説明

機能性米菓

【課題】 消化性が改善された米菓の開発、並びに米菓の副原料として新しい機能を付与し得る材料を選択して食味や生理機能性に優れた米菓を開発すること。
【解決手段】 食用多糖類、食用タンパク質および食用脂質類の中の少なくとも1種によって包接した消化酵素および/またはフレーバーを含有することを特徴とする機能性米菓、並びにヤーコンを1〜50重量%含むことを特徴とする機能性に優れた米菓を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性成分を含有する米菓に関する。より詳しくは、食用多糖類、食用タンパク質、食用脂質類等によって包接した消化酵素および/またはフレーバーを含有する機能性米菓、さらには所定量のヤーコンを含むことを特徴とする消化性、食味、生理機能性に優れた米菓に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、米菓は一般のうるち米を原料とするせんべい、もち米を原料とするあられ、かき餅などがあり、嗜好性食品、保存性食品として利用されてきた。
【0003】
米菓は、従来より家庭でのおやつや贈答品、あるいは来客接待用の嗜好的な食品として親しまれているが、消化性や食味を改善したり、健康機能の維持改善が期待出来る、生理機能性成分などを含有させる等の工夫をした米菓はほとんどなかった。
米菓の主成分は澱粉であり、機能性成分の含有量は少ない。また、副原料として生理機能性成分を添加した場合にも、機能性成分の大部分は熱に弱いため、80℃〜100℃の長時間乾燥や、180℃〜250℃の焼き上げという、米菓製造工程を経た後にも生理機能性を保持した米菓の製造は、きわめて困難であった。
【0004】
米菓の呈味性を向上させる目的で各種のフレーバー(香気成分や呈味成分)を添加することは、従来から普通に行われてきた。しかし、これらのフレーバーは、熱によって揮発、着色、変性等が起こるため、通常は、米菓製造の最終工程、すなわち、焼き上げ後に添加されてきた。
そのため、米菓の味や香りは表層部分に集中し、米菓内部は澱粉を中心とする淡白な風味とならざるを得なかった。また、米菓はわが国の伝統的な菓子であることもあって、醤油、ショ糖、アミノ酸を中心とした和風で、独特の外観と風味を有しており、コーンスナックや小麦菓子等の洋風の呈味性を備えた米菓子がなく、若者の食味嗜好に対応できない部分があった。
【0005】
さらに、米菓の外観や風味を改良する目的で、一部に植物の葉、えびなどの水産物、豆類等を少量添加した米菓があったが、ヤーコンのような野菜を1重量%以上という大量に添加した米菓はなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述の従来技術の問題点を解決するためには、(1)米菓原料として原料米に配合可能な新しい機能性を期待できる副原料の探索、(2)添加した副原料の機能性が米菓製造工程を経た米菓製品でも保持されていること、(3)米菓としての外観や風味を損なわずに、かつ、新しい風味を提供できること、(4)副原料は、米菓としての外観や風味を損なわずに、かつ、機能性の判明した有用成分を含んでいるものであること、などの課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記のような従来技術の問題点を解決するために鋭意研究を重ね、その過程で以下の知見を得て、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、米菓の消化性を向上させるために、各種の澱粉分解酵素(各種のアミラーゼ)、タンパク質分解酵素(プロテアーゼ、ペプチダーゼ)、脂質分解酵素(リパーゼ、ホスホリパーゼ)の添加を試みた。その場合、これらの添加酵素が米菓製造工程で活性を保持するために、水溶性澱粉等の多糖類、グリアジンなどの食用タンパク質、あるいはコーンオイルなどの食用油脂類によって包接したのちに米菓生地に添加することが有効であることが分かった。
【0009】
また、米菓の風味を向上させるために、各種のフレーバーを添加する。フレーバーも米菓製造時に揮発、変性、着色などによって失われやすいので、消化酵素と同様に、包接して米菓生地に練り込むことにより、製造工程を経た後にも米菓製品の内部にも香気や風味が残るようにする。消化酵素やフレーバーは単独で用いてもよく、あるいは組み合わせて用いてもよい。
【0010】
原料米に新しい食品素材であるヤーコンを1〜50重量%添加することによって、新しいタイプの米菓を製造することができる。ヤーコンの芋には、機能性が報告されている食物繊維、フラクトオリゴ糖、ポリフェノールを多量に含まれているので、米菓に機能性を付与すると共に、風味の向上も期待できる。
【0011】
また、米菓に添加する消化酵素、フレーバー、ヤーコンなどの機能性、風味などを米菓製品における残存率を高める目的で、従来の製造工程に替えて、エクストルーダーなどによる、短時間の高温高圧加工を施すことは、機能性成分やフレーバー等を残存させると同時に、比容積の高い、多孔質の米菓製品が得られる点で、きわめて有用であることも見出した。
【0012】
請求項1に記載の本発明は、食用多糖類、食用タンパク質および食用脂質類の中の少なくとも1種によって包接した消化酵素および/またはフレーバーを含有することを特徴とする機能性米菓である。
請求項2に記載の本発明は、ヤーコンを1〜50重量%含むことを特徴とする機能性米菓である。
請求項3に記載の本発明は、米菓の原料米が低アミロース米および/またはもち米であることを特徴とする請求項1または2に記載の機能性米菓である。
請求項4に記載の本発明は、米菓の比容積が5.0〜15.0の多孔質構造であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の機能性米菓である。
【発明の効果】
【0013】
(1)本発明の第1の効果は、米菓に包接酵素を添加したことにより、摂食後にアミラーゼやリパーゼが作用して米菓の澱粉や油脂の分解を促進し、消化性が向上することが挙げられる。これにより、幼児食や老人食の消化性の改善や胃もたれを好まない若者向けの米菓が開発される。
(2)本発明の第2の効果は、各種のフレーバー成分を添加した米菓の製造が可能であることが挙げられる。包接された香気成分や呈味成分を添加することにより、米菓の製造後にもフレーバーの残存率が向上し、従来の和風の味付けにとどまらず、幅広い食味の米菓が開発される。
【0014】
(3)本発明の第3の効果は、米菓にヤーコンを1〜50重量%添加することによって、食物繊維、フラクトオリゴ糖、ポリフェノール等の機能性成分の含量を増加させ、良食味の米菓が得られるということが挙げられる。
(4)本発明の第4の効果は、低アミロース米やもち米を原料米とすることによって、機能性米菓の膨化性を改良し、食感を改善することができることが挙げられる。
(5)本発明の第5の効果は、エクストルーダー加工を適用することによって、多孔質のサクサクした食感の機能性米菓を製造できることを挙げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明の第1の特徴は、請求項1に示した食用多糖類、食用タンパク質、食用脂質類等によって包接した消化酵素および/またはフレーバー(香気成分や呈味成分)を含有することを特徴とする機能性米菓である。
本発明の第2の特徴は、ヤーコンを1〜50重量%含むことを特徴とする機能性米菓である。
本発明の第3の特徴は、米菓の原料米が低アミロース米および/またはもち米であることを特徴とする上記の機能性米菓である。
本発明の第4の特徴は、米菓の比容積5.0以上、通常は5.0〜15.0の多孔質構造を特徴とする上記の機能性米菓である。
【0017】
本発明における米菓とは、米を50重量%以上、好ましくは50〜99.0重量%原料に使用して焼き上げた菓子を指し、例としては、うるち米を原料とするせんべいや、もち米を原料とするあられやかきもちなどを挙げることができる。また、熱ドラムで加熱圧扁したライスフレークやエクストルーダーで加熱押し出ししたライススナックなどを挙げることができる。
【0018】
本発明における食用多糖類とは、澱粉、修飾澱粉、デキストリン、デキストラン、グリコーゲン、植物グリコーゲン、プルラン、カードラン、スクシノグルカン、セルロース、キチン、ラミナラン、リケナン、フルクタン、マンナン、ガラクタン、フカン、キシラン、アラビナン等の中性単純多糖類、アラビノキシラン、グルコマンナン、ガラクトマンナン等の中性複合多糖類、ペクチン、アルギン酸等のウロニド、ヒアルロン酸等のムコ多糖類、アラビアゴム、トラガカントゴムなどの植物ゴム(ヘミセルロース類)を挙げることができる。これらは、単独で用いられるほか、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0019】
本発明における食用タンパク質とは、小麦タンパク質、米タンパク質、大麦タンパク質、トウモロコシタンパク質、ダイズタンパク質などの一般食用タンパク質あるいはそれらを溶解性に基づいて分画した小麦グリアジン、米オリゼイン、大麦ホルデイン、トウモロコシゼイン、ダイズグリシニン、ダイズβコングリシニンなどを挙げることができる。これらも、単独もしくは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
本発明における食用脂質類とは、モノアシルグリセロール、ジアシルグリセロール、トリアシルグリセロールや、高級脂肪酸と高級アルコールが結合したエステルであるワックス類に代表される単純脂質、ホスファチジルコリン等のグリセロリン脂質、セラミド等のスフィンゴリン脂質、グリセロ糖脂質スフィンゴ糖脂質などの複合脂質、脂質の加水分解によって生成する疎水性の構成成分である脂肪酸、ステロイド、カロテノイド、テルペンなどの誘導脂質を挙げることができる。これらは、単独で用いられるほか、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0021】
次に、本発明における包接とは、消化酵素やフレーバーである香気成分や呈味成分などの対象物質(芯物質)を、上記の多糖類、タンパク質、脂質類等によって包み込むことによって、外部環境から保護したり、外部への溶出を抑制したりすることを指す。具体的には、芯物質を微粒子状にして適当な媒質中に分散し、次いで微粒子のそれぞれに上記の多糖類等の膜をかけて被覆する。
【0022】
この被覆方法には化学的方法、物理化学的方法、物理的・機械的方法の3種類がある。化学的方法には、界面重合法、不溶化反応法があり、物理化学的方法には、相分離法、界面沈殿法などがあり、物理的・機械的方法には、スプレードライング法、気中懸濁被覆法などがある(最新マイクロカプセル化技術、p.3-4、近藤 保監修、総合技術センター発行、昭和62年)。
【0023】
本発明における消化酵素とは、米菓の消化性を向上させるため使用される酵素のことであり、食用として使用可能な各種の澱粉分解酵素(各種のα−アミラーゼ、β−アミラーゼ、グルコアミラーゼ)、タンパク質分解酵素(プロテアーゼ、ペプチダーゼ)、脂質分解酵素(リパーゼ、ホスホリパーゼ)などを意味し、これらを単独あるいは2種以上を組み合わせて米菓に添加して使用する。
【0024】
本発明におけるフレーバーとは、米菓の香りを向上させるために加える香気成分および/または呈味成分を指し、香気成分の例としては、物理化学特性の分類では、エッセンス(水溶性香料)、オイル(油性香料)、乳化香料、粉末香料を挙げることができる。
香気特性の分類では、レモンやオレンジ等のシトラス系フレーバー、アップルやバナナ等のフルーツ系フレーバー、ミルクやチーズなどの乳製品系フレーバー、コーヒーや緑茶などの嗜好飲料系フレーバー、バニラ等のバニラ系フレーバー、ペパーミント等のミント系フレーバー、ガーリックやジンジャーなどのスパイス系フレーバー、アーモンドやヘーゼルナッツ等のナッツ系フレーバー、ビーフやポーク等の畜肉・水産系フレーバー、みそや醤油などの調味料系フレーバー、ウィスキーやブランデーなどの酒類系フレーバー、トマトやオニオン等のベジタブル系フレーバーを挙げることができる。
化学成分名としては、アセト酢酸エチル、アセトフェノン、アントラニル酸メチル、イソバレリアン酸イソアミル、オクタナ−ル、ケイ皮酸メチル、酢酸エチル、シトラ―ル、デカナール、プロピオン酸イソアミル、ヘキサン酸エチル、ヘプタン酸エチル、マルトール、N‐メチルアントラニル酸メチル、酪酸イソアミル、酪酸エチル等の食品添加物香料を挙げることができる。
【0025】
呈味成分の例としては、アミノ酸、ペプチド、単糖類、オリゴ糖類、グアニール酸、イノシン酸などの核酸系調味料を挙げることができる。
【0026】
本発明における機能性米菓とは、摂食する際の味覚や嗅覚に訴える食味改善機能の認められる米菓、摂食後の胃もたれ感改善等の消化性改善機能の認められる米菓、あるいは、摂食後の消化管における整腸作用や消化吸収後の抗酸化性強化等の生理機能性増強効果等のある、あるいはこれらの効果が期待される米菓を指す。
【0027】
本発明におけるヤーコンとは、菊科の植物であるヤーコンの葉および/または芋を指し、米菓に1〜50重量%、好ましくは2〜30重量%加える。ヤーコンの葉や芋を1重量%以上含まない場合は、米菓の風味や機能性成分の増加が十分ではないので、不適当である。一方、50重量%を越える量のヤーコンを含む場合は、米菓の澱粉含有量が少なくなるために、米菓焼き上げ時の膨化が不十分となり、食感を損なうので不適当である。
【0028】
本発明における機能性成分とは、摂食することによって生理機能上の効果が期待される成分を指す。例としては、整腸効果やコレステロール低下機能が報告されている食物繊維、ビフィズス菌増殖作用や整腸作用が報告されているフラクトオリゴ糖、心臓病の予防やコレステロール低下効果が報告されているポリフェノールなどを挙げることができる。
【0029】
本発明における原料米である低アミロース米とは、澱粉のアミロース含量が5〜12重量%の米を指す。例としては、品種ミルキークイーン、スノーパール、彩姫、たきたて、ミルキープリンセス、ソフト157、柔小町、シルキーパール、朝つゆなど挙げることができる。
【0030】
本発明における原料米であるもち米とは、澱粉がアミロースを含まない米であり、例えば品種はくちょうもち、ヒメノモチ、こがねもち、わたぼうし、トヨハタモチ、モチミノリ、滋賀羽二重もち、はくともち、ヒヨクモチなどを挙げることができる。
【0031】
もち米や低アミロース米を原料米に使用することによって米菓の膨化性が向上し、ヤーコン添加による膨化性の低下を補うことができるので好適である。
【0032】
本発明における比容積とは、米菓の重量当たりの体積を指す。比容積の大きい米菓は、軽くてサクサクとした軽い食感を示し、特に、エクストルーダーによって製造した比容積が5.0以上、通常は5.0〜12.0、好ましくは7.0〜10.0の多孔質構造の米菓は、スナック食品として若者に好まれる。
【0033】
本発明の米菓の製造法を以下に例示する。食用多糖類、食用タンパク質および食用脂質類の中の少なくとも1種によって包接した消化酵素および/またはフレーバー、あるいはヤーコンを副原料とし、これを主原料の原料米に所定の割合、通常は原料米100gに対して包接消化酵素等の場合は0.01〜1.0g、ヤーコンの場合は1〜50gを加え、必要に応じて他の材料を適宜配合したものから作った生地玉を、蒸し器で蒸し、餅つき機でついた後、成形してから乾燥して乾燥生地を得、これを焼き上げる方法、あるいは該乾燥生地を油揚げする方法などである。他に、エクストルーダーなどによる高温高圧加工も適用される。特に、ヤーコンを添加する場合などには、原料米や副原料にヤーコンを添加し、水などを加えながら、エクストルーダーで高温高圧加工を行ったのちに、上記ようにして米菓を調製すると、食感の良好な米菓が得られる。
【実施例】
【0034】
以下に実施例、および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0035】
(実施例1)包接された消化酵素を含む米菓
包接酵素を下記のようにして調製した。
微生物起源の食品用耐熱性α−アミラーゼ(大和化成製、クライスターゼM8)の粉末1gをコーンオイル(味の素製)5ml中に懸濁した。アラビアゴム(和光純薬製)5gおよび可溶性澱粉15gを溶解した200mlの水溶液中に上記の酵素懸濁コーンオイルを加え、ホモゲナイザー(ヤマト科学製、ウルトラターラクス)で強く攪拌してo/wエマルションを調製した。
このエマルションをスプレードライヤー(ヤマト科学製、ミニスプレードライヤーADL310)によって噴霧乾燥して包接酵素粉末を調製した。噴霧乾燥条件は、インレット温度150℃、アウトレット温度93℃、ポンプ目盛4、アスピレーター目盛6とした。
【0036】
原料米として、ミルキークイーン(低アミロース米、平成16年茨城県産)の精白米を粉砕して主原料として使用した。上記の包接酵素粉末を副原料として主原料100gに対して0.5gを加えた。この原料粉末100.5gに対して純水70gを加えて練り上げて生地玉を作った。これを蒸し器によって15分間蒸し、次いで、家庭用餅つき機(タイガー餅つき機SMK-1800)によって10分間ついた。
このようにして得た蒸し上げ生地をプラスチックフィルム(サランラップ)で包んで1.5mmの厚みに延伸し、円形の型枠で型抜きした。これらの丸生地を温度15℃、湿度40%の恒温恒湿器で一晩(18時間)乾燥した。乾燥生地を熱風乾燥機(アドバンテックFC-610)を用いて180℃で10分間乾燥し、次いで230℃で10分間焼き上げて素焼き米菓を試作した。試作品の写真を図1に示す。
【0037】
米菓を粗砕した後、粉砕機(Udy社製,サイクロンミル)で粉末化した。この粉末0.1gを微量遠心チューブに採り、1.8mlのリン酸緩衝液(pH7.0、50mM)を加え、37℃で2.5時間反応させ、α−アミラーゼによる澱粉分解で生成したグルコース量をメガザイムキットによって測定した。一方、ブランクテストはpH2.7の緩衝液を用いて同様に反応させた試料液を使用した。
【0038】
反応によって、0.2mg/mlのグルコースが生成し、米菓の乾燥・焼き上げ後にもα−アミラーゼ活性が残存していることが示された。この米菓を試食した結果、酵素を添加していない米菓に比べて食後の胃もたれ感がきわめて少なかった。一方、包接しないα−アミラーゼを直接生地に練り込んで試作した米菓の場合には、生地調製段階でα−アミラーゼが米澱粉を分解してしまい、生地玉を製造することができなかった。
【0039】
(実施例2)包接されたフレーバーを含む米菓
包接されたフレーバーを下記のようにして製造した。
オレンジオイル(和光純薬製)2gをアラビアゴム5gと溶性澱粉(和光純薬製)15gを溶解した水溶液200ml中に添加し、ホモゲナイザー(ヤマト科学製、ウルトラターラクス)で強く攪拌してo/wエマルションを調製した。このエマルションをスプレードライヤー(ヤマト科学製、ミニスプレードライヤーADL310)によって噴霧乾燥して包接フレーバー粉末を調製した。噴霧乾燥条件は、インレット温度150℃、アウトレット温度88℃、ポンプ目盛4、アスピレーター目盛5とした。
【0040】
原料米として、ヒヨクモチ(もち米)の精白米を粉砕して主原料として使用した。上記の包接フレーバーを副原料とした。主原料に対して5g/100gの割合で混合し、純水70gを加えて練り上げて生地玉を作った。これを蒸し器によって15分間蒸し、次いで、家庭用餅つき機(タイガー餅つき機SMK-1800)によって10分間ついた。
この蒸し上げ生地をプラスティックフィルム(サランラップ)で包んで1.5mmの厚みに延伸し、円形の型枠で型抜きした。これらの丸生地を温度15℃、湿度40%の恒温恒湿器で一晩(18時間)乾燥した。乾燥生地を熱風乾燥機(アドバンテックFC-610)を用いて180℃で10分間乾燥し、次いで230℃で10分間焼き上げて素焼き米菓を試作した。
【0041】
この試作米菓を試食したところ、強いオレンジの香りがし、乾燥・焼き上げ工程を経た後にも、フレーバーが残存していることが示された。一方、包接しないオレンジオイルを直接糯米原料に添加して生地調製から同じ方法、条件で試作した米菓の場合には、焼き上げ工程でフレーバーが蒸散し、製品ではオレンジの香りがしなかった。
【0042】
(実施例3)酵素とフレーバーを同時に包接した粉末を含有する米菓
微生物起源の食品用耐熱性α−アミラーゼ(大和化成製、クライスターゼM8)およびリパーゼ(天野エンザイム製、リパーゼF-AP15)の粉末各1gを5gのオレンジオイル(和光純薬製)中に分散し、トウモロコシタンパク質ゼイン(和光純薬製)20gを溶解した100mlの70%エタノール水溶液中に添加し、ホモゲナイザー(ヤマト科学製、ウルトラターラクス)で強く攪拌してo/wエマルションを調製した。
次いで、純水2lを上記ホモゲナイザーで撹拌しながら上記のo/wエマルションを投入し、ゼインを析出させた。この際に、オレンジオイルおよびオレンジオイル中に分散したα−アミラーゼはゼインに包み込まれて沈殿中に含有された。デカンテーションによって析出ゼインと水とを分離し、この酵素・フレーバー含有ゼインを、再度、撹拌中の2lの純水中に投入して沈殿を硬化させ、次いでろ紙によってろ過し、5℃の低温室中で風乾した。乾燥後、このゼインの固まりをコーヒーミル(イワタニ製、ミルサーIFM100)で粉砕して酵素・フレーバー含有粉末とした。
【0043】
原料米として、ミルキークイーン(低アミロース米)の精白米を粉砕して主原料として使用した。上記の包接酵素・フレーバーを副原料として主原料100gに対して5gの割合で混合し、純水70gを加えて練り上げて生地玉を作った。これを蒸し器によって15分間蒸し、次いで、家庭用餅つき機(タイガー餅つき機SMK-1800)によって10分間ついた。
このようにして得た蒸し上げ生地をプラスチックフィルム(サランラップ)で包んで1.5mmの厚みに延伸し、円形の型枠で型抜きした。これらの丸生地を温度15℃、湿度40%の恒温恒湿器で一晩(18時間)乾燥した。乾燥生地を180℃の食用油(味の素製、コーンオイル)中で油揚げし、米菓を試作した。試作米菓の写真を図2に示す。
【0044】
この試作米菓を試食したところ、強いオレンジの香りがし、乾燥・油揚げ工程を経た後にも、フレーバーが残存していることが示された。一方、包接しない酵素分散オレンジオイルを直接低アミロース米原料に添加して生地調製を行った場合には、α−アミラーゼが米澱粉を分解してしまい、生地がだれて生地玉を製造することが不可能であった。
この試作米菓をコーヒーミル(イワタニ製、ミルサーIFM100)で粉砕して粉末とした。
この粉末0.1gを微量遠心チューブに採り、1.8mmのリン酸緩衝液(pH7.0、50mM)を加え、37℃で2.5時間反応させ、α−アミラーゼによる澱粉分解で生成したグルコース量をメガザイムキットによって測定した。ブランクテストはpH2.7の緩衝液を用いて同様に反応させた試料液を使用した。反応によって、0.15mg/mlのグルコースが生成し、米菓の乾燥・油揚げ後にもα−アミラーゼ活性が残存していることが示された。
2.5時間反応した試料液1mlにトルエン1mlを加えて撹拌し、遠心分離して得られる有機層中の脂肪酸を、大坪らの比色法(大坪 研一ら、比色法による米の脂肪酸度の測定、食品総合研究所研究報告、第51号、p.59-65,1987年)を用いて測定した。その結果、包接酵素を加えていない米菓の場合は、発色率が0.33であったのに対し、包接酵素を加えた米菓の場合は、発色率が0.41と明らかに増加しており、リパーゼ活性が残存して遊離脂肪酸が増加していることを示していた。
この米菓を試食した結果、酵素・フレーバー包接粉末を添加していない米菓に比べて、食後の胃もたれ感がきわめて少なかった。
【0045】
(実施例4)
原料米として、市販加工用米、ミルキークイーン(低アミロース米)、ヒヨクモチ(もち米)の精白米を粉砕して主原料として使用した。茨城県産のヤーコン芋を凍結乾燥した後に粉砕して副原料とした。主原料及び副原料を表1のような配合で混合し、100gに対して純水70gを加えて練り上げて生地玉を作った。これを蒸し器によって15分間蒸し、次いで、家庭用餅つき機(タイガー餅つき機SMK-1800)によって10分間ついた。
【0046】
この蒸し上げ生地をプラスティックフィルム(サランラップ)で包んで1.5mmの厚みに延伸し、円形の型枠で型抜きした。これらの丸生地を温度15℃、湿度40%の恒温恒湿器で一晩(18時間)乾燥した。乾燥生地を熱風乾燥機(アドバンテックFC-610)を用いて180℃で10分間乾燥し、次いで230℃で10分間焼き上げて素焼き米菓を試作した。
【0047】
米菓の比容積は柳瀬らの植物種子法(柳瀬 肇ら、もち米の品質、加工適性に関する研究-第5報、食品総合研究所研究報告、第42号、p.1-9,1983年)、米菓の食感は12名の試食者による官能検査、食物繊維はAOAC法によって測定した。結果を表1に示す。
また、試作品No.1(比較例の品)とNo.8(本発明の品)の写真を図3に示す(写真中で、1が比較例の品、2が本発明の品)。
【0048】
【表1】


評価: ◎きわめて良い、○良い、X悪い
【0049】
表1に示すように、本発明の品(試料No.3、4、5、7、8および9)では、米菓の食感が良好か、やや良好であり、食物繊維が増加していた。一方、比較例の品(No.1、2、6および10)では、ヤーコンの添加がないために食物繊維が少ない(No.1および2)か、あるいはヤーコンの添加量が多すぎる(試料No.6および10)ために、米菓製造工程で著しく割れやすくなる上に、製造できた米菓の食感もやや不良あるいは不良となった。ヒヨクモチ(もち米)あるいはミルキークイーン(低アミロース米)の場合は、市販加工米の場合に比べて、膨化が優れており、食感改善効果が認められた。ヤーコンの配合量は、2%〜50%が好適であった。
【0050】
(実施例5)
原料米として、市販加工用米、ミルキークイーン(低アミロース米)、ヒヨクモチ(もち米)の精白米を粉砕して主原料として使用した。茨城県産のヤーコン芋を凍結乾燥した後に粉砕して副原料とした。主原料及び副原料を表2のような配合で混合し、100gに対して純水70gを加えて練り上げて生地玉を作った。これを蒸し器によって15分間蒸し、次いで、家庭用餅つき機(タイガー餅つき機SMK-1800)によって10分間ついた。
【0051】
この蒸し上げ生地をプラスティックフィルム(サランラップ)で包んで1.5mmの厚みに延伸し、円形の型枠で型抜きした。これらの丸生地を温度15℃、湿度40%の恒温恒湿器で一晩(18時間)乾燥した。乾燥生地を熱風乾燥機(アドバンテック FC-610)を用いて180℃で10分間乾燥し、次いで230℃で10分間焼き上げて素焼き米菓を試作した。
【0052】
米菓の食感は12名の試食者による官能検査、食物繊維はAOAC法、フラクトオリゴ糖量は、80%エタノールで還留抽出した後、アミノシリカカラムを装着した高速液体クロマトグラフによって測定した。結果を表2に示す。
【0053】
【表2】


評価: ◎きわめて良い、○良い、X悪い
【0054】
表2に示すように、本発明の品(試料No.3、4および5)では、米菓の食感が良好であり、食物繊維およびフラクトオリゴ糖量が増加していた。一方、比較例(No.1、2および6)では、ヤーコンの添加がない、あるいは少ないために、食物繊維およびフラクトオリゴ糖が少ない(No1.および2)か、あるいはヤーコンの添加量が多すぎる(試料No.6)ために、米菓製造工程で著しく割れやすくなる上に、製造できた米菓の食感もやや不良となった。ヤーコンの配合量は、2%〜50%が好適であった。
【0055】
(実施例6)
原料米としてミルキークイーン(低アミロース米)の精白米を粉砕して主原料として使用した。同じミルキークイーン玄米を35℃で3日間温湯浸漬して発芽させ、乾燥後に粉砕器(UDy製 Cyclon Mill)で粉砕した粉末も使用した。茨城県産のヤーコン芋を凍結乾燥した後に粉砕して副原料とした。主原料および副原料を表3のような配合で混合し、100gに対して純水70gを加えて練り上げて生地玉を作った。
これを蒸し器によって15分間蒸し、次いで、家庭用餅つき機(タイガー餅つき機SMK-1800)によって10分間ついた。この蒸し上げ生地をプラスティックフィルム(サランラップ)で包んで1.5mmの厚みに延伸し、円形の型枠で型抜きした。これらの丸生地を温度15℃、湿度40%の恒温恒湿器で一晩(18時間)乾燥した。乾燥生地を熱風乾燥機(アドバンテック FC-610)を用いて180℃で10分間乾燥し、次いで230℃で10分間焼き上げて素焼き米菓を試作した。
【0056】
米菓の食感は12名の試食者による官能検査、遊離アミノ酸量は、試料粉末を80%熱エタノール中で還留抽出した後、アミノ酸自動分析計(日立製LC1500)によって測定した。結果を表3に示す。
【0057】
【表3】


GABA: γ−アミノ酪酸
評価: ◎きわめて良い、○良い、X悪い
【0058】
表3に示すように、本発明例(試料No2.および3)では、遊離アミノ酸の増加によって呈味製が強く、一方、比較例(No.1)では、ヤーコンの添加がないために、遊離アミノ酸が少なく、米菓の呈味製が弱かった。GABAは高血圧の抑制や脳の血流調節、脂肪蓄積の抑制などの生理機能が報告されており、本発明の米菓は生理機能性が期待される。
【0059】
(実施例7)
加工原料米精米を粉末化して原料とし、ヤーコン乾燥粉末を20%、原料米粉末を79.5%、クエン酸を0.5%添加し、水を30%加えながら、2軸エクストルーダー(日本製綱製TEX30FC-18.5)によって径4mmのダイを装着して高温高圧加工を行った。バレル温度は150℃、圧力は6MPAであった。
得られたヤーコン添加米菓の特徴を表4に示す。ヤーコンを加えずに米のみで試作した比較例も併せて示す。
【0060】
【表4】


評価 ○良い、X悪い
【0061】
表4に示すように、本発明例(試料No.1)では、米菓の食感が良好であり、食物繊維およびポリフェノール含量が増加していた。また、この米菓はサクサクした食感を有していた。一方、比較例(No.2)では、ヤーコンの添加がないために、食物繊維およびポリフェノールが少ない結果となった。
【0062】
(実施例8)酵素・フレーバー混合粉末を含む膨化製品
微生物起源の食品用耐熱性α−アミラーゼ(大和化成製、クライスターゼM8)およびリパーゼ(天野エンザイム製、リパーゼF-AP15)の粉末各1gを5gのオレンジオイル(和光純薬製)中に分散し、トウモロコシタンパク質ゼイン(和光純薬製)20gを溶解した100mlの70%エタノール水溶液中に添加し、ホモゲナイザー(ヤマト科学製、ウルトラターラクス)で強く攪拌してo/wエマルションを調製した。
次いで、上記のo/wエマルションを、エチルアルコール2l中に撹拌しながら投入し、ゼインを析出させた。この際に、オレンジオイルおよびオレンジオイル中に分散したα−アミラーゼはゼインに包み込まれて沈殿中に含有された。デカンテーションによって析出ゼインとエチルアルコールとを分離し、この酵素・フレーバー含有ゼインを、再度、撹拌中の2lのエチルアルコール中に投入して沈殿を硬化させ、次いでろ紙によってろ過し、5℃の低温室中で風乾した。乾燥後、このゼインの固まりをコーヒーミル(イワタニ製、ミルサーIFM100)で粉砕して酵素・フレーバー含有粉末とした。
【0063】
原料米として、ミルキークイーン(低アミロース米)の精白米を粉砕して主原料として使用した。上記の包接酵素・フレーバーを副原料として主原料1kgに対して50gの割合で混合し、水を30%加えながら、2軸エクストルーダー(日本製綱製TEX30FC-18.5)によって径4mmのダイを装着して高温高圧加工を行った。バレル温度は150℃、圧力は6MPAであった。
【0064】
得られた酵素・フレーバー包括物含有のスナック米菓は、比容積が8.1と大きく、サクサクとした良好な食感を示した。
この試作米菓をコーヒーミル(イワタニ製、ミルサーIFM100)で粉砕して粉末とした。
この粉末0.1gを微量遠心チューブに採り、1.8mmのリン酸緩衝液(pH7.0、50mM)を加え、37℃で2.5時間反応させ、α−アミラーゼによる澱粉分解で生成したグルコース量をメガザイムキットによって測定した。ブランクテストはpH2.7の緩衝液を用いて同様に反応させた試料液を使用した。反応によって、0.12mg/mlのグルコースが生成し、米菓の乾燥・油揚げ後にもα−アミラーゼ活性が残存していることが示された。
また、試作米菓にはオレンジの香りが残存しており、従来の伝統的米菓にはない、特徴的な香りを示した。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明により、幼児や老人向けの消化性に優れた米菓が提供され、しかもこの米菓は胃もたれ感がないので、若者の嗜好に適している。さらに、食味や生理機能性にも優れており、米の消費拡大や食品産業の発展への寄与が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】実施例1の試作品を示す写真である。
【図2】実施例3の試作品を示す写真である。
【図3】実施例4の試作品を示す写真で、1が比較例の品、2が本発明の品である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食用多糖類、食用タンパク質および食用脂質類の中の少なくとも1種によって包接した消化酵素および/またはフレーバーを含有することを特徴とする機能性米菓。
【請求項2】
ヤーコンを1〜50重量%含むことを特徴とする機能性米菓。
【請求項3】
米菓の原料米が低アミロース米および/またはもち米であることを特徴とする請求項1または2に記載の機能性米菓。
【請求項4】
米菓の比容積が5.0〜15.0の多孔質構造であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の機能性米菓。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−238783(P2006−238783A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−58614(P2005−58614)
【出願日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【出願人】(501145295)独立行政法人食品総合研究所 (27)
【出願人】(591106462)茨城県 (45)
【出願人】(596023577)関口醸造株式会社 (2)
【Fターム(参考)】