
一般式2で表される有機りん化合物の溶液にさらにアリルマグネシウムクロライド、メタリルマグネシウムクロライド、4−アリロキシフェニルマグネシウムブロマイドまたは4−メタリロキシフェニルマグネシウムブロマイドを添加、縮合反応させれば4−アリロキシフェニルジアリルホスフィン、4−メタリロキシフェニルジメタリルホスフィン、トリス−(4−アリロキシフェニル)ホスフィン、トリス−(4−メタリロキシフェニル)ホスフィンまたはそれらのオキサイド類が得られる。なおここで、一般式2で表される有機りん化合物と本発明のグリニア試薬との縮合反応はあらゆる組合せと混合されたグリニア試薬の使用が可能であり、これから誘導される機能性有機りん化合物はさらに多様であって、単に例示した範囲に留まらず、一般式1の定義内のすべてが本発明の技術思想に包含される。反応後の不活性有機溶媒中には目的化合物の他に縮合反応によって生成したマグネシウムハロゲナイドまたはマグネシウムフェノキサイドなどを含有している。これに水または希酸を加えて水洗すればマグネシウムフェノキサイドはマグネシウム塩とフェノールに分解されて無機塩類が除去され、生成した有機りん化合物が分離される。含有されている有機溶媒またはフェノールを蒸留して除去すれば、ホスフィン類またはホスフィンオキサイド類は濃縮される。
【0020】
一般式1で表される機能性有機りん化合物の内、ヒドロキシ基を持たないホスフィンオキサイド類は得られたホスフィン類を酸化する事によっても製造する事が出来る。酸化反応の酸化剤としては、空気、酸素、過酸化水素または有機過酸化物などが使用される。本発明に係るホスフィン類は比較的容易に酸化されるものが多く、それらは空気によっても容易に酸化されるので、空気が最も経済的である。ただし、トリス−(4−アリロキシフェニル)ホスフィンまたはトリス−(4−メタリロキシフェニル)ホスフィンの空気による酸化はやや困難であり、過酸化水素または有機過酸化物を使用する事が好ましい。ホスフィン類またはホスフィンオキサイド類は真空蒸留または再結晶によって精製する事が出来る。
【0021】
一般式1で表される機能性有機りん化合物の内、分子内にヒドロキシ基を持っている有機りん化合物は先の分子内にヒドロキシ基を持っていない有機りん化合物の分子内転移反応によって製造する事が出来る。この分子内転移反応はクライゼン転移(Claisen rearrangement)と称されていて、また人名反応として有名である。この転移反応は単に加熱するだけでも達成されるが塩化マグネシウム、塩化アルミニウム、塩化亜鉛、塩化第二鉄などのルイス酸あるいは硫酸またはスルホン酸類などの酸性触媒の添加によって促進される。また、転移反応は発熱反応であって、反応を温和且つ円滑にする目的で不活性溶媒中で反応を行なう事が好ましい。不活性溶媒としては、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ベンゼン、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、ナフタリンまたはビフェニルなどの炭化水素類、ジクロロエタン、トリクロロエタン、クロロベンゼンまたはジクロロベンゼンなどの塩素化炭化水素類あるいはニトロベンゼン、フェノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、スルホラン、γ−ブチロラクトン、1−メチル−2−ピロリドンまたはN,N−ジメチルイミダゾリジノンなどが挙げられる。分子内転移反応を無触媒で実施する時には比較的に高沸点の不活性溶媒を選択する事が好ましく、ジエチレングリコール、スルホラン、γ−ブチロラクトン、1−メチル−2−ピロリドンまたはN,N−ジメチルイミダゾリジノンなどの使用が推奨される。得られたヒドロキシ基を持っている機能性有機りん化合物は同様に、再結晶法または真空蒸留法によって精製する事が出来る。
【0022】
次に、本発明の産業上の有用性について説明する。本発明の機能性有機りん化合物はしばしば説明したように、非加水分解性であってその分子中に三個の不飽和基を持っているのが特徴である。この特徴を活かして産業上有用な用途が多く見出だされる。一般式1で表される機能性有機りん化合物はその分子中にヒドロキシ基を持っていないものとヒドロキシ基を持っているものとに分けられる。そしてこれらは用途面でまたはっきりと差別される。その重要な用途の一つは難燃性PFMすなわち難燃性架橋剤である。
【0023】
分子中にヒドロキシ基を持っていない機能性有機りん化合物は4−アリロキシフェニルジアリルホスフィンオキサイド、4−メタリロキシフェニルジメタリルホスフィンオキサイド、トリス−(4−アリロキシフェニル)ホスフィンおよびトリス−(4−アリロキシフェニル)ホスフィンオキサイドなどであり、これらはポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリフェニレンスルフィッド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂またはポリ塩化ビニル樹脂などの広範囲な熱可塑性樹脂類と相溶性があって、それらのPFMとして機能する。すなわち、これらの樹脂類に添加、成形して放射線処理をすれば、樹脂類に架橋構造が形成されて、より高い耐熱性を付与する事が出来る。放射線としては電子線またはγ線が用いられるが、現在、コバルト60によるγ線の利用は既に一般化されていて、しかも透過力が大きいので本発明では電子線よりも使用し易い。この用途の特徴は架橋構造の形成と難燃性の付与とを一つの有機りん化合物によって達成させる事であり、これらの樹脂類に対してヒドロキシ基を持っていない機能性有機りん化合物を1ないし25重量%、さらに好ましくは2ないし15重量%が添加せられる。上記の熱可塑性樹脂類の中で、有機りん化合物による難燃効果が特に優れたものはポリカーボネート樹脂とポリスチレンが混合されたポリフェニレンオキサイド樹脂である。これらの樹脂類にはヒドロキシ基を持たない化合物の添加が適している。もしも、ポリカーボネート樹脂にヒドロキシ基を持った化合物を添加して高温で成形すれば成形中にエステル交換反応が起きてポリカーボネート樹脂の機械的な強度は低下する。また、ヒドロキシ基を持った化合物はポリスチレンが混合されたポリフェニレンオキサイド樹脂との相溶性が良くない。これらの樹脂類には本発明の機能性有機りん化合物の他にもそれぞれの樹脂類に適した添加剤を添加する事が出来る。添加剤としては安定剤、潤滑剤、他の難燃剤、染料、顔料などの着色剤または無機充填剤などが挙げられる。ただし、これらのヒドロキシ基を持っていない機能性有機りん化合物は6−ナイロンまたは6,6−ナイロンで代表されるポリアミド樹脂類とは相溶性がなく均一に混合する事が困難であり、これらをポリアミド樹脂用の難燃性PFMとして使用するのは不適当である。しかし、トリス−(4−アリロキシフェニル)ホスフィンオキサイドは比較的容易に分子内転移反応が起きるので、混合または成形の操作中に、適切な温度と時間が与えられれば、ポリアミド樹脂に対してトリス−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)ホスフィンオキサイドと同様の効果が挙げられる。
【0024】
分子中にヒドロキシ基を持っている機能性有機りん化合物には3−アリル−4−ヒドロキシフェニルジアリルホスフィンオキサイド、3−メタリル−4−ヒドロキシフェニルジメタリルホスフィンオキサイド、トリス−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)ホスフィンまたはトリス−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)ホスフィンオキサイドなどがあり、これらは特異的にポリアミド樹脂類との良い相溶性があって、ポリアミド樹脂用の難燃性PFMとして効果的である。ポリアミド樹脂類の例としては、6−ナイロン、6,6−ナイロン、6,10−ナイロン、6,12−ナイロン、11−ナイロン、12−ナイロンまたは共重合ナイロンなどが挙げられる。これらのポリアミド樹脂類は強じん性、耐磨耗性、自己潤滑性、振動吸収性または耐油性などの優れた物理的な性質を持っていて、繊維織物などをはじめとして、自動車部品、機械部品、建材、電気部品、電子機器部品、医療用品または家庭用品などに広い用途を有している。しかし、電気部品または電子機器部品などの用途では溶融ハンダの高熱に耐性が必要なところが多く、高い耐熱性が要求されている。それらの用途にはせっかく優れた特性を持っていながら、耐熱性の充分でないポリアミド樹脂をそのまま使用する事は出来なかった。耐熱性の要求される用途には熱可塑性樹脂であるポリアミド樹脂にPFMを混合、成形した部品類に放射線処理を施す事によって熱硬化性樹脂と同等の耐熱性を与える技術が既に実施されている。この目的に適合するポリアミド樹脂用のPFMとしては1,3,5−トリアクリロイルヘキサヒドロ−S−トリアジン(トリアクリルホルマール)が知られている。しかし、これには難燃剤としての機能がないので、難燃性の必要な用途にはさらに難燃剤として臭素化ポリスチレンなどのような有機ハロゲン化合物が添加されているのが現状である。しかるに、本発明のヒドロキシ基を持っている機能性有機りん化合物はポリアミド樹脂への良い相溶性があり、これに2ないし25重量%、さらに好ましくは4ないし15重量%添加、成形してγ線などの放射線処理を施す事によって溶融ハンダに対する耐熱性と難燃性が同時に付与される。ちなみに、6,6−ナイロンの融点は約260℃であって、自己消火性がないが、これに3−アリル−4−ヒドロキシフェニルジアリルホスフィンオキサイド、3−メタリル−4−ヒドロキシフェニルジメタリルホスフィンオキサイド、トリス−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)ホスフィンまたはトリス−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)ホスフィンオキサイドを10ないし15重量%添加してUL−94の試験片を成形したものにγ線を照射すれば、耐熱性が300℃以上であり、難燃性試験ではUL−94のV−1に位置付けられる難燃性ポリアミド樹脂が得られる事が確認されている。ポリアミド樹脂には本発明の機能性有機りん化合物の他にも種々の添加剤を添加、成形してから放射線処理を施す事が出来る。添加剤としては安定剤、他の難燃剤、他のPFM、潤滑剤、染料、顔料などの着色剤または無機充填剤などが挙げられる。特に、無機系難燃剤や無機系充填剤がポリアミド樹脂に対して10重量%以上添加された時にはさらに耐熱性と難燃性が向上する。
【0025】
次に、本発明の機能性有機りん化合物に特有の非加水分解性の特徴を最も有効に利用しうる応用分野は電子機器に使用されるプリント配線基板である。プリント配線基板は主としてエポキシ樹脂またはフェノール樹脂などで製造されるが、その用途には難燃性が要求されるものが多い。
【0026】
一般式1で表される機能性有機りん化合物の内で、分子内にヒドロキシ基を持たないものは三個の不飽和基を持っており、酸化剤によるエポキシ化でトリエポキシ化合物が得られる。酸化剤としては過酸化水素、過酸またはハイポクロライドなどが挙げられる。これらのトリエポキシ化合物は非加水分解性が維持されていて、エポキシ樹脂組成物の一員として利用される。しかし、このようなエポキシ化反応は分子内にヒドロキシ基を持った化合物には適用し難い。
【0027】
一般式1で表される機能性有機りん化合物の内で、トリス−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)ホスフィン、トリス−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)ホスフィンオキサイド、トリス−(3−メタリル−4−ヒドロキシフェニル)ホスフィンまたはトリス−(3−メタリル−4−ヒドロキシフェニル)ホスフィンオキサイドなどは分子中に三個のヒドロキシ基を持っていて、エポキシ樹脂用の難燃性硬化剤としての用途に適している。しかし、これらのヒドロキシ基はエポキシ化合物に対しての反応性が他の硬化剤に比べれば比較的に緩慢であり、充分に過剰量のエポキシ化合物と予備反応を行なってから、所望の硬化剤を加えて最終的に硬化させる事が好ましい。なお、プリント配線基板に使用されるエポキシ樹脂は通常、ガラス繊維の織物で強化されており、基板の製法上これらの硬化剤あるいは予備反応物がメチルエチルケトン、ジメチルホルムアミドまたはN,N−ジメチルアセトアミドなどの有機溶媒に溶解する事が求められるが、本発明のエポキシ硬化剤はいずれも充分な溶解度を持っていてこの用途にも好適に使用する事が出来る。なお、この硬化剤による硬化エポキシ樹脂は高いガラス転移温度を示し、この特性もプリント配線基板の用途に適している。本発明の硬化剤を硬化エポキシ樹脂に対して10ないし40重量%、さらに好ましくは20ないし35重量%添加使用する事によってUL−94の難燃性試験方法でV−0に位置付けされる難燃性が得られる。最近のプリント配線基板では配線の微細化とその重層化が著しく進んでいるが、本発明の機能性有機りん化合物は非加水分解性のために苛酷な条件下でもこれを使用した基板の電気特性を劣化させない。また、分子中に三個のヒドロキシ基を持っている機能性有機りん化合物はアルカリの存在下にエピクロルヒドリンと縮合反応して、三価のエポキシ化合物が得られ、前述と同じ用途に使用する事が出来る。
【0028】
分子内に三個のヒドロキシ基を持っている機能性有機りん化合物は三価のフェノールであり、過剰量のホルムアルデヒドとレゾール型のフェノール樹脂中間体を形成する。これをフェノール樹脂組成物製造中に5ないし30重量%より好ましくは10ないし25重量%添加してから硬化させればUL−94の試験方法でV−0に位置付けられる難燃性が得られる。この難燃性フェノール樹脂はプリント配線基板のほか種々の電気部品または電子機器部品の用途にも適している。なお、このフェノール樹脂も加水分解による電気絶縁性の低下は見られない。
【0029】
再び、分子中にヒドロキシ基を持っていない機能性有機りん化合物は不飽和ポリエステル樹脂の反応性難燃剤としての機能を持っている。不飽和ポリエステル樹脂はマレイン酸、フマール酸、イタコン酸またはシトラコン酸などの強極性ではあるが自己重合性の小さな不飽和二塩基酸類およびコハク酸、アジピン酸、セバチン酸、フタル酸またはイソフタル酸などの不飽和基を持たない二塩基酸類とエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4−ブタンジオールまたはネオペンチルグリコールなどの二価アルコール類とのエステル化反応で得られる本質的に線状のポリマーとスチレン、ビニルトルエン、フタル酸ジアリル、トリメリット酸トリアリル、りん酸トリアリルまたはシアヌル酸トリアリルなどのビニルモノマー類とを混合したものであり、重合開始剤、重合促進剤の存在下に硬化反応する一種の熱硬化性の樹脂である。これは塗料用途、注型品用途または繊維強化材料用途として、無溶媒塗料、電気部品、自動車部品、化粧板、波板、浴槽、便槽、浄化槽または船舶などに広く利用されている。これらの難燃剤としては、従来、ハロゲン含有の二塩基酸などが使用されていたが、本発明の機能性有機りん化合物はいずれも複数個のアリル基を持っており、不飽和ポリエステル樹脂におけるビニルモノマーと同様にして使用されて難燃性が付与される。
【0030】
一般式1で表される機能性有機りん化合物の内、nが0であるホスフィン類、特にトリス−(4−アリロキシフェニル)ホスフィンおよびトリス−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)ホスフィンはポリプロピレンまたは合成ゴム類の安定剤として添加されて、安定化されたポリプロピレン組成物または合成ゴム組成物を形成する。
【実施例】
【0031】
次に、本発明をさらに明確にするために具体的な実施例、応用例、比較例および参考例を挙げて説明する。なお、例中、「%」は重量%を「部」は重量部を表すものとする。
【0032】
(実施例1)(4−アリロキシフェニルジアリルホスフィンオキサイドの合成)
(実施例1−1)(4−アリロキシフェニルブロマイドの合成)
かきまぜ機、温度計、還流冷却器および滴下ロートの付いた内容積5,000mlのガラス製の四つ口フラスコに4−ブロモフェノール1,211g(7モル)および30%水酸化ナトリウム水溶液1,000g(7.5モル)を仕込んで、かきまぜながら内容物の温度を80℃に保ち、滴下ロートからアリルクロライド551g(7.2モル)をゆっくりと滴下した。還流冷却器からアリルクロライドが少しずつ還流する程度の速度に滴下を調節して、約6時間を要した。滴下終了後、内容物を時々サンプリングしてガスクロマトグラフィー(GC)分析により反応の進行を追跡した。さらに4時間後に原料の4−ブロモフェノールがほぼ消失したので、これに水1,200gおよびトルエン800gを加えてよくかきまぜ、静置してから下の水層を除去した。続いて、1%水酸化ナトリウム水溶液1,000gを加えて30分間かきまぜ、静置してから油層だけを採取した。油層の中のトルエンを蒸留除去してから約0.6キロパスカルの減圧下で真空蒸留して4−アリロキシフェニルブロマイド約1,400gが得られた。
【0033】
(実施例1−2)(4−アリロキシフェニルマグネシウムブロマイドの合成)
かきまぜ機、温度計、還流冷却器、ガス吹き込み口および滴下ロートの付いた内容積3,000mlのガラス製五つ口フラスコにガス吹き込み口から窒素ガスを吹き込んでフラスコ内の空気を置換した。これにTHF500g、金属マグネシウム87.6g(3.6モル)および沃素0.1gを仕込み、かきまぜながら窒素ガスをゆっくり吹き込んだ。滴下ロートから4−アリロキシフェニルブロマイドの32%THF溶液200gを加えた。室温でかきまぜながら2時間経過してから、フラスコを加熱して内容物が沸騰する温度に保って、滴下ロートからさらに4−アリロキシフェニルブロマイドの32%THF溶液1,800gを2時間で滴下した。沸騰状態をさらに1時間保った。この時の温度は65〜70℃であった。これを冷却してから、過剰の金属マグネシウムを除去して、4−アリロキシフェニルマグネシウムブロマイドのTHF溶液が得られた。
【0034】
(実施例1−3)(4−アリロキシフェニルジフェノキシホスフィンの合成)
かきまぜ機、温度計、還流冷却器、ガス吹き込み口、滴下ロートおよび底部に液抜き取り口の付いた内容積6,000mlの硬質ガラス製の五つ口フラスコにガス吹き込み口から窒素ガスを吹き込んでフラスコ内の空気を置換した。これにトルエン1,000gおよびトリフェニルホスファイト465g(1.5モル)を仕込み、ガス吹き込み口から窒素ガスをゆっくり吹き込みながら、かきまぜ機を動かしてフラスコ内容物の温度を20〜30℃に保った。これに実施例1−2で得られた4−アリロキシフェニルマグネシウムブロマイドのTHF溶液の丁度半量を滴下ロートから3時間で滴下した。さらにこの温度で2時間熟成して、4−アリロキシフェニルジフェノキシホスフィンオキサイドの生成がGC分析によって確認された。
【0035】
(実施例1−4)(4−アリロキシフェニルジアリルホスフィンの合成)
実施例1−3のフラスコ内容物を20〜30℃に保ち、これにアリルマグネシウムクロライドのTHF溶液(アルドリッチ試薬)3モル相当を滴下ロートから3時間にわたって滴下した。さらに2時間熟成してから、4−アリロキシフェニルジアリルホスフィンの生成がGC分析によって確認された。これに10%硫酸水溶液1,600gを30分で滴下した。30分間かきまぜてから30分間静置した。下層の水層を除去してから、さらに1,000gの精製水を加えて、30分間かきまぜ、30分間静置した。再び水層を除去してから、THF、トルエンおよびフェノールを減圧下で蒸留除去して粗製の4−アリロキシフェニルジアリルホスフィン約360gが得られた。これは31P{ 1H}NMRおよび 1HNMRで目的化合物である事が確認された。
【0036】
(実施例1−5)(4−アリロキシフェニルジアリルホスフィンオキサイドの合成)
かきまぜ機、温度計、ガス吹き込み口および還流冷却器の付いた内容積500mlの硬質ガラス製の四つ口フラスコに実施例1−4で得られた粗製の4−アリロキシフェニルジアリルホスフィン350gを仕込み、かきまぜながらフラスコを加熱して内容物の温度を100℃にした。ガス吹き込み口から乾燥空気と窒素ガスとの等量混合ガスをすこしずつ吹き込んだ。約10時間後に4−アリロキシフェニルジアリルホスフィンが完全に4−アリロキシフェニルジアリルホスフィンオキサイドに変換された事がGC分析によって確認された。これを直径5センチメートル充填高さ25センチメートルの保温されたラッシッヒリング充填塔を持った内容積500mlの真空蒸留器に移して、約200パスカルの減圧下で精留して、主留分の4−アリロキシフェニルジアリルホスフィンオキサイド約330gが得られた。この赤外吸収スペクトルは図1、31PNMRは図2そして 1HNMRは図3の通りであった。元素分析の結果は炭素が68.8%(理論値:68.69%)、水素が7.3%(理論値:7.302%)そしてりんが11.9%(理論値:11.81%)であり、これが4−アリロキシフェニルジアリルホスフィンオキサイドである事が確認された。ただし、赤外吸収スペクトルは臭化カリの錠剤法によった。赤外吸収スペクトルのチャートには若干量の−OH基と思われる吸収が認められるが、 1HNMRには−OH基の吸収が全く見られない事から、赤外吸収スペクトルのチャートの−OH基の吸収は錠剤作成操作中の吸湿によるものと考えられる。また、 1HNMRはCDCl3 を溶媒として使用してテトラメチルシラン(TMS)を基準とした。31PNMRはりん酸を基準とした。なお、以下の実施例においても特に断らないかぎり、この方法と基準を用いた。
【0037】
(実施例2)(4−メタリロキシフェニルジメタリルホスフィンオキサイドの合成)
(実施例2−1)(4−メタリロキシフェニルブロマイドの合成)
実施例1−1で使用したアリルクロライド551g(7.2モル)をメタリルクロライド652g(7.2モル)に代えた以外は実施例1−1と全く同様にして4−メタリロキシフェニルブロマイド約1,500gが得られた。
【0038】
(実施例2−2)(4−メタリロキシフェニルマグネシウムブロマイドの合成)
実施例1−2で使用した4−アリロキシフェニルブロマイドの32%THF溶液200gおよび続いて使用した4−アリロキシフェニルブロマイドの32%THF溶液1,800gを4−メタリロキシフェニルブロマイドの34%THF溶液200gおよび続いて、4−メタリロキシフェニルブロマイドの34%THF溶液1,800gに代えた以外は実施例1−2と全く同様にして4−メタリロキシフェニルマグネシウムブロマイドが得られた。
【0039】
(実施例2−3)(メタリルマグネシウムクロライドの合成)
かきまぜ機、温度計、還流冷却器、滴下ロートおよびガス吹き込み口の付いた内容積2,000mlの五つ口フラスコにガス吹き込み口から窒素ガスを吹き込んでフラスコ内の空気を置換した。これにTHF800g、金属マグネシウム87gおよび沃素0.05gを仕込んだ。かきまぜ機を動かして、ガス吹き込み口から窒素ガスをゆっくり吹き込んだ。フラスコ内を40℃に保って、滴下ロートからメタリルクロライド271gを滴下した。滴下には3時間を要し、さらに2時間熟成した。冷却してから、過剰の金属マグネシウムを除去した。これによってメタリルマグネシウムクロライドのTHF溶液が得られた。
【0040】
(実施例2−4)(4−メタリロキシフェニルジフェノキシホスフィンの合成)
実施例1−3で使用したところの実施例1−2で得られた4−アリロキシフェニルマグネシウムブロマイドのTHF溶液の半量を実施例2−2で得られたところの4−メタリロキシフェニルマグネシウムブロマイドの半量に代えた以外は実施例1−3と全く同様にして、4−メタリロキシフェニルジフェノキシホスフィンが得られた。
【0041】
(実施例2−5)(4−メタリロキシフェニルジメタリルホスフィンの合成)
実施例2−4に続いて、滴下ロートから実施例2−3で得られたメタリルマグネシウムクロライドのTHF溶液の全量を20〜30℃の温度で3時間で滴下してさらに、2時間熟成した。以後、実施例1−4と全く同様にして、粗製の4−メタリロキシフェニルジメタリルホスフィン約380gが得られた。これは31P{ 1H}NMRおよび 1HNMRで確認された。
【0042】
(実施例2−6)(4−メタリロキシフェニルジメタリルホスフィンオキサイドの合成)
実施例2−5で得られた粗製の4−メタリロキシフェニルジメタリルホスフィンを実施例1−5と全く同様に酸化および真空蒸留して、やや粘い液体の4−メタリロキシフェニルジメタリルホスフィンオキサイド約320gが得られた。これの赤外吸収スペクトルは図4、31PNMRは図5そして 1HNMRは図6の通りであった。元素分析の結果は炭素が71.2%(理論値:71.03%)、水素が8.3%(理論値:8.28%)そしてりんが10.2%(理論値:10.18%)であって、これが4−メタリロキシフェニルジメタリルホスフィンオキサイドである事が確認された。
【0043】
(実施例3){トリス−(4−アリロキシフェニル)ホスフィンの合成}
かきまぜ機、温度計、還流冷却器、ガス吹き込み口および滴下ロートの付いた内容積5,000mlのガラス製五つ口フラスコで底部に液の抜き取り口のあるものに、ガス吹き込み口から窒素ガスを吹き込んでフラスコ内の空気を置換した。これにトルエン700gおよびトリフェニルホスファイト155g(0.5モル)を仕込んだ。かきまぜながら20〜30℃の温度で滴下ロートから実施例1−2で得られた4−アリロキシフェニルマグネシウムブロマイドのTHF溶液の半量を3時間で滴下し、さらに2時間熟成した。トリス−(4−アリロキシフェニル)ホスフィンの生成がGC分析によって確認された。これに10%硫酸水溶液900gを30分で滴下した。さらに30分間かきまぜてから、30分間静置した。下層の水層を除去してからさらに1,000gの精製水を加えて、30分間かきまぜ、30分間静置した。再び水層を除去してから、THF、トルエンおよびフェノールなどを高度の減圧下で蒸留除去してトリス−(4−アリロキシフェニル)ホスフィン約200gが得られた。これは赤外吸収スペクトルが図7、31P{ 1H}NMRが図8および 1HNMRが図9の通りであり、元素分析の結果は炭素が75.2%(理論値:75.33%)、水素が6.3%(理論値:6.322%)そしてりんが7.20%(理論値:7.195%)であった。これにより、これがトリス−(4−アリロキシフェニル)ホスフィンである事が確認された。
【0044】
(実施例4){トリス−(4−アリロキシフェニル)ホスフィンオキサイドの合成}
かきまぜ機、温度計、滴下ロートおよび還流冷却器の付いた内容積300mlのガラス製の四つ口フラスコに実施例3で得られたトリス−(4−アリロキシフェニル)ホスフィン43gおよび酢酸150gを仕込んだ。かきまぜながらフラスコを冷却して内容物を20℃に保った。これに滴下ロートから30%過酸化水素水溶液113gをゆっくり滴下した。滴下には2時間を要しさらに1時間熟成した。反応混合物に水150gおよびジクロロメタン50gを加え、かきまぜてから静置し、水層を除去した。さらに150gの水を加えて同じ操作をしてから、高度の減圧下に揮発性成分を除去して、粘い液体約45gが得られた。これの赤外吸収スペクトルは図10、31PNMRは図11そして 1HNMRは図12の通りであり、元素分析の結果は炭素が72.7%(理論値:72.63%)、水素が6.08%(理論値:6.0956%)そしてりんが6.90%(理論値:6.937%)であった。これにより、これがトリス−(4−アリロキシフェニル)ホスフィンオキサイドである事が確認された。
【0045】
(実施例5){トリス−(4−アリロキシフェニル)ホスフィンオキサイドの合成−2}
かきまぜ機、温度計、還流冷却器、ガス吹き込み口および滴下ロートの付いた内容積5,000mlのガラス製五つ口フラスコで底部に液の抜き取り口のあるものに、ガス吹き込み口から窒素ガスを吹き込んでフラスコ内の空気を置換した。これにトルエン700gおよびオキシ塩化りん76.8g(0.5モル)を仕込んだ。かきまぜながら、内容物の温度を80〜110℃に保った。これに実施例1−2と同じ方法で得られた4−アリロキシフェニルマグネシウムブロマイドのTHF溶液1.5モル相当を滴下ロートから6時間で滴下した。その間、沸騰したTHFは還流冷却器下部から排出し、さらに5時間熟成した。目的物の生成はGC分析で確認された。反応混合物に10%硫酸水溶液900gを30分で滴下した。さらに30分間かきまぜてから、30分間静置した。下層の水層を除去してからさらに1,000gの精製水を加えて、30分間かきまぜ、30分間静置した。再び水層を除去してから、THFおよびトルエンを高度の減圧下に除去して実施例4と全く同じ生成物トリス−(4−アリロキシフェニル)ホスフィンオキサイドが得られた。
【0046】
(実施例6)(3−アリル−4−ヒドロキシフェニルジアリルホスフィンオキサイドの合成)
実施例1−5で得られた4−アリロキシフェニルジアリルホスフィンオキサイド150gおよびγ−ブチロラクトン200gを仕込んだ。ガス吹き込み口から窒素ガスを吹き込みながらフラスコを加熱して内容物を沸騰させた。内容物の温度は210℃であり、6時間後に3−アリル−4−ヒドロキシフェニルジアリルホスフィンオキサイドに変換された事がGC分析によって確認された。高度の減圧下にγ−ブチロラクトンを蒸留除去して粘い液体150gが得られた。これの赤外吸収スペクトルは図13、31PNMRは図14そして 1HNMRは図15の通りであり、3−アリル−4−ヒドロキシフェニルジアリルホスフィンオキサイドである事が確認された。なお、これは4−アリロキシフェニルジアリルホスフィンオキサイドと異性体の関係にあり、当然ながらその元素分析の結果は同じであった。
【0047】
(実施例7)(3−メタリル−4−ヒドロキシフェニルジメタリルホスフィンオキサイドの合成)
実施例2−6で得られた4−メタリロキシフェニルジメタリルホスフィンオキサイド150gを実施例6と全く同様に処理して、粘い液体150gが得られた。これの赤外吸収スペクトルは図16、31PNMRは図17そして 1HNMRは図18の通りであり、これが3−メタリル−4−ヒドロキシフェニルジメタリルホスフィンオキサイドである事が確認された。
【0048】
(実施例8){トリス−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)ホスフィンオキサイドの合成}
かきまぜ機、温度計、還流冷却器およびガス吹き込み口の付いた内容積500mlの四つ口フラスコに実施例4または実施例5で得られたトリス−(4−アリロキシフェニル)ホスフィンオキサイド150gおよびγ−ブチロラクトン100gを仕込み、ガス吹き込み口から窒素ガスをゆっくり吹き込みながら、内容物の温度を180℃に保った。約5時間後に分子内転移反応の完結した事が液体クロマトグラフィー(LC)分析によって知られた。これにトルエン200gを加えて徐々に冷却して結晶を析出させた。結晶を濾過し、トルエン100gで洗浄した。これを乾燥して白色結晶約130gが得られた。これは融点が260℃であり、赤外吸収スペクトルは図19、31PNMRは図20そして 1HNMRは図21の通りであり、これがトリス−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)ホスフィンオキサイドである事が確認された。なお、この時NMRの溶媒は重水素置換ジメチルスルホキサイド(DMSO)を使用した。
【0049】
(応用例1)
旭化成製のXylon(ポリスチレンとポリフェニレンオキサイドの混合物)に実施例1で得られた4−アリロキシフェニルジアリルホスフィンオキサイドを10%添加、混合して日本国、東芝機械製のModel TEN−37BS試験用押し出し成形機でペレットを作成した。このペレットをさらに押し出し成形機でUL−94の規格に合致する厚さ1/8インチの試験片を作成した。この内の一部の試験片にコバルト60からのγ線を20秒間照射処理した。γ線照射処理の試験片と未処理の試験片とを320℃に加熱したハンダ浴に20秒間浸漬した。前者は殆ど変化がなかったが、後者は著しく変形した。これによって、γ線照射による効果が確認された。また、UL−94の難燃性試験方法に従った試験では前者はV−0に位置付けられる難燃性を示した。
【0050】
(比較例1)
応用例1で使用したXylonをそのまま押し出し成形機でUL−94の規格に合致する厚さ1/8インチの試験片を作成した。この一部にコバルト60からのγ線を20秒間照射した。γ線照射処理の試験片と未処理の試験片とを320℃に加熱したハンダ浴に10秒間浸漬したが、両者とも同様に変形して、γ線照射処理の効果は見られなかった。また、UL−94の難燃性試験方法に従った試験では両者ともV−2に位置付けられる難燃性を示した。この結果と応用例1の結果とから、4−アリロキシフェニルジアリルホスフィンオキサイドがXylonに対してPFMとしての機能と難燃剤としての機能とを合わせ持っている事が実証された。
【0051】
(応用例2)
応用例1で使用したXylonに実施例2で得られた4−メタリロキシフェニルジメタリルホスフィンオキサイド12%を添加、混合して実施例9と同様に処理して試験片を作成した。この内の一部の試験片にコバルト60からのγ線を20秒間照射処理した。γ線照射処理の試験片と未処理の試験片とを320℃に加熱したハンダ浴に10秒間浸漬した。前者は殆ど変化がなかったが、後者は著しく変形した。これによって、γ線照射による効果が確認された。また、UL−94の難燃性試験方法に従った試験では前者はV−0に位置付けられる難燃性を示した。この結果と比較例1の結果とから、4−メタリロキシフェニルジメタリルホスフィンオキサイドがXylonに対してPFMとしての機能と難燃剤としての機能とを合わせ持っている事が実証された。
【0052】
(応用例3)
旭化成製の6,6−ナイロンに実施例6で得られた3−アリル−4−ヒドロキシフェニルジアリルホスフィンオキサイドを10%添加、混合して押し出し成形機でペレットを作成した。このペレットをさらに押し出し成形機でUL−94の規格に合致する厚さ1/8インチの試験片を作成した。この内の一部の試験片にコバルト60からのγ線を20秒間照射処理した。γ線照射処理の試験片と未処理の試験片を320℃に加熱したハンダ浴に10秒間浸漬した。前者は殆ど変化がなかったが、後者は著しく変形した。これによって、γ線照射による効果が確認された。また、UL−94の難燃性試験方法に従った試験では前者はV−1に位置付けられる難燃性を示した。
【0053】
(比較例2)
応用例3で使用した6,6−ナイロンをそのまま押し出し成形機でUL−94の規格に合致する厚さ1/8インチの試験片を作成した。この一部にコバルト60からのγ線を20秒間照射した。γ線照射処理の試験片と未処理の試験片とを320℃に加熱したハンダ浴に10秒間浸漬したが、両者とも同様に変形して、γ線照射処理の効果は見られなかった。また、UL−94の難燃性試験方法に従った試験では両者とも燃焼して、難燃性を示さなかった。この結果と応用例3の結果とから、4−アリロキシフェニルジアリルホスフィンオキサイドが6,6−ナイロンに対してPFMとしての機能と難燃剤としての機能とを合わせ持っている事が実証された。
【0054】
(応用例4)
6,6−ナイロンに実施例7で得られた3−メタリル−4−ヒドロキシフェニルジメタリルホスフィンオキサイドを11%添加、混合して、実施例9と同様にして試験片を作成した。この一部の試験片にコバルト60からのγ線を20秒間照射した。γ線照射処理の試験片と未処理の試験片とを320℃に加熱したハンダ浴に10秒間浸漬した。前者は殆ど変化がなかったが、後者は著しく変形した。これによって、γ線照射による効果が確認された。また、UL−94の難燃性試験方法に従った試験では前者はV−1に位置付けられる難燃性を示した。この結果と比較例2の結果とから3−メタリル−4−ヒドロキシフェニルジメタリルホスフィンオキサイドがPFMとしての機能と難燃剤としての機能とを合わせ持っている事が実証された。
【0055】
(応用例5)
6,6−ナイロンに実施例8で得られたトリス−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)ホスフィンオキサイドを12%添加、混合して、応用例1と同様にして試験片を作成した。この内の一部の試験片にコバルト60からのγ線を20秒間照射した。γ線照射処理の試験片と未処理の試験片とを320℃に加熱したハンダ浴に10秒間浸漬した。前者は殆ど変化がなかったが、後者は著しく変形した。これによって、γ線照射による効果が確認された。また、UL−94の難燃性試験方法に従った試験では前者はV−1に位置付けられる難燃性を示した。この結果と比較例2の結果とからトリス−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)ホスフィンオキサイドがPFMとしての機能と難燃剤としての機能とを合わせ持っている事が実証された。
【0056】
(応用例6)
韓国、国都化学製の2,2−ビス−(4−グリシジルオキシフェニル)プロパンを主成分とするエポキシ樹脂100部に実施例8で得られたトリス−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)ホスフィンオキサイド45部を添加、良く混合して100℃で5時間反応させた。これにジシアンジアミド10部を加えてさらに120℃で5時間硬化反応をさせて、高度の耐熱性を持った硬化エポキシ樹脂が得られた。これからUL−94の規格に合致する厚さ1/8インチの試験片を切り出した。試験片の燃焼試験ではV−0に位置付けされる難燃性を示した。この結果からトリス−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)ホスフィンオキサイドがエポキシ樹脂の硬化剤としての機能と難燃剤としての機能を合わせ持っている事が証明された。
【0057】
(参考例1)
本発明の機能性有機りん化合物の非加水分解性を実証する目的で次の実験を行なった。30%水酸化カリウムのメタノール溶液100gに実施例1ないし実施例8で得られた4−アリロキシフェニルジアリルホスフィンオキサイド、4−メタリロキシフェニルジメタリルホスフィンオキサイド、トリス−(4−アリロキシフェニル)ホスフィン、トリス−(4−アリロキシフェニル)ホスフィンオキサイド、3−アリル−4−ヒドロキシフェニルジアリルホスフィンオキサイド、3−メタリル−4−ヒドロキシフェニルジメタリルホスフィンオキサイドおよびトリス−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)ホスフィンオキサイドと比較のために、市販のトリフェニルホスフェート(りん酸トリフェニル)およびトリアリルホスフェート(りん酸トリアリル)各10gを加えて、それぞれメタノールの沸騰状態で24時間加熱した。これをLC分析によって変化を調べたところ、本発明の機能性有機りん化合物には全く変化が見られなかったが、トリフェニルホスフェートはジフェニルホスフェートとフェノールとに、トリアリルホスフェートはジアリルホスフェートとアリルアルコールとに完全に加水分解されていた。ただし、水酸化カリウムと造塩可能なものは塩を形成していると考えられるが、LC分析ではそれを識別する事が出来なかった。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】実施例1−5で得られた化合物の赤外吸収スペクトルである。
【図2】実施例1−5で得られた化合物の31PNMR図である。
【図3】実施例1−5で得られた化合物の1HNMR図である。
【図4】実施例2−6で得られた化合物の赤外吸収スペクトルである。
【図5】実施例2−6で得られた化合物の31PNMR図である。
【図6】実施例2−6で得られた化合物の1HNMR図である。
【図7】実施例3で得られた化合物の赤外吸収スペクトルである。
【図8】実施例3で得られた化合物の31PNMR図である。
【図9】実施例3で得られた化合物の1HNMR図である。
【図10】実施例4で得られた化合物の赤外吸収スペクトルである。
【図11】実施例4で得られた化合物の31PNMR図である。
【図12】実施例4で得られた化合物の1HNMR図である。
【図13】実施例6で得られた化合物の赤外吸収スペクトルである。
【図14】実施例6で得られた化合物の31PNMR図である。
【図15】実施例6で得られた化合物の1HNMR図である。
【図16】実施例7で得られた化合物の赤外吸収スペクトルである。
【図17】実施例7で得られた化合物の31PNMR図である。
【図18】実施例7で得られた化合物の1HNMR図である。
【図19】実施例8で得られた化合物の赤外吸収スペクトルである。
【図20】実施例8で得られた化合物の31PNMR図である。
【図21】実施例8で得られた化合物の1HNMR図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は機能性有機りん化合物およびその製造方法に関する。さらに詳細には、有機りん化合物が非加水分解性であり、分子内に複数個の不飽和基を持っていて、これを含有している有機高分子化合物に電子線またはγ線などの放射線の処理を施す事によって有機高分子化合物との間に架橋結合が形成されるゆえに、有機高分子化合物に対する難燃剤としての機能と架橋剤としての機能とを合わせ持っていて、しかも、それが有機合成の原料としても有用であるような機能性有機りん化合物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機りん化合物は有機高分子化合物の安定剤、可塑剤または難燃剤として有用であり、また特殊な界面活性剤、極圧添加剤または農薬などとしても幅広い用途を持っている。中でも、高分子化合物の難燃剤としては、同じ用途に使用されていた有機ハロゲン化合物が火災における燃焼時に有毒ガスを発生したり、その焼却処分時に焼却炉を腐食したりまたは環境汚染性の有害物質を排出したりする事などが忌避されて、難燃剤を使用する業界においてはハロゲン系の難燃剤を他の難燃剤に置き換えようとする動きが活発であり、この目的には有機りん化合物が特に注目されている。
【0003】
しかし従来、難燃剤として使用されて来た有機りん化合物の多くはりん酸エステル系のものであり、有機ハロゲン化合物に比較すれば加水分解しやすく、特に電気部品または電子機器部品などの用途には電気絶縁性の保持などの目的から、有機りん化合物に対しても非加水分解性の要求は強いものである。従来、広く使用されて来たりん酸エステル系の有機りん化合物は高分子材料の中で高温の水分またはアルカリの存在下で加水分解されて、その生成物が高分子材料の電気絶縁性を低下させたり、極端な場合には高分子材料の基板上に設けられた微細な電気配線を腐食したりする傾向があった。ゆえに、それらの難燃剤を電気部品または電子機器部品などの用途に使用する場合には問題であり、非加水分解性の有機りん化合物の開発は切実な要求であり、それが待たれているのが現状である。
【0004】
一方では、複数個の不飽和基を持っていて、重合開始剤や紫外線、電子線またはγ線などの放射線の処理によって、重合または有機高分子化合物との間に架橋結合の形成可能な機能を持った有機りん化合物の開発も同様に望まれている。従来、高度な耐熱性が要求される機械部品、電気部品または電子機器部品などの製造にはフェノール樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂またはエポキシ樹脂などのように耐熱性の優れた熱硬化性の樹脂が使用されてきたが、これらの熱硬化性樹脂を使用する時の欠点としては、熱可塑性樹脂の成形に比べて、1.硬化に時間が掛かり生産性が悪い事、2.部品の小型化または精密化に限度がある事または3.製品の均一性が充分でない事などがあった。そこで、これらの熱硬化性の樹脂に代わって、架橋剤を添加した熱可塑性樹脂の成形品に電子線やγ線などの放射線の処理を施す事によって、樹脂に架橋構造を形成させて熱硬化性樹脂並みの耐熱性を与えようとする技術が発展していて、既に実用化もされている。そして最近では、この架橋剤にさらに難燃剤としての機能を持っているものが要求されており、この理由で有機りん化合物にも架橋剤としての機能を持ったものの開発が求められているところである。この技術によれば、たとえば、ポリエチレンまたは若干のゴム類のように放射線処理による自己架橋性の熱可塑性樹脂には単なる放射線などの処理だけで架橋されて、架橋剤の存在なしで耐熱性が得られるものも幾つか知られてはいるが、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂またはポリアミド樹脂などのように自己架橋性のない多くの熱可塑性樹脂には通常、放射線処理前に架橋剤としてPFM(ポリファンクショナルモノマー:多官能性単量体)と称されている有機化合物が添加されてから部品類が成形され、その後で電子線またはγ線などの放射線の処理がなされ、部品類の外形を全く変化させないで所望の耐熱性が与えられる。PFM(以下、本明細書においては放射線処理を目的とした架橋剤を単にPFMと称する。)は複数個の不飽和基を持った有機化合物であって、対象となる熱可塑性樹脂と相溶性のある事が必要である。もしも、有機りん化合物に複数個の不飽和基があれば、これには難燃剤としての機能とPFMとしての機能とを合わせ持つ事が期待出来る。そのような有機りん化合物としては、現在トリアリルホスフェート(りん酸トリアリル)が良く知られてはいるが、これは分子量が小さく揮発性がある事と容易に加水分解される事からこの技術には限定された用途にしか使用されていない。そして、この技術に適合する非加水分解性の有機りん化合物からなる難燃性PFMは目下その開発が待たれているところである。
【0005】
また、複数個のフェノール性ヒドロキシ基を持っている非加水分解性の有機りん化合物はエポキシ樹脂の硬化剤として、電気部品または電子機器部品への用途に貴重であり(例えば特許文献1参照)、同様にその開発が待たれるところである。
【特許文献1】特開2000−186186号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
既に説明したように、特に電気部品または電子機器部品に使用される難燃剤としての有機りん化合物には非加水分解性が求められている。非加水分解性の有機りん化合物を提供する事が本発明の第一の課題である。一方で、有機りん化合物が複数個の不飽和基を持っているような難燃性PFMはその開発が望まれている。そのような機能性有機りん化合物を提供する事が第二の課題である。さらに、機能性有機りん化合物が持っている不飽和基またはヒドロキシ基の反応性を利用して、これから種々の用途や他の有用な有機りん化合物が誘導される事はまた望ましい事であり、これが第三の課題である。そして、このような機能性有機りん化合物の工業的な製造方法を提供する事が第四の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によって、一般式1で表される新規な機能性有機りん化合物およびその製造方法が提供される。
【0008】
【化3】
(式1中、R1 は4−アリロキシフェニル基、4−メタリロキシフェニル基、3−アリル−4−ヒドロキシフェニル基または3−メタリロキシ−4−ヒドロキシフェニル基を示し、R2 およびR3 は同じであっても異なっていてもよく、アリル基、メタリル基、4−アリロキシフェニル基、4−メタリロキシフェニル基、3−アリル−4−ヒドロキシフェニル基または3−メタリル−4−ヒドロキシフェニル基を示し、nは0または1を示す。)
一般式1で表される機能性有機りん化合物ではりん原子と三個の炭素原子がすべて直接に結合している。この構造から理解されるように、これは非加水分解性であり、本発明の第一の課題が解決される。また、一般式1で表される有機りん化合物はすべてが三個の不飽和基を持っていて、重合開始剤や放射線などの処理によって重合反応ないし有機高分子化合物に対しての架橋形成反応などの機能があり、難燃性PFMとしての第二の課題が解決される。さらに、この不飽和基は反応性に富んでいて酸化剤による酸化反応ではエポキシ化合物が、そのハロゲン化反応ではハロゲン化合物が誘導される。そして、一般式1で表される有機りん化合物の一部が持っているヒドロキシ基もまた反応性に富んでいて、有機ハロゲン化物とアルカリの存在下にエーテル化反応が容易に実施出来る。エーテル化反応の中で重要なのはグリシジルエーテル化反応である。ヒドロキシ基を持っている機能性有機りん化合物、特に、トリス−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)ホスフィンオキサイドは三個のヒドロキシ基を持っていて、エポキシ樹脂の難燃性硬化剤としての機能を持つとともに、アルカリの存在下でエピハロヒドリンと縮合反応してグリシジルエーテルを形成して、トリス−(3−アリル−4−グリシジルオキシフェニル)ホスフィンオキサイドが得られる。これらには非加水分解性である特性が保持されていて、電気部品または電子機器部品の用途への難燃性エポキシ樹脂組成物として有用である。さらに、ヒドロキシ基のオルソ位置も反応性であって、ホルムアルデヒドなどと反応して難燃性のフェノール樹脂が誘導される。これらの一部の実例からも理解される通り、これらはさらに多くの誘導体への可能性を持っていて、第三の課題に答える事が出来る。
【0009】
第四の課題は本発明の機能性有機りん化合物の工業的な製造方法を提供する事であり、以下に説明する方法で解決される。
【0010】
一般式1で表される有機りん化合物の内、4−アリロキシフェニルジアリルホスフィン、4−メタリロキシフェニルジメタリルホスフィン、トリス−(4−アリロキシフェニル)ホスフィン、トリス−(4−メタリロキシフェニル)ホスフィン、4−アリロキシフェニルジアリルホスフィンオキサイド、4−メタリロキシフェニルジメタリルホスフィンオキサイド、トリス−(4−アリロキシフェニル)ホスフィンオキサイドまたはトリス−(4−メタリロキシフェニル)ホスフィンオキサイドなどの分子中にヒドロキシ基を持たないものは一般式2で表される有機りん化合物とアリルマグネシウムハロゲナイド、メタリルマグネシウムハロゲナイド、4−アリロキシフェニルマグネシウムハロゲナイドまたは4−メタリロキシフェニルマグネシウムハロゲナイドとの縮合反応を行い、必要ならば続いて酸化剤による酸化反応を行なう事によって製造する事が出来る。一般式2で表される有機りん化合物は4−アリロキシフェニルマグネシウムハロゲナイドまたは4−メタリロキシフェニルマグネシウムハロゲナイドと三塩化りん、三臭化りん、トリフェニルホスファイト(亜りん酸トリフェニル)またはオキシ塩化りん(POCl3 )との縮合反応によって製造する事が出来る。
【0011】
【化4】
(式2中、R4 は4−アリロキシフェニル基または4−メタリロキシフェニル基を示し、Xは塩素原子、臭素原子またはフェノキシ基を示し、nは0または1を示す。)
一般式1で表される有機りん化合物の内、3−アリル−4−ヒドロキシフェニルジアリルホスフィンオキサイド、3−メタリル−4−ヒドロキシジメタリルホスフィンオキサイド、トリス−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)ホスフィン、トリス−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)ホスフィンオキサイドまたはトリス−(3−メタリル−4−ヒドロキシフェニル)ホスフィンオキサイドなどの分子中にヒドロキシ基を持っているものは、先のヒドロキシ基を持たない有機りん化合物の分子内転移反応によって製造する事が出来る。
【発明の効果】
【0012】
各実施例で明らかなように、本発明の機能性有機りん化合物はいずれも工業的な規模で製造し得る事が確認され、また、各実施例、比較例および参考例の結果から明らかなように、これは非加水分解性であり、難燃剤として有機分子中に添加されても極めて安定な事が実証された。そして、ヒドロキシ基を持たない機能性有機りん化合物はポリスチレンとポリフェニレンオキサイド混合物に対する難燃性PFMの機能を持っている事が、また、ヒドロキシ基を持っている機能性有機りん化合物は6,6−ナイロンに対して難燃性PFMの機能を持っている事が確認された。三個のヒドロキシ基を持っている機能性有機りん化合物はエポキシ樹脂に対して硬化剤としての機能と難燃剤としての機能を合わせ持っている事が確認された。これらの結果は本発明の産業上の有用性を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に従って、一般式1で表され、分子内に三個の不飽和基を有する事を特徴とする非加水分解性の機能性有機りん化合物およびその製造方法が提供される。以下、本発明の機能性有機りん化合物およびその製造方法のより好ましい実施形態を例示しつつ本発明を説明する。
【0014】
既に説明したように、一般式1で表される機能性有機りん化合物の内、分子内にヒドロキシ基を持たないものは一般式2で表される有機りん化合物とアリルマグネシウムハロゲナイド、メタリルマグネシウムハロゲナイド、4−アリロキシフェニルマグネシウムハロゲナイドまたは4−メタリロキシフェニルマグネシウムハロゲナイドとの縮合反応を行い、必要ならば続いて酸化剤による酸化反応を行なう事によって製造する事が出来る。また、一般式1で表される機能性有機りん化合物の内、分子内にヒドロキシ基を持っているものは先のヒドロキシ基を持たない有機りん化合物の分子内転移反応によって製造する事が出来る。
【0015】
一般式2で表される有機りん化合物は4−アリロキシフェニルマグネシウムハロゲナイドまたは4−メタリロキシフェニルマグネシウムハロゲナイドと三塩化りん、三臭化りん、トリフェニルホスファイトまたはオキシ塩化りんとの縮合反応によって製造する事が出来る。このとき三塩化りん、三臭化りん、トリフェニルホスファイトまたはオキシ塩化りんは無水の不活性な有機溶媒に溶解してから4−アリロキシフェニルマグネシウムハロゲナイドまたは4−メタリロキシフェニルマグネシウムハロゲナイドとの縮合反応を行なわせれば反応が円滑である。無水の不活性な有機溶媒としては、エチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ピラン、n−ヘキサン、ヘプタン、ノナン、デカン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼンまたはエチルベンゼンなどが挙げられる。三ハロゲン化りんとしては三塩化りんまたは三臭化りんが使用され得るが、経済的な理由で三塩化りんが使用され、三臭化りんはその使用の理由が見出だし難い。また、本明細書では記述の複雑化を避けるために、トリフェニルホスファイトを特定したが、容易に理解される通り、トリクレジルホスファイトまたは混合ホスファイトなども全く同様に使用し得て、トリフェニルホスファイトだけに限定されるものではない。一般式2で表される有機りん化合物の調製にあたっては縮合反応の温和さと選択率向上の目的でトリフェニルホスファイトまたはオキシ塩化りんを使用する事が推奨される。三塩化りんとグリニア試薬との縮合反応は非常に激烈であって、不活性有機溶媒で充分に希釈し、且つ可能な限りの低温で縮合反応を行なう事が好ましい。従って実験室での調製ではトリフェニルホスファイトまたはオキシ塩化りんの使用が簡便で好ましい。ここで、三塩化りん、三臭化りん、トリフェニルホスファイトまたはオキシ塩化りん1モルに対して1モルの4−アリロキシフェニルマグネシウムハロゲナイドまたは4−メタリロキシフェニルマグネシウムハロゲナイドを縮合反応させれば、一般式2で表される有機りん化合物が得られるが、1モルに対して3モルを縮合反応させれば一挙にトリス−(4−アリロキシフェニル)ホスフィンまたはトリス−(4−メタリロキシフェニル)ホスフィン、トリス−(4−アリロキシフェニル)ホスフィンオキサイドまたはトリス−(4−メタリロキシフェニル)ホスフィンオキサイドが得られる。
【0016】
これらの縮合反応はグリニア反応(Gregnard reaction)と称される人名反応であって、良く知られている。またアリルマグネシウムハロゲナイド、メタリルマグネシウムハロゲナイド、4−アリロキシフェニルマグネシウムハロゲナイドまたは4−メタリロキシフェニルマグネシウムハロゲナイドなどの置換マグネシウムハロゲナイド類はグリニア試薬(Gregnard reagent)と称されていて、有機ハロゲン化合物と金属マグネシウムとの反応によって調製される。通常、グリニア試薬の調製は無水のエチルエーテルまたはテトラハイドロフラン(以下、本明細書ではTHFと称する。)の存在下で行なわれる。しかし、現在ではエチルエーテルが使用される事は稀であり、殆どTHFが使用されている。本発明においてもTHFを使用してグリニア試薬の調製およびグリニア反応を行なう事が好ましい。
【0017】
本発明に関係するグリニア試薬の調製はアリルハロゲナイド、メタリルハロゲナイド、4−アリロキシフェニルハロゲナイドまたは4−メタリロキシフェニルハロゲナイドと金属マグネシウムとをTHFの存在下で反応させる事で達せられる。この時はじめに微量の沃素が存在すれば反応は円滑である。アリルハロゲナイドおよびメタリルハロゲナイドはアリルクロライドおよびメタリルクロライドが工業的規模で入手出来て、しかもグリニア試薬の調製が容易な事からそれらのブロマイドを使用する理由は少ない。4−アリロキシフェニルハロゲナイドまたは4−メタリロキシフェニルハロゲナイドの内、4−アリロキシフェニルクロライドまたは4−メタリロキシフェニルクロライドは金属マグネシウムとの反応が極めて緩慢であって、加圧下でTHFのより高い温度でようやく進行するに過ぎない。従って、実験室でのグリニア試薬の調製では4−アリロキシフェニルブロマイドまたは4−メタリロキシフェニルブロマイドを使用する事が簡便であって推奨される。
【0018】
4−アリロキシフェニルハロゲナイドまたは4−メタリロキシフェニルハロゲナイドは4−ヒドロキシフェニルクロライド(パラクロロフェノール)または4−ヒドロキシフェニルブロマイド(パラブロモフェノール)とアリルクロライドまたはメタリルクロライドとをアルカリの存在下に縮合反応を行なう事によって調製される。アルカリとしては水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムが使用されるが、水酸化ナトリウムが経済的であり好ましい。さらに、パラクロロフェノールはフェノールの塩素または塩化スルフリルによる塩素化によって製造されるが、塩素による塩素化では多くのオルソクロロフェノールが副生して収率が乏しく、塩化スルフリルによる塩素化が実施される。パラブロモフェノールはフェノールの臭素による臭素化によって製造されるが、低温での臭素化ではオルソブロモフェノールなどの副生はより少なく好ましい。
【0019】
一般式2で表される有機りん化合物の溶液にさらにアリルマグネシウムクロライド、メタリルマグネシウムクロライド、4−アリロキシフェニルマグネシウムブロマイドまたは4−メタリロキシフェニルマグネシウムブロマイドを添加、縮合反応させれば4−アリロキシフェニルジアリルホスフィン、4−メタリロキシフェニルジメタリルホスフィン、トリス−(4−アリロキシフェニル)ホスフィン、トリス−(4−メタリロキシフェニル)ホスフィンまたはそれらのオキサイド類が得られる。なおここで、一般式2で表される有機りん化合物と本発明のグリニア試薬との縮合反応はあらゆる組合せと混合されたグリニア試薬の使用が可能であり、これから誘導される機能性有機りん化合物はさらに多様であって、単に例示した範囲に留まらず、一般式1の定義内のすべてが本発明の技術思想に包含される。反応後の不活性有機溶媒中には目的化合物の他に縮合反応によって生成したマグネシウムハロゲナイドまたはマグネシウムフェノキサイドなどを含有している。これに水または希酸を加えて水洗すればマグネシウムフェノキサイドはマグネシウム塩とフェノールに分解されて無機塩類が除去され、生成した有機りん化合物が分離される。含有されている有機溶媒またはフェノールを蒸留して除去すれば、ホスフィン類またはホスフィンオキサイド類は濃縮される。
【0020】
一般式1で表される機能性有機りん化合物の内、ヒドロキシ基を持たないホスフィンオキサイド類は得られたホスフィン類を酸化する事によっても製造する事が出来る。酸化反応の酸化剤としては、空気、酸素、過酸化水素または有機過酸化物などが使用される。本発明に係るホスフィン類は比較的容易に酸化されるものが多く、それらは空気によっても容易に酸化されるので、空気が最も経済的である。ただし、トリス−(4−アリロキシフェニル)ホスフィンまたはトリス−(4−メタリロキシフェニル)ホスフィンの空気による酸化はやや困難であり、過酸化水素または有機過酸化物を使用する事が好ましい。ホスフィン類またはホスフィンオキサイド類は真空蒸留または再結晶によって精製する事が出来る。
【0021】
一般式1で表される機能性有機りん化合物の内、分子内にヒドロキシ基を持っている有機りん化合物は先の分子内にヒドロキシ基を持っていない有機りん化合物の分子内転移反応によって製造する事が出来る。この分子内転移反応はクライゼン転移(Claisen rearrangement)と称されていて、また人名反応として有名である。この転移反応は単に加熱するだけでも達成されるが塩化マグネシウム、塩化アルミニウム、塩化亜鉛、塩化第二鉄などのルイス酸あるいは硫酸またはスルホン酸類などの酸性触媒の添加によって促進される。また、転移反応は発熱反応であって、反応を温和且つ円滑にする目的で不活性溶媒中で反応を行なう事が好ましい。不活性溶媒としては、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ベンゼン、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、ナフタリンまたはビフェニルなどの炭化水素類、ジクロロエタン、トリクロロエタン、クロロベンゼンまたはジクロロベンゼンなどの塩素化炭化水素類あるいはニトロベンゼン、フェノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、スルホラン、γ−ブチロラクトン、1−メチル−2−ピロリドンまたはN,N−ジメチルイミダゾリジノンなどが挙げられる。分子内転移反応を無触媒で実施する時には比較的に高沸点の不活性溶媒を選択する事が好ましく、ジエチレングリコール、スルホラン、γ−ブチロラクトン、1−メチル−2−ピロリドンまたはN,N−ジメチルイミダゾリジノンなどの使用が推奨される。得られたヒドロキシ基を持っている機能性有機りん化合物は同様に、再結晶法または真空蒸留法によって精製する事が出来る。
【0022】
次に、本発明の産業上の有用性について説明する。本発明の機能性有機りん化合物はしばしば説明したように、非加水分解性であってその分子中に三個の不飽和基を持っているのが特徴である。この特徴を活かして産業上有用な用途が多く見出だされる。一般式1で表される機能性有機りん化合物はその分子中にヒドロキシ基を持っていないものとヒドロキシ基を持っているものとに分けられる。そしてこれらは用途面でまたはっきりと差別される。その重要な用途の一つは難燃性PFMすなわち難燃性架橋剤である。
【0023】
分子中にヒドロキシ基を持っていない機能性有機りん化合物は4−アリロキシフェニルジアリルホスフィンオキサイド、4−メタリロキシフェニルジメタリルホスフィンオキサイド、トリス−(4−アリロキシフェニル)ホスフィンおよびトリス−(4−アリロキシフェニル)ホスフィンオキサイドなどであり、これらはポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリフェニレンスルフィッド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂またはポリ塩化ビニル樹脂などの広範囲な熱可塑性樹脂類と相溶性があって、それらのPFMとして機能する。すなわち、これらの樹脂類に添加、成形して放射線処理をすれば、樹脂類に架橋構造が形成されて、より高い耐熱性を付与する事が出来る。放射線としては電子線またはγ線が用いられるが、現在、コバルト60によるγ線の利用は既に一般化されていて、しかも透過力が大きいので本発明では電子線よりも使用し易い。この用途の特徴は架橋構造の形成と難燃性の付与とを一つの有機りん化合物によって達成させる事であり、これらの樹脂類に対してヒドロキシ基を持っていない機能性有機りん化合物を1ないし25重量%、さらに好ましくは2ないし15重量%が添加せられる。上記の熱可塑性樹脂類の中で、有機りん化合物による難燃効果が特に優れたものはポリカーボネート樹脂とポリスチレンが混合されたポリフェニレンオキサイド樹脂である。これらの樹脂類にはヒドロキシ基を持たない化合物の添加が適している。もしも、ポリカーボネート樹脂にヒドロキシ基を持った化合物を添加して高温で成形すれば成形中にエステル交換反応が起きてポリカーボネート樹脂の機械的な強度は低下する。また、ヒドロキシ基を持った化合物はポリスチレンが混合されたポリフェニレンオキサイド樹脂との相溶性が良くない。これらの樹脂類には本発明の機能性有機りん化合物の他にもそれぞれの樹脂類に適した添加剤を添加する事が出来る。添加剤としては安定剤、潤滑剤、他の難燃剤、染料、顔料などの着色剤または無機充填剤などが挙げられる。ただし、これらのヒドロキシ基を持っていない機能性有機りん化合物は6−ナイロンまたは6,6−ナイロンで代表されるポリアミド樹脂類とは相溶性がなく均一に混合する事が困難であり、これらをポリアミド樹脂用の難燃性PFMとして使用するのは不適当である。しかし、トリス−(4−アリロキシフェニル)ホスフィンオキサイドは比較的容易に分子内転移反応が起きるので、混合または成形の操作中に、適切な温度と時間が与えられれば、ポリアミド樹脂に対してトリス−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)ホスフィンオキサイドと同様の効果が挙げられる。
【0024】
分子中にヒドロキシ基を持っている機能性有機りん化合物には3−アリル−4−ヒドロキシフェニルジアリルホスフィンオキサイド、3−メタリル−4−ヒドロキシフェニルジメタリルホスフィンオキサイド、トリス−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)ホスフィンまたはトリス−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)ホスフィンオキサイドなどがあり、これらは特異的にポリアミド樹脂類との良い相溶性があって、ポリアミド樹脂用の難燃性PFMとして効果的である。ポリアミド樹脂類の例としては、6−ナイロン、6,6−ナイロン、6,10−ナイロン、6,12−ナイロン、11−ナイロン、12−ナイロンまたは共重合ナイロンなどが挙げられる。これらのポリアミド樹脂類は強じん性、耐磨耗性、自己潤滑性、振動吸収性または耐油性などの優れた物理的な性質を持っていて、繊維織物などをはじめとして、自動車部品、機械部品、建材、電気部品、電子機器部品、医療用品または家庭用品などに広い用途を有している。しかし、電気部品または電子機器部品などの用途では溶融ハンダの高熱に耐性が必要なところが多く、高い耐熱性が要求されている。それらの用途にはせっかく優れた特性を持っていながら、耐熱性の充分でないポリアミド樹脂をそのまま使用する事は出来なかった。耐熱性の要求される用途には熱可塑性樹脂であるポリアミド樹脂にPFMを混合、成形した部品類に放射線処理を施す事によって熱硬化性樹脂と同等の耐熱性を与える技術が既に実施されている。この目的に適合するポリアミド樹脂用のPFMとしては1,3,5−トリアクリロイルヘキサヒドロ−S−トリアジン(トリアクリルホルマール)が知られている。しかし、これには難燃剤としての機能がないので、難燃性の必要な用途にはさらに難燃剤として臭素化ポリスチレンなどのような有機ハロゲン化合物が添加されているのが現状である。しかるに、本発明のヒドロキシ基を持っている機能性有機りん化合物はポリアミド樹脂への良い相溶性があり、これに2ないし25重量%、さらに好ましくは4ないし15重量%添加、成形してγ線などの放射線処理を施す事によって溶融ハンダに対する耐熱性と難燃性が同時に付与される。ちなみに、6,6−ナイロンの融点は約260℃であって、自己消火性がないが、これに3−アリル−4−ヒドロキシフェニルジアリルホスフィンオキサイド、3−メタリル−4−ヒドロキシフェニルジメタリルホスフィンオキサイド、トリス−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)ホスフィンまたはトリス−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)ホスフィンオキサイドを10ないし15重量%添加してUL−94の試験片を成形したものにγ線を照射すれば、耐熱性が300℃以上であり、難燃性試験ではUL−94のV−1に位置付けられる難燃性ポリアミド樹脂が得られる事が確認されている。ポリアミド樹脂には本発明の機能性有機りん化合物の他にも種々の添加剤を添加、成形してから放射線処理を施す事が出来る。添加剤としては安定剤、他の難燃剤、他のPFM、潤滑剤、染料、顔料などの着色剤または無機充填剤などが挙げられる。特に、無機系難燃剤や無機系充填剤がポリアミド樹脂に対して10重量%以上添加された時にはさらに耐熱性と難燃性が向上する。
【0025】
次に、本発明の機能性有機りん化合物に特有の非加水分解性の特徴を最も有効に利用しうる応用分野は電子機器に使用されるプリント配線基板である。プリント配線基板は主としてエポキシ樹脂またはフェノール樹脂などで製造されるが、その用途には難燃性が要求されるものが多い。
【0026】
一般式1で表される機能性有機りん化合物の内で、分子内にヒドロキシ基を持たないものは三個の不飽和基を持っており、酸化剤によるエポキシ化でトリエポキシ化合物が得られる。酸化剤としては過酸化水素、過酸またはハイポクロライドなどが挙げられる。これらのトリエポキシ化合物は非加水分解性が維持されていて、エポキシ樹脂組成物の一員として利用される。しかし、このようなエポキシ化反応は分子内にヒドロキシ基を持った化合物には適用し難い。
【0027】
一般式1で表される機能性有機りん化合物の内で、トリス−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)ホスフィン、トリス−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)ホスフィンオキサイド、トリス−(3−メタリル−4−ヒドロキシフェニル)ホスフィンまたはトリス−(3−メタリル−4−ヒドロキシフェニル)ホスフィンオキサイドなどは分子中に三個のヒドロキシ基を持っていて、エポキシ樹脂用の難燃性硬化剤としての用途に適している。しかし、これらのヒドロキシ基はエポキシ化合物に対しての反応性が他の硬化剤に比べれば比較的に緩慢であり、充分に過剰量のエポキシ化合物と予備反応を行なってから、所望の硬化剤を加えて最終的に硬化させる事が好ましい。なお、プリント配線基板に使用されるエポキシ樹脂は通常、ガラス繊維の織物で強化されており、基板の製法上これらの硬化剤あるいは予備反応物がメチルエチルケトン、ジメチルホルムアミドまたはN,N−ジメチルアセトアミドなどの有機溶媒に溶解する事が求められるが、本発明のエポキシ硬化剤はいずれも充分な溶解度を持っていてこの用途にも好適に使用する事が出来る。なお、この硬化剤による硬化エポキシ樹脂は高いガラス転移温度を示し、この特性もプリント配線基板の用途に適している。本発明の硬化剤を硬化エポキシ樹脂に対して10ないし40重量%、さらに好ましくは20ないし35重量%添加使用する事によってUL−94の難燃性試験方法でV−0に位置付けされる難燃性が得られる。最近のプリント配線基板では配線の微細化とその重層化が著しく進んでいるが、本発明の機能性有機りん化合物は非加水分解性のために苛酷な条件下でもこれを使用した基板の電気特性を劣化させない。また、分子中に三個のヒドロキシ基を持っている機能性有機りん化合物はアルカリの存在下にエピクロルヒドリンと縮合反応して、三価のエポキシ化合物が得られ、前述と同じ用途に使用する事が出来る。
【0028】
分子内に三個のヒドロキシ基を持っている機能性有機りん化合物は三価のフェノールであり、過剰量のホルムアルデヒドとレゾール型のフェノール樹脂中間体を形成する。これをフェノール樹脂組成物製造中に5ないし30重量%より好ましくは10ないし25重量%添加してから硬化させればUL−94の試験方法でV−0に位置付けられる難燃性が得られる。この難燃性フェノール樹脂はプリント配線基板のほか種々の電気部品または電子機器部品の用途にも適している。なお、このフェノール樹脂も加水分解による電気絶縁性の低下は見られない。
【0029】
再び、分子中にヒドロキシ基を持っていない機能性有機りん化合物は不飽和ポリエステル樹脂の反応性難燃剤としての機能を持っている。不飽和ポリエステル樹脂はマレイン酸、フマール酸、イタコン酸またはシトラコン酸などの強極性ではあるが自己重合性の小さな不飽和二塩基酸類およびコハク酸、アジピン酸、セバチン酸、フタル酸またはイソフタル酸などの不飽和基を持たない二塩基酸類とエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4−ブタンジオールまたはネオペンチルグリコールなどの二価アルコール類とのエステル化反応で得られる本質的に線状のポリマーとスチレン、ビニルトルエン、フタル酸ジアリル、トリメリット酸トリアリル、りん酸トリアリルまたはシアヌル酸トリアリルなどのビニルモノマー類とを混合したものであり、重合開始剤、重合促進剤の存在下に硬化反応する一種の熱硬化性の樹脂である。これは塗料用途、注型品用途または繊維強化材料用途として、無溶媒塗料、電気部品、自動車部品、化粧板、波板、浴槽、便槽、浄化槽または船舶などに広く利用されている。これらの難燃剤としては、従来、ハロゲン含有の二塩基酸などが使用されていたが、本発明の機能性有機りん化合物はいずれも複数個のアリル基を持っており、不飽和ポリエステル樹脂におけるビニルモノマーと同様にして使用されて難燃性が付与される。
【0030】
一般式1で表される機能性有機りん化合物の内、nが0であるホスフィン類、特にトリス−(4−アリロキシフェニル)ホスフィンおよびトリス−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)ホスフィンはポリプロピレンまたは合成ゴム類の安定剤として添加されて、安定化されたポリプロピレン組成物または合成ゴム組成物を形成する。
【実施例】
【0031】
次に、本発明をさらに明確にするために具体的な実施例、応用例、比較例および参考例を挙げて説明する。なお、例中、「%」は重量%を「部」は重量部を表すものとする。
【0032】
(実施例1)(4−アリロキシフェニルジアリルホスフィンオキサイドの合成)
(実施例1−1)(4−アリロキシフェニルブロマイドの合成)
かきまぜ機、温度計、還流冷却器および滴下ロートの付いた内容積5,000mlのガラス製の四つ口フラスコに4−ブロモフェノール1,211g(7モル)および30%水酸化ナトリウム水溶液1,000g(7.5モル)を仕込んで、かきまぜながら内容物の温度を80℃に保ち、滴下ロートからアリルクロライド551g(7.2モル)をゆっくりと滴下した。還流冷却器からアリルクロライドが少しずつ還流する程度の速度に滴下を調節して、約6時間を要した。滴下終了後、内容物を時々サンプリングしてガスクロマトグラフィー(GC)分析により反応の進行を追跡した。さらに4時間後に原料の4−ブロモフェノールがほぼ消失したので、これに水1,200gおよびトルエン800gを加えてよくかきまぜ、静置してから下の水層を除去した。続いて、1%水酸化ナトリウム水溶液1,000gを加えて30分間かきまぜ、静置してから油層だけを採取した。油層の中のトルエンを蒸留除去してから約0.6キロパスカルの減圧下で真空蒸留して4−アリロキシフェニルブロマイド約1,400gが得られた。
【0033】
(実施例1−2)(4−アリロキシフェニルマグネシウムブロマイドの合成)
かきまぜ機、温度計、還流冷却器、ガス吹き込み口および滴下ロートの付いた内容積3,000mlのガラス製五つ口フラスコにガス吹き込み口から窒素ガスを吹き込んでフラスコ内の空気を置換した。これにTHF500g、金属マグネシウム87.6g(3.6モル)および沃素0.1gを仕込み、かきまぜながら窒素ガスをゆっくり吹き込んだ。滴下ロートから4−アリロキシフェニルブロマイドの32%THF溶液200gを加えた。室温でかきまぜながら2時間経過してから、フラスコを加熱して内容物が沸騰する温度に保って、滴下ロートからさらに4−アリロキシフェニルブロマイドの32%THF溶液1,800gを2時間で滴下した。沸騰状態をさらに1時間保った。この時の温度は65〜70℃であった。これを冷却してから、過剰の金属マグネシウムを除去して、4−アリロキシフェニルマグネシウムブロマイドのTHF溶液が得られた。
【0034】
(実施例1−3)(4−アリロキシフェニルジフェノキシホスフィンの合成)
かきまぜ機、温度計、還流冷却器、ガス吹き込み口、滴下ロートおよび底部に液抜き取り口の付いた内容積6,000mlの硬質ガラス製の五つ口フラスコにガス吹き込み口から窒素ガスを吹き込んでフラスコ内の空気を置換した。これにトルエン1,000gおよびトリフェニルホスファイト465g(1.5モル)を仕込み、ガス吹き込み口から窒素ガスをゆっくり吹き込みながら、かきまぜ機を動かしてフラスコ内容物の温度を20〜30℃に保った。これに実施例1−2で得られた4−アリロキシフェニルマグネシウムブロマイドのTHF溶液の丁度半量を滴下ロートから3時間で滴下した。さらにこの温度で2時間熟成して、4−アリロキシフェニルジフェノキシホスフィンオキサイドの生成がGC分析によって確認された。
【0035】
(実施例1−4)(4−アリロキシフェニルジアリルホスフィンの合成)
実施例1−3のフラスコ内容物を20〜30℃に保ち、これにアリルマグネシウムクロライドのTHF溶液(アルドリッチ試薬)3モル相当を滴下ロートから3時間にわたって滴下した。さらに2時間熟成してから、4−アリロキシフェニルジアリルホスフィンの生成がGC分析によって確認された。これに10%硫酸水溶液1,600gを30分で滴下した。30分間かきまぜてから30分間静置した。下層の水層を除去してから、さらに1,000gの精製水を加えて、30分間かきまぜ、30分間静置した。再び水層を除去してから、THF、トルエンおよびフェノールを減圧下で蒸留除去して粗製の4−アリロキシフェニルジアリルホスフィン約360gが得られた。これは31P{ 1H}NMRおよび 1HNMRで目的化合物である事が確認された。
【0036】
(実施例1−5)(4−アリロキシフェニルジアリルホスフィンオキサイドの合成)
かきまぜ機、温度計、ガス吹き込み口および還流冷却器の付いた内容積500mlの硬質ガラス製の四つ口フラスコに実施例1−4で得られた粗製の4−アリロキシフェニルジアリルホスフィン350gを仕込み、かきまぜながらフラスコを加熱して内容物の温度を100℃にした。ガス吹き込み口から乾燥空気と窒素ガスとの等量混合ガスをすこしずつ吹き込んだ。約10時間後に4−アリロキシフェニルジアリルホスフィンが完全に4−アリロキシフェニルジアリルホスフィンオキサイドに変換された事がGC分析によって確認された。これを直径5センチメートル充填高さ25センチメートルの保温されたラッシッヒリング充填塔を持った内容積500mlの真空蒸留器に移して、約200パスカルの減圧下で精留して、主留分の4−アリロキシフェニルジアリルホスフィンオキサイド約330gが得られた。この赤外吸収スペクトルは図1、31PNMRは図2そして 1HNMRは図3の通りであった。元素分析の結果は炭素が68.8%(理論値:68.69%)、水素が7.3%(理論値:7.302%)そしてりんが11.9%(理論値:11.81%)であり、これが4−アリロキシフェニルジアリルホスフィンオキサイドである事が確認された。ただし、赤外吸収スペクトルは臭化カリの錠剤法によった。赤外吸収スペクトルのチャートには若干量の−OH基と思われる吸収が認められるが、 1HNMRには−OH基の吸収が全く見られない事から、赤外吸収スペクトルのチャートの−OH基の吸収は錠剤作成操作中の吸湿によるものと考えられる。また、 1HNMRはCDCl3 を溶媒として使用してテトラメチルシラン(TMS)を基準とした。31PNMRはりん酸を基準とした。なお、以下の実施例においても特に断らないかぎり、この方法と基準を用いた。
【0037】
(実施例2)(4−メタリロキシフェニルジメタリルホスフィンオキサイドの合成)
(実施例2−1)(4−メタリロキシフェニルブロマイドの合成)
実施例1−1で使用したアリルクロライド551g(7.2モル)をメタリルクロライド652g(7.2モル)に代えた以外は実施例1−1と全く同様にして4−メタリロキシフェニルブロマイド約1,500gが得られた。
【0038】
(実施例2−2)(4−メタリロキシフェニルマグネシウムブロマイドの合成)
実施例1−2で使用した4−アリロキシフェニルブロマイドの32%THF溶液200gおよび続いて使用した4−アリロキシフェニルブロマイドの32%THF溶液1,800gを4−メタリロキシフェニルブロマイドの34%THF溶液200gおよび続いて、4−メタリロキシフェニルブロマイドの34%THF溶液1,800gに代えた以外は実施例1−2と全く同様にして4−メタリロキシフェニルマグネシウムブロマイドが得られた。
【0039】
(実施例2−3)(メタリルマグネシウムクロライドの合成)
かきまぜ機、温度計、還流冷却器、滴下ロートおよびガス吹き込み口の付いた内容積2,000mlの五つ口フラスコにガス吹き込み口から窒素ガスを吹き込んでフラスコ内の空気を置換した。これにTHF800g、金属マグネシウム87gおよび沃素0.05gを仕込んだ。かきまぜ機を動かして、ガス吹き込み口から窒素ガスをゆっくり吹き込んだ。フラスコ内を40℃に保って、滴下ロートからメタリルクロライド271gを滴下した。滴下には3時間を要し、さらに2時間熟成した。冷却してから、過剰の金属マグネシウムを除去した。これによってメタリルマグネシウムクロライドのTHF溶液が得られた。
【0040】
(実施例2−4)(4−メタリロキシフェニルジフェノキシホスフィンの合成)
実施例1−3で使用したところの実施例1−2で得られた4−アリロキシフェニルマグネシウムブロマイドのTHF溶液の半量を実施例2−2で得られたところの4−メタリロキシフェニルマグネシウムブロマイドの半量に代えた以外は実施例1−3と全く同様にして、4−メタリロキシフェニルジフェノキシホスフィンが得られた。
【0041】
(実施例2−5)(4−メタリロキシフェニルジメタリルホスフィンの合成)
実施例2−4に続いて、滴下ロートから実施例2−3で得られたメタリルマグネシウムクロライドのTHF溶液の全量を20〜30℃の温度で3時間で滴下してさらに、2時間熟成した。以後、実施例1−4と全く同様にして、粗製の4−メタリロキシフェニルジメタリルホスフィン約380gが得られた。これは31P{ 1H}NMRおよび 1HNMRで確認された。
【0042】
(実施例2−6)(4−メタリロキシフェニルジメタリルホスフィンオキサイドの合成)
実施例2−5で得られた粗製の4−メタリロキシフェニルジメタリルホスフィンを実施例1−5と全く同様に酸化および真空蒸留して、やや粘い液体の4−メタリロキシフェニルジメタリルホスフィンオキサイド約320gが得られた。これの赤外吸収スペクトルは図4、31PNMRは図5そして 1HNMRは図6の通りであった。元素分析の結果は炭素が71.2%(理論値:71.03%)、水素が8.3%(理論値:8.28%)そしてりんが10.2%(理論値:10.18%)であって、これが4−メタリロキシフェニルジメタリルホスフィンオキサイドである事が確認された。
【0043】
(実施例3){トリス−(4−アリロキシフェニル)ホスフィンの合成}
かきまぜ機、温度計、還流冷却器、ガス吹き込み口および滴下ロートの付いた内容積5,000mlのガラス製五つ口フラスコで底部に液の抜き取り口のあるものに、ガス吹き込み口から窒素ガスを吹き込んでフラスコ内の空気を置換した。これにトルエン700gおよびトリフェニルホスファイト155g(0.5モル)を仕込んだ。かきまぜながら20〜30℃の温度で滴下ロートから実施例1−2で得られた4−アリロキシフェニルマグネシウムブロマイドのTHF溶液の半量を3時間で滴下し、さらに2時間熟成した。トリス−(4−アリロキシフェニル)ホスフィンの生成がGC分析によって確認された。これに10%硫酸水溶液900gを30分で滴下した。さらに30分間かきまぜてから、30分間静置した。下層の水層を除去してからさらに1,000gの精製水を加えて、30分間かきまぜ、30分間静置した。再び水層を除去してから、THF、トルエンおよびフェノールなどを高度の減圧下で蒸留除去してトリス−(4−アリロキシフェニル)ホスフィン約200gが得られた。これは赤外吸収スペクトルが図7、31P{ 1H}NMRが図8および 1HNMRが図9の通りであり、元素分析の結果は炭素が75.2%(理論値:75.33%)、水素が6.3%(理論値:6.322%)そしてりんが7.20%(理論値:7.195%)であった。これにより、これがトリス−(4−アリロキシフェニル)ホスフィンである事が確認された。
【0044】
(実施例4){トリス−(4−アリロキシフェニル)ホスフィンオキサイドの合成}
かきまぜ機、温度計、滴下ロートおよび還流冷却器の付いた内容積300mlのガラス製の四つ口フラスコに実施例3で得られたトリス−(4−アリロキシフェニル)ホスフィン43gおよび酢酸150gを仕込んだ。かきまぜながらフラスコを冷却して内容物を20℃に保った。これに滴下ロートから30%過酸化水素水溶液113gをゆっくり滴下した。滴下には2時間を要しさらに1時間熟成した。反応混合物に水150gおよびジクロロメタン50gを加え、かきまぜてから静置し、水層を除去した。さらに150gの水を加えて同じ操作をしてから、高度の減圧下に揮発性成分を除去して、粘い液体約45gが得られた。これの赤外吸収スペクトルは図10、31PNMRは図11そして 1HNMRは図12の通りであり、元素分析の結果は炭素が72.7%(理論値:72.63%)、水素が6.08%(理論値:6.0956%)そしてりんが6.90%(理論値:6.937%)であった。これにより、これがトリス−(4−アリロキシフェニル)ホスフィンオキサイドである事が確認された。
【0045】
(実施例5){トリス−(4−アリロキシフェニル)ホスフィンオキサイドの合成−2}
かきまぜ機、温度計、還流冷却器、ガス吹き込み口および滴下ロートの付いた内容積5,000mlのガラス製五つ口フラスコで底部に液の抜き取り口のあるものに、ガス吹き込み口から窒素ガスを吹き込んでフラスコ内の空気を置換した。これにトルエン700gおよびオキシ塩化りん76.8g(0.5モル)を仕込んだ。かきまぜながら、内容物の温度を80〜110℃に保った。これに実施例1−2と同じ方法で得られた4−アリロキシフェニルマグネシウムブロマイドのTHF溶液1.5モル相当を滴下ロートから6時間で滴下した。その間、沸騰したTHFは還流冷却器下部から排出し、さらに5時間熟成した。目的物の生成はGC分析で確認された。反応混合物に10%硫酸水溶液900gを30分で滴下した。さらに30分間かきまぜてから、30分間静置した。下層の水層を除去してからさらに1,000gの精製水を加えて、30分間かきまぜ、30分間静置した。再び水層を除去してから、THFおよびトルエンを高度の減圧下に除去して実施例4と全く同じ生成物トリス−(4−アリロキシフェニル)ホスフィンオキサイドが得られた。
【0046】
(実施例6)(3−アリル−4−ヒドロキシフェニルジアリルホスフィンオキサイドの合成)
実施例1−5で得られた4−アリロキシフェニルジアリルホスフィンオキサイド150gおよびγ−ブチロラクトン200gを仕込んだ。ガス吹き込み口から窒素ガスを吹き込みながらフラスコを加熱して内容物を沸騰させた。内容物の温度は210℃であり、6時間後に3−アリル−4−ヒドロキシフェニルジアリルホスフィンオキサイドに変換された事がGC分析によって確認された。高度の減圧下にγ−ブチロラクトンを蒸留除去して粘い液体150gが得られた。これの赤外吸収スペクトルは図13、31PNMRは図14そして 1HNMRは図15の通りであり、3−アリル−4−ヒドロキシフェニルジアリルホスフィンオキサイドである事が確認された。なお、これは4−アリロキシフェニルジアリルホスフィンオキサイドと異性体の関係にあり、当然ながらその元素分析の結果は同じであった。
【0047】
(実施例7)(3−メタリル−4−ヒドロキシフェニルジメタリルホスフィンオキサイドの合成)
実施例2−6で得られた4−メタリロキシフェニルジメタリルホスフィンオキサイド150gを実施例6と全く同様に処理して、粘い液体150gが得られた。これの赤外吸収スペクトルは図16、31PNMRは図17そして 1HNMRは図18の通りであり、これが3−メタリル−4−ヒドロキシフェニルジメタリルホスフィンオキサイドである事が確認された。
【0048】
(実施例8){トリス−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)ホスフィンオキサイドの合成}
かきまぜ機、温度計、還流冷却器およびガス吹き込み口の付いた内容積500mlの四つ口フラスコに実施例4または実施例5で得られたトリス−(4−アリロキシフェニル)ホスフィンオキサイド150gおよびγ−ブチロラクトン100gを仕込み、ガス吹き込み口から窒素ガスをゆっくり吹き込みながら、内容物の温度を180℃に保った。約5時間後に分子内転移反応の完結した事が液体クロマトグラフィー(LC)分析によって知られた。これにトルエン200gを加えて徐々に冷却して結晶を析出させた。結晶を濾過し、トルエン100gで洗浄した。これを乾燥して白色結晶約130gが得られた。これは融点が260℃であり、赤外吸収スペクトルは図19、31PNMRは図20そして 1HNMRは図21の通りであり、これがトリス−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)ホスフィンオキサイドである事が確認された。なお、この時NMRの溶媒は重水素置換ジメチルスルホキサイド(DMSO)を使用した。
【0049】
(応用例1)
旭化成製のXylon(ポリスチレンとポリフェニレンオキサイドの混合物)に実施例1で得られた4−アリロキシフェニルジアリルホスフィンオキサイドを10%添加、混合して日本国、東芝機械製のModel TEN−37BS試験用押し出し成形機でペレットを作成した。このペレットをさらに押し出し成形機でUL−94の規格に合致する厚さ1/8インチの試験片を作成した。この内の一部の試験片にコバルト60からのγ線を20秒間照射処理した。γ線照射処理の試験片と未処理の試験片とを320℃に加熱したハンダ浴に20秒間浸漬した。前者は殆ど変化がなかったが、後者は著しく変形した。これによって、γ線照射による効果が確認された。また、UL−94の難燃性試験方法に従った試験では前者はV−0に位置付けられる難燃性を示した。
【0050】
(比較例1)
応用例1で使用したXylonをそのまま押し出し成形機でUL−94の規格に合致する厚さ1/8インチの試験片を作成した。この一部にコバルト60からのγ線を20秒間照射した。γ線照射処理の試験片と未処理の試験片とを320℃に加熱したハンダ浴に10秒間浸漬したが、両者とも同様に変形して、γ線照射処理の効果は見られなかった。また、UL−94の難燃性試験方法に従った試験では両者ともV−2に位置付けられる難燃性を示した。この結果と応用例1の結果とから、4−アリロキシフェニルジアリルホスフィンオキサイドがXylonに対してPFMとしての機能と難燃剤としての機能とを合わせ持っている事が実証された。
【0051】
(応用例2)
応用例1で使用したXylonに実施例2で得られた4−メタリロキシフェニルジメタリルホスフィンオキサイド12%を添加、混合して実施例9と同様に処理して試験片を作成した。この内の一部の試験片にコバルト60からのγ線を20秒間照射処理した。γ線照射処理の試験片と未処理の試験片とを320℃に加熱したハンダ浴に10秒間浸漬した。前者は殆ど変化がなかったが、後者は著しく変形した。これによって、γ線照射による効果が確認された。また、UL−94の難燃性試験方法に従った試験では前者はV−0に位置付けられる難燃性を示した。この結果と比較例1の結果とから、4−メタリロキシフェニルジメタリルホスフィンオキサイドがXylonに対してPFMとしての機能と難燃剤としての機能とを合わせ持っている事が実証された。
【0052】
(応用例3)
旭化成製の6,6−ナイロンに実施例6で得られた3−アリル−4−ヒドロキシフェニルジアリルホスフィンオキサイドを10%添加、混合して押し出し成形機でペレットを作成した。このペレットをさらに押し出し成形機でUL−94の規格に合致する厚さ1/8インチの試験片を作成した。この内の一部の試験片にコバルト60からのγ線を20秒間照射処理した。γ線照射処理の試験片と未処理の試験片を320℃に加熱したハンダ浴に10秒間浸漬した。前者は殆ど変化がなかったが、後者は著しく変形した。これによって、γ線照射による効果が確認された。また、UL−94の難燃性試験方法に従った試験では前者はV−1に位置付けられる難燃性を示した。
【0053】
(比較例2)
応用例3で使用した6,6−ナイロンをそのまま押し出し成形機でUL−94の規格に合致する厚さ1/8インチの試験片を作成した。この一部にコバルト60からのγ線を20秒間照射した。γ線照射処理の試験片と未処理の試験片とを320℃に加熱したハンダ浴に10秒間浸漬したが、両者とも同様に変形して、γ線照射処理の効果は見られなかった。また、UL−94の難燃性試験方法に従った試験では両者とも燃焼して、難燃性を示さなかった。この結果と応用例3の結果とから、4−アリロキシフェニルジアリルホスフィンオキサイドが6,6−ナイロンに対してPFMとしての機能と難燃剤としての機能とを合わせ持っている事が実証された。
【0054】
(応用例4)
6,6−ナイロンに実施例7で得られた3−メタリル−4−ヒドロキシフェニルジメタリルホスフィンオキサイドを11%添加、混合して、実施例9と同様にして試験片を作成した。この一部の試験片にコバルト60からのγ線を20秒間照射した。γ線照射処理の試験片と未処理の試験片とを320℃に加熱したハンダ浴に10秒間浸漬した。前者は殆ど変化がなかったが、後者は著しく変形した。これによって、γ線照射による効果が確認された。また、UL−94の難燃性試験方法に従った試験では前者はV−1に位置付けられる難燃性を示した。この結果と比較例2の結果とから3−メタリル−4−ヒドロキシフェニルジメタリルホスフィンオキサイドがPFMとしての機能と難燃剤としての機能とを合わせ持っている事が実証された。
【0055】
(応用例5)
6,6−ナイロンに実施例8で得られたトリス−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)ホスフィンオキサイドを12%添加、混合して、応用例1と同様にして試験片を作成した。この内の一部の試験片にコバルト60からのγ線を20秒間照射した。γ線照射処理の試験片と未処理の試験片とを320℃に加熱したハンダ浴に10秒間浸漬した。前者は殆ど変化がなかったが、後者は著しく変形した。これによって、γ線照射による効果が確認された。また、UL−94の難燃性試験方法に従った試験では前者はV−1に位置付けられる難燃性を示した。この結果と比較例2の結果とからトリス−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)ホスフィンオキサイドがPFMとしての機能と難燃剤としての機能とを合わせ持っている事が実証された。
【0056】
(応用例6)
韓国、国都化学製の2,2−ビス−(4−グリシジルオキシフェニル)プロパンを主成分とするエポキシ樹脂100部に実施例8で得られたトリス−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)ホスフィンオキサイド45部を添加、良く混合して100℃で5時間反応させた。これにジシアンジアミド10部を加えてさらに120℃で5時間硬化反応をさせて、高度の耐熱性を持った硬化エポキシ樹脂が得られた。これからUL−94の規格に合致する厚さ1/8インチの試験片を切り出した。試験片の燃焼試験ではV−0に位置付けされる難燃性を示した。この結果からトリス−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)ホスフィンオキサイドがエポキシ樹脂の硬化剤としての機能と難燃剤としての機能を合わせ持っている事が証明された。
【0057】
(参考例1)
本発明の機能性有機りん化合物の非加水分解性を実証する目的で次の実験を行なった。30%水酸化カリウムのメタノール溶液100gに実施例1ないし実施例8で得られた4−アリロキシフェニルジアリルホスフィンオキサイド、4−メタリロキシフェニルジメタリルホスフィンオキサイド、トリス−(4−アリロキシフェニル)ホスフィン、トリス−(4−アリロキシフェニル)ホスフィンオキサイド、3−アリル−4−ヒドロキシフェニルジアリルホスフィンオキサイド、3−メタリル−4−ヒドロキシフェニルジメタリルホスフィンオキサイドおよびトリス−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)ホスフィンオキサイドと比較のために、市販のトリフェニルホスフェート(りん酸トリフェニル)およびトリアリルホスフェート(りん酸トリアリル)各10gを加えて、それぞれメタノールの沸騰状態で24時間加熱した。これをLC分析によって変化を調べたところ、本発明の機能性有機りん化合物には全く変化が見られなかったが、トリフェニルホスフェートはジフェニルホスフェートとフェノールとに、トリアリルホスフェートはジアリルホスフェートとアリルアルコールとに完全に加水分解されていた。ただし、水酸化カリウムと造塩可能なものは塩を形成していると考えられるが、LC分析ではそれを識別する事が出来なかった。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】実施例1−5で得られた化合物の赤外吸収スペクトルである。
【図2】実施例1−5で得られた化合物の31PNMR図である。
【図3】実施例1−5で得られた化合物の1HNMR図である。
【図4】実施例2−6で得られた化合物の赤外吸収スペクトルである。
【図5】実施例2−6で得られた化合物の31PNMR図である。
【図6】実施例2−6で得られた化合物の1HNMR図である。
【図7】実施例3で得られた化合物の赤外吸収スペクトルである。
【図8】実施例3で得られた化合物の31PNMR図である。
【図9】実施例3で得られた化合物の1HNMR図である。
【図10】実施例4で得られた化合物の赤外吸収スペクトルである。
【図11】実施例4で得られた化合物の31PNMR図である。
【図12】実施例4で得られた化合物の1HNMR図である。
【図13】実施例6で得られた化合物の赤外吸収スペクトルである。
【図14】実施例6で得られた化合物の31PNMR図である。
【図15】実施例6で得られた化合物の1HNMR図である。
【図16】実施例7で得られた化合物の赤外吸収スペクトルである。
【図17】実施例7で得られた化合物の31PNMR図である。
【図18】実施例7で得られた化合物の1HNMR図である。
【図19】実施例8で得られた化合物の赤外吸収スペクトルである。
【図20】実施例8で得られた化合物の31PNMR図である。
【図21】実施例8で得られた化合物の1HNMR図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式1で表され、分子内に三個の不飽和基を持っている事を特徴とする機能性有機りん化合物。
【化1】
(式1中、R1 は4−アリロキシフェニル基、4−メタリロキシフェニル基、3−アリル−4−ヒドロキシフェニル基または3−メタリロキシ−4−ヒドロキシフェニル基を示し、R2 およびR3 は同じであっても異なっていてもよく、アリル基、メタリル基、4−アリロキシフェニル基、4−メタリロキシフェニル基、3−アリル−4−ヒドロキシフェニル基または3−メタリル−4−ヒドロキシフェニル基を示し、nは0または1を示す。)
【請求項2】
一般式1でR1 が4−アリロキシフェニル基、R2 およびR3 がともにアリル基であり、nが1である事を特徴とする機能性有機りん化合物。(4−アリロキシフェニルジアリルホスフィンオキサイド)
【請求項3】
一般式1でR1 が4−メタリロキシフェニル基、R2 およびR3 がともにメタリル基であり、nが1である事を特徴とする機能性有機りん化合物。(4−メタリロキシフェニルジメタリルホスフィンオキサイド)
【請求項4】
一般式1でR1 、R2 およびR3 がともに4−アリロキシフェニル基であり、nが0である事を特徴とする機能性有機りん化合物。{トリス−(4−アリロキシフェニル)ホスフィン}
【請求項5】
一般式1でR1 、R2 およびR3 がともに4−アリロキシフェニル基であり、nが1である事を特徴とする機能性有機りん化合物。{トリス−(4−アリロキシフェニル)ホスフィンオキサイド}
【請求項6】
一般式1でR1 が3−アリル−4−ヒドロキシフェニル基、R2 およびR3 がともにアリル基であり、nが1である事を特徴とする機能性有機りん化合物。(3−アリル−4−ヒドロキシフェニルジアリルホスフィンオキサイド)
【請求項7】
一般式1でR1 が3−メタリル−4−ヒドロキシフェニル基、R2 およびR3 がともにメタリル基であり、nが1である事を特徴とする機能性有機りん化合物。(3−メタリル−4−ヒドロキシフェニルジメタリルホスフィンオキサイド)
【請求項8】
一般式1でR1 、R2 およびR3 がともに3−アリル−4−ヒドロキシフェニル基であり、nが1である事を特徴とする機能性有機りん化合物。{トリス−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)ホスフィンオキサイド}
【請求項9】
一般式2のR4 が4−アリロキシフェニル基、Xがフェノキシ基そしてnが0である有機りん化合物と4−アリロキシフェニルマグネシウムハロゲナイドとを縮合反応させる事を特徴とする請求項4に記載の機能性有機りん化合物の製造方法。
【化2】
(式2中、R4 は4−アリロキシフェニル基または4−メタリロキシフェニル基を示し、Xは塩素原子、臭素原子またはフェノキシ基を示し、nは0または1を示す。)
【請求項10】
一般式2で表される有機りん化合物とアリルマグネシウムハロゲナイド、メタリルマグネシウムハロゲナイドまたは4−アリロキシフェニルマグネシウムハロゲナイドとを縮合反応させ、必要ならば続いて酸化剤によって酸化反応を行なわせる事を特徴とする請求項2、3または5に記載の機能性有機りん化合物の製造方法。
【請求項11】
請求項2、3または5に記載の有機りん化合物に分子内転移反応を行なわせる事を特徴とする請求項6ないし8に記載の機能性有機りん化合物の製造方法。
【請求項12】
4−アリロキシフェニルマグネシウムハロゲナイドまたは4−メタリロキシフェニルマグネシウムハロゲナイドと三塩化りん、三臭化りん、トリフェニルホスファイトまたはオキシ塩化りんとを縮合反応させる事を特徴とする一般式2で表される有機りん化合物の製造方法。
【請求項1】
一般式1で表され、分子内に三個の不飽和基を持っている事を特徴とする機能性有機りん化合物。
【化1】
(式1中、R1 は4−アリロキシフェニル基、4−メタリロキシフェニル基、3−アリル−4−ヒドロキシフェニル基または3−メタリロキシ−4−ヒドロキシフェニル基を示し、R2 およびR3 は同じであっても異なっていてもよく、アリル基、メタリル基、4−アリロキシフェニル基、4−メタリロキシフェニル基、3−アリル−4−ヒドロキシフェニル基または3−メタリル−4−ヒドロキシフェニル基を示し、nは0または1を示す。)
【請求項2】
一般式1でR1 が4−アリロキシフェニル基、R2 およびR3 がともにアリル基であり、nが1である事を特徴とする機能性有機りん化合物。(4−アリロキシフェニルジアリルホスフィンオキサイド)
【請求項3】
一般式1でR1 が4−メタリロキシフェニル基、R2 およびR3 がともにメタリル基であり、nが1である事を特徴とする機能性有機りん化合物。(4−メタリロキシフェニルジメタリルホスフィンオキサイド)
【請求項4】
一般式1でR1 、R2 およびR3 がともに4−アリロキシフェニル基であり、nが0である事を特徴とする機能性有機りん化合物。{トリス−(4−アリロキシフェニル)ホスフィン}
【請求項5】
一般式1でR1 、R2 およびR3 がともに4−アリロキシフェニル基であり、nが1である事を特徴とする機能性有機りん化合物。{トリス−(4−アリロキシフェニル)ホスフィンオキサイド}
【請求項6】
一般式1でR1 が3−アリル−4−ヒドロキシフェニル基、R2 およびR3 がともにアリル基であり、nが1である事を特徴とする機能性有機りん化合物。(3−アリル−4−ヒドロキシフェニルジアリルホスフィンオキサイド)
【請求項7】
一般式1でR1 が3−メタリル−4−ヒドロキシフェニル基、R2 およびR3 がともにメタリル基であり、nが1である事を特徴とする機能性有機りん化合物。(3−メタリル−4−ヒドロキシフェニルジメタリルホスフィンオキサイド)
【請求項8】
一般式1でR1 、R2 およびR3 がともに3−アリル−4−ヒドロキシフェニル基であり、nが1である事を特徴とする機能性有機りん化合物。{トリス−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)ホスフィンオキサイド}
【請求項9】
一般式2のR4 が4−アリロキシフェニル基、Xがフェノキシ基そしてnが0である有機りん化合物と4−アリロキシフェニルマグネシウムハロゲナイドとを縮合反応させる事を特徴とする請求項4に記載の機能性有機りん化合物の製造方法。
【化2】
(式2中、R4 は4−アリロキシフェニル基または4−メタリロキシフェニル基を示し、Xは塩素原子、臭素原子またはフェノキシ基を示し、nは0または1を示す。)
【請求項10】
一般式2で表される有機りん化合物とアリルマグネシウムハロゲナイド、メタリルマグネシウムハロゲナイドまたは4−アリロキシフェニルマグネシウムハロゲナイドとを縮合反応させ、必要ならば続いて酸化剤によって酸化反応を行なわせる事を特徴とする請求項2、3または5に記載の機能性有機りん化合物の製造方法。
【請求項11】
請求項2、3または5に記載の有機りん化合物に分子内転移反応を行なわせる事を特徴とする請求項6ないし8に記載の機能性有機りん化合物の製造方法。
【請求項12】
4−アリロキシフェニルマグネシウムハロゲナイドまたは4−メタリロキシフェニルマグネシウムハロゲナイドと三塩化りん、三臭化りん、トリフェニルホスファイトまたはオキシ塩化りんとを縮合反応させる事を特徴とする一般式2で表される有機りん化合物の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2006−1876(P2006−1876A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−179459(P2004−179459)
【出願日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(504233720)松原産業株式会社 (10)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(504233720)松原産業株式会社 (10)
【Fターム(参考)】
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